説明

抗菌性粘着フィルム

【課題】長期に亘って抗菌性を持続し得る抗菌性粘着フィルムを提供する。
【解決手段】基材層の片面に粘着層が形成された抗菌性粘着フィルムであり、基材層が熱可塑性樹脂90〜99.3重量%、ZnO・Al系固溶体0.2〜5重量%及び特定のエーテル化合物0.5〜5重量部を含む抗菌性粘着フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性粘着フィルムに関する。詳しくは、水洗したり濡れた布類で繰り返し拭浄しても長期に亘って抗菌性を維持し得る抗菌性粘着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銀、銅、亜鉛、錫、鉛、カドミウム、クロムなどのイオンは、防黴性、抗菌性を示す金属イオンとして知られている。特に、硝酸銀は、消毒作用、殺菌作用を有することから、その水溶液が消毒、殺菌用溶液として広く使用されていた。しかし、上記金属イオンは、人体に有毒であるため、使用方法、廃棄方法などにおいて種々の制約があり、用途が限定されている。
【0003】
そこで、無毒性又は極めて毒性が低く、耐熱性及び耐候性に優れた抗菌剤が提案されている。例えば、特許第3465248号公報(特許文献1参照)には、亜鉛、銅などを主成分とする酸化物固溶体又はハイドロタルサイト類化合物を有効成分とする抗微生物剤が開示されている。しかしながら、これらの抗微生物剤を熱可塑性樹脂フィルムに含ませた場合、初期の抗菌性には優れるものの、抗菌性の持続性が低いため、使用期間が長期に亘る物品に適用することには問題がある。
【0004】
【特許文献1】特許第3465248号公報(請求項1)
【特許文献2】特許第3370198号公報(〔0047〕、特許請求の範囲)
【特許文献3】特公平3−39524号公報(発明の詳細な説明、第5頁、左欄16行〜第7頁、右欄32行)
【非特許文献1】「抗菌製品技術協議会 試験法 2003年度版 第3.項、抗菌加工製品の抗菌力持続性試験法、(1)耐水性試験」(平成15年6月、抗菌製品技術協議会発行)
【非特許文献2】S.L. AGGARWAL他: Journal of Polymer Science,第18巻、17〜26頁、1955年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、水洗又は濡れた布類などを用いて繰り返しその表面を拭浄しても長期に亘って抗菌性を持続し得る抗菌性粘着フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定量のZnO・Al系固溶体及び特定のエーテル化合物を同時に含む熱可塑性樹脂組成物から形成したフィルムを基材層として用いた粘着フィルムが、上記課題を解決できるものであることを見出し、本発明に到った。
【0007】
すなわち、本発明は、基材層の片面に粘着層が形成された抗菌性粘着フィルムであって、基材層が熱可塑性樹脂90〜99.3重量%、ZnO・Al系固溶体0.2〜5重量%、及び、一般式(1)
CH3CH2(CH2CH2aCH2CH2(OCH2CH2OH・・・(1)
又は、一般式(2)
CH3CH2(CH2CH2aCH2CH2(OCH2CH2CH2OH・・・(2)
〔一般式(1)及び(2)において、aは平均値であり9〜25の範囲の数値、bは平均値であり1〜10の範囲の数値を示す〕で表される化合物0.5〜5重量%を含むことを特徴とする抗菌性粘着フィルムである。
【0008】
本発明の抗菌性粘着フィルムの好ましい態様として、基材層と粘着層との間に熱可塑性樹脂から形成された少なくとも1層の中間層が形成された前記抗菌性粘着フィルムが挙げられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係わる抗菌性粘着フィルムの特徴は、基材層が、特定量のZnO・Al系固溶体と前記一般式(1)又は(2)で表される化合物(以下、特定のエーテル化合物と略称する)とを同時に含む点にある。かかる特徴を有する抗菌性粘着フィルムは、その基材層の表面を水洗したり、布巾、タオル、ガーゼなどの濡れた布類を用いて、繰り返し拭浄しても、長期に亘って抗菌性を維持し得る優れた特性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係わる抗菌性粘着フィルムについて詳細に説明する。本発明の抗菌性粘着フィルムは、熱可塑性樹脂に特定量のZnO・Al系固溶体及び特定のエーテル化合物を添加、混合して熱可塑性樹脂組成物となし、得られた熱可塑性樹脂組成物をフィルム状に成形して基材層となし、次いで、得られた基材層の片面に粘着層を形成することにより製造することができる。通常、粘着層を保護するために、粘着層の表面に剥離フィルムを貼着して市場に提供される。
【0011】
本発明において、基材層の形成に用いる熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂などが挙げられる。ポリオレフィン系樹脂としては、分岐状低密度ポリエチレン、線形低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなどのポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体などのポリプロピレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂が挙げられる。これらの内、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。更に好ましくはポリエチレン系樹脂である。
【0012】
基材層に含ませるZnO・Al系固溶体は、酸化亜鉛に酸化アルミニウムが固溶した超微粒子状の固溶体である。粒子径は小さいほど、抗菌活性が大きくなるので好ましい。主成分の亜鉛は、人体の必須ミネラルであり、健康食品のサプリメントに含まれている。また、酸化アルミニウムも反応性が低い極めて安全な物質である。ZnO・Al系固溶体の市販品としては、(株)海水化学研究所製、商品名:SEABIO Z−240、同Z−28などが挙げられる。ZnO・Al系固溶体の添加量は、熱可塑性樹脂組成物全体に占める割合が0.2〜5重量%となるように用いる。添加量が0.2重量%未満であると、抗菌剤が少ないため分散が不十分となり抗菌性が充分発現しない。また、5重量%を超えると、フィルムの透明性などが低下するため好ましくない。
【0013】
基材層に含ませる特定のエーテル化合物としては、上記一般式(1)又は(2)で表される化合物が挙げられる。これらは、アルカリ触媒の存在下、150℃前後において、飽和脂肪族一級アルコールに酸化エチレン又は酸化プロピレンを付加重合することにより製造される。一般式(1)及び(2)において、aは平均値であり9〜25の範囲の数値、bは平均値であり1〜10の範囲の数値をそれぞれ示す。好ましくはaが平均値であり10〜20の範囲の数値、bが平均値であり1〜5の範囲の数値である。具体的には、炭素数が22〜54の飽和脂肪族一級アルコールに酸化エチレン又は酸化プロピレンを1〜10モル付加重合した化合物である。更に好ましくは一般式(1)において、aが13であり、bが2.5である化合物である。上記一般式(1)又は(2)で表される特定のエーテル化合物の市販品としては、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製、商品名:IRGASURFなどが挙げられる。
【0014】
上記特定のエーテル化合物の添加量は、抗菌性、特に抗菌性の持続性及びフィルムの成形性に影響を及ぼす。特定のエーテル化合物の添加量が少な過ぎると、抗菌性が低下し、長期に亘って抗菌性を維持し難くなる。逆に、特定のエーテル化合物の添加量が多過ぎると、フィルムの成形性が低下して、厚み制御が困難になり、また、フィルムの表面状態が悪くなることがある。かかる点を考慮すると、特定のエーテル化合物の添加量は、熱可塑性樹脂組成物全体に占める割合が0.5〜5重量%となるように用いることが好ましい。
【0015】
特定量の抗菌剤と特定のエーテル化合物を同時に使用することにより、抗菌性が長期に亘って維持できる理由は定かではないが、フィルムの内部及び表面を親水化することとなり、抗菌剤の金属イオンがフィルム中を遊泳し易くなり、抗菌剤と菌類とが接触する確率が増大するためではないかと推定する。
【0016】
熱可塑性樹脂にZnO・Al系固溶体及び特定のエーテル化合物を添加、混合する方法は、公知の方法で差し支えない。例えば、熱可塑性樹脂に特定量のZnO・Al系固溶体及び特定のエーテル化合物を添加して、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサーなど公知の混合機を用いて、室温近傍の温度において混合し、熱可塑性樹脂組成物とする方法が挙げられる。
【0017】
また、上記熱可塑性樹脂組成物から基材層用の熱可塑性樹脂フィルム成形する方法も特に制限はなく、公知の成形方法が適用できる。例えば、Tダイが装着された押出成型機を用いる方法、円形ダイが装着された押出成型機を用いる方法などが挙げられる。通常、成形温度は150〜250℃である。
【0018】
基材層として用いる熱可塑性樹脂フィルムは、未延伸フィルムでもよいし、延伸フィルムでもよい。フィルムの強度などを考慮すると、1軸又は2軸延伸フィルムが好ましい。更に好ましくは2軸延伸フィルムである。延伸又は無延伸を問わず基材層の厚みは20〜200μmであることが好ましい。粘着層が形成される側の基材層の表面には、基材層と粘着層との密着性を向上させるために、予めコロナ放電処理又は化学処理などを施すことが好ましい。
【0019】
本発明の抗菌性粘着フィルムは、基材層と接着層の間に熱可塑性樹脂フィルムで形成された中間層を設けてもよい。中間層は、基材層の一部を代替する形態とすることが好ましい。すなわち、中間層を設ける場合、基材層と中間層の合計厚みは、中間層を設けない場合の基材層の厚みとほぼ同一となるように形成することが好ましい。具体的には、中間層を設ける場合には、基材層の厚みは5〜195μm、中間層の厚みは5〜195μm、両者の合計厚みは20〜200μmであることが好ましい。
【0020】
また、中間層には、上記ZnO・Al系固溶体及び特定のエーテル化合物を添加しないことが好ましい。中間層を設ける場合、粘着層は中間層の表面に形成する。具体的には、基材層、中間層、粘着層の順に積層された形状とすることが好ましい。このような積層構造とすることにより、基材層に含ませる上記ZnO・Al系固溶体及び特定のエーテル化合物の量を節減することができる。また、中間層がバリアー層としての機能を有するので、ZnO・Al系固溶体及び特定のエーテル化合物が粘着層へ移行することを防止することができる。
【0021】
中間層を形成する熱可塑性樹脂としては、基材層の形成に用いる上記熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの樹脂であれば、基材層と同一樹脂を用いて形成してもよいし、基材層と異なる樹脂を用いて形成してもよい。好ましくは、基材層と同一樹脂を用いて形成する。ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートが好ましく、更に好ましくはポリエチレン系樹脂である。
【0022】
中間層を形成する方法は、公知の方法でよい。すなわち、基材層と中間層を別々にフィルム状に成形した後、両者を熱融着する等の方法で積層する方法、溶融共押出成形機を用いて共押出成形する方法などが挙げられる。
【0023】
本発明に係わる抗菌性粘着フィルムは、上記のようにして製造される熱可塑性樹脂フィルムならなる基材層の片面に粘着層を形成することにより得られる。中間層を設ける場合は、中間層の表面に粘着層を形成する。粘着層は、予め粘着剤を調製して、それを基材層の片面、又は、中間層の表面に塗布、乾燥する方法で形成してもよい。又は、溶融共押出成形機を用いて、基材層及び/又は中間層と共押出成形する方法で形成してもよい。
【0024】
前者の方法に用いる粘着剤としては、アクリル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、エポキシ系ポリマー、メラミン系ポリマー、フェノール系ポリマー、酢酸ビニル系ポリマーを主成分とする粘着剤が挙げられる。これらの内、アクリル系ポリマーが好ましく用いられる。
【0025】
粘着層をアクリル系ポリマーで形成する場合、アクリル系モノマー、及び、必要に応じて、これと共重合可能なコモノマーとを共重合してアクリル系粘着剤ポリマーを製造する。得られたアクリル系粘着剤ポリマーに対し、架橋剤と必要に応じて他の添加剤を添加して粘着剤塗布液を調製する。上記基材層、又は、後述する剥離フィルムの片表面に粘着剤塗布液を塗工し、乾燥することにより抗菌性粘着フィルムが得られる。粘着剤塗布液を剥離フィルムに塗工した場合は、乾燥した後、上記基材層の片面に粘着層を転着することにより抗菌性粘着フィルムが得られる。
【0026】
アクリル系粘着剤ポリマーは、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、又はこれらの混合物を主モノマーとして、その他必要に応じて、架橋剤と反応し得る官能基を有するコモノマーを含むモノマー混合物を共重合することにより得られる。主モノマーとしては、炭素数1〜12程度のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステル〔以下、これらの総称して(メタ)アクリル酸アルキルエステルという〕が挙げられる。好ましくは、炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルである。
【0027】
具体的には、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル、メタクリル酸オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル等が挙げられる。アルキル基は直鎖状でも分岐状でもよい。これらは単独で使用してもよいし、また、2種以上を混合して使用してもよい。主モノマーの使用量は、アクリル系粘着剤ポリマーの原料となる全モノマーの総量中に、通常、60〜99重量%の範囲で含ませることが好ましい。更に好ましくは85〜95重量%である。主モノマーの使用量をかかる範囲とすることにより、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー単位60〜99重量%、好ましくは85〜95重量%を含むアクリル系粘着剤ポリマーが得られる。
【0028】
本発明においては、粘着特性を調節する上で、通常、架橋剤が使用される。この場合、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルに対し、架橋剤と反応し得る官能基を有するモノマーを共重合する。かかるモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸モノアルキルエステル、メサコン酸モノアルキルエステル、シトラコン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、マレイン酸モノアルキルエステル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリルアミド、メタクリルアミド、ターシャル−ブチルアミノエチルアクリレート、ターシャル−ブチルアミノエチルメタクリレート等が挙げられる。これらの一種を上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合させてもよいし、また2種以上を共重合させてもよい。
【0029】
架橋剤と反応し得る官能基を有するコモノマーの使用量は、アクリル系粘着剤ポリマーの原料となる全モノマーの総量中に、通常、1〜40重量%の範囲で含まれていることが好ましい。更に好ましくは5〜15重量%である。而して、コモノマー組成とほぼ等しい組成の構造単位を有するアクリル系粘着剤ポリマーが得られる。更に必要に応じて、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレン等の重合性2重結合を有するモノマー、ジビニルベンゼン、アクリル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル等の多官能性のモノマー等を共重合してもよい。
【0030】
アクリル系粘着剤ポリマーの重合反応機構としては、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合等が挙げられる。製造コスト、モノマーの官能基の影響等を等慮すればラジカル重合によって重合することが好ましい。ラジカル重合反応によって重合する際、ラジカル重合開始剤として、ベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジ−ターシャル−ブチルパーオキサイド、ジ−ターシャル−アミルパーオキサイド等の有機過酸化物、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、4,4’−アゾビス−4−シアノバレリックアシッド等のアゾ化合物が挙げられる。
【0031】
乳化重合法が好ましい。その場合には、これらのラジカル重合開始剤の中で、水溶性の過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物、同じく水溶性の4,4’−アゾビス−4−シアノバレリックアシッド等の分子内にカルボキシル基を持ったアゾ化合物が好ましい。
【0032】
架橋剤は、アクリル系粘着剤ポリマーが有する官能基と反応させ、粘着力特性を調整するため必要に応じて用いられる。架橋剤としては、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、レソルシンジグリシジルエーテル等のエポキシ系化合物、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチロールプロパンのトルエンジイソシアネート3付加物、ポリイソシアネート等のイソシアネート系化合物、トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、N,N’−ジフェニルメタン−4,4’−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、N,N’−ヘキサメチレン−1,6−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、N,N’−トルエン−2,4−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、トリメチロールプロパン−トリ−β−(2−メチルアジリジン)プロピオネート等のアジリジン系化合物、及びヘキサメトキシメチロールメラミン等のメラミン系化合物が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
架橋剤の使用量は、通常、架橋剤中の官能基数がアクリル系粘着剤ポリマー中の官能基数よりも多くならない程度の範囲で用いる。しかし、架橋反応で新たに官能基が生じる場合や、架橋反応が遅い場合等、必要に応じて過剰に含有してもよい。好ましい使用量は、アクリル系粘着剤ポリマー100重量部に対し、架橋剤0.1〜15重量部程度である。
【0034】
基材層の片面又は中間層の表面に粘着層を形成する際には、上記アクリル系粘着剤ポリマーを含む溶液又はエマルション液(以下、これらを総称して塗布液と称する)として、ロールコーター、コンマコーター、ダイコーター、メイヤーバーコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター等の公知の方法に従って順次塗布、乾燥して形成する方法を用いることができる。この際、塗布した粘着層を環境に起因する汚染等から保護するために、塗布した粘着層の表面に剥離フィルムを貼着することが好ましい。
あるいは、剥離フィルムの片表面に、上記した公知の方法に従って塗布液を塗布、乾燥して粘着層を形成した後、ドライラミネート法等の公知の方法を用いて該粘着層を基材層の片面又は中間層の表面に転写させる方法(以下、転写法という)を採用してもよい。粘着層の厚みは、1〜100μmであることが好ましい。
【0035】
粘着剤塗布液を乾燥する際の乾燥条件には特に制限はないが、一般的には、80〜300℃の温度範囲において、10秒〜10分間乾燥することが好ましい。さらに好ましくは、80〜200℃の温度範囲において15秒〜8分間乾燥する。
【0036】
本発明においては、架橋剤とアクリル系粘着剤ポリマーとの架橋反応を十分に促進させるために、粘着剤塗布液の乾燥が終了した後に、粘着フィルムを40〜80℃において5〜300時間程度加熱してもよい。
【0037】
粘着層は、例えば、特許第3370198号公報(特許文献2参照)に記載されるような公知の方法で形成してもよい。すなわち、基材層及び/又は中間層と共押出成形する方法で形成する。その場合、基材層/粘着層、又は、基材層/中間層/粘着層の順に積層されるように共押出成形する。粘着層は、粘着性ポリオレフィン系樹脂を用いて形成することが好ましい。粘着性ポリオレフィン系樹脂は、例えば、特許第3370198号公報(特許文献2参照)に記載されるような公知のものでよい。具体的には、炭素数2〜12のα−オレフィンから選ばれる少なくとも2種のα−オレフィンを主成分とするα−オレフィン共重合体の1種又は2種以上の混合物が挙げられる。炭素数2〜12のα−オレフィンとして、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン等が挙げられる。
【0038】
上記共重合体の内、プロピレン、1−ブテン及び炭素数5〜12のα−オレフィンの3成分を構成単位とする共重合体を主材とする粘着層が好ましい。特に、プロピレン10〜85モル%、1−ブテン3〜60モル%及び炭素数5〜12のα−オレフィン10〜85モル%の組成を有する共重合体を主材とする粘着層は、常温付近での粘着特性に優れる点で好ましい。更に、プロピレン15〜70モル%、1−ブテン5〜50モル%及び炭素数5〜12のα−オレフィン15〜70モル%の組成を有する共重合体が好ましい。このような3成分からなる共重合体を粘着層の主材とする場合、粘着層中に占める該共重合体の割合は、通常、30重量%以上、好ましくは50重量%以上である。このような3成分からなる共重合体は、特公平3−39524号公報(特許文献3参照)に記載される方法により製造することができる。
【0039】
粘着層を上記粘着性ポリオレフィン系樹脂を用いて、共押出成形法により形成した場合は、粘着層の厚みは、5〜100μmであることが好ましい。
【0040】
本発明の抗菌性粘着フィルムは、通常、粘着層の汚染を防止するために、粘着層の表面には剥離フィルムが貼着される。剥離フィルムとしては、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム等の合成樹脂フィルムが挙げられる。これらは、1軸又は2軸延伸された延伸フィルムであることが好ましい。必要に応じて、粘着層に接する面にシリコーン処理等の離型処理が施されたものが好ましい。剥離フィルムの厚みは、通常、10〜100μm程度である。
【0041】
本発明の抗菌性粘着フィルムは、上記製造方法により製造されるが、汚染防止の観点から、基材層用熱可塑性樹脂フィルム、中間層用熱可塑性樹脂フィルム、剥離フィルム、粘着剤及び粘着層等、全ての原料及び資材の製造環境、粘着剤塗布液の調製、保存、塗布及び乾燥環境は、米国連邦規格209bに規定されるクラス1,000以下のクリーン度に維持されていることが好ましい。
【0042】
本発明に係わる抗菌性粘着フィルムの粘着力は、後述する実施例に記載した方法により測定した粘着力が、0.5〜3N/25mmの範囲にあることが好ましい。粘着力が低過ぎると、使用中に被着体から抗菌性粘着フィルムが剥がれてしまうことがある。粘着力が高過ぎると、使用後不要となり被着体から粘着フィルムを剥がす際剥がれにくく、被着体に粘着層が残ることがある。また、本発明に係わる抗菌性粘着フィルムの抗菌性は、後述する実施例に記載した方法で抗菌剤無添加に対する抗菌剤添加品の抗菌効果の指標である抗菌活性値が4以上であることが好ましい。また、抗菌性の持続性については、35℃の水道水に24時間浸漬した後の抗菌性を同様の方法で評価し、抗菌剤無添加に対する抗菌活性値が3.5以上であることが好ましい。尚、本発抗菌性粘着フィルムの厚みは25〜300μmであることが好ましい。
【0043】
次に、本発明の抗菌性粘着フィルムの使用方法について説明する。本発明の抗菌性粘着フィルムは、粘着層の表面に剥離フィルムが貼付されることがあるので、使用する際は、剥離フィルムを剥離して粘着層を露出させる。本発明の抗菌性粘着フィルムは、粘着層を介して被着体に貼着して使用する。好ましい被着体としては、雑菌の繁殖を抑える必要がある用途が挙げられる。例えば、食品調理台、医薬品調合台、食品等の配膳台、乳幼児用飲食物調製台、食品及び医薬品等の運搬台、病院等の手摺り、排泄物処理場周辺の床、室内ペットの給餌器具などが挙げられる。これらは、高度の衛生性と安全性が要求される。本発明の抗菌性粘着フィルムをこれらの表面に貼着することにより、頻繁に水洗したり、濡れた布類を用いて繰り返し拭浄しても、長期に亘って抗菌性が維持されるので、長期に亘って雑菌の繁殖を抑えることができ、高度の衛生性と安全性が維持できる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を示して本発明について更に詳細に説明する。尚、実施例に示した抗菌性及びその持続性、粘着力等は、下記方法により測定した値である。
(1)抗菌性
JIS Z2801−2000に準拠して測定した抗菌活性値を指標とした。
(2)抗菌性持続性
「抗菌製品技術協議会 試験法 2003年度版 第3.項、抗菌加工製品の抗菌力持続性試験法、(1)耐水性試験」(平成15年6月、抗菌製品技術協議会発行、非特許文献1参照)に記載された耐水性区分1(常温)に準じ、35℃の水道水に24時間浸漬処理した後、前項と同様の方法により抗菌性を評価し指標とした。
【0045】
(3)粘着力(N/25mm)
初期粘着強度の測定JIS Z0237
1991に準拠して測定した。23℃において、実施例又は比較例で得られた抗菌性粘着フィルムをその粘着層を介して、SUS304−BA板(JIS G4305規定、縦:20cm、横:5cm)の表面に貼付し、24時間放置する。放置後、該粘着フィルムの一端を持って、剥離角度:180度、剥離速度:300mm/min.においてSUS304−BA板の表面から該粘着フィルムを剥離し、剥離する際の応力を測定して、N/25mmに換算した。
【0046】
(4)アクリル系粘着剤のゲル含有率
濾紙に粘着剤エマルションを含浸させてサンプルを作成し、そのサンプルを減圧乾燥した後、トルエン100mlに24時間浸漬する。そのトルエン溶液の溶媒を除去し、下記数式(1)〔数1〕
【数1】

によりゲル含有率を求めた。数式(1)において、A:減圧乾燥後の濾紙と粘着剤の重量、B:溶媒除去後のトルエン溶液の残渣(トルエン可溶粘着剤)の重量、C:濾紙の重量、をそれぞれ示す。
【0047】
(5)結晶化度(%)
粘着層を構成するα−オレフィン系共重合体(A)及び(B)の結晶化度は、X線回折法(S.L. AGGARWAL他: Journal of Polymer Science,第18巻、17〜26頁、1955年、非特許文献2参照)により測定した。
【0048】
(6)極限粘度(dl/g)
粘着層を構成するα−オレフィン系共重合体(A)及び(B)の極限粘度は、135℃においてデカリン溶液で測定した。
【0049】
調製例1
<特定のエーテル化合物MBの調製>
中密度ポリエチレン(密度:0.94g/cm3、MFR:3.5g/10分)50重量部、及び一般式(1)で表される特定のエーテル化合物(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製、商品名:IRGASURF、一般式(1)におけるaが13、bが2.5)50重量部を混合し、二軸押出機(口径:30mm、L/D:26)を用いて、樹脂温度200℃で混練、溶融押出、造粒して特定のエーテル化合物マスターバッチ(以下、SMBという)を得た。
【0050】
調製例2
<ZnO・Al系固溶体MBの調製>
中密度ポリエチレン(密度:0.94g/cm3、MFR:3.5g/10分)70重量部、及びZnO・Al系固溶体〔(株)海水化学研究所製、商品名:SEABIO Z−240〕30重量部を混合し、二軸押出機(口径:30mm、L/D:26)を用いて樹脂温度200℃で混練、溶融押出、造粒して抗菌剤マスターバッチMB(以下、KMBという)を得た。
【0051】
調製例3
<アクリル系粘着剤の調製>
ブチルアクリレート91重量部、アクリロニトリル4重量部、メタクリル酸2重量部、N−メチロールメタクリルアミド3重量部を乳化重合し、アクリル系樹脂エマルジョン粘着剤(ゲル含有率87重量%)を調製した。得られた粘着剤の固形分100重量部に対して、トリメチロールプロパン−トリス−(2−アジリジニルプロピオネート)0.5重量部を配合してアクリル系粘着剤塗布液を得た。
【0052】
実施例1
共押出しT−ダイフィルム成形法(口径:30mm、L/D:22)を用いて、各層樹脂温度200℃において、中密度ポリエチレン(密度:0.94g/cm3、MFR:3.5g/10分)96重量部、特定のエーテル化合物マスターバッチ(SMB)2重量部及び抗菌剤マスターバッチ(KMB)2重量部を含む基材層(厚さ:10μm)、及び、中密度ポリエチレン(密度:0.94g/cm3、MFR:3.5g/10分)からなる中間層(厚さ:40μm)を有する2層構造のフィルムを成形した。得られた2層構造のフィルム(厚さ50μm)の中間層表面にコロナ放電処理を施した。中間層のコロナ放電処理面に、リバースコーターを用いて、調製例3で得られたアクリル系粘着剤塗布液を塗布、乾燥し、膜厚10μmの粘着層を形成して抗菌性粘着フィルムを得た。得られた抗菌性粘着フィルムの特性を上記方法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0053】
実施例2
下記成形条件により、共押出しT−ダイフィルム成形法(口径:30mm、L/D:22)を用いて、中密度ポリエチレン(密度:0.94g/cm3、MFR:3.5g/10分)96重量部、特定のエーテル化合物マスターバッチ(SMB)2重量部及び抗菌剤MB(KMB)2重量部を含む基材層(厚さ:10μm)、中密度ポリエチレン(密度:0.940g/cm3、MFR:3.5g/10分)からなる中間層(厚さ:30μm)、及び、プロピレン単位50モル%、1−ブテン単位20モル%及び4−メチル−1−ペンテン単位30モル%を含むα−オレフィン系共重合体(A)(極限粘度:1.6dl/g、結晶化度:2%)70重量部、並びに、エチレン80モル%及びプロピレン20モル%を含むα−オレフィン系共重合体(B)30重量部との混合樹脂で形成された粘着層(厚さ:10μm)を有する3層構造の抗菌性粘着フィルム(厚さ:50μm)を成形した。得られた抗菌性粘着フィルムの各種特性を実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。<成形条件>溶融温度:基材層;230℃、中間層;230℃、粘着層;180℃、T−ダイ温度:230℃。尚、α−オレフィン系共重合体(A)は、特公平3−39524号公報(特許文献3参照)に記載された方法により製造した。
【0054】
実施例3、比較例1〜3
基材層の配合比を表1〜2に記載した通りに変更した以外は、実施例2と同様にして抗菌性粘着フィルムを成形した。結果を表1〜2に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
<表1〜2の説明>
実施例及び比較例の欄に記載した左側の括弧付き数値はKMB又はSMBの重量組成(重量部)を示し、右側の括弧付き数値は各マスターバッチが含む成分の量(重量部)を示す。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の抗菌性粘着フィルムは、雑菌の繁殖を抑える必要がある箇所に貼着して使用することができる。例えば、食品調理台、医薬品調合台、食品等の配膳台、乳幼児用飲食物調製台、食品及び医薬品等の運搬台、病院等の手摺り、排泄物処理場周辺の床、室内ペットの給餌器具などが挙げられる。本発明の抗菌性粘着フィルムをこれらの表面に貼着することにより、頻繁に水洗したり、濡れた布類を用いて繰り返し拭浄しても、長期に亘って抗菌性が維持されるので、長期に亘って雑菌の繁殖を抑えることができ、高度の衛生性と安全性が維持できる効果を奏する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層の片面に粘着層が形成された抗菌性粘着フィルムであって、基材層が熱可塑性樹脂90〜99.3重量%、ZnO・Al系固溶体0.2〜5重量%、及び、一般式(1)
CH3CH2(CH2CH2aCH2CH2(OCH2CH2OH・・・(1)
又は、一般式(2)
CH3CH2(CH2CH2aCH2CH2(OCH2CH2CH2OH・・・(2)
〔一般式(1)及び(2)において、aは平均値であり9〜25の範囲の数値、bは平均値であり1〜10の範囲の数値を示す〕で表される化合物0.5〜5重量%を含むことを特徴とする抗菌性粘着フィルム。
【請求項2】
基材層と粘着層との間に熱可塑性樹脂から形成された少なくとも1層の中間層が形成されたことを特徴とする請求項1記載の抗菌性粘着フィルム。

【公開番号】特開2007−326932(P2007−326932A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−158369(P2006−158369)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【出願人】(000111432)三井化学ファブロ株式会社 (36)
【Fターム(参考)】