説明

抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維の製造方法

【課題】抗菌剤の繊維への吸着力が強固で、洗濯後でも抗菌性が高く、さらに、抗菌剤の合成繊維からの溶出が極めて少なく、より安全な抗菌性繊維の提供を目的とする。
【解決手段】無機性値/有機性値が1.4を越えて、3.3以下であるピリジン系抗菌剤が微粒子の状態で分散された水性懸濁液を合成繊維に付着させるとともに、又は付着させた後、圧力をかけて微粒子状の上記ピリジン系抗菌剤を上記合成繊維同士の隙間に押し込み、その後熱浸透処理して、抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、抗菌性を付与した繊維構造物は各種衣料、寝装寝具、インテリア製品などに広く利用されている。特に近年、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(以下「MRSA」という。)による院内感染が問題となっており、白衣、カーテンなどに抗菌性を付与する抗菌性繊維の使用が増大している。
【0003】
その中で近年、実使用場面に則した評価法での抗菌効力の付与、および繊維から肌への抗菌剤移動を考慮した安全性確保の問題から、菌転写法による低湿度条件下での抗菌力試験において、工業洗濯後でも高い抗菌活性を有し、さらに繊維からの抗菌剤の溶出が極めて少ない繊維構造物が必要とされている。またさらに、衛生を強化するために、抗菌性だけではなく防カビ性を有する繊維も必要とされている。加えて、SARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルス、鳥インフルエンザウイルス・人インフルエンザウイルス等、ウイルスの問題が大きくなっており、抗ウイルス性繊維が必要とされている。
【0004】
例えば、分子量200〜700、無機性値/有機性値=0.3〜1.4、平均粒径が2μm以下であるピリジン系抗菌剤を含む抗菌性繊維構造物が、工業洗濯耐久性に優れた制菌活性を有していることが、特許文献1に記載されている。
【0005】
更に、特許文献2や特許文献3に、ピリチオン亜鉛をポリエステル繊維に処理したものは、洗濯後でも良好な抗菌繊維となることが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−8275号公報
【特許文献2】特開昭61−239082号公報
【特許文献3】特開2000−119960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の各文献においては、必要とする抗菌性や防カビ性、耐洗濯性等を兼ね備えたものは得られていない。すなわち、特許文献1に記載の方法は、無機性値/有機性値が1.4を越えると、ポリエステル等の合成繊維への抗菌剤の吸着が悪く、抗菌効力も悪いと記載されている。また、特許文献2及び3に記載の方法で抗菌剤を付着させた合成繊維は、低湿度状態での菌転写法による抗菌力や防カビ性が十分であるとはいえなかった。また、繊維で抗ウイルス効果のあるものは、これまで知られていなかった。
【0008】
そこでこの発明は、抗菌剤の繊維への吸着力が強固で、洗濯後でも抗菌性が高く、さらに、抗菌剤の合成繊維からの溶出が極めて少なく、より安全な抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、無機性値/有機性値が1.4を越え、3.3以下であるピリジン系抗菌剤が微粒子の状態で分散された水性懸濁液を合成繊維に付着させるとともに、又は付着させた後、機械的圧力をかけて上記微粒子状のピリジン系抗菌剤を上記合成繊維同士の隙間に押し込み、その後熱浸透処理する、抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維の製造方法により上記の課題を解決したのである。
【発明の効果】
【0010】
無機性値/有機性値が1.4を越えることで、適度な親水性を有するため、低湿度状態でも高い抗菌効果を得ることができる。一方で、無機性値/有機性値が3.3以下であることで、適度な疎水性を有するため、繊維からの溶出は抑制することができ、洗濯後も抗菌性を保持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明について詳細に説明する。
この発明は、無機性値/有機性値が1.4を越え、3.3以下であるピリジン系抗菌剤が微粒子の状態で分散された水性懸濁液を合成繊維に付着させ、機械的圧力をかけて上記微粒子状のピリジン系抗菌剤を上記合成繊維同士の隙間に押し込み、その後熱浸透処理する、抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維の製造方法である。
【0012】
上記の「無機性値」及び「有機性値」とは、藤田稔氏が考案した各種有機化合物の極性を有機概念的に取り扱った値であり[改編 化学実験学−有機化学篇−河合書房(1971)]、その後、甲田善生氏[有機概念図−基礎と応用−三共出版(1984)参照]らが体系的にまとめた値である。この「無機性値」はイオン結合性としての特性を表し、「有機性値」は共有結合性としての特性を表しており、一般的には、「無機性値」が高くなると親水性、「有機性値」が高くなると疎水性になる傾向となる。これらの値は、表1のように定められている。
【0013】
【表1】

【0014】
さらに、イオン結合性と共有結合性の中間的性質を有していると考えられるキレート化合物中の金属の無機性値は、配位の状態によって変わってくる。一般的に、銅などの重金属は共有結合性を強く帯びた結合をしているので[甲田善生著、有機概念図−基礎と応用−三共出版(1984)128ページ参照]、銅を含むキレート化合物の無機性値は、重金属の最低値400と考えられる。しかしながら、イオン結合性が増している場合も考えられるので、これをさらに上回る500という値も考えられる。ただし、一般的には無機物は、無機性値のみが特定の値をとる[上記有機概念図22ページ参照]が、重金属が化合物分子全体の有機無機バランスに影響しないと考えると、金属の無機性値が0という場合もあり得ると考えられる。この場合、キレート化合物中の金属の無機性値は、仮定上の最低値0となる。同様に、亜鉛も重金属であり、0〜500までの値が考えられる。なお、この発明において、「無機性値/有機性値」とは、上記で定められた値の「無機性値の和」と「有機性値の和」を求め、両者の比をとった値をいう。
【0015】
一般的に、抗菌剤を繊維に吸着させる場合、抗菌剤と繊維との無機性値/有機性値が近いほど親和性が良く、また、吸着性がよくなるとされる。例えば上記合成繊維として挙げられるポリエステル系繊維は0.7、ナイロン繊維は1.7となっており、この値に近い抗菌剤ほど、それぞれの繊維への親和性が良くなる傾向があるとされている。しかしながら、無機性値/有機性値が3.3以下であるピリジン系抗菌剤を用いると、上記の一般的な傾向にも関わらず、この発明にかかる方法によって、ポリエステル系繊維でも上記合成繊維への吸着が良好で、優れた抗菌・防カビ・抗ウイルス性を有する繊維を得ることが出来る。
【0016】
この発明にかかる方法に用いるピリジン系抗菌剤の無機性値/有機性値は、1.4を越え、3.3以下であることが必要である。1.4を越えるということは、例えば1.401以上であることをいう。さらに、1.46以上であり、3.25以下であると望ましく、1.8以上であり、2.9以下であるとより望ましい。
【0017】
無機性値/有機性値が1.4以下であると、例えば無機性値/有機性値が0.7であるポリエステル系繊維に対し、繊維との親和性が良く、さらに疎水性が高いことから、水溶出も抑えられて、一般的には有利と考えられる。しかし、低湿度条件となる菌転写法での効力を検討すると、無機性値/有機性値が1.4以下であると疎水的になりすぎるため、効力が極端に落ちてしまう。さらに、親油性に傾きすぎるために、洗剤の影響を受けやすく、洗濯耐性が悪くなり好ましくない。したがって、無機性値/有機性値は1.4を越えることが必要である。一方で、無機性値/有機性値が3.3を越えると、親水性が高くなりすぎ、ポリエステル等の繊維への吸着が悪く、水で洗い流されるため洗濯耐性も落ち、更に繊維からの抗菌剤溶出も増加する方向になり、好ましくない。従って、無機性値/有機性値は3.3以下であることが必要である。
【0018】
上記の条件を満たすピリジン系抗菌剤としては、例えば、下記化学式(1)のMがCuである2−ピリジンチオール銅−1−オキシド(以下、「ピリチオン銅」という。)、MがZnである2−ピリジンチオール亜鉛−1−オキシド(以下、「ピリチオン亜鉛」という。)が挙げられ、特にピリチオン亜鉛が最も望ましい。
【0019】
【化2】

(式中MはCu又はZnを示す。)
【0020】
上記のピリジン系抗菌剤がピリチオン亜鉛である場合、無機性値は表1より、「ピリチオンの化学式(2)に記載の結合:170×2=340」、「S結合:20×2=40」、「芳香環:15×2=30」となり、亜鉛に関しては上記のように0〜500の値をとりうる。したがって、無機性値の合計は410〜910の範囲となる。一方、有機性値は「C:20×10=200」、「S結合:40×2=80」で、合計280となる。従ってこの比をとると無機性値/有機性値=(410/280)〜(910/280)=1.46〜3.25となる。なお、亜鉛の無機性値を重金属の最低値400とすると、ピリチオン亜鉛の無機性値の合計は810となり、その際の無機性値/有機性値は2.9となる。これらの値は、上記のピリジン系抗菌剤がピリチオン銅である場合も同様である。
【0021】
【化3】

【0022】
したがって、上記ピリジン系抗菌剤の無機性値/有機性値は、1.46以上であり、3.25以下であることが望ましく、2.9以下であるとより望ましい。
【0023】
これらピリジン系抗菌剤の無機性値/有機性値は、有機性が高いポリエステル系繊維の無機性値/有機性値=0.7からはやや離れている。それにも関わらず、これらピリジン系抗菌剤を水中でポリエステル系繊維に対して処理した場合、上記ピリジン系抗菌剤はポリエステル系繊維にも吸着されやすい。これは、上記無機性値/有機性値が3.3以下である微粒子の状態で分散されたピリジン系抗菌剤が水中で独立して存在するよりも、ポリエステル系繊維表面に吸着した方がより安定であるためと考えられる。
【0024】
上記のピリジン系抗菌剤の水溶解度は0.01〜30ppmと低く、例えば、上記のピリジン系抗菌剤であるピリチオン亜鉛の25℃水溶解度は8ppmであり、ピリチオン銅の場合は1ppm以下であるが、これらは好適に有機性の高い合成繊維に吸着され、さらに、水等への溶出も少なく、好適に使用される。
【0025】
さらに、上記ピリジン系抗菌剤の有機溶剤溶解度は、一般にn−オクタノール/水分配係数に用いられる有機溶剤であるn−オクタノールへの25℃における溶解度として、0.01〜100ppmであり、有機溶剤にも溶解しにくく、親和性が低い。このため、洗濯時の洗剤によって抗菌剤がミセル化されにくく、洗濯後でも抗菌力を高く維持することができる。
【0026】
上記のピリジン系抗菌剤を、上記合成繊維に付着させる。その際には、上記ピリジン系抗菌剤を上記水性懸濁液にすることが必要である。
【0027】
上記の水性懸濁液とは、界面活性剤等の分散剤と水との存在下で、上記ピリジン系抗菌剤を攪拌及び/又は粉砕することにより得られる、上記ピリジン系抗菌剤が微粒子の状態で分散された懸濁液である。この水性懸濁液中における、上記ピリジン系抗菌剤の平均粒子径は0.1〜2μmが好ましく、0.1〜1μmであるとより好ましい。平均粒子径が2μmを超えると沈殿を起こしてしまい、処理剤として不安定になるおそれがあり、また、粒子径が大きすぎて加工処理時に繊維への付着が悪くなったり、付着ムラがおきたりしてしまうおそれがある。そのため、粒子径が2μm以上の上記ピリジン系抗菌剤は、上記ピリジン系抗菌剤の全重量に対して5重量%以下であるとよく、3重量%以下であると好ましく、1重量%以下であるとより好ましく、0.5重量%以下であるとさらに好ましい。
【0028】
なお、上記の水性懸濁液中における上記ピリジン系抗菌剤の粒子の平均粒子径は、JIS R 1629に準拠したレーザー回折粒度分布測定装置を用いて測定し、累積50%に相当するメジアン径として求めたものである。
【0029】
上記分散剤としては、特に制限はなく、例えばリグニンスルホン酸塩等のアニオン系界面活性剤、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の非イオン系界面活性剤、4級アンモニウム塩系のカチオン系界面活性剤、PVA等が挙げられる。これらの分散剤に、必要に応じて増粘剤、凍結防止剤、消泡剤を加えてスラリー状とし、必要に応じてボールミル、セラミックミルやパールミルを用いて懸濁液にして、上記水性懸濁液とする。
【0030】
上記水性懸濁液中の上記分散剤の重量は、上記ピリジン系抗菌剤の重量の1/50〜1/1であることが好ましく、特に好ましくは1/25〜1/2である。上記分散剤がこれより多いと、分散剤が繊維に付着して、風合いが損なわれたり、他の染色補助剤等に悪影響を及ぼしたりするため、好ましくない。一方で、少なすぎると上記ピリジン系抗菌剤が沈降し、処理剤として安定せず、問題が残るおそれがある。
【0031】
上記の水性懸濁液は50〜99.99重量%の水分を含有している水溶液であることが望ましい。水分が50重量%以上あると、沈殿や凝集を起こしにくく、安定性に優れ、扱いやすくなる。
【0032】
上記水性懸濁液のpHは、4〜9であることが望ましく、5.5〜8であるとより望ましい。pHが4未満であっても、9を超えても、どちらも上記ピリジン系抗菌剤の分解が起こり、抗菌性が保持されなくなってしまうためである。
【0033】
上記の水性懸濁液を上記合成繊維に付着させる。付着させる方法としては、特に制限はなく、浴槽に入れた上記水性懸濁液に漬けて付着させるパディング法、スプレーで上記合成繊維に吹き付けて付着させるスプレー法等を用いてよい。
【0034】
また、上記水性懸濁液を上記合成繊維に付着させる際には、上記ピリジン系抗菌剤の濃度は、水に対して0.01〜4重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜1.5重量%である。0.01重量%以下では、繊維への上記ピリジン系抗菌剤の付着量が少なく、充分な抗菌力が発揮されない。一方で4重量%以上では、効力の割に、多量の上記ピリジン系抗菌剤を消費することになり、好ましくない。
【0035】
なお、上記水性懸濁液は、そのまま付着させてもよいし、上記水性懸濁液を水で希釈してから付着させても良いが、通常は、濃厚な懸濁液を作製しておき、使用時にそれを希釈して使用するのが好ましい。例えば、10〜30%の原液を作っておき、使用時に好ましい濃度に希釈して使用する。このようにすることによって、液を安定して長期間保存することができ、また、使用現場への輸送コストも安く抑えることができる。
【0036】
さらに、上記水性懸濁液を上記合成繊維に付着させる際に、その水溶液に、染色剤や染色補助剤を加えてもよい。例えば、一般に繊維に用いられている分散染料、酸性染料、カチオン染料、蛍光増白剤、撥水剤、防汚剤等である。さらに、必要に応じて、酸化亜鉛、酸化チタン等の抗菌剤、殺虫剤、防ダニ剤、防炎剤、酸化防止剤、フィックス剤等を加えてもかまわない。
【0037】
上記水性懸濁液により上記ピリジン系抗菌剤を付着させる上記合成繊維としては、上記したポリエステル系繊維、アクリル繊維のほかに、ナイロン繊維なども挙げられる。なお、ポリエステル系繊維は、ポリエチレンテレフタレートのような石油由来の繊維だけでなく、ポリ乳酸のような天然材料に手を加えた繊維も含む。さらに、綿、羊毛、絹などの天然繊維や、レーヨン繊維などの半合成繊維を、上記の合成繊維と併用しても良い。これらの中でも、ポリエステル系繊維が、工業洗濯耐久性に優れていて特に望ましい。このように用いる上記合成繊維の形態としては、糸、織布、不織布など、特に限定されるものではない。
【0038】
上記水性懸濁液を含む水溶液を付着させた上記合成繊維に、機械的圧力をかけて上記ピリジン系抗菌剤を上記合成繊維同士の隙間へ押し込む。上記合成繊維同士の隙間とは、糸同士の隙間や糸を構成しているモノフィラメントの隙間などのことを示す。機械的圧力をかけるには、例えば、上記水性懸濁液を付着させた上記合成繊維を、接触したローラー間に通したり、上記合成繊維がかけられた2つの隣接していないローラー間にテンションをかけて布に圧力をかけたり、又は繊維を挟持したローラー上でエアーを吹き付けたりする等の操作をすることで、上記ピリジン系抗菌剤を繊維フィラメント間に押し込むといった方法がある。また、ローラーに上記水性懸濁液を付着させ、上記合成繊維をこのローラーに挟持させることで、上記合成繊維に水性懸濁液を付着させると同時に、上記ピリジン系抗菌剤を上記合成繊維の繊維フィラメント間に押し込む方法もある。
【0039】
この押し込み操作により、上記水性懸濁液中の微粒子状である上記ピリジン系抗菌剤を繊維に押し込むことができ、単に浸漬しただけでは得られない強固な付着が得られると考えられる。しかも、上記ピリジン系抗菌剤は繊維フィラメント間に均一に付着されるため、その後の熱浸透処理で有効に効果が発揮される。このとき、上記ピリジン系抗菌剤を完全な溶液として用いるのではなく、上記ピリジン系抗菌剤が微粒子として存在する水性懸濁液として用いることで、上記押し込み操作を良好に行うことができる。また、上記ピリジン系抗菌剤の粒子径が上記の条件を満たすと、この押し込み操作においても望ましい。
【0040】
このローラーの、上記合成繊維に圧力をかける接触部は、フラットな金属及び/又はゴムであるのが望ましい。この際に上記合成繊維にかける望ましい圧力は、繊維の種類や状態によって変化する。この圧力は0.2〜50kg/cmであることが望ましい。圧力が0.2kg/cm未満となると上記ピリジン系抗菌剤が十分に上記合成繊維同士の隙間に押し込まれず、50kg/cm以上になると上記合成繊維にかかる負担が大きくなりすぎてしまう。この圧力を、例えば、0.05〜7デニールの繊維を用いた場合において、圧力をかけて繊維に含まれる上記水性懸濁液が絞られた後の繊維重量に対する上記水性懸濁液の付着量の割合(以下、「%owf」と表示する。)で表すと、5〜100%owfとなる圧力であるとよく、30〜80%owfとなる圧力であると望ましく、40〜70%owfとなる圧力であるとより望ましい。上記水性懸濁液が5%owf未満となるほどの圧力は、この後に行う熱浸透処理を効率よく行うためには、ある程度の水分を含有していることが必要であるため、望ましくない。
【0041】
上記の押し込みを行った上記合成繊維に、熱浸透処理を行って、上記ピリジン系抗菌剤を上記合成繊維内に固着させる。
【0042】
上記の熱浸透処理を行う適温とは、上記合成繊維を構成する合成樹脂のTg温度(ガラス転移温度)以上であって、かつ、その合成繊維自体が分解などの不都合な変質を起こさない温度範囲であることが必要である。なお、ここでいうTg温度はJIS K 7121に記載された方法で測定した値である。
【0043】
一般に高分子からできている合成繊維は、分子の集まり方が規則的で密な部分(結晶部分)と不規則で疎な部分(非結晶部分)からなり、Tg温度以上になると非結晶部分の分子鎖がゆるみ流動性が増し、柔らかくなるので抗菌剤等の分子が入りやすくなる。そのため、上記ピリジン系抗菌剤と合成繊維とを熱処理する際に、Tg温度以上の適温で行うと、上記ピリジン系抗菌剤は繊維内に効率良く浸透していき、良好な固着状態となる。特にこの発明においては、上記の押し込みにより上記ピリジン系抗菌剤は上記繊維フィラメント間に強く押し込まれているため、上記の適温で処理することにより、上記合成繊維の非結晶部分に効率よく浸透し、良好に固着される。
【0044】
上記合成繊維がポリエステル系繊維の場合は、適温として(Tg+80)〜(Tg+120)℃で熱浸透処理すると、最も効率的に上記ピリジン系抗菌剤を上記合成繊維に浸透させることができるので望ましい。具体的には、多くのポリエステル系繊維のTgは70〜80℃であるので、上記適温は150〜200℃であるのがよく、好ましくは160℃〜190℃である。上記熱浸透処理を行う時間は、20秒〜10分の範囲から適宜選択決定して行う。好ましくは30秒〜5分である。
【0045】
上記合成繊維がナイロン繊維の場合は、上記適温として(Tg+40)〜(Tg+100)℃で熱処理すると、最も効率的に上記ピリジン系抗菌剤を上記合成繊維に浸透させることができるので望ましい。一般的なナイロン繊維のTg℃は40〜50℃であるので、上記適温は80〜150℃であるのがよく、好ましくは100〜130℃である。上記熱浸透処理を行う時間は、20秒〜3分の範囲から適宜選択決定して行う。好ましくは30秒〜3分である。また、上記合成繊維がアクリル繊維の場合は、Tg〜(Tg+60)℃が好ましく、アクリル繊維のTg℃が80〜90℃であるので、適温は80〜150℃である。
【0046】
上記熱浸透処理の方法としては、乾燥機内を通過させる方法、熱ローラーを通過させる方法、高温蒸気加熱処理法(パッド・スチーム法)等が挙げられ、特に限定されるものではない。
【0047】
上記熱浸透処理による上記ピリジン系抗菌剤の上記合成繊維への固着には水分が必要であり、上記熱浸透処理を行う際に、上記合成繊維は少なくとも5%owfの水分を含有していると好ましい。これは、上記ピリジン系抗菌剤が上記合成繊維の柔らかくなった部分に浸透していく際に、何らかの形で水分の介在が必要であるからと考えられる。繊維に付着する水分が5%owf未満であると水分が少なすぎて、上記ピリジン系抗菌剤が上記合成繊維の柔らかくなった非結晶部分に浸透しにくく、最終的に得られる抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維の洗濯耐性が低下してしまうおそれがある。
【0048】
一方で、上記熱浸透処理を行う際に、上記合成繊維が含有する水分は、100%owf以下であることが望ましい。水分が100%owfを超えてしまうと、水の熱容量が大きいために、加熱しても上記合成繊維の温度が短時間で上昇せずに、繊維の非結晶部分が十分柔らかくならないので、浸透しきれない上記ピリジン系抗菌剤が繊維の表面で乾燥させられてしまい、最終的に得られる抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維の洗濯耐性が低下するおそれがある。また、それらの水分を最終的に乾燥させるための時間やコストも余計にかかってしまう。
【0049】
上記合成繊維がポリエステル系繊維の場合は、上記押し込みを行った上記合成繊維に対して、上記熱浸透処理を行う前に、予備乾燥処理を行っておくことで、上記熱浸透処理の際に上記合成繊維に含まれる水分を予め減らしておいてもよい。ただしその場合、5%owf未満にはならないことが望ましい。上記予備乾燥処理の方法は、熱浸透処理に用いられるのと同様の方法が用いられるが、加工温度は100〜140℃の温度で行うことが望ましい。
【0050】
なお、上記熱浸透処理後に、上記合成繊維上に残った余分な加工剤や不純物を取り除く為に、水又はアルカリ性液等で洗浄して乾燥してもよい。この場合も、上記ピリジン系抗菌剤が上記合成繊維内に固着しているので、洗浄しても抗菌性には影響しない。
【0051】
上記の押し込み操作による、上記水性懸濁液の付着重量は、繊維重量に対して5重量%以上がよく、20重量%以上が好ましい。5重量%より少ないと、繊維に圧力がかかりすぎて、繊維を傷めてしまう傾向がある。一方、付着重量の上限は、100重量%がよい。100重量%より多いと、圧力が低くなるため、繊維内に十分抗菌剤を押し込みにくくなる傾向がある。
【0052】
この発明にかかる製造方法によって抗菌剤を付着された上記合成繊維は、抗菌剤の無機性値/有機性値が3.3以下であり、水溶解度が30ppm以下と低く、かつ押し込みと熱浸透処理によって抗菌剤が強く固着されているため、洗濯などの水処理をしても上記ピリジン系抗菌剤がほとんど溶出せずに、抗菌力が高く維持され、安全で優れた抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維となる。さらに、抗菌剤の無機性値/有機性値が1.4を越えて適度に親水性であるので、菌転写法での実験条件下のような低湿度の条件下でも効力が発揮され、抗菌効力が高い抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維となる。
【0053】
さらに、SARSウイルス、ラッサ熱ウイルス、エボラ出血熱ウイルス、エイズウイルス、西ナイルウイルス、デング熱ウイルス、日本脳炎ウイルス、鳥・人インフルエンザ等のRNAウイルス、天然痘ウイルス、ヘルペスウイルス等のDNAウイルスにも効果がある抗ウイルス性を有する抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維ともなる。なお、この発明にかかる製造方法で得られた繊維に、抗ウイルス効果が発揮されるのは、ウイルスの外被タンパクへの抗菌剤の変性作用によるものと考えられ、この製造方法によって得られた抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維は、洗濯後でも抗菌剤が効率的に繊維に固着されている。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げてこの発明をより具体的に説明する。なお、以下の文中で%とは重量%を示す。まず、それぞれの試験方法と洗濯方法について説明する。
【0055】
(繊維への吸着量測定方法)
繊維内に含まれる上記ピリジン系抗菌剤由来の金属量を測定することにより吸着量を測定した。すなわち、上記ピリジン系抗菌剤が浸透した繊維を灰化し、塩酸処理した後、原子吸光光度計を用いて残存物中の金属量を測定し、それからピリジン系抗菌剤の浸透量を逆算した。
【0056】
(抗菌試験の供試菌及び評価方法)
黄色ブドウ球菌2種(Staphylococcus aureus、及びMRSA)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumocniae)を用いて抗菌性の評価を行った。評価対象としては、洗濯前及び上記洗濯後の加工布を用いた。
【0057】
まず、第一の評価方法として、JIS L 1902(2002)に定められる繊維製品の抗菌性試験方法記載の菌転写法(表中「菌転写」と表記する。)を実施した。判定は、低湿度下での4時間培養後の菌数の減少を、各試験布の回収菌数によって比較し、比較対照である無処理布に比べて菌数対数値で0.5以上減少した場合を有効(○)、0.5未満の場合を無効(×)とした。
【0058】
また、第二の評価方法として、JIS L 1902(2002)に定められる菌液吸収法(表中「菌液」と表記する。)を実施した。判定は、各試験布の静菌活性値が2.2以上であった場合を有効(○)、2.2未満の場合を無効(×)とした。
【0059】
(防カビ試験の供試菌及び評価方法)
真菌4種(Aspergillus niger、Penicillium citrinum、Chaetomium globosum、Myrothecium verrucaria)を用いて防カビ性の評価を行った。評価方法としては、抗菌試験と同じく洗濯前及び上記洗濯後の加工布を用いた。評価方法としては、JIS Z 2911(2000)に定められる湿式法を実施した。判定は防黴試験結果の表示方法0(試料又は試験片の接種した部分に菌糸の発育が認められない。)を有効(○)とし、1(試料又は試験片の接種した部分に認められる菌糸の発育部分の面積は全面積の1/3を超えない。)及び2(試料又は試験片の接種した部分に認められる菌糸の発育部分の面積は全面積の1/3を超える。)を無効(×)とした。
【0060】
(抗ウイルス試験及び評価方法)
中華人民共和国疾病予防制御センターウイルス病予防制御所 ウイルス試験センターにて依頼して実施した。アフリカミドリザル腎継代細胞(VERO E6:ウイルス試験センター提供)培養系で、ウイルスCPE(cytopathogenic effect;細胞変性効果)法を用いて、工業洗濯50回後の加工布の体外におけるSARSウイルスに対する不活性化効果を観察し、ウイルス対照区と比較して、効果を判定した。
【0061】
具体的には以下の通りである。
<加工布とウイルスの前処理>
2株のSARSウイルス(SARS−COV−P5:コロナウイルス分離株、ウイルス資源センター提供(中華人民共和国薬品生物製品検定所検定 証号:SH200400011)、及び、SARS−COV−P11:コロナウイルス分離株、ウイルス資源センター提供(中華人民共和国薬品生物製品検定所検定 証号:SH200400017))を
ウイルス希釈濃度が100TCID50(TCID50=半数組織培養感染量)となるように純水で希釈し、このウイルス希釈液7mlを、工業洗濯50回後の加工布に注いで布に十分に浸透させた。これを、室温で、10,15,30,45分間と、1,2,3時間放置した後、無菌のピンセットで上記加工布内のウイルス希釈液を押しだし、溶液(以下、「処理液」と称する。)を得た。
【0062】
<VERO E6細胞培養系でのウイルスCPE法での不活化効果の確認>
VERO E6細胞を40万個/mlの濃度で、96穴培養プレート(北京宝芝林生物技術有限公司提供)に接種し、37℃で24〜48時間培養して細胞を単層化した。これに、各々の時間経過における上記処理液を、それぞれ4穴に100μlずつ入れた。これを5%COの環境下で6日間培養し、倒置顕微鏡でウイルスCPEを観察して結果を記録した。
【0063】
その際の基準は、以下の通りである。「−」はウイルス細胞CPEに変化が無く、100%ウイルスが不活性化されたことを示し、「+」は25%以下のCPE変化で75%のウイルスが不活性化、「++」は26〜50%のCPE変化で50%の不活性化、「+++」は51〜75%のCPE変化で25%の不活性化、「++++」は76〜100%のCPE変化で不活性化されなかったことを示す。
【0064】
(溶出試験方法)
洗濯前の加工布からの、水(表中(1))、20%エタノール水溶液(表中(2))、4%酢酸(表中(3))に溶出するピリジン系抗菌剤の量を測定した。具体的には、繊維1gに対し溶液20mlに40℃10日間浸漬させ、溶出液中の不純有機物は塩酸処理で分解し、残存した金属を原子吸光光度計で測定した。判定は繊維中のピリジン系抗菌剤の全量に対し、溶出したピリジン系抗菌剤が1%未満であるものを良好(○)とし、1%以上溶出したものを不良(×)とした。なお、繊維中のピリジン系抗菌剤の初期量は上記した繊維への吸着量測定方法にて測定した。
【0065】
(洗濯方法)
工業洗濯は(社)繊維評価技術協議会(JTETC)の定める、JAFET標準配合洗剤を用いた厚生省令第13号に準拠した洗濯方法で実施した。具体的には、80℃条件下(工業洗濯)で50回実施した。また、家庭洗濯は、JIS L 0217の103に準拠した洗濯方法で実施した。具体的には、常温条件下で10回の洗濯を実施した。
【0066】
(水性懸濁液の製造)
次に、水生懸濁液の製造方法について説明する。
ピリジン系抗菌剤として、亜鉛及び銅の無機性値を400とした場合に無機性値/有機性値が2.9と計算されるピリチオン亜鉛(アーチケミカル社製、表中「ZPT」と略す。)及びピリチオン銅(アーチケミカル社製、表中「CuPT」と略す。)と、ナトリウムの無機性値を500とした場合に無機性値/有機性値が5.0と計算されるピリチオンナトリウム(アーチケミカル社製、表中「NaPT」と略す。)とを用いた。それぞれの物性は以下の通りである。
(ピリチオン亜鉛物性)
・無機性値/有機性値:2.9
・水溶解度:8ppm(25℃)
・有機溶剤溶解度(オクタノール):5ppm
・平均粒子径:0.5μm
・2μm以上の粒子の割合:0%
・pH:6.6
(ピリチオン銅物性)
・無機性値/有機性値:2.9
・水溶解度:0.5ppm(25℃)
・有機溶剤溶解度(オクタノール):0.3ppm
・平均粒子径:0.5μm
・2μm以上の粒子の割合:0.5%
・pH:7.1
(ピリチオンナトリウム物性)
・無機性値/有機性値:5.0(値の計算は表2に記載。表中「I/O値」と略す。)
・水溶解度:53%(25℃)
・有機溶剤溶解度(オクタノール):0.1ppm
・平均粒子径:水溶性(完全溶解)
・2μm以上の粒子の割合:水溶性(完全溶解)
・pH:8.3
【0067】
【表2】

【0068】
上記それぞれのピリジン系抗菌剤を以下の成分比で混合した。
・ピリチオン亜鉛、ピリチオン銅又はピリチオンナトリウム:20重量部
・ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩(分散剤 第一工業製薬(株)製:ハイテノール08E):3重量部
・グリセリン(凍結防止剤 和光純薬工業(株)製):2重量部
・精製水:75重量部
混合したものをペースト化した後、ピリチオン亜鉛、ピリチオン銅についてはセラミックミルで平均粒子径0.5μmの懸濁液とした。ピリチオンナトリウムは、攪拌して透明均一な液体とした。得られた水性微粒子懸濁液もしくは透明液を、それぞれのピリジン系抗菌剤が0.8%になる様に水で希釈して水性懸濁液(ピリチオンナトリウムについては水性透明液)とした。得られた水性懸濁液のpHはそれぞれ、ピリチオン亜鉛を用いたものが6.8、ピリチオン銅を用いたものが7.1、ピリチオンナトリウムを用いたものが7.4である。
【0069】
(合成繊維)
合成繊維としては、ポリエステル系繊維(色染社試験用繊維トロピカル:東レ(株)製 150デニール×48フィラメント 表中「PET」と略す。)及び、ナイロン繊維(色染社試験用繊維ナイロンタフタ:70デニール×24フィラメント 表中「Nylon」と略す。)を用いた。
【0070】
(実施例1)
ピリチオン亜鉛による上記水性懸濁液を浴槽に入れ、この中に10gのポリエステル系繊維を浸した。次にそのポリエステル系繊維を60%owfになる様に圧力をかけたローラーに通した。その後190℃で2分間、常圧乾熱機にて熱浸透処理を行い、最後に常温の水で5分洗浄後、120℃で2分乾燥を行い、抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維である加工布を得た。この加工布についての吸着性、溶出、及び工業洗濯前後における抗菌・防カビ性評価結果を表3に示す。なお、表中で無機性値/有機性値を「I/O値」と表記する。
【0071】
【表3】

【0072】
(実施例2)
実施例1のピリチオン亜鉛の代わりにピリチオン銅を用いた以外は同様の方法で抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維である加工布を得た。この加工布についての評価結果を表3に示す。
【0073】
(比較例1)
実施例1のピリチオン亜鉛の代わりにピリチオンナトリウムを用いた以外は同様の方法で加工布を得た。この加工布についての評価結果を表3に示す。
【0074】
(実施例3)
ピリチオン亜鉛による上記水性懸濁液を浴槽に入れ、この中に10gのナイロン繊維を浸した。次にそのナイロン繊維を、60%owfになるように圧力をかけたローラーに通した。その後、120℃で1分間常圧乾熱機にて熱浸透処理を行い、最後に常温の水で5分洗浄後、110℃で2分乾燥を行い、抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維である加工布を得た。この加工布についての溶出と、家庭洗濯前後における抗菌力との評価結果を表4に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
(実施例4)
実施例3のピリチオン亜鉛の代わりにピリチオン銅を用いた以外は同様の方法で、抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維である加工布を得た。この加工布についての評価結果を表4に示す。
【0077】
(比較例2)
実施例3のピリチオン亜鉛の変わりにピリチオンナトリウムを用いた以外は同様の方法で、加工布を得た。この加工布についての評価結果を表4に示す。
【0078】
(結果)
無機性値/有機性値が1.4を越え、3.3以下であるピリジン系抗菌剤を用いて製造した抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維は、無機性値/有機性値が3.3を超えたピリジン系抗菌剤を用いたものよりも、安定した抗菌効果を示し、また、溶出も起こさなかった。
【0079】
(実施例5)
実施例1において、上記水性懸濁液のピリチオン亜鉛濃度を0.8%から0.67%に変えた希釈液を用いた以外は、実施例1と同じ方法で、抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維である加工布を得た。そのときの期待吸着濃度は0.4%で、実測濃度は0.38%であった。また、工業洗濯も同様に、80℃で50回実施した。この加工布を用いて、抗ウイルス試験を行った。その結果を表5に示す。1時間以上でウイルスに対する不活化効果が現れ、3時間で100%の不活化効果が得られた。
(比較例3:対照区)
加工布による処理を行っていない上記ウイルス希釈液を用いて、抗ウイルス試験を行った。その結果を表5に示す。
【0080】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機性値/有機性値が1.4を越え、3.3以下であるピリジン系抗菌剤が微粒子の状態で分散された水性懸濁液を合成繊維に付着させるとともに、又は付着させた後、機械的圧力をかけて微粒子状の上記ピリジン系抗菌剤を上記合成繊維同士の隙間に押し込み、その後熱浸透処理する、抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維の製造方法。
【請求項2】
上記熱浸透処理を行う際、上記合成繊維が含有する水分が、繊維重量に対して5〜100重量%である、請求項1に記載の抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維の製造方法。
【請求項3】
上記ピリジン系抗菌剤が、下記化学式(1)で表される、2−ピリジンチオール亜鉛−1−オキシド、及び/又は、2−ピリジンチオール銅−1−オキシドである請求項1又は2に記載の抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維の製造方法。
【化1】

(なお、式中MはZn又はCuを示す。)
【請求項4】
上記の押し込み操作により、上記水性懸濁液の付着重量を繊維重量に対して5〜100%とする請求項1乃至3のいずれかに記載の抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維の製造方法。
【請求項5】
上記合成繊維がポリエステル系繊維であり、上記熱浸透処理を、150〜200℃で処理する、請求項1乃至4のいずれかに記載の抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維の製造方法。
【請求項6】
上記合成繊維がナイロン繊維又はアクリル繊維であり、上記熱浸透処理を、80〜150℃で処理する、請求項1乃至4のいずれかに記載の抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維の製造方法。
【請求項7】
上記水性懸濁液が、上記ピリジン系抗菌剤に対して1/50〜1/1の重量の分散剤を含んでおり、かつ、水分を上記水性懸濁液の全重量に比して50〜99.99重量%含有する溶液である、請求項1乃至6のいずれかに記載の抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維の製造方法。

【公開番号】特開2006−9232(P2006−9232A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−6270(P2005−6270)
【出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(000205432)大阪化成株式会社 (21)
【Fターム(参考)】