説明

掘削工具

【課題】正回転時のウイングビットの拡径状態をより確実に保持させることができ、必要な内径の削孔及び真円状の削孔をより確実に得ることのできる掘削工具を提供すること。
【解決手段】ビットスプラインに対して、シャフトは所定角度内で自由に回動可能に設けられ、シャフトの外周面には突起40a〜cが設けられ、ウイングビット60a〜cには、シャフトの正転によるウイングビット60a〜cの拡径時において、突起40a〜cによって当接されて縮径方向への揺動を規制される正転時係止部70,73が設けられ、ウイングビット60a〜cには、シャフトの反転時において、突起40a〜cによって当接されて拡径方向への揺動を規制される反転時係止部68が設けられた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンカー工事、各種さく井工事、基礎杭工事などの土木工事において地盤を掘削して削孔を形成しながら該削孔にケーシングパイプを挿入するのに用いられる掘削工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の従来の掘削工具としては、中心軸線回りに回転されるデバイスの先端中央部に、先端に切刃が突設された円盤状のパイロットビットが取り付けられ、一方、デバイスの先端外周には、前記した中心軸線から偏心した位置における搖動軸線回りに搖動自在なウイングビット(拡径ビット)が取り付けられており、拡径した状態のウイングビットの外径はパイロットビットの外径よりも大径となるように設けられている。そして、このような切削工具を用いて、回転駆動手段によりデバイスを介して掘削工具に軸線回りの回転力を与え、これら掘削工具、デバイス、および回転駆動手段の自重によって掘削工具を地盤に食い込ませつつ掘り下げて削孔を形成するものが知られている。
【0003】
このような従来の掘削工具による掘削はいわゆる二重管工法と称されるものであって、上記デバイスは、ドリルロッドの先端に取り付けられてケーシングパイプ内に挿入され、このケーシングパイプの先端から突出させられた状態で掘削時の正回転方向に回転させられることにより上記ウイングビットが拡径させられ、上記ドリルロッドを介して軸線回りの回転力と軸線方向先端側への推力や打撃力を与えられることにより削孔を形成するものである。
【0004】
そして、デバイスはケーシングパイプに対して回転自在かつ軸線方向先端側に向けて係合させられ上記推力や打撃力により削孔内に建て込まれていき、所定の深さまで削孔が形成されてケーシングパイプが建て込まれた後に、ドリルロッドを介してデバイスを上記正回転方向とは反対の逆回転方向に回転させることによりウイングビットを縮径し、ドリルロッドごとケーシングパイプ内から引き抜いて回収し、ケーシングパイプだけを地盤に残して基礎杭などとして使用することができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−97176号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記した従来の掘削工具では、デバイスの正回転時におけるウイングビットの拡径は、デバイスの回転に伴って生ずる各ウイングビットの遠心力により行われるものであるため、遠心力が十分に働かない場合にはウイングビットの拡径状態が十分に保持できないという問題があった。すなわち、掘削工具を鉛直下方に向けて掘削する場合ではなく、例えば法面に対して掘削するなど横方向に向けて掘削する場合などにおいては、ウイングビットが上方に回転された際に自重により鉛直下方に応力がかかり、ウイングビットが十分に拡径された状態を維持できないおそれがある。また、掘削する地盤からの応力を受けてウイングビットが十分に拡径された状態を維持できない場合もある。このように、ウイングビットが縮径方向に応力を受けて十分に拡径されないまま掘削が行われてしまい、十分な内径の削孔を得られなかったり、真円状の削孔を得られないという問題が生じていた。
【0007】
本発明は上記した従来の掘削工具の問題点を解消するものであり、正回転時のウイングビットの拡径状態をより確実に保持させることができ、必要な内径の削孔及び真円状の削孔をより確実に得ることのできる掘削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するために、本発明の採った手段を以下に説明する。本発明の掘削工具は、
回転駆動手段によって中心軸線回りに回転駆動されるビットスプラインと、
前記回転駆動手段によって中心軸線回りに正転方向または反転方向に回転駆動可能なシャフトと、前記シャフトに連結されるパイロットビットと、
前記シャフトの軸心回りに取り付けられるとともに、前記中心軸線から偏心された位置であって重心から偏心された位置において前記ビットスプラインに対して揺動可能に軸支され、前記パイロットビットの外径に対して、前記シャフトの正転時には拡径状態に、反転時には縮径状態に変位可能に設けられる略円弧形状のウイングビットとが備えられた掘削工具であって、
前記ビットスプラインに対して、前記シャフトは所定角度内で自由に回動可能に設けられ、
前記シャフトの外周面又は前記ウイングビットの一方には、突起が設けられ、
前記シャフトの外周面又は前記ウイングビットの他方には、前記シャフトの正転によるウイングビットの拡径時において、前記突起によって当接されて縮径方向への揺動を規制される正転時係止部が設けられ、前記ウイングビットには、前記シャフトの反転時において、前記突起によって当接されて拡径方向への揺動を規制される反転時係止部が設けられたことを特徴とする掘削工具(請求項1)である。
【0009】
本発明によれば、シャフトの正転時には正転時係止部に突起が当接する。一方、シャフトの反転時には反転時係止部に突起が当接する。正転時及び反転時における突起の移動は、シャフトが、ビットスプラインを介してウイングビットに対して所定角度内で自由に回動可能に設けられることにより、シャフトに対してウイングビットが相対的に所定角度内で回動可能に設けられることにより実現される。
【0010】
そして、正転時及び反転時ともに、ウイングビットはシャフトの慣性力により拡径状態又は縮径状態を維持されるように構成されている。すなわち、掘削工具の回転により、ウイングビットは、拡径状態又は縮径状態を維持するようにウイングビット自体に遠心力が働くが、これに加えて、回転するシャフトの慣性力により、突起が、正転時係止部又は反転時係止部に当接し続けようとする。よって、ウイングビットは、シャフトの慣性力によってもその拡径状態又は縮径状態を維持されるので、従来のウイングビット自体の遠心力のみにより拡径状態又は縮径状態を維持される掘削工具に比べて、より確実に拡径状態又は縮径状態を維持することができる。
【0011】
また、前記ウイングビットに、前記ウイングビットの拡径方向への所定量の搖動時において前記シャフトに当接可能に設けられて前記ウイングビットの所定量以上の揺動を規制する拡径規制部を設けることとしてもよい(請求項2)。
【0012】
このような拡径規制部を設けることにより、所定量の拡径幅を確保した状態でウイングビットのそれ以上の拡径を規制することができる。よって、十分な削孔径を得られるだけではなく、削孔径が必要以上に大径とならないように容易に定めることができる。特に、前述のように、ビットスプラインに対してシャフトは所定角度内で回動可能に設けられることにより、シャフトに対して相対的にウイングビットが所定量拡径可能に設けられているが、このような拡径規制部を設けることにより、さらに拡径幅を規制することも可能となる。また、ビットスプラインに対するシャフトの相対的な最大回動可能角度に合わせて、拡径規制部を設けることにより、ビットスプラインに対するシャフトの規制に加えて、ウイングビットの拡径規制部によっても拡径規制を同時に行えることになるので、拡径規制をより確実に実現できる。
【0013】
また、前記拡径規制部が前記シャフトの外周面の形状と合致する形状とすることもできる(請求項3)。
【0014】
拡径規制部をこのような形状とすることにより、拡径規制部とシャフトの外周面との当接面に大きな隙間が生じなく、両部材の間に異物がはまり込み難く設けることができる。よって、異物のはまり込みによるウイングビットの拡径量の変化を防止することもできる。
【0015】
また、前記パイロットビットに収容穴を形成し、前記ウイングビットの先端面に前記収容穴に収容可能な係合突起を設けるとともに、前記ウイングビットの最大拡径時に、前記係合突起が前記収容穴の外周端の規制壁部に当接可能に設けることとしても良い(請求項4)。
【0016】
削孔時において、ウイングビットの外周端は削孔内の地盤からの圧力を受けて、削孔方向の逆側、すなわちウイングビットの基端方向に揺動するよう応力を受ける。よって、長期間掘削工具を使用することにより、ウイングビットが基端側に揺動するように傾いてウイングビット及びウイングビットと接触する部材が摩耗し、最終的にはウイングビットのがたつきの原因となる。本発明のような収容穴及び規制壁部並びに係合突起を設けることにより、ウイングビットの拡径時における基端側への揺動を規制し、ウイングビット及びウイングビットと接触する部材の摩耗を減少させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の掘削工具は上記のように、シャフト又はウイングビットの一方に突起を設け、他方には正転時係止部を設け、ウイングビットに反転時係止部を設け、ビットスプラインに対してシャフトを所定角度内で自由に回動可能に設けており、シャフトの慣性力によってもウイングビットの拡径状態又は縮径状態を維持できるので、ウイングビットを拡径状態または縮径状態により確実に保持することができる。特に、横方向に向かって掘削するなど、ウイングビットが鉛直方向に回転される場合であっても拡径状態を保持することができ、削孔径が小さくならないようにすることができ、予め設定した削孔をより確実に行うことができる。また、縮径状態方向に働く応力に抗して拡径状態を保持し易いので、既に穿設された削孔内に掘削工具を挿入した上で削孔の内径を拡大するように掘削することなど、地盤からの応力を強く受ける場合にも削孔をより容易に行える。また一方、ケーシングからの引き抜きの際などに反転させる場合には縮径状態を保持することができるので、引き抜き作業を円滑に行うことができる。
【0018】
また、特に請求項2の掘削工具においては、前述の効果に加えて、削孔径が必要以上に大径とならないようにして、予め設定した削孔をより確実に行うこともできる。また、請求項3の掘削工具では、さらに、異物のはまり込みによるウイングビットの拡径量の変化を防止することにより予め設定した削孔をより確実に行うこともができる。また、請求項4の掘削工具では、さらに、ウイングビットの拡径時における基端側への揺動を規制し、ウイングビット及びウイングビットと接触する部材の摩耗を減少させることができ、ウイングビットのがたつきを減少させることができるので、ウイングビットの使用可能期間を伸ばすこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の掘削工具の正面視一部縦断面図である。
【図2】本発明の掘削工具の縮径状態の正面視一部縦断面図である。
【図3】シャフトの正面図である。
【図4】図3のシャフトのA−A線断面図である。
【図5】図3のシャフトのB−B線断面図である。
【図6】本発明の掘削工具の縮径状態の平面視横断面図である。
【図7】本発明の掘削工具の拡径状態の正面視一部縦断面図である。
【図8】本発明の掘削工具の拡径状態の平面視横断面図である。
【図9】図1のウイングビットとパイロットビットの要部拡大図面である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の掘削工具の実施の形態を図を参考にして詳細に説明する。図1に示されるように、本発明の掘削工具1は、回転駆動手段(図示省略)の先端に取り付けられたドリルロッド(図示省略)の先端に取り付けられて中心軸線X回りに回転駆動されながら削孔を行うものである。そして、図2に示されるように、ドリルロッドの先端に取り付けられたビットスプライン10の先端側はデバイス4を介してケーシング5内に嵌挿されており、掘削工具1はこのケーシング5の先端側にその一部を露呈して取り付けられている。
【0021】
ドリルロッドの先端には、図1に示すビットスプライン10が取り付けられている。ビットスプライン10は、中心軸線Xに沿って長円筒形状に形成されており、基端側の小径部12と先端側の大径部14とを備えている。そして小径部12側はドリルロッド側に挿嵌接続されている。また、小径部12内には連通孔13が形成されており、ドリルビット側から送り込まれる水、空気などを掘削工具1先端側に送り込めるように構成されている。また、先端側の大径部14には、シャフト30を収容固定する収容孔16をその先端側に開口形成している。
【0022】
また、収容孔16の側壁部18には、収容孔16内にシャフト30を収容保持するための抜け止め用係止ピン2を挿嵌するために、中心軸線Xに直交し収容孔16の側方向きに、側壁部18及び収容孔16の内壁面を貫通する係止用孔20がそれぞれ形成されている。係止用孔20は、中心軸線Xに沿って上下に二つ設けられており、収容孔16の奥側に、収容孔16の正面側に形成された係止用孔20aと、この係止用孔20aよりも収容孔16開口側に、収容孔16の背面側に形成された係止用孔20bとが設けられている。
【0023】
また、収容孔16の側壁部18には、収容孔16及び側壁部18外側に連通する孔19が形成されており、この孔19により、係止用孔20内に挿嵌された抜け止め用係止ピン2を押し出して係止用孔20内から取り外すことができるように構成されている。
【0024】
また、大径部14の先端側端面22には、後述するウイングビット60a,60b,60cをビットスプライン10に対して揺動自在に軸支するための揺動用係止軸3を挿嵌接続するための収容孔24が、中心軸線Xから偏心した位置に、かつ中心軸線Xに沿うようにその挿嵌方向を定めて形成されている。この収容孔24は、一部図示を省略するが、取り付けられた3つのウイングビット60a,60b,60cのそれぞれを軸支するように、先端側端面22の3箇所に、中心軸線Xを中心にして等角度の位置に形成されている。
【0025】
シャフト30は、ほぼ縦長の円筒形状に形成されている。後述するパイロットビット50の反対側に設けられる収容部32は、前述したビットスプライン10の収容孔16の内壁面に摺接して収容可能な大きさの外径に形成されている。収容部32の先端寄りには、前記したビットスプライン10の係止用孔20に挿嵌された抜け止め用係止ピン2が係止される係止用溝34が形成されている。係止用孔20に挿嵌された抜け止め用係止ピン2がこの係止用溝34に係止されることにより、ビットスプライン10に対するシャフト30の抜け止めが図られている。係止用溝34は、収容部32の外周面を中心軸線Xに直交する方向に切り欠くようにして中心軸線Xに沿って上下に二つ形成されており、図3、図4及び図5に示されるように、収容部32の先端寄りに、収容部32の正面側に形成された係止用溝34aと、この係止用溝34aよりもパイロットビット50寄りに、収容部32の背面側に形成された係止用溝34bとが設けられている。
【0026】
また、係止用溝34は、図4及び図5に示されるように、それぞれ、平面視において収容部32の外周面から、ほぼ外周面に沿って軸心方向に後退した湾曲形状に形成されているが、その内側の内壁面36は、平面視において平面状に形成された第1平面部37と、この第1平面部37に対して中心軸線X回りに約77度の角度位置に同じく平面上に形成された第2平面部38とを備えている。また、第1平面部37の端部と第2平面部38の端部とは中心軸線X回りに円弧状に形成された円弧部39によって連設されている。前述したように、シャフト30は係止用溝34に係止される抜け止め用係止ピン2により、ビットスプライン10に対して中心軸線X方向への移動を規制されているが、中心軸線X回りにおいては、第1平面部37から第2平面部38への角度範囲において、抜け止め用係止ピン2に対して回動可能に設けられている。一方、それ以上のシャフト30の回動は、第1平面部37または第2平面部38が抜け止め用係止用ピン2に当接されることにより規制されるように構成されている。このような第一平面部37及び第2平面部38を設けることにより、ウイングビット60a,60b,60cが拡径されるように揺動される際に、ウイングビット60a,60b,60cに対してシャフト30が相対的に約77度回動可能に構成される。よって後述するように、ウイングビット60a,60b,60cに対して、シャフト30は、ウイングビット60a,60b,60cの拡径状態又は縮径状態のそれぞれの状態における相対的位置を可変可能に構成されている。
【0027】
図1及び図6に示されるように、収容部32の外周面のパイロットビット50寄りには、中心軸線Xに沿って延設された3つの突起40a,40b,40cが設けられている。突起40a,40b,40cの平面視形状は、図6に示されるように、中心軸線Xの左側の収容部32外周面から立ち上がり内向き円弧状の外形に形成された円弧部42と、この円弧部42の先端に形成された先端部43と中心軸線Xを結ぶ直線に対して約55度の角度で中心軸線X方向に傾斜する第1傾斜部44と、先端部43と反対側の第1傾斜部44の端部になる角部45と中心軸線Xを結ぶ直線に対して約30度の角度で中心軸線X方向に傾斜して収容部32外周面に至る第2傾斜部46とから構成される変形台形状に形成されている。そしてこのような突起40a,40b,40cが、収容部32の軸心回りに等角度でウイングビット60a,60b,60cの数と同数にて3つ形成されている。なお、これらの突起の数はウイングビットの数と同数に設ければ良く、3つに限られるものではない。また、第1傾斜部44の角度などの具体的な形状については、ウイングビット60a,60b,60cの内壁部67の各形状などに応じて変更することも可能である。
【0028】
また、この突起40a,40b,40cは、図1に示されるように、パイロットビット50の基端面51との間に排出用溝48を形成しており、この排出用溝48により掘削時に生成されたくり粉の円滑な排出を促すことが可能となっている。
【0029】
そして、シャフト30には、前述したビットスプライン10の連通孔13に連通可能な連通孔31がその軸心に沿って形成されている。
【0030】
シャフト30の先端には、パイロットビット50が連設されている。パイロットビット50は、図1および図2に示されるように、平面視ほぼ円形の薄い円筒形状に形成されている。また、パイロットビット50の先端側外周面寄りには、テーパ部52が形成されており、先端面54を円周状に囲うようにこのテーパ部52が形成されている。また、テーパ部52及び先端面54には多数のチップ56が突設されており、主としてこのチップ56により削孔が行われる。
【0031】
図1及び図9に示されるように、パイロットビット50の基端面51には、後述するウイングビット60a,60b,60cの係合突起61を収容可能な収容穴57が設けられている。収容穴57は、ウイングビット60a,60b,60cの最大拡径時において係合突起61が当接可能な規制壁部58をその外周端に備えており、削孔時において、削孔内の地盤からの圧力によってウイングビット60a,60b,60cが削孔方向と反対側に向かって揺動しないように構成されている。
【0032】
また、パイロットビット50の内部にはくり粉排出するためのフラッシング用孔53が形成されている。また、パイロットビット50の先端面54には、削孔時におけるパイロットビット50の直進性を確保するための誘導穴55が形成されている。
【0033】
ついでウイングビット60a,60b,60cについて説明する。図1、図2及び図6に示されるように、この掘削工具1には同形状の3つのウイングビット60a,60b,60cが取り付けられている。図1に示されるように、各ウイングビット60a,60b,60cは、ビットスプライン10の先端側端面22とパイロットビット50の基端面51との間に介装されるようにして、取り付けられている。また、前述したように、ウイングビット60a,60b,60cはビットスプライン10の係止用孔20に挿嵌された揺動用係止軸3を軸心にして、図1及び図6に示されるように揺動用係止軸3回りに揺動自在に取り付けられている。
【0034】
ウイングビット60a,60b,60cは図6に示されるように、平面視において幅がやや厚い湾曲した円弧形状に形成されており、平面視においてそれぞれのウイングビット60a,60b,60cの右寄りに、前述した揺動用係止軸3が軸挿される挿入孔62が開設されている。
【0035】
ウイングビット60a,60b,60cの平面視における外側円弧部64は、図6に示されるように、ウイングビット60a,60b,60cの縮径状態においてはパイロットビット50の外形内に収まるように、かつ、パイロットビット50の外形とほぼ同径の円内に収まるように形成されている。
【0036】
平面視において、各ウイングビット60a,60b,60cの左右両端部65,66により挟まれた外側円弧部64と反対側には内壁部67が形成されている。内壁部67の平面視右端には、突起40a,40b,40cの円弧部42とほぼ一致するように形成された内向き円弧部68(反転時係止部)が形成されている。ウイングビット60a,60b,60cが縮径状態となっている際には、突起40a,40b,40cの円弧部42がこのウイングビット60a,60b,60cの内向き円弧部68内に収められるように位置するように構成されており、縮径時、すなわちシャフト30の反転時には、内向き円弧部68は円弧部42に係止されてウイングビット60a,60b,60cの拡径方向への揺動を規制することができるように設けられている。なお、後述するように、この内向き円弧部68は、ウイングビット60a,60b,60cの拡径時にはシャフト30の外周に当接可能に設けられており、本発明にいう「拡径規制部」にも相当する。
【0037】
円弧部68の左寄り端部(なお、ここでは、平面視におけるシャフト30の回転方向において「左」または「右」とする)からは、先端部69を介して、さらに左寄りの凹部71に繋がる第1平面部70が連設されている。円弧部68と第1平面部70とは、先端部69を頂点として、シャフト30の軸心側に突設されるほぼ三角形状に形成されている。後述するように、ウイングビット60a,60b,60cが拡径状態となっている際には、突起40a,40b,40cの第2傾斜部46がウイングビット60a,60b,60cの第1平面部70に沿ってほぼ当接されて位置するように構成されている。なお、前述のように、内向き円弧部68と第1平面部70とは、先端部69を頂点として、シャフト30の軸心側に突設されるほぼ三角形状に形成されているが、突起40a,40b,40cの形状変更などに対応して、突設される他の形状に変更することも可能である。
【0038】
そして、この第1平面部70の左寄り端部からは、凹部71が連設されており、凹部71は、右側寄りから順に内側角部72、第2平面部73、第3平面部74の順に連設して構成されている。後述するように、ウイングビット60a,60b,60cが拡径状態となっている際には、突起40a,40b,40cの第1傾斜部44がウイングビット60a,60b,60cの第2平面部73の一部に沿ってほぼ当接されて位置するように構成されている。そしてさらにこの第3平面部74の左寄り端部からは、角部75を介して、左寄りの端部65に連設される第4平面部76が連設されている。そして本例では、後述するように、第1平面部70及び第2平面部73が、本発明にいう「正転時係止部」に相当する。
【0039】
このようにして、ウイングビット60a,60b,60cの内壁部67は、右寄りの部位から順に、内向き円弧部68、先端部69、第1平面部70、内側角部72、第2平面部73、第3平面部74、角部75及び第4平面部76から構成されている。
【0040】
また、ウイングビット60a,60b,60cの先端には、図1及び図9に示されるように、前述したパイロットビット50の収容穴57に収容され、ウイングビット60a,60b,60cの最大拡径時には収容穴57の外周端の規制壁部58に当接可能な係合突起61が突設されている。
【0041】
また、図1、図2に示されるように、ウイングビット60a,60b,60cの先端側には、平面視左側から右側にかけてウイングビット60a,60b,60c基端側に徐々に上方に傾斜するテーパ部78が形成されている。そして、このテーパ部78に、パイロットビット50と同様のチップ56が多数形成されている。
【0042】
このように構成された掘削工具1は、次のように用いられる。図2及び図6に示されるように、掘削工具1の反転時(図6における矢印Lのように左回りにビットスプライン10が回転される場合)には、ビットスプライン10とともにウイングビット60a,60b,60cが左回りに回転され、シャフト30およびパイロットビット50も、抜け止め用係止ピン2を介して左回りに共回りされる。この際に、図4及び図5に示されるように、ビットスプライン10に取付固定された抜け止め用係止ピン2がシャフト30の係止用溝34の第1平面部37に沿って当接してシャフト30を共回りさせる。一方、この反転時においては、図6に示されるように、ウイングビット60aはその内向き円弧部68が突起40aの先端部43に規制されて、揺動用係止軸3を軸心にして揺動しないようにされている。すなわち、ウイングビット60aは、突起40aの先端部43により内向き円弧部68が当接されて揺動が規制され、図6に示されるような縮径状態が保たれる。そして、ウイングビット60bおよび60cについても、同様に、突起40bおよび40cの先端部43によって内向き円弧部68が当接されて揺動が規制され、縮径状態が保持される。前述したように、本例では、内向き円弧部68が本発明にいう「反転時係止部」に相当する。
【0043】
一方、図7及び図8に示されるように、掘削工具1の正転時(図8における矢印Rのように右回りにビットスプライン10が回転される場合)には、ビットスプライン10とともにウイングビット60a,60b,60cが右回りに回転され、シャフト30およびパイロットビット50も、右回りに共回りされる。この際に、図4及び図5に示されるように、ビットスプライン10及びこれに軸支されたウイングビット60a,60b,60cに対して相対的に、シャフト30は、係止用溝34の第1平面部37及び第2平面部38間において抜け止め用係止ピン2が回動可能な約77度回動し第2平面部38が抜け止め用係止ピン2に当接した後(図4及び図5中の点線で示す状態)に、ビットスプライン10に対して共回りが開始される。よって、ウイングビット60aは、図6に示されるように反転時においては左回り側に位置していた突起40cが右回り方向に回転移動されて、図8に示されるように、その凹部71に収まることになり、ウイングビット60aの第1平面部70が突起40cの第2傾斜部46に、第2平面部73が第1傾斜部44に当接するような位置に移動し、突起40cがウイングビット60aの内壁部67に潜り込むように移動する。前述したように、本例では第1平面部70及び第2平面部73が、本発明にいう「正転時係止部」に相当する。そして、ウイングビット60bは突起40aに、ウイングビット60cは突起40bによって同様に、拡径状態が保持される。また同時にこの位置において、前述のように、ビットスプライン10の抜け止め用係止ピン2は、シャフト30の係止用溝34の第2平面部38に当接する位置まで回動されてシャフト30の共回りを開始している。このようにして、図7及び図8に示されるように、ウイングビット60aは、その自重による遠心力も相まって、突起40cによって、正転を続ける限り拡径状態が保持される。また、拡径状態を堅固に保持可能であるので、掘削効率が良好であると共に、掘削時のウイングビット60a,60b,60cの破損などを防止することができる。
【0044】
また、この正転時において、ウイングビット60a、60b、60cのそれぞれの内向き円弧部68がシャフト30の外周面に当接する。よって、ウイングビット60a、60b、60cの拡径は内向き円弧部68とシャフト30の外周面との当接により規制され、必要以上にウイングビット60a、60b、60cが拡径されないようにも構成されている。したがって、本掘削工具1においては、ウイングビット60a、60b、60cの拡径最大量を規制することにより、予め定められた削孔径に正確に定めることができる。同時に、前述の通り、シャフト30は抜け止め用係止ピン2がその第2平面部73によって、ビットスプライン10及びこれに軸支されたウイングビット60a,60b,60cに対して、それ以上の右回りの回動を規制されるので、「拡径規制部」である内向き円弧部68がシャフト30外周面に当接されてそれ以上のウイングビット60a,60b,60cの拡径揺動を規制するのに加えて、シャフト30の回動規制によっても、拡径最大量の規制をより確実に実現できるように構成されている。
【0045】
なお、本発明は上記した実施の形態に限られるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能である。例えば、ウイングビットの数は他の数に変更することができる。これに伴いシャフトの突起の数も変更可能である。また、ウイングビットの正転時係止部および反転時係止部は正転時・反転時にウイングビットを拡径状態または縮径状態に保持することが可能な形状であれば、他の形状とすることもできる。例えば、本例では正転時係止部を第1平面部70および第2平面部73の二つの部位で構成したが、単一の平面部によって構成することも可能である。なお、この場合には、対応する突起40a,40b,40cについても、この変更した平面分に応じた形状とすることが望ましい。
【0046】
また、図1に示されるように、係止用溝34をシャフト30の全周に渡って形成することも可能である。この態様においては、前述の例のような第1平面部37及び第2平面部38が設けられていないので、ビットスプライン10に対してシャフト30の回動角度が規制されず、ビットスプライン10ひいてはウイングビット60a、60b、60cに対するシャフト30の相対的な回動量を規制することができない。よって、この態様においてウイングビット60a、60b、60c、の拡径幅を規制する必要がある場合には、前述のような内向き円弧部68(拡径規制部)をウイングビット60a、60b、60cに設けることが極めて好適である。
【0047】
また、前述の例とは逆にシャフト側ではなくウイングビット側に突起が設けられる態様においては、シャフト外周面に突起が係止される穴が形成されて、この穴の内壁面が反転時係止部となり、突起が穴に収容された状態すなわちウイングビットが縮径された状態で突起が内壁面に係止されてウイングビットの拡径方向への搖動が規制される。一方、シャフトの正転時には、シャフトに対してウイングビットが相対的に回転し突起が穴の外に出るようにしてウイングビットが拡径方向に搖動するとともに、突起がシャフト外周面に当接されて拡径状態が保持される。この態様においてはシャフト外周面が正転時係止部となる。
【0048】
次に、上記した発明以外のその他の技術的思想について説明する。本発明の掘削工具は、請求項1の掘削工具において、ビットスプラインに対してシャフトが所定角度内で正転することによりウイングビットが拡径状態に揺動されるとともに、前記ウイングビットの拡径状態への揺動時においてのみ突起が正転時係止部に当接され、前記ビットスプラインに対して前記シャフトが所定角度内で反転することにより前記ウイングビットが縮径状態に揺動されるとともに、前記ウイングビットの縮径状態への揺動時においてのみ前記突起が前記反転時係止部に当接されるものとすることもできる。
【0049】
また、前記ビットスプラインに対して前記シャフトが所定角度内で正転することにより前記ウイングビットが拡径状態に揺動されるとともに、前記ウイングビットの拡径状態への揺動時において前記ウイングビットの円弧内側面に前記突起がもぐり込んで前記正転時係止部に当接されるものとすることもできる。このように構成することにより、ウイングビットの拡径を容易に行うことができる。
【0050】
また、前記反転時規制部と前記拡径規制部とが前記ウイングビットの同一部位に形成されるものとすることもできる。このように形成することにより、ウイングビットにおける両部を小さなスペースの中で効率良く配置することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、削孔作業に用いる掘削工具に利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1;掘削工具、2;抜け止め用係止ピン、3;揺動用係止軸、4;デバイス、5;ケーシング、10;ビットスプライン、12;小径部、13;連通孔、14;大径部、16;収容孔、18;側壁部、19;孔、20;係止用孔、22;先端側端面、24;収容孔、30;シャフト、31;連通孔、32;収容部、34a,34b;係止用溝、36;内壁面、37;第1平面部、38;第2平面部、39;円弧部、40a,40b,40c;突起、42;円弧部、43;先端部、44;第1傾斜部、45;角部、46;第2傾斜部、48;排出用溝、50;パイロットビット、51;基端面、52;テーパ部、53;フラッシング用孔、54;先端面、55;誘導穴、56;チップ、57;収容穴、58;規制壁部、60a,60b,60c;ウイングビット、61;係合突起、62;挿入孔、64;外側円弧部、65,66;端部、67;内壁部、68;内向き円弧部(反転時係止部)(拡径規制部)、69;先端部、70;第1平面部(正転時係止部)、71;凹部、72;内側角部、73;第2平面部(正転時係止部)、74;第3平面部、75;角部、76;第4平面部、78;テーパ部、X;中心軸線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動手段によって中心軸線回りに回転駆動されるビットスプラインと、
前記回転駆動手段によって中心軸線回りに正転方向または反転方向に回転駆動可能なシャフトと、前記シャフトに連結されるパイロットビットと、
前記シャフトの軸心回りに取り付けられるとともに、前記中心軸線から偏心された位置であって重心から偏心された位置において前記ビットスプラインに対して揺動可能に軸支され、前記パイロットビットの外径に対して、前記シャフトの正転時には拡径状態に、反転時には縮径状態に変位可能に設けられる略円弧形状のウイングビットとが備えられた掘削工具であって、
前記ビットスプラインに対して、前記シャフトは所定角度内で自由に回動可能に設けられ、
前記シャフトの外周面又は前記ウイングビットの一方には、突起が設けられ、
前記シャフトの外周面又は前記ウイングビットの他方には、前記シャフトの正転によるウイングビットの拡径時において、前記突起によって当接されて縮径方向への揺動を規制される正転時係止部が設けられ、前記ウイングビットには、前記シャフトの反転時において、前記突起によって当接されて拡径方向への揺動を規制される反転時係止部が設けられたことを特徴とする掘削工具。
【請求項2】
前記ウイングビットに、前記ウイングビットの拡径方向への所定量の揺動時において前記シャフトに当接可能に設けられて前記ウイングビットの所定量以上の揺動を規制する拡径規制部を設けることを特徴とする請求項1に記載の掘削工具。
【請求項3】
前記拡径規制部が前記シャフトの外周面の形状と合致する形状とすることを特徴とする請求項2に記載の掘削工具。
【請求項4】
前記パイロットビットに収容穴を形成し、前記ウイングビットの先端面に前記収容穴に収容可能な係合突起を設けるとともに、前記ウイングビットの最大拡径時に、前記係合突起が前記収容穴の外周端の規制壁部に当接可能に設けることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の掘削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−117126(P2011−117126A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272680(P2009−272680)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(509328939)
【Fターム(参考)】