説明

摩擦圧接接合システム及び摩擦圧接接合方法

【課題】簡単な構成で、接合状態の可否を精度良く判断することができる摩擦圧接接合システム及び摩擦圧接接合方法を提供する
【解決手段】摩擦圧接接合システム1では、電力検出センサ104から取得した測定用の出力信号Sのうち、回転体である一方の金属材2の端面2aが他方の金属材3の端面3aに圧接したときに対応するS2部分と、金属材2,3がアップセット加圧されたときに対応するS4部分とを抽出し、これらを上管理限界値及び下管理限界値を用いてモニタリングする。このように、摩擦圧接接合システム1では、単一の物理量である有効電力をモニタリングし、かつ摩擦圧接接合の開始から完了までの期間のうち、システムに供給される有効電力の変動が顕著な部分を抽出して異常の有無を判断しているので、処理負担を軽減しつつ、接合部Wの接合状態の可否を精度良く判断することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦圧接接合システム及び摩擦圧接接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材を接合する方法として、摩擦圧接接合が知られている。摩擦圧接接合は、例えば棒状の金属材同士の接合に用いられる。この接合では、例えば一方の金属材を軸周りに回転させながら他方の金属材に押し当て、摩擦熱によって金属材の端面を加熱溶融させる。その後、金属材の端面が十分に溶融してから、一方の金属材の回転を停止させつつアップセット圧力を加え、金属材の端面に接合部を形成する。
【0003】
このような摩擦圧接接合方法においては、接合状態の可否を判断するための種々の制御技術の開発がなされている。例えば特許文献1に記載の摩擦圧接方法では、圧接の際における圧力の単位時間当たりの変化量をモニタリングし、この変化量に基づいて圧接を行う毎の圧力を制御している。
【特許文献1】特開2006−255748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
接合状態の可否を精度良く判断するために、上述した圧接時の荷重のほか、ツール荷重、加工点温度、雰囲気温度、歪み量、振動といった複数の物理量をモニタリングすることが考えられる。しかしながら、モニタリングする物理量が多くなると、センサの数が増加し、解析ルーチンも複雑化してしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、簡単な構成で、接合状態の可否を精度良く判断することができる摩擦圧接接合システム及び摩擦圧接接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決のため、本願発明者は、鋭意研究を重ねる過程で、接合を行う際に摩擦圧接接合システムで消費されるエネルギーの変動量に着目した。その結果、摩擦圧接接合システムで消費されるエネルギー量は、システムにかかる負荷に依存しており、摩擦圧接接合の開始時、すなわち、回転する一方の金属材が他方の金属材に当接する際に急峻なピークが生じ、摩擦圧接接合中はほぼ一定のレベルを保つことが分かった。また、摩擦圧接接合が終了する間際のアップセット加圧の際に再び急峻なピークが生じ、その後摩擦圧接開始前のレベルに戻ることが分かった。
【0007】
そこで、本願発明者は、摩擦圧接の開始から完了までの期間のうち、エネルギー量の変動が顕著な部分について異常の有無を判断すれば、摩擦圧接接合の全期間にわたって複数の物理量を処理せずとも接合状態の可否を精度良く判断することができるとの知見を得て本発明を想到するに至った。
【0008】
本発明に係る摩擦圧接接合システムは、金属材の端面同士の突き合わせ部分に、回転体の圧接によって発生する摩擦熱を用いて接合部を形成する摩擦圧接接合システムであって、摩擦圧接接合の開始から完了までの間、システムに供給されるエネルギー量に関する物理量の変化を検出する物理量検出手段と、物理量検出手段から取得した測定用の出力信号のうち、回転体が金属材に圧接したときに対応する第1の部分と、金属材がアップセット加圧されたときに対応する第2の部分とをそれぞれ抽出する出力信号抽出手段と、出力信号抽出手段によって抽出された第1の部分が、予め設定した基準用の出力信号の第1の部分の上管理限界値と下管理限界値との間に収まっているか否かに基づいて、測定用の出力信号における第1の部分の異常の有無を判断する第1出力信号判断手段と、出力信号抽出手段によって抽出された第2の部分が、予め設定した基準用の出力信号の第2の部分の上管理限界値と下管理限界値との間に収まっているか否かに基づいて、測定用の出力信号における第2の部分の異常の有無を判断する第2出力信号判断手段と、第1出力信号判断手段及び第2出力信号判断手段による判断結果に基づいて、接合部の接合状態の可否を判断する接合状態判断手段と、を備えたことを特徴としている。
【0009】
この摩擦圧接接合システムでは、摩擦圧接接合の開始から完了までの間、システムに供給されるエネルギー量に関する物理量の変化を物理量検出手段によって検出する。そして、物理量検出手段から取得した測定用の出力信号のうち、回転体が金属材に圧接したときに対応する第1の部分と、金属材がアップセット加圧されたときに対応する第2の部分とを抽出し、これらを上管理限界値及び下管理限界値を用いてモニタリングする。上管理限界値及び下管理限界値とは、基準用の出力信号の出力値の標準偏差を算出した上で、その標準偏差を整数倍して得られる正規化値を基準用の出力信号の出力値に加算及び減算してそれぞれ得られる値である。したがって、上管理限界値と下管理限界値とは、基準用の出力信号の立ち上がり部分の波形に沿って一定の数値幅を持って設定されることとなり、急峻なピークが生じる測定用の出力信号における第1の部分及び第2の部分の異常の有無を容易に判断できる。モニタリングにあたっては、システムに供給されるエネルギー量に関する単一の物理量を扱うのみであり、構成の複雑化も回避される。
【0010】
また、第1出力信号判断手段によって測定用の出力信号の第1の部分に異常があると判断された場合に、回転体の回転を停止させる停止手段を更に備えたことが好ましい。摩擦圧接接合の開始時点でシステムの異常が認められた場合に、その場で摩擦圧接接合を中断することで、異常の要因が把握し易くなる。また、二次的な異常の発生を防止できる。
【0011】
また、本発明に係る摩擦圧接接合方法は、金属材の端面同士の突き合わせ部分に、回転体の圧接によって発生する摩擦熱を用いて接合部を形成する摩擦圧接接合方法であって、摩擦圧接接合の開始から完了までの間、システムに供給されるエネルギー量に関する物理量の変化を物理量検出手段によって検出する物理量検出ステップと、物理量検出手段から取得した測定用の出力信号のうち、回転体が金属材に圧接したときに対応する第1の部分と、金属材がアップセット加圧されたときに対応する第2の部分とをそれぞれ抽出する出力信号抽出ステップと、出力信号抽出ステップにおいて抽出された第1の部分が、予め設定した基準用の出力信号の第1の部分の上管理限界値と下管理限界値との間に収まっているか否かに基づいて、測定用の出力信号における第1の部分の異常の有無を判断する第1出力信号判断ステップと、出力信号抽出手段において抽出された第2の部分が、予め設定した基準用の出力信号の第2の部分の上管理限界値と下管理限界値との間に収まっているか否かに基づいて、測定用の出力信号における第2の部分の異常の有無を判断する第2出力信号判断ステップと、第1出力信号判断ステップ及び第2出力信号判断ステップにおける判断結果に基づいて、接合部の接合状態の可否を判断する接合状態判断ステップと、を備えたことを特徴としている。
【0012】
この摩擦圧接接合方法では、摩擦圧接接合の開始から完了までの間、システムに供給されるエネルギー量に関する物理量の変化を物理量検出手段によって検出する。そして、物理量検出手段から取得した測定用の出力信号のうち、回転体が金属材に圧接したときに対応する第1の部分と、金属材がアップセット加圧されたときに対応する第2の部分とを抽出し、これらを上管理限界値及び下管理限界値を用いてモニタリングする。上管理限界値及び下管理限界値とは、基準用の出力信号の出力値の標準偏差を算出した上で、その標準偏差を整数倍して得られる正規化値を基準用の出力信号の出力値に加算及び減算してそれぞれ得られる値である。したがって、上管理限界値と下管理限界値とは、基準用の出力信号の立ち上がり部分の波形に沿って一定の数値幅を持って設定されることとなり、急峻なピークが生じる測定用の出力信号における第1の部分及び第2の部分の異常の有無を容易に判断できる。モニタリングにあたっては、システムに供給されるエネルギー量に関する単一の物理量を扱うのみであり、構成の複雑化も回避される。
【0013】
また、第1出力信号判断ステップにおいて測定用の出力信号の第1の部分に異常があると判断された場合に、回転体の回転を停止させる停止ステップを更に備えたことが好ましい。摩擦圧接接合の開始時点でシステムの異常が認められた場合に、その場で摩擦圧接接合を中断することで、異常の要因が把握し易くなる。また、二次的な異常の発生を防止できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る摩擦圧接接合システム及び摩擦圧接接合方法によれば、簡単な構成で、接合状態の可否を精度良く判断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る摩擦圧接接合システム及び摩擦圧接接合方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る摩擦圧接接合システムによる金属材の摩擦圧接接合の概要を示した図である。図1に示すように、摩擦圧接接合システム1は、例えば金属材2,3の端面2a,3a同士を接合するシステムとして構成されている。金属材2,3は、例えば炭素鋼、クロム−モリブデン鋼、ステンレス鋼、及びアルミ合金等であり、直径50〜200mm程度、長さ500mm〜1500程度の棒状をなしている。
【0017】
摩擦圧接接合システム1は、接合にあたり、まず、図1(a)に示すように、一方の金属材2を軸周りに回転させる。次に、図1(b)に示すように、回転する金属材2の端面2aを他方の金属材3の端面3aに接触させ、摩擦熱によって金属材2,3の端面2a,3aを加熱溶融する。端面2a,3aを十分に溶融させた後、図1(c)に示すように、金属材2,3をアップセット加圧し、接合部Wを形成する。摩擦接合システム1は、形成した接合部Wの接合状態の可否を判断し、その判断結果を金属材2,3ごとに記憶する。
【0018】
このような摩擦接合システム1は、図2に示すように、機能的な構成要素として、システム電源101と、駆動モータ(駆動手段)102と、送り装置103と、電力検出センサ(物理量検出手段)104と、出力信号抽出部(出力信号抽出手段)105と、出力信号判断部(第1出力信号判断手段、第2出力信号判断手段)106と、接合状態判断部(可否判断手段)107と、判断結果格納部108と、停止制御部(停止手段)109とを備えている。
【0019】
システム電源101は、外部電源201から供給される電力を、駆動モータ102や送り装置103等に分配する部分である。駆動モータ102は、図示しない連結手段によって一方の金属材2に連結され、金属材2に軸周りの回転力を付加する部分である。駆動モータ102は、例えば週速度6.0〜9.0m/sで金属材2を回転させることにより、接続対象となる一方の金属材2自体を回転体として機能させる。
【0020】
電力検出センサ104は、システム電源がオン状態となってから摩擦圧接接合が完了するまでの間、外部電源201からシステム電源101に供給される有効電力を検出する部分である。電力検出センサ104は、検出した有効電力に対応する出力信号を出力信号抽出部105に順次出力する。
【0021】
図3は、電力検出センサ104からの測定用の出力信号の波形パターンの一例を示す図である。電力検出センサ104によって検出される有効電力は、摩擦圧接接合システム1にかかる負荷に比例して増減するものであり、摩擦圧接接合が正常な状態でなされたか否かを示す指標として用いられる。図3に示す例では、測定用の出力信号Sは、時刻tにおいてシステム電源101がオン状態となり、駆動モータ102による金属材2の回転が開始すると、一定のレベルに上昇する(S1部分)。
【0022】
次に、測定用の出力信号Sは、時刻tにおいて回転する金属材2の端面2aが他方の金属材3の端面3aに接触する瞬間に急峻なピークが生じ(S2部分)、その後、時刻tから時刻tにかけて金属材2,3の端面2a,3aが加熱溶融されている間、S1部分よりも高いレベルでほぼ一定に維持される(S3部分)。時刻tにおいて駆動モータ102による金属材2の回転が停止され、これとほぼ同時に送り装置103によって金属材2,3がアップセット加圧されると、測定用の出力信号Sは、再び急峻なピークが生じた後、S1部分とほぼ同等のレベルまで減少する(S4部分)。その後、システム電源101がオフ状態となると、ほぼ0レベルになる(S5部分)。
【0023】
出力信号抽出部105は、電力検出センサ104から取得した測定用の出力信号Sの波形パターンのうち、一方の金属材2の端面2aが金属材3の端面3aに圧接したときに対応するS2部分(第1の部分)と、金属材2,3がアップセット加圧されたときに対応するS4部分(第2の部分)とをそれぞれ抽出する部分である。出力信号抽出部105は、抽出した波形パターンを出力信号判断部106に出力する。
【0024】
出力信号判断部106は、出力信号抽出部105から出力される出力信号の波形をモニタリングし、その異常の有無を判断する部分である。より具体的には、出力信号判断部106は、まず、測定用の出力信号SのS2部分について、管理限界を用いた波形解析を行う。この波形解析にあたっては、予め基準用の金属材(図示せず)を摩擦圧接接合し、その際に電力検出センサ104から出力される基準用の出力信号の波形パターンを取得しておく。
【0025】
次に、基準用の出力信号の波形パターンにおけるS2部分の出力値の移動平均を求め、移動平均化後の波形パターンに含まれる各出力値を、その標準偏差σに基づいて正規化する。そして、図4に示すように、標準偏差σを3倍して得られる正規化値を移動平均値に加算したもの(+3σ)を上管理限界とし、正規化値を移動平均値から減算したもの(−3σ)を下管理限界とする。上管理限界の波形パターンA1と、下管理限界の波形パターンA2との間には、所定の数値幅をもって許容領域が設定される。
【0026】
出力信号判断部106は、図5(a)に示すように、測定用の出力信号SのS2部分が、上管理限界の波形パターンA1と下管理限界の波形パターンA2との間に収まっている場合には、S2部分に異常が無いと判断する。また、出力信号判断部106は、図5(b)に示すように、測定用の出力信号SのS2部分が、上管理限界の波形パターンA1と下管理限界の波形パターンA2との間に収まっていない場合には、S2部分に異常があると判断する。
【0027】
また、出力信号判断部106は、測定用の出力信号SのS4部分について、S2部分と同様に、管理限界を用いた波形解析を行う。出力信号判断部106には、図6に示すように、基準用の出力信号の波形パターンにおけるS4部分から算出した上管理限界の波形パターンB1と、下管理限界の波形パターンB2とが予め設定されている。
【0028】
出力信号判断部106は、図7(a)に示すように、測定用の出力信号SのS4部分が、上管理限界の波形パターンB1と下管理限界の波形パターンB2との間に収まっている場合には、S4部分に異常が無いと判断する。また、出力信号判断部106は、図7(b)に示すように、測定用の出力信号SのS4部分が、上管理限界の波形パターンB1と下管理限界の波形パターンB2との間に収まっていない場合には、S4部分に異常があると判断する。
【0029】
出力信号判断部106は、判断結果を示す判断結果情報を生成し、接合状態判断部107に出力する。出力信号判断部106は、S2部分に異常がある旨の判断結果情報を生成した場合には、その判断結果情報を停止制御部109にも併せて出力する。
【0030】
接合状態判断部107は、出力信号判断部106による判断結果に基づいて、金属材2,3における接合部Wの接合状態の可否を判断する部分である。接合状態判断部107は、測定用の出力信号SのS2部分及びS4部分の双方について、異常が無い旨の判断結果を受け取った場合には、接合部Wの接合状態が可である旨の判断結果情報を判断結果格納部108に出力する。一方、接合状態判断部107は、測定用の出力信号SのS2部分及びS4部分の少なくとも一方に異常がある旨の判断結果受け取った場合には、接合部Wの接合状態が不可である旨の判断結果情報を判断結果格納部108に出力する。
【0031】
判断結果格納部108は、接合部Wの接合状態についての判断結果を格納する部分である。図8は、判断結果格納部108に格納される情報の一例を示す図である。図8に示す例では、金属材2a,2bの接合体の製品No.「00001」、「00002」等と関連付けて、接合状態の判断結果情報「OK」「NG」が格納されている。
【0032】
停止制御部109は、摩擦圧接接合システム1の緊急停止に関する制御を行う部分である。停止制御部109は、測定用の出力信号SのS2部分に異常がある旨の判断結果情報を出力信号判断部106から受け取った場合に、送り装置103及び駆動モータ102を直ちに停止させる。
【0033】
続いて、摩擦圧接接合システム1の動作について説明する。図9は、摩擦圧接接合システム1の動作を示すフローチャートである。
【0034】
図9に示すように、摩擦圧接接合システム1のシステム電源101がオン状態となり、ユーザによる所定の操作がなされると、駆動モータ102による金属材2の回転が開始される(ステップS01)。次に、送り装置103によって金属材2が他方の金属材3側に送られ、駆動モータ102によって回転する金属材2の端面2aと、他方の金属材3の端面3aとが接触して摩擦圧接接合が開始される(ステップS02)。
【0035】
金属材2の端面2aと金属材3の端面3aとの接触の際、測定用の出力信号SのS2部分について、異常の有無が判断される(ステップS03)。ステップS03において、測定用の出力信号SのS2部分に異常があると判断された場合、送り装置103及び駆動モータ102が直ちに停止される(ステップS10)。測定用の出力信号SのS2部分に異常が無いと判断された場合、そのまま摩擦圧接接合が継続される(ステップS04)。
【0036】
その後、金属材2,3の端面2a,3aが十分に加熱溶融すると、金属材2の回転が停止され(ステップS05)、これとほぼ同時に送り装置103によって金属材2,3へのアップセット加圧(図1(c)参照)がなされる(ステップS06)。アップセット加圧の際、測定用の出力信号SのS4部分について、異常の有無が判断される(ステップS07)。
【0037】
ステップS07の後、測定用の出力信号SのS2部分及びS4部分についての異常の有無の判断結果から、金属材2,3の接合部Wの接合状態の可否が判断される(ステップS08)。判断結果は、金属材2,3の接合体の製品No.と関連付けられて格納される(ステップS9)。
【0038】
以上説明したように、摩擦圧接接合システム1では、摩擦圧接接合の開始から完了までの間、システムに供給される有効電力の変化を電力検出センサ104によって検出する。そして、電力検出センサ104から取得した測定用の出力信号Sのうち、回転体である一方の金属材2の端面2aが他方の金属材3の端面3aに圧接したときに対応するS2部分と、金属材2,3がアップセット加圧されたときに対応するS4部分とを抽出し、これらを上管理限界値及び下管理限界値を用いてモニタリングする。このように、摩擦圧接接合システム1では、単一の物理量である有効電力をモニタリングし、かつ摩擦圧接接合の開始から完了までの期間のうち、システムに供給される有効電力の変動が顕著な部分を抽出して異常の有無を判断しているので、処理負担を軽減しつつ、接合部Wの接合状態の可否を精度良く判断することができる。
【0039】
また、閾値として用いる上管理限界値及び下管理限界値は、基準用の出力信号の立ち上がり部分の波形に沿って一定の数値幅を持って設定される。このため、急峻なピークが生じる測定用の出力信号SのS2部分及びS4部分の異常の有無を容易に判断できる。
【0040】
また、摩擦圧接接合システム1では、出力信号判断部106によって測定用の出力信号SのS2部分に異常があると判断された場合に、停止制御部109によって送り装置103及び駆動モータ102が直ちに停止するようになっている。摩擦圧接接合の開始時点で摩擦圧接接合システム1の異常が認められた場合に、その場で摩擦圧接接合を中断することで、異常の要因が把握し易くなる。また、送り装置103や駆動モータ102の軸折れなど、異常がある状態で摩擦圧接接合を継続することによって発生し得る二次的な異常を防止できる。
【0041】
さらに、摩擦圧接接合システム1では、接合部Wの接合状態の判断結果を、金属材2,3の接合体の製品No.と関連付けて格納している。これにより、金属材2,3を用いた製品のトレーサビリティ(追跡可能性)を確立することが可能となる。
【0042】
本発明は上記実施形態に限られるものではない。例えば上記実施形態では、接合対象である一方の金属材2を駆動モータ102と連結し、金属材2を回転体として機能させているが、本発明は、図10に示すように、円板状のインサート部材10を用いた摩擦圧接接合に適用することもできる。この場合、駆動モータ102によって軸周りに回転するインサート部材10の一方面10aに金属材2の端面2aを接触させ、インサート部材10の他方面10bに金属材3の端面3aを接触させる。このような摩擦圧接接合においても、測定用の出力信号SのS2部分及びS4部分の異常の有無を判断することにより、上述した実施形態と同様の作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態に係る摩擦圧接接合システムによる金属材の摩擦圧接接合の概要を示した図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る摩擦圧接接合システムの機能的な構成要素を示した図である。
【図3】電力検出センサからの測定用の出力信号の波形パターンの一例を示した図である。
【図4】基準用の出力信号の波形パターンのS2部分から算出した上管理限界及び下管理限界の波形パターンの一例を示した図である。
【図5】測定用の出力信号S2部分における異常の有無の判断の一例を示した図である。
【図6】基準用の出力信号の波形パターンのS4部分から算出した上管理限界及び下管理限界の波形パターンの一例を示した図である。
【図7】測定用の出力信号S4部分における異常の有無の判断の一例を示した図である。
【図8】判断結果格納部に格納される情報の一例を示した図である。
【図9】図2に示した摩擦圧接接合システムの動作を示したフローチャートである。
【図10】変形例に係る摩擦圧接接合の概要を示した図である。
【符号の説明】
【0044】
1…摩擦圧接接合システム、2…金属材(回転体)、3…金属材、10…インサート部材(回転体)、104…電力検出センサ(物理量検出手段)、105…出力信号抽出部(出力信号抽出手段)、106…出力信号判断部(第1出力信号判断手段、第2出力信号異常判断手段)、107…接合状態判断部(接合状態判断手段)、109…停止制御部(停止手段)、S…測定用の出力信号、W…接合部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材の端面同士の突き合わせ部分に、回転体の圧接によって発生する摩擦熱を用いて接合部を形成する摩擦圧接接合システムであって、
前記摩擦圧接接合の開始から完了までの間、システムに供給されるエネルギー量に関する物理量の変化を検出する物理量検出手段と、
前記物理量検出手段から取得した測定用の出力信号のうち、前記回転体が前記金属材に圧接したときに対応する第1の部分と、前記金属材がアップセット加圧されたときに対応する第2の部分とをそれぞれ抽出する出力信号抽出手段と、
前記出力信号抽出手段によって抽出された前記第1の部分が、予め設定した基準用の出力信号の第1の部分の上管理限界値と下管理限界値との間に収まっているか否かに基づいて、前記測定用の出力信号における前記第1の部分の異常の有無を判断する第1出力信号判断手段と、
前記出力信号抽出手段によって抽出された前記第2の部分が、予め設定した基準用の出力信号の第2の部分の上管理限界値と下管理限界値との間に収まっているか否かに基づいて、前記測定用の出力信号における前記第2の部分の異常の有無を判断する第2出力信号判断手段と、
前記第1出力信号判断手段及び前記第2出力信号判断手段による判断結果に基づいて、前記接合部の接合状態の可否を判断する接合状態判断手段と、
を備えたことを特徴とする摩擦圧接接合システム。
【請求項2】
前記第1出力信号判断手段によって前記測定用の出力信号の前記第1の部分に異常があると判断された場合に、前記回転体の回転を停止させる停止手段を更に備えたことを特徴とする請求項1記載の摩擦圧接システム。
【請求項3】
金属材の端面同士の突き合わせ部分に、回転体の圧接によって発生する摩擦熱を用いて接合部を形成する摩擦圧接接合方法であって、
前記摩擦圧接接合の開始から完了までの間、システムに供給されるエネルギー量に関する物理量の変化を物理量検出手段によって検出する物理量検出ステップと、
前記物理量検出手段から取得した測定用の出力信号のうち、前記回転体が前記金属材に圧接したときに対応する第1の部分と、前記金属材がアップセット加圧されたときに対応する第2の部分とをそれぞれ抽出する出力信号抽出ステップと、
前記出力信号抽出ステップにおいて抽出された前記第1の部分が、予め設定した基準用の出力信号の第1の部分の上管理限界値と下管理限界値との間に収まっているか否かに基づいて、前記測定用の出力信号における前記第1の部分の異常の有無を判断する第1出力信号判断ステップと、
前記出力信号抽出手段において抽出された前記第2の部分が、予め設定した基準用の出力信号の第2の部分の上管理限界値と下管理限界値との間に収まっているか否かに基づいて、前記測定用の出力信号における前記第2の部分の異常の有無を判断する第2出力信号判断ステップと、
前記第1出力信号判断ステップ及び前記第2出力信号判断ステップにおける判断結果に基づいて、前記接合部の接合状態の可否を判断する接合状態判断ステップと、
を備えたことを特徴とする摩擦圧接接合方法。
【請求項4】
前記第1出力信号判断ステップにおいて前記測定用の出力信号の前記第1の部分に異常があると判断された場合に、前記回転体の回転を停止させる停止ステップを更に備えたことを特徴とする請求項3記載の摩擦圧接接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−82953(P2009−82953A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254909(P2007−254909)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000003377)東急車輛製造株式会社 (332)
【Fターム(参考)】