説明

摩擦撹拌接合の接合制御方法

【課題】接合対象物の高さ変動が大きい場合であっても接合速度を低下させることなく狙いのツール挿入量を得ることができる摩擦撹拌接合の接合方法を提供する。
【解決手段】摩擦撹拌接合の接合制御方法は、回転するツール32を接合対象物22に挿入した状態でツール32と接合対象物22とを相対的に移動させている間に、ツール32に生じる負荷を検出し、その検出された負荷(検出負荷)に基づいてツール32の軸線方向の移動速度を算出し、その算出された移動速度でツール32をその軸線方向に移動させる。また、本接合制御方法は、検出負荷が所定の負荷範囲内にあるか否かを判定し、検出負荷が所定の負荷範囲外であると判定された場合に、ツール32をその軸線方向に移動させ、検出負荷が所定の負荷範囲内であると判定された場合に、ツール32をその軸線方向に移動させない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転するツールを接合対象物に挿入した状態でツールと接合対象物とを相対的に移動させることにより接合対象物を接合する摩擦撹拌接合に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦撹拌接合(FSW:Friction Stir Welding)は、接合対象物へのツールの挿入量を一定にすることで安定した品質を得ることができる。しかし、接合対象物は高さ変動(表面の凹凸、バラツキ)を有するので、ツールと接合対象物とを相対的に移動させている時に接合対象物へのツール挿入量が不安定になり、良質な品質を得ることができないことがある。特に、接合対象物として鋳造品を利用した場合には、その高さ変動が大きい。
【0003】
ツール挿入量の安定化の対策として、ツールを回転させる主軸のトルクとツール挿入量とが比例することを利用して、主軸のトルクに基づいてツールをその軸線方向に移動させることにより狙いのツール挿入量を得る摩擦撹拌接合の接合方法が知られている(特許文献1参照)。この方法では、良好な品質が得られる主軸のトルク範囲を予め設定しておき、検出される主軸のトルクが設定されたトルク範囲に収まるようにツールをその軸線方向に一定の速度で移動させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−80380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常の摩擦撹拌接合装置は、回転するツールを接合対象物に挿入した状態でツールと接合対象物とを相対的に一定の速度(接合速度)で移動させることにより接合対象物の接合を行う。このような装置に特許文献1の接合方法を適用すると、ツールがその軸線方向に一定の速度で移動するので、接合対象物の高さ変動が大きい場合に、ツールが接合対象物の高さ変動に追従できず狙いのツール挿入量を得ることができない。
【0006】
また、このような高さ変動に対応させるためにツールの軸線方向への移動速度を大きく設定すると、接合対象物の高さ変動が小さい場合に、制御にハンチングが生じて過剰なツール挿入や挿入量不足が発生し接合対象物の品質の不安定性やツールの破損といった問題が生じる。
【0007】
さらに、接合速度を低く設定することで接合対象物の高さ変動に対応させる場合には、生産性が低下する。
【0008】
そこで、接合対象物の高さ変動が大きい場合であっても接合速度を低下させることなく狙いのツール挿入量を得ることができる摩擦撹拌接合の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の摩擦撹拌接合の接合制御方法は、回転するツールを接合対象物に挿入した状態で前記ツールと前記接合対象物とを相対的に移動させる移動ステップ中に、前記ツールに生じる負荷を検出する負荷検出ステップと、前記ツールを当該ツールの軸線方向に移動させる移動量調整ステップと、前記負荷検出ステップで検出された負荷に基づいて前記移動量調整ステップで移動される前記ツールの軸線方向の移動速度を算出する速度算出ステップと、を行うことにより、上述した課題を解決する。
【0010】
ツールに生じる負荷は、接合対象物の高さ変動が大きくなるほど大きく変動する。つまり、ツールに生じる負荷から接合対象物の高さ変動の程度を予測することができる。本発明によれば、ツールに生じる負荷に基づいてツールの軸線方向の移動速度を算出し、接合対象物の高さ変動が大きい場合には、ツールの軸線方向の移動速度を大きくする。これにより、接合対象物の高さ変動に対してツールを円滑に追従させることができる。よって、接合対象物の高さ変動に対応させるために接合速度を低下させる必要がない。また、接合対象物の高さ変動が小さい場合には、ツールの軸線方向の移動速度を小さくする。これにより、ハンチングの発生を抑えることができるので過剰なツール挿入や挿入量不足を抑制することができる。従って、接合対象物の高さ変動が大きい場合であっても接合速度を低下させることなく狙いのツール挿入量を得ることができる。
【0011】
本発明の接合制御方法の一形態においては、前記負荷検出ステップで検出された負荷が所定の負荷範囲内にあるか否かを判定する負荷判定ステップ、をさらに行い、前記負荷判定ステップにおいて、前記負荷検出ステップで検出された負荷が前記所定の負荷範囲外であると判定された場合に、前記移動量調整ステップでは、前記ツールを当該ツールの軸線方向に移動させ、前記負荷検出ステップで検出された負荷が前記所定の負荷範囲内であると判定された場合に、前記移動量調整ステップでは、前記ツールを当該ツールの軸線方向に移動させなくてもよい。
【0012】
接合対象物の高さ変動が非常に小さい場合に、ツールをその軸線方向に移動させるとツールの軸線方向の移動制御が煩雑になる。本形態によれば、検出されたツールの負荷が所定の負荷範囲内である場合にツールがその軸線方向に移動しないので、狙いのツール挿入量付近(接合対象物の高さ変動が非常に小さい範囲)に対応するツールの負荷を所定の負荷範囲に設定することで、接合対象物の高さ変動が非常に小さい場合にツールをその軸線方向に移動させる必要がない。これにより、ツールの軸線方向の移動制御を容易に行うことができる。
【0013】
本発明の接合制御方法の一形態においては、前記速度算出ステップで算出された移動速度が上限値を超えているか否かを判定する品質判定ステップをさらに行ってもよい。接合対象物の内部に空洞などの欠陥が存在している場合、ツールがその欠陥を通過した際にツールに生じる負荷が小さくなることがある。また、複数の接合対象物を重ねた状態で摩擦撹拌接合を行う場合、接合対象物の間に必要以上に大きいギャップが存在していると、ツールがそのギャップを通過する際にツールに生じる負荷が小さくなることがある。この形態によれば、ツールに生じる負荷に基づいて算出されるツールの移動速度が上限値を超えているか否かを判定しているので、その判定に基づいて接合対象物の内部欠陥や大きいギャップの存在などを知ることができる。これにより、接合対象物の接合中に品質の異常を判定することができる。よって、摩擦撹拌接合終了後に、品質の異常を検査する検査工程を新たに設ける必要がない。
【0014】
上記形態においては、前記品質判定ステップにおいて、前記速度算出ステップで算出された移動速度が前記上限値を超えていると判定された場合に、品質不良情報を出力する出力ステップをさらに備えてもよい。この形態によれば、品質不良をオペレータ等に知らせることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、接合対象物の高さ変動が大きい場合に、ツールの軸線方向への移動速度を大きくする。これにより、接合速度を低下させる必要がなく接合対象物の高さ変動に対してツールを円滑に追従させることができる。また、接合対象物の高さ変動が小さい場合には、ツールの軸線方向への移動速度を小さくする。これにより、ハンチングの発生を抑えることができるので過剰なツール挿入や挿入量不足の発生を抑制することができる。従って、接合対象物の高さ変動が大きい場合であっても接合速度を低下させることなく狙いツール挿入量を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る接合制御方法を適用した摩擦撹拌接合装置の要部を示す図である。
【図2】負荷下限値を説明するための図である。
【図3】負荷上限値を説明するための図である。
【図4】本発明の摩擦撹拌接合の接合制御方法に係るメインルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図5】本発明の摩擦撹拌接合の接合制御方法に係るサブルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図6】算出負荷とツールの軸線方向の移動速度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る接合制御方法を摩擦撹拌接合装置に適用した実施の形態例を図1〜図6を参照しながら説明する。
【0018】
先ず、本実施の形態に係る摩擦撹拌接合装置10(接合装置と記す)は、回転するツールを接合対象物に挿入した状態でツールと接合対象物とを相対的に移動させることにより、接合対象物を接合することを行う。
【0019】
そして、本形態の接合装置10は、図1に示すように、テーブル12と、装置本体14と、第1駆動モータ16と、コンピュータ18とを有する。
【0020】
テーブル12の上面には接合対象物22が配置される。接合対象物22としては、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、チタニウム、チタニウム合金、銅、銅合金、鉄、鋼等が用いられる。また、接合対象物22は、幾らかの高さ変動(表面の凹凸、バラツキ)を有する。なお、接合対象物22は、鋳造品を用いてもよい。
【0021】
装置本体14は、第1駆動モータ16によってテーブル12の上面に対して平行移動する。装置本体14は、ヘッド部24と、ヘッド移動機構26と、第2駆動モータ28と、負荷検出部30とを備えている。
【0022】
ヘッド部24は、接合対象物22との間に摩擦熱を生じさせることができる。ヘッド部24には、ツール32と、主軸モータ34とが設けられている。ツール32は、主軸モータ34によって回転され、回転した状態で接合対象物22に挿入される。また、ツール32は円柱状に形成されたショルダ36と、ショルダ36から突出するピン38とを有する。
【0023】
ヘッド移動機構26は、第2駆動モータ28によってツール32の軸線方向にヘッド部24を移動する。ヘッド移動機構26としては、例えば、送りネジ機構を用いることができる。負荷検出部30は、主軸モータ34に生じる負荷に対応した信号を出力する。負荷検出部30は、電流センサ40と、変換部42と、A/Dコンバータ44とを備えている。電流センサ40は、主軸モータ34に流れるアナログ電流を検出する。変換部42は、電流センサ40で検出されたアナログ電流(検出電流)をアナログ電圧(検出電圧)に変換する。A/Dコンバータ44は、変換部42にて変換された検出電圧をデジタル電圧(検出データ)に変換する。この検出データはツール32に生じる負荷に比例する。そのため、負荷検出部30は、検出データに基づいてツール32に生じる負荷を推定することができる。
【0024】
コンピュータ18は、第1駆動モータ16と、第2駆動モータ28と、主軸モータ34とを制御するコンピュータ本体46と、表示部47とを備えている。
【0025】
コンピュータ本体46は、記憶部48と、負荷算出部50と、負荷判定部52と、移動情報算出部54と、品質判定部56と、移動制御部58と、出力部60とを備えている。
【0026】
記憶部48には、狙い負荷Mxと、負荷下限値M0と、負荷上限値M1と、速度算出マップデータと、品質判定上限値Vmとが記憶されている。狙い負荷Mxは、ツール32の狙い挿入位置(図2において二点鎖線で示されたツール32の位置)におけるツール32に生じる負荷に対応するデータが用いられる。負荷下限値M0は、狙い負荷Mxからツール32の下限位置(図2において実線で示されたツール32の位置)におけるツール32に生じる負荷を減算した値に対応するデータが用いられる。負荷上限値M1は、狙い負荷Mxからツール32の上限位置(図3において実線で示されたツール32の位置)におけるツール32に生じる負荷を減算した値に対応するデータが用いられる。なお、ツール32の上限位置及び下限位置は、接合対象物22の品質に影響を与えない程度のツール32の挿入量となるような位置に設定されている。
【0027】
速度算出マップデータは、狙い負荷Mxから負荷検出部30の出力信号を参照して取得される負荷Mz(検出負荷)を減算した値とツール32の軸線方向の移動速度との関係を記述したマップデータが用いられる。詳しくは、この減算した値の絶対値とツール32の軸線方向の移動速度とは比例関係になっている。品質判定上限値Vmは、接合対象物22に品質不良が生じるようなツール32の軸線方向の移動速度に対応するデータが用いられる。
【0028】
負荷算出部50は、狙い負荷Mxから検出負荷Mzを減算する。
【0029】
負荷判定部52は、負荷算出部50で算出された負荷(算出負荷)Maが負荷下限値M0と負荷上限値M1との間の範囲内にあるか否かを判定する。
【0030】
移動情報算出部54は、ツール32の軸線方向の移動速度Vaを算出する。この移動速度Vaは、算出負荷Maと速度算出マップデータとに基づいて求められる。
【0031】
品質判定部56は、移動情報算出部54で求められたツール32の軸線方向の移動速度Va(算出移動速度)が品質判定上限値Vmを超えているか否かを判定する。
【0032】
移動制御部58は、負荷判定部52と品質判定部56との判定結果に基づいて第2駆動モータ28を制御する。
【0033】
出力部60は、品質判定部56の判定結果の情報を表示部20に出力する。
【0034】
次に、本形態の摩擦撹拌接合の接合制御方法について図4の制御ルーチン(メインルーチン)と図5の制御ルーチン(サブルーチン)とを参照しながら説明する。サブルーチンは、所定の周期で繰り返し実行される。また、メインルーチンは、サブルーチンが所定回数繰り返された後に終了する。
【0035】
先ず、図4に示すように、コンピュータ本体46は、例えばオペレータによるツール32の挿入開始の入力に基づいてツール32が回転するように主軸モータ34を制御する(ステップS1)。
【0036】
また、コンピュータ本体46は、ツール32の狙い挿入位置までツール32が接合対象物22に挿入されるように第2駆動モータ28を制御する(ステップS2)。
【0037】
その後、コンピュータ本体46は、装置本体14がテーブル12の上面に対して平行方向に移動するように第1駆動モータ16を制御する(ステップS3)。
【0038】
このとき、コンピュータ本体46は、接合対象物22の高さ変動に応じてツール32がその軸線方向に移動するように第2駆動モータ28を制御する(ステップS4)。詳しくは、コンピュータ本体46は、以下のサブルーチンの処理を実行する。
【0039】
図5に示すように、電流センサ40は、主軸モータ34に流れるアナログ電流を検出する(ステップS4−1)。そして、検出電流に基づいて検出負荷Mzが求められる。
【0040】
その後、負荷算出部50は、狙い負荷Mxから検出負荷Mzを減算することにより算出負荷Maを算出する(ステップS4−2)。狙い負荷Mxは、記憶部48を参照して取得される。
【0041】
その後、負荷判定部52は、算出負荷Maが負荷下限値M0と負荷上限値M1との間の範囲内にあるか否かを判定する(ステップS4−3)。負荷上限値M1及び負荷下限値M0は、記憶部48を参照して取得される。そして、否定判定された場合には、移動制御部58は、ツール32がその軸線方向に移動しないように第2駆動モータ28を制御する。サブルーチンは、肯定判定された時にステップS4−4に進み、否定判定された時にステップS4−3で肯定判定されるまでステップS4−1〜ステップS4−3までの処理を繰り返し実行する。
【0042】
ステップS4−3において肯定判定された場合、移動情報算出部54は、ツール32の軸線方向の移動速度Vaを算出する(ステップS4−4)。ツール32の軸線方向の移動速度Vaは、検出負荷Mzと速度算出マップデータとに基づいて求められる。速度算出マップデータは、記憶部48を参照して取得される。
【0043】
その後、品質判定部56は、算出移動速度Vaが品質判定上限値Vmを超えているか否かを判定する(ステップS4−5)。品質判定上限値Vmは、記憶部48を参照して取得される。サブルーチンは、肯定判定された時にステップS4−6に進み、否定判定された時にステップS4−7に進む。
【0044】
ステップS4−5において肯定判定された場合、移動制御部58は、ステップS4−4において算出された移動速度Vaでツール32がその軸線方向に移動するように第2駆動モータ28を制御する(ステップS4−6)。具体的には、移動制御部58は、算出負荷Maが負の場合にツール32がピン38の突出方向に移動し、算出負荷Maが正の場合にツール32がピン38の突出方向とは反対方向に移動するように第2駆動モータ28を制御する。ステップS4−6の処理後、コンピュータ本体46は、今回のサブルーチンは終了する。
【0045】
ステップS4−5において否定判定された場合、出力部60は、表示部47に品質不良情報を表示部に出力する(ステップS4−7)。ステップS4−7の処理後、コンピュータ本体46は、サブルーチン及びメインルーチンを終了する。
【0046】
次に、図6を参照しながら本形態の接合制御方法について説明する。図6において、横軸は算出負荷Maを、縦軸はツール32の軸線方向の移動速度(サブルーチンの周期当たりに移動するツール32の軸線方向の移動量)Vaをそれぞれ示している。また、M0は負荷下限値を、M1は負荷上限値を、Vmax及びVminは品質判定上限値をそれぞれ示している。例えば、ツール32が接合対象物22の表面の凹部を通過した場合、コンピュータ本体46では算出負荷Mb(Mmin<Mb<M0)を算出した後に、移動速度Vbを算出する。そして、Mbは負の値であるので、ツール32はピン38の突出方向に移動速度Vbで移動する。一方、ツール32が接合対象物22の表面の凸部を通過した場合、コンピュータ本体46では算出負荷Mc(M1<Mc<Mmax)を算出した後に、移動速度Vcを算出する。そして、算出負荷Mcは正の値であるので、ツール32はピン38の突出方向とは反対方向に移動速度Vcで移動する。
【0047】
ツール32に生じる負荷は、接合対象物22の高さ変動が大きくなるほど大きく変動する。つまり、ツール32に生じる負荷から接合対象物22の高さ変動の程度を予測することができる。
【0048】
本形態の制御ルーチンでは、算出負荷Maの絶対値が大きい(接合対象物22の高さ変動が大きい)場合には、ツール32の軸線方向の移動速度が大きくなる。これにより、接合対象物22の高さ変動に対してツール32を円滑に追従させることができる。よって、接合対象物22の高さ変動に対応させるために接合速度を低下させる必要がない。また、算出負荷Maの絶対値が小さい(接合対象物22の高さ変動が小さい)場合には、ツール32の軸線方向の移動速度が小さくなる。これにより、ハンチングの発生を抑えることができるので、過剰なツール32の挿入や挿入量不足の発生を抑制することができる。従って、接合対象物22の高さ変動が大きい場合であっても接合速度を低下させることなく狙いのツール32の挿入量を得ることができる。
【0049】
また、算出負荷Maが負荷下限値M0と負荷上限値M1との間の範囲内にある場合に、ツール32がその軸線方向に移動しないので、接合対象物22の高さ変動が非常に小さい時にツール32をその軸線方向に移動させる必要がない。これにより、ツール32の軸線方向の移動制御を容易に行うことができる。
【0050】
接合対象物22には、その内部に空洞などの欠陥が存在していることがある。この場合、ツール32が欠陥を通過する際にツール32に生じる負荷が小さくなる。また、摩擦撹拌接合では、複数の接合対象物22を重ねた状態で接合を行うことがある。この場合、接合対象物22の間に必要以上に大きいギャップが存在していると、ツール32がそのギャップを通過する際にツール32に生じる負荷が小さくなる。本形態の制御ルーチンでは、算出移動速度Vaが品質判定上限値Vmを超えるか否かを判定しているので、その判定結果に基づいて接合対象物22内の欠陥や大きいギャップの存在などを知ることができる。これにより、接合対象物22の接合中に品質の異常を判定することができる。よって、摩擦撹拌接合終了後に品質の異常を検査する検査工程を新たに設ける必要がない。
【0051】
また、算出移動速度Vaが品質判定上限値Vmを超えていた場合に品質不良情報を表示部20に出力しているので、品質不良をオペレータ等に知らせることができる。
【0052】
以上説明したように、本形態の摩擦撹拌接合の接合制御方法では、回転するツール32を接合対象物22に挿入した状態でツール32と接合対象物22とを相対的に移動させるステップS3(移動ステップ)中に、ツール32に生じる負荷を検出するステップS4−1(負荷検出ステップ)と、ツール32をツール32の軸線方向に移動させるステップS4−6(移動量調整ステップ)と、ステップS4−1で検出された負荷に基づいてステップS4−6で移動されるツール32の軸線方向の移動速度を算出するステップS4−4(速度算出ステップ)と、を行っている。
【0053】
また、本形態の摩擦撹拌接合の接合制御方法では、ステップS4−1で検出された負荷が所定の負荷範囲内にあるか否かを判定するステップS4−3(負荷判定ステップ)をさらに行い、ステップS4−3において、ステップS4−1で検出された負荷が所定の負荷範囲外であると判定された場合に、ステップS4−6では、ツール32をその軸線方向に移動させ、ステップS4−1で検出された負荷が所定の負荷範囲内であると判定された場合に、ステップS4−6では、ツール32をその軸線方向に移動させない。
【0054】
さらに、本形態の制御ルーチンにおいて、ステップS4−5の処理が品質判定ステップに、ステップS4−7の処理が出力ステップにそれぞれ相当する。
【0055】
本発明は、上記の実施の形態に限定されず、種々の形態で実施することができる。サブルーチンは、主軸モータに流れるアナログ電流に基づいてツールに生じる負荷を算出する例に限らず、ツールに生じる負荷は種々の方法で求めることができる。例えば、テーブルに生じる負荷、接合対象物の高さ変動量などに基づいてツールに生じる負荷が求められる。テーブルに生じる負荷を利用する場合には、接合対象物を介してテーブルに伝達される荷重に対応したアナログ電圧を出力するロードセルなどを用いればよい。これにより、ツールに生じる負荷を推定することができる。よって、例えば、主軸モータに本形態の負荷検出部のようなものを設けることが困難な場合であっても対応することができる。接合対象物の高さ変動量を利用する場合には、接合する直前の接合対象物表面の凹凸を検出するレーザ変位計などを用いればよい。これにより、ツールの挿入量を予測することができるので、そのツールの挿入量からツールに生じる負荷を算出することができる。
【符号の説明】
【0056】
10…摩擦撹拌接合装置
14…装置本体
18…コンピュータ
22…接合対象物
24…ヘッド部
30…負荷検出部
34…主軸モータ
46…コンピュータ本体
47…表示部
48…記憶部
50…負荷算出部
52…負荷判定部
54…移動情報算出部
56…品質判定部
58…移動制御部
60…出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転するツールを接合対象物に挿入した状態で前記ツールと前記接合対象物とを相対的に移動させる移動ステップ中に、
前記ツールに生じる負荷を検出する負荷検出ステップと、
前記ツールを当該ツールの軸線方向に移動させる移動量調整ステップと、
前記負荷検出ステップで検出された負荷に基づいて前記移動量調整ステップで移動される前記ツールの軸線方向の移動速度を算出する速度算出ステップと、を行うことを特徴とする摩擦撹拌接合の接合制御方法。
【請求項2】
請求項1記載の摩擦撹拌接合の接合制御方法において、
前記負荷検出ステップで検出された負荷が所定の負荷範囲内にあるか否かを判定する負荷判定ステップ、をさらに行い、
前記負荷判定ステップにおいて、前記負荷検出ステップで検出された負荷が前記所定の負荷範囲外であると判定された場合に、前記移動量調整ステップでは、前記ツールを当該ツールの軸線方向に移動させ、前記負荷検出ステップで検出された負荷が前記所定の負荷範囲内であると判定された場合に、前記移動量調整ステップでは、前記ツールを当該ツールの軸線方向に移動させないことを特徴とする摩擦撹拌接合の接合制御方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の摩擦撹拌接合の接合制御方法において、
前記速度算出ステップで算出された移動速度が上限値を超えているか否かを判定する品質判定ステップ、をさらに行うことを特徴とする摩擦撹拌接合の接合制御方法。
【請求項4】
請求項3記載の摩擦撹拌接合の接合制御方法において、
前記品質判定ステップにおいて、前記速度算出ステップで算出された移動速度が前記上限値を超えていると判定された場合に、品質不良情報を出力する出力ステップ、をさらに行うことを特徴とする摩擦撹拌接合の接合制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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