説明

押えローラ及び移動機構

【課題】 広い温度範囲でより適正な力にて被押え物に対する押圧を可能にすることである。
【解決手段】 合成樹脂で形成されたホイール体10と、ホイール体10の外周に装着されたゴムリング20とを有する構成となる。これにより、ゴムリング20が柔らかくなる比較的高温では、合成樹脂製のホイール体10の膨張が、柔らかくなったゴムリング20のスライダー200(被押圧物)に対する押圧力の低下傾向を相殺し得るようになり、ゴムリング20が硬くなる比較的低温では、ホイール体10の収縮が、硬くなったゴムリング20のスライダー200(被押圧物)に対する押圧力の増大傾向を相殺し得るようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動部材の移動中のガタツキを抑えるために当該可動部材を押えつける押えローラ及びその押えローラを用いた移動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、スライド機構等における可動部材の移動中のガタツキを抑えるために押えローラが用いられる(例えば、特許文献1参照)。この種の押えローラが用いられるスライド機構は、例えば、図5及び図6に示すように構成される。なお、図5はスライド機構を部分的に示す斜視図であり、図6は、図5に示すスライド機構の断面図である。
【0003】
図5及び図6において、金属製のスライドベース部材100に金属製のスライダー200(可動部材)がスライド自在に装着されている。スライドベース部材100は、ベース板100aとブラケット板100bとがL字状に接合した構造となっている。スライダー200は、スライド板200aと側板200bとがL字状に接合した構造となり、スライド板200aにその長手方向に平行に延びる長孔210が形成されている。
【0004】
ベース板100aには金属性のガイドピン150が立設しており、このガイドピン150が長孔210に挿入されるようにスライダー200がスライドベース部材100に装着されている。スライドベース部材100のブラケット板100bの所定位置には金属製の支持ピン2が立設され、この支持ピン2にゴム(天然ゴムまたは合成ゴム)にて形成された押えローラ1が回動自在に支持されている。支持ピン2の立設位置は、押えローラ1がスライダー200の側板200bをスライド面(スライド板200aの面)に垂直な方向に押圧するように設定されている。
【0005】
このようなスライド機構では、スライド板200aの長孔210に挿入されたガイドピン150にガイドされつつスライダー200がその長手方向にスライドする際に、押えローラ1が回動しつつ側板200bを押圧することから、スライダー200は、ガタツクことなくそのスライド移動を維持することができる。
【特許文献1】特開平9−39675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述したスライド機構において金属製の支持ピン2に回動自在に支持されたゴム製の押えローラ1は、温度に応じてその硬度が変化する。即ち、高温時には硬度が低下し(柔らかくなり)、低温時にはその硬度が高くなる(硬くなる)。このため、常温(例えば、20℃)下で押えローラ1が適切な押圧力にて被押え物となるスライダー200の測板200bを押圧するように支持ピン2の立設位置を設定した場合、高温時(例えば、60℃)に押えローラ1が柔らかくなってスライダー200に対して充分な力で押圧ができないおそれがあり、また、低温時(例えば、−20℃)に押えローラ1が硬くなりすぎてスライダー200のスライド移動を妨げるほどの力でスライダー200(側板200b)を押圧してしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、前述したような従来の問題を解決するためになされたもので、広い温度範囲でより適正な力にて被押え物に対する押圧が可能となる押えローラを提供するものであり、また、そのような押えローラを用いた移動機構を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る押えローラは、合成樹脂で形成されたホイール状軸体と、該ホイール状軸体の外周に装着されたゴム製のリング状部材とを有する構成となる。
【0009】
このような構成により、温度変化に応じて膨張及び収縮のし易い合成樹脂製のホイール状軸体の外周に温度変化に応じて硬度の変化し易いゴム製のリング状部材が装着されているので、ゴム製のリング状部材が柔らかくなる比較的高温では、合成樹脂製のホイール状軸体の膨張が、柔らかくなった前記リング状部材の被押圧物に対する押圧力の低下傾向を相殺し得るようになる。一方、ゴム製のリング状部材が硬くなる比較的低温では、合成樹脂製のホイール状軸体の収縮が、硬くなった前記リング状部材の被押圧物に対する押圧力の増大傾向を相殺し得るようになる。
【0010】
また、本発明に係る押えローラでは、前記ホイール状軸体の外半径は、前記リング状部材の肉厚より大きい構成とすることができる。
【0011】
このような構成により、一定の膨張率のホイール状軸体の温度変化に対する膨張量(収縮量)の絶対値を比較的大きくすることができるので、温度変化に伴う前記リング状部材の硬度変化による被押圧物に対する押圧力の変動を相殺し易くなる。
【0012】
また、本発明に係る押えローラでは、前記ホイール状軸体の軸方向の一方端部にフランジ部が形成されている構成とすることができる。
【0013】
このような構成により、ゴム製のリング状部材をフランジ部にあてがうようにホイール状軸体に装着することができ、当該リング状部材が横幅方向にホイール軸体から脱落することを防止することができる。
【0014】
更に、本発明に係る押えローラでは、前記ホイール状軸体の軸方向の他方端部に径方向に突出する複数の爪部が形成されている構成とすることができる。
【0015】
このような構成により、ゴム製のリング状部材をフランジ部と複数の爪部とによって挟み込むようにホイール状軸体に装着することができる。また、このような押えローラを例えばブラケット板に立設された支持ピンにて回動自在に支持した場合に、ゴム製のリング状部材の側面部がブラケット板と直接に接することを防止することができ、リング状部材が磨耗することによって当該押えローラの回転が阻害されるのを防止るすることができる。
【0016】
本発明に係る移動機構は、所定の方向に移動可能な可動部材と、支持部材によって回転自在に支持された請求項1乃至4のいずれかに記載の押えローラとを有し、前記押えローラのリング状部材が前記可動部材を押圧するように前記押え部材が前記可動部材に対して配置された構成となる。
【0017】
このような構成により、押えローラが、温度変化に応じて膨張及び収縮のし易い合成樹脂製のホイール状軸体の外周に温度変化に応じて硬度の変化し易いゴム製のリング状部材が装着された構造となるので、ゴム製のリング状部材が柔らかくなる比較的高温では、合成樹脂製のホイール状軸体の膨張が、柔らかくなった前記リング状部材の可動部材に対する押圧力の低下傾向を相殺し得るようになる。一方、ゴム製のリング状部材が硬くなる比較的低温では、合成樹脂製のホイール状軸体の収縮が、硬くなった前記リング状部材の可動部材に対する押圧力の増大傾向を相殺し得るようになる。従って、所定の方向に移動可能な可動部材は、比較的広い温度範囲内において、押えローラによって安定的に押さえつけられた状態を維持できるようになる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ゴム製のリング状部材が柔らかくなる比較的高温では、合成樹脂製のホイール状軸体の膨張が、柔らかくなった前記リング状部材の被押圧物に対する押圧力の低下傾向を相殺し得るようになり、一方、ゴム製のリング状部材が硬くなる比較的低温では、合成樹脂製のホイール状軸体の収縮が、硬くなった前記リング状部材の被押圧物に対する押圧力の増大傾向を相殺し得るようになるので、広い温度範囲でより適正な力にて被押え部材に対する押圧が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0020】
本発明の実施の一形態に係る押えローラは、図1に示すように構成される。また、この押えローラを用いたスライド機構(移動機構)が図2に示される。なお、図2は、スライド機構の断面図である。
【0021】
図1において、この押えローラは、合成樹脂(例えば、ポリアセタール樹脂M90S)にて形成されたホイール体10(ホイール状軸体)と、ゴム(例えば、天然ゴムNR100)にて形成され、所定幅となるゴムリング20(リング状部材)とを備えている。ホイール体10は、円盤状の側板12と、外筒体11と、内筒体13とが同軸に一体化された構造となっている。側板12の外径は外筒体11の外径より大きく、側板12により外筒体11の一端部にフランジが形成されたものとなる。外筒体11内に同軸的に配置された内筒体13には軸孔13aが形成されており、内筒体13の外周面から外筒体11の内周面に向けて放射状に補強壁14a、14b、14cが形成されている。また、外筒体11の側板12との接合端部と逆側の端部周縁に補強壁14a、14b、14cに対応するように、径方向に突出する複数の爪部15a、15b、15cが形成されている。
【0022】
フリー状態でゴムリング20の内径は、ホイール体10における外筒体11の外径より僅かに小さくなっており、ゴムリング20を拡げてホイール体10の外筒体11に装着させる。これにより、ゴムリング20が、外筒体11の一方端部に形成されたフランジ(側板12)と他方端部の径方向に突出する複数の爪部15a、15b、15cとの間に挟まれるように当該外筒体11の外周に装着される。このようにゴムリング20がホイール体10における外筒体11の両端部に形成されたフランジ(側板12)及び爪部15a、15b、15cにて挟まれるようになるので、ゴムリング20が外筒体11から脱落することを確実に防止することができる。また、後述するように抑えローラをスライド機構に組み付けた場合に、ゴムリング20の側面部が当該ゴムリング20を回動自在に支持する支持ピンの立設されたブラケット板と直接に接することを防止することができ、ゴムリング20が磨耗することによって当該押えローラの回転が阻害されるのを防止することができる。
【0023】
このようにホイール体10の外筒体11の外周にゴムリング20が装着されることにより押えローラが形成される。この押えローラでは、外筒体11の軸心から外周までの径方向距離(外半径)は、ゴムリング20の肉厚より大きくなっており、温度変化に伴う外筒体11の膨張及び収縮の絶対量が比較的大きくなるようになっている。
【0024】
前述したような押えローラにおける内筒体13の軸孔13aに支持ピン30が挿通し、支持ピン30の先端部に形成された溝31にワッシャ32を嵌合させて支持ピン30の抜け止めがなされる。これにより前記押えローラは支持ピン30により回動自在に支持されるようになる。
【0025】
前述したように支持ピン30にて回動自在に支持される押えローラを用いたスライド機構は、図2に示すように構成される。
【0026】
このスライド機構は、図5及び図6に示すものと同様に、金属製のスライドベース部材100と、スライドベース部材100にスライド自在に装着された金属製のスライダー200(可動部材)とを備えている。スライドベース部材100は、ベース板100aとブラケット100bとがL字状に接合した構造となり、スライダー200もまた、スライド板200aと側板200bとがL字状に接合した構造となっている。スライド板200aにその長手方向(図2の紙面垂直方向)に平行に延びる長孔210が形成されている。
【0027】
ベース板100aには金属製のガイドピン150が立設しており、このガイドピン150が長孔210に挿入されるようにスライダー200がスライドベース部材100に装着されている。スライドベース部材100のブラケット板100bの所定位置に前述したように押えローラ(図1参照)を回動自在に支持する金属製の支持ピン30が立設されている。この支持ピン30の立設位置は、押えローラのゴムリング20がスライダー200の側板200bをスライド面(スライド板200aの面)に垂直な方向に押圧するように設定されている。
【0028】
このようなスライド機構では、スライド板200aの長孔210に挿入されたガイドピン150にガイドされつつスライダー200がその長手方向にスライドする際に、回動する押えローラのゴムリング20が側板200bを押圧することから、スライダー200は、ガタツクことなくそのスライド移動を維持することができる。
【0029】
前記スライド機構において、ゴム製のゴムリング20が柔らかくなる比較的高温では、合成樹脂製のホイール体10が膨張し、そのホイール体10の膨張が、柔らかくなったゴムリング20のスライダー200(側板200b)に対する押圧力の低下傾向を相殺し得るようになる。また、ゴム製のゴムリング20が硬くなる比較的低温では、合成樹脂製のホイール体10が収縮し、そのホイール体10の収縮が、硬くなったゴムリング20のスライダー200(側板200b)に対する押圧力の増大傾向を相殺し得るようになる。
【0030】
更に、前記スライド機構における温度変化に対する押えローラ(ゴムリング20)のスライダー200(側板200b)に対する荷重(押圧力)の状態のシミュレーション結果を図3に示す。
【0031】
このシミュレーションでは、ホイール体10は、ポリアセタール樹脂M90Sで形成され、その線膨張係数が11×10-5/℃であり、ゴムリング20は、天然ゴムNR100にて形成されている。また、常温(20℃)において、ホイール体10(外筒体11)の外径が32mm(外半径16mm)であり、ゴムリング20の外径が36mmである。即ち、ゴムリング20の肉厚は2mmである。
【0032】
前記線膨張係数を有するホイール体10の外径は、60℃の高温時には、0.14mm増大して32.14mmとなり、−20℃の低温時には、0.14mm減少して31.86mmとなる。
【0033】
ゴムリング20のショアー硬度は、常温(20℃)において36度、60℃の高温時には32度及び−20℃の低温時には40度となる。このように温度に応じて硬度(ショアー硬度)の変化するゴムリング20(肉厚2mm)を25%(0.5mm)圧縮するために必要な荷重は、60℃の高温時(ショアー硬度:32度)では83kpa(キロパスカル)となり、20℃の常温(ショアー硬度:36度)では110kpaとなり、−20℃の低温時(ショアー硬度:40度)では150kpaとなる。
【0034】
常温(20℃)においてゴムリング20が25%(0.5mm)圧縮されるように押えローラが実装された場合、その常温では、ゴムリング20に係る圧縮荷重は110kpaである。ゴムリング20が柔らかくなる60℃の高温時には、ゴムリング20の内側にあるホイール体10の外径が0.14mm増大(半径が0.07mm増大)することから、ゴムリング20(肉厚2mm)は0.57mm(28.5%)圧縮されることになる。このため実装状態でのゴムリング20の圧縮荷重は94.6kpaとなる。
【0035】
これは、本来83kpaとなるべきゴムリング20の圧縮荷重が、ホイール体10の膨張により、94.6kpaに増大したことを意味し、その膨張が、柔らかくなったゴムリング20のスライダー200(側板200b)に対する押圧力の低下傾向を相殺したことになる。
【0036】
一方、ゴムリング20が硬くなる−20℃の低温時には、ゴムリング20の内側にあるホイール体10の外径が0.14mm減少(半径が0.07mm減少)することから、ゴムリング20(肉厚2mm)は0.43mm(21.5%)圧縮されることになる。このため実装状態でのゴムリング20の圧縮荷重は129kpaとなる。
【0037】
これは、本来150kpaとなるべきゴムリング20の圧縮荷重が、ホイール体10の収縮により、129kpaに低下したことを意味し、その収縮が、硬くなったゴムリング20のスライダー200(側板200b)に対する押圧力の増大傾向を相殺したことになる。
【0038】
前記シミュレーションにおいて高温(60℃)、常温(20℃)及び低温(−20℃)におけるゴムリング20の荷重比(常温を100とする)は、
86(94.6kpa):100(110kpa):117(129kpa)
となる。一方、ホイール体10が温度に応じて膨張、収縮しない場合を想定すると、その荷重比は、
75(83kpa):100(110kpa):136(150kpa)
となる。
【0039】
このように、温度変化に応じて膨張及び収縮する合成樹脂製のホイール体10の外周にゴムリング20が装着された構造となる押えローラ(図1、図2参照)によれば、高温(60℃)から低温(−20度)にいたる温度範囲において、スライダー200に対する荷重(押圧力)の変動が少なく、スライダー200をより安定的に押さえつけることができるようになる。
【0040】
なお、前述した押えローラにおけるホイール体10においては、外筒体11、内筒体13、補強壁14a、14b、14c等からなる構造を、図4に示すように、軸孔16aの形成された円柱体16に代えてもよい。これにより、より押えローラの構造をより簡略化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上、説明したように、本発明に係る押えローラは、広い温度範囲でより適正な力にて被押え物に対する押圧が可能となるという効果を有し、可動部材の移動中のガタツキを抑えるために当該可動部材を押えつける押えローラ及びその押えローラを用いた移動機構として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の一形態に係る押えローラを示す分解斜視図である。
【図2】図1に示す押えローラを利用したスライド機構を示す断面図である。
【図3】各温度における押えローラのホイールの寸法状態及びゴムリングにかかる荷重の状態を示す図である。
【図4】本発明の他の実施の形態に係る押えローラを示す分解斜視図である。
【図5】従来の押えローラを用いたスライド機構を部分的に示す斜視図である。
【図6】図5に示すスライド機構の断面図である。
【符号の説明】
【0043】
10 ホイール体
11 外筒体
12 側板
13 内筒体
13a 軸孔
14a、14b、14c 補強壁
15a、15b、15c 爪部
16 円柱体
16a 軸孔
20 ゴムリング
21 孔
30 支持ピン
32 ワッシャ
100 スライドベース部材
100a ベース板
100b ブラケット
150 ガイドピン
200 スライダー
200a スライド板
200b 側板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂で形成されたホイール状軸体と、
該ホイール状軸体の外周に装着されたゴム製のリング状部材とを有することを特徴とする押えローラ。
【請求項2】
前記ホイール状軸体の外半径は、前記リング状部材の肉厚より大きいことを特徴とする請求項1記載の押えローラ。
【請求項3】
前記ホイール状軸体の軸方向の一方端部にフランジ部が形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の押えローラ。
【請求項4】
前記ホイール状軸体の軸方向の他方端部に径方向に突出する複数の爪部が形成されていることを特徴とする請求項3記載の押えローラ。
【請求項5】
所定の方向に移動可能な可動部材と、
支持部材によって回転自在に支持された請求項1乃至4のいずれかに記載の押えローラとを有し、
前記押えローラのリング状部材が前記可動部材を押圧するように前記押え部材が前記可動部材に対して配置されたことを特徴とする移動機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−2865(P2007−2865A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−180416(P2005−180416)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000101732)アルパイン株式会社 (2,424)
【Fターム(参考)】