説明

抗増殖性疾患治療薬のスクリーニング法

FBPを抑制するか否かを分析する工程、及び、FBP−2を抑制するか否かを分析する工程を含む、スクリーニング方法を開示する。また、FBPを抑制する物質及びFBP−2を抑制する物質、又は、FBP及びFBP−2を抑制する物質を有効成分とする、増殖性疾患治療用医薬組成物を開示する。更に、FBPを抑制する物質及びFBP−2を抑制する物質、又は、FBP及びFBP−2を抑制する物質を投与することからなる、増殖性疾患治療方法を開示する。前記スクリーニング方法は、増殖性疾患治療薬として有用な物質を得るためのスクリーニング系として有用である。前記増殖性疾患治療用医薬組成物及び増殖性疾患治療方法は、新たな作用機序に基づく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、増殖性疾患治療薬のスクリーニング法に関する。
【背景技術】
癌をはじめとする増殖性疾患は、細胞外刺激に対する伝達機構、細胞の基礎的代謝機構、細胞周期進行に直接的に関わる機構、又はアポトーシスなどの細胞死に直接関わる機構を標的としてその治療が試みられてきた。しかし、毒性などの種々の理由から、未だ完治につながる分子標的型治療法は確立していない。
遺伝子発現異常に基づく細胞死調節の脱制御は、増殖性疾患の原因と考えられるが、増殖性疾患の理想的な治療標的分子に関しては同定されていない。遺伝子転写を司る転写因子は一般には二本鎖DNAを標的とするが、KH(hnRNP K protein Homology)ドメインを有する或るクラスのDNA結合性タンパク質は、特異的な一本鎖DNAに結合し、遺伝子転写を活性化することが知られている(非特許文献1)。そのクラスに属するFBP(FUSE−Binding Protein)は、細胞増殖及び細胞分化に関わるc−myc癌原遺伝子のプロモーター配列の1500塩基対上流に位置するフューズ(FUSE,far upstream element)の逆向き一本鎖DNAに結合するタンパク質として単離・同定された(非特許文献2)。アンチセンスを用いてFBPの発現抑制を行なうと、細胞増殖抑制はおきるが、細胞死は誘導されないこと(非特許文献3)、FBPはフューズに結合する以外に、DNAへリカーゼ活性を有するTFIIH(Transcription Factor IIH)と結合しうること(非特許文献4)、FBPの発現抑制が腫瘍細胞成長を阻むこと(特許文献1〜3)、分化によりFBPのmRNAは減少すること(非特許文献2)が知られている。また、KHドメインを含む構造的特徴及びアミノ酸配列に関して、FBPとの類似性が高いタンパク質として、FBP−2及びFBP−3が知られており、分化誘導によりFBPの発現が止まるが、FBP−2の発現抑制は不完全であり、FBP−3は分化誘導による発現抑制されない(非特許文献5)。しかし、これら3種のFBPタンパク質の本質的な細胞内機能は不明であり、細胞死調節への関与は知られていない。
(非特許文献1) 「プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・オブ・ザ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)」,(アメリカ),1996年,第95巻,p.5830−5835
(非特許文献2) 「ジーンズ・アンド・ディベロプメント(Genes and Development)」,(アメリカ),1994年,第8巻,p.465−480
(非特許文献3) 「ザ・エンボ・ジャーナル(The EMBO Journal)」,(ドイツ),2000年,第19巻,p.1034−1044
(非特許文献4) 「モレキュラー・セル(Molecular Cell)」,(アメリカ),2000年,第5巻,p.331−341
(非特許文献5) 「ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」,(アメリカ),1996年,第271巻,p.31679−31687
(特許文献1) 国際公開WO9419465号パンフレット
(特許文献2) 米国特許第US 5734016号明細書
(特許文献3) 米国特許第US 5580760号明細書
【発明の開示】
本発明の課題は、癌をはじめとする増殖性疾患の治療薬を得るための新たな標的分子を見出し、増殖性疾患治療薬として有用な物質を得るための新たなスクリーニング系及び新たな作用機序に基づく増殖性疾患治療用医薬組成物を提供することにある。
本発明者は、鋭意研究を行なった結果、癌細胞において、FBP、FBP−2、及びFBP−3の内、FBP、FBP−2、若しくはFBP−3の単独発現抑制、又はFBP及びFBP−3、若しくはFBP−2及びFBP−3の同時発現抑制を行なっても細胞死が誘導されないが、FBP及びFBP−2の同時発現抑制を行なうと細胞死が誘導されることを見出した。増殖性疾患では病巣における異常な細胞増殖を抑制することが治療標的と考えられる為、前記知見に基づき、FBP及びFBP−2を抑制する物質を選択することにより新たな増殖性疾患治療薬スクリーニング、並びにFBP及びFBP−2を抑制する物質、又は、FBPを抑制する物質及びFBP−2を抑制する物質を投与することにより新たな増殖性疾患治療が可能になることを明らかにし、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
[1]FBPを抑制するか否かを分析する工程、及び、FBP−2を抑制するか否かを分析する工程を含む、増殖性疾患治療薬として有用な物質のスクリーニング方法;
[2]抑制が発現抑制である、[1]に記載のスクリーニング方法;
[3]増殖性疾患が癌である、[1]又は[2]に記載のスクリーニング方法;
[4][1]に記載の分析工程、及び製剤化工程を含む、増殖性疾患治療用医薬組成物の製造方法;
[5][1]に記載のスクリーニング方法で得ることができる物質を有効成分とする、増殖性疾患治療用医薬組成物;
[6]FBPを抑制する物質及びFBP−2を抑制する物質、又はFBP及びFBP−2を抑制する物質を有効成分とする、増殖性疾患治療用医薬組成物;
[7]FBPを抑制する物質及びFBP−2を抑制する物質、又は、FBP及びFBP−2を抑制する物質を投与することを含む、増殖性疾患治療方法;
[8]FBPを抑制する物質及びFBP−2を抑制する物質、又は、FBP及びFBP−2を抑制する物質の、増殖性疾患治療用医薬組成物製造のための使用;
[9]FBP及び/又はFBP−2のDNA塩基配列のAAに続く19〜21塩基からなる、FBP及び/又はFBP−2に特異的な塩基配列に基づいて設計されるsiRNA;
[10](1)二重鎖RNA部分が、配列番号13で表される塩基配列、又はそのセンス鎖の3’末端が1若しくは2塩基欠失した塩基配列からなるsiRNA;
(2)二重鎖RNA部分が、配列番号14で表される塩基配列、又はそのセンス鎖の3’末端が1若しくは2塩基欠失した塩基配列からなるsiRNA;あるいは
(3)二重鎖RNA部分が、配列番号15で表される塩基配列、又はそのセンス鎖の3’末端が1若しくは2塩基欠失した塩基配列からなるsiRNA;並びに[11][9]又は[10]に記載のsiRNAを有効成分とする、増殖性疾患治療用医薬組成物
に関する。
「増殖性疾患」とは、病巣における細胞の異常増殖に基づく疾患であり、例えば、種々組織に病巣を有する癌、関節部位に病巣を有するリウマチ、腎臓メサンギウム細胞の病巣を有する腎疾患、前立腺間質に病巣を有する前立腺肥大症、あるいは、血管に病巣を有する動脈硬化などが挙げられる。
本発明の「増殖性疾患治療用医薬組成物」若しくは「増殖性疾患治療方法」としては、「癌治療用医薬組成物」若しくは「癌治療方法」が好ましい。「FBPを抑制する物質」又は「FBP−2を抑制する物質」としては、それぞれ、「FBPの発現を抑制する物質」又は「FBP−2の発現を抑制する物質」が好ましい。また、「増殖性疾患治療用医薬組成物」としては、FBPを抑制する物質及びFBP−2を抑制する物質、又は、FBP及びFBP−2を抑制する物質を有効成分とする増殖性疾患治療用医薬組成物が好ましいが、FBPを抑制する物質を有効成分とする増殖性疾患治療用医薬組成物とFBP−2を抑制する物質を有効成分とする増殖性疾患治療用医薬組成物とを併用することもでき、FBPを抑制する物質を有効成分とする増殖性疾患治療用医薬組成物と併用用のFBP−2を抑制する物質を有効成分とする増殖性疾患治療用医薬組成物、及び、FBP−2を抑制する物質を有効成分とする増殖性疾患治療用医薬組成物と併用用のFBPを抑制する物質を有効成分とする増殖性疾患治療用医薬組成物も本発明に含まれる。
本明細書において、「siRNA」とは、小分子量干渉RNA(small interfering RNA)を意味する。siRNAは、二重鎖のRNA部分と、好ましくはセンス鎖及びアンチセンス鎖の3’末端のオーバーハングとからなり、RNA干渉(RNAi;RNA interference)と呼ばれる配列特異的な遺伝子発現抑制を誘導する(Fire,A.等,Nature,391,806−811,1998)。
また、本発明のsiRNAとしては、
配列番号5で表される塩基配列からなるセンス鎖と、配列番号9で表される塩基配列からなるアンチセンス鎖とからなるsiRNA;
配列番号6で表される塩基配列からなるセンス鎖と、配列番号10で表される塩基配列からなるアンチセンス鎖とからなるsiRNA;又は
配列番号8で表される塩基配列からなるセンス鎖と、配列番号12で表される塩基配列からなるアンチセンス鎖とからなるsiRNA
がより好ましい。
本明細書において、「FBP」は、細胞増殖及び細胞分化に関わるc−myc癌原遺伝子のプロモーター配列の1500塩基対上流に位置するフューズ(FUSE,far upstream element)の逆向き一本鎖DNAに結合するタンパク質として単離・同定された(Genes Dev.,8,465−480,1994)公知のヒトタンパク質である。また、「FBP−2」及び「FBP−3」は、アミノ酸配列に関して、前記FBPとの類似性が高い公知のヒトタンパク質(J.Biol.Chem.,271,31679−31687,1996)である。
【図面の簡単な説明】
図1は、各種siRNAを導入したPC3癌細胞株における、FBP、FBP−2、及びFBP−3の発現抑制の結果を示す、図面に代わる写真である。
(a)は導入後24時間、(b)は導入後48時間、(c)は導入後72時間後の結果を示す。また、記号「Act」は、アクチンを意味する。
図2は、各種siRNAを導入したPC3癌細胞株における、生細胞数の変化を示すグラフである。縦軸は細胞数を、横軸は導入後時間(時間)を示す。
図3は、各種siRNAを導入したHeLaS3癌細胞株における、生細胞数の変化を示すグラフである。縦軸は細胞数を、横軸は導入後時間(時間)を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
1.本発明のスクリーニング方法
本発明のスクリーニング方法は、FBPを抑制するか否かを分析(すなわち、検出又は測定)する工程、及び、FBP−2を抑制するか否かを分析する工程を含む、増殖性疾患治療薬として有用な物質のスクリーニング方法である。FBP及びFBP−2の「抑制」には、FBP及びFBP−2の「発現抑制」及び「機能抑制」の両方が含まれるが、「発現抑制」がより好ましい。
(1)FBP及びFBP−2の発現を抑制するか否かを分析する方法
FBPをコードするmRNA及びFBP−2をコードするmRNA、又は、FBPタンパク質の発現及びFBP−2タンパク質の発現を抑制するか否かを分析することにより、増殖性疾患治療薬として有用な物質のスクリーニングが可能である。具体的には、細胞におけるFBP及びFBP−2の発現量の変化を分析することによってスクリーニングすることができる。
FBPをコードするmRNA及びFBP−2をコードするmRNA、又は、FBP及びFBP−2タンパク質が、特定の細胞において産生されるか否かを決定するために、多様な核酸技術及び免疫学的技術を使用することができる。
例えば、FBP及びFBP−2を発現する任意のヒト細胞、若しくは、FBPを発現する任意のヒト細胞及びFBP−2を発現する任意のヒト細胞を用い、試験物質の存在下若しくは非存在下で培養した後、細胞の抽出物を調製し、次いで、抽出物を分析することにより、前記試験物質がFBPのmRNA及びFBP−2のmRNA、又は、タンパク質の発現を減少若しくは抑制するか否かを分析することができる。すなわち、FBP及びFBP−2発現を減少若しくは抑制する試験物質は、前記試験物質を含むサンプルに存在するFBPのmRNA及びFBP−2のmRNA、並びに、タンパク質の量を減少させるので、公知の分析方法、例えば、ノーザンブロット又はELISA法[例えば、FBP及び/又はFBP−2を認識する抗体をプレート等の固相に吸着させた後、そこに試験物質を含むサンプルを加え、次いで、先の抗体とは抗原エピトープが異なるFBP及びFBP−2を認識する抗体、又は、FBPを認識する抗体及びFBP−2を認識する抗体を加えて、後者の抗体の固相への結合度合いを分析する(Methods in Enzymology,118,742−766,1986)]等で同定することができる。FBPの発現抑制及びFBP−2の発現抑制は、同時に分析することもできるし、順次分析することもできる。より具体的には、実施例2に記載した方法で、FBP及びFBP−2の発現抑制を分析することができる。
本発明のスクリーニング方法は、例えば、FBP及び/又はFBP−2を発現する細胞(好ましくはヒト細胞)を、試験物質の存在下若しくは非存在下で培養する工程、並びに、試験物質存在下で培養した前記細胞におけるFBPのmRNA及びFBP−2のmRNA、又は、タンパク質の量が、試験物質非存在下で培養した前記細胞と比較して減少したか否かを分析する工程を含む。
別の方法としては、プロモーター活性の阻害は下流の遺伝子の転写の抑制を生じる一般的事象に基づき、FBP及びFBP−2の各プロモーター領域を、それぞれ、レポーター遺伝子(例えば、ルシフェラーゼ遺伝子)上流に連結した作動可能なベクター、あるいは、FBPのプロモーター領域をレポーター遺伝子に連結した作動可能なベクター及びFBP−2のプロモーター領域をレポーター遣伝子に連結した作動可能なベクターを作製し、外因的に導入した宿主細胞を利用し、試験物質の存在下若しくは非存在下におけるレポーター活性(例えば、ルシフェラーゼ活性)を分析することにより、前記試験物質がレポーター遺伝子の発現を減少又は抑制するか否かを分析することができる。FBPの発現抑制及びFBP−2の発現抑制は、FBP及びFBP−2の各プロモーター領域をレポーター遺伝子上流に連結した作動可能なベクター、あるいは、FBPのプロモーター領域をレポーター遺伝子に連結した作動可能なベクター及びFBP−2のプロモーター領域をレポーター遺伝子に連結した作動可能なベクターを導入した宿主細胞を用い、同時に分析することもできるし、FBPのプロモーター領域をレポーター遺伝子に連結した作動可能なベクターを導入した宿主細胞、及び、FBP−2のプロモーター領域をレポーター遺伝子に連結した作動可能なベクターを導入した宿主細胞を用いて分析することもできる。
前記ベクターとしては、例えば、FBP及び/又はFBP−2の各プロモーター領域(例えば、FBPのプロモーター領域としては、ゲノム登録番号AC011539の塩基配列における、開始コドンATGの上流域を用いることができ、FBP−2のプロモーター領域としては、ゲノム登録番号AC103591の塩基配列における、開始コドンATGの上流域を用いることができる)をレポーター遺伝子上流に連結した組み換えDNAであって、しかも、一過的な複製、あるいは、宿主染色体への挿入を可能とするベクターを用いることができる。こうして外因的に得られた宿主細胞を試験物質の存在下又は非存在下で培養した後、細胞の抽出物を調製し、次いで、抽出物を分析することにより、前記試験物質がFBP及びFBP−2のプロモーター活性を減少又は抑制するか否かを決定することができる。FBP及びFBP−2のプロモーター活性を減少又は抑制する試験物質は、前記試験物質を含むサンプルに存在するレポーター活性の量を減少させるので、それを指標として同定することができる。
発明のスクリーニング方法は、例えば、FBP及び/又はFBP−2の各プロモーター領域の下流にレポーター遺伝子を連結したベクターで形質転換した細胞を、試験物質の存在下又は非存在下で培養する工程、並びに、試験物質存在下で培養した前記細胞におけるレポーター活性が、試験物質非存在下で培養した前記細胞と比較して減少したか否かを分析する工程を含む。
(2)FBP及びFBP−2の機能を抑制するか否かを分析する方法
FBP及びFBP−2の機能を発揮するためには、FBP及びFBP−2が結合分子と相互作用をする必要がある。そこで、FBP及びFBP−2と結合分子との相互作用を阻害することを指標に、FBP及びFBP−2の機能を抑制する物質を同定することができる。本発明には、FBP及びFBP−2と結合分子との会合を減少又は抑制する物質を同定することによる、増殖性疾患治療薬として有用な物質のスクリーニング方法が含まれる。
具体的には、試験物質の存在下又は非存在下で、FBP及びFBP−2と結合分子との会合が許容される条件下での混合後、前記試験物質がFBP及びFBP−2と結合分子との会合を減少又は抑制するか否かを分析することにより、分析することができる。FBP及びFBP−2と結合分子との会合を減少又は抑制する試験物質は、前記試験物質を含むサンプルに存在する会合の量を減少させるので、それを指標として同定することができる。
あるいは、FBP及びFBP−2に結合することを指標に、FBP及びFBP−2の機能を抑制する物質を同定することができる。具体的には、FBP及びFBP−2タンパク質を捕獲プローブとして使用し、FBP及びFBP−2の結合分子を同定する。FBP及びFBP−2の結合分子は、本発明で見出したFBP及びFBP−2による細胞死調節を媒介する、生体分子(例えば、タンパク質、DNA、RNA、又は他の補因子)である。詳細には、周知の方法である酵母ツーハイブリッド系(Nature,340,245−247,1989)、あるいは、FBP及び/又はFBP−2を発現する任意のヒト細胞の抽出物若しくは画分と混合し、生化学的手法により、FBP及びFBP−2の結合分子を回収し、分析することができる。
前記項目(1)のFBP及びFBP−2の発現を抑制するか否かを分析する方法、又は、前記項目(2)のFBP及びFBP−2の機能を抑制するか否かを分析する方法を用いる本発明のスクリーニング方法でスクリーニングすることのできる試験物質は、特に限定されるものではないが、例えば、ケミカルファイルに登録されている種々の公知化合物(ペプチドを含む)、コンビナトリアル・ケミストリー技術(Tetrahedron,51,8135−8137,1995)によって得られた化合物群、あるいは、ファージ・ディスプレイ法(J.Mol.Biol.,222,301−310,1991)などを応用して作成されたランダム・ペプチド群を用いることができる。また、微生物の培養上清、植物若しくは海洋生物由来の天然成分、又は動物組織抽出物などもスクリーニングの試験物質として用いることができる。更には、本発明のスクリーニング方法により選択された化合物(ペプチドを含む)を、化学的又は生物学的に修飾した化合物(ペプチドを含む)を用いることができる。
2.細胞死誘導の確認
本発明のスクリーニング方法によれば、「FBP及びFBP−2を抑制する物質」を得ることができる。「FBP及びFBP−2を抑制する物質」を単独で、あるいは、「FBPを抑制する物質」及び「FBP−2を抑制する物質」を併用すると、FBP及びFBP−2が同時に発現抑制され、細胞死が誘導される。
本明細書において、細胞死の誘導は、所定の細胞集団において、細胞の数が減少することを意味する。また、細胞死の誘導効果は、例えば、実施例3に記載の方法で確認することができる。好ましくは、所定の細胞集団における細胞の減少は、この集団における細胞のうちの少なくとも約10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも40%、更に好ましくは少なくとも約50%である。
3.本発明の増殖性疾患治療用医薬組成物、及びその製造法
前項目1.に記載の方法による分析工程、及び製剤化工程を含む、増殖性疾患治療用医薬組成物の製造方法も本発明に含まれる。
本発明の医薬組成物の有効成分は、FBPを抑制する物質及びFBP−2を抑制する物質、又は、FBP及びFBP−2を抑制する物質である限り、特に限定されるものではない。これらは、例えば、本発明のスクリーニング方法と同様の工程で、FBP、FBP−2、又は、FBP及びFBP−2を抑制する物質を選択することにより得ることができる。
本発明の医薬組成物の有効成分として、例えば、siRNAを用いることができる。siRNAは、二重鎖のRNA部分と、好ましくはセンス鎖及びアンチセンス鎖の3’末端のオーバーハングとからなり、RNAiを誘導する。RNAiは進化的に保存された現象で、RNaseIIIエンドヌクレアーゼによって生じる21〜23塩基のsiRNAを介して起こる(Genes Dev.15,485−490,2001)。その21〜23塩基のsiRNA間には、効果に差はあるもののいずれもRNAi効果を示す。また、3’側のオーバーハングはそれぞれ1又は2塩基の任意の核酸(リボ核酸又はデオキシリボ核酸)であるが、2塩基が好ましく、標的に相補した塩基が好ましいが、相補していないものでも充分なRNAi効果が認められる(EMBO.J.,20,6877−7888,2001;Genes Dev.,15,188−200,2001)。また、オーバーハングがないsiRNAもRNAi効果を示す。
なお、前記塩基数(21〜23塩基)は、オーバーハングを含むセンス鎖又はアンチセンス鎖の各々の塩基数である。また、センス鎖及びアンチセンス鎖は、同じ塩基数であることもできるし、異なる塩基数であることもできるが、同じ塩基数であることが好ましい。
siRNAの3’側オーバーハングを構成するリボ核酸としては、例えば、U(ウリジン)、A(アデノシン)、G(グアノシン)、又はC(シチジン)を用いることができ、3’側のオーバーハングを構成するデオキシリボ核酸としては、例えば、dT(チミジン)、dA(デオキシアデノシン)、dG(デオキシグアノシン)、又はdC(デオキシシチジン)を用いることができる。
本発明の医薬組成物の有効成分として用いることのできる、本発明のsiRNAには、
FBPの発現を特異的に抑制することのできるsiRNA(以下、FBP特異的siRNAと称する);
FBP−2の発現を特異的に抑制することのできるsiRNA(以下、FBP−2特異的siRNAと称する);並びに
FBP及びFBP−2の両方の発現を特異的に抑制することのできるsiRNA(以下、FBP及びFBP−2特異的siRNAと称する)
が含まれる。
FBP及び/又はFBP−2特異的siRNAは、FBP及び/又はFBP−2に特異的なDNA塩基配列(好ましくは21塩基〜23塩基からなる塩基配列)に基づいて設計され、FBP及び/又はFBP−2の発現を特異的に抑制することのできるsiRNAである限り、特に限定されるものではなく、常法(例えば、J.Am.Chem.Soc.,120,11820−11821,1998;及びMethods,23,206−217,2001)により製造することができる。より具体的には、FBP及び/又はFBP−2に特異的なDNA塩基配列は、例えば、以下の手順により選択することができる。すなわち、FBP及び/又はFBP−2の開始コドンから50塩基以上下流の最初のAAを見つける(転写因子の結合部位を避けるため)。AAに続く19〜21の塩基配列を記録し、AAを含む21〜23塩基のGCコンテントを計算し、50%前後であることを確認する。GCコンテントが30%以下や70%以上である場合、あるいは、50%前後であっても複数の候補が必要な場合には、更に下流のAAを選択し、同様にしてGCコンテントを計算する。得られた塩基配列候補について、データベース検索を実施し、FBP及び/又はFBP−2に特異的であることを確認する。
なお、FBP及び/又はFBP−2に特異的であるか否かは、例えば、National Center for Biotechnology Information(NCBI)のBLAST(Basic local alignment search tool;J.Mol.Biol.,215,403−410,1990)サーチでFBP及び/又はFBP−2とは完全に一致するが、他には完全に一致する配列が存在しないことにより確認することができる。
siRNAを設計するためのDNA塩基配列が得られると、その配列に基づいてsiRNAを設計することができる。例えば、二重鎖RNA部分が、得られたDNA塩基配列をそのままRNA配列に変換したRNA塩基配列からなる、siRNAを設計することができる。なお、本明細書において、DNA塩基配列をRNA塩基配列に変換するとは、DNA塩基配列におけるdTをUに変換し、それ以外の塩基、すなわち、dA、dG、及びdCを、それぞれ、A、G、及びCに変換することを意味する。
FBP、FBP−2、又は、FBP及びFBP−2特異的siRNAの設計に用いるFBP、FBP−2、又は、FBP及びFBP−2特異的な塩基配列としては、例えば、FBP、FBP−2、又は、FBP及びFBP−2のDNA塩基配列のAA(好ましくは開始コドンから50塩基以上下流のAA)に続く19〜21塩基からなる、特異的な塩基配列(GCコンテントが好ましくは40〜60%、より好ましくは45〜55%)を挙げることができる。
FBP特異的な塩基配列としては、例えば、配列番号1又は配列番号16〜19で表される各塩基配列を挙げることができる。
FBP−2特異的な塩基配列としては、例えば、配列番号2又は配列番号20〜25で表される各塩基配列を挙げることができる。
FBP及びFBP−2特異的な塩基配列としては、例えば、配列番号4で表される塩基配列を挙げることができる。
配列番号1で表される塩基配列に基づいて設計される、本発明のFBP特異的siRNAとしては、例えば、二重鎖RNA部分が、配列番号13で表される塩基配列、又はそのセンス鎖の3’末端が1若しくは2塩基欠失した塩基配列(すなわち、配列番号13で表される塩基配列における第1番目〜第20番目の塩基からなる配列、若しくは配列番号13で表される塩基配列における第1番目〜第19番目の塩基からなる配列)からなるsiRNAを挙げることができる。
配列番号2で表される塩基配列に基づいて設計される、本発明のFBP−2特異的siRNAとしては、例えば、二重鎖RNA部分が、配列番号14で表される塩基配列、又はそのセンス鎖の3’末端が1若しくは2塩基欠失した塩基配列(すなわち、配列番号14で表される塩基配列における第1番目〜第20番目の塩基からなる配列、若しくは配列番号14で表される塩基配列における第1番目〜第19番目の塩基からなる配列)からなるsiRNAを挙げることができる。
配列番号4で表される塩基配列に基づいて設計される、本発明のFBP及びFBP−2特異的siRNAとしては、例えば、二重鎖RNA部分が、配列番号15で表される塩基配列、又はそのセンス鎖の3’末端が1若しくは2塩基欠失した塩基配列(すなわち、配列番号15で表される塩基配列における第1番目〜第20番目の塩基からなる配列、若しくは配列番号15で表される塩基配列における第1番目〜第19番目の塩基からなる配列)からなるsiRNAを挙げることができる。
これらの本発明のFBP及び/又はFBP−2特異的siRNAには、例えば、センス鎖及び/又はアンチセンス鎖の3’末端に、それぞれ独立して、1又は2塩基の任意の核酸[例えば、リボ核酸(U、A、G、若しくはC等)又はデオキシリボ核酸(dT、dA、dG、若しくはdC等)]が付加されたオーバーハングを有するsiRNA、並びにオーバーハングを有しないsiRNAが含まれる。なお、センス鎖及びアンチセンス鎖(オーバーハングを有する場合には、それを含む)は、同じ塩基数であることもできるし、異なる塩基数であることもできるが、同じ塩基数であることが好ましい。
前記オーバーハングとしては、センス鎖及び/又はアンチセンス鎖の3’末端に、それぞれ独立して、1又は2塩基のU又はdTが付加されたオーバーハングが好ましく、センス鎖及びアンチセンス鎖の3’末端に、それぞれ独立して、1又は2塩基のU又はdTが付加されたオーバーハングがより好ましく、センス鎖及びアンチセンス鎖の3’末端に、2塩基のU又はdTが付加されたオーバーハングが特に好ましい。
本発明のFBP特異的siRNAとしては、配列番号5で表される塩基配列からなるセンス鎖と、配列番号9で表される塩基配列からなるアンチセンス鎖とからなるsiRNAが特に好ましい。配列番号5で表される塩基配列からなるセンス鎖及び配列番号9で表される塩基配列からなるアンチセンス鎖は、それぞれ、第1番目〜第21番目の塩基からなるRNA部分の3’側に、dTが2つ付加されたRNA/DNAキメラポリヌクレオチドである。このセンス鎖とこのアンチセンス鎖とからなるsiRNAにおいては、第1番目〜第21番目の塩基からなるRNA部分が二重鎖を形成し、第22番目及び第23番目のdTが3’側オーバーハングを形成する。
本発明のFBP−2特異的siRNAとしては、配列番号6で表される塩基配列からなるセンス鎖と、配列番号10で表される塩基配列からなるアンチセンス鎖とからなるsiRNAが特に好ましい。配列番号6で表される塩基配列からなるセンス鎖及び配列番号10で表される塩基配列からなるアンチセンス鎖は、それぞれ、第1番目〜第21番目の塩基からなるRNA部分の3’側に、dTが2つ付加されたRNA/DNAキメラポリヌクレオチドである。このセンス鎖とこのアンチセンス鎖とからなるsiRNAにおいては、第1番目〜第21番目の塩基からなるRNA部分が二重鎖を形成し、第22番目及び第23番目のdTが3’側オーバーハングを形成する。
本発明のFBP及びFBP−2特異的siRNAとしては、配列番号8で表される塩基配列からなるセンス鎖と、配列番号12で表される塩基配列からなるアンチセンス鎖とからなるsiRNAが特に好ましい。配列番号8で表される塩基配列からなるセンス鎖及び配列番号12で表される塩基配列からなるアンチセンス鎖は、それぞれ、第1番目〜第21番目の塩基からなるRNA部分の3’側に、dTが2つ付加されたRNA/DNAキメラポリヌクレオチドである。このセンス鎖とこのアンチセンス鎖とからなるsiRNAにおいては、第1番目〜第21番目の塩基からなるRNA部分が二重鎖を形成し、第22番目及び第23番目のdTが3’側オーバーハングを形成する。
本発明の医薬組成物の有効成分としては、siRNAの他にも、例えば、アンチセンスポリヌクレオチド(DNA及びRNAを含む)を用いることができる。
アンチセンスポリヌクレオチドを設計及び作製する方法は、周知であり(J.Am.Chem.Soc.,103:3185−3191,1981)、まず、例えば、NCBIのBLASTサーチでFBP及び/又はFBP−2特異的な配列(例えば、配列番号1、配列番号2、又は配列番号4で表される塩基配列)を選択し、それに対するアンチセンスポリヌクレオチドを、本発明の医薬組成物の有効成分として用いることができる。
本発明の医薬組成物は、非経口経路(例えば、皮下経路、静脈内経路、筋肉内経路、腹腔内経路、経皮経路、又は頬内経路)を介して投与することができる。あるいは、または同時に、経口経路によって投与することもできる。投薬量は、レシピエントの年齢、健常度、及び体重、同時処置される種類(もしあれば)、処置の頻度、並びに所望される効果の性質に依存する。各成分の有効な量の至適な範囲の決定は、当業者の範囲内である。典型的な投薬量は0.1〜100μg/kg体重であり、好ましい投薬量は、0.1〜10μg/kg体重であり、最も好ましい投薬量は、0.1〜1μg/kg体重である。薬理学的に活性な薬剤に加えて、本発明の組成物は、薬学的に受容可能な適切なキャリアーを含むことができ、これには、作用の部位に到達するために薬学的に使用可能な、調製物への活性な化合物のプロセシングを容易にする賦形剤及び/又は補助剤を含む。
非経口投与のために適切な処方物は、水溶性形態の活性化合物(例えば、水溶性の塩)の水溶液を含む。更に、適切な油性の注入懸濁液としての活性化化合物の懸濁液が投与可能である。適切な親油性溶媒又はベヒクルは、脂肪油又は合成の脂肪酸エステルを含む。水溶性注入懸濁液は、懸濁液の粘度を増加する物質を含むことができる。必要に応じて懸濁液は安定剤を含むことができる。リポソームも、細胞への送達のために、薬剤をカプセル化するために使用することができる。本発明に従う全身投与についての薬学的組成物は、腸投与、非経口投与、又は局所投与について処方することができる。実際、処方物の全ての3つのタイプは、有効成分の全身性投与を達成するために同時に使用することができる。
経口投与のための適切な処方物は、堅質又は軟質ゼラチンカプセル、丸剤、錠剤、エリキシル、懸濁液、シロップ、又は吸入薬、及びそれらの制御された放出形態を含む。本発明の医薬組成物は、単独で、又は組み合わせで、あるいは、他の治療剤又は診断剤と組み合わせて使用することができる。特に好ましい実施形態において、本発明の医薬組成物は、一般的に受容されている医療の実施に従って、これらの状態について典型的に処方される他の化合物(例えば、化学療法剤)とともに投与することができる。
本発明の医薬組成物は、FBPを抑制する物質を有効成分とする増殖性疾患治療用医薬組成物と、FBP−2を抑制する物質を有効成分とする増殖性疾患治療用医薬組成物とを組み合わせて、キットにすることもできる。
また、FBPを抑制する物質を有効成分とする増殖性疾患治療用医薬組成物と、FBP−2を抑制する物質を有効成分とする増殖性疾患治療用医薬組成物とは、同時に、あるいは、時間差をおいて、投与することができる。
4.遺伝子治療
細胞増殖性疾患、例えば、癌の治療において、FBP及びFBP−2発現の調節因子をコードする遺伝子発現単位(例えば、配列番号1、配列番号2、又は配列番号4で表される塩基配列に対するアンチセンス分子又はsiRNA分子)を、処置される被験体に導入することにより、遺伝子治療をすることができる。このような調節因子は、細胞又は特定の標的細胞で、構成的に継続的に産生させることもできるし、あるいは、誘導性とすることもできる。
具体的には、前記アンチセンス分子、又はsiRNA分子(例えば、配列番号5で表される塩基配列からなるセンス鎖と配列番号9で表される塩基配列からなるアンチセンス鎖とからなるsiRNA、配列番号6で表される塩基配列からなるセンス鎖と配列番号10で表される塩基配列からなるアンチセンス鎖とからなるsiRNA、又は配列番号8で表される塩基配列からなるセンス鎖と配列番号12で表される塩基配列からなるアンチセンス鎖とからなるsiRNA)を作製するための方法は、当該分野において周知である(J.Am.Chem.Soc.,103:3185−3191,1981)。
配列番号1、配列番号2、又は配列番号4で表される塩基配列に対するアンチセンス分子を含む組み換えDNAを作製する方法は、当該分野において周知であり(″Molecular Cloning−A Laboratory Manual″,Cold Spring Harbor Laboratory,NY,1989等)、好ましい組み換えDNAにおいて、配列番号1、配列番号2、又は配列番号4で表される塩基配列は、発現制御配列及び/又はベクター配列に作動可能に連結することができる。前記ベクターは、配列番号1、配列番号2、又は配列番号4で表される塩基配列を含む組み換えDNAの複製、あるいは、宿主染色体への挿入を少なくとも可能とし、遺伝子治療に用いることができる。
更に、本発明では、配列番号1、配列番号2、又は配列番号4で表される塩基配列に対するアンチセンスを含む組み換えDNAを外因的に導入した宿主細胞を提供し、これも遺伝子治療に用いることができる。宿主細胞は、任意のヒト細胞に限る。本発明の組み換えDNAでの適切な宿主細胞の形質転換は、周知の方法によって達成される。
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳述するが,本発明は実施例によって限定されるものではない。なお、特に断りがない場合は、公知の方法(例えば、″Molecular Cloning−A Laboratory Manual″,Cold Spring Harbor Laboratory,NY,1989等の遺伝子操作実験マニュアル)や試薬等に添付の指示書に従った。
実施例1:FBP、FBP−2、又はFBP−3に特異的なsiRNAの作製
FBPをコードする塩基配列の内、配列番号1で表される塩基配列からなるDNAに対応するsiRNAとして、配列番号5で表される塩基配列からなるセンス鎖と、配列番号9で表される塩基配列からなるアンチセンス鎖とからなる、FBP特異的なsiRNA(ダーマコンリサーチ社)を使用した。配列番号5で表される塩基配列からなるセンス鎖及び配列番号9で表される塩基配列からなるアンチセンス鎖は、それぞれ、第1番目〜第21番目の塩基からなるRNA部分の3’側に、dT(チミジン)が2つ付加されたRNA/DNAキメラポリヌクレオチドである。
同様に、FBP−2をコードする塩基配列の内、配列番号2で表される塩基配列からなるDNAに対応するsiRNAとして、配列番号6で表される塩基配列からなるセンス鎖と、配列番号10で表される塩基配列からなるアンチセンス鎖とからなる、FBP−2特異的なsiRNA(ダーマコンリサーチ社)を使用した。また、FBP−3をコードする塩基配列の内、配列番号3で表される塩基配列からなるDNAに対応するsiRNAとして、配列番号7で表される塩基配列からなるセンス鎖と、配列番号11で表される塩基配列からなるアンチセンス鎖とからなる、FBP−3特異的なsiRNA(ダーマコンリサーチ社)を使用した。配列番号6又は7で表される塩基配列からなるセンス鎖及び配列番号10又は11で表される塩基配列からなるアンチセンス鎖は、それぞれ、第1番目〜第21番目の塩基からなるRNA部分の3’側に、dTが2つ付加されたRNA/DNAキメラポリヌクレオチドである。
NCBIのBLASTサーチの結果、配列番号1、配列番号2、及び配列番号3で表される塩基配列は、それぞれ、FBP、FBP−2、及びFBP−3に特異的な配列であることが示された。
更に、FBPをコードする塩基配列と、FBP−2をコードする塩基配列とが相同な部分の内、配列番号4で表される塩基配列からなるDNAに対応するsiRNAとして、配列番号8で表される塩基配列からなるセンス鎖と、配列番号12で表される塩基配列からなるアンチセンス鎖とからなる、FBP及びFBP−2の両方に対するsiRNAを合成した。配列番号8で表される塩基配列からなるセンス鎖及び配列番号12で表される塩基配列からなるアンチセンス鎖は、それぞれ、第1番目〜第21番目の塩基からなるRNA部分の3’側に、dTが2つ付加されたRNA/DNAキメラポリヌクレオチドである。
NCBIのBLASTサーチの結果、配列番号4で表される塩基配列は、FBP及びFBP−2の両方に特異的な配列であることが示された。
非特異的なsiRNAの影響を検討する対照実験のために、哺乳類細胞に存在しない二本鎖RNAのコントロールsiRNA(Scramble Duplex;ダーマコンリサーチ社)を入手した。
実施例2:FBP、FBP−2、又はFBP−3特異的なsiRNAの癌細胞株への導入によるFBP、FBP−2、又はFBP−3特異的な発現抑制
アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)から入手したヒト子宮頚部癌由来細胞株HeLaS3及びヒト前立腺癌由来細胞株PC3を用いた。各癌細胞株は、10%熱不活化胎児ウシ血清(FBS;JRHバイオサイエンス社)を添加したダルベッコ修正イーグル最小必須培地(DMEM)に培養して維持した。
トランスフェクション実験は、以下の手順で実施した。
トランスフェクションの前日に、細胞培養用6穴プレート(イワキ)に、HeLaS3癌細胞株については、1穴当たり40000細胞を、PC3癌細胞株については、1穴当たり20000細胞を播いた。トランスフェクション当日に、血清無添加培地OPTI−MEM(インビトロジェン社)で細胞を洗浄した後、HeLaS3癌細胞株の場合は、1%熱不活化胎児ウシ血清を添加したOPTI−MEM800μLを加え、PC3細胞株の場合は、OPTI−MEM800μLを加えた。
実施例1で作製した各siRNAを、トランスフェクション試薬(オリゴフェクタミン;インビトロジェン社)を用いて、添付指示書に従い、前記状態の2種の癌細胞株に導入した。導入したsiRNAは、
FBP特異的なsiRNA単独、
FBP−2特異的なsiRNA単独、
FBP−3特異的なsiRNA単独、
FBP及びFBP−2の両方に特異的なsiRNA単独、
コントロールsiRNA単独、
FBP特異的なsiRNAとFBP−2特異的なsiRNAとの等量混合、
FBP特異的なsiRNAとFBP−3特異的なsiRNAとの等量混合、及びFBP−2特異的なsiRNAとFBP−3特異的なsiRNAとの等量混合であった。
導入から4時間経過後に、熱不活化胎児ウシ血清の最終濃度が10%となるようにDMEMを加えた。トランスフェクションは、各サンプルに対して独立に4穴を用いて行なった。
前記各siRNAを導入してから24、48、又は72時間経過後に細胞を回収した。回収した細胞に、細胞溶解用溶液[50mmoi/L−Tris(pH7.5),0.25mol/L−NaCl,10%グリセロール,1%トリトン(Triton)X−100,1mmol/L−EDTA,1mmol/L−EGTA,1mmol/L−PMSF(phenylmethylsulfonyl fluoride;シグマ社)]を加えて溶解し、エッペンドルフチューブ遠心機(トミー精工社)にて15000回転で15分間遠心した後の上清を回収した。
各siRNAの特異性及び効果を、各々のタンパク質レベルでの発現抑制で確認するために、各導入細胞ライゼートについて、FBP及びFBP−2を認識するヤギ抗体FBP(N−15;サンタクルズ社)、若しくはFBP−3を認識するヤギ抗体FBP3(1−20;サンタクルズ社)、又は非特異的な効果の検討を行なうための、アクチンを認識するウサギ抗体(アンチアクチン;シグマ社)を用いたウエスタンブロッティングで確認した。
具体的には、前記各ライゼートをSDS/10%アクリルアミドゲル(第一化学薬品社)で電気泳動(還元条件下)した後、ブロッティング装置を用いてPVDF[poly(vinylidene difluoride)]膜(ミリポア社)に転写した。FBP、FBP−2、及びFBP−3の分子量が近いため、FBP及びFBP−2検出用と、FBP−3及びアクチン検出用の2セットを作成した。そして、FBP−3及びアクチン検出用セットは、ブロッティング後、併行して流した分子量マーカをもとに、分子量45KDa〜116KDaの範囲でPVDF膜を切り出してFBP−3の検出に使用し、分子量45KDa以下の範囲でPVDF膜を切り出してアクチンの検出に使用した。
転写後のPVDF膜にブロッキング剤(ブロックエース;大日本製薬社)を添加してブロッキングした後、FBP及びFBP−2検出用PVDF膜をヤギ抗体FBP(N−15)と反応させ、次いで、西洋わさびパーオキシダーゼ標識抗ヤギ抗体と反応させた。同様に、FBP−3検出用PVDF膜をヤギ抗体FBP3(1−20)と反応させ、次いで、西洋わさびパーオキシダーゼ標識抗ヤギ抗体と反応させた。また、アクチン検出用PVDF膜をウサギ抗体(アンチアクチン)と反応させ、次いで、西洋わさびパーオキシダーゼ標識抗ウサギ抗体(アマシャムファルマシア社)と反応させた。
反応後、市販のウエスタンブロッティング検出システム(ECLウエスタンブロッティング検出システム;アマシャムファルマシア社)を用いて目的タンパク質の発現を確認した。
PC3癌細胞株に関する結果を図1に示す。図1において、
レーン1は、コントロールsiRNA単独の場合の結果であり;
レーン2は、FBP特異的なsiRNA単独の場合の結果であり;
レーン3は、FBP−2特異的なsiRNA単独の場合の結果であり;
レーン4は、FBP−3特異的なsiRNA単独の場合の結果であり;
レーン5は、FBP特異的なsiRNAとFBP−2特異的なsiRNAとの等量混合の場合の結果であり;
レーン6は、FBP特異的なsiRNAとFBP−3特異的なsiRNAとの等量混合の場合の結果であり;
レーン7は、FBP−2特異的なsiRNAとFBP−3特異的なsiRNAとの等量混合の場合の結果であり;
レーン8は、FBP及びFBP−2の両方に特異的なsiRNA単独の場合の結果である。また、(a)は導入後24時間、(b)は導入後48時間、(c)は導入後72時間後の結果を示す。
図1に示すように、FBP特異的なsiRNA(配列番号5で表される塩基配列からなるセンス鎖と、配列番号9で表される塩基配列からなるアンチセンス鎖との組合せ;レーン2)、FBP−2特異的なsiRNA(配列番号6で表される塩基配列からなるセンス鎖と、配列番号10で表される塩基配列からなるアンチセンス鎖との組合せ;レーン3)、又はFBP−3特異的なsiRNA(配列番号7で表される塩基配列からなるセンス鎖と、配列番号11で表される塩基配列からなるアンチセンス鎖との組合せ;レーン4)は、それぞれ、特異的にFBP、FBP−2、又はFBP−3の発現を抑制した。
また、FBP特異的なsiRNAとFBP−2特異的なsiRNAとの等量混合(レーン5)、FBP特異的なsiRNAとFBP−3特異的なsiRNAとの等量混合(レーン6)、又はFBP−2特異的なsiRNAとFBP−3特異的なsiRNAとの等量混合(レーン7)は、それぞれ、FBP及びFBP−2、FBP及びFBP−3、又はFBP−2及びFBP−3の発現を抑制した。
更に、FBP及びFBP−2の両方に特異的なsiRNA(レーン8)は、FBP及びFBP−2の発現を抑制した。
これらのタンパク質の発現抑制は、48時間後及び72時間後に顕著に認められた。一方、コントロールsiRNA(Scramble Duplex;レーン1)の導入によっては、FBP、FBP−2、FBP−3、及びアクチンの各タンパク質の発現は抑制されなかった。これらの結果より、前記各siRNAの特異性と効果が確認された。
実施例3:FBP及びFBP−2の同時発現抑制による細胞死誘導
実施例2で行なったsiRNA導入実験において、導入から24時間、48時間、72時間、及び96時間経過後に、それぞれ、独立の3穴から細胞を回収し、トリパンブルー染色によって生細胞数を計測した。siRNA導入時の細胞数は、HeLaS3癌細胞株では80000個、PC3癌細胞株では50000個であった。
PC3癌細胞株に関する結果を図2に、HeLaS3癌細胞株に関する結果を図3に示す。図2及び図3において、
記号「S」は、コントロールsiRNA単独の場合の結果であり;
記号「F1」は、FBP特異的なsiRNA単独の場合の結果であり;
記号「F2」は、FBP−2特異的なsiRNA単独の場合の結果であり;
記号「F3」は、FBP−3特異的なsiRNA単独の場合の結果であり;
記号「F1+F2」は、FBP特異的なsiRNAとFBP−2特異的なsiRNAとの等量混合の場合の結果であり;
記号「F1+F3」は、FBP特異的なsiRNAとFBP−3特異的なsiRNAとの等量混合の場合の結果であり;
記号「F2+F3」は、FBP特異的なsiRNA−2とFBP−3特異的なsiRNAとの等量混合の場合の結果であり;
記号「F1F2」は、FBP及びFBP−2の両方に特異的なsiRNA単独の場合の結果である。
FBP、FBP−2、若しくはFBP−3特異的なsiRNA単独による、FBP、FBP−2、若しくはFBP−3単独の発現抑制、又はFBP特異的なsiRNAとFBP−3特異的なsiRNAの等量混合、若しくはFBP−2特異的なsiRNAとFBP−3特異的なsiRNAの等量混合の導入による、FBPとFBP−3の同時発現抑制、若しくはFBP−2とFBP−3の同時発現抑制した細胞は、それぞれ、コントロールsiRNAを導入した細胞と同じく、経時的に細胞数を増加させた。
一方、FBPとFBP−2両者に対するsiRNA単独、又はFBP特異的なsiRNAとFBP−2特異的なsiRNAの等量混合を導入した細胞では、導入から48時間経過後までは、他のsiRNAを導入した細胞と同様に細胞数を増加させたが、導入から72時間及び96時間経過後では、細胞数を減少させた。細胞数が減少することは、細胞死が誘導されたことを意味する。実施例2で示したように、これらの導入細胞では、導入から48時間経過後からFBPとFBP−2の同時抑制が認められたことから、FBPとFBP−2の同時発現抑制が細胞死を誘導することが確認された。
【産業上の利用可能性】
本発明のスクリーニング方法によれば、増殖性疾患(例えば、癌)の治療薬として有用な物質を得ることができる。本発明のスクリーニング方法で得られた物質は、FBP及びFBP−2を同時に発現抑制することにより細胞死を誘導するという全く新たな作用機序に基づく増殖性疾患治療剤として有用である。また、FBPを抑制する物質とFBP−2を抑制する物質を併用することによっても、細胞死を誘導するという作用機序に基づく増殖性疾患治療が可能となる。
また、本発明のsiRNAは、本発明の増殖性疾患治療用医薬組成物の有効成分として有用である。
【配列表フリーテキスト】
配列番号5〜8の配列で表される各塩基配列は、人工的に合成したsiRNAのセンス鎖であり、第1番目〜第21番目はRNAであり、第22番目〜第23番目はDNAである。
配列番号9〜12の配列で表される各塩基配列は、人工的に合成したsiRNAのアンチセンス鎖であり、第1番目〜第21番目はRNAであり、第22番目〜第23番目はDNAである。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。
【配列表】








【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
FBPを抑制するか否かを分析する工程、及び、FBP−2を抑制するか否かを分析する工程を含む、増殖性疾患治療薬として有用な物質のスクリーニング方法。
【請求項2】
抑制が発現抑制である、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
増殖性疾患が癌である、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
請求項1に記載の分析工程、及び製剤化工程を含む、増殖性疾患治療用医薬組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のスクリーニング方法で得ることができる物質を有効成分とする、増殖性疾患治療用医薬組成物。
【請求項6】
FBPを抑制する物質及びFBP−2を抑制する物質、又は、FBP及びFBP−2を抑制する物質を有効成分とする、増殖性疾患治療用医薬組成物。
【請求項7】
FBPを抑制する物質及びFBP−2を抑制する物質、又は、FBP及びFBP−2を抑制する物質を投与することを含む、増殖性疾患治療方法。
【請求項8】
FBPを抑制する物質及びFBP−2を抑制する物質、又は、FBP及びFBP−2を抑制する物質の、増殖性疾患治療用医薬組成物製造のための使用。
【請求項9】
FBP及び/又はFBP−2のDNA塩基配列のAAに続く19〜21塩基からなる、FBP及び/又はFBP−2に特異的な塩基配列に基づいて設計されるsiRNA。
【請求項10】
(1)二重鎖RNA部分が、配列番号13で表される塩基配列、又はそのセンス鎖の3’末端が1若しくは2塩基欠失した塩基配列からなるsiRNA;
(2)二重鎖RNA部分が、配列番号14で表される塩基配列、又はそのセンス鎖の3’末端が1若しくは2塩基欠失した塩基配列からなるsiRNA;あるいは
(3)二重鎖RNA部分が、配列番号15で表される塩基配列、又はそのセンス鎖の3’末端が1若しくは2塩基欠失した塩基配列からなるsiRNA。
【請求項11】
請求項9又は10に記載のsiRNAを有効成分とする、増殖性疾患治療用医薬組成物。

【国際公開番号】WO2004/027061
【国際公開日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【発行日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−537569(P2004−537569)
【国際出願番号】PCT/JP2003/011765
【国際出願日】平成15年9月16日(2003.9.16)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【出願人】(899000013)財団法人理工学振興会 (81)
【Fターム(参考)】