説明

排水処理装置及びその運転方法

【課題】 一般的な家屋の外構内に設置可能な程度に小型で、ランニングコストが低い排水の処理装置、及びその運転方法を提供すること
【解決手段】
分離マス3の底部に多孔質材料からなる噴気盤7を設置し、噴気盤7から気泡を放出した状態で、1日1回以上の頻度で厨房の流しから複合微生物培養液を供給する。噴気盤7の外径を、分離マス3底部の内径の70%以上、噴気盤7の空孔径を25〜50μm、噴気盤7から放出される気泡の大きさを1〜5mm、気泡の量を25〜35L/分に調整することで、分離マス3の内部が十分に攪拌され、複合微生物による油脂や有機物の分解作用が最適化され、排水が浄化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理装置、特に一般家庭から排出される排水の処理装置、及びその運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に家庭の厨房や浴室などから排出される排水は、家屋に設けられた排出口近傍の土中に埋設された沈殿槽に導入された後、下水道を経て下水処理施設で処理され、河川に排出されている。また、地域によっては、下水処理施設を経由しないで、雨水と同様に河川に排出されている。
【0003】
我が国においても、家庭や企業などからの排水が直接河川に放出されることによる河川の汚染が著しい時期があり、下水処理施設の整備が促進されてきたという経緯がある。特に企業からの排出される排水については、規制の対象となっているが、家庭からの排水は、地域によっては、未だ下水道の整備が不十分で、河川にそのまま放出されていることがある。
【0004】
一方で、下水処理施設の有無に関わらず、家庭からの排水は、前記のように、まず分離マスと称される沈殿槽に導入され、野菜屑のような固形分や油脂類をある程度分離した後に、下水道に放出される。このような方法で放出される排水には、分離マスで沈殿しなかった汚染物質が含まれる他、分離マスの底部に沈殿した固形分や油脂分が、腐敗臭を放つという問題がある。
【0005】
また、分離マス底部の沈殿物は、当然のことながら、放置すれば増加する一方なので、定期的に掃除を行う必要があり、掃除の結果発生する汚泥の処理が必要となる。さらに、排水に含まれる油脂分は、分離マスと下水道を繋ぐ配水管の内壁に付着し、配水管を閉塞してしまうことがあり、この除去には多大の労力を要するという問題がある。
【0006】
このような問題に対処するために、家庭からの排水に含まれる油脂類は勿論のこと、固形分や汚染物質の殆どが、生分解可能な有機物であることから、排水中の汚染物質の量や、分離マスの沈殿物の量を減少する方法として、微生物による分解が挙げられる。このような例の一つとして、特許文献1には、複合微生物を用いて家庭からの排水を浄化する装置が開示されている。
【0007】
しかしながら、ここに開示されている装置は、複合微生物を粉体で扱うために、大掛かりな自動供給装置が必要になるのを始めとして、装置全体が複雑化大型化するために、一般的な家庭では設置が困難であるという欠点を有する。また、排水中にオゾンを噴出させるため、装置が高価になるという問題もある。
【0008】
【特許文献1】 特開平7−308692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の課題は、一般的な家屋の外構内に設置可能な程度に小型で、ランニングコストが低い排水の処理装置、及びその運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、市販の分離マスに簡便な装置を付加することで、家庭などからの排水に含まれる油脂や有機物を生分解することを検討した結果なされたものである。
【0011】
即ち、本発明は、分離マスと、前記分離マス底部に配置され、連結した空孔を有する多孔質材料からなる噴気盤と、前記噴気盤に接続されてなるエア圧送パイプと、前記エア圧送パイプより分岐されてなり、流量調整バルブを有するエア溢流パイプと、前記エア圧送パイプに接続されてなるエアポンプを有することを特徴とする排水処理装置である。
【0012】
また、本発明は、前記噴気盤は、ほぼ円盤状で、前記分離マスの底部は、ほぼ円形であり、前記噴気盤の外径は、前記分離マスの底部の内径の70%以上であり、前記噴気盤の連結した空孔の径は25〜50μmであることを特徴とする、前記の排水処理装置である。
【0013】
また、本発明は、前記エアポンプから圧送されるエア量は、25〜35L/分であり、前記噴気盤から噴出される気泡の径は、1〜5mmであり、前記分離マスに1日に1回以上の頻度で、30〜40ccの複合微生物培養液を供給することを特徴とする、前記の排水処理装置の運転方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、分離マスに導入された排水中に、噴気盤から細かい気泡が放出されるので、複合微生物による油脂や有機物の生分解が促進されるともに、その攪拌作用により、排水中に懸濁状態で浮遊している油脂の粒子が合体して大きな塊になるのを未然に防止することができる。また、噴気盤から放出される気泡は、排水の液面まで上昇する間に、分離マス内壁とも接触するので、分離マス内壁に油脂や有機物などの汚損物質が付着するのを未然に防止することができる。
【0015】
つまり、本発明において、噴気盤の空孔の径を25〜50μmに限定したのは、噴気盤から放出される気泡の径を1〜5mmの間に制御することで、分離マス内の排水の攪拌状態を最適に維持するためである。気泡の径が前記の範囲より過小であっても、過大であっても、十分な攪拌状態が得られず、排水中に懸濁浮遊している油脂の粒子が、大きな塊、いわゆるオイルボールとなり、複合微生物による生分解がなされないまま、放流されることになる。
【0016】
また、本発明において、噴気盤の外径を、分離マスの底部の内径の70%以上に限定したのは、噴気盤の大きさが分離マス底部の内径より小さ過ぎると、噴気盤から放出される気泡と分離マス内壁の接触が十分維持されなくなるである。このような状態、つまり気泡が分離マスの中央部のみを上昇する状態では、分離マス内壁近傍の排水が、十分に攪拌されないばかりか、前記のように分離マス内壁に油脂や有機物が付着する結果となる。
【0017】
前記のように、気泡による分離マス内の攪拌状態を最適に維持するためには、噴気盤から放出するエアの量を調整する必要があるが、本発明においては、噴気盤とエアポンプを繋ぐエア圧送パイプに、流量調整バルブを有する分岐が設けてあるので、エアポンプから供給されるエア量を変えることなく、噴気盤から放出するエア量を適宜調整することが可能である。これによってエアポンプの側に、流量調整機能が不要となるので、装置の高価格化を抑制できる。
【0018】
なお、前記の分岐に、流量調整バルブを介して設けられた、エア溢流パイプの開放口を分離マスの排出口に向けておくことで、エアが排出口に吹き付けられるので、排出口を清掃しなければならない頻度が低下するという副次的な効果も得られる。
【0019】
本発明においては、前記のような構成とすることにより、30〜40ccの複合微生物培養液を1日1回、一般的な家庭では夕食の後片づけを終えた後に、厨房の流しから流すだけで、十分な効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、具体的な例を挙げて、本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
図1は、本発明の排水処理装置の断面を示す概略図である。図1において、1はエア圧送ポンプ、2はエア圧送パイプ、3は分離マス、4は分離マスの蓋、5は流量調整バルブ、6はエア溢流パイプ、7は噴気盤、8は排水導入口、9は排出口、10は地面である。
【0022】
この例においては、エア圧送ポンプ1として、AC100V/26Wで、エア圧力が11.8kPaのものを用いた。エア圧送パイプ2とエア溢流パイプ6には、外径が22mm、内径が16mmの硬質塩化ビニル管を用いた。噴気盤7には、円盤形状で外径が132mm、空孔の径が35μmのものを用いた。分離マスには底面が内径184mmの円形のものを用いた。
【0023】
これらの部材を図1に示した構成に組み立てて埋設し、流量調整バルブ5を用いて、噴気盤7から放出されるエア量が約30L/分となるように調整した。この条件で本発明の排水処理装置を運転し、夕食の後片づけを終えた後に、厨房の流しから複合微生物培養液を供給した。この際に用いた複合培養液は、乳酸菌群、酵母菌群、グラム陽性放線菌群、光合成細菌群、発酵系の糸状菌群、納豆菌群から選ばれる少なくとも1種を含むものである。
【0024】
本発明の排水処理装置を、家族数が異なる家庭にそれぞれ設置して、1年間運転を継続したところ、家族数が5人以下の家庭で、30ccの複合微生物培養液を1日1回、家族数が6〜10人の家庭で、40ccの複合微生物培養液を1日1回、前記のように流しから分離マス3に供給することにより、悪臭が発生することなく、排水の浄化作用が確認された。またこれに伴い、分離マス3の底部に沈殿する汚泥の量が激減し、清掃が1年に1回だけで済むという結果が得られた。
【0025】
なお、前記の運転条件において、脂油及び有機物を、ほぼ完全に分解するには、噴気盤7からの気泡の放出は、8時簡以上継続する必要があることも確認できた。また、本発明に用いる複合微生物培養液は、前記のように、乳酸菌群、酵母菌群、グラム陽性放線菌群、光合成細菌群、発酵系の糸状菌群、納豆菌群の6種類の微生物を含むが、これらは人畜に対しては安全で、しかも河川公害の問題を発生させることがない。このような安全性は、3年以上継続使用した例が2件、1年以上継続使用した例が3件、併せて5件で、何ら問題が発生しなかったという実績から証明される。
【0026】
以上に説明したように、本発明によれば、家庭からの排水の浄化が可能な、簡便な装置とその運転方法を提供することができる。また、実施の形態に示した例よりも、大型の分離マスと噴気盤を用いることにより、一般家庭以外でも、小規模の外食店舗などに適用できることが容易に推定できる。よって、本発明が、家庭などからの排水の浄化に寄与するところは非常に大きく、特に下水処理設備の整備が必ずしも十分でない地域の環境汚染の低減に極めて有用である。
【0027】
なお、本発明は、前記具体例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても本発明に含まれる。即ち、本発明の技術分野において通常の知識を有する者であれば、なし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】 本発明の排水処理装置の断面を示す概略図
【符号の説明】
【0029】
1 エア圧送ポンプ
2 エア圧送パイプ
3 分離マス
4 分離マスの蓋
5 流量調整バルブ
6 エア溢流パイプ
7 噴気盤
8 排水導入口
9 排出口
10 地面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離マスと、前記分離マス底部に配置され、連結した空孔を有する多孔質材料からなる噴気盤と、前記噴気盤に接続されてなるエア圧送パイプと、前記エア圧送パイプより分岐されてなり、流量調整バルブを有するエア溢流パイプと、前記エア圧送パイプに接続されてなるエアポンプを有することを特徴とする排水処理装置。
【請求項2】
前記噴気盤は、ほぼ円盤状で、前記分離マスの底部は、ほぼ円形であり、前記噴気盤の外径は、前記分離マスの底部の内径の70%以上であり、前記噴気盤の連結した空孔の径は25〜50μmであることを特徴とする、請求項1に記載の排水処理装置。
【請求項3】
前記エアポンプから圧送されるエア量は、25〜35L/分であり、前記噴気盤から噴出される気泡の径は、1〜5mmであり、前記分離マスに1日に1回以上の頻度で、30〜40ccの複合微生物培養液を供給することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の排水処理装置の運転方法。

【図1】
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