説明

探傷装置

【課題】起動後に検出信号を早期に温度補償することを可能とし、そのための構成を比較的安価なものにすること。
【解決手段】探傷装置は、被検査体の表面に渦電流を発生させるための検出コイルと、検出コイルに交流電流を供給するための発振器と、検出コイルのインピーダンスを測定するためのブリッジ回路と、発熱する電気部品とを備え、ブリッジ回路で測定されるインピーダンスの変化に基づいて被検査体の表面における傷を検出するように構成される。そして、探傷装置1は、少なくとも発振器、ブリッジ回路及び発熱する電気部品が筐体6の内部に収容し、筐体6の内部を外部と遮断すると共に、筐体6の内部の空気を攪拌する循環ファン31を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、検出コイルを流れる渦電流を利用して被検査体の表面の傷を検出するために使用される探傷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術として、例えば、下記の特許文献1に記載のブリッジ回路を用いたギャップ検出装置が知られている。この装置は、検出用のコイルと、信号を発生させる発振回路と、コイルからの出力信号から、検出信号を検波する検波整流回路と、検出信号を直線化するリニアライザとを備える。また、この装置は、コイルの温度を検出するコイル温度検出回路と、コイルの温度が低いときにコイルの検出信号を補正する低温度域補正回路と、コイルの温度が高いときにコイルの検出信号を補正する高温度域補正回路とを更に備える。この装置は、上記のように構成することで、簡単な構成により、広範囲の温度に対して温度を補償した検出信号を得るようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−183106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1に記載の検出装置では、ブリッジ回路の各電気抵抗の温度が一様でないと、測定精度が悪くなるおそれがあった。しかし、その事に関する言及や示唆は、特許文献1には特にない。また、コイルの温度補償は、回路の追加が必要になるため、装置がコスト高になる傾向があった。
【0005】
ここで、従来の探傷装置につき、その測定数に対する、ブリッジ回路等の電気回路を収容した筐体の内部温度、筐体の外部温度及び測定値のばらつきの挙動を図7にグラフにより示す。このグラフから明らかなように、測定数が「1〜120(回)」の間では、内部温度が「27.5(℃)」から「40(℃)」前後まで変化し、外部温度との差も「2〜12(℃)」の間で変化する。この間の測定値のばらつきの変化も大きい。これに対し、測定数が「120(回)」以降は、内部温度が「40〜42(℃)」の間で変化する程度で、内部温度と外部温度との差の変化も小さい。従って、探傷装置の動作開始後、しばらくの間は、正確な測定ができない。図7に示すように、筐体内部の温度は、「45(℃)」未満にはなるので、本来、ブリッジ回路が故障する「80〜90(℃)」には達することがない。
【0006】
この発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、起動後に検出信号を早期に温度補償することを可能とし、そのための構成を比較的安価なものにすることを可能とした探傷装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、被検査体の表面に渦電流を発生させるための検出コイルと、検出コイルに交流電流を供給するための発振器と、検出コイルのインピーダンスを測定するためのブリッジ回路と、発熱する電気部品とを備え、ブリッジ回路で測定されるインピーダンスの変化に基づいて被検査体の表面における傷を検出する探傷装置において、少なくとも発振器、ブリッジ回路及び発熱する電気部品を筐体の内部に収容し、筐体の内部を外部と遮断すると共に、筐体の内部の空気を攪拌する空気攪拌手段を設けたことを趣旨とする。
【0008】
上記発明の構成によれば、この探傷装置を起動させることにより、筐体の内部では電気部品からの発熱が空気攪拌手段により空気と共に攪拌され、筐体の内部が早期に暖められる。これに伴い、筐体の内部の発振器及びブリッジ回路も早期に暖められる。
【0009】
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、空気攪拌手段は、電動ファンであることが好ましい。
【0010】
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、筐体の内部の温度を検出するための内部温度検出手段と、筐体の外部の温度を検出するための外部温度検出手段と、検出される内部及び外部の温度に基づきブリッジ回路が正常動作可能か否かを判断するための動作判断手段と、判断された結果を表示する表示手段とを更に備えたことを趣旨とする。
【0011】
上記発明の構成によれば、請求項1又は2に記載の発明の作用に加え、動作判断手段が筐体の内部と外部で検出される内部及び外部の温度に基づきブリッジ回路の正常動作可能か否かを判断し、その判断結果が表示手段に表示される。従って、作業者は、探傷装置の検出結果を、表示手段の表示結果と照らし合わせることが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
請求項1又は2に記載の発明によれば、起動後に検出信号を早期に温度補償することができ、そのための構成を比較的安価なものとすることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2に記載の発明の効果に加え、正常な探傷装置により被検査体の傷などを正確に検出することができ、検出結果の信頼性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】一実施形態に係り、探傷装置を示す概略構成図。
【図2】同実施形態に係り、探傷装置の電気的構成を示すブロック回路図。
【図3】同実施形態に係り、筐体内部の電気的構成の平面配置を示すブロック図。
【図4】同実施形態に係り、図3のブロック図をより詳細に示すブロック図。
【図5】同実施形態に係り、装置検査のための制御プログラムを示すフローチャート。
【図6】同実施形態に係り、測定数に対する計測値の変化を示すグラフ。
【図7】従来例に係り、測定数に対する、筐体の内部温度、筐体の外部温度及び測定値のばらつきの挙動を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の探傷装置を具体化した一実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。図1に、この実施形態の探傷装置1を概略構成図により示す。図2に、この探傷装置1の電気的構成をブロック回路図により示す。
【0016】
図1,2に示すように、探傷装置1は、被検査体である金属製のワーク2の表面に渦電流を発生させるための検出コイル11と、その検出コイル11に交流電流を供給するための発振器12と、検出コイル11のインピーダンスを測定するためのブリッジ回路13とを備える。また、探傷装置1は、ブリッジ回路13の出力信号を増幅するための増幅回路14と、増幅回路14の出力信号を位相弁別して判定し易くするための同期検波回路15と、同期検波回路15の出力信号をノイズカットして検出性能を向上させるためのフィルタ回路16と、フィルタ回路16を通過した信号につき、振幅・位相判定などの処理をして合否判定信号を出力するためのソフト処理回路17と、表示器18とを更に備える。
【0017】
ブリッジ回路13は、検出コイル11との間で信号のやりとりをするようになっている。同期検波回路15からは、表示器18へ信号が出力されるようになっている。フィルタ回路16からは、外部へデータが出力されるようになっている。ソフト処理回路17からは、外部へ判定出力が行われるようになっている。そして、探傷装置1は、ブリッジ回路13により測定されるインピーダンスの変化に基づいてワーク2の表面における傷3を検出するようになっている。
【0018】
ここで、探傷装置1は、図1,2に示すように、発振器12、ブリッジ回路13、増幅回路14,同期検波回路15、フィルタ回路16、ソフト処理回路17及び表示器18等を収容する筐体6を備える。この筐体6の内部は、外部と遮断されている。図3に、筐体6の内部における電気的構成の平面配置をブロック図により示す。図4に、図3をより詳細にブロック図により示す。
【0019】
図3に示すように、筐体6の内部には、電気的構成として、表示部21、計測部22、演算部23、入出力部24及び電源部25が配置される。表示部21は、筐体6の前側全幅に渡って配置される。表示部21の後側には計測部22と演算部23が横並びに配置される。計測部22の後側には、入出力部24が配置される。演算部23の後側には、電源部25が配置される。入出力部24と電源部25は横並びに配置される。
【0020】
図4に示すように、計測部22には、発振器12、ブリッジ回路13及び増幅回路14等を含むセンサ基板が配置される。演算部23は、複数の演算部23A,23B,23Cにより構成される。各演算部23A〜23Cには、CPU、A/D基板が配置される。電源部25には、その右半分に配置された整流部26を含む。これら、センサ基板、演算部23及び電源部25は、本発明の発熱する電気部品に相当する。
【0021】
整流部26の前側と演算部23との間には、循環ファン31が配置される。筐体6の高さ方向における循環ファン31の配置は、その他の各部の配置にかかわらず、筐体6内の温かい空気を効果的に攪拌するために、筐体6の上面寄りに配置される。循環ファン31の風向は、演算部23に向いている。循環ファン31は、筐体6の内部の空気を攪拌するための空気攪拌手段に相当し、電動ファンにより構成される。電源部25の左半分の前側であって、循環ファン31の隣には、温度センサ基板32が配置される。
【0022】
更に、この探傷装置1は、筐体6の内部の温度を検出するための内部温度検出手段に相当する第1内部温度センサ33及び第2内部温度センサ34と、筐体6の外部の温度を検出するための外部温度検出手段としての外部温度センサ35とを更に備える。第1内部温度センサ33は、整流部26と循環ファン31との間に配置され、その部分の温度を第1内部温度Ti1として検出する。第2内部温度センサ34は、表示部21を構成する表示器18と計測部22との間に配置され、その部分の温度を第2内部温度Ti2として検出する。外部温度センサ35は、筐体6の外部であって、電源部25の後方に配置され、筐体6の外部温度Toを検出する。各温度センサ33〜35は、温度センサ基板32に接続される。
【0023】
温度センサ基板32は、演算部23に接続される。演算部23は、各温度センサ33〜35により検出される各内部温度Ti1,Ti2及び外部温度Toに基づきブリッジ回路13が正常動作可能か否かを判断するための本発明の動作判断手段に相当する。演算部23は、その判断された結果を表示手段としての表示器18に表示するようになっている。
【0024】
次に、演算部23のCPUが実行する装置検査のための制御プログラムを図5のフローチャートを参照して以下に説明する。
【0025】
ステップ100で、装置検査の指示が行われると、ステップ101で、CPUは、この探傷装置1の検査を行うために、各温度センサ33〜35の検出値を読み込む。すなわち、CPUは、第1内部温度センサ33により検出される第1内部温度Ti1、第2内部温度センサ34により検出される第2内部温度Ti2、及び外部温度センサ35により検出される外部温度Toの検出値をそれぞれ読み込む。
【0026】
次に、ステップ102で、CPUは、読み込まれた第1内部温度Ti1と外部温度Toとの差を内外温度差TEioとして算出する。
【0027】
続いて、ステップ103で、CPUは、第1内部温度Ti1と第2内部温度Ti2との差の絶対値を内温度差TEiiの絶対値として算出する。
【0028】
その後、ステップ104で、CPUは、内外温度差TEioが「12(℃)」より高く「16(℃)」より低いか否かを判断する。この「12〜16(℃)」の範囲は、筐体6の内部温度Ti1,Ti2が安定したときに外部温度Toとの間で生じるほぼ一定の差である。この判断結果が否定となる場合、CPUは、処理をステップ101へ戻す。この判断結果が肯定となる場合、CPUは、処理をステップ105へ移行する。
【0029】
ステップ105で、CPUは、内温度差TEiiの絶対値が「2(℃)」より低いか否かを判断する。この「0〜2(℃)」の範囲は、筐体6の内部温度Ti1,Ti2が安定していることを意味する。この判断結果が否定となる場合、CPUは、処理をステップ101へ戻す。この判断結果が肯定となる場合、CPUは、処理をステップ106へ移行する。
【0030】
ステップ106で、CPUは、前回の内外温度差TEioOと今回の内外温度差TEioとの差を内外温度差変動ΔTEioとして算出する。
【0031】
そして、ステップ107で、CPUは、その算出された内外温度差変動ΔTEioが「2(℃)」以下であるか否かを判断する。すなわち、CPUは、内外温度差TEioの変動が小さく、各内部温度Ti1,Ti2の変動が小さいか否かを判断する。この判断結果が肯定となる場合、上記算出した内外温度差TEio、内温度差TEiiの絶対値及び内外温度差変動ΔTEioの値を演算部23のメモリに記憶する。その後、ステップ109で、CPUは、正常表示を行う。すなわち、CPUは、表示器18により、探傷装置1が正常であることを表示する。
【0032】
一方、ステップ107の判断結果が否定となる場合、CPUは、ステップ110で、異常表示を行う。すなわち、CPUは、表示器18により、探傷装置1が異常であることを表示する。
【0033】
以上説明したこの実施形態の探傷装置1によれば、同装置1を起動させることにより、筐体6の内部では各種電気部品からの発熱が循環ファン31により空気と共に攪拌される。特に、この実施形態では、発熱量の比較的多い電源部25が筐体6の中に配置され、その前方に循環ファン31が配置される。従って、電源部25の発熱が効果的に攪拌されて筐体6の中を循環することとなり、筐体6の内部が早期に暖められる。これに伴い、筐体6の内部の発振器12及びブリッジ回路13等の回路も早期に暖められる。このため、探傷装置1の起動後、検出信号を早期に温度補償することができる。また、そのための構成も比較的安価なものにすることができる。
【0034】
また、この実施形態の探傷装置1によれば、演算部23が筐体6の内部と外部で検出される内部温度Ti1,Ti2及び外部温度Toに基づきブリッジ回路13が正常動作可能か否かを判断し、その判断結果が表示器18により表示される。従って、作業者は、探傷装置1の検出結果を、表示器18の表示結果と照らし合わせることが可能となる。このため、正常な探傷装置1によりワーク2の傷3などを正確に検出することができる。これにより検出結果の信頼性を確保することができる。
【0035】
ここで、この実施形態の探傷装置1による測定結果(菱形印)を、従来の探傷装置の測定結果(黒丸印)と比較して図6に示す。図6に、測定数に対する計測値の変化をグラフにより示す。このグラフからも明らかなように、この探傷装置1の測定結果は、測定数の「1回目」から「146回目」までの間で、おおよそ、「3130(mv)」〜「3140(mv)」の範囲内で細かく変動するだけで、探傷装置1の起動直後から測定値がほぼ安定することが分かる。
【0036】
これに対し、従来の探傷装置では、起動直後は計測値が「3200(mv)」あったのに対し、その後、測定数が「100(回)」程度になるまで計測値が「3130(mv)」近くまで下がり続け、その後、おおよそ、「3130(mv)」〜「3140(mv)」の範囲内で細かく変動するだけとなる。従って、従来の探傷装置では、測定数が「1〜100(回)」までの間で安定した測定値が得られず、探傷装置の起動後から測定値を有効に使用することができないことが分かる。
【0037】
なお、この発明は前記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で以下のように実施することができる。
【0038】
例えば、前記実施形態では、発熱する電気部品として電源部25を筐体6の内部に設けたが、この電源部を筐体の外部に別途設けた場合は、筐体の中に設けられる各種電気回路が、発熱する電気部品に相当することとなる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
この発明は、金属製品の表面の探傷に利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 探傷装置
2 ワーク(被検査体)
3 傷
6 筐体
11 検出コイル
12 発振器(発熱する電気部品)
13 ブリッジ回路(発熱する電気部品)
18 表示器(表示手段)
23 演算部(動作判断手段、発熱する電気部品)
25 電源部(発熱する電気部品)
31 循環ファン(空気攪拌手段)
32 温度センサ基板(発熱する電気部品)
33 第1内部温度センサ(内部温度検出手段)
34 第2内部温度センサ(内部温度検出手段)
35 外部温度センサ(外部温度検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査体の表面に渦電流を発生させるための検出コイルと、
前記検出コイルに交流電流を供給するための発振器と、
前記検出コイルのインピーダンスを測定するためのブリッジ回路と、
発熱する電気部品と
を備え、前記ブリッジ回路で測定されるインピーダンスの変化に基づいて前記被検査体の表面における傷を検出する探傷装置において、
少なくとも前記発振器、前記ブリッジ回路及び前記発熱する電気部品を筐体の内部に収容し、前記筐体の内部を外部と遮断すると共に、前記筐体の内部の空気を攪拌する空気攪拌手段を設けたことを特徴とする探傷装置。
【請求項2】
前記空気攪拌手段は、電動ファンであることを特徴とする請求項1に記載の探傷装置。
【請求項3】
前記筐体の内部の温度を検出するための内部温度検出手段と、
前記筐体の外部の温度を検出するための外部温度検出手段と、
前記検出される内部及び外部の温度に基づき前記ブリッジ回路が正常動作可能か否かを判断するための動作判断手段と、
前記判断された結果を表示する表示手段と
を更に備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の探傷装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−78244(P2012−78244A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224788(P2010−224788)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】