説明

接地抵抗測定方法

【課題】 埋設配管が、地下室等の通常接地抵抗の測定が困難な場所に埋設されている場合であっても、その測定を迅速かつ容易にする接地抵抗測定方法を提供する。
【解決手段】 媒質から一部が露出している第1埋設物1および第2埋設物2のうち、測定対象である第1埋設物1の接地抵抗を測定する接地抵抗測定方法であって、第1埋設物1および第2埋設物2における媒質10を介した直列抵抗を導出する工程と、媒質10に接地された電源電極6を設け、この電源電極6と第1埋設物1および第2埋設物2の間に設けた接点7との間に電位差を印加する工程と、第1埋設物1と接点7との間に流れる第1電流、および、第2埋設物2と接点7との間に流れる第2電流をそれぞれ計測する工程と、直列抵抗を、第1電流および第2電流の比率で按分する工程とを包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒質に埋設されている複数の埋設物のうち、測定対象である埋設物の接地抵抗を測定する方法に関する。より詳細には、本発明は、測定対象である埋設配管等の埋設物における腐食状態の診断に利用する接地抵抗を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地中には水やガスなどのユーティリティを、消費者が生活する建物内へ供給するための様々な種類の配管が埋設されている。このような配管は、道路の下などに埋設された本支管(外管)を介して各建物の敷地内へ内管として引き込まれ、建物内部へ至る。
【0003】
このような埋設配管において腐食が発生した場合、その腐食部分から水漏れやガス漏れといった問題が発生することがある。この問題を避けるため、配管の防食方法や、配管の腐食状態検査方法が種々提案されている。なお、配管が道路の下などの地中に埋設されている場合、建物の地下に埋設されている場合、建物内部のコンクリート中または建物の地下に埋設されている場合等には、配管を掘り出すこと無しに配管の腐食の有無を検査することが要求される。
【0004】
従来の埋設配管の診断方法の一つとして、測定対象としての埋設配管の接地抵抗(インピーダンス)を測定することによって、その埋設配管の腐食状態を判定する方法があった(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1の方法では、測定した接地抵抗の値が予め定めた閾値を下回った場合に、埋設配管に損傷(腐食)が発生しているとの判定を行っている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−232764号公報(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1の方法では、測定対象である埋設配管の接地抵抗を測定するために、少なくとも二つの電極を設置する必要がある。このため、埋設配管の測定部位が、例えば、地下室のコンクリート壁の外側部や、アスファルト舗装されている路面の下や、硬い地盤の下にある場等では、電極の設置作業に手間が掛かり、作業者に大きな負担を強いることになる。
【0007】
また、測定対象としての埋設配管は、電極の設置可能な場所から遠く離れている位置に存在することもある。このような場合においては、電極に接続するリード線を引き回すことが困難となる。
【0008】
さらに、埋設配管と電極とが離れている場合では、測定の度に電極とリード線とをセッティングする作業は作業者にとって大変煩わしいものであり、作業効率が悪い。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、測定対象物である埋設配管が、地下室の外側部等の通常接地抵抗の測定が困難な場所に埋設されている場合であっても、迅速かつ容易に接地抵抗の測定が可能である接地抵抗測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る接地抵抗測定方法の特徴構成は、媒質から一部が露出している第1埋設物および第2埋設物のうち、測定対象である第1埋設物の接地抵抗を測定する接地抵抗測定方法であって、前記第1埋設物および前記第2埋設物における前記媒質を介した直列抵抗を導出する工程と、前記媒質に接地された電源電極を設け、この電源電極と前記第1埋設物および前記第2埋設物の間に設けた接点との間に電位差を印加する工程と、前記第1埋設物と前記接点との間に流れる第1電流、および、前記第2埋設物と前記接点との間に流れる第2電流をそれぞれ計測する工程と、前記直列抵抗を、前記第1電流および前記第2電流の比率で按分する工程とを包含する点にある。
【0011】
本構成の接地抵抗測定方法であれば、例えば、地下室等において媒質(例えば、コンクリート壁や土壌等)から露出している埋設物の一部を利用して、この埋設物の埋設部分における接地抵抗を測定することができる。従って、従来のように、接地抵抗を測定するために電極を媒質に設置するという必要がなくなり、迅速かつ容易な測定が可能となる。また、このことによって、作業者の負担が低減され、作業効率が向上する。
【0012】
本発明の接地抵抗測定方法では、前記直列抵抗を算出する工程は、前記第1埋設物と前記第2埋設物との間に電位差を印加する工程と、前記第1埋設物および前記第2埋設物に流れる全体電流を計測する工程とを包含し、前記電位差と前記全体電流とから、前記直列抵抗を導出することも可能である。
【0013】
本構成の接地抵抗測定方法であれば、第1埋設物と第2埋設物との間に電位差を印加して、そのときに流れる電流を計測するという比較的簡単な作業で、直列抵抗を容易に測定することができる。
【0014】
本発明の接地抵抗測定方法では、前記第1埋設物と前記第2埋設物とが露出部において導電体を介して電気的に接続されていてもよい。
【0015】
本構成の接地抵抗測定方法であれば、測定対象である第1埋設物が非測定対象である第2埋設物と導電体を介して導通状態にある場合、これら埋設物の少なくとも一部が媒質から露出した状態であれば、前記と同様、接地抵抗を測定するための電極を媒質に設置する必要がなくなり、迅速かつ容易な測定が可能となる。よって、作業者の負担が低減され、作業効率が向上する。
【0016】
本発明の接地抵抗測定方法では、前記電源電極を、既設の電力アース線とすることも可能である。
【0017】
本構成の接地抵抗測定方法であれば、埋設物の接地抵抗を測定するための電源電極として既設の電力アース線を利用できるので、接地抵抗測定のためにわざわざ電源電極を設置する必要がなく、より一層の作業の効率化を図ることができる。また、電源電極の設置が不要な分、測定にかかるコストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
<測定原理>
先ず初めに、本発明の接地抵抗測定方法の測定原理について、図1および図2を参照して説明する。図1は測定対象である第1埋設物1と非測定対象である第2埋設物2とが導通していない場合の測定モデル(以後、非導通埋設物測定モデルと称する)であり、図2は第1埋設物1と第2埋設物2とが導通している場合の測定モデル(以後、導通埋設物測定モデルと称する)である。なお、本実施形態において説明する第1埋設物1および第2埋設物2としては、例えば、樹脂等で被覆された金属製の埋設配管などが挙げられる。
【0019】
〔1〕非導通埋設物測定モデル
図1に示す非導通埋設物測定モデルでは、媒質10から一部が露出している複数の埋設物のうち、測定対象である第1埋設物1の接地抵抗を測定するケースについて説明する。図1(a)のように、第1埋設物1と第2埋設物2は、コンクリート等の媒質10から一部が露出した状態にある。このような第1埋設物1および第2埋設物2に対し、図1(b)のようにリード線3等を用いて電気的に接続した状態を形成する。この電気的接続状態で、第1埋設物1および第2埋設物2に電源装置4を接続して電位差(全体電圧Eと称する)を印加する。本発明では、電源装置4として交流電源を使用しているが、直流電源を使用することも可能である。
【0020】
次に、第1埋設物1および第2埋設物2の全体に流れる電流(全体電流Iと称する)を電流計5で計測する。そして、上記の全体電圧Eと全体電流Iとから、第1埋設物および第2埋設物における媒質を介した直列抵抗Rを算出する。すなわち、以下の式(1):
直列抵抗R = 全体電圧E / 全体電流I ・・・ (1)
として直列抵抗Rが求められる。
【0021】
次に、図1(c)のように、媒質10に電源電極6を設け、この電源電極6と第1埋設物1および第2埋設物2の間に設けた接点7との間に電源装置4´によって電位差を印加する。電源装置4´は、先に使用した電源装置4と同一のものを使用してもよいし、別個のものであってもよい。電位差を付与すると、第1埋設物1と接点7との間には第1電流Iが流れ、第2埋設物2と接点7との間には第2電流Iが流れるので、これらを電流計11および12でそれぞれ計測する。そして、前記直列抵抗Rを、第1電流Iおよび第2電流Cの比率で按分すると、第1埋設物1の接地抵抗Rは、以下の式(2):
= I / (I+I) × R ・・・ (2)
として求められる。
【0022】
〔2〕導通埋設物測定モデル
図2に示す導通埋設物測定モデルを用いて、第1埋設物1の接地抵抗を測定するケースについて説明する。図2(a)のように、第1埋設物1と第2埋設物2は、コンクリート等の媒質10から一部が露出した状態にあり、さらに本モデルでは第1埋設物1および第2埋設物2は金属管等の導電体20を介して導通状態にされており、これによって電気的に接続した状態が形成されている。
【0023】
図2(b)のように、導電体20にクランプ接地抵抗計30を取り付ける。クランプ接地抵抗計30は、導通体20の周りに環状磁界を発生させる外磁コイルユニット31と、外磁コイルユニット31に設定電圧Esを印加する電源手段32と、環状磁界によって導通体20を流れる電流、すなわち第1埋設物1および第2埋設物2の全体に流れる全体電流Iを測定する電流測定手段33とを備えている。クランプ接地抵抗計30による測定結果から、第1埋設物および第2埋設物における媒質を介した直列抵抗Rを算出することができる。すなわち、以下の式(3):
直列抵抗R = 全体電圧E / 全体電流I ・・・ (3)
となる。ここで、全体電圧Eは、
E = a×Es + b ・・・ (4)
a:周囲温度によって定まる定数
b:周辺電磁波によるノイズによって定まる定数
で規定される。全体電圧Eは、例えば、設定電圧Esとの関係を示す相関マップ等を予め作成しておき、それから導くようにしてもよい。
【0024】
次に、図2(c)において接地抵抗Rを求めるが、このステップについては、上記非導通埋設物測定モデルにおいて図1(c)を参照して説明したステップと同様に行うことができる。つまり、接点7の両側に流れる第1電流Iおよび第2電流Iを、それぞれクランプ電流計11´および12´で求め、これらの電流値と直列抵抗Rとから、第1埋設物1の接地抵抗Rを求めることができる。
【0025】
上記〔1〕において説明した非導通埋設物測定モデルでは、直列抵抗Rを求めるにあたり、図1(b)に示したように、全体電圧Eを印加するための電源装置4と、第1埋設物1および第2埋設物2に流れる全体電流Iを計測するための電流計5とを用いていたが、〔2〕において説明した導通埋設物測定モデルと同様に、クランプ接地抵抗計30によって求めることも可能である。すなわち、第1埋設物1と第2埋設物2とをリード線などで電気的に接続した後、リード線にクランプ接地抵抗計30を取り付け、上述の手順と同様にして接地抵抗Rを求めるようにしてもよい。
【0026】
<実施例>
本発明の接地抵抗測定方法の実施例について、図3を参照して説明する。図3は、地下室60内に一部が露出された状態で埋設されているユーティリティ管50を概略的に示している。このユーティリティ管50は、主管51と、複数の支管52(例えば、支管52a、52b、52c)とから構成され、主管51と支管52とは絶縁継手53で接続されている。主管51の上流および支管52の下流は、地下室60の壁部61を貫通して土壌中に埋設された状態となっている。さらに支管52の下流は、土壌中において建物の鉄筋70と接触し、導通状態を形成している。このような状況において、主管51の接地抵抗Rの測定は、以下のような手順で行う
【0027】
先ず、図3(a)に示すように、主管51と支管52(例えば、支管52a)とをリード線3で接続し、このリード線3にクランプ接地抵抗計30の外磁コイルユニット31および電流測定手段33を取り付ける。そして、上述した測定原理に従って、全体電圧Eおよび全体電流Iをから主管51と支管52との直列抵抗Rを求める。本実施例では、クランプ接地抵抗計30に内蔵される電源手段32(1kHzの交流電源)によって外磁コイルユニット31を電磁誘導し、リード線3に流れる電流から接地抵抗を求めた。その結果、接地抵抗値は2980Ωであった。
【0028】
次に、クランプ接地抵抗計30を取り外し、図3(b)のように、リード線3に設けた接点7と電源電極として利用可能な電力アース線6とを別のリード線3´で接続し、ここに電源装置4´(例えば、500Hzの交流電圧)を設けて電位差(例えば、29V)を印加する。このとき、主管51と接点7との間に流れる第1電流Iと、支管52と接点7との間に流れる第21電流Iとを、クランプ電流計11および12でそれぞれ計測した。その結果、I=0.1mA、I=11.5mAであった。
【0029】
従って、上記の式(2)を適用すると、主管51の接地抵抗Rは、
接地抵抗R= 2980Ω × 11.5mA/(0.1mA+11.5mA)
= 2954Ω
として求められる。このように、本実施例では、主管51の接地抵抗Rが大きな値となった。この結果から、主管51は被覆管であると判定することができる。
【0030】
このように、本発明の接地抵抗測定方法では、地下室における媒質(例えば、コンクリート壁や土壌)から露出しているユーティリティ管50の一部を利用して、このユーティリティ管50の埋設部分における接地抵抗を容易に測定することができる。従って、従来のように、接地抵抗を測定するために電極を媒質に設置するという必要がなくなり、迅速かつ容易な測定が可能となる。また、このことによって、作業者の負担が低減され、作業効率が向上する。なお、上記接地抵抗を求めるためにはユーティリティ管50の直列抵抗を求めておく必要があるが、本発明の接地抵抗測定方法であれば、ユーティリティ管50に電位差を印加して、そのときに流れる電流を計測するという比較的簡単な作業で、直列抵抗を容易に測定することができる。
【0031】
また、本発明では、主管51と支管52とから構成されるユーティリティ管50において、その一部が媒質から露出していれば、両者が導通しているか否かを問わずに接地抵抗の測定が可能である。
【0032】
さらに、上記実施例のように、ユーティリティ管50の接地抵抗を測定するための電源電極として既設の電力アース線6を利用すれば、接地抵抗測定のためにわざわざ電源電極を設置する必要がなくなり、より一層の作業の効率化を図ることができる。さらに、電源電極の設置が不要な分、測定にかかるコストを低減することもできるという点においても有効である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の接地抵抗測定方法は、種々のユーティリティ管における接地抵抗の測定に利用可能である。例えば、地中に埋設されているガス管、上下水道管、各種ケーブル管等、あるいは、建物の壁部に隠蔽されている各種配管についての接地抵抗の測定に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】第1埋設物と第2埋設物とが導通していない場合の非導通埋設物測定モデルを示す図
【図2】第1埋設物と第2埋設物とが導通している場合の導通埋設物測定モデルを示す図
【図3】地下室内に一部が露出された状態で埋設されているユーティリティ管の概略図
【符号の説明】
【0035】
1 第1埋設物
2 第2埋設物
6 電源電極(電力アース線)
7 接点
10 媒質
20 導電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒質から一部が露出している第1埋設物および第2埋設物のうち、測定対象である第1埋設物の接地抵抗を測定する接地抵抗測定方法であって、
前記第1埋設物および前記第2埋設物における前記媒質を介した直列抵抗を導出する工程と、
前記媒質に接地された電源電極を設け、この電源電極と前記第1埋設物および前記第2埋設物の間に設けた接点との間に電位差を印加する工程と、
前記第1埋設物と前記接点との間に流れる第1電流、および、前記第2埋設物と前記接点との間に流れる第2電流をそれぞれ計測する工程と、
前記直列抵抗を、前記第1電流および前記第2電流の比率で按分する工程とを包含する接地抵抗測定方法。
【請求項2】
前記直列抵抗を算出する工程は、前記第1埋設物と前記第2埋設物との間に電位差を印加する工程と、前記第1埋設物および前記第2埋設物に流れる全体電流を計測する工程とを包含し、前記電位差と前記全体電流とから、前記直列抵抗を導出する請求項1に記載の接地抵抗測定方法。
【請求項3】
前記第1埋設物と前記第2埋設物とが露出部において導電体を介して電気的に接続されている請求項1または2に記載の接地抵抗測定方法。
【請求項4】
前記電源電極は、既設の電力アース線である請求項1から3のいずれか一項に記載の接地抵抗測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−275623(P2006−275623A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−92207(P2005−92207)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】