説明

抽出除去装置および抽出除去方法

【課題】
樹脂材料から難燃剤のような成分を抽出により除去する抽出除去装置において、装置を大型にせずに処理能力を向上させ、それにより、廃プラスチックの再生コストを低減させる。
【解決手段】
難燃剤を含有する樹脂材料から難燃剤を抽出分離する抽出手段1、1’を2つ設け、下流側の抽出手段1’の抽出剤供給口4’から抽出剤を供給し、抽出手段1’で使用した抽出剤を上流側の抽出手段1に供給することによって、使用する抽出剤の量を大幅に増加させることなく、樹脂材料から難燃剤を効率的に除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂材料から、一または複数の成分を抽出により除去する抽出除去装置に関し、特に熱可塑性樹脂と難燃剤とを含む材料から難燃剤のみを除去する抽出除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
家電リサイクル法の施行により、回収した家電製品に使用されている材料の再利用(マテリアルリサイクル)が生産者に義務付けられている。この一環として、家電製品の外装筐体などに多用されている廃プラスチックから、素材となる樹脂のみを取り出して再利用することが強く求められている。
【0003】
一般に廃プラスチックは、ポリスチレン、ポリプロピレン、ABS、または耐衝撃性を向上させたハイインパクトポリスチレン(HIPS)等の熱可塑性樹脂と、熱可塑性樹脂を燃え難くする難燃剤と、着色剤等の添加剤とを含んでいる。これらのプラスチックの多くは、難燃剤としてポリ臭素化ビフェニルまたはポリ臭素化ジフェニルエーテルなどの臭素系難燃剤を含む。近年、これらの臭素系難燃剤は、欧州のRoHS指令(特定有害物質使用禁止令)により環境負荷物質に指定され、製品中の臭素系難燃剤の含有量はこの指令により規制されている。したがって、環境負荷物質に指定された臭素系難燃剤を含む廃プラスチックを広く様々な国で再利用するためには、臭素系難燃剤をその含有量が規制値以下となるように除去する必要がある。
【0004】
このような背景から、プラスチックから環境負荷物質である難燃剤を除去する方法が種々提案されている(特許文献1参照)。例えば、図2に示すような混練装置を応用した方法もその一つである。図2は、従来の難燃剤除去装置の要部を示した断面概略図である。以下、この装置の構成について説明する。
【0005】
難燃剤除去装置20は、混練装置を応用した難燃剤抽出装置1と、溶剤除去装置2と、難燃剤抽出装置1と溶剤除去装置2とを接続する接続パイプ8とから構成されている。図2において、実線で示す矢印は抽出剤となる溶剤の流れを示し、破線で示す矢印は樹脂材料の流れを表す。
【0006】
難燃剤抽出装置1は、樹脂と難燃剤とを含む樹脂材料6を供給する材料供給口7と、樹脂材料に含まれている成分のうち難燃剤のみを溶解する溶剤を供給する溶剤供給口4と、樹脂材料6を加熱するメルター3と、難燃剤が溶解した溶液を排出する溶液排出口5と、樹脂材料6および溶剤を混練しながら矢印12の方向へ搬送するスクリュー13と、スクリュー13を回転駆動させるモーター14等から構成されている。
【0007】
溶剤除去装置2は、接続パイプ8を介して供給された、難燃剤が除去された材料(以下、難燃剤除去樹脂材料6’と言う)を矢印15の方向へ搬送するスクリュー16と、スクリュー16を回転駆動させるモーター17と、難燃剤除去材料6’中に残存している溶剤を排出するための溶剤排出口9と、溶剤排出口9に接続された真空ポンプ(図示されていない)と、難燃剤除去樹脂材料6’を排出するための材料排出口10等から構成されている。次に、この装置を使用して、材料6から難燃剤を除去して樹脂を取り出す方法について説明する。
【0008】
材料供給口7と溶剤供給口4からそれぞれ樹脂材料6と溶剤を供給し、スクリュー13で混練する。このとき、材料6をメルター3で加熱して溶融する。加熱されて溶融状態となった材料6は、スクリュー13の回転によって押圧および圧縮されながら矢印12の方向へ搬送され、接続パイプ8を介して溶剤除去装置2へ押出される。材料6中の難燃剤は、スクリュー13で混練されている間に溶剤中に溶解して、材料6から分離される。難燃剤を溶解した溶剤(以下、溶液と言う)は、熱溶融状態の原料6に加えられる押圧力および圧縮力によって材料6の表層部へ押出され、それから内圧の低い矢印11の方向へ流れて溶液排出口5から排出される。この段階では、難燃剤除去樹脂材料6’の中に少量の溶剤が残存しており、これを除去する必要がある。
【0009】
溶剤除去装置2に押出された難燃剤除去樹脂材料6’は、スクリュー16によって矢印15の方向へ搬送され、材料排出口10から排出される。材料が搬送されている間に、真空ポンプを駆動させると、溶剤が蒸発して、その蒸気が溶剤排出口9から排出され、それにより樹脂材料中に残存していた溶剤が難燃剤除去樹脂材料6’から除去されることとなる。したがって、材料排出口10から排出される材料は、難燃剤と溶剤とが除去された材料となる。
【0010】
【特許文献1】国際公開第2003/078016号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、従来の難燃剤除去装置は、材料の供給量を増やすと難燃剤の除去率が低下するという問題点があった。この問題を解決するために、材料の供給量に応じて難燃剤溶解装置のバレル径およびスクリュー径を大きくすることが考えられる。しかし、バレルとスクリューとの間隙を所定の寸法とするには高い加工精度を要するため、バレル径およびスクリュー径を大きくするほど、加工費が嵩み、装置コストが高くなり、その結果、廃プラスチックの再生コストが高くなるという問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、装置を大型化することなく処理性能を向上させて、廃プラスチックの再生コストを低減させることが可能となるような、抽出除去装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明の抽出除去装置は樹脂材料から、一または複数の成分(以下、「除去成分」と呼ぶ)を抽出により除去する抽出除去装置であって、
樹脂材料と抽出剤とを混練する混練手段と、除去成分を抽出する抽出剤を供給する抽剤供給口と、除去成分が溶解した溶液を排出する溶液排出口とを備えた抽出手段を少なくとも2つ有し、
隣り合う2つの抽出手段において、
上流側の抽出手段により除去成分が一部除去された樹脂材料を、下流側の抽出手段に供給するための第1導管、および
該上流側の抽出手段の抽出剤供給口と該下流側の抽出手段の溶液排出口とを連結する第2導管
を有し、
該下流側の抽出手段から排出される溶液が該上流側の抽出手段の該溶液排出口および該第2導管を介して該上流側の抽出手段に供給されるように、構成される。
【0014】
この抽出除去装置は、樹脂と抽出剤とを混練しながら抽出剤と接触させる抽出手段を2つ以上有し、かつ下流側の抽出手段で使用した抽出剤を上流側の抽出手段に戻すことを特徴とする。この特徴により、装置を大型化することなく材料供給量を増大することが可能となる。また、この装置においては、2つ以上の抽出手段を使用するものの、下流側の抽出手段で使用した抽出剤を上流側の抽出手段で使用するので、抽出剤の使用量を従来のものよりも大幅に増やす必要がない。したがって、この装置によれば、従来の装置と比較して、処理コストをそれほど増加させることなく、処理能力(または廃プラスチックの再生能力)の向上を実現できる。
【0015】
ここで、「樹脂材料」とは、樹脂を主たる成分として含む材料をいい、使用済みの材料を含む意味で使用される。「除去成分」は抽出により樹脂材料から除去されるべき成分をいう。「抽出剤」とは、特定の成分を溶解させる溶剤または溶液をいい、特に本明細書においては、抽出手段にて樹脂材料と接触する前の溶液中の除去成分の濃度よりも、樹脂材料と接触した後の溶液中の除去成分の濃度が高くなる限りにおいて、除去成分が溶解した溶液も「抽出剤」の概念に含まれることに留意されたい。また、本明細書においては、樹脂材料の進む方向において、材料供給口により近い側を上流と呼び、材料供給口からより遠い側を下流と呼ぶ。
【0016】
前記第2導管を通過する溶液は加熱されることが好ましい。上流側の抽出手段に供給される抽出剤の温度を高くして、除去成分の溶解度を高くし、また、第2導管内で除去成分が析出するのを防止するためである。したがって、第2導管の一部または全部には、加熱手段が設けられていることが好ましい。
【0017】
前記第2導管には異物除去手段が設けられていることが好ましい。異物は、例えば、樹脂材料が上流側の抽出手段を通過し、さらに下流側の抽出手段を通過している間に、装置内に付着した塵または汚れ等を樹脂材料が抱き込むために、第2抽出手段にて抽出剤に含まれることがあり、あるいは樹脂材料中の成分が変質し、これが抽出剤に溶解しない異物となることがある。第2導管を通過する溶液から異物を除去することにより、上流側の抽出手段で処理される樹脂材料に異物が混入することを防止でき、また、装置内で異物が循環して装置に悪影響を及ぼすことを防止できる。
【0018】
本発明はまた、 樹脂材料から、一または複数の成分を抽出により除去する抽出除去方法であって、
樹脂材料と抽出剤とを混練すること、および
混練物から除去成分が抽出剤に溶解した溶液を取り出すこと
を含む抽出操作を2回以上繰り返すこと、および
樹脂材料から当該一または複数の成分を除去した樹脂材料を取り出すこと
を含み、
繰り返し行う抽出操作において、先の抽出操作を、後の抽出操作で取り出した溶液を抽出剤として使用して実施する、抽出除去方法を提供する。この方法は、本発明の抽出除去装置によって好ましく実施されるが、他の装置で実施してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の抽出除去装置および抽出除去方法によれば、例えば廃プラスチックから不要な成分(例えば、難燃剤)をより効率的に除去することができ、したがって、質の良い再生プラスチックを効率的に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0021】
図1は、本発明の抽出除去装置の一例の主要部を示した断面概略図である。図1においては、図2と同じ部材および要素に同じ番号を付与し、図2に関連して既に説明した部材および要素の詳細については、説明を省略する。図1においても、実線で示す矢印は抽出剤の流れを示し、破線で示す矢印は樹脂材料の流れを表す。以下、図1に示す装置およびこれを用いて実施する本発明の方法を、樹脂材料から除去成分として難燃剤を除去するために用いる場合を想定して、説明する。
【0022】
図1に示す装置は、図2に示す装置とは、抽出手段(図1において難燃剤抽出装置に相当)を2台設けた点で異なっている。抽出手段を2台設けることにより、樹脂材料の供給量が増加した場合に、上流側の抽出手段において除去し切れなかった難燃剤を、下流側の抽出手段で除去することが可能となる。
【0023】
図1に示す抽出除去装置21は、上流側の抽出手段1(以下、「第1抽出手段」とも呼ぶ)と、下流側の抽出手段1’と、溶剤除去装置2とから構成されている。抽出手段1(1’)は難燃剤を抽出剤中に溶解させて抽出する装置であり、樹脂材料と抽出剤とを混練する混練手段13(13’)と、抽出剤を供給する抽出剤供給口4(4’)と、溶液を排出する溶液排出口5(5’)とをそれぞれ備えている。第1抽出手段1と第2抽出手段1’は、第1導管28および第2導管27で連結されている。第1導管28は、第1抽出手段1で難燃剤が除去された樹脂材料を第2抽出手段1’へ送るために設けられている。第2導管27は、第2抽出手段1’の溶液排出口5’と第1抽出手段1の抽出剤供給口4とを接続し、第2抽出手段1’からの溶液を第1抽出手段1に送るために設けられている。第2抽出手段1’と溶剤除去装置2は、図2に示す装置と同様に接続パイプ8で連結されている。第2導管27には抽出剤供給ポンプ22が設けられており、溶液排出口5’から排出される溶液が、抽出剤供給ポンプ22で吸い上げられて難燃剤溶出装置1へ供給されるようになっている。尚、メルター3(3’)には、樹脂材料に含まれている樹脂の溶融温度に応じて、温度を適宜調節する温度制御器(図示されていない)が設けられている。
【0024】
次に、原料6から難燃剤を除去して、難燃剤を含まない樹脂材料又は難燃剤の含有量が樹脂材料供給口に供給される樹脂材料のそれよりも有意に減少した樹脂材料を取り出す方法を説明する。第1抽出手段1において、材料供給口7から供給された樹脂材料6と、抽出剤とがスクリュー13によって混練され、図1を参照して説明した原理と同様の原理によって、樹脂材料6から難燃剤が抽出されて除去される。即ち、抽出剤供給口4から供給される抽出剤は矢印11の方向へ流れ、溶液排出口5から排出される。但し、第1の抽出手段1に供給される抽出剤は、第2の抽出手段1’にて樹脂材料から抽出した難燃剤が溶解された溶液である。第1の抽出手段1にて処理される樹脂材料は高い濃度で難燃剤を含むので、第2の抽出手段1’から排出される、少量の難燃剤が溶解した溶液を第1の抽出手段1で抽出剤として使用しても、第1の抽出手段1に供給される樹脂材料中の難燃剤の含有量(含有率)を低下させることは可能である。しかし、そのような溶液を用いて樹脂材料から難燃剤を除去する場合、第1の抽出手段から取り出される樹脂材料6には未だ難燃剤が含まれている。そこで、さらに難燃剤を除去するために、樹脂材料6を第2の抽出手段1’に送る。
【0025】
樹脂材料6は、スクリュー13によって矢印12の方向へ押出され、第1導管8を介して第2の抽出手段1’に供給される。第2抽出手段1’に供給された材料6は、抽出剤供給口4’から供給される、未使用の(または難燃剤を溶解していない)抽出剤と混練されて、樹脂材料6から難燃剤がさらに除去されることとなる。第2抽出手段1’で難燃剤が除去された樹脂材料6は、スクリュー13’で矢印25の方向へ押出され、接続パイプ8’を介して溶剤除去装置2に供給される。一方、難燃剤が溶解した溶液は、矢印26の方向へ流れ、抽出剤供給ポンプ22によって吸い上げられ、第2導管27を介して第1抽出手段1に搬送される。前述したように、第2抽出手段1’から排出される溶液に溶解している難燃剤は少量であるので、この溶液は未だ最大量の難燃剤を溶解していない(即ち、飽和溶液でない)。したがって、この溶液はさらに抽出剤として用いることができる。このように、第2抽出手段1’で用いた溶剤を第1抽出手段1で用いる構成にすることにより、未使用の抽出剤は第2抽出手段1’にのみ供給するだけで足りる、または未使用の抽出剤を第1抽出手段に供給するとしてもその使用量を少なくすることができ、抽出剤の利用効率が向上する。
【0026】
第2抽出手段1’から排出された、難燃剤が除去された(または難燃剤の含有量が低下した)樹脂材料6’は、溶剤除去装置2に送られ、そこで難燃剤除去樹脂材料6’中に残存している溶剤が除去されてから、材料排出口10から排出される。溶剤除去装置2の作動原理は、先に図2を参照して説明したとおりであるから、ここではその詳細な説明を省略する。難燃剤除去樹脂材料6’に残存する抽出剤は抽出剤排出口9に接続された真空ポンプ(図示せず)により蒸気として取り出され、この蒸気は冷却して液体とし、再度、抽出剤として利用してよい。その場合、抽出剤の利用効率をより向上させ得る。
【0027】
図1に示す装置においては、第1導管27のほぼ全長にわたってその周囲にヒーター15が設けられている。このヒーターは、第1導管27内を通過する溶液を加熱することによって難燃剤の溶解度をより高くするとともに、溶液中の難燃剤の析出を防止するために好ましく設けられる。ヒーターは第1導管27の一部に設けられてよい。また、第1導管27には、塵等の溶解していない異物を除去する交換可能なフィルタ16を設けることが好ましく、それにより異物による難燃剤除去樹脂材料6’の汚染および抽出剤供給ポンプ14の故障を防止できる。
【0028】
本発明は、除去成分が難燃剤である樹脂材料のほか、難燃助剤、滑剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、流動改質剤、および離型剤等から選択される1又は複数の成分を除去成分とする樹脂材料に適用可能である。複数の成分を除去すべき場合(即ち、除去成分が複数含まれている場合)、当該成分をすべて溶解する抽出剤を適宜選択する必要がある。
【0029】
本発明は、前述のように特に難燃剤を除去成分とする場合に好ましく適用される。樹脂材料から除去される難燃剤として、例えば、
1)臭素系難燃剤:例えば、i)テトラブロモビスフェノールA(TBA)等のビスフェノールA型の難燃剤、ii)デカブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、およびテトラブロモジフェニルエーテル等のポリ臭素化ジフェニルエーテル系難燃剤、iii)トリブロモフェノール、エチレンビステトラブロモフタルイミド、ヘキサブロモシクロドデカン、TBAポリカーボネートオリゴマー、ビストリブロモフェノキシエタン、臭素化ポリスチレン、TBAエポキシオリゴマー、およびポリ臭素化ビフェニル
2)塩素系難燃剤:例えば、パークロロシクロペンタデカン、クロレンド酸、および塩素化パラフィン
3)リン系難燃剤、ならびに
4)窒素化合物系難燃剤等
が挙げられる。使用済みの樹脂材料(または廃プラスチック)に含まれている難燃剤の含有率は、その材料に対して要求されていた難燃グレードによって異なり、一般には、数重量%乃至5、60重量%である。
【0030】
本発明の装置または方法により処理される樹脂材料は、樹脂として熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。熱可塑性樹脂は、具体的には、i)ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル、スチレン−ブタジエン、ポリ−α−メチルスチレン、スチレン−アクリロニトリルおよびスチレン−無水マレイン酸等のスチレン系樹脂、ならびにii)ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂から選択される1または複数の樹脂である。これらの樹脂の分子量は、3,000〜1,000,000程度であることが望ましい。本発明の装置または方法により処理される樹脂材料は、使用済みの家電製品の筐体を構成する樹脂材料であってよく、その場合には樹脂材料を適宜粉砕して抽出手段に供給する。
【0031】
難燃剤を除去成分として抽出する場合、抽出剤は、上述した難燃剤のみを溶解し、樹脂を溶解させない溶剤である限りにおいて、任意の溶剤または溶液であってよい。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコールプロピルエーテル、トリエチレングリコールブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコールプロピルエーテル、またはトリプロピレングリコールブチルエーテルを、抽出剤として使用できる。特にグリコールエーテル系の溶剤は、難燃剤の溶解力が大きく(即ち、難燃剤の溶解度が高く)、かつ樹脂の溶解力が非常に小さく(即ち、樹脂の溶解度が小さく)、しかも環境への影響が少ないことから好ましく用いられる。必要に応じて、抽出剤には、抗菌剤、防カビ剤、酸化防止剤、害虫忌避剤、界面活性剤、着色剤、発泡剤および流動促進剤等から選択される1または複数の添加物を添加してもよい。
【0032】
図示した形態においては、難燃剤を抽出して除去している。他の形態においては、難燃剤に代えて、又は難燃剤とともに他の成分を抽出して除去してよい。いずれの成分を樹脂から除去する場合にも、抽出剤は、除去すべき成分の溶解力が大きく、樹脂の溶解力が非常に小さいことを要する。
【0033】
図示した形態においては、抽出手段を2台設けている。別の形態において、樹脂材料の供給量および用いる溶剤の溶解力に応じて、抽出手段を3以上設けてもよい。その場合、上流側から下流側に向かって順に抽出手段を、第1抽出手段、第2抽出手段、第3抽出手段、・・・と呼ぶと、隣り合う第n抽出手段と第n+1抽出手段は、第1導管および第2導管により接続され、第n抽出手段で抽出処理に付された樹脂材料が第1導管を経由して第n+1抽出手段へ供給され、第n+1手段から排出される溶液が抽出剤として第2導管から供給されることとなる。あるいは、上流側の抽出手段に供給される抽出剤は、下流側の複数の抽出手段から排出される溶液を合わせたものであってよい。
【実施例】
【0034】
[実施例]
樹脂材料として、TBA(テトラブロモビスフェノールA)難燃剤を含有しているハイインパクトポリスチレン樹脂材料を、1〜10mm大のペレット状に粉砕したものを用意した。ハイインパクトポリスチレンの平均分子量は約40,000であり、難燃剤の含有率は約15重量%であった。また、抽出剤としてジプロピレングリコールを用意した。
【0035】
この原料と溶剤とを用い、図1で示した抽出除去装置で難燃剤を除去した。難燃剤の抽出条件は以下の通りである。
材料供給量:20kg/hr
第2抽出手段への抽出剤供給量:40kg/hr
ヒーター温度:180℃
スクリュー長さ:500mm
スクリュー直径:100mm
スクリュー回転速度:360rpm
【0036】
原料排出口10から排出された難燃剤除去樹脂材料を水槽で冷却したのち、ペレタイザーで所定の長さにカットした。
【0037】
得られた樹脂材料の難燃剤の含有率は1%未満に減少していた。得られた樹脂材料のシャルピー衝撃強度、デュポン衝撃値、およびビカット軟化点を測定したところ、それらはいずれも難燃剤を除去する前の樹脂材料の各物性値の約1.2倍であった。これらの物性値が高くなっていることからも、難燃剤が有意に除去されたことがわかる。また、難燃剤を除去した後のハイインパクトポリスチレンの分子量は38,500であった。
【0038】
[比較例]
上記実施例で用いた樹脂材料および抽出剤と同じものを用意し、図2に示す従来の難燃剤除去装置を用いて、同じ抽出条件で難燃剤を除去した。その結果、得られた樹脂材料の難燃剤の含有率は約5重量%となった。条件を変えて、原料の供給量を10kg/時とし、溶剤の供給量を20kg/時にしたところ、難燃剤の含有率は1%になった。このように、従来の難燃剤除去装置を使用した場合には、処理速度を遅くしても、本発明の装置を用いた場合ほど難燃剤を多く除去できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の抽出除去装置は、難燃剤等の除去すべき成分を含む廃プラスチックから、当該除去すべき成分を高効率で分離除去することを可能にするので、プラスチック製品を再利用することが望まれる分野において広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明による抽出除去装置の構成例の要部を示した概略図
【図2】従来の難燃剤除去装置の要部を示した概略図
【符号の説明】
【0041】
1,1’ 抽出手段
2,2’ 溶剤除去装置
3,3’ メルター
4,4’ 抽出剤供給口
5,5’ 溶液排出口
6, 樹脂材料
6’ 難燃剤除去樹脂材料
7 材料供給口
8 接続パイプ
9 溶剤排出口
10 材料排出口
13,13’,16 スクリュー
14,14’,17 モーター
20,21 抽出除去装置
22 抽出剤供給ポンプ
23 ヒーター
24 フィルタ
27 第2導管
28 第1導管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料から、一または複数の成分(以下、「除去成分」と呼ぶ)を抽出により除去する抽出除去装置であって、
樹脂材料と抽出剤とを混練する混練手段と、除去成分を抽出する抽出剤を供給する抽剤供給口と、除去成分が溶解した溶液を排出する溶液排出口とを備えた抽出手段を少なくとも2つ有し、
隣り合う2つの抽出手段において、
上流側の抽出手段により除去成分が一部除去された樹脂材料を、下流側の抽出手段に供給するための第1導管、および
該上流側の抽出手段の抽出剤供給口と該下流側の抽出手段の溶液排出口とを連結する第2導管
を有し、
該下流側の抽出手段から排出される溶液が該上流側の抽出手段の該溶液排出口および該第2導管を介して該上流側の抽出手段に供給される、抽出除去装置。
【請求項2】
前記第2導管を通過する溶液を加熱する加熱手段が該第2導管の一部または全部に設けられている請求項1に記載の抽出除去装置。
【請求項3】
異物除去手段が前記第2導管に設けられている請求項1または2に記載の抽出除去装置。
【請求項4】
樹脂材料から、一または複数の成分を抽出により除去する抽出除去方法であって、
樹脂材料と抽出剤とを混練すること、および
混練物から除去成分が抽出剤に溶解した溶液を取り出すこと
を含む抽出操作を2回以上繰り返すこと、および
樹脂材料から当該一または複数の成分を除去した樹脂材料を取り出すこと
を含み、
繰り返し行う抽出操作において、先の抽出操作を、後の抽出操作で取り出した溶液を抽出剤として使用して実施する、
抽出除去方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−185627(P2007−185627A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−7051(P2006−7051)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】