説明

掘削用管路切り離し方法、掘削用管路切り離し装置、及びこれを用いた海底掘削設備

【課題】 ライザー管を切り離した際の掘削用管路の上下振動を容易かつ効果的に低減することができる掘削用管路切り離し方法、掘削用管路切り離し装置、及びこれを用いた海底掘削設備を提供する。
【解決手段】 海水SWよりも比重の大きい泥水MWが供給されるドリルパイプ3とドリルパイプ3の外側に設けられて海上に浮かぶ掘削船(浮体)と海底に形成された掘削口とを接続するライザー管6とを有する二重管構造の掘削用管路7と、掘削用管路7と掘削口とを分離する分離装置と、ドリルパイプ3の長手方向の中央部での流体の流通を規制する中央部バルブ32と、ドリルパイプ3の中央部バルブ32の直下に海水SWを供給する海水供給装置とを設ける。掘削用管路7を、掘削口と分離し、これと前後して、ドリルパイプ3の長手方向の中央部の泥水MWを残して他の領域の泥水MWを海水SWと置換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底における地質調査や資源調査、資源採取等のための海底掘削に用いる掘削用管路切り離し方法、掘削用管路切り離し装置、及びこれを用いた海底掘削設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海底の掘削方法としては、ライザー掘削法がある。ライザー掘削法では、まず、海上に浮かぶ掘削船等の浮体から、先端に掘削刃が設けられたドリルパイプを海中に吊り下げて、このドリルパイプによって海底を所定深さまで掘削する。次に、掘削口に、地層内から侵入したガス等の流体を掘削口内に封じ込める防噴装置を設けるとともに、ドリルパイプの周囲にライザー管を設けて、防噴装置から浮体までにわたって、ドリルパイプとライザー管とからなる二重管構造を形成する。
【0003】
その後、ドリルパイプ内に海水よりも比重が重く粘性も高い泥水を供給することによってドリルパイプ先端に周囲の地層圧を上回る水圧を付与して、地層内に含まれるガスや石油等の掘削穴内への侵入を防止した状態で、ドリルパイプによる掘削を行う。
ここで、泥水は、掘削刃の潤滑剤及び冷却剤としても作用し、これによって、掘削刃の損耗が防止または低減される。また、このようにドリルパイプ先端に泥水が供給されることで、ドリルパイプ先端で生じた掘削屑が泥水によって押し流されて速やかに除去されるので、ドリルパイプによる掘削がスムーズに行われる。
【0004】
ライザー掘削に用いられる泥水は、単なる泥水ではなく、掘削屑を含む海水に各種の添加物を添加することによって、所定の比重を持たせ、かつ取り込んだ掘削屑が分離して沈降してしまわないように所定の粘性を持たせたものであって、非常に高価なものである。このため、ドリルパイプ先端に供給された泥水は、ドリルパイプとライザー管との間に形成された空間(アニュラー)を通じて浮体に回収されたのち、泥水として再利用される。
【0005】
ライザー掘削法では、上記のように、浮体と掘削口とが、ドリルパイプ及びライザー管からなる掘削用管路によって接続されているので、浮体が掘削口の直上位置から大きくずれると、掘削用管路に過大な引張力が加わってしまう。このため、通常は、衛星を利用した位置情報システムによって浮体の位置を把握し、浮体が常に掘削口の直上となるように浮体の位置を制御している。
しかし、位置情報システムの故障または浮体の電源設備の故障等によって位置情報システムが使用できなくなった場合や、浮体の動力設備が故障したり海流に流されるなどして所定位置に留まり続けることが困難になった場合には、掘削用管路の破損を避けるために、ただちに掘削用管路を掘削口から切り離す。
【0006】
また、台風などによって海面が荒れると、浮体の上下変位量が大きくなって掘削用管路に負荷が加わるので、海象が荒れると予測される場合には、海面が荒れる前に、前もって掘削用管路の切り離しが行われる。
そして、地層内のガスや石油等の掘削口内への侵入を防止することができなくなった場合にも、掘削設備を保護するために、ただちに掘削用管路の切り離しが行われる。
【0007】
ここで、掘削用管路を構成するライザー管は、直径が0.5mから1m程度であるのに対して、その全長は2500mにも達するため、圧縮力を受けると座屈しやすい。そこで、ライザー管は、圧縮力が作用することのないよう、浮体に設けられたライザーテンショナーによって上方に引っ張られていて、常に引き伸ばされた状態とされている。例えば、ライザー管の全長が2500mである場合には、ライザー管は、3m程度引き伸ばされている(この伸びは弾性変形による伸びである)。
このため、掘削用管路を掘削口から切り離した際に、ライザーテンショナーの引張力及びライザー管の復元力によって、掘削用管路が上方に強く引き上げられることになり、掘削用管路が上下に振動する。
このように掘削用管路に上下の振動が生じると、その振動が大きい場合には、掘削用管路の上端が浮体上の設備を突き上げてしまったり、掘削用管路の下端が防噴装置や海底に衝突してしまう可能性がある。
【0008】
このような掘削用管路の振動を抑えるための技術としては、例えば、後記の特許文献1に記載のライザーテンショナー用アンチリコイル制御装置が知られている。
このライザーテンショナー用アンチリコイル制御装置は、ライザーテンショナーの張力と、船体(浮体)に対するライザー上端の相対位置と、船体の上下運動の情報とに基づいて、ライザー管の上端と船体との相対速度がゼロに近くなるように、ライザーテンショナーの張力及びライザー管の切り離しタイミングを制御するものである。
【0009】
【特許文献1】特開平10−311191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に記載のように、ライザーテンショナーの張力の適切な制御条件及びライザー管の適切な切り離しタイミングを、船体及びライザー管の実際の挙動に基づいて求めるには、複雑な演算を行う必要がある。このため、例えば、海面が荒れて浮体の上下動が不規則となった場合など、複雑な条件の下では、演算がさらに複雑となって、適切な制御条件を正確に予測することが困難となり、十分な効果を得ることができない場合があった。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、掘削用管路を切り離した際の掘削用管路の上下振動を容易かつ効果的に低減することができる掘削用管路切り離し方法、掘削用管路切り離し装置、及びこれを用いた海底掘削設備提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供する。
すなわち、本発明は、海水よりも比重の大きい泥水が供給されるドリルパイプと、該ドリルパイプの外側に設けられて海上に浮かぶ浮体及び海底に形成された掘削口を接続するライザー管とを有する二重管構造の掘削用管路を、前記掘削口と分離し、これと前後して、前記ドリルパイプの上部領域の前記泥水を前記海水と置換する掘削用管路切り離し方法を提供する。
【0013】
この掘削用管路切り離し方法では、掘削用管路と掘削口との切り離しの際に、掘削用管路の下部領域を泥水で満たしつつ、上部領域を海水で満たす。
泥水の比重は海水の比重よりも大きいので、掘削用管路内の流体を含めると、上記状態の掘削用管路の下部領域の質量は、上部領域の質量よりも大きい。
【0014】
この状態の掘削用管路は、近似的に、一端が固定された第一のバネと、この第一のバネの他端に接続された小質量の第一の台車と、この第一の台車に対して第二のバネを介して接続された大質量の第二の台車とを、摩擦のない水平面上に一直線に配置した構成の第一のバネ・マスモデルに置き換えることができる。
この第一のバネ・マスモデルにおいて、第一の台車の質量は内部の海水も含めた掘削用管路の上部領域の質量であり、第二の台車の質量は内部の泥水も含めた掘削用管路の下部領域の質量である。また、第一のバネのバネ定数は掘削用管路の上部領域のバネ定数であり、第二のバネのバネ定数は掘削用管路の下部領域のバネ定数である。これら第一、第二のバネのバネ定数は、近似的に同一とみなすことができる。
【0015】
上記第一のバネ・マスモデルにおいて、第一及び第二のバネが自然長となっている状態から第二の台車を第一の台車から所定量離間させた状態(すなわち掘削用管路に張力が付与されているのと同じ状態)から第二の台車を開放して各台車を振動させると、第一のバネ・マスモデルにおいて第一の台車と第二の台車の質量とを等しくした場合や、第一の台車の質量を第二の台車の質量よりも大きくした場合に比べて、第一の台車の振幅が小さくなる。
このことは、上記第一のバネ・マスモデルの挙動を運動方程式に基づいて数値的に解析するか、実際に実験を行うことで、容易に確認することができる。
このことを実際の掘削用管路に当てはめて考えると、掘削用管路の下部領域にのみ泥水を位置させた場合には、掘削用管路を掘削口から分離することによって前記のように掘削用管路に上下の振動が生じても、掘削用管路の上端の振幅が従来よりも小さくなることがわかる。これにより、掘削用管路の切り離し後に、掘削用管路の上端による海上の浮体の突き上げが生じにくい。
【0016】
ここで、掘削用管路を掘削口から切り離すにあたって、事前に上部領域の泥水を海水と置換するだけの時間的猶予がない場合には、掘削用管路を掘削口から切り離したのちに上記の操作を行って上部領域の泥水を海水と置換することで、以降は掘削用管路の上端の振幅を従来よりも小さくすることができる。
【0017】
この掘削用管路切り離し方法において、前記ドリルパイプにその下端での流体の流通を規制する下端部バルブを設け、前記下端部バルブを開放した状態で前記ドリルパイプ内に上端から前記海水を供給して前記ドリルパイプ内の前記泥水の一部を前記ドリルパイプの下端から押し出し、前記ドリルパイプの上部領域で前記泥水と前記海水とが置換されたことをもって前記下端部バルブを閉じてもよい。
この場合には、ドリルパイプの上端に海水を供給する操作と、下端部バルブの開閉操作のみによって、容易にドリルパイプの上部領域の泥水を海水に置換することができる。
【0018】
また、本発明は、海水よりも比重の大きい泥水が供給されるドリルパイプと、該ドリルパイプの外側に設けられて海上に浮かぶ浮体及び海底に形成された掘削口を接続するライザー管とを有する二重管構造の掘削用管路を、前記掘削口と分離し、これと前後して、前記ドリルパイプの下部領域の前記泥水を前記海水と置換する掘削用管路切り離し方法を提供する。
【0019】
この掘削用管路切り離し方法では、掘削用管路と掘削口との切り離しの際に、掘削用管路の上部領域を泥水で満たしつつ、下部領域を海水で満たす。
泥水の比重は海水の比重よりも大きいので、掘削用管路内の流体を含めると、上記状態の掘削用管路の上部領域の質量は、下部領域の質量よりも大きい。
【0020】
この状態の掘削用管路は、近似的に、一端が固定された第三のバネと、この第三のバネの他端に接続された大質量の第三の台車と、この第三の台車に対して第四のバネを介して接続された小質量の第四の台車とを、摩擦のない水平面上に一直線に配置した構成の第二のバネ・マスモデルに置き換えることができる。
この第二のバネ・マスモデルにおいて、第三の台車の質量は内部の泥水も含めた掘削用管路の上部領域の質量であり、第四の台車の質量は内部の海水も含めた掘削用管路の下部領域の質量である。また、第三のバネのバネ定数は掘削用管路の上部領域のバネ定数であり、第四のバネのバネ定数は掘削用管路の下部領域のバネ定数である。これら第三、第四のバネのバネ定数は、近似的に同一とみなすことができる。
【0021】
上記第二のバネ・マスモデルにおいて、第三及び第四のバネが自然長となっている状態から第四の台車を第三の台車から所定量離間させたのちに開放して各台車を振動させると、第二のバネ・マスモデルにおいて第三の台車と第四の台車の質量とを等しくした場合や、第四の台車の質量を第三の台車の質量よりも大きくした場合に比べて、第四の台車の振幅が小さくなる。
このことは、上記第二のバネ・マスモデルの挙動を運動方程式に基づいて数値的に解析するか、実際に実験を行うことで、容易に確認することができる。
このことを実際の掘削用管路に当てはめて考えると、掘削用管路の上部領域にのみ泥水を位置させた場合には、掘削用管路を掘削口から分離することによって前記のように掘削用管路に上下の振動が生じても、掘削用管路の下端の振幅が従来よりも小さくなることが分かる。これにより、掘削用管路の切り離し後に、掘削用管路の下端が掘削口を閉塞する防噴装置や海底に衝突しにくい。
【0022】
ここで、掘削用管路を掘削口から切り離すにあたって、事前に下部領域の泥水を海水と置換するだけの時間的猶予がない場合には、掘削用管路を掘削口から切り離したのちに上記の操作を行って下部領域の泥水を海水と置換することで、以降は掘削用管路の下端の振幅を上端の振幅に比べて小さくすることができる。
【0023】
この掘削用管路切り離し方法において、前記ドリルパイプにその長手方向の中央部での流体の流通を規制する中央部バルブを設け、該中央部バルブを閉塞した状態で前記ドリルパイプの前記中央部バルブの直下に前記海水を供給して前記ドリルパイプの前記下部領域の前記泥水を前記海水と置換してもよい。
この場合には、中央部バルブの開閉操作と、ドリルパイプの上端に海水を供給する操作のみによって、容易にドリルパイプの下部領域の泥水を海水に置換することができる。
【0024】
また、本発明は、海水よりも比重の大きい泥水が供給されるドリルパイプと、該ドリルパイプの外側に設けられて海上に浮かぶ浮体及び海底に形成された掘削口を接続するライザー管とを有する二重管構造の掘削用管路を、前記掘削口と分離し、これと前後して、前記ドリルパイプの長手方向の中央部の前記泥水を残して他の領域の前記泥水を前記海水と置換する掘削用管路切り離し方法を提供する。
【0025】
この掘削用管路切り離し方法では、掘削用管路と掘削口との切り離しの際に、掘削用管路の長手方向の中央部を泥水で満たしつつ、上端近傍及び下部領域を海水で満たす。
泥水の比重は海水の比重よりも大きいので、掘削用管路内の流体を含めると、上記状態の掘削用管路では、長手方向の中央部の質量が、上端近傍の質量及び下部領域の質量よりも大きい。
【0026】
この状態の掘削用管路は、近似的に、一端が固定された第五のバネと、この第五のバネの他端に接続された小質量の第五の台車と、この第五の台車に対して第六のバネを介して接続された大質量の第六の台車と、この第六の台車に対して第七のバネを介して接続された小質量の第七の台車とを、摩擦のない水平面上に一直線に配置した構成の第三のバネ・マスモデルの挙動に置き換えることができる。
【0027】
この第三のバネ・マスモデルにおいて、第五の台車の質量は内部の海水も含めた掘削用管路の上端近傍の質量であり、第六の台車の質量は内部の泥水も含めた掘削用管路の長手方向の中央部の質量であり、第七の台車の質量は内部の海水も含めた掘削用管路の下部領域の質量である。また、第五のバネのバネ定数は掘削用管路の上端近傍のバネ定数であり、第六のバネのバネ定数は掘削用管路の長手方向の中央部のバネ定数であり、第七のバネのバネ定数は掘削用管路の下部領域のバネ定数である。これら第五、第六、及び第七のバネのバネ定数は、近似的に同一とみなすことができる。
【0028】
上記第三のバネ・マスモデルにおいて、第五、第六、及び第七のバネが自然長となっている状態から第七の台車を第六の台車から所定量離間させたのちに開放して各台車を振動させると、第五及び第七の台車の振幅が、第五、第六、第七の台車の質量を等しくした場合に比べて小さくなる。このことは、上記第三のバネ・マスモデルの挙動を実験することで、容易に確認することができる。
このことを実際の掘削用管路に当てはめて考えると、掘削用管路の長手方向中央部のみに泥水を位置させた場合には、掘削用管路を掘削口から分離することによって前記のように掘削用管路に上下の振動が生じても、掘削用管路の上端及び下端の振幅が従来よりも小さくて済むことがわかる。
これにより、掘削用管路の切り離し後に、掘削用管路の下端が掘削口を閉塞する防噴装置や海底に衝突しにくく、同時に、掘削用管路の上端による海上の浮体の突き上げが生じにくい。
【0029】
ここで、掘削用管路を掘削口から切り離すにあたって、事前に上端近傍の泥水及び下部領域の泥水を海水と置換するだけの時間的猶予がない場合には、掘削用管路を掘削口から切り離したのちに上記の操作を行って上端近傍の泥水及び下部領域の泥水を海水と置換することで、以降は掘削用管路の下端の振幅及び上端の振幅を小さくすることができる。
【0030】
この掘削用管路切り離し方法において、前記ドリルパイプにその長手方向の中央部での流体の流通を規制する中央部バルブを設け、該中央部バルブを開放した状態で前記ドリルパイプ内に上端から前記海水を供給して前記ドリルパイプ内の前記泥水の一部を前記ドリルパイプの下端から押し出し、前記ドリルパイプの上端近傍で前記泥水が前記海水と置換された時点で前記中央部バルブを閉塞するとともに前記ドリルパイプの前記中央部バルブの直下に前記海水を供給して前記ドリルパイプの前記下部領域の前記泥水を前記海水と置換してもよい。
この場合には、中央部バルブの開閉操作と、ドリルパイプの上端に海水を供給する操作のみによって、容易にドリルパイプの上端部近傍の泥水と下部領域の泥水とを海水に置換することができる。
【0031】
また、本発明は、海水よりも比重の大きい泥水が供給されるドリルパイプと、該ドリルパイプの外側に設けられて海上に浮かぶ浮体及び海底に形成された掘削口を接続するライザー管とを有する二重管構造の掘削用管路と、該掘削用管路と前記掘削口とを分離する分離装置と、前記ドリルパイプの下端での流体の流通を規制する下端部バルブと、前記ドリルパイプ内にその上端から前記海水を供給する海水供給装置とを有している掘削用管路切り離し装置を提供する。
【0032】
このように構成される掘削用管路切り離し装置では、分離装置によって掘削用管路と掘削口とを分離するにあたって、海水供給装置によってドリルパイプ内に上端から海水を供給することによってドリルパイプ内の泥水を所定高さまで押し下げて、余分な泥水をドリルパイプの下端から排出させ、この状態で下端部バルブを閉じることで、ドリルバルブの下部領域を泥水で満たしつつ、上部領域の泥水を海水と置換することができる。
【0033】
この状態の掘削用管路の挙動は、前記第一のバネ・マスモデルと同様の挙動となるので、掘削用管路を掘削口から分離することによって前記のように掘削用管路に上下の振動が生じても、掘削用管路の上端の振幅が従来に比べて小さくなり、掘削用管路の切り離し後に、掘削用管路の上端による海上の浮体の突き上げが生じにくい。
ここで、掘削用管路を掘削口から切り離すにあたって、事前に内部の泥水を海水と置換するだけの時間的猶予がない場合には、掘削用管路を掘削口から切り離したのちに上記の操作を行って所定領域の泥水を海水と置換してもよい。
【0034】
また、本発明は、海水よりも比重の大きい泥水が供給されるドリルパイプと、該ドリルパイプの外側に設けられて海上に浮かぶ浮体及び海底に形成された掘削口を接続するライザー管とを有する二重管構造の掘削用管路と、該掘削用管路と前記掘削口とを分離する分離装置と、前記ドリルパイプの長手方向の中央部での流体の流通を規制する中央部バルブと、前記ドリルパイプの前記中央部バルブの直下に前記海水を供給する海水供給装置とを有している掘削用管路切り離し装置を提供する。
【0035】
このように構成される掘削用管路切り離し装置では、分離装置によって掘削用管路と掘削口とを分離するにあたって、中央部バルブを閉じた状態で海水供給装置によってドリルパイプの中央部バルブの直下に海水を供給することで、ドリルパイプの上部領域を泥水で満たしつつ、下部領域の泥水を海水と置換することができる。
【0036】
この状態の掘削用管路の挙動は、前記第二のバネ・マスモデルと同様の挙動となるので、掘削用管路を掘削口から分離することによって前記のように掘削用管路に上下の振動が生じても、掘削用管路の下端の振幅が従来に比べて小さくなり、掘削用管路の切り離し後に、掘削用管路の下端が掘削口を閉塞する防噴装置や海底に衝突しにくい。
ここで、掘削用管路を掘削口から切り離すにあたって、事前に内部の泥水を海水と置換するだけの時間的猶予がない場合には、掘削用管路を掘削口から切り離したのちに上記の操作を行って所定領域の泥水を海水と置換してもよい。
【0037】
この掘削用管路切り離し装置において、海水供給装置が、ドリルパイプ内にその上端から海水を供給可能とされていてもよい。
この場合には、分離装置によって掘削用管路と掘削口とを分離するにあたって、中央部バルブを閉塞する前に、海水供給装置によってドリルパイプ内に上端から海水を供給してドリルパイプ内の泥水を上端と長手方向の中央との中間近傍まで押し下げることで、ドリルパイプの上端近傍の泥水を海水に置換することができる。以降は、中央部バルブを閉じて中央部バルブの直下からドリルパイプ内に海水を供給することで、ドリルパイプの長手方向の中央部を泥水で満たしつつ、上端近傍の泥水及び下部領域の泥水を海水と置換することができる。
【0038】
この状態の掘削用管路の挙動は、前記第三のバネ・マスモデルと同様の挙動となるので、掘削用管路を掘削口から分離することによって前記のように掘削用管路に上下の振動が生じても、掘削用管路の上端及び下端の振幅が従来に比べて小さくなり、掘削用管路の切り離し後に、掘削用管路の下端が掘削口を閉塞する防噴装置や海底に衝突しにくく、同時に、掘削用管路の上端による海上の浮体の突き上げが生じにくい。
【0039】
また、上記の各掘削用管路切り離し装置において、海水供給装置が、前記海水の供給開始時点から、該海水供給装置の海水供給能力に基づいて予め求められた前記泥水と前記海水との置換作業の所要時間が経過した時点で動作を停止する構成とされていてもよい。
このように構成される掘削用管路切り離し装置では、海水供給装置による泥水と海水との置換作業が、予め求められた所要時間だけ継続されるので、泥水と海水との置換作業を正確かつ自動的に行うことができる。
【0040】
また、上記の各掘削用管路切り離し装置が、内部の流体も含めた前記掘削用管路の重量を計測する重量計測装置と、該重量計測装置の測定値が前記泥水と前記海水との置換が完了した状態での内部の流体も含めた前記掘削用管路の重量となったことをもって前記置換装置の置換動作を停止させる制御装置とを有していてもよい。
【0041】
前記のように、ライザー掘削法で用いる泥水は、海水よりも比重が重いので、置換装置による掘削用管路内の泥水と海水との置換が進行して、掘削用管路内の泥水の量が減少するにつれて、内部の流体も含めた掘削用管路の重量が減少する。そして、置換が完了した時点では、内部の流体も含めた掘削用管路の重量は、一定の値をとる。
上記掘削用管路切り離し装置は、このことを利用して、重量計測装置の測定値に基づいて制御装置が置換装置の動作を制御するので、泥水と海水との置換作業を正確かつ自動的に行うことができる。
【0042】
また、上記の各掘削用管路切り離し装置が、前記掘削用管路内の流体を下方に向けて送出するポンプを有していてもよい。
前記のように、ライザー掘削法で用いる泥水は、海水よりも粘性が高いので、泥水の自重を利用して掘削用管路内の泥水と海水との置換を行った場合にはある程度の時間がかかる。
そこで、上記のように、前記掘削用管路内の流体を下方に向けて送出するポンプを設けることで、泥水をより高速に移動させて、泥水と海水との置換をより短時間で完了することができる。
【0043】
これにより、掘削用管路の分離前に泥水と海水の置換を行う場合には、置換作業を速やかに終了させて、作業を開始してから短時間で掘削用管路の分離を行うことができる。
また、掘削用管路を分離してから泥水と海水との置換を行う場合には、掘削用管路を分離したのちに短時間で置換作業を終了させることができるので、掘削用管路の上端や下端の振幅を速やかに低減することができる。
【0044】
また、本発明は、ライザー掘削法を用いて海底の掘削を行う海底掘削設備であって、請求項7から12のいずれかに記載の掘削用管路切り離し装置を有する海底掘削設備を提供する。
このように構成される海底掘削設備では、掘削用管路内の泥水の一部を海水と置換することで、掘削用管路の切り離し時の上下振動を容易かつ効果的に低減することができる。
【発明の効果】
【0045】
以上述べたように、本発明にかかる掘削用管路切り離し方法、掘削用管路切り離し装置、及びこれを用いた海底掘削設備によれば、掘削用管路の切り離し時の上下振動を容易かつ効果的に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
[第一実施形態]
以下、本発明の第一実施形態について、図1から図4を用いて説明する。
図1に示すように、本発明にかかる海底掘削設備1は、海上に浮かぶ掘削船2(浮体)と、掘削船2から海中Sに吊り下げられて海底Fを掘削するドリルパイプ3と、ドリルパイプ3による掘削口4に設けられて、地層内から掘削口4内にガス等の流体が侵入した場合に掘削口4を封止する防噴装置5とを有している。
【0047】
図2に示すように、ドリルパイプ3の周囲には、掘削船2と防噴装置5とを接続するライザー管6が設けられている。これらドリルパイプ3とライザー管6とによって、二重管構造の掘削用管路7が形成されている。ドリルパイプ3とライザー管6との間には、円環状の空間(アニュラーA)が形成されており、このアニュラーA内を流体が流通されるようになっている。
【0048】
図1に示すように、防噴装置5は、掘削口4に固定的に設けられて掘削口4の封止を行う下部5aと、下部5aに対して分離可能にして設けられる上部5bとを有しており、ライザー管6は、上部5bを介して下部5aと接続されている。
すなわち、防噴装置5は、ライザー管6と掘削口4とを分離する分離装置を兼ねている。また、上部5bには、ライザー管6と掘削口4との分離時にドリルパイプ3を切断する切断機構と、ドリルパイプ3の下端出の流体の流通を規制する下端部バルブとが設けられている(図示せず)。
【0049】
掘削船2には、ライザー管6を上方に引っ張るライザーテンショナー9が設けられていて、ライザー管6が常に引き伸ばされた状態となるように図られている。
また、図2に示すように、掘削船2には、ドリルパイプ3内にその上端から海水SWよりも比重が重く粘性も高い泥水MWを供給する泥水供給装置11が設けられている。ドリルパイプ3内に供給された泥水MWは、ドリルパイプ3を通じて下方に搬送されて、ドリルパイプ3先端に供給されるようになっている。
また、泥水供給装置11は、アニュラーAを通じてドリルパイプ3先端に供給された泥水MWを回収して所定の処理を施す泥水処理装置も兼ねている。そして、泥水供給装置11は、処理を終えた泥水MWを、ドリルパイプ3内に送り込んで再利用する構成とされている。
【0050】
ここで、本実施形態では、泥水供給装置11は、アニュラーAの下端を通じて海水SWを取り込んでドリルパイプ3内に上端から供給する海水供給装置を構成している。
また、図1に示すように、掘削用管路7の下端近傍には、ドリルパイプ3内の流体を下方に送出するポンプ14が設けられており、これによってドリルパイプ3内での流体の移動速度向上が図られている。
【0051】
このように構成される海底掘削設備1では、図3(a)に示す稼働状態(ドリルパイプ3内には泥水MWが満たされ、アニュラーA内には海水SWが満たされた状態)から、掘削口4と掘削用管路7とを分離するにあたって、以下の操作が行われる。
まず、泥水供給装置11によるドリルパイプ3内への泥水MWの供給を停止し、泥水MWの代わりに、海水SWをドリルパイプ3内に上端から供給する。
これにより、ドリルパイプ3内の泥水MWをドリルパイプ3の長手方向の中央部まで押し下げて、余分な泥水MWをドリルパイプ3の下端から排出させる。この状態で、防噴装置5bに設けられた下端部バルブを閉塞することで、図3(b)に示すように、ドリルパイプ3の下部領域が泥水MWで満たされた状態で、上部領域の泥水MWが海水SWと置換される。
このとき、ポンプ14を作動させてドリルパイプ3内の流体を積極的に移動させることで、上記操作に要する時間を短縮することができる。
【0052】
ここで、ドリルパイプ3内の泥水MWの量の制御にあたっては、後述する解析モデルを用いて予め様々な環境条件(泥水比重や掘削深度等)の下で掘削用管路7の振動が最小となる泥水MWの保持量を求めておき、この情報に基づいて、現在の条件に適した泥水MWの保持量を決定する。
【0053】
そして、泥水供給装置11による海水SWの供給にあたっては、予め様々な環境条件(ドリルパイプ3内の泥水MWの粘性等)の下での泥水供給装置11の海水供給能力(泥水排出能力)を求めておき、この情報に基づいて、現在の条件に適した量の泥水MWがドリルパイプ3内に残されるよう、泥水供給装置11を作動させる時間を決定する。
これにより、泥水供給装置11による泥水MWと海水SWとの置換作業を正確かつ自動的に行うことができる。
【0054】
泥水MWの比重は海水SWの比重よりも十分に大きいので(比重2程度)、図3(b)に示す状態では、掘削用管路7内の流体を含めると、掘削用管路7の下部領域の質量は、上部領域の質量よりも大きい。
この状態の掘削用管路7は、近似的に、図3(c)に示すように、一端が固定された第一のバネCと、この第一のバネCの他端に接続された小質量の第一の台車Mと、この小質量の第一の台車Mに対して第二のバネCを介して接続された大質量の第二の台車Mとを、摩擦のない水平面上に一直線に配置した構成の第一のバネ・マスモデルに置き換えることができる。
【0055】
この第一のバネ・マスモデルにおいて、第一の台車Mの質量は内部の泥水MWも含めた掘削用管路7の上部領域の質量であり、第二の台車Mの質量は内部の海水SWも含めた掘削用管路7の下部領域の質量である。また、第一のバネCのバネ定数は掘削用管路7の上部領域のバネ定数であり、第二のバネCのバネ定数は掘削用管路7の下部領域のバネ定数である。これら第一及び第二のバネC,Cのバネ定数は、近似的に同一とみなすことができる。
【0056】
上記第一のバネ・マスモデルにおいて、第一及び第二のバネC,Cが自然長となっている状態で、第二の台車Mを第一の台車Mから所定量離間させたのちに開放して各台車を振動させると、第一の台車Mの質量と第二の台車Mの質量とを同一とした場合(すなわち従来の条件)に比べて小さくなる。このことは、上記第一のバネ・マスモデルの挙動を運動方程式に基づいて数値的に解析するか、実際に実験を行うことで、容易に確認することができる。
【0057】
このことを実際の掘削用管路7に当てはめて考えると、上記の状態にある掘削用管路7を掘削口4から分離することによって前記のように掘削用管路7に上下の振動が生じても、掘削用管路7の上端の振幅が従来に比べて小さくなることがわかる。これにより、掘削用管路7の切り離し後に、掘削用管路7の上端による海上の掘削船2の突き上げが生じにくい。
【0058】
ここで、参考のために、この第一のバネ・マスモデルに基づいて、上部領域と下部領域との質量比を1:2として算出した掘削用管路7の固有モードを、図4のグラフに示す。
また、図4では、比較のために、上部領域と下部領域との質量比を1:1にした場合の固有モードを破線で示し、上部領域と下部領域との質量比を2:1とした場合の固有モードを実線で示している。図4から明らかなように、上部領域に対して下部領域の質量が大きい場合には、他の場合に比べて上部領域の振幅が小さくなる。
【0059】
ここで、掘削用管路7を掘削口4から切り離すにあたって、事前に上部領域の泥水MWを海水SWと置換するだけの時間的猶予がない場合には、掘削用管路7を掘削口4から切り離したのちに上記の操作を行って上部領域の泥水MWを海水SWと置換することで、以降は掘削用管路7の上端の振幅を従来よりも小さくすることができる。
【0060】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について、図5から図7を用いて説明する。
本実施形態にかかる海底掘削設備31は、第一実施形態に示す海底掘削設備1と同様の構成を有しており、図5及び図6に示すように、掘削用管路7の長手方向の中央部には、掘削用管路7内の流体の流通を規制する中央部バルブ32が設けられている。
【0061】
本実施形態では、中央部バルブ32は、ドリルパイプ3内及びアニュラーA内の流体の流通を規制する構成とされている。また、中央バルブ32は、閉塞時には、ドリルパイプ3を切断して、ドリルパイプ3において切断位置よりも上方に位置する部分の切断部における流体の流通を規制する構成とされている。
【0062】
また、図5に示すように、掘削用管路7には、ドリルパイプ3内に海水SWを供給する海水供給装置33が設けられている。海水供給装置33は、図5(a)に示すように、中央バルブ32が開放されている状態から、図5(b)に示すようにドリルパイプ3の中央部バルブ32よりも下方の部位(以下「下部3a」とする)と中央部バルブ32よりも上方の部位(以下「上部3b」とする)とが分離された際に、下部3aの上端が上部3bの下端から所定距離離間した位置で下部3aを保持する保持装置34を有している。
なお、本実施形態の海底掘削設備51では、防噴装置5の上部5bに下端部バルブを設けなくてもよい。
【0063】
保持装置34は、下部3aの上端から側方に突出する突部34aと、ライザー管6内の中央部バルブ32よりも所定距離下方に設けられて下部3aが上部3bから分離された際に突部34aを受ける支持部34bとを有している。
ここで、保持装置34は、アニュラーA内での流体の流通を許容するものであって、これによって保持装置34が下部3aを保持している状態では、アニュラーAから下部3a内への流体の流通が許容されている。
【0064】
海水供給装置33は、上記のようにドリルパイプ3の下部3aの上端をアニュラーA内に開放することで、下部3a内に満たされた泥水MWとアニュラーA内に満たされた海水SWとの比重の差によって、下部3a内の泥水MWを落下させるとともにこの泥水MWの落下流れに伴って下部3a内に生じた負圧によってアニュラーA内の海水SWを下部3aの上端から下部3a内に取り込ませるようになっている。
【0065】
このように構成される海底掘削設備31では、図6(a)に示す稼働状態(ドリルパイプ3内には泥水MWが満たされ、アニュラーA内には海水SWが満たされた状態)から、掘削口4と掘削用管路7とを分離するにあたって、以下の操作が行われる。
まず、中央部バルブ32を閉じてドリルパイプ3の切断とドリルパイプ3の上部3bの下端の閉塞を行う。
この状態では、前記のように、ドリルパイプ3の下部3aの上端と上部3bとの間に隙間が形成されることで海水供給装置33がその役割を果たし、下部3a内の泥水MWが海水SWに置換される。これにより、図6(b)に示すように、ドリルパイプ3の上部3b内が泥水MWで満たされた状態で、下部3b内の泥水MWが海水SWに置換される。
【0066】
泥水MWの比重は海水SWの比重よりも大きいので、掘削用管路7内の流体を含めると、図6(b)に示す状態の掘削用管路7の上部領域の質量は、下部領域の質量よりも大きい。
この状態の掘削用管路7は、近似的に、図6(c)に示すように、一端が固定された第三のバネCと、この第三のバネCの他端に接続された大質量の第三の台車Mと、この第三の台車Mに対して第四のバネCを介して接続された小質量の第四の台車Mとを、摩擦のない水平面上に一直線に配置した構成の第二のバネ・マスモデルに置き換えることができる。
【0067】
この第二のバネ・マスモデルにおいて、第三の台車Mの質量は内部の泥水MWも含めた掘削用管路7の上部領域の質量であり、第四の台車Mの質量は内部の海水SWも含めた掘削用管路7の下部領域の質量である。また、第三のバネCのバネ定数は掘削用管路7の上部領域のバネ定数であり、第四のバネCのバネ定数は掘削用管路7の下部領域のバネ定数である。これら第三、第四のバネM,Mのバネ定数は、近似的に同一とみなすことができる。
【0068】
上記第二のバネ・マスモデルにおいて、第三及び第四のバネC,Cが自然長となっている状態から第四の台車Mを第三の台車Mから所定量離間させたのちに開放して各台車を振動させると、第二のバネ・マスモデルにおいて第三の台車Mと第四の台車Mの質量とを等しくした場合や、第四の台車Mの質量を第三の台車Mの質量よりも大きくした場合に比べて、第四の台車Mの振幅が小さくなる。
このことは、上記第二のバネ・マスモデルの挙動を運動方程式に基づいて数値的に解析するか、実際に実験を行うことで、容易に確認することができる。
【0069】
このことを実際の掘削用管路7に当てはめて考えると、掘削用管路7の上部領域にのみ泥水MWを位置させた場合には、掘削用管路7を掘削口4から分離することによって前記のように掘削用管路7に上下の振動が生じても、掘削用管路7の下端の振幅が従来よりも小さくなることが分かる。これにより、掘削用管路7の切り離し後に、掘削用管路7の下端が掘削口4を閉塞する防噴装置5や海底Fに衝突しにくい。
【0070】
ここで、掘削用管路7を掘削口4から切り離すにあたって、事前に下部領域の泥水MWを海水SWと置換するだけの時間的猶予がない場合には、掘削用管路7を掘削口4から切り離したのちに上記の操作を行って下部領域の泥水MWを海水SWと置換することで、以降は掘削用管路7の下端の振幅を従来よりも小さくすることができる。
また、この状態で、ポンプ14を作動させてドリルパイプ3内の流体を積極的に移動させることで、上記操作に要する時間を短縮することができる。
【0071】
ここで、参考のために、上記第二のバネ・マスモデルに基づいて、上部領域と下部領域との質量比を2:1として算出した掘削用管路7の固有モードを、図7のグラフに示す。
また、図7では、比較のために、上部領域と下部領域との質量比を1:1にした場合の固有モードを破線で示し、上部領域と下部領域との質量比を0.5:1(すなわち1:2)とした場合の固有モードを実線で示している。図7から明らかなように、上部領域に対して下部領域の質量が大きい場合には、上部領域の振幅が下部領域の振幅よりも小さくなる。
【0072】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態について、図8を用いて説明する。
本実施形態にかかる海底掘削設備51は、第二実施形態に示す海底掘削設備31と同様の構成を有している。この海底掘削設備51では、中央部バルブ32は、閉塞時にドリルパイプ3を切断しない構成とされており、また、海水供給装置33及び保持装置34が省かれている。
【0073】
このように構成される海底掘削設備51では、図8(a)に示す稼働状態(ドリルパイプ3内には泥水MWが満たされ、アニュラーA内には海水SWが満たされた状態)から、掘削口4と掘削用管路7とを分離するにあたって、以下の操作が行われる。
まず、泥水供給装置11によるドリルパイプ3内への泥水MWの供給を停止し、泥水MWの代わりに、海水SWをドリルパイプ3内に上端から供給する。
【0074】
これにより、ドリルパイプ3内の泥水MWをドリルパイプ3の長手方向の中央部近傍まで押し下げて、余分な泥水MWをドリルパイプ3の下端から排出させる。この状態で、中央部バルブ32を閉塞することで、図8(b)に示すように、ドリルパイプ3の長手方向の中央部が所定量の泥水MWで満たされた状態で、上端近傍及び下部領域が海水で満たされる。
なお、このとき、ポンプ14を作動させてドリルパイプ3内の流体を積極的に移動させることで、上記操作に要する時間を短縮することができる。
【0075】
ここで、ドリルパイプ3内の泥水MWの量の制御にあたっては、予め後述する解析モデルを用いて様々な環境条件(泥水比重や掘削深度等)の下で掘削用管路7の振動が最小となる泥水MWの保持量を求めておき、この情報に基づいて、現在の条件に適した泥水MWの保持量を決定する。
【0076】
そして、泥水供給装置11による海水SWの供給にあたっては、予め様々な環境条件(ドリルパイプ3内の泥水MWの粘性等)の下での泥水供給装置11の海水供給能力(泥水排出能力)を求めておき、この情報に基づいて、現在の条件に適した量の泥水MWがドリルパイプ3内に残されるよう、泥水供給装置11を作動させる時間を決定する。
これにより、泥水供給装置11による泥水MWと海水SWとの置換作業を正確かつ自動的に行うことができる。
【0077】
泥水の比重は海水の比重よりも大きいので、掘削用管路7内の流体を含めると、図8(b)に示す状態の掘削用管路7では、長手方向の中央部の質量が、上端近傍の質量及び下部領域の質量よりも大きい。
【0078】
この状態の掘削用管路7は、近似的に、図8(C)に示すように、一端が固定された第五のバネCと、この第五のバネCの他端に接続された小質量の第五の台車Mと、この第五の台車Mに対して第六のバネCを介して接続された大質量の第六の台車Mと、この第六の台車Mに対して第七のバネCを介して接続された小質量の第七の台車Mとを、摩擦のない水平面上に一直線に配置した構成の第三のバネ・マスモデルの挙動に置き換えることができる。
【0079】
この第三のバネ・マスモデルにおいて、第五の台車Mの質量は内部の海水SWも含めた掘削用管路7の上端近傍の質量であり、第六の台車Mの質量は内部の泥水MWも含めた掘削用管路7の長手方向の中央部の質量であり、第七の台車Mの質量は内部の海水SWも含めた掘削用管路7の下部領域の質量である。また、第五のバネCのバネ定数は掘削用管路7の上端近傍のバネ定数であり、第六のバネCのバネ定数は掘削用管路7の長手方向の中央部のバネ定数であり、第七のバネCのバネ定数は掘削用管路7の下部領域のバネ定数である。これら第五、第六、及び第七のバネC,C,Cのバネ定数は、近似的に同一とみなすことができる。
【0080】
上記第三のバネ・マスモデルにおいて、第五、第六、及び第七のバネC,C,Cが自然長となっている状態から第七の台車Mを第六の台車Mから所定量離間させたのちに開放して各台車を振動させると、第五の台車M及び第七の台車Mの振幅が、第五、第六、第七の台車M,M,Mの質量を等しくした場合に比べて小さくなる。このことは、上記第三のバネ・マスモデルの挙動を実験することで、容易に確認することができる。
このことを実際の掘削用管路7に当てはめて考えると、掘削用管路7の長手方向中央部のみに泥水MWを位置させた場合には、掘削用管路7を掘削口4から分離することによって前記のように掘削用管路7に上下の振動が生じても、掘削用管路7の上端及び下端の振幅が従来よりも小さくて済むことがわかる。
これにより、掘削用管路7の切り離し後に、掘削用管路7の下端が掘削口4を閉塞する防噴装置5や海底Fに衝突しにくく、同時に、掘削用管路7の上端による海上の掘削船2の突き上げが生じにくい。
【0081】
ここで、掘削用管路7を掘削口4から切り離すにあたって、事前に上端近傍の泥水MW及び下部領域の泥水MWを海水SWと置換するだけの時間的猶予がない場合には、掘削用管路7を掘削口4から切り離したのちに上記の操作を行って上端近傍の泥水MW及び下部領域の泥水MWを海水SWと置換することで、以降は掘削用管路7の下端の振幅及び上端の振幅を従来よりも小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の第一実施形態にかかる海底掘削設備の構成を示す正面図である。
【図2】本発明の第一実施形態にかかる海底掘削設備の構成を示す一部破断正面図である。
【図3】本発明の第一実施形態にかかる海底掘削設備の動作を示す図であって、(a)は稼働時の様子を示し、(b)は掘削用管路の分離準備段階の様子を示し、(c)は(b)に示す掘削用管路の力学的性質を示す図である。
【図4】本発明の第一実施形態にかかる海底掘削設備の掘削用管路を掘削口から分離した際の掘削用管路の固有モードを示すグラフである。
【図5】本発明の第二実施形態にかかる海底掘削設備の要部拡大断面図であって、(a)は稼働時の様子を示し、(b)は掘削用管路の分離準備段階の様子を示している。
【図6】本発明の第二実施形態にかかる海底掘削設備の動作を示す図であって、(a)は稼働時の様子を示し、(b)は掘削用管路の分離準備段階の様子を示し、(c)は(b)に示す掘削用管路の力学的性質を示す図である。
【図7】本発明の第二実施形態にかかる海底掘削設備の掘削用管路を掘削口から分離した際の掘削用管路の固有モードを示すグラフである。
【図8】本発明の第三実施形態にかかる海底掘削設備の動作を示す図であって、(a)は稼働時の様子を示し、(b)は掘削用管路の分離準備段階の様子を示し、(c)は(b)に示す掘削用管路の力学的性質を示す図である。
【符号の説明】
【0083】
1,31,51 海底掘削設備
2 掘削船(浮体)
3 ドリルパイプ
4 掘削口
5 防噴装置(分離装置、下端部バルブ)
6 ライザー管
7 掘削用管路
11,33 泥水供給装置(海水供給装置)
14 ポンプ
32 中央部バルブ
F 海底
MW 泥水
SW 海水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水よりも比重の大きい泥水が供給されるドリルパイプと、該ドリルパイプの外側に設けられて海上に浮かぶ浮体及び海底に形成された掘削口を接続するライザー管とを有する二重管構造の掘削用管路を、前記掘削口と分離し、
これと前後して、前記ドリルパイプの上部領域の前記泥水を前記海水と置換する掘削用管路切り離し方法。
【請求項2】
前記ドリルパイプにその下端での流体の流通を規制する下端部バルブを設け、
前記下端部バルブを開放した状態で前記ドリルパイプ内に上端から前記海水を供給して前記ドリルパイプ内の前記泥水の一部を前記ドリルパイプの下端から押し出し、
前記ドリルパイプの上部領域で前記泥水と前記海水とが置換されたことをもって前記下端部バルブを閉じる請求項1記載の掘削用管路切り離し方法。
【請求項3】
海水よりも比重の大きい泥水が供給されるドリルパイプと、該ドリルパイプの外側に設けられて海上に浮かぶ浮体及び海底に形成された掘削口を接続するライザー管とを有する二重管構造の掘削用管路を、前記掘削口と分離し、
これと前後して、前記ドリルパイプの下部領域の前記泥水を前記海水と置換する掘削用管路切り離し方法。
【請求項4】
前記ドリルパイプにその長手方向の中央部での流体の流通を規制する中央部バルブを設け、
該中央部バルブを閉塞した状態で前記ドリルパイプの前記中央部バルブの直下に前記海水を供給して前記ドリルパイプの前記下部領域の前記泥水を前記海水と置換する請求項3記載の掘削用管路切り離し方法。
【請求項5】
海水よりも比重の大きい泥水が供給されるドリルパイプと、該ドリルパイプの外側に設けられて海上に浮かぶ浮体及び海底に形成された掘削口を接続するライザー管とを有する二重管構造の掘削用管路を、前記掘削口と分離し、
これと前後して、前記ドリルパイプの長手方向の中央部の前記泥水を残して他の領域の前記泥水を前記海水と置換する掘削用管路切り離し方法。
【請求項6】
前記ドリルパイプにその長手方向の中央部での流体の流通を規制する中央部バルブを設け、
該中央部バルブを開放した状態で前記ドリルパイプ内に上端から前記海水を供給して前記ドリルパイプ内の前記泥水の一部を前記ドリルパイプの下端から押し出し、
前記ドリルパイプの上端近傍で前記泥水が前記海水と置換された時点で前記中央部バルブを閉塞するとともに前記ドリルパイプの前記中央部バルブの直下に前記海水を供給して前記ドリルパイプの前記下部領域の前記泥水を前記海水と置換する請求項5記載の掘削用管路切り離し方法。
【請求項7】
海水よりも比重の大きい泥水が供給されるドリルパイプと、該ドリルパイプの外側に設けられて海上に浮かぶ浮体及び海底に形成された掘削口を接続するライザー管とを有する二重管構造の掘削用管路と、
該掘削用管路と前記掘削口とを分離する分離装置と、
前記ドリルパイプの下端での流体の流通を規制する下端部バルブと、
前記ドリルパイプ内にその上端から前記海水を供給する海水供給装置とを有している掘削用管路切り離し装置。
【請求項8】
海水よりも比重の大きい泥水が供給されるドリルパイプと、該ドリルパイプの外側に設けられて海上に浮かぶ浮体及び海底に形成された掘削口を接続するライザー管とを有する二重管構造の掘削用管路と、
該掘削用管路と前記掘削口とを分離する分離装置と、
前記ドリルパイプの長手方向の中央部での流体の流通を規制する中央部バルブと、
前記ドリルパイプの前記中央部バルブの直下に前記海水を供給する海水供給装置とを有している掘削用管路切り離し装置。
【請求項9】
前記海水供給装置が、前記ドリルパイプ内にその上端から前記海水を供給可能とされている請求項8記載の掘削用管路切り離し装置。
【請求項10】
前記海水供給装置が、前記海水の供給開始時点から、該海水供給装置の海水供給能力に基づいて予め求められた前記泥水と前記海水との置換作業の所要時間が経過した時点で動作を停止する構成とされている請求項7から9のいずれかに記載の掘削用管路切り離し装置。
【請求項11】
内部の流体も含めた前記掘削用管路の重量を計測する重量計測装置と、
該重量計測装置の測定値が前記泥水と前記海水との置換が完了した状態での内部の流体も含めた前記掘削用管路の重量となったことをもって前記置換装置の置換動作を停止させる制御装置とを有している請求項7から9のいずれかに記載の掘削用管路切り離し装置。
【請求項12】
前記掘削用管路内の流体を下方に向けて送出するポンプを有している請求項7から11のいずれかに記載の掘削用管路切り離し装置。
【請求項13】
ライザー掘削法を用いて海底の掘削を行う海底掘削設備であって、
請求項7から12のいずれかに記載の掘削用管路切り離し装置を有する海底掘削設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−307446(P2006−307446A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−128043(P2005−128043)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】