説明

搬送システムにおける走行車への速度指令装置、速度指令方法、及びプログラム

【課題】走行車の制振制御と位置精度とを両立する速度指令装置、及び速度指令方法を提供する。
【解決手段】前記走行車の走行位置に応じて、走行速度の基準となる参照速度Vrefとその参照速度Vrefが適用される区間の終点である中間目標位置とを決定する参照速度決定部65と、前記決定される参照速度Vrefの時系列変化によって生じる周波数成分から特定の周波数成分を削減することにより前記走行車への指令速度Vcmdを算出する指令速度算出部66と、前記決定された参照速度Vrefと前記算出された指令速度Vcmdとの差に応じて前記決定された中間目標位置を補正する中間目標位置補正部68とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送システムにおける走行車への速度指令装置、速度指令方法、及びプログラムに関し、特に、走行車の速度制御において制振と位置精度とを両立させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、搬送システムにおいて物品を運搬するための様々な走行車が用いられている。例えば、クリーンルームにおける天井走行型の搬送車、大型液晶パネルの搬送車、及び自動倉庫におけるスタッカクレーン等は、そのような走行車の一例である。
【0003】
一般に、走行車には加速時や減速時に受ける力に応じて力学的な振動が生じることが知られている。そのような振動は、走行車の安定した高速走行を困難にし、また走行車の停止後、振動が収まるまでの間、積荷の移載を制限する要因となる。そのため、従来から、走行車に生じる振動を抑制する種々の技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
特許文献1は、ガイドレールに接する制振用のローラを上部台車に設け、そのローラを制動トルクの調整が可能な電磁ブレーキに接続してなるスタッカクレーンを開示する。
【0005】
この構成によれば、積荷の有無や積載位置(重心位置)に応じた最適な制動トルクで上部台車を制動することができる。その結果、上部台車の振動、つまりスタッカクレーンの停止時のマストの揺れが効果的に抑制され、走行車の安定した高速走行や、停止後の迅速な積荷の移載が可能になる。
【0006】
また、デジタル制御技術の発展により、走行車に与える指令速度そのものに走行車の振動を抑制する働きを持たせる制振技術の実用化も進んでいる。
【0007】
そのような技術では、例えば、走行車の固有振動数を予め測定し、その固有振動数の成分を削減した指令速度を走行車に与えることにより、走行車の振動を抑制する。具体的には、前記指令速度は、走行速度の基準となる参照速度の時系列変化によって生じる周波数成分から、例えばノッチフィルタを用いて前記固有振動数の成分を削減することにより算出される。また、例えば、発生する振動に対して逆位相の振動を積極的に加えた指令速度を走行車に与えることにより、走行車の振動を抑制してもよい。
【特許文献1】特開2003−237910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、指令速度そのものに走行車の振動を抑制する機能を持たせる従来技術によれば、合理的な制振制御が可能となる反面、参照速度と指令速度との差から生じる位置ずれのために、走行車の位置精度が損なわれるという不利がある。
【0009】
そのため、従来から制振制御と位置精度とを両立する制御技術が求められているが、定石となる手法は確立しておらず、都度の対策がなされているのが現状である。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、走行車の制振制御と位置精度とを両立する速度指令装置、及び速度指令方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題を解決するため、本発明の速度指令装置は、搬送システムにおいて走行車に対し走行すべき速度を指令する速度指令装置であって、前記走行車の走行位置に応じて、走行速度の基準となる参照速度とその参照速度が適用される区間の終点である中間目標位置とを決定する参照速度決定手段と、前記決定される参照速度の時系列変化によって生じる周波数成分から特定の周波数成分を削減することにより前記走行車への指令速度を算出する指令速度算出手段と、前記決定された参照速度と前記算出された指令速度との差に応じて前記決定された中間目標位置を補正する中間目標位置補正手段とを備える。
【0012】
この構成によれば、前記削減される特定の周波数成分を前記走行車の固有振動数とすることにより、前記指令速度に前記走行車の振動を抑制する機能を与えることができる。このとき、参照速度と指令速度との差から生じる位置のずれ量に応じて中間目標位置を補正することによって、補正後の中間目標位置において位置ずれを修正する機会が得られる。
【0013】
例えば減速時において、指令速度で走行することによって到達する位置が参照速度で走行することによって到達する中間目標位置を行き過ぎる方向にずれる場合には、中間目標位置をもっと手前の位置に補正する。
【0014】
そうすれば、走行車が補正前の中間目標位置まで指令速度に従って走りきってしまう前に、補正後の中間目標位置において指令速度を見直すことができ、位置ずれの修正が可能となる。
【0015】
また、前記参照速度決定手段は、前記中間目標位置が補正されたときに、前記走行車が前記補正後の中間目標位置に既に到達しているか否かを確認し、到達している場合、さらに先の走行位置に対応する新たな参照速度と新たな中間目標位置とを決定してもよい。
【0016】
この構成によれば、補正後の中間目標位置において好適な参照速度と中間目標位置とを決定することにより位置ずれを修正できるので、位置決め精度の悪化が防止され、前記走行車は、最終目的地に精度よく停止することができる。
【0017】
また、前記参照速度決定手段は、新たな走行速度と新たな中間目標位置とを周期的に決定してもよい。
【0018】
この構成によれば、位置ずれが長期間に渡って累積することがないので、その結果、出発地から最終目的地までの広い範囲において走行車の位置精度が高まる。
【0019】
また、本発明は、このような速度指令装置として実現できるだけでなく、速度指令方法として実現することもでき、また、そのような速度指令方法に含まれるステップをコンピュータに実行させるプログラムとして実現することもできる。そして、そのようなプログラムは、CD−ROM等の記録媒体やインターネット等の伝送媒体を介して配信できることはいうまでもない。
【発明の効果】
【0020】
前記説明したように、本発明の速度指令装置によれば、走行車の走行位置に応じて走行速度の基準となる参照速度を決定し、決定される参照速度の時系列変化によって生じる周波数成分から前記走行車の固有振動数成分を削減することにより指令速度を生成できるので、前記走行車の振動を抑制する機能を持つ指令速度が得られる。
【0021】
このとき、参照速度と指令速度との差から生じる位置のずれ量に応じて中間目標位置が補正されるので、補正後の中間目標位置において位置ずれを修正する機会が得られる。
【0022】
例えば減速時において、指令速度で走行して到達する位置が参照速度で走行して到達する中間目標位置を行き過ぎる方向にずれる場合には、中間目標位置をもっと手前の位置に補正する。そうすれば、走行車が補正前の中間目標位置まで指令速度に従って走りきってしまう前に、補正後の中間目標位置において指令速度を見直すことができ、位置ずれの修正が可能となる。
【0023】
その結果、位置決め精度の悪化が防止され、前記走行車は、最終目的地に精度よく停止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施の形態における速度指令装置、及び速度指令方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
図1は、本実施の形態における走行車の一例として、自動倉庫で用いられるスタッカクレーンの構成を模式的に示す図である。
【0026】
図1に示されるスタッカクレーン1は、自動倉庫において図示しないラックに沿って床面に敷設されたレール2を走行する。ラックは、多数の収納棚を縦横に連ねてなる。スタッカクレーン1は、所望の収納棚の位置までレール2を走行し荷台70を昇降することによって、荷台70とその収納棚との間で物品を移載する。
【0027】
スタッカクレーン1は、下部台車10と上部台車20とをマスト31及びマスト32で連結して構成される。
【0028】
下部台車10には、スタッカクレーン1がレール2を走行するための車輪41及び車輪42、車輪41及び車輪42を駆動する走行モータ51及び走行モータ52、並びに走行モータ51及び走行モータ52を制御する制御装置60が取り付けられる。
【0029】
マスト31及び32には荷台70が昇降可能に取り付けられる。荷台70には、荷台70とラックの収納棚との間で物品を移載する移載装置71が設けられる。
【0030】
マスト31には、回動によりワイヤロープ80を出退させるドラム81、及びドラム81を回動させるウィンチモータ82が取り付けられ、上部台車20には、ワイヤロープ80を案内するシーブ83及びシーブ84が取り付けられる。
【0031】
荷台70は、ワイヤロープ80によって懸吊され、ウィンチモータ82の動作に応じてマスト31及びマスト32の間を昇降する。
【0032】
高層の自動倉庫で用いられるような背高なスタッカクレーンでは、一般に、スタッカクレーンそのものの上部質量や高層まで持ち上げた積荷の質量に対してスタッカクレーンの剛性が不足するために、加速時及び減速時に受ける力に応じて大きな振動が生じやすい。そのため、スタッカクレーンにおける制振制御は、実用上必須と言える。
【0033】
スタッカクレーン1における制御装置60は、スタッカクレーン1の振動を抑制すると共に、スタッカクレーン1の位置決め精度の悪化を防止する働きを持つ指令速度を生成し、生成された指令速度に従って走行モータ51及び走行モータ52を制御する。
【0034】
図2は、制御装置60の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【0035】
図2に示される制御装置60は、位置速度特定部62、モータ駆動制御部63、及び本発明に係る速度指令装置の一例としての速度指令部61からなる。
【0036】
制御装置60は、例えばDSP(Digital Signal Processor)がROM(Read Only Memory)等に予め記憶されているプログラムを実行することによって果たされるソフトウェア機能として実現されてもよい。その場合、図2に示される各ユニットは、プログラムモジュールに対応する。また、図2に示される各信号はRAM(Random Access Memory)等に割り当てられる変数の値によって表されるデジタル情報である。
【0037】
位置速度特定部62は、例えば車輪41、車輪42、走行モータ51、又は走行モータ52の回転量を検出する図示しないセンサから得られるセンサ信号を取得し、スタッカクレーン1の現在位置Xcurと走行速度Vcurとを特定する。
【0038】
位置速度特定部62は、検出された回転量の出発地からの累算により現在位置Xcurを特定し、直近の単位時間あたりに検出された回転量により走行速度Vcurを特定する。地上に設けられる発信機から地点を表す位置信号が得られる場合、位置速度特定部62は、その位置信号に従って現在位置Xcurを校正してもよい。
【0039】
モータ駆動制御部63は、速度指令部61から与えられる指令速度Vcmdと位置速度特定部62で特定される走行速度Vcurとの差を制御偏差とするフィードバック制御によって、走行モータ51及び走行モータ52を駆動するための駆動制御信号を生成し、生成された駆動制御信号を出力する。
【0040】
位置速度特定部62及びモータ駆動制御部63は、本発明の特徴部分ではないため、フィードバック制御のための周知の技術を適宜用いて実現するものとして、これ以上の詳細な説明を省略する。
【0041】
速度指令部61は、スタッカクレーン1の振動を抑制すると共に、スタッカクレーン1の位置決め精度の悪化を防止する働きを持つ指令速度Vcmdを生成する処理部であり、参照速度決定部65、指令速度算出部66、位置ずれ算出部67、及び中間目標位置補正部68からなる。
【0042】
参照速度決定部65は、スタッカクレーン1の走行位置に応じて参照速度Vrefと、その参照速度Vrefが適用される区間の終点である中間目標位置とを決定する。
【0043】
指令速度算出部66は、参照速度決定部65で決定される参照速度Vrefの時系列変化によって生じる周波数成分から特定の周波数成分を削減することによりスタッカクレーン1への指令速度Vcmdを算出する。この特定の周波数成分をスタッカクレーン1の固有振動数の周波数成分とすることにより、スタッカクレーン1の振動を抑制する機能を持った指令速度Vcmdが得られる。
【0044】
位置ずれ算出部67は、スタッカクレーン1が参照速度Vrefで走行した場合の走行位置と指令速度Vcmdで走行した場合の走行位置とのずれ量ΣEを算出する。位置ずれ算出部67は、ずれ量ΣEを、指令速度Vcmdと参照速度Vrefとの差の時間積分によって算出し、中間目標位置補正部68へ出力する。
【0045】
中間目標位置補正部68は、中間目標位置をずれ量ΣE加減した位置に補正する。例えば減速時において、指令速度Vcmdで走行することによって到達する位置が中間目標位置をずれ量ΣEだけ行き過ぎる場合に、中間目標位置をずれ量ΣE手前の位置に補正する。
【0046】
参照速度決定部65は、中間目標位置が補正されたときに、現在位置Xcurの値が補正後の中間目標位置を示す値に達しているか否かを確認し、達している場合、さらに先の走行位置に対応する新たな参照速度Vrefと新たな中間目標位置とを決定する。
【0047】
参照速度決定部65は、例えば、所定の速度パターンを用いて参照速度Vrefを決定することができる。ここで、速度パターンとは、出発地から最終目的地までの間の位置とその位置における仮定的な走行速度との関係を定義するパターンを言う。速度パターンは、単純には、位置に対する速度の台形状のグラフでもよい(図示せず)。その台形の形状は、出発地から最終目的地までの距離、最高速度、及び加速度に応じて定められる。
【0048】
参照速度決定部65は、速度パターンによって定義される速度を、必要の都度計算により算出するか、又は、速度パターンによって定義される代表的ないくつかの速度を予めテーブルに保持しておき、必要の都度テーブルに保持されている速度を取得する。
【0049】
参照速度決定部65は、例えば、スタッカクレーン1が補正後の中間目標位置に到達したときに、補正前の中間目標位置に対応して速度パターンによって示される速度を算出するかテーブルから取得するかして、新たな参照速度Vrefとして決定してもよい。また、新たな参照速度Vrefに応じて新たな中間目標位置を決定する。
【0050】
また、別法として、参照速度決定部65は、ずれ量ΣEを制御偏差とし、ずれ量ΣEを0に収束させるフィードバック制御によって新たな参照速度Vrefを決定してもよい。参照速度Vrefの加減は、参照速度Vrefの加減値(つまり加速度)を加減することにより行ってもよい。このようなフィードバック制御は、周知のPI制御の手法を用いて行うことができる。
【0051】
指令速度算出部66は、新たな参照速度Vrefに追従して新たな指令速度Vcmdを算出する。
【0052】
以上説明したように、速度指令部61は、スタッカクレーン1が補正前の中間目標位置まで指令速度Vcmdに従って走りきってしまう前に、補正後の中間目標位置において新たな参照速度Vrefと新たな中間目標位置とを決定する。これにより、指令速度Vcmdは新たな参照速度Vrefに従って見直されることになり、その結果、位置ずれが修正され、位置決め精度が向上する。
【0053】
なお、新たな参照速度Vrefと新たな中間目標位置との決定は、周期的に行われることが望ましい。そうすれば、位置ずれが長期間に渡って累積されにくくなるので、その結果、出発地から最終目的地までの広い範囲においてスタッカクレーン1の位置精度が高まり、スタッカクレーン1は最終目的地に精度良く停止することができる。
【0054】
次に、速度指令部61の動作について、具体例を用いて詳細に説明する。
【0055】
この具体例では、参照速度決定部65は、速度パターンを予めテーブルに保持し、このテーブルを参照することにより参照速度Vrefと中間目標位置とを決定するものとして説明する。
【0056】
図3(A)は、スタッカクレーン1の出発地から最終目的地までの行程の一例を示す図であり、図3(B)は、テーブルに保持される速度パターンの一例を示す図である。
【0057】
図3(A)及び図3(B)において、X(i)(i=1、・・・、n)は、各地点の出発地からの距離であり、V(i)(i=1、・・・、n)は、速度パターンによって定義される各地点における仮定的な速度である。
【0058】
図4は、速度指令部61が行う初期化処理の一例を表すフローチャートである。
【0059】
図5は、速度指令部61が行う速度指令処理の一例を表すフローチャートである。
【0060】
図4及び図5において、現在位置Xcur、ずれ量ΣE、カウンタi、参照速度Vref、中間目標位置Xtarget、及び指令速度Vcmdは変数である。tは速度指令処理の実行間隔(例えば5mS)を表す定数である。fはノッチフィルタ処理を行う関数である。
【0061】
また、X(i)及びV(i)は、速度パターンを表す配列定数であり、図3(B)に示されるテーブルの内容に対応する。
【0062】
図4に示される初期化処理において、速度指令部61は、ずれ量ΣEを値0にリセットし(S11)、カウンタiを1に設定すると共に、参照速度Vrefを速度パターンの最初の速度V(1)の値に設定し(S12)、中間目標位置Xtargetを速度パターンの最初の位置X(1)の値に設定する(S13)。
【0063】
図5に示される速度指令処理は、スタッカクレーン1が最終目的地に到達するまで周期的に、例えばタイマーにより5mS間隔で起動され、実行される。
【0064】
速度指令処理において、指令速度算出部66は、参照速度Vrefを関数fでノッチフィルタ処理することによって指令速度Vcmdを算出する(S21)。ノッチフィルタは一般に、伝達関数
【数1】

で表される。ここで、ζはノッチの深さ、ωnはノッチの固有周波数を表す。関数fは、例えば(式1)の伝達関数をz変換で表すことによって、デジタルフィルタとして構成される。
【0065】
位置ずれ算出部67は、ずれ量ΣEを算出する(S22)。ずれ量ΣEは、指令速度Vcmdで走行した場合と、参照速度Vrefで走行した場合とで、速度指令処理の実行周期tの間に生じる走行位置の差(Vcmd−Vref)*tを累算することによって算出される。ここでは、減速の場合に対応して、指令速度Vcmdでの走行位置が参照速度Vrefでの走行位置を行き過ぎる場合を、ずれ量ΣEの正値で表す。
【0066】
中間目標位置補正部68は、中間目標位置Xtargetからずれ量ΣEを減じることによって、補正後の中間目標位置を算出する。
【0067】
参照速度決定部65は、現在位置Xcurが補正後の中間目標位置に到達しているか否かを判断する。
【0068】
中間目標位置の補正と、補正後の中間目標位置に到達しているか否かの判断とは、比較式Xcur≧Xtarget−ΣEに従って総合的に行われる(S23)。
【0069】
到達していると判断された場合(S23でYES)、参照速度決定部65は、ずれ量ΣEを値0にリセットし(S24)、カウンタiを1増やすことによって、参照速度Vrefを速度パターンの次の速度V(i)の値に設定し(S25)、中間目標位置Xtargetを速度パターンの次の位置X(i)の値に設定する(S26)。
【0070】
他方、到達していないと判断された場合(S23でNO)、カウンタi、参照速度Vref、及び中間目標位置Xtargetを変更せずに処理を終了する。
【0071】
以下では、上述の速度指令処理の幾何的な意味を、図6を参照して詳細に説明する。
【0072】
図6は、速度指令処理における、参照速度Vref及び指令速度Vcmdの時間変化の一例を表すグラフである。参照速度Vrefが太線で示され、指令速度Vcmdが細線で示される。また、参考のために、速度パターンの参照速度Vrefと異なる部分が破線で示される。
【0073】
この例では、時刻Ti-1において、参照速度Vrefが速度パターンのi番目の速度V(i)に設定され、中間目標位置Xtargetが速度パターンのi番目の位置X(i)に設定されるとしている。また、時刻Ti-1以降、速度V(i)で走行して中間目標位置Xtarget=X(i)へ到達する時刻を、時刻Tiとしている。
【0074】
右上がり斜線のハッチングを付して示した第1領域の面積V(i)*(Ti−Ti-1)が、スタッカクレーン1の時刻Ti-1における位置から中間目標位置Xtargetまでの距離に対応する。
【0075】
参照速度Vrefをノッチフィルタ処理することにより、指令速度Vcmdが周期tで逐次算出される。
【0076】
右下がり斜線のハッチングを付して示した第2領域の面積ΣVcmd*tが、時刻Ti-1以降、指令速度Vcmdで走行した距離に対応する。スタッカクレーン1は、指令速度Vcmdに従って走行するので、時刻Ti-1以降に実際に走行する距離Xcurは、ΣVcmd*tに略等しい。
【0077】
時刻Ti-1から各周期までの第1領域及び第2領域それぞれの部分の面積の差分が、その周期までに累算されるずれ量ΣE=Σ(Vcmd−Vref)*tに対応する。
【0078】
このずれ量ΣEと等しい面積を持つ第3領域を、縦線のハッチングを付して、第1領域内の右に詰めて描く。第1領域から第3領域を除外した領域の面積が、補正された中間目標位置に対応する。
【0079】
時刻Ti-1以降の各周期において、第2領域が右方へ増大すると共に第3領域が左方へ増大する。そして、第2領域と第3領域とが交わること、つまり、第2領域の面積が第1領域から第3領域を除外した面積を超えることが、現在位置Xcurが補正された中間目標位置Xtarget−ΣEに到達することに対応する。
【0080】
現在位置Xcurが補正された中間目標位置Xtarget−ΣEに到達した時点で、参照速度Vrefが速度パターンの次の速度V(i+1)に設定される。
【0081】
このようにして、スタッカクレーン1が補正前の中間目標位置Xtargetまで走りきってしまう前に、補正後の中間目標位置Xtarget−ΣEに到達した時点で、新たな参照速度Vrefが決定される。その結果、その新たな参照速度に追従して新たな指令速度Vcmdが算出されるので、位置ずれが修正される。
【0082】
以上、スタッカクレーンの例で本発明の速度指令装置について説明してきたが、本発明の有効性はスタッカクレーンに限定されないことはもちろんである。
【0083】
本発明の速度指令装置は、例えば、クリーンルームにおける天井走行型の搬送車や、大型液晶パネルの搬送車をはじめ、広く一般の走行車に適用され、制振制御と位置精度とを両立することができる。そして、振動が生じやすい背高の搬送車においては、特に強力な制振制御を行いながらも良好な位置決め精度を実現するために、本発明の速度指令装置の適用がとりわけ有効である。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明に係る速度指令装置は、例えば自動倉庫におけるスタッカクレーン、クリーンルームにおける天井走行型の搬送車、大型液晶パネルの搬送車等、搬送システムにおける走行車に広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】実施の形態におけるスタッカクレーンの構成の一例を示す図
【図2】制御装置の機能的な構成の一例を示すブロック図
【図3】(A)スタッカクレーンの行程の一例を示す図、(B)前記行程に対応する速度パターンの一例を示す図
【図4】速度指令部が行う初期化処理の一例を表すフローチャート
【図5】速度指令部が行う速度指令処理の一例を表すフローチャート
【図6】速度指令処理における位置に対する参照速度及び指令速度の一例を表すグラフ
【符号の説明】
【0086】
1 スタッカクレーン
2 レール
10 下部台車
20 上部台車
31、32 マスト
41、42 車輪
51、52 走行モータ
60 制御装置
61 速度指令部
62 位置速度特定部
63 モータ駆動制御部
65 参照速度決定部
66 指令速度算出部
67 位置ずれ算出部
68 中間目標位置補正部
70 荷台
71 移載装置
80 ワイヤロープ
81 ドラム
82 ウィンチモータ
83、84 シーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送システムにおいて走行車に対し走行すべき速度を指令する速度指令装置であって、
前記走行車の走行位置に応じて、走行速度の基準となる参照速度とその参照速度が適用される区間の終点である中間目標位置とを決定する参照速度決定手段と、
前記決定される参照速度の時系列変化によって生じる周波数成分から特定の周波数成分を削減することにより前記走行車への指令速度を算出する指令速度算出手段と、
前記決定された参照速度と前記算出された指令速度との差に応じて前記決定された中間目標位置を補正する中間目標位置補正手段と
を備えることを特徴とする速度指令装置。
【請求項2】
前記参照速度決定手段は、新たな走行速度と新たな中間目標位置とを周期的に決定する
ことを特徴とする請求項1に記載の速度指令装置。
【請求項3】
前記参照速度決定手段は、前記中間目標位置が補正されたときに、前記走行車が前記補正後の中間目標位置に既に到達しているか否かを確認し、到達している場合、さらに先の走行位置に対応する新たな参照速度と新たな中間目標位置とを決定する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の速度指令装置。
【請求項4】
搬送システムにおける走行車に対し走行すべき速度を指令する速度指令方法であって、
前記走行車の走行位置に応じて、走行速度の基準となる参照速度とその参照速度が適用される区間の終点である中間目標位置とを決定する参照速度決定ステップと、
前記決定される参照速度の時系列変化によって生じる周波数成分から特定の周波数成分を削減することにより前記走行車への指令速度を算出する指令速度算出ステップと、
前記決定された参照速度と前記算出された指令速度との差に応じて前記決定された中間目標位置を補正する中間目標位置補正ステップと
を含むことを特徴とする速度指令方法。
【請求項5】
搬送システムにおける走行車に対し走行すべき速度を指令するためのコンピュータプログラムであって、
前記走行車の走行位置に応じて、走行速度の基準となる参照速度とその参照速度が適用される区間の終点である中間目標位置とを決定する参照速度決定ステップと、
前記決定される参照速度の時系列変化によって生じる周波数成分から特定の周波数成分を削減することにより前記走行車への指令速度を算出する指令速度算出ステップと、
前記決定された参照速度と前記算出された指令速度との差に応じて前記決定された中間目標位置を補正する中間目標位置補正ステップと
をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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