摩擦伝動式波動変速機
【課題】 回転抵抗を増大させたり、減速比の範囲を狭くすることなく、摩耗耐久性を確保して比較的高い動力伝達を行うことができ、かつコンパクトで低コストな摩擦伝動式波動変速機を提供する。
【解決手段】 内周面が円形の環状固定部材1と、その内周面に外周面が外接可能な環状弾性部材2と、その内側からその外周面を周方向の複数箇所の部分で環状固定部材1の内周面に接触させ、その接触部を周方向に移動させる波動発生器3とを備える。環状弾性部材2は一端部が開口した薄肉円筒状で、その他端部は出力軸7に連結される。環状固定部材1は一端部が開口した円筒状で、その他端部は、前記接触部から軸方向に離れた位置で出力軸側ハウジング11に固定される。環状固定部材1の内径は、波動発生器3が内側に挿入された環状弾性部材2の最大外径より小さくされる。
【解決手段】 内周面が円形の環状固定部材1と、その内周面に外周面が外接可能な環状弾性部材2と、その内側からその外周面を周方向の複数箇所の部分で環状固定部材1の内周面に接触させ、その接触部を周方向に移動させる波動発生器3とを備える。環状弾性部材2は一端部が開口した薄肉円筒状で、その他端部は出力軸7に連結される。環状固定部材1は一端部が開口した円筒状で、その他端部は、前記接触部から軸方向に離れた位置で出力軸側ハウジング11に固定される。環状固定部材1の内径は、波動発生器3が内側に挿入された環状弾性部材2の最大外径より小さくされる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、波動変速機に関し、さらに詳しくは摩擦伝達機構によって変速を行なう摩擦伝動式波動変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
モータなどから出力された高速回転を減速して低速回転出力として取り出すための変速機構としては、歯車式の波動変速機と共に、摩擦伝動式の波動変速機が知られている。この摩擦伝動式の波動変速機は、一般的に、環状剛性部材と、この環状剛性部材の内周面に外接可能な環状弾性部材と、この環状弾性部材の内側に配置した楕円形状のカムを備えた波動発生器とで構成されている(例えば特許文献1)。
【0003】
この摩擦伝動式波動変速機では、環状弾性部材が波動発生器によって楕円形状に撓められ、その環状弾性部材の長軸両端に位置する部分が環状剛性部材に摩擦接触する。この摩擦接触状態で波動発生器を回転させると、環状弾性部材の楕円形状が回転し、環状弾性部材と環状剛性部材の摩擦接触位置が周方向に移動する。このように摩擦接触位置が周方向に移動すると、環状弾性部材と環状剛性部材の間に、摩擦接触面の周長差に応じた相対回転が発生する。したがって、これら環状弾性部材および環状剛性部材のうちの一方の部材を固定しておけば、他方の部材の側からは減速された回転出力が得られることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−054359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した従来の摩擦伝動式波動変速機械では、環状剛性部材とその内側に配置した環状弾性部材との摩擦接触面を、円錐形あるいは鼓形に設定し、さらに、これらが相互に当接するように、コイルばねなどの加圧部材によって、環状剛性部材をその軸線方向に押圧する構成を採用している。
【0006】
しかし、環状弾性部材の摩擦接触面を円錐形にすると、その軸方向の一端部が肉厚となり剛性が高くなる。その結果、環状弾性部材の変形抵抗が大きくなり、回転抵抗が増して伝達効率が低下するという問題がある。また、減速比を低く設定する場合、より大きな環状弾性部材の変形が必要となるが、前記円錐形状のため低い減速比を設定することが困難になる。
【0007】
このように、摩擦接触面を円錐形とした環状弾性部材では、その円錐角を大きくすると変形抵抗が大きくなることから、円錐角を大きくできない。しかし、円錐角が小さいと、コイルばねなどの加圧部材により軸方向に押圧するばね力に対して接線力が大きくならず、摩擦力を向上させることは困難となる。また、ばね力で押圧される環状弾性部材を保持するためには、大きな軸方向荷重が受けられる軸受構造が必要になり、コスト増を招くという問題もある。
【0008】
さらに、上記した従来の摩擦伝動式波動変速機では、前記加圧部材からのばね力を受けるために前記環状剛性部材を軸方向に移動可能な状態とし、回転止め部材により回転止めしている。このため、環状剛性部材の回転止めされた部分で回転方向のガタが発生し易いだけでなく、回転止め用の切欠き形成によりコスト増を招くことにもなる。
【0009】
これらの問題を解決する対策として、前記環状剛性部材に近接して外力付与手段を配置し、環状剛性部材に対してその内周面が縮径するように前記外力付与手段から外力を付与するように構成することも考えられる。
【0010】
この構成によると、外力付与手段によって環状剛性部材の内側方向に向かって外力が加えられ環状剛性部材が縮径されるので、環状剛性部材の内周面と環状弾性部材の外周面との接触部にトルク伝達に要する接触力が発生し、比較的高い伝達トルクを得ることができる。ここで、前記外力付与手段による外力が、前記接触部の許容摩擦量以上の変位量を蓄えた例えば金属ばねによる外力とすれば、摩耗耐久寿命を確保できる。また、この構成において、環状剛性部材と環状弾性部材の間の初期状態を、隙間を有する状態に設定すれば、組立・分解を容易に行うことができる。
【0011】
しかし、この構成の場合、外力付与手段を配置することから、変速機の外径が大きくなり、また高コストにもなるという新たな問題が生じる。
【0012】
この発明の目的は、回転抵抗を増大させたり、減速比の範囲を狭くすることなく、摩耗耐久性を確保して比較的高い動力伝達を行うことができ、かつコンパクトで低コストな摩擦伝動式波動変速機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明の摩擦伝動式波動変速機は、円形の内周面の筒部を有する環状固定部材と、この環状固定部材の内側に配置され、環状固定部材の内周面に対して外接可能な外周面を有する環状弾性部材と、この環状弾性部材の内側に配置され、環状弾性部材を半径方向の外方に撓めて、環状弾性部材の外周面を周方向の複数箇所の部分で前記環状固定部材の内周面に接触させ、これらの接触部を周方向に移動させ接触部での摩擦でトルク伝達する波動発生器とを備え、前記波動発生器はその周上において前記接触部が生じるように配置された摩擦伝動式波動変速機において、
前記環状弾性部材はその軸方向の一端部が開口した薄肉円筒状であり、この開口側から前記波動発生器が挿入され、環状弾性部材の軸方向の他端部は出力軸に連結されており、前記環状固定部材は軸方向の一端部が開口した円筒状であり、その軸方向の他端部は、前記環状弾性部材外周面との接触部から軸方向に離れた位置で、前記出力軸を支持する出力軸側ハウジングに固定され、この環状固定部材の内径が、前記波動発生器が内側に挿入された前記環状弾性部材の最大外径より小さくされていることを特徴とする。
【0014】
この構成によると、環状固定部材の内径が、波動発生器を内側に挿入した状態での環状弾性部材の最大外径よりも小さくされているので、この締め代量の分が、環状固定部材と環状弾性部材とのトルク伝達部となる接触部の接触力となる。環状固定部材は、その軸方向の一端部が開口した円筒状であり、その軸方向の他端部は、環状弾性部材の外周面との接触部から軸方向に離れた位置で、出力軸側ハウジングに固定された片持ち状態の支持構造であるため、前記接触力の反力により弾性変形する。すなわち、摩擦力を得るために前記接触部にかける接触力を環状固定部材の弾性変形に分担させている。このため、接触部の面圧が低くなるため、回転抵抗の増大及び、接触部の摩耗量が抑えられ、これにより摩耗耐久寿命を延ばすことができる。最小必要伝達トルクと回転抵抗の増大及び摩耗耐久寿命から接触力の範囲が決まるが、低剛性化した環状固定部材により接触力を付与することで、接触力に対応する締め代量の範囲が大きくなり、それにより摩耗寿命を確保できる締め代量の設定が容易となる。
環状固定部材の低剛性化は、環状固定部材の薄肉化となり、変速機の外径をコンパクトにし、また低コスト化となる。
以上の接触部の接触力付与方法は、環状弾性部材も薄肉形状でよくまた低剛性となるため、このことからも回転抵抗の増大は抑えられるとともに、減速比の範囲もより変形の大きい減速比の小さい範囲に拡げることができる。
【0015】
また、環状弾性部材はその軸方向の一端部が開口した薄肉円筒状であり、この開口側から波動発生器が挿入され、環状弾性部材の他端部は出力軸に連結されている。すなわち、環状固定部材の開口側と固定側の方向は、環状弾性部材の開口側と固定側の方向と一致している。このことから、環状固定部材と環状弾性部材は同じ開口側での変形となり同じ方向に若干のテーパ形状となり、従来の高剛性の環状固定部材に比べ偏当たりが緩和されて摩耗量が減り、この点でも摩耗耐久寿命を延ばすことができる。以上の結果から、回転抵抗を増大させたり、減速比の範囲を狭くすることなく、摩耗耐久性を確保して比較的高い動力伝達を行うことができ、かつコンパクトで低コストな摩擦伝動式波動変速機とすることができる。
【0016】
この発明において、内側に前記波動発生器が挿入された前記環状弾性部材の外周面の前記接触部となる一部は、その外径が前記環状固定部材の内周面の内径と略同一の円弧径となる円弧部を有していても良い。
【0017】
このように構成した場合、環状弾性部材の外周面の環状固定部材の内周面との接触が、従来例のような楕円形状による線接触から円筒面による面接触となり、それだけ接触面積が増大する。その結果、同じ面圧、同じ摩擦係数の場合でも、従来の摩擦伝動式波動変速機に比べて摩擦力が大きくなり、伝達許容トルクを大幅に向上させることができる。また、上記したように、環状固定部材についても、環状弾性部材と同方向のテーパ形状の変形となることで接触面積が増大し、偏当たり緩和により接触部が拡大したことと相まって、伝達許容トルクをさらに向上させることができる。
【0018】
この発明において、前記環状固定部材の筒部の軸方向長さを、前記環状弾性部材の薄肉円筒部の軸方向長さより長くしても良い。
このように構成した場合、環状固定部材の剛性が低下し、より大きな締め代(環状固定部材の内径と組立体の状態での環状弾性部材の最長外径との差)に対応でき、耐摩耗寿命が延びるとともに、締め代設定が容易となる。また、環状固定部材の筒部での環状弾性部材との接触部において、テーパ形状変形がさらに環状弾性部材のテーパ形状変形に近くなるので、偏当たりを抑制することができる。また、環状固定部材の出力軸側ハウジングへの固定部を小径とすることができ、それだけ変速機の外径をコンパクトにできる。
【0019】
この発明において、前記環状固定部材における筒部と、環状固定部材における前記出力軸側ハウジングに固定される固定部との境界に、前記筒部より肉厚の薄い薄肉部分を設けても良い。
この構成の場合も、環状固定部材の剛性が低下し、より大きな締め代(環状固定部材の内径と組立体の状態での環状弾性部材の最長外径との差)に対応でき、耐摩耗寿命が延びるとともに、締め代設定が容易となる。
【0020】
この発明において、前記環状弾性部材はプレス成形してなり、その前記薄肉円筒部の肉厚をその開口側から前記出力軸に連結される端部まで均一としても良い。
このように構成した場合、環状弾性部材の薄肉円筒部に外径変化がなく、環状固定部材との接触部の境が徐々に離れることでエッジロードが緩和され、繰り返し変形寿命が延びる。ここで、環状固定部材についても接触部近傍の内周面に段差がなければ、さらに接触部の境は徐々に変化する。また、前記薄肉円筒部に外径,内径、肉厚変化がないため、プレス成形が容易で高い加工精度を確保できる。
【0021】
この発明において、前記環状固定部材は、その筒部の開口側とは反対側の他端部における内周面を、前記出力軸側ハウジングの外周面に圧入させることで、出力軸側ハウジングに固定されていても良い。
このように、環状固定部材の筒部の開口側とは反対側の他端部における内周面を、出力軸側ハウジングの外周面に圧入することで、環状固定部材を出力軸側ハウジングに固定すると、固定部における孔加工、ねじ加工、ボルト締め工程をなくすことができ、低コスト化が可能となる。
【0022】
この発明において、前記環状固定部材は、その筒部の開口側とは反対側の他端部における内周面に突起を有し、この突起付きの内周面を、前記出力軸側ハウジングの外周面に嵌合させることにより、環状固定部材が出力軸側ハウジングに固定されていても良い。
このように、環状固定部材の内周面に突起を形成し、この突起付き内周面を出力軸側ハウジングの外周面に嵌合させることで、環状固定部材を出力軸側ハウジングに固定した場合、固定部における結合強度が向上し、固定部における孔加工、ねじ加工、ボルト締め工程をなくすことができ、低コスト化が可能となる。
【0023】
この発明において、前記環状固定部材は、その筒部の開口側とは反対側の他端部における外周面を、前記出力軸側ハウジングの内周面に圧入させることで、出力軸側ハウジングに固定されていても良い。
この構成の場合も、固定部における孔加工、ねじ加工、ボルト締め工程をなくすことができ、低コスト化が可能となる。
【0024】
この発明において、前記環状固定部材は、その筒部の開口側とは反対側の他端部における外周面に突起を有し、この突起付きの外周面を前記出力軸側ハウジングの内周面に嵌合させることにより、環状固定部材が出力軸側ハウジングに固定されていても良い。
この構成の場合も、固定部における結合強度が向上し、固定部における孔加工、ねじ加工、ボルト締め工程をなくすことができ、低コスト化が可能となる。
【0025】
この発明において、前記波動発生器は、入力軸に連結されたカムと、このカムの外周に配置され前記環状弾性部材の内周面と接触する軸受とでなり、前記カムは、前記入力軸との連結部が前記軸受の中心より前記出力軸側に位置しており、前記軸受中心から前記連結部までの部分が円筒部とされていても良い。
このように、波動発生器のカムの入力軸との連結部を軸受の中心より出力軸側に位置させると、環状弾性部材の内側に波動発生器を挿入した組立体の状態における環状弾性部材の剛性が低下する。これにより、環状固定部材の低剛性化の場合と同様に、接触部の必要な接触力に対して締め代量を大きく取ることができ、許容摩擦量の確保が容易になり、摩耗耐久寿命を延ばすことができる。また、軸受の内側にカムを挿入し易くなる。入力軸の支持軸受の軸方向位置を出力軸側に位置させても、前記カムの円筒部により、波動発生器軸受を入力軸側に位置させることができるため、環状弾性部材を軸方向に長くできる。これにより環状弾性部材は低剛性となるため、より大きな変形に対応でき、低減速比が可能となる。
【0026】
この発明において、入力軸を支持する入力軸側ハウジングまたは前記出力軸側ハウジングは前記環状固定部材を覆う胴部を有し、この胴部には窓が形成されており、この窓と環状固定部材の筒部の開口端部との間となる軸方向位置において、前記いずれかのハウジングの胴部の内周面と環状固定部材の外周面との間にシールを介在させても良い。
この構成の場合、環状固定部材を覆う出力軸側ハウジングまたは入力軸側ハウジングの胴部に窓が形成されているので、窓による放熱効果で発熱を抑えることができる。また、前記窓と環状固定部材の筒部の開口端部との間となる軸方向位置において、前記いずれかのハウジングの胴部の内周面と、環状固定部材の筒部の外周面との間にシールを介在させているので、波動発生器の軸受部を含む内部を前記窓から遮断して密閉できる。
【0027】
この発明において、入力軸を支持する入力軸側ハウジングまたは前記出力軸側ハウジングは前記環状固定部材を覆う胴部を有し、この胴部には窓が形成されており、環状固定部材の筒部の開口端面とこの開口端面に対向する前記入力軸側ハウジングの対向面との間にシールを介在させても良い。
この構成の場合も、窓による放熱効果で発熱を抑えることができ、波動発生器の軸受部を含む内部を、シールにより前記窓から遮断して密閉できる。この場合、シールは、環状固定部材の筒部の開口端面とこの開口端面に対向する前記入力軸側ハウジングの対向面との間に介在させているので、変速機の外径をコンパクトにできる。
【0028】
また、前記入力軸側ハウジングまたは前記出力軸側ハウジングの胴部の断面形状、およびこの胴部の開口側端部とは反対側の端部のフランジ部の形状が多角形とされ、前記胴部の隣り合う角部の間の周方向位置に前記窓が形成されていても良い。
前記胴部の内周面は、環状固定部材を覆うため円形であり、このため多角形の前記胴部や前記フランジ部の角部には余裕のスペースがある。そこで、前記胴部の角部における開口側端面と、これに対向するハウジングのフランジ部の角部とを突き合わせ面として、両ハウジングをボルトで結合し、胴部の隣り合う角部の間の周方向位置に窓を形成することで、変速機の外径をコンパクトにできる。
【0029】
この発明において、前記環状固定部材は前記出力軸側ハウジングと一体に形成されていても良い。この構成の場合、部品点数を低減できるとともに、放熱効果により温度を下げられ、焼きつき等の発生を抑えることができる。
【0030】
この発明の摩擦伝動式波動変速機の組立方法は、この発明の前記いずれかの構成の摩擦伝動式波動変速機の組立方法であって、前記環状弾性部材の内側に前記波動発生器を挿入した組立体を前記環状固定部材の内側に挿入する際、環状固定部材の筒部を外周側から加圧して内周面形状を断面楕円形状に変形させ、その楕円形状の長径部となる周方向位置が前記組立体の長径部となる周方向位置と合う状態で前記挿入を行うことを特徴とする。
【0031】
この組立方法によれば、初期締め代量によらず圧入することなく定位置に組立体を挿入することができるので、圧入の場合のかじりなどによる波動発生器の軸受内部の傷や、挿入後姿勢の倒れなどの発生を無くすことができ、組立が容易になる。
【発明の効果】
【0032】
この発明の摩擦伝動式波動変速機は、円形の内周面の筒部を有する環状固定部材と、この環状固定部材の内側に配置され、環状固定部材の内周面に対して外接可能な外周面を有する環状弾性部材と、この環状弾性部材の内側に配置され、環状弾性部材を半径方向の外方に撓めて、環状弾性部材の外周面を周方向の複数箇所の部分で前記環状固定部材の内周面に接触させ、これらの接触部を周方向に移動させ接触部での摩擦でトルク伝達する波動発生器とを備え、前記波動発生器はその周上において前記接触部が生じるように配置された摩擦伝動式波動変速機において、前記環状弾性部材はその軸方向の一端部が開口した薄肉円筒状であり、この開口側から前記波動発生器が挿入され、環状弾性部材の軸方向の他端部は出力軸に連結されており、前記環状固定部材は軸方向の一端部が開口した円筒状であり、その軸方向の他端部は、前記環状弾性部材外周面との接触部から軸方向に離れた位置で、前記出力軸を支持する出力軸側ハウジングに固定され、この環状固定部材の内径が、前記波動発生器が内側に挿入された前記環状弾性部材の最大外径より小さくされているので、回転抵抗を増大させたり、減速比の範囲を狭くすることなく、摩耗耐久性を確保して比較的高い動力伝達を行うことができ、かつコンパクトで低コストな摩擦伝動式波動変速機とすることができる。
この発明の摩擦伝動式波動変速機の組立方法は、前記発明の摩擦伝動式波動変速機の組立方法であって、前記環状弾性部材の内側に前記波動発生器を挿入した組立体を前記環状固定部材の内側に挿入する際、環状固定部材の筒部を外周側から加圧して断面楕円形状に変形させ、その楕円形状の長径部となる周方向位置が前記組立体の長径部となる周方向位置と合う状態で前記挿入を行う方法としたため、初期締め代量によらず圧入することなく定位置に組立体を挿入することができ、圧入の場合のかじりなどによる波動発生器の軸受内部の傷や、挿入後姿勢の倒れなどの発生を無くすことができ、組立が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明の一実施形態にかかる摩擦伝動式波動変速機の縦断面図である。
【図2】同摩擦伝動式波動変速機の右側面図である。
【図3】同摩擦伝動式波動変速機における波動発生器と環状弾性部材の組立体を示す横断面図である。
【図4】同摩擦伝動式波動変速機における環状固定部材の縦断面図である。
【図5】同環状固定部材の左側面図である。
【図6】同摩擦伝動式波動変速機における環状弾性部材の縦断面図である。
【図7】同環状弾性部材の右側面図である。
【図8】同摩擦伝動式波動変速機における出力軸側ハウジングの縦断面図である。
【図9】同出力軸側ハウジングの右側面図である。
【図10】同摩擦伝動式波動変速機における入力軸側ハウジングの縦断面図である。
【図11】同入力軸側ハウジングの右側面図である。
【図12】この発明の他の実施形態にかかる摩擦伝動式波動変速機の半部縦断面図である。
【図13】この発明のさらに他の実施形態にかかる摩擦伝動式波動変速機の半部縦断面図である。
【図14】この発明のさらに他の実施形態にかかる摩擦伝動式波動変速機の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
この発明の一実施形態を図1ないし図11と共に説明する。図1はこの実施形態の摩擦伝動式波動変速機の縦断面図を示し、図2はその右側面図を示す。この摩擦伝動式波動変速機は、円形の内周面の筒部1aを有する環状固定部材1と、この環状固定部材1の内側に配置され環状固定部材1の内周面に対して外接可能な外周面を有する環状弾性部材2と、この環状弾性部材2の内側に配置された波動発生器3とを備える。波動発生器3は、環状弾性部材2を半径方向の外側に撓めて、環状弾性部材2の外周面を周方向の複数箇所(ここでは2箇所)の接触部2aa(図3)で前記環状固定部材1の内周面に接触させ、これらの接触部2aaを波動発生器3の回転に伴い周方向に移動させて接触部2aaでの摩擦でトルク伝達するものである。波動発生器3は、その周上において前記接触部2aaが生じるように配置される。
【0035】
環状弾性部材2は、その軸方向の一端部が開口したカップ状をなす薄肉円筒形であり、環状固定部材1の内側にこれと同心に配置される。この環状弾性部材2の薄肉円筒部2aの開口側から前記波動発生器3が挿入される。図6はこの環状弾性部材2の縦断面図を示し、図7はその右側面図を示す。環状弾性部材2の軸方向の他端部は、前記薄肉円筒部2aから内径側に延びるフランジ部2bとされ、そのフランジ部2bの内周部が出力軸7に形成されたハブ7aにボルト10で連結される。環状弾性部材2における前記フランジ部2bの内周部には、前記ボルト10を挿通するボルト挿通孔17(図6,図7)が形成されている。環状弾性部材2はプレス成形してなり、その薄肉円筒部2aの肉厚は、その開口側から出力軸7に連結される端部まで均一とされている。出力軸7は、複列の転がり軸受8を介して出力軸側ハウジング11の支軸用円筒部11aの内周に回転自在に支持されている。出力軸側ハウジング11の支軸用円筒部11aの内周の前記転がり軸受8より外側の軸方向位置には、シール26が設けられている。出力軸7は出力軸側ハウジング11の外側に突出して、図示しない被駆動部材の入力軸に連結される。
【0036】
環状固定部材1は、軸方向の一端部、つまり前記環状弾性部材2の薄肉円筒部2aの開口側に対応する端部が開口した円筒状の筒部1aと、内向きフランジ1bとでなる。図4はこの環状固定部材1の縦断面図を示し、図5はその左側面図を示す。この環状固定部材1は、その筒部1aの軸方向の他端部、つまり環状弾性部材2の外周面との接触部から軸方向に離れた位置となる出力軸7側の端部が、内径側に延びる内向きフランジ部1bとされ、この内向きフランジ部1bが前記出力軸側ハウジング11にボルト12により固定されている。すなわち、環状固定部材1は、開口側を自由端とする片持ち状態で出力軸側ハウジング11に固定されている。具体的には、出力軸側ハウジング11における支軸用円筒部11aには、外径側に延びる正面形状が多角形(ここでは四角形)のフランジ部11cが形成され、このフランジ部11cに環状固定部材1における内向きフランジ部1bがボルト12により固定されている。出力軸側ハウジング11には、前記フランジ部11cの外周部からさらに軸方向に延びて環状固定部材1を覆う胴部11dが形成されている。胴部11dは、外周面の形状が、フランジ部11cの側面形状と同じ多角形の角柱状であって、この例では四角柱状とされ、内周面の形状が円柱状である。
【0037】
環状固定部材1の筒部1aの軸方向長さは、環状弾性部材2の薄肉円筒部2aの軸方向長さより長くされている。また、環状固定部材1における筒部1aと、環状固定部材1における前記出力軸側ハウジング11に固定される固定部である内向きフランジ部1bとの境界には、前記筒部1aより肉厚の薄い薄肉部分1cが形成されている。
【0038】
図8は前記出力軸側ハウジング11の縦断面図を示し、図9はその右側面図を示す。なお、図8は、図9におけるVIII− VIII 矢視断面図を示す。出力軸側ハウジング11のフランジ部11cにおける内周部には、環状固定部材1を連結する前記ボルト12用の複数のボルト挿通孔13が設けられる。また、出力軸側ハウジング11のフランジ部11cの各角部には、この出力軸側ハウジング11に後述する入力軸側ハウジング6を連結するためのボルト挿通孔14がそれぞれ設けられている。
【0039】
波動発生器3は、カム4と、このカム4の外周に配置されて前記環状弾性部材2の内周面と接触する転がり軸受5とでなる。図3は、環状弾性部材2の内側に波動発生器3を挿入してなる組立体の横断面図を示す。ここでは、転がり軸受5として、内輪31、外輪32、転動体であるボール33、および保持器34からなる玉軸受が用いられる。この転がり軸受5の内輪31の内径面にカム4が嵌合状態に挿入される。内輪31の内径面の周長とカム4の外周面の周長とは一致する。
【0040】
波動発生器3の外形は、前記環状弾性部材2の外周面の前記環状固定部材1の内周面と接触する接触部2aaが、環状固定部材1の内周面の内径と略同一の外径の円弧部となるように形成される。換言すると、環状弾性部材2の内側に波動発生器3を挿入してなる組立体の横断面図を示す図3の状態で、環状弾性部材2の外周面の周角α(α=10°)の範囲の部分である前記接触部2aaを円弧部としている。環状固定部材1の筒部1aの内径は、前記波動発生器3が内側に挿入された図3の状態での前記環状弾性部材2の最長外径より小さく設定することで、締め代量(組立体の状態での環状弾性部材2の長径と環状固定部材1の内径との差分)が与えられている。ここでは、環状固定部材1の筒部1aの内径を60mmとし、締め代量は30μm〜80μmとしている。この締め代量の分が、環状固定部材1と環状弾性部材2とのトルク伝達部となる接触部の接触力となる。
【0041】
カム4には、その回転軸心であるカム中心O1を貫通する入力軸21が設けられ、その一端は環状固定部材1の筒部1a内から出力軸7とは反対側に向けて外側に突出している。この入力軸21は、カム4に形成された内向きのフランジ部4bから、入力軸21の中間部に形成されたハブ21aに向けて軸方向に挿通されたボルト25により、カム4に連結されている。入力軸21の出力軸7側に向く一端部は、転がり軸受23を介して出力軸7のハブ7aの内周に回転自在に支持されている。入力軸21の他端部は、複列の転がり軸受24を介して入力軸側ハウジング6における支軸用円筒部6aの内周に回転自在に支持されている。入力軸側ハウジング6の支軸用円筒部11aの内周の前記転がり軸受24より外側の軸方向位置には、シール27が設けられている。
【0042】
入力軸側ハウジング6は、その支軸用円筒部6aから外径側に延びるフランジ部6bを有する断面L字状とされ、そのフランジ部6bの外周部が出力軸側ハウジング11に連結されている。図10に入力軸側ハウジング6の縦断面図を示し、図11にその右側面図を示す。入力軸側ハウジング6のフランジ部6bの正面形状は、図11のように出力軸側ハウジング11のフランジ部11c(図9)と同じ多角形(ここでは四角形)とされ、その出力軸7側を向く片面には、軸心と同心の嵌合用円筒部6cが形成され、この嵌合用円筒部6cの外周面に出力軸側ハウジング11の胴部11dの開口側の内周面が圧入される。また、入力軸側ハウジング6のフランジ部6bの各角部には、出力軸側ハウジング11のフランジ部11cの各角部に形成されたボルト挿通孔14に対応するボルト孔15がそれぞれ形成され、出力軸側ハウジング11のボルト挿通孔14に挿通したボルト16を入力軸側ハウジング6のボルト孔15に螺合することにより、入力軸側ハウジング6が出力軸側ハウジング11に連結される。入力軸21は、例えば図示しないモータの出力軸に連結される。
【0043】
この摩擦伝動式波動変速機の組立においては、環状弾性部材2の内側に波動発生器3を挿入してなる図3に示す組立体を環状固定部材1の内側に挿入する際、環状固定部材1の筒部1aを外周側から加圧して断面楕円形状に変形させ、その楕円形状の長径部となる周方向位置が前記組立体の長径部となる周方向位置と合う状態で、前記挿入を行う。
【0044】
このように構成された摩擦伝動式波動変速機では、波動発生器3が高速回転すると、波動発生器3によって半径方向の外方に撓められた環状弾性部材2の外周面の部分と、環状固定部材1の内周面とが接触する2箇所の接触部分が周方向に移動する。その結果、環状固定部材1の内周面の円周と環状弾性部材2の外周面の円周の差に応じた相対回転が、環状固定部材1と環状弾性部材2との間に発生し、その相対回転が減速出力回転として前記出力軸7から被駆動部材の側に伝達される。
【0045】
摩擦伝動式波動変速機では、一般的な歯車式波動減速機に比べてトルク容量が低い。また、歯車式では、歯飛び現象回避のため固定部材の高剛性化が必須となるが、摩擦式ではトルク容量が低く歯が無いため歯飛びの心配も無いので、前記環状固定部材1の剛性を低下させる余地がある。この点に着目して、この摩擦伝動式波動変速機では、環状固定部材1の内径が、波動発生器3を内側に挿入した状態での前記環状弾性部材2の最大外径よりも小さくされていて、この締め代量の分が、環状固定部材1と環状弾性部材2とのトルク伝達部となる接触部の接触力となる。環状固定部材1は、その軸方向の一端部が開口した円筒状であり、その軸方向の他端部は、環状弾性部材2の外周面との接触部から軸方向に離れた位置で、出力軸7を支持する出力軸側ハウジング11に固定された片持ち状態の支持構造であるため、前記接触力の反力により弾性変形する。このため、接触部の面圧が低くなるため、回転抵抗の増大及び、接触部の摩耗量が抑えられ、これにより摩耗耐久寿命を延ばすことができる。最小必要伝達トルクと回転抵抗の増大及び摩耗耐久寿命から接触力の範囲が決まるが、低剛性化した環状固定部材により接触力を付与することで、接触力に対応する締め代量の範囲が大きくなり、それにより摩耗寿命を確保できる締め代量の設定が容易となる。
環状固定部材1の低剛性化は、環状固定部材1の薄肉化となり、変速機の外径をコンパクトにし、また低コスト化となる。
以上の接触部の接触力付与方法は、環状弾性部材2も薄肉形状でよくまた低剛性となるため、このことからも回転抵抗の増大は抑えられるとともに、減速比の範囲もより変形の大きい減速比の小さい範囲に拡げることができる。
【0046】
また、環状弾性部材2はその軸方向の一端部が開口した薄肉円筒状であり、この開口側から波動発生器3が挿入され、環状弾性部材2の他端部は出力軸7に連結されている。すなわち、環状固定部材1の開口側と固定側の方向は、環状弾性部材2の開口側と固定側の方向と一致している。このことから、環状固定部材1と環状弾性部材2は同じ開口側での変形となり同じ方向に若干のテーパ形状となり、従来の高剛性の環状固定部材に比べ偏当たりが緩和されて摩耗量が減り、この点でも摩耗耐久寿命を延ばすことができる。
【0047】
また、この摩擦伝動式波動変速機の組立においては、環状弾性部材2の内側に波動発生器3を挿入してなる図3に示す組立体を環状固定部材1の内側に挿入する際、環状固定部材1の筒部1aを外周側から加圧して断面楕円形状に変形させ、その楕円形状の長径部となる周方向位置が前記組立体の長径部となる周方向位置と合う状態で前記挿入を行うので、初期締め代量によらず圧入することなく定位置に組立体を挿入することができる。このように、この組立方法によれば、圧入の場合のかじりなどによる波動発生器3の軸受内部の傷や、挿入後姿勢の倒れなどの発生を無くすことができる。
【0048】
また、この実施形態では、内側に前記波動発生器3が挿入された前記環状弾性部材2の外周面の前記接触部2aaとなる部分を、その外径が前記環状固定部材1の内径と略同一の円弧径となる円弧部としているので、環状弾性部材2の外周面と環状固定部材1の内周面との接触が、従来例のような楕円形状による線接触から円筒面による面接触となり、それだけ接触面積が増大する。その結果、同じ面圧、同じ摩擦係数の場合でも、カム4の外周形状を楕円形とした従来の摩擦伝動式波動変速機に比べて摩擦力が大きくなり、伝達許容トルクを大幅に向上させることができる。また、上記したように、環状固定部材1についても、環状弾性部材2と同方向のテーパ形状の変形となることで接触面積が増大し、偏当たり緩和により接触部が拡大したことと相まって、伝達許容トルクをさらに向上させることができる。
【0049】
また、この実施形態では、前記環状固定部材1の筒部1aの軸方向長さを、前記環状弾性部材2の薄肉円筒部2aの軸方向長さより長くしているので、環状固定部材1の剛性が低下し、より大きな締め代量(環状固定部材1の内径と組立体の状態での環状弾性部材2の最長外径との差)に対応でき、耐摩耗寿命が延びるとともに、締め代設定が容易となる。また、環状固定部材1の筒部1aでの環状弾性部材2との接触部において、テーパ形状変形がさらに環状弾性部材2のテーパ形状変形に近くなるので、偏当たりを抑制することができる。また、環状固定部材1の出力軸側ハウジング11への固定部を、筒部1aより小径にすることができ、それだけ変速機の外径をコンパクトにできる。
【0050】
また、この実施形態では、前記環状固定部材1における筒部1aと、環状固定部材1における前記出力軸側ハウジング11に固定される内向きフランジ部1bとの境界に、前記筒部1aより肉厚の薄い薄肉部分1cを形成しているので、環状固定部材1の剛性が低下し、より大きな締め代量(環状固定部材1の内径と組立体の状態での環状弾性部材2の最長外径との差)に対応でき、耐摩耗寿命が延びるとともに、締め代設定が容易となる。
【0051】
また、この摩擦伝動式波動変速機では、前記環状弾性部材2をプレス成形しており、その薄肉円筒部2aの肉厚をその開口側から前記出力軸7に連結される端部まで均一としているので、環状弾性部材2の薄肉円筒部2aに外径変化がなく、環状固定部材1との接触部の境が徐々に離れることでエッジロードが緩和され、繰り返し変形寿命が延びる。ここで、環状固定部材1についても接触部近傍の内周面に段差がなければ、さらに接触部の境は徐々に変化する。また、薄肉円筒部2aに外径,内径、肉厚変化がないため、プレス成形が容易で高い加工精度を確保できる。
【0052】
図12は、この発明の他の実施形態を示す。この摩擦伝動式波動変速機では、図1〜図11に示す実施形態において、出力軸側ハウジング11の支軸用円筒部11aにおけるフランジ部11cの立ち上がり位置から環状弾性部材2に近接した軸方向位置に、環状弾性部材2側に向けて突出するハブ11bが形成され、環状固定部材1は、その内向きフランジ部1bの内周面を前記ハブ11bの外周面に圧入することで出力軸側ハウジング11に固定される。図1〜図11の実施形態におけるボルト12による固定は省略される。
【0053】
また、環状固定部材1を覆う出力軸側ハウジング11の胴部11dには、窓19が形成される。胴部11dは内周が環状固定部材1の外周に沿った円形とされ、外周が多角形(ここでは四角形)とされているので、窓19は胴部11dにおける隣り合う角部の間の周方向位置に形成される。また、前記窓19と環状固定部材1の筒部1aの開口端部との間となる軸方向位置において、入力軸側ハウジング6における嵌合用円筒部6cの内周面と、環状固定部材1の筒部1aの外周面との間にOリングなどからなるシール20を介在させている。その他の構成は図1〜図11の実施形態の場合と同様である。
【0054】
このように、この実施形態では、環状固定部材1の筒部1aの開口側とは反対側の端部であるフランジ部1bの内周面を、出力軸側ハウジング11におけるハブ11bの外周面に圧入することで、環状固定部材1が出力軸側ハウジング11に固定されているので、固定部における孔加工、ねじ加工、ボルト締め工程をなくすことができ、低コスト化が可能となる。
【0055】
また、環状固定部材1を覆う出力軸側ハウジング11の胴部11dに窓19が形成されているので、窓19による放熱効果で発熱を抑えることができる。また、前記窓19と環状固定部材1の筒部1aの開口端部との間となる軸方向位置において、入力軸側ハウジング6における嵌合用円筒部6cの内周面と、環状固定部材1の筒部1aの外周面との間にOリングなどからなるシール20を介在させているので、波動発生器3の転がり軸受5を含む内部を窓19から遮断して密閉できる。
【0056】
図1〜図11の実施形態でも説明したように、出力軸側ハウジング11の胴部11dの断面形状、この胴部11dの開口側端部とは反対側の端部のフランジ部11cの形状、および入力軸側ハウジング6のフランジ部6bの形状は多角形とされている。出力軸側ハウジング11の胴部11dの内周面は、環状固定部材1を覆うため円形であり、このため多角形の前記胴部11dや前記フランジ部11c,6bの角部には余裕のスペースがある。そこで、出力軸側ハウジング11の胴部11dの角部における開口側端面と、入力軸側ハウジング6のフランジ部6bの角部とを突き合わせ面として、両ハウジング6,11をボルト16で結合し、この実施形態のように胴部11dの隣り合う角部の間の周方向位置に窓19を形成することで、変速機の外径をコンパクトにできる。
【0057】
図13は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この摩擦伝動式波動変速機では、図1〜図11に示す実施形態において、環状固定部材1の筒部1aの出力軸7側を向く端部に、外径側に張り出す外向きフランジ部1dが形成されており、さらにこの外向きフランジ部1dの外周面には突起1daが形成されている。この外向きフランジ部1dの突起付き外周面を、出力軸側ハウジング11の胴部11dの内周面に嵌合させることにより、環状固定部材1が出力軸側ハウジング11に固定される。環状固定部材1における円筒部11aと出力軸側ハウジング11への固定部となる前記外向きフランジ部1dとの境界に、筒部1aより肉厚の薄い薄肉部分1cが形成されることは、図1〜図11の実施形態の場合と略同様である。また、出力軸側ハウジング11の胴部11dに窓19が形成されること、および入力軸側ハウシング6における嵌合用円筒部6cの内周面と環状固定部材1における筒部1aの外周面との間にシール20を介在させることは、図12の実施形態の場合と同様である。その他の構成は図1〜図11の実施形態の場合と同様である。
【0058】
このように、この実施形態では、環状固定部材1の筒部1aの開口側とは反対側の端部である外向きフランジ部1dの突起付き外周面を、出力軸側ハウジング11における胴部11dの内周面に嵌合させることで、環状固定部材1が出力軸側ハウジング11に固定されているので、固定部における結合強度が向上する。また、この場合も、固定部における孔加工、ねじ加工、ボルト締め工程をなくすことができ、低コスト化が可能となる。
【0059】
なお、この実施形態において、環状固定部材1における外向きフランジ部1dの突起1daを省略して、その外向きフランジ部1dの外周面を出力軸側ハウジング11の胴部111dの内周面に圧入することで、環状固定部材1を出力軸側ハウジング11に固定するようにしても良い。この場合にも、固定部における孔加工、ねじ加工、ボルト締め工程をなくすことができ、低コスト化が可能となる。
【0060】
また、図12の実施形態において、この実施形態の場合と同様に、環状固定部材1の内向きフランジ部1bの内周面に突起を形成し、この突起付き内周面を出力軸側ハウジング11のハブ11bの外周面に嵌合させることで、環状固定部材1を出力軸側ハウジング11に固定するようにしても良い。この場合にも、固定部における結合強度が向上し、固定部における孔加工、ねじ加工、ボルト締め工程をなくすことができ、低コスト化が可能となる。
【0061】
図14は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この摩擦伝動式波動変速機では、図1〜図11に示す実施形態において、環状固定部材1を出力軸側ハウジング11と一体に形成している。具体的には、環状固定部材1に、出力軸側ハウジング11の支軸用円筒部11aとフランジ部11cとを一体に設けている。出力軸側ハウジング11の胴部11dは省略されている。また、環状固定部材1の筒部1aの開口端面と、この開口端面に対向する入力軸側ハウジング6の対向面であるフランジ部6bの片面との間にOリングなどからなるシール20が介在させてある。筒部1aは円筒状である。
入力軸側ハウジング6は、フランジ部6bが多角形状(図示の例では四角形状)に形成されていて、外周縁の各角部から軸方向に延びる柱状部6dが設けられている。図示の例では4本の柱状部6dが設けられている。これら柱状部6dは、互いに櫛歯状を成し、先端が出力軸側ハウシンジング11のフランジ部11cの内面に突き当てて結合されていて、隣合う柱状部6d間の部分が窓19Aとなる。各柱状部6dの内周面は、環状固定部材1の筒部1aの外周に嵌合する部分的な円筒面に形成されている。
【0062】
さらに、波動発生器3のカム4は、転がり軸受5の配置される位置から出力軸7側に延びる円筒部4aと、この円筒部4aから内径側に延びるフランジ部4bとでなる断面L字状に形成され、そのフランジ部4bが入力軸21のハブ21aにボルト25で連結されている。つまり、カム4は、入力軸21との連結部が転がり軸受5の中心より出力軸7側に位置している。なお、環状弾性部材2は、薄板から成型されたプレス加工品で、フランジ部2bの内周部は、出力軸7に形成されたハブ7aと、この出力軸7と同心に環状弾性部材2の外側に配置された環状部材9とで挟まれて、これらの部材を軸方向に貫通するボルト10により出力軸7に連結されている。その他の構成は図1〜図11に示す実施形態の場合と略同様である。
【0063】
このように、この実施形態では、環状固定部材1を出力軸側ハウジング11と一体に形成しているので、部品点数を低減できるとともに、放熱効果により温度を下げられ、焼きつき等の発生を抑えることができる。
【0064】
また、環状固定部材1の筒部1aの開口端面と、この開口端面に対向する入力軸側ハウジング6の対向面であるフランジ部6bの片面との間にOリングなどからなるシール20を介在させているので、波動発生器3の転がり軸受5を含む内部をシール20により密封できる。この場合、シール20は、環状固定部材1の筒部1aの開口端面と、この開口端面に対向する入力軸側ハウジング6の対向面との間に介在させているので、変速機の外径をコンパクトにできる。
【0065】
また、波動発生器3のカム4は、入力軸21との連結部を転がり軸受5の中心より出力軸7側に位置させているので、環状弾性部材2の内側に波動発生器3を挿入した組立体の状態における環状弾性部材2の剛性が低下する。これにより、環状固定部材1の低剛性化の場合と同様に、接触部の許容面圧に対して締め代量を大きく取ることができ、許容摩擦量の確保が容易になり、摩耗耐久寿命を延ばすことができる。また、転がり軸受5の内側にカム4を挿入し易くなる。環状弾性部材2は軸方向に長く低剛性であり、より大きな変形に対応でき、低減速比が可能となる。
【0066】
なお、上記した各実施形態では、出力軸側ハウジング11に環状固定部材1を覆う胴部11dを形成し、この胴部11dに窓19を設けるなどの構成としたが、これに代えて入力軸側ハウジング6のフランジ部6bの外周部に同様の胴部を形成しても良い。この場合、図12や図13の実施形態におけるシール20は、前記入力軸側ハウジング6の胴部の内周面と環状固定部材1の筒部1aの外周面との間に介在させることになる。また、入力軸側ハウジング6の胴部に形成する窓は、その胴部の開口端側から軸方向に延びる櫛歯状のものとしても良い。
【符号の説明】
【0067】
1…環状固定部材
1a…筒部
1c…薄肉部分
1da…突起
2…環状弾性部材
2a…薄肉円筒部
2aa…接触部
3…波動発生器
4…カム
5…転がり軸受
6…入力軸側ハウジング
7…出力軸
11…出力軸側ハウジング
11d…胴部
19…窓
20…シール
21…入力軸
【技術分野】
【0001】
この発明は、波動変速機に関し、さらに詳しくは摩擦伝達機構によって変速を行なう摩擦伝動式波動変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
モータなどから出力された高速回転を減速して低速回転出力として取り出すための変速機構としては、歯車式の波動変速機と共に、摩擦伝動式の波動変速機が知られている。この摩擦伝動式の波動変速機は、一般的に、環状剛性部材と、この環状剛性部材の内周面に外接可能な環状弾性部材と、この環状弾性部材の内側に配置した楕円形状のカムを備えた波動発生器とで構成されている(例えば特許文献1)。
【0003】
この摩擦伝動式波動変速機では、環状弾性部材が波動発生器によって楕円形状に撓められ、その環状弾性部材の長軸両端に位置する部分が環状剛性部材に摩擦接触する。この摩擦接触状態で波動発生器を回転させると、環状弾性部材の楕円形状が回転し、環状弾性部材と環状剛性部材の摩擦接触位置が周方向に移動する。このように摩擦接触位置が周方向に移動すると、環状弾性部材と環状剛性部材の間に、摩擦接触面の周長差に応じた相対回転が発生する。したがって、これら環状弾性部材および環状剛性部材のうちの一方の部材を固定しておけば、他方の部材の側からは減速された回転出力が得られることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−054359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した従来の摩擦伝動式波動変速機械では、環状剛性部材とその内側に配置した環状弾性部材との摩擦接触面を、円錐形あるいは鼓形に設定し、さらに、これらが相互に当接するように、コイルばねなどの加圧部材によって、環状剛性部材をその軸線方向に押圧する構成を採用している。
【0006】
しかし、環状弾性部材の摩擦接触面を円錐形にすると、その軸方向の一端部が肉厚となり剛性が高くなる。その結果、環状弾性部材の変形抵抗が大きくなり、回転抵抗が増して伝達効率が低下するという問題がある。また、減速比を低く設定する場合、より大きな環状弾性部材の変形が必要となるが、前記円錐形状のため低い減速比を設定することが困難になる。
【0007】
このように、摩擦接触面を円錐形とした環状弾性部材では、その円錐角を大きくすると変形抵抗が大きくなることから、円錐角を大きくできない。しかし、円錐角が小さいと、コイルばねなどの加圧部材により軸方向に押圧するばね力に対して接線力が大きくならず、摩擦力を向上させることは困難となる。また、ばね力で押圧される環状弾性部材を保持するためには、大きな軸方向荷重が受けられる軸受構造が必要になり、コスト増を招くという問題もある。
【0008】
さらに、上記した従来の摩擦伝動式波動変速機では、前記加圧部材からのばね力を受けるために前記環状剛性部材を軸方向に移動可能な状態とし、回転止め部材により回転止めしている。このため、環状剛性部材の回転止めされた部分で回転方向のガタが発生し易いだけでなく、回転止め用の切欠き形成によりコスト増を招くことにもなる。
【0009】
これらの問題を解決する対策として、前記環状剛性部材に近接して外力付与手段を配置し、環状剛性部材に対してその内周面が縮径するように前記外力付与手段から外力を付与するように構成することも考えられる。
【0010】
この構成によると、外力付与手段によって環状剛性部材の内側方向に向かって外力が加えられ環状剛性部材が縮径されるので、環状剛性部材の内周面と環状弾性部材の外周面との接触部にトルク伝達に要する接触力が発生し、比較的高い伝達トルクを得ることができる。ここで、前記外力付与手段による外力が、前記接触部の許容摩擦量以上の変位量を蓄えた例えば金属ばねによる外力とすれば、摩耗耐久寿命を確保できる。また、この構成において、環状剛性部材と環状弾性部材の間の初期状態を、隙間を有する状態に設定すれば、組立・分解を容易に行うことができる。
【0011】
しかし、この構成の場合、外力付与手段を配置することから、変速機の外径が大きくなり、また高コストにもなるという新たな問題が生じる。
【0012】
この発明の目的は、回転抵抗を増大させたり、減速比の範囲を狭くすることなく、摩耗耐久性を確保して比較的高い動力伝達を行うことができ、かつコンパクトで低コストな摩擦伝動式波動変速機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明の摩擦伝動式波動変速機は、円形の内周面の筒部を有する環状固定部材と、この環状固定部材の内側に配置され、環状固定部材の内周面に対して外接可能な外周面を有する環状弾性部材と、この環状弾性部材の内側に配置され、環状弾性部材を半径方向の外方に撓めて、環状弾性部材の外周面を周方向の複数箇所の部分で前記環状固定部材の内周面に接触させ、これらの接触部を周方向に移動させ接触部での摩擦でトルク伝達する波動発生器とを備え、前記波動発生器はその周上において前記接触部が生じるように配置された摩擦伝動式波動変速機において、
前記環状弾性部材はその軸方向の一端部が開口した薄肉円筒状であり、この開口側から前記波動発生器が挿入され、環状弾性部材の軸方向の他端部は出力軸に連結されており、前記環状固定部材は軸方向の一端部が開口した円筒状であり、その軸方向の他端部は、前記環状弾性部材外周面との接触部から軸方向に離れた位置で、前記出力軸を支持する出力軸側ハウジングに固定され、この環状固定部材の内径が、前記波動発生器が内側に挿入された前記環状弾性部材の最大外径より小さくされていることを特徴とする。
【0014】
この構成によると、環状固定部材の内径が、波動発生器を内側に挿入した状態での環状弾性部材の最大外径よりも小さくされているので、この締め代量の分が、環状固定部材と環状弾性部材とのトルク伝達部となる接触部の接触力となる。環状固定部材は、その軸方向の一端部が開口した円筒状であり、その軸方向の他端部は、環状弾性部材の外周面との接触部から軸方向に離れた位置で、出力軸側ハウジングに固定された片持ち状態の支持構造であるため、前記接触力の反力により弾性変形する。すなわち、摩擦力を得るために前記接触部にかける接触力を環状固定部材の弾性変形に分担させている。このため、接触部の面圧が低くなるため、回転抵抗の増大及び、接触部の摩耗量が抑えられ、これにより摩耗耐久寿命を延ばすことができる。最小必要伝達トルクと回転抵抗の増大及び摩耗耐久寿命から接触力の範囲が決まるが、低剛性化した環状固定部材により接触力を付与することで、接触力に対応する締め代量の範囲が大きくなり、それにより摩耗寿命を確保できる締め代量の設定が容易となる。
環状固定部材の低剛性化は、環状固定部材の薄肉化となり、変速機の外径をコンパクトにし、また低コスト化となる。
以上の接触部の接触力付与方法は、環状弾性部材も薄肉形状でよくまた低剛性となるため、このことからも回転抵抗の増大は抑えられるとともに、減速比の範囲もより変形の大きい減速比の小さい範囲に拡げることができる。
【0015】
また、環状弾性部材はその軸方向の一端部が開口した薄肉円筒状であり、この開口側から波動発生器が挿入され、環状弾性部材の他端部は出力軸に連結されている。すなわち、環状固定部材の開口側と固定側の方向は、環状弾性部材の開口側と固定側の方向と一致している。このことから、環状固定部材と環状弾性部材は同じ開口側での変形となり同じ方向に若干のテーパ形状となり、従来の高剛性の環状固定部材に比べ偏当たりが緩和されて摩耗量が減り、この点でも摩耗耐久寿命を延ばすことができる。以上の結果から、回転抵抗を増大させたり、減速比の範囲を狭くすることなく、摩耗耐久性を確保して比較的高い動力伝達を行うことができ、かつコンパクトで低コストな摩擦伝動式波動変速機とすることができる。
【0016】
この発明において、内側に前記波動発生器が挿入された前記環状弾性部材の外周面の前記接触部となる一部は、その外径が前記環状固定部材の内周面の内径と略同一の円弧径となる円弧部を有していても良い。
【0017】
このように構成した場合、環状弾性部材の外周面の環状固定部材の内周面との接触が、従来例のような楕円形状による線接触から円筒面による面接触となり、それだけ接触面積が増大する。その結果、同じ面圧、同じ摩擦係数の場合でも、従来の摩擦伝動式波動変速機に比べて摩擦力が大きくなり、伝達許容トルクを大幅に向上させることができる。また、上記したように、環状固定部材についても、環状弾性部材と同方向のテーパ形状の変形となることで接触面積が増大し、偏当たり緩和により接触部が拡大したことと相まって、伝達許容トルクをさらに向上させることができる。
【0018】
この発明において、前記環状固定部材の筒部の軸方向長さを、前記環状弾性部材の薄肉円筒部の軸方向長さより長くしても良い。
このように構成した場合、環状固定部材の剛性が低下し、より大きな締め代(環状固定部材の内径と組立体の状態での環状弾性部材の最長外径との差)に対応でき、耐摩耗寿命が延びるとともに、締め代設定が容易となる。また、環状固定部材の筒部での環状弾性部材との接触部において、テーパ形状変形がさらに環状弾性部材のテーパ形状変形に近くなるので、偏当たりを抑制することができる。また、環状固定部材の出力軸側ハウジングへの固定部を小径とすることができ、それだけ変速機の外径をコンパクトにできる。
【0019】
この発明において、前記環状固定部材における筒部と、環状固定部材における前記出力軸側ハウジングに固定される固定部との境界に、前記筒部より肉厚の薄い薄肉部分を設けても良い。
この構成の場合も、環状固定部材の剛性が低下し、より大きな締め代(環状固定部材の内径と組立体の状態での環状弾性部材の最長外径との差)に対応でき、耐摩耗寿命が延びるとともに、締め代設定が容易となる。
【0020】
この発明において、前記環状弾性部材はプレス成形してなり、その前記薄肉円筒部の肉厚をその開口側から前記出力軸に連結される端部まで均一としても良い。
このように構成した場合、環状弾性部材の薄肉円筒部に外径変化がなく、環状固定部材との接触部の境が徐々に離れることでエッジロードが緩和され、繰り返し変形寿命が延びる。ここで、環状固定部材についても接触部近傍の内周面に段差がなければ、さらに接触部の境は徐々に変化する。また、前記薄肉円筒部に外径,内径、肉厚変化がないため、プレス成形が容易で高い加工精度を確保できる。
【0021】
この発明において、前記環状固定部材は、その筒部の開口側とは反対側の他端部における内周面を、前記出力軸側ハウジングの外周面に圧入させることで、出力軸側ハウジングに固定されていても良い。
このように、環状固定部材の筒部の開口側とは反対側の他端部における内周面を、出力軸側ハウジングの外周面に圧入することで、環状固定部材を出力軸側ハウジングに固定すると、固定部における孔加工、ねじ加工、ボルト締め工程をなくすことができ、低コスト化が可能となる。
【0022】
この発明において、前記環状固定部材は、その筒部の開口側とは反対側の他端部における内周面に突起を有し、この突起付きの内周面を、前記出力軸側ハウジングの外周面に嵌合させることにより、環状固定部材が出力軸側ハウジングに固定されていても良い。
このように、環状固定部材の内周面に突起を形成し、この突起付き内周面を出力軸側ハウジングの外周面に嵌合させることで、環状固定部材を出力軸側ハウジングに固定した場合、固定部における結合強度が向上し、固定部における孔加工、ねじ加工、ボルト締め工程をなくすことができ、低コスト化が可能となる。
【0023】
この発明において、前記環状固定部材は、その筒部の開口側とは反対側の他端部における外周面を、前記出力軸側ハウジングの内周面に圧入させることで、出力軸側ハウジングに固定されていても良い。
この構成の場合も、固定部における孔加工、ねじ加工、ボルト締め工程をなくすことができ、低コスト化が可能となる。
【0024】
この発明において、前記環状固定部材は、その筒部の開口側とは反対側の他端部における外周面に突起を有し、この突起付きの外周面を前記出力軸側ハウジングの内周面に嵌合させることにより、環状固定部材が出力軸側ハウジングに固定されていても良い。
この構成の場合も、固定部における結合強度が向上し、固定部における孔加工、ねじ加工、ボルト締め工程をなくすことができ、低コスト化が可能となる。
【0025】
この発明において、前記波動発生器は、入力軸に連結されたカムと、このカムの外周に配置され前記環状弾性部材の内周面と接触する軸受とでなり、前記カムは、前記入力軸との連結部が前記軸受の中心より前記出力軸側に位置しており、前記軸受中心から前記連結部までの部分が円筒部とされていても良い。
このように、波動発生器のカムの入力軸との連結部を軸受の中心より出力軸側に位置させると、環状弾性部材の内側に波動発生器を挿入した組立体の状態における環状弾性部材の剛性が低下する。これにより、環状固定部材の低剛性化の場合と同様に、接触部の必要な接触力に対して締め代量を大きく取ることができ、許容摩擦量の確保が容易になり、摩耗耐久寿命を延ばすことができる。また、軸受の内側にカムを挿入し易くなる。入力軸の支持軸受の軸方向位置を出力軸側に位置させても、前記カムの円筒部により、波動発生器軸受を入力軸側に位置させることができるため、環状弾性部材を軸方向に長くできる。これにより環状弾性部材は低剛性となるため、より大きな変形に対応でき、低減速比が可能となる。
【0026】
この発明において、入力軸を支持する入力軸側ハウジングまたは前記出力軸側ハウジングは前記環状固定部材を覆う胴部を有し、この胴部には窓が形成されており、この窓と環状固定部材の筒部の開口端部との間となる軸方向位置において、前記いずれかのハウジングの胴部の内周面と環状固定部材の外周面との間にシールを介在させても良い。
この構成の場合、環状固定部材を覆う出力軸側ハウジングまたは入力軸側ハウジングの胴部に窓が形成されているので、窓による放熱効果で発熱を抑えることができる。また、前記窓と環状固定部材の筒部の開口端部との間となる軸方向位置において、前記いずれかのハウジングの胴部の内周面と、環状固定部材の筒部の外周面との間にシールを介在させているので、波動発生器の軸受部を含む内部を前記窓から遮断して密閉できる。
【0027】
この発明において、入力軸を支持する入力軸側ハウジングまたは前記出力軸側ハウジングは前記環状固定部材を覆う胴部を有し、この胴部には窓が形成されており、環状固定部材の筒部の開口端面とこの開口端面に対向する前記入力軸側ハウジングの対向面との間にシールを介在させても良い。
この構成の場合も、窓による放熱効果で発熱を抑えることができ、波動発生器の軸受部を含む内部を、シールにより前記窓から遮断して密閉できる。この場合、シールは、環状固定部材の筒部の開口端面とこの開口端面に対向する前記入力軸側ハウジングの対向面との間に介在させているので、変速機の外径をコンパクトにできる。
【0028】
また、前記入力軸側ハウジングまたは前記出力軸側ハウジングの胴部の断面形状、およびこの胴部の開口側端部とは反対側の端部のフランジ部の形状が多角形とされ、前記胴部の隣り合う角部の間の周方向位置に前記窓が形成されていても良い。
前記胴部の内周面は、環状固定部材を覆うため円形であり、このため多角形の前記胴部や前記フランジ部の角部には余裕のスペースがある。そこで、前記胴部の角部における開口側端面と、これに対向するハウジングのフランジ部の角部とを突き合わせ面として、両ハウジングをボルトで結合し、胴部の隣り合う角部の間の周方向位置に窓を形成することで、変速機の外径をコンパクトにできる。
【0029】
この発明において、前記環状固定部材は前記出力軸側ハウジングと一体に形成されていても良い。この構成の場合、部品点数を低減できるとともに、放熱効果により温度を下げられ、焼きつき等の発生を抑えることができる。
【0030】
この発明の摩擦伝動式波動変速機の組立方法は、この発明の前記いずれかの構成の摩擦伝動式波動変速機の組立方法であって、前記環状弾性部材の内側に前記波動発生器を挿入した組立体を前記環状固定部材の内側に挿入する際、環状固定部材の筒部を外周側から加圧して内周面形状を断面楕円形状に変形させ、その楕円形状の長径部となる周方向位置が前記組立体の長径部となる周方向位置と合う状態で前記挿入を行うことを特徴とする。
【0031】
この組立方法によれば、初期締め代量によらず圧入することなく定位置に組立体を挿入することができるので、圧入の場合のかじりなどによる波動発生器の軸受内部の傷や、挿入後姿勢の倒れなどの発生を無くすことができ、組立が容易になる。
【発明の効果】
【0032】
この発明の摩擦伝動式波動変速機は、円形の内周面の筒部を有する環状固定部材と、この環状固定部材の内側に配置され、環状固定部材の内周面に対して外接可能な外周面を有する環状弾性部材と、この環状弾性部材の内側に配置され、環状弾性部材を半径方向の外方に撓めて、環状弾性部材の外周面を周方向の複数箇所の部分で前記環状固定部材の内周面に接触させ、これらの接触部を周方向に移動させ接触部での摩擦でトルク伝達する波動発生器とを備え、前記波動発生器はその周上において前記接触部が生じるように配置された摩擦伝動式波動変速機において、前記環状弾性部材はその軸方向の一端部が開口した薄肉円筒状であり、この開口側から前記波動発生器が挿入され、環状弾性部材の軸方向の他端部は出力軸に連結されており、前記環状固定部材は軸方向の一端部が開口した円筒状であり、その軸方向の他端部は、前記環状弾性部材外周面との接触部から軸方向に離れた位置で、前記出力軸を支持する出力軸側ハウジングに固定され、この環状固定部材の内径が、前記波動発生器が内側に挿入された前記環状弾性部材の最大外径より小さくされているので、回転抵抗を増大させたり、減速比の範囲を狭くすることなく、摩耗耐久性を確保して比較的高い動力伝達を行うことができ、かつコンパクトで低コストな摩擦伝動式波動変速機とすることができる。
この発明の摩擦伝動式波動変速機の組立方法は、前記発明の摩擦伝動式波動変速機の組立方法であって、前記環状弾性部材の内側に前記波動発生器を挿入した組立体を前記環状固定部材の内側に挿入する際、環状固定部材の筒部を外周側から加圧して断面楕円形状に変形させ、その楕円形状の長径部となる周方向位置が前記組立体の長径部となる周方向位置と合う状態で前記挿入を行う方法としたため、初期締め代量によらず圧入することなく定位置に組立体を挿入することができ、圧入の場合のかじりなどによる波動発生器の軸受内部の傷や、挿入後姿勢の倒れなどの発生を無くすことができ、組立が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明の一実施形態にかかる摩擦伝動式波動変速機の縦断面図である。
【図2】同摩擦伝動式波動変速機の右側面図である。
【図3】同摩擦伝動式波動変速機における波動発生器と環状弾性部材の組立体を示す横断面図である。
【図4】同摩擦伝動式波動変速機における環状固定部材の縦断面図である。
【図5】同環状固定部材の左側面図である。
【図6】同摩擦伝動式波動変速機における環状弾性部材の縦断面図である。
【図7】同環状弾性部材の右側面図である。
【図8】同摩擦伝動式波動変速機における出力軸側ハウジングの縦断面図である。
【図9】同出力軸側ハウジングの右側面図である。
【図10】同摩擦伝動式波動変速機における入力軸側ハウジングの縦断面図である。
【図11】同入力軸側ハウジングの右側面図である。
【図12】この発明の他の実施形態にかかる摩擦伝動式波動変速機の半部縦断面図である。
【図13】この発明のさらに他の実施形態にかかる摩擦伝動式波動変速機の半部縦断面図である。
【図14】この発明のさらに他の実施形態にかかる摩擦伝動式波動変速機の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
この発明の一実施形態を図1ないし図11と共に説明する。図1はこの実施形態の摩擦伝動式波動変速機の縦断面図を示し、図2はその右側面図を示す。この摩擦伝動式波動変速機は、円形の内周面の筒部1aを有する環状固定部材1と、この環状固定部材1の内側に配置され環状固定部材1の内周面に対して外接可能な外周面を有する環状弾性部材2と、この環状弾性部材2の内側に配置された波動発生器3とを備える。波動発生器3は、環状弾性部材2を半径方向の外側に撓めて、環状弾性部材2の外周面を周方向の複数箇所(ここでは2箇所)の接触部2aa(図3)で前記環状固定部材1の内周面に接触させ、これらの接触部2aaを波動発生器3の回転に伴い周方向に移動させて接触部2aaでの摩擦でトルク伝達するものである。波動発生器3は、その周上において前記接触部2aaが生じるように配置される。
【0035】
環状弾性部材2は、その軸方向の一端部が開口したカップ状をなす薄肉円筒形であり、環状固定部材1の内側にこれと同心に配置される。この環状弾性部材2の薄肉円筒部2aの開口側から前記波動発生器3が挿入される。図6はこの環状弾性部材2の縦断面図を示し、図7はその右側面図を示す。環状弾性部材2の軸方向の他端部は、前記薄肉円筒部2aから内径側に延びるフランジ部2bとされ、そのフランジ部2bの内周部が出力軸7に形成されたハブ7aにボルト10で連結される。環状弾性部材2における前記フランジ部2bの内周部には、前記ボルト10を挿通するボルト挿通孔17(図6,図7)が形成されている。環状弾性部材2はプレス成形してなり、その薄肉円筒部2aの肉厚は、その開口側から出力軸7に連結される端部まで均一とされている。出力軸7は、複列の転がり軸受8を介して出力軸側ハウジング11の支軸用円筒部11aの内周に回転自在に支持されている。出力軸側ハウジング11の支軸用円筒部11aの内周の前記転がり軸受8より外側の軸方向位置には、シール26が設けられている。出力軸7は出力軸側ハウジング11の外側に突出して、図示しない被駆動部材の入力軸に連結される。
【0036】
環状固定部材1は、軸方向の一端部、つまり前記環状弾性部材2の薄肉円筒部2aの開口側に対応する端部が開口した円筒状の筒部1aと、内向きフランジ1bとでなる。図4はこの環状固定部材1の縦断面図を示し、図5はその左側面図を示す。この環状固定部材1は、その筒部1aの軸方向の他端部、つまり環状弾性部材2の外周面との接触部から軸方向に離れた位置となる出力軸7側の端部が、内径側に延びる内向きフランジ部1bとされ、この内向きフランジ部1bが前記出力軸側ハウジング11にボルト12により固定されている。すなわち、環状固定部材1は、開口側を自由端とする片持ち状態で出力軸側ハウジング11に固定されている。具体的には、出力軸側ハウジング11における支軸用円筒部11aには、外径側に延びる正面形状が多角形(ここでは四角形)のフランジ部11cが形成され、このフランジ部11cに環状固定部材1における内向きフランジ部1bがボルト12により固定されている。出力軸側ハウジング11には、前記フランジ部11cの外周部からさらに軸方向に延びて環状固定部材1を覆う胴部11dが形成されている。胴部11dは、外周面の形状が、フランジ部11cの側面形状と同じ多角形の角柱状であって、この例では四角柱状とされ、内周面の形状が円柱状である。
【0037】
環状固定部材1の筒部1aの軸方向長さは、環状弾性部材2の薄肉円筒部2aの軸方向長さより長くされている。また、環状固定部材1における筒部1aと、環状固定部材1における前記出力軸側ハウジング11に固定される固定部である内向きフランジ部1bとの境界には、前記筒部1aより肉厚の薄い薄肉部分1cが形成されている。
【0038】
図8は前記出力軸側ハウジング11の縦断面図を示し、図9はその右側面図を示す。なお、図8は、図9におけるVIII− VIII 矢視断面図を示す。出力軸側ハウジング11のフランジ部11cにおける内周部には、環状固定部材1を連結する前記ボルト12用の複数のボルト挿通孔13が設けられる。また、出力軸側ハウジング11のフランジ部11cの各角部には、この出力軸側ハウジング11に後述する入力軸側ハウジング6を連結するためのボルト挿通孔14がそれぞれ設けられている。
【0039】
波動発生器3は、カム4と、このカム4の外周に配置されて前記環状弾性部材2の内周面と接触する転がり軸受5とでなる。図3は、環状弾性部材2の内側に波動発生器3を挿入してなる組立体の横断面図を示す。ここでは、転がり軸受5として、内輪31、外輪32、転動体であるボール33、および保持器34からなる玉軸受が用いられる。この転がり軸受5の内輪31の内径面にカム4が嵌合状態に挿入される。内輪31の内径面の周長とカム4の外周面の周長とは一致する。
【0040】
波動発生器3の外形は、前記環状弾性部材2の外周面の前記環状固定部材1の内周面と接触する接触部2aaが、環状固定部材1の内周面の内径と略同一の外径の円弧部となるように形成される。換言すると、環状弾性部材2の内側に波動発生器3を挿入してなる組立体の横断面図を示す図3の状態で、環状弾性部材2の外周面の周角α(α=10°)の範囲の部分である前記接触部2aaを円弧部としている。環状固定部材1の筒部1aの内径は、前記波動発生器3が内側に挿入された図3の状態での前記環状弾性部材2の最長外径より小さく設定することで、締め代量(組立体の状態での環状弾性部材2の長径と環状固定部材1の内径との差分)が与えられている。ここでは、環状固定部材1の筒部1aの内径を60mmとし、締め代量は30μm〜80μmとしている。この締め代量の分が、環状固定部材1と環状弾性部材2とのトルク伝達部となる接触部の接触力となる。
【0041】
カム4には、その回転軸心であるカム中心O1を貫通する入力軸21が設けられ、その一端は環状固定部材1の筒部1a内から出力軸7とは反対側に向けて外側に突出している。この入力軸21は、カム4に形成された内向きのフランジ部4bから、入力軸21の中間部に形成されたハブ21aに向けて軸方向に挿通されたボルト25により、カム4に連結されている。入力軸21の出力軸7側に向く一端部は、転がり軸受23を介して出力軸7のハブ7aの内周に回転自在に支持されている。入力軸21の他端部は、複列の転がり軸受24を介して入力軸側ハウジング6における支軸用円筒部6aの内周に回転自在に支持されている。入力軸側ハウジング6の支軸用円筒部11aの内周の前記転がり軸受24より外側の軸方向位置には、シール27が設けられている。
【0042】
入力軸側ハウジング6は、その支軸用円筒部6aから外径側に延びるフランジ部6bを有する断面L字状とされ、そのフランジ部6bの外周部が出力軸側ハウジング11に連結されている。図10に入力軸側ハウジング6の縦断面図を示し、図11にその右側面図を示す。入力軸側ハウジング6のフランジ部6bの正面形状は、図11のように出力軸側ハウジング11のフランジ部11c(図9)と同じ多角形(ここでは四角形)とされ、その出力軸7側を向く片面には、軸心と同心の嵌合用円筒部6cが形成され、この嵌合用円筒部6cの外周面に出力軸側ハウジング11の胴部11dの開口側の内周面が圧入される。また、入力軸側ハウジング6のフランジ部6bの各角部には、出力軸側ハウジング11のフランジ部11cの各角部に形成されたボルト挿通孔14に対応するボルト孔15がそれぞれ形成され、出力軸側ハウジング11のボルト挿通孔14に挿通したボルト16を入力軸側ハウジング6のボルト孔15に螺合することにより、入力軸側ハウジング6が出力軸側ハウジング11に連結される。入力軸21は、例えば図示しないモータの出力軸に連結される。
【0043】
この摩擦伝動式波動変速機の組立においては、環状弾性部材2の内側に波動発生器3を挿入してなる図3に示す組立体を環状固定部材1の内側に挿入する際、環状固定部材1の筒部1aを外周側から加圧して断面楕円形状に変形させ、その楕円形状の長径部となる周方向位置が前記組立体の長径部となる周方向位置と合う状態で、前記挿入を行う。
【0044】
このように構成された摩擦伝動式波動変速機では、波動発生器3が高速回転すると、波動発生器3によって半径方向の外方に撓められた環状弾性部材2の外周面の部分と、環状固定部材1の内周面とが接触する2箇所の接触部分が周方向に移動する。その結果、環状固定部材1の内周面の円周と環状弾性部材2の外周面の円周の差に応じた相対回転が、環状固定部材1と環状弾性部材2との間に発生し、その相対回転が減速出力回転として前記出力軸7から被駆動部材の側に伝達される。
【0045】
摩擦伝動式波動変速機では、一般的な歯車式波動減速機に比べてトルク容量が低い。また、歯車式では、歯飛び現象回避のため固定部材の高剛性化が必須となるが、摩擦式ではトルク容量が低く歯が無いため歯飛びの心配も無いので、前記環状固定部材1の剛性を低下させる余地がある。この点に着目して、この摩擦伝動式波動変速機では、環状固定部材1の内径が、波動発生器3を内側に挿入した状態での前記環状弾性部材2の最大外径よりも小さくされていて、この締め代量の分が、環状固定部材1と環状弾性部材2とのトルク伝達部となる接触部の接触力となる。環状固定部材1は、その軸方向の一端部が開口した円筒状であり、その軸方向の他端部は、環状弾性部材2の外周面との接触部から軸方向に離れた位置で、出力軸7を支持する出力軸側ハウジング11に固定された片持ち状態の支持構造であるため、前記接触力の反力により弾性変形する。このため、接触部の面圧が低くなるため、回転抵抗の増大及び、接触部の摩耗量が抑えられ、これにより摩耗耐久寿命を延ばすことができる。最小必要伝達トルクと回転抵抗の増大及び摩耗耐久寿命から接触力の範囲が決まるが、低剛性化した環状固定部材により接触力を付与することで、接触力に対応する締め代量の範囲が大きくなり、それにより摩耗寿命を確保できる締め代量の設定が容易となる。
環状固定部材1の低剛性化は、環状固定部材1の薄肉化となり、変速機の外径をコンパクトにし、また低コスト化となる。
以上の接触部の接触力付与方法は、環状弾性部材2も薄肉形状でよくまた低剛性となるため、このことからも回転抵抗の増大は抑えられるとともに、減速比の範囲もより変形の大きい減速比の小さい範囲に拡げることができる。
【0046】
また、環状弾性部材2はその軸方向の一端部が開口した薄肉円筒状であり、この開口側から波動発生器3が挿入され、環状弾性部材2の他端部は出力軸7に連結されている。すなわち、環状固定部材1の開口側と固定側の方向は、環状弾性部材2の開口側と固定側の方向と一致している。このことから、環状固定部材1と環状弾性部材2は同じ開口側での変形となり同じ方向に若干のテーパ形状となり、従来の高剛性の環状固定部材に比べ偏当たりが緩和されて摩耗量が減り、この点でも摩耗耐久寿命を延ばすことができる。
【0047】
また、この摩擦伝動式波動変速機の組立においては、環状弾性部材2の内側に波動発生器3を挿入してなる図3に示す組立体を環状固定部材1の内側に挿入する際、環状固定部材1の筒部1aを外周側から加圧して断面楕円形状に変形させ、その楕円形状の長径部となる周方向位置が前記組立体の長径部となる周方向位置と合う状態で前記挿入を行うので、初期締め代量によらず圧入することなく定位置に組立体を挿入することができる。このように、この組立方法によれば、圧入の場合のかじりなどによる波動発生器3の軸受内部の傷や、挿入後姿勢の倒れなどの発生を無くすことができる。
【0048】
また、この実施形態では、内側に前記波動発生器3が挿入された前記環状弾性部材2の外周面の前記接触部2aaとなる部分を、その外径が前記環状固定部材1の内径と略同一の円弧径となる円弧部としているので、環状弾性部材2の外周面と環状固定部材1の内周面との接触が、従来例のような楕円形状による線接触から円筒面による面接触となり、それだけ接触面積が増大する。その結果、同じ面圧、同じ摩擦係数の場合でも、カム4の外周形状を楕円形とした従来の摩擦伝動式波動変速機に比べて摩擦力が大きくなり、伝達許容トルクを大幅に向上させることができる。また、上記したように、環状固定部材1についても、環状弾性部材2と同方向のテーパ形状の変形となることで接触面積が増大し、偏当たり緩和により接触部が拡大したことと相まって、伝達許容トルクをさらに向上させることができる。
【0049】
また、この実施形態では、前記環状固定部材1の筒部1aの軸方向長さを、前記環状弾性部材2の薄肉円筒部2aの軸方向長さより長くしているので、環状固定部材1の剛性が低下し、より大きな締め代量(環状固定部材1の内径と組立体の状態での環状弾性部材2の最長外径との差)に対応でき、耐摩耗寿命が延びるとともに、締め代設定が容易となる。また、環状固定部材1の筒部1aでの環状弾性部材2との接触部において、テーパ形状変形がさらに環状弾性部材2のテーパ形状変形に近くなるので、偏当たりを抑制することができる。また、環状固定部材1の出力軸側ハウジング11への固定部を、筒部1aより小径にすることができ、それだけ変速機の外径をコンパクトにできる。
【0050】
また、この実施形態では、前記環状固定部材1における筒部1aと、環状固定部材1における前記出力軸側ハウジング11に固定される内向きフランジ部1bとの境界に、前記筒部1aより肉厚の薄い薄肉部分1cを形成しているので、環状固定部材1の剛性が低下し、より大きな締め代量(環状固定部材1の内径と組立体の状態での環状弾性部材2の最長外径との差)に対応でき、耐摩耗寿命が延びるとともに、締め代設定が容易となる。
【0051】
また、この摩擦伝動式波動変速機では、前記環状弾性部材2をプレス成形しており、その薄肉円筒部2aの肉厚をその開口側から前記出力軸7に連結される端部まで均一としているので、環状弾性部材2の薄肉円筒部2aに外径変化がなく、環状固定部材1との接触部の境が徐々に離れることでエッジロードが緩和され、繰り返し変形寿命が延びる。ここで、環状固定部材1についても接触部近傍の内周面に段差がなければ、さらに接触部の境は徐々に変化する。また、薄肉円筒部2aに外径,内径、肉厚変化がないため、プレス成形が容易で高い加工精度を確保できる。
【0052】
図12は、この発明の他の実施形態を示す。この摩擦伝動式波動変速機では、図1〜図11に示す実施形態において、出力軸側ハウジング11の支軸用円筒部11aにおけるフランジ部11cの立ち上がり位置から環状弾性部材2に近接した軸方向位置に、環状弾性部材2側に向けて突出するハブ11bが形成され、環状固定部材1は、その内向きフランジ部1bの内周面を前記ハブ11bの外周面に圧入することで出力軸側ハウジング11に固定される。図1〜図11の実施形態におけるボルト12による固定は省略される。
【0053】
また、環状固定部材1を覆う出力軸側ハウジング11の胴部11dには、窓19が形成される。胴部11dは内周が環状固定部材1の外周に沿った円形とされ、外周が多角形(ここでは四角形)とされているので、窓19は胴部11dにおける隣り合う角部の間の周方向位置に形成される。また、前記窓19と環状固定部材1の筒部1aの開口端部との間となる軸方向位置において、入力軸側ハウジング6における嵌合用円筒部6cの内周面と、環状固定部材1の筒部1aの外周面との間にOリングなどからなるシール20を介在させている。その他の構成は図1〜図11の実施形態の場合と同様である。
【0054】
このように、この実施形態では、環状固定部材1の筒部1aの開口側とは反対側の端部であるフランジ部1bの内周面を、出力軸側ハウジング11におけるハブ11bの外周面に圧入することで、環状固定部材1が出力軸側ハウジング11に固定されているので、固定部における孔加工、ねじ加工、ボルト締め工程をなくすことができ、低コスト化が可能となる。
【0055】
また、環状固定部材1を覆う出力軸側ハウジング11の胴部11dに窓19が形成されているので、窓19による放熱効果で発熱を抑えることができる。また、前記窓19と環状固定部材1の筒部1aの開口端部との間となる軸方向位置において、入力軸側ハウジング6における嵌合用円筒部6cの内周面と、環状固定部材1の筒部1aの外周面との間にOリングなどからなるシール20を介在させているので、波動発生器3の転がり軸受5を含む内部を窓19から遮断して密閉できる。
【0056】
図1〜図11の実施形態でも説明したように、出力軸側ハウジング11の胴部11dの断面形状、この胴部11dの開口側端部とは反対側の端部のフランジ部11cの形状、および入力軸側ハウジング6のフランジ部6bの形状は多角形とされている。出力軸側ハウジング11の胴部11dの内周面は、環状固定部材1を覆うため円形であり、このため多角形の前記胴部11dや前記フランジ部11c,6bの角部には余裕のスペースがある。そこで、出力軸側ハウジング11の胴部11dの角部における開口側端面と、入力軸側ハウジング6のフランジ部6bの角部とを突き合わせ面として、両ハウジング6,11をボルト16で結合し、この実施形態のように胴部11dの隣り合う角部の間の周方向位置に窓19を形成することで、変速機の外径をコンパクトにできる。
【0057】
図13は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この摩擦伝動式波動変速機では、図1〜図11に示す実施形態において、環状固定部材1の筒部1aの出力軸7側を向く端部に、外径側に張り出す外向きフランジ部1dが形成されており、さらにこの外向きフランジ部1dの外周面には突起1daが形成されている。この外向きフランジ部1dの突起付き外周面を、出力軸側ハウジング11の胴部11dの内周面に嵌合させることにより、環状固定部材1が出力軸側ハウジング11に固定される。環状固定部材1における円筒部11aと出力軸側ハウジング11への固定部となる前記外向きフランジ部1dとの境界に、筒部1aより肉厚の薄い薄肉部分1cが形成されることは、図1〜図11の実施形態の場合と略同様である。また、出力軸側ハウジング11の胴部11dに窓19が形成されること、および入力軸側ハウシング6における嵌合用円筒部6cの内周面と環状固定部材1における筒部1aの外周面との間にシール20を介在させることは、図12の実施形態の場合と同様である。その他の構成は図1〜図11の実施形態の場合と同様である。
【0058】
このように、この実施形態では、環状固定部材1の筒部1aの開口側とは反対側の端部である外向きフランジ部1dの突起付き外周面を、出力軸側ハウジング11における胴部11dの内周面に嵌合させることで、環状固定部材1が出力軸側ハウジング11に固定されているので、固定部における結合強度が向上する。また、この場合も、固定部における孔加工、ねじ加工、ボルト締め工程をなくすことができ、低コスト化が可能となる。
【0059】
なお、この実施形態において、環状固定部材1における外向きフランジ部1dの突起1daを省略して、その外向きフランジ部1dの外周面を出力軸側ハウジング11の胴部111dの内周面に圧入することで、環状固定部材1を出力軸側ハウジング11に固定するようにしても良い。この場合にも、固定部における孔加工、ねじ加工、ボルト締め工程をなくすことができ、低コスト化が可能となる。
【0060】
また、図12の実施形態において、この実施形態の場合と同様に、環状固定部材1の内向きフランジ部1bの内周面に突起を形成し、この突起付き内周面を出力軸側ハウジング11のハブ11bの外周面に嵌合させることで、環状固定部材1を出力軸側ハウジング11に固定するようにしても良い。この場合にも、固定部における結合強度が向上し、固定部における孔加工、ねじ加工、ボルト締め工程をなくすことができ、低コスト化が可能となる。
【0061】
図14は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この摩擦伝動式波動変速機では、図1〜図11に示す実施形態において、環状固定部材1を出力軸側ハウジング11と一体に形成している。具体的には、環状固定部材1に、出力軸側ハウジング11の支軸用円筒部11aとフランジ部11cとを一体に設けている。出力軸側ハウジング11の胴部11dは省略されている。また、環状固定部材1の筒部1aの開口端面と、この開口端面に対向する入力軸側ハウジング6の対向面であるフランジ部6bの片面との間にOリングなどからなるシール20が介在させてある。筒部1aは円筒状である。
入力軸側ハウジング6は、フランジ部6bが多角形状(図示の例では四角形状)に形成されていて、外周縁の各角部から軸方向に延びる柱状部6dが設けられている。図示の例では4本の柱状部6dが設けられている。これら柱状部6dは、互いに櫛歯状を成し、先端が出力軸側ハウシンジング11のフランジ部11cの内面に突き当てて結合されていて、隣合う柱状部6d間の部分が窓19Aとなる。各柱状部6dの内周面は、環状固定部材1の筒部1aの外周に嵌合する部分的な円筒面に形成されている。
【0062】
さらに、波動発生器3のカム4は、転がり軸受5の配置される位置から出力軸7側に延びる円筒部4aと、この円筒部4aから内径側に延びるフランジ部4bとでなる断面L字状に形成され、そのフランジ部4bが入力軸21のハブ21aにボルト25で連結されている。つまり、カム4は、入力軸21との連結部が転がり軸受5の中心より出力軸7側に位置している。なお、環状弾性部材2は、薄板から成型されたプレス加工品で、フランジ部2bの内周部は、出力軸7に形成されたハブ7aと、この出力軸7と同心に環状弾性部材2の外側に配置された環状部材9とで挟まれて、これらの部材を軸方向に貫通するボルト10により出力軸7に連結されている。その他の構成は図1〜図11に示す実施形態の場合と略同様である。
【0063】
このように、この実施形態では、環状固定部材1を出力軸側ハウジング11と一体に形成しているので、部品点数を低減できるとともに、放熱効果により温度を下げられ、焼きつき等の発生を抑えることができる。
【0064】
また、環状固定部材1の筒部1aの開口端面と、この開口端面に対向する入力軸側ハウジング6の対向面であるフランジ部6bの片面との間にOリングなどからなるシール20を介在させているので、波動発生器3の転がり軸受5を含む内部をシール20により密封できる。この場合、シール20は、環状固定部材1の筒部1aの開口端面と、この開口端面に対向する入力軸側ハウジング6の対向面との間に介在させているので、変速機の外径をコンパクトにできる。
【0065】
また、波動発生器3のカム4は、入力軸21との連結部を転がり軸受5の中心より出力軸7側に位置させているので、環状弾性部材2の内側に波動発生器3を挿入した組立体の状態における環状弾性部材2の剛性が低下する。これにより、環状固定部材1の低剛性化の場合と同様に、接触部の許容面圧に対して締め代量を大きく取ることができ、許容摩擦量の確保が容易になり、摩耗耐久寿命を延ばすことができる。また、転がり軸受5の内側にカム4を挿入し易くなる。環状弾性部材2は軸方向に長く低剛性であり、より大きな変形に対応でき、低減速比が可能となる。
【0066】
なお、上記した各実施形態では、出力軸側ハウジング11に環状固定部材1を覆う胴部11dを形成し、この胴部11dに窓19を設けるなどの構成としたが、これに代えて入力軸側ハウジング6のフランジ部6bの外周部に同様の胴部を形成しても良い。この場合、図12や図13の実施形態におけるシール20は、前記入力軸側ハウジング6の胴部の内周面と環状固定部材1の筒部1aの外周面との間に介在させることになる。また、入力軸側ハウジング6の胴部に形成する窓は、その胴部の開口端側から軸方向に延びる櫛歯状のものとしても良い。
【符号の説明】
【0067】
1…環状固定部材
1a…筒部
1c…薄肉部分
1da…突起
2…環状弾性部材
2a…薄肉円筒部
2aa…接触部
3…波動発生器
4…カム
5…転がり軸受
6…入力軸側ハウジング
7…出力軸
11…出力軸側ハウジング
11d…胴部
19…窓
20…シール
21…入力軸
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形の内周面の筒部を有する環状固定部材と、この環状固定部材の内側に配置され、環状固定部材の内周面に対して外接可能な外周面を有する環状弾性部材と、この環状弾性部材の内側に配置され、環状弾性部材を半径方向の外方に撓めて、環状弾性部材の外周面を周方向の複数箇所の部分で前記環状固定部材の内周面に接触させ、これらの接触部を周方向に移動させ接触部での摩擦でトルク伝達する波動発生器とを備え、前記波動発生器はその周上において前記接触部が生じるように配置された摩擦伝動式波動変速機において、
前記環状弾性部材はその軸方向の一端部が開口した薄肉円筒状であり、この開口側から前記波動発生器が挿入され、環状弾性部材の軸方向の他端部は出力軸に連結されており、前記環状固定部材は軸方向の一端部が開口した円筒状であり、その軸方向の他端部は、前記環状弾性部材外周面との接触部から軸方向に離れた位置で、前記出力軸を支持する出力軸側ハウジングに固定され、この環状固定部材の内径が、前記波動発生器が内側に挿入された前記環状弾性部材の最大外径より小さくされていることを特徴とする摩擦伝動式波動変速機。
【請求項2】
請求項1において、内側に前記波動発生器が挿入された前記環状弾性部材の外周面の前記接触部となる部分は、その外径が前記環状固定部材の内周面の内径と略同一の円弧径となる円弧部を有している摩擦伝動式波動変速機。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記環状固定部材の前記筒部の軸方向長さを、前記環状弾性部材の薄肉円筒部の軸方向長さより長くした摩擦伝動式波動変速機。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記環状固定部材における筒部と、環状固定部材における前記出力軸側ハウジングに固定される固定部との境界に、前記筒部より肉厚の薄い薄肉部分を設けた摩擦伝動式波動変速機。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記環状弾性部材はプレス成形してなり、その前記薄肉円筒部の肉厚をその開口側から前記出力軸に連結される端部まで均一とした摩擦伝動式波動変速機。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記環状固定部材は、その筒部の開口側とは反対側の他端部における内周面を、前記出力軸側ハウジングの外周面に圧入させることで出力軸側ハウジングに固定されている摩擦伝動式波動変速機。
【請求項7】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記環状固定部材は、その筒部の開口側とは反対側の他端部における内周面に突起を有し、この突起付きの内周面を、前記出力軸側ハウジングの外周面に嵌合させることにより、環状固定部材が出力軸側ハウジングに固定されている摩擦伝動式波動変速機。
【請求項8】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記環状固定部材は、その筒部の開口側とは反対側の他端部における外周面を、前記出力軸側ハウジングの内周面に圧入させることで出力軸側ハウジングに固定されている摩擦伝動式波動変速機。
【請求項9】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記環状固定部材は、その筒部の開口側とは反対側の他端部における外周面に突起を有し、この突起付きの外周面を前記出力軸側ハウジングの内周面に嵌合させることにより、環状固定部材が出力軸側ハウジングに固定されている摩擦伝動式波動変速機。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記波動発生器は、入力軸に連結されたカムと、このカムの外周に配置され前記環状弾性部材の内周面と接触する軸受とでなり、前記カムは、前記入力軸との連結部が前記軸受の中心より前記出力軸側に位置しており、前記軸受中心から前記連結部までの部分が円筒部とされている摩擦伝動式波動変速機。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、入力軸を支持する入力軸側ハウジングまたは前記出力軸側ハウジングは前記環状固定部材を覆う胴部を有し、この胴部には窓が形成されており、この窓と環状固定部材の筒部の開口端部との間となる軸方向位置において、前記いずれかのハウジングの胴部の内周面と環状固定部材の外周面との間にシールを介在させた摩擦伝動式波動変速機。
【請求項12】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、入力軸を支持する入力軸側ハウジングまたは前記出力軸側ハウジングは前記環状固定部材を覆う胴部を有し、この胴部には窓が形成されており、環状固定部材の筒部の開口端面とこの開口端面に対向する前記入力軸側ハウジングの対向面との間にシールを介在させた摩擦伝動式波動変速機。
【請求項13】
請求項11または請求項12において、前記入力軸側ハウジングまたは前記出力軸側ハウジングの胴部の断面形状、およびこの胴部の開口側端部とは反対側の端部のフランジ部の形状が多角形とされ、前記胴部の隣り合う角部の間の周方向位置に前記窓が形成されている摩擦伝動式波動変速機。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれか1項において、前記環状固定部材は前記出力軸側ハウジングと一体に形成されている摩擦伝動式波動変速機。
【請求項15】
請求項1ないし請求項14のいずれか1項に記載の摩擦伝動式波動変速機の組立方法であって、前記環状弾性部材の内側に前記波動発生器を挿入した組立体を前記環状固定部材の内側に挿入する際、環状固定部材の筒部を外周側から加圧して内周面形状を断面楕円形状に変形させ、その楕円形状の長径部となる周方向位置が前記組立体の長径部となる周方向位置と合う状態で前記挿入を行うことを特徴とする摩擦伝動式波動変速機の組立方法。
【請求項1】
円形の内周面の筒部を有する環状固定部材と、この環状固定部材の内側に配置され、環状固定部材の内周面に対して外接可能な外周面を有する環状弾性部材と、この環状弾性部材の内側に配置され、環状弾性部材を半径方向の外方に撓めて、環状弾性部材の外周面を周方向の複数箇所の部分で前記環状固定部材の内周面に接触させ、これらの接触部を周方向に移動させ接触部での摩擦でトルク伝達する波動発生器とを備え、前記波動発生器はその周上において前記接触部が生じるように配置された摩擦伝動式波動変速機において、
前記環状弾性部材はその軸方向の一端部が開口した薄肉円筒状であり、この開口側から前記波動発生器が挿入され、環状弾性部材の軸方向の他端部は出力軸に連結されており、前記環状固定部材は軸方向の一端部が開口した円筒状であり、その軸方向の他端部は、前記環状弾性部材外周面との接触部から軸方向に離れた位置で、前記出力軸を支持する出力軸側ハウジングに固定され、この環状固定部材の内径が、前記波動発生器が内側に挿入された前記環状弾性部材の最大外径より小さくされていることを特徴とする摩擦伝動式波動変速機。
【請求項2】
請求項1において、内側に前記波動発生器が挿入された前記環状弾性部材の外周面の前記接触部となる部分は、その外径が前記環状固定部材の内周面の内径と略同一の円弧径となる円弧部を有している摩擦伝動式波動変速機。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記環状固定部材の前記筒部の軸方向長さを、前記環状弾性部材の薄肉円筒部の軸方向長さより長くした摩擦伝動式波動変速機。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記環状固定部材における筒部と、環状固定部材における前記出力軸側ハウジングに固定される固定部との境界に、前記筒部より肉厚の薄い薄肉部分を設けた摩擦伝動式波動変速機。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記環状弾性部材はプレス成形してなり、その前記薄肉円筒部の肉厚をその開口側から前記出力軸に連結される端部まで均一とした摩擦伝動式波動変速機。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記環状固定部材は、その筒部の開口側とは反対側の他端部における内周面を、前記出力軸側ハウジングの外周面に圧入させることで出力軸側ハウジングに固定されている摩擦伝動式波動変速機。
【請求項7】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記環状固定部材は、その筒部の開口側とは反対側の他端部における内周面に突起を有し、この突起付きの内周面を、前記出力軸側ハウジングの外周面に嵌合させることにより、環状固定部材が出力軸側ハウジングに固定されている摩擦伝動式波動変速機。
【請求項8】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記環状固定部材は、その筒部の開口側とは反対側の他端部における外周面を、前記出力軸側ハウジングの内周面に圧入させることで出力軸側ハウジングに固定されている摩擦伝動式波動変速機。
【請求項9】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記環状固定部材は、その筒部の開口側とは反対側の他端部における外周面に突起を有し、この突起付きの外周面を前記出力軸側ハウジングの内周面に嵌合させることにより、環状固定部材が出力軸側ハウジングに固定されている摩擦伝動式波動変速機。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記波動発生器は、入力軸に連結されたカムと、このカムの外周に配置され前記環状弾性部材の内周面と接触する軸受とでなり、前記カムは、前記入力軸との連結部が前記軸受の中心より前記出力軸側に位置しており、前記軸受中心から前記連結部までの部分が円筒部とされている摩擦伝動式波動変速機。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、入力軸を支持する入力軸側ハウジングまたは前記出力軸側ハウジングは前記環状固定部材を覆う胴部を有し、この胴部には窓が形成されており、この窓と環状固定部材の筒部の開口端部との間となる軸方向位置において、前記いずれかのハウジングの胴部の内周面と環状固定部材の外周面との間にシールを介在させた摩擦伝動式波動変速機。
【請求項12】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、入力軸を支持する入力軸側ハウジングまたは前記出力軸側ハウジングは前記環状固定部材を覆う胴部を有し、この胴部には窓が形成されており、環状固定部材の筒部の開口端面とこの開口端面に対向する前記入力軸側ハウジングの対向面との間にシールを介在させた摩擦伝動式波動変速機。
【請求項13】
請求項11または請求項12において、前記入力軸側ハウジングまたは前記出力軸側ハウジングの胴部の断面形状、およびこの胴部の開口側端部とは反対側の端部のフランジ部の形状が多角形とされ、前記胴部の隣り合う角部の間の周方向位置に前記窓が形成されている摩擦伝動式波動変速機。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれか1項において、前記環状固定部材は前記出力軸側ハウジングと一体に形成されている摩擦伝動式波動変速機。
【請求項15】
請求項1ないし請求項14のいずれか1項に記載の摩擦伝動式波動変速機の組立方法であって、前記環状弾性部材の内側に前記波動発生器を挿入した組立体を前記環状固定部材の内側に挿入する際、環状固定部材の筒部を外周側から加圧して内周面形状を断面楕円形状に変形させ、その楕円形状の長径部となる周方向位置が前記組立体の長径部となる周方向位置と合う状態で前記挿入を行うことを特徴とする摩擦伝動式波動変速機の組立方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−87896(P2013−87896A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230290(P2011−230290)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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