抗炎症剤及び薬用組成物
【課題】炎症性細胞が産生する種々の炎症性メディエーターによる炎症反応や、炎症局所における前記炎症性細胞の浸潤を抑制することができ、副作用がなく、優れた抗炎症活性を有する抗炎症剤、前記抗炎症剤を含有し、局所炎症の予防乃至治療に有効な薬用組成物の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物乃至その塩を含有し、炎症性細胞の活性化を抑制する抗炎症剤。
前記一般式(1)において、Xは、NHCOCF3、NHCOCCl3、NHC(=NH)NH2などで表される置換基のいずれかを示す。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物乃至その塩を含有し、炎症性細胞の活性化を抑制する抗炎症剤。
前記一般式(1)において、Xは、NHCOCF3、NHCOCCl3、NHC(=NH)NH2などで表される置換基のいずれかを示す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗炎症剤及び該抗炎症剤を含有する薬用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
生体は、細菌等の病原体の侵入、高温等の物理的障害、有機溶剤等の化学物質などによる有害な刺激により組織が障害されると、サイトカイン、ヒスタミン、ロイコトリエン等の炎症性メディエーターが放出され、発熱、疼痛、発赤、腫脹等を伴う炎症性疾患が引き起こされる。放出された炎症性メディエーターは、血管に作用し、血管拡張や局所の血管壁の基底膜の透過性を亢進させる。そのため炎症が起こると局所において炎症性細胞の血管外浸潤が促進される。
【0003】
前記基底膜の構成成分としては、コラーゲン、ラミニン、へパラン硫酸プロテオグリカンなどが知られている。このうち、ヘパラン硫酸の分解に関与する酵素としてヘパラナーゼが知られており、前記炎症性細胞は、このヘパラナーゼを発現していることが開示されている(非特許文献1〜2参照)。
前記炎症性細胞とは、炎症局所へ遊走して作用する細胞であり、主として急性期の炎症反応にみられる好中球や、炎症反応の慢性期にみられるリンパ球や単球などが挙げられる。
【0004】
炎症反応を抑制する手段としては、様々な方法が試みられている。例えば、前記炎症性メディエーターの酵素活性阻害物質や拮抗物質、前記炎症性メディエーターを産生する炎症性細胞に対する阻害物質等の適用などが挙げられる。
【0005】
前記炎症性メディエーターの酵素活性阻害物質としては、アスピリンやインドメタシンなどをはじめとするNSAIDS(非ステロイド系抗炎症薬)が知られている。前記NSAIDSは、アラキドン酸からプロスタグランジン類を合成する酵素であるシクロオキシゲナーゼを阻害し、炎症性メディエーターであるプロスタグランジンE2の産生を抑制することにより炎症反応の諸症状を緩和する薬剤である。
しかし、炎症性疾患に対して充分な治療効果があるとはいえず、また長期にわたる連続投与により胃粘膜障害や腎障害等の消化管障害を起こすなどの副作用もあるため、その臨床利用が制限されることがある点で問題であった。
【0006】
前記炎症性メディエーターの拮抗物質としては、ステロイドホルモン剤やメトトレキセート等の代謝拮抗薬が知られている。前記代謝拮抗薬は、前記NSAIDSに比べて有効であることが知られている。
しかし、前記代謝拮抗薬は、非特異的に免疫系を抑制するため、細菌等による感染症を引き起こしやすくなる点で問題であった。また、前記ステロイドホルモン剤は、副腎皮質機能不全をはじめとする重篤な副作用を引き起こすことがあり、前記メトトレキセートは、造血系、消化器系、精神及び神経系などに重篤な副作用を示すことがある点で問題であった。
【0007】
一方、前記基底膜を浸潤する細胞としては、炎症性細胞の他に癌細胞が知られており、(3S,4S,5R,6R)−6−(トリフロロアセタミド)−4,5−ジヒドロキシピペリジン−3−カルボン酸、(3S,4S,5R,6R)−6−(トリクロロアセタミド)−4,5−ジヒドロキシピペリジン−3−カルボン酸、及び(3S,4S,5R,6R)−6−グアニジノ−4,5−ジヒドロキシピペリジン−3−カルボン酸が、癌細胞の転移を抑制することが開示されている(特許文献1〜2参照)。また、前記化合物は、へパラナーゼ阻害活性を有することが開示されている(非特許文献3〜5参照)。
【0008】
しかし、炎症反応は、癌細胞の転移とは異なり、種々の炎症性メディエーターにより反応が活性化されるため、その機構は非常に複雑である。したがって、単に炎症性細胞の浸潤を抑制すれば炎症反応が抑制されるというものではなく、前記化合物の炎症反応における作用は未だ不明である。
【0009】
そこで、前記炎症性細胞が産生する種々の炎症性メディエーターによる炎症反応や、炎症局所における前記炎症性細胞の浸潤を抑制することができ、副作用がなく、優れた抗炎症活性を有する抗炎症剤、前記抗炎症剤を含有し、局所炎症の予防乃至治療に有効な薬用組成物の提供が望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3242472号
【特許文献2】特許第3806456号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Sasaki N, et al., J. Immunol, 2004, 172(6), 3830−3835
【非特許文献2】Komatsu N, et al., J. Immunol. Methods, 2008, 331(1−2), 82−93
【非特許文献3】Nishimura Y, et al., J. Org. Chem., 2000, 65(1), 2−11
【非特許文献4】Takahashi H, et al., Biochim. Biophys. Acta, 2008, 1780(4), 709−715
【非特許文献5】Kondo K,et al., Bioorg. Med. Chem, 2001, 9, 1091−1095
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、炎症性細胞が産生する種々の炎症性メディエーターによる炎症反応や、炎症局所における前記炎症性細胞の浸潤を抑制することができ、副作用がなく、優れた抗炎症活性を有する抗炎症剤、前記抗炎症剤を含有し、局所炎症の予防乃至治療に有効な薬用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、後述する一般式(1)で表される化合物は、弱酸性から中性条件下及び血液内で後述する構造式(1)〜(6)で表される化合物に構造変換されること、一般式(1)で表される化合物を生体内の局所炎症部位に投与することにより炎症性細胞からの炎症性細胞由来酵素の放出を抑制できること、更に、局所炎症部位における細胞の浸潤を顕著に抑制でき、これらの中でも、炎症性細胞の浸潤を抑制できることを知見し、本発明の完成に至った。
【0014】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 下記一般式(1)で表される化合物乃至その塩を含有し、炎症性細胞の活性化を抑制することを特徴とする抗炎症剤である。
【化1】
前記一般式(1)において、Xは、NHCOCF3、NHCOCCl3、NHC(=NH)NH2、及び下記一般式(2)で表される置換基のいずれかを示す。
【化2】
<2> 炎症性細胞の活性化の抑制が、炎症性細胞由来酵素の放出抑制である前記<1>に記載の抗炎症剤である。
<3> 炎症性細胞の活性化の抑制が、炎症性細胞の炎症部位への浸潤の抑制である前記<1>に記載の抗炎症剤である。
<4> 一般式(1)で表される化合物乃至その塩が、弱酸性から中性条件下で下記構造式(1)から(6)の少なくともいずれかで表される化合物に構造変換される前記<1>から<3>のいずれかに記載の抗炎症剤である。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
<5> 弱酸性から中性条件が、pH3〜pH8である前記<4>に記載の抗炎症剤である。
<6> 一般式(1)で表される化合物乃至その塩が、生体内で構造式(1)から(6)の少なくともいずれかで表される化合物に構造変換される前記<1>から<5>のいずれかに記載の抗炎症剤である。
<7> 一般式(1)で表される化合物乃至その塩が、下記構造式(7)で表される化合物である前記<1>から<6>のいずれかに記載の抗炎症剤である。
【化9】
<8> 前記<1>から<7>のいずれかに記載の抗炎症剤を含有することを特徴とする薬用組成物である。
<9> 局所炎症の予防乃至治療に用いられる前記<8>に記載の薬用組成物である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、炎症性細胞が産生する種々の炎症性メディエーターによる炎症反応や、炎症局所における前記炎症性細胞の浸潤を抑制することができ、副作用がなく、優れた抗炎症活性を有する抗炎症剤、前記抗炎症剤を含有し、局所炎症の予防乃至治療に有効な薬用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】図1Aは、試験例2における、構造式(7)で表される化合物のLC−MSスペクトル(m/e=273.0693)を示す図である。RTは、保持時間を示し、AAは、ピークエリア面積を示す。
【図1B】図1Bは、試験例2における、構造式(7)で表される化合物のLC−MSスペクトル(m/e=178.0710)を示す図である。RTは、保持時間を示し、AAは、ピークエリア面積を示す。
【図2A】図2Aは、試験例2において、構造式(7)で表される化合物と、マウス血清とを混合し、0.5時間インキュベート後のLC−MSスペクトル(m/e=273.0693)を示す図である。
【図2B】図2Bは、試験例2において、構造式(7)で表される化合物と、マウス血清とを混合し、0.5時間インキュベート後のLC−MSスペクトル(m/e=178.0710)を示す図である。RTは、保持時間を示し、AAは、ピークエリア面積を示す。
【図3A】図3Aは、試験例2において、構造式(7)で表される化合物と、マウス血清とを混合し、1時間インキュベート後のLC−MSスペクトル(m/e=273.0693)を示す図である。
【図3B】図3Bは、試験例2において、構造式(7)で表される化合物と、マウス血清とを混合し、1時間インキュベート後のLC−MSスペクトル(m/e=178.0710)を示す図である。RTは、保持時間を示し、AAは、ピークエリア面積を示す。
【図4A】図4Aは、試験例2において、構造式(7)で表される化合物と、マウス血清とを混合し、4時間インキュベート後のLC−MSスペクトル(m/e=273.0693)を示す図である。
【図4B】図4Bは、試験例2において、構造式(7)で表される化合物と、マウス血清とを混合し、4時間インキュベート後のLC−MSスペクトル(m/e=178.0710)を示す図である。RTは、保持時間を示し、AAは、ピークエリア面積を示す。
【図5A】図5Aは、試験例2において、構造式(7)で表される化合物と、マウス血清とを混合し、24時間インキュベート後のLC−MSスペクトル(m/e=273.0693)を示す図である。
【図5B】図5Bは、試験例2において、構造式(7)で表される化合物と、マウス血清とを混合し、24時間インキュベート後のLC−MSスペクトル(m/e=178.0710)を示す図である。RTは、保持時間を示し、AAは、ピークエリア面積を示す。
【図6】図6は、試験例3における、好中球のin vitro浸潤試験の結果を示す図である。
【図7】図7は、試験例4における、炎症モデルマウスにおけるエアパウチ内への炎症性細胞の浸潤を確認した全浸潤細胞数の結果を示す図である。
【図8】図8は、試験例4における、炎症モデルマウスにおけるエアパウチ内への炎症性細胞の浸潤を確認した好中球及び単球の細胞数の結果を示す図である。
【図9】図9は、試験例5における、炎症性細胞由来酵素の定量の結果を示す図である。
【図10】図10は、試験例6における、構造式(7)で表される化合物、構造式(1)で表される化合物、及び構造式(6)で表される化合物の酵素反応中の残存比率の経時変化を示す図である。
【図11】図11は、試験例6における、ヘパラン硫酸の分解度の算出方法を説明する図である。
【図12】図12は、試験例6における、構造式(7)で表される化合物による好中球由来酵素の阻害活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(抗炎症剤)
本発明の抗炎症剤は、下記一般式(1)で表される化合物乃至その塩を含有し、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
【0018】
<一般式(1)で表される化合物>
【化10】
前記一般式(1)において、Xは、NHCOCF3、NHCOCCl3、NHC(=NH)NH2、及び下記一般式(2)で表される置換基のいずれかを示す。前記置換基を有する化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、前記一般式(1)で表される化合物は、中性条件下又は生体内で、後述する構造式(1)〜(6)で表される化合物に構造変換しやすい化合物が好ましく、XがNHCOCF3である下記構造式(7)で表される化合物がより好ましい。
【化11】
【化12】
【0019】
−製造方法−
本発明者らは以前に、放線菌、ストレプトミセス・バーチシラス・バリエタス・クインツム(Streptomyces verticillus var. quintum)(微工研菌寄第507号)を培養し、その培養液からシアスタチンBを採取できることを知見した(特公昭55−46714号公報参照)。
また、リボースを原料として用い、前記リボースから一連の化学変換の過程でシアスタチンBに達することから成るリボースを原料とするシアスタチンBの合成的製造法を発明した(特開平1−294687号公報及びNishimura Y, et al., Journal of American Chemical Society, 1988, 110, 7249−7250参照)。前記シアスタチンBの合成法を利用し新規なシアスタチンB類似物質の製造方法を確立することにも成功した(Nishimura Y, et al., J. Antibiotics, 1992, 45(6), 954−962及び963−970参照)。
前記一般式(1)で表される化合物は、前記シアスタチンBから合成された化合物であり、特許第3242472号及び特許第3806456号に記載の合成方法により合成することができるが、これらの方法に限られるものではない。
【0020】
前記一般式(1)で表される化合物は、薬理学上許容される塩の状態であってもよい。前記塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩等の酸付加塩;ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、アンモニウム塩等のアルカリ土類金属塩;メチルアミン、エチルアミン、ジエタノールアミン等の有機アミン塩などが挙げられる。
【0021】
−構造変換−
前記一般式(1)で表される化合物乃至その塩は、弱酸性から中性条件下で、下記構造式(1)から(6)の少なくともいずれかで表される化合物に構造変換される。前記中性条件は、生体内におけるpH条件と一致するため、前記一般式(1)で表される化合物乃至その塩が生体内に投与されると、前記下記構造式(1)から(6)の少なくともいずれかで表される化合物に構造変換され、これらの構造で抗炎症活性の活性成分として機能することができる。これらの中でも、下記構造式(1)で表される化合物が、抗炎症活性が高い点で好ましい。
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【0022】
前記中性条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、pHが、3〜8が好ましく、5〜7がより好ましく、抗炎症活性が高くなる観点から、6〜7が更に好ましい。前記pHが8を超えると、前記構造式(1)〜(6)で表される化合物に構造変換されないことがある。
【0023】
前記一般式(1)で表される化合物乃至その塩が、前記構造式(7)で表される化合物である場合を例に挙げ、前記弱酸性から中性条件下において、前記構造式(7)で表される化合物が、前記構造式(1)〜(6)で表される化合物に構造変換するスキームを以下に示す。
なお、前記一般式(1)において、Xが、NHCOCCl3、NHC(=NH)NH2、及び前記一般式(2)で表される置換基のいずれの場合であっても、前記弱酸性から中性条件下において、前記構造式(1)で表される化合物に構造変換するため、前記構造式(1)で表される化合物以降のスキームは同様である。
【化19】
【0024】
前記一般式(1)で表される化合物乃至その塩が、前記構造式(1)〜(6)で表される化合物に構造変換したことを確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プロトン核磁気共鳴スペクトル、炭素13核磁気共鳴スペクトル、液体クロマトグラフィー、質量分析等により分析する方法などが挙げられる。
【0025】
−含有量−
前記抗炎症剤に含まれる、前記一般式(1)で表される化合物乃至その塩の含有量としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲で、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記抗炎症剤は、前記一般式(1)で表される化合物乃至その塩そのものであってもよい。
【0026】
<その他の成分>
前記抗炎症剤におけるその他の成分としては、特に制限はなく、薬理学上許容される担体の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プロテアーゼ阻害剤、エタノール、水、デンプンなどが挙げられる。これらの中でも、プロテアーゼ阻害剤を含むことが好ましい。
前記プロテアーゼ阻害剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤、エラスターゼ阻害剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤が、抗炎症活性が向上する点で好ましい。
前記抗炎症剤中に含まれる、その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0027】
<使用>
前記抗炎症剤は、1種単独で使用されてもよいし、他の成分を有効成分とする医薬と併せて使用されてもよい。また、前記抗炎症剤は、他の成分を有効成分とする医薬中に配合された状態で使用されてもよい。
【0028】
<剤型>
前記抗炎症剤の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経口固形剤、経口液剤、注射剤、吸入散在などが挙げられる。これらの中でも、注射剤が、局所炎症に使用しやすい点で好ましい。
【0029】
−経口固形剤−
前記経口固形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などが挙げられる。
前記経口固形剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記一般式(1)で表される化合物乃至その塩に、賦形剤、及び必要に応じて、前記その他の成分、各種添加剤を加えることにより、製造することができる。
ここで、前記賦形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸などが挙げられる。
また、前記添加剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味/矯臭剤などが挙げられる。
【0030】
前記結合剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
前記崩壊剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖などが挙げられる。
前記滑沢剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
前記着色剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化チタン、酸化鉄などが挙げられる。
前記矯味/矯臭剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
【0031】
−経口液剤−
前記経口液剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤などが挙げられる。
前記経口液剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記一般式(1)で表される化合物乃至その塩に、必要に応じて、前記その他の成分、各種添加剤を加えることにより、製造することができる。
ここで、前記添加剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、矯味/矯臭剤、緩衝剤、安定化剤などが挙げられる。
【0032】
前記矯味/矯臭剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
前記緩衝剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。
前記安定化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トラガント、アラビアゴム、ゼラチンなどが挙げられる。
【0033】
−注射剤−
前記注射剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、溶液、懸濁液、用事溶解用固形剤などが挙げられる。
前記注射剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記一般式(1)で表される化合物乃至その塩に、必要に応じて、前記その他の成分、各種添加剤を加えることにより、製造することができる。
ここで、前記添加剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤などが挙げられる。
【0034】
前記pH調節剤及び前記緩衝剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。
前記安定化剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸などが挙げられる。
前記等張化剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖などが挙げられる。
前記局所麻酔剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩酸プロカイン、塩酸リドカインなどが挙げられる。
【0035】
<投与>
前記一般式(1)で表される化合物乃至その塩の投与方法、投与量、投与時期、及び投与対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記投与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経口投与法、注射による方法、吸入による方法などが挙げられる。これらの中でも、注射による方法が、局所炎症部位に投与しやすい点で好ましい。
前記投与量としては、特に制限はなく、投与対象個体の年齢、体重、体質、症状、他の成分を有効成分とする医薬の投与の有無など、様々な要因を考慮して適宜選択することができる。
前記投与対象となる動物種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、トリなどが挙げられるが、これらの中でもヒトに好適に用いられる。
【0036】
<抗炎症活性>
前記抗炎症剤の抗炎症活性としては、炎症性細胞の活性化を抑制するものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炎症性細胞の炎症部位への浸潤の抑制、炎症性メディエーターの放出抑制などが挙げられる。
前記炎症性細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、好中球、単球、マクロファージ、リンパ球、好酸球、好塩基球などが挙げられる。
前記炎症性メディエーターとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、グルクロニダーゼ、へパラナーゼ、マトリックスメタロプロテアーゼ、エラスターゼ等の炎症性細胞由来酵素;プロスタグランジン類;活性酸素などが挙げられる。
前記抗炎症剤における抗炎症活性を定量する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炎症部位における前記炎症性細胞の浸潤細胞数を顕微鏡下で数えて定量する方法、炎症部位の浸潤液中の炎症性メディエーター量を測定する方法、腫脹部位の厚みや発赤部位の面積を測定する方法などが挙げられる。
前記抗炎症剤の抗炎症活性としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、炎症部位における浸潤細胞の数、若しくは、炎症性メディエーターの放出量が、前記抗炎症剤を炎症部位に投与する前と比較して、80%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、20%以下が更に好ましい。
【0037】
<用途>
前記抗炎症剤は、前記一般式(1)で表される化合物乃至その塩を含有することから、炎症性細胞が産生する種々の炎症性メディエーターによる炎症反応や、炎症局所における前記炎症性細胞の浸潤を抑制することができ、副作用がなく、優れた抗炎症活性を有するため、後述する薬用組成物などに好適に利用可能である。
【0038】
(薬用組成物)
本発明の薬用組成物は、前記抗炎症剤を含有し、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
<抗炎症剤>
前記薬用組成物における前記抗炎症剤の含有量としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲で、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記薬用組成物は、前記抗炎症剤そのものであってもよい。
【0039】
<その他の成分>
前記薬用組成物におけるその他の成分としては、特に制限はなく、薬理学上許容される担体の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、水、デンプンなどが挙げられる。
前記薬用組成物中に含まれる、その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0040】
<使用>
前記薬用組成物は、1種単独で使用されてもよいし、他の成分を有効成分とする医薬と併せて使用されてもよい。また、前記薬用組成物は、他の成分を有効成分とする医薬中に配合された状態で使用されてもよい。
【0041】
<剤型>
前記抗炎症剤の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経口固形剤、経口液剤、注射剤、吸入散在などが挙げられる。これらの中でも、注射剤が、局所炎症に使用しやすい点で好ましい。
【0042】
−経口固形剤−
前記経口固形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などが挙げられる。
前記経口固形剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記抗炎症剤に、賦形剤、及び必要に応じて、前記その他の成分、各種添加剤を加えることにより、製造することができる。
ここで、前記賦形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸などが挙げられる。
また、前記添加剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味/矯臭剤などが挙げられる。
【0043】
前記結合剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
前記崩壊剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖などが挙げられる。
前記滑沢剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
前記着色剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化チタン、酸化鉄などが挙げられる。
前記矯味/矯臭剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
【0044】
−経口液剤−
前記経口液剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤などが挙げられる。
前記経口液剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記抗炎症剤に、必要に応じて、前記その他の成分、添加剤を加えることにより、製造することができる。
ここで、前記添加剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、矯味/矯臭剤、緩衝剤、安定化剤などが挙げられる。
【0045】
前記矯味/矯臭剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
前記緩衝剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。
前記安定化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トラガント、アラビアゴム、ゼラチンなどが挙げられる。
【0046】
−注射剤−
前記注射剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、溶液、懸濁液、用事溶解用固形剤などが挙げられる。
前記注射剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記抗炎症剤に、必要に応じて、前記その他の成分、各種添加剤を加えることにより、製造することができる。
ここで、前記添加剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤などが挙げられる。
【0047】
前記pH調節剤及び前記緩衝剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。
前記安定化剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸などが挙げられる。
前記等張化剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖などが挙げられる。
前記局所麻酔剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩酸プロカイン、塩酸リドカインなどが挙げられる。
【0048】
<投与>
前記抗炎症剤の投与方法、投与量、投与時期、及び投与対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記投与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経口投与法、注射による方法、吸入による方法などが挙げられる。これらの中でも、注射による方法が、局所炎症部位に投与しやすい点で好ましい。
前記投与量としては、特に制限はなく、投与対象個体の年齢、体重、体質、症状、他の成分を有効成分とする医薬の投与の有無など、様々な要因を考慮して適宜選択することができる。
前記投与対象となる動物種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、トリなどが挙げられるが、これらの中でもヒトに好適に用いられる。
【0049】
<用途>
前記薬用組成物は、前記抗炎症剤を含有することから、炎症性細胞が産生する種々の炎症性メディエーターによる炎症反応や、炎症局所における前記炎症性細胞の浸潤を抑制することができ、副作用がなく、優れた抗炎症活性を有するため、発熱、疼痛、発赤、腫脹等を伴う種々の炎症性疾患や、血管炎症候群、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、慢性腎炎等の慢性炎症性疾患の予防乃至治療に好適に利用可能である。
【実施例】
【0050】
以下に本発明の実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0051】
(製造例1:構造式(7)で表される化合物の合成)
下記構造式(7)で表される化合物は、特許第3242472号に記載の方法に従って合成した。下記構造式(7)で表される化合物の理化学的性状は、特許第3242472号に記載の通りである。
【化20】
【0052】
(試験例1:中性条件における構造式(7)で表される化合物の構造変換の確認)
製造例1で得られた前記構造式(7)で表される化合物のpHを、5〜6又は7〜8の溶液に懸濁し、各条件下における構造を以下に示す方法で分析したところ、下記スキームを経て構造変換していることがわかった。
なお、下記スキームにおいて、下記構造式(2)〜(5)で表される化合物は、前記pH条件下における存在時間が短く、分析による確認はできなかった。
【化21】
【0053】
<構造式(1)で表される化合物>
前記構造式(7)で表される化合物の塩酸塩の水溶液を弱塩基性樹脂Dowex(登録商標)WGRイオン交換樹脂(シグマアルドリッチ社製)を加えて、pHを5〜6に調整した後、数時間撹拌し、樹脂をろ過し、溶媒を除去して前記構造式(1)で表される化合物を得た。
【0054】
−プロトン核磁気共鳴スペクトル−
前記pH5〜pH6の条件で得られた化合物について、D2O(重水)中のHOD(4.77ppm)の値を内部標準として用い、0.004質量% D2O中で25℃にて測定した400MHzにおけるプロトン核磁気共鳴スペクトルのピークは以下の通りであった。なお、プロトン核磁気共鳴スペクトルは、JEOL GX−400(日本電子社製)により測定した。
化学シフト値 δppm:
3.105(1H,dq,H−3),3.42(1H,t,H−2ax),3.49(1H,q,H−2eq),3.80(1H,dd,H−5),4.55(1H,t,H−4),4.86(1H,d, H−6)
大きなカップリング(J2ax,3=9.2及びJ5,6=9.8Hz)と、小さなカップリング(J3,4=J4,5=2.7Hz)とが得られた。即ち、得られた化合物は、前記構造式(7)で表される化合物と同様の4C1立体構造(Nishimura Y, et al, J.Antibiot, 1994, 47, 101参照)を有することがわかった。
【0055】
−炭素13核磁気共鳴スペクトル−
前記pH5〜pH6の条件で得られた化合物について、D2O(重水)中のHDO(4.65ppm)の値を内部標準として用い、0.004質量% D2O中で23℃にて測定した125MHzにおける炭素13核磁気共鳴スペクトルのピークは、以下の通りであった。なお、炭素13核磁気共鳴スペクトルは、α500スペクトロメーター(日本電子社製)により測定した。
化学シフト値 δppm:
38.74(C−6),43.50(C−5),68.99(C−4),71.50(C−3),δ79.14(C−2),173.41(COOH)
前記構造式(7)表される化合物では、メタンジアンに特徴的なδ60.71(C−2)が観察されるが、これに代えて、へミアミナールに特徴的なδ79.14(C−2)(Bock K, et al, In Advances in Carbohydrate Chemistry and Biochemistry; Tripson,R,S., et al, Academic Press, New York, 1983, 41, pp27−66参照)が観察された。
また、トリフルオロアセトアミド基に認められるδ115.85及びδ160.52における炭素は認められなかった。
【0056】
−マススペクトル−
前記pH5〜pH6の条件で得られた化合物のマススペクトルの結果は、以下の通りであった。なお、FABは、JMS−SX102(日本電子社製)により、またESIは、JMS−T100L(日本電子社製)により測定した。
分子量:177
FAB−MS(m/e)正イオンモードの
計算値(M+H)+:178(C6H12N1O5として)
実験値:178
ESI−MS(m/e)正イオンモードの
計算値(M+H)+:178(C6H12N1O5として)
実験値:178
ESI−MS(m/e)陰イオンモードの
計算値(M−H)−:176(C6H10N1O5として)
実験値:176
【0057】
これらの分析結果より、前記構造式(7)で表される化合物は、pH5〜pH6の条件下では、前記構造式(1)で表される化合物に構造変換したことが確認された。
【0058】
<構造式(6)で表される化合物>
前記構造式(7)で表される化合物の塩酸塩の水溶液を弱塩基性樹脂Dowex(登録商標)WGRイオン交換樹脂(シグマアルドリッチ社製)を加えて、pHを7〜8に調整した後、数時間撹拌し、樹脂をろ過し、溶媒を除去して前記構造式(6)で表される化合物を得た。前記構造式(6)で表される化合物は、酸性溶液(pH3)中でも安定であった。
【0059】
−プロトン核磁気共鳴スペクトル−
前記pH7〜pH8の条件で得られた化合物について、前記同様の方法で測定したプロトン核磁気共鳴スペクトルのピークは、以下の通りであった。
化学シフト値 δppm:
2.88(1H,ddd,H−3),2.98及び3.05(2H,ABq,H−6),3.06(1H,t,H−2ax),3.21(1H,dd,H−2eq),3.98(1H,d,H−4)
C−6(2H,ABq,J=12.4Hz,δ=2.98及び3.05)及びC−2(1H,t,J2,2’=J2,3=12.2Hz,δ3.06,H−2;1H,dd,J2,2’=12.2及びJ2’,3=4.4Hz,δ3.21,H−2’)の2つのアミノメチル基のメチレンプロトンが確認された。
また、C−3のプロトンは、(1H,ddd,J3,2=12.2Hz,J3,2’=4.4Hz 及び J3,4=1.2Hz,δ2.88)であり、C−4のプロトンは、(1H,d,J4,3=1.2Hz,δ3.98)であり、C−5にプロトンは検出されなかった。
これより、ボート型のラクタールであることがわかった。
【0060】
−炭素13核磁気共鳴スペクトル−
前記pH7〜pH8の条件で得られた化合物について、前記同様の方法で測定した炭素13核磁気共鳴スペクトルのピークは、以下の通りであった。
化学シフト値 δppm:
δ40.88(C−2),44.76(C−3),47.26(C−6),71.28(C−4),71.50(C−5),177.57(−C(=O)−O−)
高フィールドにδ47.26(C−6)及び低フィールドにδ71.50(C−5)の2つの特徴的な炭素を有し、ラクタールで特徴付けられる構造で、前記構造式(1)で表される化合物とは異なる構造であることがわかった。
【0061】
−マススペクトル−
前記pH7〜pH8の条件で得られた化合物のマススペクトルの結果は、以下の通りであった。なお、APCIは、日立 M−1200H APCI(株式会社日立製作所製)により測定した。
分子量:159
APCI−MS(m/e)正イオンモードの
計算値(M+H)+:160(C6H10N1O4として)
実験値:160
APCI−MS(m/e)陰イオンモードの
計算値(M−H)−:158(C7H8N1O4として)
実験値:158
【0062】
これらの分析結果より、前記構造式(7)で表される化合物は、pH7〜pH8の条件下では、前記構造式(6)で表される化合物に構造変換したことが確認された。
【0063】
更に、前記構造式(7)で表される化合物の塩酸塩は、D2O中でpHを7〜8に調整すると、C−2のメチレンプロトンが重水素化された。また、前記構造式(6)のD2O溶液を濃縮すると、C−2のメチレンプロトンが重水素化された。
【0064】
これらの結果より、前記構造式(6)で表される化合物は、環状ラクタールの構造を有し、前記構造式(1)で表される化合物から脱水され、続いてエノール化され、更に水和されて前記構造式(5)に変換され、前記構造式(5)で表される化合物が脱水されて、スキーム1で表される前記構造式(6)で表される化合物が導かれることが示唆された。
【0065】
(試験例2:構造式(7)で表される化合物の生体内における構造変換)
−方法−
マウス血清(シグマアルドリッチ社製)に、前記構造式(7)で表される化合物を、100μg/mLの濃度になるように溶解し、37℃にて、0.5時間、1時間、4時間、及び24時間インキュベートした。各時間経過後に、等量のアセトニトリルを添加した。これを遠心分離し、上澄み液を得た。
前記上澄み液を50質量%アセトニトリル水溶液で希釈し、10μg/mLの濃度の溶液を調製し、各時間における生成物を、それぞれ下記条件でLC−MSを用いて分析した。
なお、標準サンプルとしては、前記構造式(7)で表される化合物を50質量%アセトニトリル水溶液に溶解したものを用いた。
[LC−MS分析条件]
カラム: カプセルパックC18 MGIII 2.0×150mm,3μm(株式会社資生堂製)
カラム温度: 25℃
溶媒系: A:メタノール
B:5mM ウンデカフルオロヘキサン酸水溶液
(0分間−15分間,A:B(V/V)=10:90からA:B(V/V)=90:10の直線濃度勾配)
流速: 0.2mL/分間
検出器: LTQ Orbitrap(サーモサイエンティフィック社製)
スキャンタイプ: フルスキャン、m/e 120−1,000
イオン化: ESI 正イオンモード
分解能: 30,000
【0066】
−結果−
図1A〜5BにLC−MSスペクトルの結果を示す。図1A及び1Bは、標準サンプル、図2A〜5Bは、前記構造式(7)で表される化合物と、マウス血清とを混合後、0.5時間後(図2A及び2B)、1時間後(図3A及び3B)、4時間後(図4A及び4B)、及び24時間後(図5A及び5B)の結果である。
なお、前記構造式(7)で表される化合物の計算値は、m/e 273.0693(C8F3H12N2O5として)であり、実験値は、m/e 273.0693(M+H)+であった。
また、前記構造式(7)で表される化合物と、血清との反応後に検出されたスペクトルは、試験例1で確認した前記構造式(1)で表される化合物と一致し、その計算値は、m/e 178.0710(C6H12N1O5として)であり、実験値は、m/e 178.0710(M+H)+であった。
図1A及び1Bに示す通り、標準サンプルは、保持時間9分間に前記構造式(7)で表される化合物のみが検出された(図1A)。一方、図2A〜5Bでは、前記構造式(7)で表される化合物は検出されず(図2A、3A、4A、及び5A)、保持時間6.4分間に前記構造式(1)で表される化合物のみが検出された(図2B、3B、4B、及び5B)。
これより、血清中においても、前記合成例で示したpHの変化による構造変換と同様に、前記構造式(7)で表される化合物は、前記構造式(1)で表される化合物に構造変換し、前記構造式(1)で表される化合物が安定に存在することがわかった。
【0067】
(試験例3:好中球のfMLP依存的なin vitro浸潤の確認)
−方法−
「がんの浸潤・転移研究マニュアル」(金芳堂)の方法に従い、以下のように行った。
C57BL/6マウス(6週齢〜15週齢、オス、n=3、日本クレア社)の骨髄細胞から、磁気ビーズを結合した抗Gr−1抗体(バイオレジェンド社製)を用いautoMACS(自動磁気細胞分離装置:ミルテニーバイオテク株式会社製)により好中球を分画した。ケモタキセル(ポアサイズ3μm:倉敷紡績株式会社製)の膜上にマトリゲル(10μg)を添加し乾燥したものを事前に作製した。
24ウエルプレートで、前記ケモタキセルの下部に、10μM及び100μMのいずれかの濃度の前記構造式(7)で表される化合物を1μMのfMLP(f−MET−Leu−Pheからなる合成ペプチド:シグマアルドリッチ社製)を含む培地(0.5質量%FCS(Fetal calf serum:ハイクローン社製)含有RPMI1640(日水製薬株式会社製))で調製した。また、100μMの前記構造式(7)で表される化合物と、マトリックスメタロプロテアーゼの阻害剤であるMMI−270(ノバルティス ファーマ株式会社 筑波研究所より提供された非臨床使用品)10μMとを、前記fMLPを含む培地で調製した。対照として、前記ケモタキセルの下部に、前記fMLPを含む培地のみを添加したウエルをおいた。
前記ケモタキセルの上部には、単離した好中球を1×105細胞/ウエルの細胞密度で0.5質量%FCS含有RPMI1640に懸濁したものを添加し、37℃で24時間培養した。
培養後、前記ケモタキセルの上部の細胞を綿棒で除き、下部に浸潤した細胞をDiffQuik液(シスメックス社製)で染色し、膜を切り取り封入した後、浸潤細胞数をカウントした。浸潤細胞数は、fMLPのみを添加した対照ウエルにおける浸潤数を100%として標準化した(n=3)。有意差はANOVA and Bonferroni−type multiple t−testで検定した。結果を図6に示す。
【0068】
−結果−
図6の結果より、fMLPのみを添加した対照ウエルでは有意に多数の浸潤細胞が回収された。これに対し、fMLPと共に前記構造式(7)で表される化合物を添加したウエルでは、前記対照ウエルに比べ浸潤細胞数が少なく、浸潤細胞数は、前記構造式(7)で表される化合物の濃度依存的に減少した。また、fMLPと共に前記構造式(7)で表される化合物と、MMI−270とを添加したウエルでは、更に浸潤細胞数が減少しており、前記構造式(7)で表される化合物による細胞の浸潤抑制効果は、MMI−270と相加的であることがわかった。
【0069】
(試験例4:炎症モデルマウスにおけるエアパウチ内への炎症性細胞の浸潤の確認)
−方法−
Ramallo G. E. et al., J Immunol., 2002, 169: 6467−6473の方法に従い、以下のように行った。
C57BL/6マウス(5週齢、オス、n=6:日本クレア社)の背部皮膚に6mLの滅菌空気を皮下投与し、エアパウチを作製した。3日後に同じ場所(背部皮膚)に更に3mLの滅菌空気を注入した。
最初の滅菌空気の皮下投与から6日後に、1μM fMLPを含むPBS溶液1mL又は1質量%カラギナン(シグマアルドリッチ社製)を含むPBS溶液1mLを前記エアパウチに投与し、局所炎症を誘発した。以下、fMLPを投与したマウスを「fMLP処理群」、カラギナンを投与したマウスを「Car処理群」と称することがある。
また、1μM fMLPを含むPBS溶液1mLに前記構造式(7)で表される化合物(100μM)を含むもの又は前記1質量%カラギナンを含むPBS溶液1mLに前記構造式(7)で表される化合物(100μM)を含むものを同様にして前記エアパウチに投与した。以下、fMLP及び前記構造式(7)で表される化合物を投与したマウスを「fMLP−構造式(7)処理群」、カラギナン及び前記構造式(7)で表される化合物を投与したマウスを「Car−構造式(7)処理群」と称することがある。
対照としては、PBS 1mLのみを前記エアパウチに投与した。以下、「対照群」と称することがある。
前記5種類のサンプルの投与から4時間後に前記C57BL/6マウスを犠牲死させ、3mLのPBSで洗浄することによりエアパウチ内の浸潤液をそれぞれ回収した。
回収された浸潤液中の全浸潤細胞数、及び炎症性細胞の一種である好中球又は単球の細胞数を顕微鏡で観察しながらカウントすることにより、炎症の程度を評価した。有意差はANOVA and Bonferroni−type multiple t−testで検定した。全浸潤細胞数の結果を図7に、好中球及び単球の細胞数の結果を図8に示す。
【0070】
−結果−
図7の結果より、fMLP処理群及びCar処理群では、PBSのみを投与した対照群に比べ有意に多数の浸潤細胞が回収された。これに対し、fMLP−構造式(7)処理群では、fMLP処理群に比べ、回収された全浸潤細胞数が有意に少なかった。また、Car−構造式(7)処理群では、Car処理群に比べ、回収された全浸潤細胞数が有意に少なかった。これより、前記構造式(7)で表される化合物により、局所炎症部位における細胞の浸潤が抑制されることがわかった。
【0071】
図8の結果より、エアパウチ内の浸潤細胞の大部分が炎症性細胞である好中球及び単球であり、前記全浸潤細胞数の結果と同様に、前記構造式(7)で表される化合物により、好中球及び単球の浸潤が抑制されることがわかった。
【0072】
(試験例5:エアパウチ内に放出される炎症性細胞由来酵素の定量)
−方法−
C57BL/6マウス(5週齢、オス、n=6:日本クレア社)を用い、試験例4と同様の方法でエアパウチを作製し、試験例4と同様の方法で、対象群、fMLP処理群、及びfMLP−構造式(7)処理群を作製し、エアパウチ内の浸潤液をそれぞれ回収した。
【0073】
炎症性細胞由来酵素に対する抗体として、Komatsu N., et al, J.Immunol.Methods, 2008, 331(1−2), 82−93で確立したモノクローナル抗体の中から、エピトープの異なる、抗ヘパラナーゼモノクローナル抗体(RIO−1)及び抗ヘパラナーゼモノクローナル抗体(RIO−7)の2つの抗体を選択し、サンドイッチELISAの検出系を構築した。即ち、RIO−1溶液を96ウエルのELISAプレートに4℃で一晩固相化した後、室温(25℃)で2時間イムノブロック(DSファーマバイオメディカル社製)によりブロッキングを行った。このプレートに、前記対照群、前記fMLP処理群、及び前記fMLP−構造式(7)処理群の各個体から回収した浸潤液をそれぞれプレートにアプライし、4℃で一晩反応させた。Tris−HCl緩衝液(pH7.5)で緩衝化された生理食塩水(0.1% Tween20を含有する)で洗浄後、ビオチン標識抗ヘパラナーゼモノクローナル抗体(biotinylated RIO−7)を室温で45分間反応させ、更にHRP標識ストレプトアビジン(ザイメッド社製)を室温で30分間反応させた。ABTS(2,2’−azino−bis[3−ethylbenzothiazoline−6−sulfonate])を用いて発色し、405nm及び490nmにおける吸光度を測定した。
浸潤液中のヘパラナーゼ濃度は、標準溶液として組換え型マウスヘパラナーゼ(成熟体)を用いて検量線を作製し、算出した。有意差は、ANOVA and Bonferroni−type multiple t−testで検定した。ヘパラナーゼ濃度の結果を図9に示す。
なお、前記組換え型マウスヘパラナーゼ(成熟体)は、Levy−Adam F., et al, Biochem. Biophys. Res. Commun., 2003, 308(4), 885−891の方法に従い、組換え型マウスヘパラナーゼ(成熟体)を昆虫細胞で発現させた。培養上清中に放出されたヘパラナーゼをヘパリンアガロース(シグマアルドリッチ社製)に吸着させ、0.5Mの塩化ナトリウムを含むTris−HCl緩衝液(pH7.6)によって溶出された分画を用いた。
【0074】
−結果−
図9の結果より、fMLP処理群では、対照群に比べ、高濃度の炎症性細胞由来酵素が検出された。浸潤液中への炎症性細胞由来酵素放出は、炎症反応の活性化状態を反映する現象であり、fMLPの投与により炎症が惹起され、炎症性細胞由来酵素の放出量が増加したと考えられる。これに対し、fMLP−構造式(7)処理群では、fMLP処理群に比べ、炎症性細胞由来酵素の濃度が有意に低かった。
これらの結果より、前記構造式(7)で表される化合物は、炎症性細胞の炎症部位への浸潤を抑制できるだけでなく、炎症性細胞からの炎症性メディエーターの放出を抑制することもでき、炎症性細胞の活性化状態を抑制することが示唆された。
【0075】
(試験例6:炎症性細胞由来酵素阻害活性)
<マクロファージ由来酵素阻害活性>
−方法−
前記構造式(7)で表される化合物、前記構造式(1)で表される化合物、及び前記構造式(6)で表される化合物のβ−グルクロニダーゼ(ウシ肝臓由来β−グルクロニダーゼ)の阻害活性について検討した。前記β−グルクロニダーゼは、様々な組織に存在するが、肝臓においては主にクッパー細胞(マクロファージ)及び内皮細胞に発現する炎症反応に関与する酵素である(Roden L et al., Ciba Found Symp, 1989, 143:60−76, discussion 76−86, 281−5.及びVirk K J., et al, Liver, 1989, Dec;9(6), 338−45.参照)。
基質としては、フェノールフタレインモノ−β−グルクロン酸(シグマアルドリッチ社製)を0.1M酢酸ナトリウム溶液(pH5)で希釈し、3.3×10−4Mに調製したものを用いた。前記化合物は、それぞれ水で希釈し、0.005μg/mL、0.01μg/mL、0.025μg/mL、0.05μg/mL、0.1μg/mL、0.25μg/mL、0.5μg/mL、1.0μg/mL、2.0μg/mL、4.0μg/mL、及び8.0μg/mLに調製した。
前記基質0.01mLと、前記化合物を含む被験試料0.05mLと、バッファー溶液(0.1M酢酸ナトリウム溶液(pH5))0.075mLとを懸濁した後、この反応溶液に炎症性細胞由来酵素(ウシ肝臓由来グルクロニダーゼ:シグマアルドリッチ社製)300U/mLを0.015mL添加し、全量0.15mLの反応溶液を調製した。この反応溶液を37℃で60分間反応させた。次いで、0.6Mのグリシン水酸化ナトリウムバッファー溶液(pH10.5)0.15mLを添加し、遊離したフェノールフタレインの570nmにおける吸光度を測定した。コントロールとしては、被験試料に代えて水を添加し、同様の酵素反応を行ったものを用いた。
炎症性細胞由来酵素阻害率、以下の式により算出し、IC50(酵素活性の50%が阻害されたときの前記被験試料の濃度)を算出した結果を表1に示す。
炎症性細胞由来酵素阻害率(%)=(A−B)/A×100
ここで、Aは、コントロールの吸光度を示し、Bは、被験試料を添加した場合の吸光度を示す。
【0076】
また、酵素反応開始から、20分間後、40分間後、及び60分間後の炎症性細胞由来酵素阻害活性を確認した。このとき、同時に基質のフェノールフタレインモノ−β−グルクロン酸及び炎症性細胞由来酵素(ウシ腎臓由来グルクロニダーゼ)を除いたバッファー溶液(0.1M酢酸ナトリウム溶液(pH5))中の上記反応条件下における、前記構造式(7)で表される化合物、前記構造式(1)で表される化合物、及び前記構造式(6)で表される化合物の混合比率も、試験例1と同様の方法でプロトン核磁気共鳴スペクトルを測定することにより確認した。
結果を表2に示す。また、酵素反応中の前記各化合物の残存比率の経時変化(プロトンNMRで観測されるピーク面積の積分比)を図10に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
−結果−
表1の結果より、前記構造式(7)で表される化合物及び前記構造式(1)で表される化合物における炎症性細胞由来酵素阻害活性は同程度であった。
また、表2及び図10の結果より、前記構造式(1)で表される化合物は、pH5において安定に存在し、前記構造式(7)で表される化合物及び前記構造式(1)で表される化合物の反応液中の含有量が増加するほど、炎症性細胞由来酵素阻害活性が強くなることがわかった。
【0080】
<好中球由来酵素阻害活性>
−方法−
C57BL/6マウス(6週齢〜15週齢、オス、n=3、日本クレア社)の骨髄細胞から、試験例3と同様の方法で好中球を分画した。これを可溶化緩衝液(150mM塩化ナトリウムを含む20mM酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0))中で超音波処理し、遠心分離後の上清を取得することにより、好中球の可溶化物を得た。
前記好中球の可溶化物と、基質であるFluoresceinamine標識ヘパラン硫酸(生化学工業株式会社製)と、前記構造式(7)で表される化合物を水で希釈したものを100μL中で混合し、37℃、20時間保温した。このとき、反応液中の可溶化物として4×106個の細胞に由来するものを加えた。基質の最終濃度は、10μg/mLとした。また、前記構造式(7)で表される化合物の最終濃度は、10μM、100μM、及び1,000μMのいずれかとした。
この反応液に、ヘパリン(シグマアルドリッチ社製)を最終濃度1mg/mLとなるように添加した後、100℃にて5分間煮沸することにより、反応を停止させた。これをMillex−GV(径0.22μm、ミリポア社製)でろ過した後、Superose 12ゲルろ過カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)をHPLC装置に接続し、移動相としてPBSを0.5mL/分間の流速で流すことにより、ヘパラン硫酸分解産物を溶出した。この蛍光標識ヘパラン硫酸の分解活性の測定方法は、Sasaki N,et al., J. Immunol, 2004, 172(6),3830−3835に記載された内容に従っている。
【0081】
ヘパラン硫酸の分解度は、下記式で示すとおり、未分解のヘパラン硫酸及び分解されたヘパラン硫酸について、それぞれHPLCで24分間以降に溶出されたピーク面積の、ピーク全体の面積に対する面積比をとり、前記分解されたヘパラン硫酸の面積比をから、前記未分解のヘパラン硫酸の面積比を引く(減ずる)ことにより定量化した。
分解度(%)=X/Z1×100−Y/Z2×100
ここで、Xは、分解されたヘパラン硫酸の24分間以降に溶出されたピーク面積を示し、Yは、未分解のヘパラン硫酸の24分間以降に溶出されたピーク面積を示し、Z1及びZ2は、それぞれ、分解されたヘパラン硫酸及び未分解のヘパラン硫酸のピーク全体の面積を示す。通常、Z1とZ2とは同一の値になる。
定量方法の例を図11に示す。図11において、X/Z1×100(未分解のヘパラン硫酸の面積比)は、88%であり、Y/Z2×100(分解されたヘパラン硫酸の面積比)は、10%である。このときの分解度は、78%となる。
【0082】
−結果−
好中球の可溶化物の結果を図12に示す。前記構造式(7)で表される化合物は、好中球由来ヘパラナーゼに対する優れた阻害活性を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の抗炎症剤及び前記抗炎症剤を含有する薬用組成物は、炎症性細胞が産生する種々の炎症性メディエーターによる炎症反応や、炎症局所における前記炎症性細胞の浸潤を抑制することができ、副作用がなく、優れた抗炎症活性を有するため、発熱、疼痛、発赤、腫脹等を伴う種々の炎症性疾患や、血管炎症候群、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、慢性腎炎等の慢性炎症性疾患の予防乃至治療に好適に利用可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗炎症剤及び該抗炎症剤を含有する薬用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
生体は、細菌等の病原体の侵入、高温等の物理的障害、有機溶剤等の化学物質などによる有害な刺激により組織が障害されると、サイトカイン、ヒスタミン、ロイコトリエン等の炎症性メディエーターが放出され、発熱、疼痛、発赤、腫脹等を伴う炎症性疾患が引き起こされる。放出された炎症性メディエーターは、血管に作用し、血管拡張や局所の血管壁の基底膜の透過性を亢進させる。そのため炎症が起こると局所において炎症性細胞の血管外浸潤が促進される。
【0003】
前記基底膜の構成成分としては、コラーゲン、ラミニン、へパラン硫酸プロテオグリカンなどが知られている。このうち、ヘパラン硫酸の分解に関与する酵素としてヘパラナーゼが知られており、前記炎症性細胞は、このヘパラナーゼを発現していることが開示されている(非特許文献1〜2参照)。
前記炎症性細胞とは、炎症局所へ遊走して作用する細胞であり、主として急性期の炎症反応にみられる好中球や、炎症反応の慢性期にみられるリンパ球や単球などが挙げられる。
【0004】
炎症反応を抑制する手段としては、様々な方法が試みられている。例えば、前記炎症性メディエーターの酵素活性阻害物質や拮抗物質、前記炎症性メディエーターを産生する炎症性細胞に対する阻害物質等の適用などが挙げられる。
【0005】
前記炎症性メディエーターの酵素活性阻害物質としては、アスピリンやインドメタシンなどをはじめとするNSAIDS(非ステロイド系抗炎症薬)が知られている。前記NSAIDSは、アラキドン酸からプロスタグランジン類を合成する酵素であるシクロオキシゲナーゼを阻害し、炎症性メディエーターであるプロスタグランジンE2の産生を抑制することにより炎症反応の諸症状を緩和する薬剤である。
しかし、炎症性疾患に対して充分な治療効果があるとはいえず、また長期にわたる連続投与により胃粘膜障害や腎障害等の消化管障害を起こすなどの副作用もあるため、その臨床利用が制限されることがある点で問題であった。
【0006】
前記炎症性メディエーターの拮抗物質としては、ステロイドホルモン剤やメトトレキセート等の代謝拮抗薬が知られている。前記代謝拮抗薬は、前記NSAIDSに比べて有効であることが知られている。
しかし、前記代謝拮抗薬は、非特異的に免疫系を抑制するため、細菌等による感染症を引き起こしやすくなる点で問題であった。また、前記ステロイドホルモン剤は、副腎皮質機能不全をはじめとする重篤な副作用を引き起こすことがあり、前記メトトレキセートは、造血系、消化器系、精神及び神経系などに重篤な副作用を示すことがある点で問題であった。
【0007】
一方、前記基底膜を浸潤する細胞としては、炎症性細胞の他に癌細胞が知られており、(3S,4S,5R,6R)−6−(トリフロロアセタミド)−4,5−ジヒドロキシピペリジン−3−カルボン酸、(3S,4S,5R,6R)−6−(トリクロロアセタミド)−4,5−ジヒドロキシピペリジン−3−カルボン酸、及び(3S,4S,5R,6R)−6−グアニジノ−4,5−ジヒドロキシピペリジン−3−カルボン酸が、癌細胞の転移を抑制することが開示されている(特許文献1〜2参照)。また、前記化合物は、へパラナーゼ阻害活性を有することが開示されている(非特許文献3〜5参照)。
【0008】
しかし、炎症反応は、癌細胞の転移とは異なり、種々の炎症性メディエーターにより反応が活性化されるため、その機構は非常に複雑である。したがって、単に炎症性細胞の浸潤を抑制すれば炎症反応が抑制されるというものではなく、前記化合物の炎症反応における作用は未だ不明である。
【0009】
そこで、前記炎症性細胞が産生する種々の炎症性メディエーターによる炎症反応や、炎症局所における前記炎症性細胞の浸潤を抑制することができ、副作用がなく、優れた抗炎症活性を有する抗炎症剤、前記抗炎症剤を含有し、局所炎症の予防乃至治療に有効な薬用組成物の提供が望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3242472号
【特許文献2】特許第3806456号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Sasaki N, et al., J. Immunol, 2004, 172(6), 3830−3835
【非特許文献2】Komatsu N, et al., J. Immunol. Methods, 2008, 331(1−2), 82−93
【非特許文献3】Nishimura Y, et al., J. Org. Chem., 2000, 65(1), 2−11
【非特許文献4】Takahashi H, et al., Biochim. Biophys. Acta, 2008, 1780(4), 709−715
【非特許文献5】Kondo K,et al., Bioorg. Med. Chem, 2001, 9, 1091−1095
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、炎症性細胞が産生する種々の炎症性メディエーターによる炎症反応や、炎症局所における前記炎症性細胞の浸潤を抑制することができ、副作用がなく、優れた抗炎症活性を有する抗炎症剤、前記抗炎症剤を含有し、局所炎症の予防乃至治療に有効な薬用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、後述する一般式(1)で表される化合物は、弱酸性から中性条件下及び血液内で後述する構造式(1)〜(6)で表される化合物に構造変換されること、一般式(1)で表される化合物を生体内の局所炎症部位に投与することにより炎症性細胞からの炎症性細胞由来酵素の放出を抑制できること、更に、局所炎症部位における細胞の浸潤を顕著に抑制でき、これらの中でも、炎症性細胞の浸潤を抑制できることを知見し、本発明の完成に至った。
【0014】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 下記一般式(1)で表される化合物乃至その塩を含有し、炎症性細胞の活性化を抑制することを特徴とする抗炎症剤である。
【化1】
前記一般式(1)において、Xは、NHCOCF3、NHCOCCl3、NHC(=NH)NH2、及び下記一般式(2)で表される置換基のいずれかを示す。
【化2】
<2> 炎症性細胞の活性化の抑制が、炎症性細胞由来酵素の放出抑制である前記<1>に記載の抗炎症剤である。
<3> 炎症性細胞の活性化の抑制が、炎症性細胞の炎症部位への浸潤の抑制である前記<1>に記載の抗炎症剤である。
<4> 一般式(1)で表される化合物乃至その塩が、弱酸性から中性条件下で下記構造式(1)から(6)の少なくともいずれかで表される化合物に構造変換される前記<1>から<3>のいずれかに記載の抗炎症剤である。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
<5> 弱酸性から中性条件が、pH3〜pH8である前記<4>に記載の抗炎症剤である。
<6> 一般式(1)で表される化合物乃至その塩が、生体内で構造式(1)から(6)の少なくともいずれかで表される化合物に構造変換される前記<1>から<5>のいずれかに記載の抗炎症剤である。
<7> 一般式(1)で表される化合物乃至その塩が、下記構造式(7)で表される化合物である前記<1>から<6>のいずれかに記載の抗炎症剤である。
【化9】
<8> 前記<1>から<7>のいずれかに記載の抗炎症剤を含有することを特徴とする薬用組成物である。
<9> 局所炎症の予防乃至治療に用いられる前記<8>に記載の薬用組成物である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、炎症性細胞が産生する種々の炎症性メディエーターによる炎症反応や、炎症局所における前記炎症性細胞の浸潤を抑制することができ、副作用がなく、優れた抗炎症活性を有する抗炎症剤、前記抗炎症剤を含有し、局所炎症の予防乃至治療に有効な薬用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】図1Aは、試験例2における、構造式(7)で表される化合物のLC−MSスペクトル(m/e=273.0693)を示す図である。RTは、保持時間を示し、AAは、ピークエリア面積を示す。
【図1B】図1Bは、試験例2における、構造式(7)で表される化合物のLC−MSスペクトル(m/e=178.0710)を示す図である。RTは、保持時間を示し、AAは、ピークエリア面積を示す。
【図2A】図2Aは、試験例2において、構造式(7)で表される化合物と、マウス血清とを混合し、0.5時間インキュベート後のLC−MSスペクトル(m/e=273.0693)を示す図である。
【図2B】図2Bは、試験例2において、構造式(7)で表される化合物と、マウス血清とを混合し、0.5時間インキュベート後のLC−MSスペクトル(m/e=178.0710)を示す図である。RTは、保持時間を示し、AAは、ピークエリア面積を示す。
【図3A】図3Aは、試験例2において、構造式(7)で表される化合物と、マウス血清とを混合し、1時間インキュベート後のLC−MSスペクトル(m/e=273.0693)を示す図である。
【図3B】図3Bは、試験例2において、構造式(7)で表される化合物と、マウス血清とを混合し、1時間インキュベート後のLC−MSスペクトル(m/e=178.0710)を示す図である。RTは、保持時間を示し、AAは、ピークエリア面積を示す。
【図4A】図4Aは、試験例2において、構造式(7)で表される化合物と、マウス血清とを混合し、4時間インキュベート後のLC−MSスペクトル(m/e=273.0693)を示す図である。
【図4B】図4Bは、試験例2において、構造式(7)で表される化合物と、マウス血清とを混合し、4時間インキュベート後のLC−MSスペクトル(m/e=178.0710)を示す図である。RTは、保持時間を示し、AAは、ピークエリア面積を示す。
【図5A】図5Aは、試験例2において、構造式(7)で表される化合物と、マウス血清とを混合し、24時間インキュベート後のLC−MSスペクトル(m/e=273.0693)を示す図である。
【図5B】図5Bは、試験例2において、構造式(7)で表される化合物と、マウス血清とを混合し、24時間インキュベート後のLC−MSスペクトル(m/e=178.0710)を示す図である。RTは、保持時間を示し、AAは、ピークエリア面積を示す。
【図6】図6は、試験例3における、好中球のin vitro浸潤試験の結果を示す図である。
【図7】図7は、試験例4における、炎症モデルマウスにおけるエアパウチ内への炎症性細胞の浸潤を確認した全浸潤細胞数の結果を示す図である。
【図8】図8は、試験例4における、炎症モデルマウスにおけるエアパウチ内への炎症性細胞の浸潤を確認した好中球及び単球の細胞数の結果を示す図である。
【図9】図9は、試験例5における、炎症性細胞由来酵素の定量の結果を示す図である。
【図10】図10は、試験例6における、構造式(7)で表される化合物、構造式(1)で表される化合物、及び構造式(6)で表される化合物の酵素反応中の残存比率の経時変化を示す図である。
【図11】図11は、試験例6における、ヘパラン硫酸の分解度の算出方法を説明する図である。
【図12】図12は、試験例6における、構造式(7)で表される化合物による好中球由来酵素の阻害活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(抗炎症剤)
本発明の抗炎症剤は、下記一般式(1)で表される化合物乃至その塩を含有し、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
【0018】
<一般式(1)で表される化合物>
【化10】
前記一般式(1)において、Xは、NHCOCF3、NHCOCCl3、NHC(=NH)NH2、及び下記一般式(2)で表される置換基のいずれかを示す。前記置換基を有する化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、前記一般式(1)で表される化合物は、中性条件下又は生体内で、後述する構造式(1)〜(6)で表される化合物に構造変換しやすい化合物が好ましく、XがNHCOCF3である下記構造式(7)で表される化合物がより好ましい。
【化11】
【化12】
【0019】
−製造方法−
本発明者らは以前に、放線菌、ストレプトミセス・バーチシラス・バリエタス・クインツム(Streptomyces verticillus var. quintum)(微工研菌寄第507号)を培養し、その培養液からシアスタチンBを採取できることを知見した(特公昭55−46714号公報参照)。
また、リボースを原料として用い、前記リボースから一連の化学変換の過程でシアスタチンBに達することから成るリボースを原料とするシアスタチンBの合成的製造法を発明した(特開平1−294687号公報及びNishimura Y, et al., Journal of American Chemical Society, 1988, 110, 7249−7250参照)。前記シアスタチンBの合成法を利用し新規なシアスタチンB類似物質の製造方法を確立することにも成功した(Nishimura Y, et al., J. Antibiotics, 1992, 45(6), 954−962及び963−970参照)。
前記一般式(1)で表される化合物は、前記シアスタチンBから合成された化合物であり、特許第3242472号及び特許第3806456号に記載の合成方法により合成することができるが、これらの方法に限られるものではない。
【0020】
前記一般式(1)で表される化合物は、薬理学上許容される塩の状態であってもよい。前記塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩等の酸付加塩;ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、アンモニウム塩等のアルカリ土類金属塩;メチルアミン、エチルアミン、ジエタノールアミン等の有機アミン塩などが挙げられる。
【0021】
−構造変換−
前記一般式(1)で表される化合物乃至その塩は、弱酸性から中性条件下で、下記構造式(1)から(6)の少なくともいずれかで表される化合物に構造変換される。前記中性条件は、生体内におけるpH条件と一致するため、前記一般式(1)で表される化合物乃至その塩が生体内に投与されると、前記下記構造式(1)から(6)の少なくともいずれかで表される化合物に構造変換され、これらの構造で抗炎症活性の活性成分として機能することができる。これらの中でも、下記構造式(1)で表される化合物が、抗炎症活性が高い点で好ましい。
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【0022】
前記中性条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、pHが、3〜8が好ましく、5〜7がより好ましく、抗炎症活性が高くなる観点から、6〜7が更に好ましい。前記pHが8を超えると、前記構造式(1)〜(6)で表される化合物に構造変換されないことがある。
【0023】
前記一般式(1)で表される化合物乃至その塩が、前記構造式(7)で表される化合物である場合を例に挙げ、前記弱酸性から中性条件下において、前記構造式(7)で表される化合物が、前記構造式(1)〜(6)で表される化合物に構造変換するスキームを以下に示す。
なお、前記一般式(1)において、Xが、NHCOCCl3、NHC(=NH)NH2、及び前記一般式(2)で表される置換基のいずれの場合であっても、前記弱酸性から中性条件下において、前記構造式(1)で表される化合物に構造変換するため、前記構造式(1)で表される化合物以降のスキームは同様である。
【化19】
【0024】
前記一般式(1)で表される化合物乃至その塩が、前記構造式(1)〜(6)で表される化合物に構造変換したことを確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プロトン核磁気共鳴スペクトル、炭素13核磁気共鳴スペクトル、液体クロマトグラフィー、質量分析等により分析する方法などが挙げられる。
【0025】
−含有量−
前記抗炎症剤に含まれる、前記一般式(1)で表される化合物乃至その塩の含有量としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲で、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記抗炎症剤は、前記一般式(1)で表される化合物乃至その塩そのものであってもよい。
【0026】
<その他の成分>
前記抗炎症剤におけるその他の成分としては、特に制限はなく、薬理学上許容される担体の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プロテアーゼ阻害剤、エタノール、水、デンプンなどが挙げられる。これらの中でも、プロテアーゼ阻害剤を含むことが好ましい。
前記プロテアーゼ阻害剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤、エラスターゼ阻害剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤が、抗炎症活性が向上する点で好ましい。
前記抗炎症剤中に含まれる、その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0027】
<使用>
前記抗炎症剤は、1種単独で使用されてもよいし、他の成分を有効成分とする医薬と併せて使用されてもよい。また、前記抗炎症剤は、他の成分を有効成分とする医薬中に配合された状態で使用されてもよい。
【0028】
<剤型>
前記抗炎症剤の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経口固形剤、経口液剤、注射剤、吸入散在などが挙げられる。これらの中でも、注射剤が、局所炎症に使用しやすい点で好ましい。
【0029】
−経口固形剤−
前記経口固形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などが挙げられる。
前記経口固形剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記一般式(1)で表される化合物乃至その塩に、賦形剤、及び必要に応じて、前記その他の成分、各種添加剤を加えることにより、製造することができる。
ここで、前記賦形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸などが挙げられる。
また、前記添加剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味/矯臭剤などが挙げられる。
【0030】
前記結合剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
前記崩壊剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖などが挙げられる。
前記滑沢剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
前記着色剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化チタン、酸化鉄などが挙げられる。
前記矯味/矯臭剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
【0031】
−経口液剤−
前記経口液剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤などが挙げられる。
前記経口液剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記一般式(1)で表される化合物乃至その塩に、必要に応じて、前記その他の成分、各種添加剤を加えることにより、製造することができる。
ここで、前記添加剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、矯味/矯臭剤、緩衝剤、安定化剤などが挙げられる。
【0032】
前記矯味/矯臭剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
前記緩衝剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。
前記安定化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トラガント、アラビアゴム、ゼラチンなどが挙げられる。
【0033】
−注射剤−
前記注射剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、溶液、懸濁液、用事溶解用固形剤などが挙げられる。
前記注射剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記一般式(1)で表される化合物乃至その塩に、必要に応じて、前記その他の成分、各種添加剤を加えることにより、製造することができる。
ここで、前記添加剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤などが挙げられる。
【0034】
前記pH調節剤及び前記緩衝剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。
前記安定化剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸などが挙げられる。
前記等張化剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖などが挙げられる。
前記局所麻酔剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩酸プロカイン、塩酸リドカインなどが挙げられる。
【0035】
<投与>
前記一般式(1)で表される化合物乃至その塩の投与方法、投与量、投与時期、及び投与対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記投与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経口投与法、注射による方法、吸入による方法などが挙げられる。これらの中でも、注射による方法が、局所炎症部位に投与しやすい点で好ましい。
前記投与量としては、特に制限はなく、投与対象個体の年齢、体重、体質、症状、他の成分を有効成分とする医薬の投与の有無など、様々な要因を考慮して適宜選択することができる。
前記投与対象となる動物種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、トリなどが挙げられるが、これらの中でもヒトに好適に用いられる。
【0036】
<抗炎症活性>
前記抗炎症剤の抗炎症活性としては、炎症性細胞の活性化を抑制するものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炎症性細胞の炎症部位への浸潤の抑制、炎症性メディエーターの放出抑制などが挙げられる。
前記炎症性細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、好中球、単球、マクロファージ、リンパ球、好酸球、好塩基球などが挙げられる。
前記炎症性メディエーターとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、グルクロニダーゼ、へパラナーゼ、マトリックスメタロプロテアーゼ、エラスターゼ等の炎症性細胞由来酵素;プロスタグランジン類;活性酸素などが挙げられる。
前記抗炎症剤における抗炎症活性を定量する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炎症部位における前記炎症性細胞の浸潤細胞数を顕微鏡下で数えて定量する方法、炎症部位の浸潤液中の炎症性メディエーター量を測定する方法、腫脹部位の厚みや発赤部位の面積を測定する方法などが挙げられる。
前記抗炎症剤の抗炎症活性としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、炎症部位における浸潤細胞の数、若しくは、炎症性メディエーターの放出量が、前記抗炎症剤を炎症部位に投与する前と比較して、80%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、20%以下が更に好ましい。
【0037】
<用途>
前記抗炎症剤は、前記一般式(1)で表される化合物乃至その塩を含有することから、炎症性細胞が産生する種々の炎症性メディエーターによる炎症反応や、炎症局所における前記炎症性細胞の浸潤を抑制することができ、副作用がなく、優れた抗炎症活性を有するため、後述する薬用組成物などに好適に利用可能である。
【0038】
(薬用組成物)
本発明の薬用組成物は、前記抗炎症剤を含有し、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
<抗炎症剤>
前記薬用組成物における前記抗炎症剤の含有量としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲で、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記薬用組成物は、前記抗炎症剤そのものであってもよい。
【0039】
<その他の成分>
前記薬用組成物におけるその他の成分としては、特に制限はなく、薬理学上許容される担体の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、水、デンプンなどが挙げられる。
前記薬用組成物中に含まれる、その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0040】
<使用>
前記薬用組成物は、1種単独で使用されてもよいし、他の成分を有効成分とする医薬と併せて使用されてもよい。また、前記薬用組成物は、他の成分を有効成分とする医薬中に配合された状態で使用されてもよい。
【0041】
<剤型>
前記抗炎症剤の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経口固形剤、経口液剤、注射剤、吸入散在などが挙げられる。これらの中でも、注射剤が、局所炎症に使用しやすい点で好ましい。
【0042】
−経口固形剤−
前記経口固形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などが挙げられる。
前記経口固形剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記抗炎症剤に、賦形剤、及び必要に応じて、前記その他の成分、各種添加剤を加えることにより、製造することができる。
ここで、前記賦形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸などが挙げられる。
また、前記添加剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味/矯臭剤などが挙げられる。
【0043】
前記結合剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
前記崩壊剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖などが挙げられる。
前記滑沢剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
前記着色剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化チタン、酸化鉄などが挙げられる。
前記矯味/矯臭剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
【0044】
−経口液剤−
前記経口液剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤などが挙げられる。
前記経口液剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記抗炎症剤に、必要に応じて、前記その他の成分、添加剤を加えることにより、製造することができる。
ここで、前記添加剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、矯味/矯臭剤、緩衝剤、安定化剤などが挙げられる。
【0045】
前記矯味/矯臭剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
前記緩衝剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。
前記安定化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トラガント、アラビアゴム、ゼラチンなどが挙げられる。
【0046】
−注射剤−
前記注射剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、溶液、懸濁液、用事溶解用固形剤などが挙げられる。
前記注射剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記抗炎症剤に、必要に応じて、前記その他の成分、各種添加剤を加えることにより、製造することができる。
ここで、前記添加剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤などが挙げられる。
【0047】
前記pH調節剤及び前記緩衝剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。
前記安定化剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸などが挙げられる。
前記等張化剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖などが挙げられる。
前記局所麻酔剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩酸プロカイン、塩酸リドカインなどが挙げられる。
【0048】
<投与>
前記抗炎症剤の投与方法、投与量、投与時期、及び投与対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記投与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経口投与法、注射による方法、吸入による方法などが挙げられる。これらの中でも、注射による方法が、局所炎症部位に投与しやすい点で好ましい。
前記投与量としては、特に制限はなく、投与対象個体の年齢、体重、体質、症状、他の成分を有効成分とする医薬の投与の有無など、様々な要因を考慮して適宜選択することができる。
前記投与対象となる動物種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、トリなどが挙げられるが、これらの中でもヒトに好適に用いられる。
【0049】
<用途>
前記薬用組成物は、前記抗炎症剤を含有することから、炎症性細胞が産生する種々の炎症性メディエーターによる炎症反応や、炎症局所における前記炎症性細胞の浸潤を抑制することができ、副作用がなく、優れた抗炎症活性を有するため、発熱、疼痛、発赤、腫脹等を伴う種々の炎症性疾患や、血管炎症候群、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、慢性腎炎等の慢性炎症性疾患の予防乃至治療に好適に利用可能である。
【実施例】
【0050】
以下に本発明の実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0051】
(製造例1:構造式(7)で表される化合物の合成)
下記構造式(7)で表される化合物は、特許第3242472号に記載の方法に従って合成した。下記構造式(7)で表される化合物の理化学的性状は、特許第3242472号に記載の通りである。
【化20】
【0052】
(試験例1:中性条件における構造式(7)で表される化合物の構造変換の確認)
製造例1で得られた前記構造式(7)で表される化合物のpHを、5〜6又は7〜8の溶液に懸濁し、各条件下における構造を以下に示す方法で分析したところ、下記スキームを経て構造変換していることがわかった。
なお、下記スキームにおいて、下記構造式(2)〜(5)で表される化合物は、前記pH条件下における存在時間が短く、分析による確認はできなかった。
【化21】
【0053】
<構造式(1)で表される化合物>
前記構造式(7)で表される化合物の塩酸塩の水溶液を弱塩基性樹脂Dowex(登録商標)WGRイオン交換樹脂(シグマアルドリッチ社製)を加えて、pHを5〜6に調整した後、数時間撹拌し、樹脂をろ過し、溶媒を除去して前記構造式(1)で表される化合物を得た。
【0054】
−プロトン核磁気共鳴スペクトル−
前記pH5〜pH6の条件で得られた化合物について、D2O(重水)中のHOD(4.77ppm)の値を内部標準として用い、0.004質量% D2O中で25℃にて測定した400MHzにおけるプロトン核磁気共鳴スペクトルのピークは以下の通りであった。なお、プロトン核磁気共鳴スペクトルは、JEOL GX−400(日本電子社製)により測定した。
化学シフト値 δppm:
3.105(1H,dq,H−3),3.42(1H,t,H−2ax),3.49(1H,q,H−2eq),3.80(1H,dd,H−5),4.55(1H,t,H−4),4.86(1H,d, H−6)
大きなカップリング(J2ax,3=9.2及びJ5,6=9.8Hz)と、小さなカップリング(J3,4=J4,5=2.7Hz)とが得られた。即ち、得られた化合物は、前記構造式(7)で表される化合物と同様の4C1立体構造(Nishimura Y, et al, J.Antibiot, 1994, 47, 101参照)を有することがわかった。
【0055】
−炭素13核磁気共鳴スペクトル−
前記pH5〜pH6の条件で得られた化合物について、D2O(重水)中のHDO(4.65ppm)の値を内部標準として用い、0.004質量% D2O中で23℃にて測定した125MHzにおける炭素13核磁気共鳴スペクトルのピークは、以下の通りであった。なお、炭素13核磁気共鳴スペクトルは、α500スペクトロメーター(日本電子社製)により測定した。
化学シフト値 δppm:
38.74(C−6),43.50(C−5),68.99(C−4),71.50(C−3),δ79.14(C−2),173.41(COOH)
前記構造式(7)表される化合物では、メタンジアンに特徴的なδ60.71(C−2)が観察されるが、これに代えて、へミアミナールに特徴的なδ79.14(C−2)(Bock K, et al, In Advances in Carbohydrate Chemistry and Biochemistry; Tripson,R,S., et al, Academic Press, New York, 1983, 41, pp27−66参照)が観察された。
また、トリフルオロアセトアミド基に認められるδ115.85及びδ160.52における炭素は認められなかった。
【0056】
−マススペクトル−
前記pH5〜pH6の条件で得られた化合物のマススペクトルの結果は、以下の通りであった。なお、FABは、JMS−SX102(日本電子社製)により、またESIは、JMS−T100L(日本電子社製)により測定した。
分子量:177
FAB−MS(m/e)正イオンモードの
計算値(M+H)+:178(C6H12N1O5として)
実験値:178
ESI−MS(m/e)正イオンモードの
計算値(M+H)+:178(C6H12N1O5として)
実験値:178
ESI−MS(m/e)陰イオンモードの
計算値(M−H)−:176(C6H10N1O5として)
実験値:176
【0057】
これらの分析結果より、前記構造式(7)で表される化合物は、pH5〜pH6の条件下では、前記構造式(1)で表される化合物に構造変換したことが確認された。
【0058】
<構造式(6)で表される化合物>
前記構造式(7)で表される化合物の塩酸塩の水溶液を弱塩基性樹脂Dowex(登録商標)WGRイオン交換樹脂(シグマアルドリッチ社製)を加えて、pHを7〜8に調整した後、数時間撹拌し、樹脂をろ過し、溶媒を除去して前記構造式(6)で表される化合物を得た。前記構造式(6)で表される化合物は、酸性溶液(pH3)中でも安定であった。
【0059】
−プロトン核磁気共鳴スペクトル−
前記pH7〜pH8の条件で得られた化合物について、前記同様の方法で測定したプロトン核磁気共鳴スペクトルのピークは、以下の通りであった。
化学シフト値 δppm:
2.88(1H,ddd,H−3),2.98及び3.05(2H,ABq,H−6),3.06(1H,t,H−2ax),3.21(1H,dd,H−2eq),3.98(1H,d,H−4)
C−6(2H,ABq,J=12.4Hz,δ=2.98及び3.05)及びC−2(1H,t,J2,2’=J2,3=12.2Hz,δ3.06,H−2;1H,dd,J2,2’=12.2及びJ2’,3=4.4Hz,δ3.21,H−2’)の2つのアミノメチル基のメチレンプロトンが確認された。
また、C−3のプロトンは、(1H,ddd,J3,2=12.2Hz,J3,2’=4.4Hz 及び J3,4=1.2Hz,δ2.88)であり、C−4のプロトンは、(1H,d,J4,3=1.2Hz,δ3.98)であり、C−5にプロトンは検出されなかった。
これより、ボート型のラクタールであることがわかった。
【0060】
−炭素13核磁気共鳴スペクトル−
前記pH7〜pH8の条件で得られた化合物について、前記同様の方法で測定した炭素13核磁気共鳴スペクトルのピークは、以下の通りであった。
化学シフト値 δppm:
δ40.88(C−2),44.76(C−3),47.26(C−6),71.28(C−4),71.50(C−5),177.57(−C(=O)−O−)
高フィールドにδ47.26(C−6)及び低フィールドにδ71.50(C−5)の2つの特徴的な炭素を有し、ラクタールで特徴付けられる構造で、前記構造式(1)で表される化合物とは異なる構造であることがわかった。
【0061】
−マススペクトル−
前記pH7〜pH8の条件で得られた化合物のマススペクトルの結果は、以下の通りであった。なお、APCIは、日立 M−1200H APCI(株式会社日立製作所製)により測定した。
分子量:159
APCI−MS(m/e)正イオンモードの
計算値(M+H)+:160(C6H10N1O4として)
実験値:160
APCI−MS(m/e)陰イオンモードの
計算値(M−H)−:158(C7H8N1O4として)
実験値:158
【0062】
これらの分析結果より、前記構造式(7)で表される化合物は、pH7〜pH8の条件下では、前記構造式(6)で表される化合物に構造変換したことが確認された。
【0063】
更に、前記構造式(7)で表される化合物の塩酸塩は、D2O中でpHを7〜8に調整すると、C−2のメチレンプロトンが重水素化された。また、前記構造式(6)のD2O溶液を濃縮すると、C−2のメチレンプロトンが重水素化された。
【0064】
これらの結果より、前記構造式(6)で表される化合物は、環状ラクタールの構造を有し、前記構造式(1)で表される化合物から脱水され、続いてエノール化され、更に水和されて前記構造式(5)に変換され、前記構造式(5)で表される化合物が脱水されて、スキーム1で表される前記構造式(6)で表される化合物が導かれることが示唆された。
【0065】
(試験例2:構造式(7)で表される化合物の生体内における構造変換)
−方法−
マウス血清(シグマアルドリッチ社製)に、前記構造式(7)で表される化合物を、100μg/mLの濃度になるように溶解し、37℃にて、0.5時間、1時間、4時間、及び24時間インキュベートした。各時間経過後に、等量のアセトニトリルを添加した。これを遠心分離し、上澄み液を得た。
前記上澄み液を50質量%アセトニトリル水溶液で希釈し、10μg/mLの濃度の溶液を調製し、各時間における生成物を、それぞれ下記条件でLC−MSを用いて分析した。
なお、標準サンプルとしては、前記構造式(7)で表される化合物を50質量%アセトニトリル水溶液に溶解したものを用いた。
[LC−MS分析条件]
カラム: カプセルパックC18 MGIII 2.0×150mm,3μm(株式会社資生堂製)
カラム温度: 25℃
溶媒系: A:メタノール
B:5mM ウンデカフルオロヘキサン酸水溶液
(0分間−15分間,A:B(V/V)=10:90からA:B(V/V)=90:10の直線濃度勾配)
流速: 0.2mL/分間
検出器: LTQ Orbitrap(サーモサイエンティフィック社製)
スキャンタイプ: フルスキャン、m/e 120−1,000
イオン化: ESI 正イオンモード
分解能: 30,000
【0066】
−結果−
図1A〜5BにLC−MSスペクトルの結果を示す。図1A及び1Bは、標準サンプル、図2A〜5Bは、前記構造式(7)で表される化合物と、マウス血清とを混合後、0.5時間後(図2A及び2B)、1時間後(図3A及び3B)、4時間後(図4A及び4B)、及び24時間後(図5A及び5B)の結果である。
なお、前記構造式(7)で表される化合物の計算値は、m/e 273.0693(C8F3H12N2O5として)であり、実験値は、m/e 273.0693(M+H)+であった。
また、前記構造式(7)で表される化合物と、血清との反応後に検出されたスペクトルは、試験例1で確認した前記構造式(1)で表される化合物と一致し、その計算値は、m/e 178.0710(C6H12N1O5として)であり、実験値は、m/e 178.0710(M+H)+であった。
図1A及び1Bに示す通り、標準サンプルは、保持時間9分間に前記構造式(7)で表される化合物のみが検出された(図1A)。一方、図2A〜5Bでは、前記構造式(7)で表される化合物は検出されず(図2A、3A、4A、及び5A)、保持時間6.4分間に前記構造式(1)で表される化合物のみが検出された(図2B、3B、4B、及び5B)。
これより、血清中においても、前記合成例で示したpHの変化による構造変換と同様に、前記構造式(7)で表される化合物は、前記構造式(1)で表される化合物に構造変換し、前記構造式(1)で表される化合物が安定に存在することがわかった。
【0067】
(試験例3:好中球のfMLP依存的なin vitro浸潤の確認)
−方法−
「がんの浸潤・転移研究マニュアル」(金芳堂)の方法に従い、以下のように行った。
C57BL/6マウス(6週齢〜15週齢、オス、n=3、日本クレア社)の骨髄細胞から、磁気ビーズを結合した抗Gr−1抗体(バイオレジェンド社製)を用いautoMACS(自動磁気細胞分離装置:ミルテニーバイオテク株式会社製)により好中球を分画した。ケモタキセル(ポアサイズ3μm:倉敷紡績株式会社製)の膜上にマトリゲル(10μg)を添加し乾燥したものを事前に作製した。
24ウエルプレートで、前記ケモタキセルの下部に、10μM及び100μMのいずれかの濃度の前記構造式(7)で表される化合物を1μMのfMLP(f−MET−Leu−Pheからなる合成ペプチド:シグマアルドリッチ社製)を含む培地(0.5質量%FCS(Fetal calf serum:ハイクローン社製)含有RPMI1640(日水製薬株式会社製))で調製した。また、100μMの前記構造式(7)で表される化合物と、マトリックスメタロプロテアーゼの阻害剤であるMMI−270(ノバルティス ファーマ株式会社 筑波研究所より提供された非臨床使用品)10μMとを、前記fMLPを含む培地で調製した。対照として、前記ケモタキセルの下部に、前記fMLPを含む培地のみを添加したウエルをおいた。
前記ケモタキセルの上部には、単離した好中球を1×105細胞/ウエルの細胞密度で0.5質量%FCS含有RPMI1640に懸濁したものを添加し、37℃で24時間培養した。
培養後、前記ケモタキセルの上部の細胞を綿棒で除き、下部に浸潤した細胞をDiffQuik液(シスメックス社製)で染色し、膜を切り取り封入した後、浸潤細胞数をカウントした。浸潤細胞数は、fMLPのみを添加した対照ウエルにおける浸潤数を100%として標準化した(n=3)。有意差はANOVA and Bonferroni−type multiple t−testで検定した。結果を図6に示す。
【0068】
−結果−
図6の結果より、fMLPのみを添加した対照ウエルでは有意に多数の浸潤細胞が回収された。これに対し、fMLPと共に前記構造式(7)で表される化合物を添加したウエルでは、前記対照ウエルに比べ浸潤細胞数が少なく、浸潤細胞数は、前記構造式(7)で表される化合物の濃度依存的に減少した。また、fMLPと共に前記構造式(7)で表される化合物と、MMI−270とを添加したウエルでは、更に浸潤細胞数が減少しており、前記構造式(7)で表される化合物による細胞の浸潤抑制効果は、MMI−270と相加的であることがわかった。
【0069】
(試験例4:炎症モデルマウスにおけるエアパウチ内への炎症性細胞の浸潤の確認)
−方法−
Ramallo G. E. et al., J Immunol., 2002, 169: 6467−6473の方法に従い、以下のように行った。
C57BL/6マウス(5週齢、オス、n=6:日本クレア社)の背部皮膚に6mLの滅菌空気を皮下投与し、エアパウチを作製した。3日後に同じ場所(背部皮膚)に更に3mLの滅菌空気を注入した。
最初の滅菌空気の皮下投与から6日後に、1μM fMLPを含むPBS溶液1mL又は1質量%カラギナン(シグマアルドリッチ社製)を含むPBS溶液1mLを前記エアパウチに投与し、局所炎症を誘発した。以下、fMLPを投与したマウスを「fMLP処理群」、カラギナンを投与したマウスを「Car処理群」と称することがある。
また、1μM fMLPを含むPBS溶液1mLに前記構造式(7)で表される化合物(100μM)を含むもの又は前記1質量%カラギナンを含むPBS溶液1mLに前記構造式(7)で表される化合物(100μM)を含むものを同様にして前記エアパウチに投与した。以下、fMLP及び前記構造式(7)で表される化合物を投与したマウスを「fMLP−構造式(7)処理群」、カラギナン及び前記構造式(7)で表される化合物を投与したマウスを「Car−構造式(7)処理群」と称することがある。
対照としては、PBS 1mLのみを前記エアパウチに投与した。以下、「対照群」と称することがある。
前記5種類のサンプルの投与から4時間後に前記C57BL/6マウスを犠牲死させ、3mLのPBSで洗浄することによりエアパウチ内の浸潤液をそれぞれ回収した。
回収された浸潤液中の全浸潤細胞数、及び炎症性細胞の一種である好中球又は単球の細胞数を顕微鏡で観察しながらカウントすることにより、炎症の程度を評価した。有意差はANOVA and Bonferroni−type multiple t−testで検定した。全浸潤細胞数の結果を図7に、好中球及び単球の細胞数の結果を図8に示す。
【0070】
−結果−
図7の結果より、fMLP処理群及びCar処理群では、PBSのみを投与した対照群に比べ有意に多数の浸潤細胞が回収された。これに対し、fMLP−構造式(7)処理群では、fMLP処理群に比べ、回収された全浸潤細胞数が有意に少なかった。また、Car−構造式(7)処理群では、Car処理群に比べ、回収された全浸潤細胞数が有意に少なかった。これより、前記構造式(7)で表される化合物により、局所炎症部位における細胞の浸潤が抑制されることがわかった。
【0071】
図8の結果より、エアパウチ内の浸潤細胞の大部分が炎症性細胞である好中球及び単球であり、前記全浸潤細胞数の結果と同様に、前記構造式(7)で表される化合物により、好中球及び単球の浸潤が抑制されることがわかった。
【0072】
(試験例5:エアパウチ内に放出される炎症性細胞由来酵素の定量)
−方法−
C57BL/6マウス(5週齢、オス、n=6:日本クレア社)を用い、試験例4と同様の方法でエアパウチを作製し、試験例4と同様の方法で、対象群、fMLP処理群、及びfMLP−構造式(7)処理群を作製し、エアパウチ内の浸潤液をそれぞれ回収した。
【0073】
炎症性細胞由来酵素に対する抗体として、Komatsu N., et al, J.Immunol.Methods, 2008, 331(1−2), 82−93で確立したモノクローナル抗体の中から、エピトープの異なる、抗ヘパラナーゼモノクローナル抗体(RIO−1)及び抗ヘパラナーゼモノクローナル抗体(RIO−7)の2つの抗体を選択し、サンドイッチELISAの検出系を構築した。即ち、RIO−1溶液を96ウエルのELISAプレートに4℃で一晩固相化した後、室温(25℃)で2時間イムノブロック(DSファーマバイオメディカル社製)によりブロッキングを行った。このプレートに、前記対照群、前記fMLP処理群、及び前記fMLP−構造式(7)処理群の各個体から回収した浸潤液をそれぞれプレートにアプライし、4℃で一晩反応させた。Tris−HCl緩衝液(pH7.5)で緩衝化された生理食塩水(0.1% Tween20を含有する)で洗浄後、ビオチン標識抗ヘパラナーゼモノクローナル抗体(biotinylated RIO−7)を室温で45分間反応させ、更にHRP標識ストレプトアビジン(ザイメッド社製)を室温で30分間反応させた。ABTS(2,2’−azino−bis[3−ethylbenzothiazoline−6−sulfonate])を用いて発色し、405nm及び490nmにおける吸光度を測定した。
浸潤液中のヘパラナーゼ濃度は、標準溶液として組換え型マウスヘパラナーゼ(成熟体)を用いて検量線を作製し、算出した。有意差は、ANOVA and Bonferroni−type multiple t−testで検定した。ヘパラナーゼ濃度の結果を図9に示す。
なお、前記組換え型マウスヘパラナーゼ(成熟体)は、Levy−Adam F., et al, Biochem. Biophys. Res. Commun., 2003, 308(4), 885−891の方法に従い、組換え型マウスヘパラナーゼ(成熟体)を昆虫細胞で発現させた。培養上清中に放出されたヘパラナーゼをヘパリンアガロース(シグマアルドリッチ社製)に吸着させ、0.5Mの塩化ナトリウムを含むTris−HCl緩衝液(pH7.6)によって溶出された分画を用いた。
【0074】
−結果−
図9の結果より、fMLP処理群では、対照群に比べ、高濃度の炎症性細胞由来酵素が検出された。浸潤液中への炎症性細胞由来酵素放出は、炎症反応の活性化状態を反映する現象であり、fMLPの投与により炎症が惹起され、炎症性細胞由来酵素の放出量が増加したと考えられる。これに対し、fMLP−構造式(7)処理群では、fMLP処理群に比べ、炎症性細胞由来酵素の濃度が有意に低かった。
これらの結果より、前記構造式(7)で表される化合物は、炎症性細胞の炎症部位への浸潤を抑制できるだけでなく、炎症性細胞からの炎症性メディエーターの放出を抑制することもでき、炎症性細胞の活性化状態を抑制することが示唆された。
【0075】
(試験例6:炎症性細胞由来酵素阻害活性)
<マクロファージ由来酵素阻害活性>
−方法−
前記構造式(7)で表される化合物、前記構造式(1)で表される化合物、及び前記構造式(6)で表される化合物のβ−グルクロニダーゼ(ウシ肝臓由来β−グルクロニダーゼ)の阻害活性について検討した。前記β−グルクロニダーゼは、様々な組織に存在するが、肝臓においては主にクッパー細胞(マクロファージ)及び内皮細胞に発現する炎症反応に関与する酵素である(Roden L et al., Ciba Found Symp, 1989, 143:60−76, discussion 76−86, 281−5.及びVirk K J., et al, Liver, 1989, Dec;9(6), 338−45.参照)。
基質としては、フェノールフタレインモノ−β−グルクロン酸(シグマアルドリッチ社製)を0.1M酢酸ナトリウム溶液(pH5)で希釈し、3.3×10−4Mに調製したものを用いた。前記化合物は、それぞれ水で希釈し、0.005μg/mL、0.01μg/mL、0.025μg/mL、0.05μg/mL、0.1μg/mL、0.25μg/mL、0.5μg/mL、1.0μg/mL、2.0μg/mL、4.0μg/mL、及び8.0μg/mLに調製した。
前記基質0.01mLと、前記化合物を含む被験試料0.05mLと、バッファー溶液(0.1M酢酸ナトリウム溶液(pH5))0.075mLとを懸濁した後、この反応溶液に炎症性細胞由来酵素(ウシ肝臓由来グルクロニダーゼ:シグマアルドリッチ社製)300U/mLを0.015mL添加し、全量0.15mLの反応溶液を調製した。この反応溶液を37℃で60分間反応させた。次いで、0.6Mのグリシン水酸化ナトリウムバッファー溶液(pH10.5)0.15mLを添加し、遊離したフェノールフタレインの570nmにおける吸光度を測定した。コントロールとしては、被験試料に代えて水を添加し、同様の酵素反応を行ったものを用いた。
炎症性細胞由来酵素阻害率、以下の式により算出し、IC50(酵素活性の50%が阻害されたときの前記被験試料の濃度)を算出した結果を表1に示す。
炎症性細胞由来酵素阻害率(%)=(A−B)/A×100
ここで、Aは、コントロールの吸光度を示し、Bは、被験試料を添加した場合の吸光度を示す。
【0076】
また、酵素反応開始から、20分間後、40分間後、及び60分間後の炎症性細胞由来酵素阻害活性を確認した。このとき、同時に基質のフェノールフタレインモノ−β−グルクロン酸及び炎症性細胞由来酵素(ウシ腎臓由来グルクロニダーゼ)を除いたバッファー溶液(0.1M酢酸ナトリウム溶液(pH5))中の上記反応条件下における、前記構造式(7)で表される化合物、前記構造式(1)で表される化合物、及び前記構造式(6)で表される化合物の混合比率も、試験例1と同様の方法でプロトン核磁気共鳴スペクトルを測定することにより確認した。
結果を表2に示す。また、酵素反応中の前記各化合物の残存比率の経時変化(プロトンNMRで観測されるピーク面積の積分比)を図10に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
−結果−
表1の結果より、前記構造式(7)で表される化合物及び前記構造式(1)で表される化合物における炎症性細胞由来酵素阻害活性は同程度であった。
また、表2及び図10の結果より、前記構造式(1)で表される化合物は、pH5において安定に存在し、前記構造式(7)で表される化合物及び前記構造式(1)で表される化合物の反応液中の含有量が増加するほど、炎症性細胞由来酵素阻害活性が強くなることがわかった。
【0080】
<好中球由来酵素阻害活性>
−方法−
C57BL/6マウス(6週齢〜15週齢、オス、n=3、日本クレア社)の骨髄細胞から、試験例3と同様の方法で好中球を分画した。これを可溶化緩衝液(150mM塩化ナトリウムを含む20mM酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0))中で超音波処理し、遠心分離後の上清を取得することにより、好中球の可溶化物を得た。
前記好中球の可溶化物と、基質であるFluoresceinamine標識ヘパラン硫酸(生化学工業株式会社製)と、前記構造式(7)で表される化合物を水で希釈したものを100μL中で混合し、37℃、20時間保温した。このとき、反応液中の可溶化物として4×106個の細胞に由来するものを加えた。基質の最終濃度は、10μg/mLとした。また、前記構造式(7)で表される化合物の最終濃度は、10μM、100μM、及び1,000μMのいずれかとした。
この反応液に、ヘパリン(シグマアルドリッチ社製)を最終濃度1mg/mLとなるように添加した後、100℃にて5分間煮沸することにより、反応を停止させた。これをMillex−GV(径0.22μm、ミリポア社製)でろ過した後、Superose 12ゲルろ過カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)をHPLC装置に接続し、移動相としてPBSを0.5mL/分間の流速で流すことにより、ヘパラン硫酸分解産物を溶出した。この蛍光標識ヘパラン硫酸の分解活性の測定方法は、Sasaki N,et al., J. Immunol, 2004, 172(6),3830−3835に記載された内容に従っている。
【0081】
ヘパラン硫酸の分解度は、下記式で示すとおり、未分解のヘパラン硫酸及び分解されたヘパラン硫酸について、それぞれHPLCで24分間以降に溶出されたピーク面積の、ピーク全体の面積に対する面積比をとり、前記分解されたヘパラン硫酸の面積比をから、前記未分解のヘパラン硫酸の面積比を引く(減ずる)ことにより定量化した。
分解度(%)=X/Z1×100−Y/Z2×100
ここで、Xは、分解されたヘパラン硫酸の24分間以降に溶出されたピーク面積を示し、Yは、未分解のヘパラン硫酸の24分間以降に溶出されたピーク面積を示し、Z1及びZ2は、それぞれ、分解されたヘパラン硫酸及び未分解のヘパラン硫酸のピーク全体の面積を示す。通常、Z1とZ2とは同一の値になる。
定量方法の例を図11に示す。図11において、X/Z1×100(未分解のヘパラン硫酸の面積比)は、88%であり、Y/Z2×100(分解されたヘパラン硫酸の面積比)は、10%である。このときの分解度は、78%となる。
【0082】
−結果−
好中球の可溶化物の結果を図12に示す。前記構造式(7)で表される化合物は、好中球由来ヘパラナーゼに対する優れた阻害活性を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の抗炎症剤及び前記抗炎症剤を含有する薬用組成物は、炎症性細胞が産生する種々の炎症性メディエーターによる炎症反応や、炎症局所における前記炎症性細胞の浸潤を抑制することができ、副作用がなく、優れた抗炎症活性を有するため、発熱、疼痛、発赤、腫脹等を伴う種々の炎症性疾患や、血管炎症候群、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、慢性腎炎等の慢性炎症性疾患の予防乃至治療に好適に利用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物乃至その塩を含有し、炎症性細胞の活性化を抑制することを特徴とする抗炎症剤。
【化22】
前記一般式(1)において、Xは、NHCOCF3、NHCOCCl3、NHC(=NH)NH2、及び下記一般式(2)で表される置換基のいずれかを示す。
【化23】
【請求項2】
一般式(1)で表される化合物乃至その塩が、弱酸性から中性条件下で下記構造式(1)から(6)の少なくともいずれかで表される化合物に構造変換される請求項1に記載の抗炎症剤。
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
【請求項3】
一般式(1)で表される化合物乃至その塩が、下記構造式(7)で表される化合物である請求項1から2のいずれかに記載の抗炎症剤。
【化30】
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の抗炎症剤を含有することを特徴とする薬用組成物。
【請求項5】
局所炎症の予防乃至治療に用いられる請求項4に記載の薬用組成物。
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物乃至その塩を含有し、炎症性細胞の活性化を抑制することを特徴とする抗炎症剤。
【化22】
前記一般式(1)において、Xは、NHCOCF3、NHCOCCl3、NHC(=NH)NH2、及び下記一般式(2)で表される置換基のいずれかを示す。
【化23】
【請求項2】
一般式(1)で表される化合物乃至その塩が、弱酸性から中性条件下で下記構造式(1)から(6)の少なくともいずれかで表される化合物に構造変換される請求項1に記載の抗炎症剤。
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
【請求項3】
一般式(1)で表される化合物乃至その塩が、下記構造式(7)で表される化合物である請求項1から2のいずれかに記載の抗炎症剤。
【化30】
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の抗炎症剤を含有することを特徴とする薬用組成物。
【請求項5】
局所炎症の予防乃至治療に用いられる請求項4に記載の薬用組成物。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−116678(P2011−116678A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273899(P2009−273899)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年7月8日 日本炎症・再生医学会主催の「第30回日本炎症・再生医学会(第9回国際炎症学会合同開催)」において文書をもって発表
【出願人】(000173913)財団法人微生物化学研究会 (29)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年7月8日 日本炎症・再生医学会主催の「第30回日本炎症・再生医学会(第9回国際炎症学会合同開催)」において文書をもって発表
【出願人】(000173913)財団法人微生物化学研究会 (29)
【Fターム(参考)】
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