説明

指紋認証装置及び指紋認証用プログラム

【課題】指紋稜部が黒くつぶれた指紋画像から指紋認証用スペクトラル・データを正確に算出できるようにする。
【解決手段】指紋入力装置301から入力された指紋画像データに基づく画素値のヒストグラムを生成し、このヒストグラム上で暗部側の画素の個数の積算値が全画素の個数の積算値に対して所定の割合となる画素の集合における最も明るい画素に係る第1の画素値を、該第1の画素値より明るい第2の画素値にするための補正係数を用いて、各画素の画素値を補正する指紋画像補正処理手段303を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指紋認証装置及び指紋認証用プログラムに係り、特に、採取した指紋画像データの画素値の補正を行い、補正した画像データでスペクトラル・データ方式の指紋認証を行う指紋認証装置及び指紋認証用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
生体認証の一つとして、指紋認証が使用されているが、この指紋認証においては、主に下記三つの方式が知られている。
【0003】
第一の方式は、パターン比較であり、この方式は入力された指紋の画像データの一部を、装置に記録されているテンプレートと比較することによって指紋を照合するものである。
【0004】
第二の方式は、細部比較であって、入力された指紋の画像データ中から特徴点を見つけ出し、これら特徴点を装置に記録されているテンプレートの細部点と比較するものである。
【0005】
第三の方式は、スペクトラル・データ方式(spectral data method)であって、ラインセンサ又はエリアセンサから入力された指紋の画像を横長の矩形画像に分割し、その後各矩形画像に対して、指紋の山の部分(稜部)の方向及び稜部が所定の範囲に何本あるかを示す周波数等の情報を数値化してスペクトラル・データを生成する。
【0006】
さらに各矩形画像で得られたスペクトラル・データを行列としてプロットしてスペクトラル・データ行列を生成し、得られたスペクトラル・データ行列を、装置に記録してある照合用の登録済みスペクトラル・データ行列と比較して、指紋の認証を行うものである。
【0007】
図1は、スペクトラル・データ方式を採用した従来技術による指紋認証装置の模式図である。
【0008】
この図1によると、スペクトラル・データ方式を採用した従来技術による指紋認証装置は、指紋を走査又は撮影して指紋画像データを取得する指紋センサである指紋入力装置101と、この指紋画像データを記憶する指紋画像記憶部102と、指紋画像記憶部102に記憶されている指紋画像データにおける指紋の山の部分の方向及び指紋の周波数を算出してスペクトラル・データ行列を作成するスペクトラル・データ作成部103と、このスペクトラル・データ行列を記憶するスペクトラル・データ行列記憶部104と、指紋認証の際に参照する登録済みスペクトラル・データ行列を保管した登録済みスペクトラル・データ行列保管部105と、スペクトラル・データ行列記憶部104に記憶されているスペクトラル・データ行列と登録済みスペクトラル・データ行列保管部105に保管されている登録済みスペクトラル・データ行列とを照合する指紋照合部106と、指紋照合部106による認証結果を出力する認証結果出力部107と、を有する。
【0009】
指紋入力装置101は、ラインセンサ又はエリアセンサであり、センサ部分に押捺された指の指紋を走査又は撮影して、図2の左下に示すような指紋画像データを取得する。
【0010】
指紋入力装置101が取得した指紋画像データは、指紋画像記憶部302に記憶される。
【0011】
指紋入力装置101に記憶された指紋画像データは、スペクトラル・データ生成部103が読出し、スペクトラル・データ生成部103は、読出した指紋画像データからスペクトラル・データ行列を生成する。生成したスペクトラル・データ行列はスペクトラル・データ行列記憶部104に記憶される。
【0012】
指紋照合部106は、事前に登録済みスペクトラル・データ行列保管部105に格納されている登録済みスペクトラル・データ行列と、スペクトラル・データ作成部103が生成してスペクトラル・データ行列記憶部104に記憶されているスペクトラル・データ行列とを比較し、類似するスペクトラル・データの割合から、スペクトラル・データ行列同士の一致、又は不一致を判定する。
【0013】
スペクトラル・データ方式が照合に用いる行列のデータは、指紋の画像よりもメモリ使用量が少なく、数値化されたデータを比較照合するので、アルゴリズムを単純化できるという利点があり、特許文献1には、この方式による指紋照合方法及びその装置に係る発明が開示されている。
【0014】
特許文献2には、指紋画像データの画素値が閾値を超えている際に、当該画素値を加算又は減算することによって画像の濃度を調整する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特表2008−529156号公報
【特許文献2】特開平08−272953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、ラインセンサ又はエリアセンサを使用して指紋の画像を指紋認証装置で取得する際に、指をセンサ部分に強く押捺することがあり、そのために図2の右下に示すように指紋の稜部が太くつぶれた画像が入力されてしまうことがあった。
【0017】
センサが読み取った指紋画像データは、指紋の山の部分である稜部は黒線で表示され、指紋の谷の部分は白く表示されているが、図2右下の指紋画像データは、同左下の指紋画像データに比して、稜部が太く表示されており、稜部と谷の部分とが判別しがたい状態になっている。
【0018】
この指紋の稜部が太くつぶれてしまう現象は、センサ部分に指を強く押捺した場合以外にも、センサの感度の差違又はセンサの調整の不具合によっても生じ得る。
【0019】
いずれの場合であっても、指紋の稜部の太さや指紋画像データの全体的な濃度が、指をセンサ部分に強く押捺しないで取得された指紋画像データとは異なってくる。本来であれば指紋認証に使用される画像は、図2の左下にように指紋の稜部とそれ以外の部分とが、暗から明へと、画素値が漸進的に変動していくべきである。しかしながら、図2の右下に示す指紋の稜部が太くつぶれた画像では、稜部が太く表示されていることに加えて、暗から明への漸進的な画素値の変動が判然とせず、その結果、図2の左下の指紋画像データと、同右下の指紋画像データとでは、スペクトラル・データ化したときに特に周波数データで差違が生じやすい。
【0020】
同一の指紋に係る指紋画像データから生成された周波数データであっても、周波数の数値が異なれば、周波数データを含むスペクトラル・データ行列も異なってくる。このような場合では、指紋照合装置は周波数データが一致していないと誤判定する蓋然性が高くなり、適切な指紋認証が実現できないという問題があった。
【0021】
特許文献2には、画像の濃度を調整する発明が開示されているが、特許文献2に係る発明の画像の濃度の調整は、単に閾値を超えた画素値を加算又は減算するものである。かかる方式では、図2右下の画像の黒くつぶれた部分に一律に画素値が加算され、その部分が一様に明るく補正されてしまい、指紋認証において必要とされる画像のコントラストが損なわれるおそれがあった。
【0022】
本発明は上述した問題を解決するためになされたものであり、指紋稜部が黒くつぶれた指紋画像データであっても指紋認証に供する稜部の方向及び指紋の周波数等のスペクトラル・データを正確に算出できる指紋認証装置及び指紋認証用プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成するために本発明の指紋認証装置は、指紋を走査又は撮影して指紋画像データを取得する指紋取得手段と、前記指紋取得手段で取得した指紋画像データに基づいて画素値のヒストグラムを生成し、該ヒストグラムでの暗部側の画素の個数の積算値が全画素の個数の積算値に対して所定の割合となる画素の集合における最も明るい画素に係る第1の画素値を、該第1の画素値より明るい第2の画素値にするための補正係数を用いて、各画素の画素値を補正する指紋画像補正処理手段と、前記指紋画像補正処理手段が補正した指紋画像データから指紋の稜部の方向及び指紋の周波数を成分とするスペクトラル・データ行列を作成するスペクトラル・データ作成手段と、指紋認証の際に参照する登録済みスペクトラル・データ行列を保管した登録済みスペクトラル・データ行列保管手段と、前記スペクトラル・データ作成手段で作成された前記スペクトラル・データ行列と前記登録済みスペクトラル・データ行列保管手段に保管されている登録済みスペクトラル・データ行列とを照合する指紋照合手段と、前記指紋照合手段による認証結果を出力する認証結果出力手段と、を備えたことを特徴とする。
【0024】
また、本発明の指紋認証用プログラムは、コンピュータを、指紋を走査又は撮影して取得した指紋画像データに基づいて画素値のヒストグラムを生成し、該ヒストグラムでの暗部側の画素の個数の積算値が全画素の個数の積算値に対して所定の割合となる画素の集合における最も明るい画素に係る第1の画素値を、該第1の画素値より明るい第2の画素値にするための補正係数を用いて、各画素の画素値を補正する指紋画像補正処理手段と、前記指紋画像補正処理手段が補正した指紋画像データから指紋の稜部の方向及び指紋の周波数を成分とするスペクトラル・データ行列を作成するスペクトラル・データ作成手段と、前記スペクトラル・データ作成手段で作成された前記スペクトラル・データ行列と指紋認証の際に参照する登録済みスペクトラル・データ行列とを照合する指紋照合手段と、前記指紋照合手段による認証結果を出力する認証結果出力手段として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明によれば、指紋稜部が黒くつぶれた指紋画像であっても指紋認証に供する稜部の方向及び指紋の周波数等のスペクトラル・データを正確に算出できる指紋認証装置及び指紋認証用プログラムを提供することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】従来技術による指紋認証装置の模式図である。
【図2】指紋センサが取得した指紋画像データの態様を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る指紋認証装置の模式図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る指紋認証装置の指紋画像補正処理部の模式図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る指紋認証装置の指紋画像補正処理部におけるヒストグラムに基づいた画像補正の原理を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る指紋認証装置の模式図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る指紋認証装置における画像補正箇所判定部の動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第2の実施の形態で使用されるSobelオペレータの原理を示す図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係る指紋認証装置における指紋稜部の太さの算出方法を示す図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態に係る指紋認証装置における指紋画像補正処理部の画像処理のフローチャートである。
【図11】本発明の第3の実施の形態に係る指紋認証装置における画像補正箇所判定部のエッジ検出の動作を示すフローチャートである。
【図12】本発明の第3の実施の形態に係る指紋認証装置における画像補正箇所判定部の指紋稜部の検出方法の具体例を示す図である。
【図13】本発明の第4の実施の形態に係る指紋認証装置の画像補正箇所判定部における閾値Tの算出を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0028】
[第1の実施の形態]
まず、図3に基づいて、本発明の第1の実施の形態に係る指紋認証装置について説明する。図3は、本発明の第1の実施の形態に係る指紋認証装置の模式図である。
【0029】
図3に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る指紋認証装置は、指を走査又は撮影して指紋画像データを取得する指紋センサである指紋入力装置301と、この指紋画像データを記憶する指紋画像記憶部302と、指紋画像記憶部302に記憶されている指紋画像データを補正する指紋画像補正処理部303と、指紋画像補正処理部303が補正した指紋画像データから指紋の山の部分の方向及び指紋の周波数を算出してスペクトラル・データ行列を作成するスペクトラル・データ作成部304と、このスペクトラル・データ行列を記憶するスペクトラル・データ行列記憶部305と、指紋認証の際に参照する登録済みスペクトラル・データ行列を保管した登録済みスペクトラル・データ行列保管部306と、スペクトラル・データ行列記憶部305に記憶されているスペクトラル・データ行列と登録済みスペクトラル・データ行列保管部306に保管されている登録済みスペクトラル・データ行列とを照合する指紋照合部307と、指紋照合部307による認証結果を出力する認証結果出力部308と、を有する。
【0030】
指紋入力装置301は、指紋の凹凸を読み取るためのラインセンサ又はエリアセンサであり、センサ部分には光学式センサ又は電界式センサ等が用いられる。
【0031】
指紋入力装置301は、センサ部分に押捺された指の指紋を走査又は撮影し、図2の下部に示すような指紋画像データを取得する。
【0032】
指紋入力装置301によって取得された指紋画像データは、指紋画像記憶部302に記憶される。この指紋画像記憶部302は、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)又はフラッシュメモリ等による記憶装置である。
【0033】
指紋画像補正処理部303は、指紋画像記憶部302に記憶されている指紋画像データを読出し、図2右下のように、指紋の稜部が太くつぶれた画像を、スペクトラル・データが正確に算出できるように補正を行い、補正した指紋画像データを、指紋画像記憶部302における元の指紋画像データのメモリ領域に上書き出力する。
【0034】
この指紋画像補正処理部303における指紋画像データの補正処理の詳細については、後述する。
【0035】
スペクトラル・データ生成部303は、指紋画像補正処理部303が補正した指紋画像データを、指紋画像記憶部302から読出し、読出した指紋画像データを横長の矩形画像に分割する。
【0036】
スペクトラル・データ生成部303は、分割によって生成した各矩形画像に対して、指紋の稜部の方向、単位長さに対する稜部の本数を示す周波数等の情報を数値化してスペクトラル・データを生成する。
【0037】
さらにスペクトラル・データ生成部304は、各矩形画像で得られたスペクトラル・データを行列としてプロットしてスペクトラル・データ行列を生成する。
【0038】
スペクトラル・データ生成部304が生成したスペクトラル・データ行列は、スペクトラル・データ行列記憶部305に記憶される。このスペクトラル・データ行列記憶部305は、RAM、HDD又はフラッシュメモリ等による記憶装置である。
【0039】
指紋照合部307は、事前に登録済みスペクトラル・データ行列保管部306から登録済みスペクトラル・データ行列を、スペクトラル・データ行列記憶部305からスペクトラル・データ生成部304が生成したスペクトラル・データ行列を、それぞれ読出して両者を比較し、類似するスペクトラル・データの割合から、スペクトラル・データ行列同士の一致、又は不一致を判定する。
【0040】
なお、登録済みスペクトラル・データ行列保管部306も、RAM、HDD又はフラッシュメモリ等による記憶装置である。
【0041】
指紋照合部307が判定した結果は、認証結果出力部308によって出力される。この認証結果出力部308は、ディスプレイ、スピーカ又はプリンタ等の出力装置でよい。
【0042】
本発明の第1の実施の形態に係る指紋認証装置における指紋画像補正処理部303を図4に基づいて説明する。図4に示すように、指紋画像補正処理部は、図3に示した指紋画像記憶部302から読出した指紋画像データから縦軸に画素数、横軸に画素の輝度を示す画素値をとったヒストグラム(ヒストグラムデータ分布)を生成するヒストグラムデータ生成部401と、ヒストグラムデータ生成部401が生成したヒストグラムを記憶するヒストグラムデータ記憶部402と、ヒストグラムデータ記憶部402が記憶するヒストグラムにおいて暗部側の画素の個数の積算値が全画素の個数の積算値に対して所定の割合となる画素の集合における最も明るい画素に係る第1の画素値を、該第1の画素値より明るい第2の画素値にするための補正係数を用いて、各画素の画素値を補正する指紋画像稜部補正処理部403と、を有する。
【0043】
図4において指紋画像稜部補正処理部403は、ヒストグラムを生成した指紋画像データと同じ指紋画像データを図3の指紋画像記憶部302から読出し、この指紋画像データを上記のように補正する。なお、ヒストグラムデータ生成部401が指紋画像記憶部302から読出し、ヒストグラムの生成に使用した指紋画像データを、生成したヒストグラムと共にヒストグラムデータ記憶部402に記憶しておき、このヒストグラムデータ記憶部402に記憶されている指紋画像データを補正するようにしてもよい。
【0044】
指紋画像稜部補正処理部403は、前述のように、補正した指紋画像データを、指紋画像記憶部302における元の指紋画像データのメモリ領域に上書き出力する。
【0045】
図5は、本発明の第1の実施の形態に係る指紋認証装置の指紋画像補正処理部におけるヒストグラムに基づいた画像補正の原理を示す図である。
【0046】
この図5の上段には、指をセンサ部分に強く押捺した結果、指紋の稜部が太くつぶれた画像の例と、その指紋画像データのヒストグラムであるヒストグラムデータ分布(1)が記されている。図5上段のヒストグラムデータ分布(1)では、画素値が低い、すなわち暗い画素が、画素値が高い、すなわち明るい画素に比べて多く分布している。
【0047】
このヒストグラムデータ分布(1)は、図4のヒストグラムデータ生成部401が指紋画像記憶部302に記憶されている指紋画像データから生成したもので、図4のヒストグラムデータ記憶部402に記憶される。
【0048】
図4の指紋画像稜部補正処理部403は、ヒストグラムデータ記憶部402に記憶されているヒストグラムデータ分布(1)の中心に存在する中心画素を決定する。
【0049】
図5の場合では、ヒストグラムデータ分布(1)の中心に存在する中心画素とは、ヒストグラムにデータ分布(1)において、暗部側の画素の個数の積算値が全画素の個数の積算値に対して50%の割合となる画素の集合で最も明るい画素である。ここでいう暗部側の画素とは、画素値が「0」で黒を示す最も暗い画素を含む画素値が低い画素であって、ヒストグラム上で左側に存在している画素のことをいう。
【0050】
より具体的にいえば、ヒストグラムデータ分布(1)の中心に存在する中心画素とは、ヒストグラムデータ分布(1)を画素値「0」から画素の個数を積算していった場合の積算値が、ヒストグラムデータ分布(1)全体の画素の個数の積算値に対して50%の割合に達したときのヒストグラムデータ分布(1)上の画素である。
【0051】
本発明の第1の実施の形態では、上記の所定の割合は、補正後の指紋画像データの濃度、コントラスト及び解像度、並びにスペクトラル・データ生成部304によるスペクトラル・データの算出に係るアルゴリズムの特性に基づいて、「50%」に決定された。
【0052】
スペクトラル・データの算出に係るアルゴリズム等が本発明の第1の実施の形態とは異なる場合、ヒストグラムデータ分布(1)の中心に存在する中心画素は、本発明の第1の実施の形態のように「ヒストグラムデータ分布(1)全体の積算値の50%」としたが、実験により決定することができ、50%以外の様々な値に定めることができる。
【0053】
次いで、図4の指紋画像稜部補正処理部403は、ヒストグラムにデータ分布(1)で暗部側の画素の個数の積算値が全画素の個数の積算値に対して50%の割合となる画素の集合における最も明るい画素の画素値を「第1の画素値」とし、この「第1の画素値」を、画素値の中心値である「第2の画素値」になるように補正する。そのため、図5上段では、「第2の画素値」を「補正後の中心画素値」と記している。
【0054】
「第2の画素値」とは、図5の場合、ヒストグラムデータ分布(1)において、「明暗が中庸になる画素値」である。
【0055】
指紋認証に適した画像のヒストグラムは、暗部を示す画素と明部を示す画素との存在比が1対1であることが望ましいとの見地から、第1の実施の形態では、上記の「明暗が中庸になる画素値」は、ヒストグラムの横軸の中央にプロットされている画素であるとした。
【0056】
諧調が16である指紋画像データについてのヒストグラムを示す図5上段のヒストグラムデータ分布(1)では、ヒストグラムの横軸の中央の画素値は、16階調の中庸に相当する「8」となる。しかしながら、補正後の指紋画像データの濃度、コントラスト及び解像度、並びにスペクトラル・データ生成部304によるスペクトラル・データの算出に係るアルゴリズムの特性によっては、諧調の中庸に相当する画素値ではなく、中庸よりも明部又は暗部にシフトした画素値でもよい。
【0057】
指紋画像稜部補正処理部403は、前述の中心画素の画素値に補正係数kを乗じることによって、この中心画素の画素値である「第1の画素値」が「明暗が中庸になる画素値」である「第2の画素値」となるようにする。
【0058】
図5上段のヒストグラムデータ分布(1)では、「第1の画素値」である「4」が「第2の画素値」である「8」になるように補正される。
【0059】
そのため、中心画素の画素値に乗じる補正係数kは、「k=(第2の画素値)÷(第1の画素値)」によって算出できる。
【0060】
図5上段の場合であれば、「第2の画素値」は「8」であり、「第1の画素値」は「4」なので、「k=8÷4」であり、補正係数kは「2」となる。
【0061】
指紋画像稜部補正処理部403は、上記のように算出した補正係数kを、図5上段のヒストグラムデータ分布(1)の全画素の画素値に乗算する。これにより、指紋画像データのヒストグラムは、図5下段のヒストグラムデータ分布(2)になる。
【0062】
なお、図5上段のヒストグラムデータ分布(1)で既に白側に存在していた画素は、補正係数kを乗算することにより画素値が「F」を超える(オーバーフローする)ことになるが、これらは全て「F」(白)として扱う。
【0063】
図5下段のヒストグラムデータ分布(2)では、最暗部(黒)である画素の画素値「0」の部分は全く補正されずにそのまま残っている。かかる部分は画素値が「0」であるから、いかなる係数が乗算されても、「0」という値に変化はない。
【0064】
補正係数kを乗算された各画素値は、図5下段のヒストグラムデータ分布(2)が示すように、画素値が「0」の集合を除いて、各画素値の集合が明部方向へ離散的にシフトしている。
【0065】
例えば、補正前の画素値「0、1、2、3、4、…、F」に、補正係数k(=2)を乗算した結果、図5下段のヒストグラムデータ分布(2)では、補正後の画素値は「0、2、4、6、8、…、F」というように、所定の間隔で明部方向へ離散的にシフトしている。
【0066】
隣接していた暗い画素の領域が、明るい領域へ離散的にシフトしているので、暗から明へと、画素値が漸進的に変動している指紋画像データを得ることができる。
【0067】
また、上述のように、最暗部(黒)である画素の画素値「0」の部分は全く補正されずにそのまま残っているので、指紋画像データのコントラストも向上する。
【0068】
なお、ヒストグラムデータを生成する範囲は、指紋画像データ全体に限らない。例えば、処理量を削減するために、指紋の情報量が多い画像の中心のみをヒストグラム生成の範囲とすることも可能である。
【0069】
また、第1の実施の形態では、ヒストグラムの全画素の画素値に1以上の補正係数kを乗じたが、「0、r、2r、3r、4r、…、Fr」(rは1以上の実数)で表わされる数列の各項の値を、「0」〜「F」の各画素値に、それぞれ加算してもよい。
【0070】
第1の実施の形態では、図5において指紋画像データが4bitであるとしたが、8bit等の、より諧調が多段階である画像にも、本実施の形態は適用可能である。
【0071】
以上のように、本発明の第1の実施の形態によれば、従来の指紋認証装置に、画素値のヒストグラムを生成し、このヒストグラムの中心画素が、画素値の中心に来るように係数を乗算することによって、指紋画像データを補正する指紋画像補正処理部303を設けることにより、指紋の稜部がつぶれて黒くなっている画素が白側(明部)に補正されるため、つぶれによって指紋稜部が太くなる現象が軽減される。
【0072】
また、暗部を示す画素の画素値が離散的に明部へシフトされることにより、指紋の稜部の画素の明暗の変動が判別できるようになり、指紋を強く押捺した場合のスペクトラル・データ行列と、指紋を強く押捺しない場合のスペクトラル・データ行列とが不一致と誤判定されるおそれを低減する効果が得られる。
【0073】
なお、第1の実施の形態では、入力された指紋画像データを図3の指紋画像補正処理部303で補正し、補正された指紋画像データからスペクトラル・データ行列を生成し、生成したスペクトラル・データ行列を図3の登録済みスペクトラル・データ行列保管部306に保管されている登録済みスペクトラル・データ行列と照合することが原則である。しかしながら、登録済みスペクトラル・データ行列の元となる指紋画像データが、入力した人の癖等で押捺圧力が高い状態で採取され、それが本実施の形態に係る画像補正なしで登録済みスペクトラル・データ行列化された場合にも対応可能なように、画像補正前の指紋画像データ及び指紋画像補正処理部303による画像補正後の指紋画像データのそれぞれで指紋照合処理を行うようにしてもよい。
【0074】
[第2の実施の形態]
続いて、本発明の第2の実施の形態について説明する。ここで、図6は、本発明の第2の実施の形態に係る指紋認証装置の模式図である。
【0075】
この図6によると、第2の実施の形態に係る指紋認証装置は、指紋画像データにおいて画像の補正を要する箇所を特定する画像補正箇所判定部609を追加した点が、第1の実施の形態に係る指紋認証装置とは異なっているが、その他の、指紋入力装置601、指紋画像記憶部602、スペクトラル・データ作成部604、スペクトラル・データ行列記憶部605、登録済みスペクトラル・データ行列保管部606、指紋照合部607及び認証結果出力部608は、第1の実施の形態に係る指紋認証装置と同様なので説明を省略する。
【0076】
画像補正箇所判定部609は、指紋画像記憶部602から指紋画像データを読出し、読出した指紋画像データの中で画像補正を要する領域を特定し、その特定した領域の位置、大きさ及び範囲の情報を補正箇所情報として、指紋画像補正処理部603へ出力する。補正を要する領域の位置、大きさ及び範囲とは、具体的には、その特定された領域の画素の座標である。補正を要する画素の座標がいくつあるかによって、その領域の大きさが特定でき、補正を要する領域の画素の座標を把握すれば、その領域の位置及び範囲が特定できる。
【0077】
指紋画像補正処理部603は、画像補正箇所判定部609から受信した補正箇所情報を基に、該当する箇所の画像補正を行う。画像補正の方法自体は、第1の実施の形態と同様である。
【0078】
次に、画像補正箇所判定部609の動作について、図7に基づいて説明する。ここで、図7は、画像補正箇所判定部609の動作を示すフローチャートである。
【0079】
まず、ステップ701において、画像補正箇所判定部609は、指紋画像データを、指紋画像記憶部302から読出し、読出した指紋画像データの任意の横長の領域(横1ライン)に注目して、指紋の山部分(稜部)と谷部分のエッジを検出する。
【0080】
第2の実施の形態では、指紋画像データからエッジ部分を検出する際、指紋画像データ全体から一度にエッジ部分を検出するようにはせず、指紋画像データを所定の幅の横長の領域である横1ラインごとに、エッジの検出を行う。
【0081】
エッジの検出は、図8に示したSobelオペレータを使用する。このSobelオペレータを指紋画像データの各画素に適用し、それによって算出されたSobelオペレータのX成分fxが数画素内で極大または極小になる画素が指紋の山部分と谷部分のエッジと判断して、エッジとなる画素のアドレスを保存する。
【0082】
次に、ステップ702において、保存されたエッジの画素アドレスの中で、fxが極大となるアドレスfmaxと、fxが極小となるアドレスfminからX方向の黒線長さLを算出する。
【0083】
その具体的な算出方法を図9に記す。ここで、図9は、指紋稜部の太さの算出方法を示す図である。
【0084】
SobelオペレータのX成分fxは、画素値の変化量、つまり、画素の明るさの変化量を示している。そのため、fxが負の値であって、かつ極小値となっているときは、その箇所の画素が急激に暗くなっていることを示している。逆に、fxが正の値であって、かつ極大値となっているときは、その箇所の画素が急激に明るくなっていることを示している。
【0085】
したがって、図9において、指紋画像データの左から右へ向かってfxを算出しているのであれば、極小値となる座標fminの画素から暗い領域、つまりは黒線が始まり、極大値となる座標fmaxの画素で黒線の領域は終了していることが分かる。この座標fmin〜座標fmaxの領域が、指紋の山の部分に相当するX方向の黒線だと判別でき、このX方向の黒線の長さLは、図9にも示したように、L=fmax−fminで算出できる。
【0086】
次に、ステップ703において、図8に示したfx及びfy、並びに以下の式(1)で示した式によってエッジの角度θを算出する。
【0087】
θ=tan−1(fx/fy) …(1)
【0088】
さらに、ステップ704において、指紋の山の部分である稜部の太さWを、以下の式(2)に示した式を用いて、X方向の黒線の長さL及びθから算出する。
【0089】
W=L*cosθ …(2)
【0090】
ステップ705において、ステップ704で算出した稜部の太さWが閾値Sより大きいと判断された場合は、続くステップ706において補正を要する領域として、その領域の補正箇所情報を記録する。補正を要する領域の補正箇所情報とは、前述のように、その領域の位置、大きさ及び範囲である。なお、閾値Sは実験により適切に決定することができる。
【0091】
画像補正箇所判定部609は、ステップ707において、ステップ703〜706の処理を、処理対象である横1ラインから検出された全ての黒線について実施したか否かを確認し、処理対象である横1ラインにステップ703〜706の処理が未だ行われていない黒線が存在すると判断された場合は、ステップ708において、その未処理の黒線を次の処理対象とし、当該処理対象とした黒線に対してステップ703〜706の処理を実行する。
【0092】
ステップ703〜706の処理を、処理対象としていた横1ラインから検出された全ての黒線について実施した場合は、ステップ709において、他の横1ラインについてもステップ701〜707の処理を実行したか否かを確認し、他の全ての横1ラインについてもステップ701〜707の処理を実行した場合は、画像補正箇所判定部609は、画像補正箇所を特定する処理を終了する。
【0093】
ステップ701〜707の処理を実行していない横1ラインが存在する場合は、ステップ710において、未処理の横1ラインを次の処理対象にして、ステップ701〜707の処理を実行する。
【0094】
なお、ステップ707及びステップ708の処理は、横1ラインが有する全ての黒線に対して行わなくてもよい。例えば、処理量を削減するために、指紋の情報量が多い画像の中心にある黒線のみを対象とすることも可能である。
【0095】
また、ステップ709及びステップ710の処理も、指紋画像データの全横1ラインに限らず、処理量削減のために、画像の中心の横1ラインのみを対象とすることも可能である。
【0096】
上記のステップ701〜709の手順によって得られた補正箇所情報は、指紋画像補正処理部603へ出力されるが、補正箇所情報は、指紋画像記憶部602に記憶させてもよいし、画像補正箇所判定部609が独自に備えるメモリなどの記憶装置に記憶させ、指紋画像補正処理部603は、これらの記憶装置から補正箇所情報を読出してもよい。
【0097】
指紋画像補正処理部603は、補正箇所情報に記載されている領域に対して、画像補正を実行する。ここで図10は、第2の実施の形態に係る指紋認証装置における指紋画像補正処理部603の画像処理のフローチャートである。
【0098】
まず、ステップ1001において、指紋画像記憶部602に記憶されている指紋画像データを読出す。次いで、続くステップ1002において、読出した指紋画像データの全体からヒストグラムを生成し、生成したヒストグラムの中心に存在する中心画素の画素値と、ヒストグラムにおいて明暗が中庸になる画素値とから、生成したヒストグラム上の全画素値に乗算する補正係数kを第1の実施の形態と同様の方法で決定する。
【0099】
指紋画像補正処理部603は、ステップ1003において、補正箇所情報を取得し、ステップ1004において、取得した補正箇所情報で指定されている領域の画素の画素値にステップ1002で決定した補正係数kを乗算して、その領域の画像補正を実行し、処理を終了する。
【0100】
補正箇所情報を取得するステップ1003と、指紋画像データを読出すステップ1001及びヒストグラムデータを生成するステップ1002とは、手順が前後してもよい。
【0101】
なお、一の指紋に係る指紋画像データには、複数の補正を要する領域が存在する場合がある。この場合、図10で示したように、予め指紋画像データ全体についてヒストグラムを生成し、その指紋画像データ全体についてのヒストグラムに基づいて決定した補正係数kを用いて、補正を要する各領域を補正するが、それぞれの領域ごとにヒストグラムを生成し、生成した各領域固有のヒストグラムに基づいて補正係数kをそれぞれ決定し、領域毎に固有の補正係数kを用いて、それぞれの領域を補正するようにしてもよい。
【0102】
補正を要する領域が、指紋画像データ中に独立別個で複数存在する場合でも、指紋画像データ全体についてのヒストグラムに基づいて補正係数kを決定し、その補正係数kを用いて、それぞれの領域を補正する方が、画像処理の手順が簡易迅速である。しかしながら、補正後の指紋画像データの濃度、コントラスト及び解像度、並びにスペクトラル・データ生成部604によるスペクトラル・データの算出に係るアルゴリズムの特性によっては、それぞれの領域ごとにヒストグラムを生成し、生成した各領域固有のヒストグラムに基づいて補正係数kをそれぞれ決定し、領域毎に固有の補正係数kを用いて、それぞれの領域を補正するようにしてもよい。
【0103】
以上のように、第2の実施の形態によれば、画像補正箇所判定部609を設け、指紋稜部の太さを算出して、閾値以上の太さの場合にのみ補正することにより、全画素を補正する場合と比較して、補正前から細い指紋稜部が必要以上に白く補正されてしまい、当該指紋稜部が判別できなくなることを防止することができる。
【0104】
これにより、第1の実施の形態の効果に加えて、補正による指紋稜部の消失を防ぎ、指紋を強く押捺した場合のスペクトラル・データ行列と、指紋を強く押捺しない場合のスペクトラル・データ行列とが不一致と誤判定されるおそれを低減する効果が得られる。
【0105】
[第3の実施の形態]
続いて、本発明の第3の実施の形態について説明する。
【0106】
この第3の実施の形態に係る指紋認証装置の構成は、図6の第2の実施の形態と同じであるが、第2の実施の形態とは、画像補正箇所判定部609の処理方法が異なる。第3の実施の形態に係る指紋認証装置の画像補正箇所判定部609は、指紋画像データに含まれるノイズ成分を除外して、指紋の稜部を示すエッジ強度を検出するものである。
【0107】
指紋画像データを読み取る指紋には細かい汗、皮脂又は粉塵等が付着している場合があり、これらが付着した状態で指紋を走査又は撮影すると、ノイズの原因になり得る。また、センサ部分の汚れもノイズの発生源となるし、指紋認証装置の電源から生じるノイズも無視できない。
【0108】
第3の実施の形態に係る指紋認証装置の画像補正箇所判定部609は、これら諸々の原因から生じるノイズを指紋画像データから除外して、指紋稜部を示すエッジ強度のみを検出できるようにするものである。
【0109】
図11は、第3の実施の形態に係る画像補正箇所判定部609のエッジ検出の動作を示すフローチャートである。画像補正箇所判定部609のエッジ検出以外の動作は、第2の実施の形態と同じため、それらの説明は省略する。
【0110】
まず、ステップ901において、画像補正箇所判定部609は、任意の横1ラインに注目して、指紋の山部分と谷部分のエッジを検出する。検出手法は、第2の実施の形態と同様で、SobelオペレータのX成分fxが極大又は極小となる座標をエッジ部分の候補とする。
【0111】
さらに、ステップ902において、SobelオペレータのX成分fxが数画素内で極大または極小であり、かつ、そのエッジ強度の絶対値が閾値T(エッジ強度閾値)を超えている場合、指紋の山部分と谷部分のエッジと判断して画素のアドレスを保存し、保存した画素のアドレスからX方向の黒線の長さを算出する。
【0112】
第3の実施の形態における指紋稜部の検出方法の具体例を図12に示す。この図12において、SobelオペレータのX成分fxの絶対値が閾値Tの絶対値よりも大きい点A及び点Dは、指紋の山部分と谷部分のエッジであると判定する。一方、領域B及び領域Cは、fxが数画素内で極大及び極小になっているが、それらの絶対値が閾値Tの絶対値を超えていないため、ノイズであると判定する。なお、閾値Tは、実験を通じて統計的に決定することができる。
【0113】
以上のように、第3の実施の形態によれば、画像補正箇所判定部609のX方向の黒線の長さ検出において、指紋の山部分と谷部分とのエッジであると判断する閾値Tを設け、エッジ強度の絶対値が閾値Tの絶対値以上の点のみ黒線の長さ検出に使用することにより、指紋稜部である領域にノイズによって稜部の黒色が薄くなる部分がある場合、その部分を指紋の山部分と谷部分とのエッジであると誤判定することを防止できる。
【0114】
これにより、第2の実施の形態の効果に加えて、指紋稜部にノイズがある指紋画像データに対しても、指紋を強く押捺した場合のスペクトラル・データ行列と、指紋を強く押捺しない場合のスペクトラル・データ行列とが不一致と誤判定される可能性を低減する効果が得られる。
【0115】
[第4の実施の形態]
続いて、本発明の第4の実施の形態について説明する。
【0116】
この第4の実施の形態に係る指紋認証装置の構成は、図6の第2の実施の形態と同じであるが、第2の実施の形態とは、画像補正箇所判定部609の処理方法が異なる。
【0117】
画像補正箇所判定部609のエッジ検出に係る動作は第3の実施の形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0118】
図13は、本発明の第4の実施の形態に係る指紋認証装置の画像補正箇所判定部609における閾値Tの算出を示す図である。
【0119】
この図13では、指紋の山部分と谷部分のエッジを判断する閾値Tの大きさは、図13に示す通り、指と周辺の境界におけるエッジ強度に基づいて算出する。
【0120】
指紋画像データにおいて、明暗差が最も大きいのは、指と周辺の境界であるから、かかる境界のエッジ強度の絶対値は、指紋画像データ全体から算出されるエッジ強度の絶対値の最大値となる。
【0121】
図13に示すように、指と周辺の境界に係るエッジ強度の絶対値は、Xeという顕著な値を示し、指紋の稜部のエッジ強度の絶対値を上回る。
【0122】
そこで、第4の実施の形態では、エッジ強度の最大値であるXeに1/mという係数を乗算することによって、閾値Tを算出している。
【0123】
1/mなる係数をどの程度にするかは、実験を通じて統計的に算出されるが、図13にも示すように、閾値Tが指紋稜部のエッジ強度の絶対値を若干下回る程度の値になるように調整する。
【0124】
1/mなる係数を決定しておけば、センサの感度により指紋画像データ毎にエッジ強度が全体的に強め、または弱めに出る場合でも、各指紋画像データデータに適した閾値を設定することが可能となる。
【0125】
画像全体でエッジ強度が強めに出る場合は、指と周辺の境界のエッジ強度も、指紋の稜部のエッジ強度も、強めに出るので、指と周辺の境界のエッジ強度に1/mなる係数を乗算すれば、強めに出ている指紋の稜部のエッジ強度に対応した閾値Tを算出することができる。
【0126】
同様に、画像全体でエッジ強度が弱めに出る場合も、指と周辺の境界のエッジ強度に1/mなる係数を乗算すれば、弱めに出ている指紋の稜部のエッジ強度に対応した閾値Tを算出することができる。
【0127】
以上のように第4の実施の形態によれば、画像補正箇所判定部609のX方向の黒線の長さ検出において、指紋の山部分と谷部分のエッジであると判断する閾値を、指と周辺の境界におけるエッジ強度から算出することにより、センサの感度により指紋画像データのエッジ強度が強め、又は弱めに出る場合でも、それぞれの指紋画像データに適した値に設定することが可能となる。
【0128】
これにより、第3の実施の形態の効果に加えて、指紋画像データ毎にエッジ強度に強弱がある場合に対しても、指紋を強く押捺した場合のスペクトラル・データ行列と、指紋を強く押捺しない場合のスペクトラル・データ行列とが不一致と誤判定されるおそれを低減する効果が得られる。
【符号の説明】
【0129】
101 指紋入力装置
102 指紋画像記憶部
103 スペクトラル・データ生成部
104 スペクトラル・データ行列記憶部
105 登録済みスペクトラル・データ行列保管部
106 指紋照合部
107 認証結果出力部
301 指紋入力装置
302 指紋画像記憶部
303 指紋画像補正処理部
304 スペクトラル・データ生成部
305 スペクトラル・データ行列記憶部
306 登録済みスペクトラル・データ行列保管部
307 指紋照合部
308 認証結果出力部
401 ヒストグラムデータ生成部
402 ヒストグラムデータ記憶部
403 指紋画像稜部補正処理部
601 指紋入力装置
602 指紋画像記憶部
603 指紋画像補正処理部
604 スペクトラル・データ生成部
605 スペクトラル・データ行列記憶部
606 登録済みスペクトラル・データ行列保管部
607 指紋照合部
608 認証結果出力部
609 画像補正箇所判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指紋を走査又は撮影して指紋画像データを取得する指紋取得手段と、
前記指紋取得手段で取得した指紋画像データに基づいて画素値のヒストグラムを生成し、該ヒストグラムでの暗部側の画素の個数の積算値が全画素の個数の積算値に対して所定の割合となる画素の集合における最も明るい画素に係る第1の画素値を、該第1の画素値より明るい第2の画素値にするための補正係数を用いて、各画素の画素値を補正する指紋画像補正処理手段と、
前記指紋画像補正処理手段が補正した指紋画像データから指紋の稜部の方向及び指紋の周波数を成分とするスペクトラル・データ行列を作成するスペクトラル・データ作成手段と、
指紋認証の際に参照する登録済みスペクトラル・データ行列を保管した登録済みスペクトラル・データ行列保管手段と、
前記スペクトラル・データ作成手段で作成された前記スペクトラル・データ行列と前記登録済みスペクトラル・データ行列保管手段に保管されている登録済みスペクトラル・データ行列とを照合する指紋照合手段と、
前記指紋照合手段による認証結果を出力する認証結果出力手段と、
を含む指紋認証装置。
【請求項2】
前記指紋画像補正処理手段は、前記所定の割合を50%を含む所定の範囲内の値とし、前記第2の画素値を前記ヒストグラムにおいて画素値の中心値を含む所定範囲内になる画素値とし、前記補正係数を各画素の画素値に乗算して補正する請求項1に記載の指紋認証装置。
【請求項3】
前記指紋画像記憶手段から指紋画像データを読出し、該指紋画像データの各画素のエッジ強度を算出し、該算出されたエッジ強度が極小となる画素の座標と該算出されたエッジ強度が極大となる画素の座標とから指紋の稜部に該当する部分の太さを割り出し、該部分の太さが所定の閾値より大きい場合、該部分は補正を要する領域であると判断し、該領域の位置、大きさ及び範囲を補正箇所情報として前記指紋画像補正処理手段へ出力する画像補正箇所判定手段を含み、
前記指紋画像補正処理手段は、該指紋画像データのうち、該補正箇所情報に記載されている領域に対して前記画像補正を実行することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の指紋認証装置。
【請求項4】
前記画像補正箇所判定手段は、前記エッジ強度の絶対値が所定のエッジ強度閾値より大きい場合に、指紋の稜部に係るエッジ強度であると判断することを特徴とする請求項3に記載の指紋認証装置。
【請求項5】
前記画像補正箇所判定手段は、指紋画像データの全体から算出されたエッジ強度の最大値の絶対値に所定の係数を乗算することにより、前記エッジ強度閾値を決定することを特徴とする請求項4に記載の指紋認証装置。
【請求項6】
コンピュータを、
指紋を走査又は撮影して取得した指紋画像データに基づいて画素値のヒストグラムを生成し、該ヒストグラムでの暗部側の画素の個数の積算値が全画素の個数の積算値に対して所定の割合となる画素の集合における最も明るい画素に係る第1の画素値を、該第1の画素値より明るい第2の画素値にするための補正係数を用いて、各画素の画素値を補正する指紋画像補正処理手段と、
前記指紋画像補正処理手段が補正した指紋画像データから指紋の稜部の方向及び指紋の周波数を成分とするスペクトラル・データ行列を作成するスペクトラル・データ作成手段と、
前記スペクトラル・データ作成手段で作成された前記スペクトラル・データ行列と指紋認証の際に参照する登録済みスペクトラル・データ行列とを照合する指紋照合手段と、
前記指紋照合手段による認証結果を出力する認証結果出力手段と、
して機能させるための指紋認証用プログラム。
【請求項7】
前記指紋画像補正処理手段は、前記所定の割合を50%を含む所定範囲内の値とし、前記第2の画素値を前記ヒストグラムにおいて画素値の中心値を含む所定範囲内になる画素値とし、前記補正係数を各画素の画素値に乗算して補正する請求項6に記載の指紋認証プログラム。
【請求項8】
コンピュータを、
前記指紋画像記憶手段から指紋画像データを読出し、該指紋画像データの各画素のエッジ強度を算出し、該算出されたエッジ強度が極小となる画素の座標と該算出されたエッジ強度が極大となる画素の座標とから指紋の稜部に該当する部分の太さを割り出し、該部分の太さが所定の閾値より大きい場合、該部分は補正を要する領域であると判断し、該領域の位置、大きさ及び範囲を補正箇所情報として前記指紋画像補正処理手段へ出力する画像補正箇所判定手段として機能させ、
前記指紋画像補正処理手段は、該指紋画像データのうち、該補正箇所情報に記載されている領域に対して前記画像補正を実行することを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の指紋認証用プログラム。
【請求項9】
前記画像補正箇所判定手段は、前記エッジ強度の絶対値が所定のエッジ強度閾値より大きい場合に、指紋の稜部に係るエッジ強度であると判断することを特徴とする請求項8に記載の指紋認証用プログラム。
【請求項10】
前記画像補正箇所判定手段は、指紋画像データの全体から算出されたエッジ強度の最大値の絶対値に所定の係数を乗算することにより、前記エッジ強度閾値を決定することを特徴とする請求項9に記載の指紋認証用プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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