説明

排ガス浄化装置

【課題】本発明は、耐久性の低下、圧力損失の上昇、熱容量の増加を抑制しつつ、排ガスの浄化性能を向上できる排ガス浄化装置を提供する。
【解決手段】排ガス浄化装置20は、前段用担体33と前段用触媒活性物質34とを備える前段用触媒32と、前段用触媒32に対して直列に配置されて、後段用担体43と後段用触媒活性物質44とを備える後段用触媒42とを備える。前段用担体33は、貫通孔37が形成される。前段用触媒活性物質34の担持量は、後段用触媒活性物質44の担持量以上とされる。貫通孔37は、前段用担体33の熱容量が後段用担体43の熱容量よりも小さくなるように形成される。貫通孔37の前段用担体33の壁部に占める割合は、前段用担体33において単位面積当たりに担持できる前段用触媒活性物質34の最大質量である担持限界質量に基づいて設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車に設けられて触媒を備える排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン(内燃機関)を備える自動車は、エンジンより排出される排ガスが流動する排ガス流路中に、排ガス浄化装置が設けられている。排ガス浄化装置は、排ガス中の未燃燃料、一酸化炭素や窒素酸化物(NOx)を浄化するために、触媒を備えている。また、2つの触媒を直列に配置するタンデム構造の排ガス浄化装置も提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
前段に配置される触媒と後段に配置される触媒とを備える構造の排ガス浄化装置では、排ガスの浄化性能を向上する観点から、前段の触媒と後段の触媒との構造とにさらに工夫が施すことが提案されている
上記工夫の一例として、前段の触媒は、自動車の発進直後の排ガスの浄化性能を向上するために、活性温度まで後段の触媒に対して早期に昇温できるように形成されている。具体的には、前段の触媒の担体の壁部を薄くしたり、容量を小さくすることで熱容量を小さくし,また担体のセル数を多くし表面積を増やす事で熱を受けやすくする事が行われている。後段の触媒は、低セル密度であって大容量の担体が用いられており、前段の触媒で処理できなかった排ガスを浄化するように形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−263055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前段の触媒の熱容量を小さくするために、容量を小さくすると、触媒による排ガスの浄化性能が低下するおそれがある。担体の壁部を薄くすると、耐久性が低下するおそれがある。セル密度を高くすると(高セル密度化)、圧力損失の上昇や、熱容量が増加するおそれがある。
【0006】
このため、本発明は、耐久性の低下、圧力損失の上昇、熱容量の増加を抑制しつつ、排ガスの浄化性能を向上できる排ガス浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明の排ガス浄化装置は、第1の担体と、前記第1の担体に担持される第1の触媒活性物質とを具備する第1の触媒と、前記第1の触媒に対して直列に配置される第2の触媒であって、第2の担体と、前記第2の担体に担持される第2の触媒活性物質とを具備する第2の触媒とを備える。前記第1の担体は、当該第1の担体を形成する壁部に、当該壁部を貫通する貫通孔が形成される。前記第1の触媒活性物質の担持量は、前記第2の触媒活性物質の担持量以上とされる。前記貫通孔は、前記第1の担体の熱容量が前記第2の担体の熱容量よりも小さくなるように形成される。前記貫通孔の前記壁部に占める割合は、前記第1の担体において単位面積当たりに担持できる前記第1の触媒活性物質の最大質量である担持限界質量に基づいて設定される。
【0008】
請求項2に記載の発明の排ガス浄化装置は、請求項1の記載において、前記第1の触媒の熱容量が前記第2の触媒の熱容量より小さくなるように、前記壁部に占める前記貫通孔の割合と前記第1の触媒活性物質の担持量を設定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐久性の低下、圧力損失の上昇、熱容量の増加を抑制しつつ、排ガスの浄化性能を向上できる排ガス浄化装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態の排ガス浄化装置を備えるエンジンシステムを示す概略図。
【図2】図1に示された前段触媒装置と後段触媒装置とを分解した状態を示す概略図。
【図3】図2に示された前段用触媒の一部を拡大して示す斜視図。
【図4】図2に示された前段用担体の作成手順の一例を示す概略図。
【図5】図2に示された前段用触媒において、第1,2のシート部材の開口率を変化させた場合の、前段用触媒の浄化性能を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置を、図1〜5を用いて説明する。図1は、本実施形態の排ガス浄化装置20を備えるエンジンシステム10を示す概略図である。エンジンシステム10は、一例として自動車に用いられる。図1に示すように、エンジンシステム10は、エンジン11と、吸気系12と、排ガス系13とを備えている。
【0012】
エンジン11は、シリンダ14とピストン15とを備える、燃料としてガソリンを用いるレシプロ式内燃機関である。吸気系12は、吸気通路16を備えている。吸気通路16は、エンジン11の燃焼室17に吸気する。
【0013】
排ガス系13は、エンジン11から排出される排ガスGを外部へ導く排ガス通路18と、排ガス通路18中を流れる排ガスGを浄化する排ガス浄化装置20とを備えている。排ガス浄化装置20は、排ガス通路18中に組み込まれている。排ガスGは、排ガス浄化装置20を通過する。排ガスGは、排ガス浄化装置20を通過することによって、浄化される。
【0014】
排ガス浄化装置20は、本発明で言う排ガス浄化装置の一例である。排ガス浄化装置20は、上流側に配置される前段触媒装置30と、前段触媒装置30に対して下流に配置される後段触媒装置40と、前段触媒装置30と後段触媒装置40とを収容するハウジング60とを備えている。
【0015】
ハウジング60は、排ガス通路18の一部を構成している。なお、上流、下流は、排ガスGの流れる方向に沿って定義される。本実施形態では、図中に矢印で示すように、排ガスGは、一方向に流れる。前段触媒装置30と後段触媒装置40とは、排ガスGが流れる方向にそって、直列に並んで配置される。
【0016】
図2は、前段触媒装置30と後段触媒装置40とを分解した状態を示す概略図である。図2に示すように、前段触媒装置30は、前段用ハウジング31と、前段用触媒32とを備えている。前段用触媒32は、本発明で言う第1の触媒の一例である。図2中、分解された前段用触媒32を2点鎖線で示す。前段用ハウジング31は、筒状であって、両端開口が排ガスGの流れる方向に並んでいる。
【0017】
前段用触媒32は、前段用担体33と、前段用担体33に担持される前段用触媒活性物質34とを備えている。図2中、前段用触媒32の一部を拡大して示している。図2中に拡大して示すように、前段用担体33は、前段用ハウジング31内に収容された状態において前段用ハウジング31の一端の開口31aから他端の開口31bまで連通する複数の通路35を備えるハニカム構造である。前段用担体33は、本発明で言う第1の担体の一例である。排ガスGは、前段用触媒32を一端の開口31aから他端の開口31bまで通過することができる。前段用触媒32は、本発明で言う第1の触媒の一例である。
【0018】
図3は、前段用触媒32の一部を拡大して示す斜視図である。前段用触媒32は、上記したように、前段用ハウジング31の一端の開口31aから他端の開口31bまで連通して排ガスGが通過可能な通路35を複数備えるハニカム構造である。図3に示すように、前段用担体33において、通路35を規定する壁部36には、複数の貫通孔37が形成されている。貫通孔37は、隣り合う通路35を互いに連通している。貫通孔37は、本発明でいう貫通孔の一例である。
【0019】
前段用担体33の作成手順の一例を説明する。図4は、前段用担体33の作成手順の一例を示す概略図である。図4に示すように、前段用担体33は、第1のシート部材50と、第2のシート部材51とを組み合わせるとともに、第1,2のシート部材50,51が組み合わさった状態で、これをロール状に丸めることによって形成される。
【0020】
第1のシート部材50は、図に示すように、薄いシート状であって、当該第1のシート部材50を貫通する複数の貫通孔37が形成されている。第2のシート部材51は、第1のシート部材50と同様のシート部材をひだ折りすることによって形成される。第1,2のシート部材50,51に形成される貫通孔37が、前段用担体33に形成される貫通孔37となる。
【0021】
ここで言う開口率とは、第1,2のシート部材50,51の上面52,53において周縁54,55内に規定される範囲の面積に対する、貫通孔37の面積の割合である。
【0022】
上記のように構成される前段用担体33に、前段用触媒活性物質34が担持される。前段用触媒活性物質34は、本発明で言う第1の触媒活性物質の一例である。なお、前段用触媒活性物質34は、担持されている様子を図2に示している。前段用触媒活性物質34は、前段用担体33の表面に担持されており、それゆえ、他の図面においては符号34は前段用担体33の表面を示している。実際には、前段用担体33の表面には、図2に示すように、前段用触媒活性物質34が担持されている。
【0023】
触媒活性物質としては、例えば、プラチナPt、パラジウムPd、ロジウムRhなどがある。本実施形態では、前段用触媒活性物質として、一例として、プラチナPtと、パラジウムPdと、ロジウムRhとが用いられている。これら3種の物質は、所定の割合で混合されている。
【0024】
図2中、分解された後段触媒装置40を2点鎖線で示す。図2に示すように、後段触媒装置40は、後段用ハウジング41と、後段用触媒42とを備えている。後段用ハウジング41は、筒状であって、両端が排ガスGの流れる方向に並んでいる。図2中、後段用触媒42の一部を拡大して示す。
【0025】
後段用触媒42は、本発明で言う第2の触媒の一例である。図2中に拡大して示すように、後段用触媒42は、後段用担体43と、後段用担体43に担持される後段用触媒活性物質44とを備えている。後段用担体43は、後段用ハウジング41に収容されたときに、後段用ハウジング41の一端の開口41aから他端の開口41bまで連通する複数の通路45を備えるハニカム構造である。後段用担体43は、前段用担体33のように壁部に貫通孔は形成されていない。後段用担体43は、本発明で言う第2の担体の一例である。
【0026】
後段用触媒活性物質は、本発明で言う第2の触媒活性物質の一例である。後段用触媒活性物質44は、一例として、プラチナPtと、パラジウムPdと、ロジウムRhとが用いられている。これら3種の物質は、所定の割合で混合されている。なお、混合の割合は、前段用触媒32と同様であってもよいし、または、異なる割合であってもよい。また、後段用触媒活性物質44は、前段用触媒活性物質34と異なる物質であってもよい。後段用触媒42は、本発明で言う第2の触媒の一例である。
【0027】
前段用触媒活性物質34の量と、前段用担体33に形成される貫通孔37と、後段用触媒42との関係について説明する。前段用触媒32の質量をa1とする。後段用触媒42の質量をb1とする。b1は、a1よりも大きい(a1<b1)。なお、前段用触媒32の質量a1は、本実施形態では、前段用担体33の質量と、前段用触媒活性物質34の質量との合計である。後段用触媒42の質量b1は、本実施形態では、後段用担体43の質量と、後段用触媒活性物質44の質量の合計である。
【0028】
前段用触媒活性物質34の質量をa2とする。後段用触媒活性物質44の質量をb2とする。本実施形態では、a2は、b2より大きい(a2>b2)。前段用触媒活性物質34の質量a2は、前段用触媒32に求められる排ガスGの浄化性能に合わせて決定されている。
【0029】
前段用担体33の表面積をAとする。前段用担体33の表面積について、具体的に説明する。前段用担体33の表面積は、前段用担体33において流動する排ガスGと接触する可能性がある面の面積である。表面積Aは、図3に示すように、第1,2のシート部材50,51の両面に加えて、貫通孔37を規定する4つの縁面55も含む。
【0030】
前段用担体33の、担持限界質量をLとする。担持限界質量は、前段用担体33において、単位面積に担持可能な前段用触媒活性物質34の最大質量である。担持限界質量Lは、予め決まった値である。前段用担体33に必要な表面積、つまり、前段用担体33において排ガスGが接触可能な面の面積の最小値をSminとすると、Smin=a1/Lとなる。このため、A≧Sminとなる。貫通孔37は、前段用担体33の表面積Aが、Smin以上となるように、形成されている。
【0031】
本実施形態では、一例としてA=Sminとなる。前段用担体33に貫通孔37が形成されていない点のみ異なり、他の構造(形状、大きさ)が前段用担体33と同じである担体を仮想した場合、この仮想担体の表面積は、貫通孔37を考慮した分Sminよりも多くなる。
【0032】
図5は、前段用触媒32において、第1,2のシート部材50,51の開口率を変化させた場合の、前段用触媒32の浄化性能を示すグラフである。ここで言う開口率とは、上記した、第1,2のシート部材50,51の周縁54,55の内側の範囲の面積に対する貫通孔37の面積の割合である。
【0033】
図5中横軸は、開口率を示し、図中右側に進むにつれて開口率が大きくなることを示す。図5中縦軸は、排ガスG中において浄化すべき物質の低減効果を示している。浄化すべき物質は、例えば、NOxや未燃燃料である。縦軸において目盛り1は、低減されていないことを示す。目盛りにおいて1より小さい値は(例えば、0.9や0.7など)、浄化すべき物質が低減していることを示しており、それゆえ、前段用触媒32の浄化性能が向上していることを示している。
【0034】
図5では、開口率が0(零)%である構造の排ガス中の浄化すべき物質の量(質量)を基準としている。縦軸の目盛りは、開口率が0%である構造の排ガス中の浄化すべき物質の量(質量)に対する割合を示している。
【0035】
このため、開口率が0%の構造は、縦軸が1を示しており、つまり、浄化すべき物質が低減されていないことを示している。縦軸の0.9は、排ガス中の浄化すべき物質の量(質量)が、開口率0%(目盛りが1)の構造の排ガス中の浄化すべき物質の量(質量)に対して0.1(1割)減少したことを示す。
【0036】
図5では、開口率がPの位置近辺で前段用触媒32の排ガス浄化性能が高いことが示されている。本実施形態の第1,2のシート部材50,51は、一例として開口率がPである。開口率がPである場合、前段用担体33の表面積Aは、Sminである。
【0037】
このように構成される排ガス浄化装置20では、前段用担体33に貫通孔37を形成することによって前段用担体33の質量を小さくし、前段用触媒32の質量a1を後段用触媒42の質量b1よりも小さくしている。それゆえ、前段用触媒32の熱容量を後段用触媒42よりも小さくできる。このため、前段用触媒32を後段用触媒42に対して早期に昇温度できる。言い換えると、前段用触媒活性物質34の活性温度まで早期に昇温することができる。
【0038】
前段用触媒活性物質34を早期に活性化できるので、自動車の走行開始直後などでも前段触媒装置30が早く昇温することで排ガスを浄化できる。そして、後段用触媒42は、前段用触媒32で処理されなかった排ガスを浄化する。このように、排ガス浄化装置20が自動車の走行開始から早期に機能するので、排ガスの浄化性能が向上する。
【0039】
さらに、貫通孔37を形成する構造であるので、前段用担体33を軽量化するために壁部36を薄くすることがなく、それゆえ、前段用担体33の耐久性が低下を抑制することができる。また、貫通孔37を形成する構造であるので、前段用担体33の容量を小さくすることがなく、それゆえ、排ガスの浄化性能が低下することがない。また、通路35の密度を向上することがないので、圧力損失が向上することがない。
【0040】
また、前段用触媒活性物質34の質量a2が、後段用触媒活性物質44の質量b2より大きいことによって、前段触媒装置30の浄化性能をより一層高くすることができる。なお、本実施形態では、a2>b2としたが、これに限定されない。例えば、a2=b2であってもよい。
【0041】
この発明は、上述した実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上述した実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、上述した実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除しても良い。
【符号の説明】
【0042】
20…排ガス浄化装置、32…前段用触媒(第1の触媒)、33…前段用担体(第1の担体)、34…前段用触媒活性物質(第1の触媒活性物質)、37…貫通孔、42…後段用触媒(第2の触媒)、43…後段用担体(第2の担体)、44…後段用触媒活性物質(第2の触媒活性物質)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の担体と、前記第1の担体に担持される第1の触媒活性物質とを具備する第1の触媒と、
前記第1の触媒に対して直列に配置される第2の触媒であって、第2の担体と、前記第2の担体に担持される第2の触媒活性物質とを具備する第2の触媒と
を具備し、
前記第1の担体は、当該第1の担体を形成する壁部に、当該壁部を貫通する貫通孔が形成され、
前記第1の触媒活性物質の担持量は、前記第2の触媒活性物質の担持量以上とされ、
前記貫通孔は、前記第1の担体の熱容量が前記第2の担体の熱容量よりも小さくなるように形成され、
前記貫通孔の前記壁部に占める割合は、前記第1の担体において単位面積当たりに担持できる前記第1の触媒活性物質の最大質量である担持限界質量に基づいて設定される
ことを特徴とする排ガス浄化装置。
【請求項2】
前記第1の触媒の熱容量が前記第2の触媒の熱容量より小さくなるように、前記壁部に占める前記貫通孔の割合と前記第1の触媒活性物質の担持量を設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−226421(P2011−226421A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98172(P2010−98172)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】