説明

排気ガス浄化用触媒

【課題】 触媒担持層内での強磁性粒子による触媒金属粒子の実効的な吸引固定作用を高めることにより、シンタリング抑制効果を向上させた排気ガス浄化用触媒を提供する。
【解決手段】 基材10と、基材10上の触媒担持層12と、触媒担持層12に担持された触媒金属粒子14とを備えた排気ガス浄化用触媒において、触媒担持層12は、触媒金属粒子14に作用する磁力を発生させる強磁性粒子16を含有し、強磁性粒子16の含有濃度が基材10との界面Gから触媒担持層12の表面Sへ向けて漸増していることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関から排出される排ガス中のNOx、HC、COを分解除去して排ガスを浄化するための触媒は、基材と、該基材上の触媒担持層と、該触媒担持層上の触媒金属とから基本的に構成される。触媒作用の主体である触媒金属としては一般にPt、Rh等の貴金属が用いられる。高い触媒活性を確保するために触媒金属は表面積の大きい微細な粒子の状態で担持される。
【0003】
しかし、排ガスとの接触により高温に曝された触媒金属の粒子はシンタリング(焼結)により相互に合体して粗大化し、表面積が減少して触媒活性が低下し、所定の浄化性能が得られなくなるという問題があった。
【0004】
これに対してシンタリングを抑制するために種々の対策が講じられている。
【0005】
例えば、特許文献1には、強磁性粒子を触媒担持層中に混入させ、または、触媒金属粒子と混在させた触媒装置が提案されている。この装置は、強磁性粒子の個々に触媒金属粒子を磁力で吸引固定することにより拘束して、触媒金属粒子の移動を抑止可能と考えられる。
【0006】
しかし、強磁性粒子からの磁力が及ばず吸引固定されない触媒金属粒子が存在するため、シンタリングの抑制効果を更に向上させる余地が残されている、という問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開2003−301715号公報(特許請求の範囲、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、触媒担持層内での強磁性粒子による触媒金属粒子の実効的な吸引固定作用を高めることにより、シンタリング抑制効果を向上させた排気ガス浄化用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、基材と、該基材上の触媒担持層と、該触媒担持層に担持された触媒金属粒子とを備えた排気ガス浄化用触媒において、
上記触媒担持層は、上記触媒金属粒子に作用する磁力を発生させる強磁性粒子を含有し、該強磁性粒子の含有濃度が上記基材との界面から上記触媒担持層の表面へ向けて漸増していることを特徴とする排気ガス浄化用触媒が提供される。
【発明の効果】
【0010】
排気ガス浄化用触媒は、基材上に多孔質の触媒担持層を形成した後、触媒金属水溶液中に浸漬して触媒担持層に触媒金属を含浸担持させることにより完成する。触媒担持層への触媒金属の担持濃度は、触媒担持層と基材との界面で最も低く、触媒担持層の表面に近づくほど増加し、表面で最も高くなる。すなわち、触媒金属の担持濃度は触媒担持層の厚さ方向に沿って均一ではなく、基材との界面から触媒担持層表面まで漸増する濃度勾配を持っている。
【0011】
前述した特許文献1等で提案されている従来の排気ガス浄化用触媒では、上記のような濃度勾配で触媒金属を担持する触媒担持層内に強磁性粒子を単純に一律分散させていた。そのため、基材寄りの部位では低濃度の触媒金属に対して強磁性粒子の濃度が相対的に高すぎて無駄であり、その一方、表面寄りの部位では高濃度に担持された触媒金属に対して強磁性粒子が不足し磁力による吸引固定作用が十分に行き渡らず、シンタリングの抑制効果が弱かった。
【0012】
本発明は、触媒担持層形成後に担持される触媒金属粒子の濃度勾配に対応させて予め触媒担持層形成時に強磁性粒子に濃度勾配を持たせたので、磁力による触媒金属粒子の吸引固定作用が効率的に発現し、シンタリング抑制効果が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1を参照して、本発明の一実施形態による排気ガス浄化用触媒を説明する。
【0014】
図示した排気ガス浄化用触媒100は、基材10と、基材10上の触媒担持層12と、触媒担持層12に担持された触媒金属粒子14(図中〇で表示)とを備えており、触媒担持層12は、触媒金属粒子14に作用する磁力を発生させる強磁性粒子16(図中●で表示)を含有している。
【0015】
本発明の特徴として、触媒担持層12を、基材10上の下層12Aと、下層12A上の上層12Bとから成る2層構造とし、強磁性粒子16の含有濃度を下層12Aで低く、上層12Bで高くした。図中では便宜上、この濃度関係を、強磁性粒子16を表す●の個数を、下層12A内では少数(3個)、上層12B内では多数(12個)にして模式的に示した。これにより、触媒担持層12中に含有される強磁性粒子16の濃度が、基材10側との界面Gから触媒担持層12の表面Sへ向けて段階的に漸増する濃度勾配となっている。
【0016】
上記のように基材10との界面G側が低濃度、表面S側が高濃度である強磁性粒子16の濃度勾配は、強磁性粒子12を含有する触媒担持層12を形成した後に担持させる触媒金属粒子14の濃度勾配と対応している。すなわち、触媒金属14は触媒担持層12の表面Sからの含浸により触媒担持層12に担持させるので、触媒金属14の濃度は表面Sで最も高く基材10との界面Gで最も低い分布形態の濃度勾配を持つ。図中では便宜上、この濃度関係を、触媒金属粒子14を表す〇の個数を、下層12A内では少数(8個)、上層12B内では多数(15個)にして模式的に示した。
【0017】
このように、触媒担持層12内における強磁性粒子16の濃度分布が触媒金属粒子14の濃度分布と対応していることにより、触媒金属粒子14に対して過不足なく磁力が作用して吸引固定作用が発現するので、シンタリング抑制効果が向上する。
【0018】
強磁性粒子は、浄化対象とする排ガスの温度に適応するキュリー点のものを選択する。この観点で一般的な選択の目安を表1にまとめて示す。
【0019】
【表1】

【0020】
表1に示した具体的な各磁石は各排ガス温度に適応したキュリー点を持つ磁石の代表例であり、本発明に用いる強磁性粒子はこれらに限定する必要はなく、表1に示されていない他の磁石でもこれらと同等のキュリー点を持つ磁石であればよい。
【実施例】
【0021】
〔発明例〕
本発明による排気ガス浄化用触媒を下記の手順で作製した。
【0022】
(1)アルミナスラリーの調製
アルミナ(Al)粉末100g、硝酸アルミニウム9水塩(Al(NO・9HO)の40wt%水溶液48g、イオン交換水140gを混合、攪拌してアルミナスラリーを調製した。
【0023】
(2)アルミナ多孔質層の形成
上記のアルミナスラリーを、コージェライト製ハニカム基材テストピース(寸法:φ30mm×L50mm)に塗布した。塗布量はテストピース1個当り固形分で3.5g(100g/L触媒)とした。従来と同様の条件で乾燥および焼成して、基材表面に触媒担持層下層部分の前駆体として多孔質アルミナ層を形成した。
【0024】
(3)Baフェライト/アルミナ複合スラリーの調製
アルミナ(Al)粉末50g、強磁性粒子としてのBaフェライト(BaO・6Fe)粉末50g、硝酸アルミニウム9水塩(Al(NO・9HO)の40wt%水溶液24g、イオン交換水70gを混合、攪拌してBaフェライト/アルミナ複合スラリーを調製した。
【0025】
(4)触媒担持層の形成
上記のBaフェライト/アルミナ複合スラリーを、上記(2)で形成した多孔質アルミナ層上に塗布した。塗布量はテストピース1個当り固形分で3.5g(100g/L触媒)とした。塗布されたBaフェライト/アルミナ複合スラリーは、塗布下地である多孔質アルミナ層の気孔内にも浸透し、元はアルミナ単相であった多孔質アルミナ層内にBaフェライトが導入され、低濃度のBaフェライトを含むアルミナ層が形成される。
【0026】
塗布後に、従来と同様の条件で乾燥および焼成した。これにより、コージェライト製ハニカム基材上に、低濃度Baフェライト/アルミナ複合層と高濃度Baフェライト/アルミナ複合層とから成る触媒担持層を備えた触媒担体を得た。
【0027】
(5)触媒金属の担持
ジニトロジアミンPt溶液を用いて、触媒金属としてPtを触媒1L当り2gとなるように、上記触媒担体の触媒担持層に含浸担持させた。
【0028】
(6)着磁処理
テストピースの横方向から15kOeの磁界を印加して着磁させた。
【0029】
これにより、コージェライト基材10の表面に、Baフェライト粒子(強磁性粒子)16を低濃度で含有し且つPt(触媒金属)14を低濃度で担持した触媒担持層下層12Aと、この下層12A上にBaフェライト粒子(強磁性粒子)16を高濃度で含有し且つPt(触媒金属)14を高濃度で担持した触媒担体層上層12Bとから成る触媒担体層12を備えた排気ガス浄化用触媒100が完成した。
【0030】
〔比較例1〕
比較のため、従来のように一律に強磁性粒子を含有させた単相の触媒担持層を備えた排気ガス浄化用触媒を作製した。
【0031】
(1)Baフェライト/アルミナ複合スラリーの調製
アルミナ(Al)粉末150g、強磁性粒子としてのBaフェライト(BaO・6Fe)粉末50g、硝酸アルミニウム9水塩(Al(NO・9HO)の40wt%水溶液72g、イオン交換水210gを混合、攪拌してBaフェライト/アルミナ複合スラリーを調製した。
【0032】
(2)触媒担持層の形成
上記のBaフェライト/アルミナ複合スラリーを、コージェライト製ハニカム基材テストピース(寸法:φ30mm×L50mm)に塗布した。塗布量はテストピース1個当り固形分で7g(200g/L触媒)とした。従来と同様の条件で乾燥および焼成して、基材表面に触媒担持層としてBaフェライト含有多孔質アルミナ層を備えた触媒担体を得た。
【0033】
以下、前記発明例と同様の条件で、Pt担持と着磁処理を行ない排気ガス浄化用触媒を完成させた。
【0034】
〔比較例2〕
比較のため、強磁性粒子を含有しない触媒担持層を備えた排気ガス浄化用触媒を作製した。
【0035】
(1)アルミナスラリーの調製
アルミナ(Al)粉末200g、硝酸アルミニウム9水塩(Al(NO・9HO)の40wt%水溶液96g、イオン交換水240gを混合、攪拌してアルミナスラリーを調製した。
【0036】
(2)触媒担持層の形成
上記のアルミナスラリーを、コージェライト製ハニカム基材テストピース(寸法:φ30mm×L50mm)に塗布した。塗布量はテストピース1個当り固形分で7g(200g/L触媒)とした。従来と同様の条件で乾燥および焼成して、基材表面に触媒担持層として多孔質アルミナ層を備えた排気ガス浄化用触媒を得た。
【0037】
以下、前記発明例と同様の条件で、Pt担持と着磁処理を行ない排気ガス浄化用触媒を完成させた。
【0038】
<耐久試験>
発明例、比較例1、比較例2で作成した各サンプルについて、大気中で700℃×5hrの加熱処理による耐久試験を行なった。試験後に、COパルス法にてPt粒子の粒径を測定した。測定結果をまとめて図2に示す。
【0039】
図2の結果から、Pt粒子の粒径は、発明例を1としたとき、触媒担持層にBaフェライト粒子を含有しない比較例2は1.6倍、触媒担持層を単層のBaフェライト粒子/アルミナ複合層で形成してBaフェライト濃度勾配なしの比較例1は1.3倍に粗大化している。
【0040】
このように、本発明の排気ガス浄化用触媒100は、触媒担持層12形成後に担持される触媒金属粒子14の濃度勾配に対応させて予め触媒担持層12形成時に強磁性粒子16に濃度勾配を持たせたので、磁力による触媒金属粒子14の吸引固定作用が効率的に発現し、シンタリング抑制効果が向上する。
【0041】
なお、上記の実施例においては触媒担持層12を2層構造としたが、触媒担持層12を基材10との界面Gから表面Sまでを更に多層に区分して強磁性粒子16の濃度をきめ細かく変化させ、触媒金属14の担持濃度の勾配に更に近づけることができる。
【0042】
上記多層区分のきめ細かさを高めることにより強磁性粒子の濃度変化を段階的ではなく実質的に連続変化とすることができる。これにより強磁性粒子の濃度分布と触媒金属の濃度分布との対応を最良にすることができる。ただし、触媒担持層の形成工程は多数回を要する。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、触媒担持層内での強磁性粒子による触媒金属粒子の実効的な吸引固定作用を高めることにより、シンタリング抑制効果を向上させた排気ガス浄化用触媒が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、本発明により触媒担持層の厚さ方向に強磁性粒子の濃度勾配を持つ排気ガス浄化用触媒の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明例、比較例1、比較例2について、耐久試験後のPt粒子径を比較して示すグラフである。
【符号の説明】
【0045】
100 本発明の排気ガス浄化用触媒
10 基材
12 触媒担持層
12A 触媒担持層12の下層部分
12B 触媒担持層12の上層部分
14 触媒金属粒子
16 強磁性粒子
G 触媒担持層12と基材10との界面
S 触媒担持層12の表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上の触媒担持層と、該触媒担持層に担持された触媒金属粒子とを備えた排気ガス浄化用触媒において、
上記触媒担持層は、上記触媒金属粒子に作用する磁力を発生させる強磁性粒子を含有し、該強磁性粒子の含有濃度が上記基材との界面から上記触媒担持層の表面へ向けて漸増していることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項2】
請求項1において、上記触媒担持層内の上記強磁性粒子の含有濃度が上記基材との界面から該触媒担持層の表面へ向けて段階的に漸増していることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項3】
請求項1において、上記触媒担持層内の上記強磁性粒子の含有濃度が上記基材との界面から該触媒担持層の表面へ向けて連続的に漸増していることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−57584(P2006−57584A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242428(P2004−242428)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】