説明

抗菌性ゼオライト粒子及び抗菌性樹脂組成物

【課題】優れた耐変色性を有する抗菌性ゼオライト粒子を提供する。
【解決手段】ゼオライト中のイオン交換可能なイオンの一部又は全部が銀イオン及び亜鉛イオンで置換されてなる抗菌性ゼオライト粒子において、該粒子中の銀イオン濃度(A)と亜鉛イオン濃度(B)との比(A/B)を該粒子の深さ方向に増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性ゼオライト粒子及び該粒子を含む抗菌性樹脂組成物に関する。更に詳しくは、本発明は耐変色性を有する抗菌性ゼオライト粒子及び該粒子を含有する抗菌性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライト中のイオン交換可能な金属イオンを銀、銅、亜鉛等の抗菌性金属イオンで置換してなる抗菌性ゼオライト粒子及びこれを含む抗菌性組成物は周知である。その一方、該抗菌性ゼオライト粒子を樹脂へ添加してなる抗菌性樹脂組成物は、経時的に変色することが知られている。経時的変色という従来の抗菌性ゼオライト粒子が持つ問題点を解消するものとして、抗菌性ゼオライト粒子へアンモニウムイオンを導入する技術が開発されている(特許文献1)。
特許文献1記載の抗菌性ゼオライト粒子は、確かに水中あるいは空気中に放置した際の抗菌力の永続性に優れ、かつ樹脂への練り込みの際にも変質することがない等、優れた抗菌剤である。しかし、該抗菌性ゼオライト粒子は、一般的な使用条件下では極端に変色することはないものの、過酷な条件下、例えば、強力な紫外線等に長期間曝露された場合には、経時的に変色するという問題点があった。この変色によって抗菌性ゼオライトの抗菌性自体が失われることはないものの、該抗菌性ゼオライトを添加した樹脂製品が変色することがあった。したがって、ゼオライトの変色は、添加される樹脂製品の種類によってはその商品価値を著しく低下せしめることがあった。
【0003】
【特許文献1】特開昭63−265809号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、耐変色性を有し、それゆえ樹脂等へ添加した場合にも当該樹脂の経時的変色を起こしにくい抗菌性ゼオライト粒子を提供することにある。
本発明の他の目的は、該抗菌性ゼオライト粒子を含有する抗菌性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、ゼオライト中のイオン交換可能なイオンの一部又は全部が銀イオン及び亜鉛イオンで置換されてなる抗菌性ゼオライト粒子において、該粒子中の銀イオン濃度(A)と亜鉛イオン濃度(B)との比(A/B)を該粒子の深さ方向に増加させると、優れた耐変色性が得られることを見出した。本発明は、この知見に基づいてなされたものである。
すなわち、本発明は、
(1)ゼオライト中のイオン交換可能なイオンの一部又は全部が銀イオン及び亜鉛イオンで置換されてなる抗菌性ゼオライト粒子であって、該粒子中の銀イオン濃度(A)と亜鉛イオン濃度(B)との比(A/B)が該粒子の深さ方向に増加していることを特徴とする抗菌性ゼオライト粒子;
(2)ゼオライト中のイオン交換可能なイオンの一部又は全部が銀イオン及び亜鉛イオンで置換されてなる抗菌性ゼオライト粒子であって、該粒子表面からの深さが0〜1nmの領域における銀イオンと亜鉛イオンとの濃度比(X)と、該粒子表面からの深さが5〜10nmの領域における銀イオンと亜鉛イオンとの濃度比(Y)との比(X/Y)が1未満であることを特徴とする抗菌性ゼオライト粒子;
(3)前記抗菌性ゼオライト粒子表面からの深さが0〜1nmの領域における銀イオンと亜鉛イオンとの濃度比(X)と、該粒子表面からの深さが5〜10nmの領域における銀イオンと亜鉛イオンとの濃度比(Y)との比(X/Y)が0.6〜0.4である、前記(2)に記載の抗菌性ゼオライト粒子;
(4)前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の抗菌性ゼオライト粒子と樹脂とを含む、抗菌性樹脂組成物;及び
(5)前記抗菌性ゼオライト粒子を0.05〜80質量%含有する、前記(4)記載の抗菌性樹脂組成物
である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の抗菌性ゼオライト粒子は、後述する実施例で示されるように、優れた耐変色性を有している。したがって、本発明は、抗菌性が要求されるあらゆる製品(抗菌加工製品)に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、ゼオライト中のイオン交換可能なイオンの一部又は全部が銀イオン及び亜鉛イオンで置換されてなる抗菌性ゼオライト粒子であって、該粒子中の銀イオン濃度(A)と亜鉛イオン濃度(B)との比(A/B)が該粒子の深さ方向に増加していることを特徴とする粒子である。
【0008】
本発明の抗菌性ゼオライト粒子を構成する「ゼオライト」としては、天然ゼオライト及び合成ゼオライトのいずれも用いることができる。
ゼオライトは、一般に三次元骨格構造を有するアルミノシリケートであり、一般式としてxM2/nO・Al23・ySiO2・zH2Oで表示される。ここで、Mはイオン交換可能なn価のイオンを表し、通常は1又は2価の金属のイオンである。xは金属酸化物のモル数、yはシリカのモル数、zは結晶水のモル数を表示している。
ゼオライトの具体例としては、例えば、A型ゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、T型ゼオライト、高シリカゼオライト、ソーダライト、モルデナイト、アナルサイム、クリノプチロライト、チャバサイト、エリオナイト等を挙げることができる。但し、これらに限定されるものではない。
【0009】
本発明の抗菌性ゼオライト粒子の粒径は特に制限されるものではないが、表面積増加による抗菌効果の増加や樹脂への配合容易性等の観点から、平均粒径で0.1μm〜20μm、好ましくは0.4μm〜9.0μm、特に好ましくは0.7μm〜3.5μmである。平均粒径はレーザー式粒度分布測定法にしたがい測定することができる。
【0010】
これら例示ゼオライトのイオン交換容量は、典型的にはA型ゼオライトが7meq/g、X型ゼオライトが6.4meq/g、Y型ゼオライトが5meq/g、T型ゼオライトが3.4meq/g、ソーダライトが11.5meq/g、モルデナイトが2.6meq/g、アナルサイムが5meq/g、クリノプチロライトが2.6meq/g、チャバサイトが5meq/g、エリオナイト3.8meq/gであり、いずれも銀イオン及び亜鉛イオンによりイオン交換するのに充分な容量を有している。
【0011】
ゼオライト中のイオン交換可能なイオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、鉄イオン等が挙げられる。
本発明では、ゼオライト中のイオン交換可能なイオンの一部又は全部を、抗菌性金属イオンである銀イオン及び亜鉛イオンで置換(イオン交換)することによって、ゼオライトに抗菌性を付与する。
抗菌性ゼオライト粒子中の銀イオン濃度は、少なくとも0.02質量%以上であればよいが、抗菌性の点から0.1〜15質量%であることが好ましい。尚、本明細書において、ゼオライト粒子中のイオン濃度に関して使用される単位「%」は、110℃乾燥基準の質量%である。
抗菌性ゼオライト粒子中の亜鉛イオン濃度は、少なくとも0.05質量%以上であればよいが、抗菌性の点から0.1〜8質量%であることが好ましい。
【0012】
本発明の抗菌性ゼオライト粒子では、該粒子中の銀イオン濃度(A)と亜鉛イオン濃度(B)との比(A/B)(以下、「銀/亜鉛イオン濃度比」ともいう)が該粒子の深さ方向に増加している。これにより、より優れた耐変色性を獲得することができる。尚、「粒子の深さ方向」とは、粒子表面から粒子内部に向かう方向をいう。
銀/亜鉛イオン濃度比の増加は、抗菌性ゼオライト粒子において表面からの深さを異にする2つの領域を設定し、各領域の銀/亜鉛イオン濃度比を測定して、比較することにより評価することができる。例えば、抗菌性ゼオライト粒子の表面からの深さ0〜1nmの領域と深さ5〜10nmの領域とを設定し、各領域における銀イオン及び亜鉛イオンの濃度を測定し、各領域の銀/亜鉛イオン濃度比を計算し、得られた濃度比を比較することにより評価することができる。
この場合、粒子表面からの深さが0〜1nmの領域における銀イオンと亜鉛イオンとの濃度比(X)と、該粒子表面からの深さが5〜10nmの領域における銀イオンと亜鉛イオンとの濃度比(Y)との比(X/Y)が1未満であればよいが、好ましくは0.6〜0.2、特に好ましくは0.6〜0.4である。
粒子表面からの深さが0〜1nmの領域における銀イオンと亜鉛イオンとの濃度比(X)と、該粒子表面からの深さが5〜10nmの領域における銀イオンと亜鉛イオンとの濃度比(Y)との比(X/Y)が、0.6〜0.3であると、特に優れた耐変色性を獲得することができる。
【0013】
抗菌性ゼオライト粒子の特定領域(粒子表面からの深さが0〜1nmの領域及び粒子表面からの深さが5〜10nmの領域)のイオン濃度の測定は、抗菌性ゼオライト粒子を酸処理し当該特定領域を溶解して、得られた液相中の各イオン濃度を測定することにより行うことができる。この測定方法は、ゼオライトを構成するアルミ二ウム成分が酸に対して比較的弱いというゼオライトの性質により、酸処理によりゼオライト中のイオン交換されたイオンが液相中へ溶解するという現象を利用している。
測定手順の具体例を以下に示す。
【0014】
抗菌性ゼオライト粒子の表面からの深さが0〜1nmの領域における銀イオン及び亜鉛イオンの濃度は下記の手順に従い測定することができる。
(1)抗菌性ゼオライト粒子(平均粒径2.5μm)の粉体5gを、0.0001N硝酸水溶液50mlへ投入して20℃で1時間攪拌して、粒子表面からの深さが0〜1nmの領域を溶解する。
(2)得られた固液混合物をメンブランフィルター(孔径:0.05μm)でろ過し、更にメンブランフィルターを水洗して、液相(ろ液+洗浄液)を得る。
(3)得られた液相中の銀イオン濃度及び亜鉛イオン濃度をそれぞれ定量する。
【0015】
抗菌性ゼオライト粒子の表面からの深さが5〜10nmの領域における銀イオン及び亜鉛イオンの濃度は下記の手順に従い測定することができる。
(1)抗菌性ゼオライト粒子(平均粒径2.5μm)の粉体5gを、0.0003N硝酸水溶液50mlへ投入して20℃で4時間攪拌して、粒子表面からの深さが0〜5nmの領域を溶解する。
(2)得られた固液混合物をメンブランフィルター(孔径:0.05μm)でろ過し、更にメンブランフィルターを水洗して、粒子表面からの深さが0〜5nmの領域が溶解した粒子を得る。
(3)(2)で得られた粒子を、0.001N硝酸水溶液50mlへ投入して20℃で1.5時間攪拌する。
(4)得られた固液混合物をメンブランフィルター(孔径:0.05μm)でろ過し、更にメンブランフィルターを水洗して、液相(ろ液+洗浄液)を得る。
(5)得られた液相中の銀イオン濃度及び亜鉛イオン濃度をそれぞれ定量する。
上記の手順は、平均粒径2.5μmの粒子だけでなく、他の粒径(例えば、平均粒径0.1μm〜20μm)を有する粒子に対しても適用できる。
【0016】
尚、液相中の銀イオン濃度の定量は、例えば原子吸光法にしたがい行うことができる。液相中の亜鉛イオン濃度の定量は、例えば原子吸光法にしたがい行うことができる。
【0017】
上記の測定方法により、抗菌性ゼオライト粒子の表面からの深さが0〜1nmの領域又は深さが5〜10nmの領域における各イオン濃度を正確に測定できることを、後述の参考例に示す。
【0018】
銀/亜鉛イオン濃度比が粒子の深さ方向に増加している抗菌性ゼオライト粒子は、ゼオライト中のイオン交換可能なイオンを置換する際に、以下の3つの方法を用いることにより製造することができる。但し、製造方法はこれらの方法に限定されるものではない。
1.銀イオン及び亜鉛イオンによる置換を、銀イオンと亜鉛イオンとの濃度比を経時的に変化させた反応溶液を用いて行う方法。
2.銀イオン及び亜鉛イオンによる置換を、最初に銀イオン存在下で置換を行い、次いで、銀イオン及び亜鉛イオンの共存下で置換を行うことにより行う方法。
3.銀イオン及び亜鉛イオンによる置換を、銀イオン含有反応溶液による置換と亜鉛イオン含有反応溶液による置換との二段階で行う方法。
以下、各方法について説明する。
【0019】
第一の方法では、銀イオン及び亜鉛イオンによる置換を、銀イオンと亜鉛イオンとの濃度比を経時的に変化させた溶液を用いて行う。
例えば、後述の実施例1に記載したように、所定の銀イオン濃度及び亜鉛イオン濃度を有する反応溶液を用いて置換反応を開始し、その後、反応溶液中の亜鉛イオン濃度のみを経時的に上昇させながら置換反応を続けることにより第一の方法を実施することができる。
ゼオライト粒子と反応溶液との接触は、10〜70℃、好ましくは30〜60℃で3〜24時間、好ましくは10〜24時間バッチ式又は連続式によって行うことができる。
反応溶液のpHは3〜10、好ましくは5〜8に調整することが適当である。該pH調整により、銀の酸化物等のゼオライト表面又は細孔内への析出を防止できるので好ましい。
各イオンは、通常、塩の形態で反応溶液へ供給することができる。銀イオンを反応溶液へ供給するために、例えば、硝酸銀、硫酸銀、過塩素酸銀、酢酸銀、ジアンミン銀硝酸塩、ジアンミン銀硫酸塩等を用いることができる。亜鉛イオンを反応溶液へ供給するために、例えば硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、過塩素酸亜鉛、酢酸亜鉛、チオアイアン酸亜鉛等を用いることができる。
【0020】
第二の方法では、最初に銀イオン存在下で置換を行い、次いで、銀イオン及び亜鉛イオンの共存下で置換を行う。この際、両置換反応の条件(時間及び温度)は同一でもよく又は異なっていてもよい。
最初に行う銀イオン存在したでの置換は、10〜95℃、好ましくは50〜85℃で、3〜24時間、好ましくは8〜16時間で行うことができる。
銀イオン及び亜鉛イオンの共存下での置換は、10〜95℃、好ましくは35〜65℃で、3〜24時間、好ましくは3〜10時間で行うことができる。
例えば、後述の実施例2に記載したように、(1)最初にゼオライト粒子スラリーと銀イオン含有溶液(但し、亜鉛イオンは含まない)とを混合して、80℃で10時間反応させて銀イオンによる置換(イオン交換)を行い、(2)次いで、得られたスラリー液へ亜鉛イオン含有溶液を追加して、銀イオン及び亜鉛イオンの共存下、50℃で6時間反応させて銀イオン及び亜鉛イオンによる置換を行うことにより第二の方法を実施することができる。
尚、各イオンの反応溶液への提供には、第一の方法の説明で例示した塩を用いることができる。
【0021】
第三の方法では、銀イオン及び亜鉛イオンによる置換を、銀イオン含有反応溶液による置換と亜鉛イオン含有反応溶液による置換との二段階で行う。
例えば、後述の実施例3に記載したように、銀イオンを含む第一反応溶液と、亜鉛イオンを含む第二反応溶液とを個別に調製し、最初に第一反応溶液を用いて銀イオン交換を行い、次いで第二反応溶液を用いて亜鉛イオン交換を行うことにより第三の方法を実施することができる。
ゼオライト粒子と各反応溶液との接触は、10〜70℃、好ましくは30〜60℃で、3〜24時間、好ましくは10〜24時間バッチ式又は連続式によって行うことができる。
各反応溶液のpHは3〜10、好ましくは5〜7に調整することが適当である。該pH調整により、銀の酸化物等のゼオライト表面又は細孔内への析出を防止できるので好ましい。
尚、各イオンの反応溶液への提供には、第一の方法の説明で例示した塩を用いることができる。
【0022】
イオン交換が終了したゼオライトは、充分に水洗した後、乾燥する。乾燥は、常圧で105〜115℃、又は133Pa(1torr)〜4000Pa(30torr)の減圧下70〜90℃で行うことが好ましい。
【0023】
抗菌性を高めるために、銀イオン及び亜鉛イオンに加えて、他の抗菌性金属イオンをゼオライト粒子へ導入することもできる。具体例としては、銅イオン、水銀イオン、鉛イオン、錫イオン、ビスマスイオン、カドミウムイオン、クロムイオン及びタリウムイオン等が挙げられる。
これらのイオンは、通常、塩の形態で反応溶液へ供給することができる。銅イオンを反応溶液へ供給するために、例えば、硝酸銅、硫酸銅、過塩素酸銅、酢酸銅、テトラシアノ銅酸カリウム等を用いることができる。水銀イオンを反応溶液へ供給するために、例えば、硝酸水銀、過塩素酸水銀、酢酸水銀等を用いることができる。鉛イオンを反応溶液へ供給するために、例えば、硫酸鉛、硝酸鉛等を用いることができる。錫イオンを反応溶液へ供給するために、例えば、硫酸錫等を用いることができる。ビスマスイオンを反応溶液へ供給するために、例えば、塩化ビスマス、ヨウ化ビスマス等を用いることができる。カドミウムイオンを反応溶液へ供給するために、例えば、過塩素酸カドミウム、硫酸カドミウム、硝酸カドミウム、酢酸カドミウム等を用いることができる。クロムイオンを反応溶液へ供給するために、例えば、過塩素酸クロム、硫酸クロム、硫酸アンモニウムクロム、硝酸クロム等を用いることができる。タリウムイオンを反応溶液へ供給するために、例えば、過塩素酸タリウム、硫酸タリウム、硝酸タリウム、酢酸タリウム等を用いることができる。
なお、錫、ビスマス等の適当な水溶液塩の種類が少ないイオンによるイオン交換では、アルコールやアセトン等の有機溶媒溶液を用いることにより、難溶性の塩基性塩類を析出させることなしに行うことができる。
【0024】
ゼオライト粒子の耐変色性をより高めるために、銀イオン及び亜鉛イオンに加えて、アンモニウムイオン、アミンイオン及び水素イオン等をゼオライト粒子へ導入することもできる。
これらのイオンは、通常、塩の形態で反応溶液へ供給することができる。アンモニウムイオンを反応溶液へ供給するために、例えば、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、過塩素酸アンモニウム、チオ硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等を用いることができる。水素イオンを反応溶液へ供給するために、例えば、硝酸、硫酸、酢酸、過塩素酸、リン酸を用いることができる。また、水素イオンは、アンモニウムイオンを熱加熱分解することによっても提供することができる。
ゼオライト粒子中のアンモニウムイオン濃度は、0.10〜2.0質量%、水素イオンは0.10〜2.0質量%とすることが、抗菌性ゼオライト粒子の耐変色性を高めるという観点から適当である。
【0025】
この様にして得られた本発明の抗菌性ゼオライト粒子は、種々の一般細菌、真菌、酵母菌に対して抗菌性(当該菌の発生及び増殖の防止及び抑制、並びに、死滅を含む)を有する。尚、本発明における抗菌性には、カビや藻類に対する発生及び増殖の防止及び抑制効果並びに死滅効果(防カビ性及び防藻性)も含まれる。
抗菌性は、種々の一般細菌、真菌、酵母菌に対する最小発育阻止濃度(MIC)を測定することによって評価できる。MICは、抗菌性ゼオライトの試料を任意濃度に添加した平板培地へ接種用菌液を塗抹培養した後、菌の発育が阻止される最低濃度をもってその値とする。
【0026】
本発明の抗菌性ゼオライト粒子は、樹脂へ配合することにより、抗菌性樹脂組成物とすることができる。樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリウレタン、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、レーヨン、キュプラ、アセテート、各種エラストマー、天然及び合成ゴム等の熱可塑性又は熱硬化性樹脂を挙げることができる。
本発明の抗菌性樹脂組成物は、前記抗菌性ゼオライト粒子を上記樹脂に直接練り込み又は表面にコーティングすることにより得ることができる。上記樹脂に抗菌・防カビ・防藻機能付加するという観点から、抗菌性樹脂組成物の総質量あたり0.05〜80質量%、好ましくは0.1〜80質量%の抗菌性ゼオライトを含有させることが適当である。なお、抗菌性樹脂組成物のMICは前記と同様に行うことができる。
更に、樹脂の変色を防止するという観点からは抗菌性ゼオライトの含有率を0.1〜3%とすることが好ましい。
【0027】
更に、本発明の抗菌性ゼオライト粒子は、樹脂以外の繊維物質にも配合することもできる。繊維物質としては、例えば、紙等が挙げられる。
【0028】
本発明の前記抗菌性ゼオライト粒子及び抗菌性樹脂組成物は、種々の分野で利用することができる。特に、本発明の抗菌性樹脂組成物は経時的変色を起こしにくいので、初期の外観色目が淡い(白〜パステル)製品へ好適に用いることができる。
水系分野では浄水器、クーリングタワー水、各種冷却水の抗菌防藻剤として利用可能であり、また切花延命剤としても利用可能である。
塗料分野では油性塗料、ラッカー、ワニス、アルキル樹脂系、アミノアルキド樹脂系、ビニル樹脂系、アクリル樹脂系、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系、水エマルション樹脂系、粉体塗料系、塩化ゴム系、フェノール樹脂系などの各種塗料に直接混合し、または塗膜表面にコーティングして、塗膜に表面に抗菌・防カビ・防藻機能を付加することが可能である。
建築分野では目地材、壁材、タイルなどに混合し、又はそれらの表面にコーティングして抗菌・防カビ・防藻機能を付加することが可能である。
製紙分野ではぬれティッシュ、紙包装材、段ボール、敷き紙、鮮度保持紙に抄き込み、またはコーティングすることによってこれらの紙に抗菌・防カビ機能を付加することが可能であり、また特にスライムコントロール剤としても利用可能である。
【0029】
本発明の抗菌性ゼオライト粒子及び抗菌性樹脂組成物は、上記の諸分野に限らず、一般細菌、真菌、酵母菌、藻などの微生物の発生、増殖の防止・抑制・死滅を必要とするあらゆる分野で利用可能である。
【0030】
次に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
参考例
実施例に先立ち、酸処理により抗菌性ゼオライト粒子の特定の深さ領域(粒子表面からの深さが0〜1nmの領域及び粒子表面からの深さが5〜10nmの領域)のイオン濃度を測定できることを検証した。
測定サンプルとして、A型ゼオライトのイオン交換可能なイオンの全てを銀で置換してなるゼオライト粒子(すなわち、当該粒子中に銀イオンが均一に存在している)(銀イオン濃度:47.5質量%;比重:2.1g/cm3;形状:立方体;平均粒径(立方体の一辺の長さ):1.5μm)(以下、「銀ゼオライト粒子」という)を用いた。
検証は、酸処理により測定された銀イオン量(測定値)と化学理論に基づき計算した銀イオン量(理論値)との比較によって行った。
【0032】
1.酸処理による銀ゼオライト粒子中の銀イオン量の測定
(1)粒子表面からの深さが0〜1nmの領域
銀ゼオライト粒子の粉体5gを、0.0001N硝酸水溶液50mlへ投入して20℃で1時間攪拌(攪拌速度:150rpm)した。得られた固液混合物をメンブランフィルター(孔径:0.05μm)でろ過し、更にメンブランフィルターを水洗して、液相(ろ液+洗浄液)を得た。得られた液相中の銀イオン濃度を原子吸光法により測定した。測定値は9.34mgであった。
【0033】
(2)粒子表面からの深さが5〜10nmの領域
銀ゼオライト粒子の粉体5gを、0.0003N硝酸水溶液50mlへ投入して20℃で4時間攪拌(攪拌速度:150rpm)した。得られた固液混合物をメンブランフィルター(孔径:0.05μm)でろ過し、更にメンブランフィルターを水洗した。メンブランフィルター上に残った粒子の全量を、0.001N硝酸水溶液50mlへ投入して20℃で1.5時間攪拌(攪拌速度:150rpm)した。得られた固液混合物をメンブランフィルター(孔径:0.05μm)でろ過し、更にメンブランフィルターを水洗して、液相(ろ液+洗浄液)を得た。得られた液相中の銀イオン濃度を原子吸光法により測定した。測定値は46.7mgであった。
【0034】
2.化学理論に基づく銀ゼオライト粒子中の銀イオン量の計算
銀ゼオライト粒子中には銀イオンが均一に存在している。したがって、銀ゼオライト粒子表面から所定の深さの領域に存在する銀イオンの量は、当該粒子の「全容積」と「所定深さ領域の容積」との比に基づいて計算できる。
銀ゼオライト粒子の全容積と当該粒子表面から深さ0〜1nmの領域の容積との比は0.4%であるので、この領域に存在する銀イオンの量は9.5mgとなる。
銀ゼオライト粒子の全容積と当該粒子表面から深さ5〜10nmの領域の容積との比は2.0%であるので、この領域に存在する銀イオンの量は47.5mgとなる。
【0035】
酸処理により測定された銀イオン量(測定値)と化学理論に基づき計算した銀イオン量(理論値)との比較結果を以下に示す。

【0036】
上記の結果は、酸処理により測定された銀イオン量と化学理論に基づき計算した銀イオン量(理論値)とがほぼ一致したことを示している。この結果より、酸処理に基づいて抗菌性ゼオライト粒子の特定の深さ領域(粒子表面からの深さが0〜1nmの領域及び粒子表面からの深さが5〜10nmの領域)のイオン濃度を測定できると判断した。
【0037】
実施例及び比較例で使用した材料は下記の通りである。
ゼオライトとして、A型ゼオライト(Na2O・Al23・1.9SiO2X2O、平均粒径1.5μm、イオン交換容量7meq/g)、X型ゼオライト(Na2O・Al23・2.3SiO2X2O、平均粒径2.5μm、イオン交換容量6.4meq/g)及びY型ゼオライト(Na2O・Al23・4SiO2X2O、平均粒径0.7μm、イオン交換容量5meq/g)を用いた。
銀イオンを反応溶液へ供給するために、硝酸銀(AgNO3)を用いた。
亜鉛イオンを反応溶液へ供給するために、硝酸亜鉛(Zn(NO3)2)を用いた。
また、ゼオライト粒子の耐変色性をより高めるために、アンモニウムイオンを用いた。アンモニウムイオンを反応溶液へ供給するために、硝酸アンモニウム(NH4NO3)を用いた。
【0038】
実施例及び比較例の抗菌性ゼオライト粒子の表面からの深さが0〜1nmの領域における銀イオン及び亜鉛イオンの濃度は下記の手順に従い測定した。
(1)抗菌性ゼオライト粒子の粉体5gを、0.0001N硝酸水溶液50mlへ投入して20℃で1時間攪拌して、粒子表面からの深さが0〜1nmの領域を溶解する。
(2)得られた固液混合物をメンブランフィルター(孔径:0.05μm)でろ過し、更にメンブランフィルターを水洗して、液相(ろ液+洗浄液)を得る。
(3)得られた液相中の銀イオン濃度及び亜鉛イオン濃度をそれぞれ定量する。
液体サンプル中の銀イオン及び亜鉛イオンの濃度の定量は、原子吸光法に従って行った。
【0039】
実施例及び比較例の抗菌性ゼオライト粒子の表面からの深さが5〜10nmの領域における銀イオン及び亜鉛イオンの濃度は下記の手順に従い測定した。
(1)抗菌性ゼオライト粒子の粉体5gを、0.0003N硝酸水溶液50mlへ投入して20℃で4時間攪拌して、粒子表面からの深さが0〜5nmの領域を溶解する。
(2)得られた固液混合物をメンブランフィルター(孔径:0.05μm)でろ過し、更にメンブランフィルターを水洗して、粒子表面からの深さが0〜5nmの領域が溶解した粒子を得る。
(3)(2)で得られた粒子を、0.001N硝酸水溶液50mlへ投入して20℃で1.5時間攪拌する。
(4)得られた固液混合物をメンブランフィルター(孔径:0.05μm)でろ過し、更にメンブランフィルターを水洗して、液相(ろ液+洗浄液)を得る。
(5)得られた液相中の銀イオン濃度及び亜鉛イオン濃度をそれぞれ定量する。
液体サンプル中の銀イオン及び亜鉛イオンの濃度の定量は、原子吸光法に従って行った。
【0040】
実施例1
実施例1では、銀イオンと亜鉛イオンとの濃度比を経時的に変化させた反応溶液を用いて5種類の抗菌性ゼオライト粒子サンプル(サンプルNo.1〜5)を調製した。
【0041】
サンプルNo.1の調製
(1)110℃で加熱乾燥したA型ゼオライト粒子1kgに水を加えて、1.3Lのスラリーとし、その後攪拌して脱気し、更に適量の0.5N硝酸溶液と水を加えてpHを5〜7に調整したスラリー1.8Lを得た。
(2)(1)のスラリーへ、1.5mol/Lの硝酸アンモニウム及び0.01mol/Lの硝酸銀を含む溶液(30℃)1.5Lを添加してスラリー液を得、これを16時間攪拌した。
(3)(2)のスラリー液へ、0.15mol/Lの硝酸亜鉛溶液1.5L(30℃)を添加して全容4.8Lのスラリー液(反応溶液)を得た。反応溶液のpHは7.3であった。
(4)(3)の反応溶液を、30℃、攪拌速度150rpmで16時間攪拌して、イオン交換平衡状態下でイオン交換反応を行った。この間、反応溶液へ硝酸亜鉛を溶解させることにより、反応溶液中の硝酸亜鉛濃度を上昇させた。
(5)(4)の反応溶液からろ過によりゼオライト相を分離し、次いで15〜60℃の水で過剰の銀イオン、亜鉛イオンを除去した。
(6)(5)のゼオライト相を110℃で加熱乾燥して、サンプルNo.1の抗菌性ゼオライト粒子を得た。
【0042】
サンプルNo.2の調製
(1)110℃で加熱乾燥したA型ゼオライト粒子1kgに水を加えて、1.3Lのスラリーとし、その後攪拌して脱気し、更に適量の0.5N硝酸溶液と水を加えてpHを5〜7に調整したスラリー1.8Lを得た。
(2)(1)のスラリーへ、1.0mol/Lの硝酸アンモニウム及び0.08mol/Lの硝酸銀を含む溶液(30℃)1.5Lを添加してスラリー液を得、これを16時間攪拌した。
(3)(2)のスラリー液へ、0.10mol/Lの硝酸亜鉛溶液1.5L(30℃)を添加して全容4.8Lのスラリー液(反応溶液)を得た。反応溶液のpHは7.1であった。
(4)(3)の反応溶液を、30℃、攪拌速度150rpmで16時間攪拌して、イオン交換平衡状態下でイオン交換反応を行った。この間、反応溶液へ硝酸亜鉛を溶解させることにより、反応溶液中の硝酸亜鉛濃度を上昇させた。
(5)(4)の反応溶液からろ過によりゼオライト相を分離し、次いで15〜60℃の水で過剰の銀イオン、亜鉛イオンを除去した。
(6)(5)のゼオライト相を110℃で加熱乾燥して、サンプルNo.2の抗菌性ゼオライト粒子を得た。
【0043】
サンプルNo.3の調製
(1)110℃で加熱乾燥したA型ゼオライト粒子1kgに水を加えて、1.3Lのスラリーとし、その後攪拌して脱気し、更に適量の0.5N硝酸溶液と水を加えてpHを5〜7に調整したスラリー1.8Lを得た。
(2)(1)のスラリーへ、0.15mol/Lの硝酸銀を含む溶液(30℃)1.5Lを添加してスラリー液を得、これを16時間攪拌した。
(3)(2)のスラリー液へ、0.15mol/Lの硝酸亜鉛溶液1.5L(30℃)を添加して全容4.8Lのスラリー液(反応溶液)を得た。反応溶液のpHは7.3であった。
(4)(3)の反応溶液を、30℃、攪拌速度150rpmで16時間攪拌して、イオン交換平衡状態下でイオン交換反応を行った。この間、反応溶液へ硝酸亜鉛を溶解させることにより、反応溶液中の硝酸亜鉛濃度を上昇させた。
(5)(4)の反応溶液からろ過によりゼオライト相を分離し、次いで15〜60℃の水で過剰の銀イオン、亜鉛イオンを除去した。
(6)(5)のゼオライト相を110℃で加熱乾燥して、サンプルNo.3の抗菌性ゼオライト粒子を得た。
【0044】
サンプルNo.4の調製
(1)110℃で加熱乾燥したX型ゼオライト粒子1kgに水を加えて、1.3Lのスラリーとし、その後攪拌して脱気し、更に適量の0.5N硝酸溶液と水を加えてpHを5〜7に調整したスラリー1.8Lを得た。
(2)(1)のスラリーへ、1.2mol/Lの硝酸アンモニウム及び0.10mol/Lの硝酸銀を含む溶液(30℃)1.5Lを添加してスラリー液を得、これを16時間攪拌した。
(3)(2)のスラリー液へ、0.10mol/Lの硝酸亜鉛溶液1.5L(30℃)を添加して全容4.8Lのスラリー液(反応溶液)を得た。反応溶液のpHは7.4であった。
(4)(3)の反応溶液を、30℃、攪拌速度150rpmで16時間攪拌して、イオン交換平衡状態下でイオン交換反応を行った。この間、反応溶液へ硝酸亜鉛を溶解させることにより、反応溶液中の硝酸亜鉛濃度を上昇させた。
(5)(4)の反応溶液からろ過によりゼオライト相を分離し、次いで15〜60℃の水で過剰の銀イオン、亜鉛イオンを除去した。
(6)(5)のゼオライト相を110℃で加熱乾燥して、サンプルNo.4の抗菌性ゼオライト粒子を得た。
【0045】
サンプルNo.5の調製
(1)110℃で加熱乾燥したY型ゼオライト粒子1kgに水を加えて、1.3Lのスラリーとし、その後攪拌して脱気し、更に適量の0.5N硝酸溶液と水を加えてpHを5〜7に調整したスラリー1.8Lを得た。
(2)(1)のスラリーへ、0.30mol/Lの硝酸銀を含む溶液(30℃)1.5Lを添加してスラリー液を得、これを16時間攪拌した。
(3)(2)のスラリー液へ、0.30mol/Lの硝酸亜鉛溶液1.5L(30℃)を添加して全容4.8Lのスラリー液(反応溶液)を得た。反応溶液のpHは7.1であった。
(4)(3)の反応溶液を、30℃、攪拌速度150rpmで16時間攪拌して、イオン交換平衡状態下でイオン交換反応を行った。この間、反応溶液へ硝酸亜鉛を溶解させることにより、反応溶液中の硝酸亜鉛濃度を上昇させた。
(5)(4)の反応溶液からろ過によりゼオライト相を分離し、次いで15〜60℃の水で過剰の銀イオン、亜鉛イオンを除去した。
(6)(5)のゼオライト相を110℃で加熱乾燥して、サンプルNo.5の抗菌性ゼオライト粒子を得た。
【0046】
得られたNo.1〜5のサンプルに関するデータを表1に示す。















表1

*粒子表面からの深さが0〜1nmの領域における銀イオンと亜鉛イオンとの濃度比(X)と、該粒子表面からの深さが5〜10nmの領域における銀イオンと亜鉛イオンとの濃度比(Y)との比をいう。
【0047】
No.1〜5のサンプルは、何れもX/Yの値が1未満である。これは、抗菌性ゼオライト粒子中の銀イオン濃度(A)と亜鉛イオン濃度(B)との比(A/B)が該粒子の深さ方向に増加していることを示している。
【0048】
実施例2
実施例2では、最初に銀イオン存在下で置換を行い、次いで、銀イオン及び亜鉛イオンの共存下で置換を行うことにより3種類の抗菌性ゼオライト粒子サンプル(サンプルNo.6〜8)を調製した。
【0049】
サンプルNo.6の調製
(1)110℃で加熱乾燥したA型ゼオライト粒子1kgに水を加えて、1.3Lのスラリーとし、その後攪拌して脱気し、更に適量の0.5N硝酸溶液と水を加えてpHを5〜7に調整したスラリー1.8Lを得た。
(2)(1)のスラリーへ、1.5mol/Lの硝酸アンモニウム及び0.01mol/Lの硝酸銀を含む溶液(80℃)1.5Lを添加してスラリー液を得、これを10時間攪拌して、イオン交換平衡状態下でイオン交換反応を行った。
(3)(2)のスラリー液へ、2.0mol/Lの硝酸亜鉛溶液1.5Lを添加して全容4.8Lのスラリー液を得た。スラリー液のpHは7.4であった。
(4)(3)のスラリー液を、50℃、攪拌速度150rpmで6時間攪拌して、イオン交換平衡状態下でイオン交換反応を行った。
(5)(4)のスラリー液からろ過によりゼオライト相を分離し、次いで15〜60℃の水で過剰の銀イオン、亜鉛イオンを除去した。
(6)(5)のゼオライト相を110℃で加熱乾燥して、サンプルNo.6の抗菌性ゼオライト粒子を得た。
【0050】
サンプルNo.7の調製
(1)110℃で加熱乾燥したX型ゼオライト粒子1kgに水を加えて、1.3Lのスラリーとし、その後攪拌して脱気し、更に適量の0.5N硝酸溶液と水を加えてpHを5〜7に調整したスラリー1.8Lを得た。
(2)(1)のスラリーへ、1.2mol/Lの硝酸アンモニウム及び0.10mol/Lの硝酸銀を含む溶液(80℃)1.5Lを添加してスラリー液を得、これを10時間攪拌して、イオン交換平衡状態下でイオン交換反応を行った。
(3)(2)のスラリー液へ、1.0mol/Lの硝酸亜鉛溶液1.5Lを添加して全容4.8Lのスラリー液を得た。スラリー液のpHは7.4であった。
(4)(3)のスラリー液を、50℃、攪拌速度150rpmで6時間攪拌して、イオン交換平衡状態下でイオン交換反応を行った。
(5)(4)のスラリー液からろ過によりゼオライト相を分離し、次いで15〜60℃の水で過剰の銀イオン、亜鉛イオンを除去した。
(6)(5)のゼオライト相を110℃で加熱乾燥して、サンプルNo.7の抗菌性ゼオライト粒子を得た。
【0051】
サンプルNo.8の調製
(1)110℃で加熱乾燥したY型ゼオライト粒子1kgに水を加えて、1.3Lのスラリーとし、その後攪拌して脱気し、更に適量の0.5N硝酸溶液と水を加えてpHを5〜7に調整したスラリー1.8Lを得た。
(2)(1)のスラリーへ、0.30mol/Lの硝酸銀を含む溶液(80℃)1.5Lを添加してスラリー液を得、これを10時間攪拌して、イオン交換平衡状態下でイオン交換反応を行った。
(3)(2)のスラリー液へ、3.0mol/Lの硝酸亜鉛溶液1.5Lを添加して全容4.8Lのスラリー液を得た。スラリー液のpHは7.1であった。
(4)(3)のスラリー液を、50℃、攪拌速度150rpmで6時間攪拌して、イオン交換平衡状態下でイオン交換反応を行った。
(5)(4)のスラリー液からろ過によりゼオライト相を分離し、次いで15〜60℃の水で過剰の銀イオン、亜鉛イオンを除去した。
(6)(5)のゼオライト相を110℃で加熱乾燥して、サンプルNo.8の抗菌性ゼオライト粒子を得た。
【0052】
得られたNo.6〜8のサンプルに関するデータを表2に示す。
表2

No.6〜8のサンプルは、何れもX/Yの値が1未満である。これは、抗菌性ゼオライト粒子中の銀イオン濃度(A)と亜鉛イオン濃度(B)との比(A/B)が該粒子の深さ方向に増加していることを示している。
【0053】
実施例3
実施例3では、銀イオン含有反応溶液(第一反応溶液)による置換と亜鉛イオン含有反応溶液(第二反応溶液)による置換との二段階置換反応により3種類の抗菌性ゼオライト粒子サンプル(サンプルNo.9〜11)を調製した。
【0054】
サンプルNo.9の調製
(1)110℃で加熱乾燥したA型ゼオライト粒子1kgに水を加えて、1.3Lのスラリーとし、その後攪拌して脱気し、更に適量の0.5N硝酸溶液と水を加えてpHを5〜7に調整したスラリー1.8Lを得た。
(2)(1)のスラリーへ、1.5mol/Lの硝酸アンモニウム及び0.01mol/Lの硝酸銀を含む溶液(30℃)3.0Lを添加して全容4.8Lのスラリー液(第一反応溶液)を得た。第一反応溶液のpHは7.4であった。
(3)第一反応溶液を、30℃、攪拌速度150rpmで16時間攪拌して、イオン交換平衡状態下でイオン交換反応を行った。
(4)(3)の第一反応溶液からろ過によりゼオライト相を分離した。
(5)(4)のゼオライト相へ、2.0mol/Lの硝酸亜鉛溶液3.0Lを添加してスラリー液(第二反応溶液)を得た。第二反応溶液のpHは7.4であった。
(6)第二反応溶液を、30℃、攪拌速度150rpmで16時間攪拌して、イオン交換平衡状態下でイオン交換反応を行った。
(7)第二反応溶液からろ過によりゼオライト相を分離し、次いで15〜60℃の水で過剰の銀イオン、亜鉛イオンを除去した。
(8)(7)のゼオライト相を110℃で加熱乾燥して、サンプルNo.9の抗菌性ゼオライト粒子を得た。
【0055】
サンプルNo.10の調製
(1)110℃で加熱乾燥したX型ゼオライト粒子1kgに水を加えて、1.3Lのスラリーとし、その後攪拌して脱気し、更に適量の0.5N硝酸溶液と水を加えてpHを5〜7に調整したスラリー1.8Lを得た。
(2)(1)のスラリーへ、1.2mol/Lの硝酸アンモニウム及び0.10mol/Lの硝酸銀を含む溶液(30℃)3.0Lを添加して全容4.8Lのスラリー液(第一反応溶液)を得た。第一反応溶液のpHは6.8であった。
(3)第一反応溶液を、30℃、攪拌速度150rpmで16時間攪拌して、イオン交換平衡状態下でイオン交換反応を行った。
(4)(3)の第一反応溶液からろ過によりゼオライト相を分離した。
(5)(4)のゼオライト相へ、1.0mol/Lの硝酸亜鉛溶液3.0Lを添加してスラリー液(第二反応溶液)を得た。第二反応溶液のpHは6.8であった。
(6)第二反応溶液を、30℃、攪拌速度150rpmで16時間攪拌して、イオン交換平衡状態下でイオン交換反応を行った。
(7)第二反応溶液からろ過によりゼオライト相を分離し、次いで15〜60℃の水で過剰の銀イオン、亜鉛イオンを除去した。
(8)(7)のゼオライト相を110℃で加熱乾燥して、サンプルNo.10の抗菌性ゼオライト粒子を得た。
【0056】
サンプルNo.11の調製
(1)110℃で加熱乾燥したY型ゼオライト粒子1kgに水を加えて、1.3Lのスラリーとし、その後攪拌して脱気し、更に適量の0.5N硝酸溶液と水を加えてpHを5〜7に調整したスラリー1.8Lを得た。
(2)(1)のスラリーへ、0.30mol/Lの硝酸銀を含む溶液(30℃)3.0Lを添加して全容4.8Lのスラリー液(第一反応溶液)を得た。第一反応溶液のpHは6.5であった。
(3)第一反応溶液を、30℃、攪拌速度150rpmで16時間攪拌して、イオン交換平衡状態下でイオン交換反応を行った。
(4)(3)の第一反応溶液からろ過によりゼオライト相を分離した。
(5)(4)のゼオライト相へ、3.0mol/Lの硝酸亜鉛溶液3.0Lを添加してスラリー液(第二反応溶液)を得た。第二反応溶液のpHは6.5であった。
(6)第二反応溶液を、30℃、攪拌速度150rpmで16時間攪拌して、イオン交換平衡状態下でイオン交換反応を行った。
(7)第二反応溶液からろ過によりゼオライト相を分離し、次いで15〜60℃の水で過剰の銀イオン、亜鉛イオンを除去した。
(8)(7)のゼオライト相を110℃で加熱乾燥して、サンプルNo.11の抗菌性ゼオライト粒子を得た。
【0057】
得られたNo.9〜11のサンプルに関するデータを表3に示す。
表3

No.9〜11のサンプルは、何れもX/Yの値が1未満である。これは、抗菌性ゼオライト粒子中の銀イオン濃度(A)と亜鉛イオン濃度(B)との比(A/B)が該粒子の深さ方向に増加していることを示している。
【0058】
比較例
サンプルNo.0の調製
(1)110℃で加熱乾燥したA型ゼオライト粒子1kgに水を加えて、1.3Lのスラリーとし、その後攪拌して脱気し、更に適量の0.5N硝酸溶液と水を加えてpHを5〜7に調整したスラリー1.8Lを得た。
(2)(1)のスラリーへ、1.5mol/Lの硝酸アンモニウム及び0.01mol/Lの硝酸銀を含む溶液(30℃)1.5Lを添加してスラリー液を得、これを16時間攪拌した。
(3)(2)のスラリー液へ、2.0mol/Lの硝酸亜鉛溶液1.5L(30℃)を添加して全容4.8Lのスラリー液(反応溶液)を得た。反応溶液のpHは7.3であった。
(4)(3)の反応溶液を、30℃、攪拌速度150rpmで16時間攪拌して、イオン交換平衡状態下でイオン交換反応を行った。
(5)(4)の反応溶液からろ過によりゼオライト相を分離し、次いで15〜60℃の水で過剰の銀イオン、亜鉛イオンを除去した。
(6)(5)のゼオライト相を110℃で加熱乾燥して、サンプルNo.0の抗菌性ゼオライト粒子を得た。
【0059】
得られたNo.0のサンプルに関するデータを表4に示す。
表4

No.0のサンプルは、粒子表面からの深さが0〜1nmの領域における銀イオンと亜鉛イオンとの濃度比(X)と、該粒子表面からの深さが5〜10nmの領域における銀イオンと亜鉛イオンとの濃度比(Y)との比(X/Y)が1であり、本発明に対する比較例である。
【0060】
試験例1
実施例及び比較例の抗菌性ゼオライト粒子のカビ抵抗性を、3種類のカビに対するMIC値(ppm)を指標にして評価した。
使用した菌種は、黒こうじカビ(Aspergillus niger)(NBRC6341)、青カビ(Penicillium citrinum)(NBRC6352)及び毛玉カビ(Chaetomium globosum)(NBRC6347)であった。試験結果を表5に示す。
表5

実施例(サンプルNo.1〜11)の抗菌性ゼオライト粒子は、いずれも500ppm以下のMICを有していた。このことから、本発明の抗菌性ゼオライト粒子は優れたカビ抵抗性を有することが理解される。
【0061】
試験例2
実施例及び比較例の抗菌性ゼオライト粒子の抗細菌性を、2種類の細菌に対するMIC値(ppm)により評価した。
使用した菌種は大腸菌(Escherichia coli)(菌株保存番号:NBRC3972)と黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(菌株保存番号:NBRC12732)であった。
実施例及び比較例の各抗菌性ゼオライト粒子を加熱乾燥(200℃で3時間)した後に、練り込み量1質量%で表6記載の各種樹脂へ練り込み、次いで射出成型(東芝機械製 射出成型機 PLUS250)して樹脂成形品サンプルを得た。
得られた樹脂成形品サンプルについて、JIS Z2801法に従う抗菌性試験を行った。
使用した樹脂の種類及び試験結果を表6に示す。
表6

ポリエチレン:東ソー製ペトロセン207R
ポリプロピレン:グランドポリマー製J707WT
ABS:旭化成製スライラック220
ポリアミド:三菱エンジニアリングプラスチックス製ノバミッド1010
ポリエチレン:日本ユニカ製NUC8009
【0062】
実施例(サンプルNo.1〜11)の樹脂成形品は、いずれも2.0以上の抗菌活性値(99%以上の死滅率)を有していた。このことから、本発明の抗菌性ゼオライト粒子を含有する樹脂組成物は優れた抗細菌性(抗菌性)を有することが理解される。
【0063】
試験例3(変色試験)
本試験例では、実施例及び比較例の抗菌性ゼオライト粒子を配合した樹脂へ強力な紫外線の長時間照射して耐変色性を評価した。
実施例及び比較例の各抗菌性ゼオライト粒子を加熱乾燥(200℃で3時間)した後に、練り込み量1質量%で表7記載の各種樹脂へ練り込み、次いで射出成型(東芝機械製 射出成型機 PLUS250)して樹脂成形品サンプルを得た。
得られた樹脂成形品サンプルへ、当該サンプルから15cm離れた位置に設置したブラックライト(100W)(東芝ライテック製)から100時間の紫外線照射を行った。
照射前後の各サンプルについて、L***表色系に従う各色値の差(色差ΔE)を指標として変色を評価した。サンプルの色値は、各サンプルを白ケント紙上に置いてミノルタ色彩色差計 CR−300を用いて測定した。
使用した樹脂の種類及び試験結果を表7に示す。
表7

比較例(サンプルNo.0)の樹脂成形品は、変色を起こしたため色差ΔEが大きかった。一方、実施例(サンプルNo.1〜11)の樹脂成形品は、いずれも変色を起こさず、色差ΔEも極めて小さかった。このことから、本発明の抗菌性ゼオライト粒子を含有する樹脂組成物は優れた耐変色性を有することが理解される。
【0064】
試験例1〜3の結果より、本発明の抗菌性ゼオライト粒子及び該粒子を含有する樹脂組成物は、優れた抗菌性を維持しつつ、かつ、耐変色性をも有することが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の抗菌性ゼオライト粒子は、抗菌加工製品の原料として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト中のイオン交換可能なイオンの一部又は全部が銀イオン及び亜鉛イオンで置換されてなる抗菌性ゼオライト粒子であって、該粒子中の銀イオン濃度(A)と亜鉛イオン濃度(B)との比(A/B)が該粒子の深さ方向に増加していることを特徴とする抗菌性ゼオライト粒子。
【請求項2】
ゼオライト中のイオン交換可能なイオンの一部又は全部が銀イオン及び亜鉛イオンで置換されてなる抗菌性ゼオライト粒子であって、該粒子表面からの深さが0〜1nmの領域における銀イオンと亜鉛イオンとの濃度比(X)と、該粒子表面からの深さが5〜10nmの領域における銀イオンと亜鉛イオンとの濃度比(Y)との比(X/Y)が1未満であることを特徴とする抗菌性ゼオライト粒子。
【請求項3】
前記抗菌性ゼオライト粒子表面からの深さが0〜1nmの領域における銀イオンと亜鉛イオンとの濃度比(X)と、該粒子表面からの深さが5〜10nmの領域における銀イオンと亜鉛イオンとの濃度比(Y)との比(X/Y)が0.6〜0.4である、請求項2に記載の抗菌性ゼオライト粒子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗菌性ゼオライト粒子と樹脂とを含む、抗菌性樹脂組成物。
【請求項5】
前記抗菌性ゼオライト粒子を0.05〜80質量%含有する、請求項4記載の抗菌性樹脂組成物。

【公開番号】特開2008−1557(P2008−1557A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−172327(P2006−172327)
【出願日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(391031764)株式会社シナネンゼオミック (20)
【Fターム(参考)】