説明

抗微生物ヘキサペプチド

【解決手段】本発明は、一般式XBXBOBで表され、2位、4位及び6位に疎水性残基(B)、1位及び3位に親水性荷電残基(X)、5位にナフチルアラニン(NaI)、脂肪族又は芳香族の残基(O)を有し、様々な病原体によって引き起こされる感染に対して抗微生物活性を有するヘキサペプチドを包含するものである。これらの病原体には、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌、ミコバクテリア等の抗酸性細菌、寄生虫、皮膚糸状菌、真菌病原体が含まれる。典型的な真菌病原体はカンジダ菌であり、典型的な皮膚糸状菌はトリコフィトン・ルブルム及びトリコフィトン・メンタグロフィテスである。本発明のヘキサペプチドは、抗真菌活性、抗細菌活性、所望の安定性を有し、哺乳類に施しても毒性はない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国仮出願第60/651,270号(2005年2月9日出願)の優先権を主張し、引用を以てその全体の内容を本願への記載加入とする。
【0002】
<発明の分野>
本発明は、望ましい生物学的特性を有する抗微生物ヘキサペプチドを含む組成物及び方法に関する。より具体的には、ヘキサペプチドは望ましい抗真菌活性及び選択的に抗細菌活性を有する。具体的には、本発明のヘキサペプチドは、1位及び3位に電荷(親水性)残基を有し、2位、4位及び6位に疎水性残基を有し、5位にナフチルアラニン、脂肪族(例えば、プロリン)又は芳香族(フェニルアラニン)残基を有しており、一般的には式XBXBOBによって表される。これらペプチドのうちの幾つかのN末端に脂質部を加えることにより、特に血清では、活性のさらなる向上が達成されることができる。また、C末端でのアミド化は、活性を増大させると考えられる。
【背景技術】
【0003】
<関連技術の説明>
研究者達が、抗微生物治療及び抗微生物製剤の開発を始めてから、もう何十年にもなる。最近では、益々増加する薬剤耐性の細菌感染、ウイルス感染及び真菌感染を治療するための新規な抗微生物製剤が必要とされている。
【0004】
様々な生物活性ペプチドが、科学文献及び特許文献に報告されている。ペプチドは、従来、天然源から単離されていたが、最近では、構造機能関係研究の主題となっている。また、天然ペプチドは、合成ペプチドアナログの設計の開始点として供されている。
【0005】
ペプチド抗生物質に関する研究が発表されている[R.E.W. Hancock in 1997 (Lancet 349: 418-422)]。ここでは、様々なクラスのペプチドについて、構造、機能及び臨床応用が報告されている。カチオニックペプチド抗生物質に関する更なる研究が、1998年に発表されている[Hancock, R.E.W. and Lehrer, R. Trends Biotechnol. 16: 82-88)]。ペプチドは典型的には、12〜45アミノ酸長さの陽イオン性の両親媒性分子である。ペプチドは細胞膜を透過することができるので、微生物製剤の制御が可能である。カチオニックペプチドの宿主防御の臨床能力に関する検討報告がある[R.E.W. Hancock in 1999 (Drugs 57(4): 469-473;Antimicrobial Agents and Chemotherapy 43(6): 1317-1323)]。ここでは、ペプチドのクラスについて、抗細菌、抗真菌、抗ウィルス、抗ガン及び傷の治癒特性が報告されている。
【0006】
螺旋状の抗微生物ペプチドについて、その構造的特徴及び作用の推定メカニズムの研究が発表されている[例えば、Dathe, M. and Wieprecht, T. Biochimica et Biophysica Acta 1462: 71-87 (1999); Epand, R.M. and Vogel H.J. Biochimica et Biophysica Acta 1462: 11-28 (1999)を参照]。作用及び選択性を調節出来ると考えられている構造パラメータには、螺旋構造、疎水性モーメント、疎水性、親水性/疎水性ヘリックス表面によって定められる角度、及び電荷が挙げられる。
【0007】
天然産αヘリックスペプチドの広範なアレイについて、これまで多くの報告がある。この分野で数多くの参照文献のうちの代表的な幾つかの文献を、この明細書の中で説明する。セクロピン(Cecropins)は、昆虫から単離されたαヘリックスペプチドの一種である。セクロピンは、米国特許第4,355,104号及び4,520,016号に記載されているように、抗細菌性を有することが知られている。セクロピンは、一般的には、特定のグラム陰性バクテリアに活性を有することが見出された。セクロピンは、真核細胞には活性を有しないことが見出された[Andreu, et al., Biochemistry 24: 163-188 (1985); Boman, et al., Developmental and Comparative Immunol. 9: 551-558 (1985); Steiner et al.,Nature 292: 246-248 (1981)]。ショウジョウバエ(Drosophila)とヒアルフォラ(Hyalphora)のセクロピンは、様々な菌株に活性を有することが示された[Ekengren, S. and Hultmark, D., Insect Biochem. and Molec. Biol. 29: 965-972 (1999)]。Aedes aegypti蚊のセクロピンAは、トリプロファンとC末端アミド化を欠いている点で、大部分の昆虫セクロピンとは異なることが報告されている[Lowenberger, C. et al., J. Biol. Chem. 274(29): 20092-20097 (1999)]
【0008】
ラナ属カエルは、皮膚に抗微生物ペプチドの広範なアレイを産生する。長さの短い13アミノ酸について、構造のグループ分けに関する報告がある。ラナ属カエルから単離したペプチドと、他の属のカエルから単離したペプチド(例えば、マガイニン、ダーマセプチン(dermaseptin))とは、配列の類似性は殆どないか又は全くなかった。マガイニンはアフリカンフロッグ(Xenopus laevis)の皮膚から単離されたαヘリックス23アミノ酸ペプチドである[(Zasloff, M. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84: 5449-5453 (1987)]。
【0009】
米国特許5962410号は、真核生物病原体の阻害、溶解ペプチド(セクロピン、サルコトキシン(Sarcotoxin)等)によるリンパ球及び線維芽細胞の刺激について開示している。この特許公報には様々なペプチドが開示されており、それには、セクロピンB、セクロピンSB-37、セクロピンA、セクロピンD、Shiva-1、レピドプテラン(Lepidopteran)、サルコトキシン1A、サルコトキシン1B、サルコトキシン1Cなどが含まれる。
【0010】
Shiva-1セクロピンクラス溶解ペプチドを産生するトランスジェニックマウスに関する報告がある[W.A. et al., Transgenic Res. 6: 337-347 (1997).]。ブルセラアボルタス(Brucella abortus)の攻撃によって感染したトランスジェニックマウスは、非トランスジェニックマウスの感染と比べて、細菌数は減少した。
【0011】
23〜38アミノ酸からなるCathelin関連αヘリックスペプチドは、羊、ヒト、畜牛、豚、ネズミ及びウサギの血液細胞の中から発見されている[Zanetti, M. et al., FEBS Lett. 374: 1-5 (1995)]。
【0012】
ブフォリンII、セクロピンP1、インドリシジン、マガイニンII、ニシン(nisin)、ラナレキシン(ranalexin)の抗微生物活性に関する報告がある[Giacomette, A.et al.(Peptides 20: 1265-1273 (1999))]。細菌及び酵母に対するペプチドの様々な活性が示されている。
【0013】
様々な合成ペプチドが調製され、インビトロとインビボの両方でアッセイが行われた。例えば、米国特許第5861478号に開示された合成溶菌ペプチドは、約20〜40アミノ酸からなり、α螺旋形態である。このペプチドは、微生物感染、傷及び癌の治療に有効である。開示されたペプチドには、セクロピンB, SB-37*, LSB-37, SB-37, Shiva 1及び10-12, βフィブリン信号ペプチド, Manitou 1-2, Hecate 1-3, Anubis 1-5及び8, 並びに、Vishnu 1-3及び8が挙げられている。
【0014】
ヘカテ(Hecate)は、メリチン(melittin)の合成ペプチドアナログとして記載されている[Baghian, A. et al. (Peptides 18(2): 177-183 (1997)]。ペプチドは、両親媒性α螺旋形態ではなく、電荷分布が異なる。ヘカテは、単純ヘルペスウイルス(HSV-1)を阻害したが、細胞増殖及び蛋白合成に悪影響はなかった。
【0015】
合成ペプチドD2A21, D4E1, D2A22, D5C, D5C1, D4E及びD4に関して記載されている[Schwab, U. et al., Antimicrob. Agents and Chemotherapy 43(6): 1435-1440 (1999)]。様々な細菌株に対する活性が記載されている。
【0016】
セクロピン及びメリチンペプチドから作られたハイブリッドペプチドが調製され、アッセイが行われた[J. Peptide Res. 53: 244-251 (1999)]。合成されたハイブリッドについて、配列、アミド結合の方向(ヘリックス双極子)、電荷、両親媒性及び疎水性が、チャネル形成能力及び抗細菌活性に及ぼす効果が調べられた。配列及びアミド結合方向が、ハイブリッドの活性に対して重要な構造的要件であることが示唆されている。
【0017】
耐塩性に関する研究において、26アミノ酸の昆虫セクロピン−蜂メリチンのハイブリッド及びそのアナログが記載されている[Friedrich, C. et al., Antimicrobial Agents and Chemotherapy 43(7): 1542-1548 (1999)]。第2の位置のトリプトファン残基が、活性に重要であることが明らかにされた。配列の適度な変化が、ペプチドの特性の実質的な変化に到ることが見出された。
【0018】
αヘリックスペプチドの抗細菌特性に対するプロリン残基の影響に関する発表がある[Zhang, L. et al., Biochem. 38: 8102-8111 (1999)]。プロリンの添加は、膜挿入特性を変化させることが報告されており、プロリンを一つ置換すれば、抗細菌性ペプチドが溶解毒素に変化する可能性がある。
【0019】
18〜30アミノ酸を有する一連のペプチドが調製され、配列及び電荷の変化が抗細菌特性に及ぼす影響が調べられた[Scott, M.G., et al., Infect. Immun. 67(4): 2005-2009 (1999)]。長さ、電荷又は疎水性と、ペプチドの抗細菌活性との間に、有意な相関は認められなかった。一般的な傾向としては、短いペプチドの方が、長いペプチドよりも活性が小さかったが、これは、配列に依存するものと考えられている。
【0020】
合成ペプチドのグループに含まれる“モデリンス(Modellins)”が調製され、配列と構造の関係を比較するアッセイが行われた[Bessalle, R. et al. J. Med. Chem. 36: 1203-1209 (1993)]。疎水性と親水性の相対する面を有する16アミノ酸及び17アミノ酸のペプチドは、溶血性及び抗細菌性が高い。また、ペプチドが小さいほど、生物学的活性は低くなる傾向にある。
【0021】
セクロピン−メリチンのハイブリッドペプチド及びアミド化されたヒラメ(flounder)ペプチドは、サーモンを、インビボでのビブリオアングイラルム(Vibrio anguillarum)感染から保護することがわかった[Jia, X. et al., Appl. Environ. Microbiol. 66(5): 1928-1932 (2000)]。どちらかのペプチドを魚に連続投与するために、浸透圧ポンプが用いられた。
【0022】
両親媒性ペプチドは、創傷治癒を向上させることができ、インビボで線維芽細胞及びケラチノサイト増殖を刺激できることが報告されている[U.S. Patent Nos. 6,001,805 and 5,561,107]。溶解ペプチドをユビキチン融合蛋白質として発現するトランスジェニック植物が製造されたことが報告されている[U.S. Patent No. 6,084,156]。改良された蛋白質分解抵抗性を有するメチル化リシン富化溶解ペプチドが製造されたことが報告されている[U.S. Patent No. 5,717,064]。
【0023】
譲受人であるヘリックスバイオメディックス,インコーポレイテッドは、溶解ペプチド及びそれらの使用が開示された幾つかの特許及び特許公報の所有者である。米国特許第6440935号には、少なくとも一部にアルファヘリックス形態で配列された30〜40アミノ酸を有するペプチドについて、刺激的及び増殖的使用が記載されている。米国特許第6303568号には、真菌又はグラム陰性細菌に感染した動物の治療方法が記載されている。治療は、セクロピンC−37などのペプチドの投与によって行われる。米国特許第6255282号には、様々なペプチドの投与によって微生物を殺す方法が記載されている。ペプチドはそれらの立体配座及び配列の特性により規定される。公開された米国特許出願第20020025918号には、同様なペプチドの植物における使用が記載されている。公開された米国特許出願第20030109452号及び第20030083243号には、短い生物活性“FLAK”ペプチド及びその使用方法が記載されている。
【0024】
短いペプチドが含まれる美容用組成物(cosmetic compositions)について記載した様々な特許がある。例えば、米国特許第6492326号には、ペンタペプチド及びスキンケア活性成分を含むスキンケア組成物の調製及び使用が記載されている。
【0025】
短い抗細菌性ペプチドについて、化学修飾を含む非常に短いペプチド(ダイマー及びトリマー)に主として焦点を当てて記載された文献がある[Strom et al. 2003 (Journal of Medicinal Chemistry 46: 1567-1570)]。特定のヘキサペプチドについても記載されている。しかしながら、これらヘキサペプチドの抗微生物作用、特にあらゆる抗真菌活性については、試験又は検討が全く行われていない。
【0026】
合成ペプチドコンビナトリアルライブラリーのスクリーニングにより、植物病原性真菌作物病原体に対して活性を有するヘ抗真菌性キサペプチドを同定することについて記載された文献がある[Lopez Garcia et al. (Int. Journal of Food Microbiol. 89: 163-170 (2003) and Applied and Environ. Microbiol. 68: 2453-2460, (2002)]。これらの抗真菌ペプチドは、RKT又はRKKのモチーフを、最初の3つの残基として含んでいる。しかしながら、臨床的に重要な病原体(真菌類病原体を含む)に対する抗微生物活性に関する試験又は検討については全く記載されていない。同様に、ヘキサペプチドの安定性又は毒性については、全く検討されていない。
【0027】
それゆえ、数多くの微生物(グラム陰性細菌、グラム陽性細菌、原生動物、ウイルス等を含む)、特に菌類などの真核生物病原体を含む多くの微生物に対して広範な抗微生物活性能力を有するペプチドの開発が要請されている。真菌類病原体は真核生物であり、原核生物細菌に対するよりもヒト宿主の方により類似しているので、これまでは、毒性を欠く真核生物病原体に対して効果的な治療の開発は困難であった。これは、抗真菌ペプチドの開発についても同様である。
【0028】
さらに、抗真菌性ペプチドは比較的長い(>15アミノ酸)ため、毒性に関係があり、プロテアーゼ感受性が高く、組織透過性が低く、費用が高い。また、抗微生物ペプチドは、局所使用の優れた薬剤候補であるが、これまで、全身投与に伴う体循環には適合してない。
【発明の開示】
【0029】
<発明の要旨>
本発明は、ヘキサペプチド構造が式XBXBOBで表され、1位及び3位に親水性荷電残基(X)、2位、4位及び6位に疎水性残基(B)、並びに、5位にナフチルアラニン、脂肪族又は芳香族残基(O)を有する抗微生物ヘキサペプチドを提供するものである。
【0030】
幾つかの実施例において、ヘキサペプチドを構成するアミノ酸は、Xはアルギニン(R)及びリジン(K)からなる群から選択され、Bはフェニルアラニン(F)及びトリプトファン(W)からなる群から選択され、Oはナフチルアラニン(Nal)、プロリン(P)及びフェニルアラニン(F)からなる群から選択される。
【0031】
他の実施例において、ヘキサペプチドは、KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:1)、KWRWPW-NH2 (SEQ ID NO:2)、KWKWFW-NH2 (SEQ ID NO:3)、RWRWPW-NH2 (SEQ ID NO:4)、KFKWFW-NH2 (SEQ ID NO:6)、RFKWFW-NH2 (SEQ ID NO:7)、OCT-KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:55)、OCT-KWKWFW-NH2 (SEQ ID NO:56)、KWKWUW-NH2 (SEQ ID NO:62)、及びKWKWZW- NH2 (SEQ ID NO:63)からなる群から選択されることができる
【0032】
幾つかの実施例において、ヘキサペプチドはSEQ ID NO:1である。
【0033】
他の実施例において、ヘキサペプチドは修飾されている(modified)。これらの修飾には脂質化又はアミド化が含まれる。
【0034】
他の実施例において、ヘキサペプチドは脂質化され、脂質はヘプタン酸、ノナン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、ウンデカン酸、トリデカン酸又はオクタン酸からなる群から選択される。
【0035】
さらに他の実施例において、ヘキサペプチドは、Hep-KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:69)、Non- KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:70)、Lau- KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:72)、Myr- KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:77)、Pen- KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:78)、Und- KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:79)、Tri-KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:80)、Oct-kfkwpw-NH2 (SEQ ID NO:81)、Lau-kfkwpw-NH2 (SEQ ID NO:83)、及びOct-KFKWPw-NH2 (SEQ ID NO:84)からなる群から選択される。
【0036】
さらに他の実施例おいて、ヘキサペプチドは水溶液に可溶である。
【0037】
幾つかの実施例において、ヘキサペプチドは、組成物中に、医薬的に許容されるキャリア(担体)と共に存在する。幾つかの実施例において、ヘキサペプチドは、組成物の中に治療上有効な濃度で存在する。この治療上有効な濃度は、約0.0002%〜約90%の範囲であってよい。他の実施例において、治療上有効な濃度は、約0.5%〜約10%の範囲である。
【0038】
幾つかの実施例において、この組成物は更に皮下送達システムをさらに含んでいる。他の実施例において、送達システムは局所送達システムであってよい。局所送達システムは、化粧品、パウダー、エマルジョン、ローション、スプレー、軟膏、エアロゾル、クリーム及びフォームからなる群から選択されるあらゆる形態であってよい。
【0039】
他の実施例において、哺乳類の真菌感染又は細菌感染の治療又は予防を行なうのに、治療上有効な量のヘキサペプチドが用いられる。
【0040】
本発明は、哺乳類の組織の治療に有用な組成物を提供するもので、該組成物は、ヘキサペプチド構造が式XBXBOBで表され、1位及び3位に荷電残基、2位、4位及び6位に疎水性残基、並びに、5位にナフチルアラニン、脂肪族又は芳香族残基を有するヘキサペプチドを含んでいる。
【0041】
さらに他の実施例において、本発明は微生物感染の治療に有用な組成物を提供するもので、該組成物は、KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:1)、KWRWPW-NH2 (SEQ ID NO:2)、KWKWFW-NH2 (SEQ ID NO:3)、RWRWPW-NH2 (SEQ ID NO:4)、KFKWFW-NH2 (SEQ ID NO:6)、RFKWFW-NH2 (SEQ ID NO:7)、OCT-KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:55)、OCT-KWKWFW-NH2 (SEQ ID NO:56)、KWKWUW-NH2 (SEQ ID NO:62)、KWKWZW- NH2 (SEQ ID NO:63)、Hep-KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:69)、Non- KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:70)、Lau- KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:72)、Myr- KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:77)、Pen- KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:78)、Und- KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:79)、Tri-KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:80)、Oct-kfkwpw-NH2 (SEQ ID NO:81)、Lau-kfkwpw-NH2 (SEQ ID NO:83)、及びOct-KFKWPw-NH2 (SEQ ID NO:84)からなる群から選択されるヘキサペプチドを含んでいる。この組成物は薬剤送達システムをさらに含むことができる。
【0042】
本発明はまた、哺乳類の微生物感染を治療又は予防する方法を提供するもので、該方法は、本発明のヘキサペプチドの少なくとも1つを治療上有効な濃度で投与することを含んでいる。幾つかの実施例において、ヘキサペプチドは、KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:1)、KWRWPW-NH2 (SEQ ID NO:2)、KWKWFW-NH2 (SEQ ID NO:3)、RWRWPW-NH2 (SEQ ID NO:4)、KFKWFW-NH2 (SEQ ID NO:6)、RFKWFW-NH2 (SEQ ID NO:7)、OCT-KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:55)、OCT-KWKWFW-NH2 (SEQ ID NO:56)、KWKWUW-NH2 (SEQ ID NO:62)、KWKWZW- NH2 (SEQ ID NO:63)、Hep-KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:69)、Non- KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:70)、Lau- KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:72)、Myr- KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:77)、Pen- KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:78)、Und- KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:79)、Tri-KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:80)、Oct-kfkwpw-NH2 (SEQ ID NO:81)、Lau-kfkwpw-NH2 (SEQ ID NO:83)、及びOct-KFKWPw-NH2 (SEQ ID NO:84)からなる群から選択される。
【0043】
これらの方法は、真菌感染の微生物感染に対して有用である。これらの方法はまた、微生物感染が、真菌感染と細菌感染の混合感染の場合にも有用である。本発明の方法は、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、紅色白癬菌(トリコフィトン・ルブルム)及び毛瘡白癬菌(トリコフィトン・メンタグロフィテス)からなる群から選択される真菌によって引き起こされる真菌感染に対して特に有用である。本発明はまた、緑膿菌(P.aeuroginosa)、大腸菌(E.coli)及び黄色ブドウ球菌(S.aureus)からなる群から選択される細菌によって引き起こされる細菌感染に対しても有用である。
【0044】
さらに他の実施例において、本発明は、真菌細胞の増殖を阻害する方法を提供するもので、真菌細胞を、本発明のヘキサペプチドの少なくとも1つと接触させることにより、真菌細胞の増殖が阻害されるようにしたものである。幾つかの実施例において、真菌細胞は、Mycosphaerella brassicicola、Pyrenopeziza brassicae、Peronospora destructor及びBotrytis squamosaからなる群から選択される植物病原菌である。
【0045】
さらなる実施例において、本発明は哺乳類の微生物感染を防止する方法を提供するもので、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:55、SEQ ID NO:56、SEQ ID NO:62、SEQ ID NO:63、SEQ ID NO:69、SEQ ID NO:70、SEQ ID NO:72、SEQ ID NO:77、SEQ ID NO:78、SEQ ID NO:79、SEQ ID NO:80、SEQ ID NO:81、SEQ ID NO:83及びSEQ ID NO:84からなる群から選択されるヘキサペプチドを、治療上有効な濃度を投与することを含んでいる。
【0046】
さらに他の実施例において、本発明は、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:55、SEQ ID NO:56、SEQ ID NO:62、SEQ ID NO:63、SEQ ID NO:69、SEQ ID NO:70、SEQ ID NO:72、SEQ ID NO:77、SEQ ID NO:78、SEQ ID NO:79、SEQ ID NO:80、SEQ ID NO:81、SEQ ID NO:83及びSEQ ID NO:84からなる群から選択されるヘキサペプチドを含む薬剤組成物を提供するものである。
【0047】
添付の図面は、本願明細書の一部を構成し、本発明の幾つかの態様をさらに示すために含められる。本発明は、これら図面の1又は複数の図及び以下の具体的実施例の詳細な記述を参照することにより、より良く理解されるであろう。
【0048】
<配列表の説明>
以下のアミノ酸配列表は、本願明細書の一部を構成し、本発明の幾つかの態様をさらに示すために含められる。本発明は、これら配列のうちの1又は複数の配列図及び以下の具体的実施例の詳細な記述を参照することにより、より良く理解されるであろう。
【0049】
【表1−1】

【表1−2】

【0050】
<アミノ酸の特徴を表す項目(feature key)>
OCTは、標準のペプチド化学を用い、アミド結合によるペプチドへのオクタン酸の付加を示す。COOHは、C−末端がアミド化されていないことを示す。Jは、フッ素化フェニルアラニンの記号である。Uは、1−Nal−OHを意味し、Zは、2−Nal−OHを意味し、ここで、Nalは、ナフチルアラニンであり、非天然アミノ酸は、フェニルアラニン及びアラニンのアナログである。上記の脂質は、OCTに対して同様に結合されており、省略文字の意味は次の通りである:myr=ミリスチン酸、und=ウンデカン酸、pen=ペンタデカン酸、pal=パルミチン酸、ste=ステアリン酸、lau=ラウリン酸、tri=トリデカン酸、cap=カプロン酸、ole=オレイン酸、non=ノナン酸、hep=ヘプタン酸、aca=8−アミノカプリル酸、deca=デカン酸である。アミノ酸の小文字はD型残基を表す。
【0051】
本発明は、以下の詳細な説明によって、より完全に理解されるであろう。本発明は、一般的には、所望の生物学的特性を示す抗微生物ヘキサペプチドを含む組成物及び方法に関する。
【0052】
本発明は、広範な抗微生物病原菌に対して抗微生物活性を有するヘキサペプチドに関する。これらの病原菌には、グラム陽性細菌又はグラム陰性細菌、ミコバクテリアのような抗酸性細菌、寄生虫、皮膚糸状菌又は真菌病原体が含まれる。典型的な真菌病原体はカンジダ・アルビカンスであり、典型的な皮膚糸状菌は、トリコフィトン・ルブルム及びトリコフィトン・メンタグロフィテスである。
【0053】
このようなヘキサペプチドの例として、SEQ ID NO:1 (PO666)があり、これは全身毒性がないという驚くべき利点を有しており、プロテアーゼ分解に対する感受性を低下させ、感染組織領域への浸透能力を向上させる他、製造コスト効果も大きい。
【0054】
「皮膚糸状菌(dermatophytes)」という語は、特定の真菌を意味するのではなく、むしろ人や動物に皮膚病の一般的な原因となる3属の真菌からなるグループに対する省略語と一般的に用いられる語を意味する。これらには、表皮菌(Epidermophyton)、白癬菌(Trichophyton)、小胞子菌(Microsporum)の3種がある。
【0055】
薬剤の処方や投与の方法の詳細は、Remington's Pharmaceutical Sciences (Mack Publishing Co, Easton Pa.)の最新版に掲載されている。局所薬は局所送達が望ましいが、他の送達手段として、例えば、経口、非経口、エアロゾール、筋内、皮下、経皮、髄内、髄腔内、心室内、静脈内、腹腔内、経鼻投与などもある。本発明は、数多くのキャリア媒体の中に調製されることができる。そのキャリア媒体として、例えば、スプレー、エアロゾール、水性及び油性タイプのエマルジョン、フェイスクリーム又はボディクリーム、サンローション又はアフターサンローション、その他の局所的投与媒体がある。
【0056】
この明細書で用いられる「治療上の(therapeutic)」という語は、患者の望ましくない状態や病気を、治療、改善又は予防するために薬剤を用いることを意味する。本発明で治療される状態は、通常、ヒト等の哺乳類に影響を及ぼす様々な真菌による病気を含んでおり、例えば、典型的にはカンジダ・アルビカンスによって引き起こされるイースト感染症や、典型的にはトリコフィトン・ルブルム及びトリコフィトン・メンタグロフィテスによって引き起こされる水虫などの皮膚感染症がある。さらに、本発明のヘキサペプチド及びそれらを含む組成物は、一般的なスキンケア及び化粧品調製物(例えば、種々の肌化粧品、スキンクリーム、ローション、日焼け止め、抗ニキビ剤など)に含まれると、有効な特性を発揮する。
【0057】
I.ペプチドの合成
全てのヘキサペプチドの合成は、標準のFmoc(9−フルオレニルメトキシカルボニル)を使用し、Advanced ChemTech社のApex 396マルチペプチド合成装置で行なった。Apex 396には、0.15mmolのスケールで最大40ペプチドを同時に生成するために、40ウエルの反応ブロックが設けられている。ペプチドは、標準アミノ酸を使用し、アミド化配列又は遊離酸配列のどちらかの配列として調製されることができる。レジンは、最初に洗浄し、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)で予め膨潤した(pre-swelled)。膨潤時間は、Rinkアミド又はWangレジンの場合で3分〜1時間である。Fmoc保護基の除去は、25%ピペリジンを含むDMF中で25分間かけて行なった。次にレジンを十分に洗浄して、微量のピペリジンを除去した。Fmocアミノ酸モノマーは、HOAt又はHOBtの等モルDMF溶液中で、予め活性化させた。溶液の濃度は、0.5Mであった。ヒンダード塩基(hindered base)(ジイソプロピルエチルアミン)を用いた塩基条件下で、活性剤としてのHATU PyBop又はHBTUと、2.5〜5倍モル量のアミノ酸を使用して、アミド結合を行なわせた。1〜1.5時間の結合の後、洗浄を行ない、再結合させて、二重又は三重結合を行なった後、成長ペプチド鎖の脱保護及び継続を行なった。結合効率は、標準カイザーテスト(standard Kaiser test)を使って監視した。レジンでのペプチド合成が一旦完了すると、前述の如く、最終Fmoc保護基が取り除かれ、残された配列は遊離塩基であった。上述の如く標準のペプチド化学反応を使用して、脂質を、有機酸としてN末端又は側鎖アミンに結合させた。
【0058】
酸に不安定なリンカーからのペプチドの開裂(cleavage)は、95%トリフルオロ酢酸(TFA)及び水に適当なスカベンジャーを加えて行なった。開裂時間は、30分〜1時間である。開裂されたペプチドはすぐに開裂ブロックから除去し、TFA除去のためにチューブへ移送した。TFAは減圧下で除去される。これにより、ペプチドは、逆相C−18カラム及びマススペクトロメトリーを用いたHPLCによる精製及び分析が可能な状態にある。主な配列確認及び予備精製は、LC/MS/MSシステム(ABI API2000)を用いて行なった。
【0059】
本発明のヘキサペプチドは、様々なアミノ酸前駆物質を使って構築されることができる。ペプチドは、D−、L−又は環状(非ラセミ酸)のアミノ酸だけを含む均質な組成物であってよい。そのようなアミノ酸(本願明細書で用いられるこの語は、イミノ酸を含むものとする)の化学構造は、立体異性体であるにも拘わらず、19又は20の天然由来のアミノ酸、つまり、アラニン(Ala;A)、アルギニン(Arg;R)、アスパラギン(Asn;N)、アスパラギン酸塩(Asp;D)、グルタミン(Gln;Q)、グルタミン酸塩(Glu;E)、グリシン(Gly;G)、ヒスチジン(His;H)、イソロイシン(Ile;I)、ロイシン(Leu;L)、リジン(Lys;K)、メチオニン(Met;M)、プロリン(Pro;P)、フェニルアラニン(Phe;F)、セリン(Ser;S)、トレオニン(Thr;T)、トリプトファン(Trp;W)、チロシン(Tyr;Y)及びバリン(Val;V)の配置に基づくものであってよい。システイン(Cys;C)は、生成物のジスルフィド結合を防止するために排除される。本発明の組成物はまた、例えばD−、L−及び/又は環状アミノ酸を含む場合は、非均質であってよい。ヘキサペプチド組成物はまた、天然由来のアミノ酸以外のアミノ酸(例えば、ノルロイシン、ホモフェニルアラニン、オルニチンなど)を含むことができる。これらの非天然アミノ酸は、アミノ酸及びカルボン酸官能基を含む化合物から選択されることができるが、アルファアミノ酸でなくてもよい。
【0060】
ヘキサペプチドの一部は、様々なアミノ酸ミメティクス又は非天然アミノ酸で修飾されることができ、それらはインビボでの安定性を向上させる傾向を有するとき、特に有用なヘキサペプチドとなるかもしれない。より具体的には、非臨界的なアミノ酸は、タンパク質の中で天然産生するもの(例えば、L−.アルファ.−アミノ酸又はそれらのD−異性体)に限定される必要はなく、例えばアミノ酸ミメティクスなどの非天然アミノ酸でもよく、それらアミノ酸ミメティクスとして、D−又はL−ナフチルアラニン;D−又はL−フェニルグリシン;D−又はL−2−チエネイルアラニン;D−又はL−1,2−,3−又は4−ピレネイルアラニン;D−又はL−3チエネイルアラニン;D又はL−(2−ピリジニル)−アラニン;D−又はL−(3−ピリジニル)−アラニン;D−又はL−(2−ピラジニル)−アラニン;D−又はL−(4−イソプロピル)−フェニルグリシン;D−(トリフルオロメチル)−フェニルグリシン;D−(トリフルオロメチル)−フェニルアラニン;D−.rho.−フルオロフェニルアラニン;D−又はL−.rho.−ビフェニルフェニルアラニン;D−又はL−.rho.−メトキシビフェニルフェニルアラニン;D−又はL−2−インドール(アルキル)アラニン;及びD−又はL−アルキルアラニンなど)が挙げられ、アルキル基は、置換又は非置換のメチル、エチル、プロピル、ヘキシル、ブチル、ペンチル、イソプロピル、イソ−ブチル、2級イソチル(sec-isotyl)、イソ−ペンチル又は非酸性アミノ酸であってよい。非天然アミノ酸の芳香族環として、例えば、チアゾリル、チオフェニル、ピラゾリル、ベンズイミダゾリル(benzimidazolyl)、ナフチル、フラニル、ピロリル及びピリジル芳香族環が挙げられる。ヘキサペプチドの安定性は、数多くの方法で分析されることができる。安定性を調べるのに、例えば、ペプチダーゼ及び様々な生物学的媒体(例えば、血漿、血清など)が用いられる[例えば、Verhoef, et al., Eur. J. Drug Metab. Pharmacokinetics 11:291 (1986)を参照]。ペプチドの半減期は、代表的な25%血清(v/v)アッセイを用いて決定されることができる。
【0061】
当該分野の専門家であれば、本発明の選択されたヘキサペプチドが、同等の抗真菌特性及び抗細菌特性を保持しつつ、機能的に等価なアミノ酸置換が含まれるように修飾され得ることは理解するであろう。タンパク質に生物学的機能を与える上で、アミノ酸の疎水性インデックス(hydropathic index)の重要性に関する報告がある[Kyte and Doolittle(1982)]。なお、一部のアミノ酸には、同様な疎水性インデックス又はスコアを有する他のアミノ酸と置換しても、生物学的活性は同じでなくても同様な特性を保持できるものがあることは、他の研究者によって見出されている。アミノ酸は、次の表2に示されるように、それらの疎水性及び電荷特性に基づいて疎水インデックスが割り当てられる。得られたタンパク質の二次的構造は、アミノ酸の相対的疎水特性によって決定され、前記構造がタンパク質と基質分子の相互作用を規定するものと考えられている。同じ様に、二次的構造がペプチドの相互作用の主たる態様ではないペプチドでは、ペプチドが生体組織の中で有する相互作用は、ペプチド内での位置及びアミノ酸残基の特性によって決定される。生物学的機能の等価性は、典型的には、交換されるアミノ酸のインデックス値の差が+/−1〜2のとき、好ましくは+/−1以下のときに維持されることができる。
【0062】
【表2】

【0063】
このように、例えばイソロイシン(疎水性インデックスは+4.5)の場合、バリン(+4.2)又はロイシン(+3.8)と置換されることができ、なおかつ、同様な生物学的活性を有するタンパク質を生成することができる。あるいはまた、スケールの他端では、リジン(-3.9)は、アルギニン(-4.5)などと置換可能である。
【0064】
従って、これらのアミノ酸置換は、一般的には、例えば、大きさ、求電子的特性、電荷などに関する置換基Rの相対的類似性に基づいている。一般的には、これらは、唯一そのような置換基ではないが、前述の様々な特性を考慮した好ましい置換には、以下のものが含まれる。
【0065】
【表3】

【0066】
<A.ペプチド修飾の安定化>
所望の抗微生物活性が保持される限り、ヘキサペプチドに対する様々な修飾が可能である。ヘキサペプチドの固有抗微生物効力を増進させるために、幾つかの修飾を用いられることができる。その他の修飾によってヘキサペプチドの取扱いを容易にすることもできる。ペプチド官能基の代表的な修飾例として、ヒドロキシル、アミノ、グアニジン、カルボキシル、アミド、フェノール、イミダゾール環又はスルフヒドリルが挙げられる。これら官能基の典型的な反応には、限定されるものではないが、ハロゲン化アルキルによるヒドロキシル基のアセチル化がある。カルボキシル基はエステル化され、アミド化され又はアルコールに還元されることできる。カルボキシル基のアミド化を触媒するのに、カルボジイミド又は他の触媒を用いることができる。アスパラギン又はグルタミンのアミド基は酸性又は塩基性条件のもとで脱アミド化されることができる。アミノ基(例えば、ペプチドの第1級アミノ基又はリジン残基のアミノ基)とのアシル化、アルキル化、アリール化又はアミド化反応は容易に起こる。チロシンのフェノール基はハロゲン化又はニトロ化されることができる。ペプチドの溶解度が低下する例として、荷電リジン基のアクリル化、又はアスパラギン酸若しくはグルタミン酸のカルボキシル基のアセチル化が含まれる。
【0067】
ヘキサペプチドは可溶性又は不溶性のキャリア分子にコンジュゲートされ、それらの溶解特性を必要に応じて修飾し、それらの標的領域におけるヘキサペプチドの局所濃度を増大させる。本発明のヘキサペプチド組成物は、植物の維管束系に注入されることができる。可溶性キャリア分子の例として、ポリエチレングリコール及びポリビニルピロリドンのポリマーが含まれる。不溶性ポリマーの例として、サンド又は他のケイ酸塩又はポリスチレン、セルロース等が含まれる。種子、土壌又は植物への適用中におけるヘキサペプチドの安定性を高めるために、ヘキサペプチドはマイクロカプセルに入れられることもできる。植物への適用は、様々な植物の真菌病の治療に特に有効である。典型的な真菌植物病原菌として、例えば、コムギ病原体スタゴノスポラ・ノドルム(Stagonospora nodorum)及びセプトリア・トリチシ(Septoria tritici)、並びに、hemibiotrophic病原体(例えば、Colletotrichum属菌)が含まれ、特に豆炭疽病原菌(bean anthracnose pathogen)C. lindemuthianum がある。他の一般的な植物真菌病原体として、Mycosphaerella brassicicola, Pyrenopeziza brassicae, Peronospora destructor, and Botrytis squamosa などが含まれる。ペプチドをカプセル化し安定化するために、典型的には、ポリエステルのミクロスフェアが用いられる。
【0068】
<B.大量のペプチド合成>
一緒に用いられる特定のペプチド組成物が選択されると、溶液又は固相において大量(最大60kg)のペプチド合成が行われる。この合成では、保護基及び凝縮方法を注意深く選択する必要がある。全ての出発物質及び薬剤は、Sigma-Aldrich, Inc.などの化学品サプライヤーから高純度のものを入手することができる。また、アミノ酸は、Bechem又はNovabiochem(登録商標)などのサプライヤーから入手することができる。結合条件下でのアミノ酸ビルディングブロックのラセミ化は、HOBt、HOAt、HBTU又はHATUなどの次世代新薬の使用によって大いに抑制又は除去されることができる。現在は、固相方法でさえも、少なくとも10kg/batchの倍数で医薬ペプチドを製造することができる方法が開発されている。
【0069】
<C.溶液中のペプチドの大量合成>
溶液相の合成は、ラセミ化を最小限にするための基の保護、フラグメントの選択及びフラグメントの結合に関する計画を容易にする。中間体は、結晶化技術によって簡単に単離されることができることがあり、この場合、カラム・クロマトグラフィによる精製は不要であるので、大量生産(scale-up)能力を向上させる。同時製造されるフラグメントの品質は各工程で容易に制御されるできる。
【0070】
<D.ペプチドの大量固相合成>
固相合成には、より高分子のポリマーが用いられるが、通常、そのコストは高い。支持体の中には、大量に(in bulk)入手できないものがある。しかしながら、これらの特性は、アンカリングされたペプチドの可触性(accessibilty)と、十分な保護、脱保護又は修飾された形態のレジンからのペプチドの遊離において重要な役割を果たす。固相ペプチドの合成(SPPS)を実験室規模から製造規模へ移行させることは、合成プロセス全体の自動化が容易であり、合成工程の効率を監視及び最適化できる点において明らかに有利である。生産規模の活性化プロセスは広く知られており、環境的に無害である。また、SPPSでは、生産規模で廃棄濾液から過剰のアミノ酸ビルディングブロックを直接回収及びリサイクルすることができる。
【0071】
次の文献は、具体的な引用を以て本願へ組み込まれるものとする:Boris Group, "Production of large-scale peptides in solution." Biochem. Soc. Trans., 18(6), 1299-306; Christian Birr, "The transition to solid-phase production of pharmaceutical peptides." Biochem. Soc. Trans., 18(6), 1313-16; and Paul Lloyd-Williams, Fernando Albericio and Ernest Giralt, "Convergent solid-phase peptide synthesis." Tetrahedron 49(48), 11065-11133 。本発明のペプチド組成物について大規模の合成を企図する場合、これらの文献に記載された方法及び材料に基づいて行なうことができる。
【0072】
L−アミノ酸ペプチドが十分な阻害作用を有する(安定化あり又は安定化なし)と決定された場合、当該分野で広く知られた技術に基づいて組換えDNAの発現を用いて、そのようなペプチドを大量に製造できることは勿論である。組換えペプチドが作られ、そのようなペプチドの安定性が所望される場合、ペプチド化学分野で知られた技術を用いて、ペプチドは、D−アミノ酸を各末端のどちらか一方又は両方に共有結合することにより、各末端での攻撃から保護されることができる。
【0073】
<E.ペプチドのミクロスフェアカプセル化>
ミクロスフェアの調製は、カプセル化されるペプチド組成物の親水性又は疎水性に応じて、様々な方法が用いられる[Wang, H. T., et al. 1991, "Influence of formulation methods on the in vitro controlled release of protein from poly(ester) microspheres," J. of Controlled Release 17:23-25]。この文献中、この明細書に記載されていない方法及び材料については、本願へ組み込まれるものとする。
【0074】
[1] o/o エマルジョン方法。この方法で効果的な撹拌を行なうために、TTA−60滴定装置(Radiometer, Copenhagen, Denmark)が用いられる。ポリ(DL-ラクチド/グリコリド、50:50、デュポン)(0.5g)を塩化メチレン(3.3ml)に溶解させる。この溶液の中に、スプレー乾燥したペプチド(25mg)を、超音波洗浄器(Branson 3200, Branson Cleaning Company, Shelton, Conn.)の中で30秒間超音波処理することによって分散させる。この懸濁液の液滴は、220ゲージ針のシリンジの中を通して、十分に撹拌されたエマルジョン(シリコンオイル(20-30ml)、CH.sub.2 CI.sub.2(30-40ml)及びSpan 85(2ml)が含まれる)の中へ入れられる。石油エーテル(30ml)の液滴を前記分散物に添加する。撹拌時間は2時間である。このようにして生成されたミクロスフェアは、濾過し、石油エーテルで洗浄した後、真空で72時間乾燥させる。
【0075】
[2] o/w エマルジョン方法。スプレー乾燥したペプチド(25mg)を超音波洗浄した懸濁液と、ポリ(DL-ラクチド/グリコリド、50:50)(デュポン又はバーミンガムのポリマー)(0.5g)と、CH.sub.2CL.sub2(2ml)とを、TTA−60滴定装置のオレイン酸ナトリウム(0.2g)を含む水溶液(50ml)で5分間乳化させた。回転型蒸発器(120rpm)を使用し、塩化メチレンを、360Torr(22℃で1時間)、160Torr(22℃で0.5時間)及び160Torr(40℃で1時間)で除去した。得られたミクロスフェアを濾過し、水で洗浄し、室温で真空乾燥した。
【0076】
[3] (w/o)/w エマルジョン方法。蒸留水(100ml)に入れられたペプチド溶液(2.6mg)は、プローブソニケータ(Branson, Danbury, Conn.)を用いて、125W及び40%の負荷サイクル、パルスモードの条件で、ポリ(DL-ラクチド/グリコリド、50:50、Henley Chemical、RG503)の塩化メチレン溶液(0.5g/2ml)で乳化させる。このエマルジョン(w/o)は、ホモゲナイザー(5000rpm, ESGE handmixer M122, Biospce Products, Bartlesville, Okla.)を用いて、0.1%ポリビニル・アルコールが含まれる水溶液(50ml、35℃)の中で5分間、乳化させる。次に、得られた(w/o)/wエマルジョンを、300Torr、34℃(120rpm)の回転型蒸発器で1時間処理することにより、塩化メチレンは除去される。得られたミクロスフェアを、濾過し、水で洗浄し、室温で真空乾燥するか又は凍結乾燥させる(Consol 4.5, Virtis Co., Gardiner, N.Y.)。
【0077】
ポリマーの分子重量はゲル透過クロマトグラフィーにより求められる。ミクロスフェアの粒子サイズは、走査型電子顕微鏡(SEM, Hitachi S-570, Tokyo, Japan)によって求められる。
【0078】
インビトロでペプチド遊離の検討を行なうこともできる。ミクロスフェア(200mg)をpH7.2のリン酸塩緩衝食塩水(PBS)(2.5ml)の中で懸濁させ、環境培養シェーカ(G-24, New Brunswick Scientific Co., Edison, N.J.)の中で、37℃、100rpmの条件で撹拌する。特定のサンプリング時間(最初の4日間は毎日、それ以降は隔日)で、緩衝液は完全に除去され、新たなPBSと置換される。PBSのペプチド含有量は、ブラッドフォード法又は他の適当な定量分析を用いて測定される。
【0079】
マイクロカプセル化の他の方法の有用性については、例えば米国特許第4324683号にも記載されている。
【0080】
II.使用の方法
本発明の更なる実施例は、上記ヘキサペプチドを使用する方法に関するものである。使用方法は、感染していない正常な哺乳類細胞を傷つけたり殺したりしないことが好ましい。治療量レベルでの使用方法は、感染していない正常な哺乳類細胞を傷つけたり殺したりしないことが好ましい。使用方法は、単一のヘキサペプチドの使用に関するものでもよいし、複数のヘキサペプチドの使用に関するものでもよい。
【0081】
この発明の目的では、“活性成分(active ingredient)”は、標的微生物の成長阻害能力を有するヘキサペプチドを意味する。標的微生物として、イースト感染症及び様々な皮膚感染症(例えば、水虫その他の皮膚糸状菌感染)の原因となる動物及びヒトの病原体を挙げることができるが、これに限定されるものではない。また、標的微生物には、植物の根腐れ、苗の立枯れ(damping off)、全体感染、維管束感染及び表面感染の原因となる真菌が含まれる。
【0082】
<A.動物の真菌症(ピシウム、カンジダ)>
本発明はまた、様々な哺乳類の感染症の治療に用いられることが考えられる。次の表4は、本発明の組成物及び方法の対象となる哺乳類(動物及びヒトを含む)の様々な真菌症を示している。細菌感染及び/又は真菌感染の治療に有用な医薬組成物は、本発明によってもたらされる。この医薬組成物は、有効量の抗微生物薬剤と医薬的に許容できるキャリアとを含んでいる。ここに列挙した病原有機物の幾つかについて、この明細書に詳細に記載したヘキサペプチド組成物を用いて試験を行なった。医薬的に許容されるキャリアは、当該分野で知られており、該キャリアの中に本発明のヘキサペプチドが含められ、送達されることができる[The Pharmacopeia of the United States and the National Formulary]。
【0083】
【表4】

【0084】
本発明によってもたらされる医薬組成物の具体的な適用に際しては、溶液、懸濁液、非経口製剤、軟膏、クリーム、ローション、スプレー、パウダー又は錠剤カプセルとして調製されることができる。非経口製剤は、特別に蒸留されたパイロジェンフリー水、リン酸緩衝液、生理食塩水などの媒体を含むことができる。軟膏、クリーム、ローション及びスプレーは、野菜油や鉱物油、白色ワセリン、高分子アルコール(C12よりも大きい)などのキャリアを含むことができる。錠剤又はカプセルは、希釈剤(例えばラクトース)、結合剤、潤滑剤(例えばステアリン酸)及び崩壊剤(disintegrator)(例えばコーンスターチ)を含むことができる。
【0085】
本発明はまた、真菌に感染している被検体を治療する方法を提供するものであって、本発明の医薬組成物を、被検体に対して、細菌又は真菌の殺菌に有効な量を投与することを含んでいる。粘膜の細菌感染又は真菌感染の治療又は予防を行なうための投与形態は、当該分野において広く知られている。活性成分を含有するクリーム、座薬又は溶液は、感染した患部と接触するように施される。患部が外部にあるときは、クリームを、毎日2回ずつ施して、患部及びその周辺箇所をマッサージし、これを感染がなくなるまで行なう。膣内で使用する場合は、従来のアプリケータを用いて、約5グラムのクリームを膣腔内へ加圧注入する。この治療は、感染がなくなるまで1日2回ずつ繰り返し行なう。或いはまた、膣座薬を毎日1〜2回ずつ膣腔内へ加圧注入する治療を、感染がなくなるまで継続することもできる。
【0086】
或いはまた、本発明のヘキサペプチド又はその複合物を従来の入れ歯粘着ペーストに有効量含有させることが好ましい場合もある。ペーストに含有させる抗微生物剤は、典型的には、ペースト100グラムあたり0.0125%〜1.5重量%である。入れ歯を口の中へ挿入する前に、入れ歯の接触面に対して、約2グラムのペーストを公知の要領にて塗布する。なお、ペーストの塗布は、入れ歯を入れ歯洗浄剤の中に一晩浸漬した後に行なうことが好ましい。入れ歯洗浄剤を調製する際、有効量の抗微生物剤を約3〜3.5グラムの錠剤に添加することもできる。そのような錠剤は水の中で溶解して、入れ歯洗浄用の抗微生物溶液が生成される。なお、入れ歯は口から取り外した後、この洗浄剤の中に約8〜12時間浸漬することがより好ましい。所望により、入れ歯接着剤を使用する代わりに、入れ歯粘着性パウダーに本発明の抗微生物剤を含めることもできる。
【0087】
或いはまた、有効量の活性剤を含有する口腔スプレーに、本発明のヘキサペプチドを1種又は2種以上含めることもできる。この材料を抗微生物剤としてスプレーする場合、4つの象限(quadrant)の各象限の歯及び歯肉表面に、0.25〜0.5ミリリットルの分量を、毎日1〜3回投与することができる。入れ歯を終日装着している者に対しては、入れ歯を挿入する前に、入れ歯の表面に直接施すことができる。所望により、うがい薬の中に、有効量の抗微生物薬を含有させることもできる。
【0088】
有効量の抗微生物剤が全身に投与される場合、その投与量は、宿主の重量1kgあたり約1〜500mgの範囲である。活性剤は、リン酸緩衝生理食塩溶液の中に含有させることもできる。公知のエアロゾルのスプレー吸入により、本発明の抗微生物ヘキサペプチド組成物を導入することもできる。抗微生物ペプチドを医薬組成物として調製する方法の例は、米国特許第5126257号に記載されており、その開示全体は引用を以て本願に組み込まれるものとする。
【0089】
本発明の一実施例は、微生物細胞(微生物)を阻害するか又は殺すために、本発明のヘキサペプチドを1種又は2種以上使用することである。微生物は、例えば、バクテリア細胞、真菌細胞、原生動物、ウイルス、又は病原微生物に感染した真核細胞である。この方法は、全体的には、微生物を、本発明に係る1種又は2種以上のヘキサペプチドに接触さることに関する。接触させる工程は、インビボ、インビトロ、局所的、経口、経皮、全身による他、当該分野で知られた他のあらゆる方法によって実行されることができる。接触工程でのヘキサペプチドの濃度は、微生物を阻害し又は殺すのに十分な濃度であることが望ましい。ヘキサペプチドの濃度は、約0.1μm以上、約0.5μm以上、約1μm以上、約10μm以上、約20μm以上、約50μm以上又は約100μm以上であってよい。使用の目的は、微生物(例えば、バクテリア、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌、ミコバクテリア、イースト、真菌類、藻類、原生動物、ウイルス、細胞内有機物)を阻害し又は殺すことである。微生物の具体例として、限定されるものではないが、ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌、シュードモナス、緑膿菌、大腸菌、クラミジア、カンジダ・アルビカンス、サッカロミケス、サッカロマイセス・セレヴェシエ、シゾサッカロミケス・ポンベ、トリパノソーマ・クルーズ、熱帯熱マラリア原虫が挙げられる。接触工程は、全身注入、経口、皮下、IP、IM、IV注射又は局所施用により行なうことができる。注入の場合、投与量は、例えば、約1mg/kg、約5mg/kg、約25mg/kg、約50mg/kg、約75mg/kg、約100mg/kgであり、またその範囲内でもよい。接触工程は、哺乳類、ネコ、イヌ、乳牛、ウマ、豚、鳥、鶏、植物、魚又はヒトに対して行なうことができる。
【0090】
抗細菌用として好ましいヘキサペプチドには、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:55、SEQ ID NO:70、SEQ ID NO:72、SEQ ID NO:79及びSEQ ID NO:80が含まれる。
【0091】
抗真菌用として好ましいヘキサペプチドには、SEQ ID NO:55、SEQ ID NO:70、SEQ ID NO:72、SEQ ID NO:79及びSEQ ID NO:80が含まれる。
【0092】
抗細菌及び抗真菌用として好ましいヘキサペプチドには、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:55、SEQ ID NO:70、SEQ ID NO:72、SEQ ID NO:79及びSEQ ID NO:80が含まれる。
【0093】
<B.ヘキサペプチドと抗真菌薬又は抗細菌剤との相乗効果>
本発明のさらなる実施例は、治療剤の活性を付加的又は相乗的に向上させる方法に関する。この方法は、本発明の少なくとも1種のヘキサペプチドと治療剤(例えば、ペニシリン等の抗生物質)を含む組成物を調製することを含んでいる。或いはまた、この方法では、ヘキサペプチド(又はヘキサペプチドの複合物)による治療は、他の治療剤と共に用いることを含んでいる。ヘキサペプチド又はヘキサペプチドの複合物は、表1に示されるヘキサペプチドのどれであってもよい。本発明の方法で好適に投与されるヘキサペプチドは、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:55、SEQ ID NO:56、SEQ ID NO:62、SEQ ID NO:69、SEQ ID NO:70、SEQ ID NO:72、SEQ ID NO:77、SEQ ID NO:78、SEQ ID NO:79、SEQ ID NO:80、SEQ ID NO:81、SEQ ID NO:83及びSEQ ID NO:84のうちの少なくとも1種である。
【0094】
例えば、SEQ ID NO:55 (S35-2)は、以下の実験で示されるように、カンジダ・アルビカンスのアゾール耐性菌株に対する治療剤クロトリマゾールと相乗効果を有する。抗微生物剤どうしの相乗効果を判定するのにFIC指数(fractional inhibitory index)を用いた。試験微生物に対するペプチドの最小発育阻止濃度(MICs)は、異なる場所で3回の測定によって求めた。ナリジクス酸又はクロラムフェニコールの2倍連続希釈の試験は、ペプチドのMICの4分の1に等しい定量のペプチドの存在下で行なった。FIC指数は、FIC=0.25+MIC(抗生物質併用時)/MIC(抗生物質単独時)で算出した。ここで、0.25は、併用時のペプチドのMICと単独時のペプチドのMICとの比である。FIC指数が0.25よりも小さいとき、相乗効果を示していると考えられる。
【0095】
【表5】

【0096】
【表6】

【0097】
また、他の例において、SEQ ID NO:55(S35-2)は、表7に示されるように、緑膿菌(P.aeruginosa)のような薬物耐性菌に対して、治療剤ポリミキシンB(PXB)との相乗効果を示す。表7を参照すると、ヘキサペプチドは、従来の抗菌薬(例えば、ポリミキシンB(PXB))の薬物耐性菌(例えば、緑膿菌)に対する殺菌活性を促進させる能力を有することを示している。表を参照すると、SEQ ID NO:55(S35-2)は、ポリミキシンBとの併用で相乗効果(FIC指数<0.5によって示される)有することを示している。
【0098】
【表7】

【0099】
治療剤は、一般的には、どんな治療剤でもよいが、好ましくは、抗生物質(antibiotic)、抗微生物剤、成長因子、化学療法剤、抗微生物剤、リゾチーム、キレート剤、又はEDTAが挙げられる。組成物の活性は、同じ組成物で治療剤を含むがヘキサペプチドを含まないものの活性よりも高いことが好ましい。組成物の投与又は組成物治療は、インビボ、インビトロ、局所的、経口,IV、IM、IP及び経皮の態様がある。治療剤とヘキサペプチドを含む組成物の活性の向上は、治療剤単独の活性と比べて、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上、125%以上、150%以上、175%以上又は200%以上が好ましい。
【0100】
一般的には、標的に対して単独使用で活性を有するヘキサペプチドであればどんなヘキサペプチドでも、該標的に対する他の治療剤の活性を付加的又は相乗的に向上させるために好適に使用される。なお、所定の相乗効果をもたらすヘキサペプチドに幾つかの候補がある場合、毒性がより少ないヘキサペプチドを用いることがより好ましい。
【0101】
本発明のさらなる実施例は、嚢胞性線維症(CF)と診断された患者の治療法に関する。CFは、特に、肺の炎症及び感染症を引き起こす。本発明の上記ヘキサペプチドは、緑膿菌によってしばしば起こる肺の感染症の治療に使用されることができる。本発明のヘキサペプチドは、CF患者の肺の感染症の治療に効果のある有用な抗微生物特性を有している。ヘキサペプチド又はヘキサペプチド複合物のCF患者への投与は、吸入又は全身送達などの許容された方法によって行なうことができる。ヘキサペプチド又はヘキサペプチド複合物の投与は、1回投与、複数回投与又は連続送達として行なうことができる。
【0102】
本発明の他の実施例は、性感染症(STDs)の治療法に関する。STDsの原因となる真菌種の多くは、表1の本発明のヘキサペプチドを1種又は2種以上投与することによって、阻害又は殺菌されることができる。それら菌種の例として、カンジダ・アルビカンス、C. glabrata及びC. tropicalisが含まれる。本発明のヘキサペプチドは、STDsの原因となるウイルス及び細菌などに対しても付加的に用いられることができる。ヘキサペプチドのSTD患者への投与は、局所的、経口又は全身送達などの許容されたあらゆる方法によって行なうことができる。ヘキサペプチドの投与は、1回投与、複数回投与又は連続送達として行なうことができる。ヘキサペプチドの投与はまた、クリーム、ジェル又は液体などの許容された形態で行なうことができる。本発明のヘキサペプチドが膣環境で活性を示す可能性があることは、図2に示されており、ここで、SEQ ID NO:55の活性は、カンジダ・アルビカンス及び黄色ブドウ球菌に対する殺菌曲線に示されている。
【0103】
本発明の組成物はまた、医薬的に又は皮膚学的に許容されるキャリアを含むことができる。キャリアの例として、エマルジョン及びジェルが挙げられる。エマルジョンは、例えば、油相と水相の混合物である。組成物はまた、摩擦による表皮剥離作用を有する物質を含むこともできる。組成物はまた、安定剤を含むこともできる。組成物はまた、フォーム調整用化合物(foam control compound)を含むこともできる。
【0104】
組成物はまた、1又は複数種の追加のスキンケア活性成分を含むことができる。スキンケア活性成分の例として、落屑作用剤、抗ニキビ作用剤、ビタミンB3化合物、レチノイド(レチノール、レチナール、レチノールエステル、プロピオン酸レチナル、レチノイン酸、及びレチニルパルミテートを含む)、ヒドロキシ酸、ラジカルスカベンジャー、キレート剤、抗炎症剤、局所麻酔薬、日焼け用剤、皮膚美白剤、抗セルライト剤、フラボノイド、抗微生物剤、皮膚治療剤、抗真菌剤、ファルネソール、フィタントリオール、アラントイン、去りチル酸、ナイアシンアミド、デキスパンテノール、酢酸トコフェロール及びグルコサミンを挙げることができる。
【0105】
組成物はまた、日焼け止め化合物を含むことができる。日焼け止め化合物の例として、日焼け止め無機組成物及び日焼け止め有機組成物が含まれる。日焼け止め無機組成物として、酸化亜鉛、酸化チタン及び酸化鉄のような金属酸化物を挙げることができる。日焼け止め有機組成物として、オクチルメトキシシンナマート、サルチル酸オクチル、テレフタリリデンジカンフルスルホン酸、アヴォベンゾン及びオクトクリレンを挙げることができる。
【0106】
本発明のさらなる実施例は、表1のヘキサペプチドを1種又は2種以上を創傷治癒の促進への使用に関する。幾つかの実施例において、ヘキサペプチドは、創傷感染と最も関連がある細菌(黄色ブドウ球菌、化膿連鎖球菌、緑膿菌)を含む微生物に対し、高い抗作用を有している。ヘキサペプチドの中には、創傷治癒及び炎症の低減を促進するものがある。ヘキサペプチドの投与は、例えば、クリーム、ジェル又は液体のように許容されたあらゆる形態で行なうことができる。ヘキサペプチドの投与は、例えば、局所投与又は全身投与のように許容されたあらゆる方法で行なうことができる。
【0107】
<C.微生物株>
次の表は、実施例に用いた種々微生物のリストである。
【表8】

【0108】
<D.抗微生物活性>
NCCLS(National Committe for Clinical Laboratory Standards)の前記液体微量希釈法の少し改変されたバージョンを用いて、当該ヘキサペプチドのMICs(最小発育阻止濃度)を求めた[Steinberg et al., AAC 41: 1738, 1997]。簡単に説明すると、最も適当な溶媒中に、10X濃度の抗微生物剤を調製した。ヘキサペプチドについては、0.2%のウシ血清アルブミンを含む0.01%の酢酸をキャリアタンパク質として用いた。BAPからのコロニーを媒体の中で再懸濁させ、懸濁液を0.5マクファーランド標準と一致するように調節して、接種材料を調製した。懸濁液は、新鮮培地の中で希釈し(微生物に対するNCCLS推奨)、細菌は2×105〜7×105CFU/ml、カンジダ菌は2×103〜7×103CFU/mlとなるようにした。96ウェルのポリプロピレンマイクロタイタープレートの各ウェルに100μlアリコートの微生物懸濁液を調合した後、11μlの試験化合物を加えた。MICは、35℃で16〜20時間後(細菌)又は46〜50時間後(カンジダ)に、目に見える濁りを防止できる薬剤の最低濃度として規定される。
【0109】
表9の選択された黄色ブドウ球菌を参照すると、拡張パネル(extended panel)に対するヘキサペプチドのMICは、特に困難な臨床株に対して有効な活性を有することを示している。
【0110】
【表9】

【0111】
【表10−1】

【表10−2】

【0112】
SEQ ID NO:5 (RWRWRW)及びSEQ ID NO:8 (RRRWWW)は、XBXBOBでないヘキサペプチドである[Strom et al. (2003)]。これらのヘキサペプチドは両方とも、本発明のXBXBOBのヘキサペプチド群(例えば、SEQ ID NO:1 (PO666.))よりも活性は劣っていた。XBXBOB群のヘキサペプチド群の活性の改善は、少なくとも一部は、抗微生物活性に有用な構造的特性によるものである。XBXBOB式に当てはまらないヘキサペプチドの場合、抗微生物活性は殆ど示さないか、又は全く示さない。なお、構造及び活性に関する研究により、XBXBOB群における最適な活性は、位置2がF、位置5がPであることがわかった。また、実質的に活性を有しないW等の類似のアミノ酸と置換することにより、位置2のFの構造が重要であることが明らかになった(SEQ ID NO: 47, (P1023)に関する表9のMICデータを参照)。位置2にFを有するXBXBOBヘキサペプチドを非天然アミノ酸(例えば、構造的にはWよりもFに近い1−ナフチル−L−アラニン(本明細書では“U”と表されている)、つまり1−Nal)と置換することにより、中間的な活性となる(SEQ ID NO: 39 (P1030)に関する表10のデータを参照)。
【0113】
<E.細菌細胞壁成分リポタイコ酸の結合>
リポタイコ酸(LTA)は、黄色ブドウ球菌及びニキビ桿菌(P.acnes)等の微生物を含むグラム陽性細菌の一般的な細胞壁成分である。感染中はLTAを放出するので、宿主炎症反応の伝達物質を放出し、その結果、敗血症(敗血症ショック)を引き起こすことがある。例えば、動物に注入すると、LTAは、敗血症ショックの多くの特徴を引き出す。これら特徴には、サイトカイン産生、白血球減少、循環障害、多臓器不全症候群及び死亡が含まれる。カチオン性ペプチド(長さ26−29残基)によるLTAの結合により、LTAの能力が低下し、細胞が炎症反応に変化することがスコットらにより立証されている[Scott et al.(Infect. And Immun. 67: 6445-6453 (1999))]。図7に示されているように、ヘキサペプチドは、(1) LTA(SEQ ID NO:55)と結合しないペプチドと、(2) LTA(SEQ ID NO:72)と結合するペプチドの2種類に分けられることができる。スコットらが記載したLTA結合アッセイ[Infect. And Immun. 67: 6445-6453 (1999)]を使用し、SEQ ID NO:72が、代表的な高電荷アルファヘリックス両媒性ペプチド(例えば、P50(VAKKLAKLAKKLAKLAL-NH2))と同程度までLTAを結合することを示している(図7)。そのような短いペプチドでは予期されなかったことで、ヘキサペプチドの種類によっては、治療価値がもたらされる。これに対し、SEQ ID NO:83及びSEQ ID NO:55はLTAを結合しない(図7)。
【0114】
<F.ニキビ桿菌(P.Acnes)に対する活性>
短い生理活性ペプチドは、例えばニキビのような皮膚症状への適用を非常に期待することができる。リポ−ヘキサペプチドの活性が、ニキビ桿菌の菌株の全体に一定であるかどうか及びその活性が従来のより長い抗微生物ペプチドと同等かどうかを調べるために、有機物10株(ATCC株)について、SEQ ID NO:72、SEQ ID NO:55及びSEQ ID NO:81に対する抗作用を試験し、P50と比較した。結果は同等か、又は長い高電荷ペプチドよりも良好なものもあった(表11)。
【0115】
【表11】

【0116】
図8を参照すると、脂質は、血清中のヘキサペプチドの活性を向上させるだけでなく、ヒトのニキビ跡環境に似た脂質環境の活性も向上させることを示している。ヒトの皮脂腺分泌物は皮脂(sebum)とも呼ばれ、スクアレン、コレステロール、コレステロールエステル、ワックスエステル及びトリグリセルドを含んでおり、ニキビ桿菌の大きな濾胞群は、この環境を利用して、特定の脂肪質脂質を加水分解する。思春期前及び思春期では、皮脂分泌が増大するが、これは、大人ニキビの発生原因に大いに関与する。この環境におけるSEQ ID NO: 55の活性と、従来のカチオン性抗微生物ペプチドであるP64とを比較して調べた。大部分の脂質は不水溶性であるため、フォフィチジルコリン、フォスフォチジルグリセロール及びコレステロールを生理食塩水中で7:2:1のモル比で含むリポソームを使用し、血清の存在下又は不存在下でのペプチドの殺菌活性を調べた。細菌は、黄色ブドウ球菌MRSAを使用し、ペプチドの濃度は0.5mg/mlで試験を行なった。図8に有効性が示されている。
【0117】
III.構造活性及び抗真菌活性の検討
<A.XBXBOBヘキサペプチド>
抗真菌活性を示すヘキサペプチドは、上記式に従う。なお、上記式中、Xは荷電(親水性)、Oはある範囲の残基であるが、ナフチルアラニン、脂肪族残基(プロリンなど)又は芳香族残基(フェニルアラニンなど)が好ましく、Bは疎水性残基である。更に、C−末端のアミド化は活性を向上させるので、場合によっては、前記アミド化が活性化のために必要とされる。そのようなヘキサペプチドの代表例は次のとおりである。
SEQ ID NO:1: KFKWPW*** 最も活性
SEQ ID NO:2: KWRWPW** 活性
SEQ ID NO:3: KWKWFW* 活性
【0118】
構造活性相関(SAR)より明らかなように、所望の抗微生物活性を得るには、位置1及び3で正に荷電した残基が必要である。また、位置1及び選択的に位置3では、リジン(K)がアルギニン(R)よりも優れていることを示している。残基の他の組合せでは、同じような活性を示していない。これについては、以下にてより詳細に説明する。
【0119】
表10のデータによると、試験したヘキサペプチドの多くは、抗微生物活性を殆んど示さないか、又は全く示さない。しかしながら、一般構造XBXBOBのヘキサペプチドは全て、望ましいレベルの抗微生物活性を示す。一般的には、ヘキサペプチドのXBXBOBの中には、望ましい活性を示す二つのグループがある。
【0120】
ヘキサペプチドの中には特に活性を有するものがあり、一般式XBXBOBの中でサブグループ1の一部とみなされることは興味深いことである。特に活性のヘキサペプチドの代表例は、KFKWPW-NH2(SEQ ID NO:1)である。重要なのは、表12で示されるように、SEQ ID NO:1もまた血清中では有効で活性であることである。サブグループ1のヘキサペプチドの場合、位置2がWのとき、活性は低下する。位置5がFのとき、例えば、SEQ ID NO:47(1023);例えば、SEQ ID NO:6(0734)、又は位置2がフッ素化物のとき、例えば、SEQ ID NO:59;又は位置2がWで、位置4及び6がFに変化するとき、例えば、SEQ ID NO:50(1026)である。なお、配列表の中で、“J”の文字は、フッ素化フェニルアラニンを示している。
【0121】
サブグループ1の代表例(例えば、SEQ ID NO:1)に脂質を加えても、MICに影響を及ぼさないが、血清などの生物環境での活性を有意に増大させる(例えば、SEQ ID NO:55(1032)及び表12を参照)。なお、サブグループ1のヘキサペプチドのうちXBXBOBアナログでないものは全て、主に非活性である(表12の具体例を参照)。
【0122】
XBXBOBヘキサペプチド群のもう1つのサブグループは、サブグループ2として表され、活性は僅かに劣るが、他の望ましい特性を示す。サブグループ2の代表例は、SEQ ID NO:3(KWKWFW-NH2;(0736))である。サブグループ2のヘキサペプチドの活性は、残基5の芳香族を増やすと増大する。例えば、SEQ ID NO:62及びSEQ ID NO:63は、1-Nal-OH(配列表では“U”として示されている)又は2-Nal-OH(配列表では“Z”として示されている)(2-ナフチルアラニン)を付加することによって修飾されたものである(表10の活性を参照)。なお、この明細書の中で省略文字Nalを用いるときは、1-Nal-OH又は2-Nal-OHのどちらかを示す。
【0123】
また、サブグループ2のヘキサペプチドを脂質化することにより、中程度の活性を得られる場合がある。しかしながら、SEQ ID NO:55(1032)、SEQ ID NO: 56(1033)とは異なり、生物学的環境では良好に作用しない。
【0124】
サブグループ2のヘキサペプチドでは、活性の低下が一般的に起こるのは、位置5がWのとき、位置2がFのとき、位置5のFがフッ素化物のとき、及び式XBXBOBから外れる配列となるようなあらゆる変更があったときである。もし位置5が荷電残基の場合、その大部分のペプチドは、比較的不活性である。これらペプチドとして、例えば、SEQ ID NO:9(KFKFKF-NH2)、SEQ ID NO:10(KYKYKY-NH2)及びSEQ ID NO:23(KWKFKF-NH2)がある。この例外は、RWRWRW(SEQ ID NO:5)であるが、このペプチドについても、例えばSEQ ID NO:1、SEQ ID NO:62、SEQ ID NO:63などの活性が最も大きなペプチドと比較すると、その活性は非常に低い。
【0125】
また、もしXBXBOBヘキサペプチドがアミド化されていない場合、例えば、表10のSEQ ID NO:41-46のように不活性である。
【0126】
【表12】

【0127】
XBXBOBヘキサペプチドは、微生物標的のアレイに対しては一般的に活性であるが、全てのヘキサペプチドが全ての微生物に対して同じ様に有効であるとは限らない。例えば、SEQ ID NO:32-33は、表10及び表13に示されるように、緑膿菌(P.auruginosa)、カンジダ・アルビカンス(C.albicans)及び黄色ブドウ球菌(S.aureus)に対する活性は小さい。
【0128】
脂質をSEQ ID NO:3(KWKWPW-NH2)へ加え、SEQ ID NO:55(Oct- KWKWPW-NH2)を生成すると、血清中のヘキサペプチドの活性が向上することは、図5及び図6並びに表9及び表12に示されている。また、表9、図2、図3、図5及び図6に示されるように、SEQ ID NO:55(Oct- KWKWPW-NH2)は、広範囲のアゾール耐性臨床分離菌(カンジダ・アルビカンス及び黄色ブドウ球菌)に対して有効である。また、図2及び図3に示されるように、SEQ ID NO:55は、膣刺激媒体及び血清等のような生理的環境でも活性である。
【0129】
<B.SEQ ID NO:1(P0666)の構造検査>
図1に示されるように、モデルJ-810分光偏光計(Jasco)に記録されたCDスペクトルは、経路1mmの水晶セルを使用し、室温で50nm/分のスキャン速度にて、190〜250nmの範囲を1試料につき合計10回スキャンして得られたものである。記録されたスペクトルは、次の3種類の環境下で、100μg/mlのペプチド濃度で測定したものであり、前記環境は、pH7.5の10mMトリス緩衝液と、50%TFE−水と、POPC:POPG(1:1 w:w,2mM)のリポソームである。どの場合も、得られたペプチドスペクトルは、ペプチドがない状態で、溶液成分のスペクトルを差し引いている。
【0130】
SEQ ID NO:1(P0666)は、図1に示されるように、リポソーム環境と相互作用が生じると、構造に有意の変化が起こる。これに対し、50%TFEを含む緩衝液の中では有意の変化は殆んどみられなかった。比較的短いペプチドの中で生じる特定の構造は、活性に有意の影響を及ぼしている可能性がある。
【0131】
幾つかのヘキサペプチドの中で、アラニンミメティクスであるナフチルアラニンを置換すると、興味ある結果が得られた。例えば、SEQ ID NO:1のFを、1-Nal-OH(配列表では“U”として示されている)(1-ナフチルアラニン)と置換すると、SEQ ID NO:1の活性が低下する。同じように、SEQ ID NO:1のFを、2-Nal-OH(配列表では“U”として示され、その立体異性体2-ナフチルアラニン)と置換した場合も、SEQ ID NO:1の活性が低下する。しかしながら、SEQ ID NO:3のFを、1-Nal-OH(ナフチルアラニン)と置換すると、活性が向上して、新たなヘキサペプチドSEQ ID NO:62(KWKWUW-NH2)(但し、Uは、1-Nal-OH)が生成する。同じような結果は、SEQ ID NO:3のFを、2-Nal-OH(ナフチルアラニンの異なる異性体)と置換した場合にも得られ、SEQ ID NO:63(KWKWZW-NH2)(但し、Zは、2-Nal-OH)が生成される。1-Nal-OHと2-Nal-OHの置換は、置換されたフェニルアラニンと比べて、バルクを過剰の縮合芳香族環の形態のヘキサペプチドに加えると共に、疎水性及び芳香族性を構造に付加するという仮説が立てられる。このように、バルクと疎水性は、SEQ ID NO:3、置換されたSEQ ID NO:62及びNO:63の位置5で重要であり、一方、SEQ ID NO:1の位置2で悪影響を及ぼす。
【0132】
コアペプチドKFKWPW-NH2(SEQ ID NO:1)の溶液構造は、1H-NMRによるDPCミセルの中で求められる。平均に対する最小平均二乗偏差RMSD(root-mean-square deviation)を有する構造は図9に示されており、電荷は、青で表され、疎水性は白で表される。ペプチドは、よく整列された疎水性部と、あまり整列されていない電荷部とからなる構造であると仮定される。この両親媒性は、ペプチドの活性及び作用機構に対して有意の影響を及ぼす。プロリンは、疎水性ドメインにおける構造を維持するのに重要な役割を果たすことは明らかである。
【0133】
本発明のヘキサペプチドの開発及び研究過程において、XBXBOBでないヘキサペプチドについて多くの例を同定し、これらを評価した結果、抗微生物活性を殆ど有しないか又は全く有しないことがわかった。これらのヘキサペプチドは、一般的には、「非活性(non-active)」と見なされる。非活性でXBXBOBでないヘキサペプチドの代表的な例は表13に示されている。
【0134】
【表13】

【0135】
<C.アシル化の構造活性相関>
抗微生物ペプチドのアシル化により、それらの活性が向上することはこれまでにも明らかにされている。活性の向上は、コアペプチド、結合した脂質の長さ、また場合によっては結合した脂質の種類に依存する[Radzishevsky et al(Antimicrob. Agents Chemother. 49: 2412-2420 (2005))]。コアペプチドSEQ ID NO:1を得るに当り、長さが炭素数6〜18の範囲で、アミノアシル基アミノカプリル酸を含む脂質を結合させた。結合は、標準のペプチド化学法により行なった。表14に示されるように、抗微生物活性に関して、結合した脂質の最適長さは、炭素数が8〜14であった。しかしながら、Radzishevskyらが記載したように修飾されたペプチド[Antimicrob. Agents Chemother. 49: 2412-2420 (2005)]とは異なり、SEQ ID NO:76の場合は、アミノカプリル酸などのアミノアシル基を加えても、活性の向上は認められなかったことは留意されるべきである。
【0136】
【表14】

【0137】
リポ−ヘキサペプチドは、MICデータに加えて、血清などの生物学的構成成分の存在下における細菌殺菌能力によっても区別されることは留意されるべきである。これらの環境下では、SEQ ID NO:79(P1275)及びSEQ ID NO: 83(P1343)は両方とも、非常に良好に作用していることが認められる(図10参照)。この活性は、治療能力の指標であり、MICデータだけでは自明でない。
【0138】
<D.リポ−ヘキサペプチドの作用メカニズム>
抗微生物ペプチドの従来の作用メカニズムは、細胞膜の崩壊能力であった。ヘキサペプチド及びリポヘキサペプチドが、細菌又はヒト細胞を模擬した脂質から成る脂質膜と相互作用する能力について、代表的なペプチドSEQ ID NO:1(P0666)及びSEQ ID NO:55(P1032)を用いて調べた。これらの試験では 従来の抗微生物ペプチド(アミノ酸長さ15-40)は、二層膜の破壊によって細胞質に漏れが生じ、細胞死に至らしめる。ヘキサペプチドP1032及び脂質化アナログP1032が同じような作用メカニズムを有するかどうかを調べるのに、diSC35蛍光デクエンチング法を用いた。diSC35は、膜電位感受性色素であり、細胞膜の膜電位勾配及び濃度によって活性化された細胞(energized cells)に含まれており、色素蛍光のクエンチングが起こる。膜電位が壊れると、色素が解放され、もはやクエンチされなくなり、蛍光が増加する。ここでは、生きた黄色ブドウ球菌細胞が標的有機物として用いられた。各ペプチドは細胞質膜電位を脱分極する能力を有しており、これにより、diSC35は細胞から緩衝液に放出され、これに対応して増加する蛍光が測定される。P50(VAKKLAKLAKKLAKLAL-NH2)とは異なり、膜を破壊する従来のペプチドは、P0666又はP1032はどちらも、黄色ブドウ球菌の細胞膜への浸透を生じさせることができなかった。
【0139】
黄色ブドウ球菌に膜破壊がない場合、リポソーム試験で得られたデータとよく相関している。リポソームは、細菌細胞(POPC:POPG, 3:1)又は真核細胞(POPC:コレステロール,3:1)の脂質組成を模擬して形成した。4μg/mlのヘキサペプチド又はリポヘキサペプチドはどちらもリポソーム(POPC:POPG, 3:1)から色素(cacein)は解放されなかった。なお、2μg/mlのP50は色素の解放が認められた。ヘキサペプチドは両方とも、128μg/mlでも、リポゾーム(POPC:コレステロール,3:1)から有意量のカルセインの解放は生じなかった。
【0140】
<E.抵抗の発現(Resistance Emergence)>
新規な作用メカニズムに関しては、抵抗の発現が常に懸念される。MRSA(株SAP0017)及び黄色ブドウ球菌(株ATCC 21923)を、MICの半分濃度のP1032及びP1032dの存在下で、毎日、連続的に供給した。30連続通過後、MICの変化は、開始時のMICの2倍希釈の範囲内であった。ペプチドが不存在のとき、各抵抗性株が1回するだけで元のMICに戻る結果となったから、このような抵抗は過渡的順応(transient adaptation)であることが立証された。
【0141】
本発明の望ましい実施例を明らかにするために、以下に実験例を示す。以下の実験例に開示された技術は、発明者らが発見した技術を表し、発明の実施において良く機能し、発明の実施のための好ましい態様を構成するものであることは、当該技術分野の専門家であれば理解し得るであろう。しかしながら、当該分野の専門家であれば、発明の開示に鑑みて、開示された具体的実施例に多くの変形を加えることは可能であり、発明の範囲から逸脱することなく同様な結果を得られるであろうことを理解し得るであろう。
【0142】
<F.皮膚真菌トリコフィトン・ルブルム及びトリコフィトン・メンタグロフィテスに対する抗微生物ヘキサペプチドの最小発育阻止濃度(MIC)の評価>
SEQ ID NO:1(P0666)を含む様々なヘキサペプチドの活性を比較するため、皮膚真菌トリコフィトン・ルブルム及びトリコフィトン・メンタグロフィテスに対するMICを測定した。調べた試料の濃度は、それぞれ、2000μg/ml、1000μg/ml、500μg/ml、250μg/ml及び125μg/mlであった。使用した培地は、寒天を含まない修飾サブロー培地(modified Sabouraud medium)である。修飾サブロー培地100mLを得るのに、サブローデキストロースブロス(Difco)3gを、100mLの脱イオン水の中に混合した。pHは、0.1NのNaOHにより7.0に調節した。溶液は、30分間、高圧釜で蒸気殺菌した。940μLの培地を、プラスチックキャップ付きの20mL容量の滅菌試験管の中に注いで、冷却した。
【0143】
生理食塩水50μlを、20mL試験管の中に加えて、所定濃度に調整した。対照試験管には、50μLの生理食塩水のみで、試料は含まれていない。
【0144】
MIC実験では、有機物の生理食塩水懸濁液10μLを、20mL試験管の各々に加えて、軽く撹拌した。各試験管は、パラフィルムで覆い、27℃で速度約100rpmのシェーカーに保持した。
【0145】
毎日、有機物の成長/阻止を観察した。5日目及び10日目に観察した有機物の成長を、表12に示している。250ppmのとき、大部分の有機物の成長は5日目に阻止されたため、実験は125ppmにて繰り返し行なった。化合物F1乃至F10について、10日間の真菌トリコフィトン・ルブルム及びトリコフィトン・メンタグロフィテスに対する最小発育阻止濃度(MIC100)を求めた。
【0146】
【表15】

【0147】
トリコフィトン・ルブルム及びトリコフィトン・メンタグロフィテスに対して活性が最も大きいのは、SEQ ID NO:1(P0666 KFKWPW-NH2)であることがわかった。125ppmのとき、10日間での成長は、極く僅かであった。
【0148】
<G.毒性の試験>
本発明のヘキサペプチドの全身投与の潜在的毒性効果を評価するために、抗真菌活性を示すペプチドを、マウスの尾への静脈注射(投与量20mg/kg)によりマウスの血液系へ導入した。表13のデータに示されるように、SEQ ID NO:1(Ref. P0666; KFKWPW-NH2)は、他の供試ペプチドとは異なり、全身毒性は認められなかった。
【0149】
【表16】

【0150】
<H.細胞毒性の試験>
[1]P1032のインビボ活性
濃度0.1mg/ml及び0.5mg/mlのSEQ ID NO:55(S35-2)の試料について、細胞毒性試験(試験時間24時間及び48時間)を行ない、細胞の密集度、円鋸歯状形成、空胞変性及び細胞融解を評価し、毒性のないことが確認された。
【0151】
先の試験では、抗微生物ペプチドP-50(17-mer)は、真皮層の中間に達する創傷(partial-thickness-wounds)の表面から黄色ブドウ球菌による細菌汚染の予防効果を有することが明らかになった。SEQ ID NO:55(P-1032)もまた、インビボで同様な抗微生物活性を示した。
【0152】
SEQ ID NO:55(P-1032)とP-50とのインビボでの抗微生物活性を比較評価するために、以下のパラメータを用いて試験を行なった。供試剤は全て、Helix BioMedix.Incより入手した。この試験評価した処理グループは次の2つである。
I.HEC4%の溶液に含まれるP-50ペプチド1%、及び
II.HEC4%のジェルに含まれるSEQ ID NO:55(P-1032)が1%のペプチド
【0153】
供試剤は両方とも、無菌技術を用いて、3ml容量のシリンジに移した。試験では、0.5mlの適量の供試剤を各創傷に施し、溶液又はジェルの薄層で創傷の表面全体を覆った。供試細菌は、黄色ブドウ球菌(ATCC12600)である。これらの試験結果は表14〜16に示されている。
【0154】
12匹のSprague-Dawley系雌ラット(250-280g)に麻酔を施し、外科処置の準備をした。各ラットの背中に、Brown Dermatomeを用いて、真皮層の中間に達する1"×1"の傷をつけた。各創傷を、3.1×105/0.05mlの黄色ブドウ球菌(LOG5.49)で汚染した。創傷を30分間乾燥させた後、ラットを、4つの処理グループに等しく分けた。各グループでは、創傷に対して適当な供試剤を0.5ml施した。各創傷は、透明のフィルムドレッシング、ガーゼパッドで被覆し、粘着テープで固定した。
【0155】
ラットを、最初の処理を行なった後24時間麻酔し、その後バンテージを外した。傷の表面を湿ったガーゼで軽くきれいにした後、局部に供試剤0.5mlを新たに施した。ラットは、前記のとおり、もう一度バンテージを施した。
【0156】
48時間後に、ドレッシングの交換と供試剤の投与を再び行なった。この結果、各ラットには、供試剤が3回投与されたことになる。
【0157】
外科処置から72時間経過後、ラットを安楽死させ、パンチ生検を行なうために、皮下組織に達する(full-thickness)直径8mmの創傷を、創傷の中央部から切り取った。予め検量されたチューブの中には5mlの生理食塩水が入れられており、該チューブの中に生検試料を入れ、再検量して試料重量を求めた。組織グラインダーを用いて、生検試料を均質化し、連続的に希釈し、平板を作り(plated)、組織1グラムあたりの細菌数を求めた。
【0158】
外科処置を行なう18時間前に、黄色ブドウ球菌の単一コロニーを、殺菌ループを用いて、ストックプレートからトリプチケースソイブロス(trypticase soy broth)に移した。肉汁培養は、37℃の水槽中で18時間撹拌した後、3200rpmで10分間遠心分離することによって細菌を集めた。細菌ペレットを0.9%の生理食塩水溶液中で2回洗浄を行なった後、遠心分離によって再び集めてペレットにした。ペレットを2mlの生理食塩水中で再懸濁し、十分に混合してストック溶液を生成した。次に、ストック溶液から、10-1〜10-8の範囲内で1:10の希釈液を調製した。プレーティング法を用いて、ストック溶液中の細菌数を計量し、引き続いて1:10の希釈液の細菌数を計量した。使用した接種材料を計算したところ、3.1×105 CFU/0.05ml(LOG5.49)であった。接種材料を入れたチューブは、氷の上に載せて緩やかに撹拌し、使用直前に滅菌ピペットチップの中へ導入した。
【0159】
12匹のSprague-Dawley系雌ラット(250-280g)を使用した。これらラットには、ケタミン(50mg/kg)とキシラジン(10mg/kg)の混合物の筋肉内投与することにより麻酔を施した。背部の毛を電気クリッパーでクリップし、ナイール(Nair)で脱毛した。アルコール耐性マーカーを使用して、背中の中央に1"×1"のテンプレートをトレースした。次に、皮膚をヨードフォアでスクラブした後、70%イソプロピルアルコール、ヨードフォア溶液及び70%のアルコールに浸漬した。潤滑のために、グラフト領域(graft area)及び皮膚分節の上を、Shur-Clensでぬぐった。次に、エアー駆動式のブラウン・デルマトーム(Brown Dermatome)を用いて、マークした1"×1"の領域から、標準的な真皮層の中間までの厚さの皮膚グラフト(厚さ0.015")を取り除いた。
【0160】
乾いたガーゼで止血を行なった後、エッペンドルフピペッター(Eppendorf pipetter)を用いて、正確に0.05mlの量の接種材料を各創傷に施した。創傷を30分間乾燥させた後、各創傷に0.5mlの局所剤を施した。各創傷は、透明の傷用ドレッシング(Teqaderm,3M,セントポール、ミシガン)で覆った。ラットを滅菌ガーゼでバンデージし、3"布テープで2周巻き付けた。それらラットには、鎮痛剤ブプレノルフィン(Buprenorphine)を投与し、麻酔から覚めた後は、標準の住居に戻して、世話をした。
【0161】
手術から24時間後及び48時間後、全てのラットにイソフルオランを吸入させて麻酔を行ない、それらのバンテージを取り外した。ドレッシングの取外しは注意深く行ない、存在する流体は全て、滅菌ガーゼでぬぐい取った。次に、所定の治療用ジェル0.5mlを、傷の全体表面に均一に施した後、外科処置を施した後と同じように、ラットを再びドレッシングで覆った。
【0162】
[2]創傷外観の分析
ドレッシングを交換する毎に、各創傷を観察し、傷の表面及び組織反応を評価した。チェックした傷の状態は、次の5項目である。
i.創傷フィルムの状態: 傷を覆うのに用いた接着フィルムは、傷周囲の皮膚にまだ完全に接着しているか?
ii.傷表面: 傷表面の外観はどうなったか?
iii.浸出物(exudate)の量: フィルムの下にトラップされた浸出物の量は? 多くの場合、浸出物が蓄積されると接着性が損なわれるため、浸出物が漏出する。
iv.組織反応の重症度: 組織反応の程度を、1(小さい)、2(中程度)、3(大きい)の3段階で評価した。
v.影響を受けた組織の%: 傷表面に、変性して脆弱な組織が含まれる場合、ガーゼを押圧することによって傷表面をぬぐい取れることがある。この試験により、変性組織と粘性浸出物との区別をより良好に行なうことができる。
【0163】
[3]細菌数の評価
手術から72時間後に、ラットを、安楽死させて、ドレッシングを取り除き、パンチ生検を行なうために、皮下組織に達する直径8mmの創傷を、創傷の中央部から切り取った。予め検量されたチューブの中には5mlの生理食塩水が入れられており、該チューブの中に生検試料を入れた。試料が入れられたチューブを再検量し、試料重量を求めた。生検試料を均質化した後、4倍に希釈し、トリプチケースソイ寒天平板培地を作った。平板を一晩培養し、コロニーを計数し、組織1グラム当たりの細菌数を算出した。得られた細菌数は、10を底とする対数に変換した。各グループの平均及び標準偏差を計算し、ANOVA(Analysis of Variance(分散分析))を用いて、3つの治療グループにどんな有意な相違があるかを調べた。
【0164】
[4]手術後の合併症
試験中、全てのラットは、合併症を起こすことなく生存した。
処置した12の傷のうち、11の傷の中に細菌は検出されなかった(表17及び18)。1%P-50で処置を施した傷に、黄色ブドウ球菌が少し検出された(表18)。
【0165】
[5]組織の反応
一般的には、ペプチドSEQ ID NO:55 ( P-1032)に対する組織の反応は、軽度であったが、P-50に対する反応は、軽度乃至中程度であった(表19の結果を参照)。
【0166】
[6]結果の要約
4%HEC中での1%SEQ ID NO:55 (P-1032)の黄色ブドウ球菌(ATCC12600)に対する抗微生物作用は、1%P-50と同程度であった(表17−18)。
【0167】
【表17】

【0168】
【表18】

【0169】
【表19】

【0170】
明細書に開示され、特許請求の範囲に記載された組成物及び/又は方法及び/又は工程は全て、開示された内容を参照することにより、必要以上の実験を行なうことなくなし得ることができる。本発明の組成物及び方法が、好ましい実施例として記載したものであって、当該分野の専門家であれば、発明の概念及び範囲から逸脱することなく、明細書に記載された組成物及び/又は方法並びに方法のステップ又はステップの順序について、変形をなし得るであろう。より具体的に述べると、化学的及び生理学的の両方に関連する製剤については、本明細書に記載した製剤に代えて用いることによって、同一又は同様の結果が得られるだろう。当該分野の専門家にとって自明であるそのような代替物及び変形は全て、本発明の範囲及び概念に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】SEQ ID NO:1 (P0666)について、リポソームによってもたらされる脂質環境とペプチドとの相互作用による構造変化を示す円二色性プロットである。
【図2】ペプチドSEQ ID NO:55 (P1032)による環境下で、膣刺激剤における細菌(S.aureus)及びイースト(C.albicans)の殺菌を示す殺菌曲線(kill curve)である。
【図3】この環境下で、80%血清におけるSEQ ID NO:55 (P1032)のS.aureusを殺菌能力を示す殺菌曲線である。
【図4A】ナフチルアラニン−1及びナフチルアラニン−2の構造を図で表したもので、それらの類似性及び芳香族特性を示す図である。
【図4B】ナフチルアラニン−1及びナフチルアラニン−2の構造を図で表したもので、それらの類似性及び芳香族特性を示す図である。
【図5】10%血清において、脂質化ペプチドSEQ ID NO:55 (P1032)の細菌(S. aureus)殺菌能力と、その環境下で脂質化されていない親ペプチドSEQ ID NO:1 (P0666)の細菌(S. aureus)殺菌能力を比較したもので、前者の殺菌能力の向上を示す殺菌曲線である。
【図6】10%血清において、SEQ ID NO:55 (P1032)の活性と、SEQ ID NO:56 (P1033)及びP50 (an active 17-mer)の活性との比較を示す殺菌曲線である。
【図7】SEQ ID NO:72 (P1148)が、P50 (an active 17-mer)と同程度まで結合することを示すLTA結合アッセイを示す図である。
【図8】10%血清において、SEQ ID NO:55 (P1032)の活性と、P64(従来のカチオニック抗微生物ペプチド)の活性との比較を示す殺菌曲線である。
【図9】H-NMRによって決定されたSEQ ID NO:1 (P0666)の構造を表す図であって、電荷は黒で示され、疎水性は白で示されている。
【図10】80%血清環境において、SEQ ID NO:72 (P1148)、SEQ ID NO:83 (P1343)、SEQ ID NO:79 (P1275)及びSEQ ID NO:80 (P1276)の活性を示す殺菌曲線である。
【図11】1mg/ml脂質及び10%血清の環境において、SEQ ID NO:55 (P1032)の活性と、P64(従来のカチオニック抗微生物ペプチド)の活性との比較を示す殺菌曲線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘキサペプチド構造が式XBXBOBで表され、1位及び3位に親水性荷電残基(X)、2位、4位及び6位に疎水性残基(B)、並びに、5位にナフチルアラニン、脂肪族又は芳香族の残基(O)を有する抗微生物ヘキサペプチド。
【請求項2】
Xはアルギニン(R)及びリジン(K)からなる群から選択され、Bはフェニルアラニン(F)及びトリプトファン(W)からなる群から選択され、Oはナフチルアラニン(Nal)、プロリン(P)及びフェニルアラニン(F)からなる群から選択される請求項1のヘキサペプチド。
【請求項3】
ナフチルアラニン(Nal)は、1-Nal-OH(U)又は2-Nal-OH(Z)である請求項2のヘキサペプチド。
【請求項4】
ヘキサペプチドは、KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:1)、KWRWPW-NH2 (SEQ ID NO:2)、KWKWFW-NH2 (SEQ ID NO:3)、RWRWPW-NH2 (SEQ ID NO:4)、KFKWFW-NH2 (SEQ ID NO:6)、RFKWFW-NH2 (SEQ ID NO:7)、OCT-KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:55)、OCT-KWKWFW-NH2 (SEQ ID NO:56)、KWKWUW-NH2 (SEQ ID NO:62)、及びKWKWZW- NH2 (SEQ ID NO:63)からなる群から選択される請求項2のヘキサペプチド。
【請求項5】
ヘキサペプチドはSEQ ID NO:1である請求項1のヘキサペプチド。
【請求項6】
ヘキサペプチドは修飾されている請求項1のヘキサペプチド。
【請求項7】
修飾は脂質化又はアミド化である請求項6のヘキサペプチド。
【請求項8】
脂質はヘプタン酸、ノナン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、ウンデカン酸、トリデカン酸又はオクタン酸からなる群から選択される請求項7のヘキサペプチド。
【請求項9】
ヘキサペプチドは、Hep-KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:69)、Non-KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:70)、Lau-KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:72)、Myr-KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:77)、Pen-KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:78)、Und-KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:79)、Tri-KFKWPW-NH2 (SEQ ID NO:80)、Oct-kfkwpw-NH2 (SEQ ID NO:81)、Lau-kfkwpw-NH2 (SEQ ID NO:83)、及びOct-KFKWPw-NH2 (SEQ ID NO:84)からなる群から選択される請求項8のヘキサペプチド。
【請求項10】
請求項1のヘキサペプチドと、医薬的に許容されるキャリアとを含む組成物。
【請求項11】
ヘキサペプチドは水溶液に可溶である請求項10の組成物。
【請求項12】
ヘキサペプチドは、約0.0002%〜約90%の範囲内で治療上有効な濃度で存在する請求項10の組成物。
【請求項13】
前記治療上有効な濃度は、約0.5%〜約10%の範囲である請求項10の組成物。
【請求項14】
溶液、化粧品、パウダー、エマルジョン、ローション、スプレー、軟膏、エアロゾル、クリーム及びフォームからなる群から選択される形態である請求項10の組成物。
【請求項15】
ヘキサペプチドは脂質化又はアミド化される請求項10の組成物。
【請求項16】
脂質は、ヘプタン酸、ノナン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、ウンデカン酸、トリデカン酸又はオクタン酸からなる群から選択される請求項15の組成物。
【請求項17】
哺乳類の微生物感染の治療又は予防を行なう方法であって、哺乳類に対し、請求項1のヘキサペプチドを治療上有効な量を投与することを含んでいる方法。
【請求項18】
微生物感染は、真菌感染又は細菌感染又は真菌と細菌の混合感染である請求項17の方法。
【請求項19】
真菌感染は、カンジダ・アルビカンス、トリコフィトン・ルブルム及びトリコフィトン・メンタグロフィテスからなる群から選択される真菌によって引き起こされる請求項18の方法。
【請求項20】
細菌感染は、緑膿菌、大腸菌及び黄色ブドウ球菌からなる群から選択される細菌によって引き起こされる請求項18の方法。
【請求項21】
真菌細胞の増殖を阻害する方法であって、真菌細胞を、請求項1の組成物と接触させることにより、真菌細胞の増殖を阻害する方法。
【請求項22】
植物の病原体は、Mycosphaerella brassicicola、Pyrenopeziza brassicae、Peronospora destructor及びBotrytis squamosaからなる群から選択される請求項21の方法。
【請求項23】
真菌細胞は、トリコフィトン・ルブルム及びトリコフィトン・メンタグロフィテスからなる群から選択される請求項21の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2008−537537(P2008−537537A)
【公表日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555158(P2007−555158)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【国際出願番号】PCT/US2006/004147
【国際公開番号】WO2006/086321
【国際公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(507268983)ヘリックス バイオメディックス インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】HELIX BIOMEDIX INC.
【Fターム(参考)】