説明

携行型浄水キット

【課題】 災害時等に屋外で使用可能で、浄化する水源の懸濁物質として含まれる微細粒子、溶存性有機物、藻類及び一般細菌等が除去でき、長期に亘り、活性炭筒や膜ろ過器の目詰まりが生じ難く、取扱いやメンテナンスの容易な携行型浄水キットの提供。
【解決手段】
被処理水を汲み上げて送水するポンプと、ろ過層として石英砂層を有する砂ろ過筒と、活性炭を充填した活性炭筒及び/又は膜ろ過器と、前記各構成要素を繋ぐ配管と、を有し、前記膜ろ過器は、精密ろ過膜、限外ろ過膜又は逆浸透膜を備え、前記ポンプ、前記砂ろ過筒、前記活性炭筒及び/又は膜ろ過器の順に、前記配管により各構成要素を連結し、ポンプで汲み上げられる被処理水を砂ろ過筒でろ過した後、活性炭筒及び/又は膜ろ過器に通水し、処理水を得る簡易浄水装置を組立可能なキットであって、収容時には、各構成要素を分離した状態で携行用ケース内に収容し得ることを特徴とする携行型浄水キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャンプ・行楽時や、軍用、災害時等に、屋外に携行可能な携行型浄水キットに関する。
【背景技術】
【0002】
精密ろ過(MF)膜、限外ろ過(UF)膜又は逆浸透(RO)膜等を使用した携帯用浄水装置を用いた水処理方法では、これまで前処理に様々な装置が実用されていたが、前処理の懸濁物質除去能力を高めると前処理装置が早期に目詰まりし、又前処理装置の懸濁物質除去能力を低くするとMF膜、UF膜、又はRO膜が早々に目詰まりを生じ易いという難点があった。
【0003】
また、災害時や軍用の場合には、災害場所や山間部等で飲料水を得ようとすると電気がない場合が考えられ、その場合携帯用浄水装置は水の移動(送水)を手動ポンプに頼ることになる。しかし、往復(ピストン)操作の手動ポンプ等の場合は流れが一定でなく脈動し、手動ポンプの吸引時には流れがないか或いは少なく、吐出時には大きな流れがあるので、MF膜、UF膜又はRO膜の水量負荷が大きく相違するため膜の劣化が早まるという難点があった。例えば、特許文献1に記載のような往復操作のポンプでも、携行用浄水装置に利用するには水量負荷の変動が著しく、手動ポンプは電気が不要で、安価で操作が簡単という利点があるが、未だ改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】 特許第3457301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の第1の目的は、キャンプ・行楽時や、軍用、災害時等に屋外に携行し使用可能な膜ろ過器を備えた携行型浄水キットであって、浄化する水源の懸濁物質として含まれる微細粒子、溶存性有機物、藻類及び一般細菌等の除去が可能で、長期に亘り、活性炭筒や膜ろ過器の目詰まりが生じ難く、かつ、取扱いやメンテナンスの容易な携行型浄水キットを提供することにある。
また、第2の目的は、主に電気がない状況で使用する手動ポンプの脈動を低減し、後段の膜ろ過器等にかかる水量負荷を略均一に保持し得るように機能する砂ろ過筒を備えた携行型浄水キットを提供することにある。
また、第3の目的は、紙フィルタカートリッジを備え、紙フィルタカートリッジの交換が容易で単純な構造を有するろ過器を備えた携行型浄水キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、膜ろ過器及び/又は活性炭筒の前段に、ろ過層として石英砂層を有する砂ろ過筒を配置し、該砂ろ過筒によるろ過後に膜ろ過器及び/又は活性炭筒で処理することで、膜ろ過器及び/又は活性炭筒の目詰まりを回避し得、更に砂ろ過筒自体の目詰まりも生じ難いことを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0007】
すなわち、本発明の携行型浄水キットは、被処理水を汲み上げて送水するポンプと、ろ過層として石英砂層を有する砂ろ過筒と、活性炭を充填した活性炭筒及び/又は膜ろ過器と、前記各構成要素を繋ぐ配管と、を有し、前記膜ろ過器は、精密ろ過膜、限外ろ過膜又は逆浸透膜を備え、前記ポンプ、前記砂ろ過筒、前記活性炭筒及び/又は膜ろ過器の順に、前記配管により各構成要素を連結し、ポンプで汲み上げられる被処理水を砂ろ過筒でろ過した後、活性炭筒及び/又は膜ろ過器に通水し、処理水を得る簡易浄水装置を組立可能なキットであって、収容時には、各構成要素を分離した状態で携行用ケース内に収容し得ることを特徴としている。
【0008】
なお、携行用ケースは、特に限定されないが、例えば、リュックサック、スーツケース等の鞄類が挙げられる。また、携行用ケースへの収納容易性の観点から、前記各構成要素は全て円筒型であることが好ましい。
【0009】
前記石英砂層が、天然の母岩を破砕して得られる破砕石英砂からなり、500〜850μmの粒径のものを重量で全体の50%以上、好ましくは60〜90%含むことが望ましい。
一般的な海砂、川砂、山砂のように、角がなく、表面が平滑なろ材を使用した際には、ろ過層全体の流路間隙がほぼ同一の単純構成となるので、比較的大きな懸濁物はろ過層上部の表層部で捕捉され、微小懸濁物はろ過層を通過してしまう。しかし、天然の母岩(珪石等)を人工的に粉砕篩分けして得られる破砕石英砂は、表面が荒れているため、大小種々の間隙が生じ、複雑な流路が形成されるので、ろ過層全域で種々の大きさの懸濁物を捕捉し得るため、砂ろ過筒及び後段の膜ろ過器等が一層長期に亘り目詰まりを起こし難くなる。また、粒径が上記範囲のものが上記量含まれると、懸濁物を効率よく排除し得ると共に、砂ろ過筒の目詰まりも生じ難い。
砂ろ過筒によるろ過後のろ過水の濁度が1度以下であることが好ましい。活性炭筒及び/又は膜ろ過器に通水する被処理水の濁度を1度以下とし得るので、後段の活性炭筒や膜ろ過器の目詰まりが生じ離く、長期に亘り、利用可能となる。
なお、砂ろ過筒は、ろ過材(石英砂)を処理水(浄水)中で濯ぐことで、容易に再生可能であり、取扱いも容易である。
【0010】
前記ポンプが往復動式手動ポンプなどの吐出脈動を生じるポンプであり、前記砂ろ過筒が、該砂ろ過筒内のろ過層の上方に前記ポンプにより送水される被処理水の脈動を低減するための空気層を備えていることが好ましい。
【0011】
前記砂ろ過筒は、上部に被処理水を導入する導入口を、下部に処理水を取り出す取出し口を備え、前記ろ過層が、該ろ過層の上方に空気層が設けられるように形成されており、該砂ろ過筒の上部にはさらに前記空気層と連通するように、ろ過筒内に空気を取り入れる空気取り入れ口と、ろ過筒内の圧力が一定圧力を超えた時にろ過筒内の空気を外部に放出するリリース弁とが設けられており、前記ろ過層の最上部近傍の所定位置に、ろ過筒内の水位を調整するための水位調整バルブを備えた排出口が設けられており、被処理水のろ過時においても、前記空気層が常時維持されるよう(常時残存するよう)にろ過筒内の水位と空気量を調節することが好ましい。
【0012】
前記砂ろ過筒は、前記導入口の下方に該導入口より流入する被処理水の勢いを止め、下方の前記ろ過層上に供給される被処理水を分散する散水板を備えることが好ましい。
【0013】
前記携行型浄水キットが、さらに、前記砂ろ過筒の上流に配置される、使い捨て紙フィルタカートリッジを備えたろ過器を有することが好ましい。
【0014】
前記紙フィルタカートリッジを備えたろ過器が、一端に底部を、他端に開口部を有し、前記底部又は底部近傍にろ過水を取り出す取出し口を有する筒型の容器本体と、前記容器本体内に収容され、平面視略矩形状の扁平な袋状に形成され、一隅に小孔部を有する袋状ろ紙、及び一端が外方に突出するように該小孔部より該袋状ろ紙内に挿入され、該小孔部近傍で密着固定された接続管を有する紙フィルタカートリッジと、前記紙フィルタカートリッジを前記容器本体に収容した際に前記容器本体内に流路となる間隙を形成するための多孔質体からなるシート状のスペーサと、有底筒型で、肉厚の底部に貫通孔を有し、該貫通孔の外方側に内螺子部を有する、前記容器本体の開口部を閉塞する蓋体と、前記内螺子部に螺合可能な外螺子部を一端に備える被処理水を導入する導入管と、を備え、前記ろ過器は、前記蓋体の貫通孔内の内螺子部に、前記導入管を螺合し、該貫通孔の他端側に、前記紙フィルタカートリッジの接続管を挿入することで前記導入管と該接続管を液密に接続し、前記紙フィルタカートリッジを、該紙フィルタカートリッジの袋状ろ紙部に重ね合わせた前記スペーサと共に前記接続管を軸として巻き取った状態で、前記容器本体内に収容し、前記蓋体を該容器本体の開口部に嵌合することで組立てられ、前記導入管から前記接続管を介して前記袋状ろ紙内に被処理水を導入し、該袋状ろ紙を透過したろ過水を前記容器本体底部の取出し口より取り出し、被処理水より取り除いた汚濁物を前記袋状ろ紙内に溜めるようにすることが好ましい。
【0015】
前記多孔質体からなるシート状のスペーサとしては、例えば不織布が用いられる。前記スペーサは、前記袋状ろ紙の平面視形状とほぼ同じ大きさか、或いはそれより若干大きいことが好ましい。これによれば、巻き取った袋状ろ紙内に被処理水が導入され、膨らんだ際にも処理水の流路となる不織布が巻き取った袋状ろ紙間に埋まってしまうことがないので、重なり合った袋状ろ紙の外周に確実に処理水を通過させるための処理水流路を形成することが可能となる。
【0016】
前記袋状ろ紙が、パルプとPETの混繊維からなり、熱ローラによる加熱・加圧処理がされ、該処理後の厚みが50〜70μmであるろ紙を袋状に成形して製造されており、かつ、表面に撥水処理がされていないことが好ましい。
【0017】
前記接続管が樹脂管であり、前記袋状ろ紙と熱溶着により密着されていることが好ましい。
【0018】
前記携行型浄水キットが、さらに、木の葉、ビニール片等の粗大夾雑物を取り除くための粗目フィルタを有することが好ましい。
【0019】
本発明の砂ろ過筒は、ろ過層として石英砂層を有し、該石英砂層が天然の母岩を破砕して得られる破砕石英砂からなり、500〜850μmの粒径のものを重量で全体の50%以上含むことを特徴としている。当該砂ろ過筒は、例えば、ポンプにより送水された被処理水(原水)を膜ろ過器で膜ろ過する簡易浄水装置において、膜ろ過器の前処理手段として用いられる。
また、本発明の他の態様に係る砂ろ過筒は、往復動式手動ポンプなどの吐出脈動を生じるポンプにより送水された被処理水を膜ろ過器で膜ろ過する簡易浄水装置において、前記膜ろ過器の前処理手段として前記ポンプと前記膜ろ過器との間に配置される砂ろ過筒であって、該砂ろ過筒のろ過層の上方に前記ポンプにより送水される被処理水の脈動を低減するための空気層を備えていることを特徴としている。
なお、前記砂ろ過筒は、ろ過時に上方から下方に通水される。
【0020】
本発明の紙フィルタカートリッジを備えたろ過器は、一端に底部を、他端に開口部を有し、前記底部又は底部近傍にろ過水を取り出す取出し口を有する筒型の容器本体と、前記容器本体内に収容され、平面視略矩形状の扁平な袋状に形成され、一隅に小孔部を有する袋状ろ紙、及び一端が外方に突出するように該小孔部より該袋状ろ紙内に挿入され、該小孔部近傍で密着固定された接続管を有する紙フィルタカートリッジと、前記紙フィルタカートリッジを前記容器本体に収容した際に前記容器本体内に流路となる間隙を形成するための多孔質体からなるシート状のスペーサと、有底筒型で、肉厚の底部に貫通孔を有し、該貫通孔の外方側に内螺子部を有する、前記容器本体の開口部を閉塞する蓋体と、前記内螺子部に螺合可能な外螺子部を一端に備える被処理水を導入する導入管と、を備え、前記ろ過器は、前記蓋体の貫通孔内の内螺子部に、前記導入管を螺合し、該貫通孔の他端側に、前記紙フィルタカートリッジの接続管を挿入することで前記導入管と該接続管を液密に接続し、前記紙フィルタカートリッジを、該紙フィルタカートリッジの袋状ろ紙部に重ね合わせた前記スペーサと共に前記接続管を軸として巻き取った状態で、前記容器本体内に収容し、前記蓋体で該容器本体の開口部を閉塞することで組立てられ、前記導入管から前記接続管を介して前記袋状ろ紙内に被処理水を導入し、該袋状ろ紙を透過したろ過水を前記容器本体底部の取出し口より取り出し、被処理水より取り除いた汚濁物を前記袋状ろ紙内に溜めるようにしたことを特徴としている。
【0021】
本発明の携行型(簡易)浄水装置は、被処理水を汲み上げて送水するポンプと、ろ過層として石英砂層を有する砂ろ過筒と、活性炭を充填した活性炭筒及び/又は膜ろ過器と、前記各構成要素を繋ぐ配管と、を有し、前記膜ろ過器は、精密ろ過膜、限外ろ過膜又は逆浸透膜を備え、前記ポンプ、前記砂ろ過筒、前記活性炭筒及び/又は膜ろ過器の順に、前記配管により各構成要素を連結し、ポンプで汲み上げられる被処理水を砂ろ過筒でろ過した後、活性炭筒及び/又は膜ろ過器に通水し、処理水を得ることを特徴としている。
また、前記携行型浄水装置は、上述の携行用ケース内に収容し得る。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、石英砂層をろ過層として備えた砂ろ過筒を、活性炭筒及び/又は膜ろ過器の前段に備えているので、活性炭筒や膜ろ過器の使用期間をより延ばすことが可能となり、システム全体の使用可能な時間を延ばすことができる。
また、他の態様によれば、手動ポンプを用いることで、電気がない状況での使用も可能となり、さらに、ろ過層の上部に空気層を備えた砂ろ過筒を用いることで、手動ポンプにより生じる脈動を低減し、後段の膜ろ過器等にかかる水量負荷を略均一に保持することが可能となる。
また、他の態様によれば、前処理手段(前処理器)として、さらに、使い捨て可能な紙フィルタカートリッジを用いることで、後段の砂ろ過筒にかかる負担を軽減し、システムの使用可能な時間を一層長期化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】 図1は、本発明の携行型浄水キットの一使用態様を説明するための模式図である。
【図2】 図2は、紙フィルタカートリッジを備えたろ過器の構造を説明するための一部を切欠いた斜視図である。
【図3】 図3は、紙フィルタカートリッジを備えたろ過器の構造を説明するための断面図である。
【図4】 図4(a)は、ろ過器に収容される前の紙フィルタカートリッジの構造を説明するための斜視図であり、図4(b)は、ろ過器に収容する際の紙フィルタカートリッジの巻き取り状態を説明するための一部を切欠いた斜視図である。
【図5】 図5は、一実施形態に係る砂ろ過筒を説明するための概略断面図である。
【図6】 図6は、本発明に用いられる往復動式手動ポンプの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の携行型浄水キットは、被処理水を汲み上げて送水するポンプと、砂ろ過筒と、活性炭筒及び/又は膜ろ過器とを含み構成されている。本発明の携行型浄水キットは、必要に応じて、粗目フィルタ、紙フィルタカートリッジを備えたろ過器(以下、単に紙フィルタともいう)等を含んでもよく、また、各ユニット(ポンプ、砂ろ過筒、活性炭筒、膜ろ過器、粗目フィルタ、紙フィルタ等)間を連結する可撓性を有するホース状の配管を含んでいてもよい。
【0025】
本発明の携行型浄水キットでは、活性炭筒及び/又は膜ろ過器の前に、砂ろ過筒を配置して、ポンプで汲み上げた被処理水を一旦砂ろ過筒で処理した後に活性炭筒及び/又は膜ろ過器で処理する。また、粗目フィルタ又は紙フィルタを用いる場合には、粗目フィルタ又は紙フィルタは、砂ろ過筒の前段に配置され、粗目フィルタ及び紙フィルタの双方を用いる場合は、粗目フィルタ、紙フィルタ、砂ろ過筒、活性炭筒、膜ろ過器の順で設置される。なお、活性炭筒及び膜ろ過器は、両方設置してもよいが、いずれか一方のみを配置してもよい。このような携行型浄水キットを構成する各ユニット(ポンプを含む)は、上記順序で、例えば可撓性を有するホースにより連結される。
【0026】
本発明の携行型キットで浄水化し得る被処理水は、緊急時に飲料水化処理可能な水であれば特に限定されず、例えば、人工池、プール、池、湖沼、小川、浴槽等の水が挙げられる。
【0027】
以下に、携行型浄水キットの主な構成要素について順次説明する。
本発明で用いられるポンプは、被処理水を汲み上げて送水することが可能であれば特に限定されず、電動式であっても手動式であってもよい。但し、災害時や屋外で使用する場合には、適当な電源が得られない可能性も高く、そのような用途に使用する場合には、手動式(例えば往復動式手動ポンプ)を備えていることが好ましい。往復動式ポンプ(いわゆる往復ポンプ)は、シリンダ(筒)内をピストンまたはプランジャが往復して、シリンダ内の容積を変えることにより、液体を吸い込み、送り出す構造を有するポンプである。具体的には、例えば特許文献1に記載の往復動式手動ポンプを用いることができる。
【0028】
本発明で用いられる砂ろ過筒は、ろ過材として石英砂を使用していることが好ましい。石英砂は、天然に産出するものを使用してもよく、珪石等の天然の母岩を破砕したものを使用してもよいが、粉砕物を用いた方がろ過層全体で懸濁物を捕捉し得るので好ましい。また、石英砂は、500〜850μmの粒径のものを重量で全体の50%以上、好ましくは60〜90%程度含むことが望ましい。このような石英砂を用いると、砂ろ過筒、及び、後段の活性炭筒及び膜ろ過器が一層長期に亘り目詰まりを起こし難くなる。また、砂ろ過筒内に充填されたろ過砂は、水洗により容易に再生可能である。砂ろ過筒内のろ過層の上部には、空気層が設けられていることが好ましい。空気層を設けておくことにより、手動ポンプ等の脈動を低減し得ると共に、手動ポンプ操作時に作業員にかかる負荷を軽減することが可能となる。
【0029】
本発明で用いられる活性炭筒は、略円筒形状の容器に活性炭を充填したものが好適に用いられ、特に、装填される活性炭をカートリッジ方式としたものであると、災害時等の緊急時の取扱い容易性の点から好ましい。
【0030】
本発明で用いられる膜ろ過器は、携行可能なものであれば特に限定されないが、外形が略円筒状のものであると、携行時の収納のし易さ等の観点から好ましい。また、膜ろ過器のろ過膜は、精密ろ過膜(MF膜)、限外ろ過膜(UF膜)、ナノろ過膜(NF膜)、又は逆浸透膜のいずれであってもよいが、手動ポンプの操作にかかる負荷労力が少ないという点からはMF膜又はUF膜が好ましい。
【0031】
また、砂ろ過筒の前段に必要に応じて紙フィルタを用いてもよい。紙フィルタは、例えば0.05〜1mm程度の小粒子を捕捉するためのもので、砂ろ過筒にかかる負荷を低減し得る。また、カートリッジ式とすることで交換が容易で使い捨てすることができ、砂ろ過筒のろ過層の洗浄再生回数を減らして長時間の使用を可能とするので、災害時等の緊急時の取扱いの容易性の点で好ましい。
【0032】
さらに、砂ろ過筒の前段(紙フィルタを設置する場合は、紙フィルタの前段)に、木の葉やビニール片等の粗大夾雑物が砂ろ過筒へ流入するのを阻止するための粗目フィルタを設置してもよい。粗目フィルタは、粗大夾雑物を除去し得るものであれば特に限定されず、網状体、多数の開口部(小孔、スリット等)を有する成形体等のいずれであってもよく、目開きは、例えば、1mmより大きく、好ましくは、2〜5mm程度のものが用いられる。粗目フィルタの形状も、特に限定されないが、例えば円筒状であると携行の際、スペースをとらないので便利である。また、粗目フィルタの素材は、樹脂材料、金属材料等のいずれであってもよいが携行時の軽量化を考慮し樹脂材料が好ましい。
【0033】
以下、図面を参照しながら本発明について、より詳細に説明する。
図1は、本発明の携行型浄水キットの一使用態様を説明するための模式図である。
図1に示すように、本実施形態の携行型浄水キットは、粗目フィルタ2、紙フィルタカートリッジ407を備えたろ過器4、往復動式手動ポンプ5(以下、単に手動ポンプともいう)、砂ろ過筒6、活性炭筒7、及び膜ろ過器8から主に構成されており、これらのユニットを必要に応じて備えられるホース状の配管(ラインL1〜L6)により当該順に連結することで、簡易浄水装置(小型浄水装置)100が構築される。
【0034】
原水(被処理水)10が貯留された水槽1内には、樹脂製の粗目フィルタ2が、水槽1内の底泥等を吸い上げないように、水面上に浮かべた直径7cm発泡スチロール製の球状フロート(浮子)3に吊り下げて設置されている。
粗目フィルタ2は、5mm径の複数の穴が穿たれた、直径10cm、長さ17cmの略円筒形状をした樹脂製の筒体で、原水に含まれる木の葉、枝、ビニール片等の大きな夾雑物を除去する。
【0035】
手動ポンプ5を稼働すると、手動ポンプ5の吸引側に配設されたこの粗目フィルタ2を介して被処理水が吸引され、圧力計11を備えたラインL1を経てろ過器4に送水される。
【0036】
ろ過器4には、内部に紙フィルタカートリッジが備えられており、紙フィルタカートリッジを通過した水が、ラインL2、手動ポンプ5を介し、ラインL3を経て、砂ろ過筒6に移送される。ラインL3には、流量調整用のバルブ12及び圧力計13が備えられており、手動ポンプ5から吐出された吐出水は、バルブ12により流量が調整された状態で砂ろ過筒6に送られ、砂ろ過筒6で殆どの懸濁物質が捕捉される。
【0037】
砂ろ過筒6より得られる濾過水は、圧力計14を備えたラインL4を介して活性炭筒7に送られる。活性炭筒7では、主に色度成分及び臭気成分が除去される。その後、さらに圧力計15を有するラインL5を介して膜ろ過器8に送水され、他の処理では除去しきれなかった成分(一般細菌、大腸菌等を含む)が除去される。最終的に得られる処理水は流量計16を備えたラインL6を介して飲料水貯槽9に貯留され、飲料水として飲用される。
【0038】
圧力計11、13、14、15は、それぞれろ過器4、砂ろ過筒6、活性炭筒7及び膜ろ過器8の前に設置されており、目詰まりによる異常な圧力上昇が検知された時はそれぞれの機器を洗浄再生又は充填部材を交換することになる。具体的には、ろ過器4の場合は後述する紙フィルタカートリッジ407の交換、砂ろ過筒6の場合はバケツ等に石英砂を移し、水で2〜3回程度撹拌しながら洗浄することによる再生、活性炭筒7及び膜ろ過器8の場合は膜カートリッジの交換となる。なお、圧力計11、13、14、15は、持ち運び途中や現場設置の際にガラスが破損すると危険なため、ガラス素材を使用しないブルドン管式が好適に用いられる。
【0039】
流量計16は、簡易浄水装置全体の毎分当たりの浄水量を測定するもので、例えば電磁流量計が用いられる。なお、実現場では流量計16はなくても、浄化した飲料水の量をバケツの目盛り等で大まかに確認ができればそれで十分である。
【0040】
次に、紙フィルタカートリッジを備えたろ過器4の一例について、図2乃至図4を参照しながら説明する。
図2は、ろ過器4の構造を説明するための一部を切欠いた斜視図である。図3は、ろ過器4の構造を説明するための断面図である。また、図4(a)は、ろ過器4に収容される前の紙フィルタカートリッジの構造を説明するための斜視図であり、図4(b)は、ろ過器4に収容する際の紙フィルタカートリッジの巻き取り状態を説明するための一部を切欠いた斜視図である。
【0041】
図2及び図3に示されるように、ろ過器4は、一端が閉塞され、他端が開口された筒状の容器本体401と、容器本体401に収容される紙フィルタカートリッジ407と、容器本体401の開口部411を覆う蓋体403とから主に構成されている。また、紙フィルタカートリッジ407は、袋状ろ紙402及び接続管422から主に構成されている。
【0042】
袋状ろ紙402は、一隅に小孔部421を有する平面視略矩形状の扁平な袋体で、小孔部421には、袋状ろ紙402内に被処理水を取り入れるための接続管422が袋状ろ紙402の一辺に沿って挿入されており、この接続管422は、一端側が小孔部421より突出した状態で小孔部421に密着固定されている。接続管422の突出した側には、先端付近にO−リング423が取り付けられており、後述する蓋体403の貫通孔433に挿入された際の貫通孔433との密着性を高め、シール性を向上させている。接続管422の挿入部の長さは、特に限定するものではないが、袋状ろ紙402を巻き取る際に巻き取りがし易くかつ接続管422より導入される水流で袋状ろ紙402が劣化するのを防止するという観点から、近接する袋状ろ紙402の辺の約1/4〜3/4程度であることが好ましい。
【0043】
また、実用性の観点から種々の検討を行った結果、下記条件を満たす素材が好ましいことが判明した。
第一の条件は、撥水処理をしていない素材であることが好ましい。撥水処理を行っている素材に比べ、ろ過速度が向上し得る。
第二の条件は、パルプ100%の素材ではなく、パルプとPET等の合成樹脂材料との混繊維、特にパルプとPETが約1対1の比率(重量比)で含まれる混繊維であることが好ましい。合成樹脂材料が含まれると強度が向上し、また、特にパルプとPETの1対1混繊維であると、切断強度が増す点で好ましい。また、PET等の合成樹脂材料との混繊維にすることで熱溶着ができるため、袋状に形成したり、接続管422を固定したりする際の加工等が容易になる。
第三の条件は、熱ロールによる加熱・加圧処理を行っていることが好ましい。袋状ろ紙402に熱ロールによる加熱・加圧処理が施されていると、ろ過速度を抑止する混繊維の毛羽立ちを低減し得るので、ろ過速度を向上し得る。
第四の条件は、熱ロールによる処理後の袋状ろ紙402の厚さが、50〜70μm程度であることが好ましい。袋状ろ紙402の厚さが上記範囲にあると、嵩張りがなくろ過器4をコンパクトにし得るので携行に便利であると共に、十分なろ可能を保持しつつろ過抵抗を低減することが可能となる。
第五の条件は、袋状ろ紙402の目付けが、20〜40g/m程度であることが好ましい。目付けが上記範囲にあると、ろ過速度と懸濁物質除去性のバランスに優れる。
【0044】
このような袋状ろ紙402は、例えば、上記条件を満たす素材からなる略矩形状のろ紙を2枚重ね合わせ、四辺を熱溶着し、袋状にした後、一隅を切欠いて小孔部(切欠き部)421を設け、この小孔部421に樹脂製の接続管422を挿入し、その後、袋状ろ紙402の小孔部421近傍を加熱して袋状ろ紙402と接続管422を熱溶着することで製造し得る。
【0045】
袋状ろ紙402は、広げた状態(図4(a)参照)で不織布405上に重ね合わせられ、図4(b)に示すように接続管422を軸として不織布405と共に渦巻き(スパイラル)状に巻き取った巻取体406とした状態で容器本体401内に収容される(図2及び図3参照)。このように、不織布405と袋状ろ紙402を同時に巻き取った巻取体406とすることで、袋状ろ紙402内に被処理水が導入され、袋状ろ紙402が膨化した際にも、巻き取った袋状ろ紙402同士或いは袋状ろ紙402と容器本体401内壁とが接触することで、容器本体401内に処理水が通過する流路となる隙間がなくなり、袋状ろ紙402を透過した処理水の流れに支障をきたすのを回避することが可能となる。
不織布405の厚さは、あまり厚いと嵩張り、ろ過器4が大きくなるので携行に不向きであり、また、薄すぎると適正な水路(処理水流路)を袋状ろ紙402間に形成し得なくなる。したがって厚さは2〜5mm程度であることが好ましい。
【0046】
蓋体403は、肉厚の底部431を有する筒体で、筒部432の内径は容器本体401の開口部411側に外嵌し得るように容器本体401の外径より若干大きく形成されている。容器本体401の開口部411近傍の外壁には外螺子部412が設けられており、この外螺子部412に螺合し得るよう、蓋体403の筒部432の内壁には内螺子部(符号なし)が設けられている。また、外螺子部412の終端部にはO−リング413が取り付けられており、蓋体403とのシール性を高めている。底部431には、貫通孔433が設けられており、貫通孔433の外方側(容器本体401に面する側と反対側)には貫通孔433の長さ方向で半ば位まで内螺子部434が設けられ、導入管404の外螺子部441と螺合可能にされている。導入管404の外螺子部441の終端部分には、導入管404を螺合した際、蓋体403に圧接されるO−リング442が装着されており、容器本体401内からの水漏れを一層確実に防止することが可能となっている。貫通孔433の容器本体401と対向する側には、先端付近にO−リング423が取り付けられた接続管422が挿入され、貫通孔433内で同軸上に導入管404と接続管422が液密に接続される。
【0047】
導入管404は、内部に貫通孔443を有し、蓋体403との接続側と反対側がラインL1と接続されており、L1を介して導入管404に導入された被処理水は、接続管422を介して袋状ろ紙402内に導入され、袋状ろ紙402を透過したろ過水は、スペーサとしての不織布405内(及び容器本体401内の間隙)を通過し、容器本体401の底部414に設けられた取出し口415より取り出される。その際、袋状ろ紙402内には、被処理水より取り除かれた汚物が溜まることになる。
【0048】
袋状ろ紙402内に汚物が増えたり、或いは目詰まり等して袋状ろ紙402のろ過能が低下した際には、袋状ろ紙402と先端部にO−リング423が密着した接続管422とが一体となった紙フィルタカートリッジ407を交換する。紙フィルタカートリッジ407は、上述のとおり、蓋体403の貫通孔433に接続管422を挿入することで装着されているので、接続管422を引き抜くことで容易に取り外し可能であり、使い終わった紙フィルタカートリッジ407は袋状ろ紙402内に溜まった汚物と共にそのまま廃棄することができる。また、新たな紙フィルタカートリッジ407も同様に蓋体403の貫通孔433に挿入することで装着し得る。したがって、災害時等の非常時においても、手を汚さずに煩雑な操作なしに紙フィルタカートリッジ407の交換が可能であるので好ましい。
【0049】
このように紙フィルタカートリッジ407の交換は容易であるが、紙フィルタカートリッジ407を長時間利用可能とするために、紙フィルタカートリッジ407の線束(LV)は、5〜15m/m/日程度とすることが好ましい。
【0050】
次に、本実施形態に用いられる砂ろ過筒6について説明する。
図5は、一実施形態に係る砂ろ過筒6を説明するための概略断面図である。
図5に示すように、砂ろ過筒6は、後述するろ過層を有する有底円筒状の砂ろ過容器601と砂ろ過容器601の開口端を閉塞する蓋体611とから主に構成されている。
砂ろ過容器601内には、ろ過層として、下から順に支持床としての樹脂ペレット層602、下部不織布層603、石英砂層604、上部不織布層605、空気層(クッション部)606が形成されている。
【0051】
砂ろ過筒6の水面積当たりのLVは、3〜6m/m/時程度であることが好ましく、砂ろ過筒6の容積当たりの浄水速度すなわち容積速度(SV)は30〜50m/m/時程度であることが好ましい。LV及びSVが上記範囲にあると、懸濁物の除去性、脈動防止、適正設計条件の設定に優れる。
【0052】
以下、砂ろ過筒6を構成する要素について順に説明する。
最上部の空気層606は、往復動作式の手動ポンプ5の脈動を抑えるもので、この空気層606の容積は、簡易浄水装置100を、4〜5時間程度運転すると、一部の空気が被処理水に同伴されて後段に運ばれ、空気層の減少分を被処理水が満たすこととなるため、その影響で半分程度に減少する。そのため、常時空気層606を一定以上に保持するために、蓋体611に砂ろ過筒6の上部の空気層606に連通するように空気取り入れ口として、外気に連なる空気取り入れバルブ607を備えた配管(空気取り入れ管)608を設けており、同時に過剰水を排除し、水位を下げて水面位置を所定位置に調整するための排出口として、水位調整バルブ609を備えた配管(排水管)610を設けている。
【0053】
蓋体611には、被処理水の導入口(図示略)が外方に突設されており、ラインL3と液密に接続可能にされている。蓋体611は、凹状で、内底616には内底外縁に沿って浅溝617が形成され、パッキン618が詰められており、砂ろ過容器601を閉塞する際に、砂ろ過器601の開口端とパッキン618を接触させることでシール性を高めている。蓋体611の内底616の導入口の直下には、ラインL3より流入する被処理水の勢いを止め、ろ過層上にある程度分散させて供給するために、内底616と若干距離を開けた位置に散水板612が2本の丸棒613により固定されている。蓋体611、散水板612及び丸棒613が塩化ビニール等の樹脂製である場合には、蓋体611及び散水板612と丸棒613とは、例えば溶着又は接着により固定される。散水板612は、ラインL3を構成する配管の内径より2〜10倍程度大きな径の円盤状で、砂ろ過容器601の内径の1/3〜1/5程度であることが好ましい。散水板612の直径を、砂ろ過容器601の内面積をカバーし得る大きさとし、散水板にパンチング穴等を設けて、砂ろ過容器601のろ過層の表面全域に散水することも考えられるが、現場の設置状況は不明で、むしろ水平設置が難しい場合が多く、散水板が傾いて設置されると一方向に限定された流れとなり、全体に散水されなくなるため、携行用として使用する場合には、散水板612を大きくするのはむしろ好ましくない。一方、散水板612がないか或いは小さすぎる場合は、ラインL3から流入する被処理水の勢いで石英砂層604の中心部が凹み、逆円錐形の穴が形成され、水の短絡が起こり易くなる。小さな携帯用の砂ろ過筒6では、コンパクト性や重量低減が重要なポイントになるため充填容積も高さも大きくできない。石英砂の充填高さ(石英砂層604の高さ)は、4〜10cm程度が好ましいが、このような高さで深さ2〜3cm程度の凹みが生じると、短絡が生じる可能性が大き過ぎる。したがって、携帯用では、散水板612を設置することが望ましい。L3を構成する配管を、砂ろ過筒6に入る前に、複数の配管に分岐し、石英砂層604に供給する被処理水を分散し、中心部に凹みが生じないようにする方法等も考えられるが、配管が複雑な形状を有すると、持ち運びの際に配管が破損する可能性が高く、仮に配管としてフレキシブルチューブを使用し配管破損を防止しようとしても、蓋体611のチューブ接続部(配管との接続部)の破損の可能性もあり、実用的とは言えない。
【0054】
空気取り入れバルブ607、水位調整バルブ609、及び配管608、610の口径はそれほど大きくなくてもよく、例えば内径8mm程度あればよい。空気取り入れバルブ607及び水位調整バルブ609は、自動バルブであっても手動バルブであってもよい。
【0055】
空気層606は、手動ポンプ5の操作性にも影響している。すなわち、空気層606がない状態では、手動ポンプ5からL6に至るまでの簡易浄水装置100全体に亘って、一連に水で繋がった状態になり、手動ポンプ5の吐出時の抵抗が大きくなり、ポンプ操作員は過大な労力を要することになる。しかし、空気層606が存在すると、上述のように脈動を低減し得るのみならず、空気層606のクッション作用で手動ポンプ5の操作時にポンプ操作員に必要とされる力を軽減することが可能となる。また、手動ポンプ5の操作を停止しても、例えば停止時の砂ろ過筒6内の残圧が約50kPaあれば約15〜30秒間は飲料水が連続的に流れ続け、砂ろ過筒6内の残圧は最終的にゼロに至る。したがって、手動ポンプ5の操作中は、断続的に送水がなされても、砂ろ過筒6を通過後の水は、ほぼ脈動のない見事な均一流れになる。
その際、空気層606の容積当りの浄水量すなわち容積速度(空間速度)(SV)は、60〜120m/m/時程度であることが好ましい。
【0056】
石英砂層604は、粒度が500〜850μm程度の天然の破砕物が好適に用いられる。粒度が大き過ぎると懸濁物質などの捕捉性能が落ち、小さ過ぎると石英砂層604の目詰まりが速く、短時間で大きな圧損を生じる傾向にある。このような粒度が500〜850μm程度の石英砂は、重量パーセントで石英砂層604全体の50%以上、好ましくは60〜90%程度含まれるとよい。また、人工的に丸い形状に整形された石英砂の充填高さをいくら高くしても懸濁物質の捕捉性能は上がり難い。これに対し、天然の破砕石英砂は、粉砕時に表面が荒れるため、表面に凹凸や角部が多く生じ、このような砂表面の角部や凸部の組み合わせで微細な懸濁粒子を捕捉することが可能となっていると考えられる。また、表面が角状で適度な粒径の石英砂であれば充填された石英砂層604では、石英砂層604のほぼ全域で種々の大きさの微小な懸濁物質を捕捉し得るので、従来のろ過装置で生じていたろ過上部表層に偏った目詰まりや微小懸濁物のリークがなく、長時間にわたり砂ろ過筒6を含め、後段の活性炭筒7や膜ろ過器8の浄化水量の低下や圧損上昇が起こらない。石英砂の充填高さ(石英砂層604の高さ)は、4〜10cm程度が好ましい。
【0057】
リリース弁614は、砂ろ過筒6、活性炭筒7及び膜ろ過器8のいずれかが、目詰まりを起こし圧力が異常に上昇した場合の圧力緩和対策のため設けられたものである。また、手動ポンプ5の操作員が激しい往復操作をした場合には、浄水量が増し、砂ろ過筒6内の圧力が最大で150〜180kPa程度になるが、このような異常な圧力上昇を防ぐ対策としても有効である。また、手動ポンプ5の激しい操作でLVが10m/m/時程度を超えると、システム全体の浄化効率が下がるため、その未然防止策にもなる。リリース弁614の開放設定は、例えば100〜130kPaとするとよい。
【0058】
上部不織布層605は、粗目フィルタ2で木の葉やビニール片等の粗大夾雑物が除去され、紙フィルタ4で0.05〜1mm程度の小粒子が捕捉されるため、懸濁粒子の捕捉というより、むしろ被処理水の分散と、簡易浄水装置100(携帯用浄水キット)を携帯して移動する際の石英砂層604の散逸防止が目的となる。上部不織布層605を構成する不織布の目付けは、100〜250g/m程度が良い。上部不織布605の厚みは厚いほど良いが、携行用なため、砂ろ過筒6をコンパクトにする制約があり、3〜5cm程度とすることが好ましい。なお、簡易浄水装置100(携帯用浄水キット)の販売時の形態としては、砂ろ過筒6内の充填物の形崩れ防止のため、上部不織布層605上の空気層606にダミーの段ボール材が入れられる。
【0059】
下部不織布層603は、上層の石英砂が後工程に漏出するのを防止するための層で、下部不織布層603を構成する不織布の目付けは、上部不織布層605と同様に100〜250g/m程度が良い。また、下部不織布層603の充填前の厚みは3〜5cm程度が良いが、石英砂層604の充填時に石英砂層604の重量の影響で1.5〜2.5cm程度となる。
【0060】
砂ろ過容器601の側面下部の樹脂ペレット層602と連通する位置には、ろ過水出口(図示略)が突設して設けられており、ラインL4と液密に接続されており、上述のろ過層を通過したろ過水はろ過水出口を介してラインL4に排出される。
【0061】
砂ろ過筒6、すなわち、石英砂層604の再生は、バケツ等の容器に移して浄水で洗浄することにより容易に再生することができる。
例えば、1日5時間運転して、5日間使用した未閉塞(まだ利用可能な状態)の石英砂層604をバケツに取って、本簡易浄水装置100で浄化した飲料水を3L加え、手回しで3回洗浄したところ、3回目の濁度は殆どなく透明に近くなった。1回の洗浄に要する時間は、僅か2〜3分程度で、このことは、石英砂の沈降性の良さと懸濁物質の剥離性の良さを示している。したがって、簡易浄水装置100の使用場所がどこであっても簡単に洗浄し、石英砂層604の再装填が可能である。また、石英砂層604の全域でろ過されていることを確認するために、石英砂層604を、上層部、中層部、下層部の3層に分けて分取し、水洗浄を実施したところ、3層とも多量の懸濁物質を包含しており、SS分析の結果からは有意な差がなく、一般的なろ過装置に共通している表層部での集中的な懸濁物質の捕捉がなく、石英砂層604全域での懸濁物質の捕捉がされたことが確認されている。
また、砂ろ過筒6と併行して行った各種のディスクフィルタ、砂ろ過、珪藻土ろ過、糸巻きフィルタ等の比較試験の結果から、砂ろ過筒6は懸濁物質の除去性、長時間のろ過差圧安定性、洗浄性、脈動防止等で明らかな優位性があることが判明している。
【0062】
図6は、本実施形態に用いられる往復動式手動ポンプ5の模式図である。図6に示すように、往復動式手動ポンプ5は、吸込口と吐出口が設けられ、上端が開口されたポンプケーシング(シリンダ)53と、ポンプケーシング53の開口端より挿入され、ポンプケーシング内に上下動自在に支持された軸部52とを備えている。吸込口と吐出口は、各々ラインL2及びラインL3に液密に接続される。軸部52の一端には、手持ち用の取っ手51が設けられており、取っ手51に繋がる軸部52を上下に往復させると、軸部52の他端側に設けられた図示せぬピストンがポンプケーシング53内を上下し、ポンプケーシング53内の容量を変動させる。これにより、ポンプケーシング53内にラインL2から水が吸込口を介して流入し、吐出口よりラインL3に水が排出される仕組みになっている。すなわち、操作員がポンプケーシング53の下端に設けられた踏み板54に足を乗せ、手動ポンプ5を固定し、取っ手51を上に持ち上げるとポンプケーシング53内に水を吸引し、取っ手51を下に押し込むとポンプケーシング53内に吸い込まれた水が排出される。
【0063】
このように、本実施形態に用いられるポンプ、砂ろ過筒、活性炭筒、膜ろ過器、粗目フィルタ、紙フィルタは、全て円筒状をしているため、配管を外し、各ユニットに解体することで、リュックサック等の携行用ケース内にも収容し易く、また、嵩張らないので持ち運びにも便利である。
以上、本発明について説明したが、本発明は上記実施形態及び後述の実施例に限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限り、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加えることが可能である。
【実施例】
【0064】
図1に示した簡易浄水装置100を組み立て、同図フローに従って試験を行った。なお、簡易浄水装置100の各構成要素の詳細については、下記のとおりである。
ラインL1〜L6を構成する配管には、耐水軟質ポリウレタンチューブを用いた。
粗目フィルタ2は、5mm径の複数の小孔を有する直径10cm、長さ17cmの略円筒形状の樹脂製の成形体を用い、水槽1内に浮かべた直径7cmの発泡スチロール製の球状フロート(浮子)3に吊り下げて設置した。
紙フィルタカートリッジを備えたろ過器4(以下、単に紙フィルタともいう)としては、図2乃至図4に示した構造を有するろ過器4(容器本体401および蓋体403の素材:塩化ビニール製、容器本体401の形状:直径8cm、長さ22の円筒状、袋状ろ紙402の展開時の寸法:18cm×40cm)を用いた。また、袋状ろ紙402は、パルプとPETが1対1の混繊維で、撥水処理をしておらず、加熱ロール処理を施した、厚さ60μm、目付け:30g/mのものを用いた。
砂ろ過筒6(以下、石英砂筒ともいう)は、図5に示した構造を有する砂ろ過筒6(本体601、蓋体611及び散水板612の素材:塩化ビニール製、本体601の外形:直径約13cm、全高約21cmの略円筒形状、散水板612の直径:40mm、空気取り入れバルブ607及び水位調整バルブ609:内径8mmの手動バルブ、配管608及び配管610の口径:内径8mm、石英砂層604の高さ:8cm、上部不織布層605の目付け及び下部不織布層603の目付:180g/m、上部不織布層605の厚さ:3cm、下部不織布層603の石英砂充填前の厚さ:3cm、樹脂ペレット層602の高さ:30mm、樹脂ペレット層602の材質等:直径10mmの樹脂ペレット)を用いた。
活性炭筒7及び膜ろ過器8は、両方とも、直径15cm、高さ35cmの略円筒形状の外形で、被処理水を筒体(活性炭筒7本体又は膜ろ過器8本体に相当)内に導入する被処理水入口と、ろ過処理後の水を外部に排出するろ過水出口とが筒体外周に突設されており、ポリウレタンチューブ(配管)と接続可能にされているものを用いた。活性炭筒7は、活性炭が充填されたカートッリジを装填するカートリッジ式で、活性炭カートリッジの活性炭充填率は4L(SV25m/m/h)のものを用いた。また、膜ろ過器8は、膜面積2.0m(線束1.2m/m/日)のUF膜を用いた。
ポンプ5は、特許文献1に記載の往復動式手動ポンプを用いた。
【0065】
浄水量(飲料水製造量)は、約60L/時で、紙フィルタ4の線束(LV)は10m/m/日、砂ろ過筒6の水面積当たりのLVは4.5m/m/時、砂ろ過筒6の容積速度(SV)は約45m/m/時とした。なお、砂ろ過筒6の空気層606のSVは90m/m/時とした。
水槽1内に貯留する被処理水(原水)として、珪藻土、水酸化マグネシウム等の各種懸濁物質と河川水を混合した擬似原水を用いた。
この擬似原水を用い、10時間連続運転した後の濁度除去結果及びその他の水質分析結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示すように、原水で98度あった濁度を、砂ろ過筒6による処理後には1以下とすることができた。これにより、後段の活性炭筒7及び膜ろ過器8にかかる負荷を著しく低減することが可能となった。
また、表1に示すように、実施例の紙フィルタ4による処理後では、濁度除去率が約70%であった。これに対し、参考のため、上述した第一〜第五の条件を一つでも満たさない素材のフィルタを使用し、同様に実験を行ったところ、濁質除去能或いはろ過速度が劣る結果が得られた。すなわち、例えば、市販のコーヒーフィルタを使用した場合には、懸濁物質は殆ど通過してしまい、除去率は10%程度となり、極めて低かった。また、コーヒーの自動販売機で使用する業務用紙フィルタを使用した場合には、濁度は50〜60%程度除去されたものの、ろ過速度が遅くなった。したがって、第一〜第五の条件を満たす素材の袋状ろ紙402を使用することで、ろ過速度と濁質除去能のバランスに優れていることがわかった。
【0068】
また、石英砂の粒度を変えて、上記と同様に行った比較試験の結果を表2に示した。表2に示すように、試験1では粒度100〜300μmのもの(粒径小)が64.9重量%含まれた石英砂を用いたが、1時間運転した後には石英砂の表層部に目詰まりが集中し、圧力損失(圧損)が85kPaまで上昇し、運転不能状態になった。また、試験3では粒径900〜1100μmのもの(粒径大)が74.9重量%含まれる石英砂を用いたが、濁度成分の捕捉性が悪く、紙フィルタ出口の濁度66度から僅か14%減の濁度57度であった。試験2では、粒度500〜850μmのもの(粒径中)を84.3重量%含む石英砂を用いたが、運転1時間後でも圧損は8kPaと運転開始直後の圧損と変わらず、また、濁度も1度未満とすることができ、ろ過能に優れていた。
【0069】
【表2】

【0070】
なお、現場試験として、東京都昭島市付近の多摩川で、図1の浄化フローに従い、5時間連続運転を行ったが、活性炭やUF膜の圧損上昇は全くなく、浄化水の水質は飲料水の水質基準(水道法第4条の規定に基づき、平成15年5月30日公布の「水質基準に関する省令」で規定する基準)として規定される、一般細菌、大腸菌を含む51項目をすべてクリアする結果であった。
【符号の説明】
【0071】
L1〜L6 配管
1 水槽
2 粗目フィルタ
3 フロート
4 ろ過器(紙フィルタ)
5 往復動式手動ポンプ
6 砂ろ過筒
7 活性炭筒
8 膜ろ過器
9 飲料水貯槽
100 簡易浄水装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水を汲み上げて送水するポンプと、
ろ過層として石英砂層を有する砂ろ過筒と、
活性炭を充填した活性炭筒及び/又は膜ろ過器と、
前記各構成要素を繋ぐ配管と、を有し、
前記膜ろ過器は、精密ろ過膜、限外ろ過膜又は逆浸透膜を備え、
前記ポンプ、前記砂ろ過筒、前記活性炭筒及び/又は膜ろ過器の順に、前記配管により各構成要素を連結し、ポンプで汲み上げられる被処理水を砂ろ過筒でろ過した後、活性炭筒及び/又は膜ろ過器に通水し、処理水を得る簡易浄水装置を組立可能なキットであって、
収容時には、各構成要素を分離した状態で携行用ケース内に収容し得ることを特徴とする携行型浄水キット。
【請求項2】
前記石英砂層が、天然の母岩を破砕して得られる破砕石英砂からなり、500〜850μmの粒径のものを重量で全体の50%以上含むことを特徴とする請求項1に記載の携行型浄水キット。
【請求項3】
前記砂ろ過筒によるろ過後のろ過水濁度が1度以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の携行型浄水キット。
【請求項4】
前記ポンプが往復動式手動ポンプなどの吐出脈動を生じるポンプであり、前記砂ろ過筒が、該砂ろ過筒内のろ過層の上方に前記ポンプにより送水される被処理水の脈動を低減するための空気層を備えていることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の携行型浄水キット。
【請求項5】
前記砂ろ過筒は、上部に被処理水を導入する導入口を、下部に処理水を取り出す取出し口を備え、前記ろ過層が、該ろ過層の上方に空気層が設けられるように形成されており、
該砂ろ過筒の上部にはさらに前記空気層と連通するように、ろ過筒内に空気を取り入れる空気取り入れ口と、ろ過筒内の圧力が一定圧力を超えた時にろ過筒内の空気を外部に放出するリリース弁とが設けられており、
前記ろ過層の最上部近傍の所定位置に、ろ過筒内の水位を調整するための水位調整バルブを備えた排出口が設けられており、
被処理水のろ過時においても、前記空気層が常時維持されるようにろ過筒内の水位と空気量を調節することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の携行型浄水キット。
【請求項6】
前記砂ろ過筒は、前記導入口の下方に該導入口より流入する被処理水の勢いを止め、下方の前記ろ過層上に供給される被処理水を分散する散水板を備えることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の携行型浄水キット。
【請求項7】
前記携行型浄水キットが、さらに、前記砂ろ過筒の上流に配置される、使い捨て紙フィルタカートリッジを備えたろ過器を有することを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の携行型浄水キット。
【請求項8】
前記紙フィルタカートリッジを備えたろ過器が、
一端に底部を、他端に開口部を有し、前記底部又は底部近傍にろ過水を取り出す取出し口を有する筒型の容器本体と、
前記容器本体内に収容され、平面視略矩形状の扁平な袋状に形成され、一隅に小孔部を有する袋状ろ紙、及び一端が外方に突出するように該小孔部より該袋状ろ紙内に挿入され、該小孔部近傍で密着固定された接続管を有する紙フィルタカートリッジと、
前記紙フィルタカートリッジを前記容器本体に収容した際に前記容器本体内に流路となる間隙を形成するための多孔質体からなるシート状のスペーサと、
有底筒型で、肉厚の底部に貫通孔を有し、該貫通孔の外方側に内螺子部を有する、前記容器本体の開口部を閉塞する蓋体と、
前記内螺子部に螺合可能な外螺子部を一端に備える被処理水を導入する導入管と、
を備え、
前記ろ過器は、前記蓋体の貫通孔内の内螺子部に、前記導入管を螺合し、該貫通孔の他端側に、前記紙フィルタカートリッジの接続管を挿入することで前記導入管と該接続管を液密に接続し、前記紙フィルタカートリッジを、該紙フィルタカートリッジの袋状ろ紙部に重ね合わせた前記スペーサと共に前記接続管を軸として巻き取った状態で、前記容器本体内に収容し、前記蓋体で該容器本体の開口部を閉塞することで組立てられ、
前記導入管から前記接続管を介して前記袋状ろ紙内に被処理水を導入し、該袋状ろ紙を透過したろ過水を前記容器本体底部の取出し口より取り出し、被処理水より取り除いた汚濁物を前記袋状ろ紙内に溜めるようにしたことを特徴とする請求項7に記載の携行型浄水キット。
【請求項9】
前記袋状ろ紙が、パルプとPETの混繊維からなり、熱ローラによる加熱・加圧処理がされ、該処理後の厚みが50〜70μmであるろ紙を袋状に成形して製造されており、かつ、表面に撥水処理がされていないことを特徴とする請求項8に記載の携行型浄水キット。
【請求項10】
前記接続管が樹脂管であり、前記袋状ろ紙と熱溶着により密着されていることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の携行型浄水キット。
【請求項11】
前記携行型浄水キットが、さらに、木の葉、ビニール片等の粗大夾雑物を取り除くための粗目フィルタを有することを特徴とする請求項1乃至10の何れかに記載の携行型浄水キット。
【請求項12】
ろ過層として石英砂層を有し、該石英砂層が天然の母岩を破砕して得られる破砕石英砂からなり、500〜850μmの粒径のものを重量で全体の50%以上含むことを特徴とする砂ろ過筒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−221206(P2010−221206A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98443(P2009−98443)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(596136316)株式会社ウェルシィ (18)
【Fターム(参考)】