説明

採血具

【課題】視認性を確保しつつ手振れを防いで、血液の定量採取が安全かつ確実に行える採血具を提供する。
【解決手段】毛細管現象により血液を吸引する採血管3、及び、指を押し当てるための互いに離間した一対のガイド22が設けてあり、前記ガイド22間を通じて、押し当てた指の腹を目視できるように構成してあるとともに、前記採血管3の先端部に開口した血液吸引口31が、前記ガイド22間に位置づけてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液を定量採取するための採血具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血液を分析するにあたり、血液を一定量採取して血液検査用の試薬と混合するには、例えば、ランセット等を用いて出血させた被採血者の指先から、ガラスキャピラリー管又はピペット等を用いて血液を一定量採取し、当該血液を血液検査用の試薬が一定量入った容器に導入して振動装置等を用いて混合してから、得られた混合液を測定用セル等に移し変え光学的な分析等に供している(非特許文献1)。
【0003】
しかしながら、ガラスキャピラリー管又はピペット等を用いて血液を一定量採取する作業では、手振れが起こり易く、ガラスキャピラリー管等を破損したり、出血箇所以外の部位をガラスキャピラリー管等の先端で刺してしまう等のミスが生じやすい。また、むき出しのガラスキャピラリー管又はピペット等は、使用前においてはそれ自体が汚染しやすく、使用後においてはガラスキャピラリー管又はピペット等に付着した血液で周囲を汚染しやすい。
【非特許文献1】日本ベクトン・ディッキンソン株式会社製ユノペット(ディスポーザブル血液希釈用ピペット)のカタログ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、視認性を確保しつつ被採血者の手振れを防いで、血液の定量採取を安全かつ確実に行いうる採血具を提供すべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明に係る採血具は、毛細管現象により血液を吸引する採血管、及び、指を押し当てるための互いに離間した一対のガイドが設けてあり、前記ガイド間を通じて、押し当てた指の腹を目視できるように構成してあるとともに、前記採血管の先端部に開口した血液吸引口が、前記ガイド間に位置づけてあることを特徴とする。
【0006】
このようなものであれば、採血対象である指に対する視認性を確保しつつ、ガイドに指を押し当てると指の動きが静止され被採血者の手振れを防止しできるので、安全かつ確実に採血を行なうことができる。
【0007】
本発明に係る採血具は、更に試薬収容用部材を有し、スライド機構により、採血管内の血液と試薬収容用部材が収容する血液検査用薬液とが混合可能であることが好ましい。このようなスライド機構を有する採血具は、具体的には、前記採血管を有する採血用部材、及び、試薬収容用部材を備えており、前記採血用部材及び前記試薬収容用部材は、採血位置と混合位置との間で前記採血管の突出方向に沿ってスライド可能に結合しており、前記採血位置においては、スライド可能に結合した前記採血用部材及び前記試薬収容用部材により前記一対のガイドが形成されて、前記ガイド間に前記血液吸引口が位置づけてあり、前記混合位置においては、前記採血管が前記試薬収容用部材の外壁を貫通して、前記試薬収容用部材内の試薬収容空間に前記血液吸引口が位置づけてあるように構成してある。
【0008】
このようなものであれば、採血管内に血液を吸引後、試薬収容用部材に対し採血用部材をスライドすると採血管を試薬収容用部材内に収容することができる。
【0009】
更に本発明に係る採血具は、前記採血用部材に対し、前記採血管の後端に前記採血管に連通する混合空間が設けてあることが好ましい。
【0010】
このようなものであれば、試薬収容用部材の試薬収容空間に圧力をかけると、試薬収容空間内に充填されている薬液とともに、採血管内の血液が押し流され、混合空間において血液と薬液とを混合することができる。
【0011】
また本発明に係る採血具は、前記採血用部材に対し、前記混合空間の後端に前記混合空間に連通する測定部が設けてあることが好ましい。
【0012】
このようなものであれば、混合空間において混ざり合った血液と薬液の混合液は、自動的に測定部に流入して、分析に供することができる。
【0013】
本発明に係る採血具はこのようなスライド機構を有することにより、視認性を確保しつつ、採血時の手振れを防いで、安全かつ確実に採血を行なうことができる上に、採血管で血液を採取後、試薬収容用部材に対し採血用部材をスライドする単一の操作のみで、極めて容易に定量採取した血液と薬液とを混合することができる。また、試薬収容用部材に対し採血用部材をスライドすると、採血管が試薬収容用部材内に収容されるので、採血管の破損を防ぎ、かつ、採血管に付着した血液により周囲が汚染されることも防ぐことができる。また、本採血具は血液の分析用の容器としての機能までを果たすことができるので、別途測定用セルに移し変える必要がない。
【0014】
前記測定部は、互いに連通する複数の流路から構成されていることが好ましい。測定部が複数の流路から構成されていることにより、少量の血液及び薬液であっても、流路が満たされ、光学的測定に必要な充分な光路長を確保することができるので、被採血者の負担を軽減することができる。
【発明の効果】
【0015】
このように構成した本発明によれば、ガイド機構により、視認性を確保しつつ手振れを防いで、安全かつ確実に採血を行ないうる。更に、スライド機構を有する試薬収容用部材を備えることにより、採取した血液の試薬との混合も容易に行なうことができる上、採血から分析までを同一の器具で行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の第1の実施形態に係る採血具について、図面を参照して説明する。
【0017】
本実施形態に係る採血具1は、血液の定量採取を行うためのものであり、図1に示すように、その基端部21から突出した一対のガイド22が設けてある本体2、及び、一対のガイド22の間に設けてあり、本体2の後端から基端部21を貫通してその先端がガイド22間に突出している採血管3を備えている。
【0018】
ガイド22は棒状部材であり、ガイド22間は被採血者の指を押し当て可能な程度に離間している。具体的には、ガイド22は、例えば、長さが20〜30mmであり、10〜20mmの間隔を空けて設けてある。
【0019】
本体2は、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネイト、ポリスチレン等のプラスチックを成形してなるものであり、基端部21及びガイド22が一体成形してあっても良いし、それぞれが別々に成形された後、一体に接続してあっても良い。
【0020】
採血管3は、先端部に血液吸引口31を有し、毛細管現象により血液を吸引することができる断面円形のものであり、その内径は、例えば、毛細管現象により自動的に血液を導入することができる範囲のものである。このような採血管3の具体的形状は、例えば、内径約0.8mm、長さ約30mmである。血液採取量は、採血管3の断面積及び長さを変えることで自由に変更することができ、例えば血液採取量を1〜20μLまで変更することができる。
【0021】
採血管3は、ガラスキャピラリー管からなるものであっても良いが、上記の各種プラスチックからなるものであっても良い。採血管3が各種プラスチックからなるものである場合、基端部21と一体に成形してあっても良いし、基端部21の外部に突出している部分のみ別個に成形した後に一体に接続してあっても良い。
【0022】
本実施形態に係る採血具1を用いて血液を定量採取する場合は、図2に示すように、予めランセット等を用いて出血させた被採血者の指を、ガイド22に押し当てて、出血箇所を採血管3の先端部に開口した血液吸引口31に接触させる。これにより、採血管3は、毛細管現象により自動的に血液を吸引する。
【0023】
このように構成した第1の実施形態に係る採血具1によれば、一対のガイド22からなるガイド機構により、単なるキャピラリーガラス管等を使用して採血する場合のように、被採血者の手振れに起因して、ガラスキャピラリーを破損したり、ガラスキャピラリー管等の先端が被採血者の指先の出血箇所から外れたりすることがなく、採血管3の血液吸引口31を被採血者の指先に的確に接触させることができるので、安全かつ確実に採血を行なうことができる。
【0024】
次いで、本発明の第2の実施形態に係る採血具について、図面を参照して説明する。なお、各図面において、薬液収容空間52に充填された薬液は図示しない。
【0025】
本実施形態に係る採血具1は、血液の定量採取及びその血液と試薬との定量混合、更に血液分析を行うためのものであり、図3に示すように、板状部材である本体41とその先端に設けられた採血管3とからなる採血用部材4、及び、一対のガイド22とその後端に設けられた試薬収容空間52とを有する板状部材である試薬収容用部材5を備えている。
【0026】
本体41には、混合空間43と、それに連通する測定部44とが設けてある。混合空間43は採血管3の後端に連通しており、採血管3で吸引した血液と薬液とは混合空間43に流入して混合され、その混合液は測定部44に流入し、例えば光学的な分析に供される。
【0027】
測定部44は、互いに連通する複数の流路45からなり、光学的分析を行う際に、少量の血液及び薬液でもあっても流路45を満たし、充分な光路長を確保することができるようにしてある。流路45は、例えば、断面が1辺1mmの矩形のものである。
【0028】
測定部44は光学的な分析が可能なように光を透過する材料から形成されており、測定部44で分析された血液と薬液との混合液は排出孔46から排出され廃棄される。
【0029】
本体41には、混合空間43の両脇から先端に至る一対の溝49が形成してあり、溝49はガイド22がスライド可能に形成してある。
【0030】
本体41は、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネイト、ポリスチレン等のプラスチックを成形してなるものである。
【0031】
採血管3は、混合空間43と連通しており、本体41を貫通してその先端から突出している。第2の実施形態における採血管3も第1の実施形態におけるものと同様のものであり、採血管3が各種プラスチックからなるものである場合、本体41と一体に成形してあっても良いし、本体41の外部に突出している部分のみ別個に成形した後に一体に接続してあっても良い。
【0032】
一対のガイド22は、溝49にスライド可能に構成してあること以外は、第1の実施形態におけるものと同様のものである。
【0033】
試薬収容空間52の外壁には、その先端部中央には採血管3が挿入可能な挿入孔53が設けてあり、後端の一隅には空気孔54が設けてある。試薬収容空間52の内部には血液検査用の薬液が充填してあり、挿入孔53には、アルミ薄膜や樹脂薄膜等からなる隔膜が設けてある。
【0034】
試薬収容用部材5は、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネイト、ポリスチレン等のプラスチックにより成形してある。
【0035】
第2の実施形態に係る採血具1は、保管時は、図3に示すように、ガイド22の先端部が溝49の先端部に嵌合して、採血用部材4と試薬収容用部材5が一体として保管される。この際、採血管3や、ガイド22の先端部と溝49の先端部が嵌合した状態において形成されたガイド孔6を覆うようにシールが貼付されていてもよい。
【0036】
第2の実施形態に係る採血具1を用いて血液を定量採取する場合は、図4に示すように、ガイド孔6に予めランセット等を用いて出血させた被採血者の指を押し当てて、次いで、被採血者の指先を採血管3の先端部に開口した血液吸引口31に接触させる。これにより、採血管3は、毛細管現象により自動的に血液を吸引する。
【0037】
採血管3により血液を吸引した後は、図5に示すように、溝49に対してガイド22をスライドして、採血管3を試薬収容空間52の挿入孔53に挿入する。この状態で、採血具1を専用又は汎用の分析装置に載置する。そして空気孔54から試薬収容空間122内に圧力をかけると、試薬収容空間52に収容されている薬液が、採血管3内の血液を押し流しつつ、採血管3を通って混合空間43に流れ込み、混合空間43で血液と薬液とが混ざり合い混合液が調製される。
【0038】
当該混合液は、混合空間43から測定部44に流入して、光学的な分析等に供される。分析が終了した混合液は排出孔46から採血具1外に排出される。また、混合液が多すぎる場合は混合空間43から排出路47を経由して排出孔48から採血具1外に排出される。
【0039】
このように構成した第2の実施形態に係る採血具1によれば、採血時に視認性を確保しつつ手振れを防いで、安全・確実に採血を行なえるとともに、採血管3で血液を採取した後、試薬収容用部材5を採血用部材4に対しスライドする操作(一動作)のみで、容易に一定量の血液と試薬とを混合することができる。また、血液と薬液との混合及び分析までを本採血具1のみで行なうことができ、別途測定用セルに移し変える必要がない。
【0040】
また、測定部44が複数の流路45から構成されていることにより、分析に必要な血液及び薬液の量が少なくてすみ、被採血者の負担を軽減することができる。
【0041】
更に、定量採血及び定量混合を、本器具のみにより行うことができるので、従来の血液分析装置等の内部に設けられた定量機構、試薬混合機構等の一部を省略でき、その結果、血液分析装置の小型化、低コスト化等を実現することも可能となる。
【0042】
なお、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【0043】
採血管3の形状は、断面円形状でなくとも良く、楕円形であって良いし、矩形であっても良い。
【0044】
測定部44は、分析に供する血液と薬液との混合液が充分量ある場合は、複数の流路45から構成されていなくとも良く、単一のセルから構成するようにしてあっても良い。
【0045】
第2の実施形態に係る採血具では、ガイド22が試薬収容用部材5に、溝49が採血用部材4に備わっているが、これとは逆に、ガイド22が採血用部材4に、溝49が試薬収容用部材5に備わっていても良い。
【0046】
その他、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る採血具の正面図。
【図2】同実施形態に係る採血具の斜視図。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る採血具の正面図。
【図4】同実施形態におけるガイド孔を示す部分拡大斜視図。
【図5】同実施形態に係る採血具の正面図。
【符号の説明】
【0048】
1・・・採血具
22・・・ガイド
3・・・採血管
4・・・採血用部材
43・・・混合空間
44・・・測定部
49・・・溝
5・・・試薬収容用部材
52・・・試薬収容空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛細管現象により血液を吸引する採血管、及び、指を押し当てるための互いに離間した一対のガイドが設けてあり、
前記ガイド間を通じて、押し当てた指の腹を目視できるように構成してあるとともに、
前記採血管の先端部に開口した血液吸引口が、前記ガイド間に位置づけてある採血具。
【請求項2】
前記採血管を有する採血用部材、及び、試薬収容用部材を備えており、
前記採血用部材及び前記試薬収容用部材は、採血位置と混合位置との間で前記採血管の突出方向に沿ってスライド可能に結合しており、
前記採血位置においては、スライド可能に結合した前記採血用部材及び前記試薬収容用部材により前記一対のガイドが形成されて、前記ガイド間に前記血液吸引口が位置づけてあり、
前記混合位置においては、前記採血管が前記試薬収容用部材の外壁を貫通して、前記試薬収容用部材内の試薬収容空間に前記血液吸引口が位置づけてある請求項1記載の採血具。
【請求項3】
前記採血用部材には、前記採血管の後端に前記採血管に連通する混合空間が設けてある請求項2記載の採血具。
【請求項4】
前記採血用部材には、前記混合空間の後端に前記混合空間に連通する測定部が設けてある請求項3記載の採血具。
【請求項5】
前記測定部は、互いに連通する複数の流路から構成されている請求項4記載の採血具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−279031(P2008−279031A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125301(P2007−125301)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】