抗癌抗体およびその使用
本明細書において、DVQLQASGGGX1 VQPGGSLRL SCAAHDPIFD KNLMGWX2RQA PGKX3X4EX5VAT ISGSGGTNYA SSVEGRFTIS RDNAKKTVYL QMNDLKPEDT AVYYCNSAFA IX6GQGTQVTV SSを含むアミノ酸配列が開示され、ここで、Xlは、V,S,D,L,F,W,またはTであり;X2は、G,F,Y,V,I,H,またはLであり;X3は、Q,G,E,D,L,R,またはKであり;X4は、R,C,Q,L,I,P,またはKであり;X5は、Y,T,A,W,F,S,またはLであり;X6は、W,R,E,A,G,V,またはKである。この配列は、癌特異的抗原を認識することができる抗体および他の蛋白質の製造において有用である。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
背景
プロテオミックリサーチは、新規の腫瘍標的の発見を大いに促進することが、広く期待されている。主な進歩は、診断目的についての標的の同定においてなされた。しかし、現在の技術の限界が、新規の治療標的の同定を妨害している。プロテオミクスにおいて一般的に使用される技術、例えば、二次元ゲル電気泳動、液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC/MS/MS)、マトリクス支援レーザー脱離イオン化/質量分析(MALDI−MS)、および酵母2−ハイブリッド系は、細胞表面マーカーのような“薬物化可能な(drugable)”標的についての要求を満たしていない。
【0002】
腫瘍を標的にする抗体およびペプチドは、ライブラリディスプレイアプローチ(library display approaches)(例えば、Aina, 2002; Hoogenboom, 1998)によって単離され得る。これは、通常、精製された腫瘍特異的または腫瘍関連抗原に対して、ファージディスプレイライブラリ、または他のディスプレイフォーマットを有するライブラリをスクリーニングすることによって達成される。しかし、腫瘍を標的にする抗体およびペプチドはまた、分子標的についての事前の情報無しに、腫瘍細胞または腫瘍組織に対してライブラリをパンニングする(panning)ことによっても単離された。後者のアプローチの注目に値する利点は、以下である:(i)該単離された抗体/ペプチドは、細胞表面上のそれらの抗原/リガンドの天然形態へ結合し、一方、精製された腫瘍抗原は、しばしば現実には組換え体であり、そして翻訳後の修飾を欠いている、(ii)該抗原は、該単離された抗体/ペプチドへアクセス可能であり(accessible)、一方、純粋な抗原に対するパンニングにより単離されたものは、膜に天然には埋め込まれているかまたは炭水化物修飾によってブロックされるエピトープを認識し得る。しかし、この方法で単離された抗体/ペプチドは、通常、それらの抗原/リガンドに対して低〜中程度の親和性を有する。
【0003】
各M13ファージ粒子は、マイナーコート蛋白質pIII(minor coat protein pIII)の5つのコピーを提示するので、pIIIの全てのコピーにおいて抗体フラグメントを提示するファージ粒子は、五価の抗体(pentavalent antibody)と考えられ得る。ファージ上における抗体フラグメントのこの多価の提示(multivalent display)は、該抗体のアビディティを大いに増加させ、そしてファージ抗体のスクリーニングおよび評価の両方を促進する。単離された抗体フラグメント(scFvまたはsdAb)あるいはペプチドは、それらはそもそも一価形態で存在しそしてアビディティを欠いているので、遥かに効率低く抗原に結合する。
【0004】
pIIIファージディスプレイにおけるような五価を可能にする抗体フラグメントオリゴマー化ストラテジー(antibody fragment oligomerization strategy)は、PCT/CA02/01829(MacKenzieおよびZhang)の主題である。ベロ毒素のBサブユニット(VT1B)のホモ−五量体化ドメイン(homo-pentamerization domain)へのシングルドメイン抗体(sdAb)の融合は、該sdAbの同時五量体化を生じさせた。ペンタボディー(pentabodies)と呼ばれる、五価のsdAbは、それらの単量体対応物よりも遥かにより強力に固定化抗原へ結合する。ペプチドホルモン−結合sdAbの場合、五量体化は、固定化抗原への結合において103〜104倍の改善を生じさせた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、肺癌について親和性を有するシングル−ドメイン抗体(single-domain antibody)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要旨
本明細書において、癌(そして特に、肺癌)への結合について特異的親和性を有する、新規のシングルドメイン抗体AFAIおよびそのフラグメントが提供される。この抗体、およびその部分は、特に、癌の診断および治療において使用され得る。
【0007】
好ましい実施形態の詳細な説明
プロテオミクスリサーチは、多くの新規の腫瘍標的を提供した。しかし、いくつかの制限に起因して、薬物適用に最もアクセス可能である標的を同定することは困難であった。腫瘍細胞に対してシングルドメイン抗体(sdAb)ライブラリをスクリーニングし、そして引き続いて単離された抗体の対応の抗原を同定することに基づく、新規の腫瘍抗原ディスカバリープラットフォーム(discovery platform)が、本明細書に記載される。非小細胞肺癌(non-small cell lung carcinoma)(A549細胞系)について特異的な、特異的sdAb、AFAIを、実施例1に記載のように、ラマの重鎖抗体レパートリーから誘導されたファージライブラリから単離した。非毒性ベロ毒素Bサブユニットのホモ五量体化特性(homopentamerization property)を、ES1ペンタボディー、AFAIの五量体形態を作製するために使用した。五量体化は、A549細胞へのAFAIの結合を劇的に向上した。免疫組織染色は、ES1が肺癌について非常に特異的であることを示した。
【0008】
本明細書中の開示を考慮して、標準技術に従って、ES1についての全遺伝子を化学合成しそして大腸菌または別の好適な生物においてそれを発現させることが、可能である。AFAIの遺伝子は、その抗原に対して結合エンティティー(binding entity)である、ES1から合成され得る。本明細書中の開示を考慮して、AFAIの二量体、三量体、四量体、他の五量体および他の多価形態を作製することが可能である。このようなプロダクトは、本発明に関連する方法および組成物において有用であり得、本明細書中で記載されるように、問題の悪性組織または細胞への特異的結合を提供するこのようなプロダクトの変異体を提供するDNAおよびクローン材料も有用であり得る。
【0009】
ES1、AFAIおよび/または類似の結合特異性を示すその変異体(“好適な変異体”)は、肺癌の診断および治療に有用である。従って、ES1、AFAIおよび/またはその好適な変異体が使用され得る診断方法としては、以下が挙げられる:免疫組織化学法;分子(ES1、AFAI、変異体)をラジオアイソトープで標識し、そして陽電子断層撮影法およびMRIのような腫瘍画像化ツールで検出すること;血液サンプルの分析(および標準技術を使用して結合を検出すること)。
【0010】
ES1、AFAIおよび/またはその好適な変異体ならびにそれらの使用についての使用説明書を含む診断キットが、具体的には考えられる。
【0011】
ES1およびAFAIに関連する治療方法および組成物は、AFAI、ES1、またはその好適な変異体を使用すること、そして、例えば、それらをラジオアイソトープで標識し、そして該分子を患者へ適用すること;それらを1以上の従来の治療剤(therapeutics)へ複合体化し、そして該複合体を患者へ適用すること;それらを1以上の毒素へ複合体化し、そして該複合体を患者へ適用すること;ES1、AFAIおよび/またはその好適な変異体をコードする核酸分子を遺伝子治療ベクターにおいて発現させ、そして該ベクターを患者へ適用することを包含する。
【実施例】
【0012】
結果
実施例1:
細胞培養物
非小細胞肺癌細胞系A549を、ATCC(Manassas, VA)から購入し、そして5%FBS(Gibco)および1%Antibiotic-Antimycotic(Gibco)が補充されたDMEM(Gibco, Rockville, MA)中において維持した。一次ヒト皮膚線維芽細胞は、親切なことに、Dr. J. Xu(Apotex Research Inc. Ottawa, ON)によって提供された。ポリクローナルウサギ抗−ベロ毒素抗血清は、親切なことに、Dr. Clifford Lingwood(Univ. of Toronto)によって提供された。
【0013】
非小細胞肺癌細胞系A549へ結合するsdAb AFAIの単離
ナイーブラマシングルドメイン抗体ライブラリ(naive llama single domain antibody library)(Tanhaら、2002)は、腫瘍細胞(今回の場合、非小細胞肺癌細胞系A549)に特異的な抗体フラグメントの供給源として役立った。セルパンニング(cell panning)と呼ばれる、A549細胞へ結合するファージ抗体の単離を、パンニングの各ラウンドで、ヒト線維芽細胞における該ライブラリのプレ吸着を伴って、A549細胞を用いて行った。
【0014】
sdAbファージディスプレイライブラリ(Tanhaら、2002)を、標的細胞としてのA549およびサブトラクティング細胞(subtracting cells)としてのヒト皮膚線維芽細胞を用いて、パンニングした。パンニングを、若干の改変を伴って、Becerrilら(1999)に記載されるように行った。パンニングの第一ラウンドのために、1013pfuを、サブトラクティング線維芽細胞と共にインキュベートして、線維芽細胞結合ファージを除去した。上澄み中に残存するファージ粒子を、室温で1時間、5cmペトリ皿中で培養したA549細胞と共にインキュベートした。該A549細胞を、PBSで5回、各1分、そしてストリッピング緩衝液(stripping buffer)(50mMグリシン、pH2.8、0.5M NaCl、2M尿素、2%ポリビニルピロリドン)で5回、各10分、洗浄し、次いで100mMトリエチルアミンで溶解させた。細胞溶解物を、100μlの1Mトリス(pH7.0)の添加によって中和した。該中和された細胞溶解物中のファージを、大腸菌TG1細胞中で増幅させた。該増幅されたサブ−ライブラリ(sub-library)を、同一の方法を使用して、パンニングの次のラウンドへ供した。個々のファージクローンを、パンニングの4ランド後に選択し、そしてディスプレイされた抗体をコードするDNA配列を測定した。
【0015】
個々のファージクローンを、パンニングの4ラウンド後に単離し、そして該ファージクローンの細胞結合活性を、ELISAによって検査した。94クローンのうち、25クローンが陽性の検査結果であった。ELISA陽性ファージクローンの配列分析は、全ての25陽性ファージクローンが同一のsdAbをディスプレイすることを示した。この抗体は、該抗体のCDR3領域がテトラペプチドAla−Phe−Ala−Ileであるので(図1)、AFAIと名付けられた。
【0016】
実施例2
細胞染色パートA:ファージ提示されたAFAIでの細胞染色
A549細胞を、第1抗体としてのAFAIファージで、続いて抗−M13モノクローナル抗体そしてFluor546標識化ヤギ抗−マウスIgGで免疫染色した場合、非常に強い蛍光シグナルが、細胞サブポピュレーション(cell sub-population)と関連することが観察された(図2)。陽性A549細胞の染色パターンは、AFAIが十分な膜抗原(abundant membrane antigen)へ結合することを示唆した。
【0017】
A549細胞へのAFAIファージの結合が細胞型特異的であるかどうかを調べるために、ヒト気管支上皮細胞細胞系(human bronchial epithelial cell line)、HBE4、ヒト前立腺細胞系、PREP、および一次ヒト線維芽細胞系を、免疫細胞化学染色についてのコントロールとして選択した。A549免疫細胞化学について使用した同一条件下で、ヒト線維芽細胞で染色は観察されず、そしてほんの非常に弱い染色が、HBE4およびPREPで観察された。
【0018】
実施例3
細胞染色パートB:単量体および五量体AFAI sdAbの調製ならびに該sdAbでの細胞染色
AFAIの更なる評価およびキャラクタライゼーションのために、単量体および五量体AFAIを発現させそして精製した。AFAIをコードする遺伝子を、PCRによって増幅し、そして大腸菌発現ベクターへ挿入し、クローンpAFAIを作製した(図1B)。ペンタボディーの高アビディティ効果を活用するために、ES1と呼ばれる、AFAIの五量体形態を構築した(図1Bおよび図1Cを参照のこと)。発酵最適化無しでの、大腸菌TG1の1リットルフラスコ培養物からの精製されたAFAIおよびES1の収量(図1D)は、それぞれ、6mgおよび20mgであった。
【0019】
簡潔には、sdAb AFAIをコードするDNAを、プラスミドpSJF2(Tanha, 2003)のBbsI/BamHI部位およびプラスミドpVT2のBbsI/ApaI部位へクローン化し、単量体および五価AFAIについての発現ベクターをそれぞれ作製した。得られた大腸菌クローンを、pAFAI(モノマー)およびpES1(ペンタマー)と名付けた。蛋白質AFAIおよびES1を、浸透圧ショックの代わりに細胞溶解による大腸菌細胞からの蛋白質抽出という改変を伴って、Tanhaら(2003)に記載されるように作製した。簡潔には、pAFAIおよびpES1クローンを、0.4%カザミノ酸、5mg/l ビタミンB1および200μg/mlアンピシリンを補充した、100ml M9培地(0.2%グルコース、0.6%Na2HPO4、0.3%KH2PO4、0.1%NH4Cl、0.05%NaCl、1mM MgCl2、0.1mM CaCl2)へ接種し、そして37℃で一晩振盪した。30mlの一晩M9培養物を、同一の補充物を含む1リットルのM9倍地へ移し、そして24時間37℃で振盪した。遺伝子発現の誘発を、100ml 10×TB栄養剤(12%トリプトン、24%酵母抽出物、4%グリセロール)、2mlの100mg/mlアンピシリンおよび1mlの1M IPTGの添加によって開始し、そして培養物を室温で48〜72時間振盪した。大腸菌細胞を遠心分離によって収穫し、そしてEmulsiflexTM Cell Disruptor (Avestin Inc. Ottawa, ON)で溶解させた。細胞溶解物を遠心分離し、得られたクリアな上澄みを、Hi-TrapTM Chelating Affinity Column (Amersham Biosciences, Piscataway, NJ)へロードし、そしてHis5タグを含有する蛋白質を、製造業者の使用説明書に従って精製した。
【0020】
A549細胞の免疫化学染色を、単量体(AFAI)および五量体(ES1)抗体の両方を用いて行った。
【0021】
標準免疫化学方法を、若干の改変を伴って、AFAIファージならびに単量体および五量体AFAIを用いての細胞染色において使用した。細胞を、スライドカバースリップ(slide cover slips)において、約70%コンフルエンスまで増殖させ、そしてPBS中4%ホルムアルデヒドで10分間固定した。浸透化(permeabilization)を、0.05%NP−40(Bio-Rad, Hercules, CA)中室温において30分間行い、続いて0.05%Tween−20を含有するPBS(PBST)で3回洗浄した。AFAIファージでの細胞染色のために、2×1011pfuのAFAIファージ(A549培地中)を、4℃で18時間固定化細胞と共にインキュベートし、そしてPBSTで3回、各5分、洗浄した。単量体または五量体AFAIでの細胞染色のために、100μg/mlのAFAIおよびES1(A549培地中)を、室温で2時間、該細胞と共にインキュベートし、そしてPBSTで3回洗浄した。二次抗体、M13ファージについてはモノクローナル抗−M13 IgG(Amersham Biosciences)またはES1ペンタボディーについては9E10 抗c−myc IgG(ATCC)を室温で30分間、1:100希釈で適用し、続いてPBSTで3回洗浄した。三次抗体、Alexa Fluor 546−標識化ヤギ抗−マウスIgGTM(Molecular Probes, Inc, Eugene, OR)を、1:100で希釈し、そして二次抗体と同一の様式で適用した。対比染色を、DAPIおよび(DiOC5)3(Molecular Probes)で行った。免疫化学染色に続いて、カバースリップを、Prolong Antifade Kit(Molecular Probes)を使用して載せ、そしてOlympus BX51TM蛍光顕微鏡下で観察し、画像を記録した。
【0022】
AFAIを使用した場合、恐らく単量体AFAIの低結合親和性のために、明確な染色は観察されなかった(図3)。しかし、A549細胞を染色するAFAI抗体の能力が、五量体形態、ES1を使用した場合に観察された(図3)。AFAIファージで観察されるように、ES1は、A549細胞のサブポピュレーションのみを染色する。
【0023】
実施例4
腫瘍組織に対するES1の特異性の測定
ES1の組織特異性を測定するために、一次抗体としてES1を使用して、組織マイクロアレイ上において、広範囲の組織の免疫組織化学染色を行った。結果は、ES1は、中程度から強い免疫反応性を示すことによって、大抵の肺腺癌を認識することを示した。いずれの結腸腺癌もES1について強い免疫反応性を示さず、しかし、限局性の弱い(focal weak)〜中程度の免疫反応性が、数個のケースにおいて観察された。非癌性肺および結腸組織は、免疫反応性ではなかった(図4、表1)。
【0024】
免疫組織化学染色
ES1の組織特異性を測定するために、広範囲の組織の免疫組織化学染色を、一次抗体としてES1を使用して行った。
【0025】
一次抗体としてES1を使用するヒト組織の免疫染色を、パラフィンブロックから切断した4ミクロン厚切片上において、ABCキット(Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)を用いて、アビジン−ビオチンペルオキシダーゼ複合体(ABC)方法を使用して行った。
【0026】
MIB1(Dako, 希釈1:100)およびTTF1(Dako, 希釈1:50)、肺腺癌検出において広く使用される2つの抗体、を使用してのヒト組織の免疫染色を、ペルオキシダーゼ−アンチペルオキシダーゼ技術を使用して行った。
【0027】
形態学評価
ES1についての免疫反応性を、2人の病理学者によって評価し、そして、連続的な膜および/または細胞質染色パターンが存在した場合、中程度にまたは強く陽性の染色と、そして不連続な膜または弱い細胞質染色が存在した場合、弱く陽性と採点した。中程度または強い染色パターンを、更に、細胞の10%までを1、そして10%超を2、50%超の染色を示す場合において3と採点した。矛盾したスコアを含む場合をレビューした。
【0028】
肺、結腸、胸 胃、膵臓、前立腺、子宮内膜、卵巣、甲状腺および中皮の腫瘍を含む143切除またはバイオプシー検体を得た(表1)。各ケースについて、代表的な腫瘍組織の1つのサンプル(直径2mm)を、パラフィンブロックから取り出し、そして他の腫瘍サンプルで再度埋め込み、少なくとも15の異なる組織を含有する組織マイクロアレイパラフィンブロック(tissue microarray paraffin block)を作製した。正常な組織もまた、腫瘍組織から遠い非腫瘍組織からおよび正常な剖検肺組織からサンプル化した。マイクロアレイ組織が陰性、弱いまたは限局性免疫反応性を示す、肺、結腸、胸 胃 膵臓 膀胱、胆嚢、食道および卵巣のケースを、大きな組織片を使用して、ES1についての免疫染色のために再提出した。
【0029】
表2は、結腸、乳房、尿路上皮癌および他の粘液分泌腺癌(mucus-secreting adenocarcinomas)の組み合わされたグループと、非扁平上皮大細胞肺腺癌(non- squamous large cell lung carcinomas)のグループの免疫染色を比較する。弱いかまたは陰性のES1免疫反応性を示す他のタイプの癌を除いて、肺非扁平上皮大細胞癌についてのES1免疫反応性の感受性および特異性は、それぞれ、97および45%であった。陽性予想値は54%であった。
【0030】
結果は、ES1は大抵の肺腺癌について中程度から強い免疫反応性を示すことを示した。いずれの結腸腺癌も、ES1との強い免疫反応性を示さなかった;しかし、弱から中程度の限局性免疫反応性が、数個のケースで観察された。非癌性肺および結腸組織は、免疫反応性ではなかった。
【0031】
反応性は、しばしば、細胞質中(図8)よりも膜上(図5、6、7)においてより強かった。陽性免疫染色のパターンは、散在性から(図5、6)腫瘍部分または個々の細胞における限局性染色(図7、8)へ変化した。マイクロアレイ切片において陰性、弱いまたは限局性免疫反応性の93ケースのうち、1または2の免疫反応性のスコアを示した11個の大きな切片が存在した。表1は、全ての検体の免疫染色についての最終的な知見を要約している。
【0032】
7個の気管支肺胞癌および22個の十分に分化している〜ほとんど分化していない(well to poorly-differentiated)腺癌、6個の大細胞未分化癌を含む肺の35の非扁平上皮大細胞癌は、それぞれ、7、17および10の腫瘍において、1,2および3の免疫反応性のスコアを示した(図5〜8)。残りの癌は、陰性免疫反応性を示す扁平上皮分化(squamous differentiation)のいくつかの特徴を有する未分化大細胞癌であった。限局性の中程度から強い免疫反応性を有する腫瘍(10%未満免疫反応性細胞)は、十分に分化した非粘液性腫瘍であった。2つの腺扁平上皮癌もまた、腺癌部分において1および2の免疫反応性のスコアを示した(図9)。肺の5つの異型腺腫様過形成(atypical adenomatous hyperplasias)のうち4つが、限局性または弱い免疫反応性を示した(図10)。癌を伴うかまたは伴わない、全ての純粋な扁平上皮癌、カルチノイド腫瘍(carcinoid tumors)、正常および反応性肺実質が、該抗体について反応性でなかった。
【0033】
15個の腺癌結腸腺癌(adenocarcinoma colonic adenocarcinomas)、8個の乳癌、4個の尿路上皮癌ならびに膵臓(6)、胃(6)および胆嚢(1)、食道(3)、膀胱(2)、卵巣(3)および気管(1)の腺癌を含む53個の非肺かつ粘液分泌性腫瘍(non-lung and mucus-secreting tumor)について、免疫反応性は、15、11、3、12および12個において、それぞれ、1、2、3、弱および陰性と採点された(図11、12)。結腸腺癌は、より散在性かつ強い免疫反応性を有する腫瘍のサブグループを形成した。結腸腺腫は、限局性または弱い免疫反応性を示しただけであった。
【0034】
32の非肺かつ非粘液性腫瘍について、免疫反応性は、陰性または弱であった。癌の周囲の領域からまたは癌を有していない器官からの、肺、肝臓、膵臓、腎臓、膀胱、子宮内膜、甲状腺、食道および卵巣からの正常組織は、癌について反応性ではなく、時折の腺房(occasional acini)において中程度の陽性を示す乳組織(乳管癌を囲む)の1ケースの例外があった。
【0035】
スコア1または2の免疫反応性を有する24の非扁平上皮大細胞肺癌の24の大きな切片において行ったMIB1についての免疫染色は、陰性、弱いまたは限局性のES1−免疫反応性細胞を有する領域と比較して、多数のES1−免疫反応性細胞の領域において、腫瘍細胞の増殖性の顕著な増加を示した。TTF1についての免疫染色を、マクロアレイ組織において行った。全ての非肺かつ非甲状腺組織は、陰性の核免疫反応性(negative nuclear immunoreactivity)を示した。35の肺非扁平上皮大細胞癌について、TTF1免疫反応性は、5個の未分化大細胞癌、2つの乏しく分化した腺癌および1つの粘液性気管支肺胞癌(mucinous bronchiolo-alveolar carcinoma)を含む8つのケースにおいて、陰性であった。他のタイプのマイクロアレイ組織は、免疫反応性ではなかった。
【0036】
この研究において、ES1免疫反応性は、ほぼ完全に悪性腫瘍、特に肺腺癌に限定されていた。非粘液性気管支肺胞癌(non-mucinous bronchiolo-alveolar carcinomas)が限局性免疫反応性のみを示したので、粘液成分を有する肺腫瘍において免疫反応性がより強い傾向が存在した。ES1免疫反応性は、肺腺癌においてよりも弱くそして限局性の染色を有する多数の結腸腺癌において陽性であった。興味深いことに、ES1免疫染色は、未分化大細胞肺癌の免疫染色におけるTTF1の低感度と比較して、原発性ならびに転移性部位における未分化大細胞肺癌について2または3をスコアリングのままであった(*)。更に、結腸腺腫は、限局性の弱いかまたは陰性の免疫反応性のみを示した。他の器官からの粘液性腺癌は、少数のケースにおいて、スコア2、限局性または弱い免疫反応性を示した。この研究において、肺腺癌において同定された免疫反応性変化は、AFAI抗原のアップレギュレーションに対応する傾向があった。この印象は、MIB1についての免疫反応性によって実証されたように、増加された増殖性(proliferativity)を有する肺の癌の領域における陽性ES1免疫反応性の発見によって支持される。
【0037】
AFAIの使用およびバリエーションの非限定的考察
AFAI抗原は、肺腺癌において、分化の程度がより低い(less differentiated)腫瘍においてさえ、アップレギュレーションされるようである。ES1は、肺の乏しく分化した肺腺癌について、TTF1よりも感度の高いマーカーでありそうである。試験された大抵の正常な組織はES1−免疫反応性ではなかったので、ES1は、肺腺癌および多数の結腸癌および乳癌についてのスクリーニングテストの開発における使用に好適である。
【0038】
本発明の実施形態において、図1に示されるようなAFAIのアミノ酸配列、あるいはそれに少なくとも90%、95%または98%同一であるアミノ酸配列が提供される。関心のある変異アミノ酸配列の例が、表IIIに示され、ここで、変化していない残基はハイフンによって示されている。AFAIが、抗原結合または特異性に干渉しない位置で変異され得ることが、理解される。特に興味のある部位としては、いくつかの可能な変異が表IIIに示されるものが挙げられる。いくつかの可能な変異体しか示されていないが、表IIIに記載されるアミノ酸変化の1またはそれ以上によって配列番号1とは異なるAFAIの全ての変異体を包含する、全ての機能的な変異体が、明確に意図されておりかつ本発明の範囲内であることが理解されるであろう。
【0039】
本発明の実施形態において、図1に示されるようなAFAIの下線が引かれた(CDR)領域に対して完全な配列同一性を有しそしてその配列の残りの部分に対して少なくとも40%、60%、80%、または90%配列同一性を有するアミノ酸配列が提供される。また、このようなアミノ酸配列をコードする核酸配列も提供される。
【0040】
本発明の実施形態において、図1に開示されるようなAFAIをコードする核酸配列、あるいはそれに対して少なくとも90%または95%同一なアミノ酸配列が提供される。本発明の実施形態において、表2に示される、あるいはその連続する250核酸領域に対して、あるいはこのような核酸配列に対して相補的なAFAIまたはES1の配列に対して少なくとも70%、80%、90%、95%、または98%の配列同一性を有する蛋白質をコードする核酸配列が提供される。本発明の実施形態において、AFAIをコードする核酸またはその部分の増幅に好適なPCRプライマーが提供される。場合によっては、該部分は、少なくとも1つのCDR領域を含む。
【0041】
本発明の実施形態において、以下の3つの連続アミノ酸配列:KNLMG、TISGSGGTNYASSVEGおよびAFAIの少なくとも1つを含む少なくとも90アミノ酸を含むポリペプチド配列が提供される。
【0042】
本発明の実施形態において、ポリペプチドを抗原結合フラグメントへグラフトすることによって複合体を形成することにおける、AFAI誘導ポリペプチドおよび/または配列番号1に対して少なくとも90%同一性を有するポリペプチドおよび/またはその一部の使用が提供される。場合によっては、1以上のAFAI CDRが、例えば、VHH、VHまたはVLフレームワーク(足場(scaffold))または免疫グロブリンおよび/またはそのフラグメント(例えば、Fab、scFv)を含む、抗原結合フラグメントへグラフトされる。1またはそれ以上のAFAI CDRはまた、融合蛋白質を作製するために使用され得、ここで、第2ポリペプチド配列が、有用な官能性または特性を提供する。場合によっては、当該分野において公知の技術を使用してAFAI抗体のヒト化変異体を作製することが望ましいかもしれない。このようなヒト化抗体は、本明細書中で明確に意図される。場合によっては、AFAIまたはその一部を自己集合分子(self assembly molecules)へ複合体化して、増強された抗原結合特性を有する多量体複合体(multi meric complexes)を形成させることが望ましい。
【0043】
本発明の実施形態において、該3つの連続アミノ酸配列の少なくとも1つを含むポリペプチドとカーゴ分子(単数又は複数)との複合体が提供される。カーゴ分子は、癌の診断または処置に有用であり得る。例えば、それは、組織中の問題の細胞の同定および位置決定(localization)において有用な酵素または放射性同位体であり得、あるいはそれは、癌細胞の増殖する生存能または能力を減少させることにおいて有用な、薬物、更に強い抗原、アポトーシス誘導剤(apoptosis inducer)または放射性同位体のような細胞傷害剤(cytotoxic agent)であり得る。
【0044】
参考文献の組み込みは、それが本明細書中に開示されるものの特許性に関連しているという承認または示唆ではない。
【0045】
【数1−1】
【0046】
【数1−2】
【0047】
【数1−3】
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3−1】
【0051】
【表3−2】
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、単量体および五量体AFAIの図である。(a)下線が引かれているCDR1、CDR2およびCDR3を有するAFAIの配列(配列番号1);(b)単量体(AFAI)および五量体(ES1)蛋白質の一次構造の略図;(c)下線が引かれているAFAIを有するES1の配列(配列番号2);(d)精製されたES1(レーン1)およびAFAI(レーン2)のSDS−PAGE。
【図2】図2は、AFAIファージ抗体でのA549細胞の免疫組織化学染色の画像図である。細胞を、第1抗体としての該AFAIファージ、第2抗体としてのマウス抗−M13IgG、および第3抗体としてのAlexa Fluor 546標識化ヤギ抗−マウスIgGへ暴露した。DAPIおよびDiOC5(3)を使用して、細胞核および細胞内小胞体をそれぞれ染色した。
【図3】図3は、AFAIおよびES1でのA549の免疫組織化学染色の画像図である。A549細胞を、第1抗体としてのES1(A)またはAFAI(D)のいずれか、第2抗体としてのモノクローナル抗−c−myc IgG、第3抗体としてのAlexa Fluor 546(レッド)標識化抗−マウスIgGへ暴露した。(A)および(D)のDAPI染色を、それぞれ、(B)および(E)に示す。A,BおよびD,Eの重ね合わせを、それぞれ、CおよびFに示す。
【図4】図4は、ES1が、分化した肺腺癌へ強力に結合し、そして大抵の結腸腺癌または正常な肺組織へは結合しないことを示す、免疫組織化学染色の画像図である:(A)肺腺癌の強い陽性染色、(B)(A)において囲まれた領域の拡大図、(C)結腸腺癌の陰性染色、および(D)正常な肺組織の陰性染色。
【図5】図5は、粘液性タイプの気管支肺胞癌の図である:(A)主として管腔縁(luminal borders)に沿う、散在性の中程度の免疫反応性を示すES1についての免疫染色;(B)Aにおける領域の高倍率;(C)陰性免疫反応性を示すTTF1(DAKO)についての免疫染色。
【図6】図6は、転移性の分化に乏しい肺腺癌の図である:(A)散在性の強い免疫反応性を示すES1についての免疫染色;(B)Aにおける領域の高倍率;(C)陰性免疫反応性を示すTTF1についての免疫染色。
【図7】図7は、肺の中程度に分化した腺癌の図である:(A)限局性の弱い染色を示す領域に隣接する限局性領域(focal area)における強い免疫反応性を示すES1についての免疫反応性;(B)Aにおける領域の高倍率;(C)強いES1免疫反応性を有する領域における免疫反応性の顕著な増加を示すMIB1(DAKO)についての免疫染色。
【図8】図8は、肺の分化の乏しい腺癌の図である:(A)中程度かつ広範囲の免疫反応性を示すES1についての免疫染色;(B、C)Aにおける領域の高倍率。正常な気管支上皮における陰性免疫染色に注意のこと。
【図9】図9は、肺腺扁平上皮癌の図である:(A)限局性免疫反応性を示すES1についての免疫染色;(B、C)限局性免疫反応性を示すAにおける領域の高倍率。
【図10】図10は、肺の典型的な腺腫様過形成の図である:(A)限局性の弱い免疫反応性を示すES1についての免疫染色;(B、C)弱い免疫反応性を示すAにおける領域の高倍率。
【図11】図11は、脳における転移性の中程度に分化した結腸腺癌の図である:(A)数個の単一細胞における限局性免疫反応性を示すES1についての免疫染色;(B)Aにおける領域の高倍率。
【図12】図12は、胸の浸潤している乳管癌(duct cartinoma)の図である:(A)限局性の中程度の免疫反応性を示すES1についての免疫染色;(B)Aにおける領域の高倍率;(C)正常な胸組織における数個の腺房における限局性の強い免疫反応性。
【背景技術】
【0001】
背景
プロテオミックリサーチは、新規の腫瘍標的の発見を大いに促進することが、広く期待されている。主な進歩は、診断目的についての標的の同定においてなされた。しかし、現在の技術の限界が、新規の治療標的の同定を妨害している。プロテオミクスにおいて一般的に使用される技術、例えば、二次元ゲル電気泳動、液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC/MS/MS)、マトリクス支援レーザー脱離イオン化/質量分析(MALDI−MS)、および酵母2−ハイブリッド系は、細胞表面マーカーのような“薬物化可能な(drugable)”標的についての要求を満たしていない。
【0002】
腫瘍を標的にする抗体およびペプチドは、ライブラリディスプレイアプローチ(library display approaches)(例えば、Aina, 2002; Hoogenboom, 1998)によって単離され得る。これは、通常、精製された腫瘍特異的または腫瘍関連抗原に対して、ファージディスプレイライブラリ、または他のディスプレイフォーマットを有するライブラリをスクリーニングすることによって達成される。しかし、腫瘍を標的にする抗体およびペプチドはまた、分子標的についての事前の情報無しに、腫瘍細胞または腫瘍組織に対してライブラリをパンニングする(panning)ことによっても単離された。後者のアプローチの注目に値する利点は、以下である:(i)該単離された抗体/ペプチドは、細胞表面上のそれらの抗原/リガンドの天然形態へ結合し、一方、精製された腫瘍抗原は、しばしば現実には組換え体であり、そして翻訳後の修飾を欠いている、(ii)該抗原は、該単離された抗体/ペプチドへアクセス可能であり(accessible)、一方、純粋な抗原に対するパンニングにより単離されたものは、膜に天然には埋め込まれているかまたは炭水化物修飾によってブロックされるエピトープを認識し得る。しかし、この方法で単離された抗体/ペプチドは、通常、それらの抗原/リガンドに対して低〜中程度の親和性を有する。
【0003】
各M13ファージ粒子は、マイナーコート蛋白質pIII(minor coat protein pIII)の5つのコピーを提示するので、pIIIの全てのコピーにおいて抗体フラグメントを提示するファージ粒子は、五価の抗体(pentavalent antibody)と考えられ得る。ファージ上における抗体フラグメントのこの多価の提示(multivalent display)は、該抗体のアビディティを大いに増加させ、そしてファージ抗体のスクリーニングおよび評価の両方を促進する。単離された抗体フラグメント(scFvまたはsdAb)あるいはペプチドは、それらはそもそも一価形態で存在しそしてアビディティを欠いているので、遥かに効率低く抗原に結合する。
【0004】
pIIIファージディスプレイにおけるような五価を可能にする抗体フラグメントオリゴマー化ストラテジー(antibody fragment oligomerization strategy)は、PCT/CA02/01829(MacKenzieおよびZhang)の主題である。ベロ毒素のBサブユニット(VT1B)のホモ−五量体化ドメイン(homo-pentamerization domain)へのシングルドメイン抗体(sdAb)の融合は、該sdAbの同時五量体化を生じさせた。ペンタボディー(pentabodies)と呼ばれる、五価のsdAbは、それらの単量体対応物よりも遥かにより強力に固定化抗原へ結合する。ペプチドホルモン−結合sdAbの場合、五量体化は、固定化抗原への結合において103〜104倍の改善を生じさせた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、肺癌について親和性を有するシングル−ドメイン抗体(single-domain antibody)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要旨
本明細書において、癌(そして特に、肺癌)への結合について特異的親和性を有する、新規のシングルドメイン抗体AFAIおよびそのフラグメントが提供される。この抗体、およびその部分は、特に、癌の診断および治療において使用され得る。
【0007】
好ましい実施形態の詳細な説明
プロテオミクスリサーチは、多くの新規の腫瘍標的を提供した。しかし、いくつかの制限に起因して、薬物適用に最もアクセス可能である標的を同定することは困難であった。腫瘍細胞に対してシングルドメイン抗体(sdAb)ライブラリをスクリーニングし、そして引き続いて単離された抗体の対応の抗原を同定することに基づく、新規の腫瘍抗原ディスカバリープラットフォーム(discovery platform)が、本明細書に記載される。非小細胞肺癌(non-small cell lung carcinoma)(A549細胞系)について特異的な、特異的sdAb、AFAIを、実施例1に記載のように、ラマの重鎖抗体レパートリーから誘導されたファージライブラリから単離した。非毒性ベロ毒素Bサブユニットのホモ五量体化特性(homopentamerization property)を、ES1ペンタボディー、AFAIの五量体形態を作製するために使用した。五量体化は、A549細胞へのAFAIの結合を劇的に向上した。免疫組織染色は、ES1が肺癌について非常に特異的であることを示した。
【0008】
本明細書中の開示を考慮して、標準技術に従って、ES1についての全遺伝子を化学合成しそして大腸菌または別の好適な生物においてそれを発現させることが、可能である。AFAIの遺伝子は、その抗原に対して結合エンティティー(binding entity)である、ES1から合成され得る。本明細書中の開示を考慮して、AFAIの二量体、三量体、四量体、他の五量体および他の多価形態を作製することが可能である。このようなプロダクトは、本発明に関連する方法および組成物において有用であり得、本明細書中で記載されるように、問題の悪性組織または細胞への特異的結合を提供するこのようなプロダクトの変異体を提供するDNAおよびクローン材料も有用であり得る。
【0009】
ES1、AFAIおよび/または類似の結合特異性を示すその変異体(“好適な変異体”)は、肺癌の診断および治療に有用である。従って、ES1、AFAIおよび/またはその好適な変異体が使用され得る診断方法としては、以下が挙げられる:免疫組織化学法;分子(ES1、AFAI、変異体)をラジオアイソトープで標識し、そして陽電子断層撮影法およびMRIのような腫瘍画像化ツールで検出すること;血液サンプルの分析(および標準技術を使用して結合を検出すること)。
【0010】
ES1、AFAIおよび/またはその好適な変異体ならびにそれらの使用についての使用説明書を含む診断キットが、具体的には考えられる。
【0011】
ES1およびAFAIに関連する治療方法および組成物は、AFAI、ES1、またはその好適な変異体を使用すること、そして、例えば、それらをラジオアイソトープで標識し、そして該分子を患者へ適用すること;それらを1以上の従来の治療剤(therapeutics)へ複合体化し、そして該複合体を患者へ適用すること;それらを1以上の毒素へ複合体化し、そして該複合体を患者へ適用すること;ES1、AFAIおよび/またはその好適な変異体をコードする核酸分子を遺伝子治療ベクターにおいて発現させ、そして該ベクターを患者へ適用することを包含する。
【実施例】
【0012】
結果
実施例1:
細胞培養物
非小細胞肺癌細胞系A549を、ATCC(Manassas, VA)から購入し、そして5%FBS(Gibco)および1%Antibiotic-Antimycotic(Gibco)が補充されたDMEM(Gibco, Rockville, MA)中において維持した。一次ヒト皮膚線維芽細胞は、親切なことに、Dr. J. Xu(Apotex Research Inc. Ottawa, ON)によって提供された。ポリクローナルウサギ抗−ベロ毒素抗血清は、親切なことに、Dr. Clifford Lingwood(Univ. of Toronto)によって提供された。
【0013】
非小細胞肺癌細胞系A549へ結合するsdAb AFAIの単離
ナイーブラマシングルドメイン抗体ライブラリ(naive llama single domain antibody library)(Tanhaら、2002)は、腫瘍細胞(今回の場合、非小細胞肺癌細胞系A549)に特異的な抗体フラグメントの供給源として役立った。セルパンニング(cell panning)と呼ばれる、A549細胞へ結合するファージ抗体の単離を、パンニングの各ラウンドで、ヒト線維芽細胞における該ライブラリのプレ吸着を伴って、A549細胞を用いて行った。
【0014】
sdAbファージディスプレイライブラリ(Tanhaら、2002)を、標的細胞としてのA549およびサブトラクティング細胞(subtracting cells)としてのヒト皮膚線維芽細胞を用いて、パンニングした。パンニングを、若干の改変を伴って、Becerrilら(1999)に記載されるように行った。パンニングの第一ラウンドのために、1013pfuを、サブトラクティング線維芽細胞と共にインキュベートして、線維芽細胞結合ファージを除去した。上澄み中に残存するファージ粒子を、室温で1時間、5cmペトリ皿中で培養したA549細胞と共にインキュベートした。該A549細胞を、PBSで5回、各1分、そしてストリッピング緩衝液(stripping buffer)(50mMグリシン、pH2.8、0.5M NaCl、2M尿素、2%ポリビニルピロリドン)で5回、各10分、洗浄し、次いで100mMトリエチルアミンで溶解させた。細胞溶解物を、100μlの1Mトリス(pH7.0)の添加によって中和した。該中和された細胞溶解物中のファージを、大腸菌TG1細胞中で増幅させた。該増幅されたサブ−ライブラリ(sub-library)を、同一の方法を使用して、パンニングの次のラウンドへ供した。個々のファージクローンを、パンニングの4ランド後に選択し、そしてディスプレイされた抗体をコードするDNA配列を測定した。
【0015】
個々のファージクローンを、パンニングの4ラウンド後に単離し、そして該ファージクローンの細胞結合活性を、ELISAによって検査した。94クローンのうち、25クローンが陽性の検査結果であった。ELISA陽性ファージクローンの配列分析は、全ての25陽性ファージクローンが同一のsdAbをディスプレイすることを示した。この抗体は、該抗体のCDR3領域がテトラペプチドAla−Phe−Ala−Ileであるので(図1)、AFAIと名付けられた。
【0016】
実施例2
細胞染色パートA:ファージ提示されたAFAIでの細胞染色
A549細胞を、第1抗体としてのAFAIファージで、続いて抗−M13モノクローナル抗体そしてFluor546標識化ヤギ抗−マウスIgGで免疫染色した場合、非常に強い蛍光シグナルが、細胞サブポピュレーション(cell sub-population)と関連することが観察された(図2)。陽性A549細胞の染色パターンは、AFAIが十分な膜抗原(abundant membrane antigen)へ結合することを示唆した。
【0017】
A549細胞へのAFAIファージの結合が細胞型特異的であるかどうかを調べるために、ヒト気管支上皮細胞細胞系(human bronchial epithelial cell line)、HBE4、ヒト前立腺細胞系、PREP、および一次ヒト線維芽細胞系を、免疫細胞化学染色についてのコントロールとして選択した。A549免疫細胞化学について使用した同一条件下で、ヒト線維芽細胞で染色は観察されず、そしてほんの非常に弱い染色が、HBE4およびPREPで観察された。
【0018】
実施例3
細胞染色パートB:単量体および五量体AFAI sdAbの調製ならびに該sdAbでの細胞染色
AFAIの更なる評価およびキャラクタライゼーションのために、単量体および五量体AFAIを発現させそして精製した。AFAIをコードする遺伝子を、PCRによって増幅し、そして大腸菌発現ベクターへ挿入し、クローンpAFAIを作製した(図1B)。ペンタボディーの高アビディティ効果を活用するために、ES1と呼ばれる、AFAIの五量体形態を構築した(図1Bおよび図1Cを参照のこと)。発酵最適化無しでの、大腸菌TG1の1リットルフラスコ培養物からの精製されたAFAIおよびES1の収量(図1D)は、それぞれ、6mgおよび20mgであった。
【0019】
簡潔には、sdAb AFAIをコードするDNAを、プラスミドpSJF2(Tanha, 2003)のBbsI/BamHI部位およびプラスミドpVT2のBbsI/ApaI部位へクローン化し、単量体および五価AFAIについての発現ベクターをそれぞれ作製した。得られた大腸菌クローンを、pAFAI(モノマー)およびpES1(ペンタマー)と名付けた。蛋白質AFAIおよびES1を、浸透圧ショックの代わりに細胞溶解による大腸菌細胞からの蛋白質抽出という改変を伴って、Tanhaら(2003)に記載されるように作製した。簡潔には、pAFAIおよびpES1クローンを、0.4%カザミノ酸、5mg/l ビタミンB1および200μg/mlアンピシリンを補充した、100ml M9培地(0.2%グルコース、0.6%Na2HPO4、0.3%KH2PO4、0.1%NH4Cl、0.05%NaCl、1mM MgCl2、0.1mM CaCl2)へ接種し、そして37℃で一晩振盪した。30mlの一晩M9培養物を、同一の補充物を含む1リットルのM9倍地へ移し、そして24時間37℃で振盪した。遺伝子発現の誘発を、100ml 10×TB栄養剤(12%トリプトン、24%酵母抽出物、4%グリセロール)、2mlの100mg/mlアンピシリンおよび1mlの1M IPTGの添加によって開始し、そして培養物を室温で48〜72時間振盪した。大腸菌細胞を遠心分離によって収穫し、そしてEmulsiflexTM Cell Disruptor (Avestin Inc. Ottawa, ON)で溶解させた。細胞溶解物を遠心分離し、得られたクリアな上澄みを、Hi-TrapTM Chelating Affinity Column (Amersham Biosciences, Piscataway, NJ)へロードし、そしてHis5タグを含有する蛋白質を、製造業者の使用説明書に従って精製した。
【0020】
A549細胞の免疫化学染色を、単量体(AFAI)および五量体(ES1)抗体の両方を用いて行った。
【0021】
標準免疫化学方法を、若干の改変を伴って、AFAIファージならびに単量体および五量体AFAIを用いての細胞染色において使用した。細胞を、スライドカバースリップ(slide cover slips)において、約70%コンフルエンスまで増殖させ、そしてPBS中4%ホルムアルデヒドで10分間固定した。浸透化(permeabilization)を、0.05%NP−40(Bio-Rad, Hercules, CA)中室温において30分間行い、続いて0.05%Tween−20を含有するPBS(PBST)で3回洗浄した。AFAIファージでの細胞染色のために、2×1011pfuのAFAIファージ(A549培地中)を、4℃で18時間固定化細胞と共にインキュベートし、そしてPBSTで3回、各5分、洗浄した。単量体または五量体AFAIでの細胞染色のために、100μg/mlのAFAIおよびES1(A549培地中)を、室温で2時間、該細胞と共にインキュベートし、そしてPBSTで3回洗浄した。二次抗体、M13ファージについてはモノクローナル抗−M13 IgG(Amersham Biosciences)またはES1ペンタボディーについては9E10 抗c−myc IgG(ATCC)を室温で30分間、1:100希釈で適用し、続いてPBSTで3回洗浄した。三次抗体、Alexa Fluor 546−標識化ヤギ抗−マウスIgGTM(Molecular Probes, Inc, Eugene, OR)を、1:100で希釈し、そして二次抗体と同一の様式で適用した。対比染色を、DAPIおよび(DiOC5)3(Molecular Probes)で行った。免疫化学染色に続いて、カバースリップを、Prolong Antifade Kit(Molecular Probes)を使用して載せ、そしてOlympus BX51TM蛍光顕微鏡下で観察し、画像を記録した。
【0022】
AFAIを使用した場合、恐らく単量体AFAIの低結合親和性のために、明確な染色は観察されなかった(図3)。しかし、A549細胞を染色するAFAI抗体の能力が、五量体形態、ES1を使用した場合に観察された(図3)。AFAIファージで観察されるように、ES1は、A549細胞のサブポピュレーションのみを染色する。
【0023】
実施例4
腫瘍組織に対するES1の特異性の測定
ES1の組織特異性を測定するために、一次抗体としてES1を使用して、組織マイクロアレイ上において、広範囲の組織の免疫組織化学染色を行った。結果は、ES1は、中程度から強い免疫反応性を示すことによって、大抵の肺腺癌を認識することを示した。いずれの結腸腺癌もES1について強い免疫反応性を示さず、しかし、限局性の弱い(focal weak)〜中程度の免疫反応性が、数個のケースにおいて観察された。非癌性肺および結腸組織は、免疫反応性ではなかった(図4、表1)。
【0024】
免疫組織化学染色
ES1の組織特異性を測定するために、広範囲の組織の免疫組織化学染色を、一次抗体としてES1を使用して行った。
【0025】
一次抗体としてES1を使用するヒト組織の免疫染色を、パラフィンブロックから切断した4ミクロン厚切片上において、ABCキット(Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)を用いて、アビジン−ビオチンペルオキシダーゼ複合体(ABC)方法を使用して行った。
【0026】
MIB1(Dako, 希釈1:100)およびTTF1(Dako, 希釈1:50)、肺腺癌検出において広く使用される2つの抗体、を使用してのヒト組織の免疫染色を、ペルオキシダーゼ−アンチペルオキシダーゼ技術を使用して行った。
【0027】
形態学評価
ES1についての免疫反応性を、2人の病理学者によって評価し、そして、連続的な膜および/または細胞質染色パターンが存在した場合、中程度にまたは強く陽性の染色と、そして不連続な膜または弱い細胞質染色が存在した場合、弱く陽性と採点した。中程度または強い染色パターンを、更に、細胞の10%までを1、そして10%超を2、50%超の染色を示す場合において3と採点した。矛盾したスコアを含む場合をレビューした。
【0028】
肺、結腸、胸 胃、膵臓、前立腺、子宮内膜、卵巣、甲状腺および中皮の腫瘍を含む143切除またはバイオプシー検体を得た(表1)。各ケースについて、代表的な腫瘍組織の1つのサンプル(直径2mm)を、パラフィンブロックから取り出し、そして他の腫瘍サンプルで再度埋め込み、少なくとも15の異なる組織を含有する組織マイクロアレイパラフィンブロック(tissue microarray paraffin block)を作製した。正常な組織もまた、腫瘍組織から遠い非腫瘍組織からおよび正常な剖検肺組織からサンプル化した。マイクロアレイ組織が陰性、弱いまたは限局性免疫反応性を示す、肺、結腸、胸 胃 膵臓 膀胱、胆嚢、食道および卵巣のケースを、大きな組織片を使用して、ES1についての免疫染色のために再提出した。
【0029】
表2は、結腸、乳房、尿路上皮癌および他の粘液分泌腺癌(mucus-secreting adenocarcinomas)の組み合わされたグループと、非扁平上皮大細胞肺腺癌(non- squamous large cell lung carcinomas)のグループの免疫染色を比較する。弱いかまたは陰性のES1免疫反応性を示す他のタイプの癌を除いて、肺非扁平上皮大細胞癌についてのES1免疫反応性の感受性および特異性は、それぞれ、97および45%であった。陽性予想値は54%であった。
【0030】
結果は、ES1は大抵の肺腺癌について中程度から強い免疫反応性を示すことを示した。いずれの結腸腺癌も、ES1との強い免疫反応性を示さなかった;しかし、弱から中程度の限局性免疫反応性が、数個のケースで観察された。非癌性肺および結腸組織は、免疫反応性ではなかった。
【0031】
反応性は、しばしば、細胞質中(図8)よりも膜上(図5、6、7)においてより強かった。陽性免疫染色のパターンは、散在性から(図5、6)腫瘍部分または個々の細胞における限局性染色(図7、8)へ変化した。マイクロアレイ切片において陰性、弱いまたは限局性免疫反応性の93ケースのうち、1または2の免疫反応性のスコアを示した11個の大きな切片が存在した。表1は、全ての検体の免疫染色についての最終的な知見を要約している。
【0032】
7個の気管支肺胞癌および22個の十分に分化している〜ほとんど分化していない(well to poorly-differentiated)腺癌、6個の大細胞未分化癌を含む肺の35の非扁平上皮大細胞癌は、それぞれ、7、17および10の腫瘍において、1,2および3の免疫反応性のスコアを示した(図5〜8)。残りの癌は、陰性免疫反応性を示す扁平上皮分化(squamous differentiation)のいくつかの特徴を有する未分化大細胞癌であった。限局性の中程度から強い免疫反応性を有する腫瘍(10%未満免疫反応性細胞)は、十分に分化した非粘液性腫瘍であった。2つの腺扁平上皮癌もまた、腺癌部分において1および2の免疫反応性のスコアを示した(図9)。肺の5つの異型腺腫様過形成(atypical adenomatous hyperplasias)のうち4つが、限局性または弱い免疫反応性を示した(図10)。癌を伴うかまたは伴わない、全ての純粋な扁平上皮癌、カルチノイド腫瘍(carcinoid tumors)、正常および反応性肺実質が、該抗体について反応性でなかった。
【0033】
15個の腺癌結腸腺癌(adenocarcinoma colonic adenocarcinomas)、8個の乳癌、4個の尿路上皮癌ならびに膵臓(6)、胃(6)および胆嚢(1)、食道(3)、膀胱(2)、卵巣(3)および気管(1)の腺癌を含む53個の非肺かつ粘液分泌性腫瘍(non-lung and mucus-secreting tumor)について、免疫反応性は、15、11、3、12および12個において、それぞれ、1、2、3、弱および陰性と採点された(図11、12)。結腸腺癌は、より散在性かつ強い免疫反応性を有する腫瘍のサブグループを形成した。結腸腺腫は、限局性または弱い免疫反応性を示しただけであった。
【0034】
32の非肺かつ非粘液性腫瘍について、免疫反応性は、陰性または弱であった。癌の周囲の領域からまたは癌を有していない器官からの、肺、肝臓、膵臓、腎臓、膀胱、子宮内膜、甲状腺、食道および卵巣からの正常組織は、癌について反応性ではなく、時折の腺房(occasional acini)において中程度の陽性を示す乳組織(乳管癌を囲む)の1ケースの例外があった。
【0035】
スコア1または2の免疫反応性を有する24の非扁平上皮大細胞肺癌の24の大きな切片において行ったMIB1についての免疫染色は、陰性、弱いまたは限局性のES1−免疫反応性細胞を有する領域と比較して、多数のES1−免疫反応性細胞の領域において、腫瘍細胞の増殖性の顕著な増加を示した。TTF1についての免疫染色を、マクロアレイ組織において行った。全ての非肺かつ非甲状腺組織は、陰性の核免疫反応性(negative nuclear immunoreactivity)を示した。35の肺非扁平上皮大細胞癌について、TTF1免疫反応性は、5個の未分化大細胞癌、2つの乏しく分化した腺癌および1つの粘液性気管支肺胞癌(mucinous bronchiolo-alveolar carcinoma)を含む8つのケースにおいて、陰性であった。他のタイプのマイクロアレイ組織は、免疫反応性ではなかった。
【0036】
この研究において、ES1免疫反応性は、ほぼ完全に悪性腫瘍、特に肺腺癌に限定されていた。非粘液性気管支肺胞癌(non-mucinous bronchiolo-alveolar carcinomas)が限局性免疫反応性のみを示したので、粘液成分を有する肺腫瘍において免疫反応性がより強い傾向が存在した。ES1免疫反応性は、肺腺癌においてよりも弱くそして限局性の染色を有する多数の結腸腺癌において陽性であった。興味深いことに、ES1免疫染色は、未分化大細胞肺癌の免疫染色におけるTTF1の低感度と比較して、原発性ならびに転移性部位における未分化大細胞肺癌について2または3をスコアリングのままであった(*)。更に、結腸腺腫は、限局性の弱いかまたは陰性の免疫反応性のみを示した。他の器官からの粘液性腺癌は、少数のケースにおいて、スコア2、限局性または弱い免疫反応性を示した。この研究において、肺腺癌において同定された免疫反応性変化は、AFAI抗原のアップレギュレーションに対応する傾向があった。この印象は、MIB1についての免疫反応性によって実証されたように、増加された増殖性(proliferativity)を有する肺の癌の領域における陽性ES1免疫反応性の発見によって支持される。
【0037】
AFAIの使用およびバリエーションの非限定的考察
AFAI抗原は、肺腺癌において、分化の程度がより低い(less differentiated)腫瘍においてさえ、アップレギュレーションされるようである。ES1は、肺の乏しく分化した肺腺癌について、TTF1よりも感度の高いマーカーでありそうである。試験された大抵の正常な組織はES1−免疫反応性ではなかったので、ES1は、肺腺癌および多数の結腸癌および乳癌についてのスクリーニングテストの開発における使用に好適である。
【0038】
本発明の実施形態において、図1に示されるようなAFAIのアミノ酸配列、あるいはそれに少なくとも90%、95%または98%同一であるアミノ酸配列が提供される。関心のある変異アミノ酸配列の例が、表IIIに示され、ここで、変化していない残基はハイフンによって示されている。AFAIが、抗原結合または特異性に干渉しない位置で変異され得ることが、理解される。特に興味のある部位としては、いくつかの可能な変異が表IIIに示されるものが挙げられる。いくつかの可能な変異体しか示されていないが、表IIIに記載されるアミノ酸変化の1またはそれ以上によって配列番号1とは異なるAFAIの全ての変異体を包含する、全ての機能的な変異体が、明確に意図されておりかつ本発明の範囲内であることが理解されるであろう。
【0039】
本発明の実施形態において、図1に示されるようなAFAIの下線が引かれた(CDR)領域に対して完全な配列同一性を有しそしてその配列の残りの部分に対して少なくとも40%、60%、80%、または90%配列同一性を有するアミノ酸配列が提供される。また、このようなアミノ酸配列をコードする核酸配列も提供される。
【0040】
本発明の実施形態において、図1に開示されるようなAFAIをコードする核酸配列、あるいはそれに対して少なくとも90%または95%同一なアミノ酸配列が提供される。本発明の実施形態において、表2に示される、あるいはその連続する250核酸領域に対して、あるいはこのような核酸配列に対して相補的なAFAIまたはES1の配列に対して少なくとも70%、80%、90%、95%、または98%の配列同一性を有する蛋白質をコードする核酸配列が提供される。本発明の実施形態において、AFAIをコードする核酸またはその部分の増幅に好適なPCRプライマーが提供される。場合によっては、該部分は、少なくとも1つのCDR領域を含む。
【0041】
本発明の実施形態において、以下の3つの連続アミノ酸配列:KNLMG、TISGSGGTNYASSVEGおよびAFAIの少なくとも1つを含む少なくとも90アミノ酸を含むポリペプチド配列が提供される。
【0042】
本発明の実施形態において、ポリペプチドを抗原結合フラグメントへグラフトすることによって複合体を形成することにおける、AFAI誘導ポリペプチドおよび/または配列番号1に対して少なくとも90%同一性を有するポリペプチドおよび/またはその一部の使用が提供される。場合によっては、1以上のAFAI CDRが、例えば、VHH、VHまたはVLフレームワーク(足場(scaffold))または免疫グロブリンおよび/またはそのフラグメント(例えば、Fab、scFv)を含む、抗原結合フラグメントへグラフトされる。1またはそれ以上のAFAI CDRはまた、融合蛋白質を作製するために使用され得、ここで、第2ポリペプチド配列が、有用な官能性または特性を提供する。場合によっては、当該分野において公知の技術を使用してAFAI抗体のヒト化変異体を作製することが望ましいかもしれない。このようなヒト化抗体は、本明細書中で明確に意図される。場合によっては、AFAIまたはその一部を自己集合分子(self assembly molecules)へ複合体化して、増強された抗原結合特性を有する多量体複合体(multi meric complexes)を形成させることが望ましい。
【0043】
本発明の実施形態において、該3つの連続アミノ酸配列の少なくとも1つを含むポリペプチドとカーゴ分子(単数又は複数)との複合体が提供される。カーゴ分子は、癌の診断または処置に有用であり得る。例えば、それは、組織中の問題の細胞の同定および位置決定(localization)において有用な酵素または放射性同位体であり得、あるいはそれは、癌細胞の増殖する生存能または能力を減少させることにおいて有用な、薬物、更に強い抗原、アポトーシス誘導剤(apoptosis inducer)または放射性同位体のような細胞傷害剤(cytotoxic agent)であり得る。
【0044】
参考文献の組み込みは、それが本明細書中に開示されるものの特許性に関連しているという承認または示唆ではない。
【0045】
【数1−1】
【0046】
【数1−2】
【0047】
【数1−3】
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3−1】
【0051】
【表3−2】
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、単量体および五量体AFAIの図である。(a)下線が引かれているCDR1、CDR2およびCDR3を有するAFAIの配列(配列番号1);(b)単量体(AFAI)および五量体(ES1)蛋白質の一次構造の略図;(c)下線が引かれているAFAIを有するES1の配列(配列番号2);(d)精製されたES1(レーン1)およびAFAI(レーン2)のSDS−PAGE。
【図2】図2は、AFAIファージ抗体でのA549細胞の免疫組織化学染色の画像図である。細胞を、第1抗体としての該AFAIファージ、第2抗体としてのマウス抗−M13IgG、および第3抗体としてのAlexa Fluor 546標識化ヤギ抗−マウスIgGへ暴露した。DAPIおよびDiOC5(3)を使用して、細胞核および細胞内小胞体をそれぞれ染色した。
【図3】図3は、AFAIおよびES1でのA549の免疫組織化学染色の画像図である。A549細胞を、第1抗体としてのES1(A)またはAFAI(D)のいずれか、第2抗体としてのモノクローナル抗−c−myc IgG、第3抗体としてのAlexa Fluor 546(レッド)標識化抗−マウスIgGへ暴露した。(A)および(D)のDAPI染色を、それぞれ、(B)および(E)に示す。A,BおよびD,Eの重ね合わせを、それぞれ、CおよびFに示す。
【図4】図4は、ES1が、分化した肺腺癌へ強力に結合し、そして大抵の結腸腺癌または正常な肺組織へは結合しないことを示す、免疫組織化学染色の画像図である:(A)肺腺癌の強い陽性染色、(B)(A)において囲まれた領域の拡大図、(C)結腸腺癌の陰性染色、および(D)正常な肺組織の陰性染色。
【図5】図5は、粘液性タイプの気管支肺胞癌の図である:(A)主として管腔縁(luminal borders)に沿う、散在性の中程度の免疫反応性を示すES1についての免疫染色;(B)Aにおける領域の高倍率;(C)陰性免疫反応性を示すTTF1(DAKO)についての免疫染色。
【図6】図6は、転移性の分化に乏しい肺腺癌の図である:(A)散在性の強い免疫反応性を示すES1についての免疫染色;(B)Aにおける領域の高倍率;(C)陰性免疫反応性を示すTTF1についての免疫染色。
【図7】図7は、肺の中程度に分化した腺癌の図である:(A)限局性の弱い染色を示す領域に隣接する限局性領域(focal area)における強い免疫反応性を示すES1についての免疫反応性;(B)Aにおける領域の高倍率;(C)強いES1免疫反応性を有する領域における免疫反応性の顕著な増加を示すMIB1(DAKO)についての免疫染色。
【図8】図8は、肺の分化の乏しい腺癌の図である:(A)中程度かつ広範囲の免疫反応性を示すES1についての免疫染色;(B、C)Aにおける領域の高倍率。正常な気管支上皮における陰性免疫染色に注意のこと。
【図9】図9は、肺腺扁平上皮癌の図である:(A)限局性免疫反応性を示すES1についての免疫染色;(B、C)限局性免疫反応性を示すAにおける領域の高倍率。
【図10】図10は、肺の典型的な腺腫様過形成の図である:(A)限局性の弱い免疫反応性を示すES1についての免疫染色;(B、C)弱い免疫反応性を示すAにおける領域の高倍率。
【図11】図11は、脳における転移性の中程度に分化した結腸腺癌の図である:(A)数個の単一細胞における限局性免疫反応性を示すES1についての免疫染色;(B)Aにおける領域の高倍率。
【図12】図12は、胸の浸潤している乳管癌(duct cartinoma)の図である:(A)限局性の中程度の免疫反応性を示すES1についての免疫染色;(B)Aにおける領域の高倍率;(C)正常な胸組織における数個の腺房における限局性の強い免疫反応性。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に対して少なくとも90%の配列同一性を有するポリペプチド配列。
【請求項2】
配列番号1の配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する、請求項1に記載のポリペプチド配列。
【請求項3】
配列番号1の配列に対して少なくとも98%の配列同一性を有する、請求項1に記載のポリペプチド配列。
【請求項4】
配列番号1の配列に対して少なくとも99%の配列同一性を有する、請求項1に記載のポリペプチド配列。
【請求項5】
以下の3つの連続アミノ酸配列:KNLMG、TISGSGGTNYASSVEGおよびAFAIの少なくとも1つを含む少なくとも90アミノ酸を含むポリペプチド配列。
【請求項6】
前記3つの連続アミノ酸配列の少なくとも2を含む、請求項5に記載のポリペプチド。
【請求項7】
前記3つの連続アミノ酸配列の各々を少なくとも1つ含む、請求項5に記載のポリペプチド。
【請求項8】
前記3つの連続アミノ酸配列の各々を少なくとも1つ含み、そして更に該連続アミノ酸配列の1つの少なくとももう1つのコピーを含む、請求項5に記載のポリペプチド。
【請求項9】
残りのアミノ酸配列が、配列番号1の配列の等長部分(equally long portion)と少なくとも40%の全体的配列同一性(overall sequence identity)を提供するように選択および配置されている、請求項5〜8のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項10】
残りのアミノ酸配列が、配列番号1の配列の等長部分と少なくとも60%の全体的配列同一性を提供するように選択および配置されている、請求項5〜8のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項11】
残りのアミノ酸配列が、配列番号1の配列の等長部分と少なくとも80%の全体的配列同一性を提供するように選択および配置されている、請求項5〜8のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項12】
残りのアミノ酸配列が、配列番号1の配列の等長部分と少なくとも90%の全体的配列同一性を提供するように選択および配置されている、請求項5〜8のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項13】
前記請求項のいずれかに記載のポリペプチド配列を含む抗体。
【請求項14】
癌細胞へカーゴ物質(cargo substance)を標的化することにおける、前記請求項のいずれかに記載の抗体の使用。
【請求項15】
請求項13に記載の抗体とカーゴ物質とを含む、複合体。
【請求項16】
哺乳類組織における癌を診断することにおける、請求項15に記載の複合体の使用。
【請求項17】
哺乳類被験体における癌細胞の生存能(viability)または増殖能(proliferative ability)を減少させることにおける、請求項15に記載の複合体の使用。
【請求項18】
(a)請求項15に記載の複合体;および
(b)請求項16または17の使用を行うための使用説明書
を含む、キット。
【請求項19】
請求項1に記載のアミノ酸配列を含むオリゴマー。
【請求項20】
サブユニットが、ペプチドリンカー;自己集合分子オリゴマー化ドメイン(self assembly molecule oligomerization domain)、および化学的カップリングの少なくとも1つを使用して連結されている、請求項19に記載のオリゴマー。
【請求項21】
少なくとも2つの異なるサブユニットを含む、請求項19または20に記載のオリゴマー。
【請求項22】
少なくとも2つの同一のサブユニットを含む、請求項19または20に記載のオリゴマー。
【請求項23】
少なくとも1つのサブユニットが、AFAIとは異なる特異性を有する抗体である、請求項21に記載のオリゴマー。
【請求項24】
少なくとも1つのサブユニットが酵素作用を有する、請求項21に記載のオリゴマー。
【請求項25】
少なくとも1つのサブユニットがカーゴ物質を含む、請求項21に記載のオリゴマー。
【請求項26】
癌特異的抗原を同定することにおける、請求項1または請求項6に記載のポリペプチド配列の使用。
【請求項27】
配列番号5のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列。
【請求項28】
請求項27のヌクレオチド配列を含む、遺伝子治療ベクター。
【請求項29】
請求項1に記載のポリペプチド配列と遺伝子治療ベクターとを含む、複合体。
【請求項30】
配列番号1の配列を含む、請求項1に記載のポリペプチド配列。
【請求項1】
配列番号1に対して少なくとも90%の配列同一性を有するポリペプチド配列。
【請求項2】
配列番号1の配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する、請求項1に記載のポリペプチド配列。
【請求項3】
配列番号1の配列に対して少なくとも98%の配列同一性を有する、請求項1に記載のポリペプチド配列。
【請求項4】
配列番号1の配列に対して少なくとも99%の配列同一性を有する、請求項1に記載のポリペプチド配列。
【請求項5】
以下の3つの連続アミノ酸配列:KNLMG、TISGSGGTNYASSVEGおよびAFAIの少なくとも1つを含む少なくとも90アミノ酸を含むポリペプチド配列。
【請求項6】
前記3つの連続アミノ酸配列の少なくとも2を含む、請求項5に記載のポリペプチド。
【請求項7】
前記3つの連続アミノ酸配列の各々を少なくとも1つ含む、請求項5に記載のポリペプチド。
【請求項8】
前記3つの連続アミノ酸配列の各々を少なくとも1つ含み、そして更に該連続アミノ酸配列の1つの少なくとももう1つのコピーを含む、請求項5に記載のポリペプチド。
【請求項9】
残りのアミノ酸配列が、配列番号1の配列の等長部分(equally long portion)と少なくとも40%の全体的配列同一性(overall sequence identity)を提供するように選択および配置されている、請求項5〜8のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項10】
残りのアミノ酸配列が、配列番号1の配列の等長部分と少なくとも60%の全体的配列同一性を提供するように選択および配置されている、請求項5〜8のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項11】
残りのアミノ酸配列が、配列番号1の配列の等長部分と少なくとも80%の全体的配列同一性を提供するように選択および配置されている、請求項5〜8のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項12】
残りのアミノ酸配列が、配列番号1の配列の等長部分と少なくとも90%の全体的配列同一性を提供するように選択および配置されている、請求項5〜8のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項13】
前記請求項のいずれかに記載のポリペプチド配列を含む抗体。
【請求項14】
癌細胞へカーゴ物質(cargo substance)を標的化することにおける、前記請求項のいずれかに記載の抗体の使用。
【請求項15】
請求項13に記載の抗体とカーゴ物質とを含む、複合体。
【請求項16】
哺乳類組織における癌を診断することにおける、請求項15に記載の複合体の使用。
【請求項17】
哺乳類被験体における癌細胞の生存能(viability)または増殖能(proliferative ability)を減少させることにおける、請求項15に記載の複合体の使用。
【請求項18】
(a)請求項15に記載の複合体;および
(b)請求項16または17の使用を行うための使用説明書
を含む、キット。
【請求項19】
請求項1に記載のアミノ酸配列を含むオリゴマー。
【請求項20】
サブユニットが、ペプチドリンカー;自己集合分子オリゴマー化ドメイン(self assembly molecule oligomerization domain)、および化学的カップリングの少なくとも1つを使用して連結されている、請求項19に記載のオリゴマー。
【請求項21】
少なくとも2つの異なるサブユニットを含む、請求項19または20に記載のオリゴマー。
【請求項22】
少なくとも2つの同一のサブユニットを含む、請求項19または20に記載のオリゴマー。
【請求項23】
少なくとも1つのサブユニットが、AFAIとは異なる特異性を有する抗体である、請求項21に記載のオリゴマー。
【請求項24】
少なくとも1つのサブユニットが酵素作用を有する、請求項21に記載のオリゴマー。
【請求項25】
少なくとも1つのサブユニットがカーゴ物質を含む、請求項21に記載のオリゴマー。
【請求項26】
癌特異的抗原を同定することにおける、請求項1または請求項6に記載のポリペプチド配列の使用。
【請求項27】
配列番号5のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列。
【請求項28】
請求項27のヌクレオチド配列を含む、遺伝子治療ベクター。
【請求項29】
請求項1に記載のポリペプチド配列と遺伝子治療ベクターとを含む、複合体。
【請求項30】
配列番号1の配列を含む、請求項1に記載のポリペプチド配列。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2008−501304(P2008−501304A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540111(P2006−540111)
【出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【国際出願番号】PCT/CA2004/001488
【国際公開番号】WO2005/052158
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(506175792)ナショナル リサーチ カウンシル オブ カナダ (9)
【出願人】(505050555)オタワ ヘルス リサーチ インスティテュート (11)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【国際出願番号】PCT/CA2004/001488
【国際公開番号】WO2005/052158
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(506175792)ナショナル リサーチ カウンシル オブ カナダ (9)
【出願人】(505050555)オタワ ヘルス リサーチ インスティテュート (11)
【Fターム(参考)】
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