説明

排気ガス後処理デバイス内の還元剤バッファ・レベルをコントロールするための方法

本発明は、内燃エンジンの下流に接続可能な排気ガス後処理デバイス内における還元剤バッファ・レベルをコントロールするための方法であって、前記方法は、前記排気ガス後処理デバイスの上流において第1の量の第1の還元剤噴射を実行するステップと、前記排気ガス後処理デバイスの上流において第2の量の第2の還元剤噴射を実行するステップであって、前記第2の量が前記第1の量とは異なるものとするステップと、前記第1および第2の還元剤噴射から結果としてもたらされるNOx変換を、前記排気ガス後処理デバイスの下流において評価し、第1および第2の結果を獲得するステップと、前記第1および第2のNOx変換の評価から得られた前記第1および第2の結果に応じてその後に続く還元剤噴射をコントロールするステップとを包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特許請求の範囲の独立請求項のプリアンブルによるところの排気ガス後処理デバイス内の還元剤バッファ・レベルをコントロールするための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車市場における今日の規制条件により既存の乗り物における燃料の経済性の向上および排出物質の低減に対する要求がますます高まってきた。これらの規制条件は、乗り物の高い性能および迅速な応答性に向けられた消費者の要求とのバランスが取られなければならない。
【0003】
ディーゼル・エンジンは、最大で約52%の効率を有し、したがって最良の化石エネルギ変換器である。NOx排出物質濃度は、局所的な酸素原子濃度および局所的な温度に依存する。しかしながら、前記高効率は、高いNOxレベルが不可避となる高い燃焼温度においてのみ可能である。それに加えて、内部手段(空気/燃料の比)によるNOx形成の抑圧は、微粒子の増加を生じさせる傾向を有し、NOx−微粒子トレードオフとして知られる。さらにまた、ディーゼル・エンジンからの排気ガス内における過剰な酸素は、80年代後半からガソリン・エンジン車に使用されているようなNOxの還元のための化学量論的な3ウェイ触媒テクノロジの使用を妨げる。ディーゼル・エンジンからの排気ガス内の窒素酸化物(NOx)および微粒子物質(PM)の低減は、環境の保護ならびに有限な化石エネルギ供給の節約の観点から非常に重要な問題となっている。
【0004】
ディーゼルまたはそのほかのリーンバーン・エンジンが搭載された乗り物は、燃料の経済性の増加という利益を提供するが、その種のシステムにおける従来的な手段を介したNOx排出物質の触媒還元が、排気ガス内における高い酸素含有量に起因して困難になる。これに関して言えば、触媒に入る排気ガス混合物内への還元剤の能動的噴射を通じてNOxが連続的に除去される選択的触媒還元(SCR)触媒が、高いNOx変換効率を達成することが知られている。尿素ベースのSCR触媒は、活性NOx還元剤として気体アンモニアを使用する。通常、尿素の水溶液が乗り物に搭載される形で運ばれ、噴射システムが使用されてSCR触媒に入る排気ガス流内にそれが供給され、そこでそれがシアン化水素酸(NHCO)および気体アンモニア(NH3)に分解され、続いてそれがNOxの変換に使用される。しかしながら、その種のシステムにおいては、尿素の噴射レベルが非常に精密にコントロールされなければならない。尿素の噴射不足は、結果として最適に満たないNOx変換をもたらし、噴射過剰は、テールパイプにアンモニアスリップを生じさせる可能性がある。典型的な尿素ベースのSCR触媒システムにおいては、噴射される尿素の量が排気ガスのNOx濃度と比例関係にあるが、これは、最大NOx変換と最小アンモニアスリップの間のトレードオフを表わしている。
【0005】
SCR触媒のNOx変換効率は、吸着されるアンモニアの存在下において改善される。しかしながら、最適NOx変換効率を達成するために触媒の貯蔵容量のすべてがアンモニアによって利用されることは必須でない。その逆に、高温等の特定の動作条件の下に過剰なアンモニアが触媒内に貯蔵された場合には、触媒内の吸着されるアンモニアの一部が脱着して触媒から漏れ出すか、あるいは酸化されてNOxとなり、それによって全体的なNOx変換効率を低下させることがある。
【0006】
還元剤貯蔵触媒に伴う問題は、前記触媒内に貯蔵される還元剤の量の直接測定が可能でないことから、それのコントロールとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、システムから出て行くNOxレベルを低いレベルに維持する排気ガス後処理デバイス内の還元剤バッファ・レベルをコントロールするための改善された方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、特許請求の範囲の独立請求項の特徴によって達成される。そのほかの請求項および説明は、本発明の有利な実施態様を開示する。
【0009】
本発明の第1の態様においては、内燃エンジンの下流に接続可能な排気ガス後処理デバイス内における還元剤バッファ・レベルをコントロールするための方法が提供される。前記方法は、前記排気ガス後処理デバイスの上流において第1の量の第1の還元剤噴射を実行するステップと、前記排気ガス後処理デバイスの上流において第2の量の第2の還元剤噴射を実行するステップであって、前記第2の量が前記第1の量とは異なるものとするステップとを包含する。前記方法は、さらに、前記第1および第2の還元剤噴射から結果としてもたらされるNOx変換を、前記排気ガス後処理デバイスの下流において評価し、第1および第2の結果を獲得するステップと、前記第1および第2のNOx変換の評価から得られた第1および第2の結果に応じてその後に続く還元剤噴射をコントロールするステップとを包含する。
【0010】
本発明のこの例の実施態様の利点は、評価するステップおよびコントロールするステップが、開ループ実験を形成し、それを排気ガス後処理システムのバッファ・レベルのための任意の既存のコントロール方法に追加できることである。
【0011】
本発明のこの例の実施態様の別の利点は、開ループ実験が生じている間にNOx変換を最小に維持できることである。
【0012】
本発明の別の例の実施態様においては、第2の噴射量が第1の噴射量より高いことを前提とすると、前記第2のNOx変換の評価から得られた前記第2の結果が前記第1のNOx変換の評価から得られた前記第1の結果より高いか、または低い場合には、前記評価するステップの後に続く噴射量が前記第1の噴射との比較において増加されるか、または減少される。
【0013】
本発明のさらに別の例の実施態様においては、第2の噴射量が第1の噴射量より低いことを前提とすると、前記第2のNOx変換の評価から得られた前記第2の結果が前記第1のNOx変換の評価から得られた前記第1の結果より高いか、または低い場合には、前記評価するステップの後の前記その後に続く噴射が前記第1の噴射との比較において減少されるか、または増加される。
【0014】
これらの実施態様の利点は、噴射される還元剤のわずかな変更が結果として直ちにNOx還元剤レベルの変更をもたらし、続いてそれが、空または満杯の排気ガス後処理還元剤バッファの指標を与えることである。
【0015】
本発明のさらに別の例の実施態様においては、前記方法が、前記増加されるか、または減少されるその後に続く噴射を、あらかじめ決定済みのレベルのNOx変換が達成されるまで継続するステップをさらに包含する。
【0016】
この実施態様の利点は、既存のバッファ管理方法が、前記既存のバッファ管理方法とは独立した方法ステップを追加することによって改善できることである。
【0017】
この実施態様の別の利点は、開始条件とは無関係にバッファ・レベルを最適レベルに維持できることである。
【0018】
本発明のさらに別の利点は、必要とするだけ頻繁に開ループ実験を起動できることである。
【0019】
上で述べた目的ならびにそのほかの目的および利点を伴う本発明は、その最良の理解が以下の実施態様(1つまたは複数)の詳細な説明から得られることになろうが、それらの実施態様に限定されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】先行技術の排気ガス後処理システムを図解したブロック図である。
【図2】先行技術の排気ガス後処理システムを図解したブロック図である。
【図3】排気ガス後処理システムのための発明性のあるコントロール方法を示したフローチャートである。
【図4】還元剤の貯蔵量の関数として図示したNOx変換率のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面においては、等しいかまたは類似の要素が等しい参照番号によって参照されている。図面は、単なる略図的な表現に過ぎず、本発明の特定のパラメータを描写する意図ではない。それに加えて、図面には、本発明の代表的な実施態様を図示することだけが意図されており、したがって本発明の範囲を限定するものと見なされるべきではない。
【0022】
図1は、先行技術の排気ガス後処理システム100を略図的に図示している。前記排気ガス後処理システム100は、第1のNOxセンサ102、第2のNOxセンサ104、およびSCR触媒106を包含する。第1のNOxセンサ102は、前記SCR触媒106の上流に備えられる。第2のNOxセンサ104は、前記SCR触媒106の下流に備えられる。前記SCR触媒106には、取入れ口110および吐き出し口112が備えられている。還元剤は、取入れ口110内において前記SCR触媒106に対して提供されるか、または吐き出し口112の手前で前記SCR触媒106に対して直接提供されるかのいずれとすることもできる。還元剤は、アンモニアまたは尿素の形式とすることができる。
【0023】
SCR触媒の機能はこの分野で周知であり、それに関してここでさらに明らかにしていく必要はないであろう。
【0024】
図2は、先行技術の排気ガス後処理システム200の別の例を略図的に図示している。前記排気ガス後処理システム200は、第1のNOxセンサ202、第2のNOxセンサ204、SCR触媒206、およびクリーンアップ触媒208を包含する。第1のNOxセンサ202は、前記SCR触媒206の上流に備えられる。第2のNOxセンサ204は、前記クリーンアップ触媒208の下流に備えられる。前記SCR触媒206は、前記クリーンアップ触媒208の上流に備えられる。この排気ガス後処理システム200には、取入れ口210および吐き出し口212が備えられている。還元剤は、取入れ口210内において前記SCR触媒206に対して提供されるか、またはクリーンアップ触媒208の手前で前記SCR触媒206に対して直接提供されるかのいずれとすることもできる。還元剤は、アンモニアまたは尿素の形式とすることができる。クリーンアップ触媒208は、過剰なアンモニア(アンモニアスリップ)の中性化に使用することができる。クリーンアップ触媒208は、貯蔵されている酸素または排気ガス内に残留する残留酸素を使用し、使用されなかった還元剤および吸着されなかったNH3を次に示す化学式に従って酸化させることができる。
【0025】
4NH3+3O2=>2N2+6H2O
4NH3+5O2=>4NO+6H2O
【0026】
図3は、本発明によるところの排気ガス後処理システムのための発明性のあるコントロール方法を図解したフローチャートである。正常動作310においては、排気ガス後処理システム100、200の上流の内燃エンジンの排気ガス混合物内に公称値の量の還元剤を噴射することができる。噴射される還元剤の量の公称値は、第1のルックアップ・テーブルから取得することができる。第1のルックアップ・テーブルから取得される実際のデータ(噴射される還元剤の量の公称値)は、触媒の温度、エンジンの速度、エンジンの負荷、EGRレベル、前記排気ガス後処理システムの上流および下流におけるNOx濃度といった多数の動作パラメータの関数とすることができる。第1のルックアップ・テーブルから取得される実際のデータ(噴射される還元剤の量の公称値)は、コントロール・ユニットによって作ることができる。
【0027】
前記コントロール・ユニットは、特定の排気ガス後処理システム100、200のための経験則的なデータからコンパイルされた噴射還元剤モデルを包含している。
【0028】
第2のルックアップ・テーブル内には、それぞれの状況について期待されるNOx変換レベルのための値がストアされており、それらは、噴射還元剤の量の公称値および次に示すパラメータ、すなわち触媒の温度、エンジンの速度、エンジンの負荷、およびEGRレベルのうちの少なくとも1つによって決定できる。
【0029】
期待されるNOx変換レベルと実際に測定されたNOx変換レベルの間に偏差が存在する場合には、この方法は、310によって示されている正常動作から320によって示されている還元剤噴射開ループ実験へと移る。
【0030】
開ループ実験320の第1の例の実施態様においては、前記排気ガス後処理システム100、200内の還元剤バッファが空であるかまたは殆ど空であるとの仮定が行なわれる。
【0031】
排気ガス後処理システム100、200内の還元剤バッファが空であるかまたは殆ど空であるとの仮定を行なった後の開ループ実験の第1のステップでは、2つの還元剤噴射が行われる。第1の噴射は、公称値の量の還元剤噴射とすることができる。第2の噴射は、第1の還元剤噴射の量との比較においてΔによる増加のある還元剤噴射とすることができる。
【0032】
開ループ実験の次のステップにおいては、330によって示されている実験結果の評価が実行される。
【0033】
還元剤噴射の第1の噴射と比較したときの還元剤噴射の第2の噴射おける還元剤噴射量のΔによる増加によって、測定されたNOx変換レベルに増加があった場合には、実験の開始時における仮定が正しかったこと、すなわち還元剤バッファが実際に空または殆ど空であったことが含意される。このケースは、図4の曲線400の正の側面、すなわち図4のピーク402の左側に対応する。
【0034】
仮定が正しかった場合には、開ループ実験が、340によって示されている充填ステップに進む。充填ステップにおいては、少なくとも1つのその後に続く還元剤噴射がコントロールされる。
【0035】
第1の例の実施態様においては、あらかじめ決定済みのレベルのNOx変換が達成されるまで、前記開ループ実験における前記Δだけ超過した噴射を継続することによって、前記少なくとも1つのその後に続く還元剤噴射の前記コントロールが実行される。それが充足されるまで、1つまたは複数の噴射を必要とすることがある。
【0036】
別の例の実施態様においては、あらかじめ決定済みのレベルのNOx変換が達成されるまで、前記開ループ実験における前記Δより大きく超過した噴射を使用することによって、少なくとも1つのその後に続く還元剤噴射の前記コントロールが実行される。それが充足されるまで、1つまたは複数の噴射を必要とすることがある。
【0037】
さらに別の例の実施態様においては、Δだけ超過した噴射から開始した後、あらかじめ決定済みのレベルのNOx変換が達成されるまで、それぞれの連続する噴射ごとに線形に、または指数関数的に増加させた超過した噴射を使用することによって、少なくとも1つのその後に続く還元剤噴射の前記コントロールが実行される。それが充足されるまで、1つまたは複数の噴射を必要とすることがある。
【0038】
さらに別の例の実施態様においては、前記Δに等しいか、またはΔを超えるか、またはそれに満たない値の超過した噴射を使用することによって、少なくとも1つのその後に続く還元剤噴射の前記コントロールが実行され、それがあらかじめ決定済みの時間期間にわたって継続される。前記あらかじめ決定済みの時間期間の間においては、1つまたは複数の噴射が実行されることがある。
【0039】
さらに別の例の実施態様においては、前記Δに等しいか、またはΔを超えるか、またはそれに満たない値の超過した噴射を使用することによって、少なくとも1つのその後に続く還元剤噴射の前記コントロールが実行され、それがあらかじめ決定済みの噴射の数にわたって継続される。前記噴射の数は、1つの噴射または複数の噴射とすることができる。
【0040】
Δの値は、第1のルックアップ・テーブルから取得することができる。
【0041】
前記Δは、公称値の還元剤噴射量の1乃至25%の増分とすることができる。
【0042】
あらかじめ決定済みのレベルのNOx変換が達成されるか、またはあらかじめ決定済みの時間が経過するか、または前記あらかじめ決定済みの数の噴射が行なわれると、開ループ実験を完了して正常動作310に戻るが、それが、充填ボックス340と正常動作310の間の矢印によって示されている。
【0043】
実験結果の評価ステップ330において、第1の還元剤噴射量から第2の還元剤噴射量をΔだけ増加することによってNOx変換レベルが減少した場合には、実験の開始時における仮定が正しくなかったこと、すなわち還元剤バッファが実際には満杯であったことが含意される。このケースは、図4の曲線400の負の側面、すなわち図4のピーク402の右側に対応する。
【0044】
第1の仮定が正しくないことが明らかになった場合には、還元剤バッファが満杯であるという新しい仮定を行なうことができ、開ループ実験が350によって示される抜き取りステップに進む。
【0045】
抜き取りステップ350においては、少なくとも1つのその後に続く還元剤噴射がコントロールされる。
【0046】
第1の例の実施態様においては、あらかじめ決定済みのレベルのNOx変換が達成されるまで、前記開ループ実験におけるΔだけ不足した噴射によって、前記少なくとも1つのその後に続く還元剤噴射の前記コントロールが実行される。それが充足されるまで、1つまたは複数の噴射を必要とすることがある。
【0047】
別の例の実施態様においては、あらかじめ決定済みのレベルのNOx変換が達成されるまで、前記開ループ実験における前記Δより大きく不足した噴射を使用することによって、少なくとも1つのその後に続く還元剤噴射の前記コントロールが実行される。それが充足されるまで、1つまたは複数の噴射を必要とすることがある。
【0048】
さらに別の例の実施態様においては、Δだけ不足した噴射から開始した後、あらかじめ決定済みのレベルのNOx変換が達成されるまで、それぞれの連続する噴射ごとに線形に、または指数関数的に減少させた不足した噴射を使用することによって、少なくとも1つのその後に続く還元剤噴射の前記コントロールが実行される。それが充足されるまで、1つまたは複数の噴射を必要とすることがある。
【0049】
さらに別の例の実施態様においては、前記Δに等しいか、またはΔを超えるか、またはそれに満たない値の不足した噴射を使用することによって、少なくとも1つのその後に続く還元剤噴射の前記コントロールが実行され、それがあらかじめ決定済みの時間期間にわたって継続される。前記あらかじめ決定済みの時間期間の間においては、1つまたは複数の噴射が実行されることがある。
【0050】
さらに別の例の実施態様においては、前記Δに等しいか、またはΔを超えるか、またはそれに満たない値の不足した噴射を使用することによって、少なくとも1つのその後に続く還元剤噴射の前記コントロールが実行され、それがあらかじめ決定済みの噴射の数にわたって継続される。前記噴射の数は、1つの噴射または複数の噴射とすることができる。
【0051】
あらかじめ決定済みのレベルのNOx変換が達成されると開ループ実験が完了して正常動作310に戻るが、それが、抜き取りボックス350と正常動作ボックス310の間の矢印によって示されている。
【0052】
上に示した例の実施態様における開ループ実験の開始時の最初の仮定は、測定されたNOx変換と第2のルックアップ・テーブルに従って期待されるNOx変換の間において検出された偏差が空の還元剤バッファによってもたらされるというものである。しかしながら、開ループ実験の第2の例の実施態様においては、還元剤バッファが空であるとすることに代えて、それが満杯であるとする仮定を行うことができる。バッファが空であるとすることに代えて、それが満杯であると仮定した場合にも上記の説明がすべてそのまま有効であるが、開ループ実験において還元剤噴射量を増加するとNOx変換も増加するときには前記仮定が誤りであるという点、すなわちバッファは空であったことになる点が異なり、また前記還元剤噴射量を増加するとNOx変換が減少するときには、バッファが過剰に満たされていたとする前記仮定が正しかったことになり、噴射量の増加に代えて適切なあらかじめ決定済みの値による減少を行なう必要があるという点が異なる。
【0053】
その逆に、バッファが満杯であるとの仮定を伴って開始した場合には、Δを用いた還元剤噴射量の減少が結果としてNOx変換の増加をもたらすことが、バッファが満杯であったとする仮定が正しかったことを含意する。しかしながら、バッファが満杯であるとの仮定を伴って開始した場合に、Δを用いた噴射量の減少が結果としてNOx変換の減少をもたらすことは、その仮定が正しくなかったこと、すなわちバッファが空であったことを含意する。
【0054】
バッファが空であるとの仮定は、通常、バッファを充填するための超過した噴射の選択を結果としてもたらすことができる。バッファが満杯であるとの仮定は、通常、バッファを抜き取るための不足した噴射の選択を結果としてもたらすことができる。しかしながら、最初から仮定が正しくなく、満杯と仮定されたバッファが実際には空であると見られ、空と仮定されたバッファが実際には満杯であると見られることがある。このことはすべて、開ループ実験における還元剤噴射のNOx変換結果の評価から明白になる。
【0055】
別の例の実施態様においては、開ループ実験において評価ステップの手前で実行される還元剤噴射(第1(公称)および第2(Δを用いた増加/減少)として示すことができる)を前記実験と結合された特定の噴射とすること、すなわち第1のルックアップ・テーブルによって与えられる正常噴射シーケンスとの比較において噴射タイミングが異なり、量が異なる追加の噴射シーケンスとすることができる。
【0056】
上で詳細に述べた例の実施態様においては、(第1(公称)および第2(Δを用いた増加/減少)として示すことができる)前記噴射が正常噴射シーケンス内に埋め込まれている。第1の噴射量は、開ループ実験の開始時に存在する還元剤噴射量とすることができる。第1(公称)の還元剤噴射量は、コントロール・ユニット内のモデルおよび特定の瞬間において与えられる状況(触媒の温度、エンジンの速度、エンジンの負荷、EGRレベル、前記排気ガス後処理システムの上流および下流におけるNOxの濃度)から決定される。
【0057】
第2の還元剤噴射量は、前記第1の噴射量にあらかじめ決定済みの量Δを加えた量とすることができる。別の例の実施態様においては、前記第2の還元剤噴射量が、前記第2の噴射がまさに実行されようとするときの前記特定の瞬間におけるモデルによって与えられる値になる。このことは、第2の還元剤噴射量が、コントロール・ユニット内のモデルおよびその特定の瞬間において与えられる状況(触媒の温度、エンジンの速度、エンジンの負荷、EGRレベル、前記排気ガス後処理システムの上流および下流におけるNOxの濃度)から決定されることを意味する。第1および第2の噴射は、前記コントロール・ユニット内にストアされた前記噴射モデルによって与えられる時間で間隔が開けられる。前記開ループ実験においては、前記第2の還元剤噴射を量Δだけ増加/減少することができる。
【0058】
開ループ実験は、NOx変換レベルがあらかじめ決定済みの値に等しくなるか、またはあらかじめ決定済みの数の噴射が実行されるか、またはあらかじめ決定済みの時間期間が経過するまで噴射量の増加または減少(バッファ・レベルの実際の状況に依存する)を伴って継続される。
【0059】
噴射モデルは、新しい触媒の測定から作成される。この噴射モデルに、期待されたNOx変換と実際に測定されたNOx変換の間において偏差が検出される場合に実行することができる開ループ実験を追加すると、触媒の老化が効果的に配慮される。貯蔵容量およびNOx変換は、触媒が古くなるに従って変化し、したがって新しい触媒について完全に機能することができる噴射モデルは、古い触媒についても同様に良好であるとし得ないことがある。触媒の老化に応じて異なる噴射モデルを有することに代えて、1つの単一の噴射モデルおよび開ループ実験を使用することができる。この単一の噴射モデルと開ループ実験の組み合わせは、触媒の全寿命にわたって良好なNOx変換を達成すると同時に、存在する尿素スリップを低く抑える。
【0060】
前記排気ガス後処理デバイスの下流における、第1および第2の結果を獲得するための前記第1および第2の還元剤噴射からのNOx変換の評価の結果は、触媒の老化の指標または見積もりとすることができる。測定されたNOx変換結果が前記第2のルックアップ・テーブル内にストアされたNOx変換の見積もりから逸れるほど、前記触媒が古い可能性がある。
【0061】
前記排気ガス後処理デバイスの下流における、第1および第2の結果を獲得するための前記第1および第2の還元剤噴射からのNOx変換の評価の結果を使用して、前記第1のルックアップ・テーブル内の噴射量によって与えられる公称噴射を調整することができる。このことは、閉ループ実験における還元剤噴射の公称噴射の適応的調整のために開ループ実験から得られる結果が使用できることを意味する。
【0062】
触媒のバッファ・レベルまたはそれの老化を決定するための開ループ実験は、還元剤の公称噴射についての任意の標準的な閉ループ・コントロールとの組み合わせにおいて使用することができる。
【0063】
図4は、NOx変換率を還元剤の貯蔵される量/バッファされる量の関数として図解している。NOx変換がパーセンテージで与えられており、100%は完全なNOx変換に等しく、0%はNOx変換がまったくないに等しいことを含意する。良好なNOx変換は、通常、貯蔵されるNH3の量が最大貯蔵容量の約20%乃至80%であるときに得られる。良好なNOx変換は、NOx変換が50%より高いときを意味すると言うことができる。
【0064】
還元剤の量は、たとえばグラムまたはclを単位として与えられる。低量の貯蔵される還元剤でさえもNOx変換の改善に充分である。貯蔵される還元剤の量が最大を超えるとNOx変換が低下する理由は、余分な還元剤の一部が排気ガス後処理システム内においてNOxに変換され得ることによる。
【0065】
コンピュータ・プログラムは、コンピュータ上において前記プログラムが実行されるときに少なくとも開ループ実験を実行するためのプログラム・コード手段を包含することができる。
【0066】
コンピュータ・プログラム・プロダクトは、コンピュータ上において前記プログラム・プロダクトが実行されるときに少なくとも開ループ実験を実行するためのコンピュータ可読媒体上にストアされたプログラム・コード手段を包含することができる。
【0067】
本発明は、以上述べてきた実施態様に限定されると考えられるべきでなく、むしろその逆に多くの追加の変形および修正を以下の特許請求の範囲内において企図することができる。
【符号の説明】
【0068】
100 先行技術の排気ガス後処理システム
102 第1のNOxセンサ
104 第2のNOxセンサ
106 SCR触媒
110 取入れ口
112 吐き出し口
200 先行技術の排気ガス後処理システム
202 第1のNOxセンサ
204 第2のNOxセンサ
206 SCR触媒
208 クリーンアップ触媒
210 取入れ口
212 吐き出し口
310 正常動作、公称動作
320 還元剤噴射開ループ実験
330 実験結果の評価
340 充填ステップ
350 抜き取りステップ
400 曲線
402 ピーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃エンジンの下流に接続可能な排気ガス後処理デバイス内における還元剤バッファ・レベルをコントロールするための方法であって、
a. 前記排気ガス後処理デバイスの上流において第1の量の第1の還元剤噴射を実行するステップと、
b. 前記排気ガス後処理デバイスの上流において第2の量の第2の還元剤噴射を実行するステップであって、前記第2の量が前記第1の量とは異なるものとするステップとを包含し、それにおいて前記方法が、さらに、
c. 前記第1および第2の還元剤噴射から結果としてもたらされるNOx変換を、前記排気ガス後処理デバイスの下流において評価し、第1および第2の結果を獲得するステップと、
d. 前記第1および第2のNOx変換の評価から得られた前記第1および第2の結果に応じてその後に続く還元剤噴射をコントロールするステップとを包含することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1の噴射量は、前記第2の噴射量より小さいとする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2のNOx変換の評価から得られた前記第2の結果が前記第1のNOx変換の評価から得られた前記第1の結果より高い場合には、前記評価するステップの後に続く噴射量が前記第1の噴射または公称噴射との比較において増加される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2のNOx変換の評価から得られた前記第2の結果が前記第1のNOx変換の評価から得られた前記第1の結果と本質的に同一であるか、またはそれより低い場合には、前記評価するステップの後に続く噴射量が前記第1の噴射または公称噴射との比較において減少される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の還元剤噴射は、噴射モデルによる前記公称噴射に等しい、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記NOx変換の前記評価は、
− 前記排気ガス後処理デバイスの上流に提供される第1のNOxセンサを用いて前記排気ガスのNOx含有量を測定するステップと、
− 前記排気ガス後処理デバイスの下流に提供される第2のNOxセンサを用いて前記排気ガスのNOx含有量を測定するステップと、
− 前記第1および第2のNOxセンサからの測定値を比較するステップとを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記排気ガス後処理デバイス内に直接前記還元剤を噴射するステップをさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記還元剤は尿素である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記増加されるか、または減少されたその後に続く還元剤噴射を、次に示すパラメータ、すなわち、あらかじめ決定済みのレベルのNOx変換が達成されること、あらかじめ決定済みの数の噴射が実行されること、またはあらかじめ決定済みの時間期間が経過することのうちの少なくとも1つが充足されるまで継続するステップをさらに包含する、請求項3または4に記載の方法。
【請求項10】
検出されたNOx変換レベルと、見積もられたNOx変換レベルを比較するステップと、
前記検出されたNOx変換と前記見積もられたNOx変換の間に偏差が存在する場合には請求項1に記載のステップ(a)を起動するステップとをさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の噴射量は、前記第2の噴射量より大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記評価するステップの後に続く噴射は、前記第2のNOx変換の評価から得られた前記第2の結果が前記第1のNOx変換の評価から得られた前記第1の結果より高い場合に、前記第1の噴射または公称噴射との比較において減少される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第2のNOx変換の評価から得られた前記第2の結果が前記第1のNOx変換の評価から得られた前記第1の結果と本質的に同一であるか、またはそれより低い場合には、前記評価するステップの後に続く噴射量が前記第1の噴射または公称噴射との比較において増加される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記増加されるか、または減少されたその後に続く噴射を、次に示すパラメータ、すなわち、あらかじめ決定済みのレベルのNOx変換が達成されること、あらかじめ決定済みの数の噴射が実行されること、またはあらかじめ決定済みの時間期間が経過することのうちの少なくとも1つが充足されるまで継続するステップをさらに包含する、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1および第2のNOx変換の評価から得られた前記第1および第2の結果に応じて前記排気ガス後処理デバイスの老化を見積もるステップをさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記第1および第2のNOx変換の評価から得られた前記第1および第2の結果に応じて閉ループにおいて前記公称還元剤噴射を調整するステップをさらに包含する、請求項5に記載の方法。
【請求項17】
a.−d.までのステップと還元剤の公称噴射の閉ループ・コントロールを組み合わせるステップをさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
コンピュータ・プログラムであって、コンピュータ上において前記プログラムが実行されるときに請求項1乃至17のいずれか一項に記載のすべてのステップを実行するためのプログラム・コード手段を包含するコンピュータ・プログラム。
【請求項19】
コンピュータ・プログラム・プロダクトであって、コンピュータ上において前記プログラム・プロダクトが実行されるときに請求項1乃至17のいずれか一項に記載のすべてのステップを実行するためのコンピュータ可読媒体上にストアされたプログラム・コード手段を包含するコンピュータ・プログラム・プロダクト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−514490(P2013−514490A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544426(P2012−544426)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【国際出願番号】PCT/SE2009/000530
【国際公開番号】WO2011/075015
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(500277711)ボルボ ラストバグナー アーベー (163)
【Fターム(参考)】