説明

排ガス浄化用触媒

【課題】A/F変動条件下で耐久後にも高いNO浄化性能を与え得る排ガス浄化用触媒を提供する。
【解決手段】排ガス浄化用触媒において、排ガス流れ方向の上流側の位置に前段触媒3が、下流側の位置に後段触媒6がそれぞれ基材上8に設けられ、前段触媒および後段触媒のいずれにもOSC材10が含まれ、前段触媒および後段触媒に含まれる貴金属が担持されていないOSC材9[以下、OSC材(N)と略記する。]の合計量に対する後段触媒に含まれるOSC材(N)の割合が0〜50質量%の範囲内であることを特徴とする排ガス浄化用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒に関し、さらに詳しくは触媒中の酸素吸放出(以下、OSCと略記することもある。)材を特定の組み合わせで用いることにより、A/F変動条件下で耐久後にも高いNO浄化性能を与え得る排ガス浄化用触媒に関するものである。
本明細書において、高いNO浄化性能とは、従来公知の排ガス浄化用触媒に比べて同等以上のNO浄化性能を有することをいう。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関から排出される排ガス中には、HC、CO及びNOが含まれており、これらの物質は排ガス浄化用触媒によって浄化されてから大気中に放出されている。ここで用いられる排ガス浄化用触媒の代表的なものとしては、アルミナ(Al)、シリカ(SiO)、ジルコニア(ZrO)、チタニア(TiO)などの多孔質酸化物担体に、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)などの貴金属を担持した三元触媒が広く用いられている。
【0003】
この三元触媒は、排ガス中のHC及びCOを酸化して浄化するとともに、NOを還元して浄化するものであり、理論空燃比近傍で燃焼されたストイキ雰囲気の排ガスにおいて最も高い効果が発現される。
特に、近年は、燃費を向上させることが求められ、高温でFC(フューエルカット)回数を増やすなど、排ガス浄化用触媒にとっては、高温でA/F変動に基く急激な雰囲気変動に晒される機会が増えている。こうした急激な雰囲気変動は、触媒劣化を大幅に促進する。
【0004】
通常、排ガス浄化用触媒は、触媒入りガスA/Fが加速や減速などの駆動状況により常に大きく変化していて、通常は排ガス浄化用触媒側後部に置かれた酸素センサーにより触媒内部がストイキになるように制御されている。このため、触媒には過渡的なA/F変化を吸収し得る速い酸素吸放出速度が求められる。一方、走行モード中には車速変化が緩慢な走行領域もあり、入りガスA/F変化が緩慢な状況で、長時間酸素吸蔵放出能を発現する特性も求められている。
【0005】
一方、排ガス浄化用触媒に用いられる貴金属は高価であって資源的にも問題があることから、触媒性能を高めてその使用量を低減することが必要である。
さらに、近年ますます高くなるエミッション規制への対応が求められている。
このため、排ガス浄化用触媒の活性を向上させるために様々な検討がされている。
【0006】
例えば、特許文献1には、第1の個数平均粒子径を有する第1のセリウム系酸素吸蔵材粒子(A)と、前記粒子(A)と同じ組成で前記第1の個数平均粒子径よりも大きい第2の個数平均粒子径を有する第2のセリウム系酸素吸蔵材粒子(B)とを混合して得られる酸素吸蔵放出能の劣化時間を所定の時間に調整して得られる酸素吸蔵材粒子を含有する排気ガス浄化用触媒が記載されている。しかし、前記触媒による触媒性能については示されていない。
【0007】
また、特許文献2には、無機構造担体に担持された第1の触媒と、これとは別の第2の触媒とを含む2以上の排気ガス浄化触媒を用いてなる触媒系であって、第1の触媒は排気ガス流路中の上流側に位置する無機構造担持の部分に担持させ、第2の触媒は、排気ガス流路中の下流側に位置する無機構造担持の部分に担持させ且つ結晶構造中にパイロクロア相を含むセリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)を含有する、自動車用排気ガス浄化装置に用いられる触媒系が記載されている。そして、具体例として空気過剰率λ[(現実の空気/燃料比)/(化学量論的空気/燃料比)]が1.02以上でNO浄化率が60%未満に低下する結果が示されている。
【0008】
さらに、特許文献3には、上流側の触媒部に、アルミナ粒子にPdを担持させたPd/アルミナと、酸素吸蔵材粒子にRhを担持させたRh/OSC材とが配置され、下流側の触媒部に、アルミナ粒子にPtを担持させたPt/アルミナと、酸素吸蔵材粒子にRhを担持させたRh/OSC材とが配置され、上流側触媒部の酸素吸蔵材粒子は質量比ZrO/CeOが1以上の複合酸化物よりなる排気ガス浄化触媒が記載されている。しかし、OSC材に貴金属を担持させていないフリーのOSC材を含む触媒については何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−62130号公報
【特許文献2】国際特開2008−93471号公報
【特許文献3】特開2009−19537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、これらの特許文献に記載された排ガス浄化用触媒は、A/F変動条件下で耐久後のNO浄化性能が十分でなく、さらに高いNO浄化性能を有する排ガス浄化用触媒が求められている。
従って、本発明の目的は、A/F変動条件下で耐久後にも高いNO浄化性能を与え得る排ガス浄化用触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、前記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、従来のOSC(例えば、セリア−ジルコニア固溶体)材のCe/Zrモル比や比表面積、貴金属担持量の増加によって酸素吸放出反応速度をコントロールする排ガス浄化用触媒では、例えば酸素吸放出反応速度を高めるためにCe/Zrモル比を小さくすると酸素吸蔵容量が減少して長時間OSCが発現できず、比表面積を小さくすると担持された貴金属が粒成長しやすくなり浄化性能が低下してしまい、上記パラメーター制御により酸素吸放出反応速度を制御して貴金属量を低減すると、A/F変動条件下で耐久後の高いNO浄化性能を実現することが困難であることを見出しさらに検討を行った結果、本発明を完成した。
【0012】
本発明は、排ガス浄化用触媒において、排ガス流れ方向の上流側の位置に前段触媒が、下流側の位置に後段触媒がそれぞれ基材上に設けられ、前段触媒および後段触媒のいずれにもOSC材が含まれ、前段触媒および後段触媒に含まれる貴金属が担持されていないOSC材[以下、OSC材(N)と略記することもある。]の合計量に対する後段触媒に含まれるOSC材(N)の割合が0〜50質量%の範囲内であることを特徴とする排ガス浄化用触媒に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、A/F変動条件下で耐久後にも高いNO浄化性能を与え得る排ガス浄化用触媒を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の実施態様の排ガス浄化用触媒の部分拡大断面模式図である。
【図2】図2は、実施例および比較例で得られた排ガス浄化用触媒を用いてA/F変化条件下で耐久試験後のNO浄化率と、前段触媒および後段触媒に含まれるOSC材(N)の合計量に対する後段触媒に含まれるOSC材(N)の割合との関係を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例で得られた排ガス浄化用触媒を用いてA/F変化条件下で耐久試験後のNO浄化率と、前段触媒および後段触媒中に含まれるOSC材の合計量に対するOSC(N)の割合との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明によれば、排ガス浄化用触媒において、排ガス流れ方向の上流側の位置に前段触媒が、下流側の位置に後段触媒がそれぞれ基材上に設けられ、前段触媒および後段触媒のいずれにもOSC材が含まれ、前段触媒および後段触媒に含まれる貴金属が担持されていないOSC材(N)の合計量に対する後段触媒に含まれるOSC材(N)の割合が0〜50質量%の範囲内である排ガス浄化用触媒によれば、後述の実施例の欄に詳述する測定法により求めたA/F変動条件下で耐久試験後のNO浄化率が従来の排ガス浄化用触媒に比べて高くなり得る。
【0016】
特に、本発明の自動車排ガス浄化用触媒において、以下の実施態様を挙げることができる。
1)前段触媒および後段触媒が、隣接して配置されてなる前記排ガス浄化用触媒。
2)OSC材(N)の少なくとも一部が、貴金属が直接担持されたOSC材[以下、OSC材(S)と略記する場合もある。]と同一のコート層内に存在する前記排ガス浄化用触媒。
3)OSC材(N)が、パイロクロア相型の規則配列構造を有する前記排ガス浄化用触媒。
4)OSC材(N)の割合が、前段触媒および後段触媒中に含まれるOSC材の合計量に対して3〜36質量%の範囲内である前記排ガス浄化用触媒。
5)前段触媒および後段触媒に含まれるOSC材(N)の合計量に対する後段触媒に含まれるOSC材(N)の割合が0〜35質量%の範囲内であり、且つ前記前段触媒および後段触媒に含まれるOSC材の合計量に対するOSC材(N)の割合が5〜30質量%の範囲内である前記排ガス浄化用触媒。
6)前段触媒および後段触媒が、上層の貴金属としてRhを含むRhコート層と、下層の貴金属としてPtおよび/又はPdを含むPtおよび/又はPdコート層とをそれぞれ含む前記排ガス浄化用触媒。
7)OSC材(N)の全量が、Ptおよび/又はPdコート層に含まれる前記排ガス浄化用触媒。
8)前段触媒および後段触媒が、酸素吸放出速度の異なる少なくとも2種類のOSC材を含む前記排ガス浄化用触媒。
9)Ptおよび/又はPdコート層が、さらにアルミナ(Al)を含有する前記排ガス浄化用触媒。
【0017】
以下、本発明について、図1〜3を参照して説明する。
本発明の実施態様の排ガス浄化用触媒1は、図1に示すように、排ガス流れ方向の上流側の位置に設けた上層のRhコート層2と下層のPtおよび/又はPdコート層3とからなる前段触媒4、および下流側の位置に設けた上層のRhコート層5と下層のPtおよび/又はPdコート層6とからなる後段触媒7が、それぞれ基材8上に設けられ、前段触媒4および後段触媒7のいずれにも貴金属が担持されていないOSC材9および貴金属が担持されたOSC材10からなるOSC材が含まれ、前記前段触媒4および後段触媒7が隣接して配置されてなる。
【0018】
そして、本発明の排ガス浄化用触媒によれば、前段触媒および後段触媒に含まれる貴金属が担持されていないOSC材(N)の合計量に対する後段触媒に含まれるOSC材(N)の割合が0〜50質量%の範囲内であることによって、図2に示すように、前記割合が前記範囲外の排ガス浄化用触媒と比較して、後述の実施例の欄に詳述する測定法により求めたA/F変動条件下で耐久試験後にNO浄化率が高いことが理解される。
好適には、OSC材(N)の割合が、前段触媒および後段触媒中に含まれるOSC材の合計量に対して3〜36質量%の範囲内である排ガス浄化用触媒、特に、前段触媒および後段触媒に含まれるOSC材(N)の合計量に対する後段触媒に含まれるOSC材(N)の割合が0〜35質量%の範囲内であり、且つ前記前段触媒および後段触媒に含まれるOSC材の合計量に対するOSC材(N)の割合が5〜30質量%の範囲内である排ガス浄化用触媒によれば、図2および3に示すように、前記NO浄化率がさらに高いことが理解される。
【0019】
本発明の範囲内の排ガス浄化用触媒によって高いNO浄化率が達成される理論的解明はなされていないが、入り排ガス中のリッチガス(CO、Hなど)あるいはリーンガス(O)濃度が高いため、OSC材(N)を高い割合で含む前段触媒において酸素吸放出反応が促進され高い浄化性能が発現し得ること、さらに比較的高温の入り排ガスの流入により酸素吸放出反応速度が遅いOSC材(N)のOSC効果がさらに長時間発現されることによると考えられる。
【0020】
本発明の排ガス浄化用触媒は、基材上に、排ガス流れ方向の上流側の位置に前段触媒を、そして下流側の位置に後段触媒を設け、その際に、前段触媒および後段触媒のいずれにもOSC材が含まれ、貴金属が担持されていないOSC材であるOSC材(N)の合計量に対する後段触媒に含まれるOSC材(N)の割合が0〜50質量%の範囲内とすることによって得ることができる。
前記前段触媒および後段触媒の下層として、貴金属としてPtおよび/又はPdを含むPtおよび/又はPdコート層を設け、前記前段触媒および後段触媒の上層として、貴金属としてRhを含むRhコート層を設けることが好適である。
また、前記前段触媒および後段触媒の割合は、両触媒によって積層される基材の面積の比率として前段触媒:後段触媒が1:9〜9:1、特に4:6〜6:4の範囲内であり得る。
また、本発明の、排ガス浄化用触媒における前記前段触媒および後段触媒は、基材上に前記前段触媒と後段触媒とが離れて設けられていてもよいが、隣接して設けられていることが好適である。
【0021】
前記基材としては、セラミックス材料、例えばコージェライトなどやメタル基材、例えばステンレス鋼などが挙げられる。
前記基材の形状はストレートフロー型、フィルター型、その他の形状が挙げられ、形状に限定されることなく本発明の効果を発揮し得る。
【0022】
本発明におけるOSC材としては、パイロクロア相型の規則配列構造を有するOSC材、およびパイロクロア相型の規則配列構造を有するOSC材と比較して酸素吸放出速度が大きく酸素吸放出容量が低いOSC材が挙げられる。
前記のパイロクロア相型の規則配列構造を有するOSC材は、後述の実施例の欄に詳述する条件による1000℃で耐久後のX線回折パターンにおいて、3つの2θ=約14°、約28°、約37°のパイロクロア相の3つの回折ピークが観察できるものであり得る。
これに対して、パイロクロア相型の規則配列構造を示さないOSC材は、同様にして測定した1000℃で耐久後のX線回折パターンの前記の3つのパイロクロア相の回折ピークが消失している。
【0023】
前記の後者のOSC材としては、前記のパイロクロア相型の規則配列構造を有さない任意のCeを含む酸化物が挙げられる。このようなCeを含む酸化物として、セリア(CeO)が挙げられる。CeOはセリア複合酸化物、例えばセリア−ジルコニア(CeO−ZrO)複合酸化物(CZ)として好適に用いられ得る。
また、前記のセリア複合酸化物としては、Ce、ZrおよびOの3元素からなる固溶体の2次粒子、および前記3元素に加えて希土類元素、例えばY、Ndを加えた4元素以上の元素からなる固溶体の2次粒子が挙げられる。
【0024】
前記パイロクロア相型の規則配列構造を有するOSC材は、例えばセリウムイオンとジルコニウムイオンとを、セリアとジルコニアの含有モル比(CeO:ZrO)がモル比([セリア]:[ジルコニア])で55:45〜49:51の範囲にあるセリアとジルコニアとが均一に原子レベルで混合している複合酸化物粉末を、1500℃以上1900℃以下の温度、特に1700℃以上1800℃以下の範囲の温度で、100MPa以上の圧力でプレスした後、還元処理することによって得ることができるセリア−ジルコニア系複合酸化物を挙げることができる。
【0025】
本発明においては、前段触媒および後段触媒に含まれるOSC材(N)の合計量に対する後段触媒に含まれるOSC材(N)の割合が0〜50質量%の範囲内であり、特に前段触媒および後段触媒に含まれるOSC材(N)の合計量に対する後段触媒に含まれるOSC材(N)の割合が0〜35質量%の範囲内であり、且つ前記前段触媒および後段触媒に含まれるOSC材の合計量に対するOSC材(N)の割合が5〜30質量%の範囲内であることが好適であり、前記の範囲外ではNO浄化効果は低減する。
また、本発明の排ガス浄化用触媒において、前記OSC材(N)としてパイロクロア相型の規則配列構造を有するOSC材を用いることが好適である。
【0026】
本発明における前段触媒および後段触媒に含まれる前記貴金属は、通常排ガス浄化用触媒に適用されるものと同じ条件でOSC材に担持され得る。
前記の貴金属の担持量は、各々0.1〜1.5g/Lであることが好適である。
また、本発明における前段触媒および後段触媒は、担持基材、例えばAl、SiO、TiO、ZrOのうち少なくとも1種、好適にはZrOを含み得る。
また、前段触媒および後段触媒は、バインダーとしてアルミナバインダーを含み得る。
【0027】
本発明の排ガス浄化用触媒は、例えば、
基材、例えばハニカム基材を用意する工程、
OSC材(N)および貴金属、例えばPtおよび/又はPdを担持したOSC材(S)と、場合により担持基材、例えばAl(アルミナ)とを混合したものにバインダー、例えばアルミナバインダーとを任意の割合で混合し、水を加えて、前段触媒に適用する下層コート用スラリーおよび後段触媒に適用する下層コート用スラリーを用意する工程、
前記基材、例えばハニカム基材の排ガス流れ方向の上流側と想定される開口部から、基材の長さ方向の任意の位置、例えば全体長さの半分まで前記の前段触媒に適用する下層コート用スラリーを投入し、乾燥、焼成する工程、
排ガス流れ方向の下流側と想定される開口部から、基材の長さ方向の残りの部分、例えば全体長さの半分まで前記の後段触媒に適用する下層コート用スラリーを投入し、乾燥、焼成する工程、
次いで、下層コート上に、Rhを担持したOSC材(S)とバインダー、例えばアルミナバインダーとを任意の割合で混合し、水を加えて調製した上層コート用スラリーを投入し、乾燥、焼成する工程、
を含む製造方法により得ることができる。
前記の製造方法は、基材に、先ず前段触媒に適用する下層コート用スラリーを投入し、次いで後段触媒に適用する下層コート用スラリーを投入する方法であるが、両スラリーを投入する順番が逆であり得る。
【0028】
前記の製造方法において、前段触媒に適用する下層コート用スラリー、後段触媒に適用する下層コート用スラリーおよび上層コート用スラリーとして、前段触媒および後段触媒に含まれる貴金属が担持されていないOSC材(N)の合計量に対する後段触媒に含まれるOSC材(N)の割合が0〜50質量%の範囲内であり、特に前段触媒および後段触媒に含まれるOSC材(N)の合計量に対する後段触媒に含まれるOSC材(N)の割合が0〜35質量%の範囲内であり、且つ前記前段触媒および後段触媒に含まれるOSC材の合計量に対するOSC材(N)の割合が5〜30質量%の範囲内になるようにすることが好適である。
【0029】
本発明の排ガス浄化用触媒は、前記構成を有することによって高いNO浄化性能を有し得る。
本発明の排ガス浄化用触媒は、他の機能を有する部材、例えばパティキュレートフィルターなどと組み合わせて用いられ得る。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例を比較例とともに示す。
以下の実施例は単に説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
以下の各例において排ガス浄化用触媒のNO浄化率は、後述の耐久試験を行った後の触媒評価法によって求めた。なお、排ガス浄化用触媒の耐久試験および触媒評価法は本明細書に記載の方法に限定されず当業者が同等と考える方法によって、同様に行い得ることは当然である。
【0031】
以下の各例で用いたCZ材料およびアルミナの組成および/又は特性を以下に示す。表中のCZ材料(A)、CZ材料(B)は市販品である。なお、比表面積はBET法により、平均粒径は動的光散乱法(粒度分布測定)によりそれぞれ測定した。
CZ材料(A)(粉末)の入手先:ローディア社
CZ材料(B)(粉末)の入手先:ローディア社
アルミナ(粉末)の入手先:Sasol社(平均粒径45μm、比表面積100m/g)
【0032】
【表1】

【0033】
参考例1
パイロクロア相型の規則構造を有するCZ材(C)の調製
CeO換算で28質量%の硝酸セリウム水溶液49.1gと、ZrO換算で18質量%のオキシ硝酸ジルコニウム水溶液54.7gと、市販の界面活性剤とをイオン交換水90mLに溶解した後、NHが25質量%のアンモニア水を陰イオンに対して1.2倍当量添加し、共沈殿を生成し、得られた共沈殿をろ過、洗浄した。次に、得られた共沈殿を110℃で乾燥した後、500℃で5時間大気中にて焼成してセリウムとジルコニウムの固溶体を得た。その後、前記固溶体を粉砕機を用いて平均粒子径が1000nmとなるように粉砕して、セリアとジルコニアの含有モル比(CeO:ZrO)が50:50のセリアジルコニア固溶体粉末を得た。続いて、このセリアジルコニア固溶体粉末をポリエチレン製のバッグに充填し、内部を脱気した後、バッグの口を加熱してシールした。次に静水圧プレス装置を用いて300MPaの圧力で1分間加圧して成型し、セリアジルコニア固溶体粉末の固形状原料を得た。次に、得られた固形状原料を、黒鉛製の坩堝に入れて、黒鉛製のフタをし、Arガス中、1700℃、5時間還元した。還元後のサンプルは粉砕機で粉砕して平均粒径が約5μmの粉末とし、CZ材料(C)(粉末)を得た。
【0034】
実施例1
CZ材料(A)に硝酸Pd溶液を含浸担持後、乾燥、焼成してPd担持CZ材料(A)を調製した。
CZ材料(B)に硝酸Rh溶液を含浸担持後、乾燥、焼成してRh担持CZ材料(B)を調製した。
また、Pd担持CZ材料(A)、CZ材料(C)およびアルミナを下記の表2に示す質量割合(100:20:35)で混合したものと、アルミナバインダーとを20:1の質量比率で混合し、水を加えて調製して前段触媒に適用される下層コート用スラリー(1)および下記の表2に示す質量割合(100:10:45)で混合したものと、アルミナバインダーとを20:1の質量比率で混合し、水を加えて調製して後段触媒に適用される下層コート用スラリー(1)を得た。
Rh担持CZ材料(B)と、アルミナバインダーとを20:1の質量比率で混合し、水を加えて上層コート用スラリー(2)とした。
なお、表2には、各CZ材料(A)(下層)、CZ材料(B)(上層)、CZ材料(C)(下層)、アルミナ(下層)の割合が質量比率で示されている。
【0035】
ハニカム基材(600セル、壁厚3mil、φ103xL105)の排ガス流れ方向の上流側と想定される上部開口部から前段触媒に適用される下層コート用スラリー(1)を投入し、下部を吸引することでコートし、乾燥、焼成した。このとき、触媒の中央部まで前段触媒がコートされるように、投入スラリー量および固形分量・吸引条件を調整した。次に、1回目のコートとは逆の端面から後段触媒に適用される下層コート用スラリー(1)を投入し、1回目と同様にして触媒の中央部までコートし、乾燥、焼成した。次いで、1回目のコート上に上層コート用スラリー(2)を投入し、触媒の全体をコートし、乾燥、焼成した。コート量は、焼成後の質量が200g/Lとなるように調整した。また、担持量はPd/Rh=1.0/0.2[g/L]とした。
【0036】
耐久試験
得られた排ガス浄化用触媒について、一定の走行後にも触媒活性を維持しているか否かを確認するために、実際のエンジンを用いて加速劣化試験(耐久試験)を行った。前段触媒および後段触媒を備えたハニカム基材にセラミックマットを巻き、排気管にキャニングしてハニカム中央に熱電対を差込み、さらにこの排気管をエンジンにセットし、熱電対の温度が1000℃±20℃になるようにエンジン回転数/トルクを調整した。このとき、A/Fは14と15が一定時間ずつ繰り返すサイクル試験とした。耐久試験時間は50時間である。
前記CZ材料(C)は、上記の耐久後にもX線回折測定によりX線回折パターンで、2θ=約14°、約28°、約37°のパイロクロア相の3つの回折ピークが観察された。
【0037】
排ガスを用いた触媒評価法
耐久試験を施した触媒を評価用エンジン(2.5L、NA)に取り付け、触媒前10mm位置の温度が500℃になるように、エンジン回転数/トルクを調整した。触媒入りガスのA/Fが14.6になるように調整した後、A/Fを14.2⇔15.0の範囲内で一定時間ずつ変化させながら、単位時間当たりの触媒前後のガス排出量よりNO浄化率を求めた。
NO浄化率(%)=(触媒入りと出のNO量の差)x100/触媒入りのNO
得られた結果を他の結果とまとめて表3、図2に示す。
【0038】
比較例1
下層コート用スラリー(1)として、Pd担持CZ材料(A)、CZ材料(C)およびアルミナを下記の表2に示す質量割合(100:0:55)で混合したものと、アルミナバインダーとを20:1の質量比率で混合し、水を加えて調製して前段触媒および後段触媒に適用される下層コート用スラリー(1)を用いた他は実施例1と同様にして、排ガス浄化用触媒を得た。
得られた排ガス浄化用触媒について、耐久試験、性能評価を行った。
得られた結果を他の結果とまとめて表3に示す。
【0039】
比較例2
Pd担持CZ材料(A)、CZ材料(C)およびアルミナを下記の表2に示す質量割合(100:5:50)で混合したものと、アルミナバインダーとを20:1の質量比率で混合し、水を加えて調製して前段触媒に適用される下層コート用スラリー(1)および下記の表2に示す質量割合(100:25:30)で混合したものと、アルミナバインダーとを20:1の質量比率で混合し、水を加えて調製して後段触媒に適用される下層コート用スラリー(1)を得た。
これらの下層コート用スラリー(1)を用いた他は実施例1と同様にして、排ガス浄化用触媒を得た。
得られた排ガス浄化用触媒について、耐久試験、性能評価を行った。
得られた結果を他の結果とまとめて表3、図2に示す。
【0040】
比較例3
Pd担持CZ材料(A)、CZ材料(C)およびアルミナを下記の表2に示す質量割合(100:10:45)で混合したものと、アルミナバインダーとを20:1の質量比率で混合し、水を加えて調製して前段触媒に適用される下層コート用スラリー(1)および下記の表2に示す質量割合(100:20:35)で混合したものと、アルミナバインダーとを20:1の質量比率で混合し、水を加えて調製して後段触媒に適用される下層コート用スラリー(1)を得た。
これらの下層コート用スラリー(1)を用いた他は実施例1と同様にして、排ガス浄化用触媒を得た。
得られた排ガス浄化用触媒について、耐久試験、性能評価を行った。
得られた結果を他の結果とまとめて表3、図2に示す。
【0041】
実施例2〜10
Pd担持CZ材料(A)、CZ材料(C)およびアルミナを下記の表2に示す質量割合で混合したものと、アルミナバインダーとを20:1の質量比率で混合し、水を加えて調製して前段触媒に適用される下層コート用スラリー(1)を、また下記の表2に示す質量割合で混合したものと、アルミナバインダーとを20:1の質量比率で混合し、水を加えて調製して後段触媒に適用される下層コート用スラリー(1)を得た。
これらの両下層コート用スラリー(1)を用いた他は実施例1と同様にして、排ガス浄化用触媒を得た。
得られた排ガス浄化用触媒について、耐久試験、性能評価を行った。
得られた結果を他の結果とまとめて表3、図2および図3に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【0044】
表3、図2より、前段触媒および後段触媒に含まれる貴金属が担持されていないOSC材(N)の合計量に対する後段触媒に含まれるOSC材(N)の割合が0〜50質量%の範囲内である実施例の排ガス浄化用触媒では、NO浄化率が69%以上であり、また、表3、図2および3より、前段触媒および後段触媒に含まれるOSC材(N)の合計量に対する後段触媒に含まれるOSC材(N)の割合が0〜35質量%の範囲内であり、且つ前記前段触媒および後段触媒に含まれるOSC材の合計量に対するOSC材(N)の割合が5〜30質量%の範囲内である排ガス浄化用触媒では、NO浄化率が75%以上である。
これに対して、表2、図2より、前記条件を満足しない比較例の排ガス浄化用触媒では、NO浄化率が約65%以下である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、高いNO浄化性能を有する排ガス浄化用触媒を得ることが可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 排ガス浄化用触媒
2 排ガス流れ方向の上流側の位置に設けた上層のRhコート層
3 排ガス流れ方向の下流側の位置に設けた下層のPtおよび/又はPdコート層
4 前段触媒
5 排ガス流れ方向の下流側の位置に設けた上層のRhコート層
6 排ガス流れ方向の下流側の位置に設けた下層のPtおよび/又はPdコート層
7 後段触媒
8 基材
9 貴金属が担持されていないOSC材
10 貴金属が担持されたOSC材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガス浄化用触媒において、排ガス流れ方向の上流側の位置に前段触媒が、下流側の位置に後段触媒がそれぞれ基材上に設けられ、前段触媒および後段触媒のいずれにもOSC材が含まれ、前段触媒および後段触媒に含まれる貴金属が担持されていないOSC材[以下、OSC材(N)と略記する。]の合計量に対する後段触媒に含まれるOSC材(N)の割合が0〜50質量%の範囲内であることを特徴とする排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記前段触媒および後段触媒が、隣接して配置されてなる請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記OSC材(N)の少なくとも一部が、貴金属が担持されたOSC材と同一のコート層内に存在する請求項1又は2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記OSC材(N)が、パイロクロア相型の規則配列構造を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記前段触媒および後段触媒に含まれるOSC材の合計量に対するOSC材(N)の割合が3〜36質量%の範囲内である請求項1〜4のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項6】
前記前段触媒および後段触媒に含まれるOSC材(N)の合計量に対する後段触媒に含まれるOSC材(N)の割合が0〜35質量%の範囲内であり、且つ前記前段触媒および後段触媒に含まれるOSC材の合計量に対するOSC材(N)の割合が5〜30質量%の範囲内である請求項1〜5のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項7】
前記前段触媒および後段触媒が、上層の貴金属としてRhを含むRhコート層と、下層の貴金属としてPtおよび/又はPdを含むPtおよび/又はPdコート層とをそれぞれ含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項8】
前記OSC材(N)の全量が、Ptおよび/又はPdコート層に含まれる請求項1〜7のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項9】
前記前段触媒および後段触媒が、酸素吸放出速度の異なる少なくとも2種類のOSC材を含む請求項1〜8のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項10】
前記Ptおよび/又はPdコート層が、さらにアルミナ(Al)を含有する請求項1〜9のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−86199(P2012−86199A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237550(P2010−237550)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】