説明

振動溶着成形品及び自動車用エアースポイラー

【課題】外側部材と内側部材とを振動溶着成形した樹脂成形品であって、溶着部位がアンダーカット部に位置する場合にも溶着部の溶着強度が高く生産性向上に有効な構造からなる樹脂成形品及び自動車用エアースポイラーの提供する。
【解決手段】複数の樹脂部材10,20を振動溶着成形した樹脂成形品であって、複数の樹脂部材は、振動溶着時に、外側に位置する外側部材10と、当該外側部材の内側に振動溶着される内側部材20とを有し、外側部材10は、ベース部11と、当該ベース部11から鋭角に折り返した折り返し部12とを有し、内側部材20は、基底部21と、当該基底部21から鈍角に立設した立設部22とを有し、前記ベース部11の内側と前記基底部21との間に振動溶着部M1を有し、前記折り返し部12の内側と前記立設部22の先端部付近に振動溶着部M1を有していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つ以上の複数の樹脂部材を部分的に重ね合せ、両側からそれぞれ治具にて加圧と振動を加えることで、この複数の樹脂部材の接触面に摩擦熱を発生させ、溶着成形する樹脂成形品に関し、特に溶着部位がアンダーカット部位になる場合の樹脂成形品に有効であり、自動車用エアースポイラー等の大型部品に好適である。
【背景技術】
【0002】
自動車のルーフのテール部やトランク上面等に走行時の空気の流れを、所定の方向に整流するエアースポイラーが取り付けられる場合がある。
この種のエアースポイラー製品は大型でありながら所定の強度を確保しつつ軽量化が要求される。
そこで、主に意匠部を形成する外側部材と、主に強度及び車両への取付部を確保するための内側部材とを対向する治具にて溶着面に垂直方向の加圧力と、溶着面に平行に沿った振動を加えることで摩擦熱で溶融及び接合する振動溶着成形方法を採用した樹脂成形品が公知である。
その従来の成形例を図5に基づいて説明する。
図5(a)は、自動車のルーフのテール部102に取り付けたエアースポイラー101の断面形状例を示す。
エアースポイラー101は、外側部材110の内側に内側部材120を溶着部aにて振動溶着してある。
なお、エアースポイラー101はルーフにクリップ部材140を用いて固定する例となっている。
図5(b)及び(c)は振動溶着用の治具構造例を示す。
外側部材110を加圧治具130に支持し、外側部材110に内側部材120を重ね合せ、その上から加振治具131にて突き合せ、上下の治具にて図5(c)に示すように加圧力fと水平方向の振動vを加える。
溶着部aは、摩擦熱で溶融した後に冷却されることで溶着する。
このような治具構造にあっては、外側部材110と内側部材120とを治具にセットし、振動溶着後に製品を取り出すことになり、図5(b)で説明すると加振治具131を上昇し離間することができるように溶着部位がアンダーカット部位にならないように製品設計及び治具設計をしなければならない問題があった。
これではエアースポイラーのデザイン形状に大きな制限がある。
【0003】
そこで、例えば特許文献1にV字状断面形状部を有するアウタ部材(外側部材)を支持する下治具を主部と副部とで形成し、製品の後部に干渉しないように副部を主部に対して開閉できるようにした治具構造を開示する。
しかし、特許文献1に開示する治具構造では、インナ部材(内側部材)のU字状断面部に横方向から挿入する内面支持部を上治具に設けなければならないので、装置の自動化を考えた場合に上治具に上下方向の動きと水平方向の動きを与える駆動装置を設けるか、あるいは上治具を上昇させた状態で、この上治具に製品を横方向から取り付けるとともに、製品が落下しないように仮止めしなければならないので装置が複雑になるだけでなく、やはり製品のデザインに制限があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3392803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、外側部材と内側部材とを振動溶着成形した樹脂成形品であって、溶着部位がアンダーカット部に位置する場合にも溶着部の溶着強度が高く生産性向上に有効な構造からなる樹脂成形品及び自動車用エアースポイラーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る樹脂成形品は、複数の樹脂部材を振動溶着成形した樹脂成形品であって、複数の樹脂部材は、振動溶着時に、外側に位置する外側部材と、当該外側部材の内側に振動溶着される内側部材とを有し、外側部材は、ベース部と、当該ベース部から鋭角に折り返した折り返し部とを有し、内側部材は、基底部と、当該基底部から鈍角に立設した立設部とを有し、前記ベース部の内側と前記基底部との間に振動溶着部を有し、前記折り返し部の内側と前記立設部の先端部付近に振動溶着部を有していることを特徴とする。
【0007】
ここで、複数の樹脂部材としたのは、少なくとも振動溶着成形した部分を有する樹脂成型品であればよく、3つ以上の樹脂部材を組み合せた成形品であってもよい趣旨である。
外側部材は主に意匠部を形成する部材をいい、内側部材は外側部材の内側に溶着され、主に強度を確保するための部材をいう。
ここで外側部材の内側とはベース部から鋭角に折り返した折り返し部と、ベース部とで形成された間の空間部をいい、例えば図1において角度θが90°未満であり、ベース部11と折り返し部12との間に形成された部分をいう。
また、内側部分が基底部と当該基底部から鈍角に立設した立設部を有するとは、例えば図1において基底部21から角度θが90°を越えるように折り返し立設した立設部22を有することをいう。
【0008】
本発明にて、外側部材のベース部の内側と内側部材の基底部との間に振動溶着部を有するとはベース部と基底部との間の少なくとも一方にリブ状の突起溶着部を形成して振動溶着してあることをいう。
【0009】
本発明にて、外側部材の折り返し部の内側と内側部材の立設部の先端部付近に振動溶着部を有するとは、溶着部位が、立設部を形成する板状の一般部の肉厚幅を先端側に延長した肉厚範囲に少なくとも一部が重なるように形成されていることをいう。
【0010】
本発明にあっては、前記ベース部の内側と前記基底部との間の振動溶着部は、少なくとも前記立設部の基底部側端部付近に有していてもよい。
ここで、内側部材の立設部の基底部側端部付近とは、立設部を形成する板状の一般部の肉厚幅を基底部側に延長した肉厚範囲内に溶着部の少なくとも一部が重なるような範囲をいう。
【0011】
本発明に係る樹脂成形品は、外側部材のベース部の外側をベース治具にて支持し、内側部材の基底部は前記ベース治具に対向配置した第1治具にて支持し、外側部材の折り返し部は、前記ベース治具と第1治具との両方に加圧ベクトルが生じるように当該折り返し部を支持した補助治具を用いて振動溶着成形されたことを特徴とする。
ここで外側部材は、ベース治具と補助治具で支持され、内側部材は第1治具で支持されることになるので、第1治具に水平方向の振動を加える場合にはベース治具と補助治具とが加圧固定治具になるが加振治具と加圧治具との役割は上記の逆であってもよい。
【0012】
本発明に係る樹脂成形品は、自動車用のエアースポイラーとして、ルーフのテールスポイラーやトランクスポイラーに好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る振動溶着による樹脂成形品にあっては、ベース部とこのベース部から鋭角に折り返した折り返し部を有する、外側部材の内側に、基底部と立設部とからなる内側部材を振動溶接する断面形状において基底部と立設部との折り返し部の角度を鈍角に設定したことにより、補助治具にて外側部材の折り返し部を外側から加圧する際にベース治具と第1治具とに向けて加圧する分圧ベクトルが生じるのでアンダーカット部位となる外側部材の折り返し部内側と、内側部材の立設部先端部との溶着部の溶着強度が向上し、断面形状に変形が少ない樹脂成形品を得ることができる。
また、内側部材の立設部の先端部付近と基底部側端部付近に溶着部を形成すると、さらに、安定して、溶着強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る樹脂成形品を振動溶着するのに適した治具構成例を示す。
【図2】振動溶着部の部分拡大図を示す。 (a)は、立設先端溶着部の拡大図を示し、(b)は、立設基端溶着部の拡大図を示し、(c)は、溶着リブ形状例を示す。
【図3】本発明に係る樹脂成形品を自動車のルーフテールに取り付けた断面構造例を示す。
【図4】自動車用エアースポイラーを車体に取り付けた例を示す。
【図5】従来の振動溶着構造例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る樹脂成形品の例を以下、図面に基づいて説明する。
本実施例に係る樹脂成形品は、図4に外観図を示したエアースポイラー1の例であり、車両2のルーフのテール部2aに取り付けた断面構造例を図3に示す。
図1はエアースポイラー1を振動溶着する治具構成例を示し、振動溶着部の部分拡大図を図2に示す。
【0016】
エアースポイラー1は主に外観意匠部を形成する外側部材10と、その内側に配置し、主に補強と車両取付部を形成する内側部材20とを振動溶着成形してある。
本明細書では、外側部材10と内側部材20とを接合する側を内側と表現し、製品としてベース部11の外側を表側、内側部材20の外側を裏側と表現する。
【0017】
外側部材10及び内側部材20は、ABS樹脂、AES樹脂等の振動溶着に適した樹脂材料にて成形してある。
外側部材10は、ベース部11と、このベース部の一端に折り曲げ部11aを形成し、裏側に折り返した折り返し部12を有する。
ベース部11と折り返し部12とは、角度θが90°未満の鋭角になっている。
内側部材20は、外側部材のベース部11裏面に溶着接合するための基底部21と、この基底部21から裏側に折り返し立設した立設部22を有し、基底部21と立設部22との角度θは、90°を越える鈍角になっている。
内側部材20の立設部の先端付近には外側部材10の折り返し部12の内側にて振動溶着した立設先端溶着部M1を有し、立設部の基底部側の端部付近には立設基端溶着部M2を有する。
また、内側部材20の基底部21と外側部材10のベース部11の内側との間には必要に応じて振動溶着部M3、M4を有する。
内側部材20の基底部21は強度を確保すべく凹部形状部21cを有し、先端部21b側に、ベース部11の先端部11b側よりの内側と溶着する振動溶着部M4を形成してある。
振動溶着部は、振動により摩擦熱が発生しやすいように外側部材10又は、内側部材20の一方又は、両側にリブ部を形成するのが好ましく、本実施例では図2に示すように内側部材20側にリブ部23,24,25,26を設けた例となっている。
リブ部の形状も図2(c),(d),(e)に例を示すようにリブ部27a、これよりも突出形状が細く高いリブ部27b、さらには二段形状のリブ部27cでもよい。
内側部材20の立設部22の先端部22a付近には立設先端溶着部M1を形成するための立設部先端リブ部23を有し、このリブ部23は立設部22の一般部の肉厚t1を延長した範囲に少なくとも一部が重なるように配置されている。
なお、必要に応じて立設部の先端部22aから内側への折り返し22bを設けてよい。
内側部材20の立設部22の基底部側端部21aの付近には立設基端溶着部M2を形成するための立設部基底端リブ部24を有する。
このリブ部24も立設部の肉厚t1の幅の延長線上の範囲内に少なくとも一部が重なるようなっている。
【0018】
エアースポイラー1の形状をこのように設定したことにより、内側部材20の立設部22と外側部材10の折り返し部12とのなす角度θは90°未満になっている。
これにより、振動溶着する際に次のように作用する。
外側部材10のベース部11の表側面をベース治具30にて支持し、内側部材20を外側部材10の内側に配置し、上から内側部材20の基底部21裏面側を第1治具31で支持する。
補助治具32を外側部材10の折り返し部12の外側から支持するように配置すると補助治具32による加圧力はベース治具30側に向けての分圧と第1治具31側に向けての分圧が生じる。
この状態で例えば第1治具31を水平方向に振動させると内側部材20の外側を第1治具31にて拘束しつつ、ベース治具30と補助治具32にて立設部22の両端部に加圧力が加えられる。
これにより、エアースポイラー1の断面形状を維持しつつ、振動溶着できるので接合強度が高い。
また、ベース治具30と補助治具32とを分離したことにより、アンダーカット部位も容易に振動溶着できる。
また、第1治具31及び補助治具32を上昇及び下降するだけでワークをセット及び取り外しができるので自動生産もしやすい。
【符号の説明】
【0019】
1 エアースポイラー
10 外側部材
11 ベース部
12 折り返し部
20 内側部材
21 基底部
22 立設部
30 ベース治具
31 第1治具
32 補助治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の樹脂部材を振動溶着成形した樹脂成形品であって、
複数の樹脂部材は、振動溶着時に、外側に位置する外側部材と、当該外側部材の内側に振動溶着される内側部材とを有し、
外側部材は、ベース部と、当該ベース部から鋭角に折り返した折り返し部とを有し、
内側部材は、基底部と、当該基底部から鈍角に立設した立設部とを有し、
前記ベース部の内側と前記基底部との間に振動溶着部を有し、前記折り返し部の内側と前記立設部の先端部付近に振動溶着部を有していることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項2】
前記ベース部の内側と前記基底部との間の振動溶着部は、少なくとも前記立設部の基底部側端部付近に有していることを特徴とする請求項1記載の樹脂成形品。
【請求項3】
外側部材のベース部の外側をベース治具にて支持し、
内側部材の基底部は前記ベース治具に対向配置した第1治具にて支持し、
外側部材の折り返し部は、前記ベース治具と第1治具との両方に加圧ベクトルが生じるように当該折り返し部を支持した補助治具を用いて振動溶着成形されたことを特徴とする樹脂成形品。
【請求項4】
樹脂成形品は、自動車用のエアースポイラーであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−208058(P2010−208058A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54285(P2009−54285)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000132932)株式会社タカギセイコー (29)
【Fターム(参考)】