説明

振動制御装置及び搬送装置

【課題】所望の位置へリンクを素早く、かつ、精度良く移動させるとともに、リンクが高速駆動している場合に消費電力を低減させることが可能な振動制御装置及び搬送装置を提供する。
【解決手段】基体10に対して移動可能な移動部20と、移動部20を駆動するアクチュエーター11と、回転角を検出する角度センサー30と、慣性力を検出する慣性センサー12と、制御信号を伝送する演算部13と、角度センサー30の検出信号を伝送する伝送部14と、命令信号を伝送する命令部15と、移動部20の駆動速度を判定する判定部16と、を有し、演算部13は、角度センサー30の検出信号の低周波数成分と慣性センサー12の検出信号の高周波数成分とに基づいて制御信号を生成し、判定部16は、移動部20の駆動速度が基準となる駆動速度よりも大きいと判定したときに、角度センサー30と伝送部14とのうち少なくとも一方を停止させる停止信号を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動制御装置及び搬送装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、可動リンク構造を有する装置(ICハンドラー等のロボットやプリンター等の搬送装置)においては、可動リンクを素早く、かつ、精度良く所定の位置に移動させることが可能な技術が求められている。一般に、可動リンク構造を有する装置においては、モーター等のアクチュエーターとエンコーダーと呼ばれる分解能の高い角度センサーとを用いることで位置精度が高められている。また、角度センサーによって検出された各リンクの回転角を基にモーターのトルクを制御することで、素早く安定したリンクの移動を実現している。
【0003】
しかしながら、リンクの動きによって生じる不要な振動が問題となっている。特に、リンクを停止させた後に残る残留振動は、角度センサーだけでは検出、制御ができないため、振動がおさまるまで十分な時間を経過させないと次の作業を行うことができない。
【0004】
このような問題点を解決するための技術が検討されており、例えば、特許文献1では、リンクの角速度の積分値のうちカットオフ周波数以上の高周波数成分と、モーターの回転角とトルク伝達機構の減速比との積のうちカットオフ周波数以下の低周波数成分とを合成して制御に用いることで、所望の位置へリンクを素早く、かつ、精度良く移動させることを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−242794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、高精度の角度センサーを常時動作させているため、電力を無駄に消費してしまう場合がある。例えば、リンクの角速度の積分値における高周波数成分と、モーターの回転角と減速比との積における低周波数成分とを合成して制御に用いる方式では、角度センサーの検出信号(モーターの回転角)の高周波数成分(微小変動成分)は用いられていない。カットオフされた角度センサーの検出信号の微小変動成分は、慣性センサーの検出信号(リンクの角速度の積分値における高周波数成分)によって補われることになる。つまり、デジタル化された角度センサーからの信号の高周波数成分は不要であり、そのために消費された電力は無駄となる。
【0007】
ところで、角度センサーからの信号の高周波数成分は常に不要というわけではない。リンクが高速駆動している場合には、角度センサーの検出信号の高周波数成分は慣性センサーの検出信号によって補うことができるが、リンクが停止あるいは低速駆動している場合には、角度センサーの検出信号の低周波数成分が多くなり高周波数成分が有効なものとなる。したがって、リンクの駆動速度に応じて角度センサーの高周波数成分の取り扱いを変える必要がある。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、所望の位置へリンクを素早く、かつ、精度良く移動させるとともに、リンクが高速駆動している場合に消費電力を低減させることが可能な振動制御装置及び搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の振動制御装置は、基体に対して回転運動可能な移動部と、前記移動部を駆動するアクチュエーターと、前記アクチュエーターの回転角を検出する角度センサーと、前記基体に対する前記移動部の慣性力を検出する慣性センサーと、前記アクチュエーターに制御信号を伝送する演算部と、前記演算部に前記角度センサーの検出信号を伝送する伝送部と、前記演算部に命令信号を伝送する命令部と、前記移動部の駆動速度が基準となる駆動速度よりも大きいか小さいかを判定する判定部と、を有し、前記演算部は、前記角度センサーの検出信号のうちカットオフ周波数以下の低周波数成分と、前記慣性センサーの検出信号のうち前記カットオフ周波数以上の高周波数成分と、に基づいて前記制御信号を生成し、前記判定部は、前記移動部の駆動速度が前記基準となる駆動速度よりも大きいと判定したときに、前記角度センサーと前記伝送部とのうち少なくとも一方を停止させる停止信号を生成することを特徴とする。
【0010】
本発明の振動制御装置によれば、角度センサーの検出信号のうちカットオフ周波数以下の低周波数成分と、慣性センサーの検出信号のうちカットオフ周波数以上の高周波数成分と、に基づいて制御信号が生成されるので、慣性センサーのバイアスドリフトの影響を除去することができる。このため、所望の位置へリンク(移動部)を素早く、かつ、精度良く移動させることができる。また、判定部がリンクの駆動速度が基準となる駆動速度よりも大きいと判定したときに、角度センサーと伝送部とのうち少なくとも一方を停止させる停止信号が生成されるので、リンクが高速駆動している場合に消費電力を低減させることが可能となる。したがって、所望の位置へリンクを素早く、かつ、精度良く移動させるとともに、リンクが高速駆動している場合に消費電力を低減させることが可能な振動制御装置が提供できる。
【0011】
また、この振動制御装置においては、前記角度センサーは、第1の分解能を有する第1の角度検出部と、前記第1の分解能よりも分解能が高い第2の分解能を有する第2の角度検出部と、を有し、前記判定部は、前記角度センサーのうち前記第2の角度検出部のみを停止させる第1の停止信号を生成してもよい。
【0012】
この構成によれば、角度センサーが相対的に分解能の低い第1の角度検出部と相対的に分解能の高い第2の角度検出部を有し、判定部がリンクの駆動速度が基準となる駆動速度よりも大きいと判定したときに、2つの角度検出部のうち相対的に分解能の高い第2の角度検出部が停止される。このため、それほど精度の高い角度センサーの検出信号が必要ではない場合には、相対的に分解能の高い第2の角度検出部が停止されることで、2つの角度検出部が常時動作されるよりも消費電力を低減させることが可能となる。
【0013】
また、この振動制御装置においては、前記判定部は、前記角度センサーの検出信号のうちの前記高周波数成分に対応する前記伝送部における下位ビットの伝送信号を停止させる第2の停止信号を生成してもよい。
【0014】
この構成によれば、判定部がリンクの駆動速度が基準となる駆動速度よりも大きいと判定したときに、角度センサーの検出信号のうちの高周波数成分に対応する伝送部における下位ビットの伝送信号が停止される。このため、下位ビットの伝送信号が停止された分だけ消費電力を低減させることが可能となる。
【0015】
また、この振動制御装置においては、前記判定部は、前記第1の停止信号と前記第2の停止信号とを同時に生成してもよい。
【0016】
この構成によれば、判定部がリンクの駆動速度が基準となる駆動速度よりも大きいと判定したときに、2つの角度検出部のうち相対的に分解能の高い第2の角度検出部が停止される第1の停止信号と、角度センサーの検出信号のうちの高周波数成分に対応する伝送部における下位ビットの伝送信号が停止される第2の停止信号と、が同時に生成される。このため、消費電力を格段に低減させることが可能となる。
【0017】
また、この振動制御装置においては、前記基準となる駆動速度が前記命令部からの前記命令信号に基づいて設定されてもよい。
【0018】
この構成によれば、基準となる駆動速度が命令部からの命令信号(予め入力された実験データにより得られたリンク20の駆動速度の情報から算出された信号)に基づくのでリンクの駆動速度を予測することができる。例えば、リンクの駆動速度が基準となる駆動速度とよりも大きいときは、命令信号に基づいて、角度センサー(それほど精度の高い角度センサーの検出信号が必要ではない場合は第2の角度検出部)と伝送部のうち少なくとも一方を停止させることで消費電力を低減させることが可能となる。
【0019】
また、この振動制御装置においては、前記基準となる駆動速度が前記慣性センサーの検出信号に基づいて設定されてもよい。
【0020】
この構成によれば、リンクの駆動速度が基準となる駆動速度よりも大きいときは、慣性センサーの検出信号が大きくなるので、その値をもって角度センサー(それほど精度の高い角度センサーの検出信号が必要ではない場合は第2の角度検出部)と伝送部のうち少なくとも一方が停止される。したがって、消費電力を低減させることが可能となる。
【0021】
また、この振動制御装置においては、前記基準となる駆動速度が前記角度センサーの検出信号に基づいて設定されてもよい。
【0022】
この構成によれば、リンクの駆動速度が基準となる駆動速度よりも大きいときは、角度センサーの検出信号の微分値が大きくなるので、その値をもって角度センサー(それほど精度の高い角度センサーの検出信号が必要ではない場合は第2の角度検出部)と伝送部のうち少なくとも一方が停止される。したがって、消費電力を低減させることが可能となる。
【0023】
本発明の搬送装置は、前述した本発明の振動制御装置を備えていることを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、上述した振動制御装置を備えているため、所望の位置へリンクを素早く、かつ、精度良く移動させるとともに、リンクが高速駆動している場合に消費電力を低減させることが可能な提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る振動制御装置を模式的に示す図である。
【図2】演算部の演算方法を説明するブロック図である。
【図3】第1の角度検出部と第2の角度検出部を有する角度センサーを示す図である。
【図4】伝送信号の停止部分を説明する図である。
【図5】伝送部の模式回路図である。
【図6】命令部の命令信号を説明するブロック図である。
【図7】慣性センサーまたは角度センサーの検出信号を説明するブロック図である。
【図8】搬送装置としてのXYステージ装置を示す図である。
【図9】搬送装置としてのレーザープリンターを示す図である。
【図10】搬送装置としてのインクジェットプリンターを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。かかる実施の形態は、本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等が異なっている。
【0027】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態における振動制御装置1の概略構成図である。図1に示すように、振動制御装置1は、基体10と、リンク(移動部)20と、サーボモーター等のアクチュエーター11と、エンコーダー等の角度センサー30と、慣性センサー12と、演算部13と、伝送部14と、命令部15と、判定部16と、を有して構成されている。
【0028】
基体10の上部には角度センサー30及びアクチュエーター11を介してリンク20が取り付けられている。リンク20は、基体10対して回転運動可能になっている。リンク20は、リンク本体21と、リンク本体21の先端に設けられ鉛直方向に移動可能なスライド軸22と、スライド軸22の端部に設けられたハンド23と、を有している。
【0029】
アクチュエーター11は基体10の頂部に設けられ、その側部にはリンク20が取り付けられている。アクチュエーター11は、リンク20を駆動するものである。
【0030】
角度センサー30は、アクチュエーター11の下部に設けられている。角度センサー30は、アクチュエーター11の回転角を検出する機能を有する。
【0031】
慣性センサー12は、ハンド23に近いスライド軸22に取り付けられている。慣性センサー12としては、例えばレートジャイロ等の角速度センサーが用いられる。慣性センサー12は、基体10に対するリンク20の慣性力(角速度)を検出する機能を有する。なお、基体10に対するリンク20の角速度は、リンク20の回転面内の角速度成分である。
【0032】
演算部13は、アクチュエーター11と、慣性センサー12と、伝送部14と、命令部15と、に電気的に接続されている。演算部13は、アクチュエーター11に制御信号を伝送する機能を有する。また、演算部13には命令部15により命令信号が伝送される。
【0033】
図2は、演算部13の演算方法を説明するブロック図である。先ず、角度センサー30によってアクチュエーター11の回転角が検出される。次に、伝送部14によって角度センサー30で検出されたアクチュエーター11の回転角(角度センサー30の検出信号)が演算部13に伝送される。次に、角度センサー30の検出信号がローパスフィルタLPFに通過される。これにより、角度センサー30の検出信号のうちカットオフ周波数以下の低周波数成分が得られる。
【0034】
一方、慣性センサー12によって基体10に対するリンク20の角速度が検出される。次に、慣性センサー12で検出されたリンク20の角速度(慣性センサー12の検出信号)が演算部13に伝送される。次に、演算部13によってリンク20の角速度が積分される。次に、この積分結果がハイパスフィルタHPFに通過される。これにより、リンク20の角度のうちカットオフ周波数以上の高周波数成分が得られる。ここで、リンク20の角度のうち低周波数成分を除去する理由は、リンク20の角速度の積分ではバイアスドリフトの影響によりリンク20の角度を正確に求めることができないので、このバイアスドリフトの影響を除去するためである。
【0035】
このように、ローパスフィルタLPF及びハイパスフィルタHPFを用いることによって、角度センサー30の検出信号の低周波数成分と、慣性センサー12の検出信号の積分結果の高周波数成分と、を加算することができる。この演算によって、基体10に対するリンク20の角度が算出され、制御信号が生成される。そして、演算部13によって、アクチュエーター11に制御信号が伝送される。
【0036】
判定部16は、角度センサー30と、伝送部14と、に電気的に接続されている。判定部16は、リンク20の駆動速度が基準となる駆動速度よりも大きいか小さいかを判定する。なお、判定部16の判定基準(基準となる駆動速度)については後述する。
【0037】
また、判定部16は、リンク20の駆動速度が基準となる駆動速度よりも大きいと判定したときに、角度センサー30と伝送部14とのうち少なくとも一方を停止させる停止信号を生成する。これにより、リンクが高速駆動している場合に電力を無駄に消費することがなくなり、消費電力を低減させることが可能となる。
【0038】
図3は、第1の角度検出部31と第2の角度検出部32を有する角度センサー30を示す図である。図3において、符号41はLED、符号42はコリメートレンズ、符号43はフォトセンサー(PDアレイ)、符号44は磁気センサー(MRセンサー)、符号45は磁石である。
【0039】
図3に示すように、LED41から射出された光は、コリメートレンズ42、角度センサー30を介してフォトセンサー43に入射する。このとき、角度センサー30はモーター(図示略)によって回転する。
【0040】
角度センサー30は第1の分解能を有する第1の角度検出部31と、第1の分解能よりも分解能が高い第2の分解能を有する第2の角度検出部32と、を有している。第1の角度検出部31としては、例えばABSパターンを有するもの(例えば11001111001パターン)を用いることができる。第2の角度検出部32としては、例えばINCパターンを有するもの(例えば1010101010パターン)を用いることができる。
【0041】
第1の角度検出部31のABS検出は第2の角度検出部32のINC検出に比べて分解能が高くないので、それほど精度の高い角度センサー30の検出信号(アクチュエーター11の回転角)が必要ではない場合に有効である。
【0042】
本実施形態では、判定部16は、リンク20の駆動速度が基準となる速度よりも大きいと判定したときに、角度センサー30のうち第2の角度検出部32のみを停止させる第1の停止信号を生成する。つまり、それほど精度の高い角度センサー30の検出信号が必要ではない場合には、相対的に分解能の高い第2の角度検出部32を停止させることができる。これにより、2つの角度検出部31,32が常時動作されるよりも消費電力を低減させることが可能となる。
【0043】
図4は、伝送信号の停止部分を説明する図である。図4(a)は通常時の伝送信号、図(b)はビット数低減時の状態を示している。図5は、伝送部14の模式回路図である。
【0044】
図4(a)に示すように、伝送信号はヘッダーとデータ本体とパリティーとからなっている。伝送信号(ヘッダー、データ本体、パリティー)に対応するイネーブルはON状態になっている。また、伝送信号(ヘッダー、データ本体、パリティー)に対応しないイネーブルはOFF状態になっている。
【0045】
ところで、ロボット用エンコーダーの検出信号(角度センサー30の検出信号)を伝送する際には、数mの長さの伝送路(ケーブル)を用いて伝送するためRS−485規格を使うことが多い。一般に、伝送損失や外部ノイズに備えるため数ボルト以上の差動電圧が伝送されている。例えば5Vで50Ω終端の差動伝送の場合、この伝送路だけで0.5ワットの電力を消費する。また、6軸ロボットの場合、各軸アクチュエーターの回転角を検出する角度センサー30の検出信号を伝送するに当たっては3ワットの電力を消費する。
【0046】
そこで、本実施形態では、判定部16は、リンク20の駆動速度が基準となる速度よりも大きいと判定したときに、角度センサー30の検出信号のうちの高周波数成分に対応する伝送部14における下位ビットの伝送信号を停止させる第2の停止信号を生成する。つまり、角度センサー30の検出信号のうちデータ本体の一部(下位ビット)のビット数を減らす。さらに、角度センサー30の検出信号を伝送していないときには差動バッファをハイインピーダンス状態(図5に示す回路図の中で大きな抵抗値を示す部分)にする。これにより、下位ビットのビット数を減らした分だけ終端抵抗における消費電力を低減させることができる。
【0047】
図6は、命令部15の命令信号を説明するブロック図である。図6に示すように、本実施形態では、判定部16の判定基準(基準となる駆動速度)が命令部15からの命令信号に基づいて設定される。
【0048】
例えば、命令部15には、予め実験データにより得られたリンク20の駆動速度の情報が蓄積されており、これらの情報に基づいて判定部16に命令信号が伝送される。判定部16は命令部15からの命令信号とリンク20の駆動速度とに基づいて、リンク20の駆動速度が基準となる駆動速度よりも大きいか小さいかを判定する。そして、判定部16は、リンク20の駆動速度が基準となる駆動速度よりも大きいと判定したときに、角度センサー30と伝送部14とのうち少なくとも一方を停止させる停止信号を生成する。この停止信号は、判定部16から出力され、角度センサー30と伝送部14とのうち少なくとも一方に伝送される。これにより、角度センサー30(それほど精度の高い角度センサー30の検出信号が必要ではない場合は第2の角度検出部32)と伝送部のうち少なくとも一方を停止させることで消費電力を低減させることが可能となる。
【0049】
本発明の振動制御装置1によれば、角度センサー30の検出信号のうちカットオフ周波数以下の低周波数成分と、慣性センサー12の検出信号のうちカットオフ周波数以上の高周波数成分と、に基づいて制御信号が生成されるので、慣性センサー12のバイアスドリフトの影響を除去することができる。このため、所望の位置へリンク20を素早く、かつ、精度良く移動させることができる。また、判定部16がリンク20の駆動速度が基準となる駆動速度よりも大きいと判定したときに、角度センサー30と伝送部14とのうち少なくとも一方を停止させる停止信号が生成されるので、リンク20が高速駆動している場合に消費電力を低減させることが可能となる。したがって、所望の位置へリンク20を素早く、かつ、精度良く移動させるとともに、リンク20が高速駆動している場合に消費電力を低減させることが可能な振動制御装置1が提供できる。
【0050】
また、この構成によれば、角度センサー30が相対的に分解能の低い第1の角度検出部31と相対的に分解能の高い第2の角度検出部32を有し、判定部16がリンク20の駆動速度が基準となる駆動速度よりも大きいと判定したときに、2つの角度検出部31,32のうち相対的に分解能の高い第2の角度検出部32が停止される。このため、それほど精度の高い角度センサーの検出信号が必要ではない場合には、相対的に分解能の高い第2の角度検出部32が停止されることで、2つの角度検出部31,32が常時動作されるよりも消費電力を低減させることが可能となる。
【0051】
また、この構成によれば、判定部16がリンク20の駆動速度が基準となる駆動速度よりも大きいと判定したときに、角度センサー30の検出信号のうちの高周波数成分に対応する伝送部における下位ビットの伝送信号が停止される。このため、下位ビットの伝送信号が停止された分だけ消費電力を低減させることが可能となる。
【0052】
また、この構成によれば、基準となる駆動速度が命令部15からの命令信号(予め入力された実験データにより得られたリンク20の駆動速度の情報から算出された信号)に基づくのでリンク20の駆動速度を予測することができる。例えば、リンク20の駆動速度が基準となる駆動速度とよりも大きいときは、命令信号に基づいて、角度センサー30(それほど精度の高い角度センサーの検出信号が必要ではない場合は第2の角度検出部32)と伝送部14のうち少なくとも一方を停止させることで消費電力を低減させることが可能となる。
【0053】
なお、本実施形態において、判定部16が第1の停止信号と第2の停止信号とを同時に生成してもよい。この構成によれば、判定部16がリンク20の駆動速度が基準となる駆動速度よりも大きいと判定したときに、2つの角度検出部31,32のうち相対的に分解能の高い第2の角度検出部32が停止される第1の停止信号と、角度センサー30の検出信号のうちの高周波数成分に対応する伝送部14における下位ビットの伝送信号が停止される第2の停止信号と、が同時に生成される。このため、消費電力を格段に低減させることが可能となる。
【0054】
また、判定部16が角度センサー30と伝送部14とのうち少なくとも一方を停止させる停止信号を生成しているが、これに限らない。例えば、命令部15が角度センサー30と伝送部14とのうち少なくとも一方を停止させる停止信号を生成する機能を有していてもよい。すなわち、判定部16とは別個に角度センサー30と伝送部14とのうち少なくとも一方を停止させる停止信号を生成する機能を有する装置が設けられていてもよい。
【0055】
(第2実施形態)
図7は、本発明の第2実施形態に係る慣性センサー12または角度センサー30の検出信号を説明するブロック図である。図7は、図6に対応した、第2実施形態に係る判定部16の停止信号生成工程を示した図である。図7に示すように、本実施形態の停止信号生成工程は慣性センサー12(角度センサー30)の検出信号に基づいて基準となる駆動速度が設定される点で、上述の第1実施形態で説明した停止信号生成工程と異なっている。その他の点は第1実施形態と同様であるので、図6と同様の要素には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0056】
図7に示すように、本実施形態では、判定部16の判定基準(基準となる駆動速度)が慣性センサー12の出力信号に基づいて設定される。例えば、判定部16には予め判定基準となるしきい値が入力されており、このしきい値に基づいて基準となる駆動速度が決定される。判定部16において、慣性センサー12の検出信号としきい値とが比較される。リンク20の駆動速度が基準となる駆動速度よりも大きいときは、慣性センサー12の出力信号(リンク20の角速度)が大きくなるので、その値をもって角度センサー30(それほど精度の高い角度センサーの検出信号が必要ではない場合は第2の角度検出部32)と伝送部14のうち少なくとも一方が停止される。したがって、消費電力を低減させることが可能となる。
【0057】
なお、判定部16の判定基準(基準となる駆動速度)が角度センサー30の出力信号に基づいて設定されても、同様な効果が得られる。また、角度センサー30と伝送部14とのうち少なくとも一方を停止させるときには角度センサー30を用い、稼動させるときには慣性センサー12を用いる組み合わせにより設定されてもよい。
【0058】
(搬送装置)
図8は、本発明の振動制御装置を用いた搬送装置の一例であるXYステージ装置(液滴吐出装置)を示す図である。図8に示すように、液滴吐出装置100は、液滴吐出ヘッド101と、駆動軸104と、ガイド軸105と、ステージ107と、クリーニング機構108と、基台109、ヒーター106と、上述した本発明の駆動制御装置を用いたコントローラーCTと、を備えている。なお、コントローラーCTにおける慣性センサーとしては、例えば加速度センサーが用いられる。コントローラーCTにおける慣性センサーは、液滴吐出ヘッド101のY軸方向の慣性力(加速度)、ステージ107あるいはクリーニング機構108のX軸方向の慣性力(加速度)、を検出する機能を有する。
【0059】
液滴吐出ヘッド101のノズル開口部からは、ステージ107に支持されている基板100Pに対して機能液が吐出される。駆動軸104には駆動モーター102が接続されている。駆動モーター102は例えばステッピングモーターであり、コントローラーCTからY軸方向の駆動信号が供給されると、駆動軸104を回転させる。駆動軸104が回転すると、液滴吐出ヘッド101はY軸方向に移動する。ガイド軸105は、基台109に対して動かないように固定されている。ステージ107は、駆動モーター103を備えている。駆動モーター103は例えばステッピングモーターであり、コントローラーCTからX軸方向の駆動信号が供給されると、ステージ107をX軸方向に移動させる。
【0060】
コントローラーCTは、液滴吐出ヘッド101に液滴の吐出用制御用の電圧を供給する。また、コントローラーCTは、駆動モーター102に対して液滴吐出ヘッド101のY軸方向への移動を制御するパルス信号を供給するとともに、駆動モーター103に対してステージ107のX軸方向への移動を制御する駆動パルス信号を供給する。
【0061】
クリーニング機構108は、液滴吐出ヘッド101をクリーニングするものであって、駆動モーター(図示略)を備えている。この駆動モーターの制御により、クリーニング機構108はガイド軸105に沿ってX軸方向に移動する。クリーニング機構108の移動についてもコントローラーCTによって制御される。ヒーター106は例えばランプアニールにより基板100Pを熱処理する手段であり、基板100P上に塗布された機能液に含まれる溶媒の蒸発及び乾燥を行う。このヒーター106の電源の投入及び遮断についてもコントローラーCTによって制御される。
【0062】
そして、液滴吐出装置100は、液滴吐出ヘッド101と基板100Pを支持するステージ107とを相対的に走査しつつ基板100Pに対して液滴を吐出する。この構成によれば、上述した振動制御装置(コントローラーCT)を備えているため、所望の位置へ液滴吐出ヘッド101(ステージ107)を素早く、かつ、精度良く移動させるとともに、液滴吐出ヘッド101(ステージ107)が高速駆動している場合に消費電力を低減させることが可能な液滴吐出装置100が提供できる。
【0063】
図9は、本発明の振動制御装置を用いた搬送装置の一例である印刷装置(レーザープリンター)を示す図である。図9に示すように、レーザープリンター200は、モーター220と、動力伝達機構221と、感光ドラム222と、帯電装置225と、潜像形成手段226と、現像装置227と、転写装置229と、定着装置230と、上述した本発明の駆動制御装置を用いたコントローラー240と、を備えている。
【0064】
モーター220は、動力伝達機構221を介して感光ドラム222に連結されている。モーター220は、コントローラー240からの制御信号により感光ドラム222を矢印D方向に回転させる。感光ドラム222の周辺には帯電装置225が配置されている。帯電装置225により、感光ドラム222の表面が所定の極性に帯電される。すると、潜像形成手段226から感光ドラム222の帯電面にレーザー光の走査による画像露光が行われ、感光ドラム222の表面に画像データの階調情報に基づく静電潜像が形成される。このようにして形成された静電潜像は、現像装置227から搬送されたトナー228が感光ドラム222の表面に付着して画像として顕在化する。そして、転写装置229により感光ドラム222上の画像が記録紙200Pに転写される。記録紙200Pに転写された画像は定着装置230によって定着される。
【0065】
この構成によれば、上述した振動制御装置(コントローラー240)を備えているため、感光ドラム222を素早く、かつ、精度良く回転させるとともに、感光ドラム222が高速駆動している場合に消費電力を低減させることが可能なレーザープリンター200が提供できる。
【0066】
図10は、本発明の振動制御装置を用いた搬送装置の一例である印刷装置(インクジェットプリンター)を示す図である。図10に示すように、インクジェットプリンター300は、筐体340と、ガイドレール341と、動力伝達機構342と、キャリッジ343と、上述した本発明の駆動制御装置を用いたコントローラー350と、を備えている。なお、コントローラー350における慣性センサーとしては、例えば加速度センサーが用いられる。コントローラー350における慣性センサーは、キャリッジ343の矢印E方向の慣性力(加速度)を検出する機能を有する。
【0067】
インクジェットプリンター300は、モーター(図示略)に連結された動力伝達機構342により、コントローラー350からの制御信号に基づいて、ガイドレール341に懸架されたキャリッジ343が矢印E方向に移動可能に構成されている。キャリッジ343にはインクジェットヘッドが備えられており、コントローラー350からの制御信号に基づいて、インクジェットヘッドを矢印E方向に移動させながら液滴が記録紙300Pに吐出される。そして、記録紙300Pが矢印F方向に順次搬送されることで画像が記録紙300Pに印刷される。
【0068】
この構成によれば、上述した振動制御装置(コントローラー350)を備えているため、キャリッジ343を素早く、かつ、精度良く移動させるとともに、キャリッジ343が高速駆動している場合に消費電力を低減させることが可能なインクジェットプリンター300が提供できる。
【符号の説明】
【0069】
1…振動制御装置、10…基体、11…アクチュエーター、12…慣性センサー、13…演算部、14…伝送部、15…命令部、16…判定部、20……リンク(移動部)、30…角度センサー、31…第1の角度検出部、32…第2の角度検出部、100…液滴吐出装置(搬送装置)、200…レーザープリンター(搬送装置)、300…インクジェットプリンター(搬送装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体に対して移動可能な移動部と、
前記移動部を駆動するアクチュエーターと、
前記アクチュエーターの回転角を検出する角度センサーと、
前記基体に対する前記移動部の慣性力を検出する慣性センサーと、
前記アクチュエーターに制御信号を伝送する演算部と、
前記演算部に前記角度センサーの検出信号を伝送する伝送部と、
前記演算部に命令信号を伝送する命令部と、
前記移動部の駆動速度が基準となる駆動速度よりも大きいか小さいかを判定する判定部と、を有し、
前記演算部は、前記角度センサーの検出信号のうちカットオフ周波数以下の低周波数成分と、前記慣性センサーの検出信号のうち前記カットオフ周波数以上の高周波数成分と、に基づいて前記制御信号を生成し、
前記判定部は、前記移動部の駆動速度が前記基準となる駆動速度よりも大きいと判定したときに、前記角度センサーと前記伝送部とのうち少なくとも一方を停止させる停止信号を生成することを特徴とする振動制御装置。
【請求項2】
前記角度センサーは、第1の分解能を有する第1の角度検出部と、前記第1の分解能よりも分解能が高い第2の分解能を有する第2の角度検出部と、を有し、
前記判定部は、前記角度センサーのうち前記第2の角度検出部のみを停止させる第1の停止信号を生成することを特徴とする請求項1に記載の振動制御装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記角度センサーの検出信号のうちの前記高周波数成分に対応する前記伝送部における下位ビットの伝送信号を停止させる第2の停止信号を生成することを請求項1または2に記載の振動制御装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記第1の停止信号と前記第2の停止信号とを同時に生成することを特徴とする請求項3に記載の振動制御装置。
【請求項5】
前記基準となる駆動速度が前記命令部からの前記命令信号に基づいて設定されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の振動制御装置。
【請求項6】
前記基準となる駆動速度が前記慣性センサーの検出信号に基づいて設定されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の振動制御装置。
【請求項7】
前記基準となる駆動速度が前記角度センサーの検出信号に基づいて設定されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の振動制御装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の振動制御装置を備えていることを特徴とする搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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