説明

排ガス浄化用触媒及びその製造方法

【課題】本発明は、排ガス浄化用触媒に関し、従来よりも触媒活性に優れ、特に一酸化窒素酸化力の高い触媒を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、触媒成分が担体に担持されている排ガス浄化用触媒において、前記触媒成分は、平均粒径が80〜120nmであり、粒子径分布における小粒径側からの積算分布20%の粒径D20が50nm以上で、且つ、積算分布90%の粒径D90が200nm以下の白金コロイドであることを特徴とする排ガス浄化用触媒に関する。本発明に係る排ガス浄化用触媒は、排ガス浄化の触媒活性が高く、特に一酸化窒素の酸化力の高いものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒及びその製造方法に関し、特に排ガス中に含まれる窒素酸化物を浄化する触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンやガソリンエンジン等の排ガス浄化には、触媒成分がハニカム構造体やフィルター等に担持されている排ガス浄化用触媒が広く用いられている。例えば、排ガス中に窒素酸化物が含まれる場合には、窒素酸化物中の一酸化窒素を二酸化窒素へと酸化する排ガス浄化用触媒が用いられており、二酸化窒素は、窒素に還元される際に排ガス中の煤等を酸化する役割を担うことが知られている。このような排ガス浄化用触媒に用いる触媒成分としては、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属又はこれらの酸化物等を使用することができ、特に白金が多く用いられている。
【0003】
触媒成分が白金である排ガス浄化用触媒は、白金化合物を含む溶液と担体とを接触させる方法により製造することができる。具体的には、白金を過剰に含む溶液と担体とを接触させた後、乾燥、焼成して、強制的に白金を担体に付着させる方法や、担体の飽和吸着量以上の白金を含む溶液に担体を含浸し、平衡状態となるまで吸着させる方法により、白金を担体に担持させることができる。
【0004】
特許文献1には、窒素酸化物の浄化に用いる排ガス浄化用触媒として、塩化白金酸水溶液にγ‐アルミナを含浸させた後、100℃で12時間乾燥させ、500℃で焼成する方法により白金を担持させたものが開示されている(特許文献1の調製例1)。
【0005】
【特許文献1】特許第3791968号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
排ガス浄化用触媒は、最近の環境問題への高い関心から、触媒活性の向上が強く期待されている。このため、従来の排ガス浄化用触媒では、触媒活性向上の手法として、白金担持直後の触媒を高温で熱処理する、担持する触媒成分の量を増加させる等の改良が行われてきた。しかしながら、このような処理を行った場合であっても、触媒活性の向上には限界があった。
【0007】
そこで、本発明は、排ガス浄化用触媒に関し、従来よりも触媒活性に優れ、特に一酸化窒素酸化力の高い触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明者等は、排ガス浄化用触媒の触媒活性を向上させるために鋭意検討を行った。一般的には、触媒活性の向上を図る場合、触媒成分の粒径を小さなものとすることで、触媒成分の比表面積を増大させ、触媒反応の生じる面積を大きく確保する方法が知られている。しかし、本発明者等は、排ガス浄化用触媒において、充分な触媒活性を確保するためには、触媒成分である白金粒子の平均粒径が80nm以上であることが必要であることを見出し、さらに、平均粒径が120nm以下であれば、必要最小限の排ガスとの接触面積を確保できることに想到した。また、粒子径分布のバラつきが少ない場合、一酸化窒素を酸化する能力が、特に高い触媒となることも見出した。
【0009】
すなわち本発明は、触媒成分が担体に担持されている排ガス浄化用触媒において、触媒成分は、平均粒径が80nm〜120nmであり、粒子径分布における小粒径側からの積算分布20%の粒径D20が50nm以上で、且つ、積算分布90%の粒径D90が200nm以下の白金コロイドであることを特徴とする排ガス浄化用触媒に関する。触媒成分の平均粒径は、90〜110nmであることが好ましく、D20が60nm以上、D90が140nm以下であることが好ましい。
【0010】
従来の排ガス浄化用触媒では、触媒成分の平均粒径を大きな触媒とすることが困難であり、また、粒子径分布にバラつきが生じ易いものであった。例えば、白金を担体上に平衡状態となるまで吸着させた触媒では、触媒粒子の粒子径分布のバラつきは比較的少ないものの、平均粒径が1〜5nm程度と小さく、800℃以上の高温焼成により粒子を成長させた場合であっても、平均粒径は40nm程度のものであった。また、白金を過剰に含む溶液を用いて担体上に強制的に白金を付着させた触媒は、平均粒径が数十nm〜数百nmの比較的大きなものではあるものの、粒子径分布にバラつきが多いものであった。
【0011】
これに対し、本発明の排ガス浄化用触媒は、平均粒径が80nm〜120nmであり、D20が50nm以上、D90が200nm以下に調整された白金コロイドが担体に担持されたものであり、従来に比べて、粒径が大きく、かつ粒子径分布のバラつきも少ないものである。そして、本発明の排ガス浄化用触媒であれば、特に一酸化窒素の酸化力に関し、従来の排ガス浄化用触媒よりも高い触媒活性を得られることが分かった。尚、本発明におけるD20及びD90は、粒子数基準の粒子径分布における小粒径側からの累積分布を示すものである。
【0012】
上記した触媒成分の担持量は、担体に対するPt質量で0.5〜5g/Lの割合であることが好ましい。この範囲内であれば、充分に高い触媒活性を有する排ガス浄化用触媒とすることができるからである。
【0013】
また、本発明における担体は、触媒成分が接触する表面の少なくとも一部が酸化物であることが好ましい。排ガスと触媒成分とを接触させるための充分な表面積を確保するためである。具体的には、担体として、セラミックハニカム又はメタルハニカムの構造体、若しくはフィルターを用いることができる。尚、セラミックハニカムとしては、コージェライトや、炭化ケイ素(SiC)を用いたもの等が使用できる。
【0014】
担体は、上記した構造体又はフィルターの少なくとも一部がウォッシュコートされたものとしても良い。ウォッシュコートとは、表面積の大きな酸化物系セラミックをコーティングすることであり、酸化物系セラミックであるアルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア等を用いることができる。ウォッシュコートを行えば、担体の表面積を充分に大きくすることができ、排ガスと触媒成分とを充分に接触させることができる。ウォッシュコートは、構造体又はフィルターに対して1g/L〜200g/Lコーティングすることが好ましい。この範囲内であれば、構造体又はフィルターの圧力損失を過大とすることなく、充分な表面積を確保できるからである。
【0015】
以上で説明した本発明の排ガス浄化用触媒は、白金塩溶液を還元剤により還元して核コロイドを形成する工程と、還元剤により核コロイドを成長させて白金コロイドを形成する工程と、白金コロイドを担体に接触させる工程と、を含む方法において、核コロイドを形成する工程における還元を、pH1〜7で行うことにより製造することができる。
【0016】
本発明の製造方法では、白金コロイドを形成するための還元として、核コロイドを形成する工程と、核コロイドを成長させる工程と、を段階的に行うことにより、平均粒径が大きく、粒子径分布のバラつきが少ない白金コロイドを形成することができる。粒径及び粒子径分布が調製された白金コロイドを担体に接触させることで、排ガスを浄化する触媒性能を向上させた触媒とすることができる。ここで、核コロイドを形成する工程における還元は、pH1〜7で行われ、pH3以上であることが好ましく、pH3〜4であることがより好ましい。pHが低い場合には、白金コロイドが粒子状になりにくく、pHが高いと白金が凝集しやすくなり、沈殿を生じる場合があるからである。
【0017】
白金コロイドの形成に用いる白金塩としては、塩化白金、塩化第二白金、ジニトロアンミン白金、酸化白金、エタノールアミン白金、アセチルアセトナト白金、ヘキサアンミン白金クロライド、テトラアンミン白金クロライド等が使用できる。また、核コロイドを形成する工程や、核コロイドを成長させる工程における還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、アンモニア、ヒドラジン化合物等の他、アルコール、水素ガスや一酸化炭素ガス、糖類や脂肪類、超音波の還元作用等を用いることが可能であるが、特に水素化ホウ素ナトリウムを用いることが好ましい。また、核コロイドを形成する工程においては、保護剤として界面活性剤を添加することが好ましい。尚、界面活性剤としては、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリエチレングリコール(PEG)等を使用することができ、界面活性剤の分子量は300〜50000のものが好ましく、1000〜30000であるとより好ましい。
【発明の効果】
【0018】
以上で説明したように、本発明に係る排ガス浄化用触媒は、排ガス浄化の触媒活性が高く、特に一酸化窒素の酸化力の高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明における最良の実施形態について説明する。
【0020】
実施例1:Pt含有率8wt%のジニトロアンミンPt水溶液77.2gに水500gと、分子量1000のポリエチレングリコールを13g加えて撹拌した後、還元剤として98%ヒドラジン一水和物水溶液を4g加えて還元し、核コロイドを形成した。この核コロイドに、還元剤である2%ヒドラジン一水和物水溶液250mlを5ml/minの速度で添加し、撹拌しながら室温で4時間核コロイドを成長させ、白金コロイド溶液を形成した。
【0021】
担体には、直径7.5inch、長さ8inch、容量5.79Lのコージェライト(セラミック)ハニカムに、γ‐アルミナをウォッシュコートし、120℃で一晩乾燥させた後、500℃で2時間焼成して、γ‐アルミナをハニカムに対して100g/L付着させたものを用いた。上記方法により得られた白金コロイド溶液に、担体を含浸させた後、120℃で一晩乾燥させ、500℃で2時間焼成して、触媒成分の担持量が担体に対するPt質量で1g/Lの排ガス浄化用触媒(A−1)とした。
【0022】
実施例2:ポリエチレングリコールとして、分子量4000のものを3.5g用いて白金コロイド溶液を調製し、担体にはγ‐アルミナをハニカムに対して10g/L付着させた以外は、実施例1と同様の方法により、触媒成分の担持量が担体に対するPt質量で1g/Lの排ガス浄化用触媒(A−2)を作製した。
【0023】
比較例1:Pt含有量15wt%の塩化白金水溶液38.6gに水500gを加えた白金溶液を、実施例1と同様の担体に含浸させ、120℃で一晩乾燥後、500℃で2時間焼成して、触媒成分の担持量が担体に対するPt質量で1g/Lの排ガス浄化用触媒(B−1)とした。
【0024】
比較例2:比較例1で得られた触媒を、さらに900℃で2時間焼成して、触媒成分の担持量が担体に対するPt質量で1g/Lの排ガス浄化用触媒(B−2)とした。
【0025】
比較例3:白金含有量8wt%のジニトロアンミン白金水溶液77.2gと、水20kgを加えた溶液に、実施例1と同様の担体を含浸し、回転数250rpmで10時間撹拌して、白金イオンをγ‐アルミナに吸着させた。その後、120℃で一晩乾燥させ、500℃で2時間焼成して、触媒成分の担持量が担体に対するPt質量で1g/Lの排ガス浄化用触媒(C−1)とした。
【0026】
比較例4:比較例1の触媒を、さらに900℃で2時間焼成し、触媒成分の担持量が担体に対するPt質量で1g/Lの排ガス浄化用触媒(C−2)とした。
【0027】
[粒子径の測定]
実施例及び比較例の各排ガス浄化用触媒について、SEM写真による観察を行い、500個前後の白金粒子について、粒子数基準の粒子径分布を測定した。また、比較例3については、TEM写真による観察を行った。SEM写真又はTEM写真の結果を図1〜図4に示し、粒子径分布から算出した平均粒径、D20、D90の結果を表1に示す。
【0028】
[窒素酸化物の酸化転化率]
実施例及び比較例の各触媒について、ディーゼルエンジンベンチ試験機を用いて、排ガス中の一酸化窒素を二酸化窒素へ酸化する転化率を測定した。測定時のガス組成は、NO 1000ppm、O 10vol%、HO 6vol%、残部をNとし、空間速度は35000h−1とした。また、反応温度は、150、200、250、300、350、400、450℃において、転化率を測定した。結果を図2に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
表1より、実施例1及び実施例2の排ガス浄化用触媒は、白金粒子の平均粒径が80nm〜120nmの範囲内であり、D20が50nm以上、D90が200nm以下であった。これに対し、比較例2は、平均粒径が大きいものの、D20とD90との差が大きいことから、粒子径分布にバラつきがあることが分かった。また、比較例4の白金粒子は、平均粒径が80nm未満と小さいものであった。
【0031】
図5より、白金コロイドを担体に担持した実施例1のA−1及び実施例2のA−2は、いずれの温度においても転化率が比較例より高く、触媒温度300℃における転化率は80%近くとなった。一方、比較例1のB−1、比較例3のC−1は、実施例と比較して一酸化窒素を酸化する転化率が低く、高温における焼成を行った比較例2のB−2、比較例4のC−2であっても、触媒温度300℃における転化率は60%より低いことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例1に係る排ガス浄化用触媒のSEM観察写真
【図2】比較例2に係る排ガス浄化用触媒のSEM観察写真
【図3】比較例3に係る排ガス浄化用触媒のTEM観察写真
【図4】比較例4に係る排ガス浄化用触媒のSEM観察写真
【図5】実施例及び比較例に係る排ガス浄化用触媒の窒素酸化物の酸化転化率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒成分が担体に担持されている排ガス浄化用触媒において、
前記触媒成分は、平均粒径が80〜120nmであり、粒子径分布における小粒径側からの積算分布20%の粒径D20が50nm以上で、且つ、積算分布90%の粒径D90が200nm以下の白金コロイドであることを特徴とする排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
触媒成分の担持量は、担体に対するPt質量で0.5〜5g/Lの割合である請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
担体は、触媒成分が接触する表面の少なくとも一部が酸化物である請求項1又は請求項2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
担体は、セラミックハニカム又はメタルハニカムの構造体、若しくはフィルターであるか、該構造体又はフィルターの少なくとも一部がウォッシュコートされたものである請求項1〜3のいずれかに記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の排ガス浄化用触媒の製造方法であって、
白金塩溶液を還元剤により還元して核コロイドを形成する工程と、還元剤により核コロイドを成長させて白金コロイドを形成する工程と、白金コロイドを担体に接触させる工程と、を含み、
前記核コロイドを形成する工程は、pH1〜7で白金塩溶液を還元する排ガス浄化用触媒の製造方法。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−136979(P2008−136979A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−327782(P2006−327782)
【出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【出願人】(000217228)田中貴金属工業株式会社 (146)
【Fターム(参考)】