説明

推定値処理装置、プログラム及び方法

【課題】 当初は同一信号であった第1の信号と、第2の信号との時間差である遅延時間の推定において、誤った時間を推定結果としてしまう頻度を低減する。
【解決手段】 本発明は、当初は同一信号であった第1の信号と、第2の信号との時間差である遅延時間を推定値として複数回求める推定装置の推定結果を処理する推定値処理装置に関する。そして、推定値処理装置は、推定装置が求めた推定値について、値ごとに出現回数をカウントする手段と、値ごとの出現回数の分布状況に基づいて代表値を抽出する手段と、抽出された代表値を出力する出力手段とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定値処理装置、プログラム及び方法に関し、例えば、電話回線のエコー経路に係る遅延時間の推定に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
特許文献1〜5では、電話回線におけるエコーを消去するエコーキャンセラなどにおいて、擬似エコーを生成するために、エコー経路における往復伝搬遅延時間(以下、単に「遅延時間」ともいう)を推定する方法や装置について記載されている。
【特許文献1】特開平9−55687号公報
【特許文献2】特表2001−501413号公報
【特許文献3】特開平7−283859号公報
【特許文献4】特開平7−303061号公報
【特許文献5】特表2005−528039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
エコーキャンセラにおいては、例えば、ダブルトーク状態など、実際の伝搬遅延時間とは大きく乖離した時間が推定結果となってしまう要因があり、そのような推定時間に基づいて擬似エコーを生成すると通信品質が劣化するという問題がある。
【0004】
そのため、当初は同一信号であった第1の信号と、第2の信号との時間差である遅延時間の推定において、誤った時間を推定結果としてしまう頻度を低減することができる推定値処理装置、プログラム及び方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の本発明の推定値処理装置は、(1)当初は同一信号であった第1の信号と、第2の信号との時間差である遅延時間を推定値として複数回求める推定装置の推定結果を処理する推定値処理装置において、(2)上記推定装置が求めた推定値について、値ごとに出現回数をカウントする出現回数カウント手段と、(3)上記出現回数カウント手段における、各値の出現回数の分布に基づいて代表値を抽出する代表値抽出手段と、(4)上記代表値抽出手段により抽出された代表値を出力する出力手段とを有することを特徴とする。
【0006】
第2の本発明の推定値処理プログラムは、(1)当初は同一信号であった第1の信号と、第2の信号との時間差である遅延時間を推定値として複数回求める推定装置の推定結果を処理する推定値処理装置に搭載されたコンピュータを、(2)上記推定装置が求めた推定値について、値ごとに出現回数をカウントする出現回数カウント手段と、(3)上記出現回数カウント手段における、各値の出現回数の分布に基づいて代表値を抽出する代表値抽出手段と、(3)上記代表値抽出手段により抽出された代表値を出力する出力手段として機能させることを特徴とする。
【0007】
第3の本発明の推定値処理方法は、(1)当初は同一信号であった第1の信号と、第2の信号との時間差である遅延時間を推定値として複数回求める推定装置の推定結果を処理する推定値処理方法において、(2)出現回数カウント手段、代表値抽出手段、出力手段を有し、(3)上記出現回数カウント手段は、上記推定装置が求めた推定値について、値ごとに出現回数をカウントし、(4)上記代表値抽出手段は、上記出現回数カウント手段における、各値の出現回数の分布に基づいて代表値を抽出し、(5)上記出力手段は、上記代表値抽出手段により抽出された代表値を出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
当初は同一信号であった第1の信号と、第2の信号との時間差である遅延時間の推定において、誤った時間を推定結果としてしまう頻度を低減する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(A)第1の実施形態
以下、本発明による推定値処理装置、プログラム及び方法の第1の実施形態を、図面を参照しながら詳述する。
【0010】
(A−1)第1の実施形態の構成
図1は、第1の実施形態の推定値処理装置の機能的構成を示すブロック図である。
【0011】
図1において、推定装置20は、例えば、電話回線のエコー経路に係る伝搬遅延時間について推定し、その推定結果を、推定値候補Nとして推定値処理装置10に与えるものが該当する。推定装置20としては、例えば、特許文献1〜5におけるエコー経路に係る遅延時間を推定する装置を適用することができるので詳しい説明を省略する。そして、推定値処理装置10は、推定装置20から与えられた推定値候補Nのうち有意と判定できるものを抽出して出力する。例えば、推定装置20が、エコーキャンセラにおいて、エコー経路に係る伝搬遅延時間を推定するものである場合には、推定値処理装置10は、有意と判定した値を、そのエコーキャンセラに与え、エコーキャンセラにおいて擬似エコーの生成に用いることが挙げられる。
【0012】
図2は、推定装置20において、遅延時間を推定する方法の例について示した説明図である。
【0013】
推定装置20においては、エコー経路に流れる遠端入力信号と、エコー経路から近端入力信号として流れてくるエコーの、単位時間(所定時間)における正規化相互相関係数が、時間差(τ)ごとに求められる。図2は、時間差ごとの相互相関係数について表したグラフである。通常、正規化相互相関係数は、−1から1までの値をとるが、図2においては、便宜上負の値を取った場合は、相互相関係数は0とみなして表示している。推定装置20では、このようなグラフにおける相互相関係数が最大となる値が、単位時間ごとに遅延時間の推定値(以下、「推定値候補N」という)として、推定値処理装置10に与えられるものとする。
【0014】
推定値処理装置10は、推定装置20から与えられたNについて、統計的信頼性の高い値、例えば、Nの出現傾向から、最も出現する確率の高い値を抽出して、最終的な推定結果として出力するものである。推定値処理装置10は、Nの出現傾向から、最も出現する確率の高い値を抽出する方法として多数決論理を用いている。
【0015】
推定値処理装置10は、比較器11、推定値候補選別器12、主カウンタ13、推定値候補有意性判定器14、を有している。推定値処理装置10は、CPU、ROM、RAM、EEPROM、ハードディスクなどのプログラムの実行構成(1台に限定されず、複数台を分散処理し得るようにしたものであっても良い。)に、実施形態の推定値処理プログラム等をインストールすることにより構築しても良く、その場合でも機能的には上述の図1のように示すことができる。なお、推定値処理装置10の各構成要素は、ハードウェアのみで実現しても良いし、ハードウェアとソフトウェアの混成により実現しても良い。
【0016】
比較器11は、推定装置20から出力されたNと、推定値候補選別器12に設定されている値とを比較し、その比較結果を、推定値候補選別器12、主カウンタ13に与えるものである。比較器11は、予め設定された範囲内の差分(以下、この「n」と表す)以内であれば許容し、主カウンタ13のカウンタ値を制御して1を加算し、そうでない場合には1減算させる。
【0017】
主カウンタ13は、比較器11からの制御に応じて値を増減させるカウンタである。主カウンタ13の初期値は、0であるものとして説明する。
【0018】
推定値候補選別器12は、推定装置20から出力される推定結果候補Nについて、統計的信頼性の評価を行い、統計的信頼性の最も高いものを、推定値候補有意性判定器14に与える。推定値候補選別器12における処理内容の詳細については、後述する動作説明において詳述する。
【0019】
推定値候補選別器12は、推定値候補カウンタ15を備えている。推定値候補カウンタ15は、複数のカウンタにより構成されており、推定装置20から得たNについて、値ごとに得られた回数を記録する。上述の通り、推定値候補選別器12が、許容する差分はnであるので、最初に得られた推定値候補N=Dとすると、推定値候補カウンタ15には、D−n、D−n+1、D−n+2、…、D−n+(n−1)、D、D+n−(n−1)、…、D+n−2、D+n−1、D+nと、2n+1個のカウンタを備えるようにしても良い。
【0020】
推定値候補カウンタ15が備えるカウンタが記録する値は、Dを中心として前後n個ずつのカウンタが配置されることになる。推定値候補選別器12は、主カウンタ13の値が予め設定した数(以下、「m」と表す)に達するまで、推定値候補カウンタ15のカウンタの値を更新する。
【0021】
そして、推定値候補選別器12は、主カウンタ13のカウンタ値がmに達した段階で、推定値候補カウンタ15が備える各カウンタの中で、最もカウント回数の多い推定値候補、即ち、最も出現回数の多かった推定値候補を、最尤値(以下、「Z」と表す)と決定する。そして、推定値候補選別器12は、決定した最尤値Zと、その時点の推定値候補カウンタ15の各カウンタ値を、推定値候補有意性判定器14に与える。
【0022】
推定値候補有意性判定器14は、推定値候補選別器12から与えられた最尤値Zと、推定値候補カウンタ15の各カウンタ値に基づいて、最尤値Zを有意であるか否かを判定し、有意であると判定した場合にのみ最尤値Zを有意な推定値として出力する。
【0023】
推定値候補有意性判定器14において、最尤値Zを有意な値であるか否かを判定する方法としては、例えば、推定値候補カウンタ15の各カウンタ値において、最尤値Zのカウンタ値に係る確率密度に応じて判定しても良い。最尤値Zのカウンタ値に係る確率密度としては、例えば、最尤値Zのカウンタ値と、全ての値のカウンタ値の合計との比率により求めるようにしても良い。
【0024】
推定値候補が、D±nの範囲であり、それぞれの推定値候補に対応するカウンタ値を、C(D−n)、C(D−n+1)、…、C(D−1)、C(D)、C(D+1)、…、C(D+n−1)、C(D+n)と表すものとする。例えば、「C(D)」は、推定値候補の値がDに該当する推定値候補カウンタ15のカウンタ値である。この場合、推定値候補カウンタ15のカウンタ値に係る確率密度は、例えば、以下の(1)式により表すことができる。
【数1】

【0025】
(1)式においては、X(N)の値が1に近づくほど、最尤値Zに係る確率密度は高いことを示し、X(N)の値が1/(2n+1)に近いほど、最尤値Zに係る確率密度は低いことを示す。そして、X(N)が、閾値(以下、「k」と表す)以上である場合にのみ、推定値候補有意性判定器14において、最尤値Zを有意な値であると判定して推定値処理装置10の出力とするようにしても良い。
【0026】
なお、推定値処理装置10における推定値の出力は、エコーキャンセラへ推定値を与えるだけではなく、例えば、ディスプレイ等の表示装置に表示出力させたり、ディスク装置等の記憶装置に記憶させたり、プリンタ等の印刷装置に印刷出力させたりする構成としてもよく、その出力方法は問われないものである。
【0027】
(A−2)第1の実施形態の動作
次に、以上のような構成を有する第1の実施形態の推定値処理装置の動作を説明する。
【0028】
図3は、推定値処理装置10の動作について説明したフローチャートである。
【0029】
なお、図3の説明において推定値処理装置10では、処理の過程で用いる変数として「D」が用いられるものとする。
【0030】
推定値処理装置10では、まず最初に、変数Dの初期化(例えば、NULLなどの値)、主カウンタ13の初期化(カウンタ値を0に設定)などが行われた後に、推定装置20からNが報告されるのが待たれる(S100)。そして、推定装置20からNが報告されると、推定値候補選別器12において、最新に報告されたNが変数Dに格納され、主カウンタ13のカウンタ値に1加算され、さらに、推定値候補カウンタ15のうち「C(D)」のカウンタ値に1加算され、次のNの報告が待たれる(S101)。
【0031】
上述のステップS101の状態において、推定装置20から次にNが報告されると、Dと最新に報告されたNの値が比較され、D±nの範囲内であれば、主カウンタ13のカウンタ値に1加算され、さらに、推定値候補カウンタ15のうち「C(D+(N−D))」のカウンタ値に1加算され、次のステップ(後述するステップS102)に遷移する。なお、図3では、最新に報告されたNの値がD±nの範囲内であり、次のステップへ進む場合には「Yes」と表記している。
【0032】
上述のステップS102の状態において、推定装置20から報告されたNが、D±nの範囲外である場合には、主カウンタ13のカウンタ値が1減算され、一つ前のステップ(上述のステップS101)に戻って動作する。なお、図3では、最新に報告されたNの値がD±nの範囲内外であり、一つ前のステップへ戻る場合には「No」と表記している。
【0033】
以下同様に処理を進めていき、ステップSmに到達した時点、すなわち主カウンタ13のカウンタ値がmに到達した時点で、推定値候補選別器12では、推定値候補カウンタ15の各カウンタ値のうち、最もカウンタ値の大きいカウンタに対応する推定結果候補が、最尤値Zとして決定され、最尤値Zが、推定値候補有意性判定器14に与えられる。
【0034】
そして、推定値候補有意性判定器14では、推定値候補カウンタ15の各カウンタ値と、最尤値Zとを、上記の(1)式にあてはめて、確率密度X(N)を算出し、X(N)が閾値k以上の値である場合にのみ、最尤値Zを有意な推定結果として出力し、再度ステップS101から動作する。
【0035】
(A−3)第1の実施形態の効果
第1の実施形態によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0036】
第1の実施形態では、単純にDとの比較で多数決論理を用いるのではなく、D±nと多数決論理の範囲を広げて最尤値Zを求めている。
【0037】
以下、単純にDとの比較で多数決論理を用いて推定値候補Nから統計的信頼性のある値を抽出する方法について説明する。
【0038】
図4は、多数決論理により、推定装置20から報告される推定値候補Nから統計的信頼性の高い値を抽出する処理の例を示したフローチャートである。
【0039】
図4(a)では、まず、変数Dを初期化(S200)した後、最初に報告されたNを変数Dに代入し(S201)、その後Dと同一の値が報告された場合には次のステップに進み、そうでない場合には一つ前のステップに戻ることを繰り返し、ステップSm(「m2」は、予め設定された所定の値)に到達した時点で、Dについては、統計的信頼性は得られたと想定する処理について説明している。図4(b)では、まず、変数Dを初期化(S300)し、最初に報告されたNを変数Dに代入し(S301)、その後Dと同一の値が報告された場合には次のステップに進み、そうでない場合には最初のステップ(S300)に戻ることを繰り返し、ステップSm(「m3」は、予め設定された所定の値)に到達した時点で、Dについては、統計的信頼性は得られたと想定する処理について説明している。
【0040】
例えば、上述の図4のフローチャートでは、Dは必ずしも出現回数の一番多い値(第1の実施形態の最尤値Zにあたる値)ではなく、ステップS201又はS301の時点の推定値候補Nが代入されるので、特に、第1の実施形態では、推定装置20における推定値候補Nが微細な変動(例えば、「D、D−1、D、D+1」とD±1の範囲で変動している場合)を繰り返している場合には、最終的(ステップSmの時点)なDの値は、出現回数の一番多い値(第1の実施形態の最尤値Zにあたる値)にならない可能性が高くなるが、第1の実施形態では、そのような微細な変動があっても、出現回数の一番多い推定値候補を、最尤値Zとして抽出することができる。このように、第1の実施形態では、多数決論理の範囲を広げて最尤値Zを求めることにより、統計的信頼性の高い推定値を抽出し、誤った値を推定結果としてしまう頻度を低減することができる。
【0041】
また、第1の実施形態では、推定値候補から多数決論理を用いて最尤値Zを抽出している。このように多数決論理の範囲内でも、さらに多数決を取ることにより、最尤値Zを決定しやすくしている。
【0042】
また、第1の実施形態では、最尤値Zについて、さらに、推定値候補有意性判定器14により、最尤値Zに係る確率密度を用いて有意性を判定し、有意と判定したものだけを出力するようにしている。これにより、推定値候補選別器12により求められた最尤値Zの中でも、より統計的信頼性の高い値だけを求め、推定値候補Nが擾乱している状態でも安定した推定値の抽出をすることができる。
【0043】
(B)第2の実施形態
以下、本発明による推定値処理装置、プログラム及び方法の第2の実施形態を、図面を参照しながら詳述する。
【0044】
(B−1)第2の実施形態の構成
図5は、第2の実施形態の推定値処理装置10Aの機能的構成を示すブロック図である。
【0045】
推定値処理装置10Aは、比較器11、推定値候補選別器12、主カウンタ13、推定値候補有意性判定器14A、推定値候補カウンタ15、推定時間計測カウンタ16を有している。第2の実施形態の推定値処理装置10Aは、第1の実施形態の推定値処理装置10Aにおいて、推定値候補有意性判定器14が、推定値候補有意性判定器14Aに置き換えられ、さらに、推定時間計測カウンタ16が追加されたものである。比較器11、推定値候補選別器12、主カウンタ13、推定値候補カウンタ15については、第1の実施形態のものと同様であるので詳しい説明を省略する。
【0046】
推定時間計測カウンタ16は、最初に、推定装置20から推定値候補Nが報告されてから、主カウンタ13の値がmに達するまでの間の時間を計時し、計時した時間を、推定値候補有意性判定器14Aに与えるものである。
【0047】
推定値候補有意性判定器14Aは、上述の確率密度X(N)に加えて、推定時間計測カウンタ16の計時した時間も用いて、最尤値Zの有意性を判定する。
【0048】
例えば、推定時間計測カウンタ16の計時した時間が閾値(以下、「j」という)以下であった場合にのみ、最尤値Zを有意な値であると判定するようにしても良い。すなわち、推定値候補有意性判定器14Aにおいては、確率密度X(N)が閾値k以上で、かつ、推定時間計測カウンタ16の計時した時間が閾値j以下である場合にのみ、最尤値Zが有意な値として判定されることになる。
【0049】
(B−2)第2の実施形態の動作
次に、以上のような構成を有する第2の実施形態の推定値処理装置の動作を説明する。
【0050】
推定値処理装置10Aにおいて、統計的信頼性の評価を行う動作についても、第1の実施形態における上述の図3を用いて説明することができる。
【0051】
以下、第2の実施形態の動作について、第1の実施形態との差異を説明する。
【0052】
第2の実施形態においては、上述のステップS101の状態になると、推定時間計測カウンタ16による時間の計時が開始される。
【0053】
そして、ステップSmにおいては、上述の説明の通り、推定値候補有意性判定器14Aでは、上述の確率密度X(N)に加えて、推定時間計測カウンタ16の計時した時間も用いて、最尤値Zの有意性が判定されることになる。
【0054】
(B−3)第2の実施形態の効果
第2の実施形態では、推定値候補有意性判定器14Aにおいて、確率密度X(N)だけでなく、推定時間計測カウンタ16が計時している時間も有意性の判定に用いている。推定時間計測カウンタ16が計時する時間が短いほど、推定装置20による推定候補値Nは、変動が少ないと考えることができるので、そのような状態で求められた推定値は統計的信頼性が高いと判定することができる。このように、第2の実施形態では、第1の実施形態と比較して、誤った値を推定値としてしまう頻度をより低減することができるという効果を奏する。
【0055】
(C)他の実施形態
本発明は、上記の各実施形態に限定されるものではなく、以下に例示するような変形実施形態も挙げることができる。
【0056】
(C−1)上記の各の実施形態では、推定値候補選別器において、2n+1個のカウンタを配置し、各値の出現回数をカウントしているが、値ごとにカウンタを配置せずに、推定装置20から与えられた推定値候補Nから与えられる値ごとにカウンタを割り当てるようにしても良い。2n+1個のカウンタを予め用意しておくのではなく、例えば、推定装置20から推定値候補として、「100,101,100,102」という4つの推定値候補が与えられた場合には、100、101、102と3種類の値に対応するカウンタを確保することが挙げられる。すなわち、最新に推定装置20から与えられた推定値候補Nが、過去に与えられたことのない値だった場合に、はじめてその値に対応するカウンタを割り当てるようにしても良い。
【0057】
(C−2)上記の各実施形態において、推定装置20としては、例えば、電話回線におけるエコー経路に係る伝搬遅延時間について推定し、その推定結果を、推定値候補Nとして推定値処理装置10に与えるものとして説明したが、対象のエコーとしては、回線エコーでも、音響エコー(例えば、会議システムなどでスピーカとマイク間の音響結合で発生するエコー)でも良い。また、推定装置20が推定する内容としては、例えば、探査信号を発射し目標物で反射されて戻ってくるまでの往復伝搬遅延時間を測定するものであっても良い。このようなシステムには、例えば、レーダやソナーを使用した遠隔探査システムなどがある。
【0058】
(C−3)上記の各実施形態において、推定装置と推定値処理装置は別個の装置として記載しているが、一つの装置としても良い。例えば、推定装置に本発明の推定値処理装置を搭載し、推定値処理装置による出力を推定装置の最終的な出力結果とするようにしても良い。
【0059】
(C−4)上記の各実施形態においては、推定装置は、単位時間ごとなど所定の時間おきに推定値候補を推定値処理装置に供給しているが、例えば、推定値候補の列を一時に供給するようにしても良いし、不定期の間隔で与えるようにしても良く、推定値候補を供給されるタイミングは限定されないものである。
【0060】
(C−5)上記の各実施形態において、推定値候補選別器12が抽出する最尤値Zは、最も出現回数が多い推定値候補を適用しているが、そのほかの推定値候補を代表する値(以下、「代表値」という)を、推定値候補の出現回数の分布状況から抽出して適用するようにしても良い。
【0061】
最も出現回数が多い推定値候補以外の代表値としては、例えば、中央値を取ることが挙げられる。例えば、推定値候補が、100、101、102の3種類であった場合には、中央値である101を代表値として適用しても良い。例えば、推定値候補の出現回数が正規分布である場合には、中央値と出現回数が最大となる推定値候補も一致する可能性が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】第1の実施形態に係る推定値処理装置の機能的構成を示したブロック図である。
【図2】第1の実施形態の推定値処理装置に入力される情報の例について示した説明図である。
【図3】第1の実施形態の推定値処理装置の動作について説明したフローチャートである。
【図4】多数決論理により推定値候補から統計的信頼性の高い値を抽出する処理の例について示したフローチャートである。
【図5】第2の実施形態に係る推定値処理装置の機能的構成を示したブロック図である。
【符号の説明】
【0063】
20…推定装置、10…推定値処理装置、11…比較器、12…推定値候補選別器、13…主カウンタ、推定値候補有意性判定器14、推定値候補カウンタ15。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
当初は同一信号であった第1の信号と、第2の信号との時間差である遅延時間を推定値として複数回求める推定装置の推定結果を処理する推定値処理装置において、
上記推定装置が求めた推定値について、値ごとに出現回数をカウントする出現回数カウント手段と、
上記出現回数カウント手段における、各値の出現回数の分布に基づいて代表値を抽出する代表値抽出手段と、
上記代表値抽出手段により抽出された代表値を出力する出力手段と
を有することを特徴とする推定値処理装置。
【請求項2】
上記代表値抽出手段により抽出された代表値に係る確率密度に応じて、代表値が上記推定装置の推定結果として有意であるか否かを判定する有意性判定手段をさらに有し、
上記出力手段は、上記有意性判定手段により有意と判定された代表値のみを出力する
ことを特徴とする請求項1に記載の推定値処理装置。
【請求項3】
上記有意性判定手段は、上記代表値抽出手段により抽出された代表値に対応する上記出現回数カウンタによりカウントされた出現回数と、上記出現回数カウンタがカウントした全ての値の出現回数の合計との比率に応じて、代表値が、上記推定装置の推定結果として有意であるか否かを判定することを特徴とする請求項2に記載の推定値処理装置。
【請求項4】
上記出現回数カウンタは、最新に上記推定装置から与えられた推定値と、過去に上記推定装置から与えられた推定値のうち基準となる基準値との差分が閾値以上であった場合には、その最新の推定値については出現回数をカウントしないことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の推定値処理装置。
【請求項5】
上記代表値抽出手段は、上記出現回数カウント手段において、全ての値の出現回数の合計が合計閾値以上となった場合に代表値を抽出することを特徴とする請求項4に記載の推定値処理装置。
【請求項6】
上記代表値抽出手段が抽出する代表値は、上記出現回数カウント手段において、最も出現回数の多い値であることを特徴とする請求項1〜5に記載の推定値処理装置。
【請求項7】
上記出現回数カウント手段において、最初に上記推定装置から推定値が与えられてから、全ての値の出現回数の合計が上記合計閾値以上となるまでの到達時間を計時する到達時間計時手段をさらに有し、
上記有意性判定手段は、さらに上記到達時間計時手段が計時した到達時間も用いて、代表値が、上記推定装置の推定結果として有意であるか否かを判定する
ことを特徴とする請求項5に記載の推定値処理装置。
【請求項8】
当初は同一信号であった第1の信号と、第2の信号との時間差である遅延時間を推定値として複数回求める推定装置の推定結果を処理する推定値処理装置に搭載されたコンピュータを、
上記推定装置が求めた推定値について、値ごとに出現回数をカウントする出現回数カウント手段と、
上記出現回数カウント手段における、各値の出現回数の分布に基づいて代表値を抽出する代表値抽出手段と、
上記代表値抽出手段により抽出された代表値を出力する出力手段と
して機能させることを特徴とする推定値処理プログラム。
【請求項9】
当初は同一信号であった第1の信号と、第2の信号との時間差である遅延時間を推定値として複数回求める推定装置の推定結果を処理する推定値処理方法において、
出現回数カウント手段、代表値抽出手段、出力手段を有し、
上記出現回数カウント手段は、上記推定装置が求めた推定値について、値ごとに出現回数をカウントし、
上記代表値抽出手段は、上記出現回数カウント手段における、各値の出現回数の分布に基づいて代表値を抽出し、
上記出力手段は、上記代表値抽出手段により抽出された代表値を出力する
ことを特徴とする推定値処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−93720(P2010−93720A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264180(P2008−264180)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【出願人】(593065844)株式会社沖コムテック (127)
【Fターム(参考)】