説明

抗微生物材料およびろ過材料製造用ポリマー発泡体の金属処理方法

銀などの金属でポリマー発泡体を金属処理する方法により、抗微生物材料を製造する金属処理ポリマー発泡体の製造方法。発泡材料はポリウレタン、ポリエステル、ポリエーテル、またはこれらの組み合わせである。本方法は金属の3次元的な表面コーティングである。金属処理された基材は耐久性を有し、かつ高度に粘着性である。このように金属化された発泡体は高効率なフィルターおよび/または抗微生物製品である。ろ過機構はおもにファン・デル・ヴァール引力による。抗微生物活性は、部分的には刺激に応答した選択的な金属の放出によると思われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗微生物材料の形成方法に関する。より詳細には、本発明は抗微生物活性および/またはろ過特性を有する発泡材料を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術の中には、発泡体基材を金属処理する方法を記載したものがある(例えば、特許文献1乃至3)。EMI遮蔽などの様々な用途のために、発泡体を金属処理するための様々な方法が用いられてきた。特許文献1は、EMI用途のための銅/ニッケルによる金属処理を検討している。発泡体に対する金属の付着性は良いものの、銅は銀とは堆積速度が異なるため、その工程では良好な銀コーティングを製造することができない。さらに、銅/ニッケルが抗微生物特性を有していないので、これらの材料は抗微生物活性を有していない。特許文献2および3は、医療用/抗微生物用途または可撓性を有するフィルターとしては使用され得ない硬質発泡体を製造するものである。
【特許文献1】米国特許第6,395,402号明細書
【特許文献2】米国特許第5,151,222号明細書
【特許文献3】米国特許第3,661,597号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、銀を用いることが可能な、発泡体を金属処理する方法が必要である。さらに、抗微生物活性を有する発泡体材料を形成する方法が必要である。また、フィルターとして使用可能であり、かつ抗微生物活性を有する発泡体材料を形成する方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は発泡体材料を金属処理する方法を提供する。本方法を用い、銀などの金属で発泡体を金属処理することにより、抗微生物活性を有する発泡体材料を形成することができる。得られる発泡体はフィルター材料などの多様な用途に用いることができる。活性化工程/核形成工程の必要なく発泡体材料を金属処理することができるので、本発明の方法は従来技術よりも簡単である。また得られる発泡体は、その製品が低抵抗値および/または最適な金属イオン放出量を有するように設計することもできる。本発明の方法は、発泡体をエッチングする工程と、発泡体の金属処理前工程と、銀による発泡体の金属処理工程とのうちの1つ以上の工程を用いる。最終的な発泡体に選択された特性に応じて、本方法はこれらの工程のうちの幾つか、または全工程を用いることができる。
【0005】
これらの実施態様および他の実施態様を以下に詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明を以下の説明および例によりさらに詳細に説明する。なお例は例示のみをすることを意図するものであり、多くの変更および改変を行うことは当業者にとっては自明のことである。
【0007】
本発明は発泡体材料を金属処理する方法を提供する。本方法は、材料に対して抗微生物活性を付与する金属で発泡体を金属処理することにより、抗微生物活性を有する発泡体材料を形成するために用いることができる。得られる発泡体は、金属処理発泡体をフィルター材料として使用するなど、抗微生物活性を有する材料からの恩恵を得ることができる多様な用途に用いることができるが、用途はこれに限定されない。本発明の方法は、従来技術の方法よりも簡単であるが、その理由は、従来技術の方法にでは一般に実施される活性
化工程/核形成工程の必要がなく、発泡体材料を金属処理することができるからである。得られる金属処理された発泡体材料は、金属が発泡体に充分に接着して形成される。得られる発泡体材料は、低抵抗値および/または最適な銀イオン放出量を有するように設計することができる。
【0008】
本発明の方法は、活性化剤を要することなく、発泡体を金属処理するように設計される。従って本発明の方法は、発泡体のエッチング工程、発泡体の金属処理前工程、および/または発泡体を選択した金属で金属処理する工程のうちの1つ以上の工程により、薄膜を金属処理することができる。最終的な発泡体の選択された特性に応じて、これらの工程のうちの1つ以上を省略しても金属処理発泡体製品を得ることができる。本方法において「エッチング剤」とは発泡体の一部分を腐食したり除去したりすることができ、金属処理予定の発泡体基材に対して金属をよりよく接着させることができる材料である。
【0009】
従って、第1の態様において、本発明の方法は発泡体をエッチングし、発泡体の表面積を増大させる。発泡体をエッチングするため、先ず発泡体基材をエッチング剤を用いてクエンチし、その後水洗する。一実施態様において、エッチング剤はアルカリ溶液である。アルカリ溶液の種類は、発泡体基材の一部を除去したり腐食したりすることができる任意のアルカリ溶液でよい。用いられるアルカリ溶液の種類は、エッチングされる発泡体基材、付与される金属、好ましいエッチング度合い、および/または金属処理された発泡体の最終的な特性などの1つ以上の要因により変更され得るが、要因はこれらに限定されない。エッチング剤として使用され得るアルカリ溶液の例には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化フランシウム、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、などのアルカリ性水酸化物、またはこれらの組み合わせがあるが、これらには限定されない。一実施態様において、アルカリ溶液は水酸化ナトリウムである。
【0010】
発泡体はエッチング剤を含有する溶液に発泡体基材を浸漬させることによりエッチングされる。本願において「浸漬する」とは、溶液が発泡体基材の表面積の少なくとも一部と接触する任意の方法を意味し、短時間の浸漬(dipping)、噴霧、充分な浸漬(immersing)、溶液をかけること(クエンチ、quenching)、および/または溶液を基材の少なくとも一部に付与することができる任意の他の方法を含むが、方法はこれらに限定されるものではない。
【0011】
一実施態様において、本方法の第1の工程は、第2の工程の直前またはその後に実施される次工程のための準備工程として実施することができる。従って、大量処理工程において、厚手の発泡体および/または発泡体量を拡大して処理することができる。製造者は厚さ2.54cm(1インチ)、長さ3.66m(12フィート)以上の発泡体を一時にクエンチ処理することができる。これに代えて、火炎処理されたエッチング未了の発泡体を、社内で水酸化ナトリウムの強力な溶液を用いてエッチングすることができる。
【0012】
第1のエッチング工程は、エッチングされる発泡体の種類、使用されるエッチング剤、および/または最終製品の選択された特性に応じて、所定の操作温度、および/または浸漬時間すなわちエッチング時間の下で実施される。本発明の方法に関する様々な実施態様を以下に記すが、本発明の範囲の中には他の実施態様もふくまれることは理解されるべきである。発泡体のエッチングされたパーセントを表1に示す。
【0013】
【表1】

【0014】
処理工程が実施される温度を表2に示す。
【0015】
【表2】

【0016】
処理工程のエッチング時間を表3に示す。
【0017】
【表3】

【0018】
エッチングの温度および時間は、エッチング剤溶液の濃度に依存し得る。
発泡体がエッチングされた後、同発泡体表面を濡れるようにしたり、残渣やごみがないようにしたりするため、非イオン性界面活性剤または他の適切な材料により発泡体を処理することができる。70℃未満の温度を有する脱イオン水を用いる優れた水洗工程は、表4に記載の実施態様により行うことができる。
【0019】
【表4】

【0020】
下記の化学作用が発泡体材料の表面を活性化するのに十分であるため、ポリエーテル発泡体にはエッチングされなくてもよいものがある。その結果、本発明の方法に関して、ポリエーテル発泡体が発泡体基材として用いられるときには、発泡体を金属処理する準備のための活性化工程/核形成工程、またはエッチング工程を必要とすることなく金属処理され得る。
【0021】
発泡体のエッチング工程の後、本発明の方法は金属処理前工程を有することができる。金属処理前工程は、発泡体に金属を付与するための準備をするとともに、金属が発泡体基材に対して接着することを促進するために行われる。一実施態様において金属処理前工程は、エッチングされた発泡体を酸溶液に浸漬することにより実施することができる。このとき、塩酸などによる酸浸漬を用いることができる。酸浸漬は溶媒として酸を用いる金属処理前工程として作用する。硫酸または硝酸などの他の酸を金属処理前工程に用いることができる。その後、金属処理前工程が完了した後、水洗工程を実施することができる。
【0022】
金属処理前工程における滞在時間に関して、種々の実施態様を表5に示す。
【0023】
【表5】

【0024】
金属処理前工程における酸の濃度に関しては、種々の実施態様は表6に示すとおりである。
【0025】
【表6】

【0026】
一実施態様において、金属処理前工程は第1塩化スズと塩酸との混合物を用いる。一実施態様において、第1塩化スズの量は約60g/l〜約140g/lの間から選択され、塩酸の濃度は約6〜約15%とすることができる。滞在時間は約3〜約15分の範囲から選択することができる。金属処理前工程が終了すると、水流が制御された特別な逆流により水洗する工程を続けることができる。この工程において酸により基材から過剰の塩および酸を除去しつつ、基材表面上に最適な量の活性種を残留させることができる。塩酸濃度に関しては、種々の実施態様は表7に示す通りである。
【0027】
【表7】

【0028】
第1塩化スズ濃度に関しては、種々の実施態様は表8に示す通りである。
【0029】
【表8】

【0030】
滞在時間に関しては、種々の実施態様は表9に示す通りである。
【0031】
【表9】

【0032】
酸濃度、第1塩化スズ濃度、および/または滞在時間は各表に記載された順序に用いられる必要はなく、これらは任意の順に、またはこれらを組み合わせて用いられてもよいことは理解されるべきである。従って、一実施態様において、酸濃度は約5〜約20%であって、第1塩化スズ濃度は約10%であり、滞在時間は約5〜約60分であることができる。これに代えて、別の実施態様において、酸濃度は約8〜約18%、第1塩化スズ濃度は約5〜約40%、さらに滞在時間は約10〜約50分あることができる。
【0033】
発泡体を上記のように調製したのち、本発明の方法は次に発泡体に対して金属を付与する最終工程を備える。本工程は金属処理工程と称される。金属処理工程は米国特許第3,877,965号明細書または米国特許出願番号第10/666,568号明細書に記載されている公知の金属処理技術を用いて実施され得る。
【0034】
その後、金属処理された発泡体は60〜70℃のオーブン中に約30分静置されて半クエンチ(semi−quenching)効果を生じさせ、金属が発泡体に接着することを補助する。
【0035】
本発明の方法は発泡体基材に対して接着させたい様々な金属を用いることができる。一実施態様において金属は銀である。銀は発泡体基材に対して抗微生物性、導電性、および/または帯電防止特性を付与する。これに代わる実施態様において、金属は銅、金、アルミニウム、または発泡体基材に対して接着することができる任意の他の金属から選択され得る。
【0036】
本発明は任意の種類の発泡体を用いることができる。使用可能な発泡体の例には、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエーテル、またはこれらの組み合わせがあるが、これらに限定されない。得られた発泡体は、従来技術による発泡体と比較すると、抵抗値(Ω/単位面積)、抗微生物特性、イオン放出量、またはこれらの組み合わせが高い。
【0037】
本発明の方法により製造された金属処理された発泡体製品は、金属によりもたらされる利点が利用される任意の用途に用いられ得る。例えば、金属が銀であれば抗微生物特性が優れるので、金属処理された発泡体は液体ろ過用のろ過材料として使用され得る。さらに、発泡体は薄膜状をなして、傷の回復を補助するための傷用の包材として使用され得る。
【0038】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。これらの実施例は限定することを意図するものではなく、本発明の様々な実施態様をよりよく理解するためのものであることは理解されるべきである。
【実施例】
【0039】
実施例1 4.2gの硝酸銀を脱イオン水に溶解して処理浴を準備した。その後27%アンモニア水3.3mlを用いて錯塩形成させた。24.0gのクエンチ済発泡体試料を
、トリトンX−100などの非イオン性界面活性剤を用いて洗浄し、その後充分に水洗した。発泡体は15%HClを用い20分間エッチングを行った。その後、発泡体を10%HClおよび10g/lの無水塩化スズを含有する溶液により20分間金属処理前工程で処理した。さらに発泡体を逆流脱イオン水により水洗した。0.63gのEDTA−4ナトリウム塩を2リットルの脱イオン水に溶解した。6.5mlのNEL/AEM界面活性剤も前記処理浴に添加した。発泡体を反応浴中に配置し、溶液を撹拌した。銀錯塩を添加し、さらに1.8mlのホルムアルデヒドを添加した。3時間後に試料を取り出し、熱水により水洗した。その後、0.2%NaOH溶液を50mlに仕上げ、60℃にした。金属処理された発泡体をその後この溶液に浸漬した。色調は金色に変化した。
【0040】
実施例2 実施例1により得た試料を裁断し、1.5gの試料を調製した。これを5%の塩化ナトリウムを有するビーカー中に37℃、24時間静置した。1時間後の溶液を、パーキンエルマー社製原子吸光分析装置アナリスト300を用いて銀イオンを測定した。イオン放出量は0.5ppmであった。
【0041】
実施例3 実施例1により得た試料を裁断し、0.75gの試料を調製し、ダウコーニング社試験方法0923および/またはASTM E−2149試験法に供した。用いた微生物は黄色ブドウ球菌ATCC6538であった。微生物の増殖は99.9%を超えて低減された。
【0042】
実施例4 実施例1により得た試料を米国特許出願第10/836,530号明細書に記載の方法と同様の処理を行った。その後この試料を実施例2に記載のイオン放出量測定により測定した。イオン放出量は1時間で6.2ppmであった。
【0043】
実施例5 実施例1により得た試料を、ASTM E−2149試験法により抗微生物性の有効性を測定した。用いた微生物は黄色ブドウ球菌ATCC6538であった。微生物の増殖は99.9%を超えて低減された。
【0044】
上記は本発明の実施態様を例示、説明、および描写するために提示されたものである。これらの実施態様に対する改変および改作は当業者にとって自明のことであるとともに、本発明の範囲および精神から逸脱することなく為され得ることである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡体を金属処理する方法であって、
エッチング剤を用いて前記発泡体基材の表面の一部をエッチングし、前記発泡体基材の表面積を増大させるエッチング工程と、
前記発泡体基材に金属処理の前処理を行い、前記発泡体基材に金属を付与する準備を行う金属処理前工程と、
前記発泡体基材に金属処理を行い、前記発泡体に金属を付与する金属処理工程とを備え、前記方法は活性化工程を要しない方法。
【請求項2】
エッチング剤はアルカリ溶液からなる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルカリ溶液は水酸化アルカリからなる請求項2に記載の方法。
【請求項4】
水酸化アルカリは水酸化ナトリウムからなる請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記発泡体基材の金属処理前工程は、塩化第1スズと酸との混合物を用いる工程と、前記発泡体基材を同混合物中に浸漬する工程とからなる請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記発泡体基材は前記混合物中に約5〜約60分間浸漬される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記混合物は約5〜約40%の塩化第1スズと、約4〜約25%の酸とを含む請求項5に記載の方法。
【請求項8】
金属は銀、金、アルミニウム、銅、およびこれらの組み合わせのうちの1つである請求項1に記載の方法。
【請求項9】
金属は銀からなる請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法により製造される金属処理された前記発泡体基材。
【請求項11】
ポリエーテル発泡体を金属処理する方法であって、
前記発泡体基材に金属処理の前処理を行い、前記発泡体基材に金属を付与する準備を行う工程と、
前記発泡体基材に金属処理を行い、前記発泡体に金属を付与する工程とを備え、前記方法はエッチング工程または活性化工程を要しない方法。

【公表番号】特表2008−515656(P2008−515656A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−530050(P2007−530050)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【国際出願番号】PCT/US2005/029956
【国際公開番号】WO2006/023913
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(505475323)ノーブル ファイバー テクノロジーズ エルエルシー (1)
【氏名又は名称原語表記】Noble Fiber Technologies, LLC
【住所又は居所原語表記】300 Palm Street Scranton, Pennsylvania 18505 U.S.A.
【Fターム(参考)】