説明

搬送装置の異常診断方法及び装置

【課題】 搬送路を走行中の搬送装置の異常診断を効率的に行うこと。
【解決手段】 搬送路の所定箇所に超音波検出装置を配設する。搬送装置が所定箇所を通過する毎に、超音波検出装置を用いて搬送装置からの超音波を検出し(S1)、検出された超音波の特性値を計算する(S4)。搬送装置が所定箇所を通過する毎に順次計算される特性値が所定のしきい値を超えることが連続して所定回数を超えると(S7,YES)、当該搬送装置は異常であると判定する(S9)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送装置の異常診断方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装工程等の生産ラインにおいて、ボディを搬送するための装置として自走式の搬送装置が使用される。一般には、搬送路上に多数の自走式搬送装置が使用される。累積走行距離や搬送重量は個々に異なるため、個別に経時劣化等に伴う異常診断を行う必要がある。
【0003】
従来、このような異常診断は、定期的な一斉点検において駆動部内部を分解するなどして行っていた。しかし、その際には生産ラインを止める必要があるなど、効率のよいものではなかった。
【0004】
そのため、自走式搬送装置の駆動部内部を分解することなしに、走行中に個別に異常の有無を判断できる仕組みが望まれている。
【0005】
なお、転がり軸受やボールねじ等を含む一般的な機械装置の異常を診断する手法については、さまざまな手法が提案されている。例えば、特許文献1は、機械装置の転動装置から離隔して設置した超音波センサを用いて、転動装置の転動接触面で発生する超音波領域の摩擦音を検出し、検出した摩擦音の信号を予め定めた判定基準値と比較することにより、転動装置の潤滑状態の異常の有無を判定する技術を開示している。
【0006】
【特許文献1】特開2005−164314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1は、搬送路を移動する搬送装置の超音波検出による異常診断を開示したものではない。
【0008】
本発明は、搬送路を走行中の搬送装置の異常診断を効率的に行うことができる異常診断方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面によれば、搬送路に沿って物品を搬送する搬送装置の異常を診断する異常診断方法であって、前記搬送路の所定箇所に、通過する搬送装置から間隔をおいて超音波検出装置を配設し、前記搬送装置が前記所定箇所を通過する毎に前記搬送装置からの超音波を検出し、検出された超音波の特性値を計算し、前記搬送装置が前記所定箇所を通過する毎に順次計算される前記特性値が所定のしきい値を超えることが連続して所定回数を超えたときに、当該搬送装置は異常であると判定することを特徴とする異常診断方法が提供される。
【0010】
この異常診断方法によれば、前記特性値が所定のしきい値を超えることが連続して所定回数を超えたときに、当該搬送装置が異常であると判定するので、突発的な外乱等に影響されることなく、正確に異常を報知することができる。
【0011】
本発明の好適な実施形態によれば、前記搬送装置は自走式車体搬送ハンガーである。
【0012】
この場合、自走式車体搬送ハンガーの駆動部、駆動車輪などの異常状態を検出しこれを報知することができる。
【0013】
本発明の好適な実施形態によれば、前記特性値は、波高率、波形率、衝撃指数、間隙率、クートシス値のうちの少なくともいずれか1つであることが好ましい。
【0014】
これらの特性値は、異常が発生しやすい軸受等に用いられるベアリングの大きさや回転速度等の影響を受けにくいため、正確な異常診断を行うことができる。
【0015】
本発明の好適な実施形態によれば、更に、前記特性値に基づいて異常の種類を判定することが好ましい。
【0016】
この構成によれば、異常の種類を容易に知ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、搬送路を走行中の搬送装置の異常診断を効率的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0019】
図1は、本実施形態に係る搬送システムの構成を示す図である。本実施形態では、一例として自動車の塗装工程に使用される搬送システムについて説明する。
【0020】
1は、塗装前のボディ(ホワイトボディ)を留置したストレージ場から塗装工程ラインへと渡された搬送路としての1本のガイドレールである。2,2は、ホワイトボディを搬送するための、1本のガイドレール1に案内される複数のモノレール式搬送装置である。説明のため搬送装置2は2台だけ示されているが、より多数の搬送装置2が使用されうる。
【0021】
この搬送装置2は、ガイドレール1に沿って配設された給電・制御ライン3を介して供給される電力で自走する自走式電車である。また、搬送装置2は、ガイドレール1上に設けられる駆動輪部4と従動輪部5とで、車体を懸架するハンガー6上部の前後2箇所を吊り下げるように構成されている。したがって、この搬送装置2は自走式車体搬送ハンガーともよばれる。
【0022】
図2に、駆動輪部4の構成例を示す。(a)はガイドレール1に沿う進行方向に対して真横から見た側面図、(b)は進行方向から見た正面図である。
【0023】
ガイドレール1は、(b)に示されるように、断面I型の鋼材であり、上部レール部材1aと、下部レール部1bと、両レール部材1a及び1bを連結するレール本体部1cとで構成されている。
【0024】
40は、ガイドレール1の片側でガイドレール1の上下に突出する縦長の基部である。この基部40のガイドレール1側とは反対側に、給電・制御ラインから供給される電力と制御信号とによって制御されるモータ7が取り付けられる。その出力軸は、基部40を介してガイドレール1側において、オーバハング荷重による疲労破損等を回避するための軸受8を介して駆動プーリ9と連結される。基部40の上部には受動プーリ11が取り付けられ、タイミングベルト10を介して駆動プーリ9と連結される。13は、上部レール部材1aに乗った駆動輪であり、軸受12を介して受動プーリ11と連結されている。
【0025】
また、駆動輪13の真下位置に対して前後方向に等距離離れた位置には、上部レール部材1a及び下部レール部1bをそれぞれ左右両側から挟む左右一対、前後2組のサイドローラ14a,14b及び15a及び15bが設けられている。
【0026】
従動輪部5は概ね、上記した駆動輪部4から、モータ7、駆動プーリ9、タイミングベルト10、受動プーリ12等を除いた構成である。
【0027】
このような構成より、搬送装置2はモータ7の駆動に応じて走行することが可能である。
【0028】
次に、本実施形態における、搬送装置2の異常診断を行うための構成を説明する。図3は、本実施形態における異常診断システムの構成を示すブロック図である。
【0029】
搬送装置の経時劣化によって、各部に使用される軸受等から異音が発生する。具体的には、車軸の摩耗、軸受のグリス流出、駆動輪のタイヤゴム硬化による割れ等に起因する異音が発生する。したがって、この異音を検出し分析することにより異常診断を行うことができる。そこで、本実施形態では、例えば図1の20に示されるような、ガイドレール1の高さ位置で、図2に示されるように駆動輪部4から所定距離Lだけ離した位置にマイクロホン21を設置して搬送装置2からの異音を収集する。
【0030】
自動車工場内は一般に騒音が大きく、騒音の影響を受けずに異音だけを収集することは困難である。しかし、搬送装置の軸受等から異常時に発生する異音は、可聴域から超音波域に亘る広い周波数帯域の摩擦音であり、そこから可聴域をカットして超音波域の信号を観測すれば、正常時と異常時とでその違いが顕著であることが分かっている。
【0031】
そこで、マイクロホン21には超音波域を含む周波数範囲(例えば、10Hz〜100kHz)のマイクロホンを使用する。マイクロホン21は、入力した音響信号はその音圧に応じた電気信号に変換して、サンプリングユニット22に供給する。
【0032】
サンプリングユニット22は、入力アナログ信号をデジタル信号に変換し、パーソナルコンピュータ(PC)26へと転送するユニットであり、アンプ23、フィルタ24、A/Dコンバータ25を備えている。アンプ23は、入力信号を所定の増幅率で増幅する。フィルタ24は、アンプ23から供給された信号のうち超音波域の周波数帯(例えば40kHz〜80kHz)だけを抽出する。A/Dコンバータ25は、フィルタ24から供給された超音波アナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0033】
また、27は個々の搬送装置2の走行を制御する制御盤であり、プログラムされたタイミングで各搬送装置2に制御信号を送出するとともに、マイクロホン21の位置を通過した搬送装置のIDをPC26に送信する。
【0034】
PC26は、全体の制御を司るCPU28、ブートプログラムやデータを記憶しているROM29、データやプログラムを一時的に保持するとともにCPU28のワークエリアを提供するRAM30をはじめ、以下の構成を備える。
【0035】
31は液晶モニタやCRTなどで構成されるディスプレイである。32は記憶装置としてのハードディスク装置(HDD)で、そこにはOS33、異常診断プログラム34がインストールされている他、波形データ35や分析データ36を記憶する領域が確保されている。37及び38はそれぞれ、サンプリングユニット22及び制御板27を接続するインタフェース(I/F)である。39はキーボード及びマウスである。
【0036】
図4は、本実施形態における搬送装置の異常の有無を判断する異常診断処理を示すフローチャートである。このフローチャートに対応するプログラムは異常診断プログラム34に含まれ、異常診断プログラム34がRAM30にロードされた後、CPU28によって実行される。なお、このフローチャートは、測定対象の搬送装置がマイクロホン21の設置位置を1回通過するときに行われる処理を表したものであり、この処理はそれらの搬送装置がマイクロホン21の設置位置を通過する都度、毎回行われるものである。
【0037】
まず、搬送装置2がマイクロホン21の位置を通過するタイミングでマイクロホン21から収集されサンプリングユニット22でデジタル化された所定時間長(例えば1秒間)の波形信号を取得する(ステップS1)。取得した波形信号は、波形データ35としてHDD32に格納される。またこれと共に、マイクロホン21の位置を通過した搬送装置(電車)のIDを含む電車情報を取得する(ステップS2)。
【0038】
次に、ステップS1で取得した波形信号に対して、不要成分を除去するためのフィルタ処理を行う(ステップS3)。
【0039】
その後、搬送装置の異常度合を表す特性値として、ステップS3でフィルタ処理された波形信号の波高率を演算する(ステップS4)。波高率は、波形のピーク値の実効値に対する比で計算される。実効値が大きいと異常度合が大きいと判断される。ピーク値や実効値それ自体は、ベアリングの大きさや回転速度等に依存して変動するのに対し、波高率はこれらの値の比であるため、ベアリングの大きさや回転速度等の影響が少ないため、正確な判断が期待できる。計算された波高率は所定のしきい値と比較される(ステップS5)。
【0040】
続いて、HDD32に記憶されている分析データ36のデータ配列にステップS4で演算結果を格納する処理を行う(ステップS6)。図5に、分析データ36のデータ構造例を示す。分析データ36には、ステップS2で取得した搬送装置(電車)のIDである電車Noごとに、ステップS1で波形データを取得した日時とステップS4で演算した波高率が、当該電車が通過する都度、追記されていく。また、ステップS5における波高率としきい値との比較の結果に基づき、分析データ36の「しきい値以上の連続発生回数」データフィールドは、当該搬送装置について、連続して波高率がしきい値以上となった回数が記録される。
【0041】
そして、分析データ36の「しきい値以上の連続発生回数」データフィールドの値が所定回数(例えば、10回)以上となったかどうかを判定し(ステップS7)、所定回数に満たないものは正常と判定し(ステップS8)、所定回数以上となった搬送装置の駆動部が異常と判定し、警報を発するなどにより報知する(ステップS9)。
【0042】
上述の実施形態では、搬送装置の異常度合を表す特性値として波高率を使用したが、その他のパラメータを用いてもよい。例えば、実効値の平均値に対する比を表す波形率、ピーク値の平均値に対する比を表す衝撃指数、波のつまり度合を表す間隙率、確率密度関数の広がりの程度を表すクートシス値等のパラメータを用いてもよい。あるいはこれらの特性値を組み合わせて判定に用いてもよい。
【0043】
また、図6に示すように、発明者の実験によれば、異常箇所の損傷内容によって観測される超音波波形は顕著に異なることが分かっている。このことを利用して、例えば複数のしきい値を設けそれらと上記した特性値とを比較した結果に応じて、あるいは、周波数スペクトル分析等によって、異常の種類を判定する工程を追加することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施形態に係る搬送システムの構成を示す図である。
【図2】実施形態における駆動車輪部の構成例を示す図である。
【図3】実施形態における異常診断システムの構成を示すブロック図である。
【図4】実施形態における搬送装置の異常の有無を判断する異常診断処理を示すフローチャートである。
【図5】実施形態における分析データの構造例を示す図である。
【図6】異常箇所の損傷内容に応じて観測される超音波波形の例を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1:ガイドレール
2:搬送装置
3:給電・制御ライン
4:駆動輪部
5:従動輪部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送路に沿って物品を搬送する搬送装置の異常を診断する異常診断方法であって、
前記搬送路の所定箇所に、通過する搬送装置から間隔をおいて超音波検出装置を配設し、
前記搬送装置が前記所定箇所を通過する毎に前記搬送装置からの超音波を検出し、
検出された超音波の特性値を計算し、
前記搬送装置が前記所定箇所を通過する毎に順次計算される前記特性値が所定のしきい値を超えることが連続して所定回数を超えたときに、当該搬送装置は異常であると判定する
ことを特徴とする異常診断方法。
【請求項2】
前記搬送装置は自走式車体搬送ハンガーであることを特徴とする請求項1に記載の異常診断方法。
【請求項3】
前記特性値は、波高率、波形率、衝撃指数、間隙率、クートシス値のうちの少なくともいずれか1つであることを特徴とする請求項1又は2に記載の異常診断方法。
【請求項4】
更に、前記特性値に基づいて異常の種類を判定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の異常診断方法。
【請求項5】
搬送路に沿って物品を搬送する搬送装置の異常を診断する異常診断装置であって、
前記搬送路の所定箇所に、通過する搬送装置から間隔をおいて配設される超音波検出手段と、
前記搬送装置が前記所定箇所を通過する毎に前記超音波検出手段により検出される前記搬送装置からの超音波の特性値を計算する計算手段と、
前記搬送装置が前記所定箇所を通過する毎に順次計算される前記特性値が所定のしきい値を超えることが連続して所定回数を超えたときに、当該搬送装置は異常であると判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−115606(P2009−115606A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288661(P2007−288661)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】