説明

抗体で誘導される細胞膜損傷

細胞膜損傷、細胞透過性及び殺細胞を誘導するための組成物及び方法が提供される。組成物は細胞の表面に高発現された細胞表面抗原に結合する多価の薬剤を含む。好ましくは、細胞表面抗原は細胞の細胞骨格と結合していることである。好ましくは、多価剤はIgMであり、そして架橋剤の添加により、細胞損傷及び殺細胞が亢進されることである。in vivoにおける致死未満の濃度では、細胞損傷を引起す抗体は細胞を透過性にし、化学療法剤に対する反応を、この化学療法剤に対して抵抗性の患者においてさえ、劇的に高める。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は2004年11月5日に出願された米国仮特許出願No.60/625,398の優先権を請求するものであり、これは本明細書に参考文献として取り込まれる。本出願は米国特許出願番号10/982,698、代理人整理番号110.01NP、に関し、これは2004年11月5日に本明細書に参考文献として取り込まれている。
【発明の分野】
【0002】
本発明は、一般に、細胞透過、並びに癌及び自己免疫疾患の治療等のための組成物と方法に関する。
【発明の背景】
【0003】
細胞膜損傷は細胞の原形質膜の破壊であり、一般的には生存可能な事象である。細胞膜損傷は、大動脈の内膜や消化管、皮膚の上皮又は心臓あるいは骨格筋の筋細胞などの機械的に活発な哺乳動物組織で一般に生じ、また、トリパノソームによる細胞の侵入によっても示される。実験室での設定では、細胞損傷は、極微針を用いて原形質膜を突き刺すか、あるいは培養皿を引っ掻くことにより細胞の一部を切断する、といった物理的方法により典型的に誘導することができる。
【0004】
膜の>1μmの裂傷のような大きな破裂では、膜の修繕と細胞生存の維持にとり迅速な再密封反応が必要である。最初は受動的過程と考えられていたが、密封はエネルギー及びカルシウム依存性の過程であることが今では認められており、その結果としてカルシウム依存性の、細胞外放出機構による小胞−小胞及び原形質膜−小胞融合により膜の亀裂の継ぎあてを行う。膜の継ぎあての犠牲となる小胞は、今では、リソソームであることが知られている。従って、亀裂を生じた部位を閉じるために、内在性のリソソーム膜が細胞表面に添加される。McNeil,P.L.(2002)J.Cell Sci.115(5):873;Togo,T.,et al.(1999)J.Cell Sci.112:719;McNeil,P.L.,and R.A.Steinhardt(2003)Ann.Rev.Cell Dev.Biol.19:697.を参照のこと。
【0005】
修復過程は、リソソームが原形質膜に近づくためにアクチン脱重合を必要とするらしい。加えて、ミオシン及び/又はキネシンを介する収縮性の過程は、リソソームを裂け目の傍へ運搬することに関わっていると考えられている。加えて、続いて起こる再密封のための事象は、おそらくゴルジからのリソソームの生産増加のために、最初の損傷に対する反応より迅速に起こることが知られている。従って、大きな破裂の再密封は、リソソームが損傷の場所に近づき、そして修復過程に関与するリソソームの蓄えを再構築し易くするための機能的なアクチン及びゴルジ複合体に依存している。
【0006】
従って、細胞膜損傷及びそれに続く修復は当技術分野で周知であるが、例えば活性を持つ薬剤の細胞透過性を可能にしたり、又は悪性細胞を殺したりする目的での、研究用手段又は治療的なアプローチとしての細胞膜損傷誘導に関する教示若しくは示唆は存在しない。更に、細胞表面抗原に結合することで細胞膜損傷を引き起こすような可能性に関する示唆はない。最後に、ヒト又は動物の患者の疾病又は疾患の治療目的で、抗体を用いて細胞膜損傷を誘導させることに関する示唆は存在しない。
【発明の要約】
【0007】
従って、本発明の第一義的な目的は、ヒトや動物の疾病又は疾患の治療目的で、抗体で誘導された細胞膜損傷を利用するための方法や組成物を提供することによって、前記の文献における前記の要望に対す解決するために努力することである。
【0008】
本発明の他の目的は、透過性及び/又は殺細胞を達成するための多価剤を用いた、改善された組成物及び細胞膜損傷誘導のための方法を提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、亢進した細胞膜損傷及び/又は殺細胞を達成する目的で、改善された組成物及び抗体の架橋の方法、又は他の多価剤、を提供することである。
【0010】
本発明の追加の目的は、細胞の過剰増殖又は過剰活性を介するヒト又は動物の疾病及び疾患を治療するための改善された組成物及び方法を提供することである。
【0011】
従って、本発明の或る実施態様では、細胞膜損傷を誘導する組成物が提供され、前記組成物は細胞表面に高発現されている細胞表面抗原に結合する多価剤を含む。好ましくは、細胞表面抗原は細胞の細胞骨格と結合している。
【0012】
更なる実施態様では、細胞表面に高発現されている細胞表面抗原に結合する多価剤を含む、細胞透過性のための組成物を提供される。他の観点から言えば、細胞を、その細胞表面に高発現されている細胞表面抗原に結合する多価剤と接触させることを含む、細胞の透過性のための方法が提供される。
【0013】
その他の実施態様では、細胞損傷を継続するのに十分な量の多価剤を、少なくとも部分的に与えることによって細胞膜損傷は非生存的であり、細胞は損傷修復を失敗するか、又はもはや損傷を修復できない。
【0014】
従って、細胞膜損傷誘導の組成物はまた殺細胞のための組成物でもあり得る。加えて、殺細胞のための組成物はまた殺細胞の方法としても有用である。好ましくは、細胞は悪性であって、例えば、神経、リンパ、卵巣、頚部、子宮内膜、睾丸、前立腺、腎臓、大腸、膵臓、胃、腸、食道、肺、甲状腺、副腎、肝臓、骨、皮膚、口、喉、といった体組織の新生物に関連している。更なる実施態様では、細胞は過剰活性化されていて、その細胞の過剰活性化により媒介される疾患又は疾患は、その過剰活性化された細胞を殺すことにより、本発明で開示された組成物及び方法により治療され得る。
【0015】
特別の実施態様においては、細胞の過剰増殖により特徴づけられる病状を患うヒト患者の治療方法が提供され、それは過剰増殖中の細胞表面に高発現の細胞表面レセプターに結合する多価剤の投与を含み、前記多価剤は過剰増殖細胞を正常細胞と比較して、選択的に殺す活性を持つ量が投与される。好ましくは、過剰増殖細胞は癌細胞である。その他の実施態様では、過剰増殖細胞は、成長因子、サイトカイン、ウイルスによる感染などにより刺激され、過剰増殖状態になる。
【0016】
好ましい実施態様においては、過剰増殖細胞を選択的に殺す効果のある多価剤の量は、少なくとも過剰増殖細胞の細胞表面レセプターを飽和させるのに十分な量である。より好ましい実施態様においては、過剰増殖細胞を選択的に殺す効果のある多価剤の量は、細胞表面に高発現されている正常細胞の細胞表面レセプターを飽和させるのに十分であるが、他方で患者の健康にとり受容可能な範囲で正常細胞の生存を維持できるような量である。一般的に、正常細胞に比べて選択的に過剰増殖細胞を殺すことは、過剰増殖細胞の生存率を低下させるのに十分はあるが、他方、正常細胞の生存率を同程度に低下させるのには不十分な量の多価剤を与えることで、達成される。例えば、細胞膜損傷抗体を使用する場合に、新生細胞と正常細胞の両方がそれぞれ細胞表面に同じ細胞表面抗原を発現しているときでも、正常細胞の生存率に比較して、新生細胞の生存率を、少なくとも10%より多く、より好ましくは20%より多く、更に好ましくは30%より多く若しくはそれ以上の量によって、低下させることができることが好ましい。
【0017】
従って、或る実施態様においては、癌細胞を癌細胞に対する細胞毒性を有する量の細胞膜損傷誘導抗体と接触させることで、癌細胞を殺す方法が提供されている。細胞膜損傷による細胞毒性活性は補体を介する細胞毒性活性又は細胞を介する細胞毒性活性とは異なる。更なる実施態様においては、細胞膜損傷抗体は、細胞膜損傷メカニズム並びに補体及び/又は細胞を介する細胞毒性メカニズムにより、癌細胞に対する細胞毒性を示す。
【0018】
好ましくは、多価剤は、新生細胞のように、早い速度で分裂中の細胞には殺効果を示すが、正常細胞は殺さないような量を投与される。その他の実施態様では、多価剤は過剰増殖細胞を殺すが、正常な運動性や正常な付着性を示すような細胞は殺さない活性を示す量が投与される。
【0019】
特定の好ましい実施態様においては、本方法は、過剰増殖中の細胞表面に高発現している細胞表面レセプターに結合する多価剤と一緒に、細胞毒性剤を投与することを含む。この細胞毒性剤は化学療法剤、放射性同位体、細胞毒性抗体、免疫複合体、リガンド複合体、免疫抑制剤、細胞増殖制御剤及び/又は阻害剤、毒素、又はこれらの混合物であることが可能である。
【0020】
更なる実施態様では、更に、本方法は細胞膜損傷抗体を架橋する架橋剤の投与を含む。好ましくは、この架橋剤は、例えば抗カッパ抗体、抗ラムダ抗体抗ミュー抗体などの、抗体である。
【0021】
特別の実施態様では、癌細胞は新生物のB細胞で、そして細胞膜損傷抗体はVH4−34抗体である。特定の実施態様では、細胞膜損傷抗体はVH4−34抗体で、そして架橋剤は、B細胞の細胞表面抗原へのVH4−34抗体の結合を阻害しないような、抗VH4−34抗体である。
【0022】
その他の実施態様では、細胞膜損傷の誘導方法が提供されるが、これは細胞と、細胞表面に高発現している細胞表面レセプターと結合する多価剤との接触を含み、この場合、細胞はリンパ様細胞である。特定の実施態様では、多価剤は抗体で、そしてリンパ様細胞は、CDIMエピトープを発現しているB細胞である。好ましくは、抗体は、正常B細胞に比較し過剰増殖性B細胞に選択的に損傷を与えるのに有効な量が投与される。更なる実施態様では、抗体は、過剰増殖性のB細胞に損傷を起こすには有効であるが、しかしこの細胞を殺さない量が投与される。
【0023】
特定の実施態様では、この方法は、(1)患者血液中の過剰増殖性B細胞の数を定量するための、治療を必要とする患者の血液のサンプリング、(2)抗体による損傷に対する過剰増殖性B細胞及び正常B細胞の感受性の定量、及び(3)患者において、十分に過剰増殖性B細胞を優先的に損傷及び/又は殺す抗体量の患者への投与、を含む。この方法は、求める細胞損傷及び/又は殺細胞の程度を達成するために、抗体の追加量の滴定を含むことができる。
【0024】
更なる実施態様では、この方法は、(1)患者血液中の過剰増殖性B細胞の数を定量するための、治療を必要とする患者の血液のサンプリング、(2)抗体による損傷に対する過剰増殖性B細胞の感受性の定量、及び(3)患者において十分に過剰増殖性B細胞を損傷するための抗体量の患者への投与、を含む。この方法は、患者において過剰増殖性B細胞数を求める程度に減らすために、細胞毒性剤の有効量を患者に投与することを更に含むことができる。
【0025】
その他の実施態様では、細胞膜損傷誘導のための方法が提供され、これは細胞を、細胞表面に高発現している細胞表面抗原と結合する多価剤と接触させることを含み、この細胞は細胞表面抗原を高発現している任意の細胞であることができる。従って、細胞はリンパ様細胞と異なる型の細胞であること、又はB細胞以外の細胞のタイプであることも可能である。その他の実施態様では、高発現されている細胞表面抗原はCDIMエピトープではない。
【0026】
更なる実施態様では、高発現されている細胞表面抗原に結合する多価剤を含む、細胞膜損傷を誘導する組成物が提供され、更に、この細胞膜損傷を誘導する組成物は、架橋剤非存在下における多価剤の細胞毒性に比較し、多価剤の細胞毒性を亢進するような架橋剤を含むことができる。
【0027】
特別の実施態様では、多価剤は抗体であり、好ましくはIgMである。他の特別の実施態様では、架橋剤は細胞表面に結合したIgMの架橋を提供するIgMに結合する抗体である。
【0028】
その他の実施態様では、細胞膜損傷の誘導方法が提供され、それは細胞を、細胞表面に高発現している細胞表面抗原と結合する多価剤と接触させることを含む。更に、この方法は、細胞を、架橋剤非存在下における多価剤の細胞毒性に比較し、多価剤の細胞毒性を亢進するような架橋剤と接触させることを含むことができる。好ましい実施態様では、多価剤は抗体であり、好ましくはIgM抗体であり、そして架橋剤は抗体であり、好ましくは細胞表面に結合した抗体を架橋させるIgMと結合する抗体である。好ましくは、細胞はB細胞であり、そして抗体はB細胞表面のCDIMエピトープと特異的に結合するIgMである。好ましくは、抗体は、抗CDIM抗体であり、そしてB細胞表面に結合した抗CDIM抗体に架橋を提供する、抗CDIM抗体と結合する架橋剤である。好ましくは、架橋剤は抗カッパ又は抗ラムダ抗体又は抗VH4−34抗体である。
【0029】
従って、治療を必要としている患者での骨髄から悪性B細胞を排除するための方法が提供されるが、この方法は骨髄細胞をB細胞表面のCDIMエピトープに特異的に結合する抗体とを接触させることを含む。この方法はB細胞をB細胞表面のCDIMエピトープに特異的に結合する抗体を架橋させる架橋剤に接触させることを更に含むことができ、このことにより抗CDIM抗体の悪性B細胞に対する細胞毒性を亢進させることができる。好ましい実施態様では、更にこの方法は、骨髄から悪性B細胞を排除するために、細胞を細胞毒性剤に接触させることを含む。
【0030】
その他の実施態様では、過剰増殖細胞を殺すための細胞表面に高発現されている細胞表面抗原に結合する多価剤を含んだ組成物が提供され、前記多価剤は細胞表面に結合した架橋した多価剤提供のための架橋手段を含む。架橋した多価剤は、前記架橋手段を持たない多価剤に比較して亢進した過剰増殖細胞の殺効果を提供する。
【0031】
その他の実施態様では、細胞の過剰増殖を特徴とする病状を患っている哺乳動物を治療するための医薬組成物である、細胞表面に高発現されている細胞表面抗原に結合する多価剤を含む前記医薬組成物が提供される。この医薬組成物は細胞毒性剤を更に含むことができる。好ましくは、この組成物は多価剤の細胞毒性を増強させるための架橋手段を含む。好ましくは、多価剤は、細胞が修復不可能な細胞膜損傷を誘導することで過剰増殖細胞を殺す。
【0032】
特別な実施態様では、架橋手段は高発現されている細胞表面抗原に結合する多価剤に共有結合で結合する単官能基の架橋剤であることが可能である。架橋剤は、高発現されている細胞表面抗原に結合する隣接する多価剤と架橋するための、例えば、スクシンイミド、マレイミド、又はチオールなどの架橋官能基を架橋剤の遠位末端に持つことができる。好ましくは、多価剤は抗体、例えば、IgM、IgG、IgA、IgD、IgEを含む自然抗体;組換え抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、四価抗体又は抗体を含む融合タンパク質;Fab2、及びscFvのような抗体断片などである。好ましい実施態様では、抗体はIgMである。
【0033】
更なる実施態様では、架橋手段は抗体に結合する架橋剤であることが可能である。好ましい実施態様では、架橋手段は、高発現されている細胞表面抗原に結合する隣接抗体を架橋する抗カッパ、抗ラムダ薬剤である。
【0034】
更にその他の実施態様では、架橋手段は親水性ポリマー又はポリマーの網目であることが可能であり、それは分子量が約100から約10,000ダルトンで、高発現されている細胞表面抗原と特異的に結合する、抗体、又は抗体の部分、例えば、Fab、又はscFv、のような複数の多価剤を有する。
【0035】
高発現されている細胞表面抗原と結合する多価剤は、高い親和性で結合することが好ましい。典型例を挙げれば、高親和性結合は少なくとも10−1で、好ましくは約10−1及び約10−1の間である。
【0036】
更なる実施態様では、細胞の過剰増殖を特徴とする病状を患っている哺乳動物を治療するための医薬組成物が提供され、これは細胞表面に高発現されている細胞表面抗原に結合する多価剤を含み、前記多価剤は細胞表面に高発現されている細胞表面抗原に対する複数の結合部位を含む。好ましくは、この複数の結合部位は少なくとも5つ、そしてより好ましくは約5から約100である。特別の実施態様では、複数の結合部位は、約5から約15、約15から約25、又は約15から約50である。
【0037】
好ましくは、細胞表面抗原に対する複数の結合部位を含む多価剤は、多数の結合部位と結合する過剰増殖細胞の細胞毒性の増強をもたらす。
【0038】
本発明の追加の対象物、利点及び新規な形態は、部分的には次の記載により説明され、部分的には次の試験により当業者にとっては明らかになるであろうし、若しくは、本発明を実践してみることで学習してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】VH4−34によりコードされる抗体が原発B細胞リンパ腫及び白血病へ結合することを示す図である。
【0040】
【図2】VH4−34によりコードされる抗体がヒトB細胞株に結合し殺すことを示す図である。
【0041】
【図3】は濾胞性リンパ腫細胞に対するmAb216の細胞毒性の多様性を示す図である。
【0042】
【図4】mAb216及びビンクリスチンによるB細胞の殺細胞作用は相乗的であることを示す図である。
【0043】
【図5A】mAb216処理によるB細胞表面のLamp−1の出現の経時的変化を、細胞生存率の経時的変化と比較しながら示す図である。
【0044】
【図5B】損傷を受けた細胞からのATPの放出の経時的変化を、生存細胞数と比較しながら示す図である。
【0045】
【図6A】カルシウム存在及び非存在の培地における、VH4−34抗体で処理された細胞生存率を示す図である。
【0046】
【図6B】細胞毒性剤の処理を受けた細胞生存率を示す図である。
【0047】
【図7】抗体が架橋されたときの、増強されたmAbによる細胞毒性を示す図である。
【0048】
【図8】細胞膜損傷誘導抗体の量依存的細胞毒性を示す図である。
【0049】
【図9】図9A及びBはヒト患者におけるmAb216及びビンクリスチンの治療効果を示す図である。
【発明の詳細な説明】
【0050】
I.定義と概説
本発明を詳細に記載する前に、特に断らない限り、本発明は変化可能な、特定な緩衝液、賦形剤、化学療法剤、又はその類に限定されないことは当然のことであることは理解されたい。また、当然ながら、本明細書で使用される学術用語は特別な実施態様のみを記載する目的のためであり、本発明の範囲を限定することを意図しているものではない。
【0051】
本明細書及び請求項に使用されている単数の、「一つの」(英文での”a”)、「及び」若しくは「その」(英文での”the”)は、文脈の上で明確に断らない限りは、複数の関連対象をも含むことも喚起されなければならない。従って、例えば「一つの化学療法剤」への言及は二つ以上の化学療法剤を含み、「一つの医薬品賦形剤」への言及は二つ以上の医薬品賦形剤含む、などである。
【0052】
当然のことながら、値の範囲が提示されている場合に、それぞれの介在値は、文脈の上で特に指定されていない限りは下限の単位の十分の一まで、その範囲の上限下限の間、及びその言及された範囲内での他の任意の言及された、若しくは介在する値が、本発明の範囲に含まれる。これら小範囲の上限及び下限はその小範囲に独立して含まれてもよく、また、本発明の範囲に含まれてもよく、言及範囲内での任意の具体的に除外された限界には従う。言及範囲がこれら限界の一つ又は両方を含む場合は、除外されたいずれか若しくは両方の限界の間の範囲はやはり本発明に含まれる。
【0053】
ここで使用されている「抗CDIM抗体」及び「CDIM結合抗体」という用語は、B細胞上のCDIMエピトープに特異的結合能を持つ抗体を指す。本明細書では、これらの用語は互いに互換的に使用されることになる。
【0054】
用語「抗VH4−34抗体」はVH4−34遺伝子によりコードされる抗体であるVH4−34抗体の可変領域に存在するエピトープに特異的に結合する抗体を指し、そしてこれはいわゆる超可変領域又は「相補性決定領域」(CDRs)と呼ばれるVH4−34抗体の生殖系配列を含むことができる。しかしながら、このエピトープは非生殖系のCDRのような体細胞超変異により形成された特有な免疫グロブリンのマーカーではない。好ましい実施態様では、このエピトープは抗体のフレームワーク領域に存在し、好ましくは抗体のCDRを含まない。追加の好ましい実施態様では、抗VH4−34抗体は抗原に対するVH4−34抗体の特異的結合を妨げない。
【0055】
用語「9G4」は、VH4−34Abを認識することが示されているラットモノクローナル抗体を指す(Stevenson,et al.Blood 68:430(1986))。mAb9G4により識別されるVH4−34のエピトープは、立体構造拘束性であり、可変重鎖のフレームワーク1領域(FR1)に存在する近傍のアミノ酸配列23−25に依存性である。9G4は抗VH4−34抗体の一種である。
【0056】
用語「抗体」は最も広い意味で使用され、そして具体的には、無傷の自然抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも二つの無傷の抗体より形成された多特異的抗体(例えば、二重特異性抗体)、四価抗体のような合成抗体、及び求める生物学的活性を示す抗体断片、を含む。ヒト抗体は、ヒト以外の種で作製された抗体を含む。また、抗体という用語はラクダから得られるような、重鎖のみより形成されるIg分子を包含し、それは例えば、米国特許第6,765,087号及び米国特許第6,015,695号(Casterman)、に記載されている。また、抗体という用語は、細胞毒性又は細胞制御活性を有する薬剤との融合若しくはカップリング(すなわち、結合)抗体を包含する。
【0057】
「抗体断片」は無傷の抗体の部分、好ましくは無傷の抗体の抗原結合又は可変領域を含む。抗体断片の例としては、次のようなものを含む;Fab、Fab’、F(ab’)、及びFv断片;二重特異性抗体;線状抗体(Zapata,et al.(1995)Protein Eng.8(10),1057-1062)、単鎖抗体分子;及び抗体断片より形成された多特異的抗体。
【0058】
ここで用いる用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均質な抗体集団より得られた抗体、すなわち、集団を形成する個々の抗体が、少量存在する可能性のある自然の変異体を除いて、同一である抗体を指す。モノクローナル抗体は非常に特異的で、一つの抗原部位に向けられている。更に、一般的には異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含む通常の(ポリクローナル)抗体調製品と対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原の一つの決定基に向けられている。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の免疫グロブリンの混入なしに、ハイブリドーマの培養により合成できるという利点を持っている。「モノクローナル」という修飾語句は実質的に均質な抗体集団より得られた抗体であるという性質を示すのであって、任意の特別な方法による抗体の生産を必要とすると解釈されるべきではない。例えば、本発明に従って用いられるモノクローナル抗体は最初にKohler et al.,Nature 256,495(1975)、により記載されたハイブリドーマ法によって、又は、組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号明細書参照)によって作製されてもよい。また、「モノクローナル抗体」はファージ抗体ライブラリーから、例えばClackson et al.(1991)Nature,352,624−628 and Marks et al.,(1991)J.Mol.Biol.222,581−597、に記載の方法により単離することもできる。
【0059】
ここでのモノクローナル抗体は、具体的には、「キメラ」抗体(免疫グロブリン)を含み、この抗体では重鎖及び/又は軽鎖の一部は、対応する特定種由来の抗体の配列と同一か相同であり、若しくは特定の抗体クラス又はサブクラスに属し、一方その鎖の残りの部分は他の種由来の抗体配列と同一又は相同であり、若しくは他の抗体のクラス又はサブクラスに属し、またそれは記載された生物活性を持つ限りにおいて、このような抗体の断片である。(U.S.Pat.No.4,816,567;Morrison et al.,(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81,6851-6855)。
【0060】
非ヒト(例えば、げっ歯類)の「ヒト化」型抗体は、最小限の非ヒト免疫グロブリン配列を含む、キメラ免疫グロブリン、その免疫グロブリン鎖又は断片(Fv、Fab、Fab’、F(ab’)のような、又は抗体の他の抗原結合部分配列)である。ヒト化抗体の大部分は、受容体の相補性決定領域(CDR)の残基がマウス、ラット又はウサギのような、求める特性、親和性及び能力を有する非ヒト種(供与体抗体)のCDR残基と置換されたものであるヒト免疫グロブリン(受容体抗体)である。いくつかの例では、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)は対応する非ヒト残基により置換されている。更に、ヒト化抗体は、受容体抗体にも、導入されたCDRにも、又フレームワーク配列にも存在しない残基を含んでもよい。これらの修飾は、更に抗体の性能に磨きをかけそして最大化するためになされる。一般的に、ヒト化抗体は実質的に、少なくとも一つ、典型的には二つの全ての可変ドメインを含むことになり、その中では全て、若しくは実質的に全てのCDRsが非ヒト免疫グロブリンのCDRsに相当し、全て若しくは実質的に全てのFRsがヒト免疫グロブリン配列の配列である。また、好ましくは、ヒト化抗体は免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、通常はヒト免疫グロブリンの定常領域を含むことになる。更に詳しくは、Jones et al.,(1986)Nature 321,522-525;Reichmann et al.,(1988)Nature 332,323-329;and Presta(1992)Curr.Op.Struct.Biol.2,593-596、を参照されたい。ヒト化抗体はPRIMATIZEDTM抗体を含み、これは抗体の抗原結合部位領域が関心の対象となる抗原をマカクザルに免疫することで作製された抗体に由来するのを特徴とする。
【0061】
「単鎖Fv」又は「scFv」抗体断片はVH及びVL抗体ドメインを含み、これはこれらドメインが単鎖ポリペプチドとして存在するのを特徴とする。好ましくは、Fvポリペプチドは更に、このscFvが求める抗原結合部位を形成することができるようにVHとVLドメイン間のポリペプチドのリンカーを含む。scFvの総説に関しては、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.,Springer-Verlag,New York,pp.269-315(1994)、を参照されたい。
【0062】
用語「二重特異性抗体」は二つの抗原結合部位を含む抗体断片を指し、その断片は同一のポリペプチド鎖(VH−−VL)上で軽鎖可変領域ドメイン(VL)と結合する重鎖可変領域ドメイン(VH)を含む。同じ鎖の上でこれら二つのドメインを組にするには短すぎるリンカーを用いことで、これらドメインは他の相補的な鎖と組を作ることを強制され、その結果二つの抗原結合部位が創造される。二重特異性抗体はより詳細には、例えば、EP404,097;WO93/11161;and Hollinger et al.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA90,6444-6448、に記載されている。
【0063】
「単離」抗体は、その自然環境から同定され、そして分離及び/又は回収されるものである。その自然環境の混入組成物は抗体の診断又は治療への利用の障害となり得る物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質性又は非タンパク質性の溶質であり得る。好ましい実施態様では、抗体は、(1)ローリー法による定量で、重量で95%以上の抗体、最も好ましくは重量で99%以上に、(2)その純度がスピニング・カップ・シークエネーターを用いた、N端若しくは内部の少なくとも15アミノ酸残基配列を決定するのに十分な程度まで、又は(3)クマシー・ブルー、好ましくは銀染色を用いた、還元又は非還元条件下でSDS−PAGEによる分析可能な均一性を示すまで、精製されることになる。単離された抗体としては、少なくとも抗体の自然環境に存在する成分の一つが存在しないことになるので、組換え細胞に存在するままの抗体も含まれる。しかし、通常の単離抗体は少なくとも一回の精製段階により調製されることになる。
【0064】
本明細書で使用されている、「の成長を停止する」剤又は「成長阻害剤」は、細胞の、特に要求されているCD20抗原のようなB細胞抗原を発現している新生物細胞のタイプの、成長又は増殖を止める化合物若しくは組成物を指す。従って、成長阻害剤は、例えば、S期にある新生細胞のパーセンテージを有意に減少させるような薬剤である。
【0065】
用語「癌」及び「癌性」は哺乳動物の制御不能な細胞成長を特徴とする生理学的状態を指すか、又は記載する。
【0066】
「CD20」抗原は、35kDaの、末梢血又はリンパ性臓器の90%以上のB細胞表面に存在する非糖化リンタンパク質である。CD20は初期の前駆B細胞の発生過程で発現され、形質細胞に分化するまで残存する。CD20は正常B細胞及び悪性B細胞の両方に存在する。文献でのCD20の別名は、「Bリンパ球拘束性抗原(B−lymphocyte−restricted抗原)」及び「Bp35」を含む。CD20抗原は、例えば、Clark et al.PNAS(USA)82:1766(1985)、に記載されている。
【0067】
用語「細胞損傷」は、通常は膜を透過できないトレーサーのサイトゾルへの取りこみで追跡可能な、生存可能な原形質膜破裂事象を指す。細胞損傷破裂は、典型的には約1と1000μmの範囲であり、従って補体又はパーフォリンの介在による細胞毒性を伴う膜破裂、又は毒素、又はポア形成薬剤であるグラミシジン又はStaphylococcus aureusアルファー毒素により形成される大きなポアさえもはるかにしのぐ大きである。細胞損傷は、損傷の結果顕在化される細胞修復メカニズム、すなわち、損傷の修復のためのリソソームの融合の結果もたらされる細胞表面上のLamp−1の発現、により検出される。
【0068】
用語「細胞損傷抗体」又は「細胞膜損傷抗体」は、高発現する細胞表面に結合することで、通常は膜を透過できないトレーサーのサイトゾルへの取りこみで追跡可能な、原形質膜破裂事象を引き起こす抗体を指す。細胞損傷抗体は、損傷の結果顕在化される細胞修復メカニズム、すなわち、損傷の修復のためのリソソームの融合の結果もたらされる細胞表面上のLamp−1の発現、を惹起する。
【0069】
用語「化学療法剤」は癌又は細胞の過剰増殖により特徴づけられる癌又は他の病状の治療に有用な化合物を指す。
【0070】
本明細書で使用の用語「細胞毒性剤」及び「細胞毒素」は、細胞の成長の抑制又は停止、細胞の機能の抑制ないし阻害、及び/又は細胞死をもたらす物質を指す。この用語は、一つ以上の放射性同位体、化学療法剤、免疫抑制剤、細胞制御剤及び/又は阻害剤、を含むことを意図しており、これらは低分子治療剤、細胞毒性抗体、及び細菌、真菌、植物又は動物起源の酵素活性を持つ毒素、又はこれらの断片であってもよい。また、この用語は、標的細胞に特異的に結合する毒素又は放射性同位体により標識された抗体を含む免疫複合体並びに放射性リガンド及び毒素標識リガンドのようなリガンド複合体を含む。加えて、一つ以上の細胞毒性剤を一緒に使用することができる。
【0071】
「疾患」は、本明細書に記載の療法を組合せた治療により利益を受けると思われる任意の病状である。これは、慢性、急性の疾患、疾病、又は課題である疾患に罹りやすくなるような病理学的病状を包含する疾患を含む。本明細書の治療対象の疾患例に制限を付けなければ、そこには癌、血液性悪性疾患、白血病及びリンパ性悪性疾患及び、炎症性及び免疫疾患のような自己免疫疾患が含まれる。
【0072】
用語「高発現している細胞表面抗原」は、細胞当たり少なくとも10コピー存在するか、又は細胞の一部分に少なくとも25コピー/μmの密度で存在する細胞の表面のアクセス可能な抗原を指す(すなわち、結合するのに細胞の透過性上昇を必要としない)。細胞表面抗原は、レセプター、免疫グロブリン、サイトカイン、糖タンパク質などの細胞表面に発現されている分子を含む。
【0073】
用語「過剰増殖」及び「過剰増殖性」は、癌や良性の、異常成長性を有する型の細胞を指す。一般的には、過剰増殖細胞は、同じ型の正常細胞の示す細胞分裂速度より少なくとも約10パーセントより早い細胞分裂速度を示す。過剰増殖は、ポリクローナルな自己免疫疾患媒介の自己抗体を分泌するB細胞の増大を含む。
【0074】
用語「免疫複合体」は、共有結合又は非共有結合で結びついた、細胞毒性剤を結合した抗体を指す。
【0075】
用語「静脈内輸液」は、動物又はヒトの患者の静脈に薬剤をある期間、一般には約15分間より長く、より一般的には約30から90分間の期間にわたり注入することを指す。
【0076】
用語「静脈内ボーラス」又は「静脈内注射(静注)」は、約15分間以下、一般的には5分間以下、体が薬剤を受入れるような仕方で、動物又はヒトの静脈内へ薬剤を投与することを指す。
【0077】
治療対象としての用語「哺乳動物」は、ヒト、家畜及び牧畜、動物園、スポーツ、ペットあるいは野生動物を含む、任意の哺乳動物種を指す。細胞表面抗原がCDIM抗原の場合は、CDIM抗原の発現は、もしも血球凝集を避けるのであれば、赤血球に発現されてはならない。好ましくは、出生後CDIM抗原はB細胞系列の細胞に優先的に限定されることである。
【0078】
「RITUXAN(商標)ブランド」抗CD20と称されている抗体ヒト化抗CD20抗体は、遺伝子操作によるげっ歯類/ヒトのキメラの、CD20抗原に対するモノクローナル抗体である。リツキシマブは「C2B8」と呼ばれる、米国特許第5,736,137号 issued Apr.7,1998、に記載の抗体である。RITUXAN(商標)ブランドのC2B8抗体は、再発性又は難治性、低悪性度又は濾胞性の、CD20陽性、B細胞非ホジキンリンパ腫の患者での治療効果が示されている。
【0079】
用語「特異的結合」は、少なくとも10−1の、通常は約10−1と約10−1の間の、高親和性の特性を指す。
【0080】
用語「皮下投与」は、動物又はヒトの患者の皮下、好ましくは皮膚と下層組織の間の窪みに、比較的ゆっくりと徐放しながら薬剤容器からの薬剤の導入を行うことを指す。この窪みは皮膚を上に摘むか又は引っ張ることにより、下層組織から離すことで作ってもよい。
【0081】
用語「皮下ボーラス」は、動物又はヒトの患者の皮下への薬剤の投与を指し、ボーラス薬剤投与は、好ましくは約15分間より少なく、より好ましくは5分間より少なく、そして最も好ましくは60秒間より少なくされる。投与は、好ましくは、皮膚と下層組織の間の窪みになされる。
【0082】
用語「皮下輸液」は、動物又はヒトの患者の皮下、好ましくは皮膚と下層組織の間の窪みに、比較的ゆっくりと徐放しながら、必ずしもこの期間に限定されるわけではないが、30分間又はそれ以内、又は90分間かそれ以内の期間内で、薬剤の容器からの薬剤の導入を行うことを指す。場合により、輸液は動物又はヒトの患者の皮下に薬剤送達ポンプを埋め込みことで行ってもよく、この場合にはポンプにより予め設定された量の薬剤を、30分間、90分間といった、予め設定された期間、又は治療計画の期間に渡り送達する。
【0083】
用語「治療有効量」は、成長停止効果又は細胞死活性を有する薬剤の量を指す。特定の実施態様では、治療有効量は細胞の透過性の上昇、分裂シグナルの阻害、細胞代謝の阻害、アポトーシス活性の亢進、又は細胞死の誘導といった特性を有する。特別な観点では、治療有効量は、例えば、疾病の進行の遅延をもたらすことが示されている標的血清濃度を指す。効果は、治療条件に依存した、通常の方法で測定することができる。例えば、リンパ性の癌では、疾病進行期間(TTP)の評価又は反応率(RR)の決定により効果を測定することができる。
【0084】
本発明の文脈の中で使用される用語「治療する」、「治療」及び「療法」などは、任意の臨床的な望ましい、若しくは有益な効果をもたらすような、疾病又は疾患の療法、予防、及び抑制的な対策を含むことを意味し、これらは、次のものに限定されるわけではないが、一つ以上の症状の緩和、疾病又は疾患の進行の退行、遅延、又は停止に導く。従って、例えば、治療という用語は疾病又は疾患の発症の前又は後に薬剤を投与することを含み、その事により疾病又は疾患の全てのサインは抑制されるか又は除かれる。他の例としては、この用語は疾病の症状と闘うために疾病の臨床症状が表れた後に薬剤を投与することを含む。更に、組織の損傷又若しくは転移の量又は程度といった臨床的な疾病又は疾患のパラメーターに投与が影響するような、発症後及び臨床症状が表れた後の薬剤の投与は、治療が疾病の改善をもたらしても、もたらさなくとも、本発明の文脈における「治療」又は「療法」に含まれる。
【0085】
II.細胞膜損傷抗体
VH4−34抗体(重鎖可変領域)は、生殖系列遺伝子(VH4.21)によりコードされている生殖系列抗体の、53個の同定されているヒトの機能的抗体の中の一つである。Cook,G.P.,et al.,(1994)Nat.Genet.7,162-168.VH4−34抗体遺伝子は全てのハプロタイプに存在し、関係の無い個体より単離された生殖系DNAには配列の上で変化のないことが報告されている。Weng,N.P.,et al.,(1992)Eur.J.Immunol.22,1075-1082;van der Maarel,S.,et al.,(1993)J.Immunol.150,2858-2868.VH4−34遺伝によりコードされている抗体は、ユニークな特性を有することが示されている。赤血球(RBCs)の「I」又は「i」抗原に向けられた全てのmAbsはVH4−34遺伝子によりコードされており、一般にIgMクラスであり、RBCsを4℃で凝集させるので、古典的には寒冷凝集素(CAs)と記載されている。Pascual,V.,et al.,(1991)J.Immunol.146,4385-4391;Pascual,V.,(1992)J.Immunol.149,2337-2344;Silberstein,L.E.,et al.,(1991)Blood 78,2372-2386.CAsにより認識されるリガンドは線状又は枝分かれした、RBCsのタンパク質及び/又は脂質上に存在する複合糖質である。新生児及び臍帯血のRBCは線状のi抗原を持つ。枝分かれしたI鎖は生後に作られる。Pruzanski,W.et al.,(1984)Clin.Immunol.Rev.3,131-168;Roelcke,D.(1989)Transfusion Med.Rev.2,140-166.ヒトB細胞上で認識される「i」抗原は、エンド・ベータ・ガラクトシダーゼの酵素に感受性である線状のラクトサミン決定基である。独立に由来するVH4−34抗B細胞/抗iのmAbsの配列解析は、これらは生殖系の構造であることを示した。Bhat N.M.,et al.,(1997)Clin.Exp.Immunol.108,151-159.
【0086】
in vivoでは、VH4−34遺伝子に由来する抗体の発現は厳密に制御されている。4−8%のヒトB細胞はVH4−34でコードされる抗体を発現しているが、正常の成人ではVH4−34由来抗体の血清中のレベルは無視することができる程度である。Stevenson F.K.,et al.,(1989)Br.J.Haematol.72,9-15;Kraj P,et al.,(1995)J.Immunol.154,6406-6420.循環しているVH4−34由来抗体の増加がみられるのは、特定の病理学的状態のみであり、それにはウイルスによる感染(エプシュタイン・バール・ウイルス(単球症)、ヒト免疫不全ウイルス及びC型肝炎ウイルス)、Mycoplasma pneumoniae及び特定の自己免疫疾患が含まれる。Bhat,N.M.,et al.(2005)Human Antibodies 13,63-68.も参照されたい。
【0087】
本発明者はVH4−34でコードされる抗体及びその自己免疫疾患における役割を広範囲に研究した。以前の研究は、特定の抗B細胞VH4−34抗体はB細胞に対して細胞毒性を有し、B細胞の細胞分裂の低下に導くことを明らかにした。Bhat,N.et al.(1997)Clin.Exp.Immunol.108:151;Bhat,N.,et al.,(2001)Crit.Rev.Oncol.Hematol.39,59.細胞毒性は補体とは独立していること、温度に高依存性であり、その結果激しい細胞死が起こり、4℃で処理すると水泡のような原形質膜の欠損や細胞表面の穴の形成がもたらされることが示された。原形質膜欠損は、C9補体成分(〜100A(オングストローム))及びパーフォリン(〜160A(オングストローム))といった他の既知のポア形成タンパク質により形成されるポアに比べて著しく大きいことが示された。この細胞毒性には新規のメカニズが介在しているらしいことが示唆された。
【0088】
本発明者は、これらVH4−34遺伝子由来抗体はB細胞の細胞膜損傷を誘導できるが、それは以前に報告されている抗CDIM抗体による殺細胞で観察される大きな原形質膜欠損(Bhat,N.et al.(1997)Clin.Exp.Immunol.108:151;Bhat,N.,et al.(2001)Crit.Rev.Oncol.Hematol.39,59)とは異なるという、驚くべき意外な発見を行った。特定の条件下ではこの抗体は細胞で穴や膜欠損を引き起こすが、致死下の濃度で処理された場合には、B細胞の一部は単に損傷を受けるのみで、一部のケースではその損傷は修復され得る。膜損傷は有核哺乳動物細胞が直面する共通の脅威ではあるが、抗体が直接の膜損傷の原因になりえるという事実は新規である。
【0089】
更に、本発明者は、他の任意の膜損傷と類似の方法で抗体により誘導された細胞膜損傷は修復されることを明らかにした。これら補体非依存性の細胞毒性抗体で処理された細胞は、膜損傷をリソソームと原形質膜との融合によりつなぎ合わせ、抗体により誘導された細胞膜損傷の修復を試みるが、その結果細胞表面にリソソーム膜タンパク質が表れる。また、細胞が損傷を修復できない時には死が最終的にもたらされることも明らかにされた。
【0090】
加えて、本発明者は、損傷細胞では少なくとも一時的に透過性が上がって追加の細胞毒性剤の作用に対する感受性が高まり、その結果ヒト及び動物の疾病及び疾患治療の効率を高めるための新規の治療選択肢を提供できる、という発見をした。細胞膜損傷によりB細胞の透過性が上がり、化学療法剤のような細胞毒性剤の侵入が許容され、その結果、このような薬剤に対して抵抗性又は非透過性の細胞でさえ、若しくはこれら薬剤を能動的に細胞外に輸送する細胞でさえ、化学療法剤の効果を高めることができる。
【0091】
CDIM結合抗体による細胞死及び損傷のメカニズムは、通常の細胞毒性抗体(補体又は細胞を介する殺作用)により使用されている細胞毒性メカニズムとは異なるので、特に補体の減少や欠乏のような免疫不全においては、CDIM結合抗体と通常の免疫療法を組合せることで、更に追加されたB細胞抗原と結合する細胞毒性抗体による殺作用の効果を、亢進することができる。
【0092】
更に、細胞損傷抗体の作用を、架橋剤の非存在下での細胞毒性に比較して抗体の細胞毒性を亢進させる効果を持つ架橋剤の添加により、高めることが可能である。この観察は、例えば、IgMの架橋とその結果のシグナル伝達は超架橋(hypercrosslinking)の後に生じる休止とアポトーシスの誘導の主な因子である、としているMarches,R.,et al.(1995)Ther.Immunol.2,125の報告のような、超架橋により誘導されるアポトーシスとは区別される。
【0093】
好ましい実施態様では、本発明の一つの観点に基づく抗体は、Grillot-Courvalin,C.,et al.(1992)Eur.J.Immunol.22,1781-1788;Bhat,N.M.,et al.(1993)J.Immunol.151,5011-5021;Silberstein,L.E.,et al.(1996)Blood Cells,Molecules,and Diseases,22,126-138、に記載されているように、そして、図1及び2に図示されているように、ヒトB細胞のCDIMエピトープに結合するVH4−34でコードされるモノクローナル抗体である。これら抗体は、再発性濾胞性リンパ腫患者から得られたB細胞に対して、図3に示すように、細胞毒性を有する。加えて、この抗体は、図4に示すように、B細胞株に細胞毒性を有する。好ましい実施態様では、これらのmAbsは、ヒトリンパ球と異種ミエローマ細胞株との融合により作製されたヒト抗体を分泌するハイブリドーマより生産される。例えば、mAb216はVH4−34遺伝子によりコードされるヒトIgMであり、本明細書に記載のCDIM結合VH4−34の抗体の好ましい実施態様である。MAb216は、米国特許第5,593,676号、米国特許第5,417,972号 及びEP712307B1(Bhat,et al)において更に記載されている。
【0094】
追加されるべきCDIMエピトープに結合するVH4−34由来抗体としては、RT−2B、FS12、A6(H4C5)、Cal−4G、S20A2、FS3、Gee、HT、Z2D2、Y2Kが含まれる。これらの中の特定の抗体は、塩基性アミノ酸残基に富むCDR3配列、及びCDR3の正味荷電が+2である時に特別強い結合力を示すこと、を特徴とする。従って、正味陽性CDR、特にCDR3、及びCDIMエピトープへの結合性を有する任意の抗体は本発明の範囲に包含され、追加請求項(appended claims)として請求される。しかし、当業者であれば、CDIMエピトープに結合しそしてB細胞に対して細胞毒性示す任意の抗体は、本明細書に記載のCDIM結合抗体の範囲に包含されることを認めるのにやぶさかではないであろう。
【0095】
III.細胞膜損傷誘導のための方法及び組成物
従って、本発明の或る実施態様では、細胞膜損傷を誘導するための組成物が提供され、前記組成物は、細胞表面に高発現されている細胞表面抗原に結合する多価剤を含む。好ましくは、この細胞表面抗原は細胞の細胞骨格と結合している。例えば、界面活性剤による可溶性成分の抽出の後にも細胞表面抗原は細胞に結合した状態でとどまっている。細胞膜損傷は生存可能な膜損傷であり、リソソームとの融合で修復され、細胞表面のリソソームタンパク質の出現により検出可能で、そして結果として少なくとも一時的な細胞の透過性の亢進をもたらす。
【0096】
更なる実施態様では、細胞表面に高発現されている細胞表面抗原に結合する多価剤を含む細胞透過性を亢進させるための組成物が提供される。他の観点で言えば、細胞を、細胞表面に高発現されている細胞表面抗原に結合する多価剤と接触させる過程を含む、細胞透過性を高めるための方法が提供される。
【0097】
その他の実施態様では、細胞膜損傷誘導のための方法が提供され、それは細胞を、細胞表面に高発現されている細胞表面抗原に結合する多価剤と接触させる過程を含み、そこでは、細胞は細胞表面抗原を高発現している任意の細胞であることが可能である。従って、細胞はリンパ性細胞とは異なる型の細胞、又は、B細胞以外の型の細胞であることも可能である。その他の実施態様では、高発現されている細胞表面抗原はCDIMエピトープではない。
【0098】
また、本明細書に記載の方法及び組成物は、細胞の過剰増殖を特徴とする疾病又は疾患を患っている哺乳動物の治療の目的のための医薬品製造における、細胞膜損傷多価剤、特に細胞膜損傷抗体、の使用を包含する。
【0099】
IV.細胞の殺活性及び/又は成長阻害のための方法及び組成物
その他の実施態様では、損傷の修復の失敗若しくは修復不可をもたらすような損傷を細胞に継続して与えるのに十分な量の多価剤を、少なくとも部分的に与えることで、細胞膜損傷を非生存的にできる。致死的細胞損傷は、膜の修復が有効でなくなるか維持できなくなる程度の、細胞表面に高発現されている細胞表面抗原に対して十分過剰量の多価剤を投与することにより、達成されることができる。また、致死的細胞損傷は、抗アクチン剤、又は細胞表面レセプターと細胞下層の細胞骨格との結合に影響する薬剤のように、修復メカニズムの遮断あるいは妨害を引き起こす薬剤を供給することでも達成されることができる。また、致死的細胞損傷は、細胞接着及び/又は運動性に影響する薬剤を投与することでも達成することができる。
【0100】
従って、細胞膜損傷誘導のための組成物は、また殺細胞のための組成物としても機能することができる。加えて、殺細胞のための組成物はまた細胞を殺すための方法としても有用である。好ましくは、細胞は悪性であり、例えば、神経、リンパ、卵巣、頚部、子宮内膜、睾丸、前立腺、腎臓、大腸、膵臓、胃、腸、食道、肺、甲状腺、副腎、肝臓、骨、皮膚、口、喉、といった体組織の新生物に関連している。更なる実施態様では、細胞は超活動的であり、細胞の超活動性は、本明細書で開示される超活動的細胞を殺すための組成物及び方法により治療可能な疾病又は疾患を媒介する。
【0101】
V.細胞毒性剤の追加投与
本発明者は、これらの細胞膜損傷抗体の毒性は、化学療法剤、放射性同位体、細胞毒性抗体、免疫複合体、リガンド複合体、免疫抑制剤、細胞増殖制御剤及び/又は阻害剤、毒素、又はこれらの混合物のような細胞毒性剤を追加することで、顕著にそして更に相乗的に高まるという、驚くべき発見をした。
【0102】
従って、特定の好ましい実施態様では、この方法は更に、細胞毒性剤を過剰増殖細胞の表面に高発現されている細胞表面レセプターに結合する多価剤と組み合わせて投与することを含む。細胞毒性剤は、化学療法剤、放射性同位体、細胞毒性抗体、免疫複合体、リガンド複合体、免疫抑制剤、細胞増殖制御剤及び/又は阻害剤、毒素、又はこれらの混合物、であることが可能である。
【0103】
加えて、この細胞膜損傷は、荷電薬、タンパク質及びペプチド、核酸、遺伝子治療剤、又は遺伝子発現修飾剤のような、通常は非透過性である薬剤の細胞質ゾルへのアクセスを可能にするための細胞透過性の亢進に利用できる。このような方法で、細胞膜損傷は、例えば、細胞における細胞活性、遺伝子発現、又は細胞増殖のシグナル伝達に対する反応を修飾するのに利用され、そして、実際には細胞を殺すことなく、過剰増殖細胞又は超活動性の細胞を特徴とする疾病又は疾患を患っている患者の治療のための手段を提供する。
【0104】
VI.新生細胞の選択的殺効果
特別な実施態様では、細胞の過剰増殖を特徴とする病状を患っているヒト患者の治療手段が提供され、それは細胞表面に高発現されている細胞表面抗原に結合する多価剤の投与を含み、前記多価剤は正常細胞に対して過剰増殖細胞を優先的に殺すような量で投与されるのを特徴とする。好ましくは、過剰増殖細胞は癌細胞である。その他の実施態様では、過剰増殖細胞は成長因子、サイトカイン、及びウイルス感染などの刺激により過剰増殖性状態になる。
【0105】
好ましい実施態様では、過剰増殖細胞を優先的に殺すための多価剤の有効量は、少なくとも過剰増殖細胞の細胞表面レセプターを飽和させる量である。更に好ましい実施態様では、過剰増殖細胞を優先的に殺すための多価剤の有効量は、高発現している細胞表面抗原を保持している正常細胞の細胞表面レセプターを十分飽和させる一方で、患者の健康にとって受容可能な範囲に正常細胞の生存率を維持できるような量である。正常細胞に対して優先的に過剰増殖細胞を殺すことは、過剰増殖細胞の生存率を減らすのに十分ではあるが、同程度に正常細胞の生存率を減らすのには不十分な量の多価剤を投与することで達成される。例えば、新生細胞及び正常細胞の両方がそれぞれの細胞表面に同じ細胞表面抗原を発現しているときでさえも、細胞膜損傷抗体を使用することで、正常細胞の生存率に比較して、新生細胞の生存率は10%より多く、より好ましくは20%より多く、更には30%より多く、又はより多く低減されることが好ましい。
【0106】
従って、或る実施態様では、癌細胞を細胞膜損傷を誘導する抗体に、細胞毒性を有する量で接触させて癌細胞を殺す方法が提供される。細胞膜損傷による細胞毒性は、補体の媒介による細胞毒性又は細胞の媒介による細胞毒性とは異なる。更なる実施態様では、細胞膜損傷抗体は細胞膜損傷メカニズム並びに補体及び/又は細胞の媒介による細胞毒性メカニズムにより癌細胞に細胞毒性を及ぼす。
【0107】
好ましくは、多価剤は、新生細胞のような過剰増殖細胞は殺すが非新生細胞は殺さないような活性を示す量が投与される。その他の実施態様では、多価剤は、過剰増殖細胞は殺すが正常の運動性又は正常の付着性を示すような細胞は殺さないような活性を示す量が投与される。
【0108】
実施例10で議論し、そして図8に示すように、細胞生存率における多価剤の濃度依存性は細胞型の間で有意に変化することができる。例えば、実施例10では、約5μg/mlの抗体濃度では脾臓B細胞は約65%生存率の生存率を示すが、一方Nalm−6細胞は同じ抗体濃度で僅か42%の生存率しか示さなかった。この抗体量はNalm−6細胞上のCDIMエピトープ総量に対して少なくとも3倍過剰を供給するのに十分であり、そして脾臓B細胞に対しては5倍過剰に近い。約10μg/mlというより高い抗体量では、脾臓B細胞は約48%の生存率を示し、一方Nalm−6細胞は僅か約30%の生存率を示したに過ぎなかった。従って、B細胞株は正常Bリンパ球よりCDIM結合抗体による殺活性に対して高い感受性を示し、このことは、新生物のB細胞は正常B細胞よりmAb216による殺活性に対して感受性が高いことを示唆している。
【0109】
理論に拘束されないという意図のもとに、分裂活性の高い細胞での膜輸送の停止は、損傷細胞における細胞生存率の維持に必要とされる修復メカニズムを妨害若しくは遅延させる、という仮定を立てた。あるいは、新生物のB細胞と成熟B細胞の間には感受性の増加のもとになる更なる違い、特にCDIMエピトープとその下層にあるB細胞の細胞骨格との結合における違い、若しくは細胞の付着及分子及び/又は運動活性の異なる発現が存在することができる。
【0110】
その他の実施態様では、細胞膜損傷を誘導するための方法が提供され、それには細胞を、細胞の細胞表面に高発現している細胞表面抗原と結合している多価剤と接触させる過程が含まれ、この場合の細胞はリンパ性細胞である。特定の実施態様では、多価剤は抗体であり、リンパ性細胞はCDIMエピトープを発現するB細胞である。好ましくは、抗体は正常B細胞に比較して過剰増殖性B細胞を優先的に損傷するのに効果的な量が投与される。特別な実施態様では、この方法は、(1)患者血液中の過剰増殖性B細胞数を定量するために治療を要する患者の血液のサンプリングを行い、(2)過剰増殖性B細胞及び正常B細胞の抗体による損傷に対する感受性を定量し、そして(3)患者における過剰増殖性B細胞の損傷及び/又は細胞毒性にとって十分な量の抗体を患者に投与することを含む。この方法は望ましい量の細胞損傷及び/又は殺活性を達成するための追加抗体量を滴定することを更に含むことができる。この方法は細胞を細胞毒性剤に接触させることを更に含むことができる。
【0111】
更なる実施態様では、この方法は、(1)患者血液中の過剰増殖性B細胞数を定量するために治療を要する患者の血液のサンプリングを行い、(2)過剰増殖性B細胞及の抗体による損傷に対する感受性を定量し、そして(3)患者における過剰増殖性B細胞の損傷にとって十分な量の抗体を患者に投与すること、が含まれる。更に、この方法は望ましい量の細胞損傷及び/又は殺活性を達成するための追加抗体量を滴定することを含むことができる。この方法は細胞を細胞毒性剤に接触させることを更に含むことができる。
【0112】
VII.細胞膜損傷亢進のための方法及び組成物
更なる実施態様では、組成物は細胞膜損傷を誘導するために提供され、それは細胞表面に高発現されている細胞表面抗原に結合する多価剤を含み、細胞膜損傷を誘導する組成物は更に、架橋剤非存在下における多価剤の細胞毒性に比較して多価剤の細胞毒性を高める架橋剤を含むことができる。
【0113】
特定の実施態様では、多価剤は抗体であり、好ましくはIgMである。他の特別な実施態様では、架橋剤はIgMに結合する抗体であり、細胞表面に結合するIgMに架橋を提供し、更に増強された膜損傷及び細胞毒性活性を提供する。好ましい実施態様では、細胞膜損傷は架橋剤により亢進される。特定の実施態様では、亢進は少なくとも約25%、そしてより好ましくは約50%以上である。
【0114】
その他の実施態様では、細胞膜損傷の誘導のための方法が提供され、それは細胞を、細胞表面に高発現の細胞表面レセプターに結合する多価剤と接触させることを含み、更に細胞を、架橋剤非存在下における多価剤の細胞毒性に比較して多価剤の細胞毒性を高める架橋剤に接触させることを含む。好ましい実施態様では、多価剤はIgMであり、そして架橋剤はIgMを結合する抗体であり、それは細胞表面に結合するIgMの架橋を提供する。好ましくは、細胞はB細胞であり、抗体はB細胞表面のCDIMエピトープに特異的結合能を持つIgMである。或る実施態様では、抗体はVH4−34抗体であり、架橋剤は抗カッパ抗体、抗ラムダ抗体又は抗VH4−34抗体である。
【0115】
したがって、それを必要とする患者で悪性B細胞を骨髄から排除する方法が提供され、この方法は、骨髄細胞をB細胞表面のCDIMエピトープに特異的な結合能を有する抗体と接触させることを含む。この方法は、B細胞をB細胞表面上のCDIMエピトープに結合している抗体を架橋する架橋剤と接触させることを更に含み、これにより抗CDIM抗体による悪性B細胞の細胞毒性の亢進が提供される。より好ましい実施態様では、この方法は悪性B細胞を骨髄から更に排除するために細胞を細胞毒性剤と接触させる過程を含む。
【0116】
その他の実施態様では、組成物は過剰増殖細胞を殺す目的で提供され、それは細胞の細胞表面に高発現の抗原に結合する多価剤含み、前記多価剤は細胞表面に結合している架橋多価剤を提供する架橋手段を含む。この架橋多価剤は、架橋手段の非存在下の多価剤に比較して亢進した過剰増殖細胞の殺活性を提供する。
【0117】
その他の実施態様では、細胞の過剰増殖を特徴とする病状を患っている哺乳動物を治療するための医薬組成物が提供され、前記医薬組成物は、細胞表面の高発現している細胞表面抗原に結合する多価剤を含む。好ましくは、この組成物は更に多価剤の細胞毒性亢進のための架橋手段を含む。好ましくは、多価剤は、細胞が修復不能な細胞膜損傷を誘導することで過剰増殖細胞を殺す。
【0118】
特定の実施態様では、架橋手段は官能化された薬剤であり得るが、それは細胞上に高発現された細胞表面抗原と共有結合する多価剤であり、そして細胞に結合した隣接する多価剤と架橋する能力を有する。例えば、一つ、二つ又は三つの官能基を持つ架橋剤は共有結合で多価剤と結合させることができる。架橋剤は、隣接する高発現している細胞表面抗原に結合している多価剤を架橋するために、例えば、マレイミド、スクシンイミド、カルボジイミド、又はチオールといった官能基を架橋剤の遠位末端に持つことが可能である。例えば、U.S.Patent Application Publication No.2004/0121951、は参考文献として本明細書に取り込まれており、そこには本記載の組成物に使用可能な多くの架橋剤の例が記載されている。当業者であれば、組成物に採用される架橋手段には特別の制限のないことは認識するであろう。架橋剤が隣接する多価剤と接触するのに十分な長さを有しているのであれば、そして隣接する多価剤と結合するのに十分な活性を有しているのであれば、任意の架橋手段の利用が可能である。
【0119】
好ましくは、多価剤は、自然抗体のような抗体であり、次のような抗体が含まれる;IgM、IgG、IgA、IgD、IgEを含む自然抗体、組換え抗体又はキメラ抗体;モノクローナル抗体;ポリクローナル抗体;例えば、参考文献として本明細書に取り込まれているWO02/096948のような四価抗体、又は抗体を含む融合タンパク質のような合成抗体;抗体断片、例えば、Fab2、又はscFvなどである。好ましい実施態様では、抗体はIgMである。
【0120】
更なる実施態様では、架橋手段は抗体に結合する架橋剤であることが可能である。好ましい実施態様では、架橋手段は、細胞表面に高発現している細胞表面抗原に結合している隣接の抗体を架橋する抗カッパ又は抗ラムダ又は抗ミュー剤である。追加の好ましい実施態様では、多価剤はVH4−34クラス抗体であるIgM抗体、例えば、mAb216、RT−2B、FS12、A6(H4C5)、Cal−4G、S20A2、FS3、Gee、HT、Z2D2又はY2Kであり、そして架橋剤は抗体に結合する抗VH4−34抗体である。好ましくは、抗VH4−34抗体はVH4−34抗体の細胞表面抗原への結合を阻止しない。特別の実施態様では、抗VH4−34抗体は9G4である。
【0121】
更にその他の実施態様では、架橋手段は親水性ポリマー又はポリマーの網目であることが可能であり、それは、分子量が約100から約1,000,000ダルトン、又は、より好ましくは約1000から約250,000ダルトン、で細胞表面に高発現している細胞表面抗原に特異的に結合する複数の多価剤を有している。親水性ポリマーはポリペプチド又は炭水化物であることが可能である。ポリペプチドは、ポリペプチド骨格に多価剤を共有結合しやすくするために、例えば(Ala)Lysのような遊離型アミノ基を持つ塩基性アミノ酸を含むことが可能であり、ここで、例えばnは2から20までであることが可能である。共有結合している多価剤は、例えばFab’、Fab’、又は無傷のIgMを含むことが可能である。共有結合は、ジスクシンイミド又はジマレイミド架橋剤のような二つの官能基を持つ架橋剤により都合よく提供されるが、任意の適当な結合のための手段を利用することも可能である。
【0122】
高発現している細胞表面抗原に結合する多価剤は、特異的結合、すなわち、それが高い親和性を示すことが、好ましい。通常は、その高い親和性は少なくとも10−1、そして通常は、約10−1及び約10−1の間である。
【0123】
更なる実施態様では、細胞の過剰増殖を特徴とする病状を患っている哺乳動物を治療するために医薬組成物は提供され、それには細胞表面に高発現している細胞表面抗原に結合する多価剤が含まれ、前記多価剤は細胞表面の細胞抗原表面に対する複数の結合部位を含んでいる。好ましくは、この複数の結合部位は通常は少なくとも5、より好ましくは約5から約100である。特別な実施態様では、複数の結合部位は約5から約15、約15から約25、又は約15から約50、又はそれより多いことが可能である。
【0124】
好ましくは、細胞表面抗原に対する複数の結合部位を含む多価剤は、多数の結合部位と結合している過剰増殖細胞の細胞毒性の亢進をもたらす。
【0125】
VIII.In vivo療法における利用
細胞損傷抗体mAb216は、実施例12に詳しく記載されているようにヒト患者でin vivoでテストされた。患者(ALLと診断された成人)は化学療法剤(VCR/DNR/ASPR/プレドニゾン)による標準の投薬計画の治療に対しては難治性で、すなわち、芽球数は化学療法による治療に対する反応では減少しなくなり、患者は末期的であった。抗体は1.25mg/kgの量が二人の患者に対して、図9A及び9Bの矢印で示すように、0日目及び7日目に投与された。抗体の血清濃度は、患者の体重、投与量及びおおよその血清体積に基づき(血中赤血球容積を30%と想定)、それぞれ約26μg/ml及び25μg/ml血清であった。それぞれの患者の芽球数は(患者1及び患者2)は、mAb216+VCR治療の時点でそれぞれ約125x10/ml及び65x10/mlであった。約10細胞/mlの濃度で行われたin vitro研究との関連で言えば、これらのmAb濃度はそれぞれ約0.2μg/10細胞及び0.38μg/10細胞に相当し、mAb216によるB細胞殺活性致死限界値濃度より十分に低い値の濃度であった。
【0126】
VCRの非存在下では、芽球数は一時的に減少し、それはテストされた低濃度の抗体mAb216の媒介による細胞損傷というよりは補体媒介による殺細胞の結果のようであった。しかし、VCRとの併用により芽球数の劇的な減少が、図9A及び9Bに示すように観察され、これら患者の生存の延長がもたらされた。これらのデータは、mAb216及びVCRのin vivoでの相乗効果による白血病芽細胞の死の劇的な亢進を示した。mAb216処理により芽細胞が単に損傷を受ける、又は、透過性が高まる非常に低濃度(致死下の)のmAb216でさえ、VCRの毒性に対する細胞の感受性及び治療効果が顕著に亢進された。従って、これらの結果は、癌療法効果における有意な進歩を示す。

IX.キット
本明細書に記載の多価剤、特に細胞膜損傷 抗体は、治療を必要とする患者における多価剤の閾値用量を決定するためのキットに利用可能である。哺乳動物において細胞膜損傷を誘導する多価剤の量は、結合測定を行うための、又は多価剤により誘導された結合測定又は細胞損傷及び/又は殺細胞の定量を行うための、高発現する細胞表面抗原に結合する十分な量の多価剤を含むキットを用いることで決定することができる。更なる実施態様では、結合測定又は多価剤により誘導された細胞損傷及び/又は殺細胞の定量を行うための、高発現する細胞表面抗原に結合する十分な量の多価剤を含む、哺乳動物における細胞膜損傷抗体の閾値用量を決定するためのキットが提供される。また、キットは、細胞毒性剤存在下及び又は細胞膜損傷を亢進する架橋剤の存在下で多価剤の閾値用量を決定するために架橋剤、又は細胞毒性剤、又はそれらの組合せを含むことができる。通常は、採取した患者自身の細胞(例えば、血液細胞、癌細胞、など)について、細胞上に発現されている細胞表面抗原数を定量するための、並びに予め決めた多価剤の量による損傷及び/又は殺細胞の量を定量するためのテストを、キットに含まれる薬剤を用いて行う。
【0127】
X.過剰増殖細胞
細胞の過剰増殖を特徴づける病態は、癌、自己免疫疾患、ウイルス感染及び免疫不全を含む。癌は任意の細胞型又は組織の癌を含むことができる。好ましくは、癌は、リンパ腫や白血病のようなB細胞由来の癌を含む。
【0128】
自己免疫疾患は、全身性紅斑性狼瘡(全身性エリトマトーデス)、リューマチ性関節炎、自己免疫性リンパ増殖性疾患、多発性硬化症、乾癬、重症筋無力症を含むが、また、橋本氏甲状腺炎、ループス腎炎、皮膚筋炎、シェーグレン症候群、アルツハイマー病、シデナム舞踏病、ループス腎炎(重複)、リウマチ熱、多腺性症候群、水疱性類天疱瘡、糖尿病、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、リン酸球菌感染後腎炎、結節性紅斑、高安動脈炎、アジソン病、クローン病、サルコイドーシス、潰瘍性大腸炎、多形性紅斑、IgA腎症、結節性多発動脈炎、強直性脊椎炎、グッドパスチャー症候群、閉塞性血栓血管炎、原発性胆汁性肝硬変、甲状腺機能亢進症、強皮症、慢性活動性肝炎、多発性筋炎/皮膚筋炎、多発性軟骨炎、尋常性天疱瘡、ヴェーゲナー肉芽腫症、膜性腎症、筋萎縮性側索硬化症、脊髄癆、巨細胞性動脈炎/多発筋痛、悪性貧血、急速進行性糸球体腎炎、線維化性肺胞炎、及び免疫性の血小板減少、急性特発性血小板減少性紫斑病並びに慢性特発性血小板減少性紫斑病などのような、クラスIII自己免疫疾患を含むことが可能である。
【0129】
また、ウイルス感染は細胞の過剰増殖性の病態及び疾患を、多くの細胞型及び組織で引き起こすことができる。過剰増殖を誘導するウイルス感染の例としては、HTLV−1、HTLV−2を含むヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染、エプシュタイン・バール・ウイルス(EBV)感染、及びヒトパピローマウイルス(HPV)感染、などが含まれる。
【0130】
XI.追加細胞毒性剤との併用
本発明者は、細胞損傷抗体の毒性は細胞毒性剤の追加により顕著にそして更に相乗的に亢進されるという驚くべき発見を行ったが、その薬剤には化学療法剤、放射性同位体、細胞毒性抗体、免疫複合体、リガンド複合体、免疫抑制剤、細胞成長制御剤及び/又は阻害剤、毒素、又はこれらの混合物が含まれる。
【0131】
本発明の処方及び方法に使用できる化学療法剤は、タキサン、コルヒチン、ビンカ・アルカロイド、エピポドフィロトキシン、カンプトテシン、抗生物質、白金配位錯体、アルキル化剤、葉酸類似体、ピリミジン類似体、プリン類似体、又はトポイソメラーゼ阻害剤である。好ましいトポイソメラーゼ阻害剤は、エピポドフィロトキシンである。好ましいピリミジン類似体は、カペシタビン、5−フルオロウラシル、5−フルオロデオキシウリジン、5−フルオロデオキシウリジン一リン酸、シトシンアラビノシド、5−アザシチジン又は2’,2’−ジフルオロデオキシシチジンを含む。好ましいプリン類似体は、メルカプトプリン、アザチオプリン(azathioprene)、チオグアニン、ペントスタチン、エリスロヒドロキシノニルアデニン(erythrohydroxynonyladenine)、クラドリビン、ビダラビン、及びリン酸フルダラビンを含む。葉酸類似体は、メトトレキサート、ラルチトレキセド、ロメトレキソール、パーメフレキセド(permefrexed)、エダトレキサート、及びペメトレキセドを含む。好ましいエピポドフィロトキシンは、エトポシド又はテニポシドである。好ましいカンプトテシンは、イリノテカン、トポテカン、又はカンプトテカンである。好ましくは、抗生物質はダクチノマイシン、ダウノルビシン(ダウノマイシン、ダウノキソーム(daunoxome))、ドキソルビシン、イダルビシン、エピルビシン、バルルビシン、ミトキサントロン、ブレオマイシン、又はマイトマイシンである。好ましい白金配位錯体は、シスプラチン、カルボプラチン、又はオキサリプラチンである。好ましくは、アルキル化剤は、メクロレタミン、シクロフォスファミド、イソファミド、メルファラン、ダカルバジン、テモゾロマイド、チオテパ、ヘキサメチルメラミン、ストレプトゾシン、カルムスチン、ブスルファン、アルトレタミン又はクロラムブシルである。
【0132】
追加の化学療法剤としてはアルキル化剤、例えば、チオテパ及びシクロフォスファミド(CYTOXAN(商標));
【0133】
アルキルスルホン酸塩、例えば、ブスルファン、インプロスルファン及びピポスルファン;
【0134】
アジリジン、例えば、ベンゾドーパ、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)及びウレドーパ(uredopa);
【0135】
アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド(trietylenephosphoramide)、トリエチレンチオホスホルアミド(triethylenethiophosphoramide)及びトリメチルオロメラミン(trimethylolomelamine)を含むエチレンイミン及びメチルアメラミン(methylamelamines);
【0136】
アセトゲニン(特に、ブラタシン及びブラタシノン;bullatacinone);
【0137】
カンプトテシン(合成類似体のトポテカンを含む);
【0138】
ブリオスタチン;カリスタチン;CC−1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン及びビゼレシンの合成類似体を含む);
【0139】
クリプトフィシン(特にクリプトフィシン1及びクリプトフィシン8);
【0140】
ドラスタチン;ドウカルマイシン(duocarmycin)(合成類似体、KW−2189及びCBI−TMIを含む);
【0141】
エリューテロビン(eleutherobin);パンクラチスタチン、;サルコジクチン(sarcodictyin);スポンギスタチン(spongistatin);
【0142】
ナイトロジェン・マスタード、例えば、クロラムブシル、クロルナファジン、コロフォスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロルエタミン、メクロルエタミン酸化物塩酸塩、メルファラン、ノベムビチン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン、トロフォスファミド、ウラシル・マスタード;
【0143】
ニトロソ尿素、例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン;
【0144】
エンジイン抗生物質のような抗生物質(例えば、カリケアマイシン、特にカリケアマイシンガンマ1I及びカリケアマイシンphiI1、例えばAgnew(1994)Chem.Intl.Ed.Engl.,33,183−186を参照;ディネマイシンA(dynemicin A)を含むディネマイシン;クロドロネートのようなビスフォスフォネート;エスペラマイシン;並びにネオカルチノスタチン発色団及び関連した色素タンパク質エンジイン抗生物質発色団)、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アウスラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン、カルジノフィリン(carzinophilin)、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ドキソルビシン(AdriamycinTM)(モルホリノ−ドキソルビシン、シアノモルホリノ−ドキソルビシン、2−ピロリノ−ドキソルビシン及びデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン(marcellomycin)、マイトマイシンCのようなマイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツバシジン(tubercidin)、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;
【0145】
抗代謝産物、例えば、メトトレキサート及び5−フルオロウラシル(5−FU);
【0146】
葉酸類似体、例えば、デノプテリン(denopterin)、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサート;
【0147】
葉酸の補給物、例えば、フォリン酸;
【0148】
プリン類似体、例えば、フルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン;
【0149】
ピリミジン類似体、例えば、アンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン;
【0150】
男性ホルモン、例えば、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン;
【0151】
抗副腎剤、例えば、アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン;
【0152】
アセグラトン;アルドホスファミド配糖体;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル(bestrabucil);ビサントレン;エダトラキサート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルシン;ジアジクオン(diaziquone);エルフォルニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム;エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシウレア;レンチナン;ロニダミン;マイタンシン及びアンサミトシン(ansamitocins)のようなマイタンシノイド(maytansinoids);ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペントスタチン;フェナメト(phenamet);ピラルビシン;ロソキサントロン;ポドフィリン酸;2−エチルヒドラジン;プロカルバジン;PSK(商標);ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクオン;2,2’,2”−トリクロロトリエチルアミン;トリコセン(trichothecenes)(特にT−2毒素、ベラクリン(verracurin)A、ロリジン(roridin)A及びアングイジン(anguidine));ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン;シトシン、アラビノシド(「Ara-C」);
【0153】
シクロフォスファミド;チオテパ;タキソイド、例えば、パクリタキセル(TAXOL(商標)、ブリストル・マイヤーズ・スクイブ・オンコロジー、プリンストン、ニュージャージー)及びドキセタキセル(TAXOTERE(商標)、ローン・プーランロレ、アントニー、フランス);クロラムブシル;ゲムシタビン(GemzarTM)6−チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;
【0154】
白金類似体、例えば、シスプラチン及びカルボプラチン;
【0155】
ビンブラスチン、ビンクリスチン;酒石酸ビノルビン(NavelbineTM);
【0156】
エトポシド(VP−16);イホスファミド;ミトキサントロン;ノバントロン;テニポシド;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロネート;CPT−11;
【0157】
トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);
【0158】
レチノン酸のようなレチノイド;カペシタビン;及び薬剤学的に認容可能な前記の任意の塩、酸又は誘導体。
【0159】
特に好ましいのは、微小管の重合又を妨害する薬剤である。典型的な薬剤にはコルヒチン、及びビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン又はビノレルビンのようなビンカ・アルカロイド、そしてタキソール、パクリタキセル及びドセタキセルが含まれる。また、前記の任意の混合物も利用することができる。
【0160】
追加の好ましい薬剤は、抗アクチン剤である。好ましい実施態様では、抗アクチン剤はジャスプラキノリド又はサイトカラシンであり、例えば、骨髄新生細胞を排除するために生体外(ex vivo)治療に使用される。
【0161】
毒素は免疫複合体、リガンド複合体として、又は抗体と一緒に投与することができる。毒素には限定がなく、シュードモナス内毒素A、リシン、ジフテリア毒素、モモルディン、ヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質、ブドウ球菌のエンテロトキシンA、ゲロニン、メイタンシノイド(例えば、米国特許第6,441,163号明細書に記載)などが含まれる。
【0162】
XII.抗体
本発明で有用な細胞損傷抗体は、任意の高発現した細胞表面抗原に対する抗体を含むことができる。細胞表面抗原は、細胞表面に発現されている分子、例えば、レセプター、免疫グロブリン、サイトカイン、糖タンパク質など、を含む。好ましい細胞表面抗原は、細胞骨格と結合している。
【0163】
好ましい細胞損傷抗体は、細胞損傷を亢進する形態であるらしいという理由から、細胞骨格と結合している細胞表面抗原に対する抗体である。好ましい細胞損傷抗体は、VH4−34遺伝子によりコードされている抗体、例えば、抗CDIM抗体を含む。前期で論じたように、用語「抗体」はその最も広い意味で用いられ、そのFc部位(例えば、Fcを有しない抗体)を持たない抗体断片を含む。抗体及び抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)及びFv断片;二重特異性抗体;線状抗体(Zapata,et al.(1995)Protein Eng.8(10),1057-1062)単鎖抗体分子;及び抗体断片より形成される多特異性抗体、を含むことができる。用語「抗体」及び「抗体断片」は、以後、このように記載された抗体としての結合特性を有する開発薬剤を含む。好ましくは、抗体及び抗体断片は更に架橋剤により架橋されることが可能であり、そのような架橋剤は、架橋抗体による結合が細胞損傷抗体又は抗体断片が細胞表面抗原に結合するのを妨害しない限り、細胞損傷抗体又は細胞損傷抗体断片の一部に特異的に結合するような抗体である。好ましい実施態様では、架橋剤は細胞に結合している細胞損傷抗体に結合する架橋抗体である。好ましくは、架橋抗体は細胞損傷抗体の結合を妨害しない。或る実施態様では、細胞損傷抗体はFc部位を含み、そして架橋剤その細胞損傷抗体のFc部位に結合する。更なる実施態様では、架橋剤は、もし存在するのであれば、Fc部位以外の抗体部位に結合する。
【0164】
好ましい実施態様では、細胞損傷抗体はVH4−34抗体で、好ましくは抗CDIM抗体である。抗CDIM抗体は細胞を損傷したり、その透過性を高めたり、又は細胞を殺すことに利用できる。特別の実施態様では、抗CDIM抗体は抗体断片、例えば、Fab’、であり、抗CDIM抗体(例えば、9G4)に対して特異的に結合する抗体により架橋することが可能である。好ましくは、架橋抗体は抗CDIM抗体が細胞上のCDIMエピトープに結合するのを阻害しないことであり、そして細胞のCDIMエピトープに結合している抗CDIM抗体に架橋を供与することである。
【0165】
抗CDIM抗体は、細胞、例えばB細胞の細胞表面抗原に対して特異的に結合する追加の細胞毒性抗体と併用することが可能である。抗CDIM抗体及び追加の細胞毒性抗体は、併用治療計画に使用することが可能である。好ましい実施態様では、細胞毒性抗体は任意のB細胞の細胞表面分子に特異的に結合することが可能である。例えば、細胞毒性抗体はB細胞の細胞表面分子、例えば、CD11a、CD19、CD20、CD21、CD22、CD25、CD34、CD37、CD38、CD40、CD45、CD52、CD80、CD 86、IL−4R、IL−6R、IL−8R、IL−13、IL−13R、α−4/β−1インテグリン(VLA4)、BLYSレセプター、細胞表面イディオタイプIg、腫瘍壊死因子(TNF)、又は制限のないこれらの混合物に特異的結合性を示すことが可能である。例えば、CD11aに対して特異的結合性を持つ細胞毒性抗体としては、エファリズマブ(Raptiva)を挙げることができる。CD20に対して特異的結合性を持つ細胞毒性抗体としては、リツキシマブ(RITUXAN)を挙げることができる。例えば、CD22に対して特異的結合性を持つ細胞毒性抗体としては、エプラツズマブを挙げることができる。例えば、CD25に対して特異的結合性を持つ細胞毒性抗体としては、ダクリズマブ(ZENAPAX)又はバシリキシマブ(SIMULECT)を挙げることができる。CD52に対する抗体は、例えば、CAMPATHを含む。α−4/β−1インテグリン(VLA4)に対する抗体は、例えば、ナタリズマブを含む。TNFに対する抗体は、例えば、インフリキシマブ(REMICADE)を含む。
【0166】
従って、好ましい実施態様では、B細胞のCDIMエピトープと特異的に結合する抗体は、例えばRITUXAN、ZENAPAX、REMICADE又はRAPTIVAとの併用、またはこれらの組合せによる治療計画に使用することができる。また、細胞毒性抗体は、例えば、放射性同位体又は毒素を含む免疫複合体として使用することもできる。更に、別の実施態様では、B細胞のCDIMエピトープに特異的結合性を持つ抗体、追加としてのB細胞の細胞表面分子に特異的結合性を持つ細胞毒性抗体、及び一つ以上の化学療法剤を含んだ併用療法が可能である。例えば、mAb216はリツキシマブ、トスチマブ(tosutimab)、又はイブリツモマブのような抗CD20抗体、エプラツズマブのような抗CD22抗体との併用で、又は、CAMPATHのような抗CD52抗体との併用で使用することができる。更に、併用療法は、例えばビンクリスチンのように細胞の細胞骨格を崩壊させるような薬剤を、化学療法と免疫療法との併用計画において、含むことが可能である。
【0167】
XIII.放射性同位体
治療上有用な免疫複合体、又はリガンド複合体に使用される同位体は、通常は高エネルギーで治療上有効な通過距離を有するα−、γ−又はβ−粒子を産生する。このような放射性核種は、例えば、複合体が結合した新生細胞のような、近接した細胞を殺す。標的送達の利点は、標的細胞に近接しない細胞に対しては放射性標識した抗体又はリガンドは、殆ど若しくは全く、効果を示さないことである。
【0168】
放射性同位体の細胞毒性剤としての使用に関しては、修飾した抗体又はリガンドは直接標識してもよく(例えば、ヨード化を通して)、又はキレート剤を用いて標識してもよい。いずれの方法でも、抗体又はリガンドは少なくとも一種の放射性核種により標識されている。特に好ましいキレート剤としては、l−イソチオシアマトベンジル−3−メチルジオセレン・トリアミン五酢酸(1−isothiocyamatobenzyl−3−methyldiothelene triaminepentaacetic acid)(“MX−DTPA”)及びシクロヘキシル・ジエチレントリアミン・五酢酸(“CHX−DTPA”)誘導体が含まれる。他のキレート剤としては、P−DOTA及びEDTA誘導体が含まれる。特に好ましい間接標識のための放射性核種としては、111In及び90Yが含まれる。
【0169】
放射性同位体は、抗体のFc部位のみに存在するN結合型糖残基のような抗体又はリガンドの特定の部位に結合させることが可能である。テクネチウム−99m標識抗体又はリガンドは、リガンド交換工程又はバッチ標識工程により調製してもよい。例えば、パーテクネート(TcO)を錫イオン溶液により還元し、還元したテクネチウムをセファデックス・カラムにキレートさせ、抗体をこのカラムにかけることで、抗体を標識することができる。バッチ標識技術は、例えば、パーテクネート、SnClのような還元薬剤、フタル酸ナトリウム・カリウム溶液のような緩衝液及び抗体をインキュベートすることを含む。好ましい標識のための放射核種は当技術分野において周知である。典型的な標識用放射核種は、チロシン残基を介して共有結合する131Iである。本発明の放射標識抗体は、化学酸化、例えば、剤放射性ヨウ化ナトリウム又はカリウム及び次亜塩素酸ナトリウム及びクロラミンTなど、又は酵素酸化剤、例えば、ラクトペルオキシダーゼ、ブドウ糖酸化酵素及びブドウ糖により調製することができる。
【0170】
キレート剤及びキレート剤複合物に関する特許は当技術分野では周知である。例えば、Gansowの米国特許第4,831,175号は、同一物及びその調製方法を含む多置換ジエチレントリアミン五酢酸キレーと及びタンパク質複合体に対するものである。米国特許第5,099,069号、5,246,692,5号、286,850号、5,434,287号及び5,124,471号は、全てGansowによるものであり、やはり多置換DTPAキレートに関するものである。これらの特許は本明細書に文献として完全な形で取り込まれている。同等な金属キレートの他の例としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DPTA)、1,4,8,11−テトラアザテトラデカン、1,4,8,11テトラアザテトラデカン−1,4,8,11−四酢酸、1−オキサ−4,7,12,15−テトラアゾヘプタデカン、4,7,12,15−四酢酸、又はその類がある。シクロヘキシル−DTPA又はCHX−DTPAは特に好ましい。なお、これから発見されるものも含めた他の同等なキレート剤は、当業者であれば容易に認識できるであろうし、明らかに本発明の範囲内である。追加のキレートには、特許第6,682,734号,6,399,061号及び5,843,439号明細書に記載の特異的二官能価のキレート剤が含まれるが、三価金属に高い親和性を持ち、腫瘍−非腫瘍の比が高く、骨への取り込みが低く、それと並んで標的部位、すなわち、B細胞リンパ腫の腫瘍部位、での放射性核種のin vivoでの保持が大きいものが選択されるのが好まし。しかし、これら全ての性質を持っているか持っていないかに拘わらず、他の二官能価のキレート剤も当技術分野では周知であり、やはり腫瘍の治療に有用であるかもしれない。
【0171】
また、修飾抗体は、診断及び治療の目的で放射性標識に結合させることが可能である。また、腫瘍の「画像」診断のための放射性標識の治療用複合物は、患者に抗体及び細胞毒性剤を投与する前に、使用することができる。例えば、C2B8として知られているヒトCD20抗原に結合するモノクローナル抗体は、1:1の1−イソチオシアナトベンジル−3−メチル−DTPA及び1−メチル−3−イソチオシアナトベンジル−DTPAの混合物を含むMX−DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)のような、二官能価のキレート剤を用いて111Inで放射性標識することが可能である。約1から約l0mCiは、毒性が検出されることなく安全に投与可能なので、111Inは好適な診断用の放射性同位体であり、その画像データは次の90Y−標識抗体分布の指標となる。画像診断のための5mCiの通常用量の111In標識抗体が用いられ、最適な画像を標識抗体又はリガンドの投与後いくつかの時点で決定することができるが、通常それは投与後3日から6日後である。例えば、Murray,J.(1985)Nuc.Med.26,3328 and Carraguillo et al.,(1985)J.Nuc.Med.26,67を参照されたい。
【0172】
種々の放射性同位体が利用可能であり、当業者であれば種々の条件下でどの放射性同位体が最適か容易に決定できる。例えば、131Iはしばしば標的免疫療法に利用される。しかし、131Iの臨床的有用性は、その短い半減期(8日)、血液中及び腫瘍部位でのヨード化された抗体からの脱ハロゲン化の可能性、及びその高エネルギーのγ放射により、求める腫瘍の大きさに依存した十分に局在した沈着量を供給するのが難しい、といったことで制限を受ける。更なるキレート剤の出現により、タンパク質に金属のキレート基を結合させ、111In及び90Yのような他の放射性核種を利用できる機会が加わった。90Yは放射性免疫療法の応用への利用で、いくつかの利益をもたらした。例えば、90Yの64時間に及ぶ便利な長い半減期により、抗体が腫瘍細胞に十分長時間留まりことが可能になり、そして131Iとは異なり、90Yは崩壊に際して、100から1,000細胞の直径の組織に相当する射程の、ガンマ線放射を伴わない、純粋な高エネルギーのベータ線を放射する。更に、透過放射線が最少量であるために90Y標識抗体を外来患者に投与することが可能である。追加すると、細胞を殺すために標識抗体が中に入る必要がなく、電離放射線は標的抗原を欠く隣接の腫瘍細胞に対して致死的であるはずである。
【0173】
90Y標識抗体の単回治療有効用量(すなわち、治療的に有効な量)は、約5及び約75mCiの範囲であり、より好ましくは約10及び約40mCiの範囲である。単回で有効かつ骨髄障害を起こさない131I標識抗体の量は、約5及び約70mCiの範囲であり、より好ましくは約5及び約40mCiの範囲である。単回で有効で骨髄障害を起こす131I標識抗体の量(すなわち、自己骨髄移植が必要と思われる)は、約30及び約600mCiの範囲で、より好ましくは約50及び約500mCiより少量の範囲である。げっ歯類抗体のような外来タンパク質に比較して抗体又はリガンドが長い循環半減期を有する場合は、単回で有効かつ骨髄障害を起こさない131I標識抗体の量は約5及び約40mCiの範囲、より好ましくは約30mCiより少量である。放射性同位体標識の画像解析のための量は、例えば111In標識では、通常約5mCiより少量である。
【0174】
131I及び90Yが臨床では非常によく使用されている一方で、他の放射性同位体も当技術分野では周知であり、同じような目的に使用できる。更に他の放射性同位体も画像解析に使用されている。例えば、限定されるわけではないが追加の使用可能な放射性同位体には、131I、125I、123I、90Y、111In、105Rh、153Sm、166Ho、177Lu、及び188Re及び186R、32P、57Co、64Cu、67Cu、77Ga、81Rb、81Kr、87Sr、113In、127Cs、129Cs、132I、197Hg、213Pb、216Bi、117Lu、212Pb、212Bi、47Sc、105Rh、109Pd、199Au、225Ac、211At、及び213Biが含まれる。この点に関して、アルファ線、ガンマ線、ベータ線の放射体は全て本発明の観点から配慮されるべきである。更に、当業者であれば、当然のことながら、余計な実験をすることなしに選択された治療コースに適合したどの放射性核種を選ぶべきか、容易に決定できる。この目的で、既に臨床診断で使用されている追加の放射性核種としては、125I、123I、99Tc、43K、52Fe、67Ga、68Ga、及び111Inが含まれる。標的免疫療法に利用する可能性を目指して、例えばPeitersz et al.(1987)Immunol.Cell Biol.65,111-125に記載されているように、抗体は種々の放射性核種により標識されている。これら放射性同位体は、188Re及び186Re、並びに199Au及び67Cuを含む。米国特許第5,460,785号はこのような放射性同位体に関する情報を提供し、本明細書に参考文献として取り込まれている。
【0175】
XIV.細胞成長制御剤及び/又は阻害剤
細胞成長制御剤及び/又は阻害剤は、ホルモン又は抗ホルモン薬、キナーゼ阻害剤、プロテアソーム阻害剤、遺伝子治療薬、又は遺伝子発現修飾薬のような低分子治療剤を含む。
【0176】
抗ホルモン薬は、特にホルモン、とりわけ女性における卵胞ホルモン(エストロゲン様)作用、による悪化が関与する自己免疫疾患の治療に有用である。抗ホルモン薬は、抗エストロゲン薬及び選択的エストロゲン・レセプター修飾薬(SERMs)のように腫瘍に対するホルモン作用を制御するか阻害することで作用し、例えば次のようなものが含まれる;タモキシフェン(NolvadexTMを含む)、ラロキシフェン、ドロロキシフェン、4−ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン(keoxifene)、LY117018、オナプリストン、及びトレミフェン(FarestonTM);副腎でのエストロゲンの産生を調節し、アロマターゼ酵素を阻害するアロマターゼ阻害薬、例えば、4(5)−イミダゾール、アミノグルテチミド、酢酸メゲストロール(MegaceTM)、エクセメスタン、ホルメスタン、ファドロゾール、ボロゾール(RivisorTM)、レトロゾール(FemaraTM)、及びアナストロゾール(ArimidexTM);及び抗アンドロゲン薬、例えば、フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、ロイプロリド、及びゴセレリン;及び薬剤学的に認容可能な前記の任意の塩、酸、又は誘導体。男性ホルモンは特に自己免疫疾患の治療に有用であり、代表的な男性ホルモンはジヒドロエピアンドロステロン(DHEA)である。選択的アンドロゲン・レセプター修飾薬(SARMs)は、Hutchinsonの米国特許第6,645,974号に記載の化合物、例えば、アンドロスタン及びアンドロステン・カルボキサミド、を含む。
【0177】
キナーゼ阻害薬は広く知られており、特に好適なキナーゼ阻害薬は、Zimmermannの米国特許第5,521,184号明細書に記載のbcr/ablチロシンキナーゼ阻害薬、例えば、イマニチブ(グリベック)及び関連化合物、を含む。追加のチロシンキナーゼ阻害薬としては、例えばリンキナーゼの活性を遮断するsiRNAsを含む、リンキナーゼの活性化及び転写に関連するシグナル複合体を遮断する薬剤を含むことができる。更に、追加のキナーゼ阻害薬としては、次のような化合物が含まれる;Ben-Bassat,H.et al.(2002)J.Pharmacol.Exp.Ther.303,163に記載の、非ホジキンリンパ腫にアポトーシスを誘導することが示されているAGL2592;Mahon,TM and O’Neill,LA(1995)J.Biol.Chem.270,28557に記載の、DNA結合及びNF−カッパBにより誘導される遺伝子発現を遮断することが示されているハービマイシンA;Tangの米国特許第6,680,335号明細書に記載されているようなインドリノン化合物;Hirstの米国特許第6,660,744号明細書に記載されているようなピラゾロピリミジン誘導体など。プロテアソーム阻害剤は、Adamsの米国特許第6,083,903号明細書に記載のボロン酸エステルを含む。好ましいプロテアソーム阻害剤はボルテゾミブ(Velcade)である。
【0178】
遺伝子治療薬及び遺伝子発現修飾薬はアンチセンス核酸配列、干渉核酸配列などを含む。遺伝子治療薬及び遺伝子発現修飾薬は、免疫複合体又は個別に投与される細胞毒性剤として使用することができる。特に有用な遺伝子治療薬及び遺伝子発現修飾薬は、前アポトーシス経路関連のタンパク質をコードするもの、及び前アポトーシス経路の阻害因子を遮断するもの、又は増殖シグナルを遮断するものを含むが、これらはいずれも制御不能な成長や過剰増殖の原因となり得るものである。例えば、遺伝子発現修飾薬は、NF−kB回路を阻害するように作用し、その結果この経路が異常に活性化された場合に起こる異常増殖を阻害するアンチセンス又はsiRNAを含むことができる。
【0179】
アンチセンスDNAオリゴヌクレオチドは、通常は標的遺伝子に相補的な配列より構成されており、標的遺伝子は通常はメッセンジャーRNA(mRNA)又はmRNA前駆体である。mRNAは、機能またはセンスへ向かう方向性の遺伝子情報を含み、アンチセンス・オリゴヌクレオチドの結合は意図されたmRNAを失活させ、そのタンパク質への翻訳を阻止する。このようなアンチセンス分子は、タンパク質が特定のRNAsより翻訳されること、また、一旦RNAの配列が既知になると、相補的ワトソン・クリック塩基対によりそれと結合できるアンチセンス分子を設計することができる、ということを示す生化学的実験に基づき決定される。このようなアンチセンス分子は、通常、10と30の間の、より好ましくは10と25、そしてより好ましくは15と20の間の、塩基対を含む。アンチセンス・オリゴヌクレオチドはヌクレアーゼによる加水分解に対する抵抗性を強めるように修飾することが可能であり、このような類似体は、WO97/07784に記載されているように、ホスホロチオエート、メチルホスホネート、ホスホロセレノエイト(phosphoroselenoate)、ホスホジエステル及びp−エトキシ化オリゴヌクレオチドを含む。
【0180】
また、遺伝子治療薬としては、リボザイム、DNAザイム、触媒性RNA又は小干渉RNA(siRNA)が可能性として挙げることができる。RNA干渉は、前記の相補的塩基対形成により作用する、通常は約30塩基対以下の短いRNAsを利用する。siRNAsは線状でも円形でもあり得る。
【0181】
前記のように、リンキナーゼの活性化及び転写に関連するシグナル複合体を遮断する薬剤及び修飾薬が、好適と考えられる。特別な実施態様では、Ptasznik,A et al.,(2004)Nat.Med.10,1187に報告されているようなsiRNAである、リンキナーゼ活性を遮断するsiRNAを、免疫複合体又は個別投与の細胞毒性剤として抗CDIM結合抗体と一緒に投与することができる。
【0182】
XV.製剤処方及び投与形態
抗体及び細胞毒性剤は任意の方法及び薬剤学的に認容可能な当技術分野で公知の賦形剤を用いて処方することができる。通常、抗体は食塩水に溶かし、随意の賦形剤及び安定化剤と一緒に提供される。化学療法剤では、処方方法及び賦形剤を多様に変化させることが可能で、この情報は、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Arthur Osol、編者)から得ることができる。
【0183】
本明細書に記載の方法及び組成物は、生体内(in vivo)、体外(ex vivo)及び試験管内(in vitro)に適用することが可能であると考えることができる。
【0184】
本発明の組成物は、種々の異なる手段で患者に投与してもよい。その投与手段は、意図する適用に依存して変わるであろう。当業者であれば、組成物の投与は種々の方式で行うことが可能であることを認識していると考えられ、限定されるわけではないが、例えば、次のようなものが含まれる;皮膚、眼球及び直腸のような局所投与;受動的又は能動的手段による、例えばパッチ貼付、担体又はイオントフォレーシスを用いた、経皮投与;例えば、舌下、口腔、直腸、膣又は経尿道といった経粘膜投与;例えば、胃又は十二指腸といった経口投与;例えば、腹腔、静脈内、リンパ節内、腫瘍内、筋内、間質、動脈内、皮下、病巣内、眼球内、滑液嚢内、関節内のような体腔又は血管への注射剤投与;例えば、噴霧器を用いた、例えば、肺又は鼻孔吸入のような吸入である。多価剤が抗体である場合の組成物及び方法は、一般的には注射剤による投与である。
【0185】
当然のことながら、本発明はその好ましい具体的な実施態様との関連で記載されているが、前記の記載並びにそれに続く実施例は本発明の視野を説明することを意図はしているものの、それには限定されないことも意図している。本発明の実践は、特に断らない限り、有機化学、高分子化学、生化学などの通常の技術を採用することになり、これらは当技術分野の技能の範囲内である。本発明の範囲内での、別の観点、利点及び修飾は、本発明に関係する当業者であれば容易に気づくであろう。このような技術は文献で十分に説明されている。
【0186】
本明細書に述べられている全ての特許、特許出願、及び出版物は、前記及び後記ともに、文献として本明細書に取り込まれている。
【0187】
次の実施例では、使用されている数値(例えば、量、温度など)の正確性を期するために努力が払われているが、しかし、ある程度の実験誤差及び偏差は考慮されるべきである。特に断らない限り、温度は℃(度)であり、圧力は大気圧又はそれに近い圧力である。
【0188】
略語:
【0189】
ALL 急性リンパ性白血病
【0190】
ASPR アスパラギナーゼ
【0191】
BCR B細胞レセプター
【0192】
BFA ブレフェルジンA
【0193】
DNR ダウノルビシン
【0194】
FITC フルオレセインイソチオシアネート
【0195】
IM 感染性単核球症
【0196】
mAb モノクローナル抗体
【0197】
PI ヨー化プロピジウム
【0198】
RBC 赤血球
【0199】
SLE 全身性紅斑性狼瘡
【0200】
VCR ビンクリスチン
【0201】
WBC 白血球
【0202】
実施例1
《mAb216はB細胞膜を損傷しそしてリソソームによる再密封反応を惹起する》
膜損傷に対する自然反応は、内在的リソソーム膜の損傷部位への付加による、急速な再密封である。Lamp−1は大量に存在するリソソームの膜糖タンパク質であり、正常では原形質膜上には存在しない(Granger,B.L.,et al.(1990)J.Biol.Chem.265,12036;McNeil,P.L.(2002)J.Cell Sci.115,873)。リソソームが誘導されて原形質膜と融合するとき、内在性リソソームのLamp−1のNH末ドメインは細胞表面上に露出される。この融合事象は、Lamp−1の内腔側のエピトープに向けられたmAbsにより染色することで追跡可能である(Reddy,A.,et al.(2001)Cell 106,157;Rodriguez,A.,et al.(1997)J.Cell.Biol.137,93;Martinez,I.,et al.(2000)J.Cell.Biol.148,1141)。従って、Lamp−1が細胞表面に存在することは、膜破裂に続き膜再密封が起きていることを示す(McNeil,P.L.,and R.A.Steinhardt(2003)Ann.Rev.Cell Dev.Biol.19,697)。
【0203】
VH4−34でコードされるmAb216が細胞を損傷し、その結果急速な修復と再密封反応を惹起しているかどうかテストするために、mAb216で処理されたヒトB細胞株を用いて、リソソーム特異的タンパク質Lamp−1の素早い細胞表面への出現に関する測定がなされた。
【0204】
《細胞及び試薬》
ヒト前駆B細胞株Nalm−6(Hurwitz,R.,et al.(1979)Int.J.Cancer 23,174)、Reh(Rosenfield,C.,A.et al.(1977)Nature 267,841)、及び成熟B細胞株OCI−Ly8(Tweeddale,M.E.,et al.(1987)Blood 69,1307)は、熱不活化10%FCSを含むイスコブ(Iscove’s)培地で、対数増殖期の状態で維持した。B細胞株はATCCより得た。VH4−34でコードされるmAbs、mAb216(Bhat,N.M.,et al.(1993)J.Immunol.151,5011)、Z2D2(Bhat,N.M.,et al.(2000)Scand.J.Immunol.51,134)、及びY2K、並びにイソタイプが同じコントロール用のmAb、VH3ファミリーのメンバー由来のMS2B6(Glasky,M.S.,et al.(1992)Hum.Antibod.Hybridomas 3,114)は、実験室で製造し、血清を含まないハイブリドーマの培養上清から水とともに2回沈澱させて精製した。MAbsは、必要な時にはセントリプレプ濃縮器(アミコン、ダンサーズ、MA)で濃縮した。IgMmAbsの純度はポリアクリルアミド・ゲル電気泳動でチェックしたところ、90から95%純粋であった。精製IgMsの濃度はヒトIgMを標準に用いたサンドイッチELISAにより決定した(カタログ#31146、ピアス・バイオケミカルズ、ロックフォード、IL)。MS2B6に加えて、ピアスIgMもまたイソタイプのコントロールとして用いた。全てのmAbsは濾過滅菌し、アジ化ナトリウムを含んでいなかった。
【0205】
《PI染色及び前方散乱による細胞生存率の測定》
原形質膜の保全は、細胞がヨウ化プロピジウム(PI、シグマ、セントルイス、MO)を排除する能力で評価した。PI取り込みのレベルは、スタンフォードのファックス施設にあるバーサタームプロ(VersatermPro)及びフロージョーのソフトウエアと連動させたファックスキャン(ベクトン・ディッキンソン、サンゼノ、CA)によるフロー・サイトメトリーで定量した。前方散乱シグナルによる測定で、正常の大きさを有しPI陰性の細胞は、生細胞と考えた。
【0206】
簡単に述べると、細胞はそれぞれの実験で特定されたように処理され、3%FCS及び10μgs/mlのPIを含むPBSに再度浮遊させた。Caを含まない培地で毒性を評価した実験では、細胞は10μgs/mlPIを加えた、カルシウム含の又は不含の適切な培地に浮遊させた。以前に行われた実験では、mAb216を介する毒性は低温で際立っていることが示されているので(Bhat,N.M.,et al.(1996)Clin.Exp.Immunol.105,183)、全ての培地及び細胞を37℃に維持し、遠心は室温で行うように注意した。
【0207】
《ATPの消耗及び放出測定》
細胞内及び放出されたATPを、生体発光測定キット(カタログ#A−22066、モレキュラー・プローブズ)を用い、製造業者の使用説明書に従い、測定した。1nMから1μMの範囲の、標準のATP希釈が陽性コントロールとしてテストされた。細胞は、それぞれの実験で特定された異なる培地中で、種々の濃度のmAb216に曝された。10μlの反応上清を90μlの、DTT、ルシフェリン及びルシフェラーゼを含む標準反応溶液に加えた。補基質としてのATP存在下での発光は、直ちにマイクロウイン2000、バージョン4.2ソフトウエア(マイクロテック・ラボルシステメ(Mikrotek Laborsysteme,Gmbh)と連動させた照度計(ルミマーク・マイクロプレート・リーダー、バイオラド)で測定された。この測定によりフェムトモラーの量のATPを検出できる。細胞内ATP含有量を測定するためには、細胞を1%NP−40を用いて10分間室温にて溶解させ、10μlの溶解物を前記の試験にかけた。
【0208】
《Lamp−1の発現試験》
表面Lamp−1の発現は落射蛍光、フロー・サイトメトリー及び共焦点顕微鏡法で調べた。ヒトLamp−1の内腔側エピトープに対する抗体(CD107a,clone H4A3)及びLamp−1のイソタイプコントロールであるマウスIgGkはBD−ファーミンジェンから得た。両方の抗体は、FITC結合ヤギF(ab)の抗マウスIgG二次抗体(ピアス・バイオケミカルズ)で検出した。細胞(5X10)は、それぞれの実験において特定の時間37℃で、種々の濃度のmAb216又はヒトIgMコントロール(mAb MS2B6又はピアスIgM)に曝した。次いで、細胞は予め温めておいた2%パラホルムアルデヒドで、室温にて20分間固定し、予め温めておいた培地で洗い、そして抗Lamp−1又はイソタイプコントロールで15分間染色した。次いで、細胞は二回染色用溶液(3%FCSを含むPBS及び0.2%アジ化ナトリウム)で洗い、抗Lamp−1に対する二次抗体と更に15分間インキュベーションした。二回洗浄後、細胞は染色用溶液に再度浮遊させ、フロー・サイトメトリー、蛍光抗体法又は共焦点顕微鏡法で調べた。
【0209】
共焦点顕微鏡法による画像作成はスタンフォード細胞科学画像施設において、マルチプローブ2010レーザー共焦点顕微鏡(モレキュラー・ダイナミクス、サニーベール、CA)を用いて行った。マルチプローブは、488、568及び647の励起線のAr/Krの混合ガスレーザーを使用し、ニコン・ダイアフォト200倒立顕微鏡に設置されている。488nmの励起波長による放射光は510LPビームスプリッターを通過し、510長のパスフィルタで集められた。ニコン60X(NA1.4)プラナポ対物レンズを使用した。落射蛍光画像は、ソフトウエアAxiovision3.1ソフトウェア(カール・ツァイス)と連動させたAxioCam HRcカメラ(カール・ツァイス)及びOpti−Quip電源装置(モデル1200、ハイランド・ミルズ、ニューヨーク)を装備したAxioplan2顕微鏡(カール・ツァイス社、GmbH)で観察した。フロー・サイトメトリーはファックスキャンでおこなった。
【0210】
《結果と結論》
非処理細胞のLamp−1の発現は、5%という低値から50%まで、実験ごとに変動した。この変動は、B細胞株の標準操作で生じる。基礎レベルのlamp−1発現が50%であった実験では、イソタイプのコントロールで処理した細胞では50%陽性にとどまっていたが、mAb216処理細胞では100%がLamp−1陽性であった。細胞株のLamp−1による染色は、再現性を確保するために5回繰り返した。結果は、Lamp−1発現の基礎ラインが5%であった実験で検討した。
【0211】
mAb216に1分間曝されたNalm−6細胞は、Lamp−1染色の劇的な増加を示したが、イソタイプコントロールに曝された細胞又は非処理の細胞はlamp−1発現の増加を示さなかった。また、Lamp−1発現はファックス及び落射蛍光(データは示さない)により、他のB細胞株、OCI−Ly8(成熟B)及びReh、でも観察された。細胞膜の保全はそれぞれのサンプルについて同時にPIの取り込みでも評価した。細胞は216に暴露後1分間ではPI陰性であった。
【0212】
また、Lamp−1染色及びPI取り込みはmAb216暴露後異なる時点で測定された。Lamp−1の露出は、Abに曝した後30秒で観察される強い染色を伴う速い事象であり、それは次の5分間の間に次第に低減した(図5A)。細胞はこの期間の間はPI陰性にとどまった。mAb216に暴露後約5分間でPIの取り込みが認められ、20分間までに細胞の10−25%が、PIの取り込みで示されるように、膜透過性を示した。
【0213】
また、ATPの放出で測定した膜破裂も類似の経過を示した。図5Bに示すように、Lamp−1が細胞膜上で検出される時点である2分間では、ATPは上清には検出されなかった。しかし、15分間及び1時間ではATPの放出が増加し、再密封不能な膜損傷の発生が示唆された。mAb216処理後2及び24時間では、測定されたATPの減少が認められ、これは細胞の融解及び壊死により放出されたATPが分解されたためであろう。細胞沈殿物のATP含量を測定した結果、生物発光測定が細胞増殖及び細胞毒性の尺度になることがわかった。mAb216の細胞毒性効果は暴露後1時間で顕著であった。
【0214】
これらの結果は、mAb216を介する膜損傷は、機械的又は物理的損傷からの細胞生存率の回復と同じメカニズムにより修復されることを示し、mAb216処理により任意の他の大きな膜破裂と類似の細胞損傷事象がもたらされることを示している。これまでは、抗体による細胞損傷は観察されていなかった。mAb216による膜損傷は、内側の膜が脂質二重膜に素早く追加される時点で最初は再密封されるが、続けて更にmAb216に曝されると、再密封の試みは失敗し、膜はPI及びATPの両方に対して透過性になる。mAb216に加えて、他のVH4−34でコードされる抗B−細胞IgMのmAbsは、類似の膜損傷を媒介し、類似のリポソームによる再密封反応を惹起する。
【0215】
実施例2
《mAb216誘導による膜損傷の修復は機能性アクチンに依存する》
McNeil,P.((2002)J.Cell Sci.115,873)及び他で議論されているように、膜損傷の修復はアクチンに依存する過程を含む。mAb216により誘導される膜損傷の修復がアクチンに依存する修復メカニズムを利用しているかどうか試験するために、細胞はアクチンの重合に影響を与える薬剤で処理され、mAb216で誘導された膜損傷の修復に対する効果が評価された。細胞は、アクチンの重合に対して逆の効果をもたらす二つの薬剤、サイトカラシン又はジャスプラキノリド、で処理された。サイトカラシンはアクチンを脱重合させて単体にするが、一方、海綿より得られる円形ペプチドであるジャスプラキノリドは、アクチンを線維性の形態のままに固定化する。両方の処理共に、アクチンに基づく細胞骨格の活性を妨害する。
【0216】
《方法:》
サイトカラシンはシグマより得、そしてジャスプラキノリドはモレキュラー・プローブより得た(ユージン、OR)。カスパーゼ阻害剤、Ac−IETD−CHO及びAc−DEVD−CHOは、ファーミンジェン(サン・ジェゴ、CA)より得た。Nalm−6細胞(1X10細胞/ml)は、mAb216処理に先立ち、ジャスプラキノリド(3μgs/ml)、サイトカラシン(5μgs/ml)、又はカスパーゼ阻害剤(10μM)で2時間、37℃で処理した。同等の量のDMSOで処理されたコントロールのサンプルは並行して設定した。次いで、細胞を25μgのmAb216又はコントロールのAbに曝し、フロー・サイトメトリーで分析した。
【0217】
《結果:》
サイトカラシン又はジャスプラキノリド、並びにmAb216で処理された細胞は、生存率(生存細胞のパーセント)の減少、従って、mAb216に対する感受性の増加を示し、これは、相乗的効果を示すとともに、復過程に機能的アクチンの修関与が必要であることを示した。サイトカラシン又はジャスプラキノリド、並びにコントロール抗体で処理された細胞は、生存率の減少を示さなかった。図6Bに、一つの代表的実験のデータを示す。同様な結果は、他の3回の実験でも得られた。
【0218】
細胞をカスパーゼ阻害剤、Ac−IETD−CHO及びAc−DEVD−CHOと一緒にインキュベーションしたところ、細胞生存率を変化させず、細胞死のメカニズムはアポトーシスによるものでないことが示された。
【0219】
更に、これらの結果は、抗体の暴露による抗体誘導細胞膜損傷のメカニズムを支持する。
【0220】
実施例3
《mAb216誘導膜損傷の修復はカルシウム依存性である》
リソソームのエクソサイトーシスはカルシウム依存性の現象であることが知られているので(Miyake,K.,and P.L.McNeil(1995)J.Cell Biol.131,1737;Bi,G.Q.,et al.(1995)J.Cell Biol.131,1747)、mAb216による膜損傷及び損傷の修復を、カルシウム不含及び正常のカルシウムの条件下でテストした。50、25及び12.5ng/mlの濃度の、VH4−34でコードされるmAbs及びmAb216の二つ、並びに50ng/mlのY2Kで処理された時の、Nalm−6細胞の細胞生存率を、カルシウム含及び不含培地でテストした。図6Aに示すように、細胞生存率はカルシウム非存在下では有意に減少し、損傷の修復にはカルシウムが必要なことが示された。コントロール抗体で処理されても、また抗体処理無しでも、細胞は、カルシウム存在下と非存在下のいずれの場合にも、細胞生存率に何らの変化も受けなかった。また、他のB細胞株、OCI−Ly8及びRehも似たようなカルシウム非存在下の条件での細胞毒性の増加を示した(データは示さない)。
【0221】
実施例4
《mAb216誘導膜損傷の修復は機能性ゴルジに依存性である》
ブレフェルジンA(BFA)処理は、ゴルジに結合した外皮タンパク質の放出、ゴルジ膜の小胞体への再分布、及びゴルジ体からの分泌の遮断をもたらすことが知られている(Klausner,R.D.,(1992)J.Cell Biol.116,1071)。新たなリソソーム形成は、BFA処理細胞ではなされることはなく、従って、それが損傷修復に必要性かどうかをテストするための条件を提供する。従って、新たに形成されたリソソームによるmAb216処理細胞膜の損傷修復を助ける能力を、細胞をBFA処理することでテストした。
【0222】
《方法:》
ブレフェルジンAはシグマから得た。Nalm−6細胞(1X10細胞/ml)は、mAb216処理に先立ってBFA(25μg/ml)で2時間、37℃で処理した。同等の量のDMSOで処理したコントロールサンプルは並行して設定した。次いで、細胞を25μgのmAb216又はコントロールのAbに曝し、フロー・サイトメトリーで分析した。
【0223】
《結果:》
図6Bに示すように、細胞生存率(生存細胞のパーセント)はBFA及びmAb216の併用により減少し、生存率に対する相乗効果が示された。BFAは、コントロール抗体で処理された細胞の生存率には効果を示さなかった。この結果は、膜修復はBFAにより遮断されることを示し、新たに生成されたリソソームは、膜修復及び引き続くmAb216損傷B細胞株の生存と保全に必要であることが示唆された。更に、この結果は、mAb216はB細胞に膜損傷を引き起こすこと、及び細胞はリソソームと原形質膜の融合を利用して損傷を貼り合わせようと試みること、を確認するものである。追加のリソソームの生成がBFAにより阻害されると、修復過程は細胞生存率を適切に維持するのに役立たなくなるであろう。
【0224】
実施例5
《ビンクリスチンとの相乗的B細胞の殺作用》
mAb216が化学療法剤、特にビンクリスチン、と併用されるとき、殺細胞活性の亢進が、B細胞株に対する細胞毒性測定で示された。異なる遺伝子型及び表現型の、ALL芽細胞由来の三つの細胞株、Nalm6、REH及びSUPB15は、mAb216のみと、又はビンクリスチン(VCR)との併用で、48時間37℃でインキュベートされた。
【0225】
図4及び下記の表1に示すように、これらの結果は、ビンクリスチンの低濃度(0.2ng/ml)では、ビンクリスチン単独処理による細胞死は生じないことを示す。しかし、ビンクリスチンがmAb216と併用された時には、B細胞の細胞死のパーセンテージは2倍以上であり、相乗作用が示された。mAb216のB前駆リンパ芽球に対する細胞毒性により、単独、及び化学療法との併用により、この抗体が小児ALLの免疫療法の研究の対象となるさらなる有望な薬剤となった。
【0226】
実施例6
《化学療法剤によるB細胞株に対するmAB216細胞毒性の亢進》
単剤の化学療法剤との併用によるmAb216のin vitro細胞毒性がテストされた。異なる遺伝子型及び表現型の、ALL芽細胞由来の三つの細胞株、Nalm6、REH及びSUPB15は、mAb216のみと、又はビンクリスチン(VCR)、ダウノルビシン(DNR)、又はL−アスパラギナーゼ(ASPR)と併用でインキュベーションされた。全ての化学療法剤はmAb216と併用した場合に、化学療法剤単剤又はmAb216単独の場合より強い細胞毒性をもたらした。しかし、ビンクリスチンとmAb216の併用が最も効果的であり、ビンクリスチン又はmAb216の単独による殺細胞活性に比較し、相乗的な細胞毒性をもたらした。この結果は下記の表1に示す。これらの結果は、化学療法剤存在下におけるmAb216の亢進された細胞毒性を示し、その理由の少なくとも一部は、mAb216処理によりB細胞の透過性が増し、その結果本来透過性でない化学療法剤のB細胞への透過を可能にしたことである。
【表1】

【0227】
実施例7
《Bリンパ球上のmAb216レセプターの密度》
mAb216に結合するB細胞上の表面レセプターの密度は、以下に簡単に述べる標準的な方法で決定された。前駆B細胞株Nalm−6及びヒト脾臓Bリンパ球が使用された。簡単に述べると、MAb216にフルオレセインイソチオシアネート(FITC、モレキュラー・プローブズ社)を結合させ、純粋な結合抗体の280nm及び492nmにおける吸光度を、タンパク質に対する蛍光色素分子の割合(F/P)を決めるために測定した。216の分子当たりのFITCの量は標準的な公式を用いて算出した。
【0228】
細胞は、濃度を段階的に上げた結合抗体とインキュベーションし、標識された細胞はフロー・サイトメトリーで分析した。飽和するのに必要な抗体量は記録された。蛍光色素/タンパク質(F/P)の割合を用いて、細胞表面上のレセプター分子を計算した:Nalm−6細胞は、レセプターを細胞当たり約2x10レセプターの密度で発現し、脾臓B細胞はレセプターを細胞表面に細胞当たり約1.34x10レセプターの密度で発現していることが見出された。これらの密度はT細胞上のCD8の発現で観察された密度と類似している。Nalm−6細胞株の細胞は約1倍半脾臓B細胞より大きい。
《文献》
1. Siiman,O and Burshteyn,A.(2000)“Cell surface receptor−antibody association constants and enumeration of receptor sites for monoclonal antibodies,” Cytometry 40(4),316−26.
2. http://www.drmr.com/abcon/FITC.html. FITC conjugation of antibodies.
3. http://www.cyto.purdue.edu/hmarchiv/1995/0979.htm. Antigen density.
4. http://iacf.bsd.uchicago.edu/FlowHome/Protocols/abconjugate.htm. Antibody conjugation.
【0229】
実施例8
《mAb216に対するエピトープ細胞骨格と結合している》
細胞表面レセプターは、特異的なリガンドと結合した、レクチンにより架橋した、又は結合しない状態でも、細胞骨格構造と結合した状態でとどまることができる。レセプターと細胞骨格の結合は、非イオン性合成洗剤NP−40により可溶化されずに、不溶性の細胞骨格マトリクスと結合して残っているレセプターの割合を測定することで調べることができる。B細胞のCDIMエピトープが細胞骨格と結合しているかどうか決めるために、不溶性の細胞骨格と結合したmAbの共局在性を、下記に示すように、蛍光及び放射性標識した抗体を使用して調べた。
【0230】
《方法:》
Nalm−6細胞は、ビオチン化したmAb216、又はFITC結合抗CD71又はFITC結合抗CD19抗体を用い、4℃で標識した。FITC標識細胞は2度洗浄し、そして0.5%NP−40を含む抽出用緩衝液に再度浮遊させた。ビオチン化したmAb216で標識した細胞は、2度洗浄し、次いでアビジン−FITCで染色し、再度洗浄し、そして0.5%NP−40を含む抽出用緩衝液に再度浮遊させた。NP−40処理により、細胞から合成洗剤に可溶性の膜タンパク質を除去し、その結果跡に細胞骨格及び無傷の核が残る。この無傷な裸の細胞はFACS又は蛍光顕微鏡法で解析された。
【0231】
放射性同位体125Iと直接結合したMAb216は前駆B細胞株Nalm−6(1x106細胞)と15分間、4℃でインキュベーションした。繰り返し洗浄した後に、細胞は機械的に均質化するか、膜タンパク質を0.5%NP−40を用いて可溶化した。次いでこの物質は6000xgで15分間遠心し、そして125I−mAb216の分布を、沈殿物(主に核と細胞骨格よりなる)及び上清(細胞膜及び細胞質よりなる)で調べた。
【0232】
《結果:》
Nalm−6細胞上で膜抗原CD71及びCD19と結合しているFITC結合抗体である蛍光抗体は、NP−40緩衝液に曝した後には消去された。しかし、B細胞リガンドに結合しているmAb216の蛍光強度は、合成洗剤により変化しなかった。
【0233】
加えて、125I−mAb216(80−85%)の大部分は、沈殿後には、核/細胞骨格分画に結合していることが見出された。大部分の膜結合タンパク質が含まれることが知られている細胞質分画には、mAb216は殆ど見いだされなかった。
【0234】
これらのデータは、抗CDIM抗体、mAb216、はB細胞の骨格に結合しているエピトープに結合していることを示す。
【0235】
実施例9
《mAb216の細胞毒性は架橋により増強される》
Nalm−6細胞に対するmAb216のin vitro細胞毒性は、存在するmAb216の量に応じたPI染色及び生存率の値(生存細胞のパーセント)を用いて、評価した。50%及び80%の生存率を架橋剤(二次mAb、すなわち、抗ヒトラムダ)の存在下及び非存在下で達成するのに必要なmAb216の量は、表1に示され、細胞へのPIの進入を指標にして決めた、求める細胞毒性のレベルを達成するために必要な抗体は、ナノグラムで表示された。
【0236】
また、これらの結果は、架橋剤、ここではIgMに結合する二次抗体、の添加によって細胞生存率が影響されることを示す。以下に示すように、架橋剤の添加は、mAb216の細胞毒性を増強し、その結果架橋抗体存在下では、例えば僅か半分の量の抗体が20%の細胞死(80%生存率)を達成するのに、そしてわずか60%の量の抗体が50%の細胞死(50%生存率)を達成するのに必要とされるに過ぎない。架橋剤は抗体・細胞表面レセプター複合体に堅固さを追加し、その結果として細胞損傷及び/又は死を促進するように見える。
【表2】

【0237】
実施例10
《mAb216の細胞毒性は架橋で亢進されるが、リツキサンの細胞毒性は架橋で亢進されない》
mAb216及びC2B8(RITUXAN(商標))のOCI−Ly8細胞に対するin vitro細胞毒性は、mAb216及びC2B8で処理した細胞のPI染色及び生存率値(生細胞のパーセント)で評価した。OCI−Ly8細胞(5x10細胞/ml)は、一夜37℃で、補体及びエフェクター細胞の非存在下で、15μgのそれぞれの抗体で処理した。二次抗体(5μg)は、適切なサンプル(抗IgG及び抗IgM)に加えた。細胞を洗浄し、PIを含む染色溶液に再度浮遊させ、そしてファクスキャンで分析した。細胞は常時37℃で維持した。
【0238】
《結果》
それぞれのサンプルの生細胞(PI陰性)は図7に示す。図7に示すように、抗体非処理(コントロール)及び抗C2B8、抗IgG、抗IgM、及びC2B8+抗IgGで処理した細胞の生存率は類似しており、このことによりこれらのいずれの処理も、補体及びエフェクター細胞の非存在下では有意な細胞毒性を生じないことが示された。二次抗体無しにMAb216で処理すると、生存率は約65%であった。二次抗体が存在すると、mAb216+抗IgMの併用では生存率は僅か約20%であった。
【0239】
これらの結果は、超架橋剤である抗IgMの存在で生じる追加の架橋による、有意なmAb216による細胞毒性の増強を示した(五量体構造をとるために抗原の架橋能力を有するIgM)。
【0240】
実施例11
《脾臓B細胞及びB細胞株に対するmAb216の用量依存的細胞毒性》
Nalm−6細胞又は脾臓B細胞(5x10細胞/ml)の細胞浮遊液での抗体の滴定は、B細胞に対するmAbの細胞毒性が用量依存的であることを示めした。図8に示すように、FITC結合抗体の量が増すにつれて、抗体により全ての細胞レセプター部位が飽和するまで、ファクスキャンにより検出される蛍光量は急速に増加した。両方の細胞タイプの結合曲線は類似して見え、ほぼ類似した抗体量での飽和を示した。しかし、mAb濃度に対する細胞生存率の依存性は細胞タイプにより有意に変化した。例えば、約5μg/mlの抗体においては、脾臓B細胞では約65%の生存率を示した。これに対して、Nalm−6細胞は同じ抗体濃度で、僅か約42%の生存率を示したに過ぎなかった。この抗体量は、Nalm−6細胞上の少なくとも3倍過剰の全CDIMエピトープに供給するのに十分であり、脾臓B細胞についてはその5倍過剰を供給するのに十分である。約10μg/mlの抗体においては、脾臓B細胞は約48%の生存率を示したが、一方、Nalm−6細胞は僅か約30%の生存率を示したに過ぎなかった。従って、B細胞株は、成熟Bリンパ球に比較して、CDIM結合抗体による殺活性に対する強い感受性を示し、このことは、新生物のB細胞は成熟B細胞に比較してmAb216による殺活性により感受性があることを示唆している。
【0241】
実施例12
《臨床試験でのALL患者に対するmAb216の効果》
このヒトmAb216の第I相増量試験は、再発性又は難治性前駆B細胞ALLの成人患者で、予備試験的にmAb216の抗腫瘍活性を第I相試験の範囲内で明らかにするため、そして、再発性又は難治性ALL患者でのmAb216の生物学的活性を評価するために、施行された。患者は以前に複数回多剤療法プログラムの一環としてビンクリスチンの治療を受けたが、しかし、ビンクリスチン治療に対して難治性になった、すなわち、ビンクリスチン治療が白血病性芽球を減らす効果を示さなくなった。
【0242】
《抗体投与:0日目及び7日目》
最初に使用したmAb216の輸液の初期の投与速度は、最初の半時間は25mg/時間であった。もしも、毒性や輸液に関連した事象が起こらなかった時には、投与速度(25mg/時間の割合で、30分間ごとに増量)を、最大200mg/時間まで高め、総投与量は1.25mg/kgとした。
【0243】
《疾病の評価と薬物動態》
二度目の抗体の輸液に先立ち、治療に対する初期の反応は7日目に観察した。患者はビンクリスチンとの併用で二度目の抗体量を摂取した。
【0244】
《化学療法》
ビンクリスチンは、抗体開始投与量#2に先立ち7日目に、1.5mg/m/IVP用量の投与量で与えられた。
【0245】
《結果》
mAb216のみの治療を受けた患者は、抗体の輸液後にWBCの減少を示した。次いでビンクリスチン及びmAb216の併用治療を受けた患者は、更に劇的なWBCの減少を示した。これらのデータはグラフで図9A及び9Bに示した。矢印は、ビンクリスチンと共に、又はビンクリスチン無しでmAb216を投与した日にちを示す。
【0246】
患者2は、末梢血及び骨髄で90−95%の芽球と、WBC数の上昇を示した。1.25mg/kgのmAb216のみによる治療では、7日目に一時的なWBC数の減少を示したが、WBC数は再び上昇しμL当たり10WBCを超えた。1.25mg/kgのmAb216を1.5mg/m/IVP用量のビンクリスチンとの併用で治療したところ、劇的なWBCの減少をもたらした。結果は図9Aに示す。
【0247】
患者3は、末梢血及び骨髄で90−98%の芽球と、約40,000WBC/μLのWBC数を示した。1.25mg/kgのmAb216のみによる治療では、7日目に一時的なWBC数の減少を示したが、WBC数は再び上昇した。1.25mg/kgのmAb216を1.5mg/m/IVP用量のビンクリスチンとの併用で治療したところ、やはり劇的なWBCの減少をもたらした。結果は図9Bに示す。
【0248】
これらの結果は、化学療法とmAb216との併用は驚くべき、そして相乗的効果を、ALLに罹患している患者にもたらすことを示す。致死濃度以下の抗体であっても、mAb216処理により、WBCは化学療法剤に対する処理に対してより感受性を高め、その結果追加の化学療法剤による治療効果が亢進されることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞表面に存在する高発現細胞膜抗原に結合する多価剤を含み、前記細胞膜表現抗原が細胞骨格と結合している、細胞膜損傷を誘導用組成物。
【請求項2】
多価剤が抗体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
抗体がIgMである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
細胞表面抗原がB細胞表面に存在するCDIMエピトープである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
細胞表面に存在する高発現細胞膜抗原に結合する多価剤に架橋を提供する架橋剤を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
架橋剤が抗体である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
リンパ球様細胞の高発現細胞表面抗原と結合する多価剤を含み、そして架橋剤の非存在下での多価剤による細胞膜損傷に比較して、多価剤による細胞損傷を増強させる架橋剤を更に含む、リンパ球様細胞において細胞損傷の増強用組成物。
【請求項8】
多価剤が抗体である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
抗体がIgMである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
細胞表面抗原がB細胞表面に存在するCDIMエピトープである、請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
架橋剤が抗体である、請求項7に記載の組成物。
【請求項12】
細胞表面に存在する高発現細胞表面抗原に結合する多価剤を含み、そして多価剤の架橋を提供する架橋剤を更に含む、細胞を殺すための組成物。
【請求項13】
多価剤がVH4−34抗体である、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
架橋剤が抗カッパ剤、抗ラムダ剤、又は抗VH4−34抗体である、請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
細胞毒性剤を更に含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項16】
細胞が悪性である、請求項12に記載の組成物。
【請求項17】
悪性細胞が、神経、リンパ、卵巣、頚部、子宮内膜、睾丸、前立腺、腎臓、大腸、膵臓、胃、腸、食道、肺、甲状腺、副腎、肝臓、骨、皮膚、口、又は喉、から選択される体組織の新生物と関連している、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
細胞表面に存在する高発現細胞表面抗原に結合する多価剤を含む、細胞透過用の組成物。
【請求項19】
細胞がB細胞である、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
多価剤が抗体である、請求項17に記載の組成物。
【請求項21】
抗体がIgMである、請求項18に記載の組成物。
【請求項22】
細胞表面抗原がCDIMエピトープである、請求項18に記載の組成物。
【請求項23】
抗体がVH4−34抗体である、請求項17に記載の組成物。
【請求項24】
架橋剤が抗カッパ剤、抗ラムダ剤、又は抗VH4−34抗体である、請求項18に記載の組成物。
【請求項25】
B細胞の表面の細胞表面抗原に結合する多価VH4−34抗体を含む、B細胞における細胞膜損傷誘導用組成物。
【請求項26】
B細胞の表面の細胞表面抗原に結合するVH4−34抗体を架橋する架橋剤を更に含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
VH4−34抗体を架橋する架橋剤が抗VH4−34抗体である、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
細胞の過剰増殖を特徴とする病状を患っている哺乳動物の治療用の医薬組成物であって、細胞表面に存在する高発現細胞表面抗原に結合する前記多価剤を含み、前記多価剤が細胞膜損傷を誘導する、前記医薬組成物。
【請求項29】
細胞毒性剤を更に含む、請求項28に記載の医薬組成物。
【請求項30】
過剰増殖細胞が過剰増殖B細胞である、請求項28に記載の医薬組成物。
【請求項31】
B細胞の過剰増殖を特徴とする病状がリンパ性癌、ウイルス感染、免疫不全、又は自己免疫疾患である、請求項30に記載の医薬組成物。
【請求項32】
前記ウイルス感染がヒト免疫不全ウイルス、又は単核球症である、請求項31に記載の医薬組成物。
【請求項33】
前記免疫不全症が移植後リンパ増殖性疾患、又は免疫不全症候群である、請求項31に記載の医薬組成物。
【請求項34】
細胞毒性剤が、化学療法剤、放射性同位体、細胞毒性抗体、免疫複合体、リガンド複合体、免疫抑制剤、細胞成長制御剤及び/又は阻害剤、毒素、又はこれらの混合物である、請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項35】
多価剤の架橋を提供する架橋剤を更に含む、請求項28に記載の医薬組成物。
【請求項36】
細胞膜損傷抗体により誘導される細胞膜損傷の増強用医薬組成物であって、高発現細胞表面抗原に結合する多価抗体、及び多価抗体の細胞毒性を増強する架橋手段を含み、架橋手段非存在下における多価抗体の細胞毒性と比較し、架橋手段が多価抗体の細胞毒性を増強する、前記医薬組成物。
【請求項37】
多価抗体がIgMである、請求項36に記載の組成物。
【請求項38】
架橋手段が、抗カッパ、抗ラムダ、又は抗ミュー抗体、若しくは細胞表面に存在する高発現細胞表面抗原に結合した隣接する多価抗体を架橋する、多価抗体上に発現されたエピトープに対する特異的抗体である、請求項36に記載の組成物。
【請求項39】
細胞表面に高発現する細胞表面抗原と結合する前記多価剤を含み、前記多価剤が細胞表面の細胞表面抗原に対する複数の結合部位を含む、細胞の過剰増殖を特徴とする病状を患っている哺乳動物の治療用の医薬組成物。
【請求項40】
複数の結合部位が少なくとも5である、請求項39に記載の組成物。
【請求項41】
複数の結合部位が約5から約100までである、請求項39に記載の組成物。
【請求項42】
複数の結合部位が約15から約50までである、請求項39に記載の組成物。
【請求項43】
過剰増殖細胞の表面の高発現細胞表面レセプターに結合する多価剤の投与を含み、前記多価剤が正常細胞に比較して過剰増殖細胞を優先的に殺す有効量を投与される、細胞の過剰増殖を特徴とする病状を患っている哺乳動物の治療方法。
【請求項44】
哺乳動物がヒトである、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
哺乳動物が非ヒト哺乳動物である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
過剰増殖細胞が癌細胞である、請求項43に記載の方法。
【請求項47】
成長因子、サイトカイン、又はウイルス感染により過剰増殖細胞が刺激されて過剰増殖状態になる、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
多価剤が細胞膜損傷抗体である、請求項43に記載の方法。
【請求項49】
癌細胞の生存率が、正常細胞の生存率より少なくとも10パーセントより多い量で低減させることができる、請求項46に記載の方法。
【請求項50】
癌細胞を、癌細胞の表面に高発現した細胞表面抗原に結合し、そして癌細胞に細胞膜損傷を誘導する、細胞毒性量の細胞膜損傷抗体と接触させることを含む、癌細胞を殺す方法。
【請求項51】
癌細胞を優先的に殺すが、正常細胞は殺さない有効量の、細胞膜損傷抗体を投与する、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
細胞毒性剤を細胞膜損傷抗体との併用で投与することを更に含む、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
細胞毒性剤が、化学療法剤、放射性同位体、細胞毒性抗体、免疫複合体、リガンド複合体、免疫抑制剤、細胞成長制御剤及び/又は阻害剤、毒素、又はこれらの混合物である、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
癌細胞の表面の高発現細胞表面抗原に結合する細胞膜損傷抗体に架橋を提供する架橋剤の投与を更に含む、請求項50に記載の方法。
【請求項55】
架橋剤が抗体である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
癌細胞が新生物のB細胞である、請求項50に記載の方法。
【請求項57】
細胞膜損傷抗体がVH4−34抗体である、請求項50に記載の方法。
【請求項58】
抗体が抗VH4−34抗体である、請求項55に記載の方法。
【請求項59】
細胞を、リンパ様細胞の表面に存在する高発現細胞表面抗原に結合する多価剤と接触させることを含む、ヒト患者のリンパ様細胞に細胞膜損傷を誘導する方法。
【請求項60】
多価剤が抗体である、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
リンパ様細胞がCDIMエピトープを発現しているB細胞である、請求項59に記載の方法。
【請求項62】
正常B細胞に比較して過剰増殖性B細胞を優先的に損傷する有効量の抗体を患者に投与する、請求項59に記載の方法。
【請求項63】
過剰増殖性B細胞に損傷するが過剰増殖性B細胞を殺さない、有効量の抗体が患者に投与される、請求項59に記載の方法。
【請求項64】
方法が、
(1)患者血液中の過剰増殖性B細胞の数を定量するための、治療を必要とする患者の血液のサンプリング、
(2)抗体による損傷に対する過剰増殖性B細胞及び正常B細胞の感受性の定量、及び
(3)患者において、十分に過剰増殖性B細胞を優先的に損傷及び/又は殺す抗体量の患者への投与、を含む請求項62に記載の方法。
【請求項65】
望ましい量の細胞損傷及び/又は殺効果を達成するために、患者に対する追加量の抗体を滴定することを含む、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
(1)患者血液中の過剰増殖性B細胞の数を定量するための、治療を必要とする患者の血液のサンプリング、
(2)抗体による損傷に対する過剰増殖性B細胞の感受性の定量、及び
(3)患者において十分に過剰増殖性B細胞を損傷するための抗体量の患者への投与、を含む、請求項63に記載の方法。
【請求項67】
患者に対して有効な量の細胞毒性剤を投与することを更に含む、請求項59に記載の方法。
【請求項68】
細胞に、細胞表面の高発現細胞表面抗原に結合する多価剤を接触させることを含む、細胞膜損傷誘導の方法。
【請求項69】
細胞に、架橋剤非存在下における多価剤の細胞毒性に比較し、多価剤の細胞毒性を増強する架橋剤を接触させることを更に含む、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
多価剤が抗体であり、そして架橋剤が抗体に結合する抗体であり、それにより細胞表面に結合している抗体に架橋を提供する、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
細胞がB細胞であり、そして抗体が抗CDIM抗体である、請求項68に記載の方法。
【請求項72】
抗CDIM抗体がIgMである、請求項68に記載の方法。
【請求項73】
抗CDIM抗体に結合する架橋剤を更に含む、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
抗CDIM抗体に結合する架橋剤が、抗カッパ若しくは抗ラムダ抗体、又は抗VH4−34抗体である、請求項73に記載の方法。
【請求項75】
細胞と、細胞表面に存在する高発現細胞表面抗原に結合する多価剤を接触させることを含む、細胞透過用の方法。
【請求項76】
(1)B細胞上のCDIMエピトープに特異的な結合を有する細胞毒性量の抗体、及び(2)B細胞上のCDIMエピトープに特異的な結合を有する抗体を架橋する架橋剤を、B細胞に接触させることを含む、B細胞の過剰増殖を特徴とする病状を患うヒト患者の治療方法。
【請求項77】
前記B細胞を細胞毒性剤と接触させることを更に含む、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
B細胞の過剰増殖を特徴とする病状が、リンパ性癌、ウイルス感染、免疫不全、又は自己免疫疾患である、請求項76に記載の方法。
【請求項79】
前記ウイルス感染がHIV、EBV、又はHPVにより引き起こされる、請求項78に記載の方法。
【請求項80】
前記免疫不全が、移植後リンパ性増殖疾患、又は免疫不全症候群である、請求項78に記載の方法。
【請求項81】
骨髄細胞を、B細胞表面のCDIMエピトープに対する特異的な結合を有する抗体と接触させることを含み、そしてB細胞をB細胞表面のCDIMエピトープに結合する抗体を架橋する架橋剤と接触させることを更に含み、それにより悪性B細胞に対する抗CDIM抗体の細胞毒性の亢進をもたらす、排除を必要とする患者から悪性B細胞の骨髄からの排除の方法。
【請求項82】
悪性B細胞を骨髄から更に排除するために細胞を細胞毒性剤と接触させることを更に含む、請求項81に記載の方法。
【請求項83】
結合アッセイを実施するために高発現細胞表面抗原に結合する十分な量の多価剤を含む、哺乳動物に細胞膜損傷を誘導する多価剤の閾値量の定量用キット。
【請求項84】
結合アッセイを実施するために高発現細胞表面抗原に結合する十分な量の細胞損傷抗体、架橋剤、細胞毒性剤、又はこれらの組合せを含む、哺乳動物において細胞膜損傷抗体の閾値量の定量用キット。
【請求項85】
細胞の過剰増殖を特徴とする疾患又は疾患を患う哺乳動物の治療用薬剤の製造における、細胞膜損傷多価剤の使用。
【請求項86】
細胞の過剰増殖を特徴とする疾患又は疾患を患う哺乳動物の治療用薬剤の製造における、細胞膜損傷抗体の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【公表番号】特表2008−519030(P2008−519030A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−540015(P2007−540015)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【国際出願番号】PCT/US2005/039762
【国際公開番号】WO2006/052641
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(506152461)パリンゲン インコーポレーテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】PALINGEN,INC.
【出願人】(507022732)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ リーランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティ (7)
【氏名又は名称原語表記】The Board of Trustees of the Leland Stanford Junior University
【住所又は居所原語表記】1705 El Camino Real, Palo Alto, CA 94306−1106, USA
【Fターム(参考)】