説明

接触型ICカードの製造方法

【課題】ICモジュール実装機が利用することなく接触型ICカードを製造する方法を提供する。
【解決手段】ICモジュール20の実装位置に対応するキャビティ型10の箇所は,摺動孔部101と摺動部材102によって摺動可能に構成され,接触型ICカード2を製造するとき,キャビティ型10の型面との間に所定の長さの段差ができるまで摺動部材102を摺動させ,コンタクト端子が形成されている面が摺動部材102の上側と対向するように,キャビティ型の型面と摺動部材102の端面で形成される凹部12にICモジュール20をはめ込み,ICモジュール20が凹部12にはめ込まれた状態でプラスチック樹脂をキャビティ内に注入し,摺動部材102の端面をキャビティ型10の型面と同一面まで摺動させた後に冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,コンタクト端子を表面に備えた接触型ICカードもしくはUIM、SIMを射出成形により製造するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,金融系のカード(例えば,クレジットカード)に広く利用されている接触型ICカードは,接触型ICカードに実装するICモジュールの形状に合わせて形成された凹部を有するプラスチックカードを製造しておき,プラスチックカード上の凹部にICモジュールを実装することで製造される。
【0003】
接触型ICカードのICモジュール近傍を短冊状に切り取られることで利用可能となるUIM(User Identity Module)やSIM(Subscriber Identity Module)についても製造工程はほぼ同じで,UIMやSIMの場合は,プラスチックカードの形状に合わせた凹部に加え,UIMやSIMの形状に切り取るための溝加工が施されたプラスチックカードが用意される。
【0004】
特許文献1に記載があるように,ICモジュールの形状に合わせた凹部が少なくとも形成されたプラスチックカードの製造方式としてはザクリ方式や射出成形方式が知られているが,いずれの方式においても,プラスチックカード上に形成された凹部にICモジュールを実装するとき,インプランターとも称され,ICモジュールを実装する専用装置であるICモジュール実装機が利用されてきた。
【0005】
しかしながら,ICモジュール実装機を用いて接触型ICカードを製造すると,磁気カードの製造工程と比較して,ICモジュール実装機を用いてICモジュールをプラスチックカード上に実装する工程が一つ増えてしまう問題があった。また,ICモジュール実装機を用いてICモジュールをプラスチックカードに実装する際,ICモジュールの位置ズレ不良も少なからず発生してしまっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−250272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで,本発明は,ICモジュールを実装する専用装置であるICモジュール実装機が利用することなく接触型ICカードを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決する第1の発明は,接触型ICカードの形状に合わせたキャビティを有する金型を用いた射出成形による接触型ICカードの製造方法であって,ICモジュールの実装位置に対応する前記金型の箇所を,摺動孔部と摺動部材によって摺動可能に構成しておき,前記金型の型面との間に所定の長さの段差ができるまで前記摺動部材を摺動させ,前記金型の型面と前記摺動部材の端面で形成される凹部に,コンタクト端子が形成されている面が前記摺動部材の端面側と対向するように前記ICモジュールをはめ込み,前記ICモジュールが前記凹部にはめ込まれた状態でプラスチック樹脂を前記キャビティ内に注入し,前記摺動部材の端面を前記金型の型面と同一面(±0.1mm以内)になるまで摺動させた後に冷却を完了させることを特徴とする接触型ICカードの製造方法である。
【0009】
更に,第2の発明は,前記金型の型面と前記摺動部材の端面で形成される凹部にはめ込む前に,前記ICモジュールの裏面に接着シートをラミネートすることを特徴とする,第1の発明に記載の接触型ICカードの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
上述した本発明によれば,ICモジュールを実装する専用装置であるICモジュール実装機が利用することなく接触型ICカードを製造する方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】接触型ICカードを説明する図。
【図2】射出成形機にセットされる金型を説明する図。
【図3】キャビティ型の断面を説明する図。
【図4】接触型ICカードの製造方法を説明する図。
【図5】金型にはめ込まれるICモジュールを説明する図。
【図6】UIMまたはSIMとして利用される接触型ICカードを説明する図。
【図7】金型の変形例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ここから,本願発明の実施形態について,本願発明の技術分野に係わる当業者が,本願発明の内容を理解し,本願発明を実施できる程度に説明する。
【0013】
図1は,本発明で製造される接触型ICカード2を説明する図である。図1(a)では,接触型ICカード2の外観を図示し,図1(b)では,接触型ICカード2に実装されるICモジュール20を図示している。
【0014】
図1(a)に図示したように,接触型ICカード2とは,外部装置と電気的に接触するための複数のコンタクト端子を有するICモジュール20が実装されたカードで,図1(b)に図示したように,接触型ICカード2に実装されるICモジュール20は,ガラエポなどの不導電性材料を基材とする基板20の片面に形成された複数のコンタクト端子22と,基板20の一方の面にモールドされたICチップ21を有している。
【0015】
従来,ザグリ方式または射出成形方式により,ICモジュール20の形状に合わせた凹部が形成されたプラスチックカードを製造しておき,インプランターとも称されるICモジュール実装機を利用してICモジュール20をプラスチックカードに実装することで,図1で図示した接触型ICカード2を製造していた。
【0016】
これに対し,本発明では,射出成形に利用される金型に,ICモジュール20を実装するための機能を備えさせることで,接触型ICカード2の形状に合わせたプラスチックカードを成形すると同時にICモジュール20も実装できるようにしている。
【0017】
接触型ICカード2の形状に合わせたプラスチックカードを成形すると同時にICモジュール20も実装できるようにすれば,ICモジュール実装機を用いてICモジュール20をプラスチックカード上に実装する工程を無くすことができると共に,該工程で発生していたICモジュール20の位置ズレ不良も低減することができる。
【0018】
ここから,本実施形態における射出成形用の金型1について説明する。図2は,射出成形機にセットされる金型1を説明する図である。射出成形機にセットされる金型1は,上側にセットされるコア型11と下側にセットされるキャビティ型10の対で構成される。
【0019】
本実施形態において,コア型11の型面110は平面で,接触型ICカード2の形状に合わせた凹状の型面100がキャビティ型10に形成され,金型1のコア型11とキャビティ型10が閉じられたとき,接触型ICカード2の形状に合わせたキャビティが形成される。なお,本実施形態において,キャビティに樹脂を流し込むための樹脂注入孔103は,金型1のキャビティ型に設けられている。
【0020】
図3は,金型1のキャビティ型10の断面を説明する図で,図2で図示したAからA‘の断面図である。図3に図示したように,金型1のキャビティ型10には,接触型ICカード2の形状に合わせたキャビティを形成するための型面100が形成されている。
【0021】
金型1のコア型11とキャビティ型10を重ねて閉じると,接触型ICカード2の形状に合ったキャビティが金型1の内部に形成され,樹脂注入孔103からプラスチック樹脂を注入し冷却することで,キャビティの形状に沿ったプラスチックカードが成形される。
【0022】
本実施形態においては,キャビティの形状に沿ったプラスチックカードを成形すると同時に,該プラスチックカードにICモジュール20を実装できるようにするために,ICモジュール20の実装位置に対応するキャビティ型10の型面100の箇所が,孔部101と摺動部材102によって摺動可能に構成されている。
【0023】
接触型ICカード2を製造するとき,摺動部材102の上面をキャビティ型10の型面100よりも下げ,キャビティ型10の型面100と摺動部材102の上面の段差によって形成される凹部12にICモジュール20をはめ込み,キャビティ型10の型面100を同一面になるまで,摺動部材102の上面を上げることで,キャビティの形状に沿ったプラスチックカードにICモジュール20が実装される。
【0024】
図2及び図3では,接触型ICカード2に実装されるICモジュール20の形状が,4つのコーナーにRのついた矩形であるため,孔部101及び摺動部材102の形状は,4つのコーナーにRのついた矩形の角柱としている。接触型ICカード2に実装されるICモジュール20の形状が楕円の場合,孔部101及び摺動部材102の形状は,上面及び底面が楕円の円柱になる。
【0025】
ICモジュール20に対する孔部101のクリアランスが大きいと,キャビティ型10の型面100と摺動部材102の上面の段差によって形成される凹部12にはめ込んだICモジュール20の位置がずれ,ICモジュール20の位置ズレ不良が発生するため,ICモジュール20に対する孔部101のクリアランスは+0.1mm程度にしている。
【0026】
また、摺動部材102が上限位置にあるとき、摺動部材102の上面とキャビティ形10の型面100に段差が生じると、接触型ICカード2のカード表面に段差が生じてしまうため、摺動部材102の上限位置は、摺動部材102を摺動させる機構によりキャビティ型10の型面100と同一面(±0.1mm以内)に規制される。なお,同一面に設けている誤差(±0.1mm以内)は,ISO/IEC7816の端子の凹凸の数値に準拠するように設定している。
【0027】
更に,図3を見ればわかるように,摺動部材102の下限位置は,摺動部材102の上面とキャビティ型10の型面100の段差によって生じる凹部12にICモジュール20がはめ込まれる程度に設定され,本実施形態において,上限位置から下方向に0.5mm下がった位置を摺動部材102の下限位置としている。なお,摺動部材102の下限位置はこの値である必要性はなく,ICモジュール20によっては,上限位置から下方向に0.1mm下がった位置でも問題ない。
【0028】
ここから,これまで説明した金型1を用いた射出成形法による接触型ICカード2の製造方法について説明する。図4は,接触型ICカード2の製造方法を説明する図である。
【0029】
これまで説明した金型1を用いた射出成形法によって接触型ICカード2を製造するとき,まず,図4(a)に図示しているように,金型1のキャビティ型10の摺動部材102を下限位置まで下げ,摺動部材102の上面と孔部100の上面によって形成される凹部12に,コンタクト端子22が形成されている面を下向きにして,接触型ICカード2に実装するICモジュール20をはめ込み,ICモジュール20をキャビティ型10にセットする。
【0030】
本実施形態では,摺動部材102の下限位置は,キャビティ型10の型面100よりも0.5mm下がった位置になるため,摺動部材102が下限位置の状態では,キャビティ型100の型面100と摺動部材102の上面との間に段差が生じ,この段差によって形成される凹部12にICモジュール20が収められた格好になる。
【0031】
摺動部材102の上面とキャビティ型100の型面100によって形成される凹部12にICモジュール20をセットすると,次に,図4(b)に図示しているように,金型1を40度から60度程度に加熱した後,ポリカーボネート,ABS樹脂,PET−G樹脂,PVC等,接触型ICカード2の基材となるプラスチック樹脂を樹脂注入孔103から注入する。
【0032】
なお,上述したように,接触型ICカード2に実装するICモジュール20はこの凹部12に収められた格好になっているため,接触型ICカード2の基材となるプラスチック樹脂を樹脂注入孔103から注入しても,樹脂注入孔103から注入されたプラスチック樹脂の流れによって,金型1のキャビティ型10にセットされたICモジュール20の位置がずれることはない。
【0033】
接触型ICカード2の基材となるプラスチック樹脂の注入が完了すると,次に,図4(c)に図示しているように,摺動部材102を上限位置,すなわち,キャビティ型10の型面100と同一面(±0.1mm以内)になるまで,摺動部材102を上方向に移動させた後,金型1の冷却を完了させる。
【0034】
図4を参照すればわかるように,コンタクト端子22が形成されている面を下向きにして,ICモジュール20が摺動部材102の上面にセットされているため,摺動部材102を上限位置まで移動させると,ICモジュール20のコンタクト端子22が形成されている面はキャビティ型10の型面100と同一面になり,接触型ICカード2のカード面とICモジュール20のコンタクト端子22が形成されている面が同一面(±0.1mm以内)になる。
【0035】
図5は,金型のキャビティ型の凹部12にはめ込まれるICモジュール20を説明する図である。ICモジュール20の基板の材質(例えば,ガラエポ)と,接触型ICカード2の基材となるプラスチック樹脂(例えば,ABS)との接着性は良好でないことが多いため,ICモジュール20のコンタクト端子22が形成されている面とは反対側の全面には,予め,ポリエステル樹脂やエポキシ樹脂を主成分としたホットメル系の接着シート23(厚さは,50μm)をラミネートしていることが望ましい。
【0036】
ICモジュール20にラミネートするホットメルト系の接着シート23は,軟化点が50度から100度の低温融着タイプ,または,軟化点が100度以上の耐熱タイプのいずれでも使用可能であるが,耐熱タイプの方が望ましい。また,ICモジュール20にラミネートする接着シート23は,ホットメルト系に限らず,熱硬化性も利用することができる。
【0037】
なお,当然のことながら,接触型ICカード2の基材となるプラスチック樹脂とICモジュール20の基板の接着性は良好である場合には,予め,ICモジュール20に接着シート23をラミネートする必要はない。
【0038】
なお、本発明は、これまで説明した実施の形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能である。
【0039】
これまで説明した製造方法によって製造可能な接触型ICカードは,図1で図示したような接触型ICカード2に限らず,接触型ICカードのICモジュール近傍を短冊状に切り取られることで利用可能となるUIMやSIMの製造にも適用できる。
【0040】
図6は,UIMやSIMとして利用される接触型ICカード3を説明する図で,図6で図示した接触型ICカード3には,ICモジュール30が実装され,ICモジュール30の周辺部に,UIMやSIMの形状に切り取るための溝31が加工されている。
【0041】
図6で図示した接触型ICカード3を製造するとき,図2及び図3を用いて説明したように,射出成形に利用される金型のキャビティ型の一部が,孔部及び摺動部材によって摺動可能に構成され,更に,コア型またはキャビティ型の型面に溝31を成形するための加工が施される。
【0042】
なお,UIMやSIMの形状に合ったキャビティを有するように金型を製造すれば,図6で図示したようなカード形状ではなく,UIMやSIMの形状を製造することができるようになる。
【0043】
また,上述した実施形態では,図2及び図3に図示したように,プラスチック樹脂をキャビティ内に注入する注入口をキャビティ型の下側から注入するように設けていたが,プラスチック樹脂をキャビティ内に注入する注入口は,図2及び図3に図示した位置に限定されることはなく,サイド側からプラスチック樹脂を注入する注入口を設けてもよく,上側からプラスチック樹脂を注入できる注入口を設けてもよい。
【0044】
更に,上述した実施形態では,図3に図示したように,接触型ICカードの形状に合わせたキャビティを形成する凹型の型面をキャビティ型のみに形成しているが,金型のコア型及びキャビティ型の型面も実施形態に限定されない。
【0045】
図7は,金型の変形例を説明する図である。図7(a)は,接触型ICカードの形状に合わせたキャビティを形成する凹型の型面がコア型11a及びキャビティ型10aが設けられた金型1aで,プラスチック樹脂を下側から注入する注入口103aがキャビティ型10aに設けられている。
【0046】
図7(b)は,接触型ICカードの形状に合わせたキャビティを形成する凹型の型面がコア型11b及びキャビティ型10bが設けられ金型1bで,プラスチック樹脂を上側から注入する注入口103bがコア型11bに設けられている。
【0047】
図7(c)は,接触型ICカードの形状に合わせたキャビティを形成する凹型の型面がコア型11c及びキャビティ型10cが設けられ金型1cで,プラスチック樹脂をサイド側から注入する注入口103cがキャビティ型10cに設けられている。
【0048】
図7(d)は,接触型ICカードの形状に合わせたキャビティを形成する凹型の型面がコア型11d及びキャビティ型10dが設けられ金型1dで,プラスチック樹脂をサイド側から注入する注入口103dがコア型11dに設けられている。
【0049】
図7(e)は,接触型ICカードの形状に合わせたキャビティを形成する凹型の型面がコア型11e及びキャビティ型10eが設けられ金型1eで,プラスチック樹脂をサイド側から注入する注入口103eがコア型11e及びキャビティ型10eに設けられている。
【符号の説明】
【0050】
1 金型
10 キャビティ型
100 キャビティ型の型面
101 孔部
102 摺動部材
103 樹脂注入孔
11 コア型
110 コア型の型面
2 接触型ICカード
20 ICモジュール


【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触型ICカードの形状に合わせたキャビティを有する金型を用いた射出成形による接触型ICカードの製造方法であって,ICモジュールの実装位置に対応する前記金型の箇所を,摺動孔部と摺動部材によって摺動可能に構成しておき,前記金型の型面との間に所定の長さの段差ができるまで前記摺動部材を摺動させ,前記金型の型面と前記摺動部材の端面で形成される凹部に,コンタクト端子が形成されている面が前記摺動部材の端面側と対向するように前記ICモジュールをはめ込み,前記ICモジュールが前記凹部にはめ込まれた状態でプラスチック樹脂を前記キャビティ内に注入し,前記摺動部材の端面を前記金型の型面と同一面になるまで摺動させた後に冷却を完了させることを特徴とする接触型ICカードの製造方法。
【請求項2】
前記金型の型面と前記摺動部材の端面で形成される凹部にはめ込む前に,前記ICモジュールの裏面に接着シートをラミネートすることを特徴とする,第1の発明に記載の接触型ICカードの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−70357(P2011−70357A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220227(P2009−220227)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】