抗老化剤、抗炎症剤、美白剤、及び抗酸化剤
【課題】 抗老化剤、抗炎症剤、美白剤、及び抗酸化剤を提供する。
【解決手段】 キリンソウ(Sedum kamtschaticum Fisch.、Sedum aizoon L.、Sedum aizoon L. var. floribundum Nakai)抽出物を有効成分とする抗老化剤、抗炎症剤、美白剤、及び抗酸化剤。
【解決手段】 キリンソウ(Sedum kamtschaticum Fisch.、Sedum aizoon L.、Sedum aizoon L. var. floribundum Nakai)抽出物を有効成分とする抗老化剤、抗炎症剤、美白剤、及び抗酸化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キリンソウ抽出物を有効成分とする抗老化剤、抗炎症剤、美白剤、及び抗酸化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢、疾患、ストレス、紫外線などによるシワ、シミ、皮膚の弾力低下といった皮膚症状の要因として、乾燥、細胞機能機能低下、紫外線によるメラニン産生や色素沈着、真皮マトリックス成分の減少や変性、紫外線等による細胞の酸化障害などが挙げられる。このような皮膚症状を防止・改善するために、様々な有効成分の検索及び配合検討がなされてきた。特に天然由来成分は、様々な薬理作用や美容効果を有することが知られ、これまでにも数多くの植物や菌類などの抽出物の皮膚外用剤、経口組成物への応用が検討されてきた。
【0003】
例えば、皮膚の保湿効果と安全性に優れた保湿剤としてハリブキ属植物の抽出物(特許文献1参照)、皮膚の老化防止、改善作用を有する皮膚外用剤を得るために、真皮線維芽細胞の賦活あるいは増殖促進作用を有する成分としてポンカンのエッセンス(特許文献2参照)、ツリガネニンジン属植物の抽出物(特許文献3参照)、クロレラ抽出物(特許文献4参照)、ビワ抽出物(特許文献5参照)等が開示されている。美白剤としては、白鶴霊芝の抽出物(特許文献6参照)等が、抗酸化剤としてはサルオガセ科サルオガセ属植物の抽出物(特許文献7参照)等が、生体内の脂肪蓄積を抑制する成分としては、哺乳動物の乳由来リン脂質(特許文献8参照)、褐藻の酵素分解物(特許文献9参照)等がそれぞれすでに知られている。
【0004】
【特許文献1】特開2007−77072号公報
【特許文献2】特開2001−131045号公報
【特許文献3】特開2000−178198号公報
【特許文献4】特開平11−335293号公報
【特許文献5】特公平5−17206号公報
【特許文献6】特開2003−89630号公報
【特許文献7】特開平10−182413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、これまでに様々な天然由来成分が応用されている。しかし、天然由来成分の中には、未だその効果が知られていないものも数多く存在し、優れた抗老化作用、抗酸化作用、及び美白作用を有する有効成分の開発が期待されていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、天然由来の種々の成分について検討を行った結果、キリンソウ抽出物に優れた抗老化作用、抗炎症作用、美白作用、及び抗酸化作用が存在することを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、キリンソウ抽出物を有効成分とする抗老化剤、抗炎症剤、美白剤、及び抗酸化剤に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、キリンソウ抽出物を有効成分とすることにより、優れた効果を有する抗老化剤、抗炎症剤、美白剤、及び抗酸化剤を提供することができる。
【0009】
これらの抗老化剤、抗炎症剤、美白剤、及び抗酸化剤を皮膚外用剤および経口組成物に配合することにより、シワ、タルミ、皮膚の弾力低下、シミ、くすみいった種々の皮膚症状の発現防止や改善に優れた効果を発揮する、様々な組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で用いるキリンソウは、ベンケイソウ科マンネングサ属に属する双子葉植物であり、九州から北海道に分布し、変異種も多く見られる。本発明においては、キリンソウであれば特に限定されない。キリンソウの学名としては、Sedum kamtschaticum Fisch.、Sedum aizoon L.、Sedum aizoon L. var. floribundum Nakaiなどが例示される。
【0011】
これらキリンソウを使用する際は、その使用部位には特に制限はなく、葉、茎、花、根などの任意の部分を使用することができる。複数の部位を組み合わせて使用してもよい。
【0012】
抽出の際は、キリンソウを生のまま用いてもよいが、抽出効率を考えると、細切、乾燥、粉砕等の処理を行った後に抽出を行うことが好ましい。
【0013】
抽出は、任意の抽出溶媒に所定時間浸漬して行うことができる。抽出溶媒は、必要に応じて加熱してもよい。あるいは、超臨界流体や亜臨界流体を用いた抽出方法でも行うことができる。抽出効率を上げるため、撹拌したり抽出溶媒中でホモジナイズしたりしてもよい。抽出温度としては、5℃程度から抽出溶媒の沸点以下の温度とするのが適切である。抽出時間は、抽出溶媒の種類や抽出温度によっても異なるが、1時間〜14日間程度とするのが適切である。
【0014】
抽出溶媒としては、水の他、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等の低級アルコール;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;エチルエーテル、プロピルエーテル等のエーテル類;酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、エチルメチルケトン等のケトン類などの溶媒を用いることができる。これらは、単独で用いられるほか、任意の2種以上を組み合わせて用いてもよい。生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等を用いてもよい。さらに、水や二酸化炭素、エチレン、プロピレン、エタノール、メタノール、アンモニアなどの1種又は2種以上の超臨界液体や亜臨界液体を用いてもよい。
【0015】
キリンソウの上記溶媒による抽出物は、そのままでも使用することができるが、一定期間そのまま静置して熟成させて用いてもよいし、濃縮、乾固した物を水や極性溶媒に再度溶解して使用することもできる。或いは、これらの生理作用を損なわない範囲で、脱色、脱臭、脱塩等の精製処理や、カラムクロマトグラフィー等による分画処理を行った後に用いてもよい。キリンソウの前記抽出物やその処理物及び分画物は、各処理及び分画後に凍結乾燥し、用時に溶媒に溶解して用いることもできる。また、リポソーム等のベシクルやマイクロカプセル等に内包させて用いることもできる。
【0016】
キリンソウ抽出物は、優れた抗老化作用、抗炎症作用、美白作用、抗酸化作用を有し、抗老化剤、抗炎症剤、美白剤、抗酸化剤として利用することができる。
【0017】
キリンソウ抽出物を有効成分とする抗老化剤は、優れたヒト真皮線維芽細胞の細胞賦活効果、真皮線維芽細胞におけるI型コラーゲン産生促進効果を有し、老化症状の防止・改善に優れた効果を発揮する。
【0018】
キリンソウ抽出物を有効成分とする抗炎症剤は、優れたヒアルロニダーゼ阻害効果を有し、炎症の防止・改善に優れた効果を発揮する。
【0019】
キリンソウ抽出物を有効成分とする美白剤は、優れたメラニン産生抑制効果を有し、色素沈着、シミ、そばかす等を予防および改善して、優れた美白作用を発揮する。
【0020】
キリンソウ抽出物を有効成分とする抗酸化剤は、優れたラジカル消去効果、スーパーオキサイドアニオン消去効果を有し、優れた抗酸化作用を発揮する。
【実施例】
【0021】
[抽出物1]
キリンソウの地上部位を乾燥させて粉砕し、サンプル質量の20倍量の精製水を加え、オートクレーブにより20分間、120℃に加温して抽出した。得られた抽出液から、温度の高い状態を保ちながら吸引濾過により不溶物を取り除いた後、凍結乾燥を行い、キリンソウの熱水抽出物(抽出物1)を得た。
【0022】
[抽出物2]
キリンソウの地上部位を乾燥させて粉砕し、サンプル質量の20倍量の50質量%エタノールを加え、室温で撹拌しながら2時間抽出した。得られた抽出液を濾過して不溶物を取り除き、減圧濃縮後、凍結乾燥を行って、キリンソウのエタノール抽出物(抽出物2)を得た。
【0023】
上記抽出物を用いて、各効果の評価を行った。なお各評価結果に記載した*及び**は、t検定における有意確率P値に対し、有意確率5%未満(P<0.05)を*で、有意確率1%未満(P<0.01)を**でそれぞれ表したものである。
【0024】
[真皮線維芽細胞賦活作用]
正常ヒト真皮繊維芽細胞を1ウェル当り2.0×104個となるように96ウェルマイクロプレートに播種した。播種培地にはダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に1質量%のウシ胎児血清(FBS)を添加したものを用いた。24時間後、1質量%FBS添加DMEM培地にて各濃度に調整した抽出物1を含有するサンプル培養液に交換しさらに48時間培養した。次にMTT試薬を400μg/mLとなるように培地にて調整し、上清を除いた細胞に添加し約2時間培養した。最後に2−プロパノールにて生じたフォルマザンを抽出し、マイクロプレートリーダーにて550nmの吸光度を測定した。同時に濁度として650nmの吸光度を測定し、両測定値の差を用いて細胞賦活作用を評価した。評価は抽出物1無添加時のコントロールにおける細胞賦活作用を100とした時の相対値を求めて行い結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
結果は、表1に示した通りであり、キリンソウ抽出物は、有意な真皮線維芽細胞賦活作用を示した。
【0027】
[真皮線維芽細胞I型コラーゲン産生促進作用]
正常ヒト真皮繊維芽細胞を1ウェル当り2.0×104個となるように96ウェルマイクロプレートに播種した。播種培地にはダルベッコ改変イーグル(DMEM)培地に5質量%のウシ胎児血清(FBS)を添加したものを用いた。24時間後、0.5質量%FBS添加DMEM培地にて各濃度に調整した抽出物2を含有するサンプル培養液に交換しさらに24時間培養した。
培養上清中に分泌されたタイプ1コラーゲン量はELISA法を用い、最後は標識されたペルオキシダーゼに対し2、2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)ジアンモニウム塩(ABTS)及び過酸化水素を添加し反応させた後、マイクロプレートリーダーにて405nmの吸光度を測定した。評価ではサンプル培養液の他にネガティブコントロールとして0.5%FBS添加DMEM培地を用いた。
評価は抽出物無添加時の細胞賦活作用を100とした時の相対値を求めて行った。具体的には、PIERCE社製BCA Protein Assay Kitにてタンパク量を測定し単位細胞又は単位タンパク量当りのコラーゲン産生量を求め、ネガティブコントロールの単位当りI型コラーゲン産生量を100とした時の相対値を求めた。
【0028】
【表2】
【0029】
結果は、表2に示した通りであり、キリンソウ抽出物は、有意な真皮線維芽細胞I型コラーゲン産生促進作用を示した。
【0030】
表1及び表2に示したとおり、キリンソウ抽出物は高い真皮線維芽細胞賦活作用及び真皮線維芽細胞I型コラーゲン産生促進作用を有し、抗老化効果を発揮する。
【0031】
[ヒアルロニダーゼ阻害作用]
市販のヒアルロン酸カリウム塩(ヒト臍の緒由来)を0.9mg/mLになるように、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解し、基質溶液とした。市販のヒアルロニダーゼ(ウシ精巣由来)を5,3000unit/mLとなるように、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解し、酵素溶液とした。なお酵素溶液は用時調製とした。試験管に、緩衝液で各濃度に調製した抽出物2含有溶液0.1mL、及び酵素溶液0.03mLをとり、37℃で20分間反応させた。次に活性化剤を0.06mL加え、37℃で20分間反応させた。さらに基質溶液を0.15mL加え、37℃で1時間反応させた。0.4規定のNaOHを0.06mL加え反応を停止させた後すぐに氷冷し、ホウ酸緩衝液(pH9.1)を0.06mL添加し、3分間煮沸した後さらに氷冷した。p−ジメチルベンズアルデヒド(p−DABA)溶液溶液を2.0mL添加し、37℃で20分間反応させた後、各試験管から96ウェルマイクロプレートに移しかえ、マイクロプレートリーダーを用いて585nmにおける吸光度を測定した。コントロールには、抽出物無添加の緩衝溶液のみを加えたものを用いた。ヒアルロニダーゼの活性が阻害されると分解産物であるN−アセチルグルコサミンが減少し。p−DABAによる吸光度が低くなる。このことを利用し、阻害活性は次式より求めた。結果を表3にまとめる。
阻害率(%)=(コントロール吸光度−サンプル吸光度)/コントロール吸光度×100
【0032】
【表3】
【0033】
表3に示したとおり、キリンソウ抽出物はヒアルロニダーゼ阻害作用を有し、抗炎症効果を発揮する。
【0034】
[メラニン産生抑制作用]
B16マウスメラノーマ細胞を90mmディッシュ1ディッシュ当り1.8×104個となるように播種し、5質量%のウシ胎児血清(FBS)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を用いて培養した。24時間後に5質量%FBS添加DMEM培地に試料を添加して各濃度に調整した抽出物2を含有する培養液に交換した。さらに5日間培養し、培養終了後にトリプシンにより細胞を剥離して回収した。回収した細胞を遠心し、細胞沈殿物を得た。得られた沈殿物は下記に示した判定基準によりその黒化状況を目視で判定した。評価では、抽出物2を添加せず5質量%FBS添加DMEM培地のみで培養し、ネガティブコントロールとし、抽出物2のかわりに50mM乳酸ナトリウムを添加して培養し、ポジティブコントロールとした。
評価基準
判定1:ポジティブコントロールと同程度(ほぼ白色)
判定2:ポジティブコントロールより僅かに黒い(薄い褐色)
判定3:ポジティブコントロールとネガティブコントロールの中間(褐色)
判定4:ネガティブコントロールより僅かに白い(黒褐色)
判定5:ネガティブコントロールと同程度(ほぼ黒色)
【0035】
【表4】
【0036】
結果は、表4に示した通りであり、キリンソウ抽出物は、明らかなメラニン産生抑制作用を示し、美白作用を発揮する。
【0037】
[DPPHラジカル消去作用]
抽出物2を50質量%エタノール水溶液を用いて各濃度に調整し、96ウェルマイクロプレートに100μLずつ添加した。さらに0.2mMの1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル(DPPH)エタノール溶液を100μLずつ添加し、充分に混合後室温、暗所にて24時間静置後、516nmの吸光度を測定した。抽出物2無添加のブランクの吸光度を(A)、抽出物2を添加したときの吸光度を(B)としたとき、次式(2)の値をラジカル消去率とした。
DPPHラジカル消去率={1−(B)/(A)}×100(%) (2)
【0038】
【表5】
【0039】
結果は、表5に示した通りであり、キリンソウ抽出物は、明らかなDPPHラジカル消去作用を示した。
【0040】
[SOD様活性作用]
0.25mM WST−1及び1mMハイポキサンチンを含有するHANK’S(+)溶液75μLに、抽出物2をHANK’S(+)溶液を用いて各濃度に調整したサンプル溶液25μLを添加する。さらに、キサンチンオキシダーゼ25μL(0.0075ユニット)を添加し、37℃で15分間反応させた後、450nmの吸光度を測定した。サンプル溶液に替えてHANK’S(+)溶液のみを添加した場合の吸光度を(A)、サンプル溶液を添加した場合の吸光度を(B)としたとき、スーパーオキサイドアニオン消去率は次式(3)によって求めた。スーパーオキサイドアニオン消去率(%)=[1−(B)/(A)]×100 (3)
【0041】
【表6】
【0042】
結果は、表12に示した通りであり、キリンソウ抽出物は、明らかなスーパーオキサイドアニオン消去作用を示した。
【0043】
表11、表12に示したとおり、キリンソウ抽出物はDPPHラジカル消去効果、スーパーオキサイドアニオン消去効果を有し、抗酸化作用を発揮する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、キリンソウ抽出物を有効成分とする抗老化剤、抗炎症剤、美白剤、及び抗酸化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢、疾患、ストレス、紫外線などによるシワ、シミ、皮膚の弾力低下といった皮膚症状の要因として、乾燥、細胞機能機能低下、紫外線によるメラニン産生や色素沈着、真皮マトリックス成分の減少や変性、紫外線等による細胞の酸化障害などが挙げられる。このような皮膚症状を防止・改善するために、様々な有効成分の検索及び配合検討がなされてきた。特に天然由来成分は、様々な薬理作用や美容効果を有することが知られ、これまでにも数多くの植物や菌類などの抽出物の皮膚外用剤、経口組成物への応用が検討されてきた。
【0003】
例えば、皮膚の保湿効果と安全性に優れた保湿剤としてハリブキ属植物の抽出物(特許文献1参照)、皮膚の老化防止、改善作用を有する皮膚外用剤を得るために、真皮線維芽細胞の賦活あるいは増殖促進作用を有する成分としてポンカンのエッセンス(特許文献2参照)、ツリガネニンジン属植物の抽出物(特許文献3参照)、クロレラ抽出物(特許文献4参照)、ビワ抽出物(特許文献5参照)等が開示されている。美白剤としては、白鶴霊芝の抽出物(特許文献6参照)等が、抗酸化剤としてはサルオガセ科サルオガセ属植物の抽出物(特許文献7参照)等が、生体内の脂肪蓄積を抑制する成分としては、哺乳動物の乳由来リン脂質(特許文献8参照)、褐藻の酵素分解物(特許文献9参照)等がそれぞれすでに知られている。
【0004】
【特許文献1】特開2007−77072号公報
【特許文献2】特開2001−131045号公報
【特許文献3】特開2000−178198号公報
【特許文献4】特開平11−335293号公報
【特許文献5】特公平5−17206号公報
【特許文献6】特開2003−89630号公報
【特許文献7】特開平10−182413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、これまでに様々な天然由来成分が応用されている。しかし、天然由来成分の中には、未だその効果が知られていないものも数多く存在し、優れた抗老化作用、抗酸化作用、及び美白作用を有する有効成分の開発が期待されていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、天然由来の種々の成分について検討を行った結果、キリンソウ抽出物に優れた抗老化作用、抗炎症作用、美白作用、及び抗酸化作用が存在することを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、キリンソウ抽出物を有効成分とする抗老化剤、抗炎症剤、美白剤、及び抗酸化剤に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、キリンソウ抽出物を有効成分とすることにより、優れた効果を有する抗老化剤、抗炎症剤、美白剤、及び抗酸化剤を提供することができる。
【0009】
これらの抗老化剤、抗炎症剤、美白剤、及び抗酸化剤を皮膚外用剤および経口組成物に配合することにより、シワ、タルミ、皮膚の弾力低下、シミ、くすみいった種々の皮膚症状の発現防止や改善に優れた効果を発揮する、様々な組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で用いるキリンソウは、ベンケイソウ科マンネングサ属に属する双子葉植物であり、九州から北海道に分布し、変異種も多く見られる。本発明においては、キリンソウであれば特に限定されない。キリンソウの学名としては、Sedum kamtschaticum Fisch.、Sedum aizoon L.、Sedum aizoon L. var. floribundum Nakaiなどが例示される。
【0011】
これらキリンソウを使用する際は、その使用部位には特に制限はなく、葉、茎、花、根などの任意の部分を使用することができる。複数の部位を組み合わせて使用してもよい。
【0012】
抽出の際は、キリンソウを生のまま用いてもよいが、抽出効率を考えると、細切、乾燥、粉砕等の処理を行った後に抽出を行うことが好ましい。
【0013】
抽出は、任意の抽出溶媒に所定時間浸漬して行うことができる。抽出溶媒は、必要に応じて加熱してもよい。あるいは、超臨界流体や亜臨界流体を用いた抽出方法でも行うことができる。抽出効率を上げるため、撹拌したり抽出溶媒中でホモジナイズしたりしてもよい。抽出温度としては、5℃程度から抽出溶媒の沸点以下の温度とするのが適切である。抽出時間は、抽出溶媒の種類や抽出温度によっても異なるが、1時間〜14日間程度とするのが適切である。
【0014】
抽出溶媒としては、水の他、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等の低級アルコール;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;エチルエーテル、プロピルエーテル等のエーテル類;酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、エチルメチルケトン等のケトン類などの溶媒を用いることができる。これらは、単独で用いられるほか、任意の2種以上を組み合わせて用いてもよい。生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等を用いてもよい。さらに、水や二酸化炭素、エチレン、プロピレン、エタノール、メタノール、アンモニアなどの1種又は2種以上の超臨界液体や亜臨界液体を用いてもよい。
【0015】
キリンソウの上記溶媒による抽出物は、そのままでも使用することができるが、一定期間そのまま静置して熟成させて用いてもよいし、濃縮、乾固した物を水や極性溶媒に再度溶解して使用することもできる。或いは、これらの生理作用を損なわない範囲で、脱色、脱臭、脱塩等の精製処理や、カラムクロマトグラフィー等による分画処理を行った後に用いてもよい。キリンソウの前記抽出物やその処理物及び分画物は、各処理及び分画後に凍結乾燥し、用時に溶媒に溶解して用いることもできる。また、リポソーム等のベシクルやマイクロカプセル等に内包させて用いることもできる。
【0016】
キリンソウ抽出物は、優れた抗老化作用、抗炎症作用、美白作用、抗酸化作用を有し、抗老化剤、抗炎症剤、美白剤、抗酸化剤として利用することができる。
【0017】
キリンソウ抽出物を有効成分とする抗老化剤は、優れたヒト真皮線維芽細胞の細胞賦活効果、真皮線維芽細胞におけるI型コラーゲン産生促進効果を有し、老化症状の防止・改善に優れた効果を発揮する。
【0018】
キリンソウ抽出物を有効成分とする抗炎症剤は、優れたヒアルロニダーゼ阻害効果を有し、炎症の防止・改善に優れた効果を発揮する。
【0019】
キリンソウ抽出物を有効成分とする美白剤は、優れたメラニン産生抑制効果を有し、色素沈着、シミ、そばかす等を予防および改善して、優れた美白作用を発揮する。
【0020】
キリンソウ抽出物を有効成分とする抗酸化剤は、優れたラジカル消去効果、スーパーオキサイドアニオン消去効果を有し、優れた抗酸化作用を発揮する。
【実施例】
【0021】
[抽出物1]
キリンソウの地上部位を乾燥させて粉砕し、サンプル質量の20倍量の精製水を加え、オートクレーブにより20分間、120℃に加温して抽出した。得られた抽出液から、温度の高い状態を保ちながら吸引濾過により不溶物を取り除いた後、凍結乾燥を行い、キリンソウの熱水抽出物(抽出物1)を得た。
【0022】
[抽出物2]
キリンソウの地上部位を乾燥させて粉砕し、サンプル質量の20倍量の50質量%エタノールを加え、室温で撹拌しながら2時間抽出した。得られた抽出液を濾過して不溶物を取り除き、減圧濃縮後、凍結乾燥を行って、キリンソウのエタノール抽出物(抽出物2)を得た。
【0023】
上記抽出物を用いて、各効果の評価を行った。なお各評価結果に記載した*及び**は、t検定における有意確率P値に対し、有意確率5%未満(P<0.05)を*で、有意確率1%未満(P<0.01)を**でそれぞれ表したものである。
【0024】
[真皮線維芽細胞賦活作用]
正常ヒト真皮繊維芽細胞を1ウェル当り2.0×104個となるように96ウェルマイクロプレートに播種した。播種培地にはダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に1質量%のウシ胎児血清(FBS)を添加したものを用いた。24時間後、1質量%FBS添加DMEM培地にて各濃度に調整した抽出物1を含有するサンプル培養液に交換しさらに48時間培養した。次にMTT試薬を400μg/mLとなるように培地にて調整し、上清を除いた細胞に添加し約2時間培養した。最後に2−プロパノールにて生じたフォルマザンを抽出し、マイクロプレートリーダーにて550nmの吸光度を測定した。同時に濁度として650nmの吸光度を測定し、両測定値の差を用いて細胞賦活作用を評価した。評価は抽出物1無添加時のコントロールにおける細胞賦活作用を100とした時の相対値を求めて行い結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
結果は、表1に示した通りであり、キリンソウ抽出物は、有意な真皮線維芽細胞賦活作用を示した。
【0027】
[真皮線維芽細胞I型コラーゲン産生促進作用]
正常ヒト真皮繊維芽細胞を1ウェル当り2.0×104個となるように96ウェルマイクロプレートに播種した。播種培地にはダルベッコ改変イーグル(DMEM)培地に5質量%のウシ胎児血清(FBS)を添加したものを用いた。24時間後、0.5質量%FBS添加DMEM培地にて各濃度に調整した抽出物2を含有するサンプル培養液に交換しさらに24時間培養した。
培養上清中に分泌されたタイプ1コラーゲン量はELISA法を用い、最後は標識されたペルオキシダーゼに対し2、2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)ジアンモニウム塩(ABTS)及び過酸化水素を添加し反応させた後、マイクロプレートリーダーにて405nmの吸光度を測定した。評価ではサンプル培養液の他にネガティブコントロールとして0.5%FBS添加DMEM培地を用いた。
評価は抽出物無添加時の細胞賦活作用を100とした時の相対値を求めて行った。具体的には、PIERCE社製BCA Protein Assay Kitにてタンパク量を測定し単位細胞又は単位タンパク量当りのコラーゲン産生量を求め、ネガティブコントロールの単位当りI型コラーゲン産生量を100とした時の相対値を求めた。
【0028】
【表2】
【0029】
結果は、表2に示した通りであり、キリンソウ抽出物は、有意な真皮線維芽細胞I型コラーゲン産生促進作用を示した。
【0030】
表1及び表2に示したとおり、キリンソウ抽出物は高い真皮線維芽細胞賦活作用及び真皮線維芽細胞I型コラーゲン産生促進作用を有し、抗老化効果を発揮する。
【0031】
[ヒアルロニダーゼ阻害作用]
市販のヒアルロン酸カリウム塩(ヒト臍の緒由来)を0.9mg/mLになるように、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解し、基質溶液とした。市販のヒアルロニダーゼ(ウシ精巣由来)を5,3000unit/mLとなるように、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解し、酵素溶液とした。なお酵素溶液は用時調製とした。試験管に、緩衝液で各濃度に調製した抽出物2含有溶液0.1mL、及び酵素溶液0.03mLをとり、37℃で20分間反応させた。次に活性化剤を0.06mL加え、37℃で20分間反応させた。さらに基質溶液を0.15mL加え、37℃で1時間反応させた。0.4規定のNaOHを0.06mL加え反応を停止させた後すぐに氷冷し、ホウ酸緩衝液(pH9.1)を0.06mL添加し、3分間煮沸した後さらに氷冷した。p−ジメチルベンズアルデヒド(p−DABA)溶液溶液を2.0mL添加し、37℃で20分間反応させた後、各試験管から96ウェルマイクロプレートに移しかえ、マイクロプレートリーダーを用いて585nmにおける吸光度を測定した。コントロールには、抽出物無添加の緩衝溶液のみを加えたものを用いた。ヒアルロニダーゼの活性が阻害されると分解産物であるN−アセチルグルコサミンが減少し。p−DABAによる吸光度が低くなる。このことを利用し、阻害活性は次式より求めた。結果を表3にまとめる。
阻害率(%)=(コントロール吸光度−サンプル吸光度)/コントロール吸光度×100
【0032】
【表3】
【0033】
表3に示したとおり、キリンソウ抽出物はヒアルロニダーゼ阻害作用を有し、抗炎症効果を発揮する。
【0034】
[メラニン産生抑制作用]
B16マウスメラノーマ細胞を90mmディッシュ1ディッシュ当り1.8×104個となるように播種し、5質量%のウシ胎児血清(FBS)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を用いて培養した。24時間後に5質量%FBS添加DMEM培地に試料を添加して各濃度に調整した抽出物2を含有する培養液に交換した。さらに5日間培養し、培養終了後にトリプシンにより細胞を剥離して回収した。回収した細胞を遠心し、細胞沈殿物を得た。得られた沈殿物は下記に示した判定基準によりその黒化状況を目視で判定した。評価では、抽出物2を添加せず5質量%FBS添加DMEM培地のみで培養し、ネガティブコントロールとし、抽出物2のかわりに50mM乳酸ナトリウムを添加して培養し、ポジティブコントロールとした。
評価基準
判定1:ポジティブコントロールと同程度(ほぼ白色)
判定2:ポジティブコントロールより僅かに黒い(薄い褐色)
判定3:ポジティブコントロールとネガティブコントロールの中間(褐色)
判定4:ネガティブコントロールより僅かに白い(黒褐色)
判定5:ネガティブコントロールと同程度(ほぼ黒色)
【0035】
【表4】
【0036】
結果は、表4に示した通りであり、キリンソウ抽出物は、明らかなメラニン産生抑制作用を示し、美白作用を発揮する。
【0037】
[DPPHラジカル消去作用]
抽出物2を50質量%エタノール水溶液を用いて各濃度に調整し、96ウェルマイクロプレートに100μLずつ添加した。さらに0.2mMの1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル(DPPH)エタノール溶液を100μLずつ添加し、充分に混合後室温、暗所にて24時間静置後、516nmの吸光度を測定した。抽出物2無添加のブランクの吸光度を(A)、抽出物2を添加したときの吸光度を(B)としたとき、次式(2)の値をラジカル消去率とした。
DPPHラジカル消去率={1−(B)/(A)}×100(%) (2)
【0038】
【表5】
【0039】
結果は、表5に示した通りであり、キリンソウ抽出物は、明らかなDPPHラジカル消去作用を示した。
【0040】
[SOD様活性作用]
0.25mM WST−1及び1mMハイポキサンチンを含有するHANK’S(+)溶液75μLに、抽出物2をHANK’S(+)溶液を用いて各濃度に調整したサンプル溶液25μLを添加する。さらに、キサンチンオキシダーゼ25μL(0.0075ユニット)を添加し、37℃で15分間反応させた後、450nmの吸光度を測定した。サンプル溶液に替えてHANK’S(+)溶液のみを添加した場合の吸光度を(A)、サンプル溶液を添加した場合の吸光度を(B)としたとき、スーパーオキサイドアニオン消去率は次式(3)によって求めた。スーパーオキサイドアニオン消去率(%)=[1−(B)/(A)]×100 (3)
【0041】
【表6】
【0042】
結果は、表12に示した通りであり、キリンソウ抽出物は、明らかなスーパーオキサイドアニオン消去作用を示した。
【0043】
表11、表12に示したとおり、キリンソウ抽出物はDPPHラジカル消去効果、スーパーオキサイドアニオン消去効果を有し、抗酸化作用を発揮する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キリンソウ抽出物を有効成分とする抗老化剤。
【請求項2】
キリンソウ抽出物を有効成分とする抗炎症剤。
【請求項3】
キリンソウ抽出物を有効成分とする美白剤。
【請求項4】
キリンソウ抽出物を有効成分とする抗酸化剤。
【請求項1】
キリンソウ抽出物を有効成分とする抗老化剤。
【請求項2】
キリンソウ抽出物を有効成分とする抗炎症剤。
【請求項3】
キリンソウ抽出物を有効成分とする美白剤。
【請求項4】
キリンソウ抽出物を有効成分とする抗酸化剤。
【公開番号】特開2010−120869(P2010−120869A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−294604(P2008−294604)
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【出願人】(000135324)株式会社ノエビア (258)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【出願人】(000135324)株式会社ノエビア (258)
【Fターム(参考)】
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