説明

接着フィルム及びそれを用いたフラットケーブル

【課題】ホットメルト特性および耐ブロッキング性が良好であり、フラットケーブルの被覆材に好適な接着フィルム及びそれを用いたフラットケーブルを提供する。
【解決手段】残留有機溶剤を含むホットメルト接着剤5を、合成樹脂製基材フィルム4上にコートしてなり、複数本並べて配列された導体2の両側を挟み込んで、ホットメルト接着剤5同士を接着してフラットケーブル1を構成するための接着フィルム3において、昇温速度5℃毎分、加重0.49N、プローブ径0.5mmの条件で針進入法TMAにより測定したホットメルト接着剤5の針進入率50%となる温度が、有機溶剤を含まないホットメルト接着剤より0.1〜5℃低下するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットメルト接着剤がコートされているフラットケーブルの被覆材に好適な接着フィルム及びそれを用いたフラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
フラットケーブルは、平行に配列した複数の平角導体を、2枚の接着フィルムで挟み被覆したケーブルであって、映像機器、OA機器、コンピューター機器、車載機器などの内部配線材として広く用いられている。
【0003】
接着フィルムは基材フィルムに接着剤を塗布したものであり、その接着剤には、熱圧着で容易に接着できるホットメルト接着剤が用いられている。
【0004】
基材フィルムには、耐熱性、耐薬品性、コストパフォーマンスに優れることから、ポリエステルフィルムが好適に用いられており、その場合、ポリエステルフィルムと金属両方との接着性に優れたポリエステル樹脂がホットメルト接着剤の樹脂成分として好適に用いられている。
【0005】
ホットメルト接着剤は有機溶剤に溶かし、接着剤溶液の状態で各種コーターを用いて基材フィルム上にコートされる。コート後、有機溶剤は乾燥行程で除去され、接着フィルムが作製される。
【0006】
この接着フィルムを用いて導体の両側を挟み込み、ホットメルト接着剤同士を熱圧着により接着させることで、フラットケーブルが製造される(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−83721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
乾燥行程後の接着フィルム上のホットメルト接着剤に適度な量の残留有機溶剤を含むようにされると、熱圧着時のホットメルト特性、すなわちフラットケーブルの製造速度が向上できる。
【0009】
この際、乾燥行程での乾燥が不十分で、ホットメルト接着剤の残留有機溶剤の量が多いと、接着フィルムのべた付きや臭気の原因になったり、保管の際に重ね合わせられた基材フィルム側に溶剤が溶け込み、ホットメルト接着剤と基材フィルムのブロッキングが発生する問題がある。
【0010】
しかしながら過度に乾燥して残留有機溶剤がなくなるとホットメルト特性が低下し、フラットケーブル製造時のラミネート速度(線速)が向上できなくなる問題がある。
【0011】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、ホットメルト特性および耐ブロッキング性が良好であり、フラットケーブルの被覆材に好適な接着フィルム及びそれを用いたフラットケーブルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明は、残留有機溶剤を含むホットメルト接着剤を、合成樹脂製基材フィルム上にコートしてなり、複数本並べて配列された導体の両側を挟み込んで、前記ホットメルト接着剤同士を接着してフラットケーブルを構成するための接着フィルムにおいて、昇温速度5℃毎分、加重0.49N、プローブ径0.5mmの条件で針進入法TMAにより測定した前記ホットメルト接着剤の針進入率50%となる温度が、有機溶剤を含まないホットメルト接着剤より0.1〜5℃低下していることを特徴とする接着フィルムである。
【0013】
前記ホットメルト接着剤は、その樹脂成分がポリエステル樹脂からなるようにされてもよい。
【0014】
前記有機溶剤の大気圧における沸点が、70℃以上150℃以下であるようにされてもよい。
【0015】
また本発明は、前記接着フィルムを用い、複数本並べて配列された導体の両側を挟み込んで、前記ホットメルト接着剤同士を接着して構成されることを特徴とするフラットケーブルである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、基材フィルム上に適度な残留有機溶剤を含むホットメルト接着剤がコートされることにより、ホットメルト特性が良好なフラットケーブル用接着フィルム及びそれを用いたフラットケーブルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な形態について図面に基づき説明する。
【0019】
図1は本実施形態におけるフラットケーブルの断面図を示す。
【0020】
フラットケーブル1は、複数本並べて配列された導体2の両側を、接着フィルム3により挟み込んで構成される。
【0021】
接着フィルム3は合成樹脂製の基材フィルム4上に、適度に残留有機溶剤を含むホットメルト接着剤5がコートされてなる。
【0022】
基材フィルム4は高耐熱性、高強度のエンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチックなどからなり、好適には、ポリエチレンテレフタレート(PET)を用いるとよい。また、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド(PI)なども本発明の趣旨の範囲内で使用可能である。
【0023】
ホットメルト接着剤5は、樹脂成分と難燃剤成分とからなる。
【0024】
上記において、樹脂成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ナフタレンジカルボン酸、ダイマー酸などからなる多塩基酸成分のモノマーと、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAジエタノールなどからなるグリコール成分のモノマーとを出発原料とした共重合樹脂であるポリエステル樹脂を用いると良く、さらには有機溶剤に溶解しやすい非晶性ポリエステルにするとよい。
【0025】
また上記において、難燃剤成分としては、臭素系難燃剤、三酸化アンチモン、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、金属化合物、シリコーン化合物などが用いられる。
【0026】
上記臭素系難燃剤は、例えば、デカブロモジフェニルエタン、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、臭素化ポリスチレン、ビス(テトラブロモフタルイミド)エタンなどからなり、三酸化アンチモンと併用するようにされる。
【0027】
上記リン系難燃剤は、例えば、芳香族縮合リン酸エステル系化合物、ホスファゼン系化合物、ポリリン酸アンモニウム系化合物、リン酸金属塩などからなる。
【0028】
上記窒素系難燃剤は、例えば、メラミンシアヌレート、メラミン、シアヌル酸、リン酸メラミンなどのメラミン系化合物、ビステトラゾールジアンモニウムビステトラゾールピペラジン、5−フェニールテトラゾールなどのテトラゾール系化合物、グアニジン化合物などからなる。
【0029】
上記金属化合物は、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ハイドロタルサイトなどの金属水和物、ホウ酸亜鉛、ホウ酸カルシウムなどのホウ酸化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの金属炭酸塩、スズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛などのスズ化合物などからなる。
【0030】
これらの難燃剤は、単体で用いても、2種類以上混ぜて用いてもよく、その樹脂成分に対する組成比は、UL規格VW−1垂直燃焼試験に合格するために必要な難燃剤成分の量から適宜決定される。
【0031】
また難燃剤以外にも、酸化防止剤、安定剤、着色剤、増粘剤、架橋剤、架橋助剤、銅害防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤を必要に応じて加えることが可能である。
【0032】
上述の樹脂成分及び難燃剤成分は、有機溶剤に所定の組成比で溶解された後、基材フィルム4上にコートされ、乾燥行程により有機溶剤が除去されることで接着フィルム3が作製される。
【0033】
上記において、有機溶剤としては、例えば上記非晶質ポリエステル樹脂が溶解しやすい酢酸エチル、メチルエチルケトン、トルエン、エチレングリコールモノエチルエーテルなどが好適に用いられる。
【0034】
本発明は使用する有機溶剤を限定するものではないが、好適には沸点70℃以上150℃以下の極性溶媒を用いるとよい。沸点が70℃未満である場合、接着剤溶液を塗布作業中に気化して臭気の原因になるおそれがあり、沸点が150℃を超えると、乾燥行程が長時間化するおそれがある。
【0035】
本実施形態に係るホットメルト接着剤5は、上述の乾燥行程後に、適度な残留有機溶剤を含むようにされる。樹脂成分に有機溶剤が残留していると、より低温で樹脂が可塑化するようになる。
【0036】
この残留有機溶剤の量は、針進入法TMA(ThermoMechanical Analysis)により決定するようにされる。
【0037】
針進入法TMAは、フラットケーブル製造時の接着フィルム3の熱圧着における、ホットメルト接着剤5の挙動を再現性良く模することが可能である。
【0038】
本実施形態に係るTMA測定装置は、TMA/SS120U、セイコーインスツル株式会社製を用いる。
【0039】
針進入法TMAは、乾燥行程後の接着フィルム3を用い、基材フィルム4上にコートされたホットメルト接着剤5に対して、昇温速度5℃毎分、加重0.49N、プローブ径0.5mmの条件で行うようにされる。
【0040】
この測定により、ホットメルト接着剤5の厚さで、プローブがホットメルト接着剤5に進入した深さを除することにより求まる針進入率(百分率)、すなわち、ホットメルト接着剤5の厚さに対するプローブのホットメルト接着剤5への進入の深さの割合が50%となる温度を求め、この温度が有機溶剤を含まないホットメルト接着剤と比較して0.1〜5℃低下するように、ホットメルト接着剤5に残留させる有機溶剤の量が決定される。
【0041】
適度に残留有機溶剤を有するホットメルト接着剤5は、溶剤を含まないものよりホットメルト特性が改善される。そのためフラットケーブル1を製造する際、有機溶剤を含まないものよりラミネート速度(線速)をあげることが出来、生産性を向上できる。
【0042】
針進入率50%の温度が5℃を超えて低下する場合、ホットメルト接着剤5に有機溶剤が過度に残留し、ホットメルト接着剤5と基材フィルム4のブロッキングや、接着フィルム3を保管する場所での臭気の原因となる。
【0043】
針進入率50%の温度の低下が、0.1℃より少ない場合、ホットメルト特性は、有機溶剤を含まないものと変わりがなく、フラットケーブル1製造時のラミネート速度を向上させることが出来なくなる。
【0044】
以上に述べたように、本発明のフラットケーブル用接着フィルム3は、基材フィルム4上にコートされるホットメルト接着剤5が適度な量の残留有機溶剤を有することにより、ホットメルト特性および耐ブロッキング性を向上できる。
【0045】
また本発明のフラットケーブル用接着フィルム3を用いたフラットケーブル1は、その製造時のラミネート速度を上げることが出来、生産性を向上できる。
【0046】
本実施形態はホットメルト接着剤5の残留有機溶剤の量を針進入法TMAにより求めるようにされるが、本発明の趣旨の範囲内であれば、ホットメルト接着剤の組成にあわせて、真空乾燥前後の接着フィルム3の重量差からそれぞれ求めるようにされるなどしてもよい。
【0047】
また、フラットケーブル1及び接着フィルム3の厚さの絶対値、あるいはフラットケーブル1製造時の製造条件(例えばラミネート速度、接着温度)にあわせて、針進入法TMAの試験条件を適宜変更するようにされるとよい。
【実施例】
【0048】
以下に本発明の実施例について詳述する。
【0049】
まず、1種類あるいは2種類の共重合ポリエステル樹脂(バイロン(登録商標)、東洋紡績株式会社製)からなる樹脂成分と、臭素系難燃剤(SAYTEX(登録商標)、アルベマール日本株式会社製)と三酸化アンチモン(AT3、株式会社鈴裕化学製)とホウ酸カルシウム(UBP(粒度:5μm)、キンセイマテック株式会社製)とを組み合わせてなる難燃剤成分と、二酸化チタン(R−820、石原産業株式会社製)からなる顔料(着色剤成分)とを、所定の配合(質量比)で組み合わせ、これをメチルエチルケトンおよび/あるいはトルエンからなる有機溶剤に混合・撹拌し、接着剤溶液を作製した。
【0050】
ホットメルト接着剤5をPETからなる厚さ12μmの基材フィルム4(エンブレット(登録商標)、ユニチカ株式会社製)上にコートすべく、上記の接着剤溶液を基材フィルム4上に塗布し さらに針進入法TMAにおけるホットメルト接着剤5の針進入率50%となる温度が所定の値となるように、真空乾燥機で所定の条件(温度80℃、圧力0.13kPa)により乾燥し、接着フィルム3を作製した。
【0051】
この際、乾燥後の接着フィルム3がそれぞれ25μmとなるように、上記接着剤溶液の塗布量を調節した。
【0052】
上記接着フィルム3に対して、接着フィルム3のホットメルト接着剤5と、表面処理していないPETフィルムとを重ね合わせ、温度80℃、圧力0.2MPaでラミネート後、剥離速度50mm毎分でT字剥離試験を行い、耐ブロッキング性を評価した。
【0053】
さらに上述の接着フィルム3を用いて、大型ラミネーターで連続的にフラットケーブルを製造し、そのときのラミネート速度(線速)をホットメルト特性として評価した。
【0054】
接着フィルム3の耐ブロッキング性は剥離強度が0.01N/mm以下であるものを合格とし、ホットメルト特性は有機溶剤を含まない接着フィルムと比較してラミネート速度(線速)を5%以上向上できたものを合格とした。
【0055】
本実施例に用いた接着剤溶液の配合(質量比)と、それにより作製されたホットメルト接着剤の評価結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示した通り、針進入率50%となる温度が、有機溶剤を含まないものと比較して0.1℃〜5℃の範囲で低下している実施例1〜4の接着フィルムは、耐ブロッキング性とラミネート速度は共に合格であった。
【0058】
一方、針進入率50%となる温度が、有機溶剤を含まないものと比較してほとんど低下していない比較例1,3の接着フィルムは、耐ブロッキング性には合格したものの、ラミネート速度は不合格であった。
【0059】
また、針進入率50%となる温度が、有機溶剤を含まないものと比較して6℃低下している比較例2,4の接着フィルムは、ラミネート速度は合格となっているが、耐ブロッキング性は不合格であった。
【0060】
以上のように、ホットメルト接着剤5に含まれる残留有機溶剤の量を、針進入率50%となる温度が、有機溶剤を含まないホットメルト接着剤と比較して0.1〜5℃低下するようにされることで、共重合ポリエステル樹脂単体および混合物、ハロゲン系難燃剤およびノンハロゲン難燃剤、有機溶剤単体および混合物においても、ラミネート速度(すなわち、ホットメルト特性)と耐ブロッキング性を向上できることがわかる。
【0061】
針進入率50%となる温度が、有機溶剤を含まないホットメルト接着剤と比較して0.1℃未満の低下となるようにされると(比較例1および3)、ホットメルト接着剤5に含まれる残留有機溶剤の量が少なくなり、ラミネート速度を上昇させることは出来ないことがわかる。
【0062】
一方、針進入率50%となる温度が、有機溶剤を含まないホットメルト接着剤と比較して5℃以上の低下となるようにされると(比較例2および4)、ホットメルト接着剤5に含まれる残留有機溶剤の量が多くなり、接着フィルム3にブロッキングが発生することがわかる。
【符号の説明】
【0063】
1 フラットケーブル
2 導体
3 接着フィルム
4 基材フィルム
5 ホットメルト接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
残留有機溶剤を含むホットメルト接着剤を、合成樹脂製基材フィルム上にコートしてなり、複数本並べて配列された導体の両側を挟み込んで、前記ホットメルト接着剤同士を接着してフラットケーブルを構成するための接着フィルムにおいて、昇温速度5℃毎分、加重0.49N、プローブ径0.5mmの条件で針進入法TMAにより測定した前記ホットメルト接着剤の針進入率50%となる温度が、有機溶剤を含まないホットメルト接着剤より0.1〜5℃低下していることを特徴とする接着フィルム。
【請求項2】
前記ホットメルト接着剤は、その樹脂成分がポリエステル樹脂からなる請求項1に記載の接着フィルム。
【請求項3】
前記有機溶剤の大気圧における沸点が、70℃以上150℃以下である請求項1または2に記載の接着フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の接着フィルムを用い、複数本並べて配列された導体の両側を挟み込んで、前記ホットメルト接着剤同士を接着して構成されることを特徴とするフラットケーブル。

【図1】
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【公開番号】特開2012−21079(P2012−21079A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159737(P2010−159737)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】