説明

排ガスの水銀除去システム及び水銀除去方法

【課題】 排ガス処理施設の劣化を低減させることができ、長期の信頼性を有すると共に、水銀除去効率が高い、排ガスの水銀除去システム及び水銀除去方法を提供する。
【解決手段】 塩化アンモニウムの前処理を行う塩化アンモニウム前処理手段2と、前処理された塩化アンモニウムを排ガスに供給する塩化アンモニウム供給手段16と、前記排ガス中の窒素酸化物の還元と、水銀の塩素化とを行う還元脱硝手段3と、前記排ガス中の硫黄酸化物と前記塩素化された水銀とをアルカリ吸収液により除去する湿式脱硫手段6とを備え、前記塩化アンモニウム前処理手段2が、前記塩化アンモニウムから粗大物を除去する粗大物除去手段21を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼排ガスの処理に関し、特に、燃焼排ガス中の水銀を除去するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭や重油等の化石燃料の燃焼によって生じる排ガス中には、微量の水銀が存在しており、環境中への放出を低減する方法の開発が必要とされてきた。燃焼排ガス中の水銀除去を目的として、これまでに様々な方法が試みられている。
【0003】
燃焼排ガスに含まれる水銀を、ハロゲンを含有する添加剤によって、活性炭等に吸着されやすい塩化水銀等の酸化水銀に転換し、フライアッシュ中の活性炭に吸着させて除去することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、活性炭やセレンフィルター等の吸着剤による水銀除去方法は、ゴミ焼却排ガスに対し既に実用化されているが、特殊な吸着除去装置を必要とする。
【0004】
一方、排ガス中において、水銀は、主として金属水銀、及び塩化水銀の形態で存在しており、塩化水銀等の酸化水銀は、金属水銀と比較して水への溶解度が高いことが知られている。このことから、排ガス中に塩素化剤を添加して、水銀を水溶性の形態に変えることによって、従来の還元脱硝装置、及び湿式脱硫装置を有する排ガス処理施設を変えることなく、NO、SOの処理と同時に水銀を除去する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この方法では、燃焼排ガス中に水銀塩素化剤が添加された後、脱硝触媒上で非水溶性の金属水銀が水溶性の塩化水銀に変換され、後段の湿式脱硫装置で吸収除去される。しかしながら、煙道中に添加される塩素化剤は腐食性が高い場合が多く、必要量を超える塩素化剤は、煙道や後流装置の腐食原因となり、プラント寿命の低下をもたらす問題があった。
【0005】
そこで、煙道内の塩素化剤濃度や水銀濃度の計測値に基づいて塩素化剤の排ガスへの供給量を調節することが提案されている(例えば、特許文献3)。この方法によれば、過剰量の塩素化剤による装置等の腐食を防止することができる。しかしながら、システムの信頼性の向上や、水銀除去効率の向上など、さらなる改善が望まれている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−230810号公報
【特許文献2】特開平10−230137号公報
【特許文献3】特開2007−167743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、排ガス処理施設の劣化を低減させることができ、長期の信頼性を有すると共に、水銀除去効率が高い、排ガスの水銀除去システム及び水銀除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明は、一実施形態によれば、塩化アンモニウムの前処理を行う塩化アンモニウム前処理手段と、前処理された塩化アンモニウムを排ガスに供給する塩化アンモニウム供給手段と、前記排ガス中の窒素酸化物の還元と、水銀の塩素化とを行う還元脱硝手段と、前記排ガス中の硫黄酸化物と前記塩素化された水銀とをアルカリ吸収液により除去する湿式脱硫手段とを備え、前記塩化アンモニウム前処理手段が、前記塩化アンモニウムから粗大物を除去する粗大物除去手段を備えている。
【0009】
上記実施形態による排ガスの水銀除去システムは、他の形態においては、前記塩化アンモニウム前処理手段が、固体状の塩化アンモニウムを昇華する別置の昇華手段をさらに備え、前記粗大物除去手段が集塵機である。前記供給手段は、塩化アンモニウムの昇華ガスを希釈するための希釈手段をさらに備えることが好ましい。本実施形態の水銀除去システムでは、塩化アンモニウムから脱硝触媒阻害物質が除去されるため、水銀の塩素化を効率的に行うことができる。
【0010】
上記実施形態による排ガスの水銀除去システムは、他の形態においては、前記塩化アンモニウム供給手段が、塩化アンモニウム水溶液を排ガスが流通する煙道の内壁に付着しないように供給する構造を有し、前記粗大物除去手段が、重力沈澱槽、液体サイクロン、膜分離装置、及びスクリーンからなる群より選択される1つ以上を備え、前記還元脱硝手段の前段に、塩化アンモニウムが供給された排ガスを攪拌する攪拌手段をさらに備える。塩化アンモニウム水溶液を排ガスが流通する煙道の内壁に付着しないように供給する構造とは、塩化アンモニウム供給手段が備える噴霧手段が、煙道内において、煙道内壁面から一定以上の距離を置いて配置される構造であることが好ましい。一定以上の距離とは、噴霧される液滴が噴霧手段から煙道内壁面に到達する前に気化するのに十分な距離である。または、塩化アンモニウム水溶液を排ガスが流通する煙道の内壁に付着しないように供給する構造とは、噴霧される液滴が到達しうる煙道内壁の内側に、内壁と二重管を構成するように設けられた隔壁を備える構造であってもよい。
【0011】
上記実施形態による排ガスの水銀除去システムは、前記粗大物除去手段が重力沈澱槽と、前記重力沈澱槽の後段に設けられた液体サイクロン、膜分離装置、及びスクリーンからなる群より選択される1つ以上とを備えることが好ましい。
【0012】
本発明は、別の側面で、排ガスの水銀除去方法であって、塩化アンモニウムから粗大物を除去する工程と、粗大物が除去された塩化アンモニウムを排ガスに供給する工程と、前記塩化アンモニウムが供給された前記排ガスを脱硝触媒に接触させる工程と、前記脱硝触媒と接触させた排ガスを、アルカリ吸収液と接触させる工程とを含む。排ガスをアルカリ吸収液と接触させることにより、排ガス中の硫黄酸化物及び水銀を除去することができる。
【0013】
上記実施形態による排ガスの水銀除去方法は、他の形態においては、前記塩化アンモニウムが固体状の塩化アンモニウムであり、前記固体状の塩化アンモニウムを別置の気化器で昇華する工程を、粗大物を除去する工程の前にさらに含み、前記排ガスに供給される塩化アンモニウムが塩化アンモニウムの昇華ガスである。上記実施形態による水銀除去方法は、塩化アンモニウムを昇華する工程の後に、前記昇華ガスに希釈用気体を供給する工程をさらに含むことが好ましい。
【0014】
上記実施形態による排ガスの水銀除去方法は、他の形態においては、前記塩化アンモニウムが、塩化アンモニウム水溶液であり、前記塩化アンモニウムを排ガスに供給する工程が、前記塩化アンモニウム水溶液を前記排ガスが流通する煙道の内壁に付着しないように噴霧する工程であり、前記塩化アンモニウムを排ガスに供給する工程の後に、前記塩化アンモニウム水溶液の気化ガスと前記排ガスとを煙道内で攪拌する工程をさらに含む。前記塩化アンモニウムの排ガスへの供給は、塩化アンモニウム水溶液の液滴が煙道の内壁に付着しないように供給可能な構造を有する塩化アンモニウム供給手段により行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、排ガス処理施設の劣化を低減させることができ、長期の信頼性を有すると共に、除去効率の優れた排ガスの水銀除去システム及び除去方法を提供することができる。また、本発明によれば、水銀塩素化剤である塩化アンモニウムから粗大物が除去されるため、水銀除去システムにおけるノズル等の閉塞・磨耗を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の水銀除去システムの一実施形態を説明する図である。
【図2】図2は、本発明の水銀除去システムの第二実施形態を説明する図である。
【図3】図3は、NHとHClの気固平衡を示すグラフである。
【図4】図4は、本発明の水銀除去システムの一部を構成する塩化アンモニウム前処理手段2を説明する図である。
【図5】図5は、本発明の粗大物除去手段の一実施形態であるホットサイクロンを説明する図である。
【図6】図6は、本発明の水銀除去システムの第三実施形態を説明する図である。
【図7】図7は、本発明の塩化アンモニウム供給手段16の一実施形態の構成を拡大して説明する図である。
【図8】図8は、塩化アンモニウム水溶液の液滴が煙道内において蒸発するまでにかかる時間を液滴径との関係で予測したグラフである。
【図9】図9は、本発明の塩化アンモニウム供給手段16の一実施形態を説明する図である。
【図10】図10は、本発明の水銀除去システムの第四実施形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る排ガスの水銀除去システム、及び水銀除去方法について、その実施形態を参照しながらさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0018】
図1に、本発明の水銀除去システム100の第一実施形態を備えてなる排ガス処理システムを示す。
図1に示す水銀除去システム100は、主たる構成要素として、塩化アンモニウム前処理手段2、塩化アンモニウム供給手段16、還元脱硝手段3、エアヒータ4、電気集塵機5、湿式脱硫手段6、煙突7を備えている。
【0019】
本実施形態の水銀除去システム100は、ボイラ1の後流に、煙道26により連結される還元脱硝手段3を備えている。ボイラ1と還元脱硝手段3とを連結する煙道26内には、塩化アンモニウム供給手段16が設置されている。塩化アンモニウム供給手段16は、塩化アンモニウム前処理手段2と管路を介して連結されている。還元脱硝手段3の後流には、煙道により連結されるエアヒータ4が設けられている。エアヒータ4の後流には、電気集塵機5が設けられており、電気集塵器5はエアヒータ4と煙道により連結される。湿式脱硫手段6は、電気集塵機5の後流に設けられ、湿式脱硫手段6は、電気集塵機5と煙道により接続される。湿式脱硫手段6の後流には、煙道で連結される煙突7が設置される。湿式脱硫手段6の後段には、さらに、ベルトフィルター8が設置される。
【0020】
ボイラ1は、水銀除去システム100の前流に設けられ、重油、石炭等の化石燃料を燃焼させ、排ガスを排出する。排ガスは、窒素酸化物、硫黄酸化物、水銀等の有害物質を含有している。
【0021】
本実施形態の塩化アンモニウム前処理手段2は、煙道内の排ガス中に供給される前に、塩化アンモニウムを前処理するものである。塩化アンモニウム前処理手段2は、粗大物除去手段21を備えている。粗大物除去手段21は、塩化アンモニウムから粗大物を分離・除去するものである。粗大物除去手段21としては、サイクロン、電気集塵機、重力沈澱槽、膜等を用いることができる。粗大物とは、原料としての塩化アンモニウムに混入している不純物をいう。不純物としては、粗塵、虫、鉱物、土砂、草木、ガラ、金属屑等が挙げられる。
【0022】
塩化アンモニウム供給手段16は、粗大物を除去した後の塩化アンモニウムを煙道26内の排ガスに供給するものである。塩化アンモニウム供給手段16は、粗大物除去手段21の後流に設けられ、粗大物除去手段21と管路により接続される。塩化アンモニウム供給手段16としては、例えば複数の噴霧ノズルを備える噴霧グリッド、複数の噴射ノズルを備える噴射グリッドを用いることができる。
【0023】
還元脱硝手段3は、脱硝触媒により排ガス中の窒素酸化物を還元すると共に、塩化アンモニウムが分解して生じるHClと金属水銀とにより塩化水銀を生成させる装置である。還元脱硝手段3としては、還元脱硝触媒を備える一般的なものを使用することができる。還元脱硝手段3が備える脱硝触媒としては、特に限定されないが、例えば、W、Sn、In、Co、Ni、Fe、Ni、Ag、Cu等の金属酸化物をゼオライト等の担体に担持させたものを用いることができる。還元脱硝手段3が備える還元脱硝触媒の量は、水銀酸化効率を高めるために通常の量より増加させることもできる。
【0024】
湿式脱硫手段6は、排ガス中に存在する硫黄酸化物、及び塩化水銀等の水銀酸化物を吸収・除去する装置である。湿式脱硫手段6としては、アルカリ吸収液を備える従来のものを使用することができる。アルカリ吸収液としては、例えば、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、アンモニア、水酸化マグネシウム等の水溶液を用いることができるが、これらに限定されない。湿式脱硫手段6は、水銀再飛散防止装置(図示せず)をさらに備えていることが好ましい。水銀再飛散防止装置とは、酸化剤又は空気をアルカリ吸収液に供給することにより、アルカリ吸収液の酸化還元電位を一定の範囲に保つ装置である。水銀再飛散防止装置は、下記式(1)のように、吸収液中の酸化水銀(Hg2+)がSO等により金属水銀(Hg)に還元されるのを阻止し、水銀が再飛散するのを防止する。
Hg2++2e ⇔ Hg (1)
水銀再飛散防止装置は、好ましくは、吸収液の酸化還元電位を150〜600mVに調製することができる装置である。湿式脱硫手段6の後段には、ベルトフィルター8が設置されている。ベルトフィルター8は、湿式脱硫手段6の吸収塔で生成した石膏スラリーを脱水し、回収する装置であり、石膏9を排出する。
【0025】
エアヒータ4は、排ガス温度を調整する装置である。電気集塵機5は、排ガス中の煤塵を除去する。煙突7は、排ガスをシステムの外へ排出する。エアヒータ4、電気集塵機5、煙突7等は、一般的なものとすることができる。
【0026】
次に、本実施の形態に係る水銀除去システムにより排ガスから水銀を除去する方法の一形態を説明する。本実施形態の水銀除去方法は、塩化アンモニウムから粗大物を除去する工程と、粗大物が除去された塩化アンモニウムを排ガスに供給する工程と、塩化アンモニウムが供給された排ガスを脱硝触媒に接触させる工程と、脱硝触媒と接触させた排ガスを、アルカリ吸収液に接触させる工程とを含む。
【0027】
本実施の形態に係る水銀除去方法では、排ガス中の金属水銀を酸化するために、塩化アンモニウムを用いる。塩化アンモニウムは、通常、肥料に用いられる程度の純度のものを用いることができる。塩化アンモニウムは、固体であってもよく、又は水溶液であってもよい。原料としての塩化アンモニウムには粗大物が混入している。
【0028】
石炭や重質油の燃焼により生じる排ガスは、通常、窒素酸化物、硫黄酸化物等の有害物質の他に、水銀を含有する。排ガスは、ボイラ1から流出し、煙道26内を流れる。
【0029】
塩化アンモニウムから粗大物を除去する工程では、粗大物除去手段21により、塩化アンモニウムに混入する粗大物を分離・除去する。この工程により、肥料に用いられる程度に純度の低い塩化アンモニウムを原料として用いても、粗大物が除去された状態で塩化アンモニウム供給手段16に提供することができる。
【0030】
粗大物を除去する工程に次いで、粗大物が除去された塩化アンモニウムを排ガスに供給する工程を行う。塩化アンモニウムを供給する工程は、ボイラ1と還元脱硝手段3とを連結する煙道26内において行われる。排ガス中に供給する塩化アンモニウムは、水溶液又は気体の形態である。塩化アンモニウムは、好ましくは、排ガス中に液滴として噴霧されるか、昇華した気体として導入される。塩化アンモニウムは、排ガス中における濃度が10〜200ppmの範囲になるように供給することが好ましい。
【0031】
排ガス中に供給された塩化アンモニウムの大部分は、式(2)のように、NHとHClとに解離した状態で存在する。煙道26内の排ガスは、通常350〜380℃の高温であるためである。
NHCl ⇒ NH+HCl (2)
【0032】
本実施の形態による方法は、さらに、HClを排ガスに添加する工程を含んでいてもよい。塩化アンモニウムが解離して生じるHClのみでは金属水銀を酸化するのに不十分である場合があるためである。HClの添加は、塩化アンモニウム供給手段16と還元脱硝手段3とを結ぶ煙道内において、塩化アンモニウムを供給する工程の後に行われることが好ましい。
【0033】
塩化アンモニウムが供給された排ガスを脱硝触媒に接触させる工程では、排ガスと塩化アンモニウムとの混合物を、煙道26を経て還元脱硝手段3に流入させ、還元脱硝手段3が備える脱硝触媒と接触させる。脱硝触媒下では、塩化アンモニウムが分解して生じたNHと排ガス中の窒素酸化物とが反応し、式(3)のように窒素酸化物が窒素に還元される。
4NO+4NH+O ⇒ 4N+6HO (3)
これと同時に、脱硝触媒下では、式(4)のように、排ガス中の金属水銀が、塩化アンモニウムの分解によって生じるHClにより塩化水銀に酸化される。
Hg+2HCl+1/2O ⇒ HgCl+HO (4)
その結果、脱硝触媒に接触させる工程を経た排ガスには、主としてSO、CO、CO、HgCl、N、O、水蒸気が含まれ、未反応のNH、HCl、NOも残存する。
【0034】
また、本実施の形態による方法は、排ガス中に活性炭を添加する工程をさらに含んでもよい。活性炭を添加する工程は、排ガスを脱硝触媒に接触させる工程の後に行われることが好ましい。この工程により、排ガス中の塩化水銀を活性炭に吸着させることができ、湿式脱硫手段6への水銀流入量を低減するという有利な効果がある。
【0035】
還元脱硝手段3から流出した排ガスの温度を、エアヒータ4により調整する。次いで、排ガスを電気集塵機5において、排ガス中に含まれる煤塵等を除去する。次いで、煤塵等を除去した排ガスを湿式脱硫手段6に流入させる。排ガスをアルカリ吸収液に接触させる工程では、脱硝触媒と接触させた後の排ガスをアルカリ吸収液に接触させる。この工程により排ガス中のSOをアルカリ吸収液に吸収させて、石膏9の沈澱として除去すると共に、水溶性の塩化水銀もアルカリ吸収液に吸収させて除去する。アルカリ吸収液中に沈澱する石膏スラリーは、ベルトフィルター8により脱水し、石膏9として回収する。湿式脱硫手段6から流出した排ガスは煙突7から排出する。図示する実施形態において、排ガスをアルカリ吸収液と接触させる工程は、アルカリ吸収液に空気を供給している。アルカリ吸収液中のHgClが金属水銀Hgに還元しない安定な範囲に酸化還元電位を保ち、水銀の再飛散を防止するためである。アルカリ吸収液には、空気以外に酸化剤を添加してもよい。
【0036】
本実施の形態による水銀除去方法は、好ましくは90%以上の水銀除去率で排ガス中の水銀を除去することができる。水銀除去率は、より好ましくは95%以上である。
【0037】
第一実施形態の水銀除去システム及び水銀除去方法によれば、塩化アンモニウムが粗大物を除去した後に排ガス中に供給されることから、粗大物が粗大物除去手段21より先の塩化アンモニウム供給手段16及び煙道26内に入り込むことがない。従って、噴霧ノズル等の塩化アンモニウム供給手段16が粗大物により閉塞することを防止することができ、排ガス処理施設の寿命を向上することができるという効果を奏する。
【0038】
図2は、本発明の水銀除去システムの第二実施形態の主要部を示す図である。本発明の第二実施形態によるシステムは、エコノマイザー10、原料供給手段23、昇華手段22、粗大物除去手段21、塩化アンモニウム供給手段16、NH供給手段11、還元脱硝手段3、エアヒータ4、湿式脱硫手段6、煙突7を備えている。図2では、エアヒータ4より後流側の湿式脱硫手段6、及び煙突7は省略されている。なお、同一番号を付した構成要素は、同一の構成・作用を持つ。本実施の形態では、塩化アンモニウム前処理手段2は、粗大物除去手段21に加え、原料供給手段23、昇華手段22を備えている。
【0039】
原料供給手段23は、昇華手段22に原料としての塩化アンモニウム101を供給する装置である。原料供給手段23は、昇華手段22の前段に、昇華手段22に塩化アンモニウムを供給可能なように設置されている。原料供給手段23としては、サイロとスクリューフィーダーとの組み合わせ等を用いることができるが、これらには限定されない。
【0040】
昇華手段22は、固体状の塩化アンモニウムを加熱し、昇華する装置である。昇華手段22は、管路により連結される粗大物除去手段21の前段に設置される。昇華手段22は、水銀除去システムにおける原料供給手段23、煙道26等の他の装置と兼用の装置としてではなく、昇華の用途に用いられる独立した装置として煙道26の外部に設置される。昇華手段22では、昇華に必要な熱は、外部から供給され、煙道内を流れる排ガスの熱のみに依存するものではない。本実施の形態によるシステムは、昇華手段22を独立に設けることにより、煙道ガスのみでは不可能な程度に塩化アンモニウムを高温に加熱することが可能となり、例えば400℃以上、又は500℃以上に加熱することができる。このように高温にすることにより、塩化アンモニウムをほぼ完全に昇華することができ、気体として排ガス中に供給することができる。本実施の形態によるシステムによれば、塩化アンモニウムを気体として煙道内に供給することができるため、煙道を流れる排ガスの熱で塩化アンモニウムを昇華する方法と異なり、噴霧ノズル等の噴霧手段の閉塞・磨耗を防止することができる。
【0041】
昇華手段22では、塩化アンモニウムを、好ましくは400℃以上に加熱して昇華させる。塩化アンモニウムは、昇華すると、分解してNHとHClを生ずる。よって、塩化アンモニウムの昇華ガスとは、等モルのNHとHClとを含有するガスである。
【0042】
昇華手段22としては、固体状の塩化アンモニウムを大容量で昇華可能な気化器を使用することができる。好ましくは、キルン炉、流動床炉といった気化器が挙げられる。昇華手段22としてキルン炉を用いる場合、L(筒長)/F(筒径)が3以上であるものが好ましい。また、キルン炉に供給される固体状の塩化アンモニウムは、キルン炉の筒内における充填量を15%以下の容積比とすることが好ましい。昇華せずに残った不揮発性物質の大部分は、粗大物102として昇華手段22に残存する。従って、本実施形態の昇華手段22は、塩化アンモニウムを昇華する機能に加え、排ガスから不揮発性物質等の粗大物102を除去する機能も有している。
【0043】
粗大物除去手段21は、塩化アンモニウムの昇華ガス中に含まれる粗大物を除去することができる装置である。本実施の形態の粗大物除去手段21で除去される粗大物とは、不揮発性物質である。ここで、不揮発性物質とは、昇華手段22で加熱してもガス化しない物質を主にいう。塩化アンモニウムに混入している不揮発性物質としては、粗塵、虫、鉱物、土砂、草木、ガラ、金属屑等、並びに、ナトリウム化合物、燐酸化合物、及びカルシウム化合物等の脱硝触媒の阻害物質が挙げられる。脱硝触媒の阻害物質としては、具体的には、NaCl、PbSO、Ca(PO等が挙げられる。粗大物除去手段21は、完全に昇華されないまま昇華手段22から流出した粒子径10μm以上の微細な塩化アンモニウム粒子をも除去することができる。粗大物除去手段21は、管路により連結される昇華手段22の後段に設置される。粗大物除去手段21の後段には、管路により連結される塩化アンモニウム供給手段16が設けられる。粗大物除去手段21は、好ましくは、サイクロン、電気集塵機、及びバグフィルタ等の集塵機である。粗大物除去手段21は、好ましくは、粒子径20μm以上、より好ましくは粒子径10μm以上までの大きさの微細な粗大物を除去することができる。塩化アンモニウム前処理手段2は、全体として、塩化アンモニウムを昇華し、粗大物を除去する。
【0044】
塩化アンモニウム供給手段16は、昇華手段22によって昇華された塩化アンモニウムの昇華ガスを、煙道26内を流れる排ガス中に供給する装置である。塩化アンモニウム供給手段16は、エコノマイザー10と還元脱硝手段3とを連結する煙道26内において設置される。塩化アンモニウム供給手段16は、排ガスが直線的に流れる煙道26の直線領域において設置されることが好ましい。塩化アンモニウム供給手段16は、昇華ガスを排ガスに混合することができるものであれば、特に限定されない。塩化アンモニウム供給手段16は、好ましくは、複数のノズルを備える噴射グリッド等を用いることができる。昇華手段22と塩化アンモニウム供給手段16とを連結する管路、及び塩化アンモニウム供給手段16が備えるノズル等の内部は、定期的に水洗浄し、乾燥後に昇華された塩化アンモニウムの昇華ガスを通すことが好ましい。
【0045】
エコノマイザー10は、排ガスから熱エネルギーを回収してボイラ1への給水を予熱する装置である。エコノマイザー10は、ボイラ1の後段に設けられており、エコノマイザー10の後流側には、煙道26により連結される塩化アンモニウム供給手段16が設置される。
【0046】
NH供給手段11は、NHタンクからNHを排ガスに注入する。NH供給手段11は、煙道に接続される。NH供給手段11としては、アンモニア注入グリッドを使用することができる。NH供給手段11は、好ましくは、NHガスを煙道内に噴霧する。NH供給手段11は、塩化アンモニウム供給手段16と還元脱硝手段3とを連結する煙道に接続されている。NH供給手段11は、エコノマイザー10と塩化アンモニウム供給手段16とを連結する煙道に接続されていてもよい。
【0047】
エコノマイザー10と塩化アンモニウム供給手段16とを結ぶ煙道26内、及び、NH供給手段11と還元脱硝手段3とを結ぶ煙道内には、整流装置12が設けられている。整流装置12は、排ガスの流れを整流し、流速分布を平準化する装置である。整流装置12は、煙道の屈曲する領域に設置される場合は、屈曲により排ガスの流速が損なわれるのを防ぐことができる。整流装置12としては、ガイドベーン、管群等を用いることができる。これにより、排ガスの流速分布が平準化され、濃度分布のばらつきをなくすことができるため、より高効率で塩化アンモニウムと水銀と反応させることができるとともに、反応に用いられない塩化アンモニウムが生じるのを防止することができる。
【0048】
本実施の形態による塩化アンモニウム前処理手段2は、別の例において、希釈手段(図2には示さず)をさらに備えていてもよい。希釈手段は、塩化アンモニウムの昇華ガスを希釈するため、高温の空気等の気体を昇華ガスに混合し、昇華ガスの濃度を減少させるものである。希釈手段は、好ましくは、管路を介して昇華手段22と接続される。希釈手段は、希釈用気体を昇華手段22に送り、昇華手段22内の昇華ガスと混合する。希釈用の気体としては、空気以外に、水蒸気を使用することができ、又は煙道内を流れる排ガスを再利用してもよい。再利用の排ガスを希釈用気体として使用する場合は、予めホットサイクロン等により、排ガス中の塵を除去しておくことが好ましい。希釈手段は、好ましくは、昇華ガスの濃度を、好ましくは10,000〜100,000ppmに希釈することができる。ここで、昇華ガスとは、塩化アンモニウムが昇華して生成するガスであり、NHClが解離して生じた等モルのNHとHClを含有するガスである。よって、昇華ガスの濃度は、NHとHClの各々の濃度と等しくなる。希釈手段としては、例えば、ブロア、排ガスのバイパス配管等を用いることができる。
【0049】
次に、本実施の形態に係る排ガスの水銀除去システムを用いた水銀除去方法の一形態を説明する。本実施形態による方法は、固体状の塩化アンモニウムを別置の気化器で昇華する工程と、塩化アンモニウムから粗大物を除去する工程と、塩化アンモニウムを排ガスに供給する工程と、塩化アンモニウムが供給された排ガスを脱硝触媒に接触させる工程と、 脱硝触媒と接触させた排ガスをアルカリ吸収液に接触させる工程とを含む。本実施形態の水銀除去システムによれば、塩化アンモニウムの昇華ガスが煙道内の排ガスに供給される。
【0050】
本実施の形態においては、固体状の塩化アンモニウム101を原料供給手段23により昇華手段22(気化器)に供給する。昇華手段22(気化器)に供給される固体状の塩化アンモニウムは、好ましくは塩化アンモニウムの粒子である。粒子の大きさは特に限定されないが、好ましくは、粒径が0.1〜3mmであり、より好ましくは、0.1〜1mmである。粒径が小さい程、昇華に要する時間を短縮することができる。固体状の塩化アンモニウムを別置の気化器で昇華する工程では、独立の気化器により、固体状の塩化アンモニウムを加熱し、昇華する。加熱温度は、好ましくは400℃以上である。かかる工程によって塩化アンモニウムは昇華し、昇華ガスを生じる。
【0051】
昇華せずに残った不揮発性物質の大部分は、昇華手段22の内部に粗大物として残存する。塩化アンモニウムに混入している不揮発性物質の例としては、粗塵、土砂等の他に、NaCl、PbSO、Ca(PO等の化合物がある。これらの化合物は、脱硝触媒における水銀酸化を阻害する特性をもつことから、煙道内に供給する前に除去することが好ましい。本実施の形態では、これらの化合物を不揮発性物質として昇華手段22の内部に残留させることによっても除去することができる。昇華手段22に蓄積する不揮発性物質等の粗大物102は、定期的に、昇華手段22より引き抜き、除去する。
【0052】
本実施形態の方法は、昇華する工程の後に、又は昇華する工程と同時であって、粗大物を除去する工程の前に、塩化アンモニウムの昇華ガスを希釈する工程を含んでいてもよい。昇華手段22で昇華した昇華ガスの濃度を低下させると、温度低下に伴う塩化アンモニウムの析出を防止できるという点で有利だからである。昇華ガスを希釈する工程では、昇華ガスに希釈用気体を混合する。昇華ガスの希釈は、好ましくは、昇華ガスの濃度が10,000ppmを超える場合に行われる。
【0053】
希釈用気体は、昇華ガスに混合する前に、好ましくは240℃以上、さらに好ましくは365℃以上に予め昇温しておく。昇華ガスの温度が低下して塩化アンモニウムが析出するのを防止するためである。図3に、塩化アンモニウムが分解して生じたNHとHClの気固平衡を表すグラフを示す。グラフでは、昇華ガスを希釈用気体により希釈しない場合の昇華ガスの濃度が、1,000,000ppmとして示されており、ガスの温度が365℃より低下すると、塩化アンモニウムの固体が析出することがわかる。昇華ガスを希釈用気体により希釈し、昇華ガス濃度を20,000ppmとした場合、昇華ガスと希釈用気体の混合ガスの温度が240℃より低下すると塩化アンモニウム固体が析出する。このように、ガス温度が低下して固体状の塩化アンモニウムが析出すると、ノズル等の塩化アンモニウム供給手段16の詰まりの原因となるとともに、塩化アンモニウムが反応に用いられずに残る原因となる。
【0054】
希釈後の昇華ガスの濃度は、好ましくは、10,000〜100,000ppmである。排ガスに供給される昇華ガスの濃度が100,000ppmを超えると、高濃度による塩化アンモニウムの析出や、煙道への昇華ガス供給量が少なくなるため濃度分布を平準化し難い場合があり、10,000ppm未満であると煙道への昇華ガス供給量が多くなるため排ガス量が増加する場合があるからである。
【0055】
昇華ガスを、任意に希釈した後、管路を介して粗大物除去手段21に流入させる。塩化アンモニウムから粗大物を除去する工程では、昇華ガスに混入している粗大物を粗大物除去手段21により除去する。除去される粗大物としては、昇華工程で除去されなかった不揮発性物質であって、粗塵、土砂等、及びNaCl、PbSO、Ca(PO等の化合物が挙げられる。好ましくは、20μm以上、より好ましくは10μm以上までの大きさの粗大物を除去することができる。この工程により、塩化アンモニウムに混入する粗大物が、粗大物除去手段21より後流側の、塩化アンモニウム供給手段16、煙道26等に流入するのを阻止することができ、粗大物による閉塞・磨耗を防止できる。さらに、脱硝触媒の阻害物質を除去することによって、脱硝触媒における水銀酸化を効率的に行わせることができる。
【0056】
塩化アンモニウムを排ガスに供給する工程では、粗大物除去後の昇華ガスを、塩化アンモニウム供給手段16により煙道26内に供給し、排ガスと混合する。塩化アンモニウムの供給は、好ましくは、煙道26内に昇華ガスを噴射することにより行う。昇華ガスの供給後における昇華ガスの濃度は、排ガス中において10〜1000ppmとなることが好ましい。より好ましくは、10〜200ppmである。排ガス中の昇華ガスの濃度が過剰であると、未反応の塩化アンモニウムが増加する場合があり、不足していると還元脱硝手段3での水銀の酸化と窒素酸化物の還元脱硝が減少する場合があるためである。
【0057】
本実施形態による方法は、NHをNH供給手段11により排ガス中に供給する工程を含んでいてもよい。この工程により、塩化アンモニウムの分解によって生じるNHのみでは、排ガス中の窒素酸化物を還元するのに不十分である場合に、NHを補充することができる。NHの供給は、煙道内におけるNH/NOモル比が0.9より低いときに行われることが好ましい。煙道内におけるNH/NOモル比が0.9より低いと、窒素酸化物の還元が十分に行われず、還元されずに残った窒素酸化物が煙道7より排出される場合があるためである。NHの供給は、エコノマイザー10と還元脱硝手段3とを結ぶ煙道26内において行う。NHは塩化アンモニウムを排ガス中に供給した後に供給することが好ましい。あるいは、NHは塩化アンモニウムを排ガス中に供給する前に供給してもよい。NHを供給後の煙道26内の排ガス中では、好ましくは、NH/NOモル比が0.9〜1.0である。
【0058】
その後に続く、排ガスを脱硝触媒に接触させる工程と、脱硝触媒と接触させた排ガスをアルカリ吸収液に接触させる工程は、第一の実施形態と同様にして行うことができる。
【0059】
次に図4に、第二の実施形態の具体例として、昇華手段22としてキルン炉221を使用する場合の塩化アンモニウム前処理手段2を説明する。図4に示される塩化アンモニウム前処理手段2は、サイロ13、スクリューフィーダー14、キルン炉221、バーナー222、燃料タンク223、ブロア24、ホットサイクロン211を備える。
【0060】
図4において、サイロ13、及びスクリューフィーダー14は、原料供給手段16を構成する。サイロ13は、塩化アンモニウム101を蓄積し、スクリューフィーダー14はサイロ13からキルン炉221に塩化アンモニウム101を供給する。原料供給手段23の後段には、キルン炉221が設けられている。キルン炉221の内部には、燃料タンク223と管路により連結されるバーナー222が設置される。粗大物102は、キルン炉221から排出されるものである。キルン炉221は、回転しながら、炉内の塩化アンモニウム101を攪拌及び移送しながら、加熱し昇華させる。
【0061】
キルン炉221には、さらに、ブロア24が連結される。ブロア24は、希釈手段を構成し、昇華ガスを空気により希釈する。
【0062】
ホットサイクロン211は、キルン炉221の後段に設けられており、キルン炉221と管路により連結される。ホットサイクロン211は、粗大物除去手段21を構成し、塩化アンモニウムの昇華ガスと空気との混合物から粗大物を除去する。ホットサイクロン211の後段には、塩化アンモニウム供給手段16(図示せず)が接続されている。
【0063】
図4の塩化アンモニウム前処理手段2による塩化アンモニウムを前処理する工程は、固体状の塩化アンモニウム101をキルン炉221で昇華する工程と、塩化アンモニウムの昇華ガスを空気により希釈する工程と、塩化アンモニウムから粗大物を除去する工程とを順に含む。
【0064】
サイロ13から投入する塩化アンモニウム101をスクリューフィーダー14によりキルン炉221に供給する。塩化アンモニウムをキルン炉221で昇華する工程では、固体状の塩化アンモニウム101を、燃料タンク223から燃料を供給されるバーナー222が放出する熱により、キルン炉221内部で加熱し昇華する。キルン炉221の炉内は、好ましくは400℃以上とする。塩化アンモニウムの昇華ガスを空気により希釈する工程では、ブロア24によりキルン炉221の炉内に空気106を供給し、昇華ガスと混合する。好ましくは、空気106は、バーナー222により400℃以上に加熱してキルン炉221の炉内に供給する。粗大物を除去する工程では、昇華ガスを空気により希釈された昇華ガス104に含まれる粗大物をホットサイクロン211により、分離・除去する。これにより、キルン炉221でガス化しなかった不揮発性物質を粗大物として除去することができる。好ましくは、10μmまでの大きさの粗大物をホットサイクロン211により除去することができる。粗大物を除去した後、希釈昇華ガス104は、塩化アンモニウム供給手段16に送り、煙道内の排ガスに供給する。
【0065】
次に、図5に、粗大物除去手段21の具体例として、ホットサイクロン211の拡大図を示す。図5は、一般的なホットサイクロン211の側面図である。ホットサイクロン211は、重力と遠心力により希釈された昇華ガス104から粗大物を分離・除去することができる。粗大物を含む希釈昇華ガス104をホットサイクロン211に流入させると、サイクロン内部において、希釈昇華ガス104は旋回流Bとなって下降する。これと共に、希釈昇華ガス104に混入する粗大物Eは遠心力により外壁に向かい、下降流Cによりサイクロン下部に送られ排出される。希釈昇華ガス104はサイクロン221下部において反転し、サイクロン211内部を円柱状の反転流Dとなって上昇する。サイクロン211内部を上昇した希釈昇華ガス104は、サイクロン211上部より排出される。サイクロン211上部では、二次流れの渦Aが生じる。サイクロン211から排出されたガスは、例えば粒径10μm以上の微細な粗大物Eが除去された希釈昇華ガス104となっている。
【0066】
図4及び図5に説明する塩化アンモニウム前処理手段2によれば、塩化アンモニウムの昇華ガスから粒径10μm以上までの微細な不揮発性物質等の粗大物が除去される。また、昇華ガスは空気により希釈されているため、塩化アンモニウムが固体として析出しにくくなっている。従って、粗大物や析出した塩化アンモニウムといった固体状の物質が塩化アンモニウム前処理手段2から流出しないため、塩化アンモニウム供給手段16が備えるノズル、及び煙道26等の装置が閉塞・磨耗するのを防止することができる。
【0067】
第二の実施の形態の水銀除去システム及び水銀除去方法によれば、塩化アンモニウムの昇華ガスから粗大物が予め除去されていることにより、ノズル等を備える塩化アンモニウム供給手段16において閉塞・磨耗の問題が生じない。また、塩化アンモニウムの昇華ガスから水銀酸化を阻害するNaCl等の不揮発性物質が除去され、煙道内に供給されないため、脱硝触媒における水銀酸化をより高効率で行うことができ、水銀除去率を高めるという効果も奏する。さらに、従来技術のように塩化アンモニウム水溶液を蒸発させて用いる場合は、水溶液の大部分を占める水の昇温と蒸発潜熱が必要熱量の3分の2にのぼり、蒸発に大きなエネルギーを費やす必要があったが、本実施の形態では固体状の塩化アンモニウムを昇華して用いるため、必要なエネルギーを低減させることができる。また、塩化アンモニウムが固体または水溶液として排ガスに供給されると、煙道内で濃度分布にむらができるという問題があったが、本実施の形態では昇華ガスとして排ガスに供給されるため、煙道内で濃度分布が容易に均一になり、より効率的な水銀除去を行うことができるという効果を奏する。
【0068】
図6は本発明に係る水銀除去システムの第三の実施形態の主要部を示す。本発明の第三実施形態によるシステムは、エコノマイザー10、重力沈澱槽212、水タンク27、塩化アンモニウム供給手段16、空気圧縮機25、攪拌手段15、NH供給手段11、還元脱硝手段3、エアヒータ4、湿式脱硫手段6、煙突7を備えている。図6では、エアヒータ4より後流側に設けられる湿式脱硫手段6、煙突7は省略されている。なお、同一番号を付した構成要素は、同一の構成・作用を持つ。本実施の形態では、粗大物除去手段として、重力沈澱槽212を備えている。また、塩化アンモニウム供給手段16は、煙道26内に供給された塩化アンモニウム水溶液の液滴が煙道の内壁に付着しない構造を有する。さらに、本実施の形態の水銀除去システムは、供給された塩化アンモニウム水溶液の気化ガスと、排ガスとを攪拌する攪拌手段15を備えている。
【0069】
重力沈澱槽212は、塩化アンモニウム水溶液107から水不溶性の粗大物を重力沈降による固液分離により除去可能な装置である。本実施形態の粗大物除去手段である重力沈澱槽212により除去される粗大物102とは、粗塵、虫、鉱物、土砂、草木、ガラ、金属屑等の水不溶性物質である。重力沈澱槽212は、好ましくは、100μm以上、より好ましくは10μmまでの大きさの微細な粗大物を除去することができる。重力沈澱槽212は、管路により連結される塩化アンモニウム供給手段16の前段に設けられる。重力沈澱槽212の前段には、管路により接続される溶解槽又は希釈槽(図示を省略)が設けられていてもよい。溶解槽は、固体状の塩化アンモニウムを水に溶解して塩化アンモニウム水溶液107を調製するために用いられるものであり、希釈槽は、塩化アンモニウム水溶液107を希釈するために用いられるものである。
【0070】
本実施形態の水銀除去システムは、重力沈澱槽212の代わりに、又は重力沈澱槽212に加え、液体サイクロン、膜分離装置、及びスクリーンからなる群から選択される1つ以上を備えていてもよい。液体サイクロン、膜分離装置、及びスクリーンは、一般に10〜100μm以上の大きさの粗大物を除去できることが知られており、重力沈澱槽212と同等に用いることができる。本実施形態の水銀除去システムがこれらの装置の全てを備える場合は、重力沈澱槽212→スクリーン→液体サイクロン→膜分離装置の順、又はスクリーン→重力沈澱槽212→液体サイクロン→膜分離装置の順に、前段側から管路を介して設置されることが好ましい。
【0071】
水タンク27は、塩化アンモニウム供給手段16と、水タンク27から塩化アンモニウム供給手段16に至る管路を洗浄する水洗浄機構である。水タンク27は、塩化アンモニウム供給手段16に備わる噴霧ノズル等の噴霧手段を洗浄し、詰りを防止する。水タンク27は、重力沈澱槽212と塩化アンモニウム供給手段16とを結ぶ管路の途中に接続されている。水タンク27には、水タンク27と重力沈澱槽212とを接続する希釈ライン29が設けられている。水タンク27は、希釈ライン29を通して重力沈澱槽212に水を供給し、塩化アンモニウム水溶液を希釈するためにも用いることができる。希釈ライン29は、水銀除去システムの運転上支障がない限り設けられていなくてもよい。また、塩化アンモニウム供給手段16に送られる塩化アンモニウム水溶液の濃度を監視する濃度監視装置等を溶解槽又は希釈槽に設けることが好ましい。
【0072】
塩化アンモニウム供給手段16は、塩化アンモニウム水溶液を排ガス中に供給する装置である。塩化アンモニウム供給手段16は、好ましくは、複数の噴霧手段を備えている。塩化アンモニウム供給手段16は、エコノマイザー10の後流側であって、攪拌手段15の前流側の煙道26内に設けられている。塩化アンモニウム供給手段16は、排ガスが直線的に流れる煙道26の直線領域において設置されることが好ましい。煙道の屈曲部分では、排ガスの流速分布が均一でないため、かかる部分に塩化アンモニウム供給手段16を設置すると塩化アンモニウムの濃度分布も均一でなくなるためである。塩化アンモニウム濃度が不均一である場合、濃度が高い部分では、過剰な分が水銀の酸化反応に用いられることがなく、濃度が低い部分では塩化アンモニウムが不足し、十分に水銀を酸化することができない。塩化アンモニウム供給手段16としては、例えば、複数の噴霧ノズル等の噴霧手段を備える噴霧グリッドを使用することができる。塩化アンモニウム供給手段16に備わる噴霧手段としては、好ましくは、二流体ノズル、ネブライザ等を用いることができる。噴霧手段は、噴霧される液滴の径を、80μm以下とすることができるものが好ましく、さらに好ましくは、40μm以下の液滴径で噴霧可能なものである。噴霧ノズル等のヘッダ管の端部は、バルブ、ゲートにより開閉可能な構造とすることが好ましい。ヘッダ管内に堆積する堆積物を除去可能とし、ノズル等の閉塞を防止するためである。
【0073】
塩化アンモニウム供給手段16には、空気圧縮機25が接続されている。空気圧縮機25は、空気108を圧縮し、圧縮空気を塩化アンモニウム供給手段16に供給する装置である。塩化アンモニウム供給手段16は、空気圧縮機25より供給された圧縮空気によって塩化アンモニウム水溶液を液滴として排ガス中に噴霧する。
【0074】
本実施形態による塩化アンモニウム供給手段16は、塩化アンモニウム水溶液を排ガスが流通する煙道の内壁に付着しないように供給する構造を有する。塩化アンモニウム水溶液は、排ガス中に噴霧されると、排ガスの熱によって蒸発して気化ガスとなる。塩化アンモニウム水溶液は、蒸発後、さらにNHとHClに解離するが、このHCl成分が排ガス中の水分と共に煙道内壁に付着すると腐食を起こすためである。塩化アンモニウム水溶液を排ガスが流通する煙道の内壁に付着しないように供給する構造とは、好ましくは、塩化アンモニウム供給手段16が備える噴霧ノズル等の噴霧手段が、煙道26内において、煙道内壁面から一定以上の距離を置いて配置される構造である。一定以上の距離とは、噴霧される液滴が噴霧手段から煙道内壁面に到達する前に気化するのに十分な距離である。あるいは、塩化アンモニウム水溶液を排ガスが流通する煙道の内壁に付着しないように供給する構造は、噴霧される液滴が到達しうる煙道内壁面の内側に内壁と二重管を構成するように設けられた隔壁を備える構造であってもよい。以下に、塩化アンモニウム供給手段16の構造の具体例を説明する。
【0075】
図7に、塩化アンモニウム供給手段16の構成の一例を示す。図7を参照すると、塩化アンモニウム供給手段16は、塩化アンモニウム溶液導入管162、及び複数の噴霧手段161により構成される。塩化アンモニウム溶液導入管162は、重力沈澱槽212からの塩化アンモニウム水溶液を噴霧手段161に供給する管状の装置である。塩化アンモニウム溶液導入管162は、煙道壁263を貫通して設置され、排ガス流109の方向と略直角を成すように配置される。また、噴霧手段161は、塩化アンモニウム溶液導入管162上に、噴霧手段161の噴出口を排ガス流109の後流側に向けて設置される。噴霧手段161は、塩化アンモニウム導入管162上に複数設けられている。塩化アンモニウム溶液導入管162は、好ましくは、煙道内において、格子を形成し、塩化アンモニウム溶液導入管162上に備わる複数の噴霧手段161と共に、噴霧グリッドを形成する。
【0076】
噴霧手段161である噴霧ノズルは、煙道内壁面262から一定以上の距離を置いて配置される。噴霧手段161によって噴霧された液滴は、噴霧角度αを持って中実円錐状に広がる。液滴は、排ガスの流れに伴って後流側に移動し、その後蒸発する。また、一部の液滴、例えば噴霧角が大きく、径が大きい液滴は、ガス流れにのらず、煙道内壁面262に衝突する。噴霧液滴が煙道内壁面262に付着するのを防止するため、各噴霧手段161の設置位置は、排ガス流速が約15m/sの場合において、煙道内の全ての内壁面262から、排ガス流109に垂直な方向に0.5〜2.0mの距離とすることが好ましい。より好ましくは、噴霧手段161は、煙道内の全ての内壁面262から排ガス流109に垂直な方向に0.5〜1.5mの距離を離して設置される。但し、噴霧される液滴径、排ガスの流速、渦流、噴霧角度などのばらつきを考慮すると、噴霧手段161は煙道内壁262からより大きな距離、例えば1.0〜1.5mを離して設置されることが好ましい。
【0077】
煙道の断面積が大きく、噴霧手段161と煙道内壁面262との距離を大きくできる場合は、噴霧角度αの大きいノズルを選定することができる。煙道の断面積が小さく、噴霧手段161と煙道内壁面262との距離が短い場合は、噴霧角度αの小さいノズルを選定することが好ましい。しかし、噴霧角度αは、ノズル仕様や噴霧条件により変化するものであり、また脈動によってばらつくので特定の噴霧角度αに限定されるものではない。噴霧角度αが大き過ぎる場合は、径が大きい噴霧液滴がガス流れに乗らず、蒸発する前に煙道内壁面262に衝突する場合があるが、噴霧角度αが小さいと、噴霧液滴が排ガスと効率的に混合されない場合がある。
【0078】
ここで、図8に、塩化アンモニウム水溶液の液滴が煙道内において蒸発するまでにかかる時間を液滴径との関係で予測したグラフを示す。液滴蒸発のシミュレーション計算は、排ガス温度が350℃、塩化アンモニウム導入時の初期液滴温度が20℃の条件で行った。図8を参照すると、液滴径が40μmである場合、煙道内で蒸発するまでに0.032秒の時間を要する。従って、塩化アンモニウムの液滴が噴霧ノズル等の噴霧手段から噴霧された後、煙道内壁面262に至るまでに、少なくとも0.032秒以上の時間を要するように噴霧手段161を配置する必要がある。噴霧液滴は、互いに接触して合体する場合もあり、実際には蒸発するまでにこれより長い時間がかかる場合がある。このため、0.032秒の約3倍の時間として、少なくとも0.1秒の時間をかけて噴霧液滴が煙道内壁面262に至るような位置に噴霧手段161を設置するとして計算することができる。
【0079】
噴霧手段161の設置位置は、一例として、具体的には以下のように決定できる。煙道内排ガス流速が15m/sである場合、噴霧から蒸発にかかる時間である0.1秒の間に噴霧液滴が飛行する距離は、噴霧手段161から排ガス流109と平行の向きに1.5mであると計算される。噴霧角度αが排ガス流109の方向に対し12.5°である場合、噴霧液滴は、噴霧の0.1秒後には、噴霧手段161から排ガス流109に垂直な方向に最大で0.335m離れた位置まで到達する。この値は1.5×tan12.5という計算式により算出される。従って、この場合は、噴霧手段161を、煙道の全ての内壁面262から、排ガス流109に垂直な方向に0.335mより大きい距離をおいて設置することができる。また、噴霧角度αが排ガス流109の方向に対し27.5°である場合、噴霧液滴は、噴霧の0.1秒後には、噴霧手段161から排ガス流109と垂直な方向に最大で0.78m離れた位置まで到達する。この値は、1.5×tan27.5の計算式により算出される。かかる場合は、噴霧手段161を、煙道内の全ての内壁面262から、排ガス流109に垂直な方向に0.78mより大きい距離を置いて設置することができる。排ガス流速や温度条件が異なる場合があっても、上述のようにして噴霧手段161の設置位置を決定することができる。
【0080】
塩化アンモニウム供給手段16は、他の例において、噴霧手段161と塩化アンモニウム溶液導入管162と隔壁163とから構成される。図9は、塩化アンモニウム供給手段16と、その近傍の煙道26の拡大図を示す。噴霧手段161と塩化アンモニウム溶液導入管162は図8で説明したものと同様のものが用いられる。
【0081】
隔壁163は、塩化アンモニウムの液滴が煙道内壁面262に付着するのを防ぐものである。隔壁163は、煙道内壁面262と部分的に二重管を形成するように設置される。複数の噴霧手段161は全て、二重管部分の内部に位置する。図示する形態において、隔壁163は、塩化アンモニウム溶液導入管162の位置から、液滴蒸発位置264まで設置される。ここで、噴霧液滴が全て蒸発し気化ガスとなる位置を、液滴蒸発位置264と設定する。塩化アンモニウム溶液導入管162から液滴蒸発位置264までの煙道内では、大部分の液滴が蒸発しない状態で存在し、液滴蒸発位置264より後流の煙道内ではほぼ全ての液滴が蒸発したガスとして存在する。液滴蒸発位置264は、噴霧液滴の液滴径が約40μm、排ガス流速が約15m/sである場合、噴霧手段161から排ガス流109と平行な向きに1.5mの位置と計算される。但し、液滴蒸発位置264は、噴霧される液滴径、排ガスの流速、渦流、噴霧角度などに依存して変化することを考慮すると、液滴蒸発位置は、例えば1.0〜4.0mと予測される。従って、具体的には、隔壁163は、塩化アンモニウム溶液導入管162の位置から後流に1.0〜4.0m、より好ましくは2.0〜2.5mの位置まで設置される。隔壁163は、塩化アンモニウム溶液導入管161に固定されていてもよい。隔壁163は、耐腐食性材料で形成されていることが好ましい。耐腐食性の材料としては、ステンレス鋼、ニッケル合金等が挙げられる。
【0082】
隔壁163は、腐食により劣化する場合があり、定期的に交換することができる。塩化アンモニウム供給手段16が隔壁163を有していることにより、低温度の液滴が320〜380℃という高温度の煙道内壁面262に付着することを防止することができ、熱収縮による煙道壁の割れや腐食を防止することができる。
【0083】
ここでは一例として、塩化アンモニウム供給手段16が噴霧手段161の設置位置を特定の位置にした形態、隔壁163を備える形態を説明したが、塩化アンモニウム供給手段16がこれらの両方を備える形態であってもよい。
【0084】
図6を参照すると、攪拌手段15は、塩化アンモニウム水溶液の気化ガスと排ガスとを攪拌する装置である。攪拌手段15は、塩化アンモニウム供給手段16と還元脱硝装置3を結ぶ煙道内に設けられる。攪拌手段15は、煙道の直線部分に設置されることが好ましい。屈曲部分と比較して,施工及び保守が容易なためである。攪拌手段15の設置位置は、好ましくは、塩化アンモニウム供給手段16により供給された塩化アンモニウム水溶液の液滴が蒸発する位置よりも後流側である。噴霧液滴が蒸発して生じるガスと排ガスとを攪拌することにより、液滴の状態のまま排ガスと攪拌するよりもより効果的に濃度分布を均一にすることができるためである。攪拌手段15としては、好ましくは、ミキサーが用いられる。ミキサーはガスの攪拌に通常使用されるものとすることができる。また、攪拌手段15は、複数のミキサーを備えていてもよい。攪拌手段15により、排ガス中における塩化アンモニウム水溶液の気化ガスの濃度分布を均一化することができ、水銀の塩素化効率を上昇させることができる。
【0085】
ボイラ1、エコノマイザー10、整流装置12、NH供給手段11、還元脱硝手段3、エアヒータ4、湿式脱硫手段6、煙突7は、第二の実施形態で説明したものと同様のものとすることができる。
【0086】
次に、本実施の形態に係る排ガスの水銀除去システムによる水銀除去方法の一形態を説明する。本実施形態による方法は、塩化アンモニウム水溶液から重力沈降により粗大物を除去する工程と、煙道内の排ガスに粗大物除去後の塩化アンモニウム水溶液を、煙道の内壁に付着しないように供給する工程と、塩化アンモニウム水溶液を供給する工程の後に、塩化アンモニウム水溶液が蒸発したガスと排ガスとを煙道内で攪拌する工程と、塩化アンモニウムが供給された前記排ガスを脱硝触媒に接触させる工程と、脱硝触媒と接触させた排ガスを、アルカリ吸収液に接触させる工程とを含む。
【0087】
塩化アンモニウム水溶液107は、固体状の塩化アンモニウムを水に溶解して調製することができる。塩化アンモニウム水溶液107は、予め濃度調整したものをタンクローリ等により搬入し、重力沈澱槽212に供給してもよい。または、塩化アンモニウム水溶液107を、希釈槽(図示を省略)に供給した後に、必要に応じて希釈し、重力沈澱槽212に送ってもよい。この場合、重力沈澱槽212を希釈槽と兼用に用いてもよい。あるいは、塩化アンモニウムの粉体を溶解槽に供給し、溶解槽に水を投入して調製した塩化アンモニウム水溶液107を、重力沈澱槽212に送ってもよい。塩化アンモニウム粉体を溶解槽に供給するためには、第二実施形態で説明したサイロ及び供給フィーダー等の原料供給手段を用いることができる。塩化アンモニウム水溶液107の濃度は、0.01〜45質量%とすることが好ましく、0.01〜23質量%がより好ましい。
【0088】
塩化アンモニウム水溶液から粗大物を除去する工程では、重力沈澱槽212において、塩化アンモニウム水溶液107から、重力沈降により粗大物を除去する。重力沈降は、1秒〜24時間行うことが好ましい。本実施形態の方法において除去される粗大物としては、粗塵、虫、鉱物、土砂、草木、ガラ、金属屑等の水不溶性の不純物が挙げられる。粗大物除去工程では、できるだけ微細な粗大物まで除去できることが好ましく、100μm以上の大きさの粗大物を除去することが好ましい。この工程により、水に溶解しない固体状物を除去することができ、塩化アンモニウム供給手段16や煙道26等の装置の閉塞・磨耗を防止することができる。
【0089】
本実施形態による方法は、粗大物を除去する工程の前に、塩化アンモニウム水溶液を希釈する工程を任意に含んでいてもよい。塩化アンモニウム水溶液を希釈する工程では、水タンク27から重力沈澱槽212中の塩化アンモニウム水溶液に、希釈ライン29を通して水を供給することによって塩化アンモニウムの濃度を低減させる。好ましくは、塩化アンモニウム供給手段16に送られる塩化アンモニウム水溶液の濃度が0.01〜45質量%となるように、水を供給し、希釈する。これにより、煙道26内に供給される塩化アンモニウム水溶液の濃度を調節することができる。
【0090】
粗大物除去後の塩化アンモニウム水溶液を、煙道内の排ガスに供給する工程では、粗大物が除去された塩化アンモニウム水溶液を、塩化アンモニウム供給手段16が備える噴霧手段により排ガス中に霧状に噴霧する。好ましくは、塩化アンモニウム水溶液は、空気圧縮機25で圧縮した圧縮空気と共に排ガス中に噴霧する。噴霧された液滴の好ましい液滴径は、100μm以下であり、さらに好ましくは、40μm以下である。
【0091】
各噴霧手段161は、塩化アンモニウム水溶液を、噴霧手段161を頂点とする中実円錐の形状に噴霧する。このとき、塩化アンモニウム水溶液は、塩化アンモニウム水溶液が煙道の内壁面262に付着しないように供給する。煙道が腐食するのを防止するためである。塩化アンモニウム水溶液の供給は、図8及び図9を用いて説明した形態において行うことができる。
【0092】
塩化アンモニウム水溶液は、煙道26内における塩化アンモニウムの濃度が、排ガスに対し0.01〜200ppmとなるように、排ガス中に供給することが好ましい。
【0093】
塩化アンモニウム水溶液の液滴は、煙道26内の熱により昇温し、蒸発してガスを生成する。このガスを気化ガスという。気化ガスには、気体としてNHとHClが存在する。塩化アンモニウム水溶液の気化ガスと排ガスとを煙道内で攪拌する工程では、煙道26内に供給された塩化アンモニウム水溶液の気化ガスと排ガスとを、攪拌手段15により攪拌する。好ましくは、蒸発した塩化アンモニウムが解離して生じるNHとHClと排ガスとを攪拌手段15により攪拌する。この工程により、煙道内における塩化アンモニウム水溶液の気化ガス、及び塩化アンモニウムがさらに解離して生じるNHとHClの濃度分布を均一にすることができる。排ガスを脱硝触媒に接触させる工程と、排ガスをアルカリ吸収液と接触させる工程は、第二の実施形態と同様とすることができる。
【0094】
本実施の形態の水銀除去システム及び水銀除去方法によれば、塩化アンモニウム水溶液から予め粗大物を除去する。このため、噴霧ノズル等が、閉塞・磨耗するのを防止することができる。塩化アンモニウム水溶液は、煙道内の排ガスにより気化されるため、外部から熱を供給する必要がなく、排ガスの処理に必要なエネルギー量を削減することができる。また、塩化アンモニウムと排ガスは、煙道内で攪拌し、濃度分布を均一化することにより高効率に排ガス中の水銀を酸化することができるという効果を有する。さらに、煙道内壁に塩化アンモニウムの液滴が付着しないため、腐食を防止し、排ガス処理施設の耐久性を高め、寿命を向上させることができる。
【0095】
次に、図10は本発明に係る排ガスの水銀除去システムの第四の実施形態の主要部を示す。本実施の形態の水銀除去システムは、エコノマイザー10、重力沈澱槽212、水タンク27、分離手段213、塩化アンモニウム水溶液タンク28、塩化アンモニウム供給手段16、空気圧縮機25、攪拌手段15、NH供給手段11、還元脱硝手段3、エアヒータ4、湿式脱硫装置6、煙突7を備えている。図10では、エアヒータ4より後流側の湿式脱硫手段6、煙突7は省略されている。同一番号を付した構成要素は、同一の構成・作用を持つ。本実施形態の水銀除去システムは、第三実施形態のシステムに加えて、分離手段213と塩化アンモニウム水溶液タンク28とをさらに備えている。
【0096】
分離手段213は、重力沈澱槽212により粗大物を除去した塩化アンモニウム水溶液から、さらに重力沈澱槽212では除去されなかった粗大物を除去する装置である。分離手段213は、重力沈澱槽212よりもさらに微細な粒子を分離・除去することができる。分離手段213は、重力沈澱槽212と塩化アンモニウム供給手段16を結ぶ管路の途中に設置される。分離手段213としては、液体サイクロン、膜分離装置、スクリーン等から選択される一以上の組み合わせを用いることができる。分離手段213として、これら全ての装置の組み合わせを用いる場合、重力沈澱槽212→スクリーン→液体サイクロン→膜分離装置の順に、前段側から管路を介して設置されることが好ましい。分離手段213は、100〜1μmまでの大きさの粗大物を除去できることが好ましい。
【0097】
塩化アンモニウム水溶液タンク28は、分離手段213により粗大物と共に分離された塩化アンモニウム水溶液を回収・貯留し、分離手段213に再流入させるための装置である。塩化アンモニウム水溶液タンク28は、分離手段213と管路により連結されている。さらに、塩化アンモニウム水溶液タンク28は、重力沈澱槽212と分離手段213とを結ぶ管路の途中に管路により連結されている。
【0098】
ボイラ1、エコノマイザー10、整流装置12、NH供給手段11、重力沈澱槽212、水タンク27、空気圧縮機25、塩化アンモニウム供給手段16、攪拌手段15、還元脱硝手段3、エアヒータ4、湿式脱硫手段6、煙突7は、第三の実施形態で説明したものと同様のものとすることができる。
【0099】
本実施の形態に係る排ガスの水銀除去システムによる水銀除去方法の一形態を説明する。本実施形態による方法は、塩化アンモニウム水溶液107から重力沈降により粗大物を除去する工程の後に、塩化アンモニウム水溶液から分離手段213により粗大物を除去する工程を含む点で第三の実施形態と異なる。
【0100】
塩化アンモニウムから分離手段213により粗大物を除去する工程では、重力沈降により粗大物が除去された塩化アンモニウムから、さらに粗大物を分離・除去する。粗大物の除去には、液体サイクロン、膜分離装置、スクリーン等の装置から選択される一以上の組み合わせを用いることができる。これにより、重力沈降よりさらに微細な粒子も除去することができる。分離手段213により粗大物と共に分離された塩化アンモニウム水溶液は、塩化アンモニウム水溶液タンク28に回収・貯留し、分離手段213に再流入させてもよい。粗大物除去後の塩化アンモニウム水溶液を煙道内の排ガスに供給する工程と、排ガスを脱硝触媒に接触させる工程と、排ガスをアルカリ吸収液に接触させる工程は、第三の実施形態と同様とすることができる。
【0101】
本実施の形態に係る排ガスの水銀除去システム及び水銀除去方法において、塩化アンモニウム水溶液は、重力沈澱槽212により粗大物を除去した後に、さらに、分離手段213により粗大物を除去する。重力沈澱槽212でも、大半の粗大物を除去可能だが、重力沈降させる時間が十分でない場合や、重力沈降では分離除去できない粒径が小さく密度の低い微粒子等が存在する場合に効果的である。本実施の形態の水銀除去システムによれば、塩化アンモニウム水溶液から粗塵、虫、鉱物、土砂、草木、ガラ、金属屑のような粗大物まで除去されるため、噴霧ノズルが閉塞し難いという効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の水銀除去システム及び水銀除去方法は、石炭や重油等の化石燃料の燃焼によって生じる排ガスの水銀除去処理に採用することができる。
【符号の説明】
【0103】
1 ボイラ
2 塩化アンモニウム前処理手段
3 還元脱硝手段
4 エアヒータ
5 電気集塵機
6 湿式脱硫手段
7 煙突
8 ベルトフィルター
9 石膏
10 エコノマイザー
11 NH供給手段
12 整流装置
13 サイロ
14 スクリューフィーダー
15 攪拌手段
16 塩化アンモニウム供給手段
21 粗大物除去手段
22 昇華手段
23 原料供給手段
24 ブロア
25 空気圧縮機
26 煙道
27 水タンク
28 塩化アンモニウム水溶液タンク
29 希釈ライン
100 水銀除去システム
101 塩化アンモニウム
102 粗大物
103 昇華ガス
104 希釈昇華ガス
105 燃料
106 空気
107 塩化アンモニウム水溶液
108 空気
109 排ガス流
110 塩化ナトリウム溶液
161 噴霧手段
162 塩化アンモニウム溶液導入管
163 隔壁
211 ホットサイクロン
212 重力沈澱槽
213 分離手段
221 キルン炉
222 バーナー
223 燃料タンク
262 煙道内壁面
263 煙道壁
264 液滴蒸発位置
A 二次流れの渦
B 旋回流
C 下降流
D 反転流
E 粗大物
α 噴霧角度


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化アンモニウムの前処理を行う塩化アンモニウム前処理手段と、
前処理された塩化アンモニウムを排ガスに供給する塩化アンモニウム供給手段と、
前記排ガス中の窒素酸化物の還元と、水銀の塩素化とを行う還元脱硝手段と、
前記排ガス中の硫黄酸化物と前記塩素化された水銀とをアルカリ吸収液により除去する湿式脱硫手段と
を備え、前記塩化アンモニウム前処理手段が、前記塩化アンモニウムから粗大物を除去する粗大物除去手段を備える排ガスの水銀除去システム。
【請求項2】
前記塩化アンモニウム前処理手段が、固体状の塩化アンモニウムを昇華する別置の昇華手段をさらに備え、
前記粗大物除去手段が集塵機である、請求項1に記載の水銀除去システム。
【請求項3】
前記塩化アンモニウム供給手段が、塩化アンモニウム水溶液を排ガスが流通する煙道の内壁に付着しないように供給する構造を有し、
前記粗大物除去手段が、重力沈澱槽、液体サイクロン、膜分離装置、及びスクリーンからなる群より選択される1つ以上を備え、
前記還元脱硝手段の前段に、塩化アンモニウムが供給された排ガスを攪拌する攪拌手段をさらに備える、請求項1に記載の水銀除去システム。
【請求項4】
前記粗大物除去手段が重力沈澱槽と、前記重力沈澱槽の後段に設けられた液体サイクロン、膜分離装置、及びスクリーンからなる群より選択される1つ以上とを備える、請求項3に記載の水銀除去システム。
【請求項5】
塩化アンモニウムから粗大物を除去する工程と、
粗大物が除去された塩化アンモニウムを排ガスに供給する工程と、
前記塩化アンモニウムが供給された前記排ガスを脱硝触媒に接触させる工程と、
前記脱硝触媒と接触させた排ガスを、アルカリ吸収液に接触させる工程と
を含む排ガスの水銀除去方法。
【請求項6】
前記塩化アンモニウムが固体状の塩化アンモニウムであり、
前記固体状の塩化アンモニウムを別置の気化器で昇華する工程を、粗大物を除去する工程の前にさらに含み、
前記排ガスに供給される塩化アンモニウムが塩化アンモニウムの昇華ガスである、請求項5に記載の水銀除去方法。
【請求項7】
前記塩化アンモニウムが、塩化アンモニウム水溶液であり、
前記塩化アンモニウムを排ガスに供給する工程が、前記塩化アンモニウム水溶液を前記排ガスが流通する煙道の内壁に付着しないように噴霧する工程であり、
前記塩化アンモニウムを排ガスに供給する工程の後に、前記塩化アンモニウム水溶液の気化ガスと前記排ガスとを煙道内で攪拌する工程をさらに含む、請求項5に記載の水銀除去方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−31212(P2011−31212A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182200(P2009−182200)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】