説明

摩擦力を動的に変化させる抵抗アクチュエータ

回転ノブにおいて触覚効果を生じさせるためのシステムである。そのシステムは電気コイル及び磁心を備える。第1のレベルの電圧をコイルに印加して、第1の摩擦係数を有する第1の接触面を使用可能にし、その電圧を変化させることによって、第1の触覚効果を生じさせる。第2のレベルの電圧をコイルに印加して、第1の摩擦係数よりも大きな第2の摩擦係数を有する第2の接触面を使用可能にし、その電圧を変化させることによって、第2の触覚効果を生じさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は触覚フィードバックを対象とする。より詳細には、本発明の一実施形態は触覚フィードバックを有する回転ノブを対象とする。
【背景技術】
【0002】
電子デバイス製造業者は、ユーザのための優れたインターフェースを作り出そうと懸命に努力している。従来のデバイスは、視覚的及び聴覚的なキュー(cue)を用いて、ユーザへのフィードバックを提供する。インターフェースデバイスの中には、運動感覚フィードバック(作用力及び抵抗力フィードバックなど)及び/又は触知フィードバック(振動、感覚(texture)及び熱など)をユーザに与えるものもある。一般的に、それらのフィードバックはまとめて「触覚フィードバック」又は「触覚効果」として知られている。触覚フィードバックは、ユーザインターフェースをさらに良くし、且つ簡単にするキューを提供することができる。
【0003】
触覚フィードバックは、自由度のあるユーザインターフェースを作り出すために、回転ノブ、並びに機械スイッチ及びエンコーダのような他のタイプの電気機械デバイスにおいて実施されてきた。移動止め(detent)、障害(barrier)及び振動を含む多種多様の利用可能な触覚フィードバックが、ユーザに、使用性、設計及びコストに関する利益をもたらす。
【0004】
一般的に、触覚フィードバックは、モータを利用したアクチュエータシステム又は制動を利用したアクチュエータシステムを備える回転ノブにおいて生成される。モータを利用したアクチュエータシステムは、ユーザの動きに逆らう力、又はユーザの動きを補強する力を加える。しかしながら、モータは常にシステムにエネルギーを加えるので、システムが不安定になる可能性がある。さらに、モータを利用したアクチュエータシステムは、必要とされる量のトルクを生成するのに、比較的大きく、且つコストがかかるモータを必要とする。
【0005】
対照的に、制動を利用したアクチュエータシステムは、エネルギーを散逸し、摩擦を通してユーザの動きに抵抗する制動アクチュエータを用いる。制動を利用したアクチュエータシステムは、一般的に、モータを利用したアクチュエータシステムよりも小さく、且つ安価であり、システムからエネルギーを奪うので、不安定にならない。
【0006】
制動アクチュエータシステムを備える既知の回転ノブが抱える1つの問題は、2つの金属製の硬質デバイス間に磁気的な空隙が保持されなければならないことである。この空隙は典型的には厳しい精度条件内で保持されなければならないので、デバイスを製造するのにコストがかかり、且つ製造するのが難しくなる。さらに、制動アクチュエータを備える既知の回転ノブは典型的には1つのレベルの摩擦制動しか含まない。しかしながら、或る所望の触覚フィードバックは、複数のレベルの摩擦力を含む場合にさらに効果的である。
【0007】
上記の事柄に基づいて、改良された摩擦制動アクチュエータシステムが必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
一実施形態は、回転ノブにおいて触覚効果を生じさせるためのシステムである。そのシステムは電気コイル及び磁心を備える。第1のレベルの電圧をコイルに印加して、第1の摩擦係数を有する第1の接触面(surface interface)を使用可能にし、その電圧を変化させることによって、第1の触覚効果を生じさせる。第2のレベルの電圧をコイルに印加して、第1の摩擦係数よりも大きな第2の摩擦係数を有する第2の接触面を使用可能にし、その電圧を変化させることによって、第2の触覚効果を生じさせる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】一実施形態による回転ノブの斜視図である。
【図2】一実施形態による回転ノブの一部を切り取った斜視図である。
【図3】触覚効果を生じさせるときの一実施形態によるコントローラの機能のフロー図である。
【図4】別の実施形態による回転ノブの一部を切り取った斜視図である。
【図5】別の実施形態による回転ノブの一部を切り取った斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
一実施形態は、接触面を変更することによって摩擦力を動的に変化させる抵抗アクチュエータを有する回転ノブである。
【0011】
図1は、一実施形態による回転ノブ10の斜視図である。回転ノブ10は、ベース14と、回転シャフト12と、触覚コントローラ16とを備える。回転シャフト12は、ユーザが回転させることができるノブ又は他のデバイスに結合される場合がある。コントローラ16は、プロセッサと、プロセッサによって実行される命令を格納するメモリとを備える場合がある。コントローラ16は、ユーザが回転シャフト12を回転させるときに適用される触覚効果を生じさせる。コントローラ16は、図1に示されるようにベース14の外部に配置される場合があるか、又はベース14の内部に配置される場合がある。
【0012】
図2は、一実施形態による回転ノブ10の一部を切り取った斜視図である。ノブ10はシャフト12を備えており、シャフト12は回転円板26又は任意の他のタイプの回転要素に結合される。一実施形態において、円板26は、磁力に引き寄せられ得るニッケルめっき鋼(nickel-plated steel)又は任意の材料から形成される。円板26及びシャフト12は、ユーザがシャフト12を回転させるときに、軸Aを中心にして回転する。
【0013】
シャフト12の周囲には、磁心(magnetic core)24及び電磁コイル20がある。電磁コイル20は電源(図示せず)に結合され、電磁コイル20に電気が加えられるときに、磁心24が既知の態様で磁力を発生する。一実施形態では、電磁コイル20は銅コイルから形成され、磁心24は銅ボビンから形成される。しかしながら、コイル20及び磁心24は、電気が加わる際に磁力を発生させるようにする任意の他の材料から形成することができる。
【0014】
ワッシャ32又は他のタイプの分離要素が、ワッシャ32の内周リングに沿った部分33において、円板26に結合される。ワッシャ32の残りの部分は、円板26の内面を一周して形成される溝34にわたって延在する。ワッシャ32は、その外周が溝34内で前後に撓むのに応じてカンチレバー作用を通してばねとして機能することができるように可撓性である。一実施形態では、ワッシャ32は青銅から形成されるが、許容レベルの摩擦及び可撓性を与える任意の材料から形成することができる。
【0015】
摩擦リング18又は他のタイプの摩擦要素が磁心24に結合される。摩擦リング18は接触面42(「第1の接触面」)においてワッシャ32と接触し、摩擦を通してシャフト12の回転に制動作用を与える。第1のレベルの電気がコイル20に印加されるとき、円板26が磁心24に磁気的に引き寄せられるのに応じて、摩擦リング18と接触しているワッシャ32にかかる垂直抗力が大きくなる。リング18及びワッシャ32の接触によって形成される摩擦量は、相対的に低い摩擦係数を与え、第1のレベルの電気を印加する際に使用可能にされる/制御される。一実施形態において、摩擦リング18は、熱可塑性ポリマー、アセタール樹脂、又は所望の摩擦力及び耐摩耗性を与える任意の他の材料から形成される。
【0016】
摩擦リング18及びワッシャ32の接触エリアにおいて摩擦を与えることに加えて、撓んでいない状態のワッシャ32はさらに、円板26と磁心24との間に磁気回路空隙40を与える。
【0017】
第1のレベルの電気よりも高い第2のレベルの電気が磁心20に加えられるとき、磁心24と円板26との間の磁気引力がさらに増す。これにより、ワッシャ32は溝34の中に撓み、それにより最終的に、空隙40が閉じて、円板26が磁心24と接触できるようになる(「第2の接触面」)。一実施形態においていずれも金属表面である円板26及び磁心24の接触面における摩擦係数は、摩擦リング18及びワッシャ32の接触面における摩擦係数よりもはるかに高い。
【0018】
動作時に、第1又は第2のレベルの摩擦を使用し、各レベル内で摩擦量が変化できるように電圧レベルを変更して、触覚効果を生じさせることができる。たとえば、移動止めのような触覚効果は、空隙40を保持しながら、摩擦リング18及びワッシャ32の第1の接触面を通して生じさせることができる。空隙40のために、磁心24に印加される電圧の大きな変化が、トルクの小さな変化を引き起こすことになり、それは移動止め効果にとって理想的である。空隙40を保持する範囲内で電圧レベルを変化させることによって、複雑な触覚効果を生じさせることができる。
【0019】
磁心24に印加される電圧量を大きく増加させるとき、空隙40が閉じて、円板26が磁心24と接触し、それにより、大きく増加した第2のレベルの摩擦が生成される。このように摩擦量が大きくなると、障害物効果のような「強い」抵抗触覚効果を作り出すのに有用である。さらに、この第2の接触面の摩擦係数が高いほど、低い磁力で高いトルクを発生できるようになり、好都合である。電圧量が下げられるか、又は電圧が除去されるとき、ワッシャ32のばね作用によって、円板26及び磁心24が分離し、再び空隙40が形成される。さらに、第2の接触面が使用可能にされる時間中に、第1の接触面が使用可能にされる場合もある(すなわち、円板26及び磁心24が結合され、摩擦リング18及びワッシャ32が結合される)。しかしながら、第2の接触面は、第1の接触面よりもはるかに高い摩擦係数を有するので、第2の接触面が摩擦量を概ね決定するであろう。
【0020】
一実施形態では、高レベルパラメータに基づいて、コントローラ16が、どの触覚効果が実施されることになるか、そしてそれらの効果が実施される順序を決定する。一般的に、特定の触覚効果を規定する高レベルパラメータは、強度、周波数及び持続時間である。特定の触覚効果は、第1の接触面、第2の接触面、又は両方の接触面の任意の組み合わせによって発生する摩擦を伴う場合がある。図3は、触覚効果を生じさせるときの一実施形態によるコントローラ12の機能のフロー図である。図3の機能は、ハードウエア又はソフトウエアによって、或いはハードウエア又はソフトウエアの任意の組み合わせによって実施することができる。
【0021】
102では、触覚効果を生じさせるために必要とされる摩擦のレベルが決定される。必要とされるレベルは通常、具体的な触覚効果に基づく。たとえば、移動止め効果は、相対的に低いレベルの摩擦を必要とし、一方、障害物効果は、相対的に高いレベルの摩擦を必要とする。
【0022】
相対的に低いレベルの摩擦が必要とされる場合には、106において、空隙40を保持しながら、第1の接触面(すなわち、ワッシャ34及び摩擦リング18)を使用可能にする電圧量がコイル20に印加される。相対的に高いレベルの摩擦が必要とされる場合には、108において、第2の接触面(すなわち、円板26及び磁心24)を使用可能にし、且つ空隙40を閉じる電圧量がコイル20に印加される。第2の接触面が使用可能である間に、第1の接触面を使用可能にすることもできる。
【0023】
図4は、別の実施形態による回転ノブ50の一部を切り取った斜視図である。回転ノブ50において、円板56は溝を含まない。代わりに、摩擦リング18がワッシャ32と接触して第1の接触面を形成する場所の反対側において、ばね52が摩擦リング18に結合される。一実施形態では、ばね52は青銅ワッシャである。ばね52はさらにコイル20に結合され、カンチレバーばね作用を生み出す。コイル20に印加される電圧が十分なレベルを超えるとき、ばね52は、磁心24の表面54に向かって撓み、空隙40が閉じる。円板56及び磁心24の接触面は第2の接触面である。その他の点では、回転ノブ50は、ノブ10と同じように動作する。
【0024】
図5は、別の実施形態による回転ノブ70の一部を切り取った斜視図である。図5の実施形態において、カンチレバー構成を成すばね延長部75によって、摩擦要素76がコイル74に結合される。コイル74に第1のレベルの電圧が印加されるときに、摩擦要素76がワッシャ32と接触し、それにより第1の接触面を使用可能にする。コイル74に印加される電圧が十分なレベルを超えるとき、摩擦要素76が磁心24に向かって撓み、空隙40が閉じる。円板56及び磁心24の接触面は第2の接触面である。その他の点では、回転ノブ70は、ノブ10と同じように動作する。
【0025】
開示されたように、明らかに異なる2つの摩擦係数を作り出す少なくとも2つの接触面を使用することを通して、実施形態が変更され、且つさらに効率的な触覚効果を可能にする。
【0026】
本明細書において、いくつかの実施形態が具体的に例示され、且つ/又は説明される。しかしながら、本発明の精神及び意図した範囲から逸脱することなく、本発明の変更及び変形が上記の教示によって包含され、添付の特許請求の範囲内に含まれることは理解されよう。
【0027】
たとえば、回転ノブが開示されているが、本発明は、たとえば、ジョイスティック、回転スクロールホイール又はスライダを含む、抵抗触覚効果を実現する任意のデバイスにおいて用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗触覚アクチュエータであって、
電気コイルと、
前記電気コイルに結合される磁心と、
前記コイルに第1のレベルの電圧を印加する際に使用可能にされる、第1の摩擦係数を有する第1の接触面と、
前記コイルに第2のレベルの電圧を印加する際に使用可能にされる、第2の摩擦係数を有する第2の接触面とを備える、抵抗触覚アクチュエータ。
【請求項2】
摩擦要素と、
前記摩擦要素に結合されるばねとをさらに備える、請求項1に記載の抵抗触覚アクチュエータ。
【請求項3】
前記第1の接触面は前記摩擦要素及び表面を含む、請求項2に記載の抵抗触覚アクチュエータ。
【請求項4】
シャフトと、
前記シャフトに結合される回転要素とをさらに備え、
前記第2の接触面は、前記磁心と接触する前記回転要素を含む、請求項3に記載の抵抗触覚アクチュエータ。
【請求項5】
前記回転要素と前記磁心との間に結合され、前記コイルに電圧が印加されない場合に、前記回転要素と前記磁心との間に空隙を作り出す分離要素をさらに備える、請求項4に記載の抵抗触覚アクチュエータ。
【請求項6】
前記分離要素は前記表面である、請求項5に記載の抵抗触覚アクチュエータ。
【請求項7】
前記分離要素は前記ばねである、請求項5に記載の抵抗触覚アクチュエータ。
【請求項8】
前記第1のレベルの電圧及び前記第2のレベルの電圧を制御して触覚効果を実現する触覚コントローラをさらに備える、請求項1に記載の抵抗触覚アクチュエータ。
【請求項9】
前記摩擦要素は前記コイルに結合される、請求項2に記載の抵抗触覚アクチュエータ。
【請求項10】
触覚効果を生じさせる方法であって、
第1のレベルの電圧を印加することによって第1の接触面を使用可能にし、第1の触覚効果を生じさせるステップ、及び
第2のレベルの電圧を印加することによって第2の接触面を使用可能にし、第2の触覚効果を生じさせるステップを含む、触覚効果を生じさせる方法。
【請求項11】
前記第1の接触面は第1の摩擦係数を生み出し、前記第2の接触面は第2の摩擦係数を生み出す、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の接触面は表面に当接する摩擦要素を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第2の接触面は、前記シャフトに結合される回転要素に当接する磁心を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記摩擦要素はばねに結合される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の触覚効果及び前記第2の触覚効果は回転シャフト上で生じる、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記シャフトは回転要素に結合され、磁気コイル及び磁心によって包囲される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第1のレベルの電圧を印加しながら、前記回転要素と前記磁心との間の空隙を保持するステップをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第2のレベルの電圧を印加しながら、前記空隙を除去するステップをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
触覚効果を生じさせるシステムであって、
第1のレベルの電圧を印加することによって第1の接触面を使用可能にし、第1の触覚効果を生じさせる手段、及び
第2のレベルの電圧を印加することによって第2の接触面を使用可能にし、第2の触覚効果を生じさせる手段を含む、触覚効果を生じさせるシステム。
【請求項20】
プロセッサによって実行されるときに、
第1のレベルの電圧を印加して第1の接触面を使用可能にし、第1の触覚効果を生じさせること、及び
第2のレベルの電圧を印加して第2の接触面を使用可能にし、第2の触覚効果を生じさせることによって、該プロセッサが触覚効果を生じさせる命令を格納するコンピュータが読み取り可能な媒体。
【請求項21】
前記第2の摩擦係数は、前記第1の摩擦係数よりも大きい、請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項22】
前記第2の摩擦係数は、前記第1の摩擦係数よりも大きい、請求項11に記載の方法。
【請求項23】
触覚効果を生じさせる方法であって、
第1の電圧量を印加することによって第1の接触面を実現し、空隙を保持するステップ、及び
第2の電圧量を印加することによって第2の接触面を実現し、前記空隙を閉じるステップを含む、触覚効果を生じさせる方法。
【請求項24】
前記第1の電圧量は前記第2の電圧量よりも小さい、請求項23に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−537279(P2010−537279A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−521066(P2010−521066)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/070028
【国際公開番号】WO2009/023395
【国際公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(500390995)イマージョン コーポレーション (65)
【氏名又は名称原語表記】IMMERSION CORPORATION
【Fターム(参考)】