説明

抗真菌マニキュア組成物

【課題】爪真菌症に対する効果的な治療方法、治療製剤を提供する。
【解決手段】a)少なくとも一つの抗真菌剤とb)少なくとも一つの被膜形成剤とを含む組成物であって、成分b)がヒドロキシアルキルキトサンおよびカルボキシアルキルキトサンから選択されるキトサン誘導体である組成物、ならびに同組成物のマニキュア液。マニキュア液の添加剤として使用するヒドロキシアルキルキトサンおよびカルボキシアルキルキトサンからの水溶性被膜形成物質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一つの抗真菌剤と少なくとも一つの被膜形成剤とを含む組成物および同組成物のマニキュア液としての使用に関する。本発明はさらに、マニキュア液の添加剤としての水溶性被膜形成剤の使用に向けられる。
【背景技術】
【0002】
爪および爪結合部の真菌症(爪真菌症)は、広く行きわたった疾患であり、多くの場合満足できる治療法はない。爪真菌症はしばしば、皮膚糸状菌によって引き起こされるが、酵母およびカンジダによっても引き起こされることがある。これには、爪甲の皮膚糸状菌感染症と共に、酵母または糸状菌を含む真菌による爪の感染症が含まれる。爪の皮膚糸状菌感染症の最も一般的な起因菌は、紅色白せん菌(Trichophyton rubrum)、毛瘡白せん菌(T. mentagrophytes)、および有毛表皮糸状菌(Epidermophyton floccosum)である。
【0003】
爪真菌症の発症は、循環障害、多汗症、ゴム手袋またはゴム製ソールの装着、マニキュア損傷、ならびに水および石鹸の接触が頻繁であることによって促進される。一般的に罹患する職業群には、スポーツマンおよび医学分野で働く人々が含まれる。
【0004】
爪真菌症について考えられる治療様式には、抗真菌剤を経口適用する全身治療、罹患した爪の外科的または化学的治療と共に、抗真菌剤を爪に局所適用する爪の局所治療が含まれる。局所治療は、それほど激しくなく、多くの副作用を有さず、爪に局所的に作用することから他の様式より都合がよい。
【0005】
活性作用物質を局所適用するために多くの組成物がこれまでに示唆されている。例えば、国際公開公報第00/15202号(特許文献1)において、爪真菌症の治療のために用いられうる局所適用製品が開示されている。この製品は水を含まず、一つまたは複数の活性物質、担体として乳酸、酒石酸、またはクエン酸のC1〜C4アルキルエステル、および選択的に生理的に許容される補助剤を含む。好ましい局所投与剤形は溶液であるが、チンキ剤、乳剤、ゲル、クリーム、およびパスタも同様に可能である。
【0006】
最近提唱されているもう一つの局所投与形態は、マニキュア液に抗真菌剤を含めて、これを爪および爪結合部に適用することである。初期の組成物では、マニキュア液が乾燥して固体組成物を形成した後の活性成分の生物学的利用能がおそらく不十分であるために、重度の爪真菌症を有効に治療できないという問題が生じた。
【0007】
つい最近、上記の問題を克服しようとする試みの爪用ラッカーまたはマニキュア液が提唱された。例えば、国際公開公報第99/39860号(特許文献2)は、抗真菌爪用ラッカーを開示している。このラッカーは爪真菌症の治療に適しており、有効量のシクロピロクスおよび薬学的に許容されるその塩を含む。ラッカーは、硬く、透明で耐水性の被膜を形成することによって治療した爪を保護する不溶性の被膜形成ポリマーを特徴とする。同様に、EP-A-226984号(特許文献3)において、1-ヒドロキシ-2-ピリドン、例えばシクロピロクスオラミンを、不溶性の被膜形成剤ならびに生理的に許容される溶媒および化粧品における慣例的な添加剤と共に含む抗真菌マニキュア液が記述されている。
【0008】
これらの従来のマニキュア液は、爪および爪結合部の真菌症を予防および治療するために適している可能性があるが、それらは、特定の皮膚学上および化粧品上の欠点を有する。例えば、ラッカーを適用する場合、これを特に爪周囲の爪床に適用すると火傷を起こす可能性がある。マニキュア液またはラッカーを除去する際には、有機溶媒を用いなければならなず、これは曝露された隣接する皮膚に負の作用を与える可能性がある。したがって、これらのマニキュア液は、皮膚が過敏性である患者にとっては適していない可能性がある。その上、マニキュア液は光沢があって、粘着性で光るため、全ての爪真菌症患者にとって快く思えない可能性がある。その光沢のある特性のために、市販の抗真菌剤爪用ラッカーも同様に、容易にスプリント(splint)する傾向がある。さらに、従来の爪用ラッカー組成物は、その成分の特性により、水分および空気を透過しない。このため閉鎖性の投薬となり、これは真菌症の治療において望ましくない。
【0009】
【特許文献1】国際公開公報第00/15202号
【特許文献2】国際公開公報第99/39860号
【特許文献3】EP-A-226984号
【発明の開示】
【0010】
したがって、上記の欠点を克服して、容易に製剤化、調製、および保存可能であって、良好な抗真菌作用を提供するマニキュア液組成物を提供することが本発明の目的である。
【0011】
この目的は以下を含む組成物によって得られる:
a)少なくとも一つの抗真菌剤、および
b)少なくとも一つの水溶性被膜形成剤。
【0012】
さらに、本発明は、上記の組成物をマニキュア液として使用することに向けられる。
【0013】
本発明はまた、マニキュア液における添加物としての水溶性被膜形成剤の使用にも向けられる。
【0014】
本発明に係る組成物は、成分a)として少なくとも一つの抗真菌剤を含む。抗真菌剤は、合成または天然起源の如何なる既知の抗真菌剤から選択してもよい。活性作用物質は、遊離型、すなわち遊離の酸もしくは塩基として、またはその塩の形で存在してもよい。例として以下のものが含まれる:
−1-ヒドロキシ-2-ピリドン化合物およびその塩、例えば、シクロピロクス、リロピロクス、ピロクトン、シクロピロクスオラミン、およびUS-A-4,957,730号に開示される1-ヒドロキシ-2-ピリドン化合物;
−イミダゾール誘導体およびその塩、例えばクロトリマゾール、エコナゾール、イソコナゾール、ケトコナゾール、ミコナゾール、チオコナゾール、ビフォナゾール、フェンチコナゾール、およびオキシコナゾール;
−ポリエン誘導体およびその塩、例えばナイスタチン、ナタマイシン、およびアムフォテリシン;
−アリルアミン誘導体およびその塩、例えばナフチフィンおよびテルビナフィン;
−トリアゾール誘導体およびその塩、例えばフルコナゾール、イトラコナゾール、テルコナゾール、およびボリコナゾール;
−モルフォリン誘導体およびその塩、例えば、アモロルフィンおよびUS-A-5,120,530号に開示されているモルフォリン;
−グリセオフルビンおよび関連化合物、例えばグリセオフルビン;
−酸化合物、例えば、ウンデシレン酸およびその塩、特にウンデシレン酸の亜鉛およびカルシウム塩;
−トルナフテートおよびその塩;ならびに
−フルシトシンおよびその塩。
【0015】
抗真菌剤は、好ましくは、1-ヒドロキシ-2-ピリドン化合物およびその塩から選択される。
【0016】
抗真菌剤はまた、天然の供給源、特に植物抽出物から選択してもよい。これらの抽出物の例には、ティーツリー油(メラリューカ・アルテルニフォリア(Melaleuca alternifolia))、ラベンダー油(ラバンデュラ・オフィシナリス(Lavandula officinalis chaix))、およびニームの木(アザディラクタ・インディカ(Azadirachta indica))の葉の抽出物が含まれる。
【0017】
抗真菌剤は単独で、または他の抗真菌剤と組み合わせて用いてもよい。特に、抗真菌剤が天然物起源である場合、これを組合わせて用いることが好ましい。好ましい混合物は、ティーツリー油、ラベンダー油、およびニームの木の葉抽出物である。
【0018】
抗真菌剤(成分a)の量は、その構造およびその抗菌活性、被膜からの放出速度、拡散特徴、ならびに爪における浸透性に応じて変化する。一般的に、抗真菌剤の有効量、すなわち一般的に平均阻止濃度(MIC)より数十〜数百倍大きい、感染微生物を殺すために有効な量を、本発明に係る組成物において用いてもよい。このように、成分a)の量は、組成物の全重量の0.1〜15重量%、より好ましくは0.3〜15重量%、最も好ましくは0.5〜10重量%の範囲である。
【0019】
本発明に係る組成物はまた、成分b)として少なくとも一つの水溶性被膜形成剤も含む。水溶性被膜形成剤は、当技術分野で既知の如何なる水溶性被膜形成剤から選択してもよい。被膜形成剤は、定義により(例えば、DIN第55945号(1988年12月))、被膜、すなわち薄膜またはカバーを形成するために必須である結合剤成分である。
【0020】
本明細書において「水溶性」という用語は、20℃で被膜形成剤が1の割合で、水100またはそれ未満、好ましくは水50またはそれ未満、より好ましくは水30またはそれ未満、最も好ましくは水10またはそれ未満に可溶性であるように、被膜形成物質が水と十分に適合性であることを意味する。
【0021】
水溶性被膜形成剤の存在により、多様な溶媒の使用が可能であり、これによって、薬剤を容易に確実に適用できるようになり、製剤の保存も単純にすることができる。被膜形成剤は、多様な溶媒と組み合わせて用いてもよいため、本発明に係るマニキュア組成物が、火傷を起こさないように、有機溶媒を用いなくても容易に除去できるように、且つ菌糸が存在するために真菌細胞の増殖にとって都合がよい爪周囲の爪床に適用することができるように、製剤を選択することができる。したがって、本発明に係る組成物は、特定の有機溶媒と有害に反応する可能性がある過敏性の皮膚を有する患者の場合においても、マニキュア液として適している。さらに、本発明に係る組成物において用いられる水溶性の被膜形成剤は、大多数の真菌症患者に好まれるつや消しの自然な外観を有する非光沢性、非粘着性で非常に可塑性の被膜を提供する。さらなる利点として、マニキュア液として用いられる特許請求される組成物は、水分と空気を透過することができ、ゆえに真菌症を治療するための有効なツールを提供する。
【0022】
本発明に従って用いられる被膜形成剤として、典型的に、水溶性であるか、または水溶性を付加するために官能基によって誘導体化された、合成または天然物起源の高分子化合物を用いることができる。好ましくは、天然に存在するポリマーの水溶性誘導体または天然に存在するポリマーの誘導体を用いる。キトサンの水溶性誘導体を用いることが特に好ましく、キトサンはキチンの脱アシル化産物であり、それ自身は水に不溶性である。キチンは、例えば、甲殻類および多くの昆虫の甲皮を構成する天然の物質である。
【0023】
ヒドロキシアルキルキトサンおよびカルボキシアルキルキトサンが特に適している。ヒドロキシアルキルキトサンには、ヒドロキシ基を1〜3個有するC1-6アルキル基によって誘導体化されたキトサンが含まれる。例として、ヒドロキシプロピルキトサンが挙げられる。カルボキシメチルキトサンには、カルボキシ基を1〜3個有するC1-6アルキル基によって誘導体化されたキトサンが含まれる。例として、カルボキシメチルキトサンを挙げることができる。
【0024】
水溶性被膜形成剤(成分b)は、特許請求される組成物の被膜の形成が提供されうる限り、如何なる量で用いることもできる。典型的に成分b)の量は、組成物全重量の0.1〜10重量%、より好ましくは0.3〜8重量%、最も好ましくは0.5〜5重量%の範囲である。
【0025】
本発明に係る組成物はさらに、通常、成分c)として少なくとも一つの生理的に許容される溶媒を含む。溶媒は典型的に、爪および隣接する皮膚が強い有機溶媒に対して頻繁に繰り返し曝露されないように水性基剤溶媒である。したがって、生理的に許容される溶媒には、水および水と共溶媒との混合物が含まれる。
【0026】
本発明に係る組成物において水と組み合わせて用いることができる共溶媒は、特に重要ではないが、当技術分野で既知の通常の生理的に安全な有機溶媒から選択される。典型的に共溶媒は親水性溶媒であり、好ましくはアルコールから選択される。
【0027】
適したアルコールは、ヒドロキシ基1〜3個と炭素原子2〜6個とを有し、それによってヒドロキシ基が部分的にエーテルに変換される分岐または直鎖アルコールである。特に適したアルコールは、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロパノール)である。特に適しているのは、エタノールまたはイソプロパノールである。好ましくは、本発明に係る組成物中に存在する水と組み合わせて用いられる共溶媒の全量は、マニキュア液の許容される乾燥時間を提供するために十分に揮発性である。通常の乾燥時間、すなわち、触れてみて乾燥しているために要する時間は、約5分未満、好ましくは約2分未満である。
【0028】
水を一つまたは複数の共溶媒と共に用いる場合、個々の溶媒が互いに適合性であって、経時的な相分離に対して安定である透明な溶液を形成することが重要である。さらに、本発明に従って用いられる溶媒系によって、均一な蒸発速度と良好な安定性が得られるのみならず、マニキュア液の適用を容易にするために良好な流動粘度特性が得られる。
【0029】
少なくとも一つの生理的に許容される溶媒(成分c)は、通常、上記の特性を付与するために適した量で用いられる。成分c)は、本発明に係る組成物において、組成物全重量の40〜99.8重量%、より好ましくは60〜99重量%、最も好ましくは80〜95重量%で存在する。成分c)における水分含有量は、所望の特性を付与するために、典型的に成分c)の重量の5〜60重量%、好ましくは10〜40重量%である。その結果、水と併用して用いられる共溶媒は典型的に、上記の特性を付与するために、成分c)の重量の20〜95重量%、好ましくは60〜90重量%で存在する。
【0030】
本発明に係る組成物はさらに、抗菌剤の他に他の活性作用物質、例えば抗生物質、抗炎症剤、抗敗血症剤、および/または局所麻酔剤を含んでもよい。
【0031】
本発明に係る組成物として列挙される抗生物質の例には、アモキシシリン、アンピシリン、ベンジルペニシリン、セファクロル、セファドロキシル、セファレキシン、クロラムフェニコール、シプロフロキサシン、クラブラン酸、クリンダマイシン、ドキシサイクリン、エノキサシン、フルクロキサシリン、カナマイシン、リンコマイシン、ミノサイクリン、ナフシリン、ナリジクス酸、ネオマイシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、オキサシリン、フェノキシメチルペニシリン、テトラサイクリン、およびスルホサリチル酸メクロサイクリンが含まれる。
【0032】
これらの抗生物質は、当技術分野で慣例的なそれぞれの量で用いてもよい。抗生物質は通常、0.1〜10重量%の量で用いられる。
【0033】
本発明に係る組成物において用いられうる抗炎症剤には、ステロイドおよび非ステロイド性抗炎症剤が含まれる。
【0034】
ステロイド性抗炎症剤の例には、21-アセトキシプレグネノロン、アルクロメタゾンまたはそのジプロピオン酸塩、アルゲストン、アムシノニド、ベクロメタゾンまたはそのジプロピオン酸塩、ベタメタゾンならびに例えば、安息香酸ベタメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、燐酸ベタメタゾンナトリウムおよび酢酸ベタメタゾン、および吉草酸ベタメタゾンを含むその塩;クロベタゾールまたはそのプロピオン酸塩、ピバル酸クロコルトロン、ヒドロコルチゾンならびに例えば、酢酸ヒドロコルチゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾンシピオネート(cypionate)、燐酸ヒドロコルチゾン、燐酸ヒドロコルチゾンナトリウム、コハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム、ヒドロコルチゾンテブテート、および吉草酸ヒドロコルチゾンを含むその塩;酢酸コルチゾン、デソニド、デスオキシメタゾン、デキサメタゾンならびに例えば、酢酸塩および燐酸ナトリウムを含むその塩;二酢酸ジフロラゾン、酢酸フルドロコルチゾン、フルニソリド、フルオシノロン、アセトニド、フルオシノニド、フルオロメトロン、フルランドレノリド、ハルシノニド、メドリゾン、メチルプレドニゾロンおよびその塩、例えば酢酸塩、コハク酸ナトリウム塩;フロン酸モメタゾン、酢酸パラメタゾン、プレドニゾロンおよびその塩、例えば酢酸塩、ジエチルアミノ酢酸塩、燐酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、テブテート、トリメチル酢酸塩;プレドニゾン、トリアムシノロンおよびその誘導体、例えば、アセトニド、ベネトニド、二酢酸塩、ヘキサアセトニドが含まれる。
【0035】
非ステロイド性抗炎症剤の例には、アセチルサリチル酸、インドメタシン、スプロフェン、フェニルブタゾン、サリンダック、イブプロフェン、ナプロキセン、ケトプロフェン、フルビプロフェン、ピロキシカム、およびジクロフェナクが含まれる。
【0036】
これらの抗炎症剤は、当技術分野で慣例的なそれぞれの量で用いてもよい。抗炎症剤は通常、0.1〜5重量%の量で用いられる。
【0037】
本発明に係る組成物において用いられうる抗敗血症剤の例には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、臭化セトリモニム、クロルヘキシジン、塩化デクアリニウム、トリクロカルバン、トリクロサン、サリチル酸、安息香酸、およびその塩、p-ヒドロキシ安息香酸、ならびにそのエステルが含まれる。
【0038】
これらの抗敗血症剤は、当技術分野で慣例的なそれぞれの量で用いてもよい。抗敗血症剤は通常、0.01〜5重量%の量で用いられる。
【0039】
本発明に係る組成物において用いられうる局所麻酔剤の例には、ベンゾカイン、ブタンベンおよびそのピクリン酸塩、塩酸ピペロカイン、塩酸オキシブプロカイン、塩酸テトラカイン、塩酸リドカイン、塩酸シンコカイン、オキセタカイン、塩酸プロピポカイン、塩酸ブピバカイン、塩酸メピバカイン、塩酸ジクロニン、塩酸フォモカイン、塩酸キニソカイン、ポリドカノール、およびベンジルアルコールが含まれる。
【0040】
これらの局所麻酔剤は、当技術分野で慣例的なそれぞれの量で用いてもよい。局所麻酔剤は通常、0.3〜10重量%の量で用いられる。
【0041】
さらに、本発明に係る組成物は、化粧品または医療用爪用ラッカーに慣例的に存在する他の従来の添加剤、特に浸透増強剤を含んでもよい。浸透増強剤には、薬理学的に活性な化合物の皮膚または爪を通過した浸透を増強することができる当技術分野で既知の如何なる化合物も含まれる。言い換えれば、浸透増強剤は、薬物の深部拡散を改善する。適した浸透増強剤には、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド、および国際公開公報第99/39680号に開示される浸透増強剤が含まれる。酢酸エチルが特に好ましい。
【0042】
浸透増強剤は、組成物の全重量の0〜10重量%、好ましくは0.1〜8重量%、最も好ましくは1〜5重量%の量で用いてもよい。
【0043】
さらなる補助剤として、本発明に係る組成物は、セチルステアリルアルコールを含んでもよい。セチルステアリルアルコールの存在により、抗真菌剤の起こりうる結晶化が有効に防止されることが判明した。抗真菌剤の結晶化は、マニキュア液に白い斑点が形成されるために、美容上の理由から望ましくない。より重要なことに、抗真菌剤が結晶化すると、抗真菌剤の生物学的利用能は激減すると考えられる。
【0044】
セチルステアリルアルコールは、組成物全重量の0〜5重量%、より好ましくは0.1〜3重量%、最も好ましくは0.5〜1.5重量%で用いることが好ましい。
【0045】
化粧品または医療用爪用ラッカーに慣例的に存在する他の従来の添加剤には、沈降遅延剤、キレート剤、抗酸化剤、ケイ酸塩、芳香物質、湿潤剤、ラノリン誘導体、光安定化剤、および抗菌物質が含まれてもよい。
【0046】
本発明に係る組成物は、マニキュア液の分野において通常用いられる典型的な技法に従って調製してもよい。特に、少なくとも一つの抗菌剤および少なくとも一つの水溶性被膜形成剤を、一つの溶媒または複数の溶媒の混合物および他の液体成分と、通常の混合技術によって同時または個々に接触させてもよい。それぞれの成分を添加する特定の順序は必要ではない。成分が確実に完全に溶解するように攪拌することが好ましい。成分の一部が固体である場合、そのような成分は、凝集を防止するために液体成分に徐々に加えることが特に好ましい。
【0047】
本発明に係る組成物は、爪真菌症および他の真菌による爪疾患を予防および/または治療するために、爪上の被膜として適用される。通常、マニキュア液は、感染症の重症度、活性作用物質の量、および患者の爪の状態に応じて、数週間または数ヶ月間繰り返し適用する。マニキュア液はまた、爪真菌症および他の真菌による爪疾患を予防するために予防的に繰り返し適用してもよい。抗真菌剤は、爪のウェフト(weft)および皮膚の中に十分に浸透して、容易に除去できない。したがって、抗真菌剤マニキュア液の適用をあまり頻繁に繰り返す必要はない。一般的に、適用されるマニキュア液は、抗真菌剤の適用がその有効性を確保するために1日1回または1日2回のみの適用となるように、爪と皮膚に拡散するため十分な活性主成分を含むと考えられる。
【0048】
本発明の好ましい被膜形成剤は、抗真菌剤と共に用いた場合に驚くべき相乗作用を示す。この作用は、ヒドロキシアルキルキトサンおよびカルボキシアルキルキトサンの場合に特に顕著である。さらに、この作用は、シクロピロクスまたはその塩が抗真菌剤として用いられる場合に特に存在する。
【0049】
被膜形成剤それ自身は、適当な系において調べた場合に抗真菌作用を示さないが、本発明の被膜形成剤と組み合わせて用いた場合に、抗真菌剤、好ましくなシクロピロクス自身の作用を増強する。
【0050】
以下の実施例は、本発明の組成物およびそのマニキュア液としての使用を説明する。「%」で示す量は全て重量%である。
【0051】
実施例1
下記に示す、ラッカー処方中に8%シクロピロクスを含む爪用ラッカー組成物を調製した。
シクロピロクス 8 g
エタノール95% 73 g
精製水 13 g
酢酸エチル 4 g
ヒドロキシプロピルキトサン 1 g
セチルステアリルアルコール 1 g
100 g
【0052】
処方は、攪拌器を備えた適した閉鎖容器を用いて調製した。この容器に、エタノール、脱イオン水、および酢酸エチルを加えて混合物を形成した。その後、セチルステアリルアルコールを加えて、溶解させた後シクロピロクスを加えた。最後に、ヒドロキシプロピルキトサンを加えて、得られた混合物を24時間または溶解するまで攪拌した。
【0053】
得られた爪用ラッカー組成物は、長期保存の後も透明で均一な外観を有した。その上、ラッカーは、爪に強く接着することができるつや消しの非粘着性で可塑性の被膜を形成することができた。適用すると、水分および空気透過性のラッカーは、隣接する皮膚または爪周囲の爪床に火傷または刺激を引き起こさなかった。
【0054】
実施例2
下記に示す、ラッカー処方に8%シクロピロクスオラミンを含む爪用ラッカー組成物を調製した。
シクロピロクスオラミン 8 g
エタノール 57 g
精製水 33 g
ヒドロキシプロピルキトサン 1 g
セチルステアリルアルコール 1 g
100 g
【0055】
組成物は実施例1に記載のように調製して、得られた爪用ラッカーは、実施例1の記載と同じ特性を示した。
【0056】
実施例3
以下に示す、ラッカー処方に5%塩酸アモロルフィン塩基を含む爪用ラッカー組成物を調製した。
塩酸アモロルフィン塩基 5%
ヒドロキシプロピルキトサン 1%
エタノール 70%
酢酸エチル 4%
セチルステアリルアルコール 1%
精製水によって100%にする
【0057】
組成物は実施例1に記載のように調製して、得られた爪用ラッカーは、実施例1の記載と同じ特性を示した。
【0058】
実施例4
下記に示す、ラッカー処方に8%シクロピロクスを含む爪用ラッカー組成物を調製した。
シクロピロクス 8%
カルボキシメチルキトサン 1%
エタノール 60%
酢酸エチル 2%
セチルステアリルアルコール 0.5%
精製水によって100%にする
【0059】
組成物は実施例1に記載のように調製して、得られた爪用ラッカーは、実施例1の記載と同じ特性を示した。
【0060】
実施例5
下記に示す、ラッカー処方に8%シクロピロクスと2%塩酸リドカイン1水和物とを含む爪用ラッカー組成物を調製した。
シクロピロクス 8%
塩酸リドカイン1水和物 2%
ヒドロキシプロピルキトサン 1%
エタノール 70%
酢酸エチル 4%
セチルステアリルアルコール 1%
精製水によって100%にする
【0061】
組成物は実施例1に記載のように調製して、得られた爪用ラッカーは、実施例1の記載と同じ特性を示した。
【0062】
実施例6
下記に示す、ラッカー処方に8%シクロピロクスと1.46%メクロサイクリン5-スルホサリチレートとを含む爪用ラッカー組成物を調製した。
シクロピロクス 8%
メクロサイクリン5-スルホサリチレート 1.46%
ヒドロキシプロピルキトサン 1%
エタノール 70%
酢酸エチル 4%
セチルステアリルアルコール 1%
精製水によって100%にする
【0063】
組成物は実施例1に記載のように調製して、得られた爪用ラッカーは、実施例1の記載と同じ特性を示した。
【0064】
実施例7
下記に示す、ラッカー処方に8%シクロピロクス、0.15%燐酸二ナトリウム塩デキサメタゾン、および0.5%硫酸ネオマイシンを含む爪用ラッカー組成物を調製した。
シクロピロクス 8%
燐酸二ナトリウム塩デキサメタゾン 0.15%
硫酸ネオマイシン 0.5%
ヒドロキシプロピルキトサン 1%
エタノール 70%
セチルステアリルアルコール 1%
イソプロパノール 5%
精製水によって100%にする
【0065】
実施例8
下記に示す、ラッカー処方に0.2%硝酸ミコナゾールを含む爪用ラッカー組成物を調製した。
硝酸ミコナゾール 0.2%
ヒドロキシプロピルキトサン 1%
エタノール 73%
酢酸エチル 4%
セチルステアリルアルコール 1%
精製水によって100%にする
【0066】
組成物は実施例1に記載のように調製して、得られた爪用ラッカーは、実施例1の記載と同じ特性を示した。
【0067】
実施例9
浸透試験
実施例1に記載のシクロピロクス含有ラッカーを成人ボランティア3人の指の爪に適用して、爪における活性成分の濃度を、適用直後の右手(非洗浄)の値を6時間後に洗浄した左手の値と比較することによって測定した。結果を表1に示す。抗真菌剤の適用量の18%〜35%が6時間後に手を洗った後も爪に残っていたことから、爪への良好な浸透が示された。したがって、本発明に係る組成物は、被膜形成物質が水溶性であっても、抗真菌剤マニキュア液として適していることが示されうる。
【0068】
実施例10
ヒトにおける爪真菌症の原因となる病原体の阻害を、標準的なプレート上で標準的な技法に従って調べた。トリコフィテス・メンタグロフィテス(Tricophytes Mentagrophytes)のサブローDex(Sabourand Dex.)上での30℃における増殖に関して、シクロピロクス(8%)単独およびヒドロキシプロピルキトサン(1%)単独をこれらの2つの化合物の併用(それぞれ8%および1%)と抗真菌作用を比較したところ、以下の結果が得られた(それぞれに適用した量は、10、20、および30μl)。
ヒドロキシプロピルキトサン: 阻害なし
シクロピロクス : 良好な阻害
シクロピロクス+ヒドロキシプロピルキトサン
: シクロピロクス単独より良好な阻害
【0069】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも一つの抗真菌剤と
b)少なくとも一つの水溶性被膜形成剤とを含む組成物であって、
成分b)がヒドロキシアルキルキトサンおよびカルボキシアルキルキトサンから選択されるキトサンの誘導体である組成物。
【請求項2】
成分a)が0.1〜15重量%の量で存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
成分a)が1-ヒドロキシ-2-ピリドン化合物、イミダゾール誘導体、ポリエン誘導体、アルキルアミン誘導体、トリアゾール誘導体、モルフォリン誘導体、グリセオフルビン化合物、酸化合物、トルナフテート、フルシトシン、およびその塩から選択される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
成分a)がシクロピロクスまたはその塩である、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項5】
成分b)が0.1〜10重量%の量で存在する、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項6】
成分b)がヒドロキシプロピルキトサンである、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項7】
c)少なくとも一つの生理的に許容される溶媒
をさらに含む、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項8】
前記請求項のいずれか一項記載の組成物のマニキュア液としての使用。
【請求項9】
マニキュア液における添加剤としての、ヒドロキシアルキルキトサンおよびカルボキシアルキルキトサンから選択される水溶性被膜形成剤の使用。

【公開番号】特開2007−153910(P2007−153910A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35636(P2007−35636)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【分割の表示】特願2002−513421(P2002−513421)の分割
【原出願日】平成13年7月18日(2001.7.18)
【出願人】(501373577)
【Fターム(参考)】