説明

抵抗回路付プリント配線板及びその製造方法

【課題】従来、回路幅が大きく異なる設計を必要とした信号伝達回路と電源供給用回路等との回路幅を極力近づけ、実質的な小型化の可能な抵抗回路付プリント配線板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】導電層と絶縁層とを含む金属張積層板をエッチング加工することにより得られるプリント配線板であって、同一基準平面に形成した厚さの異なる第1回路と第2回路とが併存した抵抗回路付プリント配線板を採用する。そして、当該プリント配線板の製造は、第1銅層/ニッケル系異種金属層/第2銅層の3層が順次積層した状態のクラッド複合材を出発材料として、ニッケル系異種金属層と銅層との選択エッチング特性を有効利用した点に特徴を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件出願に係る発明は、抵抗回路付プリント配線板及びその製造方法に関する。特に、厚さの異なる第1回路と第2回路とが同一基準平面内に併存する抵抗回路付プリント配線板及び抵抗回路付プリント配線板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プリント配線板は、絶縁基材の表面に導体層を設け、その導体層をエッチング加工する等して回路形状を形成し、この回路内にICチップ、コンデンサー等の部品を実装することにより、家電製品を始めとする民生電気製品、コンピュータ等に代表される産業電子機器の中に用いられてきた。
【0003】
係るプリント配線板は、絶縁基材の表面に、特許文献1にあるように銅箔を張り合わせたり、特許文献2にあるようにアディティブ法で銅層を形成したり、特許文献3にあるようにスパッタリング蒸着法を用いる等して、銅張積層板を一旦製造し、形成した銅層にエッチングレジスト層を設け、エッチングパターンを露光、現像し、銅エッチングを行うことにより、回路形状を形成してきた。
【0004】
このようにして製造される回路は、回路に対する微細化の要求から、ファインピッチ化が進められてきた。ところが、回路の使用目的から、回路の種類は、駆動系を制御する回路幅の狭い信号伝達回路と、電源供給若しくはアース効果を得るための回路(以下、電源供給用及びGND回路を含む意味で、単に「電源供給用回路等」と称する。)とに大別して考えることが可能である。信号伝達回路は、ON/OFF動作、演算速度等を制御するシグナル電流を伝達する回路であり、総じて大電流が流れることのない回路である。これに対し、電源供給用回路等は、プリント配線板に搭載されたチップ部品、コンデンサー(キャパシタ)等に対する電源用電流を供給するため若しくはアースとしての機能を果たすものであり、上述のシグナル電流と比較したときには、かなりの大電流が流れる回路となる。
【0005】
そして、回路の電気抵抗R(Ω)は、物質の固有抵抗ρ(Ω・cm)、長さL(cm)、断面積S(cm)とすると、R(Ω)=ρ・L/Sの計算式で算出されるものである。更に、消費電力量W(ワット)は、電流をI(A)とすると、W(ワット)=IRで計算される。これらの式から分かるように、回路の抵抗値は面積が小さくなるほど、抵抗値が高くなり、抵抗値が高くなるほど消費電力量も大きく、結果として動作時の発熱量も多くなる。従って、信号伝達回路の回路幅に比べ、電源供給用回路等の回路幅を広くし、動作時のプリント配線板からの発生熱量を削減する設計が行われている。
【0006】
一方、近年の、プリント配線板を組み込む電子機器等のデバイス側に対し、軽量化、小型化、薄型化の要求が止まるところを知らずに行われている。その結果、デバイス側の限られた収納空間に合わせ、プリント配線板の小型化、薄物化の要求も当然に行われてきた。
【0007】
更に、近年、信号伝達速度を制御して、デバイス側の動作特性をより細かく制御するため、プリント配線板の回路内に抵抗回路を設けて遅延信号を意図的に作り出す等のインピーダンスコントロールに対する要求が高まっている。このような要求に応えるため、特許文献4に開示されているように、ニッケル層を表面に備えた銅箔を用いて、金属張積層板を製造し、これをエッチング加工することにより、抵抗回路付プリント配線板が供給されてきたが、同一基準平面内の回路の全てを信号伝達用の抵抗回路として使用するものであった。
【0008】
【特許文献1】特開平07−007272号公報
【特許文献2】特開平07−111386号公報
【特許文献3】特開2000−286530号公報
【特許文献4】特開2003−200523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来のプリント配線板の製造方法を採用する限り、信号伝達回路と電源供給用回路等に対する設計思想は変更のしようもなく、信号伝達回路に比べて、幅広の電源供給用回路等を形成することは避けられなかった。このため、回路の設計思想そのものが、プリント配線板の小型化の障害にもなっていたと言える。
【0010】
また、大電流を流す予定の基板などの場合には、電源供給用回路等は厚銅で形成した層をエッチング加工して形成し、一方、信号伝達回路は回路特性に見合う銅厚で形成するため、各々の層を異なるものとして分離して構成する必要があり、プリント配線板の薄型化の障害にもなっていた。
【0011】
確かに、発熱量を増加させることなく、電源供給用回路等の幅を狭くしようとすると、供給電圧を下げるか、回路を形成する銅以上に電気的導電性に優れた材料を使用することが考えられるが、現実的ではない。
【0012】
更に、従来の抵抗回路付プリント配線板の場合、その製造方法故に、同一基準平面内の回路の全てが抵抗回路として製造され、一部分の抵抗層として寄与するニッケル層を部分的に剥離しようとしても、工程が煩雑且つ困難なものにならざるを得なかった。
【0013】
以上のことから、同一基準平面内の信号伝達回路と電源供給用回路等との回路幅を可能な限り近づけ、しかも、その平面内に抵抗回路と通常回路とを併存させ、実質的な小型化の実現が可能で、インピーダンス制御等の可能な抵抗回路付プリント配線板及びその製造方法が求められてきた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、本件発明者等は、鋭意研究の結果、プリント配線板の電源供給用回路等として使用する回路の断面積を確保するため、回路幅を広げるのではなく、回路高さを大きくし、且つ抵抗回路付プリント配線板及びその製造方法に想到したのである。以下、本件発明に係る「抵抗回路付プリント配線板」及び「抵抗回路付プリント配線板の製造方法」とに分けて述べることとする。
【0015】
<抵抗回路付プリント配線板>
本件発明に係るプリント配線板の基本的構成は、「導電層と絶縁層とを含む金属張積層板をエッチング加工することにより得られるプリント配線板であって、同一基準平面に形成した複数の厚さの異なる回路が併存し、且つ、一つの回路が抵抗回路であることを特徴とした抵抗回路付プリント配線板。」として表すことができる。これらのプリント配線板の一部を例示的に断面模式図として示したのが図1である。このような構造を採用することにより、電源供給用回路等の幅を広げることなく、回路高さを調節することで電源供給用回路等と信号伝達回路との回路幅を近づけ、その結果として、プリント配線板の小型化が可能となる。しかも、いずれか一方の回路が抵抗回路として機能するため、通常回路と抵抗回路とが同一基準平面に併存するプリント配線板ともなる。
【0016】
ここで、複数の厚さの異なる回路に関して説明する。本件発明の説明では、厚さの異なる2種の回路を含む場合には、説明が容易となるように「第1回路」と「第2回路」と言うように回路を区分して説明している。本件発明に言う第1回路、第2回路とは、その回路としての厚さ(断面積)が異なる事の説明上、便宜的に用いた用語である。例えば、第1回路の断面積を、第2回路の断面積より大きなものとして、電源供給用回路等として用いて、断面積の小さな第2回路を信号伝達回路(抵抗回路となる場合を含む)として使用することを可能とするのである。本件発明において第1回路、第2回路と分別して述べているのは、単に回路厚さを見て、厚い回路(断面積の大きな回路)と薄い回路(断面積の小さな回路)という意で用いているのであり、回路幅の広狭を意味するものではない。また、第1回路の全てが同一の回路幅であること、第2回路の全てが同一の回路幅であることを意味するものでもない。
【0017】
そして、「同一基準平面」とは、プリント配線板を製造するときに用いるガラス−エポキシプリプレグ、ガラス−ポリイミドプリプレグ等の基材が作り出す平面的な絶縁層の表面若しくは界面を意味している。そして、「同一基準平面内に形成した第1回路と第2回路と・・・・」とあるが、プリント配線板を断面から観察したときに、その同一基準平面と第1回路、第2回路が接する状態で配置されていることを意味している。
【0018】
従って、本件発明に係るプリント配線板において、第1回路及び第2回路のいずれもが基材表面から突出配置し、一方の回路の一部がプリント配線板表面に埋設配置された状態となる。このように、いずれかの回路がプリント配線板表面から突出配置されることで、突出した厚い回路を電源供給用回路等として使用すれば、放熱フィンと構造上類似しており、放熱効果が高くなる。そして、薄い回路を抵抗回路として信号伝達回路に使用できるのである。
【0019】
また、第1回路、第2回路の最も厚い回路厚さをTμmとしたとき、他の回路厚さTがT/100〜T(μm)である事が好ましい。これを具体的に言えば、厚い方の回路厚さが500μmであると、薄い回路は5μm〜500μmの範囲の厚さをもつ事になるのである。この第1回路又は第2回路の厚さは、供給電流量に応じて適宜最適な設計がなされるものであり、特に限定を要するものではないため、一方の回路厚さを範囲として記載しているのである。本件発明において、第1回路又は第2回路各々の厚さが異なれば、特にどの程度の厚さの差があるかは問題ではない。しかしながら、後述する本件発明に係る製造方法から理解出来るように、本件発明に係るプリント配線板の製造には、第1銅層/ニッケル系異種金属層/第2銅層の3層構造のクラッド複合材を用いることを予定しており、工業的に生産可能なクラッド複合材を考慮すると、上述の如き回路厚の差が設けられるのである。
【0020】
そして、ニッケル系異種金属層となるニッケル若しくはニッケル合金層は、0.1μm〜12μmである事が好ましい。このニッケル若しくはニッケル合金層の厚さが0.1μm未満の場合には、銅エッチングの時のバリア層としての機能を果たし得ず、且つ、膜厚均一性に優れた被膜としての形成が困難となり、良好なインピーダンス制御及び抵抗形成が不可能となる。これに対し、ニッケル若しくはニッケル合金層の厚さが12μmを超えると、エッチングも困難となり、且つ、抵抗回路としての電気抵抗が低く当初の使用目体に合致しなくなる。従って、より確実に抵抗制御を行い、且つ、エッチングも比較的容易な条件を当てはめれば、より好ましくはニッケル若しくはニッケル合金層の厚さが0.2μm〜10μmである。
【0021】
そして、第1回路又は第2回路のいずれか厚い方の回路は、第1銅層/ニッケル系異種金属層/第2銅層の3層が順次積層したクラッド状であり、当該ニッケル系異種金属層にニッケル及びこれらの合金(ニッケル−リン、ニッケル−クロム、ニッケル−銅、ニッケル−亜鉛、ニッケル−コバルト、ニッケル−鉄−コバルト)を用いたことを特徴とする。本件発明に係るプリント配線板は、後述する製造方法から明らかなように、第1銅層/ニッケル系異種金属層/第2銅層の3層が順次積層した状態のクラッド複合材を用いることで、効率の良い生産が可能となるものである。従って、後述する製造方法を採用する限り、いずれかの回路断面がクラッド状というのは不可避的に起こる現象で有るとも言えるが、本件発明に係るプリント配線板の大きな特徴となり得るのである。この異種金属層に用いるニッケル系金属成分は、銅との選択エッチングが可能なものである。即ち、銅を溶解させることなく、選択的にニッケル系異種金属のみを溶解除去出来るもので、このときに使用するエッチング液を「異種金属選択エッチング液」と称することとする。また、ニッケル系異種金属を溶解させることなく、銅のみを溶解させることも可能で、このときのエッチング液を「銅選択エッチング液」と称する事とする。
【0022】
<抵抗回路付プリント配線板の製造方法>
以下に述べる本件発明に係るプリント配線板の製造方法は、同一基準平面内に異なる厚みの回路を形成しようとしたときに、従来のプリント配線板の積層技術、エッチング方法及び装置を利用出来るため、特段の設備投資も不必要であり、効率の良い本件発明に係るプリント配線板の生産が可能となる。そして、本件発明において採用可能な製造方法は、所謂片面プリント配線板、両面プリント配線板、3層以上の多層プリント配線板いずれを製造するいくつかの方法に細分化して考えられるが、全ての層構成のプリント配線板も片面基板の製造方法が全ての基本であるため、以下片面基板の製造方法に関してのみを記載した。
【0023】
この抵抗回路付プリント配線板の製造方法は、片面張り、両面張りの双方の製造に適用可能であり、最も一般的な抵抗回路形態を備える抵抗回路付プリント配線板を製造する方法である。即ち、同一基準平面内に厚さの異なる第1回路と第2回路とが併存し、且つ、いずれかの回路が抵抗回路である片面若しくは両面プリント配線板の製造方法であって、以下に示す工程A〜工程Fを備えることを特徴とする。
【0024】
工程A: 第1銅層/ニッケル系異種金属層/第2銅層の3層が順次積層した状態のクラッド複合材を用いて、銅選択エッチング液で第2銅層のみをエッチング加工して、片面にエッチング回路パターンを形成し、回路パターン付クラッド複合材を得るクラッド複合材エッチング工程。
工程B: クラッド複合材エッチング工程で得られた回路パターン付クラッド複合材のエッチング回路パターン面を基材表面に当接させ、基材表面に張り合わせ当該エッチングパターンが絶縁層内に埋設した状態の金属張積層板とする積層工程。
工程C: 金属張積層板の外層面にある第1銅層にエッチングレジスト層を形成し、エッチング回路パターンを露光し、現像し、銅選択エッチング液を用いて外層に位置する第1銅層を所望の回路形状にエッチング加工し、エッチングレジスト剥離を行うことで、不要な第1銅層を除去し、ニッケル系異種金属層を露出させる第1銅エッチング工程。
工程D: 第1銅エッチング工程が終了すると、異種金属選択エッチング液を用いて回路間に露出したニッケル系異種金属層をエッチング除去し、第1回路を形成する異種金属エッチング工程。
工程E: 回路間に露出したニッケル系異種金属層のエッチング除去により形成した第1回路の部位にのみ、エッチングレジスト層の形成を行う再レジストレーション工程。
工程F: 再レジストレーション工程の終了後、銅選択エッチング液でエッチングを行うことで、エッチングレジスト層の無い第1銅層の部位をエッチング除去して、回路間にニッケル系異種金属層を備えた第2回路を形成し、エッチングレジスト剥離することで、厚さの異なる第1回路、第2回路、及び回路間の抵抗回路とが、基材の同一基準平面内に併存する抵抗回路付プリント配線板とする第2銅エッチング工程。
【0025】
そして、当該クラッド複合材を絶縁層の両面に張り合わせて両面プリント配線板を得ようとする場合には、上記工程Bと工程Cとの間に層間導通手段形成工程を設けることが可能である。
【0026】
更に、ここで用いるクラッド複合材の基材との張り合わせ面には、基材との密着性を向上させるための密着性向上処理を施すことも好ましい。
【0027】
上述してきた製造方法において使用するクラッド複合材として、当該ニッケル系異種金属層に銅との選択エッチングの可能なニッケル又はニッケル合金のいずれかを用いることが求められる。
【0028】
そして、前記クラッド複合材として、第1銅層/ニッケル系異種金属層/第2銅層の構成に於いて、トータル厚さが10μm〜2000μmであり、ニッケル系異種金属層の厚さが0.01μm〜5μmであるものを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本件発明に係る抵抗回路付プリント配線板は、抵抗回路を備えた状態で、大電流を流すために回路断面積を確保しなければならない部分は導体厚を厚くして対応でき、同時に信号レベルの電流の場合には薄い回路を同時形成し、しかも、インピーダンス制御等の可能な抵抗回路を同時形成できるものであるが、基板面積の実質的縮小化を可能と出来る。そして、回路厚の異なる回路を同一基準平面内に形成することで、電気的特性及び用途の異なる回路を同一基準平面上に形成したプリント配線板となる。また、プリント配線板の突出した回路部を放熱フィンと同様に機能させ、放熱用回路又は放熱板として利用することも可能となる。
【0030】
また、本件発明に係るプリント配線板の製造方法は、2層の銅層の間に異種金属層として、銅との選択エッチング可能なニッケル系異種金属層を含むクラッド複合材を用いることで、従来のプリント配線板の積層技術、エッチング方法及び装置を利用して、効率の良い本件発明に係る抵抗回路付プリント配線板の生産を可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本件発明に係る抵抗回路付プリント配線板の製造形態に関して述べるが、これらの製造においては、第1銅層/ニッケル系異種金属層/第2銅層の層構成を持つクラッド複合材を用いることが共通している。
【0032】
<片面又は両面プリント配線板の製造形態(1)>
この製造形態では、クラッド複合材を出発材料として、所謂片面プリント配線板又は両面プリント配線板を製造するのである。本件明細書では、同一基準平面内に厚さの異なる第1回路と第2回路とが併存する回路層を備えた片面若しくは両面プリント配線板の製造方法であって、以下に示す工程A〜工程Fを備えることを特徴とする。以下、工程を追って説明する。なお、以下の説明に際して、片面抵抗回路付プリント配線板の製造方法に関して図1〜図3を参照して説明する。
【0033】
工程A: この製造形態では、最初にクラッド複合材エッチング工程で、第1銅層/ニッケル系異種金属層/第2銅層(第1銅層3、ニッケル系異種金属層4、第2銅層5)の3層が順次積層した状態のクラッド複合材2(図1(a))を用いて、銅選択エッチング液で第2銅層のみをエッチング加工し、図1(c)のように片面にエッチング回路パターン21を形成し、図1(c)に示す第1回路パターン付クラッド複合材11を得る。この第1回路パターン付クラッド複合材11は、図1(b)に示すようにクラッド複合材2の両面にエッチングレジスト層10を形成し、図1(b)に示すように第2銅層のエッチングレジスト層のみに、一時回路21を形成するためのエッチング回路パターンを露光し、現像し、銅選択エッチング液を用いて外層に位置する第2銅層5を所望の回路形状にエッチング加工し、エッチングレジスト剥離を行うことで得られる。なお、誤解を招かないために明示しておくが、説明の都合上、第1銅層と第2銅層と区分しているが、いずれの銅層の方が厚い銅層であるかの限定はない。
【0034】
ここで、クラッド複合材は、(i)銅箔、ニッケル系異種金属箔、銅箔を順次積層して一体化させたもの、(ii)一枚の銅層の片面にニッケル系異種金属層を設け、そのニッケル系異種金属層の上に、他の銅箔を重ね合わせて圧延加工することで一体化させたものを用いることが好ましい。しかしながら、クラッドする場合の層間密着性を良好に保つため、真空雰囲気中で、クラッドする相互の層の接合面を活性化して、低圧下率で圧延することにより接合したクラッド複合材を用いることが最も好ましい。確かに、このようなクラッド複合材は、電解法で製造することも可能であるが、圧延加工法を用いる方が容易に一体化でき、しかも異種金属層の厚さ制御が容易となるのである。また、電解で銅層の上に、ニッケル系異種金属層を設けると、析出欠陥等を生じやすくなるが、一度圧延加工することで、ニッケル系異種金属層の欠陥消滅、膜厚の均一性が飛躍的に高まるのである。
【0035】
工程B: 積層工程に関して説明する。第1回路パターン付クラッド複合材11を用いて、図1(d)に示すように、クラッド複合材エッチング工程で得られた第1回路パターン付クラッド複合材11の一時回路21を形成したエッチング回路パターン面を基材6の表面に当接させ、基材表面に張り合わせ、図2(e)に示すような一時回路21が絶縁層6内に埋設した状態の金属張積層板7とする。
【0036】
なお、エッチング回路付クラッド複合材11の基材6との張り合わせ面には、予め密着性向上処理を施して、基材との密着性を向上させることで、プリント配線板に加工した後のヒートショックによるデラミネーション、ミーズリング等の不良発生を効率よく防止出来る。これに関しては、後に詳細に述べることとする。ここで言う密着性向上処理は、所謂黒化処理(耐ピンクリング性を考慮した還元黒化処理を含む)に代表されるものである。しかしながら、黒化処理の代わりに硫酸‐過酸化水素系マイクロエッチング剤(例えば、メック社製のメックエッチボンド等)を用いる方法、ヤケ銅メッキにより微細な銅粒子を析出付着させる等の手法を採用する事が可能である。以上及び以下において、密着性向上処理と称した場合には、これらの処理を意味するものとする。
【0037】
このときの積層条件には、熱間プレス加工を採用するが、用いる基材の種類に応じて、適宜プレス条件を変更すれば足りる。即ち、絶縁層を構成する基材とは、ガラス繊維やアラミド繊維等の骨格材にエポキシ樹脂等を含浸乾燥させたプリプレグ、ポリイミド樹脂フィルム等である。
【0038】
また、この積層工程に於いて、基材の両面にエッチング回路付クラッド複合材11を張り合わせることにより、両面張りの抵抗回路付プリント配線板が得られる。この場合には、基材の両面にあるエッチング回路付クラッド複合材間の電気的導通を確保するため、所謂公知のスルーホール若しくはビアホールを形成し、この孔内にメッキ処理を施し、層間の電気的導通を確保するのである。これを本件明細書では、層間導通手段形成と称している。このとき、メッキ法を採用すると、キャタライズして、無電解銅メッキを施し、電解メッキ法でメッキ層が形成されるため、一般的には外層の第1銅層の表面にもメッキ層が形成されることとなる。但し、この層間導通手段形成は、必ずしも必要な工程ではなく、基板設計によっては不要な場合もありうる。
【0039】
工程C: この第1銅エッチング工程では、図2(f)に示すように金属張積層板の外層面にある第1銅層にエッチングレジスト層を形成し、エッチング回路パターンを露光し、現像し、銅選択エッチング液を用いて外層に位置する第1銅層を所望の回路形状にエッチング加工し、エッチングレジスト剥離を行うことで、不要な第1銅層を除去し、図2(g)所定の箇所のニッケル系異種金属層4を露出させる。
【0040】
ここで言う銅選択エッチング液とは、ニッケル系異種金属を溶解させることなく、専ら銅のみを溶解させるために用いる溶液であって、アンモニア系アルカリエッチング液を用いることが最も簡便で好ましい。以下、銅選択エッチング液に関しては、同様である。なお、本件明細書では、最終的な回路形状となる前の、中間的な回路形状を全て「一時回路21」と称して、説明している。
【0041】
工程D: この異種金属エッチング工程では、第1銅エッチング工程が終了すると、異種金属選択エッチング液を用いて回路間に露出したニッケル系異種金属層をエッチング除去し、図3(h)に示すように一時回路21を形成する。
【0042】
このときに用いる異種金属選択エッチング液は、銅を溶解させることなく、専らニッケル系異種金属のみを溶解させるために用いる溶液であれば、特に限定を要するものではない。しかしながら、ニッケル系異種金属の場合は塩素系、硫酸系等の酸性エッチング液をを用いる事が好ましい。以下、異種金属選択エッチング液に関しては、同様である。
【0043】
工程E: この再レジストレーション工程では、図3(i)に示すように、回路間に露出したニッケル系異種金属層をエッチング除去して形成した一時回路21の所定の部位にのみ、エッチングレジスト層10の再形成を行う。このときのエッチングレジスト層10の形成は、既に一時回路21が形成された状態であるため、液体レジストを用いて行うことが好ましい。
【0044】
工程F: この第2銅エッチング工程では、再レジストレーション工程の終了後、銅選択エッチング液でエッチングを行うことで、エッチングレジスト層の無い第1銅層の部位をエッチング除去して、回路間にニッケル系異種金属層を備えた抵抗回路を形成し、エッチングレジスト剥離することで、図3(j)に示すように、厚さの異なる第1回路8、第2回路9、及び回路間の抵抗回路とが、基材の同一基準平面内に併存する抵抗回路付プリント配線板1とする。
【0045】
以上に述べてきた片面基板の製造方法を応用して、両面基板を製造することは当業者であれば容易に可能である。
【0046】
上記製造方法において用いる前記クラッド複合材は、本件発明に係る抵抗回路付プリント配線板を製造するため、当該ニッケル系異種金属層に銅との選択エッチングの可能なニッケル、ニッケル−リン合金、ニッケル−コバルト合金等を用いる事が好ましい。これらに関しては上述したとおりである。
【0047】
更に、前記クラッド複合材として、第1銅層/ニッケル系異種金属層/第2銅層の構成に於いて、3層のトータル厚さが10μm〜2000μm、その内ニッケル系異種金属層は抵抗層を形成するため、上述のように0.1μm〜12μmの厚さを占めることになる。
【実施例】
【0048】
この実施例では、図3(j)に示す、片面張りの抵抗回路付プリント配線板1を製造した。この片面プリント配線板は、同一基準平面内に厚さの異なる第1回路と第2回路とが併存する回路層を備え、且つ、一方の回路が抵抗回路であるものである。以下、各工程ごとに説明するが、説明に図1〜図3を参照する。
【0049】
工程A: このクラッド複合材エッチング工程では、図1(a)に示す第1銅層(300μm)/異種金属層(5μmのニッケル層)/第2銅層(80μm)の3層が順次積層した状態のクラッド複合材2を用いた。そして、ここでは、クラッド複合材2の両面に、ドライフィルムをラミネートしてエッチングレジスト層10を形成し、図1(b)に示すように第2銅層5のエッチングレジスト層10のみに、一時回路21を形成するためのエッチング回路パターンを露光し、現像し、銅選択エッチング液(アンモニア系アルカリ銅エッチング液)を用いて外層に位置する第2銅層5を所望の回路形状にエッチング加工し、エッチングレジスト剥離を行うことで図1(c)に示す回路パターン付クラッド複合材11を得た。そして、この回路パターン付クラッド複合材11の基材との張り合わせ面には、密着性向上処理として、公知の手法で黒化処理を施した。
【0050】
工程B: この積層工程では、図1(d)に示すように、クラッド複合材エッチング工程で得られた回路パターン付クラッド複合材11の一時回路21を形成したエッチング回路パターン面を基材6(210μm厚さのFR−4グレードのガラス−エポキシプリプレグ)の表面に当接させ、基材片面に180℃×60分程度の熱間プレス加工を行って張り合わせ、図2(e)に示すような一時回路21のエッチングパターンが絶縁層6の内に埋設した状態の金属張積層板7とした。
【0051】
工程C: この第1銅エッチング工程では、図2(f)に示すように金属張積層板7の外層面にある第1銅層3に、ドライフィルムを用いてエッチングレジスト層10を形成し、エッチング回路パターンを露光し、現像し、銅選択エッチング液(アンモニア系アルカリ銅エッチング液)を用いて外層に位置する第1銅層3を所望の回路形状(一時回路21)にエッチング加工し、アルカリ溶液で膨潤させ、エッチングレジスト剥離を行うことで、不要な第1銅層3を除去し、一時回路21を形成し、ニッケル系異種金属層4の一部を露出させ、図2(g)の状態とした。
【0052】
工程D: この異種金属エッチング工程では、第1銅エッチング工程が終了した後、異種金属選択エッチング液(メック社製 ニッケルリムーバー)を用いて、異種金属層をエッチング除去して一時回路21を形成し、図3(h)に示す状態とした。
【0053】
工程E: この再レジストレーション工程では、異種金属エッチング工程の終了後、第1回路8及び第2回路9として残留させる部位にのみ、液体レジストを用いてエッチングレジスト層10の形成を行い、図3(i)の状態とした。
【0054】
工程F: この第2銅エッチング工程では、再レジストレーション工程の終了後、銅選択エッチング液(アンモニア系アルカリ銅エッチング液)でエッチングを行うことで、エッチングレジスト層の無い第1銅層3の部位をエッチング除去してニッケル系異種金属抵抗層4を備えた第2回路9を形成し、エッチングレジスト剥離することで図3(j)に示す如き、抵抗回路付プリント配線板1を得た。このときの第1回路8の一部は絶縁層内に埋設され、第2回路9が絶縁層表面から突出した状態となっており、第1回路の厚さは385μm、第2回路の厚さが85μmである。このような厚さで基板表面から突出したプリント配線板では、第1回路8を電源供給用回路等として用い、第2回路9を信号伝達用の抵抗回路として用いることができ、発熱が顕著であっても、基板の絶縁層内への蓄熱を防止して、効率よく外部にも熱を気散させることが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本件発明に係るプリント配線板は、同一基準平面内にある回路の内、一部の回路の高さを調節し、且つ、回路断面積を極めて大きくすることが可能である。従って、電源供給用回路等として用いるときも、回路幅を広くするのではなく、当該回路の導体厚を厚くして対応でき、基板面積の実質的縮小化を可能とする事が出来る。そして、その他の回路は、薄くして抵抗回路として使用することができる。このように回路厚の異なる回路を同一基準平面内に形成することで、電気的特性及び用途の異なる回路を同一基準平面上形成し、且つ、インピーダンスコントロール等を可能とする抵抗回路付プリント配線板となる。また、プリント配線板の突出した回路部を放熱フィンと同様に機能させ、放熱用回路又は放熱板として利用できることも可能となる。従って、本件発明に係るプリント配線板は、小型であり、且つ、耐熱特性に優れたものであり、当該プリント配線板を組み込むデバイス機器の小型化に寄与することとなる。
【0056】
また、本件発明に係るプリント配線板の製造方法は、2層の銅層の間に異種金属層として、銅との選択エッチング可能な異種金属層を含むクラッド複合材を用いることで、従来のプリント配線板の積層技術、エッチング方法及び装置を利用することが可能であり、特段の設備投資を必要とせず、簡便且つ生産性に優れた製造方法であり、市場に対する本件発明に係るプリント配線板の安定供給を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本件発明に係る抵抗回路付プリント配線板の典型的バリエーションの断面層構成を示した模式断面図である。
【図2】本件発明に係る抵抗回路付プリント配線板を製造するための手順を示したフロー図である。
【図3】本件発明に係る抵抗回路付プリント配線板を製造するための手順を示したフロー図である。
【符号の説明】
【0058】
1 抵抗回路付プリント配線板
2 クラッド複合材
3 第1銅層
4 ニッケル系異種金属層
5 第2銅層
6 絶縁層(基材)
7 金属張積層板
8 第1回路
9 第2回路
10 エッチングレジスト(層)
11 回路パターン付クラッド複合材
21 一時回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電層と絶縁層とを含む金属張積層板をエッチング加工することにより得られるプリント配線板であって、
同一基準平面に形成した複数の厚さの異なる回路が併存し、且つ、一つの回路が抵抗回路であることを特徴とした抵抗回路付プリント配線板。
【請求項2】
複数の回路の内、いずれかの回路がプリント配線板表面から突出配置され、他の回路がプリント配線板表面に埋設配置された請求項1に記載のプリント配線板。
【請求項3】
複数の回路の内、最も厚い回路の回路厚さをTμmとしたとき、最も薄い回路の回路厚さTがT/100〜T(μm)である請求項1又は請求項2に記載の抵抗回路付プリント配線板。
【請求項4】
最も厚い回路は、第1銅層/ニッケル系異種金属層/第2銅層の3層が順次積層したクラッド状であり、当該ニッケル系異種金属層にニッケル及びこれらの合金を用いた請求項1〜請求項3のいずれかに記載の抵抗回路付プリント配線板。
【請求項5】
同一基準平面内に厚さの異なる第1回路と第2回路とが併存し、且つ、いずれか一方の回路が抵抗回路である片面若しくは両面プリント配線板の製造方法であって、
以下に示す工程A〜工程Fを備えることを特徴とする抵抗回路付プリント配線板の製造方法。
工程A: 第1銅層/ニッケル系異種金属層/第2銅層の3層が順次積層した状態のクラッド複合材を用いて、銅選択エッチング液で第2銅層のみをエッチング加工して、片面にエッチング回路パターンを形成し、回路パターン付クラッド複合材を得るクラッド複合材エッチング工程。
工程B: クラッド複合材エッチング工程で得られた回路パターン付クラッド複合材のエッチング回路パターン面を基材表面に当接させ、基材表面に張り合わせ当該エッチングパターンが絶縁層内に埋設した状態の金属張積層板とする積層工程。
工程C: 金属張積層板の外層面にある第1銅層にエッチングレジスト層を形成し、エッチング回路パターンを露光し、現像し、銅選択エッチング液を用いて外層に位置する第1銅層を所望の回路形状にエッチング加工し、エッチングレジスト剥離を行うことで、不要な第1銅層を除去し、ニッケル系異種金属層を露出させる第1銅エッチング工程。
工程D: 第1銅エッチング工程が終了すると、異種金属選択エッチング液を用いて回路間に露出したニッケル系異種金属層をエッチング除去し、第1回路を形成する異種金属エッチング工程。
工程E: 回路間に露出したニッケル系異種金属層のエッチング除去により形成した第1回路の部位にのみ、エッチングレジスト層の形成を行う再レジストレーション工程。
工程F: 再レジストレーション工程の終了後、銅選択エッチング液でエッチングを行うことで、エッチングレジスト層の無い第1銅層の部位をエッチング除去して、回路間にニッケル系異種金属層を備えた第2回路を形成し、エッチングレジスト剥離することで、厚さの異なる第1回路、第2回路、及び回路間の抵抗回路とが、基材の同一基準平面内に併存する抵抗回路付プリント配線板とする第2銅エッチング工程。
【請求項6】
工程Bと工程Cとの間に層間導通手段形成工程を設けた請求項5に記載の抵抗回路を備えた抵抗回路を備えた両面プリント配線板の製造方法。
【請求項7】
回路パターン付クラッド複合材は、その基材との張り合わせ面に基材との密着性を向上させるための密着性向上処理を施したものを用いる請求項5又は請求項6に記載の抵抗回路を備えた抵抗回路付プリント配線板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−134410(P2007−134410A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−323815(P2005−323815)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(596091004)株式会社マルチ (18)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】