説明

抗菌塗料

【課題】明所においても暗所においても良好な抗菌効果を奏する抗菌塗料を提供すること。
【解決手段】本発明の抗菌塗料は、塗料用樹脂組成物と、アパタイト結晶構造に含まれる金属原子の一部が光触媒性金属である粉末状の金属修飾アパタイトと、を含む。金属修飾アパタイトは、好ましくは、カルシウムハイドロキシアパタイトのCaの一部がTiで置換された化学構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば住宅やビルなどの建造物の建築資材を塗装するための、抗菌塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅やビルなどの建造物の外壁や内壁に対して新たに塗装を施す場合、従来より、壁面上の古い塗膜を剥離して、塗装下地面にて繁殖しているカビなどの汚れを水洗除去した後に、当該壁面に対して塗料を塗布する手法がとられる場合がある。壁面の水洗いに際しては、抗菌剤を含有する洗剤が用いられることがある。このような洗剤を使用することにより、塗装下地面の殺菌消毒が図られる。そして、この下地面上に塗装が施されると、当該下地面と塗膜との間において、一定の程度の無菌化が達成される。
【0003】
しかしながら、このような手法では、カビなどによる外界からの汚染によって、塗膜は、その露出面側から侵食を受けやすい。塗膜は、殺菌消毒された塗装下地面を被覆するように形成され、外部に露出する面に対しては手当てが施されていないからである。塗膜上にカビが一旦繁殖すると、塗装面の外観が損われる場合がある。また、塗膜上にカビが一旦繁殖すると、塗膜のみならず、やがて壁材までも侵食を受ける場合があり、好ましくない。
【0004】
建築物の外壁面や内壁面に対して、カビなどの微生物による汚染や侵食を防止ないし抑制するための抗菌性を付与する手法として、粉末状の光触媒を含有する塗料で壁面を塗装するという技術が知られている。光触媒としては、酸化チタン(TiO2)などの、光触媒機能を有する一部の半導体物質が用いられる場合がある。
【0005】
光触媒機能を有する半導体物質では、一般に、価電子帯と伝導帯のバンドギャップに相当するエネルギーを有する光を吸収することによって、価電子帯の電子が伝導帯に遷移し、この電子遷移により、価電子帯には正孔が生ずる。伝導帯の電子は、当該光触媒性半導体の表面に吸着している物質に移動する性質を有し、これにより当該吸着物質は還元され得る。価電子帯の正孔は、当該光触媒性半導体の表面に吸着している物質から電子を奪い取る性質を有し、これにより当該吸着物質は酸化され得る。
【0006】
光触媒機能を有する酸化チタン(TiO2)においては、伝導帯に遷移した電子は、空気中の酸素を還元してスーパーオキシドアニオン(・O2-)を生成させる。これとともに、価電子帯に生じた正孔は、酸化チタン表面の吸着水を酸化してヒドロキシラジカル(・OH)を生成させる。ヒドロキシラジカルは、非常に強い酸化力を有している。そのため、光触媒性酸化チタンに対して例えば有機物が吸着すると、ヒドロキシラジカルが作用することによって、当該有機物は、最終的には水と二酸化炭素に分解される場合がある。光触媒機能を有する半導体物質の中でも特に酸化チタンは、有機物におけるこのような酸化分解反応の良好な触媒として機能するため、抗菌剤、脱臭剤、環境浄化剤などにおいて、広く利用されている。
【0007】
しかしながら、酸化チタン光触媒自体は、光を吸収することによって触媒としての機能を発揮し得る物質である。そのため、光触媒性の酸化チタンを含む塗料により壁材が塗装されておっても、建築物における当該壁材の使用箇所、または、当該壁材が保管されている場所が暗所である場合には、酸化チタンが光を吸収することができないか或は光量が充分でないので、光触媒機能による分解作用に基づく抗菌作用や防汚作用は期待できない。また、日中は陽当たり良好な箇所に使用されている壁材であっても、夜間には、酸化チタンが光を吸収することができないか或は光量が充分でないので、光触媒機能に基づく抗菌作用は期待できない。
【0008】
また、酸化チタン自体は、その表面に何らかの物質を吸着する能力に乏しい。したがって、酸化チタンの触媒機能を充分に発揮させるためには、酸化分解されることとなる分解対象物質と酸化チタンとの接触効率を向上させる必要がある。例えば下記の特許文献1,2には、分解対象物と酸化チタンとの接触効率の向上を目的として、塗料中に酸化チタンおよび吸着性物質を共存させる技術が開示されている。
【0009】
【特許文献1】特開平11−343210号公報
【特許文献2】特開2000−1631号公報
【0010】
そのような用途の吸着性物質としては、カルシウムハイドロキシアパタイト(CaHAP)が知られている。CaHAPは、カチオンともアニオンともイオン交換しやすいため吸着性に富んでおり、特にタンパク質などの有機物を吸着する能力に優れている。そのため、CaHAPについては、クロマトグラフィ用吸着剤、化学センサ、イオン交換体など、幅広い分野への応用技術の研究が盛んに行われている。しかしながら、このようなCaHAPなどの吸着性物質と酸化チタンとを、塗料に対して別々に添加して各々適切に分散させるのは、塗料の製造において効率的でない。また、酸化チタンと吸着性物質とを塗料中に単に共存させるだけでは、分解対象物と酸化チタンとの接触効率の向上は比較的小さい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、明所においても暗所においても良好な抗菌効果を奏する抗菌塗料、および、これにより塗装された建築資材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の側面によると抗菌塗料が提供される。この抗菌塗料は、塗料用樹脂組成物と、アパタイト結晶構造に含まれる金属原子の一部が光触媒性金属である粉末状の金属修飾アパタイトとを含む。
【0013】
本発明の第2の側面によると建築資材が提供される。この建築資材は、塗料用樹脂組成物と、アパタイト結晶構造に含まれる金属原子の一部が光触媒性金属である粉末状の金属修飾アパタイトと、を含む抗菌防汚塗料により塗装されている。
【0014】
本発明の第1および第2の側面において、好ましくは、金属修飾アパタイトは、カルシウムハイドロキシアパタイトのCaの一部がTiで置換された化学構造を有する。
【0015】
好ましくは、金属修飾アパタイトにおけるTi/(Ti+Ca)の値は、0.03〜0.11(モル比)である。
【0016】
好ましくは、金属修飾アパタイトは、生成された後に580〜660℃の温度で焼結されたものである。
【0017】
好ましくは、抗菌防汚塗料における金属修飾アパタイトの含有率は、0.01〜30wt%である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る抗菌防汚塗料は、建築資材用途であって、塗料用樹脂組成物と、光触媒機能を有する金属修飾アパタイトの粉末とを含んでいる。金属修飾アパタイト粉末は、塗料用樹脂組成物中に分散している。
【0019】
本発明で用いられる塗料用樹脂組成物としては、例えば、ケイ素含有重合体、フッ素含有重合体、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、飽和ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ケトン樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、炭化水素樹脂などが挙げられる。
【0020】
本発明で用いられる金属修飾アパタイトは、吸着力に優れたいわゆるアパタイトと、光触媒機能を有する金属酸化物とを原子レベルで複合化したものである。
【0021】
金属修飾アパタイトにおいて、その基本骨格を構成するアパタイトは、次のような一般式によって表すことができる。
【0022】
【化1】

【0023】
式(1)におけるAは、Ca,Co,Ni,Cu,Al,La,Cr,Fe,Mgなどの金属原子を表す。Bは、P,Sなどの原子を表す。Xは、水酸基(−OH)やハロゲン原子(例えば、F,Cl)などである。より具体的には、アパタイトとしては、例えば、ハイドロキシアパタイト、フルオロアパタイト、およびクロロアパタイトの金属塩、並びに、リン酸三カルシウム、リン酸水素カルシウムなどが挙げられる。本発明の金属修飾アパタイトの基本骨格を構成するアパタイトは、好ましくは、上式におけるXが水酸基(−OH)であるハイドロキシアパタイトである。より好ましくは、上式におけるAがカルシウム(Ca)であって、Bがリン(P)であって、Xが水酸基(−OH)であるカルシウムハイドロキシアパタイト(CaHAP)、即ちCa10(PO46(OH)2である。
【0024】
本発明における金属修飾アパタイトとは、上掲の式(1)で表されるアパタイトの結晶構造に含まれる金属原子Aの一部が光触媒性金属原子に置換されているアパタイトとをいう。ここで光触媒性金属とは、酸化物の状態で光触媒中心として機能し得る金属をいう。光触媒性金属としては、例えば、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、スズ(Sn)、インジウム(In)、鉄(Fe)などが挙げられる。このような光触媒性金属原子が、式(1)で表されるアパタイトの結晶構造を構成する金属原子の一部としてアパタイト結晶構造中に取り込まれることによって、アパタイト結晶構造中に光触媒機能を発揮し得る光触媒性部分構造が形成される。光触媒性部分構造とは、より具体的には、式(1)における金属原子Aの一部に代わって取り込まれる光触媒性金属原子と、式(1)における酸素原子Oとからなり、光触媒機能を有する金属酸化物の構造に相当するものであると考えられる。このような光触媒性部分構造の形成により、アパタイト結晶体の物性として光触媒機能が発現すると考えられる。
【0025】
図1は、光触媒性金属としてTiを選択し、アパタイトとしてカルシウムハイドロキシアパタイトを選択してなるTi−CaHAPの表面化学構造のモデルを表す。
【0026】
図1に示すように、Ti−CaHAPにおいては、Tiが取り込まれることによって、アパタイト結晶構造中にTiを中心とした光触媒性部分構造が形成されている。当該部分構造以外の領域は、通常のCaHAPと同様の吸着力を有すると考えられる。このようなTi−CaHAPでは、光触媒性部分構造すなわち光触媒サイトと、分解対象物である所定の有機物(図示せず)に対する吸着力が高い吸着サイトとが、同一結晶面上において、原子レベルのスケールで散在している。したがって、Ti−CaHAPは、高い吸着力と光触媒機能とを併有して、抗菌作用および防汚作用を効率よく発揮することができる。
【0027】
具体的には、光照射条件下において、Ti−CaHAPにおける酸化チタン様の光触媒サイトでは、酸化チタンと同様に吸着水からヒドロキシラジカル(・OH)が生成しており、吸着サイトには有機物が吸着される。吸着した有機物は、表面拡散によりTi−CaHAP表面を移動して、光触媒サイトおよびその近傍にてヒドロキシラジカルによって酸化分解される。また、Ti−CaHAPの吸着サイトにより微生物が強力に吸着されると、当該微生物の増殖は阻止・抑制されるので、Ti−CaHAPが光照射条件下にないために光触媒サイトが光触媒として機能しない場合であっても、当該Ti−CaHAPは抗菌作用を有する。
【0028】
金属修飾アパタイトのアパタイト結晶構造に含まれる全金属に対する光触媒性金属の比率については、金属修飾アパタイトの吸着性および光触媒機能の両方を効果的に向上するという観点より、3〜11mol%の範囲が好ましい。すなわち、例えばTi−CaHAPでは、Ti/(Ti+Ca)の値が0.03〜0.11(モル比)であるのが好ましい。当該比率が11mol%を上回ると、結晶構造が乱れて触媒機能が低下する場合がある。当該存在率が3mol%を下回ると、過剰な吸着サイトに吸着した物質が、少ない触媒発現サイトでは充分に処理されない状態となる傾向にある。これは、触媒効率上、好ましくない。
【0029】
このような金属修飾アパタイトの粉末を含む本発明に係る抗菌防汚塗料により建築資材を塗装することにより、当該建築資材に対して優れた抗菌防汚性を付与することができる。
【0030】
本発明の抗菌防汚塗料に含まれている金属修飾アパタイト粉末は、上述のように、光照射条件下で光触媒機能に基づく分解作用を発揮する。そのため、本発明の抗菌防汚塗料により塗装が施されている建築資材に対してカビなどの微生物が付着した場合、光照射条件下では、細胞膜などが分解されることによって当該微生物は死滅させられる。或は、微生物の代謝物も分解される。これにより、カビなどの微生物の繁殖やその代謝物に基づく建築資材の汚染は、解消ないし充分に軽減される。すなわち、当該建築資材は抗菌防汚される。光照射条件下においてこのような抗菌防汚効果を享受することによって、当該建築資材の劣化が抑制される。
【0031】
また、本発明の抗菌防汚塗料に含まれている金属修飾アパタイト粉末は、上述のように、暗所においては吸着作用に基づく抗菌作用を発揮する。そのため、本発明の抗菌防汚塗料により塗装が施されている建築資材に対してカビなどの微生物が付着した場合、暗所においては、当該微生物の増殖は阻止・抑制される。これにより、カビなどの微生物の繁殖に基づく建築資材の汚染は、解消ないし充分に軽減される。すなわち、当該建築資材は抗菌される。暗所においてこのような抗菌効果を享受することによって、当該建築資材の劣化が抑制される。暗所において増殖が阻止・抑制されていた微生物は、当該建築資材が一旦光照射条件下に曝露されると、上述したように分解される。
【0032】
このように、本発明の抗菌防汚塗料は、明所のみならず暗所においても作用することができ、その結果、優れた抗菌防汚効果を奏する。したがって、壁材などの建築資材に対して本発明の抗菌防汚塗料を塗布することによって、当該建築資材の劣化を充分に抑制することができる。
【0033】
図2は、本発明に用いる金属修飾アパタイトの製造におけるフローチャートである。金属修飾アパタイトの製造においては、まず、原料混合工程S1において、金属修飾アパタイトを構成するための原料を混合する。例えば、単一の水溶液系に対して、上掲のアパタイト一般式におけるA,BOy,Xおよび光触媒性金属に相当する化学種を、各々、所定の量を添加し、混合する。金属修飾アパタイトとしてTi−CaHAPを形成する場合には、Ca供給剤としては、硝酸カルシウムなどを用いることができる。PO4供給剤としては、リン酸などを用いることができる。水酸基は、後述のpH調節時に使用されるアンモニア水、水酸化カルシウム水溶液、または水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液から供給される。光触媒性金属としてのTiの供給剤としては、塩化チタンや硫酸チタンを用いることができる。
【0034】
アパタイト結晶構造に含まれる全金属に対する光触媒性金属の比率は、上述のように、3〜11mol%の範囲が好ましい。したがって、原料混合工程S1では、形成される金属修飾アパタイトにおける光触媒性金属の比率が3〜11mol%となるように、各原料について供給量を決定し、供給すべき相対的な物質量を調整するのが好ましい。
【0035】
次に、pH調節工程S2において、上述のようにして用意された原料溶液について、目的とする金属修飾アパタイトの生成反応が開始するpHに調節する。このpHの調節には、アンモニア水溶液、水酸化カリウム水溶液または水酸化ナトリウム水溶液などを用いることができる。金属修飾アパタイトとして例えばTi−CaHAPを形成する場合には、原料溶液のpHは8〜10の範囲に調節するのが好ましい。
【0036】
次に、生成工程S3において、金属修飾アパタイトの生成を促進することによって、目的とする金属修飾アパタイトの結晶性を高める。具体的には、例えば、アパタイト成分および光触媒性金属の一部を共沈させた原料液を、100℃で6時間にわたってエージングすることによって、結晶性の高い金属修飾アパタイトが得られる。例えばTi−CaHAPを製造する場合には、本工程では、共沈に際してアパタイト結晶構造におけるCa位置にTiイオンが取り込まれ、Ti−CaHAPが成長する。
【0037】
次に、乾燥工程S4において、前の工程で生成した金属修飾アパタイトを乾燥する。具体的には、生成工程S3にて析出した金属修飾アパタイト粉末をろ過した後、ろ別した沈殿を純水で洗浄し、更に、乾燥する。乾燥温度は、100〜200℃が好ましい。本工程により、原料溶液における液体成分が、金属修飾アパタイトから除去される。
【0038】
このようにして製造された粉末状の金属修飾アパタイトは、必要に応じて焼結工程S5に付される。焼結工程S5では、乾燥工程S4とは別に、金属修飾アパタイトを再び加熱することによって、金属修飾アパタイトを焼結する。焼結温度は、580〜660℃の範囲が好ましい。例えばTi−CaHAPにあっては、本工程を経ることによって、光触媒活性は向上する。
【0039】
本発明の抗菌防汚塗料を調製する際には、このようにして製造された金属修飾アパタイト粉末を塗料用樹脂組成物に対して添加して、これらを混合する。抗菌防汚塗料における金属修飾アパタイトの含有率が0.01〜30wt%となるように添加する。0.01wt%未満であると、建築資材に要求される充分な抗菌効果を得ることができない傾向にある。30wt%を上回ると、塗料中において金属修飾アパタイトが過度に凝集する傾向にあり、金属修飾アパタイトを適切に分散させるのが困難となる。このような塗料により建築資材を塗装すると、建築資材の表面質感が損われる場合がある。
【0040】
添加に際しては、塗料用樹脂組成物に対して金属修飾アパタイト粉末を直接添加してもよいし、塗料用樹脂組成物に応じた水などの薄め液に対して金属修飾アパタイト粉末を分散させて、これを塗料用樹脂組成物と混合してもよい。
【0041】
塗料中における金属修飾アパタイトの分散態様を良好にするためには、例えば、塗料用樹脂組成物への添加の前に金属修飾アパタイト粉末に対して粉砕処理を施すのがよい。粉砕処理は、例えば、金属修飾アパタイト粉末を水などの分散媒に添加した後、分散媒中の金属修飾アパタイト粉末を、ボールミルを用いて粉砕することにより行う。分散媒としては、塗料用樹脂組成物に応じた薄め液を用いることができる。このような粉砕処理により、金属修飾アパタイト粉末の1次粒子どうしが凝集してなる比較的大きな2次粒子を適切に解くことができる。このような粉砕処理を経た金属修飾アパタイトを分散媒とともに塗料用樹脂組成物に添加した後にこれらを混合すると、塗料用樹脂組成物において、好適な2次粒子径を有する金属修飾アパタイトが適切に分散することができる。その結果、塗装後に形成される塗膜において、金属修飾アパタイト粉末凝集体により塗膜の質感が損われるのを、適切に回避することが可能となる。
【0042】
このようにして調製された抗菌防汚塗料は、例えばスプレーにより、外壁、内壁、柱などの建築資材に対して塗布することができる。建築資材表面に形成された塗膜は、上述のように光照射条件下のみならず暗所においても微生物などに対して作用して、抗菌防汚効果を発揮する。その結果、当該建築資材の汚染や劣化を適切に回避することが可能となる。
【0043】
次に、本発明の実施例について、比較例とともに説明する。
【0044】
〔実施例1〕
<金属修飾アパタイトの製造>
本実施例では、金属修飾アパタイトとしてTi−CaHAPを製造した。具体的には、脱炭酸ガス処理を施した純水を1L用意し、この純水に対して、窒素雰囲気下にて、硝酸カルシウム、硫酸チタン、リン酸を添加して混合した。硝酸カルシウムの濃度は0.09mol/Lとし、硫酸チタンの濃度は0.01mol/Lとし、リン酸の濃度は0.06mol/Lとした。次に、15mol/Lのアンモニア水を添加することによって、当該原料溶液のpHを9.0に調節した。次に、この原料溶液に対して、100℃で6時間、エージングを行った。このような操作を経ることによって、原料溶液にて金属修飾アパタイトの生成および析出が進行し、原料溶液が懸濁した。この懸濁液をろ過した後、分別した沈殿を5Lの純水で洗浄した。次に、70℃のドライオーブン中で12時間にわたって乾燥した。このようにして、平均1粒子径0.05μmのTi−CaHAPが得られた。このTi−CaHAPにおけるTiとCaの存在比率は、Ti:Ca=1:9であった。すなわち、金属修飾アパタイト結晶構造に含まれる全金属原子に対する触媒性金属原子であるTiの存在率は、10mol%であった。TiとCaの存在比率は、ICP−AES(プラズマ発光分析)による定量分析に基づいて同定した。
【0045】
<抗菌防汚塗料の作製>
上述のようにして得られたTi−CaHAP粉末10重量部と、住宅用シリコーン系外壁塗装剤(商品名:アレスシリコン、関西ペイント製)90重量部とを混合し、Ti−CaHAP粉末を塗装剤中に均一分散させた。このようにして、本実施例の抗菌防汚塗料を作製した。
【0046】
<抗菌試験>
上述のようにして製造された抗菌防汚塗料の抗菌防汚効果を調べた。具体的には、まず、抗菌防汚塗料を、50×50mmのガラス板上に均一にスピンコートした。次に、塗料を乾燥することによって、ガラス板上において抗菌防汚塗膜を形成した。次に、このようにして形成した抗菌防汚塗膜上に大腸菌の培養液を1滴滴下した後、滴下箇所に対して紫外線(<300nm)を照射しつつ、25℃にて放置した。紫外線照射の開始から所定時間が経過した複数の時点において、抗菌防汚塗膜上の大腸菌の生存個体数を測定し、当初の生存個体数に対する生存率を算出した。経過時間を横軸にとり、大腸菌の生存率を縦軸にとったプロットに基づくと、図3に示すグラフA1が得られた。
【0047】
〔実施例2〕
実施例1と同一の抗菌防汚塗料を用いて、実施例1と同様にして50×50mmのガラス板上に抗菌防汚塗膜を形成した。この抗菌防汚塗膜について、大腸菌に対して紫外線照射せずに暗所にて放置した以外は、実施例1と同様にして抗菌効果を調べた。経過時間を横軸にとり、大腸菌の生存率を縦軸にとったプロットに基づくと、図3に示すグラフA2が得られた。
【0048】
〔実施例3〕
実施例1と同一のTi−CaHAP粉末を、更に、650℃の温度で30分間焼結した。次に、このTi−CaHAP粉末を用いて、実施例1と同様にして抗菌防汚塗料を作製した。次に、この抗菌防汚塗料を用いて、実施例1と同様にして50×50mmのガラス板上に抗菌防汚塗膜を形成した。次に、この抗菌防汚塗膜について、実施例1と同様にして抗菌効果を調べた。経過時間を横軸にとり、大腸菌の生存率を縦軸にとったプロットに基づくと、図3に示すグラフA3が得られた。
【0049】
〔実施例4〕
実施例3と同一のTi−CaHAP粉末を用いて、実施例1と同様にして50×50mmのガラス板上に抗菌防汚塗膜を形成した。この抗菌防汚塗膜について、大腸菌に対して紫外線照射せずに暗所にて放置した以外は、実施例1と同様にして抗菌効果を調べた。経過時間を横軸にとり、大腸菌の生存率を縦軸にとったプロットに基づくと、図3に示すグラフA4が得られた。
【0050】
〔比較例1〕
光触媒酸化チタン粉末(商品名:ST21、石原産業製)10重量部と、住宅用シリコーン系外壁塗装剤(商品名:アレスシリコン、関西ペイント製)90重量部とを混合し、光触媒酸化チタン粉末を塗装剤中に均一分散させた。このようにして、本比較例の塗料を作製した。このようにして作製された塗料の抗菌効果を調べた。具体的には、まず、本比較例の塗料を、50×50mmのガラス板上に均一にスピンコートした。次に、塗料を乾燥することによって、ガラス板上において塗膜を形成した。次に、このようにして形成した塗膜上に大腸菌の培養液を1滴滴下した後、滴下箇所に対して紫外線(<300nm)を照射しつつ、25℃にて放置した。紫外線照射の開始から所定時間が経過した複数の時点において、塗膜上の大腸菌の生存個体数を測定し、当初の生存個体数に対する生存率を算出した。経過時間を横軸にとり、大腸菌の生存率を縦軸にとったプロットに基づくと、図4に示すグラフB1が得られた。
【0051】
〔比較例2〕
比較例1と同一の塗料を用いて、比較例1と同様にして50×50mmのガラス板上に塗膜を形成した。この塗膜について、大腸菌に対して紫外線照射せずに暗所にて放置した以外は、比較例1と同様にして抗菌効果を調べた。経過時間を横軸にとり、大腸菌の生存率を縦軸にとったプロットに基づくと、図4に示すグラフB2が得られた。
【0052】
〔抗菌性の評価〕
図3および図4に表れているように、放置開始から4時間経過した時点における大腸菌の生存率は、実施例1では30%、実施例2では50%、実施例3では10%、実施例4では45%、比較例1では0%、比較例2では90%であった。この結果から、本発明に係る抗菌防汚塗料を用いた実施例1〜4においては、光照射条件下におても暗所においても、良好な抗菌効果が得られることが理解できよう。これは、本発明に係る抗菌防汚塗料から形成された塗膜が、光照射条件下においては、高い吸着力と光触媒機能の分解作用との相乗効果に基づく抗菌作用を発揮することができ、且つ、暗所においては高い吸着力に基づく抗菌作用を発揮することができるためである。また、焼結工程を経た金属修飾アパタイトを用いた実施例3および4においては、焼結工程を経ていない金属修飾アパタイトを用いた実施例1および2よりも、更に良好な抗菌効果が得られることが理解できよう。これは、焼結によって、金属修飾アパタイトの結晶性と光触媒活性が向上し、それに伴って抗菌作用が向上するためであると考えられる。
【0053】
一方、金属修飾アパタイトに代えて酸化チタンを含む塗料を用いた比較例1および2においては、光(紫外線)が照射されていない条件下においては殆ど抗菌効果が得られないことが理解できよう。これは、酸化チタンが、通常の光エネルギーを駆動力とする光触媒としてのみ機能し、暗所においては機能できないためである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、本発明で用いる金属修飾アパタイトの表面化学構造のモデルを表す。
【図2】図2は、本発明で用いる金属修飾アパタイトの製造方法のフローチャートである。
【図3】図3は、実施例1から実施例4における抗菌効果を表すグラフである。
【図4】図4は、比較例1および比較例2における抗菌効果を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料用樹脂組成物と、
アパタイト結晶構造に含まれる金属原子の一部が光触媒性金属である粉末状の金属修飾アパタイトと、を含む、抗菌塗料。
【請求項2】
前記金属修飾アパタイトは、カルシウムハイドロキシアパタイトのCaの一部がTiで置換された化学構造を有する、請求項1に記載の抗菌塗料。
【請求項3】
前記金属修飾アパタイトにおけるTi/(Ti+Ca)の値は、0.03〜0.11(モル比)である、請求項2に記載の抗菌塗料。
【請求項4】
前記金属修飾アパタイトは、生成された後に580〜660℃の温度で焼結されたものである、請求項1から3のいずれか一つに記載の抗菌塗料。
【請求項5】
前記金属修飾アパタイトの含有率は、0.01〜30wt%である、請求項1から4のいずれか一つに記載の抗菌塗料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−291261(P2008−291261A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155486(P2008−155486)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【分割の表示】特願2004−510338(P2004−510338)の分割
【原出願日】平成14年6月4日(2002.6.4)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】