説明

摩擦ローラ式減速機

【課題】中間ローラを回転自在に支持する揺動フレームを構成する1対の支持腕の剛性を向上させられる構造を実現する。
【解決手段】前記中間ローラ19aを支持する為の自転軸を、ボルト49とする。前記両支持腕部36a、36bの先端部に円形の通孔とねじ孔とを、互いに同心に設ける。このうちの通孔に前記ボルト49の中間部を構成する円柱部を挿通すると共に、前記ねじ孔にこのボルト49の先端部を構成する雄ねじ部を螺合し更に締め付ける。そして、前記両支持腕部36a、36bの先端部同士を結合して、これら両支持腕部36a、36bの先端部同士の間隔が拡がるのを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば電気自動車の駆動系に組み込んだ状態で、電動モータから駆動輪にトルクを伝達する、摩擦ローラ式減速機の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
[従来技術の説明]
近年普及し始めている電気自動車の利便性を向上させるべく、充電1回当りの走行可能距離を長くする為に、電動モータの効率を向上させる事が重要である。この効率を向上させるには、高速回転する小型の電動モータを使用し、この電動モータの出力軸の回転を減速してから駆動輪に伝達する事が効果がある。この場合に使用する減速機のうち、少なくとも前記電動モータの出力軸に直接繋がる第一段目の減速機は、運転速度が非常に速くなるので、運転時の振動及び騒音を抑える為に、摩擦ローラ式減速機を使用する事が考えられる。この様な場合に使用可能な摩擦ローラ式減速機として、例えば特許文献1〜3に記載されたものが知られている。このうちの特許文献3に記載された従来構造に就いて、図10〜12により説明する。
【0003】
この摩擦ローラ式減速機1は、入力軸2と、出力軸3と、太陽ローラ4と、環状ローラ5と、それぞれが中間ローラである複数個の遊星ローラ6、6と、ローディングカム装置7とを備える。
このうちの太陽ローラ4は、軸方向に分割された1対の太陽ローラ素子8a、8bを前記入力軸2の周囲に、互いの先端面同士の間に隙間を介在させた状態で互いに同心に、且つ、このうちの太陽ローラ素子8aを前記入力軸2に対する相対回転を可能に配置して成る。前記両太陽ローラ素子8a、8bの外周面は、それぞれの先端面に向かうに従って外径が小さくなる方向に傾斜した傾斜面であって、これら両傾斜面を転がり接触面としている。従ってこの転がり接触面の外径は、軸方向中間部で小さく、両端部に向かうに従って大きくなる。
【0004】
又、前記環状ローラ5は、全体を円環状としたもので、前記太陽ローラ4の周囲にこの太陽ローラ4と同心に配置した状態で、図示しないハウジング等の固定の部分に支持固定している。又、前記環状ローラ5の内周面は、軸方向中央部に向かうに従って内径が大きくなる方向に傾斜した転がり接触面としている。
又、前記各遊星ローラ6、6は、前記太陽ローラ4の外周面と前記環状ローラ5の内周面との間の環状空間9の円周方向複数箇所に配置している。前記各遊星ローラ6、6は、それぞれが前記入力軸2及び前記出力軸3と平行に配置された、自転軸である遊星軸10、10の周囲に、ラジアルニードル軸受を介して、回転自在に支持している。これら各遊星軸10、10の基端部は、前記出力軸3の基端部に結合固定された、支持フレームであるキャリア11に、支持固定されている。前記各遊星ローラ6、6の外周面は、母線形状が部分円弧状の凸曲面で、それぞれ前記太陽ローラ4の外周面と前記環状ローラ5の内周面とに転がり接触している。
【0005】
更に、前記ローディングカム装置7は、一方の太陽ローラ素子8aと、前記入力軸2との間に設けている。この為に、この入力軸2の中間部に、止め輪12により支え環13を係止し、この支え環13と前記一方の太陽ローラ素子8aとの間に、この支え環13の側から順番に、皿ばね14と、カム板15と、それぞれが転動体である複数個の玉16、16とを設けている。そして、互いに対向する、前記一方の太陽ローラ素子8aの基端面と前記カム板15の片側面との、それぞれ円周方向複数箇所ずつに、被駆動側カム面17、17と駆動側カム面18、18とを設けている。これら各カム面17、18はそれぞれ、軸方向に関する深さが円周方向に関して中央部で最も深く、同じく両端部に向かうに従って漸次浅くなる形状を有する。
【0006】
この様なローディングカム装置7は、前記入力軸2が停止している状態では、前記各玉16、16が、図12の(A)に示す様に、前記各カム面17、18の最も深くなった部分に位置する。この状態では、前記皿ばね14の弾力により、前記一方の太陽ローラ素子8aを前記他方の太陽ローラ素子8bに向け押圧する。これに対して、前記入力軸2が回転すると、前記各玉16、16が、図12の(B)に示す様に、前記各カム面17、18の浅くなった部分に移動する。そして、前記一方の太陽ローラ素子8aと前記カム板15との間隔を拡げ、前記一方の太陽ローラ素子8aを前記他方の太陽ローラ素子8bに向け押圧する。この結果、この一方の太陽ローラ素子8aは前記他方の太陽ローラ素子8bに向け、前記皿ばね14の弾力と、前記各カム面17、18に対して前記各玉16、16が乗り上げる事により発生する推力とのうちの、大きな方の力で押圧されつつ回転駆動される。
【0007】
上述の様な摩擦ローラ式減速機1の運転時には、前記ローディングカム装置7が発生する軸方向の推力により、前記両太陽ローラ素子8a、8bの間隔が縮まる。そして、これら両太陽ローラ素子8a、8bにより構成される前記太陽ローラ4の外周面と、前記各遊星ローラ6、6の外周面との転がり接触部の面圧が上昇する。この面圧上昇に伴ってこれら各遊星ローラ6、6が、前記太陽ローラ4及び前記環状ローラ5の径方向に関して外方に押される。すると、この環状ローラ5の内周面と前記各遊星ローラ6、6の外周面との転がり接触部の面圧も上昇する。この結果、前記入力軸2と前記出力軸3との間に存在する、動力伝達に供されるべき、それぞれがトラクション部である複数の転がり接触部の面圧が、これら両軸2、3同士の間で伝達すべきトルクの大きさに応じて上昇する。
【0008】
この状態で前記入力軸2を回転させると、この回転が、前記太陽ローラ4から前記各遊星ローラ6、6に伝わり、これら各遊星ローラ6、6がこの太陽ローラ4の周囲で、自転しつつ公転する。これら各遊星ローラ6、6の公転運動は、前記キャリア11を介して前記出力軸3により取り出せる。前記各トラクション部の面圧は、前記両軸2、3同士の間で伝達すべきトルクの大きさに応じた適正なものとなり、前記各トラクション部で過大な滑りが発生したり、或いは、これら各トラクション部の面圧が過大になる事に伴う転がり抵抗が徒に増大する事を防止できる。
【0009】
上述の様な従来の摩擦ローラ式減速機1の運転時に前記各遊星ローラ6、6は、前記ローディングカム装置7の働きに伴って、前記太陽ローラ4及び前記環状ローラ5の径方向に、僅か(例えば、最大で数百μm)とは言え変位する。即ち、前記摩擦ローラ式減速機1に、前記入力軸2から入力されるトルクが変化すると、前記ローディングカム装置7の軸方向寸法が変化(拡縮)し、前記一方の太陽ローラ素子8aのうち、前記各遊星ローラ6、6の内側に入り込んでいる部分の、径方向寸法が変化する。この変化に伴ってこれら各遊星ローラ6、6が前記太陽ローラ4及び前記環状ローラ5の径方向に変位するが、図10に示した従来構造では、この変位を、前記各遊星軸10、10の弾性変位に基づいて許容するしかない。この為、前記トルクが変化した場合に、前記径方向に関する前記各遊星ローラ6、6の変位を必ずしも円滑に行えず、前記各トラクション部の面圧が不均一になり易い。そして、不均一になった場合には、前記摩擦ローラ式減速機1の伝達効率が悪化する。
【0010】
[先発明の説明]
上述の様な事情に鑑み、ローディングカム装置の軸方向に関する厚さの変化に伴う中間ローラの変位を円滑に行わせる事ができ、優れた伝達効率を得られる摩擦ローラ式減速機として、特願2011−57869に係る発明がある。本発明は、この先発明に係る摩擦ローラ式変速機を改良したものであり、多くの構造部分は共通するから、先ず、この先発明の実施の形態の構造の1例に就いて、図13〜22により説明する。
【0011】
この先発明の実施の形態の1例である摩擦ローラ式減速機1aは、入力軸2aにより太陽ローラ4aを回転駆動し、この太陽ローラ4aの回転を、複数個の中間ローラ19、19を介して環状ローラ5aに伝達し、この環状ローラ5aの回転を出力軸3aから取り出す様にしている。前記各中間ローラ19、19は、それぞれの中心部に設けた自転軸20、20を中心として自転するのみで、前記太陽ローラ4aの周囲で公転する事はない。この太陽ローラ4aは、互いに同じ形状を有する1対の太陽ローラ素子8c、8cを互いに同心に組み合わせて成り、これら両太陽ローラ素子8c、8cを軸方向両側から挟む位置に、1対のローディングカム装置7a、7aを設置している。これら各構成部材は、軸方向中間部の径が大きく、両端部の径が小さくなった、段付円筒状のハウジング21内に収納している。
【0012】
前記入力軸2aの基半部(図13の右半部)は前記ハウジング21の入力側小径円筒部22の内側に、多列玉軸受ユニット23により、前記出力軸3aは同じく出力側小径円筒部24の内側に複列玉軸受ユニット25により、それぞれ回転自在に支持している。この複列玉軸受ユニット25を構成する1対の玉軸受同士の間にラビリンスシール26を設け、外部空間側に位置する前記出力軸3aの設置部分を通じて、前記ハウジング21内に異物が入り込む事を防止している。前記入力軸2aと前記出力軸3aとは互いに同心に配置されており、このうちの入力軸2aの先端部を、この出力軸3aの基端面中央部に形成した円形凹部27の内側に、玉軸受若しくはニードル軸受の如きラジアル転がり軸受28により支持している。この構成により、前記入力軸2aと前記出力軸3aとの相対回転の自在性を確保しつつ、この入力軸2aの先半部(図13の左半部)の支持剛性(特にラジアル剛性)を確保している。又、前記出力軸3aの基端部は、断面L字形の連結部29により、前記環状ローラ5aと連結している。尚、本例の場合、この環状ローラ5aの内周面は、軸方向に関して内径が変化しない円筒面としており、前記ハウジング21の軸方向中間部に設けた大径円筒部30の内径側で前記太陽ローラ4aの周囲部分に、この太陽ローラ4aと同心に配置している。
【0013】
前記両太陽ローラ素子8c、8cは、前記入力軸2aの先半部の周囲に、この入力軸2aと同心に、この入力軸2aに対する相対回転を可能に、且つ、互いの先端面(互いに対向する面)同士の間に隙間を介在させた状態で配置している。又、前記両ローディングカム装置7a、7aを構成する1対のカム板15a、15aは、前記入力軸2aの中間部と先端部との2箇所位置で、前記両太陽ローラ素子8c、8cを軸方向両側から挟む位置に外嵌固定して、前記入力軸2aと同期して回転する様にしている。そして、互いに対向する、前記両太陽ローラ素子8c、8cの基端面と前記両カム板15a、15aの片側面との、それぞれ円周方向複数箇所ずつに、被駆動側カム面17、17と駆動側カム面18、18とを設け、これら各カム面17、18同士の間にそれぞれ玉16、16を挟持して、前記両ローディングカム装置7a、7aを構成している。これら各カム面17、18の形状に就いては、基本的には、前述した従来構造の場合と同様で構わないが、要求される性能に応じて適宜異ならせる事は自由である。何れにしても前記各カム面17、18は、軸方向に関する深さが円周方向に関して漸次変化するもので、円周方向中央部で最も深く、同じく両端部に向かうに従って浅くなる。
【0014】
前記両ローディングカム装置7a、7aを前記太陽ローラ4aの軸方向両側に配置する事で、前記入力軸2aにトルクが入力されると、次の様にして、前記各ローラ4a、5a、19の周面同士の転がり接触部である、各トラクション部の面圧を上昇させる。先ず、前記入力軸2aにトルクが入力されていない状態では、図14の(A)に示す様に、前記両ローディングカム装置7a、7aを構成する前記各玉16、16が、前記各カム面17、18の底部若しくは底部に近い側に存在する。この状態では、前記両ローディングカム装置7a、7aの厚さ寸法が小さく、前記両太陽ローラ素子8c、8c同士の間隔が拡がっている。この状態では、前記各中間ローラ19、19が、前記太陽ローラ4a及び前記環状ローラ5aの径方向に関して外方に押される事はないか、仮に予圧ばねの弾力等により押されたとしても、押される力は小さい。
【0015】
この状態から、前記入力軸2aにトルクが入力される(前記摩擦ローラ式減速機1aが起動する)と、前記各玉16、16と前記各カム面17、18との係合に基づき、図14の(B)に示す様に、前記両ローディングカム装置7a、7aの軸方向厚さが増大する。そして、前記両太陽ローラ素子8c、8cが、前記摩擦ローラ式減速機1aの径方向に関して、前記各中間ローラ19の内側に食い込み、これら各中間ローラ19を、この径方向に関して外方に押す。この結果、前記各トラクション部の面圧が上昇して、これら各トラクション部に過大な滑りを発生させる事なく、前記太陽ローラ4aから前記環状ローラ5aに動力を伝達できる。
【0016】
前記摩擦ローラ式減速機1aの運転時に前記各中間ローラ19、19は、それぞれの自転軸20、20を中心として回転すると同時に、伝達トルクの変動に伴って前記摩擦ローラ式減速機1aの径方向に変位する。この様な、前記各中間ローラ19、19の自転及び径方向変位を円滑に行わせる為、本例の場合には、次の様な構造によりこれら各中間ローラ19、19を、前記環状ローラ5aの内周面と前記太陽ローラ4aとの間の環状空間9a内に設置している。前記各中間ローラ19、19を支持する為に、前記ハウジング21の大径円筒部30の軸方向片側を塞ぐ端板31の内側面に、図15〜16に示す様な支持フレーム32を支持固定している。この支持フレーム32は遊星歯車機構を構成するキャリアの如き構造を有するもので、それぞれが円環状として互いに同心に配置した1対のリム部33a、33bの円周方向等間隔複数箇所同士を、ステー34、34により結合固定して成る。この様な支持フレーム32は、前記リム部33aを前記端板31の内面にねじ止めする事により、前記大径円筒部30の内側に、前記太陽ローラ4aと同心に支持固定している。
【0017】
一方、前記各中間ローラ19、19は、それぞれ揺動フレーム35、35の先端部に、回転自在に支持している。これら各揺動フレーム35、35はそれぞれ、互いに平行な1対の支持腕36、36の基端部同士を基部37で連結する事により、径方向に見た形状をコ字形としている。前記各中間ローラ19、19の自転軸20、20の端部は、それぞれ前記各揺動フレーム35、35の支持腕36、36の先端部に、玉軸受38、38により、回転自在に支持している。又、前記各揺動フレーム35、35の基端部両側面に互いに同心に突設した揺動軸39、39を、前記両リム部33a、33bの互いに整合する部分に形成した支持孔40、40にがたつきなく挿入している。
【0018】
前記各揺動軸39、39と前記各自転軸20、20とは、互いに平行で、前記支持フレーム32の円周方向に関する位相が大きくずれている。具体的には、前記各揺動軸39、39と前記各自転軸20、20との円周方向に関するずれを可能な限り大きくすべく、前記各揺動軸39、39と前記各自転軸20、20とを結ぶ仮想直線の方向を、前記支持フレーム32の中心をその中心とする仮想円弧に関する接線の方向に近くしている。この様な構成により前記各揺動フレーム35、35を前記支持フレーム32に対し、それぞれ揺動軸39、39を中心とする揺動変位を可能にして、前記各中間ローラ19、19を前記支持フレーム32に対し、ほぼこの支持フレーム32の径方向に、円滑に変位できる様に支持している。
【0019】
前記各中間ローラ19、19の外周面は、軸方向中間部を単なる円筒面とし、軸方向両側部分を、それぞれ前記両太陽ローラ素子8c、8cの外周面と同方向に同一角度傾斜した、部分円すい凸面状の傾斜面としている。従って、前記各ローラ4a、5a、19の周面同士は互いに線接触し、前記各トラクション部の接触面積を確保できる。
【0020】
更に、前記両太陽ローラ素子8c、8cの基端部外周面に、それぞれ外向フランジ状の鍔部41、41を設けている。即ち、これら両太陽ローラ素子8c、8cの外周面のうち、前記各中間ローラ19、19の外周面と転がり接触する部分は、先端面に向かうに従って外径が小さくなる方向に傾斜した傾斜面となっており、前記両鍔部41、41の外径は、この傾斜面の基端部から、全周に亙り径方向外方に突出している。そして、これら両鍔部41、41を含む、前記両太陽ローラ素子8c、8cの基端面に、それぞれ複数ずつの凹部42、42と前記各被駆動側カム面17、17とを、円周方向に関して交互に配置している。このうちの各凹部42、42は、それぞれ径方向に関する幅寸法が大きな幅広部43、43と、同方向に関する幅寸法が小さい幅狭部44、44とを、円周方向に連続させて成る。円周方向に関して、これら各幅狭部44、44と前記各幅広部43、43との配列方向は同じである。又、前記両太陽ローラ素子8c、8cは、互いに同じものを、軸方向に関する向きを逆にして組み合わせている。従って、一方の太陽ローラ素子8cと他方の太陽ローラ素子8cとの間で、前記各幅広部43、43と前記各幅狭部44、44との配列方向は、互いに逆である。
【0021】
一方、前記両カム板15a、15aの内側面(軸方向両側面のうちの互いに対向する側面)の一部で、前記両太陽ローラ素子8c、8cと組み合わせた状態で前記各凹部42、42のうちの幅広部43、43に整合する部分に、それぞれ受板部45、45を突設している。これら各受板部45、45は、前記各凹部42、42のうちの幅広部43、43に進入可能な、軸方向に関する高さ寸法及び径方向に関する幅寸法を有する。前記両太陽ローラ素子8c、8cと前記両カム板15a、15aとは、それぞれ前記各凹部42、42及び前記各受板部45、45と同数の、それぞれが弾性部材である圧縮コイルばね46、46を介して組み合わせる事により、前記両ローディングカム装置7a、7aに予圧機構を組み込んでいる。
【0022】
即ち、図19〜21に示す様に、前記各凹部42、42のうちの幅狭部44、44に前記各圧縮コイルばね46、46を挿入した状態で、前記各受板部45、45を前記各凹部42、42のうちの幅広部43、43に挿入すると共に、前記各カム面17、18同士の間に玉16、16を挟持する。そして、前記各受板部45、45の円周方向片側面と、前記各凹部42、42の円周方向両内端面のうちで前記幅狭部44、44側の内端面との間で前記各圧縮コイルばね46、46を、それぞれ圧縮した状態で挟持する。尚、図19にはこれら各圧縮コイルばね46、46を、弾性的に圧縮した状態で描いている。自由状態でこれら各圧縮コイルばね46、46の片端部は、前記各凹部42、42のうちの幅広部43、43内に大きく突出する。
【0023】
上述の様にして前記両ローディングカム装置7a、7aを組み立てた状態では、前記両太陽ローラ素子8c、8cと前記両カム板15a、15aとの間に、これら両太陽ローラ素子8c、8cとこれら両カム板15a、15aとを円周方向に相対変位させる方向の弾力が付与される。前記入力軸2aを中心として前記両太陽ローラ8c、8cが回転方向に相対変位する方向は、これら両太陽ローラ8c、8c同士の間で互いに逆になる。そして、前記入力軸2aにトルクが入力されない状態でも、前記各玉16、16を、前記各被駆動側カム面17、17及び前記各駆動側カム面18、18の浅い部分に向け変位させる。この変位により、前記両ローディングカム装置7a、7aに、軸方向に関する厚さ寸法を大きくする方向のカム部押圧力を発生させて、前記各トラクション部の面圧を確保する為の予圧を付与する。
【0024】
上述の様に構成する先発明に係る摩擦ローラ式減速機1aは、次の様に作用して、前記入力軸2aから前記出力軸3aに動力を、減速すると同時にトルクを増大させつつ伝達する。
即ち、電動モータにより前記入力軸2aを回転駆動すると、この入力軸2aに外嵌した前記両カム板15a、15aが回転し、前記両太陽ローラ素子8c、8cが、前記各玉16、16と前記各カム面17、18との係合に基づき、互いに近づく方向に押圧されつつ、前記入力軸2aと同方向に同じ速度で回転する。そして、前記両太陽ローラ素子8c、8cにより構成される前記太陽ローラ4aの回転が、前記各中間ローラ19、19を介して前記環状ローラ5aに伝わり、前記出力軸3aから取り出される。前記摩擦ローラ式減速機1aの運転時に、前記ハウジング21内には、トラクションオイルを循環させる為、前記各ローラ4a、19、5aの周面同士の転がり接触部(トラクション部)には、トラクションオイルの薄膜が存在する状態となる。又、これら各トラクション部の面圧は、前記各圧縮コイルばね46、46の弾力に基づいて発生するカム部押圧力により、前記摩擦ローラ式減速機1aの起動の瞬間から或る程度確保される。従って、この起動の瞬間から、前記各トラクション部で過大な滑りを発生させる事なく、動力伝達が開始される。
【0025】
前記入力軸2aに加わるトルクが増大すると、前記両ローディングカム装置7a、7aを構成する前記各玉16、16の、前記各カム面17、18への乗り上げ量が増大し、これら両ローディングカム装置7a、7aの軸方向厚さがより一層増大する。この結果、前記各トラクション部の面圧がより一層増大し、これら各トラクション部で、過大な滑りを発生する事なく、大きなトルクの伝達が行われる。これら各トラクション部の面圧は、前記入力軸2aと前記出力軸3aとの間で伝達すべきトルクに応じた適正な値、具体的には必要最小限の値に適切な安全率を乗じた値に、自動的に調整される。この結果、前記両軸2a、3a同士の間で伝達されるトルクの変動に拘らず、前記各トラクション部で過大な滑りが発生したり、逆に、これら各トラクション部の転がり抵抗が徒に大きくなる事を防止できて、前記摩擦ローラ式減速機1aの伝達効率を良好にできる。
【0026】
しかも、前記各揺動フレーム35、35の揺動変位に基づいて前記各中間ローラ19、19が、前記太陽ローラ4a及び前記環状ローラ5aの径方向外方に、円滑に変位する。従って、前記各トラクション部の面圧が不均一になる事を防止できて、これら各トラクション部の面圧を適正にし、前記摩擦ローラ式減速機1aの伝達効率を、より一層良好にできる。
【0027】
更に、図示の摩擦ローラ式減速機1aの場合には、前記両軸2a、3aの回転方向に拘らず、この摩擦ローラ式減速機1aの起動時の特性を同じにできる。この理由に就いて、図21を参照しつつ説明する。前述の様に、前記両ローディングカム装置7a、7a同士の間で、前記各圧縮コイルばね46、46が前記両太陽ローラ素子8c、8cを押圧する方向は、円周方向に関して互いに逆である。従って、前記両ローディングカム装置7a、7aを構成する、前記各玉16、16と前記各カム面17、18との位置関係は、両回転方向に関して互いに対称となる。この為、前記両軸2a、3aが何れの方向に回転する場合でも、前記摩擦ローラ式減速機1aの起動時の特性を同じにできる。尚、この起動の際、前記両太陽ローラ素子8c、8cにより構成される前記太陽ローラ4aは軸方向に僅かに変位し、これに伴ってこの太陽ローラ4aの外周面と転がり接触した前記各中間ローラ19、19も軸方向に僅かに変位する。前記摩擦ローラ式減速機1aの場合、これら各中間ローラ19、19の外周面と転がり接触する、前記環状ローラ5aの内周面は、単なる円筒面である。又、前記各揺動フレーム35、35の支持腕36、36の内側面と前記各中間ローラ19、19の軸方向両端面との間、並びに、これら両支持腕36、36の外側面と前記両リム部33a、33bの内側面との間には、多少の隙間が存在する。従って、前記各中間ローラ19、19の軸方向変位は円滑に行われ、これら各中間ローラ19、19の回転が損なわれる事はない。
【0028】
又、前記摩擦ローラ式減速機1aの場合には、前記両ローディングカム装置7a、7aを構成するカム板15a、15aと太陽ローラ素子8c、8cとを回転方向に相対変位させる事で、前記各トラクション部に与圧を付与している。この為、前記両ローディングカム装置7a、7aの効率が良く、ストローク確保も容易で、しかも、耐久性を十分に確保し易い。即ち、前記摩擦ローラ式減速機1aの場合には、前記各圧縮コイルばね46、46により前記各受板部45、45を押圧して、前記両ローディングカム装置7a、7aに、前記入力軸2aにトルクが入力された場合とほぼ同様の挙動によりカム部押圧力を発生させ、前記予圧を付与している。そして、前記入力軸2aにトルクが入力された後も、前記各圧縮コイルばね46、46が前記各受板部45、45を押圧し続ける。
【0029】
従って、前記摩擦ローラ式減速機1aが運転されている間中、前記各圧縮コイルばね46、46の弾力が、前記両ローディングカム装置7a、7a全体として発生する総合押圧力を大きくする事に寄与する。この点で、本例の構造は、前述の図10に示した従来構造の様に、ローディングカム装置7部分で発生するカム部押圧力が大きくなった状態で、予圧付与部材である皿ばね14の弾力が総合押圧力の増大に寄与しなくなる構造とは異なる。即ち、前記各玉16、16の大きさや前記各カム面17、18の形状(傾斜角度)が同じであると仮定した場合に、前記従来構造の場合には、入力軸2に加えられるトルクの大きさに応じて総合押圧力が図22に破線αで示す様に変化するのに対して、本例の構造の場合には、同図に実線βで示す様に変化する。この為、例えば必要とする総合押圧力が同じであると仮定した場合に、前記各カム面17、18の傾斜角度を大きくする事で、所定の総合押圧力を得るまでに、前記両太陽ローラ素子8c、8cと前記両カム板15a、15aとが円周方向に相対変位する角度を小さく抑えられる。この角度を小さく抑えられる事は、前記摩擦ロータ式減速機1aの応答性(前記入力軸2aと前記出力軸3aとの回転同期性)の向上に寄与する。
【0030】
又、耐久性の確保は、前記摩擦ローラ式減速機1aの運転状態の如何に拘らず、前記各圧縮コイルばね46、46に無理な力が加わらない様にする事により図れる。即ち、これら各圧縮コイルばね46、46の全長は、前記入力軸2aに加わるトルクがゼロの状態で最も短くなり、このトルクが大きくなるに従って漸次伸長する。このトルクがゼロである状態でも、前記各圧縮コイルばね46、46に無理な力が加わる事はないので、長期間に亙る使用に拘らず、これら各圧縮コイルばね46、46の弾性が低下する(へたる)事はなく、前記耐久性の確保を図れる。
【0031】
尚、先発明に係る構造として、図23に記載した様に、ローディングカム装置7aを、太陽ローラ4bの軸方向片側にのみ設けた構造もある。この構造では、この太陽ローラ4bを構成する1対の太陽ローラ素子8c、8dのうちの一方(図23の右方)の太陽ローラ素子8cのみを、入力軸2bに対し相対回転を可能に支持し、他方(図23の左方)の太陽ローラ素子8dは、この入力軸2bに対し支持固定している。
【0032】
何れの構造にしても、先発明の構造で、大きなトルクを安定して伝達可能にする為には、前記各揺動フレーム35、35を構成する、これら各揺動フレーム35、35毎に1対ずつ設けた支持腕36、36の剛性を向上させる事が好ましい。この理由に就いて、以下に説明する。上述した先発明に係る構造の場合、例えば図17〜18を見れば明らかな様に、前記各揺動フレーム35、35を構成する前記両支持腕36、36は、それぞれの基端部を前記基部37に接続固定し、それぞれの中間部乃至先端部を、何れの部分にも固定していない。要するに、前記両支持腕36、36は、何れの部分にも支持されない、自由端としている。
【0033】
一方、前記摩擦ローラ変速機1aの運転時に前記各中間ローラ19には、軸方向変位を生じさせる力である、アキシアル方向の力が加わる可能性がある。この様な力が発生する原因は、前記各ローラ4a、5a、10の周面の性状(形状精度、表面粗さ等)が不正規である場合等、種々考えられる。例えば、前記各中間ローラ19の回転中心軸(自転軸20)と、前記太陽ローラ4a又は前記環状ローラ5aの中心軸とが傾斜した状態のまま前記各中間ローラ19が回転した(スキューが発生した)場合にも、前記アキシアル方向の力が発生する。何れにしても、このアキシアル方向の力が発生すると、前記各中間ローラ19が前記両支持腕36、36のうちの何れか一方の支持腕36の内側面を押し、当該支持腕36を外方に向け変形させる可能性がある。そして、この変形の結果、当該支持腕36の外側面と、前記支持フレーム32を構成する前記両リム部33a、33bの内側面とが強く擦れ合い、この支持フレーム32に対する前記各揺動フレーム35、35の揺動変位が円滑に行われなくなる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0034】
【特許文献1】特開昭59−187154号公報
【特許文献2】特開昭61−136053号公報
【特許文献3】特開2004−116670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、それぞれが中間ローラを回転自在に支持する揺動フレームを構成する1対の支持腕の剛性を向上させられる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本発明の摩擦ローラ式減速機は、従来から知られている摩擦ローラ式変速機と同様に、入力軸と、出力軸と、太陽ローラと、環状ローラと、複数個の中間ローラと、ローディングカム装置とを備える。
特に、本発明の摩擦ローラ式減速機に於いては、前記各中間ローラの自転軸の軸方向両端部を、これら各中間ローラ毎に独立して設けた揺動フレームの先端部に支持している。又、これら各揺動フレームを支持フレームに対し、前記各自転軸と平行で、前記太陽ローラの回転方向に関する位相がこれら各自転軸から外れた部分に存在する揺動軸を中心とする揺動変位を可能に支持している。そして、前記各自転軸を前記太陽ローラ及び前記環状ローラの径方向の変位を可能に支持している。
又、前記各揺動フレームは、それぞれ、基部と、この基部の軸方向両端部から互いに同方向に且つ(製造誤差に基づく微小な傾斜を除いて)実質的に平行に延出した1対の支持腕とを備えた二股構造である。
更に、前記自転軸は、軸方向中間部に円柱部を、先端部にこの円柱部よりも小径の雄ねじ部を、基端部にこの円柱部よりも大径の頭部を、それぞれ備えたボルトである。そして、このボルトを、前記各揺動フレームを構成する1対ずつの支持腕部の先端部に互いに同心に配置した円形の通孔とねじ孔とのうちの通孔に前記円柱部を挿通すると共に、前記雄ねじ部をこのねじ孔に螺合し更に締め付けて、前記1対ずつの支持腕部同士の間に支持固定すると共に、これら1対ずつの支持腕部同士の間隔が拡がるのを防止している。
【0037】
上述の様な本発明を実施する場合に、例えば請求項2に記載した発明の様に、前記各揺動フレームを、前記基部と前記両支持腕とを一体とした一体構造とする。
或いは、請求項3に記載した発明の様に、前記各揺動フレームを、前記基部と前記両支持腕のうちの一方の支持腕とを一体とした第一素子と、同じく他方の支持腕を構成する第二素子とを、前記基部に挿通した第二ボルトにより結合固定して成るものとする。
この様な請求項3に記載した発明を実施する場合に、例えば請求項4に記載した発明の様に、前記第二ボルトを、前記揺動軸よりも前記各揺動フレームの先端寄り部分に設ける。或いは、請求項5に記載した発明の様に、前記第二ボルトを中空円管状とし、この第二ボルトを前記揺動軸の周囲に設ける。
【発明の効果】
【0038】
上述の様に構成する本発明によれば、それぞれが中間ローラを回転自在に支持する各揺動フレームを構成する1対の支持腕の剛性を向上させられる。この為、これら両支持腕同士の間隔が拡がる事を抑えて、これら両支持腕と支持フレーム等の他の部材とが擦れ合うのを防止し、前記各揺動フレームの揺動変位が損なわれるのを防止できる。そして、これら各揺動フレームに支持された前記各中間ローラの外周面と、太陽ローラの外周面及び環状ローラの内周面との接触状態を良好に保って、摩擦ローラ式減速機の伝達効率を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、図17と同様の図。
【図2】図1の右方から見た正投影図。
【図3】図2のa−a断面図。
【図4】本発明の実施の形態の第2例を示す、図17と同様の図。
【図5】図4の右方から見た正投影図。
【図6】図5のb−b断面図
【図7】本発明の実施の形態の第3例を示す、図17と同様の図。
【図8】図7の右方から見た正投影図。
【図9】図8のc−c断面図。
【図10】従来構造の1例を示す断面図。
【図11】一部を省略して示す、図10のd−d断面図。
【図12】ローディングカム装置が推力を発生していない状態(A)と同じく発生している状態(B)とをそれぞれ示す、図11のe−e断面に相当する模式図。
【図13】先発明の実施の形態の第1例を示す断面図。
【図14】予圧付与の為の機構を説明する為の模式図。
【図15】中間ローラの自転軸を、太陽ローラ及び環状ローラの径方向に変位可能に支持する部分の構造を示す斜視図。
【図16】同じく分解斜視図。
【図17】揺動フレームと中間ローラとを組み合わせたユニットを1個だけ取り出して示す斜視図。
【図18】更にこのユニットを揺動フレームと中間ローラとに分けた状態で示す分解斜視図。
【図19】図13の中央部右側の太陽ローラ素子及びカム板を取り出して、玉及び圧縮コイルばねと共に示す斜視図。
【図20】圧縮コイルばねによる予圧付与の方向を説明する為の模式図。
【図21】駆動側、被駆動側各カム面と玉との係合状態を説明する為の模式図。
【図22】入力軸に加わるトルクの大きさ及び方向と、ローディングカム装置が発生する、軸方向の押圧力との関係を示す線図。
【図23】先発明の実施の形態の第2例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
[実施の形態の第1例]
図1〜3は、請求項1〜2に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例を含めて本発明の特徴は、二股状の揺動フレームを構成する1対の支持腕の先端部同士の間隔が拡がらない様に、これら両支持腕の剛性を向上させる為の構造にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の図12〜21又は図23に示した先発明に係る構造と同様であるから、同等部分に関する図示並びに説明は、省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0041】
本例の構造に組み込む揺動フレーム35aは、金属製の素材に削り加工或いは鍛造加工を施す事により一体に構成しており、基部37aと、1対の支持腕36a、36bとを備える。これら両支持腕36a、36bはそれぞれが平板状で、互いに平行に設けられている。そして、一方(図1、3の右方)の支持腕36aの先端部に円形の通孔47を、他方(図1、3の左方)の支持腕36bにねじ孔48を、互いに同心に形成している。このねじ孔48の歯底円の直径は、前記通孔47の内径よりも小さい。そして、これら通孔47及びねじ孔48を利用して、前記両支持腕36a、36bの先端部同士の間に、自転軸として機能するボルト49を掛け渡している。
【0042】
このボルト49は、軸方向中間部に円柱部50を、先端部(図3の左端部)にこの円柱部50よりも小径の雄ねじ部51を、基端部(図3の右端部)にこの円柱部50よりも大径の頭部52を、それぞれ備えている。この円柱部50の外周面は、後述するラジアルニードル軸受55の内輪軌道として機能させるべく、平滑な円筒面としている。又、前記円柱部50の外径は、前記通孔47の内径よりも僅かに小さく、前記雄ねじ部51の歯先円の直径は前記円柱部50の外径よりも小さい。更に、これら円柱部50と雄ねじ部51との境界部分を先端側段差面53とし、この円柱部50と前記頭部52との境界部分を基端側段差面54としている。これら両段差面53、54は、それぞれ前記ボルト49の中心軸に対し直交する方向に形成しており、且つ、互いの軸方向距離を、前記一方の支持腕36aの外側面と前記他方の支持腕36bの内側面との適正距離に一致させている。
【0043】
上述の様なボルト49は、前記円柱部50を前記通孔47に挿通すると共に、前記雄ねじ部51を前記ねじ孔48に螺合し更に締め付ける事により、前記両支持腕36a、36bの先端部同士の間に掛け渡すと共に、これら両支持腕36a、36bの先端部同士を結合固定する。この様に、前記ボルト49をこれら両支持腕36a、36bの先端部同士の間に掛け渡す際に、これら両支持腕36a、36b同士の間に中間ローラ19aとラジアルニードル軸受55とを配置しておく。このラジアルニードル軸受55はこの中間ローラ19aの内周面に、トラクショングリース等により貼着しておく。前記ボルト49は、前記ラジアルニードル軸受55の内径側を挿通した状態で、前記両支持腕36a、36bの先端部同士の間に掛け渡す。従って、前記ボルト49の雄ねじ部51を前記ねじ孔48に螺合し更に締め付けた状態では、前記中間ローラ19aが、前記両支持腕36a、36b同士の間に、回転自在に支持される。
【0044】
更に、前記基部37aに貫通孔56を、この基部37aの両端面同士を連通させる状態で、前記ボルト49と平行に形成している。そして、前記貫通孔56に、揺動軸39aを挿通している。この状態でこの揺動軸39aの両端部は、前記揺動フレーム35aの左右両外側面から突出する。摩擦ローラ式減速機を組み立てた状態で、前記揺動軸39aの両端部は、支持フレーム32に形成した支持孔40、40(図13、15、16参照)に内嵌する。尚、前記貫通孔56と前記揺動軸39aの中間部との嵌合部と、この揺動軸39aの両端部と前記各支持孔40、40との嵌合部との、一方の嵌合部を隙間嵌とし、他方の嵌合部を締り嵌めとする。この構成により、前記揺動軸39aの抜け止めを図ると同時に、前記支持フレーム32に対して前記揺動フレーム35aを、前記揺動軸39aを中心とする揺動変位を可能に支持する。尚、この揺動フレーム35aの揺動に伴って、前記ボルト49の頭部52と前記支持フレーム32のリム部33a(図15〜16参照)が干渉する可能性がある場合には、例えば、図15に示す様に、このリム部33aに、干渉防止用の凹部57、57を形成する。或いは、ボルトとして、頭部の軸方向厚さが小さい、低頭ボルトを使用すると共に、リム部33aの外側面でボルト挿通用の通孔の開口を囲む部分に円形凹部(座ぐり部)を設け、前記頭部が前記リム部33aの外側面から突出しない様にしても良い。
【0045】
上述の様に構成する本例の構造によれば、それぞれが前記中間ローラ19aを回転自在に支持する前記揺動フレーム35aを構成する前記両支持腕36a、36bの剛性を向上させられる。即ち、これら両支持腕36a、36bは、このうちの一方の支持腕36aの外側面と前記基端側段差面54との係合部と、前記ねじ孔48と前記雄ねじ部51との螺合部とにより、互いに離れる方向への変位を阻止された状態となる。従って、前記中間ローラ19aがスキューする等により、この中間ローラ19aの軸方向側面によって前記両支持腕36a、36bの内側面が押された場合にも、これら両支持腕36a、36b同士の間隔が拡がる事はない。この為、これら両支持腕36a、36bと、前記支持フレーム32等の他の部材とが擦れ合うのを防止して、前記揺動フレーム35aの揺動変位が損なわれるのを防止できる。この結果、この揺動フレーム35aに支持された前記中間ローラ19aの外周面と、太陽ローラ4aの外周面及び環状ローラ5aの内周面との接触状態を良好に保って、摩擦ローラ式減速機の伝達効率を確保できる。
【0046】
[実施の形態の第2例]
図4〜6は、請求項1、3、4に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、揺動フレーム35bを、第一素子58と第二素子59とを第二ボルト60により結合固定する事で構成している。このうちの第一素子58は、金属製の素材に削り加工或いは鍛造加工を施して成るもので、基部37bと一方の支持腕36aとを一体としている。又、前記第二素子59は、金属材により平板状としており、前記基部37bの軸方向端面に突き合わされる結合板部61と他方の支持板部36bとを備える。それぞれが上述の様な構成を有する、前記第一、第二両素子58、59は、揺動軸39aよりも前記揺動フレーム35bの先端寄りで前記基部37bに挿通した、前記第二ボルト60により結合固定して、前記揺動フレーム35bとしている。その他の部分の構成及び作用は、上述した実施の形態の第1例と同様であるから、同等部分には同一符号を付して、重複する説明を省略する。
【0047】
[実施の形態の第3例]
図7〜9は、請求項1、3、5に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合も、上述した実施の形態の第2例の場合と同様に、揺動フレーム35cを、第一素子58と第二素子59とを第二ボルト60aにより結合固定する事で構成している。特に、本例の構造の場合には、この第二ボルト60aとして、中空円管状のものを使用している。そして、この第二ボルト60aを、揺動軸39aの周囲に設けている。言い換えれば、この揺動軸39aを、前記両素子58、59を結合固定している、前記第二ボルト60aの内側に挿通している。その他の部分の構成及び作用は、上述した実施の形態の第2例と同様であるから、同等部分には同一符号を付して、重複する説明を省略する。
【符号の説明】
【0048】
1、1a 摩擦ローラ式減速機
2、2a、2b 入力軸
3、3a 出力軸
4、4a、4b 太陽ローラ
5、5a 環状ローラ
6 遊星ローラ
7、7a ローディングカム装置
8a、8b、8c、8d 太陽ローラ素子
9、9a 環状空間
10 遊星軸
11 キャリア
12 止め輪
13 支え環
14 皿ばね
15、15a カム板
16 玉
17 被駆動側カム面
18 駆動側カム面
19、19a 中間ローラ
20 自転軸
21 ハウジング
22 入力側小径円筒部
23 多列玉軸受ユニット
24 出力側小径円筒部
25 複列玉軸受ユニット
26 ラビリンスシール
27 円形凹部
28 転がり軸受
29 連結部
30 大径円筒部
31 端板
32 支持フレーム
33a、33b リム部
34 ステー
35、35a、35b、35c 揺動フレーム
36、36a、36b 支持腕
37、37a、37b 基部
38 玉軸受
39、39a 揺動軸
40 支持孔
41 鍔部
42 凹部
43 幅広部
44 幅狭部
45 受板部
46 圧縮コイルばね
47 通孔
48 ねじ孔
49 ボルト
50 円柱部
51 雄ねじ部
52 頭部
53 先端側段差面
54 基端側段差面
55 ラジアルニードル軸受
56 貫通孔
57 凹部
58 第一素子
59 第二素子
60、60a 第二ボルト
61 結合板部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と、出力軸と、太陽ローラと、環状ローラと、複数個の中間ローラと、ローディングカム装置とを備え、
このうちの太陽ローラは、軸方向に分割された1対の太陽ローラ素子を前記入力軸の周囲に、互いの先端面同士の間に隙間を介在させた状態で互いに同心に、且つ、この入力軸に対する相対回転を可能に配置して成るもので、前記両太陽ローラ素子の外周面は、それぞれの先端面に向かうに従って外径が小さくなる方向に傾斜した傾斜面であって、これら両傾斜面を転がり接触面としており、
前記環状ローラは、前記太陽ローラの周囲にこの太陽ローラと同心に配置されたもので、内周面を転がり接触面としており、
前記各中間ローラは、前記太陽ローラの外周面と前記環状ローラの内周面との間の環状空間の円周方向複数箇所に、それぞれが前記入力軸と平行に配置された自転軸を中心とする回転自在に支持された状態で、それぞれの外周面を前記太陽ローラの外周面と前記環状ローラの内周面とに転がり接触させており、
前記ローディングカム装置は、前記両太陽ローラ素子のうちの少なくとも一方の太陽ローラ素子である可動太陽ローラ素子と前記入力軸との間に設けられて、この入力軸の回転に伴ってこの可動太陽ローラ素子を相手方の太陽ローラ素子に向けて軸方向に押圧しつつ回転させるものであって、この可動太陽ローラ素子の基端面の円周方向複数箇所に設けられた被駆動側カム面と、前記入力軸の一部に固定されてこの入力軸と共に回転するカム板のうちで前記可動太陽ローラ素子の基端面に対向する片側面の円周方向複数箇所に設けられた駆動側カム面との間に転動体を挟持して成るもので、これら各駆動側カム面及び前記各被駆動側カム面はそれぞれ、軸方向に関する深さが円周方向に関して漸次変化して端部に向かうに従って浅くなる形状を有するものであり、
前記環状ローラと前記各自転軸を支持した部材とのうちの一方の部材を、前記太陽ローラを中心とする回転を阻止した状態で支持し、他方の部材を前記出力軸に結合して、この他方の部材によりこの出力軸を回転駆動自在とした摩擦ローラ式減速機に於いて、
前記各中間ローラの自転軸の軸方向両端部を、これら各中間ローラ毎に独立して設けた揺動フレームの先端部に支持すると共に、これら各揺動フレームを支持フレームに対し、前記各自転軸と平行で、前記太陽ローラの回転方向に関する位相がこれら各自転軸から外れた部分に存在する揺動軸を中心とする揺動変位を可能に支持して、前記各自転軸を前記太陽ローラ及び前記環状ローラの径方向の変位を可能に支持しており、
前記各揺動フレームは、それぞれ、基部と、この基部の軸方向両端部から互いに同方向に且つ実質的に平行に延出した1対の支持腕とを備えた二股構造であり、
前記自転軸は、軸方向中間部に円柱部を、先端部にこの円柱部よりも小径の雄ねじ部を、基端部にこの円柱部よりも大径の頭部を、それぞれ備えたボルトであり、このボルトを、前記各揺動フレームを構成する1対ずつの支持腕部の先端部に互いに同心に配置した円形の通孔とねじ孔とのうちの通孔に前記円柱部を挿通すると共に、前記雄ねじ部をこのねじ孔に螺合し更に締め付けて、前記1対ずつの支持腕部同士の間に支持固定すると共に、これら1対ずつの支持腕部同士の間隔が拡がるのを防止している事を特徴とする摩擦ローラ式減速機。
【請求項2】
前記各揺動フレームが、前記基部と前記両支持腕とを一体とした一体構造である、請求項1に記載した摩擦ローラ式変速機。
【請求項3】
前記各揺動フレームが、前記基部と前記両支持腕のうちの一方の支持腕とを一体とした第一素子と、同じく他方の支持腕を構成する第二素子とを、前記基部に挿通した第二ボルトにより結合固定して成るものである、請求項1に記載した摩擦ローラ式変速機。
【請求項4】
前記第二ボルトが前記揺動軸よりも前記各揺動フレームの先端寄り部分に設けられている、請求項3に記載した摩擦ローラ式変速機。
【請求項5】
前記第二ボルトが中空円管状であって、この第二ボルトが前記揺動軸の周囲に設けられている、請求項3に記載した摩擦ローラ式変速機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate


【公開番号】特開2013−108575(P2013−108575A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254816(P2011−254816)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】