説明

接着剤組成物および接着フィルム

【課題】高温プロセスにおける使用に適した接着剤および接着フィルムを提供する。
【解決手段】接着剤組成物は、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体組成物を重合してなる重合体を含む接着剤組成物であって、当該(メタ)アクリル酸エステルは、一般式(1):


(Rは水素原子またはメチル基を表し、かつRは炭素数4〜20の鎖状アルキル基を表す)で表される構造を有するとともに、そのホモ重合体のガラス転移温度が0℃以上であり、上記単量体組成物100質量部に占める上記(メタ)アクリル酸エステルの割合が、5〜90質量部の範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物および接着フィルムに関する。より詳細には、本発明は、半導体ウェハーなどの半導体製品または光学系製品などを研削といった加工の工程において、製造中の製品に対してシートまたは保護基板を一時的に固定するための、接着剤組成物、および接着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、デジタルAV機器およびICカードなどの高機能化にともない、搭載される半導体シリコンチップ(以下、チップ)の小型化、薄型化および高集積化に対する要求が高まっている。また、CSP(chip size package)およびMCP(multi-chip package)に代表される、複数のチップをワンパッケージ化する集積回路に対しても、その薄型化が求められている。薄型商品へのニーズに応えるためには、チップを150μm以下にまで薄くする必要がある。さらに、CSPおよびMCPにおいては100μm以下、ICカードにおいては50μm以下にチップを薄化加工する必要がある。ここで、一つの半導体パッケージ内に複数の半導体チップを搭載するシステム・イン・パッケージ(SiP)は、搭載されるチップを小型化し、薄型化し、かつ高集積化することによって、電子機器の高性能化、小型化および軽量化を実現する上で非常に重要な技術である。
【0003】
従来、SiP製品には、積層したチップごとのバンプ(電極)と回路基板とを、ワイヤ・ボンディング技術によって配線する手法が用いられている。また、このような薄型化および高集積化への要求に応えるためには、ワイヤ・ボンディング技術ではなく、貫通電極を形成したチップを積層し、かつチップの裏面にバンプを形成する貫通電極技術も必要となる。
【0004】
薄型のチップは、例えば、高純度シリコン単結晶などをスライスしてウェハーとした後、ウェハー表面にICなどの所定の回路パターンをエッチング形成して集積回路を組み込み、得られた半導体ウェハーの裏面を研削機によって研削し、かつ所定の厚さに研削した後の半導体ウェハーをダイシングしてチップ化することによって製造される。このとき、上記所定の厚さは、100〜600μm程度である。さらに、貫通電極を形成する場合のチップは、厚さ50〜100μm程度にまで研削される。
【0005】
半導体チップの製造において、半導体ウェハー自体が肉薄なために脆いだけでなく、回路パターンに凹凸があるので、研削工程またはダイシング工程への搬送時に外力が加わると破損しやすい。また、研削工程においては、生じた研磨屑の除去、または研磨時に発生する熱を逃がすことを目的として、精製水を半導体ウェハー裏面に流しながら研削処理する。このとき、洗浄など用いる精製水によって回路パターン面が汚染されることを防ぐ必要がある。そこで、半導体ウェハーの回路パターン面を保護するとともに、半導体ウェハーの破損を防止するために、回路パターン面に加工用粘着フィルムを貼着した上で、研削作業が行われている。
【0006】
上述の例以外に、貫通電極の形成工程といった高温プロセスを伴う工程は、半導体ウェハーを接着固定した状態において行われる。高温プロセスを伴う工程において好適に使用され得る接着剤組成物および接着シートがいくつか提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2および特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−119646号公報(2007年5月17日公開)
【特許文献2】特開2008−38039号公報(2008年2月21日公開)
【特許文献3】特開2008−133405号公報(2008年6月12日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、半導体プロセスの処理速度の向上、および処理工程において完成品における不要物残余の完全な回避といった観点から、特許文献1〜3に開示されている接着剤組成物に対しても、高温プロセスに対する適合性を維持しつつ、剥離液に対する溶解性をさらに向上させることが望まれている。
【0009】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、高温環境(例えば、200℃以上)下における適合性(成分の変質の回避など)を維持すると同時に、高温暴露後において剥離液に対する溶解性を向上させた接着剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の接着剤組成物は、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体組成物を重合してなる重合体を含む接着剤組成物であって、当該(メタ)アクリル酸エステルは、一般式(1):
【0011】
【化1】

【0012】
(Rは水素原子またはメチル基を表し、かつRは炭素数4〜20の鎖状アルキル基を表す)
で表される構造を有するとともに、そのホモ重合体のガラス転移温度が0℃以上であり、上記単量体組成物100質量部に占める上記(メタ)アクリル酸エステルの割合が、5〜90質量部の範囲内である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る接着剤組成物は、上記(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体組成物が共重合された重合体を含む。つまり、本発明に係る接着剤組成物は、高温環境(例えば、200℃以上において3時間など)下における成分の変質および接着性の低下を回避できると同時に、高温暴露後における溶解性が向上されている。よって、本発明に係る接着剤組成物によって構成される接着剤を用いて接着した(製造中の)製品に高温プロセス(200℃以上の高温に3時間さらす工程など)を適用しても、高温プロセス中に接着剤のはがれおよび変質を起こさない上に、高温プロセス後に容易かつ完全に接着剤を製品から除去可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔接着剤組成物〕
本発明に係る接着剤組成物の一実施形態について以下に説明する。
【0015】
本発明に係る接着剤組成物は、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体組成物を重合してなる重合体を含む接着剤組成物であって、当該(メタ)アクリル酸エステルは、一般式(1):
【0016】
【化2】

【0017】
(Rは水素原子またはメチル基を表し、かつRは炭素数4〜20の鎖状アルキル基を表す)
で表される構造を有するとともに、そのホモ重合体のガラス転移温度が0℃以上であり、上記単量体組成物100質量部に占める上記(メタ)アクリル酸エステルの割合が、5〜90質量部の範囲内である。
【0018】
本発明の接着剤組成物は、接着剤として用いるのであれば、具体的な用途は特に限定されない。本実施の形態では、ウエハサポートシステムのために、本発明の接着剤組成物を用いて、半導体ウェハーをサポートプレートに対して一時的に接着する用途を例に挙げて説明する。
【0019】
((メタ)アクリル酸エステル)
本発明に係る接着剤組成物は、単量体組成物における単量体として(メタ)アクリル酸エステルを含む。本明細書において、(メタ)アクリル酸エステルは、炭素数4〜20のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルを意味する。さらに、接着剤組成物のガラス転移温度(Tg)を低下させずに溶解度を向上させる必要から、炭素数4〜20の当該アルキル基は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなるホモ重合体のTgを0℃以上にするアルキル基から選択される。(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなるホモ重合体のTgを0℃以上にするアルキル基は、例えば、分枝鎖状のアルキル基である。
【0020】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基としては、炭素数4〜20のアルキル基であり、好ましくは炭素数4〜18である。アルキル基の具体例としては、例えば、tert−ブチル基、イソブチル基、tert−ペンチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基、ラウリル基、ステアリル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、イソオクチル基、n−ノニル基、イソノニル基、n−デシル基またはイソデシル基などが挙げられる。
【0021】
ここで、接着剤組成物のガラス転移温度(Tg)が50℃以上であれば、高温プロセス(200℃以上の高温に3時間さらす工程など)を経た後の溶解性を向上し得るので好ましい。そのため、この条件を満たし得るアルキル基の中から適宜、選択することが好ましい。従って、(メタ)アクリル酸アルキルエステルアルキル基としては、上記において列挙した基の内では、tert−ブチル基、ラウリル基またはステアリル基が好ましい。同じ炭素数の2つのアルキル基において、直鎖状のアルキル基と比べて、分枝鎖状のアルキル基は占める空間が大きくなるので、相対的に高いTgを維持しながら、溶解度の向上に寄与するものと考えられる。本明細書において、相対的に占める空間が大きい分枝鎖状のアルキル基を、「嵩高い」官能基と称する。
【0022】
なお、接着剤組成物に含まれる重合体を構成する(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、1種類を選択して用い得るか、または2種類以上を選択して混合したものを用い得る。
【0023】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量は、単量体組成物に含まれる他の化合物と共重合反応が進み、かつ以下に説明する範囲内であれば、限定されるものではなく、所望する接着剤組成物の性質(接着強度および耐熱性など)に応じて、適宜選択すればよい。すなわち、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含む単量体組成物の総量を100質量部としたとき、5質量部以上、90質量部以下であればよく、さらに20質量部以上、70質量部以下であることが好ましい。5質量部以上であれば、得られる接着剤層の柔軟性およびクラック耐性を向上させることが可能であり、かつ90質量部以下であれば、耐熱性の低下、剥離不良および吸湿性の上昇を抑えることが可能である。また、単量体組成物を共重合してなる重合体に占める(メタ)アクリル酸アルキルエステルの繰り返し単位の含有量は、5〜90モル%の範囲内であることが好ましく、10〜70モル%の範囲内が接着性や耐熱性が良好であるため特に好ましい。
【0024】
(スチレン)
本実施の形態に係る接着剤組成物は、単量体組成物の単量体として、スチレンをさらに含み得る。スチレンは、200℃以上の高温環境下において変質しないため、接着剤組成物の耐熱性が向上する。
【0025】
単量体組成物がスチレンを含む場合に、スチレンの混合量は、単量体組成物に含まれる他の化合物と共重合反応が進む限り、限定されるものではなく、所望する接着剤組成物の性質(接着強度および耐熱性など)に応じて、適宜選択すればよい。例えば、スチレンと、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含む単量体組成物の総量を100質量部としたとき、スチレンの含有量が1〜90質量部であることが好ましく、30〜70質量部であることがより好ましい。1質量部以上であれば、耐熱性をさらに向上させることが可能であり、かつ90質量部以下であれば、クラック耐性の低下を抑制することができる。単量体組成物を共重合してなる重合体にスチレンを含む場合には、単量体組成物を共重合してなる重合体に占めるスチレンの繰り返し単位の含有量は、1〜90モル%であることが好ましい。
【0026】
ここで、(メタ)アクリル酸エステルとスチレンとの重量比は、20:80〜80:20であることが好ましい。当該重量比が上記範囲内にある場合に、得られる接着剤組成物は、より高い溶解性を示し得るからである。また、高い溶解性を示し得るために、(メタ)アクリル酸エステルとスチレンとの単量体ユニット比(モル比)は、30:70〜70:30であることが好ましい。
【0027】
(他のアクリル系エステル)
上述の((メタ)アクリル酸エステル)の項において述べたものとは別に、本発明に係る接着剤組成物を得るための単量体組成物には、他のアクリル系エステルが含まれ得る。当該他のアクリル系エステルは、従来のアクリル系接着剤に用いられている公知のエステルである。当該他のアクリル系エステルの例としては、アルキル基(炭素数が1〜3のアルキル基、炭素数が4〜20の環状もしくは直鎖状のアルキル基、または炭素数が21以上のアルキル基など)と、アクリル酸またはメタクリル酸とのアルキルエステルが挙げられる。
【0028】
他のアクリル系エステルは、単量体組成物における(メタ)アクリル酸エステルおよびマレイミド基を有する単量体(場合によってはスチレンを含む)の残部を構成し得る。すなわち、他のアクリル系エステルの含有量は、(メタ)アクリル酸エステルおよびマレイミド基を有する単量体(場合によってはスチレンを含む)の含有量に応じて適宜、変更すればよい。
【0029】
(接着剤組成物における上記以外の成分)
本発明に係る接着剤組成物には、本発明における本質的な特性を損なわない範囲において、混和性を有する添加剤、例えば接着剤の性能を改良するための付加的樹脂、可塑剤、接着助剤、安定剤、着色剤および界面活性剤などの当該分野において慣用されているものをさらに添加することができる。
【0030】
さらに、接着剤組成物は、本発明における本質的な特性を損なわない範囲において、有機溶剤を用いて希釈することによって、粘度を調整してもよい。当該有機溶剤の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソアミルケトン、2−ヘプタノンなどのケトン類;エチレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールまたはジプロピレングリコールモノアセテートのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテルまたはモノフェニルエーテルなどの多価アルコール類およびその誘導体;ジオキサンなどの環式エーテル類;ならびに乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、およびエトキシプロピオン酸エチルなどのエステル類を挙げることができる。当該有機溶媒は、1種類を選択して用いてもよく、2種以上を選択して混合したものを用いてもよい。特に、エチレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールまたはジプロピレングリコールモノアセテートのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテルおよびモノフェニルエーテルなどの多価アルコール類、ならびにその誘導体がより好ましい。
【0031】
有機溶剤の使用量は、接着剤組成物を塗布することを所望する膜厚に応じて適宜選択されるものであって、接着剤組成物が半導体ウェハーなどの支持体上に塗布可能な濃度になる範囲内にあればよく、特に限定されない。一般的には、有機溶剤は、接着剤組成物の固形分濃度が20〜70質量%、より好ましくは25〜60質量%の範囲内になる量として用いられる。
【0032】
〔共重合反応〕
単量体組成物の共重合反応は、公知の方法によって行なえばよく、その方法は特に限定されない。例えば、既存の攪拌装置を用いて単量体組成物を攪拌することによって、本発明に係る接着剤組成物を得ることができる。
【0033】
共重合反応における温度条件は、適宜設定すればよく、限定されないが、好ましくは60〜150℃であり、さらに好ましくは70〜120℃である。
【0034】
また、共重合反応において、必要に応じて溶媒を用いてもよい。溶媒としては、上述の有機溶剤が挙げられるが、特に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、「PGMEA」と表記する)がより好ましい。
【0035】
また、本発明に係る接着剤組成物を得るための共重合反応において、必要に応じて重合開始剤を用いてもよい。重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、および4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)などのアゾ化合物;ならびにデカノイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ビス(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)ペルオキシド、コハク酸ペルオキシド、tert−ブチルペルオキシ−2−エチルへキサノエート、tert−ブチルペルオキシピバレート、および1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物が挙げられる。重合開始剤は、これらの内の1種類を用いてもよく、必要に応じて2種類以上を混合して用いてもよい。また、重合開始剤の使用量は、単量体組成物の組み合わせまたは反応条件などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
【0036】
〔接着フィルム〕
本発明に係る接着フィルムは、フィルム上に、上記の何れかの接着剤組成物を含有する接着剤層を備える。当該接着フィルムは、当該接着フィルム法の過程において得られる。当該接着フィルム法とは、予め可撓性フィルムなどの一時的に基材になるフィルム上に上記の何れかの接着剤組成物を含む接着剤層を形成した後、乾燥させておき、接着フィルムを、被加工体に貼り付けて使用する方法である。
【0037】
上述の〔接着剤組成物〕の項に記載のように接着剤組成物がマレイミド基を有する単量体を含有するので、当該接着剤組成物によって構成される接着剤層は、耐熱性、および高温環境下における接着強度に優れている。すなわち、本発明に係る接着フィルムは、耐熱性、および高温環境下における接着強度に優れている。
【0038】
接着フィルムは、接着剤層の接着面に保護フィルムが被覆された構成を有していてもよい。当該構成を採用した場合には、接着剤層上の保護フィルムを剥離し、かつ被加工体の上に接着剤層の露出した接着面を重ねた後に、接着剤層からフィルム(可撓性フィルムなど)を剥離することによって被加工体上に接着剤層を容易に設けることができる。
【0039】
ここで、上述した本発明に係る接着剤組成物は、用途に応じて様々な利用形態を採用することができる。例えば、液状のまま、半導体ウェハーなどの被加工体の上に塗布して接着剤層を形成する方法を用いてもよい。一方で、本発明に係る接着フィルムを用いれば、被加工体に対して直接に接着剤組成物を塗布して接着剤層を形成する場合と比較して、膜厚均一性および表面平滑性の良好な接着剤層を形成することができる。
【0040】
本発明に係る接着フィルムの製造に使用する接着層形成用のフィルムは、フィルム上に製膜された接着剤層を当該フィルムから剥離可能であり、かつ接着剤層を保護基板やウェハーなどの被処理面上に転写できる離型フィルムであればよく、他の点に関して特に限定されない。接着層形成用の当該フィルムの例としては、膜厚15〜125μmのポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、またはポリ塩化ビニルなどを材料とする合成樹脂フィルムからなる可撓性フィルムが挙げられる。上記フィルムは、必要に応じて、転写を容易にする離型処理を施されていることが好ましい。
【0041】
上記フィルム上に接着剤層を形成する方法は、所望する接着剤層の膜厚または均一性に応じて適宜、公知の方法から選択すればよく、特に限定されない。公知の方法の例としては、アプリケーター、バーコーター、ワイヤーバーコーター、ロールコーター、またはカーテンフローコーターなどを用いて、フィルム上に形成される乾燥後の接着剤層の膜厚が10〜1000μmを有するように、本発明に係る接着剤組成物を塗布する方法が挙げられる。特に、ロールコーターは、膜厚の均一性に優れた接着剤層の形成、および厚さの厚い膜を効率よく形成することに適しているため好ましい。
【0042】
また、保護フィルムを用いる場合、保護フィルムは、接着剤層から剥離可能なフィルムであれば特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、およびポリエチレンフィルムなどが好ましい。また、各保護フィルムは、シリコンがコーティングされているか、または焼き付けられていることが好ましい。これは、接着剤層からの剥離が容易だからである。保護フィルムの厚さは、特に限定されないが15〜125μmであることが好ましい。これは、保護フィルムを備えた接着フィルムの柔軟性を確保できるからである。
【0043】
接着フィルムの使用方法としては、特に限定されないが、例えば、保護フィルムを用いた場合には、保護フィルムを剥離し、かつ被加工体の上に接着剤層の露出した接着面を重ねた後に、フィルム側(接着剤層の形成された面の裏面側)から加熱ローラを回転移動させることによって、接着剤層を被加工体の表面に熱圧着させる方法が挙げられる。なお、巻き取りローラなどのローラを用いてロール状にして順次、接着フィルムから剥離した保護フィルムを巻き取れば、当該保護フィルムは保存して再利用可能である。
【0044】
本発明に係る接着剤組成物は、用途に関して特に限定されないが、半導体ウェハーなどの基板に対して、半導体ウェハーの精密加工に用いる保護基板を接着する接着剤組成物として好適に使用される。本発明の接着剤組成物は、特に、半導体ウェハーなどの基板を研削して薄板化する際に、サポートプレートに当該基板を貼り付ける接着剤組成物(を含む接着剤層)として、好適に使用される(例えば、特開2005−191550号公報を参照すればよい)。
【0045】
〔剥離液〕
本発明に係る接着剤組成物を除去するための剥離液として、当該分野において一般的な剥離液を使用可能であるが、特にPGMEA、酢酸エチル、またはメチルエチルケトンを主成分とする剥離液が環境負荷および剥離性の観点から好ましく使用される。
【0046】
以下に、本発明に係る接着剤組成物の実施例を示す。なお、以下に示す実施例は、本発明の理解を助ける例示であって、何ら本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0047】
実施例1に係る接着剤組成物は、以下のように調製された。
【0048】
還流冷却器、撹拌機、温度計および窒素導入管を備える容量300mlの4つ口フラスコに、溶剤として111.6gのPGMEA、ならびに表1に示すように、単量体として13gのアクリル酸n−ブチル、52gのスチレン、15gのメタクリル酸t−ブチル、10gのイソボルニルメタクリレート、および10gのジメチロール−トリシクロデカンジアクリレート(以下、「DCPMA」と表記する。)を仕込んだ後に、Nの吹き込みを開始した。次いで、攪拌の開始によって重合を開始させ、かつ攪拌しながら100℃まで昇温させた後、111.6gのPGMEA、および1gのt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(重合開始剤)からなる混合液を、4時間かけて連続的に滴下ノズルから滴下した。当該混合液は、一定の速度に保って滴下された。
【0049】
当該混合液の滴下終了後に得られた重合反応液を、そのまま1時間に渡って100℃において熟成した後、25.10gのPGMEAおよび0.3gのt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエートからなる混合液を1時間かけて滴下した。当該滴下の終了後に、重合反応液をさらにそのまま1時間に渡って100℃において熟成した後、1.0gの1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエートを一括投入した。次に、重合反応液を、そのまま3時間に渡って100℃において熟成した後、溶剤の還流が認められるまで重合反応液を昇温させて、1時間に渡って熟成し、重合を終了させて実施例1に係る樹脂(接着剤組成物)を合成した。
【0050】
実施例2〜8および比較例1〜3に係る樹脂は、実施例1に係る樹脂と同様の方法を用いて合成した。
【0051】
実施例および比較例のそれぞれにおける単量体組成物の組成、ならびに当該単量体組成物から合成された樹脂の特性(理論Tgおよび平均分子量など)を表1および2に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
実施例1〜8および比較例1〜3に係る上記樹脂のそれぞれをPGMEAに溶解して、アクリル系重合体を40質量%の濃度において含有する接着剤組成物を調製した。
【0055】
(接着剤組成物に対する耐熱溶解性(溶解速度)の評価)
実施例1〜8および比較例1〜3に係る上記接着剤組成物のそれぞれを6インチシリコンウェハー上に塗布した後、110℃、150℃および200℃のそれぞれにおいて3分間の合計9分間乾燥して、上記シリコンウェハー上に膜厚15μmの塗膜を形成した。
【0056】
シリコンウェハー上に成膜した接着剤組成物の溶剤に対する溶解性を、以下のように測定した。
【0057】
上記接着剤組成物が成膜されたシリコンウェハーを、200℃において3時間加熱した後に、PGMEAに浸漬させた。浸漬後、上記塗膜層が溶解した程度を観察した。そして、溶解した塗膜の厚さと溶解時間との関係から溶解速度(nm/sec)を算出した。さらに、算出した溶解速度に基づいて、比較例1の溶解速度を基準として実施例1〜4および比較例2の溶解速度を相対評価し、かつ比較例3の溶解速度を基準として実施例5〜8の溶解速度を相対評価した。溶解速度を相対評価した結果を表3および4に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

【0060】
表3に示すように、実施例1〜4の接着剤組成物は、その比較対照である比較例1の接着剤組成物よりも溶解速度が向上したことから、実施例1〜4において、メタクリル酸t−ブチルの含有量が好ましいことが分かった。さらに、実施例3および4において、比較例1より3割以上も溶解速度が向上したことから、実施例3および4におけるメタクリル酸t−ブチルとスチレンとの比率が特に好ましいことがわかった。また、実施例5〜7におけるステアリルメタクリレートおよびラウリルメタクリレートの含有量が好ましいことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、様々な製品の製造に適用される高温プロセスにおいて好適に使用可能な接着剤組成物および接着フィルムを提供することができる。特に、250℃以上の高温環境に暴露して、半導体ウェハーまたはチップを加工する工程において好適な接着剤組成物および接着フィルムを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体組成物を重合してなる重合体を含む接着剤組成物であって、
当該(メタ)アクリル酸エステルは、一般式(1):
【化1】

(Rは水素原子またはメチル基を表し、かつRは炭素数4〜20の鎖状アルキル基を表す)
で表される構造を有するとともに、そのホモ重合体のガラス転移温度が0℃以上であり、上記単量体組成物100質量部に占める上記(メタ)アクリル酸エステルの割合が、5〜90質量部の範囲内であることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
上記鎖状アルキル基が、tert−ブチル基、ラウリル基またはステアリル基であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
上記単量体組成物が、スチレンおよびその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体をさらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
上記(メタ)アクリル酸エステルと、上記スチレンおよびその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体との重量比は、20:80〜80:20であることを特徴とする請求項3に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
フィルム上に、請求項1〜4の何れか一項に記載の接着剤組成物を含有する接着剤層を備えることを特徴とする接着フィルム。

【公開番号】特開2010−163495(P2010−163495A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5079(P2009−5079)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】