説明

排水モニタシステム及び排水測定方法

【課題】排水モニタシステムにおいて、安全性を優先しつつも実態にできるだけ近い測定結果が得られるようにする。
【解決手段】測定されたスペクトルに対して3つのウインドが設定され(S104)、各ウインドごとに計数値(計数率)が演算され(S105)、各計数値に対して換算計数が乗算される(S106)。これにより換算核種についての濃度D1,D2,D3が求められ、それらを法令等で定められている濃度限界A1,A2,A3で除することにより、濃度限度比B1,B2,B3が求められる(S107)。それらを加算した総和Cが排水処理指標として利用される(S108)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排水モニタシステム及び排水測定方法に関し、特に排水中に含まれる複数の放射性核種からの放射線を測定し、排水管理のための情報を演算する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
排水モニタシステムは、放射性同位元素つまり放射性核種を取り扱う、病院、臨床検査機関、原子力発電所、核燃料処理施設、等において利用されている。かかるシステムは、外界への排水の排出に先立って、その排水中に含まれる放射性核種の濃度が法令等で定められている濃度限界(あるいは判定値)を超えていないことをモニタリングするシステムである。従来の一般的な排水モニタシステムでは、排水中に複数の核種が存在する可能性がある場合、安全性を重視する観点から、それらの中でもっとも条件の厳しい(許容される濃度限度がもっとも低い)1つの核種だけがその排水中に存在しているものと擬制し、それを換算核種としつつ濃度を演算していた。なお、演算された濃度が上記のように定められた限界濃度を上回る場合、排水の希釈や放置等の措置がとられ、それとは逆の場合、排水の外界への放出が許容される。
【0003】
【特許文献1】特開2005−331344号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来法によると、実際に存在する核種が上記のもっとも条件の厳しい核種以外の核種であるような場合、あるいは、もっとも条件の厳しい核種が存在するもののその濃度は低く寧ろ他の核種の濃度が高いような場合、等において不都合が生じる。すなわち、必要以上に希釈が行われてしまい大量の水が必要となる、必要以上に放置時間が要求されてしまう、等の過剰処理問題が生じる。また、従来においては、計数値(計数率)分布(つまりスペクトル)を考慮した演算が行われていなかったため、例えばγ線放出核種からのγ線を測定する場合に、β線放出核種からのβ線にて生じる制動X線も何らの区別なく計数されてしまい、これも測定結果の信頼性を低下させていた。特に、I−125(但し、125は質量数)は低エネルギー領域にピークを有しており、しかも、それについて法令で定められている濃度限界は非常に低いので、I−125が上記で言及したもっとも条件の厳しい核種となる場合には、上記であげた各問題が顕著に生じていた。特許文献1には従来の排水測定装置の一例が記載されている。排水中に含まれる放射性物質の範囲は各施設ごとに決まっており、そのような条件を考慮し、合理性を追及する観点から、安全性を優先しつつもより実態に近い測定結果(評価結果)を得ることが望まれている。
【0005】
本発明の目的は、放射線物質を含有した排水の測定に際して、安全性を優先しつつも実態にできるだけ近い測定結果が得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、放射性物質を含有する排水を測定対象として放射線の測定を行う測定ユニットと、前記測定ユニットからの出力信号に基づいて、エネルギー軸上に設定された複数のエネルギー区分に対応した複数の計数値を求める計数部と、前記複数のエネルギー区分に対応した複数の計数値と前記複数のエネルギー区分に対応した複数の換算核種についての複数の換算係数とを用いて、複数の放射能濃度を演算する濃度演算部と、を含み、前記複数の換算核種についての複数の放射能濃度に基づいて排水管理のための情報が演算される、ことを特徴とする排水モニタシステムに関する。
【0007】
上記構成によれば、複数のエネルギー区分(計数ウインドに相当)が設定され、各エネルギー区分ごとに単位時間当たりの積算計数値(あるいは計数率)が求められるので、計数分布(スペクトルの形態)を考慮しつつ放射能の濃度を演算することができる。各エネルギー区分ごとに換算核種が定められるので、従来よりも、より実態に近い測定・演算を行える可能性を高められる。勿論、上記構成でも個々の換算核種をもっとも条件の厳しいものに仮定することになるので、その限りにおいては、測定結果に不確実性(安全側の不確実性)が生じることは否めないが、従来のように換算核種を一律に定めるものではないので、つまり複数の換算核種を前提条件として利用できるので、従来よりも測定結果の信頼性を高められる。なお、隣り合うあるいは並んだ2つのエネルギー区分の間に互いにオーバーラップする部分が存在していてもよい。あるいは、積算値に寄与しない不感帯(例えばノイズ除外区間)があってもよい。各エネルギー範囲の両端は固定的に設定されてもよいし、自動的にあるいはユーザーにより可変設定されてもよい。後者の場合には換算係数をエネルギー範囲に応じて再計算する手段を設けるのが望ましい。換算核種の候補となる個々の核種をどのエネルギー区分に割り当てるのかについては、当該核種のピークあるいは主要な波形部分が存在するエネルギーあるいはエネルギー範囲を考慮して決定するのが望ましい。
【0008】
望ましくは、前記複数の放射能濃度と前記複数の換算核種についての複数の限界濃度との比率を表す複数の濃度比を求める濃度比演算部と、前記複数の濃度比の総和を演算する総和演算部と、を含む。この構成において、濃度比は、各換算核種を前提とした場合における実測濃度と法令等で定められいる限界濃度との比率を表すものである。それらの総和は、排水全体として、何らかの核種が濃度限界を越えたものでないこと、あるいは、それを越えたものであること、を判断する指標となる。その数値は、必要に応じて、他の数値と共に表示され、あるいは、その数値に基づいて自動的な排水管理が実施される。
【0009】
望ましくは、前記各エネルギー区分ごとに換算核種の候補となる1又は複数の候補核種を提示する手段と、前記各エネルギー区分ごとに選定された候補核種を換算核種として特定する手段と、を含む。望ましくは、前記複数のエネルギー区分には互いにオーバーラップする部分が含まれる。望ましくは、前記複数のエネルギー区分にはI−125を換算核種とした低域側エネルギー区分が含まれる。望ましくは、前記各エネルギー区分ごとに換算核種の標準スペクトルを利用して換算係数を演算する係数演算部を含む。
【0010】
また、本発明は、複数のエネルギー区分に対して複数の換算核種の登録を受け付ける工程と、放射性物質を含有する排水を測定対象としてγ線の測定を行って得られたスペクトルに対して複数のエネルギー区分を設定する工程と、前記複数のエネルギー区分に対応した複数の計数値を求める工程と、前記複数の計数値と前記複数の換算核種についての複数の換算係数とから求められる複数の放射能濃度と、前記複数の換算核種についての複数の限界濃度と、の比率の総和を演算する工程と、を含むことを特徴とする排水測定方法に関する。設定されるエネルギー区分の数は3であるのが望ましいが、それ以下又はそれ以上であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、安全性を優先しつつも実態にできるだけ近い測定結果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1には、本発明に係る排水モニタシステムの好適な実施形態が示されており、図1は排水システムの全体構成を示すブロック図である。この排水モニタシステムは、例えば放射性物質を取り扱う病院などに設置され、そこで生じる排水に対して放射線モニタリングを実行するものである。
【0014】
排水モニタシステムは、本実施形態において、排水測定ユニット10と中央監視装置12とで構成されている。排水測定ユニット10は具体的には排水を一時的に貯留してそこに含まれる放射性核種からのγ線を測定するγ線水モニタである。中央監視装置12には排水測定ユニット10の他に、β線水モニタ、γ線エリアモニタ等の各種のモニタリング装置が接続されているが、図1においてはそれらが図示省略されている。
【0015】
排水測定ユニット10は、測定対象である排水を貯留する検出槽14を有している。検出槽14は本実施形態において円筒形状を有しており、そこに貯留される排水には1又は複数の放射性核種が含まれている。通常、各施設において使用可能な放射性核種の範囲は特定されているが、その中で、実際に排水に含まれる核種は未知である。
【0016】
検出槽14内には検出器18が設けられている。この検出器18は本実施形態においてNaI型の検出器であり、すなわちシンチレータ検出器である。検出槽14の内部16に貯留されている排水において生じたγ線20がこの検出器18によって検出される。検出器18としては他のタイプの検出器を利用することも可能である。ちなみに、検出槽14の後段には切替弁等が設けられ、その切替弁等によって外部への排出あるいは貯留希釈処理等が選択される。図1において、検出槽14に接続された各配管上に設けられている電磁バルブやポンプ等については図示省略されている。
【0017】
マルチチャンネルアナライザ(MCA)22は、検出器18から出力される信号に基づいて各エネルギーごとに計数を行ってこれによって計数分布であるスペクトルを求めるアナライザである。後に説明するように、複数のエネルギー区分である複数のウインドごとに計数値の積算を行える限りにおいて、各種の計測器を利用することが可能である。コントローラ24は、排水測定ユニット10に含まれる各構成の動作制御を行っており、コントローラ24は後に説明する主制御部42によって制御されている。MCA22から中央監視装置12へスペクトル情報26が伝送される。ただし、排水測定ユニット10それ自体が後述するスペクトル解析機能等を具備していてもよい。
【0018】
次に、中央監視装置12について説明する。スペクトル解析部28は排水測定ユニット10によって測定されたスペクトルに対して以下に説明するように複数のウインド、本実施形態おいては3つのウインドを設定し、各ウインドごとに以下に詳述するような演算を実行する機能を有する。複数のウインドの設定にあたっては、ウインドメモリ30が参照されており、そのウインドメモリ30には各ウインドごとにそれを画定する上限値及び下限値が格納されている。本実施形態においては、各ウインドは固定的に設定されているが、ウインド設定器32を設けて、ユーザーによりあるいは自動的に各ウインドの範囲を可変設定できるように構成してもよい。
【0019】
スペクトル解析部28は、各ウインドごとに単位時間ごとの計数値を積算して積算値(計数率)を求める。そして各積算値に対して個々のウインドごとに定められた換算係数を乗算し、これによって複数のウインドに対応した複数の換算核種について放射能濃度を演算する。係数メモリ36には各ウインドごとに定められた換算核種についての換算係数が格納されている。後に説明するように、核種データベース(核種DB)34には、各ウインドすなわち各エネルギー区分ごとにそれに属する1又は複数の核種からなる核種リストが管理されており、各核種にはその属性値として換算係数及び法令に定められる濃度限界が関連付けられている。各ウインドごとに換算核種が指定されると、核種DB34上において各換算核種ごとに換算係数及び濃度限界を特定でき、それらがスペクトル解析にあたって利用されることになる。ちなみに、図1においては、係数メモリ36が独立したブロックとして示されているが、各記憶部あるいは各記憶手段については単一のメモリ上に形成することが可能である。また、係数メモリ36は実質的に核種DB34の一部をなすため、その構成を省略することも可能である。
【0020】
本実施形態においては、核種DB34上に上記のように各核種ごとの換算係数があらかじめ記憶されており、いずれかの核種が換算核種として指定されると、当該核種に対応付けられた換算係数がスペクトル解析にあたって利用される。これに代えて、核種DB34上に各核種ごとに基準スペクトル(標準スペクトル)を格納しておき、その基準スペクトルを利用して、定められたウインドとの関係から換算係数を自動的に演算するようにしてもよい。その機能が図1において係数演算部38として表されている。これに関しては後に説明する。
【0021】
スペクトル解析部28は、各ウインドごとに定められた換算核種についての濃度が求められると、それと当該換算核種について定められた濃度限界との比率を演算し、更にその比率を加算することにより、排水処理指標となる濃度比の総和を求める。その総和を表す情報は表示部40に表示される他、主制御部42にも出力されており、そのような指標値に基づいて排水を外部へ放出可能であるか、あるいはそれを行えずに希釈処理等を行うかが判断される。ちなみに、そのような希釈処理等は別の装置により実施されている。
【0022】
図2には、上述したスペクトル解析にあたって設定される3つのウインドW1,W2,W3が例示されている。具体的には、図2には図1に示した排水測定ユニット10によって得られたスペクトル100が示されている。このスペクトル100は複数の核種によるスペクトルを合成した合成スペクトルに相当するものである。ここでは、符号102は例えば、I−125を測定して得られるスペクトルを表しており、符号104はI−131を測定して得られるスペクトルを示しており、符号106はβ線放出核種であるP−32から放出されたβ線によって引き起こされる制動X線が検出されて得られるスペクトルを示している。ここで当該スペクトル106は本来測定対象外のものであるが、従来においてはそれについてもそのまますべて計数対象となっていたものである。本実施形態においては、それを計数対象から完全に除外することは困難であるが、その影響を十分緩和できるという利点を有する。
【0023】
すなわち、上述したように、スペクトル100に対しては、すなわちエネルギー軸上に対しては3つのウインドW1,W2,W3が設定されており、それらは、個別的に係数値が積算されるエネルギー区分として機能する。ここで、E1,E3はウインドW1の下限値及び上限値を示しており、E2及びE5はウインドW2の下限値及び上限値を示しており、E4及びE6はウインドW3の下限値及び上限値を示している。それらの関係から理解されるように、隣り合う2つのウインド間にはそれぞれ部分的にオーバーラップする部分120,122が生じている。このようなオーバーラップ部分120,122を設けたのは、仮にそのようなオーバーラップ部分を設けないで2つのウインドの端部を相互に連結させると、その境界にスペクトルのピークがかかったような場合に測定結果に大きな誤差が生じてしまうおそれがあるからである。もちろん、オーバーラップ部分を設定するとその部分に限っては重複した計数が生じてしまうが、そのようなことを考慮しても安全性を優先させるためにオーバーラップ部分を設定している。したがって、そのような懸念が生じないような場合にはオーバーラップ部分を除外するようしてもよく、あるいは2つのウインド間に不感帯が形成されてもよい。たとえば、宇宙線あるいは特定のノイズ等が生じているエネルギー領域が既知であれば、その部分を不感帯として計数対象から除外するようにしてもよい。
【0024】
I−125のピークは低エネルギー側に生じているが、そのI−125についての濃度限界は他の核種に比べて非常に低く、従来においては多くの場合にそれが換算核種とされていたために、どうしても過大評価となる可能性が高くなっていた。すなわち、必要以上に大量の水を用いて希釈処理を行わなければならないという問題があった。上記実施形態では、特に低エネルギー側にウインドW1を設定し、そのウインドによりI-125を注目核種としてそれを中心に計測を行うことが可能であるので、従来のような問題をかなり緩和できるという利点がある。したがって、このようなことから理解されるように各核種をいずれかのウインドに配分するにあたっては、当該核種のスペクトルにおけるピークを基準とするのが望ましい。あるいは他の特徴的なあるいは支配的な波形部分を基準とするようにしてもよい。
【0025】
次に、図3を用いて、スペクトル解析の具体的な例を説明することにより、本実施形態の利点を併せて説明することにする。
【0026】
まず、S101では、図1に示した核種DBからそこに登録されている核種が参照され、各ウインドごとにすなわち各エネルギー区分ごとに表示部に核種リストが表示される。S102では、そのような核種リストを参照したユーザーによって各ウインドごとに1つの換算核種を指定する入力が行われる。具体的には、法令で定められる濃度限界が最も低い核種が換算核種として指定されることになる。濃度限界順で核種リストを構成しておけばそのような特定を容易に行うことができ、あるいは施設において使用されている全ての核種をユーザーにより入力させた上で、各エネルギー区分ごとに換算核種を自動的に特定するようにしてもよい。いずれにしても、安全性を優先する観点から、最も濃度限界が低い核種が換算核種として指定され、後の濃度演算において当該換算核種についての換算係数が利用されることになる。
【0027】
S103では、各ウインドごとに定められた換算核種に対応する換算係数K1,K2,K3が特定される。この場合においては、図1に示した核種DB34上に格納されている情報が利用され、あるいは上述したように係数演算部38を機能させて換算係数を自動的に演算してもよい。
【0028】
S104では、測定によって得られたスペクトルに対してウインドW1,W2,W3が設定される。これについては図2に示した通りである。次に、S105においては、各ウインドごとにその範囲内において単位時間当たりの積算された計数値(計数率)N1,N2,N3が演算される。そして、S106では、各計数値N1,N2,N3に対して上述した各換算核種についての換算係数K1,K2,K3を乗算することにより、各換算核種についての濃度D1,D2,D3が演算される。
【0029】
S107では、上記のように求められた濃度D1,D2,D3をそれぞれ濃度限度A1,A2,A3で除することにより濃度限度比B1,B2,B3が求められる。そして、それらを加算して総和をとったものが濃度比の合計Cであり、これは排水処理指標に相当するものである。その総和であるCが1を下回る場合には法令で許容されている放流条件を満たすものとして判断され、その値が1を超える場合には何らかの濃度低減処理が必要であると判断されることになる。
【0030】
よって、以上の手法によれば、スペクトルの全体に渡って一律に換算核種を想定するのではなく、各エネルギー区分ごとに換算核種を想定した上で、各換算核種ごとに濃度推定できるので、従来よりもより濃度推定の信頼性を高めることができるという利点がある。すなわち、例えば、ウインドW1に属するI−125については濃度限界が非常に低く、例えば他の核種に比べて100倍も厳しい条件が課されている。そのような条件を全エネルギー範囲に渡って適用するならばどうしても排水に対して過大な評価をしてしまうことに繋がるのであるが、上記の手法によれば、そのような厳しい条件が課されている部分をウインドW1内に制限し、他のウインドについては別の緩やかな基準を適用することが可能であるので、結果として測定結果の信頼性を向上できるのである。また、同様の理由から、例えば制動X線が検出されるP−32については、そのスペクトルが低エネルギー側のウインドW1内に部分的に含まれるとしても、そのスペクトルの大部分が他のウインド内に属しているため、P−32の制動X線スペクトルによる影響も効果的に低減することが可能である。
【0031】
図4には、表示部に表示される測定結果が例示されている。図示されるように、各ウインドごとに計数率N1,N2,N3が表示されている。計数率に代えて単なる積算値を表示するようにしてもよい。また各ウインドごとに換算核種が表示されており、また換算核種においての濃度限度A1,A2,A3と実際に演算された濃度D1,D2,D3とが表示されている。また各換算核種ごとに濃度限度比B1,B2,B3が表示されており、それらの総和として濃度限度比の合計Cが表示されている。この例ではその合計Cとして0.75が求められており、それは1以下であるので法令を満たした範囲内においての放流が許容されることになる。
【0032】
次に、図1に示した係数演算部38の機能について説明する。上述したように、上記の実施形態においては各核種ごとにあらかじめ換算係数が事前に演算されていたが、例えば各ウインドが可変設定されているような場合には、個々のウインドに適応した換算係数を求める必要がある。この場合においては、次のような手法を用いるのが望ましい。
【0033】
図5には、図1に示した核種DB34内に格納される各核種ごとの基準スペクトル(標準スペクトル)110が示されている。このような基準スペクトル110はあらかじめ実験によりあるいはシュミレーションにより求められるものである。いずれかの核種が換算核種として特定されると、当該核種に対応付けられた基準スペクトル110が読み出され、その核種が対応付けられるウインドW3が基準スペクトル110上に設定される。そして、スペクトル110の全体に相当する計数値(全体面積)112に対するウインドW3内に属するスペクトル部分に相当する計数値(部分面積)114の比の逆数として換算係数を求めることが可能である。この手法によれば、基準スペクトルを格納しておくだけでウインドがどのように設定されても事後的に換算係数を求められるという利点がある。
【0034】
以上のように、本実施形態にかかるシステムによれば、排水中の核種濃度をより適正に評価できるようになったので、過剰な希釈や再測定等の無駄を減らすことができ、排水処理の合理性を向上できるという顕著な利点が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る排水モニタシステムの好適な実施形態を示すブロック図である。
【図2】スペクトルに対する3つのウインドの設定を説明するための図である。
【図3】図1に示したスペクトル解析部の処理内容を説明するためのフローチャートである。
【図4】表示部に表示される測定結果を示す図である。
【図5】標準スペクトルとして利用される基準スペクトルを説明するための図である。
【符号の説明】
【0036】
10 排水測定ユニット、12 中央監視装置、14 検出槽、18検出器、22 マルチチャンネルアナライザ(MCA)、28 スペクトル解析部、30 ウインドメモリ、34 核種DB、36 係数メモリ、40 表示部、42 主制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質を含有する排水を測定対象として放射線の測定を行う測定ユニットと、
前記測定ユニットからの出力信号に基づいて、エネルギー軸上に設定された複数のエネルギー区分に対応した複数の計数値を求める計数部と、
前記複数のエネルギー区分に対応した複数の計数値と前記複数のエネルギー区分に対応した複数の換算核種についての複数の換算係数とを用いて、前記複数の換算核種についての複数の放射能濃度を演算する濃度演算部と、
を含み、
前記複数の放射能濃度に基づいて排水管理のための情報が演算される、ことを特徴とする排水モニタシステム。
【請求項2】
請求項1記載のシステムにおいて、
前記複数の放射能濃度と前記複数の換算核種についての複数の限界濃度との比率を表す複数の濃度比を求める濃度比演算部と、
前記複数の濃度比の総和を演算する総和演算部と、
を含むことを特徴とする排水モニタシステム。
【請求項3】
請求項1記載のシステムにおいて、
前記各エネルギー区分ごとに換算核種の候補となる1又は複数の候補核種を提示する手段と、
前記各エネルギー区分ごとに選定された候補核種を換算核種として特定する手段と、
を含むことを特徴とする排水モニタシステム。
【請求項4】
請求項1記載のシステムにおいて、
前記複数のエネルギー区分には互いにオーバーラップする部分が含まれることを特徴とする排水モニタシステム。
【請求項5】
請求項1記載のシステムにおいて、
前記複数のエネルギー区分にはI−125を換算核種とした低域側エネルギー区分が含まれることを特徴とする排水モニタシステム。
【請求項6】
請求項1記載のシステムにおいて、
前記各エネルギー区分ごとに換算核種の標準スペクトルを利用して換算係数を演算する係数演算部を含むことを特徴とする排水モニタシステム。
【請求項7】
複数のエネルギー区分に対して複数の換算核種の登録を受け付ける工程と、
放射性物質を含有する排水を測定対象としてγ線の測定を行って得られたスペクトルに対して複数のエネルギー区分を設定する工程と、
前記複数のエネルギー区分に対応した複数の計数値を求める工程と、
前記複数の計数値と前記複数の換算核種についての複数の換算係数とから求められる複数の放射能濃度と、前記複数の換算核種についての複数の限界濃度と、の比率の総和を演算する工程と、
を含むことを特徴とする排水測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−134121(P2008−134121A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−319692(P2006−319692)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】