説明

抗疲労作用化合物および持久力増強作用化合物及びそれを含有する飲食品

【課題】本発明は、人間および動物に対して、安全な抗疲労作用および持久力増強作用を有する化合物、医薬品、及び飲食品を提供することを課題とする。
【解決手段】構成脂肪酸基の30質量%以上がω−3高度不飽和脂肪酸基であるリン脂質化合物であることを特徴とする抗疲労作用化合物及び/又は持久力増強作用化合物及びそれを有する組成物、これを含有する医薬品および飲食品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間および動物の抗疲労作用および持久力増強作用を目的とした抗疲労作用化合物及び/又は持久力増強作用化合物、これらを含む飲食品または医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
健康志向が高まっている現在、スポーツと栄養またはスポーツと生理機能との関係についての認識が深まっている。このような中で、エネルギー補給、疲労回復、さらに瞬発力や持久力の増強、身体作りなど様々な場面でスポーツフーズが利用されている。スポーツフーズの中でも、抗疲労作用および持久力増強作用を目的とするものは、スポーツ選手の成績向上のためのみならず、一般の人が仕事をする上でも持久力維持や、活力あふれる生活を送るためのものとして多く利用されている。
これらの抗疲労剤および持久力増強剤の多くは、ビタミン類と生薬から成り、動物実験等の科学的根拠がないまま、古くからの伝承により効果を謳っているものが多い。また、これらの抗疲労剤等はカフェインやエチルアルコールを含有し、興奮、不眠などを伴うものが多く、真に健康を目的としたものとは言い難いのが実情である。
このような実情において、抗疲労剤および持久力増強剤には、明確な有効性の確認と、科学的根拠が求められている。
【0003】
また、以上のことは動物においても同様であり、競走馬などのレース用の動物から家畜、動物園などの施設で飼育されている動物、ペットなどの動物においても抗疲労作用および持久力増強作用のある飲食品等が求められている。
また一方、DHAに代表されるω―3高度不飽和脂肪酸やホスファチジルコリン、ホスファチジルセリンなどの食品成分の各種生理活性効果が各種研究されている。例えば構成脂肪酸基としてω−3高度不飽和脂肪酸基を多く含むリン脂質化合物(以下PDということがある)の製法(特許文献1)、DHAとホスファチジルコリンの混合物などに学習能力向上の機能があること(特許文献2)、特定のリン脂質に脳卒中予防効果があること(特許文献3)、また視力改善効果があること(特許文献4)などが開示されている。
しかし、構成脂肪酸基としてω−3高度不飽和脂肪酸基を多く含むリン脂質化合物が抗疲労作用および持久力増強作用を有するという報告は全くない。
【特許文献1】特開2004−26767号公報
【特許文献2】特開平07−017855号公報
【特許文献3】特開2000−239168号公報
【特許文献4】特開2004−115429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、人間および動物に対して、抗疲労作用および持久力増強作用を有する化合物を提供し、ひいては該化合物を含有する医薬品、栄養機能食品、健康食品又は飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、構成脂肪酸基の30質量%以上がω−3高度不飽和脂肪酸基であるリン脂質化合物が、顕著な抗疲労作用および持久力増強作用を有することを見出した。すなわち、本発明は、以下の構成を有する。
(1) 構成脂肪酸基の30質量%以上がω−3高度不飽和脂肪酸基であるリン脂質化合物であることを特徴とする抗疲労作用化合物及び/又は持久力増強作用化合物。
(2) 構成脂肪酸基の30%質量以上がω−3高度不飽和脂肪酸基であるリン脂質化合物が、魚介類からヘキサンおよびあるいはアセトンを含む抽出液を用いて抽出した物である前記(1)に記載の抗疲労作用化合物及び/又は持久力増強作用化合物。
(3) 魚介類がホタテガイである前記(2)に記載の抗疲労作用化合物及び/又は持久力増強作用化合物。
(4) 疲労が、運動による肉体疲労である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の抗疲労作用化合物及び/又は持久力増強作用化合物。
(5) 疲労が、精神作業ストレスによる精神疲労である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の抗疲労作用化合物及び/又は持久力増強作用化合物。
(6) 疲労が、日常生活による複合的疲労である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の抗疲労作用化合物及び/又は持久力増強作用化合物。
(7) 構成脂肪酸基の30質量%以上がω−3高度不飽和脂肪酸基であるリン脂質化合物を有効成分とすることを特徴とする抗疲労作用剤及び/又は持久力増強作用剤。
(8) 構成脂肪酸基の30%質量以上がω−3高度不飽和脂肪酸基であるリン脂質化合物が、魚介類からヘキサンおよびあるいはアセトンを含む抽出液を用いて抽出した物である前記(7)に記載の抗疲労作用剤及び/又は持久力増強作用剤。
(9) 魚介類が、ホタテガイである前記(8)に記載の抗疲労作用剤及び/又は持久力増強作用剤。
(10) 疲労が、運動による肉体疲労である前記(7)〜(9)のいずれかに記載の抗疲労作用剤及び/又は持久力増強作用剤。
(11) 疲労が、精神作業ストレスによる精神疲労である前記(7)〜(9)のいずれかに記載の抗疲労作用剤及び/又は持久力増強作用剤。
(12) 疲労が、日常生活による複合的疲労である前記(7)〜(9)のいずれかに記載の抗疲労作用剤及び/又は持久力増強作用剤。
(13) 構成脂肪酸基の30質量%以上がω−3高度不飽和脂肪酸基であるリン脂質化合物を含有し、抗疲労作用及び/又は持久力増強作用を有するものであることを特徴とし、抗疲労作用及び/又は持久力増強作用を有するものである旨を表示した飲食品。
【発明の効果】
【0006】
本発明の構成脂肪酸基の30質量%以上がω−3高度不飽和脂肪酸基であるリン脂質化合物は、抗疲労作用および持久力増強作用が確認されたものであり、安全な栄養機能食品、又は健康食品等の飲食品並びに医薬品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明について、以下に具体的に説明する。
本発明に関わる構成脂肪酸基は、脂質のエステル結合部分を強アルカリで分解することにより得ることができる。本発明に関わるリン脂質化合物は、ホスファチジル基を有し、ω―3高度不飽和脂肪酸基を全構成脂肪酸基の30質量%以上を含むことを特徴とする。ω―3高度不飽和脂肪酸基とは、CHに最も近い2重結合の位置がCH3から3番目のCにある脂肪酸であって2重結合の多いものをいい、例えば、ドコサヘキサエン酸基(以下DHA基ということがある)やエイコサペンタエン酸基(以下EPA基ということがある)等が挙げられる。ここで、ω―3高度不飽和脂肪酸基はリン脂質化合物の1位、2位のいずれか一方に、あるいは両方に結合していても構わない。また、いずれか一方に他の飽和脂肪酸あるいは不飽和脂肪酸が結合していても差し支えない。
ホスファチジル基を有する化合物としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロールなどがあげられる。
【0008】
本発明に関わる、構成脂肪酸基としてω−3高度不飽和脂肪酸基を多く含むリン脂質化合物の一例として、以下の一般式(1)の構造のものがあげられる。ここで、R1COO基、R2COO基の少なくともいずれか一方は、ω―3高度不飽和脂肪酸基である。これらの基の高度不飽和度とは、2重結合を2以上有することが好ましく、さらに好ましくは5〜8を有することを言う。R1、R2はアルキル基またはアルケニル基の炭化水素であり、炭素数は2〜28、好ましくは6〜18である。また、R1、R2は上記炭化水素の誘導体でもよい。
【0009】
【化1】

【0010】
本発明の構成脂肪酸基としてω−3高度不飽和脂肪酸基を多く含むリン脂質化合物は、魚類やその卵、貝類などの海棲生物や陸棲生物に含まれており、抽出に代表される工程によって得ることができる。更には公知の化学反応、酵素反応により合成することも可能である。また海棲生物や陸棲生物等の生体からの抽出によってPDを得る場合にはトリグリセリド型脂肪酸やリゾリン脂質、プラズマローゲンなどが共に得られるが、これらの物質を混在したまま又は混合したPDを本発明としても差し支えない。
【0011】
本発明における「疲労」とは、生体がある機能を発揮した結果、その機能が低下する現象をいう。例えば、「水泳をした後の肉体疲労」「長時間にわたり、知的労働をした後の精神疲労」「毎日の通常生活においても蓄積する肉体的および精神的な複合的疲労」等を挙げることができる。
「抗疲労作用」とは本発明の化合物を含有する組成物等を飲食服用することにより、そのような「疲労」状態を軽減させる作用および「疲労」状態よりの回復を促進する作用、あるいは「疲労」を予防し、疲れにくくする作用などをいう。
「持久力」とは、ある一定の運動状態を継続して行うことができる能力をいい、「持久力増強作用」とは、その継続してできる能力が増強される作用、例えば、具体的には継続時間が延びることにより確認することができる。
【0012】
本発明における抗疲労作用及び持久力増強作用は、例えば後述する実施例のように、マウスを用いた遊泳疲労試験などにより評価することができる。また、ヒトを用いた日常生活や精神作業負荷による主観的疲労感測定(VAS検査)や機能維持度測定(ATMT反応時間検査)などにより評価することもできる。
上記の方法で得られた構成脂肪酸基の30質量%以上がω−3高度不飽和脂肪酸基であるリン脂質化合物の抗疲労作用および持久力増強作用を持つ化合物は、それを飲食物に混合して飲食品として、あるいは医薬品として用いることができる。医薬品としては、抗疲労剤又は持久力増強剤がこれに相当する。
【0013】
医薬品としては、化合物それ自体で、あるいは常法に従って公知の医薬用無毒性担体と組み合わせて組成物とすることもでき、種々の製剤化が可能である。例えば、経口投与剤としては錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤等の固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、凍結乾燥製剤等が挙げられ、非経口投与剤としては、注射剤のほか、坐剤、噴霧剤、経皮吸収剤等が挙げられ、これらの製剤は製剤上の常套手段により調製することができる。上記の医薬用無毒性担体としては、例えば、グルコース、乳糖、ショ糖、澱粉、マンニトール、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アミノ酸、アルブミン、水、生理食塩水等が挙げられる。また、必要に応じて、安定化剤、滑沢剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤等の慣用の添加剤を適宜添加することができる。
【0014】
本発明に関わる抗疲労作用化合物および持久力増強作用化合物において、かかる医薬品の形態におけるPDの投与量は、患者の年齢、体重、症状、疾患の程度、投与スケジュール、製剤形態などにより、適宜選択・決定されるが、例えば、一日あたり乾燥粉末等価量として0.01〜10g/kg体重程度とされ、一日数回に分けて投与してもよい。
動物においても人間用と同様に製剤化すればよい。動物の年齢、体重、症状、疾患の程度、投与スケジュール、製剤形態などにより、適宜選択・決定されるが、例えば、一日あたり0.01〜10g/kg体重程度とされ、一日数回に分けて投与してもよい。
本発明に関わる天然のPDは、長年、食されてきたことから安全性が高いと考えられ、各種飲食品として用いることができる。飲食品としては、それ自体単独で、あるいは他の飲食品にPDを含有させ最終形態にすることができる。
【0015】
飲食品としては、抗疲労作用および持久力増強を目的とする機能性食品として摂取することもできる。機能性食品は、特定保健用食品、栄養機能性食品、又は健康食品として位置付けることができる。
なお、本発明の機能性食品には、PDを含有し、運動における抗疲労作用を有するものであることを特徴とし、抗疲労作用及び/又は持久力増強作用を有するものである旨の表示を付したものが含まれる。
本発明の食品としては、例えば、PDに適当な助剤を添加した後、慣用の手段を用いて、食用に適した形態、例えば、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル剤、ペースト状等に形成したものを用いることができる。この機能性食品は、そのまま食用に供してもよく、また種々の食品(例えばハム、ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、パン、バター、粉乳、菓子など)に添加して使用したり、水、酒類、果汁、牛乳、清涼飲料水等の飲物に添加して使用してもよい。
【0016】
かかる食品の形態における本発明のPDの摂取量は、対象の年齢、体重、症状、摂取スケジュール、製剤形態などにより、適宜選択、決定されるが、例えば、一日あたり乾燥粉末等価量として0.01〜10g/kg体重程度とされる。
本発明の抗疲労作用剤及び/又は持久力増強作用剤は、同様にPDに適当な助剤、例えば成形固化促進剤、溶解剤、栄養剤、等を添加した後、慣用の手段を用いて、食用に適した形態、例えば、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル剤、ペースト状等に形成したものを用いることができる。また、飼料およびペットフードに添加して使用したり、水などの飲料水に添加してもよい。
かかる食品の形態における本発明のPDの摂取量は、動物の年齢、体重、症状、摂取スケジュール、製剤形態などにより、適宜選択、決定されるが、例えば、一日あたり乾燥粉末等価量として0.01〜10g/kg体重程度とされる。
【実施例】
【0017】
以下に本発明をより詳細に説明するために実施例を挙げる。
(構成脂肪酸基の30質量%以上がω−3高度不飽和脂肪酸基であるリン脂質化合物の抽出、精製)
ホタテガイのウロ(貝柱以外の軟体部分)をボイル滅菌処理した後、一旦冷凍保存した。これを解凍し家庭用ミキサーにより粉砕した。該ウロ粉砕物1kg(水分78%)に2.7kgのヘキサンを加え、室温で1時間攪拌して抽出をおこない、吸引ろ過によりろ別した。得られた液体部分を真空エバポレータを用いて40℃で溶剤除去し、8gの脂質を得た。構成脂肪酸基としてはDHA基が24質量%、EPA基が16質量%含まれていた。冷アセトン不純物法によるリン脂質化合物含量は93質量%であった。リン脂質組成としてはホスファチジルコリン基が25質量%、その他にホスファチジルエタノールアミン基、ホスファチジルセリン基などが含まれていた。
【0018】
「実施例1」
構成脂肪酸基の30質量%以上がω−3高度不飽和脂肪酸基であるリン脂質化合物の抗疲労作用および持久力増強作用の効果を動物を用いて測定した。
5週齢の雄性ddYマウスを用い、6日間の予備飼育後、1群10匹で2群に分けた。群構成は、試料の代わりに水を投与する対照群(水投与)と、試料として 構成脂肪酸の30%以上がω−3高度不飽和脂肪酸であるリン脂質化合物乾燥微粉末試料150mg/kgの水への懸濁物を投与する試験投与群とし、週5日間経口投与を行った。投与後2週目からマウスに体重の9.5%の重りを付加して強制水泳させ、疲労困憊し頭部が完全に7秒間水中に沈むまでの時間を測定した。その結果を表1に示す。
表1の数値は、平均値(秒)±標準誤差を示した。表中、*は、危険率5%で試験投与群が対照群に対して有意差があることを示す(Student Test)。
表1は構成脂肪酸の30%以上がω−3高度不飽和脂肪酸であるリン脂質化合物の遊泳時間延長効果を示す。
【0019】
[表1]
0週目(n=10) 2週目(n=10) 3週目(n=10)
対照群 171±14 204±41 198±43
試験投与群 168±14 295±41* 271±42*
【0020】
「比較例1」
DHA、リン脂質化合物単独の抗疲労作用および持久力増強作用の比較
DHA単独あるいはリン脂質化合物単独の投与の場合と比較するため、構成脂肪酸基の30質量%以上がω−3高度不飽和脂肪酸基であるリン脂質化合物と同量の魚脂由来のトリグリセリド型DHAあるいは脂肪酸基としてDHAを含まない大豆リン脂質化合物150mg/kgを用い、実施例1と同様の方法で、抗疲労作用および持久力増強作用を試験をした。その結果を表2に示す。
【0021】
表2はDHAおよび大豆リン脂質の遊泳時間延長効果を示す。
[表2]
0週目(n=10) 2週目(n=10) 3週目(n=10)
対照群 172±17 180±27 178±21
トリグリ型DHA単独投与群 170±17 235±30 194±22
大豆リン脂質単独投与群 170±16 204±33 178±18
【0022】
これらの結果より、構成脂肪酸基の30%以上がω−3高度不飽和脂肪酸基であるリン脂質化合物の試験投与群において遊泳時間の顕著な延長効果が認められ、これはトリグリ型DHA単独および大豆リン脂質化合物単独の試験投与群をしのぐものであった。この遊泳時間の延長は、動物個体における総合的な反応の変化による抗疲労作用および持久力増強作用を評価するために常用される試験であり、上記結果は本発明における構成脂肪酸の30%以上がω−3高度不飽和脂肪酸であるリン脂質化合物に該作用があることを科学的に立証できた。
【0023】
「実施例2」
構成脂肪酸基の30質量%以上がω−3高度不飽和脂肪酸基であるリン脂質化合物を含むソフトカプセルの効果をヒトを用いて測定した。
[1 ソフトカプセル剤の作製]
以下の表3に示す原材料を適宜混合し、試験用ソフトカプセル剤を調製した。比較用ソフトカプセルは、DHA含有リン脂質化合物を含まない点を除き、試験ソフトカプセルと同じ組成とした。また、外観からも両者の区別はつかない二重盲験試験とした。カラメル着色した食品用標準ゼラチンを皮膜とするフットボール型ソフトカプセル5号を用い、表3の処方で作製した。
【0024】
【表3】

【0025】
上記にて作成したソフトカプセル剤を摂取し、精神作業負荷試験を行い、前記精神作業負荷試験の直前、精神作業負荷2時間後、精神作業負荷4時間後および回復4時間後の3ポイントで主観的疲労感の測定(VAS検査)および機能維持度測定(ATMT反応時間検査)を行った。
【0026】
[2 被験者]
本試験は、ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則を遵守して実施された。健常男性9名及び健常女性9名(平均年齢38.8歳)を被験者とし、全例に本試験に対する同意書を取得した。本試験はクロスオーバー試験とし、被験者は、それぞれ表4に示すソフトカプセルを摂取した。
【0027】
【表4】

[3 実験スケジュール]
被験者は、毎日8錠(朝夕食後に4錠ずつ)のソフトカプセルを試験実施前7日間摂取した。試験実施当日の測定時間、疲労負荷を与える時間、ソフトカプセルの摂取時間、回復時間など、実施例2で行う試験のスケジュールを表5に示す。
【0028】
【表5】

[4 精神作業負荷方法]
表6に示す方法で精神作業負荷をおこなった。
【0029】
【表6】

[4−1 内田クレペリン検査]
内田クレペリン検査とは、簡単な一桁の足し算を一定時間連続して行い、その作業量によって表れた曲線によって「人が作業(行動)するときの能力」、「その能力を発揮するときの特徴」を判定する作業検査であるが、精神疲労負荷作業としても用いられている。本来の検査は1分間×15回の2セットであるが、本試験では各被験者に連続で30分間試行させることにより精神作業負荷を与えた。
【0030】
[4−2 ATMT]
ATMT(Advanced Trail Making Test)とは、本来、加齢現象の評価と初期痴呆のスクリーニングに活用されていたが、最近では疲労測定機器として利用できることが期待されている精神神経学的機器である。タッチパネルディスプレイ上に提示された1〜25までの数字をすばやく押す視覚探索反応課題であり、従来、A4紙で行っていたTMT(ランダムに配置された1〜25の数字を一筆書きの要領で線を引く課題)とは異なり、ATMTでは、targetごとの探索反応時間が測定でき、また、反応ごとに全てのtargetを再配置させ、反応ずみtargetを消して新規にtargetを追加発生させることが可能である。そのことにより、課題遂行中にみられる精神疲労の増大、探索効率を高めるためのワーキングメモリー活用度などの評価が可能である。試行内容は、被験者がパソコンのタッチパネル上に提示された1〜25までの数字のうちターゲットの数字を押すと、その数字が消えて新たな数字が任意の位置に出現する、というものである(1を押すと1が消えて26が出現、2を押すと2が消えて27が出現する)。
【0031】
本試験では、現行のATMTを精神作業負荷に採用するために、一部改良し(通常のノートパソコンを用い、標的としてA〜Zまでのアルファベットのうち25文字をディスプレイにランダムに掲示させ、「R」をマウスでクリックするたびに配置が代わる設定)、連続で30分間の試行を行った。
【0032】
[5 評価方法]
[5−1 主観的疲労感の測定(VAS検査)]
VAS(Visual Analogue Scale)とは、線分の両端に基準となる表現を記した紙を見せ、被験者は測りたい内容が、その線分のどのあたりに相当するかをチェックする評価方法である。線分の左端からの長さを測定することにより、質問項目に対して定量的に結果が出て、多くの人の結果を平均するなどの処理ができるという利点を持つ方法である。本試験例で使用したVAS検査用紙の例を縦横の長さ比を維持して図1に示す。線分の長さとしては10cmが通常である。
【0033】
[5−2 機能維持度測定(ATMT反応時間検査)]
ATMT反応時間検査とは、前記ATMTを用い、A〜Zまでのアルファベットのうち25文字をディスプレイ上にランダムに掲示させ、「R」を押すたびに配置が変わる設定とし、「R」を素早く70回押すという視覚探索反応課題を評価する検査である。平均反応時間を評価項目とした。
【0034】
[5−3 有意差の検定]
統計処理はパラメトリック法を採用し、試験用カプセル投与時と比較カプセル投与時について対応のあるt検定を行った。有意確率(両側)が5%以下である場合(値の右肩に**)に有意とし、有意確率(両側)が10%以下5%以上である場合(値の右肩に*)は有意傾向とした。
【0035】
[6]結果
[6−1]VAS検査
全体的疲労感、精神的疲労感、身体的疲労感、自覚的ストレスの各項目において質問を行い、VASの線分長さの測定をしたところ以下のデータを得た。
【0036】
【表7】

【0037】
【表8】

【0038】
【表9】

【0039】
【表10】

【0040】
【表11】

【0041】
【表12】

【0042】
【表13】

【0043】
【表14】

【0044】
【表15】

【0045】
【表16】

【0046】
【表17】

【0047】
【表18】

これらの結果をまとめると、精神作業を負荷する直前に日常生活による疲労感の測定をしたところ、全体疲労感、精神的疲労感及び自覚的ストレスの有意な低下と身体的疲労感の低下傾向がみられた。また、回復期4時間後で精神的疲労感の有意な低下及び自覚的ストレスと身体的疲労感の低下傾向がみられ(表9、表12、表15、表18)、構成脂肪酸基の30%以上がω−3高度不飽和脂肪酸基であるリン脂質化合物の服用による種々の疲労感の改善が顕著であった。
【0048】
[6−2]ATMT反応時間検査
ATMTを用いてその反応時間を測定したところ、以下の結果を得た。
70回の平均反応時間と後半20回の反応時間合計のデータを別途、解析した。
【0049】
【表19】

【0050】
【表20】

【0051】
【表21】

【0052】
【表22】

【0053】
【表23】

【0054】
【表24】

これらの結果をまとめると、精神作業を負荷する直前に日常生活による疲労感の測定したところ、平均反応時間の短縮傾向、後半20回反応時間の有意な短縮がみられた。また、回復期4時間後で平均反応時間の短縮傾向がみられ、構成脂肪酸基の30%以上がω−3高度不飽和脂肪酸基であるリン脂質化合物の服用よるパフォーマンスの改善が顕著に示された。(表21、表24)。
【0055】
以上の結果より、構成脂肪酸基の30%以上がω−3高度不飽和脂肪酸基であるリン脂質化合物をソフトカプセルに詰めて投与した群において精神作業負荷前で種々の疲労感の低下やATMT反応時間の改善がみられたことにより、日常生活による複合的疲労に有効であることを科学的に立証できた。また、精神疲労負荷後において、疲労感の低下やATMT反応時間の改善がみられたことにより、本発明における構成脂肪酸の30%以上がω−3高度不飽和脂肪酸であるリン脂質化合物が精神疲労に有効であることを科学的に立証できた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明により、構成脂肪酸基の30質量%以上がω−3高度不飽和脂肪酸基であるリン脂質化合物を有効成分とする抗疲労作用および持久力増強作用を目的とした化合物の提供が可能となった。これに伴い、安全性が高くかつ効果の期待できる医薬品及び栄養機能食品、健康食品、等の飲食品を人間および動物に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施例[5−1 VAS検査]で使用したVAS試験用紙である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成脂肪酸基の30質量%以上がω−3高度不飽和脂肪酸基であるリン脂質化合物であることを特徴とする抗疲労作用化合物及び/又は持久力増強作用化合物。
【請求項2】
構成脂肪酸基の30%質量以上がω−3高度不飽和脂肪酸基であるリン脂質化合物が、魚介類からヘキサンおよびあるいはアセトンを含む抽出液を用いて抽出した化合物である請求項1に記載の抗疲労作用化合物及び/又は持久力増強作用化合物。
【請求項3】
魚介類がホタテガイである請求項2に記載の抗疲労作用化合物及び/又は持久力増強作用化合物。
【請求項4】
疲労が、運動による肉体疲労である請求項1〜3のいずれかに記載の抗疲労作用化合物及び/又は持久力増強作用化合物。
【請求項5】
疲労が、精神作業ストレスによる精神疲労である請求項1〜3のいずれかに記載の抗疲労作用化合物及び/又は持久力増強作用化合物。
【請求項6】
疲労が、日常生活による複合的疲労である請求項1〜3のいずれかに記載の抗疲労作用化合物及び/又は持久力増強作用化合物。
【請求項7】
構成脂肪酸基の30質量%以上がω−3高度不飽和脂肪酸基であるリン脂質化合物を有効成分とすることを特徴とする抗疲労作用剤及び/又は持久力増強作用剤。
【請求項8】
構成脂肪酸基の30%質量以上がω−3高度不飽和脂肪酸基であるリン脂質化合物が、魚介類からヘキサンおよびあるいはアセトンを含む抽出液を用いて抽出した物である請求項7に記載の抗疲労作用剤及び/又は持久力増強作用剤。
【請求項9】
魚介類がホタテガイである請求項8に記載の抗疲労作用剤及び/又は持久力増強作用剤。
【請求項10】
疲労が、運動による肉体疲労である請求項7〜9のいずれかに記載の抗疲労作用剤及び/又は持久力増強作用剤。
【請求項11】
疲労が、精神作業ストレスによる精神疲労である請求項7〜9のいずれかに記載の抗疲労作用剤及び/又は持久力増強作用剤。
【請求項12】
疲労が、日常生活による複合的疲労である請求項7〜9のいずれかに記載の抗疲労作用剤及び/又は持久力増強作用剤。
【請求項13】
構成脂肪酸基の30質量%以上がω−3高度不飽和脂肪酸基であるリン脂質化合物を含有し、抗疲労作用及び/又は持久力増強作用を有するものであることを特徴とし、抗疲労作用及び/又は持久力増強作用を有するものである旨を表示した飲食品。

【図1】
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【公開番号】特開2007−161703(P2007−161703A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−238677(P2006−238677)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】