押出ダイスの製造方法およびこれに用いる放電加工用電極
【課題】押出形材の中空部を成形するベアリング面を含むマンドレル部を有する雄型を、所要の形状に精度良く確実に加工できると共に、少ない工数や時間で製造できる押出ダイスの製造方法、およびこれに用いる放電加工用電極を提供する。
【解決手段】中空部を有する押出形材を成形するためのマンドレル部およびブリッジを有する押出ダイスの雄型(D2)の製造方法であって、鋼製の型素材D1に対し、マンドレルM1およびブリッジBを目的とする形状に近似する形状に荒加工する工程と、荒加工された型素材D1のマンドレル部M1に形成される複数の連続する部位に対し、係る複数の連続する部位を放電加工する複数の加工部(凸部13,15、傾斜部14,16など)を含む単一の放電加工電極10を対向させて放電加工する工程と、を含む、押出ダイスの製造方法。
【解決手段】中空部を有する押出形材を成形するためのマンドレル部およびブリッジを有する押出ダイスの雄型(D2)の製造方法であって、鋼製の型素材D1に対し、マンドレルM1およびブリッジBを目的とする形状に近似する形状に荒加工する工程と、荒加工された型素材D1のマンドレル部M1に形成される複数の連続する部位に対し、係る複数の連続する部位を放電加工する複数の加工部(凸部13,15、傾斜部14,16など)を含む単一の放電加工電極10を対向させて放電加工する工程と、を含む、押出ダイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空部を有するアルミニウム合金の押出形材を成形するための押出ダイスの製造方法およびこれに用いる放電加工用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、中空部を有するアルミニウム合金の押出形材を成形する場合には、係る押出形材の外形に倣った断面のベアリング面を含む成形孔を有する雌型と、係る雌型の前記成形孔に挿入する中空部の断面形状に倣ったベアリング面を含むマンドレル部および軟化したアルミニウム合金のメタルを分流して通過させ且つ上記マンドレル部の付近に導く複数のメタル通過孔を有する雄型とが、併用されている。
上記雌型の成形孔に含まれるベアリング面は、鋼製の型素材の中心部に対し、目的とする押出形材の外形に倣ってワイヤーカット放電加工を行うことにより、容易に製作することができる。
一方、雄型のうち、複数のメタル通過孔は、鋼製の型素材に対し、予め、マシニングセンター、あるいは汎用フライスなどによる複数の機械切削加工によって形成できるが、雄型のベアリング面を含むマンドレル部には、機械切削加工の難しい部分があるため、これまで係る部分ごとに専用の放電加工用電極を用意して放電加工を行っていた。
【0003】
例えば、雄型において、成形すべきベアリング面を含むマンドレル部の部分的な形状に対応した形状を有する複数個の基準加工電極を用意し、これらの基準加工電極を交換しつつ、放電加工することにより、マンドレル部を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、上記特許文献1のマンドレル部を加工する方法では、加工部位ごとに複数個の加工電極を順次用いるため、交換のための段替えが必要となり、工数を要し且つコスト高を招いていた。しかも、複数の放電加工を経る間に、マンドレルの基準加工面がずれ易いため、所要の形状に精度良く加工することが困難でバラツキを生じるおそれがあった。この結果、成形される中空部を有する押出形材の形状や寸法が安定し難い、という問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開昭61−56726号公報 (第1〜8頁、第5,6図)
【0005】
そのため、放電加工を施す部分は必要最小限とし、機械切削加工できる部分には、汎用フライスなどによる加工を行っていた。しかし、汎用フライス加工などによる場合は、作業者によって、形状や寸法の精度にバラツキがあるため、ダイス設計者の意図が正確に反映されない場合がある、という問題もあった。
また、鋼製の型素材は、強度を向上させるため、熱処理を施す場合がある。係る熱処理された型素材は、強度が向上するため、その後に行う機械切削加工が難しくなる。このため、型素材の機械切削加工は、熱処理の前に行っていた。しかし、係る熱処理は、高温(例えば、1020℃)で施されるため、当該熱処理された後の型素材に変形が生じてしまう。その結果、熱処理の後において、形状や寸法精度が重要な部分に対しては、再度の機械切削加工が必要となる、という問題もあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、背景技術において説明した問題点を解決し、押出形材の中空部を成形するベアリング面を含むマンドレル部を有する雄型を、所要の形状に精度良く確実に加工できると共に、少ない工数および時間で製造できる押出ダイスの製造方法、およびこれに用いる放電加工用電極を提供する、ことを課題とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するため、発明者らの鋭意研究および試行の結果、マンドレル部およびその付近を単一の放電加工電極で一度に形成する、ことに着想して成されたものである。
即ち、本発明の押出ダイスの製造方法(請求項1)は、中空部を有する押出形材を成形するためのマンドレル部およびブリッジを有する押出ダイスの雄型の製造方法であって、鋼製の型素材に対し、マンドレルおよびブリッジを目的とする形状に近似する形状に荒加工する工程と、荒加工された型素材のマンドレル部およびブリッジの少なくとも一方に形成される複数の連続する部位に対し、係る複数の連続する部位を放電加工する複数の加工部を含む単一の放電加工電極を対向させて放電加工する工程と、を含む、ことを特徴とする。
【0008】
これによれば、予め荒加工された型素材のマンドレル部やこれに隣接するブリッジを、少ない回数の放電加工により、何れの作業者が何度行っても、所要の形状および寸法に精度良く確実に加工することができる。しかも、形状および寸法の精度が高くなるため、押出加工時にダイス設計者が意図したメタル流動が得られるので、得られる押出形材の形状および寸法の精度や表面粗度なども良好となって、試し押し(テスト押し)のための回数を低減できる。加えて、ダイス設計者が意図したように、押出ダイスに加わる応力分布が得られ、ダイスの寿命を延ばすことができるので、保有すべきダイスの数を最小限にできる。このため、製作コストのみならず、押出工程の管理コストの低減も可能となる。
【0009】
また、本発明の方法で押出ダイスを製造する場合、放電加工では鋼材の機械的強度に関係なく切削加工できるので、従来、熱処理前に機械切削加工していた部分、特に形状精度を要する部分(例えば、マンドレル部分の首下部やメタル流路など)も、本発明の放電加工用電極で熱処理した後、一度に放電加工することができる。この結果、熱処理の前に切削加工をしないので、従来のように加工部の形状が熱処理で歪むことも回避できる。
更に、従来機械切削加工していた部分も他の部分と一緒に放電加工するため、放電加工自体の所要時間が従来よりも延びるが、係る放電加工する部分の機械切削加工が不要となるので、トータル(全工程)での加工時間を短縮できる。
しかも、従来では、連続する部位を個々に切削加工するため、連続する部位間の境目に角が生じ易く、メタル流動が阻害される。このため、係る角部分をアール取りで除去する面倒な後工程が必要であった。本発明によれば、連続する部位を単一の放電加工で形成できるため、連続する部位の境目に相当する電極部分に予めアール形状を付しておくことで、上記後工程を不要にできる。
【0010】
尚、前記マンドレル部などに対する放電加工には、単一(一種)の放電加工電極のみで放電加工する他、例えば、マンドレル部における一方の側面と他方の側面とを、専用である一対の放電加工電極で個別に放電加工したり、3個以上の放電加工電極で個別に放電加工する形態も含まれる。あるいは、前記マンドレル部などの軸方向(押出方向)に沿った複数の部位に対し、専用である複数の放電加工電極で個別に放電加工することも含まれる。即ち、前記単一とは、同じ側面、周面、または複数の連続する部位に対して、一回の放電加工のみを行うことである。
更に、前記複数の連続する部位とは、例えば、ベアリング部(予定面)とベアリング部の逃げ部、ベアリング部とその上流側(ビレット側)に位置するメタル溜まり部のアンダーカット部、アンダーカット部とその上流側に位置し且つアンダーカット部へメタルを送給するバルクヘッド、あるいは、中空押出形材のウェブ(仕切り壁)にメタルを送給するためのトンネルと流れ込み部と流し込み部などである。上記トンネルは、複数の中空部を区画するウェブを成形するため、最接近する一対のベアリング面の間にメタルを供給するための空間(メタル溜まり)である。
加えて、前記放電加工の対象となるブリッジは、複数のメタル通過孔を区画する複数のブリッジの中央部側を含むと共に、マンドレル部の上流側に隣接し且つ前記複数のブリッジが収束する中央部分も含まれる。
【0011】
一方、本発明の放電加工用電極(請求項2)は、中空部を有する押出形材を成形するためのマンドレル部およびブリッジを有する押出ダイスの雄型の製造するために用いる放電加工用電極であって、鋼製の型素材のマンドレル部およびブリッジの少なくとも一方に形成される複数の連続する部位に対し、係る複数の連続する部位を放電加工するための複数の加工部を含む、ことを特徴とする。
これによれば、マンドレル部やこれに隣接するブリッジを、一回の放電加工で形成できる前記放電加工を確実に行うことができる。しかも、一度に複数の部位を同時に放電加工できるため、マンドレル部などの形状および寸法を、ダイス設計者が意図した形状などに精度良く再現することが可能となる。更に、従来のように部分ごとの放電加工用の電極型を多数用意する場合に比べて、放電加工電極型の数が著しく低減できるため、工程管理も容易となる。
【0012】
尚、前記放電加工用電極は、例えば、黒鉛または銅合金からなる所定形状の素材塊に対し、押出ダイスの設計図を基に加工されるが、係る設計図を2次元ではなく、予め3次元CADなどによって全体および各部ごとの所要の形状と寸法とを数値化(モデリング)しておき、係る数値に基づき数値制御されたマシニングセンターやNCマシーンなどにより、切削、研削、研磨などを設定された順序および位置ごとで加工を施すことによって製作することが望ましい。
2次元の図面では、立体的な部分は表現が難しいので、係る部分は図面を読み取る作業者の解釈に任されるが、これでは、ダイス設計者の意図が正確に反映されない場合が生じる。本発明では、最初の設計段階で3次元データ化(モデリング)しておくことで、図面を読み取る作業者の解釈が加えられる余地がなくなるので、意図した通りの形状に再現できる。
【0013】
このため、ダイス設計者の意図を正確に反映した電極を用いて放電加工を行うことで、正確な形状の押出ダイスを製造することができる。更に、3次元データ化(モデリング)することで、同じ形状および寸法の電極を、作業者が替わっても何回でも製造できるため、同じ形状および寸法の押出ダイスを容易且つ正確に製造することができる。
また、前記複数の加工部は、例えば、型素材におけるビレット側が前記アンダーカットとこれに隣接するバルクヘッド、トンネルと流れ込み部と流し込み部となるように反対の形状を備えている。例えば、入り隅のアンダーカットに対しは、相似形で且つ出隅形状が加工部となり、複数の中空部を区画するウェブとなる最接近する一対のベアリング面の間にメタルを供給するトンネル(貫通孔)に対しは、その軸方向に沿った凸部が加工部となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下において、本発明を実施するための最良の形態(一例)について、図10に示す断面ほぼ日の字形状の押出形材(A)を押出加工するポートホールダイスの雄型の製造方法を説明する。
図1は、本発明の対象である押出ダイスの雄型の予め荒加工後における型素材D1を示す斜視図、図2は、図1中のX−X線の矢視に沿った断面図である。
雄型の型素材D1は、例えば、SKD61などの工具鋼(鋼材)からなり、予め円柱形の鋼素材に対し、ドリルなどによる孔明け、切削、および研削加工などによる荒加工を施されたもので、円筒形の外周部1と、その内側から求心状に中心部に延びる4つのブリッジBとを備えている。係るブリッジBの交叉部である中央に支持されたマンドレル部M1は、目的とする中空部形状に近似した形状に加工されている。尚、機械加工により荒加工された型素材D1は、機械的強度を高めるため、所要の熱処理が施される。
【0015】
図1,図2に示すように、外周部1と4つのブリッジBとの間には、4つのメタル通過孔2が押出方向(図1,図2で下側から上側に向かう方向)に沿ってほぼ対称に貫通して形成されている。
荒加工されたマンドレル部M1は、押出方向の下流側に突出した全体がほぼ直方体を呈し、後端面4、これを囲む段部5、一対の長い側面6,7、および、一対の短い端面8を備えており、これらの上流側は、ブリッジBに連続して支えられている。また、長方形を呈する後端面4の中央には、係る長方形を2分割する一定深さのスリットsが、段部5に達する深さで形成されている。尚、係るマンドレル部M1は、上流部3と連続している。
【0016】
図3は、本発明の放電加工用電極10を示す斜視図である。尚、図3においては、下側(上流側)から上側(下流側)に向かう方向が押出方向である。
係る放電加工用電極10の素材は、通常放電加工に用いられる黒鉛または銅合金などであるが、加工性を考慮すると黒鉛が望ましい。
放電加工用電極10は、図3に示すように、放電加工部となる本体11の内側面12には、左右両端から水平(押出方向に直交する方向)に延びた一対の凸部13、それらの上流側から斜め下向きに延びる傾斜部14、内側面12の中央部から水平(同上)に延びた3種類の凸部T、V、15、および凸部15の上流側から斜め下向きに延びる傾斜部16が形成されている。
一対の凸部13は、前記マンドレル部M1の端面8,8を放電加工する加工部であり、それらの内側の下隅には、メタルの流動を滑らかにするためのアールrが対称に付されている。また、各傾斜部14は、メタルを端面8,8付近に斜めに通す流路を形成するための加工部である。係る凸部13と傾斜部14とは、互いに連続している。
【0017】
図3に示すように、内側面12の中央部から突出する最上段の凸部Tは、メタルの逃げ部を形成する加工部であり、中段に位置する極細幅の凸部Vは、中空押出形材のウェブを成形するベアリング面用の加工部である。また、最下段に位置する断面ほぼ小判形の凸部15は、凸部Vにより成形されるベアリング面の直下付近に後述するトンネルを成形するための放電加工用の加工部であり、その上下の各コーナーには、メタルの流動を滑らかにするためのアールrが付されている。更に、傾斜部16は、上記トンネルにメタルを斜めに通す流れ込み部を形成するための加工部である。係る凸部15と傾斜部16も、互いに連続している。傾斜部16の下方には、ブリッジBの上辺を受け入れる凹部Uが形成されている。
内側面12には、後述する逃げ部を成形する平面17、ベアリング部を成形する凹溝18、アンダーカット部を成形する平面Q、および、バルクヘッド部を成形する傾斜面19(何れも加工部)が、連続して形成されている。
【0018】
図3に示すように、平面17と凹溝18との押出方向の上流側には、アンダーカット部を成形する平面Qと、アンダーカット部にメタルを集束して流すための傾斜したバルクヘッドを成形する加工部の傾斜面19が形成されている。係る傾斜面19は、上記平面Qと連続している。
以上のような凸部T,V,13,15、傾斜部14,16、平面17,Q、凹溝18、および傾斜面19(何れも加工部)を内側面12に有する放電加工用電極10は、黒鉛または銅合金からなる所定形状の素材塊に対し、予め上記各部ごとの所要の形状および寸法を、3次元データ化(モデリング)し、これらをコンピュータなどに記憶させておき、係る数値に基づき数値制御されたマシニングセンターやNCマシーンなどによって、切削、研削、研磨などを設定された順序に従って、各部ごとの加工を施すことにより製作される。
尚、上記放電加工用電極10は、前記マンドレル部M1を加工の対象としているが、係るマンドレル部M1に隣接する各ブリッジBの下流側を加工の対象とする形態としても良い。また、メタル流路を成形する傾斜部14,16、トンネルを成形する凸部15、およびアンダーカット部を成形する平面Qなどの加工部は、熱処理後の放電加工により形成される。
【0019】
図4は、前記図1,2で示した荒加工された型素材D1に対し、図3で示した放電加工用電極10を用いて行う、本発明の押出ダイスの製造方法を示す概略の斜視図である。
予め、前記荒加工された型素材D1を、図示しない放電加工装置の絶縁性の油槽中に浸漬し且つ電極と導通させた状態とする。
次に、図4中の実線の矢印で示すように、型素材D1のマンドレル部M1における側面6とこれに隣接する端面8,8の半分とに対し、前記と反対向きにした前記放電加工用電極10を下降させ、且つ水平移動(前進)させて、内側面12の凸部T,V,13,15などを接触直前とする。
係る状態で、型素材D1と放電加工用電極10との間に所要の電圧を断続的に印加すると、当該電極10の内側面12に位置する凸部T,V,13,15、傾斜部14,16、平面17,Q、凹溝18、および傾斜面19と、マンドレル部M1における側面6およびこれに隣接する端面8,8との微細な隙間で放電が断続的に生じる。
【0020】
その結果、マンドレル部M1の側面6に対し、先ず、放電加工用電極10の凸部T,V,13,15が徐々に進入すると共に、凸部13のアールrを有する内側面が端面8,8に接触して、平面17と凹溝18とに倣った形状に放電加工する。係る電極10を水平移動(前進)させる途中からは、上記凸部13,15に隣接する傾斜部14,16も側面6に最接近して放電加工し始める。
更に、図5に示すように、放電加工用電極10の凸部13,13間の平面17,Q、凹溝18、および傾斜面19がマンドレル部M1の側面6に接触しつつ、対向する側面6の該当部分を、これらに倣った形状に放電加工する。
上記側面6およびこれに隣接する端面8,8に対する放電加工が終わると、放電加工用電極10を後退および上昇させて、前記油槽から一旦引き上げる。
【0021】
その結果、図6のマンドレル部M1の側面6で例示するように、前記凸部15に倣ったトンネル25の半分、係るトンネル25の開口部に連通する前記傾斜部16に倣った流れ込み部26、前記平面17に倣った平坦面22および逃げ部27、前記凹溝18に倣い且つこれらを反転させた形状のベアリング部28、およびアンダーカット23が形成される。
次いで、図4中の破線の矢印で示すように、型素材D1のマンドレル部M1における側面7とこれに隣接する端面8,8の半分とに対し、前記放電加工用電極10を下降させ、且つ水平移動(前進)させて、内側面12の凸部T,V,13,15などを接触直前とし、前記同様の電圧を電極10とマンドレル部M1との間に印加する。すると、当該電極10の内側面12に位置する凸部T,V,13,15、傾斜部14,16、平面17,Q、凹溝18、および傾斜面19と、マンドレル部M1における側面7およびこれに隣接する端面8,8との微細な隙間で放電が断続的に生じる。
【0022】
その結果、図6に示すように、マンドレル部M1の側面7に対しても、前記同様に放電加工用電極10の凸部T,V,13,15が徐々に進入すると共に、凸部13の内側面が端面8,8に接触して、平面17,Qと凹溝18とに倣った形状に放電加工する。係る電極10を水平移動(前進)させる途中からは、上記凸部13,15に隣接する傾斜部14,16も側面6に最接近して放電加工し始める。
更に、図6に示すように、放電加工用電極10の凸部13,15,13間の平面17、凹溝18、および傾斜面19がマンドレル部M1の側面6に接触しつつ、対向する当該側面6の部分をこれらに倣った形状に放電加工する。
上記側面7およびこれに隣接する端面8,8に対する放電加工が終わると、放電加工用電極10を後退および上昇させて、前記油槽から引き上げる。
【0023】
その結果、図6に例示し且つ図7の斜視図に示すように、前記スリットsの直下付近で側面6,7間を水平に貫通するトンネル25、係るトンネル25の側面7側の開口部に連通する前記傾斜部16に倣った流れ込み部26、前記平面17に倣った平坦面22および逃げ部27、前記凹溝18に倣い且つこれらを反転させた形状のベアリング部28およびアンダーカット23、更には、次述する傾斜したバルクヘッド21がそれぞれ所定に位置に形成される。
【0024】
更に、図7と図8の垂直断面図に示すように、側面7および端面8,8にも、前記凸部13、傾斜部14、平面17、および凹溝18に倣い且つこれらを反転させたベアリング部28、アンダーカット23、傾斜したバルクヘッド21、および上流側にアール面rを有する平坦面29が形成されたマンドレル部M2が形成される。これによって、マンドレル部M2を有する雄型D2が得られる。
尚、前記スリットsとトンネル25との間は、凸部Vにより形成された幅狭のメタル流路24によって連通されており、係るトンネル25内に流入したメタルをメタル流路24を介して下流側のスリットsに流動させることで、押出形材における複数の中空部を仕切るウェブを成形することが可能となる。
【0025】
図9は、前記雄型D2のマンドレルM2を、雌型D3のベアリング面を含む成形孔30内に挿入して組み立てる状態を示す。雌型D3も、前記同様の工具鋼からなるほぼ円柱体を呈し、その中央部には、断面長方形の成形孔30が形成されてる。係る成形孔30の内面には、押し出しすべき押出形材の外形を成形するベアリング面(図示せず)が通常のワイヤーカット放電加工により形成されている。当該成形孔30におけるベアリング面の内面(寸法)は、マンドレルM2の外形よりも押出形材のほぼ肉厚分大きく形成されている。
図10に示すように、雌型D3の成形孔30内に、雄型D2のマンドレルM2を挿入することによって、ポートホールダイス(中空押出ダイス)D4が形成される。
尚、図10において、雌型D3の押出方向における下流側には、図示しないバックダイやボルスターなどが同軸心で配置され、雄型D2の上流側には、アルミニウム合金のビレットを収容する図示しないコンテナが配置される。
【0026】
図10中の破線の矢印で示すように、予め所定温度帯に加熱されたアルミニウム合金からなる円柱形のビレットは、コンテナに収容された後、図示しないステムにより、同図中で右側に軸方向に沿って押圧される。上記ビレットのメタルは、軟化しているため、雄型D2における4つの前記メタル通過孔2を分流しつつ、マンドレル部M2側に押し出される。
この間において、マンドレル部M2には、ベアリング面28寄りに傾斜した前記バルクヘッド21や流れ込み部26などによって、上記メタルは、ベアリング面28側に徐々に集束される共に、当該ベアリング面28の全周にわたって均一なメタル量となるように調整される。その結果、係るメタルは、マンドレル部M2におけるベアリング面28の全周と雌型D4の成形孔30におけるベアリング面との隙間から、押し出される。
【0027】
同時に、上記メタルの一部は、トンネル25内に進入した後、メタル流路24の全長に沿って押出形材の肉厚当たりに均一なメタル量となるように調整されつつ、当該メタル流路24内で対向する一対のベアリング面28,28間を通過しつつ押し出される。
その結果、図10中の実線の矢印で示すように、左右一対の中空部Sとこれらの間をウェブwで区画された断面がほぼ日字形の中空押出形材Aを、ポートホールダイスD4から精度良く押出成形することができる。
【0028】
以上のように、複数の連続する加工部(凸部T,V,13,15、傾斜部14,16、平面17,Q、凹溝18、および傾斜面19)を内側面12に一体に有する前記放電加工電極10を用い、前記型素材D1のマンドレル部M1を、その側面6,7側の2回に分けて放電加工して、マンドレル部M2を有する雄型D2を得ている。
この結果、前記押出ダイスの製造方法によれば、以下のような効果を奏することができる。
(1)型素材D1におけるマンドレル部M1の側面6,7や端面8,8を、一回ごとの放電加工による少ない工数および時間により、所要の形状および寸法に精度良く確実に加工することができる。
(2)押し出される中空押出形材Aの形状および寸法に精度が高くなるため、試し押し(テスト押し)のための回数を低減できる。
【0029】
一方、前記放電加工用電極10によれば、以下のような効果を奏することができる。
(1)マンドレル部M1の側面6,7を、一回ごとの放電加工で形成できる前記放電加工を確実に行うことができる。
(2)一度に側面6,7における複数の部位を同時に放電加工できるため、マンドレル部M2の形状および寸法を精度良く再現することが可能となる。
【0030】
尚、本発明は、前述した形態に限定されるものではない。
例えば、前記雄型D1のマンドレル部M1に対し、側面6,7および端面8,8ごとに専用の放電加工電極を用いて、個別に放電加工しても良い。
また、マンドレル部M1の軸方向(押出方向)に沿って、側面6,7および端面8,8を2回以上に分けて、それぞれ同時に複数の部位を放電加工することも可能である。
更に、図11に示すように、押出方向に沿った断面が円形のマンドレル部M1の場合、複数の加工部を併有するほぼ半円形の加工面42を黒鉛などの本体41に有する放電加工電極40を、2回に分けて放電加工する形態としても良い。あるいは、押出方向に沿って更に2回に分けて放電加工する形態としても良い。
また、前記スリットsやメタル流路24の数や位置を変更して、断面ほぼ目字形や断面ほぼ田字形の中空押出形材を成形したり、スリットsとメタル流路24とを省略して、単一の中空部Sを有する押出形材を成形することも可能である。
加えて、図11に示す円形のマンドレル部M1に対し、120度以上の円弧形の加工面を有する3つ以上の放電加工電極を用いたり、押出方向に沿って更に2回に分けて放電加工する形態としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に用いる型素材を示す斜視図。
【図2】図1中のX−X線の矢視に沿った概略の断面図。
【図3】本発明の放電加工電極を示す斜視図。
【図4】本発明による押出ダイスの製造方法の一形態を示す概略図。
【図5】上記製造方法の一工程を示す概略図。
【図6】図5に続く工程を示す概略図。
【図7】得られた雄型を示す斜視図。
【図8】上記雄型の断面図。
【図9】雄型と雌型とを組み立てる工程を示す概略図。
【図10】上記雄型と雌型とからなる押出ダイスの使用状態を示す概略図。
【図11】異なるマンドレル部および放電加工電極を示す概略図。
【符号の説明】
【0032】
A……………押出形材
S……………中空部
D1…………型素材
D2…………雄型
D4…………中空押出ダイス(押出ダイス)
M1,M2…マンドレル部
B……………ブリッジ
10,40…放電加工電極
13,15…凸部(加工部)
T……………凸部(加工部)
V……………凸部(加工部)
14,16…傾斜部(加工部)
17,Q……平面(加工部)
18…………凹溝(加工部)
21…………傾斜面(部位)
22,29…平坦面(部位)
23…………アンダーカット(部位)
25…………トンネル(部位)
26…………流れ込み部(部位)
27…………逃げ部(部位)
28…………ベアリング面(部位)
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空部を有するアルミニウム合金の押出形材を成形するための押出ダイスの製造方法およびこれに用いる放電加工用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、中空部を有するアルミニウム合金の押出形材を成形する場合には、係る押出形材の外形に倣った断面のベアリング面を含む成形孔を有する雌型と、係る雌型の前記成形孔に挿入する中空部の断面形状に倣ったベアリング面を含むマンドレル部および軟化したアルミニウム合金のメタルを分流して通過させ且つ上記マンドレル部の付近に導く複数のメタル通過孔を有する雄型とが、併用されている。
上記雌型の成形孔に含まれるベアリング面は、鋼製の型素材の中心部に対し、目的とする押出形材の外形に倣ってワイヤーカット放電加工を行うことにより、容易に製作することができる。
一方、雄型のうち、複数のメタル通過孔は、鋼製の型素材に対し、予め、マシニングセンター、あるいは汎用フライスなどによる複数の機械切削加工によって形成できるが、雄型のベアリング面を含むマンドレル部には、機械切削加工の難しい部分があるため、これまで係る部分ごとに専用の放電加工用電極を用意して放電加工を行っていた。
【0003】
例えば、雄型において、成形すべきベアリング面を含むマンドレル部の部分的な形状に対応した形状を有する複数個の基準加工電極を用意し、これらの基準加工電極を交換しつつ、放電加工することにより、マンドレル部を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、上記特許文献1のマンドレル部を加工する方法では、加工部位ごとに複数個の加工電極を順次用いるため、交換のための段替えが必要となり、工数を要し且つコスト高を招いていた。しかも、複数の放電加工を経る間に、マンドレルの基準加工面がずれ易いため、所要の形状に精度良く加工することが困難でバラツキを生じるおそれがあった。この結果、成形される中空部を有する押出形材の形状や寸法が安定し難い、という問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開昭61−56726号公報 (第1〜8頁、第5,6図)
【0005】
そのため、放電加工を施す部分は必要最小限とし、機械切削加工できる部分には、汎用フライスなどによる加工を行っていた。しかし、汎用フライス加工などによる場合は、作業者によって、形状や寸法の精度にバラツキがあるため、ダイス設計者の意図が正確に反映されない場合がある、という問題もあった。
また、鋼製の型素材は、強度を向上させるため、熱処理を施す場合がある。係る熱処理された型素材は、強度が向上するため、その後に行う機械切削加工が難しくなる。このため、型素材の機械切削加工は、熱処理の前に行っていた。しかし、係る熱処理は、高温(例えば、1020℃)で施されるため、当該熱処理された後の型素材に変形が生じてしまう。その結果、熱処理の後において、形状や寸法精度が重要な部分に対しては、再度の機械切削加工が必要となる、という問題もあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、背景技術において説明した問題点を解決し、押出形材の中空部を成形するベアリング面を含むマンドレル部を有する雄型を、所要の形状に精度良く確実に加工できると共に、少ない工数および時間で製造できる押出ダイスの製造方法、およびこれに用いる放電加工用電極を提供する、ことを課題とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するため、発明者らの鋭意研究および試行の結果、マンドレル部およびその付近を単一の放電加工電極で一度に形成する、ことに着想して成されたものである。
即ち、本発明の押出ダイスの製造方法(請求項1)は、中空部を有する押出形材を成形するためのマンドレル部およびブリッジを有する押出ダイスの雄型の製造方法であって、鋼製の型素材に対し、マンドレルおよびブリッジを目的とする形状に近似する形状に荒加工する工程と、荒加工された型素材のマンドレル部およびブリッジの少なくとも一方に形成される複数の連続する部位に対し、係る複数の連続する部位を放電加工する複数の加工部を含む単一の放電加工電極を対向させて放電加工する工程と、を含む、ことを特徴とする。
【0008】
これによれば、予め荒加工された型素材のマンドレル部やこれに隣接するブリッジを、少ない回数の放電加工により、何れの作業者が何度行っても、所要の形状および寸法に精度良く確実に加工することができる。しかも、形状および寸法の精度が高くなるため、押出加工時にダイス設計者が意図したメタル流動が得られるので、得られる押出形材の形状および寸法の精度や表面粗度なども良好となって、試し押し(テスト押し)のための回数を低減できる。加えて、ダイス設計者が意図したように、押出ダイスに加わる応力分布が得られ、ダイスの寿命を延ばすことができるので、保有すべきダイスの数を最小限にできる。このため、製作コストのみならず、押出工程の管理コストの低減も可能となる。
【0009】
また、本発明の方法で押出ダイスを製造する場合、放電加工では鋼材の機械的強度に関係なく切削加工できるので、従来、熱処理前に機械切削加工していた部分、特に形状精度を要する部分(例えば、マンドレル部分の首下部やメタル流路など)も、本発明の放電加工用電極で熱処理した後、一度に放電加工することができる。この結果、熱処理の前に切削加工をしないので、従来のように加工部の形状が熱処理で歪むことも回避できる。
更に、従来機械切削加工していた部分も他の部分と一緒に放電加工するため、放電加工自体の所要時間が従来よりも延びるが、係る放電加工する部分の機械切削加工が不要となるので、トータル(全工程)での加工時間を短縮できる。
しかも、従来では、連続する部位を個々に切削加工するため、連続する部位間の境目に角が生じ易く、メタル流動が阻害される。このため、係る角部分をアール取りで除去する面倒な後工程が必要であった。本発明によれば、連続する部位を単一の放電加工で形成できるため、連続する部位の境目に相当する電極部分に予めアール形状を付しておくことで、上記後工程を不要にできる。
【0010】
尚、前記マンドレル部などに対する放電加工には、単一(一種)の放電加工電極のみで放電加工する他、例えば、マンドレル部における一方の側面と他方の側面とを、専用である一対の放電加工電極で個別に放電加工したり、3個以上の放電加工電極で個別に放電加工する形態も含まれる。あるいは、前記マンドレル部などの軸方向(押出方向)に沿った複数の部位に対し、専用である複数の放電加工電極で個別に放電加工することも含まれる。即ち、前記単一とは、同じ側面、周面、または複数の連続する部位に対して、一回の放電加工のみを行うことである。
更に、前記複数の連続する部位とは、例えば、ベアリング部(予定面)とベアリング部の逃げ部、ベアリング部とその上流側(ビレット側)に位置するメタル溜まり部のアンダーカット部、アンダーカット部とその上流側に位置し且つアンダーカット部へメタルを送給するバルクヘッド、あるいは、中空押出形材のウェブ(仕切り壁)にメタルを送給するためのトンネルと流れ込み部と流し込み部などである。上記トンネルは、複数の中空部を区画するウェブを成形するため、最接近する一対のベアリング面の間にメタルを供給するための空間(メタル溜まり)である。
加えて、前記放電加工の対象となるブリッジは、複数のメタル通過孔を区画する複数のブリッジの中央部側を含むと共に、マンドレル部の上流側に隣接し且つ前記複数のブリッジが収束する中央部分も含まれる。
【0011】
一方、本発明の放電加工用電極(請求項2)は、中空部を有する押出形材を成形するためのマンドレル部およびブリッジを有する押出ダイスの雄型の製造するために用いる放電加工用電極であって、鋼製の型素材のマンドレル部およびブリッジの少なくとも一方に形成される複数の連続する部位に対し、係る複数の連続する部位を放電加工するための複数の加工部を含む、ことを特徴とする。
これによれば、マンドレル部やこれに隣接するブリッジを、一回の放電加工で形成できる前記放電加工を確実に行うことができる。しかも、一度に複数の部位を同時に放電加工できるため、マンドレル部などの形状および寸法を、ダイス設計者が意図した形状などに精度良く再現することが可能となる。更に、従来のように部分ごとの放電加工用の電極型を多数用意する場合に比べて、放電加工電極型の数が著しく低減できるため、工程管理も容易となる。
【0012】
尚、前記放電加工用電極は、例えば、黒鉛または銅合金からなる所定形状の素材塊に対し、押出ダイスの設計図を基に加工されるが、係る設計図を2次元ではなく、予め3次元CADなどによって全体および各部ごとの所要の形状と寸法とを数値化(モデリング)しておき、係る数値に基づき数値制御されたマシニングセンターやNCマシーンなどにより、切削、研削、研磨などを設定された順序および位置ごとで加工を施すことによって製作することが望ましい。
2次元の図面では、立体的な部分は表現が難しいので、係る部分は図面を読み取る作業者の解釈に任されるが、これでは、ダイス設計者の意図が正確に反映されない場合が生じる。本発明では、最初の設計段階で3次元データ化(モデリング)しておくことで、図面を読み取る作業者の解釈が加えられる余地がなくなるので、意図した通りの形状に再現できる。
【0013】
このため、ダイス設計者の意図を正確に反映した電極を用いて放電加工を行うことで、正確な形状の押出ダイスを製造することができる。更に、3次元データ化(モデリング)することで、同じ形状および寸法の電極を、作業者が替わっても何回でも製造できるため、同じ形状および寸法の押出ダイスを容易且つ正確に製造することができる。
また、前記複数の加工部は、例えば、型素材におけるビレット側が前記アンダーカットとこれに隣接するバルクヘッド、トンネルと流れ込み部と流し込み部となるように反対の形状を備えている。例えば、入り隅のアンダーカットに対しは、相似形で且つ出隅形状が加工部となり、複数の中空部を区画するウェブとなる最接近する一対のベアリング面の間にメタルを供給するトンネル(貫通孔)に対しは、その軸方向に沿った凸部が加工部となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下において、本発明を実施するための最良の形態(一例)について、図10に示す断面ほぼ日の字形状の押出形材(A)を押出加工するポートホールダイスの雄型の製造方法を説明する。
図1は、本発明の対象である押出ダイスの雄型の予め荒加工後における型素材D1を示す斜視図、図2は、図1中のX−X線の矢視に沿った断面図である。
雄型の型素材D1は、例えば、SKD61などの工具鋼(鋼材)からなり、予め円柱形の鋼素材に対し、ドリルなどによる孔明け、切削、および研削加工などによる荒加工を施されたもので、円筒形の外周部1と、その内側から求心状に中心部に延びる4つのブリッジBとを備えている。係るブリッジBの交叉部である中央に支持されたマンドレル部M1は、目的とする中空部形状に近似した形状に加工されている。尚、機械加工により荒加工された型素材D1は、機械的強度を高めるため、所要の熱処理が施される。
【0015】
図1,図2に示すように、外周部1と4つのブリッジBとの間には、4つのメタル通過孔2が押出方向(図1,図2で下側から上側に向かう方向)に沿ってほぼ対称に貫通して形成されている。
荒加工されたマンドレル部M1は、押出方向の下流側に突出した全体がほぼ直方体を呈し、後端面4、これを囲む段部5、一対の長い側面6,7、および、一対の短い端面8を備えており、これらの上流側は、ブリッジBに連続して支えられている。また、長方形を呈する後端面4の中央には、係る長方形を2分割する一定深さのスリットsが、段部5に達する深さで形成されている。尚、係るマンドレル部M1は、上流部3と連続している。
【0016】
図3は、本発明の放電加工用電極10を示す斜視図である。尚、図3においては、下側(上流側)から上側(下流側)に向かう方向が押出方向である。
係る放電加工用電極10の素材は、通常放電加工に用いられる黒鉛または銅合金などであるが、加工性を考慮すると黒鉛が望ましい。
放電加工用電極10は、図3に示すように、放電加工部となる本体11の内側面12には、左右両端から水平(押出方向に直交する方向)に延びた一対の凸部13、それらの上流側から斜め下向きに延びる傾斜部14、内側面12の中央部から水平(同上)に延びた3種類の凸部T、V、15、および凸部15の上流側から斜め下向きに延びる傾斜部16が形成されている。
一対の凸部13は、前記マンドレル部M1の端面8,8を放電加工する加工部であり、それらの内側の下隅には、メタルの流動を滑らかにするためのアールrが対称に付されている。また、各傾斜部14は、メタルを端面8,8付近に斜めに通す流路を形成するための加工部である。係る凸部13と傾斜部14とは、互いに連続している。
【0017】
図3に示すように、内側面12の中央部から突出する最上段の凸部Tは、メタルの逃げ部を形成する加工部であり、中段に位置する極細幅の凸部Vは、中空押出形材のウェブを成形するベアリング面用の加工部である。また、最下段に位置する断面ほぼ小判形の凸部15は、凸部Vにより成形されるベアリング面の直下付近に後述するトンネルを成形するための放電加工用の加工部であり、その上下の各コーナーには、メタルの流動を滑らかにするためのアールrが付されている。更に、傾斜部16は、上記トンネルにメタルを斜めに通す流れ込み部を形成するための加工部である。係る凸部15と傾斜部16も、互いに連続している。傾斜部16の下方には、ブリッジBの上辺を受け入れる凹部Uが形成されている。
内側面12には、後述する逃げ部を成形する平面17、ベアリング部を成形する凹溝18、アンダーカット部を成形する平面Q、および、バルクヘッド部を成形する傾斜面19(何れも加工部)が、連続して形成されている。
【0018】
図3に示すように、平面17と凹溝18との押出方向の上流側には、アンダーカット部を成形する平面Qと、アンダーカット部にメタルを集束して流すための傾斜したバルクヘッドを成形する加工部の傾斜面19が形成されている。係る傾斜面19は、上記平面Qと連続している。
以上のような凸部T,V,13,15、傾斜部14,16、平面17,Q、凹溝18、および傾斜面19(何れも加工部)を内側面12に有する放電加工用電極10は、黒鉛または銅合金からなる所定形状の素材塊に対し、予め上記各部ごとの所要の形状および寸法を、3次元データ化(モデリング)し、これらをコンピュータなどに記憶させておき、係る数値に基づき数値制御されたマシニングセンターやNCマシーンなどによって、切削、研削、研磨などを設定された順序に従って、各部ごとの加工を施すことにより製作される。
尚、上記放電加工用電極10は、前記マンドレル部M1を加工の対象としているが、係るマンドレル部M1に隣接する各ブリッジBの下流側を加工の対象とする形態としても良い。また、メタル流路を成形する傾斜部14,16、トンネルを成形する凸部15、およびアンダーカット部を成形する平面Qなどの加工部は、熱処理後の放電加工により形成される。
【0019】
図4は、前記図1,2で示した荒加工された型素材D1に対し、図3で示した放電加工用電極10を用いて行う、本発明の押出ダイスの製造方法を示す概略の斜視図である。
予め、前記荒加工された型素材D1を、図示しない放電加工装置の絶縁性の油槽中に浸漬し且つ電極と導通させた状態とする。
次に、図4中の実線の矢印で示すように、型素材D1のマンドレル部M1における側面6とこれに隣接する端面8,8の半分とに対し、前記と反対向きにした前記放電加工用電極10を下降させ、且つ水平移動(前進)させて、内側面12の凸部T,V,13,15などを接触直前とする。
係る状態で、型素材D1と放電加工用電極10との間に所要の電圧を断続的に印加すると、当該電極10の内側面12に位置する凸部T,V,13,15、傾斜部14,16、平面17,Q、凹溝18、および傾斜面19と、マンドレル部M1における側面6およびこれに隣接する端面8,8との微細な隙間で放電が断続的に生じる。
【0020】
その結果、マンドレル部M1の側面6に対し、先ず、放電加工用電極10の凸部T,V,13,15が徐々に進入すると共に、凸部13のアールrを有する内側面が端面8,8に接触して、平面17と凹溝18とに倣った形状に放電加工する。係る電極10を水平移動(前進)させる途中からは、上記凸部13,15に隣接する傾斜部14,16も側面6に最接近して放電加工し始める。
更に、図5に示すように、放電加工用電極10の凸部13,13間の平面17,Q、凹溝18、および傾斜面19がマンドレル部M1の側面6に接触しつつ、対向する側面6の該当部分を、これらに倣った形状に放電加工する。
上記側面6およびこれに隣接する端面8,8に対する放電加工が終わると、放電加工用電極10を後退および上昇させて、前記油槽から一旦引き上げる。
【0021】
その結果、図6のマンドレル部M1の側面6で例示するように、前記凸部15に倣ったトンネル25の半分、係るトンネル25の開口部に連通する前記傾斜部16に倣った流れ込み部26、前記平面17に倣った平坦面22および逃げ部27、前記凹溝18に倣い且つこれらを反転させた形状のベアリング部28、およびアンダーカット23が形成される。
次いで、図4中の破線の矢印で示すように、型素材D1のマンドレル部M1における側面7とこれに隣接する端面8,8の半分とに対し、前記放電加工用電極10を下降させ、且つ水平移動(前進)させて、内側面12の凸部T,V,13,15などを接触直前とし、前記同様の電圧を電極10とマンドレル部M1との間に印加する。すると、当該電極10の内側面12に位置する凸部T,V,13,15、傾斜部14,16、平面17,Q、凹溝18、および傾斜面19と、マンドレル部M1における側面7およびこれに隣接する端面8,8との微細な隙間で放電が断続的に生じる。
【0022】
その結果、図6に示すように、マンドレル部M1の側面7に対しても、前記同様に放電加工用電極10の凸部T,V,13,15が徐々に進入すると共に、凸部13の内側面が端面8,8に接触して、平面17,Qと凹溝18とに倣った形状に放電加工する。係る電極10を水平移動(前進)させる途中からは、上記凸部13,15に隣接する傾斜部14,16も側面6に最接近して放電加工し始める。
更に、図6に示すように、放電加工用電極10の凸部13,15,13間の平面17、凹溝18、および傾斜面19がマンドレル部M1の側面6に接触しつつ、対向する当該側面6の部分をこれらに倣った形状に放電加工する。
上記側面7およびこれに隣接する端面8,8に対する放電加工が終わると、放電加工用電極10を後退および上昇させて、前記油槽から引き上げる。
【0023】
その結果、図6に例示し且つ図7の斜視図に示すように、前記スリットsの直下付近で側面6,7間を水平に貫通するトンネル25、係るトンネル25の側面7側の開口部に連通する前記傾斜部16に倣った流れ込み部26、前記平面17に倣った平坦面22および逃げ部27、前記凹溝18に倣い且つこれらを反転させた形状のベアリング部28およびアンダーカット23、更には、次述する傾斜したバルクヘッド21がそれぞれ所定に位置に形成される。
【0024】
更に、図7と図8の垂直断面図に示すように、側面7および端面8,8にも、前記凸部13、傾斜部14、平面17、および凹溝18に倣い且つこれらを反転させたベアリング部28、アンダーカット23、傾斜したバルクヘッド21、および上流側にアール面rを有する平坦面29が形成されたマンドレル部M2が形成される。これによって、マンドレル部M2を有する雄型D2が得られる。
尚、前記スリットsとトンネル25との間は、凸部Vにより形成された幅狭のメタル流路24によって連通されており、係るトンネル25内に流入したメタルをメタル流路24を介して下流側のスリットsに流動させることで、押出形材における複数の中空部を仕切るウェブを成形することが可能となる。
【0025】
図9は、前記雄型D2のマンドレルM2を、雌型D3のベアリング面を含む成形孔30内に挿入して組み立てる状態を示す。雌型D3も、前記同様の工具鋼からなるほぼ円柱体を呈し、その中央部には、断面長方形の成形孔30が形成されてる。係る成形孔30の内面には、押し出しすべき押出形材の外形を成形するベアリング面(図示せず)が通常のワイヤーカット放電加工により形成されている。当該成形孔30におけるベアリング面の内面(寸法)は、マンドレルM2の外形よりも押出形材のほぼ肉厚分大きく形成されている。
図10に示すように、雌型D3の成形孔30内に、雄型D2のマンドレルM2を挿入することによって、ポートホールダイス(中空押出ダイス)D4が形成される。
尚、図10において、雌型D3の押出方向における下流側には、図示しないバックダイやボルスターなどが同軸心で配置され、雄型D2の上流側には、アルミニウム合金のビレットを収容する図示しないコンテナが配置される。
【0026】
図10中の破線の矢印で示すように、予め所定温度帯に加熱されたアルミニウム合金からなる円柱形のビレットは、コンテナに収容された後、図示しないステムにより、同図中で右側に軸方向に沿って押圧される。上記ビレットのメタルは、軟化しているため、雄型D2における4つの前記メタル通過孔2を分流しつつ、マンドレル部M2側に押し出される。
この間において、マンドレル部M2には、ベアリング面28寄りに傾斜した前記バルクヘッド21や流れ込み部26などによって、上記メタルは、ベアリング面28側に徐々に集束される共に、当該ベアリング面28の全周にわたって均一なメタル量となるように調整される。その結果、係るメタルは、マンドレル部M2におけるベアリング面28の全周と雌型D4の成形孔30におけるベアリング面との隙間から、押し出される。
【0027】
同時に、上記メタルの一部は、トンネル25内に進入した後、メタル流路24の全長に沿って押出形材の肉厚当たりに均一なメタル量となるように調整されつつ、当該メタル流路24内で対向する一対のベアリング面28,28間を通過しつつ押し出される。
その結果、図10中の実線の矢印で示すように、左右一対の中空部Sとこれらの間をウェブwで区画された断面がほぼ日字形の中空押出形材Aを、ポートホールダイスD4から精度良く押出成形することができる。
【0028】
以上のように、複数の連続する加工部(凸部T,V,13,15、傾斜部14,16、平面17,Q、凹溝18、および傾斜面19)を内側面12に一体に有する前記放電加工電極10を用い、前記型素材D1のマンドレル部M1を、その側面6,7側の2回に分けて放電加工して、マンドレル部M2を有する雄型D2を得ている。
この結果、前記押出ダイスの製造方法によれば、以下のような効果を奏することができる。
(1)型素材D1におけるマンドレル部M1の側面6,7や端面8,8を、一回ごとの放電加工による少ない工数および時間により、所要の形状および寸法に精度良く確実に加工することができる。
(2)押し出される中空押出形材Aの形状および寸法に精度が高くなるため、試し押し(テスト押し)のための回数を低減できる。
【0029】
一方、前記放電加工用電極10によれば、以下のような効果を奏することができる。
(1)マンドレル部M1の側面6,7を、一回ごとの放電加工で形成できる前記放電加工を確実に行うことができる。
(2)一度に側面6,7における複数の部位を同時に放電加工できるため、マンドレル部M2の形状および寸法を精度良く再現することが可能となる。
【0030】
尚、本発明は、前述した形態に限定されるものではない。
例えば、前記雄型D1のマンドレル部M1に対し、側面6,7および端面8,8ごとに専用の放電加工電極を用いて、個別に放電加工しても良い。
また、マンドレル部M1の軸方向(押出方向)に沿って、側面6,7および端面8,8を2回以上に分けて、それぞれ同時に複数の部位を放電加工することも可能である。
更に、図11に示すように、押出方向に沿った断面が円形のマンドレル部M1の場合、複数の加工部を併有するほぼ半円形の加工面42を黒鉛などの本体41に有する放電加工電極40を、2回に分けて放電加工する形態としても良い。あるいは、押出方向に沿って更に2回に分けて放電加工する形態としても良い。
また、前記スリットsやメタル流路24の数や位置を変更して、断面ほぼ目字形や断面ほぼ田字形の中空押出形材を成形したり、スリットsとメタル流路24とを省略して、単一の中空部Sを有する押出形材を成形することも可能である。
加えて、図11に示す円形のマンドレル部M1に対し、120度以上の円弧形の加工面を有する3つ以上の放電加工電極を用いたり、押出方向に沿って更に2回に分けて放電加工する形態としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に用いる型素材を示す斜視図。
【図2】図1中のX−X線の矢視に沿った概略の断面図。
【図3】本発明の放電加工電極を示す斜視図。
【図4】本発明による押出ダイスの製造方法の一形態を示す概略図。
【図5】上記製造方法の一工程を示す概略図。
【図6】図5に続く工程を示す概略図。
【図7】得られた雄型を示す斜視図。
【図8】上記雄型の断面図。
【図9】雄型と雌型とを組み立てる工程を示す概略図。
【図10】上記雄型と雌型とからなる押出ダイスの使用状態を示す概略図。
【図11】異なるマンドレル部および放電加工電極を示す概略図。
【符号の説明】
【0032】
A……………押出形材
S……………中空部
D1…………型素材
D2…………雄型
D4…………中空押出ダイス(押出ダイス)
M1,M2…マンドレル部
B……………ブリッジ
10,40…放電加工電極
13,15…凸部(加工部)
T……………凸部(加工部)
V……………凸部(加工部)
14,16…傾斜部(加工部)
17,Q……平面(加工部)
18…………凹溝(加工部)
21…………傾斜面(部位)
22,29…平坦面(部位)
23…………アンダーカット(部位)
25…………トンネル(部位)
26…………流れ込み部(部位)
27…………逃げ部(部位)
28…………ベアリング面(部位)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空部を有する押出形材を成形するためのマンドレル部およびブリッジを有する押出ダイスの雄型の製造方法であって、
鋼製の型素材に対し、マンドレルおよびブリッジを目的とする形状に近似する形状に荒加工する工程と、
荒加工された型素材のマンドレル部およびブリッジの少なくとも一方に形成される複数の連続する部位に対し、係る複数の連続する部位を放電加工する複数の加工部を含む単一の放電加工電極を対向させて放電加工する工程と、を含む、
ことを特徴とする押出ダイスの製造方法。
【請求項2】
中空部を有する押出形材を成形するためのマンドレル部およびブリッジを有する押出ダイスの雄型の製造するために用いる放電加工用電極であって、
鋼製の型素材のマンドレル部およびブリッジの少なくとも一方に形成される複数の連続する部位に対し、係る複数の連続する部位を放電加工するための複数の加工部を含む、
ことを特徴とする放電加工用電極。
【請求項1】
中空部を有する押出形材を成形するためのマンドレル部およびブリッジを有する押出ダイスの雄型の製造方法であって、
鋼製の型素材に対し、マンドレルおよびブリッジを目的とする形状に近似する形状に荒加工する工程と、
荒加工された型素材のマンドレル部およびブリッジの少なくとも一方に形成される複数の連続する部位に対し、係る複数の連続する部位を放電加工する複数の加工部を含む単一の放電加工電極を対向させて放電加工する工程と、を含む、
ことを特徴とする押出ダイスの製造方法。
【請求項2】
中空部を有する押出形材を成形するためのマンドレル部およびブリッジを有する押出ダイスの雄型の製造するために用いる放電加工用電極であって、
鋼製の型素材のマンドレル部およびブリッジの少なくとも一方に形成される複数の連続する部位に対し、係る複数の連続する部位を放電加工するための複数の加工部を含む、
ことを特徴とする放電加工用電極。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−161874(P2008−161874A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350731(P2006−350731)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【出願人】(507000039)株式会社澤本製作所 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【出願人】(507000039)株式会社澤本製作所 (1)
【Fターム(参考)】
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