説明

拭き取り用シート及び拭き取り用シートの製造方法

【課題】携帯性や使用上の利便性を有し、充分に汚れや埃、化粧料などを拭き取ることができる拭き取り用シートを得ることを目的とする。
【解決手段】シート状基材と油性組成物とを有し、シート状基材に領域を規制しつつ油性組成物を存在させたことを特徴とする。シート状基材は好ましくは熱溶融性繊維を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、人体あるいは物体に付着した汚れ、埃等を拭き取ってその表面を清浄にするための拭き取り用シートとその製造方法に関し、特に化粧品が付いた皮膚や乳幼児の肌の拭き取りに用いられる拭き取り用シートとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人体の皮膚表面や物体に付着した汚れ、埃などを拭き取るための拭き取り用シートは、ペーパータオル、ウエットティッシュ、化粧用ウエットティッシュ等の名称で、一般用、化粧用などに幅広く利用されている。この拭き取り用シートは、紙や不織布からなるシート状基材に、クリーム状、乳液状、液状などの流動性を有する洗浄剤を含浸させたものが公知であり、例えば、特開2001-302450号公報、特表2001-512178号公報、特開2002-201109号公報に開示されている。
【0003】
しかしながら、クリーム状、乳液状、液状などの流動性を有する洗浄剤を含浸するシート状の拭き取り用シートは、表面が濡れた状態にあるため、包装、保管に気を配る必要があり、使用中に洗浄剤がたれ落ちる等の問題があった。また、シート状基材に含ませる洗浄料の含浸量が限定されており、汚れ等の被洗浄物は含浸された洗浄料と混じり合ってシート状基材に吸収されて除去されるものであるため、除去する汚れの量が多くなると最早除去することができなるという不都合があった。特に、油分を多く含むメーキャップ化粧料の洗浄にあっては、拭き取り効果が早期に喪失してしまう傾向があった。
【0004】
そこで、特開2001-213726号公報に開示されているような、50℃以上の融点を有する固形油を配合した油性固形クレンジング料が提案されている。ところがこの材料をシート状基材に含ませると、シート状基材の全体に広がって固まってしまい、利用しにくくなるため、シート状基材を用いることなく固形油単独で、ボトルやチューブに固化した状態で収納、保管して利用されている。そのため、このクレンジング料を使用する場合は、ガーゼや脱脂綿を別途用意して、皮膚に塗布したクレンジング料を拭き取ったり、水で洗浄したりする手間が必要となり、任意の場所や時間において自由に使用することができない不便さがあった。
【0005】
この問題を解決するため、本発明者らは、常温で固形状態にあり50℃以上で溶融する固形油を含む油性組成物を、シート状基材の内部に浸透させることなく主として表面に層状に存在させて担持した拭き取り用シートを開発し、特許出願(特願2004-9814)している。
【0006】
図9で示すように、この拭き取り用シート(101)は、シート状基材(102)の表面に常温で固形状の上記油性組成物(103)を担持しており、メーキャップ化粧料(104)が付いた肌(105)に対して、油性組成物(103)側をまず当てて使用する(図9a)。すなわち、この拭き取り用シート(101)が肌(105)に当たると、油性組成物(103)は、拭き取り時の圧力で崩壊して液状化し、メーキャップ化粧料(104)と混合した混合物(106)となってシート状基材(102)の内側に毛細管現象で吸収される(図9b)。さらに油性組成物(103)の付いていないシート状基材(102)の縁の部分でこの混合物(106)を拭き取ることができる。そのため、良好な拭き取り効果が期待できる。それから、シート状基材(102)の油性組成物(103)が付いた面を内側にして折り畳み、反対側の面(102a)で肌(105)を拭いて整えることができる(図9c)。この場合、シート状基材(102)に液状浸透剤を含浸させておけば、サッパリ感や爽快感をもたらすことができる。
【0007】
この拭き取り用シート(101)は、良好な拭き取り効果を有するのはもちろんのこと、ガーゼや脱脂綿を別途用意する必要も無く、任意の場所や時間において自由に使用することができる大変便利なものである。
【0008】
【特許文献1】特開2001-302450号公報
【特許文献2】特表2001-512178号公報
【特許文献3】特開2002-201109号公報
【特許文献4】特開2001-213726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように便利な拭き取り用シート(101)ではあるが改良すべき点もある。例えばその一つに製造工程がある。この拭き取り用シート(101)は、油性組成物(103)をシート状基材(102)の全体にしみ込ませるのではなく、シート状基材(102)の表面に存在させる必要があることから、液状浸透剤を含浸させたり、シート状基材(102)を冷却させたりして製造している。ところが、適用する油性組成物(103)の種類に応じて、溶融粘度や温度、シート状基材(102)との親和性、冷却温度、塗布量などを総合的にコントロールする必要がある。そのため、このコントロールがうまく働かないと油性組成物(103)がシート状基材(102)の表面全体に広がってしまい、使用時に持ちにくく、拭き取りにくい拭き取り用シートとなったり、反対に広がり面積が少なく、拭き取り効率の悪い拭き取り用シートが製造されるおそれがあった。
【0010】
一方、図10で示すように、枠囲い(107)を用いて拭き取り用シート(101)を製造することができる。この方法は、シート状基材(102)に、アルコール水溶液などの液状浸透剤(108)を含浸させた後、シート状基材(102)の上に枠囲い(107)を配置する。そして、この枠囲い(107)内に溶融状態にある油性組成物(103)を注入し、固化させて、枠囲い(107)の範囲内に油性組成物(103)からなる層を形成する。このように製造すれば、油性組成物(103)がシート状基材(102)上に適度に広がり、使い易い拭き取り用シート(101)となる。
【0011】
しかし、この枠囲い(107)を用いた方法も、油性組成物(103)の注入後、枠囲い(107)を取り外しにくいことや、枠囲い(107)をシート状基材(102)の所望の位置に位置決めすることが困難である、などの問題があり、拭き取り用シート(101)を量産するためには好ましい方法ではなかった。
【0012】
そこで、本発明はこれらの種々の問題を解決するためになされたものであり、携帯性や使用上の利便性を有し、充分に汚れや埃、化粧料などを拭き取ることができる拭き取り用シートを得ることを目的とする。
【0013】
また、本発明は、量産性があり、見かけ上も優れた拭き取り用シートを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成すべく本発明は、シート状基材と、油性組成物とを有し、該シート状基材に領域を規制しつつ油性組成物を存在させたことを特徴とする拭き取り用シートを提供する。シート状基材は好ましくは熱溶融性繊維を含有する。
【0015】
油性組成物を存在させる領域はシート状基材に凹部を形成し、該凹部に固形状の油性組成物を存在させたため、凹部の大きさを調整することによって、油性組成物の種類に応じた適量をシート状基材上に担持させておくことができる。また、凹部に油性組成物を充填することで見栄えが良い拭き取り用シートとなる。また、熱溶融性繊維を含有するシート状基材を用いたため、凹部の形成を熱プレスにて簡単に行うことができ、形状保持力が高い安定的な凹部を有するシート状基材となる。さらに、シート状基材中央部の凹部に油性組成物を設けたため、シート状基材の縁部で汚れや化粧料と混合した油性組成物を拭き取ることができる。
【0016】
油性組成物を存在させる領域は、当該領域内に限定して油性組成物が存在することを意味するものではなく、主として領域内に存在すれば良いと理解すべきある。すなわち、当該領域に存在する油性組成物は、該領域を超えて外部に若干浸出することを妨げるものではなく、かかる存在状態も本発明の範囲に含まれるものである。凹部や、凹み或いは穴は、油性組成物が主として存在しうる領域を規定する具体的な例であり、凹部等内に油性組成物が限定して存在することを必要とするものではない。
【0017】
熱溶融性繊維を含有するシート状基材は、例えば少なくとも2層の積層体の構成とし、いずれか一つの層に該熱溶融性繊維を含有するものとすることができる。溶融性繊維を一つの層に含ませたことで、肌感触を良い状態に保ったまま、加熱によって熱接着を起こすという熱溶融性繊維の機能を効果的に発現させて、凹部形状の安定性のある拭き取り用シートを得ることができる。又、シート状基材を、少なくとも2層の積層体の構成からなり、その第1の層に穴を形成し、該穴を第2の層で閉塞して凹部を形成したことを特徴とする。
【0018】
油性組成物は、50℃以上で溶融する固形油を含み常温で固形状態にある油性組成物を用いることができる。50℃以上で溶融する固形油を含み常温で固形状態にある油性組成物を用いれば、未使用の状態では固形状でべとつかず、流れ出しも無く取り扱いが便利であり、使用時には液状化して充分な拭き取り効果を発揮する拭き取り用シートとすることができる。
【0019】
また、シート状基材に液状浸透剤を含浸するものとして構成することができる。液状浸透剤を含浸させれば、肌に当てて使用する際にしっとり感や爽快感をもたらすことができる。
【0020】
そして、油性組成物の成分として液体油と固形油を含有しているため、メーキャップ化粧料の拭き取り用や、身体清拭用として用いることができる。メーキャップ化粧料の拭き取り用や、身体清拭用として用いれば、メーキャップ化粧料や身体に付いた汚れが良く落ちる拭き取り用シートとすることができる。液体油は、炭化水素類、油脂類、エステル油類、高級アルコール類、シリコーン油類、フッ素系油類、脂肪酸類から選ばれ、固形油は、合成炭化水素、鉱物由来の炭化水素、植物由来のワックス、ロウ類、多糖脂肪酸エステル類等から選ばれる。
【0021】
さらに本発明は、シート状基材に領域を規制しつつ油性組成物を存在させた拭き取り用シートの製造方法であって、シート状基材を凹陥させて凹部を形成する工程と、該凹部に油性組成物を適用する工程とを実行することを特徴とする拭き取り用シートの製造方法を提供する。
【0022】
シート状基材に凹部を形成した後、液状浸透剤を含浸させる工程をさらに有することを特徴とする拭き取り用シートの製造方法を提供する。シート状基材に凹部を形成し、この凹部に油性組成物を設けたため、油性組成物の広がりを凹部内に抑えることができ、見栄えの優れた拭き取り用シートとすることができる。また、凹部を簡単に得ることができるため、量産性に優れ、安価で高級感のある拭き取り用シートを大量に製造することができる。
【0023】
本発明の製造方法は、熱溶融性繊維を含有するシート状基材を用い、前記凹部を形成する工程を熱プレスにて行うことができる。熱溶融性繊維を含有するシート状基材を用い、前記凹部を形成する工程を熱プレスにて行えば、プレス後に生じる凹部の形状が安定し、所望量の油性組成物をシート状基材に設けることができる。
【0024】
さらに、シート状基材に凹部を形成した後、シート状基材に液状浸透剤を含浸させる工程と、前記凹部を再プレスする工程とをさらに有し、再プレスされた凹部に油性組成物を設ける工程を実行することができる。
【0025】
液状浸透剤を含浸させた後、油性組成物を流し込む前に再プレス工程を設けたため、液状浸透剤の含浸によって形状が歪んだり、盛り上がりが生じたりする凹部を、再度整えることができる。そのため、表面が平滑になるように油性組成物をシート状基材上に設けることができる。これにより、見栄えが良く、良質で高級感のある拭き取り用シートとすることができる。シート状基材に形成する凹部は、前記プレス加工等により成形されるものに限られない。穴の開いた層を穴のない層の上に重畳して凹部を形成しても良い。
【発明の効果】
【0026】
本発明の拭き取り用シートによれば、携帯性や使用上の利便性を有し、汚れや埃、化粧料などを充分に拭き取ることができる。また、見栄えが良く、良質で高級感のある拭き取り用シートを提供できる。更に、シートを手指で保持して局所的なポイント拭き取りが可能となる。
【0027】
本発明の拭き取り用シートの製造方法によれば、見栄えが良く、良質で高級感のある拭き取り用シートを大量生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の好ましい実施形態について図面を参照しつつ説明する。本発明の拭き取り用シート(11)は、図1で示すように、シート状基材(12)の凹部(12b)に、固形状の油性組成物(13)を存在させたものである。また、場合により液状浸透剤(14)をシート状基材(21)に含浸させたものである。シート状基材(12)の凹部(12b)に油性組成物(13)を担持したため、所定の位置に所定量だけ油性組成物(13)を保持させることができ、使い勝手が良く、汚れ落とし効果に優れた拭き取り用シート(11)とすることができる。また、見た目にも油性組成物(103)が整然と設けられ高級感のある拭き取り用シート(11)である。
【0029】
シート状基材(12)を凹ませるには、図2(a)で示すように、トレー(15)に沿ってシート状基材(12)を押しつける方法や、図2(b)で示すように、凹部(12b)の形状に対応する形状の押し型(16)でプレスする方法がある。また、凹部(12b)が付きにくい素材の場合は、図2(c)で示すように、シート状基材(12)の両面からプレスしても良い。
【0030】
また、凹部(12b)のあるシート状基材(12)の製造には、予め凹部(12b)を設けた材料を用いることもできる。例えば、図3で示すように、第1の層となる平板シート状基材(17)と、第2の層となる中央部に穴(18b)が開いた型枠状基材(18)を別途準備しておき、この両者を積層させて、第2の層の穴を第1の層で閉塞すれば、型枠状基材(18)の穴(18b)が、凹部(12b)となったシート状基材(12)を得ることができる。
【0031】
プレス工程においてシート状基材(12)に凹部(12b)を設けるには、シート状基材(12)の材質や厚み、適用する油性組成物(13)の材質や塗布量などを考慮して適当な条件が選択される。シート状基材(21)への凹部(12b)の生成と得られた凹部(12b)の保形性から熱プレスを行うことが好ましい。プレス温度は、30℃〜250℃、好ましくは100℃〜200℃である。PP+PE系熱溶融性繊維を用いる場合は、110℃〜130℃とすることが好ましく、PET系熱溶融性繊維を用いる場合は、130℃〜200℃とすることが好ましい。30℃より低いと熱プレスの効果がなく、250℃を超えるとシート状基材を構成する繊維や添加剤が変質するおそれがある。100℃から150℃の範囲では軽い押圧でも熱溶融性繊維の熱接着が好ましく進行する。一方、プレス圧は、シート状基材(12)を軽く押す程度で良く、0.001MP〜1MP程度である。プレス時間は、0.5秒〜2秒、好ましくは0.5秒〜1秒程度である。
【0032】
プレスを行う押し型(16)は、油性組成物(13)を塗布する範囲に対応した大きさとするが、その形状を適宜変更することによって、凹部(12b)の大きさを変更させて油性組成物(13)の塗布量を変化させることもできるし、幾何学的形状などの面白味のある形状にすれば、ファッション性を有するものとすることができる。凹部(12b)の深さも油性組成物(13)の塗布量により適宜変更することができるが、油性組成物(13)が凹部(12b)からはみ出さない深さとし、シート状基材(12)の厚さにもよるが、0.5mm〜5mm、好ましくは1mm〜3mmとする。
【0033】
プレス工程は、場合により2段階プレスを行うことが好ましい。2段階プレスとは、油性組成物(13)や液状浸透剤(15)のシート状基材(12)への適用工程で、2度プレスを行うことをいう。例えば図4で示すように、平板状のシート状基材(12)に対し押し型(16)でプレスして(第1プレス工程)、凹部(12b)のあるシート状基材(12)とする(図4c)。これに液状浸透剤(15)を注入し(図4d)、含浸させた後、再度プレスを行う(第2プレス工程)(図4e)。その後、油性組成物(13)をシート状基材(12)の凹部(12b)に注入することにより(図4f)、液状浸透剤(15)が含浸するとともに、凹部(12b)に油性組成物(13)を設けた拭き取り用シート(11)を製造することができる。
【0034】
2段階プレスを行う理由は、液状浸透剤(15)の含浸により、シート状基材(12)の凹部(12b)にやや型崩れを起こし、そのまま油性組成物(13)を注入したのでは、油性組成物(13)が平坦に形成されないおそれがあるからである。第2プレス工程も第1プレス工程と同様の温度、圧力などの条件で行うこともできるが、第1プレス工程とは別に適宜条件を決定することが好ましい。第1プレス工程にて既に凹部(12b)が形成されているため、第1プレス工程よりは低温でプレスすることができ、熱をかけずにプレスすることも可能である。
【0035】
シート状基材(12)の凹部(12b)に油性組成物(13)を注入する際には、図5で示すような注入口(20)を用いることが好ましい。注入口(20)は、その先端に一直線上に沿う3本のノズル(20a)(20b)(20c)を有し、これらのノズル(20a)(20b)(20c)の並び方向と垂直方向に、シート状基材(12)か注入口(20)を走査させて油性組成物(13)を注入すれば、凹部(12b)の幅に沿って均一に油性組成物(13)を充填することができる。
【0036】
以上のプレス工程を有する拭き取り用シート(11)の工業的製造法を図6の工程図に従って説明する。まず、シート状基材(12)となる巻物状の原反を用意する。原反の所望の箇所に凹部を付けるために、所定の圧力、温度でプレスする。そして、原反を切り分けた後、化粧水などの液状浸透剤(15)を含浸させる。この液状浸透剤(15)を含まない拭き取り用シートとする場合は、この工程は省略することができる。次に、1回目のプレスで生じた凹部に対して、再度適当な条件でプレスする。その後、凹部に溶融した油性組成物(13)を充填する。充填した油性組成物(13)の上を保護フィルムで覆い、所定の数だけ集めて包装して製品とする。
【0037】
包装は、図7(a)で示すように、拭き取り用シート(11)を1個づつ保護フィルム(21)で覆い、トレー(22)に入れる。そして保湿性を保つアルミ袋(23)にパウチして個包装することで行う。また、図7(b)で示すように、いくつかの拭き取り用シート(11)を互いに切り離さずに易切断線などを設けて切り取りやすいように連結させておき、複数の拭き取り用シート(11)をまとめた状態でフラップ(24)付きの樹脂ボックス(25)に収納して製品とすることもできる。
【0038】
次に、拭き取り用シート(11)を構成する材料について説明する。
【0039】
シート状基材(12)は、油性組成物(13)をその表面に担持し、場合により液状浸透剤(15)を含浸せしめるものである。一方、肌に当ててメーキャップ化粧料等を拭き取るものである。そのため、油性組成物(13)を担持する凹部(12b)を維持するとともに、液状浸透剤(15)の保持力があり、クレンジングに適し、肌触りのソフト感、低刺激性等の良好な肌感触を有する素材を用いることが好ましい。
【0040】
シート状基材(12)用の材料には、紙、セルロース不織布、レーヨン不織布、ポリエステルアセテート不織布等の不織布や天然コットンシート等を用いることができ、不織布においては、肌感触の点から水流交絡法により製造されるものが好ましい。また、二種以上の繊維素材を組み合わせて用いても良い。例えば、セルロース、レーヨンを含むセルロース系繊維とPET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)を含むポリエステル系繊維の組合せ、セルロース系繊維とコットン繊維の組合せ、ポリエステル系繊維とコットン繊維の組合せ、セルロース系繊維とポリエステル系繊維とコットン繊維の組合せ、などが挙げられる。この組合せ繊維の各繊維比は、セルロース系繊維とポリエステル系繊維の組合せの場合、良好な肌感触と適度な弾性とを得る観点から、セルロース系繊維/ポリエステル系繊維=50/50〜90/10の範囲とすることが好ましい。
【0041】
さらに上記材料に加えて、熱溶融性繊維を含むことが好ましい。熱溶融性繊維には、低融点のポリエステル繊維、ポリエチレン繊維(PE)、ポリプロピレン繊維(PP)、ポリ塩化ビニル繊維、ナイロン繊維、エチレン酢酸ビニル共重合体繊維、PET繊維などが挙げられ、加熱によって熱接着を起こす繊維である。熱溶融性繊維を含有させることで、熱プレスした後の保形性が向上し、油性組成物(13)を施す凹部(12b)の形状、大きさが安定する。保形性の観点から熱溶融性繊維の添加量は10質量%〜85質量%であり、好ましくは、15質量%〜80質量%である。
【0042】
シート状基材(12)は、製品コストや加工性の観点から通常、単層とするが、2以上のシートを重ね合わせた積層とすることもできる。積層とすることで種々ある機能を各層に配分することができる利点がある。例えば、図8(a)で示すように、3層構成とし、外側に表出する第1層(27)と第3層(29)には肌感触を良くするためコットンを含有させ、第2層(28)には保形性を向上させる熱溶融性繊維を含有させることができる。積層させたことで、肌感触が良く、保形性にも優れた拭き取り用シート(11)とすることができる。さらに、図8(b)に示すように、第2層(28)を、低融点フィルムとして、第1層に保持した油性組成物と、第3層に保持した液状浸透剤を第2層のフィルムで分離することも出来る。
【0043】
図3で示したような平板シート状基材(17)と型枠状基材(18)が積層したシート状基材(12)とした場合は、平板シート状基材(17)と型枠状基材(18)は、同一の素材としても良いが、型枠状基材(18)は油性組成物(13)と化粧料の混合物を拭き取り易い素材とし、平板シート状基材(17)は肌触りの良い素材とするなど、材料を変えても良い。また、各層はそれぞれ単層構成でも積層構成でも良い。例えば、型枠状基材(18)の表面側にコットンを含有させた素材とし内側に液状浸透剤(15)を多く含浸させることができる素材とする構成が挙げられる。なお、このように予め凹部(12b)が形成されているシート状基材(12)を用いて拭き取り用シート(11)を製造する場合は、熱プレス工程が不要となる。そのため、熱溶融性繊維を含まない材料を用いることができる。
【0044】
シート状基材(12)の厚さは、用途に応じて適宜変更可能であるが、通常1mm〜8mm、好ましくは2mm〜5mm程度である。凹部(12b)の大きさ(広さ)もまた用途や使い易さによって適宜変更可能である。凹部(12b)の深さも、シート状基材(12)の厚さや、保持すべき油性組成物(13)の含有量によって変化するが、凹部から油性組成物(13)がはみ出さずに、凹部(12b)として認識できる程度の深さから、必要に応じて深くすることも可能である。通常0.5mm〜6mmであり、好ましくは1mm〜3mmである。凹部(12b)の深さを適宜変更することで、用いる油性組成物の性質に応じた適当量をシート状基材(12)上に保持することができる。
【0045】
油性組成物(13)は、シート状基材(12)表面のべたつきを防ぐため、常温で固形状態にあるが、肌に塗られたメーキャップ化粧料などをきれいに落とす必要から、使用時に軟化して肌に塗られたメーキャップ化粧料などと良く交じり合う材料が用いられることが好ましい。そのため、より好ましくは液体油に固形油を混合した混合物から構成される。また、洗浄力を高めるため、必要に応じて界面活性剤などの添加剤を含むものであっても良い。
【0046】
液体油としては、炭化水素類、油脂類、エステル油類、高級アルコール類、シリコーン油類、フッ素系油類、脂肪酸類等が挙げられる。具体的には、炭化水素では流動パラフィン、軽質流動イソパラフィン、スクワレン、スクワラン、α−オレフィンオリゴマー、ポリブテン等があり、油脂として、トウモロコシ油、ベニバナ油、ヒマワリ油、アボガド油、米胚芽油、小麦胚芽油、アルモンド油、大豆油、菜種油、胡麻油、ツバキ油、サザンカ油、パーシック油、オリーブ油、茶実油、シソ実油、ミンク油、ヒマシ油、アマニ油、月見草油、ボレッジ油、トリイソオクタン酸グリセリル、トリ(カプリル・カプリン)酸グリセリル、トリイソパルミチン酸グリセリル等があり、エステル油としてトリオクタノイン、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、オレイン酸デシル、オレイン酸オレイル、オレイン酸オクチルドデシル、ステアリン酸オクチル、安息香酸アルキルエステル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ジオクタン酸ネオペンチルグリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、アジピン酸ジイソステアリル、ホホバ油等があり、シリコーン油として低重合度ジメチルポリシロキサン、高重合度ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、架橋型オルガノポリシロキサン、フッ素変性シリコーン等があり、フッ素系油類としてパーフルオロポリエーテル、パーフルオロデカン、パーフルオロオクタン等があり、高級アルコールとしてはオレイルアルコール、イソステアリルアルコール、オクチルドデカノール等があり、脂肪酸としてオレイン酸、ヤシ油脂肪酸、イソステアリン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられ、これらの一種又は二種以上用いることができる。油性組成物(13)中の液体油の配合量は80質量%〜98質量%であり、好ましくは、90〜97質量%である。
【0047】
固形油としては、ポリエチレンワックス、エチレンプロピレンコポリマー、シリコーンワックス等の合成炭化水素、マイクロクリスタリンワックス等の鉱物由来の炭化水素、カルナウバロウ、キャンデリラロウ等の植物由来のワックス並びにロウ類、パルミチン酸デキストリン等の多糖脂肪酸エステル等が挙げられる。固形油は、常温で固形状態にあり、50℃〜150℃の融点を有するワックス等が好ましい。固形油の融点が50℃未満ではシート状基材12表面において層を形成するための所望の硬さが得られず、150℃を超えると、化粧料や汚れとのなじみが悪くなり、良好な洗浄効果が得られない。固形油は一種又は二種以上を適宜選択して配合する。油性組成物(13)中の固形油の配合量は、2質量%〜20質量%であり、好ましくは、30質量%〜10質量%である。
【0048】
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンラウリンアルコールエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等を挙げることができ、これらの一種又は二種以上を用いることができる。
【0049】
シート状基材(12)上の油性組成物(13)の安定性を高め、シート状基材(12)の湾曲により亀裂や剥離が生じないように、可塑剤を添加して、柔軟性や加工性を向上させることが好ましい。このような可塑剤としては、オレイン酸ブチルのような脂肪酸エステル油、ジメチコンポリオールのようなポリエーテル変性シリコーン油などの種々のエステル油を挙げることができるが、油性組成物に前期性質を付与しうるものであれば特に限定されない。特に流動パラフィンは、固形油と液体油との相溶性を良好にし、使用し易さ、硬さ、耐割れ性に優れた性質を発揮する。
【0050】
液状浸透剤(15)は、油性組成物(13)で概ねメーキャップ化粧料等を取り除いた後、肌の表面を拭き取る際に、肌にサッパリ感や清涼感を与えるものであり、エタノールやイソプロパノール等のアルコールや、イオン交換水、精製水、またはこれらの混合物が好ましく用いられる。液状浸透剤(15)には、さらに添加剤として、保湿剤、柔軟剤、エモリエント剤、可溶化剤、緩衝剤、増粘剤、植物抽出液等の肌に良い成分、香料、防腐剤等を適宜配合することができる。保湿剤としては、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール(300,400,1500,4000)などの多価アルコール、ヒアルロン酸、マルチトールなどの糖類、ピロリドンカルボン酸等のアミン類が挙げられる。柔軟剤、エモリエント剤としては、エステル油、オリーブ油、ホホバ油等の植物油を挙げることができる。可溶化剤は、ポリオキシエチレンオレイルアルコールエーテルなどのHLBの高い界面活性剤を用いることが好ましい。緩衝剤は、クエン酸、乳酸、アミノ酸類、クエン酸ソーダ等が挙げられる。増粘剤は、アルギン酸、セルロース誘導体、クインスシードガム、ペクチン、プルラン、キサンタンガム、ビーガム、カルボキシビニルポリマー、アクリル酸系ポリマー、ラポナイト等が挙げられる。
【0051】
次に、実施例に基づいて本発明をさらに説明する。以下に示す条件にてメーキャップ化粧料用クレンジングシートと身体用清拭布を製造した。シート状基材の構成、材料を表1、表2に示した。また、油性組成物の組成、材料を表3に示した。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【実施例1】
【0055】
表1に示した層構成を有する厚さ3mmの平板状のシート状基材A〜Dを、メーキャップ化粧料用クレンジングシートの場合は横80mm、縦57mmの大きさとし、身体用清拭布の場合は横200mm、縦150mmの大きさとして、それぞれ複数枚用意した。それから、メーキャップ化粧料用クレンジングシートの場合は、横40mm×縦27mm、及び横30mm×縦20mm、身体用清拭布の場合は、横100mm×縦75mmの各大きさの鉄製押し型を用いて各シート状基材を押圧した。押し型の温度を、シート状基材A,Cに対しては120℃、シート状基材B,Dに対しては160℃とした。押し型を取り除いた後、10%アルコール水溶液を各シート状基材A〜Dに含浸させた。そして再度、常温のままの押し型を、先の押圧で生じた凹部の上に置いてプレスした。最後に、複数のシート状基材Aの各々に、表3で示す油性組成物a〜eの各々を溶融して充填した。シート状基材B〜Dに対しても油性組成物a〜eを同様に充填した。
【0056】
表2に示した穴の開いた型枠状基材を用いたシート状基材E〜Gは、プレスを行うことなく、シート状基材E〜Gの凹部に表3で示す油性組成物a〜eを溶融して充填した。型枠状基材の厚さは1mm、平板シート状基材の厚さは2mmとし、シート状基材全体の厚さを3mmとした。
【0057】
得られたメーキャップ化粧用クレンジングシートも、身体用清拭布も良好な拭き取り効果を有するとともに、エタノール含有量が高い好ましい結果が得られた。また、油性組成物が長方形の形状に整然と設けられた見栄えの良い製品となった。なお、シート状基材E〜Gは、熱プレスする必要がないため、シート状基材BやDの構成から熱繊維2(PET系熱溶融性繊維)を除いた組成としても良好な結果が得られた。
【実施例2】
【0058】
表1に示した層構成を有する厚さ3mmの平板状のシート状基材A〜Dに対して最初のプレスまでは実施例1と同様に進めた。その後、液状浸透剤(アルコール水溶液)を含浸させること無く、また、2度目のプレスを行うことなく、シート状基材A〜Dを冷却した後、後は実施例1と同様にして油性組成物をシート状基材の凹部に注入した。
【0059】
得られたメーキャップ化粧用クレンジングシートも、身体用清拭布も良好な拭き取り効果を有するとともに、油性組成物が長方形の形状に整然と設けられた見栄えの良い製品となった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の拭き取り用シートの断面図である。
【図2】シート状基材に凹部を設けるいくつかの方法を示す工程図である。
【図3】型枠状基材と平板シート状基材からなるシート状基材の組立図である。
【図4】プレス工程を示す工程図である。
【図5】油性組成物の注入口の外観図である。
【図6】本発明の拭き取り用シートを製造する工程図である。
【図7】拭き取り用シートの包装工程を示す工程図である。
【図8】シート状基材の変形例を示す図である。
【図9】化粧料の拭き取り手順を示す模式図である。
【図10】これまでの拭き取り用シートの製造工程を示す工程図である。
【符号の説明】
【0061】
(11)拭き取り用シート
(12)シート状基材
(12a)中央部
(12b)凹部
(13)油性組成物
(14)液状浸透剤
(15)トレー
(16)押し型
(17)平板シート状基材
(18)型枠状基材
(18b)穴
(20)注入口
(21)保護フィルム
(22)トレー
(23)アルミ袋
(24)フラップ
(25)樹脂ボックス
(27)第1層
(28)第2層
(29)第3層
(101)拭き取り用シート
(102)シート状基材
(102a)反対面
(103)油性組成物
(104)メーキャップ化粧料
(105)肌
(106)メーキャップ化粧料と油性組成物との混合物
(107)囲い枠
(108)液状浸透剤


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状基材と油性組成物とを有し、シート状基材に領域を規制しつつ油性組成物を存在させたことを特徴とする拭き取り用シート。
【請求項2】
シート状基材に凹部を設け、該凹部を油性組成物が存在する領域としたことを特徴とする請求項1記載の拭き取り用シート。
【請求項3】
シート状基材の表面を凹陥させて凹部としたことを特徴とする請求項2記載の拭き取り用シート。
【請求項4】
シート状基材を、少なくとも2層の積層体で構成し、第1の層に穴を形成し、該穴の一面を第2の層で閉塞して凹部としたことを特徴とする請求項2記載の拭き取り用シート。
【請求項5】
シート状基材が、熱溶融性繊維を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の拭き取り用シート。
【請求項6】
シート状基材が、少なくとも2層の積層体で構成され、いずれか一つの層に熱溶融性繊維が含有されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の拭き取り用シート。
【請求項7】
油性組成物が、50℃以上で溶融する固形油を含み、常温で固形状態にある油性組成物であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の拭き取り用シート。
【請求項8】
シート状基材が、液状浸透剤を含浸することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の拭き取り用シート。
【請求項9】
油性組成物の成分として、固形油と液体油を含有し、メーキャップ化粧料の拭き取りに用いられる請求項1乃至8のいずれかに記載の拭き取り用シート。
【請求項10】
油性組成物の成分として、固形油と液体油を含有し、身体清拭用シートとして用いられる請求項1乃至8のいずれかに記載の拭き取り用シート。
【請求項11】
液体油が、炭化水素類、油脂類、エステル油類、高級アルコール類、シリコーン油類、フッ素系油類、脂肪酸類から選ばれることを特徴とする請求項9又は10記載の拭き取り用シート。
【請求項12】
固形油が、合成炭化水素、鉱物由来の炭化水素、植物由来のワックス、ロウ類、多糖脂肪酸エステル類等から選ばれることを特徴とする請求項9又は10記載の拭き取り用シート。
【請求項13】
シート状基材に領域を規制しつつ油性組成物を存在させた拭き取り用シートの製造方法であって、シート状基材の中央部を凹陥させて凹部を形成する工程と、シート状基材の凹部に油性組成物を適用する工程とを実行することを特徴とする拭き取り用シートの製造方法。
【請求項14】
シート状基材に凹部を形成した後、液状浸透剤を含浸させる工程をさらに有することを特徴とする請求項13記載の拭き取り用シートの製造方法。
【請求項15】
熱溶融性繊維を含有するシート状基材を用い、前記凹部を形成する工程を熱プレスにて行うことを特徴とする請求項13又は14記載の拭き取り用シートの製造方法。
【請求項16】
シート状基材に液状浸透剤を含浸させた後、凹部を圧縮する工程をさらに有し、該圧縮された凹部に油性組成物を適用することを特徴とする請求項14又は15記載の拭き取り用シートの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−15981(P2007−15981A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−199311(P2005−199311)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【出願人】(591254958)株式会社タイキ (35)
【Fターム(参考)】