説明

携帯電話のアンテナ構造

【課題】複数のアンテナを有して組立に手間がかかる従来のアンテナ構造に対して、組立が簡単な携帯電話のアンテナ構造を提供する。
【解決手段】外部機器との無線通信を行う複数の送受信アンテナ3を筐体1内に収容し、筐体1内に、扁平状磁性粉末を面内方向に配向させた磁性体シート5を設けたものであって、送受信アンテナ3の一つが通話信号を送受信する第1のアンテナ13であり、送受信アンテナ3の一つが近距離無線通信の信号を送受信する第2のアンテナ23であり、携帯電話の通話面SPと反対面を形成する筐体1の背面BPと対向する位置に磁性体シート5を配置し、磁性体シート5と背面BPとの間に、第1のアンテナ13と第2のアンテナ23とを配置したことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話のアンテナ構造に関し、特に、携帯電話の通話用アンテナ及び近距離無線通信用アンテナを備えた携帯電話のアンテナ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の携帯電話において、通話時の電磁波による人体への影響が懸念されている。そして、携帯電話を対象とした電磁エネルギーの局所吸収指針が、米国、欧州、日本において相次いで制定された。局所吸収の評価量としては、単位質量当たりに吸収される電力、すなわち比吸収率(SAR;Specific Absorption Rate)が用いられる。比吸収率(SAR)は、生体組織に侵入した電界をE、生体組織の導電率をσ、密度をρとすれば、次式で表され、例えば、米国では、1グラム組織平均SARのピーク値が1.6W/kgを超えないように定められており、欧州および日本では、10グラム組織平均SARのピーク値が2W/kgを超えないように定められている。
【0003】
SAR=σE2 /2ρ
【0004】
この比吸収率(SAR)を下げるために、従来例1の特許文献1では、図8に示すように、磁気反射材を含む電磁波反射層を有した携帯電話700が提案されている。図8に示す携帯電話700は、通話用アンテナ701と、プリント基板703と、シールドケース704と、半導体集積回路705A、705Bと、マイク706と、キーパッド707と、液晶表示部708と、スピーカ709と、絶縁性の筐体710とを有している。そして、シールドケース704と筐体710との間に、スピーカ709に近接するように、磁気反射材料を含む電磁波反射層711を設け、この電磁波反射層711によって、携帯電話700の使用時に、人体Mによる電磁エネルギー吸収をより効果的に低減できるとしている。なお、従来例1では、電磁波反射層を用いているが、電磁波吸収層であっても、人体Mによる電磁エネルギー吸収をより効果的に低減できる。
【0005】
一方、最近の携帯電話において、非接触式ICカードを用いた、所謂RFID(Radio Frequency Identification)に代表される近距離無線通信の機能を備えた機種も出てきている。この非接触型のRFIDは、図9に示すように、携帯電話側に設けられたループアンテナ822とリーダ・ライタ801側のコイルアンテナ812との間で、電磁誘導作用を用いることで、近距離無線通信を行っている。この際に、金属板825が存在した場合などには、リーダ・ライタ801からの磁界により携帯電話側の金属板825に渦電流ISが発生し、この渦電流ISによる反対向きの磁界(反磁界RH)が、リーダ・ライタ801のコイルアンテナ812により生じる磁束ループMRを阻害し、携帯電話のループアンテナ822とリーダ・ライタ801のコイルアンテナ812との通信が阻害されると言う問題があった。
【0006】
この問題を解消するために、従来例2の特許文献2では、図10に示すように、アンテナコイル922に磁芯部材928が積層されたアンテナモジュール901が提案されている。アンテナモジュール901は、金属シールド板925とアンテナコイル922との間に、使用周波数における比透磁率μの実部μ’×Q値が大きい磁芯部材928を配置し、この磁芯部材928によって、リーダーライタ910のコイルアンテナ912により生じる磁束ループMRがアンテナコイル922を通過し易くなり、通信性能の劣化を抑制し、所期の通信距離を確保することができるとしている。ここで言うQ値とは、一般に、損失係数(tanδ)の逆数を言い、下式で表される。
【0007】
Q=μ’/μ” 。但し、μ”は、使用周波数における比透磁率μの虚部である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−199077号公報
【特許文献2】特開2005−340759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来例1の700MHz帯から3GHz帯の高周波の周波数帯域のアンテナと、従来例2の13.56MHzに代表される低周波の周波数帯域のアンテナとが一緒に設けられた携帯電話においては、比吸収率(SAR)を下げるための電磁波反射層もしくは電磁波吸収層と、磁束の通過を容易にするための磁性層とを別々に準備し、それぞれの位置に各層を配置することになる。そのため、製造工程が複雑化して、組立に手間がかかると言う課題があった。
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するもので、組立が簡単な携帯電話のアンテナ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題を解決するために、本発明の請求項1による携帯電話のアンテナ構造は、外部機器との無線通信を行う複数の送受信アンテナを筐体内に収容し、前記筐体内に、扁平状磁性粉末を面内方向に配向させた磁性体シートを設けたものであって、前記送受信アンテナの一つが通話信号を送受信する第1のアンテナであり、前記送受信アンテナの一つが近距離無線通信の信号を送受信する第2のアンテナであり、前記携帯電話の通話面と反対面を形成する前記筐体の背面と対向する位置に前記磁性体シートを配置し、前記磁性体シートと前記背面との間に、前記第1のアンテナと前記第2のアンテナとを配置したことを特徴としている。
【0012】
また、本発明の請求項2による携帯電話のアンテナ構造は、前記磁性体シートが一枚のシートからなることを特徴としている。
【0013】
また、本発明の請求項3による携帯電話のアンテナ構造は、前記磁性体シートと前記第1のアンテナと前記第2のアンテナとが、前記背面に配置されていることを特徴としている。
【0014】
また、本発明の請求項4による携帯電話のアンテナ構造は、前記磁性体シートの前記通話面側には、電池パックがあることを特徴としている。
【0015】
また、本発明の請求項5による携帯電話のアンテナ構造は、前記磁性体シートと前記第1のアンテナと前記第2のアンテナとが、前記筐体の裏蓋に配置されていることを特徴としている。
【0016】
また、本発明の請求項6による携帯電話のアンテナ構造は、前記磁性体シートが折り曲げられて配置されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、本発明の携帯電話のアンテナ構造は、携帯電話の背面と磁性体シートとの間に、通話信号を送受信する第1のアンテナと近距離無線通信の信号を送受信する第2のアンテナとを配置し、磁性体シートに扁平状磁性粉末を面内方向に配向させたシートを用いたので、近距離無線通信の低周波側では比透磁率の実部μ’が高く、通話の高周波側では比透磁率の虚部μ”を高くすることができる。このため、この磁性体シートにより、近距離無線通信用の第2のアンテナの送受信性能を向上させるとともに、通話時の第1のアンテナからの電波による人体への影響を抑制することができる。このことにより、同一の種類の磁性体シートを用いるだけで上記2つの機能を満足させられ、組立時において組立を簡単にすることができる。
【0018】
請求項2の発明によれば、本発明の携帯電話のアンテナ構造は、磁性体シートが一枚のシートからなるので、組立時において、大きさの違う磁性層を別々に準備しそれぞれの位置に各層を配置する場合と比較して、組立をより簡単にすることができる。また、磁性体シートが一枚なので、シートの加工がし易いとともに、それぞれのアンテナに対して広い面積を有効に使用できるので、第2のアンテナの送受信性能をより向上させるとともに、第1のアンテナからの電波による人体への影響をより抑制することができる。
【0019】
請求項3の発明によれば、本発明の携帯電話のアンテナ構造は、磁性体シートと第1のアンテナと第2のアンテナとが、携帯電話の背面に配置されているので、携帯電話における省スペース化が図られる。
【0020】
請求項4の発明によれば、本発明の携帯電話のアンテナ構造は、磁性体シートの通話面側には、電池パックがあるので、磁性体シートにより、ケースが金属製の電池パックからの影響を受けないようにすることができる。このことにより、近距離無線通信用の第2のアンテナの送受信性能をより一層向上させることができる。
【0021】
請求項5の発明によれば、本発明の携帯電話のアンテナ構造は、磁性体シートと第1のアンテナと第2のアンテナとが、携帯電話の筐体の裏蓋に配置されているので、ケースが金属製で作製されている電池パックからの影響を受けないようにできるとともに、携帯電話における省スペース化がより図られ、更には、組立時において、裏蓋を組み込むだけで第1のアンテナ、第2のアンテナ及び磁性体シートを組み込むことができるので、組立をより一層簡単にすることができる。
【0022】
請求項6の発明によれば、本発明の携帯電話のアンテナ構造は、磁性体シートが折り曲げられて配置されているので、第2のアンテナより厚い第1のアンテナを折り曲げられた部分に配置することができる。このことにより、携帯電話における省スペース化がより一層図られる。
【0023】
したがって、本発明の携帯電話のアンテナ構造は、組立が簡単な携帯電話のアンテナ構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態の携帯電話のアンテナ構造を説明する図であって、携帯電話の断面構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態の携帯電話のアンテナ構造を説明する図であって、図1に示すP部分の拡大図である。
【図3】本発明の第1実施形態の携帯電話のアンテナ構造を説明する図であって、図2に示す裏蓋部分の拡大図である。
【図4】本発明の第1実施形態の携帯電話のアンテナ構造を説明する図であって、図3に示す裏蓋部分を通話面側から見た正面図である。
【図5】本発明の第1実施形態の携帯電話のアンテナ構造に用いた磁性体シートを説明する図であって、図5(a)は、図2に示すQ部分の磁性体シートの断面模式図であり、図5(b)は、磁性体シートの断面SEM写真の一例である。
【図6】本発明の第1実施形態の携帯電話のアンテナ構造に用いた磁性体シートの比透磁率の周波数特性を示したグラフである。
【図7】本発明の第1実施形態の携帯電話のアンテナ構造の変形例1を説明する断面の構成図である。
【図8】従来例1における携帯電話機の概略図である。
【図9】従来技術におけるRFIDに代表される近距離無線通信の問題点を説明する図である。
【図10】従来例2におけるアンテナモジュールを用いた近距離無線通信を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0026】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態の携帯電話101のアンテナ構造を説明する構成図であって、携帯電話101の断面構成図である。図2は、本発明の第1実施形態の携帯電話101のアンテナ構造を説明する図であって、図1に示すP部分の拡大図である。図3は、本発明の第1実施形態の携帯電話101のアンテナ構造を説明する図であって、図2に示す裏蓋71部分の拡大図である。図4は、本発明の第1実施形態の携帯電話101のアンテナ構造を説明する図であって、図3に示す裏蓋71部分を通話面SP側から見た正面図である。図5は、本発明の第1実施形態の携帯電話101のアンテナ構造に用いた磁性体シート5を説明する図であって、図5(a)は、図2に示すQ部分の磁性体シート5の断面模式図であり、図5(b)は、磁性体シート5の断面SEM写真の一例である。
【0027】
本発明の第1実施形態の携帯電話101のアンテナ構造は、図1及び図2に示すように、外部機器との無線通信を行う複数の送受信アンテナ3(13、23)と、磁性体シート5と、複数の送受信アンテナ3及び磁性体シート5を収容した筐体1とを備えて構成される。また、携帯電話101は、他に、配線パターンが形成された回路基板6(6A、6B)と、筐体1の通話面SP側に配置されたスピーカS7、マイクM7及び表示部L7と、通話面SPと反対面を形成する背面BP側に配置された電池パック8と、を備えて構成される。
【0028】
携帯電話101の筐体1は、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等の合成樹脂材料を用い、図1ないし図3に示すように、表ケース11と裏ケース31とから構成され、箱状の形状で形成されている。また、裏ケース31の背面BPには、裏蓋71が設けられ、電源として用いられる電池パック8の取り出しが可能になっている。なお、表ケース11及び裏ケース31の形成は、合成樹脂材料を用いているので、射出成形等で、容易に作製することができる。
【0029】
筐体1の通話面SP側に配置されたスピーカS7及びマイクM7は、ユーザが発声した音等を送話する送話器と、ユーザが携帯電話101からの音声を聞く受話器とを構成している。また、筐体1の通話面SP側に設けられた表示部L7は、文字あるいは画像等の情報を表示するもので、液晶や有機EL等の表示素子を用いている。また、表示部L7の前面には、タッチパネルT7が設けられ、ユーザが携帯電話101の操作を行えるようになっている。また、筐体1の通話面SPと反対面を形成する背面BP側に配置された電池パック8は、リチウムイオン二次電池が用いられ、金属製のケースに収められている。
【0030】
回路基板6(6A、6B)は、ガラス入りのエポキシ樹脂からなり、一般に広く知られている多層のプリント配線板(PCB)を用いており、回路基板6(6A、6B)には、制御回路、送信回路および受信回路等が設けられている。なお、回路基板6(6A、6B)にガラス入りのエポキシ樹脂からなる多層プリント配線板(PCB)を用いたが、これに限定されるものではなく、例えばポリイミド樹脂を用いたフレキシブル配線板やセラミック配線板でも良い。
【0031】
複数の送受信アンテナ3の一つは、通話信号を送受信する第1のアンテナ13であり、通話信号には、700MHz帯から3GHz帯の高周波の周波数帯域を用いている。また、複数の送受信アンテナ3のもう一つは、近距離無線通信の信号を送受信する第2のアンテナ23であり、近距離無線通信には、13.56MHzに代表される低周波の周波数帯域を用いている。そして、第1のアンテナ13と第2のアンテナ23は、筐体1の背面BPに配置されている。これにより、携帯電話101における省スペース化が図られる。特に、本発明の第1実施形態の携帯電話101のアンテナ構造では、第1のアンテナ13と第2のアンテナ23は、筐体1の裏蓋71に配置されているので、携帯電話101における省スペース化がより図られる。
【0032】
また、図4に示すように、後述する磁性体シート5には、第1の開口15kと第2の開口25kが設けられており、第1のアンテナ13の給電用の端子13tと第2のアンテナ23の給電用の端子23tが露出されている。そして、給電用の端子13t及び給電用の端子23tと回路基板6Bとが接続され、第1のアンテナ13及び第2のアンテナ23と回路基板6Bとが電気的に接続される。
【0033】
磁性体シート5は、図5に示すように、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、PP(ポリプロピレン)等の合成樹脂P5と、扁平状磁性粉末J5とから構成され、フィルム状の形状をしている。また、磁性体シート5は、合成樹脂P5のマトリックスに、扁平状磁性粉末J5の長手方向が磁性体シート5の面内方向PDの所望の方向に揃えた形で、複数の扁平状磁性粉末J5を並べるように配向HDさせている。ここで言う配向HDとは、複数の扁平状磁性粉末J5の平均傾き角度が磁性体シート5の面内方向PDに対して、45°以下の状態を指し、好ましくは10°以下の状態を指している。このようにして、複数の扁平状磁性粉末J5の磁化が磁性体シート5の面内方向PDの所望の方向に配向HDするようになり、磁性体シート5の磁界の向きが、所望の方向に揃うようになる。このことにより、磁束が面内方向PDに通りやすくなり磁気シールド効果が向上するとともに、電磁界エネルギーを熱変換、或いは反射させる等の特性が向上する。
【0034】
また、磁性体シート5は、図1及び図2に示すように、携帯電話101の通話面SPと反対面を形成する筐体1の背面BPと対向する位置に配置されるとともに、磁性体シート5と背面BPとの間に、第1のアンテナ13と第2のアンテナ23とが挟まれる位置に配置される。このため、同一の種類の磁性体シート5を用いるだけで、2つアンテナに対してそれぞれの効果を満足させられるとともに、組立時において組立を簡単にすることができる。さらに、本発明の第1実施形態の携帯電話101のアンテナ構造では、筐体1の裏蓋71に一体となって配置されているので、携帯電話101における省スペース化が図られるとともに、組立時において、裏蓋71を組み込むだけで第1のアンテナ13、第2のアンテナ23及び磁性体シート5を組み込むことができるので、組立をより一層簡単にすることができる。また、磁性体シート5の通話面SP側には、電池パック8がある。これにより、第2のアンテナ23に対して、ケースが金属製の電池パック8からの悪影響を受けないようにすることができる。
【0035】
また、磁性体シート5は、一枚のシートから作成されているので、組立時において、大きさの違う磁性層を別々に準備しそれぞれの位置に各層を配置する場合と比較して、組立を簡単にすることができる。また、磁性体シート5が一枚なので、シートの加工がし易くなり、製造工程を大幅に簡素化することができる。さらに、一枚の磁性体シート5を折り曲げて配置されているので、第2のアンテナ23より厚い第1のアンテナ13を折り曲げられた部分に配置することができる。このことにより、携帯電話101における省スペース化がより一層図られる。
【0036】
ここで、本発明の第1実施形態の携帯電話101のアンテナ構造に用いた磁性体シート5の製造方法について説明する。まず、鉄を主成分とする材料、例えばパーマロイ(Fe−Ni合金)を用い、水アトマイズ法により磁性粉末を作製する。なお、水アトマイズ法に限定されず、ガスアトマイズ法、上記合金溶湯から急冷したリボンを粉砕して粉末化する液体急冷法等を用いても良い。また、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、液体急冷法の処理条件については、原料の種類に応じて通常行われる条件を用いることが出来る。そして、得られた磁性粉末を分級して粒度を揃えた後に、遊星撹拌型ボールミル等の装置を用いて、磁性粉末を扁平状に加工する。なお、必要に応じて、磁性粉末の内部応力を緩和させる目的で、扁平状に加工された扁平状磁性粉末J5にアニール処理を施しても良い。
【0037】
次に、磁性体シート5を構成する合成樹脂P5と、扁平状磁性粉末J5とを有して成る混合液(スラリー)を、ドクターブレード装置に供給し、基材(キャリアテープ)を引きながら、ブレードにより混合液を所定厚さで基材上に塗布する。そして、加熱することにより、基材上に合成樹脂P5と扁平状磁性粉末J5とから構成される磁性体シート5が得られる。なお、磁性体シート5は、この基材と一緒に用いても良いが、本発明の第1実施形態の携帯電話101のアンテナ構造への適用は、携帯電話101の省スペース化のため、この基材を除去して、単独で適用した。
【0038】
図6は、本発明の第1実施形態の携帯電話101のアンテナ構造に用いた磁性体シート5の比透磁率μの周波数特性を示したグラフであり、縦軸に実部μ’及び虚部μ”(磁性率磁気損失とも言う)を示し、横軸に周波数を示している。測定は、磁性体シート5をリング状に加工したサンプル片を用い、マテリアルアナライザで行った。
【0039】
一般に、比透磁率μは、下式のように複素数で表される。ここで、μ’は、磁束の通りやすさを表し、μ”は、磁気損失を表す。このμ’が大きければ大きいほど、磁気抵抗が低くなり磁束が通りやすくなり、ひいては磁気シールド効果が高くなる。一方、この磁気損失(虚部μ”)が大きければ大きいほど、電磁エネルギーを熱に変換する効率が高く、ひいては電磁波を吸収する電磁波吸収特性が高くなる。
【0040】
μ=μ’−jμ
【0041】
図6に示すように、本発明の第1実施形態の携帯電話101のアンテナ構造に用いた磁性体シート5は、13.56MHzでは、μ’が100以上、μ”が5以下になっており、2.0GHzでは、μ’が4以下、μ”が25以上になっている。また、近距離無線通信の信号の低周波数帯域では、実部μ’が常に大きいとともに、実部μ’と虚部μ”との差が大きく(言い換えると、Q値が高い)なっており、一方、通話信号の高周波数帯域(700MHz帯から3GHz帯)では、実部μ’が小さく、虚部μ”が常に大きくなっている。
【0042】
したがって、13.56MHz等を用いるRFIDにおいては、磁性体シート5の比透磁率のμ’が大きく、Q値が高いので、磁性体シート5により第2のアンテナ23を通るリーダ・ライタからの磁束の通りを良くすることができる。このことにより、近距離無線通信における第2のアンテナ23の送受信性能を向上させることができる。一方、700MHz帯から3GHz帯の高周波を用いる通話においては、磁性体シート5の比透磁率の実部μ’が小さく虚部μ”が大きいので、磁性体シート5により第1のアンテナ13近傍の通話による電磁波を吸収することができる。このことにより、通話時の第1のアンテナ13からの電波による人体への影響を抑制することができ、比吸収率(SAR)の規格を満足することができる。
【0043】
以上により、本発明の携帯電話101のアンテナ構造は、携帯電話101の背面BPと磁性体シート5との間に、通話信号を送受信する第1のアンテナ13と近距離無線通信の信号を送受信する第2のアンテナ23とを配置し、磁性体シート5に扁平状磁性粉末J5を面内方向PDに配向HDさせたシートを用いたので、近距離無線通信の低周波側では比透磁率の実部μ’が高く、通話の高周波側では比透磁率の虚部μ”を高くすることができる。このため、この磁性体シート5により、近距離無線通信用の第2のアンテナ23の送受信性能を向上させるとともに、通話時の第1のアンテナ13からの電波による人体への影響を抑制することができる。このことにより、同一の種類の磁性体シート5を用いるだけで、上記2つの機能を満足させられ、組立時において組立を簡単にすることができる。
【0044】
また、磁性体シート5が一枚のシートからなるので、組立時において、大きさの違う磁性層を別々に準備しそれぞれの位置に各層を配置する場合と比較して、組立をより簡単にすることができる。また、磁性体シート5が一枚なので、シートの加工がし易いとともに、それぞれのアンテナに対して広い面積を有効に使用できるので、第2のアンテナ23の送受信性能をより向上させるとともに、第1のアンテナ13からの電波による人体への影響をより抑制することができる。
【0045】
また、磁性体シート5と第1のアンテナ13と第2のアンテナ23とが、携帯電話101の背面BPに配置されているので、携帯電話101における省スペース化が図られる。
【0046】
また、磁性体シート5の通話面SP側には、電池パック8があるので、磁性体シート5により、ケースが金属製の電池パック8からの影響を受けないようにすることができる。このことにより、近距離無線通信用の第2のアンテナ23の送受信性能をより一層向上させることができる。
【0047】
また、磁性体シート5と第1のアンテナ13と第2のアンテナ23とが、携帯電話101の筐体1の裏蓋71に配置されているので、ケースが金属製で作製されている電池パック8からの影響を受けないようにできるとともに、携帯電話101における省スペース化がより図られ、更には、組立時において、裏蓋71を組み込むだけで第1のアンテナ13、第2のアンテナ23及び磁性体シート5を組み込むことができるので、組立をより一層簡単にすることができる。
【0048】
また、磁性体シート5が折り曲げられて配置されているので、第2のアンテナ23より厚い第1のアンテナ13を折り曲げられた部分に配置することができる。このことにより、携帯電話101における省スペース化がより一層図られる。
【0049】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば次のように変形して実施することができ、これらの実施形態も本発明の技術的範囲に属する。
【0050】
<変形例1>
図7は、本発明の第1実施形態の携帯電話101のアンテナ構造の変形例1を説明する図であり、携帯電話C101の断面構成図である。上記第1実施形態では、一枚の磁性体シート5を用い、磁性体シート5と筐体1の背面BPとの間に、第1のアンテナ13と第2のアンテナ23とを配置した構成にしたが、図7に示すように、磁性体シートC5Aと磁性体シートC5Bの二枚のシートを用い、磁性体シートC5A及び磁性体シートC5Bとの間に、第1のアンテナC13と第2のアンテナC23とをそれぞれ配置した構成しても良い。
【0051】
<変形例2>
上記実施形態では、一枚の磁性体シート5を折り曲げて用いたが、磁性体シート5と筐体1の背面BPとの間に、第1のアンテナ13と第2のアンテナ23とが配置されていれば良く、一枚の平板状の磁性体シートを配置した構成にしても良い。
<変形例3>
上記実施形態では、磁性体シート5がフィルム状であったが、板状の磁性体シートであっても良い。
【0052】
本発明は上記実施の形態に限定されず、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 筐体
71 裏蓋
3 送受信アンテナ
13、C13 第1のアンテナ
23、C23 第2のアンテナ
5、C5A、C5B 磁性体シート
6、6A、6B 回路基板
8 電池パック
101、C101 携帯電話
J5 扁平状磁性粉末
BP 背面
HD 配向
SP 通話面
PD 面内方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部機器との無線通信を行う複数の送受信アンテナを筐体内に収容し、前記筐体内に、扁平状磁性粉末を面内方向に配向させた磁性体シートを設けたものであって、
前記送受信アンテナの一つが通話信号を送受信する第1のアンテナであり、
前記送受信アンテナの一つが近距離無線通信の信号を送受信する第2のアンテナであり、
前記携帯電話の通話面と反対面を形成する前記筐体の背面と対向する位置に前記磁性体シートを配置し、前記磁性体シートと前記背面との間に、前記第1のアンテナと前記第2のアンテナとを配置したことを特徴とする携帯電話のアンテナ構造。
【請求項2】
前記磁性体シートが一枚のシートからなることを特徴とする請求項1に記載の携帯電話のアンテナ構造。
【請求項3】
前記磁性体シートと前記第1のアンテナと前記第2のアンテナとが、前記背面に配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の携帯電話のアンテナ構造。
【請求項4】
前記磁性体シートの前記通話面側には、電池パックがあることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の携帯電話のアンテナ構造。
【請求項5】
前記磁性体シートと前記第1のアンテナと前記第2のアンテナとが、前記筐体の裏蓋に配置されていることを特徴とする請求項4に記載の携帯電話のアンテナ構造。
【請求項6】
前記磁性体シートが折り曲げられて配置されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の携帯電話のアンテナ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−17108(P2013−17108A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149766(P2011−149766)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】