説明

振動ジャイロ

【課題】 評価や実装等が容易で生産性が良く、出力ドリフトが小さく、安定した出力が得られ、さらに外部からの衝撃に対しても堅牢で、且つ2軸の角速度の検出が可能である安価な振動ジャイロを提供すること。
【解決手段】 平面的に形成された付加質量部4a、4b、4c、4dを、それぞれ、同じ平面内に形成されたビーム3a、3b、3c、3dで支え、ビーム3aとビーム3dの接続部をビーム3eの一端で支え、ビーム3bとビーム3cの接続部をビーム3fの一端で支え、さらに、ビーム3eおよびビーム3fの他端を接続した振動子1を、ビーム3g、3hを介して外周部の枠体2で支持し、励振部および検出部として機能させた振動ジャイロ用振動子を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角速度センサとして使用される振動ジャイロに関し、特に自動車のナビゲーションシステムや姿勢制御装置、カメラ一体型VTRの手振れ防止装置等に用いられるジャイロスコープに好適な振動ジャイロに関するものである。
【背景技術】
【0002】
振動ジャイロとは、速度を持つ物体に回転角速度が与えられると、その物体自身に速度方向と直角な方向にコリオリ力が発生するという力学現象を利用した角速度センサである。振動ジャイロは電気的な信号を印加することで機械的な振動(以下、「駆動モード」と呼ぶ。)を励起することができ、且つ、駆動振動と直交する方向の機械的な振動(以下、「検出モード」と呼ぶ。)の大きさを電気的に検出可能とした系を有し、予め、駆動モードを励振した状態で、駆動モードの振動面と検出モードの振動面との交線と平行な軸を中心とした回転角速度を与えると、前述のコリオリ力の作用により、検出モードが発生し、出力電圧として検出できる。この検出された出力電圧は駆動モードの大きさおよび回転角速度に比例するので、駆動モードの大きさを一定にした状態では、出力電圧の大きさから回転角速度の大きさを求めることができる。
【0003】
近年、振動ジャイロにおいても、その他の電子部品と同様に小型化、低価格化が急速に進められている。また、例えば、手振れ防止装置等では、一般に2軸の回転角速度の検出が必要であるため、1軸の回転角速度を検出できる製品を2つ使用している場合がほとんどである。このような状況の中で、振動ジャイロの小型化、低価格化へのアプローチの1つとして、2軸の回転角速度の検出を1つの製品内で可能にする検討がなされている。このような構成の場合、1軸の製品を別々に生産するのに比べ、回路や外部入出力端子等の共通部分を共有することが可能となり、小型・低価格化を図ることができる。また、携帯電話機をはじめとした、携帯機器への搭載の検討も始まり、これまで以上に耐衝撃性、高安定化が求められている。
【0004】
図6は従来の振動ジャイロ用素子を示す斜視図である。図6において、振動子111は、エリンバなどの恒弾性金属材料からなる正方形状の板状の振動体112と、振動体112の主面の中央部に配置された圧電素子113とからなる。圧電素子113の表面には、複数の分割された電極116が配されている。振動体112には各辺の中央から中心点に向う4本の切り欠き121、122、123、124によって4つの振動体111a、111b、111c、111dが形成されている。振動子111は、ノード軸N1およびノード軸N2を軸とする軸対称モードで振動し、ノード軸N1とノード軸N2の交点付近で支持固定される。角速度の検出は、振動子111の平面内で振動するモードを用い、平面内の直交する2軸の角速度の検出を可能としている。このような振動ジャイロは特許文献1に開示されている。
【0005】
【特許文献1】特許第3206551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した従来の振動ジャイロ用素子では、支持部を振動子の中央部に設けて、振動子の外周部が自由に振動できるようにする必要があるため、1つずつ振動子を切り出した後でないと振動子の特性評価を行うことができないという問題点がある。
【0007】
また、中央部での支持は、実装が難しく、振動子の周波数調整やバランス調整を行う場合にも、特殊な治具を作製し、振動子を中央部のみで支持固定して宙吊りにする必要があるため、生産性が低下するという問題点がある。
【0008】
さらに、中央部のノード付近を支持固定する場合、支持固定できる面積は非常に小さく、振動を阻害せずに支持することは非常に難しく、支持部から振動が漏れると同時に、外部からの振動の影響を受け易く、出力が不安定となる。また、支持が1点であるため、外部から衝撃を受けた場合に、衝撃力がその1点に集中し、破壊し易いという問題点もある。
【0009】
したがって、本発明は上記従来技術の問題点を解決することを課題とする。具体的には、評価や実装等が容易で生産性が良く、出力ドリフトが小さく、安定した出力が得られ、さらに、外部からの衝撃に対しても堅牢で且つ、2軸の角速度の検出が可能である安価な振動ジャイロの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は前記課題を解決するために、以下の手段を採用した。すなわち、本発明は、略四角の平板に貫通穴加工を施し、振動可能な付加質量部をビームで支える構造を形成することで、励振部と検出部として機能させ、支持をその外縁部で行うことをその要旨とする。
【0011】
請求項1に記載の発明は、平面内に形成された、4つの付加質量部4a、4b、4c、4dが時計回りに配置され、前記付加質量部と同一平面内に形成された、4つの柱状のビーム3a、3b、3c、3dの一端が、前記付加質量部4a、4b、4c、4dに、それぞれ接続され、前記ビーム3a、3dの前記付加質量部に接続されない他端同士および前記ビーム3b、3cの前記付加質量部に接続されない他端同士がそれぞれ接続され、前記付加質量部と同一平面内に形成された、2つの柱状のビーム3e、3fの一端が、それぞれ前記ビーム3a、3dの接続部および前記ビーム3b、3cの接続部に接続され、前記ビーム3e、3fでの前記ビーム3a、3b、3c、3dには接続されない他端同士を接続した構造を有する振動子を用いる振動ジャイロであって、2つの同位相の付加質量部4a、4cと2つの同位相の付加質量部4b、4dとが互いに逆位相で振動し且つ付加質量部4a、4b、4c、4dを形成した平面と垂直な面外方向に振動する駆動モードの駆動手段と、付加質量部4a、4bの重心間の中点および付加質量部4c、4dの重心間の中点を通る第1の軸に平行な軸回りの角速度によって生じるコリオリ力による変位の検出手段と、付加質量部4a、4dの重心間の中点および付加質量部4b、4cの重心間の中点を通り前記第1の軸に直交する第2の軸に平行な軸回りの角速度によって生じるコリオリ力による変位の検出手段とを備え、前記付加質量部4a、4b、4c、4dおよび前記ビーム3a、3b、3c、3d、3e、3fの配置がその配置面内で前記第2の軸に関して略対称な構造を有し且つ前記第1の軸に関して非対称な構造を有し、前記第1の軸と平行な軸回りの角速度の検出には、2つの同位相のビーム3a、3cと、2つの同位相のビーム3b、3dとが互いに逆位相で振動し且つ前記第2の軸方向に屈曲振動する第1の検出モードを用い、前記第2の軸と平行な軸回りの角速度の検出には、2つの同位相のビーム3a、3dと、2つの同位相のビーム3b、3cとが互いに逆位相で振動し且つ前記第2の軸方向に屈曲振動する第2の検出モードを用いたことを特徴とする振動ジャイロである。
【0012】
この駆動モードは、付加質量部4aおよび4cと、付加質量部4bおよび4dとが互いに逆位相で、且つ、付加質量部を形成した平面と垂直な面外方向に振動する。この駆動モードは、非常に対称性が良く、ビーム3eと3fに捩れを発生させるが、ビーム3eと3fの接続部で力が相殺され、その接続部は、駆動モードのノード点となる。
【0013】
前述の駆動モードを励振した状態で、第1の軸と平行な軸回りの角速度を印加すると、付加質量部には、コリオリ力が働き、付加質量部4aおよび4cと、付加質量部4bおよび4dとが互いに逆位相で、第2の軸方向に振動する。この振動の検出には、第1の検出モードを利用できる。この第1の検出モードは、ビーム3aおよび3cと、ビーム3bおよび3dとが互いに逆位相で、第2の軸方向に屈曲振動する。ビーム3aおよび3bと、ビーム3cおよび3dが、それぞれ音叉振動する振動モードである。音叉振動であるため、ビーム3aおよび3dの振動による力と、ビーム3bおよび3cの振動による力は、ビーム3eとビーム3fの接続部で相殺され、その接続部は、第1の検出モードのノード点となる。
【0014】
同様に、駆動モードを励振した状態で、第2の軸と平行な軸回りの角速度を印加すると、付加質量部には、コリオリ力が働き、付加質量部4aおよび4cと、付加質量部4bおよび4dとが互いに逆位相で、第1の軸方向に力を受ける。しかし、付加質量部4a〜4dには、それぞれビーム3a〜3dが接続され、第1の軸方向の変位が制限されている。したがって、それぞれの付加質量部は、回転し、第2の軸方向に振動することとなる。
【0015】
ここで、前述の通り、振動子は、第1の軸を通る平面に関して、非対称な構造を有している。この非対称性により、ビーム3aおよび3dと、ビーム3bおよび3cとが互いに逆位相で、第2の軸方向に屈曲振動する。この振動の検出には、第2の検出モードを利用できる。この第2の検出モードは、ビーム3aおよび3dと、ビーム3bおよび3cとが互いに逆位相で、第2の軸方向に屈曲振動する。ビーム3aおよび3bと、ビーム3cおよび3dが、それぞれ音叉振動する振動モードである。音叉振動であるため、ビーム3aおよび3dの振動による力と、ビーム3bおよび3cの振動による力は、ビーム3eとビーム3fの接続部で相殺され、その接続部は、第2の検出モードのノード点となる。
【0016】
ただし、この第2の検出モードを利用するためには、第1の軸を通る平面に関して、非対称な構造とすることが必要不可欠である。この非対称性がなければ、前述の第2の検出モードは、利用できない。仮に第1の軸を通る平面に関して、対称な構造とすれば、付加質量部は、第2の軸方向に振動しないか、すべての付加質量部が同相で第2の軸方向に振動する。第2の軸方向に振動しない場合、角速度の検出ができない。すべての付加質量部が同相で第2の軸方向に振動する場合、ビーム3a〜3dは、付加質量部と同様に、同相で第2の軸方向に屈曲振動する。この場合、すべての付加質量部が同じ方向に振動するため、振動子の重心位置が大きく変化し易い。振動ジャイロの設計において、振動子の周波数の設計が非常に重要であるが、周波数の設計と同時に、ビーム3eとビーム3fの接続部をノード点とする構造設計を行うのは、非常に困難である。
【0017】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1記載の振動ジャイロにおいて、前記付加質量部と同一平面内に形成された2つの柱状のビーム3g、3hの一端が、いずれも前記ビーム3eとビーム3fの接続部に接続され、且つ前記付加質量部を形成した平面と垂直で前記第2の軸を通る平面に関して略対称に配置され、前記振動子の外周部には前記付加質量部と略同一平面内に枠体が形成され、前記ビーム3g、3hの他端は前記枠体に接続され、前記枠体を介して、前記振動子が支持されたことを特徴とする振動ジャイロである。
【0018】
このビーム3eとビーム3fの接続部は、駆動モード、第1、第2の検出モードのすべてに対して、ノード点となっているため、その接続部をビーム3gおよび3hを介して、振動子外周に配置された枠体に接続しても、枠体への振動の伝播は少なく、枠体もノード点となる。したがって、振動子の外縁部を支持することが可能となり、良好な支持特性が得られ、出力ドリフトも低減し、実装が容易で生産性も高くなる。また、振動子の外縁部の全周を支持することも可能であり、衝撃が加わっても、衝撃力が分散するので、外部衝撃に強く、安定性が高い、高信頼性の振動ジャイロ用素子が提供できる。さらに、振動子の製造工程において、ウエハ上に複数個の振動子を同時に形成し、外縁同士が接続した状態においても、振動ジャイロ用素子特性を検査することが容易となる。振動子を1つずつ切り出すことなく、振動特性の検査、周波数調整、バランス調整を行うことができる。また、容易に検査、調整が可能で、後工程の歩留まりも改善でき、生産性が非常に高くなる。
【0019】
さらに、本発明によれば、振動ジャイロ用振動子の平面内の2軸の角速度を検出できる。一般的なデジタルスチルカメラ等で使用する場合、そのまま基板上に実装できるので、実装が容易となる。また、1つの振動子で2軸の回転角速度の検出が可能であるため、回路や外部端子等の共通部分を共有することで、1軸の製品を2つ使用するのに比べ、小型・低コスト化が可能となる。
【0020】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2記載の振動ジャイロにおいて、前記振動子が圧電単結晶板で一体的に形成されてなることを特徴とする振動ジャイロである。本発明は、平面的な構造をとっており、四角形状の圧電単結晶板に穴あけ加工を施すことで、容易に形成でき、生産性が高い。さらに、ニオブ酸リチウムなど、高結合材料を用い、駆動モードの励振、検出モードの検出を行うことで、SN比の高い振動ジャイロ用素子が提供できる。
【発明の効果】
【0021】
前記のごとく、本発明によれば、評価や実装等が容易で生産性が良く、出力ドリフトが小さく、安定した出力が得られ、さらに外部からの衝撃に対しても堅牢で、且つ、2軸の角速度の検出が可能である安価な振動ジャイロを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
図3は本発明の一実施の形態での振動ジャイロ用振動子を示す上面図である。2.7mm×3.8mm、厚さ0.25mmの四辺形状のニオブ酸リチウム圧電単結晶板に穴加工を施すことで、1枚の圧電単結晶板の同一面内に、付加質量部4a〜4dを、ビーム3a〜3hによって、枠体2に接続し、振動子1を形成している。付加質量部4a〜4dには、それぞれ、ビーム3a〜3dが接続されているが、各付加質量部の左端にビームが接続されているため、本実施の形態では、振動子1は、紙面に対して、上下対称、左右非対称な形状となっている。
【0024】
また、ビーム3aの表面には検出電極6a、基準電位電極7c、7dを、ビーム3bの表面には検出電極6b、基準電位電極7f、7gを、ビーム3cの表面には検出電極6c、基準電位電極7f、7hを、ビーム3dの表面には検出電極6d、基準電位電極7c、7eを、ビーム3eの表面には駆動電極5a、基準電位電極7aを、ビーム3fの表面には駆動電極5b、基準電位電極7bを形成した。各電極は、クロムを下地とした金により電極を形成した。
【0025】
ここで、本実施の形態による振動ジャイロの動作原理について説明する。図1は本実施の形態における振動ジャイロの振動モードを示す図である。すなわち、図1(a)、図1(b)、図1(c)は未動作時の変形前の状態を示し、それぞれ、斜視図、正面図、平面図であり、図1(d)、図1(e)、図1(f)はXモードを示し、それぞれ、斜視図、正面図、平面図であり、図1(g)、図1(h)、図1(i)はYモードを示し、それぞれ、斜視図、正面図、平面図であり、図1(j)、図1(k)、図1(l)はZモードを示し、それぞれ、斜視図、正面図、平面図である。
【0026】
図1(d)〜図1(f)に示すXモードでは、図3を同時に参照し、2つの同位相の付加質量部4aおよび4cと、2つの同位相の付加質量部4bおよび4dとが互いに逆位相で、且つ、付加質量部をX軸方向に振動する。この駆動モードは、非常に対称性が良く、ビーム3e、3fに捩れを発生させるが、ビーム3e、3fの接続部で力が相殺され、その結果、ビーム3g、3hに接続された枠体2への振動の伝播は少なく、枠体2全体がノード点となる。
【0027】
Xモードを励振した状態で、Y軸(第1の軸)と平行な軸回りの角速度を印加すると、付加質量部には、コリオリ力が働き、付加質量部4aおよび4cと、付加質量部4bおよび4dとが互いに逆位相で、Z軸方向に振動する。この振動の検出には、図1(j)〜図1(l)に示すZモードを利用できる。このZモード(第1の検出モード)は、2つの同位相のビーム3aおよび3cと、2つの同位相のビーム3bおよび3dとが互いに逆位相で、Z軸方向に屈曲振動する。ビーム3aおよび3bと、ビーム3cおよび3dが、それぞれ音叉振動する振動モードである。音叉振動であるため、ビーム3aおよびビーム3dの振動による力と、ビーム3bおよびビーム3cの振動による力とは、ビーム3eとビーム3fの接続部で相殺され、その結果、ビーム3g、3hに接続された枠体2への振動の伝播は少なく、枠体2全体がノード点となる。この時、Xモードの振動速度が一定であれば、これらの発生した、Zモードの振幅の大きさは、印加した角速度に比例し、これらの振動を電気的に取り出せば、角速度センサとして機能する。
【0028】
同様に、Xモードを励振した状態で、Z軸と平行な軸回りの角速度を印加すると、付加質量部には、コリオリ力が働き、付加質量部4aおよび4cと、付加質量部4bおよび4dとが互いに逆位相で、Y軸方向に力を受ける。しかし、付加質量部4a〜4dには、それぞれビーム3a〜3dが接続され、Y軸方向の変位が制限されている。したがって、それぞれの付加質量部は、回転し、Z軸方向に振動することとなる。
【0029】
ここで、前述の通り、振動子は、左右非対称な構造を有している。この非対称性により、ビーム3aおよび3dと、ビーム3bおよび3cとが互いに逆位相で、Z軸方向に屈曲振動する。すなわち、Xモードを励振することで、付加質量部4aおよび4cが+X方向の速度を持ち、付加質量部4bおよび4dが−X方向の速度を持った状態において、Z軸(第2の軸)と平行な軸回りの角速度を印加し、コリオリ力が発生すると、付加質量部4aおよび4cは、−Y方向に力を受け、付加質量部4bおよび4dは、+Y方向に力を受ける。しかし、ビーム3a〜3dの存在により、Y軸方向の変位を制限するため、それぞれの付加質量部は、ビームとの接続部を中心に回転しようとする。その結果、付加質量部4aおよび4dは、−Z方向に変位し、付加質量部4bおよび4cは、+Z方向に変位する。したがって、ビーム3aおよび3dと、ビーム3bおよび3cとが互いに逆位相で、Z軸方向に屈曲振動する。
【0030】
この振動の検出には、Yモードを利用できる。このYモード(第2の検出モード)は、2つの同位相のビーム3aおよび3dと、2つの同位相のビーム3bおよび3cとが互いに逆位相で、Z軸方向に屈曲振動する。ビーム3aおよび3bと、ビーム3cおよび3dが、それぞれ音叉振動する振動モードである。音叉振動であるため、ビーム3aおよび3dの振動による力と、ビーム3bおよび3cの振動による力は、ビーム3eとビーム3fの接続部では相殺され、その結果、ビーム3g、3hに接続された枠体2への振動の伝播は少なく、枠体2全体がノード点となる。この時、Xモードの振動速度が一定であれば、これらの発生した、Yモードの振幅の大きさは、印加した角速度に比例し、これらの振動を電気的に取り出せば、角速度センサとして機能する。
【0031】
ただし、このYモードを利用するためには、左右非対称な構造とすることが必要不可欠である。この非対称性がなければ、Yモードは、利用できない。仮に左右対称な構造とすれば、付加質量部は、Z軸方向に振動しないか、すべての付加質量部が同相でZ軸方向に振動する。
【0032】
前者は、付加質量部をZ軸方向に2等分する位置にビームを接続した場合である。Xモードを励振した状態でZ軸と平行な軸回りで角速度を印加し、Y軸方向に力を受けても、付加質量部が回転しないため、Z軸方向に変位しない。
【0033】
後者の場合、左右非対称な場合と同様に、Xモードを励振した状態でZ軸と平行な軸回りで角速度を印加すると、付加質量部4aおよび4cと、付加質量部4bおよび4dは、互いに逆向きのY軸方向の力を受ける。また、ビーム3a〜3dの存在により、Y軸方向の変位を制限するため、それぞれの付加質量部は、ビームとの接続部を中心に回転しようとする。しかし、付加質量部4aおよび4dと、付加質量部4bおよび4cでは、ビームとの接続位置が左右で逆となる。その結果、付加質量部4a〜4dは、Z軸方向に同相で変位する。したがって、ビーム3a〜3dは、同相でZ軸方向に屈曲振動する。この場合、すべての付加質量部が同じ方向に振動するため、振動子の重心位置が大きく変化し易い。振動ジャイロの設計において、振動子の周波数の設計が非常に重要であるが、周波数の設計と同時に、ビーム3eとビーム3fの接続部をノード点とする構造設計を行うのは、非常に困難である。
【0034】
上記の振動の励振および検出には、振動子1に配置した電極を用いる。図3に示したビーム3e、3fに形成した駆動電極5a、5bにXモードの共振周波数の電気信号を入力することでXモードを励振し、ビーム3a〜3dに形成した検出電極6a〜6dに生じる電荷を検出することで、YモードおよびZモードの振動が検出できる。
【0035】
この各電極の配置は、それぞれの振動モードにおけるビームの表面に発生する電荷の分布を解析して決定した。図2は電荷の分布を示す模式図である。図2(a)はXモードでの電荷の分布を示す模式図、図2(b)はYモードでの電荷の分布を示す模式図、図2(c)はZモードでの電荷の分布を示す模式図である。図2において、「+」と「−」は、発生電荷の極性を示し、楕円は、その範囲を示している。この電荷分布は、選択した材料によって異なり、さらに異方性材料であれば、結晶の方位によっても様々な分布を示す。
【0036】
図4は、本実施の形態における結晶方位を示す図である。図4に示すように、本実施の形態に使用したニオブ酸リチウムからなる圧電単結晶板は、厚さ0.25mmにXカットされた素板から、圧電単結晶のZ’軸と振動子のZ軸とが成す角度が50度になるように切り出されたもので、各モードにおける表面に発生する電荷の分布は図2に示した様になる。この電荷分布を考慮して、図3に示すように、ビーム3eおよび3fの表面にXモードの振動を励振させるための駆動電極5a、5bと、基準電位電極7a、7bとをそれぞれ配置した。
【0037】
同様に、ビーム3a〜3dの表面に、YモードおよびZモードの振動検出用の検出電極6a〜6dと基準電位電極7c〜7hを配置した。検出電極6a、6b、6c、6dには、YモードおよびZモードの電荷が発生するが、それぞれ発生する電荷の極性が異なるため、加算や差動回路によって、Yモードによる発生電荷とZモードによる発生電荷とを区別することが可能である。
【0038】
図5は、本発明の一実施の形態における振動ジャイロの回路を示すブロック図である。駆動手段として、電流検出回路9eと、位相回路10aと、AGC回路11(オートゲインコントロール回路)とを有し、検出手段として、電流検出回路9a、9b、9c、9dと、加算回路14a、14b、14c、14dと、差動回路13a、13bと、位相回路10bと、同期検波回路15a、15bと、フィルタ回路16a、16bとを有し、また各回路の動作基準電位を設定するための基準電位回路12を有する。
【0039】
Xモードの周波数で、駆動電極5aおよび5bを駆動するには、駆動状態を一定に保つためのAGC回路11の出力を駆動電極5aおよび5bに接続し、電流検出回路9eを基準電位電極7aおよび7bに接続する。電流検出回路9eの仮想接地の効果により、基準電位電極7aおよび7bの電位は、基準電位に固定され、駆動電極5aおよび5bと基準電位電極7aおよび7bの間に駆動電圧を印加することが可能となる。
【0040】
駆動電極5aおよび5bに流れる駆動電流は、電流検出回路9eで検出、移相回路10aで位相調整、AGC回路11で振幅調整され、駆動電極5aおよび5bに再び印加される。この閉ループにより、Xモードの共振周波数で自励発振させることができる。同時に、AGC回路11の出力は、移相回路10bを通り、同期検波回路15aおよび15bの参照信号として入力される。Xモードを自励発振させた状態で、Z軸回りの角速度を印加すると、Yモードの振動が発生する。Yモードの振動により、図2(b)に示す電荷が発生する。
【0041】
したがって、検出電極6aおよび6dと検出電極6bおよび6cには、互いに逆位相の電荷が発生する。検出電極6a〜6dには、電流検出回路9a〜9dがそれぞれ接続され、それぞれの信号が電圧に変換される。加算回路14aには、電流検出回路9aと9d、加算回路14bには、電流検出回路9bと9cが接続され、同相成分同士の信号を加え合わせる。加算回路14aと14bは、逆相の信号が出力されるため、差動回路13aで増幅することができ、同期検波回路15a、フィルタ回路16aによって、Z軸回りの角速度に比例した電気信号として取り出すことが可能となる。
【0042】
同様に、Y軸回りの角速度を印加すると、Zモードの振動が発生する。Zモードの振動により、図2(c)のような電荷が発生する。したがって、検出電極6aおよび6cと検出電極6bおよび6dには、互いに逆位相の電荷が発生する。加算回路14cには、電流検出回路9aと9c、加算回路14dには、電流検出回路9bと9dが接続され、同相成分同士の信号を加え合わせる。加算回路14cと14dは、逆相の信号が出力されるため、差動回路13bで増幅することができ、同期検波回路15b、フィルタ回路16bによって、Y軸回りの角速度に比例した電気信号として取り出すことが可能となる。
【0043】
また、Yモードによる発生電荷は、加算回路14c、14dによって、相殺され、Zモードによる発生電荷は、加算回路14a、14bによって、相殺される。したがって、フィルタ回路16aの出力は、Z軸回りのみの角速度に比例した出力、フィルタ回路16bの出力は、Y軸回りのみの回転角速度に比例した出力が得られる。すなわち、本実施の形態による振動ジャイロは、Y軸およびZ軸の2軸の角速度検出が可能な角速度センサとして機能する。
【0044】
前述の通り、駆動モードの振動が少ない、枠体2で支持できるので、駆動モードの振動を阻害することなく、安定な支持特性が得られる。そして、センサ出力が安定化し、出力ドリフトも低減する。また、枠体2の全周を支持できるので、振動子1に衝撃が加わっても、力を分散でき、耐衝撃性の高い構造となる。さらに、振動子1の平面内の直交する2軸の回転角速度の検出が可能となるので、駆動回路や検出回路および外部端子等の共通部分を共有することができる。加えて、枠体2を支持固定することができるため、実装が容易で、生産性も高くなる。
【0045】
製造工程においては、圧電単結晶のウエハ上に複数個の前記振動ジャイロ用素子を同時に形成し、枠体2同士が接合した状態であっても、特性を検査することが容易となる。また振動子を1つずつ切り出すことなく、振動特性の検査、周波数調整、バランス調整を行うこともでき、容易に検査、調整可能で、後工程の歩留まりも改善できる。
【0046】
本実施の形態では、ニオブ酸リチウムの圧電単結晶板を利用しているが、タンタル酸リチウム、水晶、ランガサイト、酸化亜鉛、PZT、圧電薄膜等でも、本発明により、有用な振動ジャイロを構成できる。
【0047】
本実施の形態は、圧電性を利用した振動ジャイロであるが、駆動、検出方法の一部または全部を、電磁誘導の利用や静電力を利用したトランスジューサ、或いは、電極間の容量変化による変位検出によって置換えても良い。
【0048】
前述のごとく、本発明によれば、評価や実装等が容易で生産性が良く、出力ドリフトが小さく、安定した出力が得られ、さらに、外部からの衝撃に対しても堅牢で且つ、2軸の角速度の検出が可能である安価な振動ジャイロを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施の形態での振動ジャイロの振動モードを示す図。図1(a)、図1(b)、図1(c)は未動作時の変形前の状態を示し、それぞれ、斜視図、正面図、平面図であり、図1(d)、図1(e)、図1(f)はXモードを示し、それぞれ、斜視図、正面図、平面図であり、図1(g)、図1(h)、図1(i)はYモードを示し、それぞれ、斜視図、正面図、平面図であり、図1(j)、図1(k)、図1(l)はZモードを示し、それぞれ、斜視図、正面図、平面図。
【図2】電荷の分布を示す模式図。図2(a)はXモードでの電荷の分布を示す模式図、図2(b)はYモードでの電荷の分布を示す模式図、図2(c)はZモードでの電荷の分布を示す模式図。
【図3】本発明の一実施の形態での振動ジャイロ用振動子を示す上面図。
【図4】本発明の一実施の形態での結晶方位を示す図。
【図5】本発明の一実施の形態での振動ジャイロの回路を示すブロック図。
【図6】従来の振動ジャイロ用素子を示す斜視図。
【符号の説明】
【0050】
1,111 振動子
2 枠体
3a〜3h ビーム
4a〜4d 付加質量部
5a、5b 駆動電極
6a〜6d 検出電極
7a〜7h 基準電位電極
9a〜9e 電流検出回路
10a、10b 移相回路
11 AGC回路
12 基準電位回路
13a、13b 差動回路
14a、14b、14c、14d 加算回路
15a、15b 同期検波回路
16a、16b フィルタ回路
111a、111b、111c、111d、112 振動体
113 圧電素子
116 電極
121、122、123、124 切り欠き
N1、N2 ノード軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面内に形成された、4つの付加質量部4a、4b、4c、4dが時計回りに配置され、前記付加質量部と同一平面内に形成された、4つの柱状のビーム3a、3b、3c、3dの一端が、前記付加質量部4a、4b、4c、4dに、それぞれ接続され、
前記ビーム3a、3dの前記付加質量部に接続されない他端同士および前記ビーム3b、3cの前記付加質量部に接続されない他端同士がそれぞれ接続され、
前記付加質量部と同一平面内に形成された、2つの柱状のビーム3e、3fの一端が、それぞれ前記ビーム3a、3dの接続部および前記ビーム3b、3cの接続部に接続され、
前記ビーム3e、3fでの前記ビーム3a、3b、3c、3dには接続されない他端同士を接続した構造を有する振動子を用いる振動ジャイロであって、
2つの同位相の付加質量部4a、4cと2つの同位相の付加質量部4b、4dとが互いに逆位相で振動し且つ付加質量部4a、4b、4c、4dを形成した平面と垂直な面外方向に振動する駆動モードの駆動手段と、
付加質量部4a、4bの重心間の中点および付加質量部4c、4dの重心間の中点を通る第1の軸に平行な軸回りの角速度によって生じるコリオリ力による変位の検出手段と、
付加質量部4a、4dの重心間の中点および付加質量部4b、4cの重心間の中点を通り、前記第1の軸に直交する第2の軸に平行な軸回りの角速度によって生じるコリオリ力による変位の検出手段とを備え、
前記付加質量部4a、4b、4c、4dおよび前記ビーム3a、3b、3c、3d、3e、3fの配置がその配置面内で前記第2の軸に関して略対称な構造を有し且つ前記第1の軸に関して非対称な構造を有し、
前記第1の軸と平行な軸回りの角速度の検出には、2つの同位相のビーム3a、3cと、2つの同位相のビーム3b、3dとが互いに逆位相で振動し且つ前記第2の軸方向に屈曲振動する第1の検出モードを用い、
前記第2の軸と平行な軸回りの角速度の検出には、2つの同位相のビーム3a、3dと、2つの同位相のビーム3b、3cとが互いに逆位相で振動し且つ前記第2の軸方向に屈曲振動する第2の検出モードを用いたことを特徴とする振動ジャイロ。
【請求項2】
請求項1記載の振動ジャイロにおいて、
前記付加質量部と同一平面内に形成された2つの柱状のビーム3g、3hの一端が、いずれも前記ビーム3eとビーム3fの接続部に接続され、且つ前記付加質量部を形成した平面と垂直で前記第2の軸を通る平面に関して略対称に配置され、
前記振動子の外周部には前記付加質量部と略同一平面内に枠体が形成され、前記ビーム3g、3hの他端は前記枠体に接続され、前記枠体を介して、前記振動子が支持されたことを特徴とする振動ジャイロ。
【請求項3】
請求項1または2記載の振動ジャイロにおいて、
前記振動子が圧電単結晶板で一体的に形成されてなることを特徴とする振動ジャイロ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−145325(P2008−145325A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−334341(P2006−334341)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】