説明

抗菌消臭材、その繊維構造物、及び医療・介護用品

【課題】 金属フタロシアニンの持つそのような特性を利用し、さらに金属アンミン錯体を付加することによって強力な抗菌性および消臭性を備えた繊維等の素材を提供する。
【解決手段】 抗菌性および消臭性を備えた繊維等の素材は、下記I式
【化1】


で示される金属フタロシアニン誘導体と、金属アンミン錯体とを有効成分に含む抗菌消臭材が繊維等の素材に担持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性と消臭性の両方の機能を備えた抗菌消臭材、その繊維構造物、及び医療・介護用品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フタロシアニンは、染料として合成された物質であるが、その後様々な機能が見出され応用製品が開発されている。フタロシアニン環の外周部にアニオン基、またはカチオン基を導入した誘導体は、水溶性となり各種基体物質への担持が可能となる。
【0003】
金属フタロシアニン誘導体を担持した繊維は、消臭性を示すことが多くの文献に記載され、広く知られている。それ以外の機能としては、例えば引用文献1には、金属フタロシアニン誘導体を繊維に担持した、止痒、鎮痒、消炎機能を有する繊維が開示されている。特許文献2には、金属フタロシアニン誘導体が担持された布帛のマスクが、殺菌、消臭機能を有する旨が記載されている。特許文献3には、金属フタロシアニンの誘導体を担持させた繊維素材はアレルゲンを分解する機能を有していることが開示されている。
【0004】
一方、特許文献4には、金属アンミン錯体で処理したセルロースに消臭機能のあることが記載されている。また特許文献5には、金属アンミン錯体で処理した蛋白質繊維に消臭、抗菌機能のあることが記載されている。
【0005】
従来、痴呆症、脳梗塞後遺症、麻痺などによって手指が拘縮して握り込んだままの状態となった患者等は、手指を固く握り込んでしまい、拘縮や変形を引き起こしたり、掌を爪で傷つけてしまったり、発汗による掌のむれや臭気の発生等がみられ、皮膚疾患を伴っていた。
【0006】
このような拘縮対策用具として、例えば、特許文献6には、手のひらを保護するための握り部を有し、握り部の外装用材料として制菌作用または消臭、吸湿作用を持った布生地を用いることが開示されている。特許文献7には、指の拘縮された人に対して、光半導体粉末を含有する光触媒機能体を付着させた不織布で棒状体の表面を覆った介護用品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−58897号公報
【特許文献2】特開2004−357871号公報
【特許文献3】特開2007−31929号公報
【特許文献4】特公平5−65191号公報
【特許文献5】特開平10−273875号公報
【特許文献6】特開2004−201976号公報
【特許文献7】特開2002−714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
拘縮(手拘縮)で苦しんでいる多くの患者、高齢者等は、そのきつく握った手によって、不潔で独特な臭い、具体的には分解された脂肪酸生成物を発生させる。また、掌、指、指の付け根は、例えば白癬菌類病(足白癬)等の皮膚疾患を発症させる。そのため、単に拘縮の人の手に握らせる物品だけでは、このような臭い、病原菌を低減させることはできなかった。
【0009】
本発明の発明者は、金属フタロシアニンの酵素様触媒作用を永年に渡って研究し、その酸化還元触媒機能によって細菌の増殖を抑制することを見出した。本発明は、金属フタロシアニンの持つそのような特性を利用し、さらに金属アンミン錯体を付加することによって、強力な抗菌性および消臭性を備えた素材を提供し、特に拘縮により生じる独特の臭い、皮膚疾患を抑制または予防できる医療・介護用品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するためになされた本発明の請求項1に係る発明の抗菌消臭材は、
下記I式
【0011】
【化1】

(I式中、MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Osから選択される金属、R、R、RおよびRは同一または異なる−COOH基または−SOH基であり、n1、n2、n3およびn4は0〜4で1≦n1+n2+n3+n4≦8を満たす正数)で示される金属フタロシアニン誘導体と、金属アンミン錯体とが素材に担持されている。
【0012】
同じく請求項2に係る発明の抗菌消臭材は、請求項1に係る発明の抗菌消臭材であって、上記I式中のMはFeであり、R、R、RおよびRは同一または異なる−COOH基であり、n1、n2、n3およびn4は0〜4で1≦n1+n2+n3+n4≦4を満たす正数で示される金属フタロシアニン誘導体であることを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る発明の抗菌消臭材は、請求項1に係る発明の抗菌消臭材であって、前記金属アンミン錯体が銅アンミン錯体イオンであることを特徴とする。
【0014】
請求項4に係る発明の抗菌消臭材は、請求項1に係る発明の抗菌消臭材であって、前記素材が繊維であることを特徴とする。
【0015】
さらに前記課題を解決するためになされた本発明の請求項5に係る発明の繊維構造物は、請求項4に記載の抗菌消臭材を少なくとも一部に含むことを特徴とする。
【0016】
また前記課題を解決するためになされた本発明の請求項6に係る発明の医療・介護用品は、請求項1に記載の抗菌消臭材を少なくとも一部に繊維構造物であり、皮膚疾患の患部に接触または被覆するために用いられる。
【0017】
請求項7に係る発明の医療・介護用品は、請求項6に記載の医療・介護用品であって、前記皮膚疾患が拘縮によるものであり、拘縮により発生する低級脂肪酸臭を消臭する機能を有するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の抗菌消臭材は、多くの細菌の増殖を抑えるのに有効である。特にはブドウ球菌に対する抗菌性が優れている。また、本発明の抗菌消臭材は、アンモニア等の汗が分解して発生する汗由来の臭い成分、及び酢酸、酪酸、イソ吉草酸など低級脂肪酸等の身体から分泌される皮脂が分解して発生する皮脂由来の臭い成分を有効に消臭することができる。
【0019】
さらに、本発明の抗菌消臭材は抗菌性および消臭性を備えた繊維構造物を構成し、抗菌性および消臭性を備えた繊維製品に加工される。
【0020】
さらにまた、前記繊維構造物を皮膚疾患の患部に接触または被覆するために用いられる医療・介護用品は、特に拘縮により発生する細菌に対して増殖を抑えることができ、拘縮により発生する独特の臭いを低減することができ、皮膚疾患を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】皮膚疾患患者の握り棒使用前の手のひらを現す図面代用参考写真である。
【図2】皮膚疾患患者の握り棒使用後の手のひらを現す図面代用参考写真である。
【図3】握り棒使用した快適性を官能評価した結果を現すグラフである。
【図4】握り棒使用した消臭性を官能評価した結果を現すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の抗菌性および消臭性を備えた抗菌消臭材は、金属フタロシアニン誘導体と、金属アンミン錯体とを含むものである。有効成分となる金属フタロシアニン誘導体は、前記I式のとおりである。
I式中、MがCo、RおよびRが−COOH基である場合、下記II式
【0023】
【化2】

に示す構造となる。
【0024】
同じく金属フタロシアニン誘導体は、I式中、MがFe、R、R、RおよびRがすべて−COOH基、n1、n2、n3およびn4が各々1であると、下記III式
【0025】
【化3】

に示す構造となる。
【0026】
この鉄フタロシアニンテトラカルボン酸は、以下のようにして合成できる。ニトロベンゼンにトリメリット酸無水物と、尿素と、モリブデン酸アンモニウムと、塩化第二鉄無水物とを加えて撹拌し、加熱還流させて沈殿物を得る。得られた沈殿物にアルカリを加えて加水分解し、次いで酸を加えて酸性にすることで得られる。
【0027】
同じく金属フタロシアニン誘導体は、I式中、MがFe、R、R、R、およびRがすべて−COOH基、n1、n2、n3およびn4が各々2であると、下記IV式
【0028】
【化4】

に示す構造となる。
【0029】
同じくI式に示す金属フタロシアニン誘導体は、I式中、MがCo、RおよびRが−SOH基である場合、下記V式
【0030】
【化5】

に示す構造となる。
【0031】
同じく金属フタロシアニン誘導体は、I式中、MがFe、R、R、RおよびRが−SOH基であると、下記VI式
【0032】
【化6】

に示す構造となる。
【0033】
抗菌消臭材の有効成分となるこれらの金属フタロシアニン誘導体は、公知の方法により製造されるものであり、染料をはじめとし、酵素態様機能を有する機能性物質として上市もされている。鉄フタロシアニンテトラカルボン酸は、ニトロベンゼンにトリメリット酸無水物と、尿素と、モリブデン酸アンモニウムと、塩化第二鉄無水物とを加えて撹拌し、加熱還流させて沈殿物を得、得られた沈殿物にアルカリを加えて加水分解し、次いで酸を加えて酸性にすることで得られる。コバルトフタロシアニンオクタカルボン酸は、上記鉄フタロシアニンテトラカルボン酸の原料であるトリメリット酸無水物に代えてピロメリット酸無水物、塩化第二鉄無水物に代えて塩化第二コバルトを用いて同様の方法で製造可能である。
【0034】
前記金属フタロシアニン誘導体が抗菌性を有する理由は定かではないが、金属フタロシアニンは、還元性の悪臭物質や生体のタンパク質の一部が配位することにより、酸素を還元してスーパーオキシドイオンを生成し、これが抗菌作用を示し、フタロシアニン環の安定性、中心金属イオンの活性の両面において、高い抗菌性能を有していると考えられる。
【0035】
前記金属フタロシアニン誘導体の中心金属Mは、Fe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Osから選択されるが、抗菌活性の点ではFeまたはCoであることが好ましい。
【0036】
前記金属フタロシアニン誘導体の官能基は、−COOH基、−SOH基、またはそれらの塩から選択されるが、抗菌活性の点では−COOH基またはその塩であることが好ましい。
【0037】
前記金属フタロシアニン誘導体の塩としては、例えば無機塩基との塩、有機塩基との塩等が挙げられる。無機塩基との塩の好適な例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;ならびに銅(II)塩、アンモニウム塩などが挙げられる。有機塩基との塩の好適な例としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン等との塩が挙げられる。
【0038】
前記金属フタロシアニン誘導体は、官能基の数、すなわちn1〜n4の合計が4以下であることが好ましい。官能基の数が4以下であると、抗菌効果が高い傾向にある。例えば、官能基が−COOH基では、官能基の数は1〜4であり、−SOH基では、官能基の数は1または2であることが好ましい。
【0039】
金属フタロシアニンの誘導体は、有機物、無機物の素材(担体)に担持または混合して抗菌消臭材とすることもできる。金属フタロシアニン誘導体の担体に対する含有量は、担体に担持または混合でき、且つ抗菌効果を発揮し得る範囲であれば特に限定されないが、例えば担体に対して金属フタロシアニン誘導体が0.1〜10質量%であることが好ましい。より好ましい金属フタロシアニン誘導体の含有量は、0.3〜5質量%であり、さらにより好ましくは0.5〜3質量%である。金属フタロシアニン誘導体の含有量が上記範囲を満たすと、十分な抗菌効果を発揮することができる。
【0040】
前記金属フタロシアニン誘導体を素材(担体)に担持させるとき、素材を予めカチオン化処理していることが好ましい。カチオン化処理することにより、金属フタロシアニン誘導体の担持効果が大きくなるとともに、金属フタロシアニン誘導体が高い活性状態を保つこと、及び金属フタロシアニンが反応しなかった残基が抗菌活性を有するのでより一層の抗菌効果を高めることができる。
【0041】
前記カチオン化処理におけるカチオン化剤は、例えば、第4級アンモニウム塩型クロルヒドリン誘導体、第4級アンモニウム塩型高分子、カチオン系高分子、クロスリンク型ポリアルキルイミン、ポリアミン系カチオン樹脂、グリオキザール系繊維素反応型樹脂等が挙げられ、これら単独または2種以上組み合わせたものが用いられる。特に、第4級アンモニウム塩型クロルヒドリン誘導体が好ましい。
【0042】
金属フタロシアニンの誘導体が担持された有機物または無機物の担体には、金属アンミン錯体が担持される。銅、銀、亜鉛から選ばれる金属のアンミン錯体イオンを含む溶液などに浸漬、コーティング等の加工を施して、銅アンミン錯体イオン、銀アンミン錯体イオン、または亜鉛アンミン錯体イオンを担持することができる。
【0043】
金属アンミン錯体としては、銅アンミン錯体イオンの抗菌消臭効果が高く、特に好ましい。担体に、銅イオンを担持させる方法としては、例えば硫酸銅(CuSO)あるいは硝酸銅(Cu(NO)、具体的には硫酸銅五水和物をアンモニア水に溶解した溶液に浸漬して銅アンミン錯体イオンを吸着し、担持することができる。
【0044】
金属アンミン錯体の担体に対する処理量は、担体に担持または混合でき、且つ抗菌効果を発揮し得る範囲であれば特に限定されないが、担体に対して金属塩量が0.1〜20.0g/Lであることが好ましい。より好ましい金属塩量は、1.0〜10.0g/Lであり、さらにより好ましくは2.0〜5.0g/Lである。金属アンミン錯体の含有量が上記範囲を満たすと、十分な抗菌効果を発揮することができる。
【0045】
有機物の素材(担体)としては、繊維が特に好ましい。金属フタロシアニンの誘導体と金属アンミン錯体とを含む有効成分が担持された繊維(以下、「抗菌消臭繊維」ともいう)は、嵩量があり大きな表面積を持つため、金属フタロシアニン或いはその誘導体が効率よく空気中の菌やガスに接触する。
【0046】
繊維素材は、例えばセルロース系繊維(木綿、麻、レーヨン、パルプなど)、蛋白質系繊維(羊毛、絹など)、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリウレタン系繊維などあらゆる天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維が使用される。なかでもセルロース系繊維、特に木綿またはレーヨンは、吸水性が良いため、吸水した担体として酵素様機能を発現するための好条件をそなえている。また、前記天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維を用いて糸、織編物、ウェブ、不織布、紙、ネット等の繊維構造物を構成した後に前記金属フタロシアニンの誘導体と金属アンミン錯体とを含む抗菌消臭成分を担持させてもよい。
【0047】
繊維構造物を構成した後に前記金属フタロシアニンの誘導体を担持させる方法としては、バインダー成分を含む金属フタロシアニン誘導体溶液を繊維構造物へ印刷、噴霧またはコーターを用いて塗布する方法、繊維構造物を該溶液へ浸漬させる方法、あるいは直接染色、イオン染色などの染色法がある。イオン染色法とは、コットン、レーヨンなどの繊維にカチオン基を結合させ、そのカチオン基と染料の持つカルボキシル基やスルホン基のアニオン基をイオン的に結合させて行う染色法である。
【0048】
前記抗菌消臭繊維は、例えば、シート状物、樹脂成型物、無機成型物などに添加して用いることもできる。また、バインダー等を併用して、シート状物、樹脂成型物、無機成型物などに接着することができる。
【0049】
前記抗菌消臭繊維の断面形状は特に限定されず、円形、異形、中空等のいずれであってもよい。また、抗菌消臭繊維の繊維長も特に限定されず、長繊維、短繊維、微細繊維等のいずれであってもよい。長繊維であれば、紡糸後そのままボビン等に繊維を巻き付けることにより得ることができる。短繊維であれば、カッターなどで所定の繊維長に切断するか、天然繊維であればそのまま用いることができる。微細繊維であれば、グラインドミルなどですり潰すようにして裁断し、任意のメッシュを有する篩にかけて分級することにより得ることができる。すり潰して裁断した微細繊維は適度に湾曲している。さらに、前記抗菌消臭繊維の繊度は特に限定されず、用途に応じて適宜選定するとよい。
【0050】
本発明の抗菌消臭繊維構造物は、前記抗菌消臭繊維を少なくとも一部に含み、糸、織編物、ウェブ、不織布、紙、ネット等に成形して用いることができる。また、前記繊維構造物とフィルム等の他のシートと積層した積層シートとしてもよい。
【0051】
前記抗菌消臭繊維構造物は、前記抗菌消臭繊維100質量%であってもよいが、他の抗菌消臭繊維との混合、あるいは抗菌・消臭効果が得られる範囲内で他の繊維と混合してもよい。他の繊維と混合する場合は、抗菌消臭繊維が少なくとも20質量%であることが好ましい。より好ましくは、少なくとも30質量%である。さらにより好ましくは、50質量%以上である。
【0052】
例えば担体となる繊維(以下、担体用繊維ともいう)を準備し、繊維構造物を作製した後、抗菌性・消臭性の有効成分を担持させる場合、繊維構造物は、担体用繊維100質量%であってもよいが、他の抗菌消臭繊維との混合、あるいは抗菌・消臭効果が得られる範囲内で他の繊維と混合してもよい。他の繊維と混合する場合は、担体用繊維が少なくとも20質量%であることが好ましい。より好ましくは、少なくとも30質量%である。さらにより好ましくは、50質量%以上である。
【0053】
前記抗菌消臭繊維構造物が不織布の場合、繊維ウェブの形成方法は、カード法、エアレイド法、湿式抄紙法、スパンボンド法、メルトブローン法、フラッシュ紡糸法、静電紡糸法などを用いることができる。得られた繊維ウェブは、エアースルー不織布や熱圧着不織布などのサーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、ニードルパンチ不織布、水流交絡不織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布などに加工される。経緯直交積層繊維不織布、湿式抄紙、ネット、フィルム、織編物などを積層して適用できる。特に、スパンボンド不織布、一方向延伸配列繊維不織布、および経緯直交積層繊維不織布は、積層した後の不織布強力を大きくすることができるので、補強層として好ましく用いられる。
【0054】
例えば、フィルムを積層一体化した防水性や透湿防水性を有する抗菌消臭繊維構造物は、例えば、病院用ベッドシーツ、病院用カーテン、手術用シーツ、実験シートなどの医療用シートに用いることができる。
【0055】
サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、及び水流交絡不織布は、例えばエアフィルターに用いることができる。エアフィルターに用いる場合、中粗塵用フィルターであれば、構成する繊維の繊度は、2〜50dtexであることが好ましい。目付は30〜150g/mであることが好ましい。このようにして得られたエアフィルターは、エアコン、空気清浄機、掃除機などの家電用フィルターとして用いることができる。
【0056】
本発明の抗菌消臭繊維構造物は、衛生マスク、サージカルマスク、防塵マスク(例えば、N95対応マスク(Particulate Respirator Type N95)、呼吸用保護具)等のマスクに用いることもできる。マスクに用いることができる抗菌消臭繊維構造物としては、前記サーマルボンド不織布や水流交絡不織布が挙げられる。マスクに用いることができる抗菌消臭繊維の繊度は、1〜10dtexであることが好ましい。より好ましくは、2〜8dtexである。目付は、30〜60g/mであることが好ましい。マスクの構成としては、例えば、外側から口側にかけて、補強不織布(例えば、スパンボンド不織布、サーマルボンド不織布)/本発明の抗菌消臭不織布/極細繊維不織布(例えば、メルトブローン不織布)/補強または柔軟不織布(例えば、スパンボンド不織布、サーマルボンド不織布)の積層構造にすると、抗菌・消臭性能を効果的に発揮することができる。
【0057】
本発明の抗菌消臭繊維構造物の別の一例として、抗菌消臭繊維を5mm以下に切断した短繊維、または粉砕した微細繊維(以下、総称して繊維パウダーともいう)を他の繊維表面に担持させた不織布が挙げられる。このように繊維パウダーにした抗菌消臭繊維は、バインダーにより他の繊維表面に担持することができる。バインダーにより抗菌消臭繊維パウダーを担持する方法としては、例えば、抗菌消臭繊維パウダーと、バインダー(例えば、アクリルバインダー、ウレタンバインダーなど)を所定量添加してバインダー溶液を調製し、繊維基布に対してバインダー溶液を浸漬、噴霧(例えば、スプレーボンド)、コーティング(例えば、ナイフコーター、グラビアコーター)等により付着させ、乾燥及び/またはキュアリングして、抗菌消臭繊維パウダー担持不織布を得ることができる。また、別の方法としては、抗菌消臭繊維パウダーの水分散液を調整し、熱接着性繊維または湿熱接着性繊維を含む繊維構造物に水分散液を浸漬、噴霧、コーティング等により抗菌消臭繊維パウダーを付着させた後、熱処理して熱接着性繊維または湿熱接着性繊維によりパウダーを接着させて、抗菌消臭繊維パウダー担持不織布を得ることもできる。
【0058】
抗菌消臭繊維は、例えば衣類(帽子、手袋、ハンカチを含む)、寝具(布団、枕を含む)、カーテン、壁紙、カーペット、マット、シーツ、フィルター、マスク、ワイパー、医療用シート材、医療・介護用品(医療・介護用握り棒(ハンドグリップ))のごとき繊維製品の少なくとも一部に含まれて、日常の生活に供され、抗菌・消臭機能を発揮させることができる。
【0059】
本発明の医療・介護用品は、前記抗菌消臭材を少なくとも一部に含む繊維構造物であり、皮膚疾患の患部に接触または被覆するために用いられる。このように使用すると、抗菌・消臭作用により皮膚疾患を防止したり、患部を治癒したり、その症状を緩和させたりすることができる。また、発汗や皮膚疾患に伴う臭気の発生を防止または抑制することができる。
【0060】
前記医療・介護用品として具体的には、痴呆症、脳梗塞後遺症、麻痺などによって手指が握り込んだままの状態となった拘縮による皮膚疾患(痒み、表皮剥離、びらん、膿疱のような皮疹など)に対して抗菌作用により、患部を治癒したり、その症状を緩和させたり、皮膚疾患を予防したりすることができる。また、拘縮により発生するアンモニア等の汗が分解して発生する汗由来の臭い成分、及び酢酸、酪酸、イソ吉草酸など低級脂肪酸等の身体から分泌される皮脂が分解して発生する皮脂由来の臭い成分を有効に消臭することができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により抗菌消臭材を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
(比較例1)
木綿からなる編物(よこ編み、厚さ0.5mm、目付110g/m)を精練・漂白した後、カチオン化剤として50cc/LのカチオノンUK(一方社製の商品名)と、15g/Lの水酸化ナトリウム水溶液との混合液10Lに、浴比1:10の条件で入れ、80℃で45分間反応させた。得られたカチオン化木綿編物を十分に水にて洗浄した後、濃度0.5%owfの鉄(III)フタロシアニンテトラカルボン酸の水酸化ナトリウム溶液(pH=12)10L中に浸し、80℃で30分間撹拌した後、酸で中和し、木綿編物を染色した。得られた染色木綿編物を十分に水にて洗浄して乾燥し、鉄(III)フタロシアニンテトラカルボン酸が担持された編物である比較例1の試料を得た。
【0063】
(実施例1)
上記比較例1の試料を、硫酸銅五水和物80gをアンモニア水溶液(15cc/L)の20Lに投入し、30℃で20分間撹拌しながら浸漬した。これを十分に水にて洗浄して乾燥し抗菌消臭編物である実施例1の試料を得た。
【0064】
(比較例2)
無加工の標準綿布を試料として使用した。
【0065】
(抗菌性試験)
試験対象菌株:黄色ぶどう球菌 Staphylococcus aureus ATCC 6538P
試験方法:JIS L 1902:2008定量試験(菌液吸収法)
生菌数の測定方法:混釈平板培養法
増殖値算出方法:log b ‐log a (試験成立条件は増殖値≧1.0であること)
各活性値の算出方法:殺菌活性値=log a ‐log c
静菌活性値=(log b ‐log a)-(log c ‐log o)
【0066】
(抗菌性試験結果)
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
比較例1の試料、実施例1の試料は、ともに抗菌防臭加工の評価基準である制菌活性値が2.2以上をクリアしていた。特に実施例1の試料は、静菌活性値が3.7であり、評価基準を大きくクリアしており、生菌数が、比較例1の試料の生菌数と比べ約1/10に減少したことから、高い抗菌性を有することが確認できた。
【0070】
(消臭性試験)
消臭性試験は、拘縮により発生するとされる身体から分泌される皮脂が分解して発生する皮脂由来の臭い成分として、低級脂肪酸のモデルガスとして酢酸を用いた。
試験方法:各試料1gを5リットルテドラーバッグに入れ、規定濃度の酢酸ガス3リットルを注入し、経時毎にガス検知管で濃度を測定した。結果を表3に示す。
【0071】
(消臭性試験結果)
【0072】
【表3】

【0073】
比較例1の試料は、比較例2の試料に比べほぼ2倍の消臭効果を有していたが、さらに銅アンミン錯体を含む実施例1の試料は、比較例1の試料よりも消臭効果が高く、24時間でほぼ無臭化することが確認できた。
【0074】
抗菌・消臭性が確認された実施例1の編物試料を用いて、拘縮の患者用に握り棒を以下のように作製した。
(握り棒の作製)
握り部の袋状物及び帯を作製するため、編物試料を所定の大きさに裁断した。まず握り部形成用編物地は、編地の縦方向に13cm、横方向に26cmの長方形状に裁断した。一方、帯は、長さ21cm、幅4cmの短冊状に裁断し、4本準備した。次に、握り部形成用編物地を横方向に2つ折りした。帯の端部を3段折りにして握り部の胴部に相当する編物地の長辺側(編地の縦方向側)に重ね合わせ、さらに編物地を横方向に2つ折りして、編物地が筒状になるように縫製した。さらに、筒状に一端を縫製して、他端が開閉可能な開口部を有する、長辺が約13cm、短辺が5.5cmの長方形の袋状物に、長さ約20cm、幅約4cmの帯を、接合部の帯の幅2〜2.5cmで接合したハンドグリップのカバーを作製した。
一方、握り部の袋状物に詰めるクッション体として、低反発ウレタンフォームを細かく裁断し、ネットに挿入したものを準備した。
上記ハンドグリップのカバーの開口部からクッション体を挿入して、棒状の握り棒を得た。
【0075】
(治験)
得られた握り棒を拘縮により皮膚疾患と臭気を発する患者に対して1週間使用し、その皮膚の状態を視覚的に検討した。皮膚疾患のあった患者のその手掌の皮膚の状態は、使用前は図1に示す状態であったが、図2に示すように1週間で著しく回復していた。
【0076】
また、指の付け根(指の間)の皮膚の状態を観察したところ、皮膚は3〜4日で健康な状態に回復していた。
【0077】
次に、本発明の抗菌消臭材を用いた握り棒を使用したときの快適性について、官能評価した。評価結果をグラフにし、図3に示す。快適性の評価基準は、以下のとおりとした。
(快適性評価)
0:快適である
-1:わずかに不快さがある
-2:不快さがある
-3:非常に不快さがある
-4:極端に不快である
グラフの横軸は使用日数、縦軸は快適性評価の点数合計をSenstivity scaleとして表している。
【0078】
握り棒を作製し、本発明の抗菌消臭材を直接、拘縮の患者の手指に接触させることにより、3〜4日でよく回復し、ほぼ1週間で完全に回復することが証明された。この治癒効果は、カチオン化された繊維素材に金属フタロシアニン誘導体を担持させ、さらに金属アンミン錯体を担持させた有効成分の抗菌作用に起因するものと考えられる。
【0079】
次に、拘縮により発生する臭気について、本発明の抗菌消臭材を用いた握り棒を使用したときの臭い変化について、官能評価した。評価結果をグラフにし、図4に示す。消臭性の評価基準は、以下のとおりとした。
0:無臭である
1:かろうじて感じることができる程度の臭いがある
2:弱いが、確実な臭いが認識できる
3:容易に認識できる臭いがある
4:強烈な臭いがある
5:極めて強烈な臭いがある
グラフの横軸は使用日数、縦軸は快適性評価の点数合計をSenstivity scaleとして表している。
【0080】
拘縮に起因する臭気は、日々改善されて4日目にはほとんど臭わないレベルまで低減することができ、1週間後はほぼ無臭のレベルまで低減することが証明できた。その臭気が改善されるにつれて、その皮膚の治癒も進んだ。この消臭効果は、カチオン化された繊維素材に金属フタロシアニン誘導体を担持させ、さらに金属アンミン錯体を担持させた有効成分の消臭作用に起因するものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の抗菌消臭材は、繊維素材に担持されて、糸、織編物、ウェブ、不織布、紙、ネット等に成形して、様々な繊維産業に使用できる。また、本発明の抗菌消臭繊維構造物は、接触する菌を効果的に死滅させるので医療に役立ち、特に皮膚疾患による痒み、表皮剥離、びらん、膿疱のような皮疹など症状を抑制、予防し、皮膚疾患に起因する皮脂が分解して発生する皮脂由来の臭い等を低減することができる医療・介護用品として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記I式
【化1】

(I式中、MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Osから選択される金属、R、R、RおよびRは同一または異なる−COOH基または−SOH基であり、n1、n2、n3およびn4は0〜4で1≦n1+n2+n3+n4≦8を満たす正数)で示される金属フタロシアニン誘導体と、金属アンミン錯体とが素材に担持されている抗菌消臭材。
【請求項2】
上記I式中のMはFeであり、R、R、RおよびRは同一または異なる−COOH基であり、n1、n2、n3およびn4は0〜4で1≦n1+n2+n3+n4≦4を満たす正数で示される金属フタロシアニン誘導体であることを特徴とする請求項1に記載の抗菌消臭材。
【請求項3】
前記金属アンミン錯体が銅アンミン錯体イオンであることを特徴とする請求項1に記載の抗菌消臭材。
【請求項4】
前記素材が繊維であることを特徴とする請求項1に記載の抗菌消臭材。
【請求項5】
請求項4に記載の抗菌消臭材を少なくとも一部に含むことを特徴とする抗菌性および消臭性を備えた繊維構造物。
【請求項6】
請求項1に記載の抗菌消臭材を少なくとも一部に含む繊維構造物であり、皮膚疾患の患部に接触または被覆するために用いられる医療・介護用品。
【請求項7】
前記皮膚疾患が拘縮によるものであり、拘縮により発生する低級脂肪酸臭を消臭する請求項6に記載の医療・介護用品。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−95733(P2012−95733A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244238(P2010−244238)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000002923)ダイワボウホールディングス株式会社 (173)
【出願人】(306024078)ダイワボウノイ株式会社 (11)
【出願人】(804000015)株式会社信州TLO (30)
【出願人】(508042869)学校法人 大妻学院 (2)
【Fターム(参考)】