説明

振動減衰用具

【課題】低い周波数から高い周波数にわたり、振動の伝播を減衰させることができる振動減衰用具を提供すること。
【解決手段】振動減衰用具1は、変形可能な生地により形成された袋体10内に、少なくとも硬質の粒状体を含む減衰材20を、袋体10がふくらむよう充填して構成されている。袋体10は、第1の生地11aと第2の生地11bとを周囲で縫い合わせて形成された外袋11と、この外袋11にカバーされた状体で減衰材20が充填された内袋12とから構成されている。外袋を構成する第1の生地11aと第2の生地11bは、デニム生地、ジャジー生地のような厚手で伸縮性の低い繊維により形成されている。一方、内袋12は、ストッキングの素材のような薄手で伸縮性の高い繊維により形成されている。減衰材20としては、硬質の粒状体として砂が用いられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばスピーカ、アンプ、CDプレーヤー等の音響機器、あるいは、冷蔵庫、洗濯機等の家電機器と、床面等のベース面との間に配置することにより、機器の振動を減衰させる振動減衰用具に関する。
【背景技術】
【0002】
音響機器により音楽等を再生して鑑賞する場合、再生した音により音響機器に発生する振動が再生音質に悪影響を与える場合がある。このため、従来から、音響機器の下面には、ゴム足や真鍮製の逆円錐状のスパイクが取り付けられており、機器自体から発生した振動を早期に減衰させ、あるいは、床面等のベース面からの振動の伝播が少なくなるようにしている。
【0003】
特許文献1には、音響機器の音響特性を改善するための音響機器用下敷が開示されている。この下敷は、発泡セラミックや発泡金属等の多孔構造体を、音響機器の下に設けられる薄板に形成したことを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】 特開2009−105631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ゴム足等の弾力性を持つダンパーは、高い周波数成分を遮断するのには有効であるが、低い周波数については、ダンパー内部に引き起こされた振動が素早く減衰しない。
【0006】
一方、真鍮製のスパイクや特許文献1に開示される下敷のような剛性を持つ構造体は、内部振動は生じないものの、低い周波数の振動は殆ど減衰させることができず、機器からベース面に伝播する高い周波数の振動を減衰させる効果を持つに過ぎない。
【0007】
本発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、低い周波数から高い周波数にわたり、振動を素早く減衰させることができる振動減衰用具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成させるため、本発明に係る振動減衰用具は、変形可能な生地により形成された袋体内に、少なくとも硬質の粒状体を含む減衰材を、袋体がふくらむよう充填して構成したことを特徴とする。
【0009】
硬質の粒状体としては、砂を用いることができる。また、減衰材は、硬質の粒状体と、軟質の粒状体とを混合して構成されてもよい。さらに、生地は、伸縮性のある繊維であることが望ましい。
【0010】
袋体は、薄手で伸縮性の高い内袋と、厚手で伸縮性の低い外袋とから構成することができる。この場合、減衰材を内袋が自然状態より膨張するよう内袋に充填し、この内袋の外側を外袋でカバーすることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低い周波数から高い周波数にわたり、対象機器の振動を素早く減衰させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態にかかる振動減衰用具の断面図である。
【図2】振動減衰用具の特性を測定するための実験環境を示す平面図である。
【図3】実験に用いられた実施形態に係る振動減衰用具の具体的なサイズを示し、(A)は側面図、(B)は平面図である。
【図4】図3に示す実施形態に係る振動減衰用具を図2の実験環境に適用し、測定対象の外側で衝撃を与えた場合に測定対象に発生する振動を示すグラフである。
【図5】図3に示す実施形態に係る振動減衰用具を図2の実験環境に適用し、測定対象上に衝撃を与えた場合に測定対象に発生する振動を示すグラフである。
【図6】比較例1として実験に用いられた真鍮製スパイクの具体的なサイズを示し、(A)は側面図、(B)は平面図である。
【図7】図6に示す真鍮製スパイクを図2の実験環境に適用し、測定対象の外側で衝撃を与えた場合に測定対象に発生する振動を示すグラフである。
【図8】図6に示す真鍮製スパイクを図2の実験環境に適用し、測定対象上に衝撃を与えた場合に測定対象に発生する振動を示すグラフである。
【図9】比較例2として実験に用いられたゴム製足の具体的なサイズを示し、(A)は側面図、(B)は平面図である。
【図10】図9に示すゴム製足を図2の実験環境に適用し、測定対象の外側で衝撃を与えた場合に測定対象に発生する振動を示すグラフである。
【図11】図9に示すゴム製足を図2の実験環境に適用し、測定対象上に衝撃を与えた場合に測定対象に発生する振動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施の形態にかかる振動減衰用具の断面図である。
【0014】
実施形態の振動減衰用具1は、図1に示されるように、変形可能な生地により形成された袋体10内に、少なくとも硬質の粒状体を含む減衰材20を、袋体10がふくらむよう充填して構成されている。
【0015】
袋体10は、図中上側に位置する第1の生地11aと、図中下側に位置する第2の生地11bとを周囲で縫い合わせて形成された外袋11と、この外袋11にカバーされた状体で減衰材20が充填された内袋12とから構成されている。
【0016】
外袋を構成する第1の生地11aと第2の生地11bは、デニム生地、ジャジー生地のような厚手で伸縮性の低い繊維により形成されている。一方、内袋12は、ストッキングの素材のような薄手で伸縮性の高い繊維により形成されている。
【0017】
減衰材20としては、この例では硬質の粒状体として砂が用いられている。砂は、湿気や虫の発生を避けるため、水洗いした後に焼成したものを用いる。減衰材20として粒子の細かい砂を用いる場合、内袋12としては、砂の漏れ防止を主目的として、厚さ0.01mm程度のプラスチックフィルム製の袋を用いることも可能である。
【0018】
なお、減衰材20としては、上記のような砂の他、硬質の粒状体として、石英砂、セラミック粉砕物、フェライト粉砕物、ガラス粉砕物、金属粉砕物等が利用できる。また、減衰材20としては、上記のような硬質の粒状材に加えて、ゴム粉砕物、コルク粉砕物、ゲルシート粉砕物等の軟質の粒状体を混合してもよいし、3〜7mm前後のサイズの砂利を混入してもよい。
【0019】
製造時には、減衰材20を内袋12が自然状態より膨張するよう内袋12に充填し、この内袋12の外側を外袋11でカバーする。このとき、減衰材20が袋体10全体を内側から押し広げるような圧力がかかった状態にすることが望ましい。
【0020】
上記のように構成された振動減衰用具1は、防振の対象とする機器、例えばスピーカ、アンプ、CDプレーヤー等の音響機器、あるいは、冷蔵庫、洗濯機等の家電機器と、床面やラック等のベース面との間に配置される。機器の底面が長方形である場合には、その各角近くにそれぞれ1個ずつ、合計で4個配置する。なお、対象機器が足を持つ場合には、足からの振動を振動減衰用具1の広い範囲に分散させるため、機器の足と振動減衰用具1との間に板材を挟むことが望ましい。
【0021】
振動減衰用具1のサイズは、対象機器のサイズに合わせて決定すればよい。例えばオーディオ用のアンプの防振に用いるには、直径100〜150mm程度、厚さ20〜40mm程度が適当である。この場合、板材としては、一辺が40mm、厚さ3mm程度の正方形の木材を用いるのが好ましい。より大型の機器、例えば冷蔵庫や洗濯機に適用する場合には、振動減衰用具1及び板材もより大きなサイズとするのが適当である。
【0022】
対象機器とベース面との間に上記の振動減衰用具1を配置すると、対象機器の重量により、振動減衰用具1に圧力がかかる。この状態で対象機器により発生した振動が振動減衰用具1に伝達されると、この振動が減衰材20を構成する各粒状体に伝わり、粒状体自体がそれぞれ質量を持って微弱振動することにより、振動エネルギーを吸収する。また、粒状体の間に存在する空気層が振動を吸収する。これにより、高周波成分のみではなく、従来は減衰させることが困難であった低周波成分をも減衰させることができ、広い周波数帯域にわたる振動を減衰させることができる。
【0023】
また、振動減衰用具1は可逆性を持つため、対象機器に発生した振動を外部に伝達するのを抑制するのみでなく、外部で発生した振動が対象機器に伝達されるのを防ぐこともできる。
【0024】
減衰材20を構成する粒状体のサイズや材質により、異なる周波数、異なるエネルギーを減衰させることができる。例えば、軟質の粒状体を混入した場合には、比較的サイズの大きい硬質の粒状体の固有振動を抑える効果がある。このため、対象機器が発生する振動の周波数、エネルギーに合わせて、減衰材20の粒状体の配合比、サイズを最適化することができる。
【0025】
また、粒状体としてフェライト等の磁性材を多く混入した振動減衰用具1をモータ部分やスイッチング電源等の電磁波を発生する部品の下に配置すると、振動減衰効果に加え、電磁波減衰効果も持たせることができる。
【0026】
続いて、本発明の振動減衰用具1の効果を実証するために行った実験結果について説明する。ここでは、実施形態の振動減衰用具1を用いた場合の実験結果と、振動減衰用具1に代えて真鍮製スパイク、ゴム製足を用いた2つの比較例の実験結果とを説明する。
【0027】
図2は、振動減衰用具の特性を測定するための実験環境を示す平面図である。厚さ2mm、縦横が195mm×423mmのアルミニウム板30の中心に2kgのウェイト31を載せたものを仮想の対象機器として、アルミニウム板30各角から縦20mm、横60mm内側に支持ポイントP1,P2,P3,P4を設定する。そして、図中一点鎖線で示す横方向の中心線と、支持ポイントP1,P4の各中心を結ぶ線との交点に測定用ピンマイクロホンMを取り付ける。測定用ピンマイクロホンMの出力は、マイク用プリアンプを介して観測用オシロスコープに入力されて波形観測される。
【0028】
実験は、アルミニウム板30を、各支持ポイントに振動減衰用具を配置して木製(合板)の机の上に載置し、机上の外側衝撃点X1、アルミニウム板30上の内側衝撃点X2で衝撃を発生させた場合にアルミニウム板30に生じる振動をそれぞれ測定することにより行われた。
【0029】
外側衝撃点X1は、支持ポイントP1,P4の各中心を結ぶ線上で横方向の中心線から200mm離れた点である。また、内側衝撃点X2は、支持ポイントP2,P3の各中心を結ぶ線と横方向の中心線との交点である。衝撃は、直径38mm、重さ30gのゴムボールを机面からの高さ450mmの位置から各衝撃点X1,X2に落下させることにより発生させた。
【0030】
実験に用いられた実施形態に係る振動減衰用具1は、図3(A)の側面図、及び(B)の平面図に示されるように、直径120mm、高さ30mmである。減衰材20としては、砂が充填されている。
【0031】
実験結果を図4及び図5に示す。図4は、外側衝撃点X1に衝撃を与えた場合、図5は内側衝撃点X2に衝撃を与えた場合にオシロスコープで観測された波形を示すグラフである。各グラフの横軸は時間、縦軸は振幅である。なお、オシロスコープで観測される波形は、マイクロホンMの出力を増幅した電圧値の変化であるが、この電圧値の変化はアルミニウム板30の振動に一致するため、グラフでは単に振幅として示している。
【0032】
外側で発生した衝撃に対しては、図4に示されるように、約60msで振幅は大幅に減衰しており、かつ、波形に含まれる細かい振動成分が少ないことから、振動音が単純で共振が少ないことがわかる。また、内側で発生した衝撃に対しては、図5に示されるように、約20msで振動が完全に吸収されていることがわかる。
【0033】
次に、比較例1として、上記と同一の条件で、各支持ポイントP1,P2,P3,P4を真鍮製スパイクにより支持した場合について説明する。実験に用いられた真鍮製スパイクは、図6(A)の側面図、及び(B)の平面図に示されるように、基部の直径25.6mm、高さ18.5mmの円錐形である。
【0034】
実験結果を図7及び図8に示す。図7は、外側衝撃点X1に衝撃を与えた場合、図8は内側衝撃点X2に衝撃を与えた場合にオシロスコープで観測された波形を示すグラフである。
【0035】
外側で発生した衝撃に対しては、図7に示されるように、約80msでも振幅が大きく、かつ、波形に含まれる細かい振動成分が多いことから、振動音が複雑で共振が多いことがわかる。また、内側で発生した衝撃に対しては、図8に示されるように、約40ms経過しても振動が吸収されていないことがわかる。
【0036】
続いて、比較例2として、上記と同一の条件で、各支持ポイントP1,P2,P3,P4をゴム製足により支持した場合について説明する。実験に用いられたゴム製足は、図9(A)の側面図、及び(B)の平面図に示されるように、基部の直径21.5mm、先端の直径17.5mm、高さ13mmの円錐台形である。
【0037】
実験結果を図10及び図11に示す。図10は、外側衝撃点X1に衝撃を与えた場合、図11は内側衝撃点X2に衝撃を与えた場合にオシロスコープで観測された波形を示すグラフである。
【0038】
外側で発生した衝撃に対しては、図10に示されるように、振幅の減衰が極めて緩やかであることがわかる。また、内側で発生した衝撃に対しては、図11に示されるように、約40ms経過しても振動が吸収されていないことがわかる。
【0039】
上記の実験結果から明らかなように、実施形態に係る振動減衰用具1を用いた場合には、真鍮製スパイクやゴム製足を用いた場合と比較して、対象機器自体で発生した振動に対しても、対象機器外で発生した振動に対しても、その振幅を早期に減衰させ、かつ、共振の発生を抑えることができる。
【0040】
例えば、実施形態に係る振動減衰用具1をオーディオ用真空管アンプの防振材として用いると、他の防振材では得られない効果が得られる。真空管アンプの場合、スピーカの振動が真空管に伝播すると、真空管内のグリッドが振動して音響特性が劣化する。そこで、実施形態に係る振動減衰用具1を利用すると、真空管に伝播するスピーカの振動が減衰するため、低域の音階が明確に表現され、ボーカル、ピアノ等の音がより明瞭に聞こえるようになり、ステレオであれば立体感を際立たせることができる。
【0041】
なお、上記の説明では、各設定ポイントに振動減衰用具1を1つずつ配置する場合についてのみ説明したが、一カ所に複数個積み重ねて使用することも可能である。その場合、同一種類の振動減衰用具のみでなく、サイズや減衰材の構成の異なる複数種類の振動減衰用具を組み合わせて用いてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 振動減衰用具
10 袋体
11 外袋
11a,11b 生地
12 内袋
20 減衰材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変形可能な生地により形成された袋体内に、少なくとも硬質の粒状体を含む減衰材を、前記袋体がふくらむよう充填して構成したことを特徴とする振動減衰用具。
【請求項2】
前記硬質の粒状体は、砂であることを特徴とする請求項1に記載の振動減衰用具。
【請求項3】
前記減衰材は、前記硬質の粒状体と、軟質の粒状体とを混合して構成されることを特徴とする請求項1に記載の振動減衰用具。
【請求項4】
前記生地は、伸縮性のある繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の振動減衰用具。
【請求項5】
前記袋体は、薄手で伸縮性の高い内袋と、厚手で伸縮性の低い外袋とから構成され、前記減衰材を前記内袋が自然状態より膨張するよう前記内袋に充填し、該内袋の外側を前記外袋でカバーしたことを特徴とする請求項1記載の振動減衰用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−64321(P2011−64321A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235709(P2009−235709)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(509281999)
【Fターム(参考)】